609.魔女の弟子と魔天狼の空
必要な事だと感じた、イシュキミリと言う人間が歪み果てメサイア・アルカンシエルの首領になったのだとしたら…その責任は魔術界にある。トラヴィス・グランシャリオに全てを押し付け彼一人に支えさせた魔術導界の歪みがイシュキミリを作ったと言うことになる。
なればこそ、魔術導皇として私はイシュキミリに向き合わねばならない。ここから目を背け魔術界の栄光のみを語り嘯けば、魔術導皇の栄華を私は二度と心から誇ることはできない。
魔術界の全ては魔術導皇の物だ。清も濁も須く魔術導皇の物。だから私は彼に向き合う。
「『サーチフィールド』」
私は一人で杖を持ちながら魔術『サーチフィールド』を展開する、戦争に用いられる索敵魔術の一つだ、対象の正確な場所を認識する事ができると言うだけの魔術。膨大な魔力探知範囲を持つ私にとっては無用の長物たるこの魔術を使った理由は一つ。
イシュキミリのいる場所を探したかったから。私の魔力探知と索敵魔術を兼ね合わせ探索範囲を極大化する、幸いイシュキミリの魔力そのものはよく見知った物だ、この数週間彼と一緒にいたのだから色や形は分かる。
だからこそウルサマヨリを超え、南部の半分ほどを占めるほどの探索を行った。その時…。
「え……!?」
イシュキミリの魔力を見つけた…ただ場所が問題だ。だって今イシュキミリがいるのは…。
この街だ、この街の入り口にイシュキミリはいる。つまりこちらに向かってきているのだ。どう言うつもりだ彼は…。
いや、都合がいい!
「フッ!『アラウンドゼログラビティ』からの『アクセルイナーシュ』!」
杖の上に乗り無重力魔術で浮き上がりながら加速魔術アクセルイナーシュを使用し空を駆け抜けイシュキミリの元へ向かう。エリスちゃんみたいに高高度飛行は出来ないけどこの方法ならこの足で走るよりずっと早い!
(イシュキミリ……お前は、どう思っているんだ)
彼は少なくともあの殺戮に嫌悪感を示した、その殺戮にイシュキミリ自身の責任は確かにある。だが彼がそれを望んでいないのは確かだ、なら…あるんじゃないのか。やり直す余地は。
あとは彼自身がそれを感じているか、感じてくれるかだが…今日話した感じ的にまったく話が通じないってわけでもなさそうだった。なら希望はある。
彼を説得する、そして彼の和平案を受け入れその上で彼にやり直させる。それが最も平和で…尚且つ彼を引き上げられる唯一の方法だと考える。
だから、イシュキミリ……頼むから、頼むから下手なことはしないでくれよ。
「ッ……居た!」
そして、街の入り口に差し掛かったあたりで私はイシュキミリを見つける、街の入り口で呆然と立ち尽くす彼の姿を見つけ私は杖から飛び降りつつイシュキミリの前に立ち……。
「イシュキミリ……!」
「デティフローア…」
彼は、私の顔を見るなり…少し怯えたような顔を見せる。何をしに来たんだ、少なくとも何か悪い事をしてやろうって感じではない、なら…話も出来るか。
「…………ヴレグメノスの件、あれは貴方の思う光景ではなかったんだよね」
「………」
「当然、だからと言って許されることはない。奪われた命が戻らない以上、貴方はその咎を背負わなきゃいけない。そこは分かってるよね」
「……何を言いに来た、魔術導皇」
視線に敵意が乗る。イシュキミリの表情が険しくなる、私が糾弾に来たと思ったのか?いやまぁその気持ちは半分はある。けど本題はそこじゃない。
「率直に伝える、イシュキミリ…貴方の提案を受けるよ」
「え?」
「婚姻の話、受ける」
「何故だ…あれだけ迷っていたのに、あんな過ちを犯したのに」
「貴方が…どうしてメサイア・アルカンシエルの首領になったのかは知らない。けどそこまで魔術を恨み抜くにはそれなりの理由があると私は思う。きっとそれは君にとって悲劇と呼べる物かもしれない」
「…………」
「けどそれは、魔術界が…魔術導皇が、不完全であったが故にその歪みをトラヴィス卿に押し付けたからに他ならない、だから…」
「だから、お情けで私の目的を手伝ってやろうと?憐れみならいらない、私が今こうしているのは私の意思に他ならない!他の誰かがどうだったからとか、そんな因果は存在しない!」
「違う!私はただ君にやり直して欲しいから!」
「綺麗事を吐かすな!やり直す?やり直せないと、取り返しがつかないと言ったのは貴様だろう!それに何より……私には、やり直すつもりなんて無い」
向かってきたのは明確な拒絶、いや…そもそも最初から話など聞くつもりなどなかったのかもしれない。だって、私とあの時世界の展望について語ったイシュキミリの…あの未来を見据える目が、今は曇っている。
血と雨雲で、曇っている。
「だが、婚姻を受け入れるというのなら…私はそれを受け入れる。だがお前の思い通りになると思うなよ、私はお前を支配するぞ…」
「構わない、私は負けないから」
「ならお前には─────」
「待った」
すると、イシュキミリの背後からふらりと現れるダルダルにウェーブしたロン毛を持った大男が、タラタラと涙を流しながらイシュキミリの型を押し退け待ったをかける。
「な、なんだクライングマン」
「話が違うでしょうがよぉ会長。今日のお話はそう言うお話じゃあないでしょうに」
(クライングマン…って確か)
アマルトが言ってた、民間組織の方のメサイア・アルカンシエル代表。そして恐らくニスベルを殺したと思われる最有力候補…こいつが。ニスベルさんを殺して、事態をややこしくしやがったのか。
「だが、魔術導皇が話を受け入れてくれたんだ。ならこっちにとっても好都合だろ」
「イニシアチブを取られてる時点で好都合も不都合もないっすよぉ、どうせ悲しくなるくらい手酷く裏切られるに決まってるぁ、なんせアンタは一回こいつらを裏切ってる、裏切った奴は…裏切られますよぉ会長」
「ッ……確かに」
「ちょっと勝手なこと言わないでよ!話まとまりかけてたんだから!」
「いやぁ魔術導皇サマ、話はもうこっちで固まってんだわぁ。今日やることは決まってる…でしょう、イシュキミリ会長」
「ああ、分かってる……」
そういうなりイシュキミリはクライングマンに促されトボトボと歩き始め、私を迂回して街の方へと向かっていく。ダメだ、クライングマンのチャチャのせいで話が余計ややこしくなった…。
「待ってイシュキミリ!どこに行くの!何するつもり!」
「お前には関係ない……ただ、確かめたいだけだ」
「何を……ッちゃいやっ!?」
パンッ!と音がして驚いて飛び退くと…イシュキミリへの干渉を防ぐようにクライングマンが硝煙を漂わせる銃口をこちらに向けていて。
「まぁ待ってくれやぁ、無視は悲しいぜぇ」
「クライングマン……」
「お見知り置きいただけてるようで悲しいよ、イシュキミリ会長はさ…まだ前途ある若者なんだ、好きなようにやらせてくれやぁ…」
拳銃を向けながらイシュキミリの元へ向かうのを阻止するクライングマンを睨む。どうやらこいつは私をイシュキミリと関わらせたくないみたいだ…だからこその足止め。
ならば倒して押し通る。傷つきたくなければ引き下がれと私は杖をクライングマンに突きつける…すると。
「ん?おっと…へへへ」
クライングマンはおかしそうに私の杖と自分の持つ拳銃を交互に見合わせて、ニタリと笑う。…なんだその笑みは。
「何がおかしい」
「おかしくないや、悲しいのさ。……昔から、遠距離戦と言えば魔術だった、相手を牽制する時は杖を突きつけて『動けば撃つぞ』と脅すのが常識で、遮蔽物に隠れてお高い魔術を撃ち合う…それが遠距離戦闘だった」
「だから、何が言いたいの」
「そして時代は進み、銃が生まれた。工業化が進む現代に於いて遠距離戦の代表は銃だ。現代魔術よりも出が早く指を引くだけと発動条件も安易。その癖一定の威力が担保されるこの武器は時代に革命をもたらした…が。それでも尚、魔術と銃には歴然たる差がある」
クライングマンは拳銃を下ろして、悲しげにくつくつと笑い続ける。
「見ろよ俺のちっぽけな銃を、お前のでっかい杖を、俺が拳銃を撃ってもお前は防壁でそれを防ぎ、お返しに銃弾なんか比にならない大きさの魔術が俺を撃ち抜いてこの膠着は終わり。互いに武器を突きつけているようでいて全く状況は拮抗していない。この場で死の危険性があるのは…俺だけだ。悲しいねぇ」
「だからこそ魔術が覇権を取り続けている。拳銃は魔力を用いないけど…魔術には敵わない、だから何?歴史の講釈をして時間を稼ぐ気?」
「いいや違うさ、お前に教えてやりたいのさ…これが、魔術を持つ者と持たぬ者の差だと」
クライングマンは再び拳銃を突きつける、だが…全く優位に立てていない。何故なら私には防壁があり、銃弾を消し去れる魔術があり、奴をこの場で一方的に叩き潰す為の技を幾万と持っているから。
拮抗はしていない、例え向かい合って互いに武器を突きつけても、魔術を持つか持たないかで…状況は大きく異なる。
「例え同じ場所に同じ状況で立とうとも魔術の有無が大きな差を生み、歴然たる差を作り出す。魔術があるだけで魔術を持たない大多数よりも下層に追いやられるんだぜ。悲しいだろ」
「……確かに、そういう事もあるかもしれない。けど今そんな泣き言言っても仕方ないでしょ、なら貴方も魔術を使えば───」
「俺ぁ昔から魔術が使えない体質なんだ。アンタなら分かるだろう」
「…まさか魔力異常?」
「そう、先天性魔力漏洩症を患ってるのさ俺は。俺の魔力はお前らみたいに固まらず常に体からドロドロと出来の悪いゼリーみたいに漏れ出ちまう、魔術なんて繊細な動きは一生かかっても実現不可能さ」
魔力異常、生まれつき魂に異常が起こり魔力に異変が発生している状態。ダアトの魔力閉塞症と同様…こいつもまた魔力異常を持っているんだ。
先天性魔力漏洩症。魔力が半端に凝固をし続け体外に排出され続ける状態、命に別状はないが魔術の行使は事実上不可能とされる状態。クライングマンは魔力異常を患ってるんだ…。
「このせいでさ、俺は魔術が使えなかった。だから魔術が必要な職にはつけない、例えば…土木作業なんかは魔術が使えると楽だよなぁ、昨今じゃ漁師も使うらしいぜ?ああ、勿論冒険者なんか夢のまた夢か…俺は生まれながらにして、この魔術社会に居場所がないのさ」
「全ての職に、魔術が求められるわけじゃない。貴方と同じ病を抱える人は五百人に一人いるという、そんな人達でも商人や事務員とか、魔術を必要としない職に──」
「ならお前は俺が冒険者になりたかったとしても魔術を使えないからという理由だけで商人や事務員になれとでも言うのかよぉ」
「別に、そう言うつもりじゃ…」
「分かるかい魔術導皇、つまりはそう言うことさ。魔術は誰しもが使える物だ、だが世の中にはその誰しもにさえあぶれる人間はいる。そう言う人間がさ、魔術恨んで何が悪いよ」
「……これは、なんの話かな」
「糾弾さ、折角魔術導皇が目の前にいるんだ。抗議者の代表として俺はお前に言ってきかさなきゃならない事が山とある、それともお前はこの話を切り上げてイシュキミリを追うか?いいやお前にはそれができないはずだ」
「……………」
「そう、イシュキミリを魔術界の歪みが生んだ存在だからと気にかけるなら、お前は俺を避けては通れない。なんせ魔術界の歪みそのものが…俺達なんだ」
その言葉と共に、ゾロゾロと至る所から抗議者達が現れる。フードを被り、鎧を身につけぬ民間人。ただ魔術への恨みからこの場にいるだけの…ただの人間が皆銃を手に私を取り囲む。
……魔術という存在がある限り、魔術という存在に見放される人間は居る。そして、見放された以上真っ当に生きていけないほどに、魔術は大きくなりすぎた。そうやって魔術が大きくなるほどに隅へ追いやられた人々が、彼らなのだ。
「知ってるか魔術導皇、こっちの彼女は家を炎魔術で焼かれた経験があるんだ、そのせいで炎魔術を見ただけで震えが止まらなくなる」
そう言ってクライングマンは横にいる女性の肩を抱き。
「分かるか魔術導皇、こっちの男はとある魔術名家の生まれだったが魔術師になることを強要された結果魔力が擦り切れる程努力を強いられ、終いにゃ魔術が扱えない体になって家に捨てられたんだ」
左にいる男の肩を抱き、クライングマンは涙を流す。ただただ涙を流す。
「分かるさ、そういう経験を持つ人間は少数派だ、不運が重なり偶然出来てしまった数千数万に一人の運の悪い奴らさ、だが世界を覆い尽くす魔術の存在はそういう少数派さえも数を揃えさせた。俺達ぁ怒ってるんだ、けど何に怒っていいか分からない、だって世界が…そういう構造をしてるんだから」
「……だから、私に怒りを?」
「お前は魔術の支配者であり魔術そのものだ。だから俺達はその叛逆の為にここに居る、イシュキミリの掲げる魔術廃絶、それは俺達にとっての希望なんだよ…その為だったらなんだって捧げる、自分も、家族も、イシュキミリ自身さえも。火に焚べ薪とし俺達を追いやった大いなる存在に!吠え面かかせてぇのさ!」
「………イシュキミリに何をさせるつもり」
「さぁな!正直あいつがこれから何をしようが俺には関係ねぇ!だがな!アイツはアイツである限り魔術を呪い続ける!その姿は俺達の希望となる!見させてくれよ俺達に、ロクに生きる事も出来なかった俺達に!一個くらいさぁ!希望を!だから頼むよ邪魔しないでくれ魔術導皇!」
手を掲げ、クライングマンは手を伸ばす。そこには何もない、あるのは星の光だけ。彼にとってイシュキミリという男はそういう物なんだ。手が届かずともそこにあるだけで光となる。
魔術によって居場所を奪われそこに居ることさえ許されなかった者達の絶望を救えるのは、魔術の敵対者、その王として君臨するイシュキミリだけ。だからクライングマンは彼に好きにさせているんだ、彼を何処かに向かわせたいのだ。
ただ、彼に魔術廃絶を遂行させるためだけに。けれど…そんな事させるわけにはいかないんだよ、イシュキミリがイシュキミリである限り魔術を否定するなら、私は私である限り魔術を肯定し続けなければならないのだから!
「させない、イシュキミリは止めるしお前らは潰すし魔術は存続させる。それが私だから」
「分かってる、だからお前をここで殺す。その為の力を与えてくれたのがメサイア・アルカンシエルなんだ、だろ……お前らッ!!」
クライングマンの言葉に従い、抗議者達は…その手に注射器を持ち始める。それを見た瞬間、私は理解する。あれは因子だ、魔獣の因子だ、コバロスが取り込み正気を失い魔獣人間に成り果てた魔獣の細胞そのものだ!
「まさか、使う気!?」
「魔獣を持たない俺達が、戦うにはこうするしかないだろ?」
「魔獣の因子を取り込めば人間ではいられない、みんながみんな獣人戦士のようになれるわけじゃない!私はその失敗例を見た!やめなさい!」
確かにメサイア・アルカンシエルは因子を克服した獣人戦士のような存在を抱えている。だがそれは、何百何千という失敗例の中の一部だ、でなければ兵士全員獣人になっていなければおかしいだろう。
奴らは言っていた、因子を克服できたと。ならただの民間人がそれを使えばどうなる?もう二度とは戻れない半端な魔獣人間に成り果てる!
「ああ!きっとみんな正気を失い人じゃなくなる!だがそうでもしなきゃ夢が叶わないならさ!もうしょうがないよな!」
「やめなさい!戻れなくなる!」
「戻る?一体何処に!魔術が使えないという理由一つで居場所を求めることさえ許されずしたい事もやりたい事も出来ず辛酸を舐め続けた場所に?またあの頃の惨めな生活を送れとお前は言うのか!?なら戻る必要ねぇよな!ここじゃないならどこでもいい!魔術がない場所なら何処でもいい!そうやって進んできたのが俺達だ!止まれる場所なんてのは何処にもねぇだろうがよぉ〜ッ!!」
「ああそうだ、代表の言う通りだ!」
「私達には帰る場所なんてない!魔術が使えない私達に居場所はない!」
「もう嫌なんだよこんな世界!だから…「?
「私達で、変革する。魔術から私達を解放する…それが魔術解放団体メサイア・アルカンシエルの真なる願い!!」
そうだよなお前らとクライングマンが叫べば抗議者達は一斉に自らに注射を始める。忌むべき今でないのなら、疎ましき世界でないのなら、望まぬ形で追いやられたここでないのなら、なんでもいい、何処でもいい。そんな諦念を覚えさせるほどに、魔術は彼らを追い詰めた。
魔術が人の兄弟だ、などと嘯く者は真なる意味でメサイア・アルカンシエルではない。彼らが望む解放は、人に縛られた魔術ではなく、魔術に縛られた己の解放。
その為ならば、人の姿さえ捨てる事など、造作もないとばかりに彼らはあっけなく人であることをやめる。
『ぅぐおぉおおおおおおおお!!!』
「…………かもね、クライングマン。確かに私は貴方達を避けて通れない。魔術に縛られている人間がいるのなら、魔術の王として私は貴方達と向き合わざるを得ない…」
本当にイシュキミリの元に向かいたい、だけど…ここで背を向けたら、私は肯定することになる。彼らの言う魔術界の歪みを、彼等の言っている事が正しいと認めることになる。目を背け蓋をして隅へ追いやる事を肯定することになる。
それは違う、私は魔術界の発展を望む…けどそれは手段であって目的でしかない。私の目的は、魔術を使って、誰しもが楽に笑って生きられる世界の構築。ならば…ここで立ち向かわなくてはならない。
『死んでくれ…魔術導皇ッッ!!』
人の形を失い、もりもりと盛り上がった肉体が緑に染まり、この場にいる全ての人間がゴブリンと化す。魔獣の膂力と凶暴性、そして人の知能と恩讐を兼ね備えた魔獣人間達が数十、数百と生まれ私を取り囲む。
死んでくれ、いなくなってくれ、ただそれだけの為に己さえも顧みない捨て身の憎悪。けどごめんね。
「私は貴方達を倒して進むよ、悪いけど…私は逃げる事も負ける事も許されないの」
こいつらを倒して、イシュキミリの元へ向かう。クライングマンが彼に何をさせようとしているかは分からないけれど…させない、魔術は人と共にある事を証明する。その為に私は戦うんだ。
………………………………………………………………
「デティが出ていったってマジかよエリス!」
「はい!みんなで止めないと!」
一方エリス達はデティを追いかけて街を疾走していた、デティはまだ遠くに行っていないと踏んでの徒歩での移動。しかし存外デティは早く移動していたのかまだ彼女の背中が見えてこない。
デティ、エリスは貴方を止めたいんですよ。エリス達は貴方と結婚に反対ですよ、そりゃ貴方にも色々抱えるものがあるかもしれない…でも、でもエリスは。
「結婚なんて大反対です!止めます!エリス達で!」
「…………お前すげぇな、エリス」
「は?どうしたんですかアマルトさん」
すると、何やら意気消沈した様子のアマルトさんがガックリと肩を落としながらエリスの隣を走る。一体なんだと言うのか、どうでもいい事ならまた後にしてください。と言いたいが彼は深刻そうな顔をしてる、アマルトさんがこの顔をする時はおふざけ半分じゃない時が大半だ。
なら、なんかあるんだろう。そんな予感に答えるようにアマルトさんは顔を上げ。
「結婚、実は俺…先にデティに言われてたんだよ。結婚するって」
「え?何時ごろですか?」
「一週間前」
「そんな前から……あ」
そうか、デティとアマルトさんがギクシャクし始めたのもその辺りだったな。まさか…なんか言ったのか?
「何言ったんですか、その時」
「よかったじゃんってさ。そん時はアイツも色々抱えてて大変だとは思ったけど、せめてダチとして喜んでやるくらいの甲斐性見せてもいいと思ったんだ…けど、多分正解はお前の方だ」
「え?エリス?」
「ああ、なんとなくだけどな。もしかしたらアイツは止めて欲しかったのかもしれない…だから俺に言った。家の伝統に真っ向から歯向かう俺に、否定して欲しかったんだよ。魔術導皇の役目を、だからお前の今やろうとしていることは正解なんだ」
デティはいつか結婚しなければならない、これは絶対の条件でタイムリミットもある。だからアマルトさんはデティが結婚する…イシュキミリと結婚すると聞いた時祝ったんだ。望む望まないに関わらず確定している伝統の因縁、それに殉ずるデティの姿をせめて友達として応援してやろうと。
間違ったことじゃない、当時はまだイシュキミリが裏切っていると知らなかったわけだし。だけどデティは心の何処かで止めて欲しかった、それはイシュキミリがイヤと言う以上の別の理由があった、だから応援したアマルトさんとギクシャクしたと。
けど酷な話だ、確かにアマルトさんは幾重にも続いた伝統を否定し自分の道を歩く男だ。だから彼に魔術導皇の因縁も否定しろと言うのは…。
「そんな事出来るわけないじゃないですか」
「そうだよ、出来ねぇよ、アイツはいつか結婚しないと…ん?え?」
「え?なんですか?」
「お前今なんて言った?否定できないって?」
「ええ」
「お前、しに行くんじゃねぇの?アイツの結婚を止めに、魔術導皇の伝統の否定に」
なんか、アマルトさん勘違いしてる?エリス別にデティの抱える使命を否定しに行くわけじゃないですよ。そもそも出来るわけがない、デティは魔術導皇としての使命に誇りを持ってる、そんな彼女から魔術導皇の使命を取り除くような真似をエリスがするわけがない。
「デティは使命を守る、そこは尊重しますよ」
「けど結婚は止めに行くんだよな」
「はい、やめさせます」
「矛盾してないか?結婚するのは使命でもあるだろ」
「してませんけど……」
何言ってるんだアマルトさん、エリスがこれからしに行くのは結婚の阻止。デティの婚姻を結ばなくてはならないと言う使命は尊重しますよ?矛盾なんかしてない。
だってエリスは───────。
「それより!」
すると、メグさんがエリスとアマルトさんの間に割って入るようにスライド移動してきて…。
「デティ様の姿がまだ見えてきません。もしかしたら魔術で移動してる可能性もあります、そうなるとこうやって走って追いかけては間に合わない可能性があります」
「む、確かに」
「時界門…使いますか?」
時界門、か。確かにそれならデティを即座にここに移動させられる。けど…デティもそこは警戒してる、何か対策を打たれてる可能性もある…例えば身につけているセントエルモの楔をトラヴィス邸の庭先に投げ捨ててるとか、そう言う事をされてるとエリス達はデティに追いつけなくなる。
「どうしますか」
「…………」
悩む、時間にしておよそ数秒…悩む。するとラグナが足を止めて。
「待て、なんかおかしい…」
「え?」
ラグナが目をギラリと尖らせた瞬間、街の入り口の方で爆発が巻き起こる。あれは魔術の爆発…デティの魔力?デティが戦ってる!?誰かに襲われてるんだ!
助けに行かなくては…そう思った瞬間、街の路地裏や地面をボコーンと開けて現れるのは…大量のゴブリン人間…って!
「なんですかこいつら!」
「シネェェエエエ!!魔術師ィィイイイイ!!!」
「こいつらメサイア・アルカンシエルのローム着てるぞ!」
「まさか、魔獣の遺伝子を…!」
数にして百…二百、いやそれ以上!?今も増え続けてる!こいつらあれだ!南部理学院で出てきたゴブリン人間と同じだ!
襲撃?本日二回目?だが狙いはなんだ、昼間撃退された腹いせに?にしてはあまりにも突発的すぎる…何より。
『うわぁああ!なんだこいつら!』
『か、怪物だー!!』
「やべぇぞこいつら街の人間襲い始めてる!」
「チッ、……手分けするぞ」
「ラグナ!?まさか……」
「街の人達を助ける!」
「うっ、でもデティが!」
そんな、今デティを追ってる最中なのに…街全体に行き渡る量のゴブリン人間の相手なんかしてたらデティを逃してしまう。けど…これを見過ごす事もできない。
そうエリスが言い淀むとラグナはギッとこちらを見て。
「だから手分けだ!エリス!すっ飛んでデティを追え!街は俺達でなんとかする!」
「ラグナ……」
「街の人達を放置は出来ない、けど…言っちゃ悪いがデティと天秤にはかけられねぇ、だからエリス。お前がデティを連れ戻すんだ、また…お前が!」
「ッ分かりました!みんな任せましたよ!」
「おう!みんな!方々に散って内から外に向けてゴブリンを追いやりつつ現地の魔術師の協力を取り付けるんだ!正直メルクさんとナリアが居ない状況じゃ人手が足りねぇ!どんどん人を巻き込め!行くぞ!」
ラグナ達はそれぞれの四方へと散る。エリスとデティ、そしてメルクさんとナリアさんが居ないこの状況下じゃ街一つカバーするには圧倒的に人員が足りない。だがそれでも…エリスにデティを優先させてくれているんだ!
「なら、確実に…!」
『ヴォォオアアアアアアア!!魔術師ィィイイイイ!!!』
なら確実にやり遂げよう、任されたのだから連れ戻そう。そう心に決めてエリスは拳を握り、点火する…。
「冥王乱舞…奥義ッ!」
ギロリと睨むは正面。迫るゴブリン人間達により埋め尽くされた大通り。エリスの道を阻む奴、邪魔する奴、目障りな奴、全て押し退けエリスは進む…。
退いてくれ、お前達の後ろに…エリスの友達が居るんだッッ!!
「───『魔道』ッ!!」
超高出力及び超高速で射出された魔力が空気を圧縮し熱を生み、発生するのは紅蓮の光、魔力の道。目の前にいる全てを吹き飛ばしエリスの道を作り出す。
待っていてくださいよ、デティ…直ぐに、駆けつけますから!
「冥王乱舞…点火ッッ!!」
必ず、助け出す。その為ならこの身など…惜しくはない!!
……………………………………………………
「街の方が騒がしいな…」
「ふむ、どうやら暴れているようですな…」
一方、騒ぎの気配を感じていたトラヴィスとアンブロシウスは館の一室で魔力を察知し…それでもなお動かずにいた。街では無数の人間が暴れている…だがそれでもトラヴィスは動けなかった。
「旦那様……」
「……ああ分かっている、これもまたイシュキミリの仕業なのだろう。翻れば我が罪だ…」
迷っていた、イシュキミリがメサイア・アルカンシエルのボスであると言う事実に。何処かで悟ってはいた、よからぬ事に手を貸していると…だが同時に信じたくない気持ちもあった。
それは、自分が無くとも立派に息子は育ってくれたと思いたかったから。自分の罪や無責任さから目を逸らしたかったから。だが、世の中そんなに甘くない。親が見なかった子供が親の思う通りに育つことなどあり得ないのだ。
「私が、もっと早く帰っていれば…妻の、イレーナの死さえも放置し帰らない選択をしなければ、こうはならなかった」
「違います旦那様、あの時は旦那様も手一杯だったのです、未熟で病弱だったウェヌス様を必死に守り、魔術界の未来を繋いだのは旦那様です、私が帰れば良かったのです…貴方のお供がしたいと、我儘を言わずに…」
トラヴィスは無責任だと己を罵る。だが従者のアンブロシウスから言わせればあれは仕方なかったとしか言えない。魔術導皇ウェヌスは当時未熟で残された時間が少ないことは明言されていた。だからこそ教育を急ぐ必要があり、病弱で権威に欠ける魔術導皇を守ると言う役目をスピカ様と担う必要があった。
とても、帰っている暇などなかった。妻の死に涙を流しながらもそれでも魔術界を守らねばならないと決意したあの日のトラヴィスの姿に惚れ込んだからこそ、アンブロシウスは未来永劫の忠誠を誓ったのだから。
「そうも言ってられんさ、今の状況ではな」
「旦那様……」
あまりにも多くの物を背負わされてきた男に、天はまだ背負わせるのかとアンブロシウスは嘆く。もうこれ以上はいいだろう、苦労に苦労を重ね苦悩に苦悩を上塗りしその末にようやく安寧が訪れた今この時。その安寧さえもトラヴィスを蝕む刃へと変える過去の慚愧。
これじゃあ旦那様が報われないとアンブロシウスは静かに目を伏せ……。
「アンブロシウス」
「はい、なんでしょございましょう」
「街のみんなを助けてやってくれ」
自分はこの足だと浅く笑うトラヴィスの目を見て、アンブロシウスは言葉を失う。まだ他者を気遣うかと…だがそれでも、敬愛する旦那様の言葉のあらば。
「畏まりました、旦那様」
「ああ、頼んだ」
そしてアンブロシウスは静かに煙と消え…館にはただ一人トラヴィスだけが残される。いや…正確に言うなれば一人ではない、二人だ。二人になるようトラヴィスはアンブロシウスに頼み込んだのだ。
全ては……。
「来たか……」
「父上…」
扉を開け、部屋に入ってきた息子イシュキミリ…或いはメサイア・アルカンシエル会長イシュキミリ。それを見据え…トラヴィスは目を鋭く尖らせる。
全ては、己の過ちの清算をする為に……。
………………………………………………………
「『ファイアーウォール』ッッ!!」
「ぐぉおおおおおお!?!?」
燃え上がる炎がゴブリン人間達を吹き飛ばす。普通の人間より幾分タフな耐久力を持つ魔獣の体、そしてそれを突き動かす魔術師への怨念は生半可な攻撃では倒されてくれない。だからこそ…デティフローアも全力で戦う。
だが……。
「ヴルルルル…アァァァア」
「うん!キリ無し!」
杖を背負い直し周りを見るが、ダメだ。全く減ってる様子がない、大規模破壊魔術をぶっ放しまくってもう数十は倒したはずなのに数が減ってる様子がないってことは、敵の勢力は数千を超えるか。
「もう街全体がゴブリン人間に覆われてる…あんた、何処までやる気」
「ゔうぅう、何処までって悲しいなぁ魔術導皇、この期に及んで俺の覚悟を…俺達の覚悟を測るってのかい」
そしてデティが視線を向けるのは、ゴブリン人間達の海の向こう。一つの家屋の上に座る大男。月明かりを受けて涙を流すクライングマンだ。みんながみんなゴブリンになったのに、それを焚き付けたのに、本人がまだ…人の姿を保っている事に怒りさえ覚える。
「何処までもさ!俺達の生きる目的は魔術廃絶と魔術拒絶!この二つだけなんだからよぉ、やるならトコトン、何処までも…魔術師達を鏖殺する。お前はそのうちの一人さ魔術導皇」
「イシュキミリと関わらせたくないだけなら、ここまでする必要ないでしょ!」
「分かってないなぁ魔術導皇、逆だよ逆…俺達はイシュキミリを守る為にこんなことしてるんじゃない。俺達の大暴れにイシュキミリが相乗りしてるだけ、主題は俺達だぜ」
するとポケットに手を入れたまま立ち上がるクライングマンは顎を上げ天の突きを見上げながら悦に入る。
「お前達によって昼間の魔術会議襲撃が潰された、あれのせいで何人も大怪我を負った…」
「しょうがないでしょ、拳銃向けて暴走してくる奴らを無傷で返すわけにはいかない」
「俺達はただ、自分たちを隅に追いやった奴等へ仕返ししてるだけだぜぇ?今まで奪われた物を…その悔しさをぶつけてるだけだぜ?力も持たない幼気な連中の微かな願いさえ正論で押し潰そうってかい。やっぱり魔術導皇はクソだなぁおい」
「正論はね、持論に勝るの。貴方のような自分だけの論理よりは尊重される」
「またこれだ、お陰で俺達魔術廃絶を唱える連中の我慢の限界が来た、嘆きの雨による鏖殺を待たずして…全員の怒りが爆発した、これがそれさ。俺ぁ悲しいぜぇ…結局暴力でしか解決ができないんだからさぁ」
「率先して暴力を振るう奴が……」
そして私は大きく杖を振りかぶる、やはりクライングマンの理屈は受け入れ難い。魔術により追いやられた人々の怒りは受け止める気がある、だがこいつのそれは…被害者意識を盾にした暴力行為の正当化に他ならない!そんな物はこの場に不要だ、だから!
「よく吠えるよッッ!!『ウルティマ・アエラスバースト』ッッ!!」
杖を振り抜くと同時に空気の爆裂を生み出し周囲のゴブリン人間達を纏めて吹き飛ばす。数多の人間が、元人間が、雨のように周囲に降り注ぐ中私は杖を空に放り、その上に飛び乗って一気に上昇。クライングマンのいる建物とは別の屋根の上に乗り包囲を突破する。
こいつは許せない、だから…私が倒す。どの道こいつを倒さない限りこの騒ぎは終わらない。イシュキミリを捕まえる以前の問題になる。手っ取り早くいかせてもらう!
「あんたを倒す、そしてその後ゴブリン人間を掃討する!それでこの騒ぎは終わりだよ!」
「へぇ、俺を倒すかい」
杖を突きつける。クライングマンの体からは魔力を感じない、魔術は相変わらず使えない、体は鍛えてあるし銃を装備しているが一流の魔術師相手にそれだけじゃ不足だ。
その上奴はゴブリンにさえなってない、奴を倒すくらいわけない。の…だが、こうして相対してもクライングマンは焦りを見せず。
「倒せるか?俺が」
「……今のところそう思ってるけど、なんかある感じかな、その余裕」
「あるさ、悲しいくらいにな。…言ったろ?魔獣の因子を取り込む行為は魔術を使えない連中にとっての救いだと、戦う力を得る唯一の方法だと」
するとクライングマンはポケットから手を抜き両手を広げる。その姿に異様な何かを感じ。私は警戒を濃くする。
「よく言うよ、仲間にばかり魔獣因子の取り込みを進めておいて、あんたは未だに人間じゃん」
「へっへっへっ、悲しいなぁ魔術導皇。俺が人間に見えるかよ…俺が、この…獣人戦士隊十大隊長が筆頭クライングマン様が」
「獣人戦士隊…大隊長?」
それってあの象の人とかカバの人とかと同じ感じの…あれ?けどクライングマンはどう見ても人間だ、だがつまりそう言うことは既にクライングマンは魔獣の因子を取り込んでいるってことか?
「いいこと教えてやるよ、魔獣の因子を取り込んだ人間がどうなるかの研究成果がある。まず適合しなかった物は魔獣の大意識なる存在に飲み込まれ、その意識が魔獣に飲まれちまう…まぁこいつらだな」
「…………」
「第二に適合した者は、その力を完全に制御しながらも意志を失わず魔獣の力を扱うことができる人間となる、そして……」
クライングマンの瞳が髪の向こうで光る、その目は私を飛び越し…頭上の月を見て、歯を見せ笑う。…気のせいか?奴が見せて笑っている歯が今、伸びた気が…。
「第三に…完全なる制御を超え、魔獣の意志を飲み込み己の中に取り込む事が出来た者は、魔獣でも、人でもない…新たな存在へと昇華する。そう、獣人戦士が獣人形態と魔獣形態を分けて使えるように、そう言う奴は人間の姿を取ることも出来るのさ…ああそうだよ、つまりその新たな存在ってのが」
気のせいじゃない、クライングマンの牙が伸びていく、鼻が伸び口が伸び、全身から銀色の毛が生え…ただでさえ大きかった体がより巨大化し、筋肉が隆起し爪が伸び骨格が変わり…。
変化していく、肉体が。人じゃなくなっていく…そう、あれはまさしく。
「俺だよ魔術導皇。俺こそが魔獣因子研究唯一の成功例にして傑作ッ!膨大な魔術への憎悪が俺を人でなしに変えてなお!俺を俺足らしめた!俺は…オレは…ッッ!!」
それは、世間ではこう呼ばれる。
『不吉の象徴』『悪意の権化』『良からぬ物全てに勝る悪運の獣』…あまりの不吉さからディオスクロア文明圏では名前に使うことも、デザインに使われることも、何かにその姿が刻まれることもない、魔女様が忌避した所為で人々から過度に恐れられる唯一の獣。その姿をクライングマンは取り始める。
その獣の名は『狼』。シリウスの二つ名『天狼』を想起させる事からディオスクロア文明圏の中で最大の不吉の象徴と呼ばれ絵画にすら描かれないその姿へと変じたクライングマンは、さながら月下の狼男とでも呼ぼうか。
「ジュルリ…オレは、魔術を喰らう獣さ魔術導皇。だから死ぬのはオマエの方だよ」
真っ赤な瞳、銀の毛を持った二足歩行の巨大な狼男は私を見て舌を垂らし、涎を流す。
よりにもよって狼かよ、見てるだけで嫌な気分になる。あんな物を嬉々として晒すなんて…でも。やるしかない、倒すしかない…だから!
「受けて立つわい!クソッタレ!」
「ゥアォーーーンッ!コロスッ!喰い殺す!食い殺せッ!同胞よォッ!!!」
挑む、銀の狼男とその遠吠えに従うゴブリン達を相手に…たった一人で魔術導皇は挑みかかる。