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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十八章 ナリア・ザ・ハード 〜サイディリアルより愛をこめて〜
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658.魔女の弟子とリーベルタース


「そろそろ帰りましょうか、ナリアさん」


「そうですね、はぁ〜楽しい時間はすぐ終わってしまいますねぇ〜」


「ふふふ、ですね。」


僕は…あの時。大冒険祭第三戦前日に…空が暗く染まり始めた頃にようやくアルタミラさんとの外遊びを終え、帰路についていたんだ。


アルタミラさんの中のルビカンテをなんとかするため…僕はこの六日間を費やした。それにどこまで効果があったかは分からない…だけど、もう時間がない。明日は第三戦、ストゥルティ達との決戦だ…そこでまたルビカンテが何もしないことを祈るしかない。


「これでルビカンテが弱ったんでしょうか」


「さぁ…どんな感じですか?感覚はありますか?」


「そう言えば…最近、胸の中で荒れるような感覚がありません。私の体が…私の体みたいです」


よく分からない感覚だが、特異な体を持つアルタミラならではの感覚だろう…多分効果があった、と思うしかないな。だってアレだけ与えたんだ…ルビカンテが苦手とする感情をさ。


さて、そろそろ帰るか…そう思い僕はプリンケプス大通りを歩いてステュクスさんの家を目指す。もう暗くなって来たからか人通りは少なく、僕とアルタミラさんだけが…この道を歩いていて…。


そして、そいつは…現れたんだ。


「ん?誰か向こうから歩いて来ますね」


「………?」


アルタミラさんが気がついて声を上げる、そこに違和感を感じて…僕はそちらを見て、驚愕する。


(え…あれ、ロムルス!?)


「………」


歩いて来たのは…他でもない、この国の副将軍ロムルス・フォルティトゥドだったんだ。いつも通り何を考えているかよく分からない表情でフラフラと歩くロムルスに、僕は警戒心を露わにした…。


なんで副将軍が、こんなところに…いや大丈夫。僕とアイツには接点がないんだ…だから他人のふりをしてやり過ごして──。


「ねぇ、ナリア君」


「え?」


しかし、ふと…隣を過ぎ去るその瞬間声を上げたロムルスの声に反応して顔を上げてしまった。なんで僕の名前を?そんな疑問が浮かぶよりも前に僕が見たロムルスの顔は…。


「やっぱり君がナリア君か…君、アレだよね。婚姻会場にいた小鼠だ…まさか君が、エリス君の仲間だったとは」


「え……」


「悪いね、先に言っておく…私怨だ。ステュクス君にやられた分を君が精算してくれ」


そう…口にした瞬間ロムルスは僕の腹を蹴り上げ、そのあまりの威力に僕の体は浮かび上がり、路地の壁にたた叩きつけられる。


「ぐはぁっ!?」


「ナリアさん!」


「ごめんねぇ、君には死んでもらうよ…恨むなら、私の邪魔をしたステュクスを恨んでくれ…」


仕掛けて来た、攻撃して来た、何が何だか分からないがこいつステュクスさんに怒りを感じているんだ。それでどうやってかは知らないが僕のエリスさんの関係を調べ、エリスさんとステュクスさんの関係も調べ…結果。僕の襲撃を敢行したんだ…やばい。


「ナリアさん!ナリアさん!」


「下がって!こいつやる気です…危ないのでアルタミラさんは逃げて来てください!」


「でも……」


「いいからッ!!」


「うっ……くぅ…!」


僕は咄嗟にアルタミラさんを逃し、涙を浮かべながら走り去るアルタミラさんを見送りながら光の筆を取り出す。既にロムルスも双剣を抜き放っており…臨戦体勢だ。クソッ…まさか戦闘になるなんて。


エリスさんの言っていた通りになってしまった。襲撃を受けてしまった…これは僕の招いた結果だ。なんとか切り抜けないと…。


「淑女を逃して一人残るか。剛毅、勇壮、そして蛮勇…感嘆するよ、見事だとね」


「この国の副将軍が、こんな辻斬りまがいのことをして許されるんですか!」


「まぁ、このくらいなら揉み消せるしね…」


ゆらりと剣を垂らしながら歩いてくる。その佇まいから隙は一切感じられない…強い。少なくとも僕よりは…けど。


「負けませんよ!」


そう言いながらペンとカードを構える、しかしその言葉を受けたロムルスは驚いて…。


「負けません?何言ってるんだい君、私は戦いにきたわけじゃないよ?」


「え?」


何言ってるんだこいつ…剣抜いて蹴り付けて戦う気がない?でもおかしい、こいつ嘘ついてない…本心から言ってる。本気で戦うつもりがないのか?


「じゃあ一体何を───」


そう、問いかけたその時だった……僕の後頭部に、鈍い痛みと音が走ったのは。


「かはっ…!?な、何が…」


殴られた、後ろから…倒れ霞む目で後ろを見れば、そこには…いた。路地裏から出て来た…ダイモスが。


「戦うつもりはないよ、ただ…始末に来ただけだしね」


ロムルスの言葉と共に、あちこちから現れるのは…フォルティトゥド家の人間達。やられた…囲まれていた、まずい…殴られて目が回る、体が…動かない。


「悪いね、君には凄惨な死に方をしてもらう…さぁみんな!家の敵を殺そう!フォルティトゥドの栄光のために!」


「ぐっ…ロムル…ス…ッ!がぁっ!?」


「悪いな、だが我々も家が大切なんだ…」


動けない僕を取り囲むフォルティトゥドの人間達、そいつらは手に持った棒やら何やらで僕を袋叩きにする。もうそこからは抵抗云々の話ではない…ただひたすら嬲られ、殺されゆくだけだった。


じっくりゆっくり、殺されていく…命の灯火が消えていくのが分かる…ああ、ごめんなさいエリスさん。アレだけ心配してくれたのに…あなたの言葉を聞かなかったから、こんなことになって。


全部…僕の責任です…だから…だからどうか、心を…痛めないで………。


(なんて…割り切れたら、どれだけ良かったか)


僕一人の責任で終わればよかった、けど…そうもいかない。アルタミラさんはどうなる?大冒険祭は?…僕はまだ死ねない、死ねないんだ。


けどもうどうにも出来ない…ああ、嫌だな。僕はこの期に及んで助けを期待してしまっている。


「人払いしているとはいえ、早めにケリつけてくれる?」


「はい、ロムルス大兄」


…エリスさん達は、来ない。分かってるのに…期待してしまうんだ、殴られながら、蹴られながら…助けを。


分かってる…分かってる、来ないって……ああ、なんて。


なんて情けないんだ…僕は──────。





そんな風に、助けは来ないと…諦めたその時だった。


「おい、お前ら」


「あ?」


誰かが、声を上げた。僕を取り囲むフォルティトゥド達に向け…声を上げた何者か。それに反応したロムルス達は一旦手を止めて…。


「チッ、人払いしてたのに…ねぇ君、これは見なかったことにしてどこかに行きなよ。ってか何処かに追い払え」


「はい、ロムルス兄様…おいお前!何処かに──」


一人のフォルティトゥドが現れた何者かに向け歩き出し、追い払おうと乱雑に手を向けた…その時だった。


「邪魔」


「は?───ぐげぇっ!?」


吹き飛んだんだ…フォルティトゥドが、そいつに蹴り飛ばされまるでボールのように吹き飛び屋根を飛び越し路地の向こうに消えていった。そのあまりの光景と…街の明かりを後光に立つその人のシルエットは。


(え…ラグナさん…!?)


ラグナさんだ…王者の気風を纏い圧倒的な怪力で敵を吹き飛ばすその有り様はまさしくラグナさんだ。ラグナさんが助けに来てくれたんだ…ああ、やっぱりラグナさんは……あれ?


「ククク…よーやく会えたよなぁ、ロムルスぅ…!!」


いや、違う…違うぞ。この人…ラグナさんじゃない。ラグナさんはこんな風に凶暴に笑わない…誰だ。こいつ誰だ…!?


ゆっくりこちらに向けて歩いてくるラグナさんらしき男は、よく見ればラグナさんとはまるで違う姿形をしていた。


白い髪に、赤い瞳、牙が見える口元に、黒いコート…何より獣の如き様相。ラグナさんとは正反対のようなそいつは僕を助けるように現れ、ロムルスを睨む。


一体誰だ…こいつ……そんな風に疑問に思っているのは僕だけらしく、ロムルスはその顔を見るなり、みるみる青ざめて。


「バッ…バシレウス様!?」


(え…!?バシレウス…!?こいつが…!?)


クツクツと笑い白髪の男を指し、ロムルスは言う…バシレウス様と。


つまりこいつはバシレウス・ネビュラマキュラ…レギナさんのお兄さんで、帝都でエリスさん達を殺しかけたセフィラの一角。あのバシレウス!?なんでそんな奴がここに…!?


というか、なんで僕を助けてくれたんだ…?


「やっぱり覚えてたな。マクスウェルとレナトゥスの金魚のフンが…随分デカい顔するようになったじゃねぇか、ええ?さぞやデッカいスポンサーがついたんだなぁ…俺にも教えてくれよ」


「ッ…こ、こいつを!こいつを殺せ!!今すぐ!」


「え!?ですがロムルス兄様!こいつバシレウス様でしょう!?あの行方不明になった…この国の王族ですよ!?」


「違う!こいつはバシレウス様じゃない!いいから殺せェッ!!!」


どうやらバシレウスとロムルスは仲間ではないらしく、ロムルスはバシレウスを見るなり慌てふためきフォルティトゥド達に命令を下す。フォルティトゥド達も最初は戸惑っていたが…すぐに目の色を変え。


「ロムルス大兄がそう言うならそうなのだろう…ならば死んでもらうぞッ!!」


まず最初に動いたのはダイモスだ、その手に持った鉄棒を構え凄まじい勢いでバシレウスに迫り、渾身の一撃を見舞い───。


「だから邪魔すんなって」


「ごがぁっっ!?」


まるで…邪魔な雑草でも退けるように、軽く手を払いダイモスに叩きつける。ただそれだけでダイモスのメガネが粉砕され、壁に叩きつけられ上半身が壁に埋まる…あり得ない怪力。まるでラグナさんみたいだ…っていうか。


「ロムルスぅ!おい何処行くんだよぉ!俺が会いに来てやったんだからもてなせよぉ!なぁ!」


「ヒッ…!」


(この人、僕のことなんか眼中にない…助けに来てくれたんじゃないのか…)


最初からずっと…僕のことを見てない、助けに来たんじゃなくて偶々ロムルスが街に現れたのを見かけて襲いに来ただけなんだ…。


「くっ!くそぉっ!!ロムルス兄様を守れぇ!!」


「うざってぇ…!退けッ!!」


そこからバシレウスはただ一人でフォルティトゥド達と戦った、いや戦ったというより…排除したって言う方が正しいか。拳を振えば風圧で人が吹き飛び、蹴りで人間を彼方まで蹴り飛ばし、頭突きで相手の頭蓋を叩き割り…。


アレだけ屈強なフォルティトゥド達がまるで子供扱いだ…そしてロムルス自身も。


「ヒッ…ヒィッ!」


「逃げるなよッ!!待てゴルァッ!!」


逃げ出した、アレだけ家族家族と標榜しておきながら傷つき倒れた家族を置いてロムルスは逃げた、戦うことすらせずに逃げた。いや…それだけバシレウスの恐ろしさを知っているからこそ、自分を殺しに来たバシレウスから逃げ出したんだ。


あんなに強いロムルスでさえ、戦うことを諦めてしまう程の強さ…そんな強さを持ったバシレウスは牙を剥きロムルスを追いかけ、王城の方へと消えていった。


(な、なんだったんだ…)


そして後には、倒れ伏したフォルティトゥドの人間と僕だけが取り残された…。何が起きたのかさっぱり分からない…けど、助かった…のか?


ああ、よかった…助かった…ならせめて、みんなに心配させないように…今すぐ戻ら…な…い………と。


「うっ……」


しかし、そこまで。僕自身も限界を迎え…意識を失う。情けない話、みんなの忠告通りの結果になり襲撃を受け、大冒険祭前日にとんでもない事をやらかしてしまったんだ……そして、次に目を覚ましたその時には。


どう言うわけか、もうエリスさん達とリーベルタースとの戦いが始まっていたんだ。


────────────────────


「ぐごあぁあああああああ!!リーベルタースに逆らう馬鹿野郎共を蹴散らせやぁああ!」


「やっちまえーーっっ!」


虎の巨像を背に吠え立てるノーミードの背後から大量のリーベルタース団員が現れ気炎万丈と進軍を開始する。


「迎え撃てッ!!連中を近づけさせるな!」


「ここでケリをつけてやるッッ!!」


そしてそれを迎え撃つのは傍若悪漢のボーリング、団扇のように巨大な斧を手に森の中にて大量の北辰烈技會と共にリーベルタースを待ち構える。


「勝つのは俺達だっ!!」


「いいや!北辰烈技會こそ勝者に相応しい!」


鳴り響く金属音、あちこちで戦闘が始まり開戦の狼煙が上がる。リーベルタースと北辰烈技會…どちらも冒険者協会最大クラスの大規模クラン、それがイリアの森にて戦っているのだから…それはもう小競り合いや抗争の域を超え戦争の段階にまで至っていると言っても過言ではないのだ。


「全員蹴散らす!『大牙岩怒烈斗(タイガーガンドレッド)』ッ!」


「ぐぎゃぁああ!?」


「だ、ダメだ!四大神衆は格がちげぇ…!ありゃ倒せねぇ!」


中でも抜きん出た強さを見せるのは四大神衆達だ。虎の巨像を背に大暴れするノーミードはただ一人で数十人、数百人規模で敵を倒し一騎当千の活躍を見せつける。アレはもう雑兵にどうこう出来るレベルの存在じゃない。


「退いてろッ!俺が相手してやるッ!」


「ボーリングさん!」


しかしそこで相手になるのは同じ四ツ字冒険者の『傍若悪漢』のボーリングだ。巨大な二丁板斧を振り回しノーミードに飛びかかり…。


「『大穴掘削』ッ!」


「ボーリングか!相手に不足なし!『猛獣素斗烈闘(もうじゅうストレート)』ッ!!」


ぶつかり合うのはボーリングの巨斧の一撃とノーミードが操る巨像の拳。両者共に怪力自慢で知られる双方の力は正面からぶつかり大地が揺れる…、トランポリンのように波打ちながら震動する大地の只中で数度打ち合うボーリングとノーミード。


そして……。


「もらったァッ!!!」


「うっ!?」


ボーリングの一撃が巨像の腕を粉砕し岩の片腕が弾け飛ぶ。撃ち合いを制したのはボーリングだ、四大神衆すらも上回る怪力でノーミードを圧倒した───。


「なんてな!」


「はっ!?腕が修復されて──」


──かに思えたが砕かれた腕は即座に元に戻り、斧を振り抜いた姿勢でバランスを崩すボーリングに向け、一瞬で修復が終わった巨像の拳が再度向けられ。


「『大牙岩怒烈斗』ッ!!」


「ぐべぇっ!?」


叩きつけられる岩腕にボーリングが押し潰される。咄嗟に防壁で守った物のそれでも防ぎ切れない程の質量によりダメージは免れず、今勝敗が決した。


「う、うちの四ツ字でもダメか!ありゃ誰が止められるんだ!?」


「ボーリング仕留めたぞ!さぁドンドン攻めろや!」


ボーリングを倒しリーベルタースは更に勢い付く、リーベルタースは一枚岩じゃない。ストゥルティのみならず四大神衆すらも手がつけられない程に強いのだ。


このまま勢いと地力で上回るリーベルタースが。この場の戦いを貰ってやるとノーミードは更に号令をかけた……その時だった。


「……ッん!?なんか来る!」


ふと、魔力を感じそちらに視線を向けた。右方向…とんでもない速さで何かが飛んでくる。魔術か?大砲か?分からないが防御を───。


「『概念錬成・打破』ッ!」


「はぁっ!?」


光の如き速さで飛んできたそれはノーミードに防御すら許さず、一瞬にして巨像まで到達した瞬間…怪力自慢のボーリングでさえ片腕一つ持っていくので精一杯だったそれを一瞬で、一撃で、上半身丸々吹き飛ばし粉砕してしまったのだ。


「な、何事…!?」


「リーベルタースと北辰烈技會で全面戦争中か?なら邪魔をして悪いな…こちらも、ちょっと全戦力で君達を蹴散らしに来たんだ」


「お前は…ソフィアフィレインの」


黄金の冠とコートをたなびかせ、魔力覚醒を展開し瓦礫の上に立つのは…メルクリウスだ。飛んできて、巨像を破壊し、リーベルタースに宣戦布告をかまして来た。


リーベルタースと北辰烈技會の戦争に、ソフィアフィレインも加わると…メルクリウスは言いたいんだ。


「へっ!上等だ!喧嘩売るなら潰してやる!」


「『喧嘩』『潰す』…ボキャブラリーが貧相だな。悪いがチンピラ語はわからないんだ」


「何をッッ!!」


再度、形成する。ノーミードの巨像はノーミードが健在である限り何度でも蘇る、故に一度破砕されても関係などない。いきなり現れ喧嘩を売って来たメルクリウスに腹を立てたノーミードは怒り猛る。


「リーベルタースに喧嘩売った事後悔してあの世に行けッッ!!」


「………」


迫る虎の巨像、山のように巨大な岩の拳がメルクリウスに迫る…しかし、慌てる事も、恐れる事もなく。ただメルクリウスはゆっくりと拳を握り…。


「先に仕掛けてきたのはお前達だろう…私の朋友を傷つけて、五体満足で生きられると思うなよッ!!」


メルクリウスの体が更に光り輝く。錬金の秘奥『概念錬成』の応用…彼女が辿り着いた彼女だけの錬金術がその身に宿り。


「『コンセンテス・グラディウス』ッ!」


肉体そのものを再錬成し『破壊』『闘争』『強靭』凡ゆる概念の煮詰まった実態を持つ概念そのものへと昇華したメルクリウスの体が赤く光り輝き、放たれた拳の一撃が巨像を一瞬で吹き飛ばし……。


「うわっ!?嘘だろっ!?」


「嘘じゃないさ、これがお前達が怒らせた者達の…力だよッ!」


「ぐげぇっ!?」


そして、巨像すらも叩き壊すメルクリウスの剛腕がノーミードの顔面を叩き抜き、その体は砲弾のように吹き飛び…森の木々をへし折り消えていく。ノーミードが動く気配はない、抵抗する気配も反撃する気配もない…つまり。


「そ、そんな…四大神衆が一撃で…」


リーベルタース達が膝を突く、北辰烈技會も愕然とする。この瞬間格付けがされてしまったのだ…北辰烈技會の四ツ字よりもリーベルタースの四大神衆の方が強く、四大神衆よりも…ソフィアフィレインの無名の冒険者の方が強いと。


「これで終わると思うなッ!ここからだッ!きっちり…お前らのやったことは清算させてもらう!」


「ひ、ヒィッ!来るッ!!」


「ダメだ!逃げろ!四ツ字より強いやつなんかと戦えるわけがない!」


「逃さんッ!『概念錬成・地返し』ッ!」


逃げ出すリーベルタースに向けてメルクリウスは手を突き上げる…と同時に地面が隆起し持ち上がり、カーペットでもひっくり返すように大地が浮かび上がりリーベルタース達ごと地面を吹き飛ばす────。


怒り…仲間を傷つけられた怒り、それは魔女の弟子達共通の感情だった。当然怒っているのはメルクリウスだけじゃない。


「カフッ…そ、そんな…」


「気分はどうだ…リーベルタース」


青龍のウンディーネが胃液を吐きながら膝を突く。北辰烈技會との戦いの最中突如現れた存在により…彼女は完膚なきまでに叩きのめされた、四大神衆たる自分の力が全く通じない…そんな恐怖に包まれながらウンディーネはそいつを見遣る。


「な、なんなんです…?貴方」


「なんだと思う、それとも…自分の足で踏み潰した者は目にも入らないか?」


目の前にいるのは巨人だ…怒りの大魔神。その名もネレイドだ、普段温厚で知られる彼女が今神将としての顔を見せながら一方的にウンディーネを叩き潰しているんだ。


「訳がわかりません!邪魔しないで…くださいッ!」


「四大神衆…神の名は些かお前達には過ぎたるものだ、名乗るなど烏滸がましい」


「ちょっ!?」


青龍偃月刀を持ち直しネレイドに斬りかかるが…ネレイドはウンディーネの斬撃を手で受け止め、逆に偃月刀を取り上げるように持ち上げる。必死にウンディーネも抵抗するがそもそも体格差がありすぎる。ただ持ち上げただけでウンディーネの足が大地から離れ…。


「これが…一方的に痛めつけられる痛みだ、少しはお前も分かった方がいい」


「ぅぐっ!?」


そして、ウンディーネの体を掴み上げたネレイドはそのまま地面に叩きつける。ただそれだけで大地が割れ…ウンディーネが動かなくなる。


そしてまた他の地点では…。


「ぁ…が……」


「さ、サラマンドラ様がやられた!て…撤退しろぉーっ!」


木々が燃え上がる炎の世界の中、炎を何よりも得意とするはずのサラマンドラが白目を剥いて倒れていた。一騎当千のサラマンドラを文字通り一人で倒したのは。


「他愛無いね、ズルしなきゃ勝てないのかな」


デティだ、覚醒を行い大人の姿に変わった彼女は呆れたように腕を組む。こちらはそもそも勝負にさえならなかった、サラマンドラは炎を操ることを得意とする属性魔術師だ…が、属性魔術師ではデティには勝てない。


エリスがやった属性レジストを更に高位の技術で行えるデティにサラマンドラが勝てる道理もなく、炎を吹き出しデティに攻撃を仕掛けた瞬間逆に炎の制御権を奪われ自らの炎に体を焼かれ…サラマンドラは敗北したのだ。


「こっちはさぁ!苛立ってんだよねぇ!散々卑怯な真似しておいて!負けそうになったらリンチかますテメェらの根性に!」


「な、なんのこと言ってんだよ!」


「リンチだよリンチ!あんた達私の友達襲ったでしょ!」


「え…ええ?」


一人のリーベルタース団員を捕まえたデティは、サトゥルナリア襲撃の件を問い詰める…が団員は何も知らないとばかりに首を傾げ……。


(あれ?嘘ついてない、まさか本当に知らない?……いや、リーベルタース襲撃の件はルビーちゃんが言っただけ。言ってみれば私達はリーベルタースがやったという確証を何も持っていない…)


もしかして襲撃を行ったのはリーベルタースじゃない?と言う事実にふと気がつくが。


(まぁいいや、こいつらどうせ気に食わないし…今まで散々やってくれたことに変わりはないもんね)


もし、こいつらが本当にナリアくんを襲ったのでは無いとしても、ズルして私達を陥れようとした事もステュクス君を殺そうとした事も変わりはない。なら別にいいかと結論を得て。


「よーし!じゃあ取り敢えず全滅させるから抵抗とかは諦めてね」


「ギャッ!?」


ともかく潰す、そこには変わりはないのだ。



この短時間でリーベルタース北辰烈技會共に甚大な被害を負った。四大神衆は悉く落とされ全滅は時間の問題となった…そんな中。


この戦いにおいて、どちらにも与しない人間が今…戦場を駆け抜けていた。


……………………………………………………


「もう始まってる!ルビーさん急いで!」


「ああ!クソッ!みんなごめんッ…!」


駆け抜ける、リーベルタースでも北辰烈技會でもソフィアフィレインでもなく…ただこの戦いの終わりを望む者達であるナリアとルビーは走りながら戦場となったイリアの森に向かう。


この戦いの原因は二つ、ナリアが襲撃を受けたこと。そしてその襲撃をルビーが誤認した事にある。


その真相はまた別にあるのだがそれでも間違いから戦いが始まってしまった。その間違いで仲間が傷つくなら止めなければならない…故に二人は走るのだ。


「僕がみんなの忠告を聞かなかったから…」


「こ、このままじゃエリスさんとリーベルタースが共倒れになっちまう!」


「いや、多分エリスさん達は負けません…僕が心配してるのはリーベルタースの方です」


「へ?」


「僕の過ちのせいでリーベルタースが被害を受けるのは、違いますから。いくら敵だからってそこは無視できません!」


エリス達がリーベルタースに負けるとは思えない、ましてや仲間をやられた怒りに燃えるラグナさん達がいくら大群とは言えリーベルタースを前に敗れるとは想像できなかった。


ただ戦いは凄惨な物になるのは確実…何よりこの戦いが自分のせいで巻き起こっているなら止めないと行けない。それが責任の取り方という物だ。


「僕を襲ったのはリーベルタースじゃない…その事をみんなに伝えないと」


「ど、どうするんですか!ナリアさん!そこら辺のリーベルタースの連中に…やめよう!っていうのか?」


「それじゃ止まりませんよ…出来るならエリスさんにこの事を伝えればきっと事態は鎮火します」


「エリスさんだな…ってことはあそこか」


戦いの中心、そして今ここで行われている戦闘で最も苛烈にして過激な空間。イリアの森の最奥…そこで今も三つの巨大な魔力がぶつかり合っている。あそこにいくしかない…がその手前には広大な戦場がある。


リーベルタースと北辰烈技會の戦場だ…これを突っ切っていくのは骨が折れそうだ。けど…骨一つ折ってなんぼだろ…責任、取るんだから。


「行きますよルビーさん!」


「あ、ああ!死んでも守るから!」


走り出す、戦場のど真ん中を走る…それはとても恐ろしいことで…。


『死ねやぁあああ!!』


『ぐぅっ!テメェ!!』


「や、やべぇよナリアさん。なんか思ったより戦いの規模がでかい」


「リーベルタースは僕達以外に北辰烈技會とも戦ってるようですね…」


戦場を走ればもうあちこちから悲鳴やら怒号が聞こえてくる。戦っているのは北辰烈技會とリーベルタース…なら当然。


「あっ!お前ソフィアフィレインのメンバーだな!」


「覚悟しろリーベルタース!」


「ちょっ!!こっち来た!」


「やっぱきますよね…!」


北辰烈技會もリーベルタースも、僕達を狙う理由がある。だから当然襲いかかってくるだろう、それも両クラン共に…けど。


「でも止まれないんですよ!突っ切ります!」


「くぅ…分かった!ナリアさんには近づかせねェッ!!!」


ルビーさんは棍棒を手に北辰烈技會に向かっていき…。


「邪魔すんじゃねぇ!!そこ退けェッ!!」


「ぐぅっ!?こ…こいつ強いぞ!数でかかれ!」


「ぅがぁああああ!!」


決死の勢いだ、そりゃあもう必死の形相で棍棒を振るい敵を薙ぎ倒し僕の道を作るために戦っている。ルビーさん…いくら勇ましいって言っても彼女もまだ子供だ、こんな大規模な戦場が怖くない訳がない…けど。


それでも頑張ってるなら…僕も頑張らないと。


「ここで会ったが百年目…ソフィアフィレイン!ここで消えてもらうぞ!」


「すみません、リーベルタースの皆さん…僕の起こした過ちでこの戦いは始まってしまいました…けれど、僕も責任を取らないといけないんです、だから」


ペンを持ち、魔力を隆起させる…すると僕の魔力が光り始め、周りの砂塵に反射し青い光の粒子となり輝きを持ち始める。


「な…こいつ、なんで魔力だ…」


「四大神衆級か…!」


「謝ります、けど今は…全力を出させてもらいますから」


僕は…弱い。エリスさんやラグナさんのように戦えない、みんなの中で一番弱く、みんなの中で一番実戦経験も浅く、最も弟子であった期間が短い…それが僕だ。


けれどそんな僕だって、必死に食らいついてきたんだ。みんなに置いていかれないように…友達であり続けられるように、対等で居続けるために。


だからたとえ弱くても、友達への責任は果たす!その為の方法は…既にこの手にある!


「『魔術箋』ッ!」


ばら撒く、魔術陣を書き込んだ魔術箋を…八大同盟の盟主イシュキミリが用いた彼だけの技を継承し、仲間を守る為の意志を貫く矛とする。この力は…僕を導く道となる!


「『久那土赫焉(くなどかくえん)』ッ!!」


「なっ!?」


光り輝くは紅の炎。籍を切るように溢れた熱は瞬く間に熱に変わり目の前を閉ざすリーベルタース達を吹き飛ばす。それだけでは飽き足らず更に奥のリーベルタースを、壁を打ち破りイリアの森まで赤の線を引き自らの道を自らで切り開く…。


「例え…弱くたって…僕は僕の力で責任を果たしてみせますから」


(い、いやぁ…強ぉ…!?ナリアさんこんな強かったのかよ…)


呆然とルビーは目の前で巻き起こった現象を見る。どう考えても魔術一発で引き起こされる事象じゃない、というか今の一撃で一体何人やられた?…ナリアさんってもっとこう、か弱い子じゃなかったか?


(いつだったかも戦闘じゃ役に立てないとか言ってたけど…これあたしより強くね…?)


ナリアさんを守る!と息巻いていたが…それさえ必要ないのではと感じボケーっとするルビー。そんなルビーを見て…。


「道が出来ました!ルビーさん行きましょう!」


「あ…あい」


ともかくイリアの森までの道が出来た、ならこのまま一気に突っ込んで……。


「何事だァ!何が起きたァ!!」


すると、ナリアが作った炎の道を閉ざすように…巨漢が現れる。


「ッ!何者!」


「むぅ?貴様北辰烈技會じゃないな…俺はリーベルタース戦闘部隊第二隊長『超武闘派』のケンゼル!敵には容赦せんぜ!」


現れたのはリーベルタースの隊長格、四大神衆の下に着くリーベルタースの大戦力だ。流石に四ツ字級は今の攻撃では倒れてくれないようだ…。


「やべぇ、ケンゼルさんだ…この人めちゃくちゃ強えんだ!」


「むぅ?ルビー!貴様競技に遅刻して何故敵と一緒にいる!ストゥルティ様が心配していたぞ!」


「う……ごめんケンゼルさん!でも事情があるんだ!」


「関係ないわッ!!」


ルビーさんもやり辛そうだ…というかそもそも辛そうだ。そりゃあそうか、リーベルタースは彼女にとって仲間だものな…それが倒されるのを見て平気な顔をしてられるような人間じゃない事を僕はよく知っている地下で仲間達を逢魔ヶ時旅団やソニアから守り続けていたんだから…義理堅さは折り紙付きだ。


そんな彼女に戦わせるわけにはいかない。


「僕が拐かした!批判するなら僕にしろ!」


「言われずともお前をぶっ潰してやるわァッ!!!」


(来るッ!)


さぁどうする、魔術箋は連続使用出来る程まだ練度がない…出来れば魔術陣で対応したいが火力が足りない。それでも戦わないと僕は……。


「邪魔」


「は?───ぐげぇっ!?」


……しかし、僕が何をするまでもなく…ケンゼルは背後から現れた何者かに蹴り飛ばされ遥か彼方に消えていく。というか…この声。


ハッとケンゼルの背後にいた存在に目を向ける。それは…王者の気風を身に纏った……。


「ラグナさん!!」


「ナリア!やっぱナリアだったか!今の魔術!」


ラグナさんだ!僕の魔術を見て…気になって見にきてくれたんだ!なんか…ラグナさんの顔を見たらホッとしてしまった。またこの人に会えたことが嬉しくて…。


「大丈夫か、デティが治癒してくれたけど体力までは戻ってないだろ。こっちはいいからお前は休んで…」


「そうは行きません!今すぐこの戦いを止めたいんです!」


「何?なんで?」


「僕を襲ったの、リーベルタースじゃないんです!」


「え!?なんだって!?だってルビーが……ああ、なるほどね」


シュンとしているルビーさんを見てラグナさんは色々察したのか、やや困ったように頭をぽりぽりかいて少し考えると…。


「いやまぁだとしてもどの道リーベルタースは敵だし、第三戦で一番怖いのはこいつらだ、叩けるなら今叩いておきたい…ナリアを襲ったのがリーベルタースじゃなかったとしてもな」


「それでもです!今ストゥルティを倒すべきじゃないんです!」


「……なんか考えがあるみたいだな、なんだ?聞かせられるやつか?」


「出来れば…この戦いが終わってから、みんなと話したいです」


「なるほどね、分かった…ならこれからどうする?そこも考えてあるか?」


「僕は今からエリスさんを止めに行きます。…僕がエリスさんの忠告を聞かなかったからこうなったんですから、その責任は取りたいですから」


「……責任か、分かったよ。じゃあ俺は他のみんなに話に行くよ」


そう言ってラグナさんは踵を返し…数歩歩いた後、こちらに目を向け。


「ナリア、みんなお前のために怒ってる。そのことに責任を感じろとか反省しろとかは言わない、けど…みんなお前のことが大好きなんだ。あんまり無茶な事をするなよ?」


「はい…ありがとうございます」


「ん、分かったならいい…あとお前を襲ったのって結局誰だったんだ?」


「ロムルスです、ロムルス・フォルティトゥド…」


「……あっちだったか、俺が行くべきだったのは」


そう言いながらラグナさんが視線を向けるのは…サイディリアルのネビュラマキュラ城。まるで最初から標的が分かっていたらそっちに攻め入っていたと…言わんばかりの視線にゾッとする。


「取り敢えず諸々この件については後で話す。ともかくエリス止めてこい…アイツ信じられないくらいブチギレてたから。下手すりゃストゥルティを殺すかもしれん」


「ですね、急ぎます!」


「ああ!頑張れよ!」


そして僕は、ラグナさんと一旦別れ森へと向かう。その後をおずおずとついてくるルビーさんを連れて…。


「ナリアさん」


「ん?なんです?」


僕の隣を走るルビーさんは…ただシュンとしながら下を見ており…。


「あたし…どう責任取ったらいいのかな。あたしが勘違いしたから…こんなとんでもないことになっちまって。リーベルタースのみんなに…被害出して…あたしもうリーベルタースにいられねぇよな…」


「ルビーさん……」


彼女は言っていた、このままじゃみんなに顔向けできないと。だが戦場の有り様を見たら…この戦いを終わらせただけで果たして責任を取り切れるのだろうかと不安になっているんだ。


確かに、彼女からすれば…これは仲間を売った行為と同じ物。下手すればクラン放逐もあり得る大失態だ…、確かに彼女的には辛い立場だ。だが…。


「そこは、誠心誠意謝るしかありませんよ。大丈夫…僕からも説明しますし…僕も一緒に謝りますから」


「うう……」


こういう時は…あれこれ変なことするより、ただ行動を以て責任を取り、ただ真摯に謝るより他ない。誤魔化したり言い訳をしたり…そんな事しても人は許してくれない、なら許されるよう全力を出すしかないんだ。


「さぁ!その責任を取るために!謝るために!止めますよ!エリスさん達を!」


「あ…ああ!」


そして僕達はイリアの森に入る。この先にエリスさん達がいるのが肌で分かる。なんでって……。


『ぅおらぁああああ!!』


『テメェいい加減にしろやッッ!!』


『お前ら二人ともいい加減にするにゃあーッ!!』


声が響いてくる…感じ的にエリスさんとストゥルティと…ネコロアさん?あの人も戦ってるの?あの人強い感じしなかったけど…でも近づけば近づくほど洒落にならない空気が漂い始める。まるで噴火している火山に向かって走っているような…そんな感じだ。


けど止まれない…今ここでストゥルティを倒すわけにはいかないんだ。


「エリスさーん!待って!落ち着いてくださーい!」


そう叫ぶが、まだエリスさんの姿も見えない状態では効果も薄い。もっと近づかないと────。


「『真空断閃』ッ!」


「えっ!?」


「ナリアさん危ねぇッ!」


瞬間、茂みを切り裂いて飛んできた空気の刃が頬を掠める。咄嗟にルビーさんが僕を押し倒してくれたからなんとかなったんだ…けどこれ、これは。


「チッ、外したか…しかしルビー…貴様どういうつもりだ」


「シルヴァさん!待ってください!わけがあるんです!」


現れたのは緑髪の剣士…犬のような鋭い瞳と凛々しい顔つきの刀を持った剣士が茂みの向こうから現れる。この人には見覚えがある…この人四大神衆の一人だ。


『玄冥玄武』のシルヴァ…まずい、よりによってここで四大神衆…!?


「この先でストゥルティ様は戦っている…その露払いを私は任されているんだ。援軍には行かせん」


「ち、違います!僕はこの戦いを終わらせに来たんです!」


「この戦いはすぐに終わる!勝者はストゥルティ様だ!」


「そういうんじゃ…くそっ!」


最早話は聞いてもらえないって感じで切り掛かって来るシルヴァから逃げるように飛ぶ。ルビーさんと一緒にその場から飛び、くるりと身を翻し木を蹴って更に上に。そのまま枝を掴んでぐるりと逆上がり、そうやって枝の上に立つと…シルヴァは目を細めてこちらを見て。


「身軽だな…猿か何かか?」


「役者です!役者のナリア!敵意はありません…」


「ふざけるな、さっきの炎はお前のだろう!」


「そうです!戦いを終わらせるためにやりました!攻撃したし何人も倒したし今ここで貴方を突破して先に進むつもりですが!敵意はないんです!」


「だから言っているだろう!ふざけるなと!」


分かってるよ、ふざけた事を言ってふざけた事をしてるのは。矛盾してるし拗れている、けどそれ以外この戦いを終わらせる方法がないなら…敵意があろうがなかろうが、僕は戦いますよ。


弱音ばかり吐いて戦いから逃げようとする程…僕は弱いつもりはありませんから!


「待ってくれシルヴァさん!」


「ルビー…退け!そこを!」


しかし、そんな僕を庇うようにルビーさんは前に立ち両手を広げる。それには流石のシルヴァも足を止め…。


「違うんだよシルヴァさん!こいつは嘘をつく奴でもないし!人をおちょくる奴でもない!あたしはよく知ってんだ!」


「お前が知っているか知っていないかは関係ない!」


「ナリアさんは…この戦いを終わらせようとしてる、そもそもエリスさん達がリーベルタースに攻撃を仕掛けたのは…あたしが!みんなを売ったからなんだ!」


「なんだと…!」


シルヴァの刀を持つ手に力が籠る…売った、それはつまり裏切りだ。今の状況も相待ってその言葉はあまりにも信憑性が高すぎる…。


「どういうつもりだ…」


「……あたし、元々地下に居たって話だよな。その時…ナリアさんはなんでか知らんけど酒場で働いててさ、そこで彼の歌を聞いて…ファンになって、その上助けてもらった。あたしはこの人に恩がある!けどその人が…昨日の夜街の真ん中で倒れてた、重傷を負ってた!それを見てあたし…てっきり、リーベルタースのみんながやったもんだと…」


「何をバカな!ストゥルティ様がそんな事……するわけがないとは言えないが!やってない!」


「そうだよ!やってない!あたしは勘違いでみんなを売っちまった!エリスさん達を勘違いさせて戦わせちまった!エリスさん達が怖くて言っちまった!このままじゃあたし!ただの臆病な裏切りモンだ!…だから、せめてナリアさんと一緒に…誤解を解きたい、それがあたしの責任の取り方だから!」


「…………」


シルヴァはルビーさんの話を聞いて…ゆっくりと刀を下ろす、まだ表情は険しいが…それでも問答無用というわけではないようで、その話をゆっくり咀嚼し…飲み込んで。


「……お前の言いたいことは分かった。正直…どうかと思う点はいくつかある、真っ先に我々を疑ったのも…だがそれは我々の大冒険祭での行いが、お前の不信を招いた結果だ…一概に責められない」


「シルヴァさん…!」


「……よく誤魔化さず言ったな、責任を取りたいというお前の言葉を私は強く受け止めるぞ。謝るならば私も一緒にストゥルティ様に謝ろう。みんなにもな」


よく言ったとルビーの頭を撫でるシルヴァさんは小さく微笑む。聞き入れてくれた…仲間の言葉だから。ルビーさんはどうやらリーベルタースで可愛がられているようだ…それを見られて、なんとなく良かったと思ったその時だった。


「だが…」


「え…!?」


その瞬間シルヴァはルビーさんの肩を掴み横に押しのけ僕に刃を向けると…。


「だとしても、こいつは敵だ。今我々は敵と戦っている…大人しく通してやる義理はない!」


「……やっぱそうなりますよね」


そこはラグナさん達と一緒だ。いくら戦う理由が誤解だからって僕達はそもそも敵同士なんだ、そこは変わらない…だから例えルビーさんの言葉を聞き入れたとしても僕を斬ることに変わりはないんだ。


「ま、待ってくれって!ナリアさんはただ誤解を解いて戦いを終わらせようと…」


「そこは分かった、だがそれでも戦いを止める理由にはならない…ストゥルティ様は勝つ。そして我々も勝つ、この戦いで雌雄を決する!その邪魔はさせん!」


「シルヴァさん!」


「黙っていろルビー!」


シルヴァは刀を振るい、一気に僕に迫ってくる…戦いは避けられないか、なら仕方ない!ここでこの人を倒して進むしか──。


「だから!!」


が、しかし…シルヴァの刃は僕に届かず、棍棒に防がれることになる。…僕の前に割り込んだ彼女が防いだのだ…。


「待てよって言ってんだろ!」


「ルビー…!お前…どこまでもそいつを庇うか!」


ルビーさんだ、咄嗟に反転して僕を守る為に棍棒を振るってくれたんだ。シルヴァと鍔迫り合いをしながら、一歩も引かないとばかりに強く力を込め…肩越しに僕を見る。


「ナリアさん!ここはあたしが請け負うから!早く!誤解を解いてきてくれ!」


「ルビーさん…!」


「シルヴァさんの言いたいことは分かる!ここで決着つけたいって!つけるべきだと!思う!けど…それはこんな状況でじゃないだろ!誤解で始まった戦いでなんて決着をつけたくない!やるなら競技でつけたいよ!あたしは!」


「ルビー!そこまで言うのなら最早容赦はせんぞ!」


「いい!してくれなくて!これがあたしの責任の取り方だから!あたしはエリスさんにもリーベルタースにも責任を取る!だから…一歩も引かない!」


打ち合う、ルビーさんの重撃とシルヴァの剣撃が目の前で火花を散らす…シルヴァは言葉通り容赦する気配はない。何よりエリスさんの言葉通りならシルヴァは覚醒を会得してる!ルビーさんじゃ勝てない!


けど……けど!


「わかりました!!」


それでも僕は進むしかない、彼女の覚悟を無駄にしない為にも…!


「エリスさーん!待ってください!!」


「へっ…行ったか!」


「余所見をするなといつも言ってるだろ!ルビー!」


「ぐぅっ!?」


金属音を立ててシルヴァの棍棒が弾かれ吹き飛ぶ、その瞬間シルヴァの峰打ちが炸裂し…。


「ぐぁーっ!?」


体も吹き飛ばされ、木に叩きつけられ座り込む…やはり強いと、やはり敵わないと、ルビーは痛感する…。


「フンッ、覚悟はいいが…些か無茶が過ぎたな。今から間に合うか…?」


自分は強いと思っていた、地下ではほとんど無敵だったから。けどそれは…いつかエリスさんの言ったように力無い人たちに力を振るっていたからなんだ。決してあたしが強い…と言うことにはならないんだ。


自分はまだまだだ…だけどさ、それでもさ!


「ダメだぁーっ!!」


「むっ」


咄嗟にナリアさんを追おうとしたシルヴァさんの足に掴み掛かり首を振る、ダメだと…行かないでくれと。


「やめてくれ!あの子に行かせてやってくれ!」


「ええい!離れろ!いい加減にするんだルビー!」


「頼む!頼むよ!あたし約束したんだナリアさんを守るって!あたしもう裏切り者になりなくないんだよ!一回請け負ったら!死んでもやり遂げるのが冒険者なんだろ!?だったらあたし!引けないよぉっ!」


「ぐっ…!我儘を言うな!」


「ぁぐぅっ!?」


終いには殴り飛ばされ地面を転がる…それでも、あたしはナリアさんを守らなきゃいけないんだ。そこについては…まだ守れてないから。もう不義理は働きたくない、もうこんな思いはしたくない。だからせめて…ここだけでも今は守らせて欲しいんだ。


「もう二度と裏切り者にならないことが!あたしの責任の取り方なんだよぉ!」


「喧しいと言っている!」


再び食らいつこうとするが、今度は蹴り飛ばされ…吹き飛ばされる。…ダメだ、止められない。シルヴァさんならナリアさんにすぐに追いつく、そうしたらあたし…本格的に何もできないただのホラ吹きになる。


ダメだ…ダメだ!


「行かないで…!シルヴァさん!」


「断る、何故そうも意固地になる」


「ッ約束!したから!…約束守らなきゃ…グズになるから!」


「………気にし過ぎだ」


それでも足を止めないシルヴァさんは、ゆっくりと腰を落とし加速の体勢に入り…ああ、ダメだ…もう止められ───。


「『魔衝斬』ッッ!!」


「ッ何!?」


しかし、その瞬間天より飛んできた斬撃が…シルヴァさんの足を止める。咄嗟に後ろに飛んだシルヴァさんは刀を構え直し…。


「何者だ!」


「同じく!約束したモンだよッ!!」


「ッ貴様は!!」


そしてそのまま空から降ってきたのは…エリスさんと同じ金髪を持つ男。あたしを冒険者協会に導いてくれた…。


「す、ステュクス…!」


「ようルビー!何してるか知らないけどさ!シルヴァを足止めしたいんだろ!バトンタッチだ!よく持ち堪えた!」


ステュクスだ、ほ…本当にこの姉弟は…マジで、あたしがやばくなったら助けに来てくれるんだな…。


「ステュクスッッ!!貴様よく私の前に顔を出せたな!」


「しょうがねぇだろ!姉貴達が突っ込んだ手前!俺だけ怖いとか言って逃げられねぇ!何より!そのおっかねぇ姉貴から頼まれてんだよ…」


ステュクスはそのまま剣を構え、ギロリとシルヴァを睨みつけながら…吠える。


「ルビーちゃんをよろしく…ってなァッ!状況は分からねーけど!ルビーがやろうとしてること!俺が代わりにやってやるくらいの気概は見せなきゃならねーだろうが!!」


「ほざけッッ!!殺してやるぞステュクス・ディスパテルッ!」


「死なねぇんだよ俺は!これでもな!」


弾け飛ぶ火花と斬撃、剣の達人の謳われるシルヴァさんの斬撃を受けてもなおステュクスは揺らぐことなく全てを的確に対処していく。強い…なんでいつもあんなにオドオドしてるのか分からないくらい強い!


「そらっ!籠手落とし!」


「ぐっ!?」


そしてシルヴァさんの斬撃を弾き切ったステュクスは剣の腹でシルヴァさんの腕を叩き刀を弾き落とし…。


「一本!ってな…」


「見事…余程良い剣の師を持ったと見える」


「ああ、なんせ世界最強の師匠さ…悪いが剣の張り合いじゃ負けられねぇよ?俺は」


「フッ、だが…一本取っただけで!勝ったと思うな!」


即座に背中から隠していた刀を抜き放ちステュクスに再び斬りかかる…、ただ渡り合うステュクスさんとシルヴァさんを呆然と見守る。あたしが持ち堪えたから…ステュクスさんが間に合った?


……でもあたし、やっぱり…何にも出来てなかったな。くそ……。



……………………………………………………………


「火雷招ッッ!!」


「効かんにゃ!『ぷにぷに防壁』!」


「だぁぁーーっ!それクソうざいから今から禁止です!次使ったら罰金!」


「知るかーッ!!」


「テメェら二人とも仲良く消えろや!『エクセルシオール・アッシュエンド』ッ!」


「ぎゃはー!やばいにゃー!」


「チッ!」


森の最奥で激突する三者、エリス…ストゥルティ…ネコロアの三人の戦いは膠着状態にあった。いずれかの組みがタイマンであったなら恐らくもう決着はついていた…だが。


エリスの勢いはストゥルティに勝るがネコロアの弾性のある防壁に手を焼き。


ストゥルティはネコロアの弾性防壁を切り裂ける力を持つがエリスの勢いに手を焼き。


ネコロアはエリスの攻撃に対処出来るがストゥルティの攻撃に対し明確な防御手段を持たない。


この奇妙な三すくみが奇跡的な膠着を作り上げていた。現状千日手だ…このまま行けばイリアの森どころか付近一帯を消し飛ばすまで戦いは終わらない。


「冥王乱舞!一拳!」


「『閃電ニャンニャン』!からの『水母ニャンニャン』ッ!!」


「邪魔だクソ共!『ディアナサン・バスティーユ』ッ!!」


エリスの拳が大地を揺らし、弾性により弾き出した水砲弾がネコロアを中心にばら撒かれ、それを全て断ち切るストゥルティの斬撃の雨が何もかもを細切れにする。その戦いの勢いはイリヤ山を掘削し削っていく程の勢いだ。


辺りには魔術の流れ弾や瓦礫の雨が降り注ぐ…まさしく地獄の様相。四大神衆ですから近づけない…そんな地獄を走るのは。


「エリスさん!エリスさーん!」


ナリアだ、飛来する瓦礫や魔術を避けながら高速で移動し戦うエリスを追いかける。


(なんてハイレベルな戦いなんだ。とてもじゃないが物理的に止められる気がしない!)


分かっていたが僕が魔術で介入して…なんて段階じゃない、というか下手に魔術を撃ったらそれだけで敵対行動と見做されて三人から迎撃が飛んできそうだ…。


でも……。


『ストゥルティ!!絶対後悔させてやる!ボコボコに痛めつけて!エリスの友達を傷つけたことを!一生忘れられないようにしてやるッッ!!』


(エリスさん……)


あの人は、ずっと変わらない。今天空で一人戦うエリスさんは最初出会った時とずっと変わらないんだ。


思えば僕とエリスさんが最初に出会ったのも、勘違いしたエリスさんが僕を助けたから。その後もエリスさんはずっと僕を助けてくれた…それは僕が助けられるような情けない奴だからってのもあるかもしれないが、それだけじゃない。


あの人はいつだって誰かの為に戦ってきたから、あの人にとってあれは当たり前のことなんだ…だからこそ、尊い。


あの人の在り方が、あまりにも尊いのだ。


(エリスさんに恥じない人間として…責任を取らなきゃ!)


だからこそ止めなければならない、僕は…この戦いを!


「よっと!」


木の上に飛び乗りエリスさん達を見据える。このまま行けば多分追いつける…けどどうやって止める。一度頭に血が昇ったエリスさんを止めるのは難しい、何よりストゥルティもネコロアも切れてる…みんな激怒してる。


あれを諌めるのは至難の技…けど。


(怒り…それもまた感情、であるならば鎮める手段はある…それを見せれば、示せば、止められるはずだ)


拳を握る、怒りは最も強い感情だ…簡単には消せないし相反する感情も不確かで曖昧なもの、だけど!大丈夫…それなら今この胸にある!


(さぁいくぞ!『勇気』を振り絞れ!)


飛び上がると同時に足の裏に魔力を通し、靴の裏に刻んだ魔術陣を起動させ天を蹴る。それにより僕の体は空に浮かび上がる…。


いつか僕はエリスさんが飛んでいるのを見て、驚いた。魔術で空が飛べるなんてと驚いたが…今僕はようやくあの時のエリスさんに並べたような気がして。


ますます勇気が湧いてくる、よし!止めるぞ!


「エリスさーーーーん!!」


『ぅがぁあああああ!全員ボコボコにしてやるぅ!!』


『暴れすぎだろ!テメェ!』


『くぅ!ヤベェ奴だにゃ!けどこれで終わりにしてやるにゃ!』


三人が僕の目の前でそれぞれ一撃の準備を始める、魔力をかき集め相手を吹き飛ばそうとしている…だがそれは逆を言えば、雨のように続け様に降り注いでいた攻撃の礫が止まったことを意味する。


一瞬の穴、一瞬の静寂…そこに僕は。


「冥王乱舞…!」


エリスさんが両手に魔力を込める。


「『ディアマンテ…!」


ストゥルティが鎌を大きく振りかぶる。


「『碧霞元君(へきかげんくん)…!」


ネコロアの杖の先に巨大な肉球型の魔力弾が収束する。


あれがぶつかれば凄まじい衝撃波が発生するだろう、その衝撃波に僕は飲まれ吹き飛ばされるだろう…だがそれでも今、ここに一瞬の隙があるなら。


勇気を振り絞れ!飛び込め!身を捧げろッッ!!


「『大魔道』ッ!!」


「『グリムリーパー』ッ!」


「『天仙ニャンニャン』ッ!!」


「待ってくださーーーーーーいッッ!!」


魔術が放たれた瞬間…僕は三人の間に飛び込む、三つの魔力がぶつかる丁度中心地に…僕は飛び込んだのだ。


それにようやくエリスさんや他のみんなは気がつき。


「ナリアさん!?…ぐっ!?」


「誰だお前!?」


「お前は…ッ!」


咄嗟にエリスさんは気がつき無理矢理魔力を捻じ曲げ方向をずらす…がそれでも動かないのはストゥルティだ、ストゥルティの魔力波が僕に向かい…。


ッダメか!


「『ぷにぷに防壁・捌受』ッ!」


しかし、ぷにぷにとした柔らかい防壁が僕を包み…ストゥルティの魔力波をぐにゃりと歪め受け流す…これって、ネコロアさんが…!?


「ッ…はぁ…はぁ…!」


気がつけば、三人の攻撃は逸れ…僕は今も五体満足でいる。助かったぁ…この三人なら、この三人の腕前ならなんとかなると踏んでたけど、危なかったぁ……。


「ッナリアさん!?貴方ここで何を!」


「そうにゃ!危ねぇにゃ!他所行くにゃ!」


「………なんだこいつ」


でも、おかげで三人の注目は集まった。計画通り…声をかけても止まらないなら、三人が驚いて止まるくらいの事を、行動で示さなきゃ行けないと思ったんだ…だから。


止められた…!


「皆さん!一旦落ち着いてください!エリスさん!僕はストゥルティ達にやられたわけじゃありません!」


「え…!?そうなんですか!?」


「はい!そして…ネコロアさんも、ストゥルティさんも…一旦戦うのをやめてください!」


「……お前」


すると、ストゥルティは目を見開いて僕を見て…眉を顰めると。


「お前、それを言うためだけに…割り込んだのかよ」


そう言うんだ、ただ待ってくれと言うためだけに…あの魔力の奔流の中に身を投じたのかと、だが…ああその通りだ、たったそれだけの為だとも。


「はい、…今は一旦。僕の話を聞いてくれませんか」


「………はぁ、参ったね。俺そう言うのに弱えんだわ…つーかなんかというかやっぱりと言うか、誤解があったみたいだな…こっちとしては誤解もクソもない理由でキレてるわけだが、テメェの漢気に免じて聞いてやるよ…なんだ」


「つーか我輩としては戦う理由とかもうないにゃ…だって宝玉壊れたし…」


どうやらストゥルティとネコロアさんも納得してくれたようで、矛を収めてくれる。よかった…話を聞いてくれるようだ、なら…まずは。


「まずはエリスさん、すみませんでした!エリスさんの言った通り襲撃を受けてしまいました!」


「それはいいんです!エリスも強く止めませんでしたしあれしかありませんでしたから…それで、誰に襲われたんですか」


「そして次に!ストゥルティさん達!すみませんでした!僕が迂闊なことしたからエリスさん達を誤解させて戦いになってしまいました!」


「別にいーよ、どの道そこの暴れ馬は潰すつもりだったし」


「そこの暴れ牛が暴れたせいで第三戦はおじゃんだにゃ、謝るなら運営に謝れにゃ」


「それともう一つ…ストゥルティさん!僕を襲ったのは…ロムルス・フォルティトゥドです!だから、すみません!ロムルスと戦うのに力を貸してくれませんか!」


「……なんだと?」


それは休戦協定…つまるところロムルスとの戦いに備えて、彼の力が必要だと感じたから。


そう、これは…この一連の行動は全て、エリスさん達に対する責任の取り方であり、ストゥルティという男に協力を申し込む為の行動。


それはロムルスという男に対して、戦いを挑む為。聞けば彼は元フォルティトゥド…ならロムルスと戦うのに、彼の助力が必要だと感じたから。


…そうだ、もう手段は選んでいられないんだ、何がなんでもロムルスを倒さないといけないんだ。それは襲撃を受けた腹いせじゃない…。


「実は…僕の大切な人が!ロムルスに攫われたかもしれないんです!」


「…………」


それは…アルタミラさんの事だ。目が覚めた時既に周りにアルタミラさんはいなかった、とすると…もしかしたら攫われたかもしれない。


あの状況を考えるに、まだ帰っていないのだとするなら…アルタミラさんはロムルスに攫われた可能性が高い。まだわからないけれどもしそうだとするなら、僕は戦わなきゃ行けない。


何がなんでも、アルタミラさんを救うと決めたから。


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