606.魔女の弟子と魔雨の恐怖
魔術道王…それは存在だけが確認されていた存在だった。全てが謎に包まれながらもただ『メサイア・アルカンシエルを統括する会長である』という情報だけが、魔女大国側にはあった。
魔術を否定し、その存在を消し去ろうとする魔術解放団体メサイア・アルカンシエル。世界中に構成員を持ち、数十年近く前から活動し続ける全魔術師の敵対者。魔術導皇として看過する事は出来ない存在…当然、それを統括する魔術道王は尚のこと許し得ない存在。
だったのに、今私は…デティフローアは魔術道王と対峙している。それも…その正体は、私が敬愛する父の師トラヴィス・グランシャリオの子息イシュキミリ・グランシャリオだった。
この数週間ずっと私達と一緒にいたイシュキミリが、健気に私達に協力し続けてくれていた彼が…私が最も許せないと感じていた存在だと、告白してきたんだ。
混乱してるさ、怒っているさ、聞きたいことは山ほどあるし言いたいことも山ほどある。けれど今魔術を封じられ拘束されている私に、会話の主導権を握る権利はない。
主導権は今、魔術道王イシュキミリにある。そして彼はこう語るんだ。
「魔術導皇デティフローア…総ての魔術を統括する者よ。総ての魔術を否定する魔術道王として、君と話がしたい」
と…彼は私を所在不明の地下施設にて椅子に縛り付けて、話がしたいと、交渉がしたいと語り出した。その言葉に私は絶句しつつも…受け入れるしかなかった。
「何さ…」
口を開けば、存外に冷たい声音が出た。私はどうやら今自分が想像している以上に怒っているらしい。だってそうだろう、彼は一体何人の人間を裏切った。
私達魔女の弟子を利用し裏切った、親としての愛を向けるトラヴィス卿を裏切った、彼を信用してウルサマヨリに集まった魔術師達を裏切った。何より彼の存在を頼りにしていた全魔術界を…彼は裏切っているんだ。到底許せない、許せないよ…!
「そう怒らないでくれ、これは君にとって悪い話じゃない」
「手を縛られて、裏切りを告白されて、頭の中ぐちゃぐちゃになるくらい怒り狂ってる私にとって悪い話じゃない?喧嘩売ってる?買うけど」
「落ち着けよと言っても無駄か。まぁいい、君に付き合ってたら話が先に進まない…なぁデティフローア、君は魔術をどう思う?」
「人類の共有財産」
「迷いがないな、けど私はそうは思わない。魔術は…押し付けられた過去の遺物だ」
そう語るなりイシュキミリは立ち上がり、ローブを肩に羽織りながら私の周りを歩くようにグルグルと歩き始め、顎に手を当てたまま話を続ける。
「魔術始祖シリウスによって作られ、大いなる厄災という人類最大の過ちを引き起こしてなお、今も人類を蝕み支配を続ける歴史の癌だ」
「それを言ったら、剣や弓だって戦争の歴史でしょ。人類誕生以来人の手中にあり、今も過ちの只中にある。君はそれも否定してるの?その癖大量の銃器は買い漁ってるみたいだけど」
「揚げ足を取ろうとするなよ、魔術は今も進化を続けているだろ。剣は進化しても剣のままだが、魔術は進化すればするほど人の手を離れいずれまた厄災のような破壊をもたらす可能性がある。同列に語るべきじゃないだろ」
「つまり君は何?魔術は危ないから手放しましょうって話?別に危機感覚えるのは勝手だけど、押し付けないで」
「魔術は倫理観を狂わせる、人は魔術の為に生きているわけでもないし、魔術は人の為にあるわけでもない。切り分けて考えるべきだ、なのに人は…魔術に終生をかける、その為なら死んでも構わないと考えている人間が多すぎるし、そうやって生み出された物によって多くの人間が不幸になる連鎖が続いている…危機感を覚えない方が異常だろう」
「みんな誰かの為に魔術を作ってるの、一人でも多くの人を笑顔にする為に魔術を開発し使ってるの、望まぬ結果に終わる事があるのもまた事実…でも!魔術の出発地点は常に誰かのためと言う献身の心!それを外野から否定するなッ!」
「その狂った倫理観の象徴が何を言う!」
ピシャリと私の言葉が、イシュキミリによって遮られる。私が…狂った倫理観の象徴…?いや、象徴は私じゃなくて…。
「クリサンセマム…、お前達の妄念は異常だ。ただ魔術を継続するためだけに異常な性行為と異質な出産を繰り返し、歪が生まれても魔女によって継続される。魔術界の頂点に立つ存在がこんな有様だから…魔術界には自己犠牲を美徳化する風潮が蔓延する、違うか」
「………………」
「私はね、魔術界の犠牲を強いるやり方が気に入らないんだ。間違っていると思っている、魔術開発に人生を賭けて、その結果開発者の命が失われてもそれは『献身の心がそうさせた』と讃えるのかお前は、その魔術が破滅を齎す災厄となっても『それは誤った使い方だが魔術は間違ってない』と比護するのか!その価値観そのものこそを廃絶すべきだと私は考えている!」
「……魔術は、人の兄弟だから…解放しましょうってのが、あんた達の主張じゃないの」
「一概化するな、私達はただ魔術を廃絶する事だけを夢見ている集団だ、その為のメサイア・アルカンシエルだ」
「……概ね分かった、つまりアンタは魔術、そして魔術界そのものが気に入らないって言いたいの」
「ああ、分かってもらえたかな。魔術は危険だ…行く末はきっと厄災だ。そしてそれを命懸けで研磨する事を良しとする魔術界の倫理観の無さこそ、私は唾棄すべきであると考えている」
正直、驚いた。メサイア・アルカンシエルと言えば無茶苦茶な理屈を用いて自己主張を押し付ける集団だと思っていたから…そのトップたる彼が、そこまで考えているのかと。
ああ認めるしかないよ、確かに彼の言う通りな部分はある。魔術界には自己犠牲を美徳化する風潮はある、研究の末命を落としたなら『魔術界の献身の為邁進していた』と努力を讃え、研究の事故で死んだなら『可哀想だが研究は間違っていなかった』と擁護する。努力を見て…失われた物から目を背けているんだ。
それはきっと、魔術導皇がそうだから。自らの生涯を捧げて魔術界に尽くす事を使命としているから…他もまた上に倣えで自己犠牲を良しとしている。そしてその尊い自己犠牲の果てにある魔術の進化は…厄災を招く程の物かもしれないだろう。
そこに警鐘を鳴らすと言うのなら、わからない話でもない。けど…それでも。
「それでも、私は魔術を肯定する。自己犠牲をお前は否定するかもしれないが…人類進化とはそう言う物だよ。魔術に限らない、無数の屍の上に私達は今を生きている…そこを否定したら、人は地上の覇者足り得ない」
「かもね、分かるさ。君が魔術そのものを捨てきれないことくらい。だからこその交渉だ…デティフローア、よく聞きなさい」
するとイシュキミリは再び私の前にどかりと座り、長い金髪をパッと払い私の目を見据えると…述べる、交渉を。
「私達の交渉は一つ、君と私の婚姻だ」
「……は?」
それは…ちょっと前に言ってた、求婚?まさかあれも、こいつらの目的の一端だったのか。だったら…なんだよ、真面目に考えてた私がバカみたいじゃん。
「何それ、アホらし過ぎて言葉がないよ」
「私は近々己の身分を公表するつもりだ、世界に向けて…イシュキミリ・グランシャリオこそが魔術道王であると、メサイア・アルカンシエルは私の組織だと」
「……そんな事したら、大混乱が起きるだろうね」
今世界で最も有名な魔術一族の一つであるグランシャリオ家の嫡男が…メサイア・アルカンシエルの一員、それも組織束ねるボスだなんて知られたら、それだけで魔術界には言い知れない絶望と失望が蔓延するだろう。ただそれだけで…大打撃だろうな。
「そこで…魔術道王と魔術導皇の婚姻もまた公表する。つまり…互いに妥協するんだ、魔術を肯定する者と魔術を否定する者の間で平和的条約を締結する」
「どう言う事…?」
「私は別に破壊も殺戮も興味がない」
「よく言うよ、会議場に襲撃を仕掛けて殺して回る予定だったんでしょう」
「必要な排除と敵対者の殺害に躊躇する事はない、殺すのは魔術界存続に必要なマレウスの魔術研究者だけのつもりだ。けど無辜の人々やただ生きているだけの民草にまで私は手をかけるつもりはない、それが私なりのラインさ…なんせ私の目的は世を壊すことではなく、私が考えるより良い世を作ることなんだから」
「より良い世の中…ね」
「ああ、そうだ。だが相反するとは言え魔術師達を殺戮するのは出来る限り避けたい結果ではあった、だが君がいれば話は変わる、誰も殺さなくて良くなる。まず君と私で婚姻を行い…二人で魔術界そのものの計画的な縮小化を行う、まず人類の魔術依存を取っ払う。君の言うように今世界から魔術が突然なくなれば世界は大混乱だ、それは私の望むべくところではない…だから、時間をかけてゆっくり世界に分かってもらう、魔術そのものに頼りすぎるのは良くないと」
「魔術界の計画的な縮小化…?消滅じゃなくて」
「魔術師だって人だ、職にあぶれたら食うに困るだろう?私は抗議者と違って魔術師も同じ人として見ている、同じ人として見ているからこそ自己犠牲を強いる事はしないし可能なら殺戮は避けたいと考えている。魔術界を小さく、よりコンパクトにして…今よりももっと魔術ではない技術が台頭する土壌を作る、それだけでいい、それが私の目的だ」
「魔術撲滅が目的なのに、随分と平和主義的だね」
「平和だからね、私が望むのは。魔術一強の時代を終わらせて、魔術界を縮小化し、他の技術と競わせる、きっと私達が老衰して死ぬまでに出来るのはそこまでだろう、その先の未来でやっぱり魔術が氾濫するならそれはもう人類の選択と諦めよう、だが他の技術が魔術にとって変わるなら…何も問題はないだろう、お互いにとって」
「…………」
「私が否定したいのは魔術の進化と、魔術界に蔓延する自己犠牲だけ。それ以外に破壊も殺戮も行うつもりはないし、魔術廃絶の後世界が荒廃する事も望まない、可能な限り…苦しむ人を減らす方法がこれだ」
「本気で言ってる?」
「私を他の魔女排斥組織や八大同盟と一緒にするな。アイツらは魔女の世を壊したいだけの破壊者、私は魔女の時代から押し付けられた風習や風潮を壊したいだけ、それだけなんだよ」
少なくとも…私はそう思っている、他のメンバーがどうかは知らないがと付け加えながらもイシュキミリは真剣な瞳で私を見据える。その目を見て、分かった事が一つある。
私は彼の裏切りを見抜けなかった、彼の中から邪な魔力を感じなかったからだ。良くないことを考えていたり、何かを壊してやろうと考えているわけではなく。彼は本気で魔術がない世の中が正しいと考えているから…気がつけなかった。
「デティフローア、考えて見てくれ。今いる魔術師達を唐突に消し去るんじゃなくてゆっくり時間をかけて混沌とした魔術界を縮小していくんだ。新しく魔術界に入る人間を制限していけばやがて魔術界は小さくなる、だが誰も死なない。君も…役目を継続出来る」
「…信じられないよ、私を今しがた裏切った奴の言葉なんて」
「そこについては謝罪する、だが脅しをかけるわけじゃないがこの話の主導権は君にない。君がこの話を受けないのであれば仕方ない、私は嘆きの雨による魔術師撲滅に乗り出すしかない。そうすることでしか魔術界の魔術師を減らす事ができないからね」
「ッッ……」
「君にあるのは平和的にこの話を終わらせるか、或いは自分の矜持を優先して死者を出すかの二者択一だ、魔術師を守るのが魔術導皇なんだろう?なら…答えは決まってると思うが」
「……………」
目を伏せる、イシュキミリの言いたい事は分かった。イシュキミリは出来る限り死者を出さない方向を明示してくれているが、だからと言ってそれが受け入れられないのなら死者が出る事も致し方なし…と言った態度なのだ。
あるのは選択権だけ、私が受け入れれば魔術導皇と魔術道王、つまり魔術を肯定する者と否定する者の間で明確な関係性が出来る、魔術を最低限保全しつつ、魔術師になる人間を制限して魔術を縮小化する。その後他の技術が魔術の代わりになれば魔術は自然と旧時代の遺産となり廃される事になる。
イシュキミリの目的はそれ、飽くまで人類が選ぶ形にして魔術を否定したい…それが、彼の。そしてそれが受け入れられなければ嘆きの雨による強硬策に出ると…。
私は、どうすればいいんだ…私は。
…………………………………………………
「『熱焃一掌』ッ!!」
「おッと!」
振るわれる紅蓮の剛腕を前にカルウェナンは魔力噴射による加速にて高速移動を行い回避を行う。空振り俺の必殺の一撃、…参ったな。完全に当てられる間合いだったのに避けられた。
「チッ、相変わらずバカ強えなアンタ!」
「君も僅かな時間で見違えるように強くなったな」
会議場のエントランスにてぶつかり合うラグナとカルウェナンの戦いは膠着していた、いや膠着と呼ぶにはラグナは傷つき過ぎているとも言えるだろうか。
「だがまだまだ小生には及ばん!」
「チッ!」
飛んでくるカルウェナンの蹴りを跳躍で回避するがそれを読んだカルウェナンは即座に体勢を整え拳による直線的な殴打をラグナに放つ。ほぼ同時に行われる連撃を前に俺は防ぐ事も出来ず腹に一撃を貰い…。
「グッ…」
口元から胃液が吹き出される、防壁で防御して、その上で腹筋固めてたのに全部貫通して内臓まで衝撃が届きやがった!なんつー威力だよ、この…。
「オラァッ!!」
「フッ…打ち返して来るか」
咄嗟に蹴りを放ち反撃するがそれさえもカルウェナンはスルリと避ける。痛む腹を抑えたままラグナは地面に着地し息を整える。
こいつはガウリイルやカイムのような達人タイプの使い手だ、そしてその二人を足して2を掛けてもまだ足りないくらい激ヤバな達人だ。正直武の練度だけで言えばダアトにも匹敵するかも知れない…。
分かる、俺は分かるぞ。こいつはただ武を極めただ戦を求める真性の武人だと、故にその技術が長い時をかけて培われたと。
ある意味、俺がマレウスの旅で出会ってきた中で最も強い存在だと言えるだろう。
「へっ、燃えてくら…」
それでも闘志は尽きない、今ンところクリーンヒットはナシ、こっちはボコボコだけど俄然やる気が湧いて来る!
「……………」
しかしカルウェナンは黙りこくって、そのまま構えを解き。
「やめだ、今日はこのくらいにしよう」
「はぁ?こっちはまだ覚醒も使ってねぇんだよ!新技だって試してねぇ!不完全燃焼で終われるか!」
「ならその技を磨いておくんだな、悪いが…今の君がどれだけの力を発揮しても、君には負ける気がしない。だが君達はこの短時間でここまで強くなった、その芽を今潰すのはあまりにも勿体ない。もう少し時間をやる、どのみち決戦は後程になるのだ、ならば次までに小生に本気を出せるまでに高めておけ」
そう言うなりカルウェナンは背を向けこの場から立ち去ろうとするのだ。いやいや待てよ…こっちは燃えてきてんだよ、火をつけといて今更そいつはねぇだろうが、喧嘩売ってきたのはそっちなんだから…せめて最後まで付き合えやッ!!
「待てよ!カルウェナ────」
「フンッ!!」
「ぐっ!?」
しかし振り向き様に放たれた魔力衝撃波に吹き飛ばされ、近づく事ができない。この俺が、前に進めないくらい凄まじい魔力衝撃…こいつ、こんな手も隠してたのかよ!
「君も武人なら分かるだろう、この歴然たる差が。ならば意固地になって攻め立てるより、今は武の研鑽に励め…何、安心しろ。我々には幸運にも戦う理由がある、すぐにまた機会は訪れる。その時は今度こそ…確実に死ぬまでやってやるから今は退け」
「クソッ!!!」
クソが…修行したのに、まだ届かねーかよ。いや違うか、俺はまだ修行の途上だから敵わないのか…。みんなそうだ、修行で得たものを全て発揮しきれていない、悔しいが…奴の言う通り今の俺じゃ勝てねぇ…クソッ。
「アルカンシエル兵ッッッ!!!」
すると、外に出たカルウェナンは拳を掲げ、外で戦うアルカンシエル兵達に向け号令をかけ…。
「これ以上の交戦は無意味!撤退だッ!」
「し、しかしカルウェナン様!会場の中の魔術師達を我々はまだ殺せてな───」
「なら一人でやれ、小生は関与せん。お前一人で彼ら相手に勝手を通せるなら、好きにしろ」
「ちょっ!?」
それだけ述べるなりカルウェナンは一も二もなく全身から魔力を放ち凄まじい跳躍を行い雲の果てまで消えていく。これで戦いは終わりか…じゃあ俺もそろそろ休んで…。
なんて、行くわけねぇだろうが!納得なんかしてねぇよ!!
「待てやッッ!!テメェらッッ!!デティ返せやッッ!!」
「ヒッ!に、逃げろッッ!!」
俺は追う、逃げ出すメサイア・アルカンシエル達を、しかし予め撤退手段を決めていたのか…アルカンシエル達は蜘蛛の子を散らすように散り散りになって逃げ出すのだ。恐らく街の至る所にある地下迷宮を使って離脱するつもりだ!クソッ…!
「みんな!無事か!」
「うん!それよりラグナは大丈夫!?」
「俺は大丈夫だ、それより…エリスは」
「アイツならイシュキミリを追ってどっかに行っちまいやがった」
アマルトは悔しげに呟く、エリスはイシュキミリを追ったか。つまり奴らが逃げた先にエリスがいる可能性が高いな…なら。
「よし、みんなで追うぞ!」
「勿論でございます!」
「ああ!デティも攫われてんだ!全員ぶっ潰してやる」
「……待ってみんな」
俺とアマルトとメグとネレイド、この四人で逃げた敵を追いかけようとしたが…ネレイドは静止する。その声に従い立ち止まると…俺は気がつく。逃げ出す敵の波の中から…一人、こちらに向かってく人間がいる事に。
そいつは、見るからに巨大な杖を持った一人の女だ。だらりと足元まで伸びた髪を揺らし、その隙間から血走った目でギョロリとこちらを見る。
「あ、あ、あ、追わないでください。私達もう逃げるので…そんな険しい顔で追われたら、く、く、狂う〜〜〜!!」
「なんだアイツ…」
狂う、そう叫ぶのはどう見ても狂ってるようにしか見えないイカれ女…だが、分かる。アイツ殿だ、他雑魚とは比べ物にもならない魔力が滲み出てる!なんかして来る!
「お前誰だよ!」
「わわわわわわ私はアナフェマ!第四刃『崇拝』のアナフェマ!ここここここ!ここから先は!通しませぇぇええん!」
第四刃…カルウェナンもそんなこと言ってたな、ってことは幹部か!なんて衝撃を受けている間にもアナフェマは動き出す、巨大な杖を槍のように持ち上げ頭上で振り回しながら全身から魔力を溢れさせて。
「追ってこないでくださいぃいいい!『ビッグストーンウォール』ッ!」
「おぉっ!?」
ビッグストーンウォール…それは地面を競り上げて壁を作る現代土魔術。…普通に使えばただの防御魔術でしかないそれが、アナフェマの手によって使われた。
その瞬間…あまりにも膨大すぎる魔力が爆発し、…街がひっくり返った。
「なんじゃそりゃ!?」
いや。正確に言うなればまるで布を拾い上げるように地面が街ごと持ち上がり超巨大な壁が目の前に形成されたのだ。その勢いに俺達は纏めて宙に投げ出され、地面を見失う。ただ土魔術を使っただけでこの規模かよ!
やべぇ、壁を作られた…時間を稼がれた!逃す!敵を!けど…。
「アイツも強えな!けど…メグッ!!」
「はい!壁なんか関係ありません!時界門を使います!」
壁なんか関係ない、メグがいれば即座にエリスのところに転移出来る。空中に投げ出された俺達はメグと合流する為に空で姿勢を整える…が。
「イシュキミリ会長が言ってました、この作戦において…最も脅威的なのは、メグ…メイドの時空魔術だって」
「ッ…アナフェマ!?」
時界門を展開しようとメグが動いた瞬間だった、競り上がる壁の真上から…例の狂人、崇拝のアナフェマが飛び降りてきたのは。やばい!メグの邪魔する気だ!
「だから、潰しますね…」
「メグッッ!!」
やばい…空中だから!メグのところまで行けない!先手を打たれる!そしてその通り、アナフェマは巨大な杖をブンブン振り回してメグに向けて…。
「『アンチビーム』ッッッ!!!」
「え!?」
「危ない…メグ!」
バリバリと音を立てて黄色い雷が杖先から放たれる。反応の遅れたメグを庇うように飛んだのは咄嗟に覚醒を行い、霧の推進力でメグの元まで飛んだネレイドだ。しかし…それでも、ネレイドでも庇いきれず、二人は拡散する巨大な電流に飲まれ、光の中へと閉じ込められる。
「ぐぅぅぅっっ!!」
「きゃぁあああ!?!?」
「メグ!ネレイド!」
電撃に打たれた二人は力無く地面に墜落していく、落ちていく、ってかなんだあの魔術。今ネレイドは防壁を展開してたぞ!?防壁を貫通して、剰えネレイドの防御さえも超えて二人を電流で打っただと。
ともかく今は二人の無事を確認するのが先決だ、俺は即座に地面に着地するなり地面に墜落した二人の無事を確かめる。
「二人とも大丈夫か!」
「うっ…大丈夫……」
「うぅ………」
しかし、二人とも特に傷はなく。雷に打たれたにしては火傷もなく、上手く着地したのか墜落のダメージもない。ただやや体が痺れているのか…二人とも少し消耗しているように思える。
「ラグナ、二人とも大丈夫そうか!?」
「ああ問題ない、それよりメグ…悪いが時界門を作ってくれるか?」
とにかくダメージがないなら時界門を作ってくれと、俺とアマルトはメグを気にしながらも頼み込む……。
「………ふふ」
そして、そんな様を見つめるアナフェマも近くの瓦礫に着地し…俺達の様を笑って見ている。邪魔する気配ない…いや、必要ないのだと断じるように手を出さない。
「時界門を…」
そして。メグは俺の頼みを聞いて…立ち上がると、こちらを見て……。
「どうしてもやらなきゃダメですか?」
「は?」
「なんか、気が乗らないので…やりたくないです」
「はぁ!?」
そう言うなりグデーンとメグは腕を垂らし怠そうに、そして眠そうに目を擦ってむにゃむにゃ言い出したのだ。…な、何言ってんだよ、この状況で、気が乗らない?やらなきゃダメ?おい…何言ってんだよメグ!
「おいメグ!しっかりしろよ!エリスが…デティが敵のところにいるんだよ!お前の時界門じゃなきゃ追いつけないんだ!頼むよ!」
「うえぇ〜〜でも面倒くさいです……」
「め、面倒くさい?」
「エリス様なら大丈夫ですよ、どうしても追いたいならラグナ様が走って追いかけてください…私は、ちょっと横になりますね。立ってるのも面倒なので」
「あ、あぇ?何言ってんだこれ、どうしちまったんだ?メグこんなこと言う奴じゃないだろ…なぁラグナ」
おかしい、メグはこんな奴じゃない。誰よりも働き者で誰よりも仲間の身を案じる奴だ、それがこんな…面倒臭いから助けるのは別の誰かに、そんな他人任せで怠惰なことを言う奴では絶対にない。
なのに、今事実としてメグは横になり瓦礫を枕に横になってしまった。明らかな異常事態、考えられる原因があるとするなら…。
「アナフェマ…テメェだな!メグに何をした!」
「んふふふ、狂う〜〜…」
アナフェマだ、奴が寸前に撃った光線だ、あれに当たってメグはおかしくなっちまった!何をしたと問い掛ければアナフェマは瓦礫の上に座りながらニタニタと笑い。
「私の『アンチビーム』を受けたから…反転したんですよぉ、そのメイドさんは」
「は、反転?」
「そう、この光線を浴びた者は性格が全てひっくり返るんです。勇猛な者は臆病に、賢き者は白地に、積極的な者は消極的に。そのメイドさんはどうやら常軌を逸した働き者だったみたいですねぇ…だから、反対の常軌を逸した怠け者になってしまったようです」
「なんじゃそりゃ!?そんな魔術もあるのかよ!性格を書き換える魔術なんて…メグ!しっかりしろ!」
「しっかりするのも面倒くさい…、寝て起きたら全部終わってないかな…」
ダメだ、完全に怠け者になってる。横になって寝返りを打ちながら尻をかくメグを見て、もう時界門が期待出来ない事を悟る。
「……テメェを倒したら、元に戻るのか」
「さぁて、どうでしょうか…私にも分かりません、負けたことないので」
「だったら…お?」
ここでアナフェマを倒す、そうすればメグが元に戻ると信じて戦うより他ない。そう俺が拳を握った瞬間、背中にトンと小さな衝撃を受けて振り向く…するとそこには。
「ネレイド?」
「う…うぅ…」
ネレイドがいた、ネレイドが大きな体を小さく丸めて俺の背中に隠れ…縮こまり、震えている。何してるんだネレイド…そう声をかける前に俺は思い出す、そういえばネレイドもあの光線に当たって……。
「ネレイド、お前まさか…」
「うぅ…こ、怖い…敵がいる…守って、ラグナ…」
「………マジか…!」
勇猛な者は臆病な者に、アナフェマはそう語った。ならネレイドはどうなる?傷つくことを恐れず、誰よりも前に立ち戦うネレイドは。
臆病者だ、誰かの後ろに隠れ震えることしか出来ない臆病者になってしまったのだ。これじゃあ戦うどころの騒ぎじゃねぇ!ヤベェなあの魔術!受けたら殆ど戦闘不能確定じゃねぇか!
「うふあははは!そっちは臆病者…このまま全員ここで倒しちゃえば私!イシュキミリ会長に褒められるかもぉ〜!」
「テメェ!二人を元に戻せ!」
「嫌です、ラグナ・アルクカース…貴方も反転しなさい…『アンチビーム』!」
「うお危ねぇッ!?いきなり撃ってくんな!」
咄嗟に飛んできたアンチビームを身をそり返してなんとか回避する。危ねぇ、あれに当たってたら俺どうなったんだ?分からないけどあんまり想像したくないな!
「ラグナ!ここは俺に任せてもらおうか」
「アマルト?」
すると、俺を守るようにアマルトが前に立ち剣を構える。任せろって…お前まで反転したらもう俺たち動けなくなっちまうぞ。
「うるさいですねぇ、貴方も反転させますよ」
「俺が反転したらコミュ強の陽キャになっちまうだろ!顔も良くて性格も良くなったら完全無欠になっちまうだろ!やめろや!」
「じ、自己評価低いんですか?高いんですか?」
「うるせぇっ!みんなを元に戻しやがれッッ!!」
瞬間、アマルトは爆裂な加速を見せアナフェマに切り掛かる…が、そこに対して反応を見せるのがアナフェマだ。
「フッ…」
「なっ!?」
杖を払いアマルトの剣を弾き返し、軽やかな動きで瓦礫から瓦礫に飛び移りニタニタと笑う。アイツ見るからに魔術師タイプなのにアマルト相手に近接戦で凌ぐって…やっぱ只者じゃねぇのか!
「私これでも幹部です、アルカンシエルと幹部です。簡単に負けませぇん…」
「ッテメェ…!」
「そしてお前も反転しろっ!『アンチビーム』」
「しまった!?陽キャになっちゃううう!!!」
そして隙を見せたアマルトに向けて飛んでくるのはアンチビーム、避ける暇もなくアマルトに命中し再びバリバリとアマルトの体が光り輝く。やられた!受けちまった!これじゃあアマルトが…!
「アマルト!大丈夫か!?」
「う、うう…陽キャになっちゃう、コミュ強になっちゃう」
「まだ言ってんのか…、おい!なんか反転したか!?」
「う…う?反転したかな、どうだ。俺、なんか変わった?」
「………」
光線を受け、首を傾げるアマルトは…なんかこう、変わった感じはない。元々よく分からん性格してるから変わってるかも分からない。けど…うーん、所感を述べるとするなら。
「変わってなくないか?」
「だよな、俺相変わらず卑屈だし」
「ってことはお前効かないのか?あれが」
「………いや、もしかして…」
ふと、顎に指を当てて考えるアマルトは、チラリとアナフェマを見て…。
「もしかして、お前のそれ。呪術だったりしないか?」
「ギクッ…そ、そそ、そんなわけ…ないじゃないですかぁ」
「呪術なんだな、うん。やっぱり…この感じ、南部魔術理学院で味わったのと同じ感じだ。ラグナ!アイツのアンチビームは呪術だ!多分魂情報を変身魔術の要領でひっくり返してるだけだ!」
「呪術…なるほど、そう言われりゃ合点が入るかもしれない」
だから防壁で防げなかったのか、呪術は肉体に対する直接的な干渉法、魂に対して直接影響を与える魔術、故に物理的な防御では防げない。変身魔術の応用で魂その物に感触して変質させているのか。
「うわわ、もうバレちゃいました」
「効かねーと分かれば怖くねー!お前がなんで呪術を使えるかはわからないけど!ここでぶっ潰す!」
「ひぃん!怖くて狂う!こ、こここ、ここは逃げるが勝ちです!目的は達しました!セーフさーんッ!」
叫ぶアナフェマ、その声に呼応して大地が揺れる。セーフ、その呼び名に答えるソイツはアナフェマの土魔術でメチャクチャにされた大地を掘り進みアナフェマの足元に穴を開け、顔を出す。
「呼んだかいアナフェマー!このミスター・セーフを!」
「呼びましたぁ!逃してくださいぃ!」
「アイアイターン!」
突然現れたミスター・セーフと名乗る金庫頭は突然大地を砕いで現れ
そのままアナフェマを抱えたまま自らが掘り進んできた穴の中へと消えていく。離脱を許してしまった、まずい…バッチリガッチリ殿の務めを果たさせちまった!
「待て──」
「まってラグナぁ、行かないでぇ!」
「ちょぉーっ!?ネレイドー!?」
俺だって追いかけようとした、けれど俺の後ろに隠れていたネレイドさんは俺の背中を掴んだまま行かないでくれとしがみつき、そのまま巨体で俺を押し潰し身動きを封してしまうのだ。そうこうしている間にミスター・セーフの開けた穴は崩落し…完全に俺達はメサイア・アルカンシエルを取り逃す結果に終わってしまった…。
「ああ、クソ…完全に逃げられた…」
「うう、ぐすっ、こわいよぉ…ラグナぁ」
「メソメソ泣くネレイドさんとか見たくねぇな…けど敵の呪いじゃ仕方ねぇや」
ネレイドさんの体を持ち上げて取り敢えず落ち着かせる為に近くの瓦礫に座らせる。臆病になっちまったが敵を前にしない限りは暴れないし、もう大丈夫だろう。にしても…。
「メイド長!メイド長!しっかりしてください!」
「どうしてしまったのですかメイド長!こんなのメイド長らしくないです!」
「ああ、面倒くさい。アリス…イリス、後のこと全部やっておいて」
「メイド長!?」
いつの間にやら現れていたアリスとイリスがメグの体を揺すっているが。メグは起き上がるのも面倒くさいらしくグデーンと倒れ込んでいる。ネレイドさんもこんな調子だし…参ったな。
「なぁ、アマルト…呪術で戻せそうか?」
「無理だな、変身魔術なら変身の重ねがけでなんとかなるけど…精神反転となるとな」
「精神に作用する呪術は使えないのか?それを重ねがけしてなんとか…」
「そう言う問題じゃねぇ、精神は体と違ってホイホイ干渉していいもんでもない。戻すなら…アイツの力がいる」
「デティか…」
今、動ける戦力は俺とアマルトだけだ。メルクさんとナリアはヴレグメノスの街に行っているし、メグさんとネレイドはこの調子、エリスとデティは敵地に行っているし…何をするにしても人手が足りない。
「仕方ない、取り敢えず今は現状の回復だ。アマルト、お前会議場の方に行って混乱おさめてきてくれ」
「えぇー!俺が!?面倒くさい」
「メグみたいなこと言うなよ、俺は今からトラヴィスさんに色々報告してこなきゃいけない…それとも、お前がトラヴィスさんに報告するか?」
「う……」
結果は忸怩たる有様、街は荒らされ敵には逃げられデティは攫われ完全敗北、おまけにイシュキミリが裏切っている可能性があることを伝えなければならない。当然空気は最悪になる、そこに行ってくれるってんなら歓迎するけど…。
「はぁ、仕方ない。会議場の方に行くよ…」
「頼むよ。アリス、イリス、悪いがメグとネレイドを引っ張って館の方に向かってくれるか?ゆっくりでいいから」
「か、畏まりました!メイド長!行きますよ!」
「うへぇー、ベッドで寝たい」
「もー!こんなメイド長嫌ですー!!」
アリスとイリスはメグを引っ張って移動を始める、その前に…俺は俺でトラヴィスさんに…。
「ラグナ君ッ!無事かッ!」
「うぉっ!?」
瞬間、アナフェマが作り上げた城砦の如き岩壁が爆発四散し向こう側から何かが飛んでくる。砲弾じゃない、だって喋ってるからきっと人間だ。何事かと振り向けば…そこには加速魔術を用いて空を飛ぶトラヴィスさんの姿があり…。
「え!?トラヴィスさん!?」
今、謝りに行こうと思っていた相手からのカチコミ、館にいる筈のトラヴィスさんが鬼気迫る表情でこちらを見てるんだから流石の俺も竦み上がる、別に隠すつもりも逃げるつもりもなかったけどさ。でもやっぱり…ね?まだ心の準備がさ。
ええい!ここでまごまごして方が心象悪いわ!俺は謝る時はスパッと謝る方が好きなんだ!
「すみませんトラヴィスさん!せっかく任せてもらったのにメサイア・アルカンシエルに逃げられて、街にもこんなどでかい岸壁つくられて…」
「いや、そこはいい。最終的に任せると判断したのは私だ。それより無事か…凄まじい魔力を感じて飛んできたが。居たんだろう…カルウェナンが」
「……はい」
トラヴィスさんは俺達に対し『メサイア・アルカンシエルと戦うな』と言った、その理由こそがカルウェナンの存在。そしてああして戦って理解した、あれはマジで手を出さない方がいいレベルの怪物だ。何も知らず、戦いを挑んでいたら俺は殺されていたかもしれない。
止める理由は分かった、けど…それでも諦めるつもりは毛頭ないけども。
「カルウェナンめ、また腕を上げたな…どこまで強くなるつもりだアイツは」
「それより、助けに来てくれたんですか?トラヴィスさん」
「助太刀はするつもりがなかった、先も言ったが任せる判断をしたんだ、そこは尊重する…だが、それよりマズいことが起きた」
「マズいこと?」
マズい事ってなんだ、デティが攫われた件?だがそれはまだ共有も何もしてない筈だ、なら他に…何か起こった…?
「実は、ヴレグメノスから伝令が届いてな」
「え?」
ヴレグメノスって…メルクさん達が向かった街……。
「まさか…ッ!」
「ああ、メルク君とナリア君が──────」
………………………………………………………
「………………」
イシュキミリから婚姻の話があった、魔術導皇と魔術道王の婚姻の話、二人が婚姻を行い魔術を肯定する者と否定する者の架け橋を作り、妥協案として魔術界の縮小をすると言う…交渉を受けた。
けれど私はそれに対して、即座に答えを出せなかった。受け入れる事も、突っぱねる事も出来なかった。答えを出せない私に対し、イシュキミリは『考える時間をやる』とだけ言って暫く待ってくれていた。
「………………」
そうして私が移動させられたのはよく分からない狭い部屋、ここがどう言う施設なのかは分からないがなんか埃臭くて狭苦しい部屋へと拘束されたまま転がされてしまった。
…全く、求婚相手にすることかねこれが。…にしても。
「どーしよ…」
私は誰もいない部屋の中、一人で目を瞑り息を吐く。正直…迷ってる、イシュキミリの提案は、実は結構悪くない。
彼は強引な手段を取ろうと思えば取れる。嘆きの慈雨という兵器を未だ未完成ながら保有している以上この世から魔術師を減らそうと思えば減らせるんだ。だが私を相手に敢えて彼は選択肢をくれている。
強引ではなく、飽くまで人の選択に委ねる方法。魔術師の数を意図的に削減し魔術界そのものを小さくすれば、きっと魔術界にとって変わる別の技術が生まれるだろう。蒸気機関か、魔力機構か、あるいはもっと別の物が魔術の代わりとして人々の役に立つ。
そうした結果、魔術が捨てられるなら…彼の目的は達成となる。魔術が捨てられないなら、それはそれで諦めると。彼は強引な手段ではなく選択を委ねる平和的な手段を提示してくれた、そしてそれは…私一人の許諾で実現する。
ただそれだけで、メサイア・アルカンシエルという組織は敵ではなくなる。八大同盟のうち一つを無力化出来るんだ。
いい事はそれだけじゃない、私は子供を作らねばならない。そしてその相手としてイシュキミリは適任だ。魔術界は小さくなるとは言えなくなるわけじゃない、例え魔術師が一人でもいるなら、魔術導皇は存在すべき…ならば私は依然として子供を作る義務がある。
イシュキミリの提案を受ければ、これだけの恩恵がある。けど…それでも、受け入れていいのか、未だに踏ん切りがつかないのは…言葉にならない無数の嫌悪感が、チラチラと私の心に浮いているから。
私はどうすればいいんだ…、断ったとてイシュキミリは魔術廃絶を止めないだろう、なら…受け入れた方が…。
「決断出来たかな?デティフローア…」
「イシュキミリ…」
ふと、扉が開かれ…イシュキミリが扉の向こうから私を見下ろし、冷徹に告げる、決断出来たかと。けど聞かれても無駄だよ、決断出来てないもん。
だから私は静かに視線を逸らす…するとイシュキミリは失望したようにため息を吐き。
「まだなのかい、まぁいいさ。私は君の決断を待つ、君が受け入れるか、決断するまで、私達は明確に行動しない…とは言え白露草が収穫出来る一週間後までに決めてほしいんだがね」
「…あのね、結婚ってそんなホイホイ決められるもんじゃないの」
「君にとって婚姻は儀式や行程の一種だろう、そんなロマンチックなことを言える身の上かな」
「……そうでしたねー」
「ふっ、まぁいい。君に見せたい物がある。ついてきなさい」
クイっとイシュキミリが指を引く、すると私の体が浮かび上がり…連れて行かれる。やはり私に主導権はないようだ。
しかし。
「ねぇイシュキミリ、ここはどこなの」
「言ったろ、私達の基地だと」
「それって貴方が言ってた…ウルサマヨリの地下施設?」
「さあて、どうかな」
小部屋から連れ出され、歩く廊下はずぅーっと向こうまで続いていて。この基地という場所はかなりの広さを持っているように思える。黒い石材で作られた廊下と灯りのない道、こんなところで生活してたら目が退化しそうだ。
ともあれここはウルサマヨリではないことは分かった、なんで分かったって?だってイシュキミリは今嘘ついたから、魔力が余裕を見せるように揺らいだから、この反応は私が問いかけを外した時によく人間が見せる反応だ。
つまりここはウルサマヨリではない、相当離れた場所にあるようだ…一体どこなんだ。
「言っておくけど、私達の隙を窺って脱出を…なんで考えない方がいい。君が脱出の素振りを見せた瞬間この交渉は決裂した物と判断し私は容赦なく君を殺す、そして嘆きの慈雨を発動させる…まだ完全な量を確保出来ていないが、それでもウルサマヨリ一つ覆える程度の雨雲は既に確保してあるんだからね」
そう言ってイシュキミリは私を連れてとある部屋を経由する。そこは恐らくポーション生成工場としての役目を持つ部屋なんだろう。超巨大な培養液が紫色の液体をゴポゴポと泡を立てて生成される様が見える。
周りをキョロキョロ見回せば、メサイア・アルカンシエルの兵士と思われる者達が鎧から白衣に着替え、白露草を吊り潰しポーションと混ぜ合わせて何かを作っている。なるほど、これが嘆きの慈雨。
(そうか、奴らにとっての完成とは計画遂行可能量を確保する事。嘆きの慈雨そのものは既に完成していたのか…、そりゃそうか。材料集めが終わってから作り始める…なんで悠長なことする連中でもなかった)
奴等は嘆きの慈雨を完成させるために必要な白露草が足りない、だから一週間後にまたシュレインに向かいそれを確保する必要がある。けど嘆き慈雨自体は完成してると…参ったな、これじゃあ今更シュレイン跡地に生えてる白露草を潰しても意味がないぞ。
「随分立派な研究施設だね、あのメサイア・アルカンシエルがポーションの研究とは」
「ああ、本当にね。魔術を否定する者が魔術研究によって生まれた者を扱うなんて矛盾してるよ、だから私は出来ればこれを使いたくない…けど君も分かるだろう、組織ってのはトップの価値観一つで動かせるもんじゃないのさ」
「つまり、他の魔術撲滅派の奴らを黙らせる為に…この研究を?」
「というより、これはメサイア・アルカンシエルの先代会長時代から進められていた研究なんだ、今更私一人の意見ではひっくり返らない。会長は魔術師は廃絶すべしとは言っているが、魔術そのものは否定していないからね。その辺も私と価値観が違うのさ」
他の連中は魔術師や魔術をこの世から消し去れるなら手段は問わない、だから嘆きの慈雨を作っている。されどイシュキミリだけが…魔術を消し去るなら魔術に頼るべきではないと考えていると。
確かにもう組織がその方向で動いているのなら、トップが変に掻き回すわけには行かない。ましてやそれがトップ個人の価値観に由来するなら尚更か。
ああそうか、だからイシュキミリは私と婚姻したいのか。嘆きの雨という魔術に頼らず魔術を廃絶する手段を模索している。だから私が断れば彼は嘆きの飴を使わざるを得ない、何故ならそれはメサイア・アルカンシエルの総意だから。
彼も色々難しい立場にいるようだ。…しかし、そうだとすると…余計に気になるな。
「ねぇ、イシュキミリ…なんで貴方はそんなにも魔術を拒むの?」
「…………」
「魔術御三家に生まれながら、魔術解放団体のリーダーなんて…何をどうやったらそんなことに」
気になるのは、どうしてそこまで頑なに魔術を嫌うのか。メサイア・アルカンシエルでさえ目的の為なら魔術を使う二律背反的な柔軟さを持ち合わせると言うのに、彼にはそこさえ許せない程に…魔術を拒絶している。
生半可じゃない、なんとなく誰かに啓蒙されてなんとなくそれが正しいと思ったから魔術廃絶を唱えてる。そんなレベルじゃない、確実に何かある…なら、何があったんだ。
「……別に、拒み切ってるわけじゃないですよ。私も必要とあらば魔術を使いますし、普段は魔術研究者として表の顔を演じているわけですし…」
「でも、心根だと魔術は拒んでる、違う?」
これは心を読んだから分かったではない、なんとなく聞いて見ただけだ。私が魔術の話を振ってもイシュキミリは特に心をかき乱すことはない…ただ、少しだけ悲しそうに魂が震えているだけだ。
「……まぁ、そうですね。計画云々の話を抜きにしても…私は魔術でこっ酷い目に遭ってますしね、嫌いです」
「それは、いつか語った…失敗の話?」
「まぁね…、私はあの時…魔術界の歪さを見た。同じ悲劇は繰り返させない…二度と」
イシュキミリは頑く前を見ながら語る。悲劇か…彼に何が起きたのかは知らないが、説得どうこうでなんとかなるレベルの決意じゃないなこれは。
(そうだ、私はあの日決意したんだ。魔術の存在の否定を…あの日感じた嫌悪感を、私は信じ続けるんだ)
拳を握るイシュキミリは決意を滲ませる。何も道楽や父への反抗心で魔術解放団体を率いているわけでも、師匠に影響されて束ねているわけでもない。ただただ己の決意と信念に従っているからこそ、彼はここにいるのだ。
(デティフローアは未だ迷ってる、けれど是が非でも受けてもらう。私はここまで来るために何人も殺してきた、それは全て私の信念を貫く為だ。より良い世を作る為に私はいくらでも汚れる覚悟はある…だが、デティフローア。これ以上手を汚さず済むのなら、お互いそっちの方がいいだろう…!)
出来る限り死者を出さない方法を模索する、なんて平和的な事を言えるほど自らは清廉でも潔白でもないが、それでも…死なせない方法があるならそれに越したことはないだろうとイシュキミリは考える。
だからこそ、彼女をここに連れてきた…と、デティとイシュキミリは目的の部屋へと到着する。
「ここは?」
「………みんな、待たせた」
扉を開けて、入った部屋は先ほどの大部屋。されどデティの記憶にある物と違いをあげるとするならば。…それは。
「あうわわあうう、セーフさん!なんか来ました!もももももしかしてあれが魔術導皇!?」
「まさか、そんなわけないじゃないですか。あれは近所の子供ですよ、ほらこの間見かけたでしょ?」
「ああそうなんですね、ホッ…」
「ごめん今私嘘つきました、あれ魔術導皇です」
「なんでそんななんの得にもならない嘘ついたんですかぁ〜〜!?!?くくく狂う〜〜!?!?」
「フゥーーッ!アナフェマのバイブスがアガってきましたよ〜ッ!」
「狂う〜〜〜!!」
痩せ細り何やら繊細そうな女…アナフェマと呼ばれた女と頭が金庫のおちゃらけた紳士…ミスター・セーフと呼ばれる男が左側に立ち無駄話をしている。なんか変な奴らだな…けどあの子たちの魔力、というか魂が…ちょっと変だ。
「あれがクリサンセマムの…。私初めて見たわ、噂より小さいのね」
「………フンッ」
「あら、何を怒ってるのかしら?カルウェナン」
「婦女子の手足を縛って自らの根倉に連れ込み、その上で求婚など。あまりにも婦女子に対する敬意に欠けている」
「相変わらずお固いのね、もっと柔軟にならないと」
「断る、外道にはなりたくないのだ…マゲイア、お前のようにな」
「うふふ」
朝黒い肌に黄金の杖を持つ妙齢の婦人…マゲイアと白銀の鎧を着た大男…カルウェナンが左側に立ち私たちを出迎える。っていうかあの鎧の人…いつだったか見たパンイチの騎士だよね、うーん。やっぱ敵だったか、どう考えても在野の猛者とかではないよなとは思ってたけど。
ともあれそんな四人が部屋の左右に訣れる、そして大量の兵士達を控えさせながら立っている。それが先程までとの違い、確実にもさと呼べる人間が四人…追加されているんだ。
「紹介するよ魔術導皇、アレが私の手足…我が組織に於ける大幹部…『四魔開刃』」
「四魔開刃…」
幹部が四人、ここに揃っている。つまり警備がより一層厳重になっているという事。同時に私は悟る、これはもうどう考えても無理だと…脱出は。
(あまりにも警備がキツい、私じゃどうやっても抜け出せない…)
目の前にいる四人全員が洒落にならないくらい強い、特に左側に立つマゲイアとカルウェナンは別格だ、マゲイアに至っては他の八大同盟の第一幹部級に強い、だというのにカルウェナンはそれさえ遥かに上回るほどの魔力を持っている。
人数は若干少ないが、もし幹部だけが他の八大同盟同士で戦えば…ここが一番強いんじゃないかと思える陣容だ。少なくともファイブナンバーや旅団の五隊長よりもやばそうだ…。この人達を前に逃げ出すことは無理かな。
「幹部が勢揃いってわけ?」
「ああそうだよ、全ては記念すべき日を前にする為に」
「記念すべき日?結婚式とか?」
「まだ結婚の決意は決まらないんでしょう?大丈夫待ちますよ、それよりもお見せしたい物があります」
そういうとイシュキミリが指を鳴らす、すると婦人マゲイアが前に出て仰々しく一礼すると。
「このマゲイア、イシュキミリ会長の命令通りパンタノの街へ赴いてまいりました」
「ご苦労マゲイア」
「……パンタノ?」
バッ!と脳内で南部の地図を開いて思い出す、パンタノは南部にある街の一つ…確か地理的にはヴレグメノスの向こう側にある街…。
ん?待てよ、こいつら嘆きの雨を発生させる為にヴレグメノスに行ったんじゃなかったのか?ヴレグメノスで雨雲を作り、それをウルサマヨリに流す為に…パンタノだと距離が遠すぎて、雨が降るとしてもその手前のヴレグメノスに…。
「まさか…!」
「気が付きましたか、ええ。君達が嘆きの雨の情報を持ってきたので計画は変更しました。雨が降るのはウルサマヨリではなくヴレグメノスです」
「ッ…あそこにはメルクさんが!」
「ふふふ、今頃どうなっているでしょうね。マゲイア、見せなさい」
「ええ、『メモリーヴィジョン』」
トン…とマゲイアが杖で地面を叩きながらその右目を光らせる。あれはメモリーヴィジョン…記憶投影魔術だ、その者の視界で見た物を正確に投射する魔術。私もよく使う、プレゼンとかで。
マゲイアの右目から光が溢れ、それが形を伴い…映し出されるのは紫色に光り輝く不気味な雨雲と、それを不思議そうに見つめる人々…そしてヴレグメノスの街並み。これは記憶だ…過去の出来事だ、つまり。
「ヴレグメノスに嘆きの雨が…!?使ったの!?嘆きの雨を!」
「ご安心を、あそこには魔術師はいません。降らせただけ…我々メサイア・アルカンシエルが殺すべきなのは強行的な魔術師だけ。何もしてない街人は殺しません、故に降らせただけ」
「でもあそこにいる人たちは…」
「ええ、雨に当たった物は一生魔術が使えなくなる、これはその実証実験!あなたにお見せしたいのはこれです!」
映し出された光景を前にイシュキミリは両手を広げ喜びに満ちた顔で叫び散らす。人々から魔術を奪う光景を…私に見せたかったと。
「魔術が失われる様を見れば貴方も決意が固まるでしょう!」
「ッッ……魔術を」
魔術を失わせる、確かにウルサマヨリみたいに襲撃は受けないから人は死なないかもしれない…それでもそんな事をしたら。
私は胸を押さえながらただただその光景を見るしかない…私には、そうすることしか。
「さぁ、嘆きの雨よ!人々から魔術を奪い!より良い世を!」
そして…嘆きの雨は、天から降り注ぐ。その様を、映し出されるそれを、私とイシュキミリは見て─────。
───────────────────
『なんだ、あの雨雲…紫色だ』
街人は、天を見上げる。奇妙な光を伴う不気味な雨雲を前にして。通行人は足を止め一雨降るか、だが何が降ってくるのかと不思議そうに見る。
通行人はみんな一般人だ、仕事に向かう男の役人、買い物に出かけた婦人、老父に老婆もいる…全員が空を見上げて、雨を見る。
すると、雨雲は一度…まるで怪物の唸り声のような轟きを鳴り響かせると…。
『お、降ってきた』
ポタリと一滴、男の鼻の頭に雨垂れが降る。それと同時に雨雲はバケツをひっくり返したような土砂降りを街に注ぎ込みとてつもない量の雨が…降り注ぐ。
『うわっ、降って来たなぁ…、仕事に行く前に着替えに戻ろうかな…』
『いやねぇこの雨、変な色をしてるわ』
雨を受け一気に全身ずぶ濡れになった街人は嫌そうに顔を顰める。なんせこの雨、雨雲同様紫色なのだ、この南部では不思議な現象はよく起こるが…それでも雨に濡れるのは嫌だろう。
『全く……ん?』
すると、男の一人が体の異変に気がつき己の手を見る…すると、フワフワと手の先から魔力が溢れてくるのだ。男は魔術師ではない、魔力を鍛えたこともない、なのに魔力が溢れて溢れて仕方がないのだ。
『な、なんだこれ。魔力が溢れて…と、止まらない!体が熱い!』
嘆きの慈雨は魔力増強のポーションと同様魂に干渉し魔力を大量に生成させる効果がある。その莫大な生成により魔力の通り道を焼き切りそれにより魔力を封じる効果がある。焼き切れた道はただ魔力を垂れ流し形に出来ず、魔術も魔法も使えなくなってしまう。
だから彼らはこれを使いたかった、人が魔術を行使出来なくなればそれで良い。抵抗出来なくなった魔術師を殺害し排除し、魔術を持たない人だけの世界を作る。
それがメサイア・アルカンシエルの目的……だった。
だが、ここから…イシュキミリの話とは違う事が起こり始める。
『う、うわぁああああ!魔力が!魔力がぁああああああ!!!』
男の様子がおかしい、魔力と生成量が常軌を逸している。溢れるというより体を突き破り噴き出しているような状態だ、通り道が焼き切れるどころの騒ぎではなく血を吐き噴き出し、血管の浮き出た頭を抱え…そして。
『きゃぁああああああ!!!』
爆発した、女性の悲鳴が聞こえる。男が、雨を浴びた男が爆発したのだ。まるで火をつけられた爆薬のように爆発し血と肉片が周囲に飛び散ったのだ。
死んだ、人間が死んだ、一人死んだ。雨を浴びた人間が死んだ。
それは衝撃となり周囲の人々を怯えさせる、街の至る所から断末魔と悲鳴が響き渡る。
『な、なんなんだこれ!』
『助けてくれぇっ!』
『ひぃいい!ぐっ…がぁっ!?』
『何が起こってるの!』
『こ、これ!建物の中にも垂れてくる!逃げ場がない!』
悲痛な叫びが木霊する。建物の中に逃げても雨は建材に染みてその中にも降り注ぐため防ぐことができない、瞬く間に当たり一面血と水溜りの満ちる街へと変わる。
人が死んでいく、次々と人が死んでいく。一人残さず死んでいく、物の数分で…街から悲鳴が消え失せ、無音となった事で…パンタノの街という一つの街が滅んだ事を意味し。
映像が、終わった。
────────────────────
「なにこれ……」
あまりにもショッキングな映像を見せられて…私はクラリと立ちくらみがする。なんだあれ、魔術を封じるだけじゃないのか?死んでたぞ人が、それもう数百人規模で。街一つ滅んだぞ…嘆きの慈雨のせいで。
というかメルクさんは大丈夫なのか、ナリア君は無事なのか、あの街に…二人はいたはずだろ。
「クックックッ…あはははははは!」
するとマゲイアが腹を抱え笑い始める。あの惨劇を見て笑っている、そして私をニタリと見ながら。
「貴方のおかげですよデティフローア様、嘆きの慈雨を完成させるのに必要だったニスベルの資料。それを奪いに行ったら…あの研究所に古式治癒魔術の詳細な資料も置いてあった。そのおかげでね…嘆きの慈雨を大幅に強化する事ができたんですよ!」
「古式治癒の…あれを」
ニスベルさんの研究所で、私は治癒魔術の資料を…データを、ニスベルさんに与えた。それを奴らは盗んで…使ったのか!嘆きの慈雨を強化に!使ったのか!
だからか、本来想定していたよりもずっと嘆きの慈雨が強力だったのは、体が爆発したのは膨大な魔力を肉体が受け切れなくなって肉体が崩壊したんだ。
だから、嘆きの慈雨は魔術封じの手段から…虐殺の手段に。
「よくも、先生から与えられた魔術を!癒しの奇跡を!虐殺の道具になんかしてくれたな!!」
怒りが満ちる、怒りが燃え上がる。よくもよくもと…なにが虐殺を望まないだ、なにが罪なき人は殺さないだ!殺しまくってるじゃないか!街一つ滅ぼしてるじゃないか!話が違う、これじゃあまりにも話が違う。
そう攻めるように私はイシュキミリに対し吠え立てる…すると彼は、私の方を向かず、ただ…その場に突っ立って。
「……………え?」
呆然と…していた、顔を引き攣らせ…先程の映像を見て、ワナワナと震え…顔を抑え…。
「話が…話が違う…、私はただ魔術を…、なんだ、これ…なんで人が、罪なき人が…死んで」
ただ、己が行ったことに対して…恐怖を感じていた。
話数ストックがなくなったのでここから書き溜め期間に入ります。一週間後の10/25に投稿再開致します。少々お時間を頂き申し訳ありません。




