617.対決 第四刃『崇高』のアナフェマ
「信じられない、魔術界の冒涜だ」
それが呪いの始まりだった。
『あの家は魔術師の敵だよ、自分が作った魔術が受け入れられないからって、認可されてない自分の魔術を使って大暴れしたそうだよ』
『自身で研究して作った魔術が可愛いのは分かるが、だからってそれで暴れるのはねぇ』
『ただでさえ魔術研究に否定的な声が大きくなってるのに、魔術解放団体をまた調子づかせるじゃないか』
『やってくれたよ、あの魔術師一家は』
父は魔術師だった、魔術を作って認可されて、そのお金で暮らすことを目的に一つの魔術を作り上げた。内容は至って単純な炎魔術だ、ただ先に可燃性の液体を出してそれを小さな炎で燃やすと言うプロセスを挟むことにより単純に炎を出す魔術よりも高い火力と少ない消費を実現した画期的な魔術だった。
父はこの魔術に自信があった、認可されればそれだけでお金がもらえる。狙ったのは更にその先の軍部使用、軍で使われれば使用許可料が軍から大量に支払われる、上手くいけば何処かの軍お抱えの魔術開発者になれると息巻いていた。
しかし結果は不認可。最初に出す可燃性の液体が問題だった、これは油ではなく燃えると非常に毒性の高いガスを発生させるようで、単一での使用なら問題はないが連続使用すると術者及び意図しない第三者にも被害が及ぶと言うことで認可されなかった。
父は荒れた、一般的な魔術師にとって一つの魔術を組み上げる作業というのは過酷で時間も設備費もかかる。ここまで来るのに払った代価の答えが『そもそも発想がダメ』という淡白な答え。
結果父は酒浸りになり、挙句酒によってその魔術を乱発した。魔術界への文句を吐きながら民間施設で大暴れした、その結果の被害と死傷者の数は言うまでもない。
父は捕まり、我が家は終わった。更に最悪だったのが…その時私が魔術師を目指していたと言うこと。
『あんたの所のお父さん魔術犯罪者なんだってね』
『魔術を用いて犯罪を行った親族がいるのは魔術導皇的にも心象が悪いし、魔術師としてやっていくのは難しいのではないかな』
『魔術で生きていくのはやめた方がいいよ』
私には、数多くの罵詈雑言が浴びせられた。私と父は別人なのに、私何にも悪いことしてないのに、みんな私を悪く言う。父と同じ魔術師だからって父の汚名が私の汚名のように語られた。
『魔術師をやめろ、君の父のせいで迷惑を被った奴は大勢いる、また君が同じことをしないとも限らない』
『父親の責任は子供が取るべきだ』
『魔術を極めて何をするつもりだ?確かに才能はあるが…君は親が親だからね』
何処へ行ってもこうだった、魔術学校でも、そこを卒業して魔術学会に入っても、こうだった。真面目にやってるだけでなんでここまで言われなきゃいけないんだ。
狂いそうだった、虚構の罪で責め立てられると言うのは。
狂いそうだった、夢と現実のギャップをひたすら叩きつけられるのは。
狂いそうだった、父は檻に入れられ、母は自暴自棄になり、幸せな家庭も何もかも失い独りで生きていくのは。
狂いそうだった、誰も助けてくれずただ一人私が悪いと言う漠然としたイメージを押し付けられるのは。
狂いそうだった、そこまで私を悪者にするなら本当に悪いことをしてやろうかと思う心と、父と同じになりたくないという二つの心を押さえるのは。
狂いそうだった、狂いそうだった、狂いそうだった。
『気持ちは分かるよ、父親の名前を擦りつけられると言うのは苦しいよね』
「……え?」
その日、私は狂わされた。
「私はそれを魔術界の歪みだと思うんだ。魔術界は魔術師に自己を犠牲にする程の研鑽と努力を強いいる癖に、いざそれ程の努力を見せたとしても報われることはない。寧ろ冷たく突き放し、何か失敗をすればそうでで指を差す…酷く醜く、唾棄すべき文化と風潮が漂う世界だと私は思ってる」
彼とは偶然出会った、魔術学会を抜ける選択をした帰り道…自暴自棄になり裏路地をブラブラ歩いていると、表通りから私に向けて語りかけてきた彼と私は話をした。
彼は不思議な魅力を持っていて、私は何故か全てを話してしまった。すると彼は分かると大きく頷き、私を否定せず私の生い立ちを知っても悪者扱いせず、寧ろ…。
「君は魔術界の被害者だ、怒るべきは君なんだ」
そう、言ってくれた。涙ながらに彼の手を取りお礼を言った、なんでお礼を言うのか分からないけどそれ程までに私の心は打ちのめされていて、肯定してもらえるだけでこれ以上なく嬉しかったんだ。
すると彼もまた全てを語ってくれた。彼は今表では魔術研究者として活動しながらも、魔術をこの世から消し去りより良い世の中を作ろうと活動していると、とんでも無いことを告白してくれた。
「魔術界は歪み切っている。その始まりは八千年前、八千年間変革の起こらなかった界隈にどうして今更改善が見込めようか。私はこの魔術界を完全に廃し新たな世界を作るつもりでいる、君のような被害者をこれ以上作らない為にね…どうだろう、私と来てくれるかい?」
それは誘いだった、私に魔術をこの世から消し去る為の活動を手伝ってくれと言う。仮にも魔術一家と呼ばれ、魔術師を目指し、魔術学校に通い魔術学会に入っていた私に向かって、今までの全てを否定しろと彼は言ってきた。
思わず私は私でいいのかと聞いた、すると彼は。
「君だからこそだ、なんとなく…君の生い立ちは私に似てる。だから君にならなんでも話せそうだし、一緒にやっていけそうだ。勿論君の意思を尊重するが…どうかな」
私だからこそ、私だからこそ、その言葉は嬉しかった。だって今の今まで誰も私を見てなかったから、みんな私を通して父を見ていた、私は父の娘という存在でしかなかった。
だから私は、思ったんだ…どうせみんな私を見てくれない、なら私を見てくれる人の側にいようって。だから私は大きく頷き…彼についていくことにした。
「あ、あぅあ…あっあっ、あの…」
「何かな?」
「名前、あ…お名前聞いてもいいでしか、ですか」
「私の名前?ああ、イシュキミリだよ、君の名前は?」
「わ、私は…アナフェマです」
キュッと胸元を掴んで勇気を振り絞りながら、私は…アナフェマは名乗り、彼…イシュキミリについていく決断をした。彼の下で戦う決断をした。
私はある意味、裏切り者だ、みんな言うよ。やはり狂ったかって…そうだよ、狂ったよ、狂わされたよ。けど…狂わせたのはお前らだろ。
なら私は生きるよ、私の狂気を肯定してくれる…この人と。
………………………………………………………
「『ブリンガー・ソードアロー』」
「あぶねぇぇえええ!!」
暗い天井を切り裂くように光が集い、光の剣群となり雨のように降り注ぐ。追ってくる剣の雨、そいつから逃げる、手足を振って全力で走る。いやこいつ強いんですけど!
「逃げないでください!当たらないでしょ!」
「当たりたくねぇから逃げてんだろダボがッ!」
「ひぃん!大きい声出さないでください狂うぅうううう!」
「テメェの方が声デケェって!」
ラグナ達を逃す為、地下迷宮内部で襲って来たアナフェマを一人請け負った俺ことアマルトさんはですね、アナフェマを抱えて粘土みたいに歪んだ迷宮に突っ込み地面を切り裂き地下奥深くに突っ込んだ。
その後ドロドロに溶けた地面を抜けて俺とアナフェマが落ちたのは謎の巨大空間。真っ暗で暗視の魔眼がないと何も見えない空間だ、ただ石畳と柱だけがズーンと広がるこの空間。謎の巨大な神像があるこの部屋がなんの部屋かは分からない。
シュレインは特定の神を祀る宗教じゃ無いくせして神像がある。多分こいつはアレだ、なんか宗教的に表沙汰に出来ない部屋かなんかだと思う。所謂隠し部屋。そこに落ちた俺とアナフェマは二人でどうやって脱出しようか相談した…なんてことあるわけねぇよな。
アナフェマは既に敵意ムンムン、言葉を交わすまでもなく俺達の戦いは幕を開けたんだ。
「『ウォータースパイラル』ッ!」
「ちぃっ!」
地面に発生した水の渦に足を取られながらも俺は空に跳躍して考える。俺がここにあてがわれたのはアナフェマが現代呪術使いだと想定されているから、俺ならアナフェマの現代呪術に対抗できるから、だったんだが…。
アナフェマ、こいつ俺に対して全く現代呪術を使わない。普通に現代属性魔術を使って攻撃してくる、まぁそれしかないからそうするんだろうけどさ…強いんだこれが、アナフェマのやつ。普通に魔術師としてあまりに強い。
こうなると俺の優位性がまるで無くなる、困ったぞ?メタ張ったつもりが普通に実力勝負で負けそうだ。
「おいアナフェマ!」
「ななな!なんですか!?急に話かけて来られると狂うんですが!」
「お前!現代呪術使えよ!」
「え!?あ…え!?なんで!?効かないじゃないですか!分かってますからね!使わず倒します!」
ダメか、と諦めながら俺は地面に着地し黒剣を手元で回す、参ったな。俺遠距離戦苦手なんだよな、かと言ってあの現代魔術の雨を掻い潜って接近出来るかと言えばそれも難しい。
アナフェマは現代魔術を使わせても一流だ。
(まぁ、街ひっくり返す勢いの岩盤を作れたりするし、そもそもこいつも八大同盟幹部。容易くはねぇか…さぁてどう勝つ方かな)
「私を!揺さぶろうとしても無駄ですから!私は貴方を倒して会長の邪魔をしようとする奴ら全部倒しに行きたいんですから!」
「会長ってイシュキミリのことだよな。慕ってんだなアイツのこと」
「当たり前です!あの人は私を狂わせたんですから!」
「慕う理由になるかそれ…はぁ」
チッ…キンキン喧しい女だ、俺は友達でもないのに距離感の近い女とやたらと喧しい女は嫌いなんだよ。いやこれは女に限定しねぇな、距離感の近い男も喧しい男も嫌いだわ俺。
しゃあねぇ、ここで話してても気分悪いだけだ。練習途中だが…色々試すか。
「アナフェマよい、お前さ。分かってるか?」
「な、なんですか…」
「俺は今からお前をぶちのめす。俺は今とても機嫌が悪い…テメェが会長会長言うようによ、こちとらダチ攫われた上に処刑宣言までされてんだ、そこを無かった事には出来ねぇからさ、当然邪魔するんなら普通に地獄見せる。そこんところの覚悟は出来てんのかって聞いてんだよ」
正直やりづらいところはある、こいつは気弱でヒンヒン泣きながら戦うタイプだ、擦り傷の一つでもつけた途端ギャンギャン泣かれでもしたら気分が悪い。だからビビるならここで引けと告げるが…その瞬間アナフェマの目が据わり。
「覚悟なら普通に出来てます、私会長の為なら死ねますしこう言う修羅場も初めてじゃないです。寧ろ貴方も覚悟出来てるんですよね、会長は貴方達を殺さず捕えろと言っていましたが会長の敵を生かしておくほど私…我慢強くないですから」
「へぇ…」
なんだ、根性あるんじゃん。じゃあ普通に…。
「遠慮なく言ってもいいよなッ!」
「ッ来た、速い…」
走る、一直線にでは無くジグザグと狙いを定めさせないように…、こいつの魔術の打ち方はもうここまでで結構見てきた、ある程度クセは把握したし…多分いける!
「『ブリンガー・ソードアロー』!」
「甘いんだなこれが!」
アナフェマの周囲に漂う光の剣、それが凄まじい速さで飛来するが物理系の魔術は普通に弾ける!こっちも剣を振り一刀で光剣を引き裂き構う事なく進む。するとアナフェマは巨大な杖をグルグルと振り回し。
「『アーストランポリン』!」
「あぇっ!?」
叩いた大地が波打ちボインと音を立ててアナフェマの体が弾む、と同時に変に揺れた大地足を取られ俺はバランスを崩す。
いや芸達者!すげぇ芸が多いな!だから苦手なんだよな魔術師タイプってやつはさ!何してくるか分からない怖さがあるんだ!
「速い、足が速い、詰められたら対処出来ない、拡散攻撃はダメ、だから…」
さっきまで狂うだなんだとピィーピィー言ってたとは思えないくらい冷静にこちらを見て視線をカクカクと動かすアナフェマはそのまま杖をこちらに向け。
「地表を焼き払う…『ボーダーフラッシュバースト』」
「やべ…」
光が集う、あれはデティとの組み手で見たことがある。確か普通に熱線を放って攻撃する魔術、それを空中から地面に向けて…こいつは避けられねぇ上に弾けねぇ!
「遍射ッ!」
魔力により発生させた光を一点集中でアマルトに放ち地面を纏めて焼き払い眼下を一気に破砕する。魔術戦の練度ならばマゲイアが勝る、されど純粋な魔術の腕ならば…アナフェマが勝るだろう。
イシュキミリはメサイア・アルカンシエル会長に就任する際、真に頼れる仲間を求めた。それはカルウェナンのような力を持つ者とマゲイアのような魔術の腕を持つ者、それがセーフとアナフェマなのだ。
アナフェマはイシュキミリの期待に応える実力を持つ。やや不安定ではあるものの、それでもイシュキミリが幹部を任せられると思うに足るだけの実力があるのだ。
「ふぅー……終わったか」
ギロリとアナフェマが見つめる先には黒煙が滾る、今の一撃は避けられないし弾けない、これならアマルトも────。
「ぐっ!?何!?」
しかし、その瞬間だ。黒煙を切り裂いて飛んできた何かがアナフェマに飛来し、咄嗟に杖を動かし弾くも頬を掠めアナフェマの血が垂れる。瓦礫が飛んできたと言うにはあまりに鋭利かつ狙いも的確、つまり…。
「外したかぁ〜、ノールックってのは難しいな」
「無事…いや防壁か!」
煙の先にいたのは防壁を展開したアマルトの姿があった。光に降り注ぐ瞬間に前面に防壁を展開し爆風を防いでいたのだ。しかしそれ以上に驚きなのは…。
「弓…黒い弓!?」
アマルトの手に握られていたのは、先程までの黒剣ではなく…弓だ、黒い弓が握られている。そこにアナフェマは驚く…ってことは、やはりイシュキミリからある程度の情報は受け取っていると言うことかとアマルトは密かに口をモゴモゴさせる。
そう、これは俺が密かに練習していた『呪装・黒呪ノ血剣』の派生系。そもそもこの呪術は血を固めて剣を作る呪術ではなく、使用者のスタイルに合わせて凡ゆる武器を作る武装補助呪術なのだ。
例えばイオが使うと黒血槍が出来る、お師匠が作ると黒血鎌が出来る。俺は剣が得意だから剣を作ってるってだけで…やろうと思えば槍にも鎌にも出来る、けど別に槍も鎌も使わんし、作らなくていいかぁって感じだったんだが。
芸は多いに越したことはない、ってんでこの修行期間に色々練習してたのさ。俺の持つマルンの短剣を元に弓を作り、血を固めて鏃を作れば…いくらでも矢を用意出来るのさ。
名付けて!『呪装・黒呪ノ血器』…俺の技はもう剣だけに囚われない!まぁ一番得意なのは剣だけどさ。
「さぁドンドン行くぜ!『黒呪禍閃』ッ!」
血で矢を作り、空中のアナフェマを狙い狙撃を行う、これもまた古式呪術…威力はそんじょそこらの弓矢とは隔絶してるぜ!
「弓矢…ハッ、そんなの当たりませんよぉッ!『オーラウイング』ッ!」
しかしアナフェマはその矢を笑い、空中で旋回すると共に背中に羽を作り出し空を高速で飛び回り矢を回避するのだ、空飛べる魔術とかあるのか?いやただ滑空してるだけか、それに魔力噴射を合わせて空飛んでるように見せてるだけ、エリスみたいに自由に飛べるわけじゃないのか。
なら…なんとかなるな。
「あははーっ!チマチマ弓矢で攻撃してなさいよ〜!私には全然当たりませんから〜〜…あ?」
その瞬間、アナフェマは気がつく…先程回避した矢が、アナフェマから外れた後天井に向けて飛び、その天井に突き刺さる寸前で停止したのを。それと同時に停止した矢がクルリと矛先を変え、こちらに向かって飛んでくるのを…。
「えぇ!?矢が勝手に動いて…ぐっ!」
再びこちらに飛んできた矢を杖で弾き、その衝撃波により地面に叩きつけられるアナフェマは仰天しつつも弾いた矢の行方を見る、…確かに今追尾してきた。そう驚いているようだ、だが当然だろう。
「何驚いてんだよ、その矢だって呪術で作った立派な魔術だ。追尾くらいするぜ」
「あり得ない…そんな、あそこまでの追尾が出来るわけ、しかも呪術で…ハッ!」
その瞬間アナフェマは己の頬を指で撫でる、そこには一発目の矢が掠った跡がある。どうやら気がついたか…そうさ、呪術は対象の肉体にリンクを取り付けることで必中となる。そのリンクの条件もたくさんあるが一番は相手に己の血を取り込ませること。
俺の血で出来たこの矢は、当たるだけで傷口から微量の血結晶が入り…呪術のリンク条件となる。つまりさっき掠っただけでこいつは既に俺の呪術から逃げられないのさ。
「チッ、いやらしい魔術使いますねっ!」
「お前が言うかよ、お前だって現代呪術使いだろ」
「そりゃそうなんですけどね…それ!『アンチビーム』!」
「あ!ちょっ!ぎゃっ!?」
「……やっぱり効きませんか」
なんなんだこいつ、嫌がらせで現代呪術撃ってきたのか?だが生憎様、俺ぁお師匠から呪われまくって耐性出来てんだ。自分より下位の呪術は効かねーのよ。
「この現代呪術は、会長と私が一緒解明した物です…謂わば私と会長の絆です」
「絆ねぇ、つまりその現代呪術はお前らが作ったと?」
「そうです、私と会長は同じ志を持つと書いて同志ですから」
「ふーん」
好かれてるな、まぁアイツは人当たりもいいし何よりハンサムだ。それで籠絡されて……って感じでもなさそうだな、向こうには向こうの信頼関係があるってことか。
まぁンな事知った事じゃねぇけどな。向こうはこっちに喧嘩売って来てんだ、しかも殺しにかかって来てる。そんな奴らの背後関係まで気にして戦えるかよ、普通にぶちのめすわ全員。
けど気になることがあるなら…。
「お前イシュキミリを慕ってんだよな」
「そう言ってるでしょ」
「ならお前も、魔術無き世を目指してる。だよな?にしちゃお前もイシュキミリも魔術使いまくりだけどその辺はいいの?」
「だって、力がないとこの世は意見を押し通せません。そしてこの世において力とは魔術ですから…だから仕方なくです」
「浅い理屈だなオイ、魔術使うなって言いながら魔術使ってたら説得力皆無だぜ。つーか俺にはアレだな、こう見えるな。民衆から魔術を奪って自分たちだけが魔術を独占して、その力で自分達の意見だけを押し通そうとする独裁的な思想に見えるけどなぁ」
だってそうだろ、仮に嘆きの慈雨が魔術を奪うだけに留まっていたとしても形としては(力を持つ者』と『持たない者』を明確化させるだけ、その後無理矢理力を持つ側が思想を押し付け世界を変革する。そいつは独裁って言うんじゃねぇの?
魔術廃絶がしたいならまず一番手っ取り早いところからやれよ、つまりテメェらから捨てろ。なーんて俺は頭の後ろで手を組んで言うと…。
「違いますッッ!!」
「うぉ、でっけぇ声。やめろよ狂うだろ」
いきなりでっけぇ声で否定してくるんだ、しかも目ぇガン開き。余程言われたくなかった事なのかアナフェマは首をブンブン振って否定し始め。
「世の中から魔術を捨て去ったら私も会長も嘆きの慈雨で身を清めるつもりでした!断じて魔術を支配の為に使うなんてことはしません!」
「えー、でもウルサマヨリの魔術師は殺そうとしたじゃん。魔術を奪った上でさ、俺が言ってんのはつまりそう言うことだろ、力を奪って、力を独占し、力によって強引に意見を通そうとするってさ」
「それは、苦渋の決断です!」
「苦渋の決断ならなんでも許されるのかよ」
「それは……でも私たちは、マゲイアみたいな理屈は唱えません…」
ふーん、マゲイアがどんな理屈捏ねてるかは知らねーし、俺からすりゃどっちも大概だぜ。
第一よ、そもそもの話だ。
「そうかい、なら…俺のダチ攫ってこれから殺しますって宣言したのも、アレも苦渋の決断だからいいわけ?」
「……魔術導皇は、死ななければなりませんから」
「あ〜っ!そう!そう言う感じ!なるほどね!うちのダチを死なせなきゃどうにもならんってんなら、テメェらの捏ねる理屈も漏れなくクソだよッ!」
「ッ……!」
例えさ、殺すのにどれだけ苦悩しようが、苦渋の選択をしようが、殺したらお前…それで終いだぜ。ましてやうちのダチを…デティフローアを殺さなきゃならんって言うのなら、その時点でこいつの吐く言葉は全てお為ごかしになる。
だから倒す、こいつを倒してエリス達に追いつく!だから…。
「もうそこを退けよッ!」
指を鳴らす、悪いな…雑談してる最中も俺普通に動いてたわ。外した二発の矢、アレは俺の血液によって作られている、だから俺の意思と魔力があれば自在に動くんだ。そいつを使って岩盤を掘り進み…。
「うっ!?足元が!?」
ガコンと音を立ててアナフェマの足元の床が外れる。二本の矢が岩を掘り進み奴の下に移動し、地面を穴あきチーズみたいにボコボコにして脆くしておいたのさ。足を取られたアナフェマは動けない、何よりもうあのトランポリンは使えない!
「アナフェマッッ!!」
「ッ!『グリッターブリッツラッシュ』!」
足を取られながらも杖をこちらに向けるアナフェマ、そこから放たれるのは無数の光弾。だが分かるはずだ、アナフェマ…お前自身分かるはずだ。
(ダメだ、飛び道具じゃ止められない!!)
アマルトの動体視力は既に現代魔術の動きを見切っている。無数に飛び交う光弾を引き裂き、回避し、一直線に迫ってくる。
(止められない、なら…止まらないなら!私だって!)
しかしそれでもアナフェマは諦めない、彼女だって四魔開刃。イシュキミリに気に入られただけで幹部を張ってる訳ではない…。
杖を沈んだ地面に突き刺し、魔力を全開にし、解放する。
「『ジェノサイドサンダーエクスプロージョン』!」
「はっ!?」
それはこの洞窟のような遺跡内部では半ば禁じ手とも取れる環境爆破魔術。地面に突き刺した杖を通じて電流が走り地面が爆裂していく。そうして発生した大爆発は瞬く間に室内を満たしアマルトの体を吹き飛ばす。
「ぅぐぅぅう!?正気かよテメェ!」
「あんまり詰め寄らないでくださいッ!狂ってしまいます!」
防壁を展開し衝撃を受け流そうとするもあまりにも膨大な魔力量にダメージを抑えきれない、そこでようやく気がつく。アナフェマはアレで加減していたんだと、今のが奴の本来の攻撃力なのだと。この地下迷宮の何処とも分からぬ空間を破壊しないよう加減していただけ。
こいつは本来、エリスと同じ広域爆破型の超火力特化の魔術師なんだ。
「すみませんイシュキミリ会長、遺跡が崩れたら…謝ります!」
ただでさえ地下にいると言うのに、大地が崩れ更に下へと落ちていく。足場はなくなり戦場は瓦礫が奈落へと落ち続ける底無しの空間へと変わった。これによりアマルトは今武器を一つ失ったと言える。
「クソがッ!」
「『ビッグバンエクスプロージョン』!」
次々と放たれる魔力爆発から逃げるようにアマルトは瓦礫を踏んで空を駆け抜けるように飛ぶが、さっきまでとは情勢が違う。逃げ場が限られる、対するアナフェマは魔力の翼と魔力噴射で空を飛んでいる。
使える空間に差が出来た、これはまずい。
「だったら!『ビーストブレンド』!」
「あぇ!?」
ならばと即座に取り出した魔獣の血が入ったアンプル。それを一飲みで飲み干し姿を変える。取り込んだ魔獣の因子から翼を作り出し、アマルトもまた空を駆け抜ける。
「獣魂共鳴!?」
「それ以上さ!『黒獣血蹴』ッ!」
「ぅぐっっ!?」
弾き飛ばすように蹴り飛ばす、翼で空気を一つ撃ち叩き加速すると同時にアナフェマへと突っ込み蹴りを加えたアマルトはそのまま翼を広げ瓦礫を押し飛ばす。アナフェマは近接に弱い、このまま距離を詰めていけば…。
「ん?」
ふと、体に違和感を感じる。なんだ、なんか体がムズムズして…いやこれ。
「え!?変身が解除されてる!?」
ふと気がついて体を見ると、魔獣に変身した体が強制的に元に戻されているんだ。おかしい、こんなに持続時間が短いわけ…まさか。
「言いましたよね、私も現代呪術使えるって…」
壁に叩きつけられたアナフェマが、ポイっと捨てるのは…注射器だ。アレはまさか…遺伝子組み換え魔術か、あの一瞬で俺の魔獣の因子を引き抜いたってのか!?
「私得意なんです!魔獣の遺伝子だけ選んで抜くの!入れるのも大得意!ずっとやって来ましたから!」
「ッ……」
やべぇ、ビーストブレンドじゃなくてブレイブブレンドにするべきだったか、なんて思ってる間に俺の背中は羽を失い…逃げ場もまた失う。
「これが私と会長の繋がりなんです、それは例え…古式魔術でさえ超える!」
「…………」
古式呪術に現代呪術で挑み凌駕する、それは生半可なことじゃねぇよ。簡単じゃない、慣れ一つでどうにかなる話じゃない。それすら可能にする勢いでこいつは…イシュキミリから授けられたあの魔術を、呪術を高めていたってことか。
やるじゃねぇの、けどな……そいつは。
「終わりですッ!魔力集約、防壁圧縮、圧力極限」
杖を突き出す、その先に大量の魔力を放ち圧縮し、更に圧縮した魔力を防壁でコーティング、更に圧縮、豆粒程の大きさへと潰し、放つ。
「『アトランティデ・カンノーネ』ッ!!」
圧縮した魔力に指向性を持たせ、一気に噴出させることで魔術そのものの威力を上げる法。更にそこから放たれるのはアナフェマが持つ最強の攻撃魔術『アトランティデ・カンノーネ』。無属性魔術最強格の一つとも数えられる魔力倍化魔術、用意した魔力を二倍に増やした上で相手に叩きつける大技。
正直燃費は悪い、一度に使った魔力が多ければ多いほど強くなる性質上生半可な量では意味がない。故に一撃に使うにはあまりにも膨大すぎる魔力量を消費するが…それでも決め技としては最適だ、と…他でもないイシュキミリ会長が言っていた。
(会長…私やってますよ、見てくれてますか)
放たれた魔力波動が眼前の全てを消し去り大爆発を生み出す様を見てアナフェマはうっとりと目を輝かせる。
…………………………………………………
この戦い、セーフさんはあまり乗り気じゃなかった。そもそもイシュキミリ会長があんな状態なんだ、喜んで戦えるかといえばそうじゃないのは分かる。
けれど、アナフェマは逆だった、喜んだ。
『ようやく会長に恩返しが出来る』と。
イシュキミリ会長は完璧超人だ、自分より賢く強く多くを知り多くを考え多くを成す神のような存在だ。私はそれにただ盲従し後ろをついて回ることしか出来なかった。いつもあの人の背中ばかり見て、自分の矮小さを再確認させられる日々だった。
そんなある日に、あの事件が起きた。イシュキミリ会長は大きく揺らいだ、私もまた揺らいだ、マゲイアの余計な手出しによりイシュキミリ会長の理想が汚された。それは許し難い出来事だが、私の戦い方的に魔術を吸収するマゲイアには絶対に勝てない。
勝てなくて、涙を飲んだ。私がもっと強ければ会長をマゲイアから守れたのにと。だが同時に考えた…守れたのにとは、つまり会長は今私の助けを必要としている状態なのではないかと。
嫌な考え方だと思う、自分は卑屈で陰湿で嫌な女だ、憧れの人が苦しんでいる姿を見て自分に手を差し伸べる余地があると打算を組んでしまうくらい嫌な奴だ。だがこの憧れそのものは本物なんだ、あの人を助けたいと言う気持ちに嘘はない。
だから私はこの戦いに臨んでいる。いつもみたいに怯えるのではなく、本気で挑んでいる。勝つ気でいる。
セーフさんは言った、絶対勝とうと…その通りだ絶対に勝とう。勝って私が会長をお守りするのだ、そうしてようやく私はあの人の仲間として胸を張れる。横に並び立てる。
そうだよ、そうでもしなきゃ…私達は対等にはなれない。セーフさんも私も、会長に拾ってもらわなきゃ何者にもなれなかったんだ。崇高のアナフェマの名を与えてくれたあの人に報いいるにはそれしかない。
だから──────。
「消えてください魔女の弟子、私はイシュキミリ会長のお役に立つんです!あの人と対等になる為に!」
吠える、爆風に飲まれて消えていったアマルトに向け──────。
『テメェはそれでいいのかよ!』
「え!?」
響いたのはアマルトの声。消しとはしたはずのアマルトの声が響いた事にアナフェマは驚きながらも周囲を見回す、だが黒煙ばかりで何も見えない…。
いやそもそも避けられるはずがない、足場のない空中で…防壁でも防ぎきれない攻撃を行ったんだ、生きているはずがない。
『テメェイシュキミリを慕ってんだろ!?ダチなんじゃねぇのかよ!』
「ど、何処…!?」
『ダチがあんな状態でテメェはいいかよ!!』
声の元が判然としない、魔視眼で見ても見つけられない、それに…こいつは何を言ってるんだ。
「私とイシュキミリ会長は友達じゃない!主従だ!」
私達は友達じゃない、イシュキミリ会長が主人で私達は従僕だ、友達なんかじゃないんだと叫べば…何処か虚しくなる。
本当にそうか?なんて私の中の私が何処かで呟く、友達じゃない?いや友達じゃないよ、だって私は…私は………。
あれ、私ってなんだ?部下?でもマゲイアも部下だよあいつも、あいつと一緒?あり得ない…なら私は。
『ダチでもねぇ奴が!ダチでもない奴の為に!命張れんのかよ!!』
「ッッ………」
『テメェは今自爆覚悟で戦ってんだろ!それが忠義か!?違うだろッ!そいつは俺と同じ……』
その瞬間、目の前の黒煙を引き裂いて現れたのは…アマルトだ、こんなに近くに…いやと言うかどうやって空を飛んで…。
違う、空は飛んでいない。アマルトの服の襟に引っかかるように黒い矢が刺さっている…あれは。
(アレは呪術で作った黒血矢!?そうかアレを操り体にくくりつけて咄嗟に回避したのか!)
アマルトは飛べないが矢は飛べる。それに捕まって直撃の寸前矢に引っ張られて直撃を避けたのか!
そんな衝撃を受けるアナフェマを他所に、アマルトは剣を構え…。
「そいつは俺と同じ!友情じゃねぇのか!」
睨む、その瞳を。私を睨む、今…迷う私を真っ直ぐに、それが敵に向ける目かと思う程に彼は今私に真道を説いている。友情だろうそれはと…そのあまりにも真っ直ぐな瞳に私は……。
「う、うわぁぁぁああああああ!!」
拒絶する、魔力弾をやたらめったらに乱射しながら後方に飛び逃げるように叫ぶ、叫ぶように逃げる。しかしアマルトの動きは早い。
「俺とテメェは敵同士だよ!テメェが誰の為に戦おうがテメェの勝手だ!俺には関係ないね!」
クルリと体を回し疾走する矢の上に飛び乗りまるでサーフボードでも操るように魔力弾を回避し迫ってくる、今度はより強く、よりまっすぐに。
「けど!テメェのそれが友情ならば!放置すんな!目ぇ逸らすな!今のイシュキミリが変だってことくらい俺にだって分かる!ならテメェに分からねぇはずがねぇ!!」
「う、うるさいうるさいぃいぃいいいいいッッ!!」
「テメェのがウルセェわ!一度しか言わんからよく聞け!」
「あっ!?」
剣が煌めく、アマルトの剣が迫る、魔力弾が突破された…やばい、やられる────。
「ダチが泣いてるなら、命張る。それがダチの…友達の在り方だろ」
「ッッ…………!?」
囁くようなアマルトの声が私に染み込む、友達の為なら…命を。ああそうか、そうなのか
命を張る理由は、私が会長に忠誠を誓ってるからじゃない。唯一私を認めてくれて、側においてくれて、なんのかんの言いながら遠ざけず一緒にいてくれたイシュキミリ会長。いつも背中ばかり見ていたあの人と対等になりたかったんじゃない。
────私はあの人と、友達になりたかったんだ。
(負けたくない…………)
その日私は、もう一度狂った。今度は…イシュキミリ会長を想う心に狂った。あの人の部下として持ってはいけない心が私を突き動かした。
(負けたくない負けたくない負けたくない!イシュキミリの為に戦うならば!絶対に!!)
だから手段は選ばない。普段なら絶対に使わない方法、やったらダメだと本能的に理解していた手段…それを使ってでも、今は。
負けたくない!!
「魔力覚醒ッッ!!」
私の覚醒を見たイシュキミリは、君こそ魔術を否定するべき存在だと言った。私を唯一魔術導皇に迫る才能を持つ天才だと言ってくれた。
同時に、『この使い方だけはしてはいけない』と言われた…けど、私はあの人と友達になる為なら、命だって張ってやる。
そうするべきなんだろう、魔女の弟子ィッ!!
「『アブラ・カタブラ・アブラクサス』ッッ!!」
「ゲェーッ覚醒!火ぃつけすぎたか!?けど……」
解放される力、荒れ狂う魔力、それを前にアマルトは静かに笑い……。
「そう来なくちゃ意地の張り甲斐がねぇってもんだ!」
ここからが、勝負なんだ。実力勝負じゃない…どっちの友情が上かの、意地の張り合い。
…………………………………………………………
「ぅぐっっっ!?」
そして俺は弾き飛ばされる。吹き飛ばされ岩壁に叩きつけられ血を吐く、あと少しでチェックメイトだったのに、ちょっと奴の心に薪をやりすぎたようだ。
「魔力覚醒か……」
『ゔわぁぁああああああああ!!!』
目を向ければ、その先にいるアナフェマは全身から凄まじい量の触手を生やしている。アレはどう言う覚醒なのかね…と考えるまでもない。アレは呪術だ、奴は恐らく呪術と覚醒を合わせている。
(多分、魔術と親和性の高い覚醒か)
──肉体進化型魔力覚醒『アブラ・カタブラ・アブラクサス』。それは魔術の効果範囲を自らの肉体へ転換する覚醒、炎の魔術を撃てば魔術は前へ飛ばず自らの体が発火し、水を放てば全身から水が溢れる。属性同化型と極めて類似した覚醒でもあるが…属性同化型と違うのは、属性以外も自らに付与出来る点。
それこそ呪術、肉体に影響を及ぼす呪術と肉体に効果を転嫁するこの覚醒が合わさるとどうなるか。自らの肉体を無限に操作ができるようになるのだ。
今アナフェマは遺伝子組み換え魔術を自らの体に使っている、本来は対外的にしか使えないはずの呪術を自分に使っている。それは極めて危険な行為であり、言ってみれば自分の体を粘土のようにいじくり回しているに等しいんだ。
もし何かを間違えれば、心臓が潰れるかもしれない、内臓が分裂するかもしれない、そんな危険性を孕みながらも彼女は戦う…今ここで勝つ為に。
『私はぁああ!勝つッッ!!イシュキミリの為にぃいいいい!!』
「ああそうだ向かい合え!テメェのダチとの関係くらいテメェでケリつけろや!」
『うるさいッッ!!』
無数に増えたアナフェマの口が一斉にアマルトを拒絶し、全身から伸びた大量の触手のような腕がアマルトに迫る。それを壁を蹴って回避するが…。
『逃がさない…『ブリンガー・ソードレイン』』
放たれるのは魔力の剣を無数に生み出す魔術、だが魔術が体内で完結するこの覚醒を用いた状態で使えばどうなるか、それは。
「ぅぐっ!?腕から剣が生えやがった!?」
剣が生える、伸びた腕一本一本から無数の刃が飛び出しアマルトを巻き込み切り裂くのだ。この覚醒の真価はここにある、一度撃ったら消える魔術がアナフェマの体内で継続し続ける。つまりこの覚醒は…魔術を重ね掛けすればするほど強くなる。
『『フレイムウォール』!』
「閉所で炎とか正気かよ…!」
『そんな事言わないでくださいよ!本当にく…く…狂うううう!!!』
「まだ狂ってないと思ってんのかよお前」
全身に炎を纏い、腕を使って穴の中を駆け巡りアマルトを追う怪物は叫ぶ、狂うと…。
『そうかもしれない、そうかもしれない!私はもう狂ってるのかもしれない!でもそれはお前のせいだよ魔女の弟子!』
「かもな!」
飛んでくる腕を剣で切り払い撃退しようとするが…。
「ぐっ!?嘘だろ、硬い…」
飛んできた腕を剣で切ったところ、刃が通らず寧ろ弾かれる。この腕一本一本が洒落にならないくらい硬い!俺の剣でも切れねぇなんて───ッ!
『消えろ!魔女の弟子!』
「くっ!」
剣ではダメだ、魔術を叩き込む必要がある、だがどうやって?そもそもこれをどう倒せばいいのかとアマルトは考える。対するアナフェマも決着を急ぐ、体が持たないから…ではない。
『私はもう狂ってるのかもしれない!イシュキミリという人間に!だから…私は殺すよ!会長が殺すなら私も殺す!お前達全員!魔女の弟子全員を!』
「そいつは、いただけねぇな…!」
魔女の弟子を全員殺すつもりなのだ、アマルトを殺した後は地上のエリスやラグナを殺す、奴らがイシュキミリの元に到着する前に全てを終わらせるつもりなんだ。だから…アマルトもまたここで引けない。
「やらせねぇよ…!ダチ守る為に、命張るのがダチの役目だからな!」
『言ってろ!私と会長の繋がりに勝てる物など……』
その瞬間、アナフェマの体が…爆裂する。否、爆裂にも見紛いほどの勢いで全身から魔力を放ったのだ。当然そんな物受け止める余力などアマルトにはなく──。
『存在しないッッ!!』
「ぅぐっっ!?」
壁に叩きつけられ、更にそこから追い打ちをかけるようにアナフェマの拳が飛んでくる。呪術で歪んだ拳が何度も何度も飛んでくる、伸びて肥大化した拳が何度も何度も叩きつけられる。
「ぐぅぅぉぉおお!?!?」
『私はぁ!会長とぉ!歩んでいくんだぁぁああああああ!!!』
それはアナフェマの願いだった、彼女が密かに抱き続けた願望だった、全てはイシュキミリの為、否定され続けた自分の人生を初めてくれたイシュキミリの為に彼女は戦うのだ。
ここからだ、ここから始まるのだ。自分とイシュキミリの道は、これからもイシュキミリは茨の道を歩むだろう、ならばその茨を切り裂くのが自分の役目なのだ。
イシュキミリへの憧憬を超えた友情、それを自覚したアナフェマはひたすらにアマルトを殴る…殴って殴って殴って叩き潰して、吠える。
『ゔわぁぁああああああ!イシュキミリ会長ぉおおお!!見てますかぁああああ!私!私!やりましたぁああああああああ!!!』
……もし、アマルトが余計なことを言わず、黙って切り伏せていれば戦いはアマルトの勝利で終わっただろう。アナフェマは覚醒を使うことなく、爆発する事なく、敗北してこの戦いは終わっていただろう。
全てはアマルトの…俺の不用意さが招いた、最悪の結末…だと、思うかい?
違う…違うんだなあこれが、確かに…あそこで余計なことを言わずに斬っていたら戦いは終わってた、けどな……。
「お…い、アナフェマッ!」
「ッ…まだ生きて……」
拳を叩きつけられ、血まみれになったアマルトは…血の滴る指先をアナフェマに向ける。あの時俺がこいつに友情を自覚させたのは、あの時発破をかけたのは…こうしなきゃ、俺の収まりがつかねぇからだよ!
『こいつ、だが何度でも叩き潰して…』
「もう一度、聞くぜ…お前、いつまでイシュキミリから目を逸らすつもりだ」
『ッ……』
それは一度行った問いかけ、いつまでイシュキミリから目を逸らすのだと。最初は普通に否定された、関係ないと…だが今は違うよな。イシュキミリへの友情を自覚させたのはその為なんだからよ。
事実、今度のアナフェマは見るからに狼狽初めて…。
『目、目を逸らしてなんかいない、ただ私はあの人に手を差し伸べるだけで…』
「ハッ…ダチが泣いてるんだぜ、心で泣いてるんだぜ!?それを前に手を差し伸べる?バッカやろうテメェ、違うんだよ…」
違うのだ、偉そうに語れる身分ではない、俺もそこを間違えた。デティはあの時、俺に結婚を打ち明けた時、心で泣いていたんだ。
今なら分かる、アイツは役目以上に俺たちを優先しようとしていた。一緒に旅を続けたがっていた、だから俺に…俺に否定して欲しかったんだ。いや違うな、やっぱり違う。
否定するんじゃない、ダチが心で泣いてる時は…手を差し伸べるのでも、否定するのでもなく。
「一緒に泣いてやるんだ…、一緒に泣いて、そいつと歩む。それがダチってもんなんだ…」
一緒にアイツの悲しみ背負って、一緒に責任感じて、一緒に悩んで、一緒に答えを探してやるべきだった。アイツがたくさんの使命と伝統抱えてるのは分かる。俺にはそれを否定出来ないしするべきじゃないし、アイツはきっと手を差し伸べられてもそれを取らないだろう。分かるさ、そういう奴だ。
でも、ならば一緒に泣いてやる事はできる。考えて、悩んで、一緒に歩いて答えを探せばいいんだ。だって友達は神様でも親でも主君でも従僕でもない、ただ好きで一緒にいるだけの関係なんだから…最後までそれを貫けばいいだけなのさ。
『泣いてやる…?イシュキミリと…一緒に?』
「ああそうさ、そしてお前はそれをしなかった!その時点で…テメェは、友達失格だ!」
『ッッッ……』
この一言、言ってやりたかったんだ。俺性格悪いからよ、ダチ攫われて殺されそうになって、優しくなんてしてやらねぇ。だから態々こいつに発破かけて友情を自覚させた。全ては…友情を自覚したからこそ得る苦しみと悲しみの為に。
『ゔぅ、あぁ…じゃあ、じゃあ私は…あの時、イシュキミリ会長と…共に、じゃあ最初から私は…正解を…』
「バァカ、甘ぇよ…自分の友情の形くらい自分で探せ、俺に色々言われて悩む時点でお前は精神的に弱いんだよ」
『グッ!好き勝手言いやがって!もういい!ここでぐちゃぐちゃにして──ッ』
剣を構える、さぁて言いたいこと言ったしデティへの気持ちも固まった。やっぱり俺はアイツのために命を賭けるべきだと思う。その為の覚悟ももう決まった、今は何も怖くないし恐ろしくもない。
だから、出来る…。
(やるぜ、トラヴィスさん。見ててくれよ…あんたとの修行で作った、俺の新境地。見ててくれよな)
『ゔわぁあああああああああ!!!』
迫るアナフェマを前に覚悟を決める、さぁここから苦しいぞ、辛いぞ、でも…頑張れよ俺。俺の友達が今俺の助けを待ってるんだ、だったら命の一つや二つ、惜しくもないだろ?いい加減シャキッとしろよ。
行くぜ…例えこれが過ちであろうとも、俺は俺の生き方を貫く。
「行くぜ…『残闕式魔力覚醒』」
それはトラヴィスさんと俺とで作った、新たな道…阻まれた未来を切り開く、俺だけの魔力覚醒。
─────────────────────
それはあの館で修行を始めた頃の話。
「君の魔力覚醒の内容は恐らく…『自身の命と引き換えに莫大な魔力を生み出す』という自爆型の覚醒だ」
「ッッ………」
俺が覚醒できない理由を聞いた時、トラヴィスさんはそう言った。俺は俺の命と引き換えに発動する魔力覚醒を持っていると。それは俺があまりにも命を顧みない生き方をしてきたからこその…自業自得の結果だった。
「この覚醒を使えば君は一瞬大量の魔力を生み出すことができるが、同時に君は死に至るだろう」
「マジすか……」
俺が覚醒出来ないのは、まだ死ねないという気持ちがストッパーになっているから、だがそれを取り払ったとてこれに待っているのは『死』だけ。覚醒してもしなくても…一瞬じゃねぇかそんなの。
だが今更覚醒の内容を変更することはできない、もう生き方は決まっているし…今更生き方を変えることもできない。
これじゃ、置いていかれる。みんなドンドン強くなる、覚醒もするしその先に行く、そんな中俺だけ覚醒出来ず…強くなり続ける仲間と敵の間で、一体いつまで誤魔化すような戦い方をすればいい。
「クソッ…そんなのねぇだろ……」
弱いままなのよりも辛いのは、仲間が俺を守ろうとすること。俺に遠慮したりすること。アイツらは優しいからきっとそうする、俺が一生覚醒出来ない人間だって知れば、配慮する。それが嫌だった、俺はダチと対等でいたい…せっかく見つけた、一緒にいてくれる優しい奴らの重荷になりたくない。
「俺…どうしたらいいですか、トラヴィスさん!俺…なんだってします、強くなりたい、覚醒したい、アイツらと一緒に歩いて行きたい!これからも!」
「………そもそも覚醒とは、数百人数千人に一人の特権。出来ないことは恥ずべき事で…」
「そういう問題じゃねぇんだ!例え数千人に一人だろうが数万人に一人だろうが、俺はアイツら八人の弟子達の一人でいたいだけなんだ!」
「むぅ……」
俺はアイツらと戦いたい、一緒に戦いたい、守りたい、守られたい、笑いたい、笑われたい、そこに何の負い目も必要ない。ただ何も考えず俺達は一緒にいたいんだ。
そう叫べば…トラヴィスさんは、悩みながらも指を立て。
「方法が、ないわけじゃない」
そう言うのだ、それに俺は縋るようにトラヴィスさんに掴み掛かり。
「なんですか!なんでもします!お願いしますトラヴィスさん!」
「だがこれは危険を伴う、あまりにもリスクが…」
「それ以外には?なんかあるんですか?」
「そ、それ以外にはって、危険なんだぞ?命の危険が……」
「関係ないです、今更。俺…ダチがやばいって時に力も足りずに死ぬくらいなら、守る為に全てを賭けて死にたい」
「……そうか、それが君の生き方だったな…分かった、なら手を貸そう」
フッとトラヴィスさんは笑い、俺の肩を掴み…告げる。
「いいか、これは危険を伴う上に苦痛を伴う、だが成功させれば君は…覚醒を会得できる、絶対に折れるなよ」
「はい!で!?何をすれば」
「それは──────」
────────────────
「ぅぐぅぅううううう!!!」
『な、何を…!?』
覚醒を発動する、俺の命を代償に絶大な力を生み出す覚醒を。ただそれをそのまま使えば俺は死ぬ、俺はまだ死ねないから死ぬって選択はなしだ。ならどうするか?それはトラヴィスさんが答えを出してくれた。
それが残闕式魔力覚醒…つまり、『覚醒の範囲を限定する』のだ。
「ぅぐぉぉおおおおおおおおお!!!」
俺の左腕が、みるみるうちに黒く染まり…血の煙となって消える。俺は今この覚醒の範囲を限定し、代償を『命』ではなく『左腕』に限定した。そうする事で一時的ではあるが絶大な力を得ると言う覚醒の一部分を行使できる。つまり……。
「『呪言・大神明呪ノ血刃』」
血の煙となった左腕が俺の黒剣にまとわりつき、禍々しい赤黒の大太刀へと変わる。それを右腕一本で構え、左腕が消失したことにより左袖が空にはためく。
つまりこれが俺の覚醒の在り方。未だ不完全ながらも確かに在る。
それが残闕式魔力覚醒『呪言・大神明呪ノ血刃』だ。
『ひ、左腕が消えた?左腕を犠牲にする覚醒?お前それ…痛くないの?』
「死ぬほど痛いさ、正直…今も叫び散らかしたい」
俺はこれの会得のため、鍵のかけられた倉庫の中で肉体を切り分ける修行をした、自分の意思で肉を引き裂く修行だ、そしてそれを終えたらトラヴィスさんに治してもらい、ポーションを飲んで、また切り裂く。
自分の肉体を等間隔で把握し、覚醒の部位を限定するための修行だ。今思い出しても笑えるくらい痛かったよ、けどおかげで…魂を使わず左腕一つで代償が済んだ。それで発動出来るなら安いもんだろ。
「痛いし苦しいし辛いけど、ダチの命がかかってんだ、四の五の言ってられんねぇ…さぁやろうぜアナフェマ、お前俺のダチ殺すんだろ?なら見逃せねぇな」
『左腕を、差し出してでも…私を…わた、わ、私を…!?』
「ああ、これくらい…なんてことねぇだろ」
『お、お、お前…お前お前お前ッッ!!』
瞬間アナフェマの肉体が再び変質し、大量の腕と剣がこちらに向けて飛んでくる。…この覚醒は代償にした部位が大きければ大きいほど強くなる。左腕ともなれば相当なもんだが本当は指一本でいきたかったがそうもいかねぇよな。
だがその分、力は…俺の魔力は強靭になる。だから…!
「『血刃呪』ッ!」
振るう、血の大太刀を、その場で…しかも片腕で、ただそれだけでアナフェマの頑強だった腕達が、両断される。
まるで細切れにされたように飛び交う腕の残骸、一振りで乱れ飛ぶ斬撃、今の俺ならラグナだって真っ二つに出来る、やらないけど…でも、それくらいの力なら息を吹きかけるくらいの感覚で出来る。
「アナフェマッ!!今の俺は無敵だぜ!!やれるもんならやってみろやっ!!」
『お前お前お前お前お前ぇーーーっっ!!』
狂ったように叫び抵抗するアナフェマの連撃を、片腕の斬撃で切り裂きながら一気に飛ぶ。今までのアマルトの速度とは根本的に違う。音にも匹敵する速度で加速し…刃をアナフェマに突き立てる。
「終わりだよ、アナフェマっっ!!」
『お前お前お前お前お前ぇッ!お前狂ってんのかァッッ!?!?!?』
あるいはそうかも知れない、俺は狂ってるのかもしれない。それこそアナフェマを遥かに凌駕するほどに…だとしても、悪いな。
人間誰しも譲れない部分ってのはあるもんでな。お前らそこに触れたのさ…。だから。
「『呪界』……」
払う、いつの間にかアナフェマの背後を滑空していたアマルトは…、スラリと太刀の刃を撫でる。この太刀は特殊なモンでさ、と言うかそもそも俺の覚醒がめっちゃ強い刀を作るだけなわけないよな。
強化されるのは、俺の呪術そのもの…なればこそ、この一撃は。
「『滅痕』ッ!!」
「ごはぁぁぁっ!?」
瞬間、アナフェマがアマルトの背後で血を吐き白目を剥く。この刃で斬ったのは体じゃない、魂だ。つっても魂を真っ二つにしたら死んじまうからな、ただ魂の中に刃を通じて大量の『激痛の呪い』を置いておくに留めてやった。
肉体ではなく魂に伝播する激痛。肉体的耐久力では耐えられない一撃…効くだろ、こいつは。
「悪いなアナフェマ、テメェでストレス発散。させてもらった」
『ぁ…が…ぁぁあ…イシュキミリ…会長ぉぉぉぉお……』
魂が爆裂する程の痛みを受け奈落の底へ落ちていくアナフェマを見送りながら、俺は壁を切り裂きその隙間に座り込み…一息つく、はぁ…なんとかなった。
「敵から受けた傷より自分で作った傷のがでかいって、どう言うことだよ…ははは」
緊張を解けば俺の血の大太刀はあっという間に消えてしまう。まだ維持出来る時間は短いか…でもその分強力だった。これからも使っていこうかなぁ〜とは思うが。
「グッッ!いってぇ……」
抑えるのは左肩、血の大太刀は消えた…だが左腕は消えたままだ。そりゃそうだ、代償に使ったんだから消えたままになるのは当然だ、代償に使ったら戻ってこない。そう言う覚醒なんだから仕方ない…。
「あ、やべぇ…血が足りなくて死ぬかも…」
おまけに血も大量に持って行きやがる…これからは使い方を考えないとな。
ああそうだ、これからだ…俺にはこれからがある、これからも戦い続けないといけない。その為にはデティ…アイツに左手治してもらわんと。
俺がこれからも、お前を守る為にも…デティ、戻ってきてくれよ。謝りたいし、お前いないと寂しいしさ…。
……………………………………………………
デティフローア救出戦、魔女の弟子達がメサイア・アルカンシエルに戦いを挑んだシュレインでの決戦。ネレイドもアマルトもメルクリウスも無事勝利を収めた…だがしかし、それは飽くまで道を切り拓いたに過ぎない。
この戦いの趨勢を決めるのは…ただ一人、あの男を倒せるかどうかにかかっているのだ。
その名も『極致』のカルウェナン、メサイア・アルカンシエル最強にして魔女の弟子達最大の障壁。それを打ち崩す為に挑んだのはラグナとメグ……だったが。
「『闘』ッ!!」
「ぐぼはぁっ!?」
一閃、ラグナの瞬きのような隙を見切り光を放つ拳が虚空に光芒を描き叩き込まれ、火花を散らす。その一撃を前に…ラグナは。
「ゔっ…ぐっ…クソッ…!」
「ら、ラグナ様…!」
倒れ伏し口から血を吐き出す。もう何度打ち倒されたか分からない、もう何度弾き返されたか分からない。
カルウェナンとの戦いが始まって十数分。二人は既にボロ雑巾のように痛めつけられ、カルウェナンの前に倒れ伏す。
「失望したぞ若人よ、小生との決戦に挑むにあたり、その程度の力で来られるとはな」
「こんなもんじゃ…ねぇ、まだまだだ…!」
「気概は買う、だが蛮勇は褒めんぞ」
あまりにも実力に差がありすぎる。ラグナが前面に出てメグがそれをサポートする形で戦っているのにカルウェナンに攻撃が届かない。特殊な魔術も特別な魔力覚醒も使ってない、ただ極められた魔法と磨き抜いた覚醒による身体強化だけで全てを上回る実力を発揮し、それで全てを受け流し、弾き返し、叩き潰す。
純然たる『武力』…混じり気のない完全な力を前にラグナもメグも既に満身創痍だ、勝負になってない。
「フンッ!」
「ぐぅっ!?」
ラグナの拳を弾き落としカルウェナンの掌底がラグナを突き飛ばし、再びラグナは膝を突く。ダメだ…全部試した、全部の技を試したが、カルウェナンはそれを初見で避けてくる。
(クソッ、こんなはずじゃなかった…こんなはずじゃ)
ラグナは口元の血を拭いながら舌を打つ。こんなはずではなかった、当初の計画ではここに四人いるはずだった、俺とメグとエリスとナリア。カルウェナンの実力を見るに奴を倒すには魔女の弟子達が四人いる。
だがエリスとナリアが逸れてしまった、どこに行ったのか分からない。そして未だに合流出来ていない。
(一体どこに行ったんだ二人とも!早く合流してくれないと…マジでやばいぞ)
「さぁて、そろそろ終わりにするか?」
「チッ、まだ終わんねぇよ」
祈るように心で叫ぶ、頼むから…頼むから早く合流してくれ、エリス…ナリア。今どこにいるのかは分からない、だがそれでもカルウェナンを倒すにはお前らの力がいるんだ!