表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十八章 ナリア・ザ・ハード 〜サイディリアルより愛をこめて〜
728/835

671.対決 怒りの悪魔マラコーダ


マグマに囲まれた怒りの街、その一角にて…最強の悪魔マラコーダを倒す為戦いを挑むのは…二人の姉弟。


「どりゃぁぁぁああああああ!!!」


「ぅがぁぁああああああああ!!!」


激突する、漆黒の悪魔マラコーダは咆哮を轟かせ、エリスは猛獣のような唸り声を上げ、真っ向真正面から共に踏み込み激突し互いに互いを食い合うように手を合わせ相手を押し飛ばそうと力押しを繰り出す。


「ぐぅうううう!!!」


「ぬがぁぁああああ!!!」


最早人の言葉も口にしなくなった二人は組み合った状態で蹴りや頭突きを放ち相手を叩き潰そうと暴れ狂う…そんな中。


「オラァッ!!」


「ぅぐぅ!?」


超至近距離の殴打戦を制したのはエリスだ、咄嗟に手を離しマラコーダの首に手を回しヘッドロックを決めながら頭部に連続の膝蹴りを叩き込み、そのまま襟元を掴みながら近くの壁に叩きつけ家屋を粉砕し…。


「いい加減伸びてろッ!」


「ごはぁっ!?」


相手を左右に揺さぶるような怒涛の拳が何度も何度もマラコーダに叩き込まれる、右左右左と獣のような荒々しいフォームから放たれるチンピラパンチは生半可な攻撃なら弾いてしまうマラコーダに苦悶の表情を浮かべさせる…がいつまでも好きにさせるマラコーダではない。


「ぐぅぅう!イライラする!イライライライラ!『イラ・───」


口元から灼熱の光線を放つ怒りの閃光『イラ・ルヒル』を放つ為にエリスに向け口を開く、開かれた口の奥から眩い光が漏れ始め、今エリスを焼き尽くし───。


「お前を見てると!」


「むぐぉっ!?」


否、その前にエリスの手が動いた。マラコーダの首を両手で締め上げガッチリロックする…、するとマラコーダのイラ・ルヒルは出口を失い…やがてマラコーダの腹が爆発するように膨張する。


「ごはぁ……!」


「イライラするんですよ!エリスが!!」


イラ・ルヒルが体内で爆発し白目を剥いたマラコーダにトドメの右ストレートが叩き込まれ、悪魔はあえなく吹き飛んでいく……そんな一連の殴り合いを見ていた俺は…ステュクスは。


「マジかよ」


呆然とする。さっきまで俺はマラコーダを相手に孤軍奮闘を強いられていた、凄まじい強さのマラコーダを相手に手も足も出ずボコボコにされていたんだ…そこに助けに来てくれたのが姉貴だ。居なくなっていた筈の姉貴が突如として現れ一緒に戦おうと言ってくれた。


で、今がこれだ。あのマラコーダを魔術も覚醒も使わず圧倒し殴り飛ばしやがった…本当に姉貴って人間なのかな。とてもそうとは思えないんだけど…。


「ギャーチクガーチク騒ぎ立てて怒りを撒き散らす、お前の態度と在り方は見ているこっちもイライラするんですよ…マラコーダ!」


「ぐっ…ぅぐっ…」


「フンッ、他愛もない!」


「あ、姉貴……」


「なんですかステュクス、なんか文句でもありますか」


「い…いや」


相変わらず怖えなこの人。しかしこれで良かったのかもしれないな…俺じゃとてもマラコーダには敵わなかったし、姉貴が来てくれたおかげでなんかなりそうだ。


「ありがとよ、姉貴。おかげでマラコーダを倒せそうだ」


「……まだ分かりませんよ」


「え?」


「アイツかなりタフです、体力もまだまだ残ってるでしょう…だからほら」


そう言って姉貴は倒れたマラコーダを指差すが…やはりマラコーダは起き上がってくる。糸で引かれたような不気味な動きで起き上がり、ぎりぎりと歯軋りを始め。


「ぐぅうう!イライラする!我が怒りを増長して楽しいか…!憤懣やる方なし!」


「簡単には倒れてくれません」


「マジかよ…」


どっちもヤベェな…あれだけボコボコにされてもまだ全然平気って感じだ。


「ここからですよステュクス、今のは軽い挨拶ですから」


「……なぁ姉貴」


「なんですか」


「聞けなくなる前に聞いていいか、姉貴…今まで何処で何してたんだよ」


「今それ言わなきゃいけませんか?…はぁ、仕方ありませんね」


ギッとマラコーダを睨みながら拳を構える姉貴は…簡単に今までの経緯を説明する。


「実はエリス…一回起きちゃったんですよ」


「は?起きた?」


「ええ、あれは……」


「ぐがぁああああああ!!!」


向かってくるマラコーダを前に応戦しながら…姉貴は語る。


────────────────────


「……………」


冒険者協会の医務室、そこに担ぎ込まれた魔女の弟子達は皆意識を失いベットの上で眠っていた。それを看病する医者達も付き添っていたラグナ達も、外の冒険者達も…街人達も、皆ルビカンテの影響で眠り倒れ伏し、サイディリアルは静寂に包まれている。


そんな暗く静かな医務室で…エリスは。


「ッッダァァァアアアトォオオオオオオオオッッッ!!!」


突如目を覚まし毛布を跳ね上げながらベッドから飛び降りたのだ。この時エリスは目覚めたわけではない、白目を剥きフーフーと息を吐きながら体だけが動いている状態だった。


ダアトとの戦いに敗れ意識を失いながらもその常軌を逸した負けん気と敗北を認めないしぶとさが無意識に体を動かしていたのだ。謂わば半分気絶した状態…それでも暫く休みギリギリ動けるまでに回復した瞬間ダアトを探して幽鬼のようにフラフラと動き出した。


「ダアァトオォォ……ふーっ…ふーっ…」


白目を剥いてフラフラと医務室を出たエリスはそのまま冒険者協会を出て街へと飛び出し、誰も動く者が居ないサイディリアルを彷徨き始める。


「だあと…だあとぉお…ゔぅーっ……」


意識はないから本当に彷徨っているだけ、これではダアトなど見つけられようもない…筈だった、しかし。


『────これは私には直せそうにない、魂の中の識が破損している…』


「……ダアト?」


フッとエリスの目に意識の光が宿る。何処からか聞こえてきたダアトの声に反応し目が覚めたのだ。奇跡的かあるいは運命か…エリスはダアトを見つけてしまったのだ。


「ダアトの声…イテテ、あれ?エリスはここで何を……」


「ふぅ…アルカナの大戦力を得られればと思ったのですが……ん?」


「え?」


そして、近くのカフェから出てきたダアトとエリスはばったり会うのだ、ダアトが何をしていたかは分からない、だがダアトの姿を捉えたエリスは咄嗟に構えを取り。


「ダアト!」


「ゲェーッ!嘘でしょう貴方その傷で動くんですか…!?本当に人間ですか貴方…!」


「何わけのわからない事を!さぁやりますよ!」


「やりませんよバカですか貴方!第一状況を理解してるんですか!」


「状況……?」


ここでエリスはようやく事態を飲み込む、さっきまで地下にいた筈なのに外にいる、おまけに夜、それと周囲に人の気配がない。あとなんか死ぬほど全身が痛い…と思ったら起きてるのが不思議なくらい傷だらけだ。


「今どういう状況なんですか?」


「まさかマジで執念だけで起き上がったんですね…というか、貴方の意識は今ルビカンテの夢の世界に囚われている筈なのに、まさか肥大化したエゴ一つで覚醒の影響を跳ね除けるとは…」


ダアトは軽くため息を吐きながらエリスの周りをクルクルと回り腕を組みながらボヤき始める。


「まず、今の状況を伝えると…ルビカンテが攻撃を開始しました。彼女の魔力覚醒影響で人々は夢の世界に囚われています。街の人間は勿論…貴方の仲間も」


「え!?みんなが!」


「本来ならそこに貴方も加わっていた筈なんですがね。第三段階に入っている人間と眠らない理由がある人間以外はみんな寝てしまい、夢の世界です。今ちょうど貴方の仲間はルビカンテの悪魔達と戦っている筈ですよ」


「ッ……」


なんて事だ、エリスだけが起きてしまったなんて…これじゃあみんなを助けにいけない。そうエリスが焦っていると…ダアトはしょうがないとばかりにため息を吐き。


「ですが、私なら貴方をそこに送れますよ」


「……貴方が、エリスを助けると?」


「ええ、貴方を見逃して手助けをするんです」


「なんでですか?」


「貴方が今抱いている疑問と同じ感情を、私はあの時帝都で抱きました。それに貴方はなんと答えましたか?……そういうことです」


「………なるほど」


つまりこれは返礼…ということか。癪だが…仲間が今窮地にいるというのなら背に腹は変えられまい。


「分かりました、ダアト…貴方を信じます。今この時だけですがね」


「それでよろしい、さぁそこに座って。貴方の意識を夢世界に飛ばします」


「……それで、貴方はここで何をしていたんですか?そこのカフェに誰かいるんですか?」


エリスはその場に座り、ダアトが出てきたカフェに視線を向ける。見た感じカフェの中から気配は感じない…多分中の人は全員眠ってしまっているんだろう、そんな状態で何を…まさか!


「まさか人が寝ているのをいいことに空き巣を…!?」


「そんな事する人間に見えますか?」


「……見えません、何してたんですか?」


「貴方に教える義理はありません。でも貴方ならきっといつか分かるでしょう…さぁ目を閉じて、集中してください」


「……むぅ」


「怒らない怒らない」


エリスがむくれているとダアトはエリスの頭を軽く撫でて、そのまま力を集中させて……。


「まず謝っておきますが今からやるのはルビカンテの覚醒に介入する行為ではなく飽くまで貴方をルビカンテの覚醒の中に突っ込むだけです。なので恐らくですがスタート地点は入り口辺りになるでしょう。仲間達はかなり深層まで潜っています…奥の奥までは自分で向かってください」


「はい、どれくらい奥にいますか?」


「さぁ、それは私の力を持ってしても分かりません。夢世界は識によって形成された世界…識を読む私の力では見切れませんから、だからこれ以上の事は入ってからで」


「……分かりました」


「それとこれはおまけです、夢世界内部では貴方は意識体となるのですが…その意識体は万全の状態にしておきます。傷や消耗はない…最初から全力で動けます、頑張ってください」


「……無論です」


「では、ご武運を」


ダアトとこんな風に話すのは、なんだか違和感がある。彼女は敵だ…しかも羅睺十悪星の教えを継ぐ運命の宿敵と呼んでもいい存在だ。だが思う、彼女は出会った時から一貫してエリスに対して親しげで全てを知っているにも関わらずエリスと『仲良くなりたい』と言っている。


そして今も、手助けをしてくれている。分からなくなってしまうよ…ダアトという女が何を見ているのか。そんな風に悩みながら目を閉じると…エリスの意識はスッと闇に包まれ、心は…夢の中に吸い込まれ─────。





「眠りましたか」


「……………」


ダアトは見る、自分の力で眠りに入り意識を失いその場に倒れたエリスを。無防備に倒れるエリスを見て…ダアトは。


「…………」


手元の錫杖を静かにエリスの頭に突きつける。無防備な人だ、私がこうやって貴方の頭を砕かない確証でもあったのか…今までの態度はあなたを油断させるものだとは思わないのか…。


「……思わないんだろうな、貴方は」


軽く首を振ってエリスの頭から寂静を退ける。ここでエリスを殺すつもりはない、彼女が命のやり取りを望むならそれに応えるが…そうでもないなら殺す気はない。だって…『そういう話になってる』から。


「メトシェラ……私はきちんと約束を守っていますよ」


エリスは殺さない、出来るなら友達になる。貴方がそう言ったから私はこうしているんです、本来ならば殺し合う運命にしかない私とエリスを結びつけるよう言いつけるとは…彼の考えていることは分からない。


だがそれでも…必要だというのなら。


「……にしても不安ですね、これ。起きた時鉢合わせたりしませんよね」


そのままダアトは錫杖を肩に担いで…見遣る。それは先程ダアトが出てきたばかりのカフェ…その中で倒れる一人の女性を見て、またもため息が漏れる。


「貴方ほどの人間が今、こんなところで働いているなんて…エリスさんが知ったらどんな反応するんでしょうね」


倒れているのは…白い髪と白い肌を持った女性、それは数年前に死んだと報告されていた筈の女。かつて八大同盟の盟主にも並ぶと讃えられた稀代の反逆者にして執行者。


その名も……。


「審判のシン…大いなるアルカナの大幹部。貴方の勇名は今やマレフィカルムでも伝説になりつつある…というのに、それがカフェで店員ですか」


審判のシン、エリスさんとの戦いで敗北し最後に己の命を賭けて自爆を行い…その場で戦死。アルカナが瓦解して尚帝国と戦い続け魔女の後継者たるエリスと激しい戦いを演じ最後は盛大に散った…なんとも心くすぐるストーリーではありませんか。マレフィカルムが肥大化し反魔女感情が爆発したのは彼女の英雄的な最期に多くの人達が触発された部分も大きい。


だが実際は、死んでいなかった。魂に欠損を負いながらもギリギリで仲間に助けられていた彼女は生きていた。記憶を失いながら、己が誰か分からない状態になりながら生きていた。そんな彼女をなんとか仲間に引き込めればマレフィカルムとしてもありがたいと思っていたんだが。


どうやら私の手でも彼女の欠損した魂は直せないようだ。これでは彼女は戦えない…仲間に引き入れるなんてのは無理だ。


(彼女の魂を直せる者がいるとしたら…)


チラリと背後を見る、そこには気を失ったエリスがいる。もし直せるとしたら…あれしかないだろう。


とはいえそれはまだ早い、もっとエリスさんが成長してからじゃないと…意味がない、だからここはいつかの返礼として生かすとしよう。さぁエリスさん…今は貴方へやるべき事をやってきてください。


…………………………………………………………………


「ここが夢世界?どう見てもサイディリアルにしか見えませんけど…でもなんか違和感はありますね!ダアトを信じましょう!」


そしてエリスはダアトによって夢世界へと叩き込まれた、気がついたらエリスはアルスロンガ平原に居て、サイディリアルの目の前に立たされていた。ここが夢の世界かは分からないがともかく今はダアトを信じて奥に進むしかない…。


「みんなはどこにいるんでしょうか…『旋風圏跳』ッ!」


風を纏い一気に街を疾走する、暫く進むと街の中心で何か騒ぎが起こっていることに気がつき。そちらに向かうと…。


「ゔぅぅう…」


全身が絵の具に塗れた人型の何かが大量にいた、そいつらがエリスの道を阻むように襲いかかってきたので…。


「退いてください」


軽く蹴り飛ばし殴り飛ばし突き飛ばし疾走を続ける、なんかやたらと頑丈だけど雑魚ばっかりだ、大したことない。奥に進めば進むほど絵の具の怪物は数を増やしていくがこの程度で何匹いても変わらない。全員蹴散らし街の中心部に向かうと…。


「む!お前!エリスか!」


「ヴァラヌスさん…?」


そこには街の中心で絵の具の怪物に囲まれながらも応戦しているヴァラヌスさん…そして北辰烈技會やリーベルタースの団員達が揃っていた。これは何事だと絵の具の怪物を軽く蹴散らしながら進むとヴァラヌスさんは血相を変えて。


「お前何故ここにいる!?お前ルビカンテに捕まってるんじゃなかったのか!?なんで入口の方から飛んできたんだ!」


「すみません、なんかエリス途中で起きちゃったみたいで。また夢の世界に入ってきたんです、状況を教えてくれませんか?」


「お、起きちゃった?つくづく訳が分からないやつだ…だがいい、いいか?今は…」


そしてヴァラヌスさんからエリスは全ての話を聞いた。今ナリアさんとルビカンテは戦っているという。彼らの背後にある噴水から下の階層に行けるとの事。そしてヴァラヌスさん達はこの絵の具の怪物…色鬼を通さないよう殿を務めているらしい。


ナリアさんはエリス達を助けるために…ステュクスと一緒に頑張っていた、とも言っていた。なるほど、どうやらエリスは本当にルビカンテに捕まっていたようだ…途中で起きていなければまだ捕まっていたか。


「ここはいい!お前は奥に行け!」


「分かりました、感謝します!」


ともかく今は奥に行こうとエリスはその場をヴァラヌスさんに任せ噴水に飛び込み次の階層に向かった。そして次の階層には…。


「はぁ!?エリス!?お前なんでここにいるんだよ!」


「ここはストゥルティですか」


今度はなんか崩落したアルシャラみたいな場所に着いた、そこではストゥルティとハルさん、そしてルビーさんとネコロアが色鬼と…何故か暴れているロムルスと戦っていたんだ。


「レムスぅううううう!!」


「だぁあ面倒クセェな!エリス!お前は奥に行けや!ナリアがそこでルビカンテと戦ってる筈だ!助けてやってくれ!お前がいりゃ百人力だ!」


「分かりました、では任せます…ああ。あと」


取り敢えず奥の穴に向かう…前に炎を吹き出し暴れているロムルスのところにトコトコと向かい……。


「テメェのせいでややこしくなったろうが!!くたばっとけやクソボケがッッ!!」


「ぅげぇぇえ!?」


全力で殴り飛ばしておく、本当ならここですり潰してハンバーグにしてやりたかったが我慢する。殴り飛ばされるロムルスを前に呆然とするストゥルティさんとハルさんに軽く別れを告げたエリスはそのまま奥に向かい……。


「む……」


次の階層に向かうと、そこには砕けた世界が広がっていた。何処にナリアさんがいるか、仲間達がいるか、分からない…だがあちこちでみんなが戦っている気配がする。どうやらエリスはまた出遅れてしまったようだ。


(みんなが戦ってる、みんなならなんとかするだろう…けど)


しかし、四つに割れた世界の一つ…一つだけ仲間達の気配を感じない世界があった。赤く燃えるような世界、そこから感じるのは…。


「ステュクスの気配……」


そこではステュクスがただ一人で戦っていた、相手はかなり強いようだ。本当ならナリアさんを助けに行きたいが…きっとみんなはナリアさん一人を先に行かせるためにここで戦っているんだ、ならその意思を尊重しよう。


ステュクス一人じゃ心許ないだろう…ならエリスが向かうのは!


「そこですね!」


そうしてエリスは赤く燃える世界へと飛び込み…ステュクスとマラコーダのいるマグマの街へと向かい、そして……。


─────────────────


「で!今に至るんです!」


「がはぁ!?」


鉄拳でマラコーダの頭を叩き砕きながらエリスは吠える。どうやらここに来たのは正解だったようであのまま行けばステュクスはこいつに殺されていたし、何より…どうやらこいつは悪魔の中で一番強いやつらしい。当たりを引いた。


「ま、マジで第一層からここまで飛んできたのかよ…俺めちゃくちゃ苦労して攻略してきたんだけど」


「貴方が道を作ってくれていたから、エリスが即座に駆けつけられたんです…上では今もヴァラヌスさんやストゥルティ達が戦っている…彼らの願いを受けて貴方はここにいるんでしょう、なら負けてられない筈です!」


「……そんなの、分かってるよ!」


剣を握り直しマラコーダと相対するステュクスを見て、エリスは一旦引いてマラコーダの様子を見る。さぁてここからだ…ここまでボッコボコに殴ったが、まるで堪えているように見えない。


「ゔぅ…いきなり現れ、我が肉体に傷をつけるなど…片腹痛い」


「姉貴、アイツもカルカブリーナと同じだ…怒りをエネルギーに変えられるんだ。しかもどうやらアイツは他のと違って怒りをエネルギーに変換する効率が段違いに高い…あのまま行けば際限なく強くなるぞ」


「のようですね、となると怒りの反対の感情をぶつけるしかありませんか…」


カルカブリーナの時はナリアさんが居たからなんとかなった。ナリアさんはその手の感情云々の話に関してかなり深い知識を持っている。がしかし今回はいない…参ったな。


「なぁ姉貴、なんかナリアさん言ってなかったか?怒りの反対側なんだってさ」


「言ってません、少なくともエリスの前では一度も」


「そっか……」


ナリアさんがその手の話をしてくれていたら即座に思い出せたのだが…残念ながらそういう話は一度もしていない。少なくともエリスは聞いていない。だからここからは自分達で考えるしかない…!


「立ち止まって、ウンウン頭捻って考える時間はどうやらなさそうです。相手しながら考えなさい!」


「お、おう!」


マラコーダは止まらない、奴にはスタミナという概念がないらしくいくら殴ろうが蹴ろうが体力の衰えを一切見せない、それどころか。


「イライライライラ!『イラ・ルヒル』ッ!!」


「チッ!『旋風圏跳』ッ!」


口から放たれる灼光、その鋭さと速度が増している。これは弾き返せないと悟りエリスは空を飛び光を回避するが、射線上の全てが焼けて爛れる。余波だけで大地が焦げた…こいつ。


やはり時間経過で強くなり続けている…早く対処法を考えなければ。


「『瞋恚のガベル』ッ!」


「グッ!?」


次の瞬間、全身から炎を噴き出し加速したマラコーダの炎拳がエリスを捉え弾き飛ばす。あまりの威力に防壁すら紙のように突き抜けた…こいつ。


「エリスにターゲットを絞りましたか、上等です!喧嘩売った相手が間違っていることを教えてあげますッ!」


「貴様のその態度!不遜!不遜である!不遜で憤懣やる方なしッ!」


「テメェの方が不遜だろうがッッ!!魔力覚醒ッ!からの冥王乱舞ッ!」


一気に覚醒し冥王乱舞を点火しマラコーダに突っ込む、奴もまた手足から炎の柱を噴き出し加速し空を飛んでおり、エリスの動きに合わせ…動き出す。


「ぐがぁあああああ!!怒りが!怒りが収まらぬッ!貴様の在り方の全てが気に食わないッ!押し潰し擦り潰し叩き潰し!メチャクチャに破壊せねば我が怒りは消え失せないッ!」


「相変わらず、お前のその感じを見てると…こっちまでイライラしてきますよ、本当に煩わしいッ!」


空を駆ける紅蓮の拳と虚空を切り裂く紫炎の拳が空中で何度もぶつかり合う。加速、からの衝突、衝突からの退却、そして助走で加速し再び衝突。龍が食い合うが如き空中戦はエリスとマラコーダのボルテージの上昇に伴い激化していく。


「何が煩わしいだ、貴様の怒りと我が怒りを一緒くたにするな!憤懣やる方ないわ!」


「お前はただ苛立ちに怒っているだけでしょう!」


「違う!我が怒りは!不当な世に対する弾劾!不遜と傲慢で満ちた世の全てを呪う呪詛であるッ!」


「ぁがっ!?」


だが怒りの上昇に伴い強化される度合いはマラコーダの方が上だ、加速度的に強くなるマラコーダのパワーに圧倒されたエリスは逆に弾き飛ばされ、炎を纏った蹴りで地面に叩きつけられる…だが、それでもマラコーダの怒りは収まらない。


「この世が如何に醜いかッ!人間という生き物がどれだけ醜いかッ!これに対する正当な怒りをッ!貴様のような野蛮な怒りと共にされるなど!これ以上ない侮辱である!」


「ッ……!」


地面に叩きつけられ、朦朧とする意識を首を振って取り戻した瞬間。空を引き裂いてマラコーダが飛んでくる。咄嗟に地面を駆け抜け回避すれば…まるで隕石が衝突したかのように大地が裂け、辺り一面が爆裂に飲まれ吹き飛んでいく。


「結局!この世が気に食わないってだけでしょうが!」


「然り!気に食わんッ!気に食わんから怒る!何が不思議か!」


「そういうのを…自分勝手って言うんです!だからエリスは怒っているんです、お前の怒り方は…エリスに、そっくりだから」


クルリと回転し爆風を受け流しながら着地し、炎上する瓦礫の山の上に立つ漆黒の悪魔を睨む。奴の怒り方はエリスそっくりだ…何もかもが気に食わない、その気に食わないって苛立ちを破壊と暴力に転換し相手を叩き潰そうとする。


エリスは…自分のそう言うところが大嫌いだ、これで他人に迷惑をかけたこともあるし…死にかけたこともある。何度諌められたか分からない、それでもどうにもならないと最近では受け入れつつあるが…それでも、エリスは怒っているエリスが嫌いだ。


それを鏡で見せられているようで、マラコーダのあり方は気に食わない。


「マラコーダッ!」


「ッ…ステュクス!」


その瞬間、炎を切り裂いて現れたのはステュクスだ。剣を構えマラコーダに突っ込んだ…けどダメだ。今のマラコーダはさっきまでステュクスが相手していた時と段違いに強くなっている。


「貴様も私を否定するか…!!」


「うっ…!?」


不意打ち気味に現れたステュクスにも動じることなく反応したマラコーダはギロリとステュクスを睨みつけ…。


「ならば消えろ、私を否定する者は全て……!」


マラコーダの口から光が漏れる、目が光る、全身のひび割れから赤い光が漏れ出し全身が輝く…やばい、何か来る!クソッ!!


「ッ…来るなら来い!」


「バカ!冥王乱舞ッ!」


咄嗟に受け止めようとしたステュクスに向けて飛び……。


「『赫怒のコンビクション』ッッ!!」


放たれたのは極大の灼光。口から放たれたそれは今までの物とはレベルが違う、人体に当たれば肉の一片すら残らない究極の炎、それがステュクスに向けて放たれた…がしかし直撃の寸前でエリスはステュクスを抱きしめて空を駆け抜け、なんとか直撃は避ける…だが。


「ぐぅっ!?」


余波で飛んできた爆風に体を焼かれ制御を失い地面を転がる、当たらなかったのに…このレベルか、ステュクスに当たっていたら…死んでいたぞ。


「ッ姉貴!大丈夫か…!」


腕の中のステュクスはエリスを心配する…けど…けど。


「バカッ!!何やってんですか!」


「うっ…いや、マラコーダが隙だらけだったから…」


「あれのどこに隙があったんですか!そんな事も分からないんですか!お前は!」


「な、なんだよ!一緒に戦えって言ったから俺は──」


「あの程度のことしか出来ないなら助けは要りませんッッ!!」


「ッ……」


吠える、自分が吠えていると…客観視する。これだよ…これだ、エリスが嫌いなエリスだ。


「なんだよそれ…!言動が矛盾してるぞあんた!」


「事実です、勝手に手を出されて死なれても困ります、何処かに消えてなさい!」


こう言うことが言いたいんじゃない、迂闊な攻め方はしないで…それで死んだら元も子もない。そう言うことが言いたいんだ…けど怒りはエリスの言葉と行動を捻じ曲げる。


……他の人間に対してなら、こうはならない。だがステュクスは違う…エリスはもう彼に対して強い憎悪も怒りも抱いていない筈なんだ、なのに彼を前にしていると…ふとした事で怒ってしまう、言葉がキツくなる。


まるでロムルスにナリアさんを傷つけられたかのような怒り方を…彼にしてしまう。


「………だよ、な…うん、なんとなく…分かってたよ」


「…………」


「俺はやっぱりどこまで行っても、姉貴と並んで戦うなんて…出来やしないんだ」


あの時と変わらない、ソレイユ村で彼と諍いを起こした時と…なんにも。ステュクスはあれから大人になったし多くを知った、けれどエリスはソレイユ村で彼と出会った時のまま変わってない、変われてない。


大冒険祭で少しは彼と間を縮められた気がしたが…それも、エリスのこの性質で…全て。


「何処かに行ってなさい!」


「……分かったよ」


エリスはステュクスを追い払い、痛む体を起こして立ち上がり…視線を後ろに向ける。


「気に食わん気に食わん気に食わん!全てが気に食わない!苛立ってしょうがない!私はお前が気に食わんぞ!!」


「マラコーダ……お前は本当に、どこまで行っても…エリスだな」


独りで拳を握る。少なくとも…そしてどうあれステュクスをこれ以上この戦いには関わらせられない。奴の怒りを鎮める方法も今のところ検討もついていないが…関係ない。感情すらもそれすらも凌駕するほどの火力で!ぶち抜く!


「『ボアネルゲ・デュナミス』!さぁ相手してやりますよ!マラコーダッ!」


「不遜不遜不遜ッ!貴様の不遜が気に食わんッ!!」


全身に雷を身に纏い、炎を噴き出すマラコーダと追突し…大地に衝撃を響かせる。このまま一気に…倒してやる!


……………………………………………


「………何やってんだ俺」


走り…走って、どこに行く。ステュクスはただ独り走って…項垂れて、立ち止まり…膝に手を乗せる。姉貴に言われて、ショック受けて、バカか…何逃げてんだ、どこに逃げんだよ俺は。


「ッ……」


しかし、振り返って姉貴のところに戻ろうとするが…足が止まる。また姉貴のところに行って何をする、また役立たずと言われて終わる。事実として役立たずなのだから…。


それ以上に…恐ろしい。


「……ハハハ」


思わず笑みが溢れてしまう、なんだよ俺…まだ姉貴のことが怖いんじゃないか。そりゃ最近は上手くやれてる自信はあった、関係も良好になった。けどもし…また何かの拍子に姉貴の機嫌を損ねて怒らせたら、また何か姉貴の逆鱗に触れたら、また今までのような傷つけ合うような関係に戻るのが怖いんだ。


俺の中の姉貴は未だ、厳しく恐ろしい人でしかない。その事実に気がついて…情けなくなる。


(結局姉貴は…望んでないんだろう、俺と関係を修復するのを)


なら、このまま消えていた方がいいのか。このまま戦いの場に戻っても実力で数段劣るのは分かってるし、いくら師匠の弟子だから俺は強い!と言い聞かせてもそれで誤魔化せる領域の話じゃない。このまま行ってまた姉貴の足を引っ張るくらいなら、姉貴を怒らせるくらいなら………。


「……………」


黙る、黙って目を伏せ考え…そして。


「いや、やっぱ違うな。ここで逃げたら違うよな、話が」


首を振る、違う違うここで逃げたら意味がねぇだろ。それこそここで逃げたら俺は一生弱いまま、姉貴との関係も悪いまま、何より…俺はここに姉貴を助けるために来てるのに、姉貴の背中に隠れて縮こまってたらなんの意味もない。


それに……俺はあの時見たじゃないか。


(ストゥルティ…ハルさん…あんた達に偉そうに言っておきながら、俺自身がこれじゃあな。あんた達はキチンと自分達の関係に向き合ったんだ…なら俺も、向き合わなきゃいけない)


いつか姉貴とも分かり合える日が来るとそう思い続けて今まで背を向けてきた、ならそのいつかとはいつだ?いつかは俺自身が決めるんだ、なら今だっていいんだ。


姉貴と向き合う、マラコーダと戦う、拒絶されても、弱くとも、俺はここで俺を通せなきゃ今までの全てに嘘をつくことになるんだから。


「……ふふふ」


今度はまた別の笑みが出る、向き合ってみるとなんか変なことで悩んでいたなと思う。そうか俺はストゥルティと同じだったんだ、拒絶されるのが怖かっただけ…怒りを受け止める勇気が足りなかっただけ───。


(勇気……)


ふと、そのワードを思い浮かべ…顎に指を当てる。その言葉はつい先程聞いた言葉…そう、ナリアさんが言っていたんだ。


兄への怒りを捨てきれず兄を拒絶するハルさんとハルさんの怒りを恐れ拒絶されることを恐れ…足を竦ませていたストゥルティの二人に対し、ナリアさんは言った…『勇気だ』と。これにより二人は勇気を出して関係を修復できた。


二人は勇気を出して、なんの感情を打ち倒した?勇気によって何が破壊された?……それは。


「そうか…勇気なんだ、怒りに相反する感情は…勇気なんだ!!」


勇気だ、あの時ナリアさんが言った勇気とは怒りを打ち倒すための感情を言っていたんだ。


怒りは、他の感情さえ塗りつぶす最強の感情だ、悲しみも喜びも怒りを前にすれば消え失せる。例え他の感情で埋め合わせしたとしても怒りの感情は完全に消えるわけではなく燻り続ける…だからハルさんも姉貴も怒りを捨てられなかった。


そんな怒りを消し去るには…向き合うしかない、けど怒りと向き合うのは怖いよ、恐ろしいよ。けど…怒りと向き合う勇気さえあれば。


「これを姉貴に伝えないと……いや、でも怖え。マラコーダも姉貴も…それにどうすんだ?実力に差がありすぎるし、俺が言って今の姉貴は受け入れてくれるか…?」


指を噛みながら考える、相反する感情は分かった…けどさてここからどうするよ。そう思考していると。


『ぬははははは!面白いのうステュクス、お前は本当に面白い』


ロアが笑うのだ、こいつ…こっちが四苦八苦してる時に。


「おいロア、笑ってる場合かよ!何が面白いんだよ!」


『面白いに決まっておろう、なるほど勇気か。確かにそうかもしれんのう…感情に関する理論は知っておるが、理屈までは考えた事もなかったわい。関係の拗れた親族とわかり合う勇気か、面白いものを聞かせてもらったわ』


「で…なんだよ、感想だけならあとにしろよ」


『お前はワシに気付きを与えた。このワシにじゃ、これは凄いことじゃぞ?その返礼に…面白い力を授けてやる』


「え?」


『覚醒してマラコーダに一撃を当てろ、星魔剣とお前の『魔術を吸収して会得する』力を同期させ…進化させておいた』


「お、俺の覚醒を…進化?」


『ああ、相手の魔力を吸収し…『相手の覚醒を魔術として会得する』力にな』


そ、そりゃあ凄いな。そんなの相手の覚醒を真似する物に近いじゃないか…。


『まぁ言ってみれば相手の覚醒を元にワシが魔術を作ってやるだけじゃが…十分じゃろう。言っておくがただ覚醒を真似するだけではないぞ?魔術としての技量上昇に伴い応用・変容など様々な扱い方が出来る。覚醒よりも魔術の方が戦闘向きじゃからのう!こっちのが凄いぞ!』


「なんでもいい…マラコーダの力を俺が使えるようになれば…」


無限に強くなり続けるマラコーダに対抗出来るようになる、こっちも感情で強くなれるんだから…!これさえあれば!


(行けるのか?…いや行くしかねぇ、行けると思え、今は賢くなるな、自信過剰になれ、迂闊になれ、でなきゃこの足は動かないんだから!)


引く…という選択肢がない以上、バカで間抜けで迂闊な自信過剰になるしかない。一撃だ…一撃でいい、マラコーダにぶつけられたら逆転のキッカケになる筈だ。


必要なのは…勇気、だよな。


…………………………………………………………


「冥王乱舞!『王拳』ッ!」


「『瞋恚のガベル』ッ!!」


激突する雷と炎の一撃、エリスとマラコーダは溶岩滴る街の中心で殴り合う。瞋恚の焔を纏うマラコーダの動きは先程からキレが増して続けている…最初からかなり強い状態だったがそこからさらに強くなるとは、どうやら際限なく強くなるとは本当らしい。


でも、負けるわけにはいかない!


「意味を持ち形を現し影を這い意義を為せ『蛇鞭戒鎖』!」


「むぐぅ!?」


拳を引くと同時に縄を作り出しマラコーダの頭に巻き付け、一気に引き寄せマラコーダの顔面に蹴りを加える。


「いい加減にしてくださいよ!いい加減に!」


そこから何度も何度も何度も靴の裏を叩きつけマラコーダの顔面を削る、高速の蹴りを受け続けるマラコーダ…しかし。


「『イラ・ルヒル』ッ!!」


「うぉっ!?」


蹴りを受けると同時に口から炎を吹き出しエリスの体を弾き飛ばす、まるでエリスの蹴りを受けても物ともしないかのように奴はそのまま吹き飛ばしたエリスを追いかけ足の裏から炎を吹き出し加速すると。


「この程度で!我が怒りを鎮められる物かッ!!その程度でェッ!!!」


「くっ!」


まるで波だ、怒涛の拳が、蹴りが、頭突きが、絶え間なく飛んでくる。それを体捌きでなんとか弾き、防ぎ、避けるが…冥王乱舞でようやくなんとかなるスピードか。洒落にならないな。


「何故そうも怒りに身を任せるんですか…怒っても、いいことないでしょう!」


まるで自分に言い聞かせるようにエリスはマラコーダの拳を弾きながらそのまま冥王乱舞・王拳をマラコーダの顔面に叩き込む…しかし。


「怒りは……怒りはッ!」


「ぐっ!?」


軽く仰け反ったマラコーダのはそのまま足を大きく上げ、踏み込んだエリスの足を踏みつけ大地に縫い付ける。


「理屈じゃないッ!」


「ガハッ!?」


そして返す刀に飛んできたマラコーダの拳が今度はエリスを打ち据える。その威力に吹き飛びそうになるが足を踏みつけられており体が伸び切るばかりでその場から逃げられない。マラコーダの攻めがまだまだ続く。


「常識を語る言葉!冷静さを促す説教!怒りを否定する諌めの言葉!どれもこれも!怒りを鎮める物にはなり得ない!怒りとは!言葉で言って聞かせて消える物じゃないッ!」


そこからはまるでサンドバッグだ、足を踏みつけながら何度も何度も炎拳をエリスの顔面に叩き込み、拳が無数に増えて見える程の速度で叩き込まれる打撃に抵抗すら出来ない。


「怒りとはそう言う物だろう、吹き消せる炎なら最初から燃え上がりはしない。消えないから怒るのだ…消せぬ怒りだから猛るのだ、それが私…アルタミラの怒りだ」


「ッ……お前は、最早怒りに怒っているようにしか見えません」


「かもな、それでも許せぬから怒る。故に憤懣やる方ないのだッ!」


大きく振りかぶり、打ち下ろすような拳を受け倒れ伏すエリスは、血を吐きながら蹲る。許せないから怒る…か、どんな言葉や出来事で薄めて記憶の隅に追いやっても、怒りは消えない。


あの日、母に捨てられたと知った絶望。その母が自分ではない子を愛していたと知った激怒、それは今もエリスの胸の中に蟠りとして残り…今も炎として揺らいでいる。それが分かるからこそ、マラコーダの怒りが理解出来てしまう。


奴は最早自分でもどうしたらいいか分からないくらい怒っているんだ。こう言う奴には何をしてもその怒りが誤魔化されることはない。


だから……エリスも…。


「うぉおおーー!マラコーダッ!」


「ッ…ステュクス…!?」


すると、炎を切り裂いて再びステュクスが現れる。アイツ…何をしに、と言うかそれはさっきやったでしょう!無駄だった筈!アイツは…つくづく!


「やめなさい!」


「ぬぅぅう…懲りずにきたか、懲りずに我が元に!今度こそ消し去ってくれる!」


再びマラコーダの体に光が満ちる、またあれが来る…ステュクスが危ない!


「ぐっ…ステュクス!」


立ちあがろうとするが、ダメだ…ダメージが大きすぎる、すぐには動けない。やられる…ステュクスが!


(ッ……ダメ、ダメ!ステュクス!!)


「消えろ!愚か者ッ!『赫怒のコンビクション』ッ!!」


放たれる灼熱の炎、凡ゆる物を融解させ消し去るマラコーダの奥義…それがステュクスに向け放たれる、一瞬…炎に焼かれるステュクスを幻視し目を背けそうになる。


しかし、ステュクスは。


「来ると思ったぜ…だから!」


剣を、立てに構え、刃を地面に向けて…。


「『ロード・デード』!」


「むがっ!?」


ステュクスの魔力が地面に伝播した瞬間、マラコーダの立つ地面が溶ける。まるで沼のように変わった大地はマラコーダの足を僅かに沈め口から放たれる炎が上方向にブレ、ステュクスの頭上を抜けていく。


それでも余波は伝わる、灼熱の余波だ…されどステュクスはそんな余波さえ耐え抜いて一歩踏み込み…。


「もらったッ!」


「ッ何ィッ!?」


胴に一閃、入る。ステュクスの剣が…しかし刃は火花を上げて弾かれる。マラコーダの体皮を刃が抜けなかった。そんなことあるのかと言いたいが今のマラコーダは何でもありだ。


あれだけ命をかけてやっても、そこで与えた一撃さえマラコーダを傷つけるに値しなかった。絶望してもおかしくない状況…しかしステュクスはそれでもニタリと笑い。


「よっしゃ当てたッ!」


「効かんわそんな攻撃!」


「だろうなッ!蚊の刺すような一撃だろうよ…けどな、言っとくが俺!まだなんも諦めてねぇから!何を言われてようと!されようと!俺は今まで歩んできた俺の道を疑わない!」


マラコーダの一撃を跳躍で回避したステュクスは叫ぶ、それはまるでエリスに言っているようで…。


「姉貴!」


「ッ……」


そのまま剣から魔力を噴射し加速したステュクスはエリスの元まで飛んでくるなり、エリスの襟を掴んで空を駆け抜けその場から退却するのだった。


助けられて…しまったな……。


「………………」


お礼くらい言えよ、エリス。


「大丈夫か、姉貴」


「問題ありません、貴方の方は……」


「全然大丈夫、効いてないよ。さっきの攻撃も…姉貴の言葉もさ」


そしてステュクスは近くの家屋の影に隠れ、一息つく。けどエリスは…ステュクスに目を向けられない、さっきのこともあるし…何より再燃しかけた怒りの炎が抑えられない。また下手なことを言いそうだ。


「さてと、姉貴…マラコーダをぶっ倒すには俺じゃ無理だ、姉貴じゃないと」


「……勇ましく答えたいですが、奴を倒し切るだけの火力はなかなか用意出来ません。最大火力を叩き込んでも恐らく奴は立ち上がる」


「だな、だから反対の感情をぶつけることになる…」


「何かわかったんですか?」


「ああ勿論、だからその為にも姉貴……」


すると、ステュクスはエリスの背けられた視線の中に入り込み…。こう言うんだ。


「……仲直りしよう」


「え?」


「姉貴、俺を許してくれ」


「…………」


それが何を意味するのか、分からない。エリスに己の怒りを超えろと言うのか…そうでなければマラコーダという怒りは倒せないと、でもそれは根本的な部分で違ってるよ。


「何言ってるんですか、許すも何も…貴方は悪くないでしょう、何も。ただそうあっただけで…」


「そうじゃねぇよ!!」


その瞬間、ステュクスはエリスの胸ぐらを掴み…牙を剥きながら吠え立てる。


「姉貴!中途半端に大人になるなよ!優しくないのに優しいフリなんかするなよ!あんたもっとドライな人間だろ!」


「あ、貴方にエリスの何が分かるんですか!」


「分かんねぇよ!何も!だから胸に押し込んで勝手に一人で拗らせんなって言ってんだよ!俺とあんた…これ以上ないくらいややこしい関係だよ、おかげで俺はあんたに何回か殺されかけた!とても健全な姉弟関係じゃねえよな!」


「悪かったですね…だから今エリスも別に貴方に手をあげたりしてない──」


「けど!正直…あの時。俺に殺意を向けてたあんたの方が…幾分やりやすかった、今みたいに本音を隠さないから心の底から話せてる気がした!今は違う…あんた俺への気持ちを隠しながら、半端に形だけ仲良くしようとしてる!それじゃ…ダメなんだよ!」


その傲慢な言い草に、エリスの中の炎が燃え上がる。何を言ってるんだこいつはこんな時に。ならなんですか…エリスがあの時みたいにお前を殺そうとすればいいのか!


「ならなんですか!お前への恨み事でも吐けと!?この状況で!?」


「ああそうだ!全部言ってくれ!そして…悪い、それを乗り越えてくれ」


「勝手な事ばかり…!第一貴方!昔からエリスの気も知らないでいつもいつも正論を吐き正しい側に立ってエリスを否定して!そう言うところが嫌なんですよ!」


「そうそれ!そう言うのもっとくれ!本音本音!」


「お前本当にムカつきますね!?」


エリスが本気で悩んでるのにこいつは!何が本音だ!それで一体何になる!


「姉貴!向き合え!誤魔化すな!自分の怒りと向き合ってくれ!」


「え……」


「あんた今目を背けてるだけだ、俺からじゃない!自分自身にだ!だからもっと向き合って…認めて、踏み越えてくれ!そうすればマラコーダを───!」


『ここかぁあああ!!』


「くっ!」


その瞬間、マラコーダがエリス達を見つけ家屋を爆破しながら突っ込んでくる。今この時この場所は戦場となった、エリスとステュクスは揃って飛び退きながらマラコーダの動きに注視する…いや違う。


エリスだけは…集中出来なかった。


(向き合う…自分の怒りと)


ステュクスの言いたいことが薄ぼんやりとわかってきた、エリスは上辺だけの優しさと理性でステュクスへの怒りを塗り潰し『もう確執はない』と思い込もうとしていただけ。それはエリス自身がステュクスへの気持ち…怒りから目を背けていただけ。


怒りに目を向ければ向けるほど、己の凶暴性や狭量さが詳らかにされるようでとても気分がよくない。マラコーダを見てイラつくのもまた同じ…奴はエリスの怒りにそっくりだから。


でもそれは…結局逃げでしかない、本当の意味でステュクスへの怒りが消えたことにはならない。


「消えろ全員ッ!!」


「姉貴!向き合え!向き合ってくれッ!」


「ッ……!」


爆発するようなマラコーダの攻めが渦巻く。炎を噴射しながら壁や大地を蹴って乱反射し突っ込んでくるマラコーダの激烈な攻勢をエリスとステュクスは二人で耐え続ける。いつまでも保たないよこんなの…けど。


(向き合う…向き合う……己と)


エリスはそれ以上に今…自分自身の怒りと向き合うのに必死だ。


……エリスの怒りの原点は、その生まれにある。どうしようもない部分だ…エリスは母の悲劇から生まれ、地獄の中で生まれた。母が悲劇から抜け出し地獄から逃げるにはエリスを置いていくしかなかった。


そしてその先で真の愛に出会い、子を成し…生まれたのは真に愛する子供ステュクス。母はそこで幸せになった…それだけならよかった、これでめでたしに出来る。


だが…めでたしで終われない、ハッピーエンドで幕が引かないのが現実だ。地獄の中にエリスは一人置き去りにされたままだった…ただ母が幸せになっていた事実だけを突きつけられて、母にもう一度会うことさえ許されず、ただただ苦しんだエリスだけが…残った。


エリスはそれが、嫌だった。母の事はもう割り切ったよ…それはもう彼女が死んでしまって取り返しがつかないから。ならエリスは何に怒ってる?ステュクスへの怒りはなんだ?だってこの怒りの原点は母ハーメアだろ…そこを割り切ったのに、なんで。


「『イラ・ルヒル』ッ!」


「チッ…邪魔だよ!『火雷招』ッ!」


マラコーダの灼光とエリスの炎雷がぶつかり合い、迸る火花が爆裂する。その炎の雨の中…エリスが見るのはマラコーダの姿だ。怒りに満ちた…奴の姿は。


「ぅぅうううがぁあああああ!!全てに腹が立つ!全てが苛立たしい!何もかもが不満だ!憤懣やる方なしッッ!!」


(……嗚呼、なるほど)


さっきまであれだけ煩わしく見えた奴の怒りに悶える姿、それが今はとても寂しげに見える。奴は怒る事でしか自分を表現出来ていない…とても稚拙で幼稚だ、それは翻ってエリスにも言える。


エリスはただ…ステュクスが羨ましかっただけ、いや…もっと言えば。


───────エリスはただ、自分の弱さが嫌いだっただけなんだ。


「そう言う…事か」


エリスは師匠に拾われて強くなれた、そう思う事でエリスはここまで歩いてこれた。けどステュクスは謂わばエリスの弱かった頃の因縁そのもの…。彼を見ていると母や生まれの事をどうやっても考えさせられる。


だから母の事は許せても、弱かった自分を思い起こさせるステュクスを遠ざけていた。結局…寂しかっただけなんだ、エリスもステュクスと何気ない日常を送った可能性があると思わされることが嫌だっただけで、その寂しさから来る弱さが嫌いだったんだ。


そしてそう言う風に考えること自体が…弱さだ。


「姉貴!向き合えたか!」


「ステュクス……ええ」


向き合った、自分の弱さから彼を遠ざけていた事実と、弱さの象徴たる彼を許せない自分の幼稚さ…何より、ただ寂しかったと言う理由で彼に対して怒りを抱いていた己の不出来さ。怒りの根源と向き合う事はできた…けど。


そんな風に視線を逸らそうとした瞬間、ステュクスは手を伸ばす。


「なら、姉貴!俺と……家族になってくれ…!」


「ッ……!」


「家族だ、また一緒にやっていこうなんて言ったらアンタは嫌かもしれない、けど…俺は!それでも!唯一の血族である姉貴が…大切なんだッ!!」


伸ばされる手、それを前に逡巡する…逡巡してしまう。家族…大切な?そんな事を言われて反射で反発してしまう、お前に何が分かると…だがきっとこれがエリスの弱さ、これと向き合い踏み越えるのは…難しいぞ。


「ッ……!」


「姉貴!」


「私を無視するなッッ!!『瞋恚のガベル』ッ!!」


「ぅぐぇっ!?」


エリスが一瞬迷った隙をついてマラコーダが地面を砕き噴炎が周囲を包みエリスとステュクスが吹き飛ばされる。向き合い…超える、ただそれだけのことが出来ない。


有り体に言おう…エリスはまだ、ステュクスが許せない。それはエリスの弱さから来る怒りでも…エリスは幸せに過ごした子供であるステュクスが……!


「ッ勇気だッッ!!」


しかし、その瞬間…ステュクスが地面を転がりながら叫ぶ。


「勇気だよ!姉貴!怒りを倒す…唯一の感情は…勇気なんだ!だから!振り絞ってくれェッ!!!勇気をッッ!!」


勇気……勇気、そうか。勇気が──────。


「さっきからごちゃごちゃと喧しい、まずはお前から殺すか…!」


「げっ…やばっ!」


倒れるステュクスを踏み潰そうとマラコーダが足を上げている、その頭蓋を踏み砕くべく足を斧のように振り上げ、炎を纏い…今、振り下ろされる。




……エリスは、ステュクスが許せない。ごちゃごちゃ言うが結局結論はそこに行き着く。感情は複雑怪奇でハーメアは許せても彼の事は許せないんだ。ただ己の寂しさの象徴と言う属性を勝手に付与された彼はエリスにとってただの嫌いな奴以上の存在だ。


向き合えって言ったても簡単には向き合えないよ。けど同時に思うんだ…。


エリスは魔女の弟子だ、ハーメアの娘としてのわたしは死んだ。だからステュクスがハーメアと一緒に楽しく暮らしていようと関係ない。エリスとステュクスが一緒にただの村人として生きた未来なんかありえない、エリスは魔女の弟子なんだからそういうもしもの世界を夢想すること自体師匠に失礼…と昔は考えていたが。


別に、いいじゃないかって…今は思う。だって…そのもしもを、今ここで…現実にしたってなんの問題もないんだから───。


「ステュクスッッ!!」


「ッ姉貴!?」


信じられないスピードが出た、冥王乱舞の限界を超えてエリス自身が出したことのないスピードで…まるで背中に羽が生えたような速度で飛翔したエリスは、倒れたステュクスの…手を握り、踏み砕かれる大地から彼を救い出す。


「ステュクス、さっきから貴方…上から目線すぎて腹立つんですよ。何が俺を許せですか、許すための勇気を出せですか、本当にお前は腹立つ奴ですね」


「ご、ごめん…姉貴!確かに言い方は悪かった…その……」


「でも、……許しましょう。だってエリスは…」


そのまま彼の手を引いて空に駆け上り、ステュクスを抱き止め…笑う、笑いが込み上げる。そうだよ、だってエリスは。


「エリスはエリスですから、貴方の…お姉ちゃんのエリスですから」


「姉貴……!」


「ええ、許します…寧ろ、許してください。こんな姉が……家族として振る舞う事を」


「あ、当たり前だろ…当たり前だろぉっ!俺達家族なんだから!!」


いいじゃないか、仲良くしたって。いいじゃないか、姉弟として仲良く生きたって、何がどうあれ、エリスとステュクスが姉弟である事実は変わらない。


ならば向き合おう、ならば受け入れよう。エリスは彼を許す…許すんだ、まだ荒れ狂う怒りはあるけど、それに向き合う勇気さえあれば、怒りの炎なんか小さなものだ。


涙を流しながらエリスに縋り付く弟を見てたら、そう思うんだ。


「さぁステュクス!泣いてる暇はありません!で!マラコーダはどうやって倒せば……あれ?」


「大丈夫、もういけるはずだ…」


ふと、ステュクスの手を掴む手が…エリスの手が、光り輝く。違う手だけじゃない、エリスの体全てが光り輝いているんだ。なんだこれ…分からないけど、なんだか…力が湧いてくる。


「『アフェクトゥス・リベラティオ』…マラコーダの感情を力に変える力をこの剣で吸収して、魔術に変えた。感情変換魔術…それを姉貴に付与したんだ」


「相手の力を魔術に変えた…?新たな魔術を作ったんですか…!?そんなことが、貴方に出来るんですか!?」


「出来る…みたいだ、でもこれを俺が使っても意味がない。姉貴じゃなきゃマラコーダには敵わない。だから姉貴に使った…今の姉貴は感情によって強くなる、マラコーダのと同じ舞台に立ったんだ」


暖かな光が、エリスを包む。信じられないくらいの力が湧いてくる…エリスの感情の何かが力に変わっている、いや…そうか。


「今の姉貴は…勇気を出せば出すほど強くなる!これでぶちかましてくれ!姉貴!」


「ッ分かりました!やってやりますよ!」


勇気によって無限に強くなる、か。なるほど、いい物を持ってますねステュクス…そして最高の選択ですよ。


確かにエリスは、怒りに負けてしまう奴です…けど、勇気を出させたらきっとエリス以上の奴はいないですよ。


「ッ…やってやります!マラコーダッ!!」


「煩わしいッッ!!」


ステュクスから手を離し拳を握り、炎拳を振り上げるマラコーダとエリスの黄金の拳が衝突し、互角に押し合う。手がつけられないくらい強く、恐ろしい存在に成り果てたマラコーダ…そんなマラコーダと互角の力を得た、これなら…行けるッ!!


「さぁそこを退きなさいマラコーダッ!よくもエリスの弟を傷つけてくれましたね!ここからは…お姉ちゃんが相手ですッ!!」


「ぐぅぅ!?」


そのまま殴り飛ばし、コートを翻し構えを取る…ここからは、お姉ちゃんとして戦うのだ。


……………………………………


『幾度となく強敵との戦いを乗り越えてきたエリスという女が持つ最も強い感情、それこそが『勇気』だ。どれだけ恐ろしくともどれだけ相手が強くとも、守るべきものを背にしたエリスが生み出す勇気の値は計り知れん。良いところに目をつけたな…ステュクス』


「別に、そんな計算してたわけじゃないよ…」


マラコーダを相手に押し始めた姉貴を見て、俺は座り込む。別に姉貴が勇気を出したら効率がいいとか…そういう事を考えてたわけじゃない。ただ俺は知ってるだけだ…こういう時の姉貴は誰よりも強いって。


「マラコーダッッ!!」


「ぐぅううううう!!!」


マラコーダは速い、怒りに任せてどんどん速くなる。だが姉貴はもっと速くなる、加速の度合いじゃあ姉貴の方が遥かに上だ。


「こういう時の姉貴は強いんだ…なんたって俺のお姉ちゃんだぜ」


『フンッ、そういう理屈にもならん理屈を聞きたいわけではないわ。じゃが事実として今のエリスは凄まじい、明らかに第二段階の領域を超え第三段階…その最上位にすら匹敵する力を発揮しながら未だ留まるところを知らん』


拳を振るえば衝撃波で街が崩れる、頭突きでマラコーダの体が崩れる、どんな攻撃も物ともせず全てを貫く攻撃はまさしく勇気そのもの。姉貴そのものだ。


勇気とは即ちそういう感情なんだ。怒り、悲しみ、迷い、憂い、足を絡める如何なる感情さえも振り切る己を信じる心…足を止めず進む覚悟と何があろうとも終わらない信念を内包した『先へ進む』事に関して最強の力を発揮する感情が勇気なんだ、姉貴という人間が持つ勇気という感情は…際限のない怒りをすら超える無限の力を持っているんだ。


いつも思うよ、ピンチになると現れて、ただ一人で流れを変えて、誰かを守って何かに打ち勝って次へ進む。まるで勇気そのものとも言える生き方をする姉貴に…とことん憧れるってさ。


『あれだけの力を発揮するには夢の中という限定的な状況が必須。本来悪魔達からデメリットを排除する為に作られた夢世界を己の舞台に変えた、今まさしくこの世界はエリスの為の舞台に変わった…ワシ自ら名付けるならば、今のエリスは…『エリス・プロタゴニスト』とも呼ぶべき限定形態。ありゃあ勝つぞ』


勇気を力に変える黄金の形態『エリス・プロタゴニスト』…覚醒も極・覚醒も超える今この時だけの姉貴の最強形態。それは怒りで強化され続けるマラコーダを超える勢いで強くなり続けていく。


「……流石姉貴だよ、…よしっ!じゃあ俺も行くか!」


『むぅ?お前も行くのか?じゃが『アフェクトゥス・リベラティオ』の対象人数は一人…つまりエリス一人にしか付与出来ん、お前は強化できんぞ』


「構わない、例え俺の一撃がマラコーダに通じなくても…姉貴を助ける為に剣を振るう。この戦いの…最後の最後は姉貴の後ろに隠れて全部終わるまで待ってました…じゃ、格好つかないだろ」


剣を握り直す。目の前で行われるのは超常の戦い、俺の入り込む隙間はない。なんていつもの事だろ?緊張する必要なんかどこにもない、やれるだけのことをやる…たったこれだけの事に全神経を集中させて俺の全てを注ぎ込む。


綿密な戦いの隙間、あるかないか分からないほど小さな隙間、その中に有る砂の一粒分の不足を…俺が埋める。


「『光輝火雷掌』ッ!」


「ぐぅっ!?貴様ァ…!」


鋭い一閃が煌めきマラコーダを打つ。まるで花火のような輝きを持つ拳による一撃を受けマラコーダが大きく仰反る。姉貴の光が増していく、されどマラコーダの炎も増していく。このまま行けば二人の戦いはこの夢の世界を砕く程に激化する…その前に、決着をつけさせる。


…………………………………………………


「マラコーダッ!いい加減諦めなさい…エリスは死んでも諦めませんよ、これ以上やっても無駄です」


「私は道を譲る気がないが…お前は譲れと、貴様はそう言いたいのか…なんたる傲慢、なんたる不遜!貴様のような存在が怒りを増長させると何故分からん」


「それをッ!」


瞬間、エリスの光線のような踏み込みがマラコーダの懐まで送り届ける。凄まじいスピードだ…エリスじゃこんなスピードは出せないはずだ、けれど力が溢れて止まらない。マラコーダの終わりのない成長を前にしても…戦える、勝てる、そんな気持ちが湧いてくる程に今のエリスは止まらない。


「手前がッ!」


「ぐぎぃ!?」


放たれる右拳が光を纏う、これは…この力の源は勇気だ。ステュクスと、エリスと向き合う勇気…そしてマラコーダから家族を守るという勇気、何よりこの戦いを終わらせる勇気…全てがエリスの力に変わる。


これなら…これなら『怒り』さえもッ!


「手前が手前が手前が手前が手前が手前が手前が手前が手前がッ!!」


「ごはぁぁ!?」


飛ぶ、右拳が左拳が。怒涛の乱打でマラコーダの体を砕きまくる、激る感情のままにエリスは眩い光の束のような打撃の雨をひたすらに叩き込み…。


「手前がッ!言うなッッ!!」


「ぐぶぅぅ!!」


撃ち殺さんが如き鋭さの蹴りが光を放ちマラコーダを吹き飛ばす。…今のエリスはお前と向き合っても怒りませんよ、ええ怒ってませんとも…何せこれは平常運転なので。


だからこそ、マラコーダの物言いには腹が……あれだ、なんかこう…気に食わん!


「何が不遜だ、何が傲慢だ!怒りを暴力に変換し傷つけることへの正当化に繋げているお前こそが!不和と暗澹を生む根源じゃないか!怒りってのはね…ただそれだけで終わる感情じゃないんです、その先に!許し許すと言う終わりがあってこそ!初めて価値がある!」


「ッ何を偉そうな…!」


「偉そうに言わせてもらいます、エリスはもう…お前と同じステージに居ない、エリスは怒りの本質を見たのですから」


エリスは踏み越えた、怒りを。怒りを踏み越えその先にある段階へと至り…この力を得た、ならばこそ言わせてもらう。お前の言っている怒りとはただ単に何かを壊したい、何かを傷つけたいと言う暴力性を正当化する言い訳でしかないことを。


しかし、マラコーダは立ち上がる…まだまだ立ち上がってくる。そして…。


「傷つけずして!この怒りが晴れるか。破壊せずして!私が報われるかッ!純然たる怒りの化身たる私を否定して何が怒りの本質か!ムカっ腹と目くじらが立って怒髪が天を衝き堪忍袋の尾が切れて頭に血が昇り……憤懣!やる方ないわァッ!!!」


バキバキと音を立てマラコーダの漆黒の肉体がヒビ割れその奥から炎が吹き上がる、さながら怒りの臨界を超え究極と言えるほどに奴の怒りが高まっているのだろう。


立っている場所から融解し、夢の世界が溶けていく、あれはもう怒りの悪魔じゃない…瞋恚の魔神そのものだ。


「貴様は悪魔の逆鱗に触れたのだッッ!!」


そのまま燃え上がる拳を大きく振り下ろせば…ただそれだけで大地が赤く染まり爆裂する。灼熱が奴の一挙手一投足に乗っている…されど、奴が恐ろしければ恐ろしいほど…今のエリスは───。


「言ってろッッ!!」


「ぐふぅっ!?」


炎の波を切り裂いてエリスの蹴りがマラコーダの頭を打つ。より一層エリスの光が強くなる、ただ余波が流れただけで大地が割れて空が鳴動する…まるで師匠が戦っている時みたいだ。


(なるほど、今のエリスは…マラコーダは、魔女の領域にあるのかもしれませんね)


これは夢だ、夢ならなんでもありだ。だからこうして無限に強くなるなんて言う無茶も叶うと…結果エリスは今、魔女にも匹敵するだけの力を得て尚破綻せず肉体を保ってられる。


そして痛感する、エリスと師匠の差はこれほどまでにあるのかと…手にしたからこそ分かる果てしなさ、けれど…うん。


(師匠はここにいる、辿り着けない場所にはいない…エリスの延長線上に師匠がいるなら、いずれ!)


拳を握る、マラコーダを見遣る、いずれ師匠の元へ辿り着く為に…こんなところで歩みは止められない!


「はぁああああああ!!!」


「ぐぅ…!貴様はァ……!!」


全身に激る勇気を力に変える、師匠へ追いつく覚悟を決めれば…文字通り無限に力が引き出せる、このまま一気に決める…そう力を溜めた瞬間、マラコーダが動く。


「もういい!全部消し去ってくれる!我が怒りは…最早お前一人殺した程度では収まらんッッ!!」


「ッ……!」


マラコーダの口が割れる、裂ける、粉々に砕けた口がひび割れた口がまるで牙のように鋭く尖り、その内が燃える。まるで口の中が焼却炉にでもなったかのように燃え上がり…エリスに向けられる。


まずい、ヤツお得意のブレスが来る…!どうする、避けるか?けど折角力を溜めたのに…これじゃ!


『マラコーダッ!』


「ッ……!」


「ステュクス…!?」


咄嗟にエリスは目を向ける、それは遥か彼方…瓦礫の山の頂点に立つステュクスが剣を向けながら吠えていた。


「姉貴にだけ集中してていいのかよ!俺がいるぜ!ここに!」


「…………」


しかしステュクスの言葉にマラコーダは反応しない、最早反応する必要すらないと言うことか…いや。


「おい!こっちを見ろよ!」


(これは挑発だ、奴は私の顔を逸らさせてブレスの軌道をズラすつもりだ…その手には乗らん!)


マラコーダは考える、ステュクスの真意を。咄嗟に声をかけブレス発射の瞬間に顔をステュクスの方に向けさせ…エリスからブレスをズラす魂胆だと。だからこそ無視する…エリスさえ倒せればステュクスを倒すことなんて造作もないからだ。


しかし、マラコーダがステュクスの真意を読んだように…ステュクスもまた。


「怒りの化身が聞いて呆れる!お前随分冷静じゃないか!けどな…お前ならそう動くと思ったぜ、俺なんか…俺みたいな雑魚の一刺しなんか気にも留めないってな。けどさ、一ついいこと教えやるよ」


違う、これは挑発じゃない…牽制だ。見ろと言って見ない選択を選ぶことを見越した牽制の言葉だ…とエリスが悟ったのは。


ステュクスがマラコーダに向けて飛びかかったのを見たからだ。


「ッ……… !」


思わず叫びそうになる、見事ステュクスは牽制を用いてマラコーダの背後に飛び掛かることが出来た、だがそれで行うのが突撃?剣から魔力を噴射させマラコーダの背後に飛びかかって…その後どうする!このまま行けばステュクスは────いや。


(信じる!ステュクスを!エリスの弟を!)


彼はバカじゃない、ならばエリスはエリスのやるべきことをやる!それは…奴を倒す為の一撃を用意すること!


「『光輝冥王乱舞…』!」


光り輝く冥王乱舞を全身に漲らせる、同時にマラコーダが口に溜めた炎を解放し……。


「『瞋羅三毒の焔魔槍』ッッ!!」


文字通りそれは槍だ、一直線に飛び相手を穿つ槍の如く真っ直ぐ飛翔する光の柱。全てを溶かし尽くす怒りの炎、それがマラコーダの口から放たれエリスに向かう……。


向かう……筈だったろう、それが正しく放たれていたならば……。


「なァッ!?!?」


「へっ…蚊の一刺し、そんなに痛いか?マラコーダ…!」


マラコーダの口から炎が放たれることはなかった、喉元まで迫った炎がまるで何かに吸い取られるように消えていく…ステュクスだ。


ステュクスは背後からマラコーダに刺突を放った、剣を突き立てマラコーダの首に突き刺した、だがステュクスの一撃はマラコーダに傷一つつけることは出来ず剣はマラコーダの硬い皮膚に阻まれた…が、それでよかったのだ。


星魔剣は魔力を吸う、それをマラコーダの皮膚越しに喉元に集まったそれを吸い上げていたんだ。マラコーダの攻撃は全て魔力だ…怒りを魔力に変え放つが故にステュクスの魔力吸収が効くんだ!


ステュクスによって攻撃の為の魔力を全て吸い上げられ渾身の一撃が不発に終わったマラコーダは怒りの形相で振り向き……。


「貴様ッ……!」


「バーカ、言ったろ…姉貴ばっかり見てていいのかよってな!」


「消えろゴミクズがッ!!」


最早エリスの事など眼中にないとばかりに拳を振り上げるマラコーダ、しかしステュクスは防御の姿勢すら見せず…エリスに目を向け。


「使えッッ!!姉貴ッッ!!」


「ッ…これは」


投げ飛ばした、星魔剣を。マラコーダの怒りの魔力がギッシリ詰まって赤熱した炎の剣を…エリスに。それを受け止め…エリスは生唾を飲む。


「姉貴なら!使えるはずだッ!マラコーダの怒りも!姉貴なら!」


「ッ…任せなさい!」


そのまま一気にマラコーダの怒りを引き出しエリスの体に乗算する。今…怒りと勇気が混ざり合い、新たな感情へと変貌する。


それは…『義憤』。誰かの為の怒り、何かを守る為の怒り、それを勇気で制御し…今、エリスは───。


「ッ…しまっッ!?」


即座にマラコーダは気がつく、ステュクスに拳を振り上げた瞬間エリスの魔力が爆発的に強化されたことに気がつき咄嗟に拳を振り下ろさず振り向くが…もう遅い。


光と炎を纏い、世界を砕くほどの速度で飛翔したエリスは…剣を片手に、一気にマラコーダに肉薄し───。


「光輝冥王乱舞改め…『炎輝冥王乱舞』ッ!!」


「こ、このッッ!!」


「─────『炎怒無量誓願断』ッ!」


拳を振り抜き抵抗するマラコーダの一撃を掻い潜り、炎雷の剣を叩き込み…鉄壁の肉体を破壊し、破砕し、破断し、……真っ二つに切り裂きながらエリスはステュクスを抱き止め飛び上がる。


「終わりですマラコーダ、無意な怒りは…忘却により消え去る。終わらぬ怒りなど…この世にはない」


「ッッグガッ!がぁあああああ!!おのれ!おのれおのれおのれッ!この私が…グゥッ!!憤懣ッ!やる方─────ッ!」


エリスに切り裂かれたマラコーダは、その内側から激る炎に自ら焼かれ…巨大なきのこ雲を作り出し大爆裂によってその身を消滅させる。圧倒的な爆発にマグマに包まれた街は跡形もなく消え去り…瓦礫が全て吹き飛んでいく。


そんな爆風の中…エリスはステュクスを支えながら立ち、彼の手をギュッと掴む。


「……ステュクス」


「ご、ごめんよ姉貴…無茶してさ…でも」


彼は申し訳なさそうだ。けれど…そんなことはいいんだ、今エリスが言いたいのは…ああそうだ、今なら言える。


「無事で…良かった」


「ッ…姉貴」


「貴方が、死んでしまうと…そう考えたら、無性に苛立った…その理由が今なら分かる。エリスは貴方に死んでほしくないんです…それはきっと、ただ一人の肉親だから」


彼に対して怒りを抱いたのは彼が大切だから、彼の無茶に激怒したのは…彼が大切だから、エリスはもうとっくに彼を家族として認めていたんだ。


「姉貴……ごめん」


「いいえ、いいんです…ステュクス」


マラコーダに勝てたことよりも、今はただ…彼が無事であることが嬉しかった。家族を守れた…ってのは、なんで嬉しいんだ。


家族、家族か…家族って、なんかいいな。


「……ふふふ」


思わず笑みが溢れる、エリスは今…家族を得たのだ、本当の意味で。彼のお陰でエリスはようやく家族と再会出来たんだ。


これが本当に…嬉しかった。



………………………………………………


「怪我はありませんか?火傷は?痛いところはありませんか?ステュクス」


「う…うん、大丈夫」


「無茶してません?我慢しなくていいですよ?」


「大丈夫だって」


マラコーダを倒せた、姉貴が怒りと向き合い勇気を出してくれたお陰であの怪物を倒せたんだ、流石姉貴…無限に強くなるマラコーダを上回る程の勇気を出せるなんて、俺じゃ到底無理だったよ。


と、姉貴の凄さを再認識する暇もなく…俺は今姉貴に座らされ体中のあちこちを触られていた。俺を許し、俺を家族として認めてくれた姉貴は今まで見せていた俺への嫌悪感というものがまるっきり消えたのか…すげー優しい。


「貴方はここに座っててください?ここまで頑張って走ってきたんでしょう?疲れてるはずです、そうだ今から寝たほうがいいです。何かあったらエリスが起こしますから」


「いや…今夢の中だし…」


怒りを乗り越えた事で、姉貴の中で俺は『憎い敵』から『唯一の家族』へと変わったらしい。凄い変貌ぶりだと思うと共に…多分これが姉貴がラグナさん達に好かれる理由でもあるんだなと思う。


敵には徹底的に苛烈で、味方には本当に優しい。姉貴の友達が口を揃えて『エリスは優しい』と言う理由がよく分かるよ…、


「はぁ…貴方のおかげでなんとかなりました、頑張りましたねステュクス。よしよし」


「や、やめてよ…恥ずかしいって」


姉貴は俺の隣に座り、俺の腕に抱きつきながらヨシヨシと頭を撫でる。これが姉貴の『本来の姉としての姿』なのか…想像してたよりめちゃくちゃ甘々だな…。なんか調子が狂うぞ…。


でも……。


「……無事で良かった」


「…………」


姉貴のこの顔を見てたら…思い出す。そうだ…あれは俺がまだちっちゃいガキの頃…母さんが生きていた頃の事だ。


俺が…森の中で獣に襲われかけた時。必死に母さんが助けてくれたんだ、必死に俺を庇って走ってくれて…それで獣を振り切って、村まで戻るなり俺の心配をしてさ。


で…俺が無事だって知るや否や。


『無事でよかった…!』


そう言って涙を浮かべる瞳を親指で拭う、あの顔と…姉貴の顔が重なる。姉貴は嫌がるかもしれないけどさ、やっぱり姉貴と母さんはそっくりだ…そんな姉貴とこうして仲直り出来て、なんだかホッとする。


ああ、俺はやっぱりこの世に一人じゃないんだなって思えるんだ。親父が死んで、母さんも死んで、でも俺にはまだ姉貴が居て…まだ俺には家族がいる。この暖かな実感に身を委ね体を休める。


あとは、ナリアさんがルビカンテを倒せば…全部終わる。頼みましたよ、ナリアさんが…この夢、晴らしてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます!首が長くなりすぎてキリンになってしまってましたよ!笑 ステュクスに甘々なエリス、可愛いです… 仲直りしてくれて本当に良かったです。 そして相変わらずエリスの戦闘は苛烈で激…
長い姉弟喧嘩にケリがついた先には狂犬から甘々なお姉ちゃんが… 姉貴と呼ばれているのに自らをお姉ちゃんと呼ぶのは相当な身内判定の更に内側に来てそうですね、子供に向ける情並みに それと星魔剣ちゃんはエリ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ