667.魔女の弟子と喜怒哀楽の四悪魔
「っまた空中!」
「ここは……」
第二円アンテノーラをストゥルティさん達の助力にて乗り越え、みんなを残して先に進んだ僕とステュクスさん。あれだけいたカタストロフのメンバーは遂に二人だけになってしまった。
みんなの助けで僕は遂に第三円破滅のトロメーアへと到着した…。アンテノーラに乗り込んだ時のように空中に投げ出された僕達が見たのは。
「底がねぇーっ!?」
「これ、何処まで落ちるんですか!?」
それは地上の見えない大空の只中であった。永遠に落ち続ける…そんな予想すら沸いてくるほどに下には何もない。このまま行って大丈夫なのか!?
「くそっ!魔力で空飛ぶか…!?いや地上がなけりゃ結局同じ、いつかは魔力切れで落ちる!」
「こんな時にエリスさんがいたら……」
この第三円にはエリスさん達がいると言う話だった、ルビカンテの思念を感じ取ったハルさんがそう言っていた、事実ルビカンテはこのさらに奥…第四円ジュデッカで待つと言っていた。
つまりエリスさん達がいるとするなら第四円か第三円のどちらかしかないんだ。ならここにいる可能性だって高いはず……。
けど、エリスさん達を探そうにもそもそも地上がないんじゃやりようが……。
『ナリアくーーんっ!』
「ん!?え!?今の声って!」
「デティさんの声!?」
ふと僕とステュクスさんで周りを見る、何処からかデティさんの声が聞こえた…けど彼女は今意識を失ってる上に絵にされてる筈じゃ…。
『ナリア君!ここ!ここーっ!』
「あ!あそこ!」
ステュクスさんが指差す先には…いくつかの額縁が僕達と同じように落ちているのを見つける。そこには虚な目で鎖に縛られる絵にされたメルクリウスさんやメグさん、ラグナさんにアマルトさん、ネレイドさんに……ただ一人、鎖に縛られながらもバタバタともがくデティさんの姿があった。
「デティさん!」
『何これー!気がついたらこんな状況なんだけどー!?バシレウスから逃げられたんじゃないのー!?捕まったの私ー!?』
「デティさん実は!」
「ちょっ!ナリアさん!下下!!」
「へ?」
ステュクスさんに言われるがままに僕は下を見る…すると先程まで見えなかった筈の地面がパッと雲が晴れるように現れるのだ…ってまずい!落ちる!
「ナリアさん俺に捕まって!」
「は、はい……いやだめです!先に絵にされたみんなを助けないと!」
「っそうだ!絵になってるってことはこのまま落ちたら!」
「バラバラです!死ぬかは分かりませんが二度と出られないことは確かです!」
「クソッ!!進路変更!先にみんなを助ける!」
悪辣だ、この悪辣な状況はきっとルビカンテの演出だ。僕達がみんなを見つけるのと同時に地面を出現させたんだ…見たところそんなに余裕はない。早くみんなを助けないと。
剣から魔力を噴射させるステュクスさんに捕まって絵にされたみんなのところに向かい、僕はメルクさんの絵にガッツリ掴まる…そして、そして……。
「こ、これってどうやったら戻せるんですか!?」
「しらねぇー!」
いざ額縁に掴まったはいいものの…ここからどうすりゃいいんだ?どうすればみんなは元に戻るんだ!?全然分からない!
「デティさんなんか分かりませんか!」
『ダメ!呪術じゃないから私の治癒や魔力干渉じゃ外に出られない!』
「そんな……いや待て、外に出られない?」
外に出る?つまりみんなをこの絵画の外に出せばいいってことか!?それなら!
「メグさんです!メグさんを起こせばいいんです!」
「そうか!あの人なら絵画の中を行き来出来る!メグさんの絵画は…あそこか!」
メグさんならこの状況をなんとか出来る、だが未だメグさんは虚な目で絵に囚われたまま…デティさんが意識を取り戻したならメグさんだって絵の中で動くことができる筈!
ステュクスさんは僕のアイデアに乗ってぐるりと身を翻してメグさんの元へ向かった…その時だった。
「おっと、ここから先には行かせないよぉ?」
「っげげ!?」
ぬるりと虚空に絵の具が現れたかと思えば、赤い絵の具はその場で渦巻き中から手足が現れ…空間を引き裂いて現れたんだ、ルビカンテが。メグさんの元へ向かうステュクスさんの行手を阻みニタリと笑みを見せていた。
「そこを退けやっ!今テメェの相手してる暇はねぇんだよ!」
「そんな事を言わないでくれ、人生とは瞬きであり極論で言うなれば誰もが暇など持っていない。それでも戯れに時間を使うのはそもそも人生とは長大な暇つぶしに他ならないから、逆説的に人は暇つぶしの為に生きる生き物なんだ」
「喧しいわ!どっか行け!」
星魔剣を抜き放ちルビカンテに斬りかかるステュクスさんだったが…。
「なら、私の暇くらい潰させてくれ…ステュクス君」
「なっ!?」
ガギリと音を立ててステュクスさんの剣が受け止められる。ルビカンテの周囲を漂う真紅の防壁によって弾かれ…攻撃が無効化されたのだ。あのステュクスさんの一撃が難なく防がれた…!
「そら、お返しだよ」
「ぐぅっ!?」
そして続け様に放たれたルビカンテの拳がステュクスさんを弾き飛ばし大きく下へと突き落とす。まずい…この状況でルビカンテの到来!?こいつ第四円で待つって言ってたのに!
この…このッッ!!
「ルビカンテーーッッ!!」
「来るよな、君ならッ!!」
足先から風を放ち、空を駆け抜けてルビカンテに突っ込む。当然そんな攻撃なんか防壁に防がれる…けれど僕もまた防壁を作り出し、僕の青い防壁とルビカンテの真紅の防壁が激突し火花を散らし…より推進力の強い僕がルビカンテを押しやる。
「僕がルビカンテを押し留めます!ステュクスさん!今のうちにメグさんを起こしてください!」
「え!?クソッ!責任重大だなぁ!!」
ステュクスさんにメグさんを任せる、その間僕は…。
「私と、一対一で…かな」
「最初からそのつもりで僕はここまで来たんだ!勝負だルビカンテッ!アルタミラさんを返してもらう!」
「んふふふくくくくあははははははははは!君は私を飢えさせるッ!何処までも!……だが違う、私は決着は第四円でつけると言ったね…ここはまだ第三円、終幕の舞台はここじゃあない!」
「うるさい!なんでお前の言い分に従わなきゃいけないんだ!」
「ふふはは!」
突っ込む僕の体当たりをルビカンテはスルリと避けてまるで空に座るように彼女は腰を下ろし落下しながらも優雅に足を組む。
「聞いてくれサトゥルナリア、私は君を評価している…だから君にだけチャンスを与えた」
「評価…?」
「ああ、本来無敵であるはずの感情の悪魔、そして死は定めとなって降り注ぐこの夢世界の艱難さえお前は跳ね除けた、実力ではなく…お前自身が持ち得る技量と心でだ」
「違う!みんなが助けてくれたからだ!」
「それが技量だと言うんだ、お前には感情を動かす力がある…人の胸や心に訴えかける技がある!それはある種…私にとって最大の天敵とも呼べるほどに、凄まじい技能だ」
役者として、人の感情を研究し尽くした。こう言う時人は何を思い、何を思えばどんな顔をして、何がきっかけで人は感情の色を変えるのか…それを極めた結果偶然ルビカンテに突き刺さる技能となっただけ、僕は本来この技を誰かを傷つける為になんか使いたくない。
でも、仲間を守る為なら仕方ないと…そう覚悟してここまで来たんだ。
「お前は初めて私の宿敵となり得る、そう評価した…だから私は君に勝負を持ちかけ、チャンスを与え、君は見事チャンスをモノにした…第四円はもう直ぐだ、あと少しで私の玉座に辿り着けるぞサトゥルナリア」
「……ルビカンテ、お前は…欲しているのか、僕を」
「フフフ……」
渇望の悪魔ルビカンテ・スカーレット…その本質はあらゆる物を貪欲に欲する欲深さにある。彼女の欲の深さは常軌を逸する…文字通り狂気の根幹たり得るほどに。
そんな貪欲の悪魔は…僕さえも欲するか。
「私が欲しているのはより強い狂気、言ったろ?その為には君が必要なんだ…私はもっと狂いたい、狂っていたい、私の手を引いて導いてくれよサトゥルナリア」
「断る、僕はアルタミラさんを助け出す…お前をこれ以上、狂わせない」
「ククク……」
僕の言葉にルビカンテは心底嬉しそうに口元を歪ませる。けど笑ってられるのも今のうちだ、これは僕からお前に叩きつける宣戦布告…今度こそお前と言う狂気を完全に消し去ってやる、そう言う宣言なんだから。
「ああいいよ、なら早く第四円に来てくれ!…ただその前に、君にはもう一つ試練を与えよう」
「試練……」
そう呟いた瞬間、僕の背後で巨大な光が瞬き、轟音が鳴り響く…それに釣られて僕はルビカンテから目を離して後ろを見ると……。
「ナリアさんッ!やりましたよッ!」
「も、申し訳…ありません、私としたことが…長く眠りすぎたようで…」
そこにはバラバラになり消える額縁と…ステュクスさんに抱えられる魔女の弟子のみんなが居た。見ればメグさんはうっすらと目を開けながら気怠そうにしながらも魔力覚醒を維持している。
やったんだ…みんなを解放してくれたんだ!!
「形成逆転だルビカン……え!?」
魔女の弟子のみんなが復活した、ならここからはこっちの番だと再びルビカンテの方を見ると…既にそこにはルビカンテはいなかった。消えた?消えたのか?でも試練がなんだとか言ってたけど……。
「みんなー!目を覚ませーーーッ!その者に癒しを彼等に安らぎを!我が愛する全てに穏やかなる光の加護を!!『遍照快癒之燐光』ッッ!!」
そして気絶したみんなを回復させるデティさんの光が視界を包み込み……僕達は第三円トロメーアの地に落ちるのであった。
…………………………………………………………
第三円トロメーア…それは名も知らぬ平原であった。緑が波打ち木々が揺れる安然とした平原…何処かマレウスの西部を思わせるそんな落ち着いた平原に陽光が差し込み、ともすればここは現実世界であるかのように錯覚してしまうようなリアリティのある空間がそこには広がっていた。
その真ん中にて…僕は。
「うー…頭痛え…つーかこれどう言う状況だ?俺さっきまで戦ってたよな」
「王城の地下で戦っていたと思ったら、気がついたら訳のわからん平原とは…」
「びっくり……」
「ここはもしかして天国でございましょうか」
平原に座り込み頭を抱えるアマルトさん、周囲を見回し首を傾げるメルクさんにぼーっとしてるネレイドさん、そして夢見心地のメグさん。
今僕の目の前には仲間達が居る。ルビカンテに絵に変えられ連れ攫われた魔女の弟子達が居るんだ…ようやくみんなと再会できた、その安堵からホッと胸を撫で下ろし…。
「はぁ〜〜!よかった〜〜!またみんなに会えてよかったよ〜〜!」
「なんか苦労かけちゃったみたいねナリア君」
「本当に苦労したんですよ〜〜!」
ここまで長かった、冒険者のみんなと第一円を突破し第二円ではストゥルティさんやネコロアさんとロムルスと戦い、そして今もみんなは上層で戦い続けている。特にロムルスやチリアットは悪魔だ…そう簡単には倒せない。きっとまだ戦いは続いてるはずだ…。
まだ僕の戦いは終わってない…泣いてる暇はないんだろう。
「ナリア、これ…何があったんだ?俺みんなを病室で看病してたはずだが…」
「はい、実は……」
そうして僕はラグナさんに求められ、今までの話をするんだ。どうやらみんな絵になってきた時の記憶はないようで、本当に目が覚めたらこの状況だったらしいんだ。まぁ実際いきなりだったしなぁ…。
故にあれやこれやと説明すると…。
「ルビカンテが攻めてきた!?」
「ここが夢の中!?しかも三層目!?」
「私達絵にされていたのでございますか!?」
「しかもルビカンテがすぐそこに…」
「ナリア君一人で戦ってたの!?」
「すげぇな…参ったぜこれ、助けられたよナリア…」
皆口々に驚きの言葉を口にしつつ、僕に対して言うんだ…『ありがとう』って。それがたまらなく嬉しくてまた涙が出てしまう。けど…まだ止まるわけには行かない。
「まだ止まるわけには行かないんです!ルビカンテをこのままにしたらみんな死んでしまう!サイディリアルの人達も…何より現実世界の皆さんも!」
「そうか、現実世界の俺らは未だに重傷なのか…ってことはあれ?これ幽体離脱?」
「よくこの状況でちょけようと思えたなお前…だがナリア君の奮戦に助けられた、ここからは我等も同行しよう、共にルビカンテを倒すぞ」
「ありがとうございます!みなさん!ステュクスさんやりましたね!これで戦力はバッチリです!」
みんなが加わってくれたら百人力だ、ここからは二人きりじゃないよ!とステュクスさんに言うと…彼は目を丸くしながら周りを見回しており…。
「あのさ、なんか俺の気のせいかもしれないから言うんですけど…」
「?、どうしました?」
「姉貴いなくないですか?」
「へ?」
ふと、周りを見る。ここに居るのは…ラグナさん、アマルトさん、デティさん、メルクさん、メグさん、ネレイドさん…確かに……。
「あエリスさんが居ないーーーーッッ!?!?」
「気がついてなかったんですか!?姉貴どこ行ったんですか!?姉貴も連れてかれたんですよね!?」
「まぁでもいつものことかも…」
「いつものこと!?」
ふと考えてみたらこれなんかいつもの事のような気がしてきたぞ…。
「ですよね、アマルトさん」
「まぁ〜〜アイツこう言う決戦の前はなーんか急に姿を消すんだよな…」
「ハーシェルの時も一人だけ館の外に叩き出され、アルカンシエルの時も一人で消えて」
「そして全ての戦いで少し遅れて、ここぞって時に現れるんですよね」
「エリスちゃんはあれだよ、またなんかしらのトラブルに巻き込まれてるんじゃないかな…」
「トラブルって、姉貴大丈夫なのかな…」
「多分大丈夫、と思うしかないな」
ステュクスさんには悪いがあの場にいなかった以上エリスさんをここで探すのは得策じゃないと思われる。ルビカンテがエリスさん一人だけをどこか別の場所に隠したとは思えない…どう言う原理かは分からないがエリスさんはこの夢世界から消えた。今はそう理解するしかない。
「それよりルビカンテだ、野郎…敵対しないとか言いながら思いっきり仕掛けてきやがって、しかもこのタイミングで…許せねぇ」
「ああ、バシレウスを相手には不甲斐ないところを見せたが…今度こそ役目を果たそう」
「ルビカンテを倒さない限り夢の世界から出られないのなら、やるしかありませんね」
「何より…ここに来るまでにナリア君を助けてくれたみんなに、また会ってお礼が言いたい…」
「だね!よーし!んじゃあやったるぞー!」
「姉貴がいないのが気になるけど…でもここまで急いで来たんです、こんなところでモタモタ出来ませんね」
みんなやる気だ、よし!なら動くか!まずは第三円の出口を探して第四円に…ルビカンテがいる第四円ジュデッカに向かわなければ!
『仲間との合流は終わったかな?』
「ッ…ルビカンテ!?」
しかし、その瞬間響き渡るのは…ルビカンテの声。また現れたかと僕達が構えをとった瞬間、大地が揺れ…地震と共に牧歌的な平原が割れ始め、空が曇り、世界が暗く閉ざされ再び破滅的な風景が広がり始める。
「な、なんだこれ!?」
「世界の終わりか…!?いやこれは夢の世界だったな」
大地が揺れ…僕達の前の地面が競り上がり巨大な塔のように屹立したかと思えば。現れる、その頂点に…この世界の主人であるルビカンテが。
「おめでとうサトゥルナリア!仲間達を無事解放したようだね!」
「ルビカンテ!」
「マジでルビカンテが仕掛けてきてるんだな…」
僕と共に並び立つ仲間達は…共に反り立つ大地の上にて両手を広げ僕達を見下ろすルビカンテに視線を向ける。そんな僕達を見てルビカンテは愉快そうに笑い続ける。
「正直魔女の弟子を全員殺してもよかったんだが、それじゃあんまりにもつまらないだろう?それに夢世界踏破のご褒美があった方が…サトゥルナリアのモチベーション向上にも繋がっただろうし…生かしておいてよかったよ」
「おいルビカンテ、テメェ…どう言うつもりだ」
「どう言うつもりも何も…、私はただ喜劇を演じたいだけさ……」
するとルビカンテはポケットに手を入れ…塔の上をくるくると歩き始め。
「喜劇も悲劇も、頂きに上り落ちるからこそ楽しく悲しい。そう言う物だろうサトゥルナリア…だから私は敢えて君に絶頂を用意した、落とす為にね」
「…………お前に演劇のことを語られたくない」
「ハッ!怒るところがそこかい、君はつくづく…私と同じタイプの人間だ。嬉しいね…だからこそ期待するよ、この第三円…突破することを」
するとルビカンテは足を止め、パチリと指を鳴らす…すると彼女の影がブクブクと泡立ち、絵の具が溢れ出す。
「第一円にて君は色鬼の大群という番人を攻略した、第二円にて君はチリアットとロムルスという番人を攻略した、ならこの第三円に於いても…番人を攻略してもらおう。とくれば誰を用意するかなんてのは…決まってるよね」
泡だった絵の具は人の形を取り始め色が変わる、生まれた影は四つ…それぞれ黒、青、緑、黄色……この色合いには覚えがある。第一円で僕達の邪魔をしてきた…アイツらだ。
「マラコーダ…!」
「ぬぐぅううう!呼び出しか…不満で憤懣やる方なし」
「ああ悲しい、全てが悲しい…」
「あははははは!なんか楽しそうな場面じゃんか〜!」
「嬉しいなぁ!呼んでもらえるなんてね!」
怒りの悪魔マラコーダ・ネーロ、悲しみの悪魔スカルミリオーネ・アルバストゥル、喜びの悪魔ファルファレルロ・アマリージョ、楽しさの悪魔アリキーノ・キジャニビチ。
第一円で僕の前に立ち塞がった喜怒哀楽の悪魔達。マーレボルジュ最強の四大感情と言ったところか。
「げっ、同じ顔が五つも並んでる…気持ち悪いぃ〜…」
「お前達は…第一円に居たはずじゃ」
「ああ、冒険者達にまんまと足止めを食らっていたんでね。私が呼び寄せた…ここは私の世界だから、そのくらいはわけないのさ。さてここまで用意すれば分かるだろう…ここの番人は喜怒哀楽達だ、彼女達は他の人格や色鬼とは比較にならない強さ…というのは分かるだろう」
戦ったからこそ分かる、マラコーダ達は強い…ロムルスなんかより余程強かった。あれでまだ必死でやっている感じがなかったからきっとあれ以上があると思っていい。
八大同盟幹部どころか、イシュキミリさんやオウマと同程度の威圧さえ感じた…文字通り、マーレボルジュという組織は全てがルビカンテであり、幹部全員が盟主ルビカンテと同じスペックを持っているんだ。
「ここはマラコーダ達に任せる…私は第四円にて待つ、アルタミラを助けたいのならそこに来い。来れるのならね」
そう言ってルビカンテは虚空を削り…穴を作る、壁紙を引っ張って引きちぎったようなその穴の色は…黒だ。
青い穴や白い穴とは違う…漆黒の穴、奈落へ落ちるような不気味な穴がそこに残されルビカンテはマラコーダ達を倒して先に進めと…そう言うんだ、だが。
「………フッ」
「……………」
ルビカンテはこちらを見て笑う、まるで『追ってこい』とばかりに。つまり…所望は僕か。
「ナリア…」
すると、ラグナさんはマラコーダ達から目を逸らさず。僕の名前を呼び。
「お前は優しいやつだ、きっとこんな状況になってもアルタミラを助けたいって…心の底から思ってるんだろ?」
「……はい」
「その為に、お前は意地と命張ってここまできた。ここまで来たならその意地は最後まで貫け…、きっとお前ならやれる…だから」
そして拳を叩き合わせ、ラグナさんは裂帛の勢いで吠えて魔力を高める──。
「行けッ!ナリア!後詰は俺たちがやるッ!きっとお前はそうやって多くの人達の声を背負って来たんだろう!なら行けッ!ルビカンテを追うんだ!」
「はいッ!」
走り出す、仲間達の声援も受けて…仲間達にも助けられつつ…仲間達にも背中を押されて、僕は走り出し黒い穴を目指す。だが当然それをさせまいと喜怒哀楽達も動く。
「ぐぬうぅぅうう!私を前座扱いかッ!!許せん許せん許すまじ!後悔させてくれるわァッ!!!」
その瞬間マラコーダは地面に蹴りを加える。所謂超強烈な地団駄だ…それはそのままこの世界の大地全てに伝播し…世界が、第三円が崩れていく。
「うわわ!」
当然大地が崩れれば僕もバランスを崩す、まずい…そこが抜けた!下に落ちる!第四円じゃない…第三円の地下に落ちる!ダメだ上に行かないと───。
「ナリアァーッ!!」
しかし、僕がバランスを崩すのと同時に僕の体は襟を掴まれ…浮かび上がる。
「アマルトさん!?」
「俺ぁ信じてるぜッ!お前は俺達の中で一番の頑固者だ!そんなお前が勝つと啖呵切ったなら!俺は信じる!お前の勝利を!だから行けッッ!!」
アマルトさんだ、彼が僕の襟を掴み上げ自分が落ちるのも構わずに上に投げ飛ばしたんだ、屹立する岩の塔の上に向けて、投げ飛ばしてくれたんだ。
それだけじゃない、まだ動く…ネレイドさんが。彼女はそのまま飛び上がり大きな体を使ってその広い手を僕の足場にしてくれて…。
「祈りとは!人々の希望だ!神とは人々の希望たり得るから神なんだ!ナリア君…君は今みんなの神となった!だから進んで…ここは私達がなんとかする!」
「ッはいッッ!!」
そのままネレイドさんの手を足場に僕は飛び上がり、塔の上に位置する穴を目指し更に飛ぶ。がしかしそこで更に敵の迎撃が飛ぶ。
「あはは!ここで撃ち落としたら楽しいだろうなぁ〜!『玩具の行進』!!」
アリキーノだ、奴は背後に大量の玩具の兵隊を生み出し、空を駆け抜ける僕に向けその大砲の如き軍銃を連射させ…鉛玉の雨を僕に向け降り注がせ。
「はい『時界門』」
「あぇえ!?」
しかし僕を守るように空間に穴が開き、鉛玉が穴の中に吸い込まれる…と同時に玩具の兵隊達の目の前に出口が開き吸い込まれた弾丸が逆に兵隊達を撃ち抜き破壊する。
メグさんだ…下に目を向ければメグさんは親指を立てながら砕かれて開いた穴の中に落ちていき。
「アイルビーバック、必ずや戻ります、なのでナリア様。勝利を」
「はい、メグさん…任せてください!」
道は開かれた…ならこのまま駆け抜けて!
「使え!ナリア君!」
「っこれは!」
次々と岩の塔が変形し岩の足場が突き出す、これは錬金術…メルクさんか!
「君の道は我々が作る!さぁ行け!勝て!」
「ッッ!!」
駆け抜ける、岩の足場を使って駆け抜ける…みんなが僕の背中を押してくれた、ラグナさんの声援、アマルトさんの期待、ネレイドさんの祈り、メグさんの献身、メルクさんの信頼。全てが僕を突き動かす、みんなに助けられて…僕は進んで行けているんだ。
たとえ弱くたって…仲間がいれば!
「テメェらもこっち来いやッッ!!」
「ぐぬぅ!?足場が!」
「ナリアの邪魔はさせねぇぇッッ!!」
ラグナさんは残された足場で跳躍し屹立する岩の塔に蹴りを加え喜怒哀楽達が立つ足場を粉々に砕き、悪魔達に邪魔をさせないよう奴らのことも穴の中へ落とすつもりだ。
事実それにより足を滑らせたスカルミリオーネ、アリキーノ、ファルファレルロは次々とみんなと同じ穴の中に吸い込まれていく…だが。
一人だけ…僕に向けて飛んでくる奴がいる。
「ぬぐぅううううがぁああああああ!不満だ不満だ不満だ!貴様も地に堕ちろサトゥルナリアぁあああああ!!」
「マラコーダ!最後の最後で!」
みんな落ちた、悪魔も魔女の弟子達も…何のマラコーダだけが空に浮かぶ瓦礫を足場に飛んできた。こいつの相手だけでも…僕がするか!?いや。
いや!信じろ!仲間を!僕は進むことだけを考えろッ!!
「ッうぉおおおおおおおおおお!!!」
「私を無視するなぁあああああ!!」
魔力を爆発させて空を飛び穴に向けて飛翔する…その前に立ち塞がるように両手を広げるマラコーダ。だが…そうだ、仲間を信じたんだ…彼らはきっと応えてくれる。
そう…彼が!
「マラコーダぁあああ!テメェの相手はッッ!!」
そう、彼女のように…如何なる窮地であっても仲間のために駆けつけて、どんな時でも諦めない…あの男が!僕達にはいる!
「俺だよッッ!!」
「ぐっ!貴様ぁ……!」
ステュクスさんだ、剣から魔力を放ち空を飛びマラコーダに突っ込み、奴を抱えたまま軌道を逸らしたんだ、彼なら…来てくれると思っていたよ!
「みんなカッコつけてさ!ここは任せろって言って俺を先に行かせたんだ!なら俺だって言いてぇよ!!」
そして、ステュクスさんは僕に向け…親指を立てる。
「ここは任せろ!俺がやる!ってな!」
「ありがとうございます!ステュクスさんッッ!!」
「ぐがぁああああ!邪魔をするなぁああああ!」
「するに決まってんだろ!俺もお前も前座だよ!仲良く地獄で踊ろうぜ!マラコーダ!」
ステュクスさんと共に落ちていくマラコーダ…そして道は開かれた。
ヴァラヌスさん達が守り、ネコロアさんが繋ぎ、ストゥルティさんが託し、仲間達が信じ、ステュクスさんが開いた道…数多くの助けが導いて、数多の人達の期待を背負い僕はただ一人…舞台へ挑む。
「待ってろ…ルビカンテッッ!!」
全ての決着をつける大詰め…第四円…狂気のジュデッカに通じる黒い穴へと。僕は飛び込むのだった。
…………………………………………………………
勝負ってのは、実力とか技量以上に心が物を言う時がある。天を衝くような巨人さえも勝利に飢える小人に敗れることもあるだろう。
言ってみれば戦いへのモチベーションってやつだ、俺達他の魔女の弟子達は今の今まで眠っていた、状況だって半端にしか理解してない…だがナリアは違う。ナリアはここに至るまで多くの物を背負って戦い進んできた。
そんなナリアだからこそ…俺達の中で最も勝率が高いと俺は読んだ。だから前座の露払いは俺達がするべきなんだ。…だから。
「ナリアの邪魔はさせねぇよ!こんな悪夢!とっとと払ってみんなの傷を治すんだ!」
そう叫びながらラグナはクルリと受け身を取りながら大地に足をつく。例の平原が割れて落ちた先は地下ではなく…また別の空間だった。不思議な事極まりないがここがルビカンテをの魔力覚醒によって形成された夢の世界だと言うのなら納得もいく。
俺が降り立ったのは…美術館だ、豪華絢爛な飾りが施された黄金の壁、目に刺さるような真っ赤なレッドカーペット、壁にはアルタミラさんの作品と思われる絵画が並べられている。
空を見上げれば天井がない、かと言って空が見えるわけでもない、ただただ黒い闇が続いているんだ…さて、ここは一体。
「なんでございましょうね」
「どぅぁっ!?メグ!?」
「ピース、美術館デートでございますねラグナ様」
ふと隣を見るといつのまにかメグもいた…ってことは俺はメグと一緒に落ちたのか?そんな感じはしなかったが…不思議なこともあるもんだ。
「けどメグが一緒ならやりやすいや、みんなと時界門で合流できるか?」
「それならもう試しました…が、見つかりません」
「見つからない?」
「はい、セントエルモの楔の反応がありません…」
メグは時界門をセントエルモの楔と言うアイテムで相手の場所を認識して転移を行う、それがないと時界門をどこに作っていいか分からないんだ。が…それが見つからないか。
「他のみんなもこんな風によく分からない空間に叩き込まれてるんだろう。そしてその空間は一つの世界として確立している…ここからじゃ他のみんながいる空間を認識することもできないんだろうな」
「なるほど、我々が魚だとして別の水槽に移されたような形でございますね」
「よく分からん例えだが多分そうだ」
つまり俺達はこの美術館をウロウロ歩き回っても他のみんなとは合流出来ないだろう。他のみんなもこの美術館みたいな別の夢に送り込まれていると見ていい…じゃあ俺達はここで何をするべきか。
決まってる…だって相手なら、そこにいるからな。
「じゃあする事もないし、テメェぶちのめす方向でいいよな…黄色いアルタミラ、いやルビカンテか?」
「……んふふふ、嬉しいなぁ…私をすぐに見つけてくれるなんてさ」
ぬるりと影から現れたのは…金髪黄瞳のルビカンテ、そいつはニヤニヤ笑いながらルンルン気分でスキップしながら美術館の中を歩く。
「私の名前はファルファレルロ!ファルファレルロ・アマリージョ!喜びの悪魔…貴方達と一緒になれた事を嬉しく思うよ!」
「そうかい、俺は嬉しくないよ」
「喜びの悪魔でございますか、あんなウキウキウホウホなアルタミラ様はなんだか違和感が凄いですね」
ズンチャカズンチャカ手足を振ってその場で踊っているファルファレルロは踊りながらこちらを横目で見ると…。
「正直さ、今の状況は不服だけど結果だけ見れば私達にとって都合がいいとも言えるんだよね」
「何が」
「サトゥルナリアだけ先に進み、君達と四人の悪魔達がそれぞれ別れる形でバラけた事。他の悪魔がいるとやり辛いからねぇ〜…全力でやれるってもんよ」
「へっ、上等なこと言いやがる…言っとくがな、俺は何も時間稼ぎとかするつもりでナリアを先に行かせたわけじゃねぇぞ」
上着を脱いで腕捲りをし拳をぶつけ気持ちを昂らせる。俺はナリアを先に行かせたがそれで俺の仕事が終わったとは考えてない。俺はただ…。
「俺はただ、テメェら捻り潰してからナリアの後を追うってだけ…前座なのはテメェだけだよファルファレルロ」
「君面白いね…ならやろうか、軽く軽くぶっ殺すよ。君みたいなのが傷ついて悲鳴を上げる瞬間ってのはさぁ!さぞ私を笑わせてくれるんだろうねぇ!!」
両手を刃に変え迫るファルファレルロを前に拳を握る、よっし!気合いい入れるぜ!ここまでナリアに任せたんだ…敵方の一匹くらい持って行ってやるぜ!
…………………………………………………
「なーんか、陰気クセェ空間に落ちたな」
「みんなは無事かな」
一方、アマルトとネレイドが落ちたのは…なんと言うかとても陰気、全てが青に染まった石作りの街だ。見た感じはエトワールに似ているが…少なくとも俺が知っているエトワールよりは少し田舎くさいとアマルトは感じる。
他の悪魔達も落ちたのは知っている…ナリアだけが先に行ったのは分かってる、ってことはここらへんに悪魔が居るはずだ。あの悪魔が第三円だかなんだかの番人で…ナリアの道を塞ぐ者だと言うのなら、ここら辺で俺らが軽ーく捻り潰してやった方がいいだろうと考えているんだが。
「俺ら以外誰もいないな」
「ね」
ネレイドも立ち上がり周りを見回しているが悪魔どころが俺たち以外の人間も見当たらない。まぁ夢の中だから当然なんだけど……ん?
『グスン…グスン、悲しい…悲しい』
「前言撤回、なんか居るぜ…」
「泣いてる……あっちだよ」
突如として聞こえ始めた啜り泣く声、それに反応したネレイドは右側の路地を指差すが…え?俺は別の方から泣き声聞こえるけど…、
『悲しい…』
『寂しい…』
『悔しい…』
『恐ろしい…』
「ま、待て…なんかメチャクチャ多くないか!?」
「四方八方から鳴き声が聞こえる…」
一つ、また一つと啜り泣く声が増えていく。一体何事とネレイドと背中を預け合い周囲を見回すと…現れる。
「私は…」
右側の路地裏からぬるりと青いルビカンテが現れる。
「悲しみの悪魔…」
左の通路からも全く同じ奴が現れる。
「スカルミリオーネ…」
目の前の家屋の窓を開けて現れる。
「悲しみの悪魔…スカルミリオーネ・アルバストゥル」
そして後方からも…いやそれだけじゃない、屋根の上にもそこの物陰にもあそこの木影にも、見れば数えきれない程大量発生した青いルビカンテ…スカルミリオーネが泣きながら現れているんだ。
「なんじゃこりゃあ!?多すぎだろ!?」
「ッこいつ、気をつけてアマルト…!」
「悲しい…悲しい、私の相手が…たかだか人間二匹だけなんて…過小評価です」
増える、まだ増える。スカルミリオーネは増え続けいつのまにか山積みになり俺どころかネレイドさえも見下ろすほどの山が生まれ全ての目が俺達を見下ろし。
「押し潰しましょう、無限に増していく悲しみの波濤で…小賢しいゴミを」
「ちょっと多すぎ!もうちょっと減らして!」
「無駄だよアマルト、来るッ!」
「畜生二人だから数の暴力でいけると思ったのに!」
「洗い流せ…極滅の涙よ!」
そして迫り来る、スカルミリオーネの波を前にアマルトとネレイドは構えを取り───。
………………………………………
「う…んん…やば、気絶してたか……」
デティは目を擦って立ち上がる、地面が砕けて落ちた先…その風景を見てデティは首を傾げる。
「何これ、巨人の子供部屋?」
そこにあったのは超巨大な子供部屋だ、ファンシーでキュートな飾りや大量の巨大なおもちゃが転がった子供部屋で私は寝ていたようだ…なんだこれ。
(いや、恐らくここはアルタミラさんの精神世界…恐らくこれは幼少期の記憶、ではなく…憧憬?精神性の発露?恐らく私達がさっきまでいた平原とはまた別の空間だね…)
どうやら地面が砕けた結果別の夢への迷い込んでしまったようだ…何がどうなっているかは分からないが、ともかく今は仲間を探さないと。
『デティ?その声はデティか?』
「あ、メルクさーん!こっちだよ!」
ふと、近くにで横になる巨大なおもちゃ箱の中からメルクさんの声が聞こえる、中にメルクさんがいるようで中を探索していたようだ。
「すまん、君を探していたつもりだったんだが気が付かなかった」
「いやいいよ、それより誰かいた?」
そう箱の中にいるメルクさんに語りかけていると…メルクさんはゆっくりと箱の中から出てきて…。
「いや、誰もいなかっ………え?」
「は?」
箱の中から…メルクさんが出てくる、がしかし…固まる。再会した私たちはお互いの姿を見て呆然とする…いや、多分…『お互い』だよね、これ…メルクさんだよね?
「お前…デティか?」
「メルクさん…の……ぬいぐるみが喋ってる」
そこにいたのは、メルクさんの青髪、顔つき、体つき…全てをデフォルメしたぬいぐるみがポテポテと歩いていたんだ、メルクさんそっくりだこのぬいぐるみ…え?しかもメルクさんの声がする、っていうか!?
「あれぇっ!?私もぬいぐるみになってる!?」
「何!?ああ!本当だ!?なんだこの短い手足は!?私がぬいぐるみになっているだと!?なんだこれ!?」
ふと、近くに転がっていたガラス玉を覗くと…なんという事だ、私もぬいぐるみになっているではないか。私の可愛いお目目がボタンに!口も縫い込まれてる!ただでさえ小さかった体がこんな…手足も短くなって!
「ああー!通りで動きづらいと思った!」
「くっ!力も出ない!デティ!これはどういう事だ!?」
「私も聞きたいよー!」!
私とメルクさんのぬいぐるみはその場でぴょんぴょん跳ねるが、その都度体の中の綿が体を跳ねさせる。くそー!なんか凄い惨めだ!なんでこんなことになってるんだ!?こんな魔術聞いたことも……。
「それはねぇー…私の力でぬいぐるみに変えちゃったんだよ〜」
「っ!?何処だ!?」
「敵!?」
ふと、声が聞こえる。これは感情の悪魔の声!けど…私とメルクさんで周りを見るけど何もいない、というかこの体!首ないから周りを見るのも一苦労なんだけど!
「ここだよここここ〜!」
「…まさか」
声は…上から聞こえる、もしやと体を傾けて上を見ると…そこには。
「はぁーい!こんにちは可愛いお人形さん達〜!私はアリキーノ!楽しみの悪魔アリキーノ・キジャニビチ!よろしくね!」
「きょ…巨人!?」
そこにいたのは他のルビカンテに比べてやや幼い子供の…緑髪のルビカンテが立っていた、がそのサイズ!信じられないくらい巨大だ。私達が柱だと思ってたのはアリキーノの脚だったんだ!
「違う違う、私が大きくなったんじゃなくて貴方達が小さくなったの!」
「くっ…こんな状態で…!」
「私達を元に戻せー!」
「えー!やだー!せっかく可愛いんだもん、一生そのままでいいじゃん!」
「いいわけあるかーッ!!!」
「あはは!何それ地団駄?それともジャンプ?足短ーい!」
クソッ!このガキ!殺してやる!とは言うが…まずい、状況がヤバすぎる。これ…戦えるのか?この体。
「この!」
咄嗟にメルクさんは腰のホルスターから銃を抜き放ち、銃弾を放とうとするが……。
「め、メルクさん…その銃、撃てそう?」
「う……」
取り出されたのは鉄の銃ではなくフェルトをなんとなく銃型に切り取った物で、手に持てばフェルトの銃は情けなく横に曲がる。これ持ち物全部ぬいぐるみになってるのか…だとしたらまずい、魔術も撃てるかどうか…けど。
「けど、私達が喋れて動けてるってことは魂はあるって事だよね、なら魔力覚醒は行けるはず!!」
「おお?やってみる?」
「やってやる!魔力覚醒!『デティフローア=ガルドラボーク』ッッ!!」
全身に魔力を込めて高めて逆巻いて、魔力覚醒を行えばぬいぐるみの体は光り輝き…そして。
「はぁっ!」
ボフッ!と…煙が頭の先から出る…覚醒は、うん。
「無理だーっ!覚醒も出来ないーー!?」
「ど、どうするんだ!どう戦うんだ!」
「無理無理、ぬいぐるみは戦えないの!それより遊ぼうよ…まずはそうだなぁ」
するとアリキーノが指をくるくる回す、すると周囲に転がっていた人形やぬいぐるみが徐に起き上がり。
「『処刑ごっこ』…とかどう?」
「却下!おままごととかどうかな!」
「ダメー!それいけー!」
そして、アリキーノに操られたクマのぬいぐるみ、兵隊の人形、玩具のナイフが浮かび上がり…襲いかかる。
「に、逃げるぞデティ!」
「ひぃーん!こんなのどうすればいいのさー!」
逃げる、戦いにもならない、ぬいぐるみと感情の悪魔では勝負にさえなり得ない。ガシャガシャと音を立てて迫る玩具の大群を前に二人はポテポテと短い足を動かして逃げ回る。
…………………………………………………………………
「どぉらぁあああああああああ!!!」
「ぬぐぅうううう!!腹立たしいわッ!!小虫がああああああッ!!」
空を切り裂き、天より落ちてなお剣から魔力を噴射し推進力を得る。こいつだけは上には行かせない、ナリアさんの邪魔はさせないとステュクスはマラコーダを単身抑えながら穴の底に向かう。
「ッなんだありゃ!?」
その下で見たのは…マグマだ、割れた大地から溶岩が噴き出す漆黒の街…あれはサイディリアルに似ている気がするが、サイディリアル在住の俺が言いますが似てるだけで違う。
けど街がある。溶岩に飲まれ始めた黒い街…まぁいい!あそこに落ちるか!
「覚悟しろやマラコーダ!」
「この程度で感情の悪魔が!死ぬかぁあああ!」
そしてそのまま俺とマラコーダは流星の如く溶岩の街へと落ち…巨大な土柱が上がる。
「いてて、死を覚悟で突っ込んだけど案外どうにかなるもんだな」
『たわけぇい!ワシが減速してやったんじゃ!死んでたぞお前』
どうやら俺が地面に落ちてなんとか生きてたのは減速したからとのこと。まぁマラコーダも言ってたが…あの程度の高さから落ちたくらいじゃあ死なねぇよな。
「憤懣やる方なし…」
土煙を引き裂いた先には、既に近くの家屋の屋根の上に登り不満気に腕を組むマラコーダが見える。相変わらず不満そうに口をへの字に曲げる漆黒の魔人は俺を見下ろし。
「分かるか、我が怒り。私は今凄まじく怒っている」
「何にだよ」
「私の相手がお前一人…と言うことだ、他の悪魔達は早々に弟子達を等分に分け持って行った、最後まで真面目に役目に殉じていた私だけが損をした…分かるか、余り物が損をしたのだ!私だってもっと強いやつと戦いたかった!」
「そりゃ悪いね、同情するよ。けどあんまり大口叩くと負けた時辛いぜ」
「フンッ…私はマラコーダ、怒りの悪魔マラコーダ・ネーロ…マーレボルジュ最強の悪魔、純粋な力であるならば私はルビカンテさえも上回る…それを相手に、勝つだ負けるだとか…お前にそんな話が出来る程の力があるとは思えんが」
「かもな」
実際マラコーダは強えよ、あのストゥルティが攻めきれず倒しきれなかった奴だ。ストゥルティの実力と姉貴の実力はほとんど同じ、つまりこいつは姉貴でさえ倒せない可能性があるんだ…。
それと今から俺が戦うか、無茶な話だと思うよ…けど。
「それでも、負けらんねーんだよ…俺はナリアさんを先に行かせる為に、お前をここに釘付けにする。みんながやったように…それが俺の役目なんだ」
「言っていろ、お前一人で何処まで出来るか…見せてみろ」
腕を解き、圧倒的な魔力により大地を揺らし、天に雷が迸る。今ここに最強の悪魔マラコーダと…俺の戦いに火蓋が落とされることになる、さぁ大一番だ…死んでも負けねーぜ!俺は。
…………………………………………………………
そして、魔女の弟子達が次々と決戦の舞台に立つ中…ここにもう一つの戦いが生まれようとしていた。それは────。
「くぅ〜疲れました、これにて今日のお仕事終わりです!」
深夜のネビュラマキュラ城にて…ただ一人動く影がある。執務室にてとある書類を片付けていたレギナだ、彼女は眼鏡を外して軽く伸びをする。
ここは現実世界、街の人間のほとんどが夢の世界に落ちる中…レギナは一人未だに起きていたのだ。
「いやぁなんか急に眠気が来た時はやばかったですが。これ買っておいてよかったぁ」
彼女が一人眠気に対抗できたのは最近の多忙の為に買い揃えていた『超劇薬!絶対ネムレナーイ5000(一日一本まで)』と書き込まれた魔力薬のお陰だ、ルビカンテの放つ眠りの誘いに際し彼女はこれを五本ほど飲み対抗。これにより見事レギナは無自覚ながらルビカンテの魔の手を振り払っていたのだ。
「これで…凡その図面は出来上がった、資材に人材…全てを纏められた。大変だったけどこれさえ出来れば…ステュクスの力になれるかな」
レギナが机の上を撫でる、そこには事細かに書き込まれた書類がびっしり配置されており…レギナが考えた『もしもの時のための切り札』を作るための書類だ。
彼女が最近夜も眠らず働いていたのはこの計画を進める為。ステュクスには言ってない…言えば反対されるかもしれないから、でもマレウスの未来を考えるならこれは必要な物だ。計画を進めてもう後に引き返せないくらいになったら説明するつもりだ。
(これが完成するまで凡そ五年…けどメグさんの言う助けがあるなら、一年以内にだって完成させられる。あとはメグさんを待とう)
あとはメグ待ちだ、最近メグを城に呼んでいたのはこの一件について助力を頼む為。最初は普通に技術や技術者を遣すならばOKと言っていたが…私が求めたのは別のことだった。
それを聞いたメグさんは渋った、凄く渋った、なんでもOKと言ってくれたメグさんが初めて私の頼みを聞いて渋った。だから数日かけて説得して…約束を取り付けた。だからあとはメグさんが頼みを聞いて『奴』を連れてきてくれるまで待つだけだ…。
「とくればあとは寝るだけ〜!はぁーよかった、まだ夜のうちに眠れそう〜…」
そう思いレギナは真っ暗な廊下に出て自室に向かう、あとはもうパジャマに着替えて寝るだけだ…と言うところで、ふと見つける。
「おや?守衛さん居眠りですか?」
「…………」
そこには倒れ込み眠る守衛の姿があった。こらこら起きろ、陛下に見つかったぞと体を揺するが寝息が返ってくるばかりでまるで起きない。起きる気配が全くない…まるで夢の世界に囚われているような…。
「え?起きない、私もしかして兵士さんの事、酷使しすぎ…?」
起きない守衛に不信感を感じ、周囲を見るが…誰も起きてない。みんな城の中で倒れ込み眠っている…なんなんですかこれ、これは流石におかしいでしょう…。
「何が起こって……」
「皆、今は夢の世界にいるのですよ」
「ッ!?誰ですか!」
そんな中、自分以外の誰かの声が響き…振り向き闇に目を向けると、そこから現れたのは。
「お初にお目にかかります…レギナ陛下」
「……誰ですか、貴方…城の人間じゃありませんね」
現れたのは赤い瞳に夜の闇のような黒い髪を持った女、そいつがローブを揺らしながらこちらに向けて歩いてきていた。だがこんな奴見たこともない…城の人間じゃない!
「私はコルロ。コルロ・ウタレフソンと申す者です」
「コルロ……ウタレフソン?」
そう名乗った名前に違和感を感じる。ウタレフソン…その姓には聞き覚えがあるような、ないよな…。
「初対面でこんなことを言うのは大変無礼なのはわかっていますが…死んでいただけますか?レギナ様」
「は?」
すると、コルロはローブの中から一本の細剣を取り出して…こちらに向けるんだ。そこに感じるのは明確な殺意、身の凍るような感覚を覚え…レギナは一歩下がる。
「あ、貴方何言ってるんですか、そんな…犯罪ですよ!」
「逃げないでください、レギナ様」
「逃げますけど……」
一歩、また一歩と引き下がると…何かに当たる。何かに当たって足が止まる。おかしい後ろには壁なんかなかったはずと振り向くと…。
「こんにちわ、レギナ様?」
「ぎょっ…!」
もう一人、女がいた。焦赤の髪に黄金の瞳を持った…長身の女。全体的に分厚く見下ろすような巨大さを持ったお姉さんがにっこりと微笑んでいたんだ。
「な、なんなんですか貴方達…!まさか城の人間を眠らせたのも貴方達ですか!?」
「ええまぁ、ルビカンテを唆したのは私ですが…そんな事はもうどうでもいいでしょう、貴方はもう死ぬんですから」
「ッッ……」
まずいことになった、暗殺者だ。私を殺しにきたんだ…レナトゥスの手の人間かは分からないが少なくとも今私は命を狙われていて、誰もいない。
「ッ誰か!誰かいませんか!」
「無駄です…城の人間は皆、眠っていますから」
「ヒッ……!」
細剣が向けられる、逃げ場は長身の女が塞いでいる。やばい…やばい!こんな所で死ねないのに!私はここじゃ…死んじゃいけないのに!こんな…こんなの!
「さぁ…その血を私に寄越しなさいッ!」
「ッステュクス……!」
目をキュッと閉じて身を縮こまらせる、もうダメだと思いながらも…せめてと想い人の名を口にしながら彼女は刃を受け入れ──────。
「え…!?」
がしかし、刃はレギナに届く前に…へし折られる、突如横から割って入ってきた兵士の剣がコルロの細剣を叩き砕きへし折ったのだ。
兵士…兵士だ、マレウス王国軍の鎧を着て兜で顔を隠した兵士がきてくれたんだ!
「よかった!まだ起きている人がいたんですね!」
「…………」
「い、急いで助けを呼んできますから!持ち堪えてください!」
甲冑姿の兵士は肩に剣を背負い、こちらを見ることもなくその場に留まる。彼が持ち堪えている間に他に誰か起きていないか…人を探しに行かないと。そうしてレギナは咄嗟に走り出しその場から離れ──────。
「……これは、奇妙なことが起こった物だな」
「……………」
そしてへし折れた細剣を捨ててコルロは呟く、睨むのは割って入ってきた甲冑の兵士だ。そいつは肩に剣を乗せて気怠げに腰を曲げながら…コルロを睨み返す。
「今この城に、街に、起きている人間はいないはずだ…お前は一体」
「……都合がよかったぜ、城の人間全員寝てるから…俺も動きやすかった」
「は?」
「言ってる意味がわからねえか?テメェらと喧嘩する為に、夜更かしして来てやったんだよ…この俺が」
そう言いながら兵士は兜のバイザーを上げ、目元を見せながら…その赤き眼光を晒す、その目は…レギナと同じ赤、ネビュラマキュラ特有の……。
「貴様!バシレウス・ネビュラマキュラか!?」
「ご名答、お前らこんな所で何やってんだよおい」
兜を脱ぎ捨て、そのまま鎧を引き裂いて姿を晒したのはバシレウスだ。バシレウスは堅苦しそうに肩を回しながらコルロと背後に立つラニカを睨み…笑う。
城だけじゃなく、街の人間全員が眠っているのは知っている。それがルビカンテの手によって行われたのもなんとなく認識できていた。だがそれが…コルロ達が裏で糸を引いてやっていたはな。
なんて事はない、この街にルビカンテがいたのはコルロ達の仕業だ。で…コルロ達はルビカンテが暴走し街の人間を夢の世界に落とすのを待ち、全員が夢の世界に落ちた所でレギナ暗殺を決行しようとしていたのだ。
「賢ぶりやがって、マレフィカルムはテメェらにこんな命令…出してねぇだろ」
「……もう分かっているんでしょう?我々が、貴方達に叛旗を翻そうとしていることくらい」
「…まぁな、だから俺が来た。ああ、あと…そこに隠れてる奴も、ぶっ潰しに来たからな」
そう言いながらバシレウスは近くの壁に手に持った剣を投げつけ突き刺す…するとどうだ、突き刺さった剣のすぐ横の空間が歪み、さらに一人…現れるのだ。
「あやや…見つかっちゃった…流石バシレウスしゃま〜…」
「…オフィーリア、テメェもグルか」
「あははは…参ったなぁん」
オフィーリア…別名『美麗』のティファレトの名を持つセフィラの一角。こいつもまたレギナ暗殺に加担していた。元よりオフィーリアはレナトゥスの一派だった、ガオケレナ以上にレナトゥスに忠誠を誓うレナトゥスお抱えの暗殺者だ。
「コルロ、ラニカ、オフィーリア…テメェら全員覚悟できてんだろうな」
バシレウスの周囲には…絶対者が三人立ち尽くす。ヴァニタス・ヴァニタートゥムのNo.2コルロ・ウタレフソン。五凶獣のNo.2ラニカ…そして美麗のティファレト。全員が第三段階級の強者達だ。
空間が歪むほどの魔力がひしめき合い、廊下の石材が割れる。
「ねぇ〜んコルロ〜、どうすんの〜?バシレウスしゃまがここに来るなんて予想が〜い。どんな風に言い訳するのかなぁ…」
「言い訳は必要ない、ここで殺す…私が欲しいのはネビュラマキュラの血だ…より純度の高いバシレウスの方なら都合がいいし、何よりこいつを殺せばあとは簡単だ…」
「ふふふ、仕方ありませんね…」
「はぁー!かったるぅ〜い…でも仕方ないよね、死んでよねバシレウスしゃま」
「……ケッ」
コルロもラニカもオフィーリアもやる気ってか、まぁそれならそれでいい。ここで変に弁明とか弁解とかされても面倒なだけだ…最初から殺す気満々で来てくれるなら、やりやすい。というか。
「はぁ、テメェら如き…本当なら俺一人でも十分なんだがな」
「よく吠える、ならその力を見せて───一人でも?」
コルロは気がつく、俺の物言いに…含みがあることに。そうだよ、本当なら一人でも大丈夫なんだよ、けど…『アイツら』がどうしても来るって言うから、連れてきてやったのさ。
「まずい…バシレウスだけじゃない!恐らく奴が来────」
「『一時のハヴェン』」
「ガハッ!?」
その瞬間、コルロの胸を引き裂いて…巨大な刃が現れる。薄らと輝く巨大な刃はそのままコルロを突き上げたまま壁に叩きつけ血飛沫を舞い散らせる…。
ポタポタと落ちる血の雨を引き裂いて…現れるのはもう一人の女王。俺を見ても顔色一つ変えなかったコルロがその到来を予感しただけで青褪めたマレフィカルム最強の使い手の一人。
「今回は遅刻しなかったようですね、バシレウス」
「ゲェーッ!!クレプシドラーッ!?あんたも来てんのー!?」
ドレスを揺らし、カツカツとヒールを鳴らして現れたのは…クロノスタシス王国の女王にしてマレフィカルム屈指の使い手。クレプシドラ・クロノスタシスだ。
クレプシドラは背後に巨大な光り輝く騎士を生み出しながら、一歩前に出る…ただそれだけで世界が重くなる、威圧一つで深海に落とされたが如き強烈な衝撃を叩き生み出す。
「ケッ、テメェは遅刻か?クレプシドラ」
「いえ、妾は定刻通りです。予定より早く窮地に陥ったのはお前の妹の不手際です」
「俺の妹じゃねぇよ…」
「ちょっとちょっとー!クレプシドラー!あんたこう言うのには普段関わらないじゃん!普段誰の言うことも聞かないじゃん!なのになんで──」
「黙れ下郎、妾の決定は妾が行う。その決定に文句をつける者は全員処する…さぁ首を出せ叛逆者達よ、妾は時間を無駄にするのが一番嫌いなのです」
「くぅ〜…ちょっとやばくないかいラニカちゃあん」
オフィーリアは顔を真っ青にしている。バシレウスだけならなんとかなった、だがクレプシドラまで関わってくると手がつけられないとばかりにラニカの側に寄る。がしかし。
「生憎、クレプシドラだけじゃないぞ」
「おや…どうやら更に客人が来たようですよ、オフェリアさん…」
「お前……マルクトんところの、タヴ…!?」
更に、ラニカ達の背後に現れたのは…カフェのエプロンを肩にかけた褐色金髪の男、かつて大いなるアルカナにて最強を誇った男、『宇宙』のタヴが彼女達を逃すまいと立ち塞がる。
「悪いなバシレウス、クレプシドラ、急なシフトが入って遅れた。予定に革命を起こしてすまない」
「お前…生きてたの?」
「俺は死にすら革命を起こす」
「どう言う意味…?」
「つまり……!」
起き上がる、クレプシドラに胸を貫かれ心臓を潰されたコルロが起き上がり、血を拭い…煩わしそうにバシレウス、クレプシドラ、タヴの三人を見て舌を打つ。
「これがガオケレナの対抗策…と言うことだ、私達の行動は奴らに読まれていたんだ」
「のようですね、どうしますか?逃げますか?」
「断る、千載一遇のチャンスだ…こいつら三人全員殺して、目的を達する…オフィーリア!お前にも付き合ってもらうぞ!」
「やだなぁ…けど今のまま逃げ帰ってもレナトゥスしゃまに怒られるし…仕方ないかぁ」
戦闘態勢を取るコルロ、ラニカ、オフィーリアの三人…それを見て呆れたようにクレプシドラはため息を吐き。
「無駄である…と言うことも分からない低脳の集まりですか、不死モドキと人間もどき…そしてセフィラ如きが妾に勝てるわけがないでしょうが。仕方ありません…やりましょうか」
「ああ、意志なき叛逆は革命にあらず、大志なき革命は成就せず。お前達がやろうとしている国王暗殺は革命ではない…ただの暴虐だ、真の革命者としてそれは許せん…俺が本物の革命を見せてやる」
「つーわけだ!諦めろやクソ三姉妹!テメェら全員マレフィカルムクビだ!解雇通知は地獄で渡す!先行ってろやゴミどもが…!」
同じくバシレウス、クレプシドラ、タヴの三人も応戦の構えを見せる。
魔女の弟子達がルビカンテと戦う最中…現実世界のネビュラマキュラ王城でもう一つの決戦が行われようとしていた。
参加者全員第三段階の超常の決戦。二つのマレフィカルムが激しく火花を散らすのだった。