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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十七章 デティフローア=ガルドラボーク
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594.魔女の弟子と魔蝕の兆し


「だぁー!くそ!全然出来ねぇー!」


トラヴィス卿の元で修行を開始してより二日目、力不足を感じ始めていた私達は魔女様の命とトラヴィス卿の計らいによりこの魔仙郷での修行を開始していた。


エリスちゃん達防壁を操れる組は防壁を完璧に扱える様特訓を、そして私…デティフローアとアマルトとナリア君の防壁を扱えない組は一旦別れトラヴィス卿の助手であるアンブロシウスさんと共に防壁習得訓練に励んでいたのだが。


「もうだめだー…」


「うぅ、全然出来ない」


「もう根を上げますか?」


「日も登ってねぇ頃からやってんだからちょっとくらい休ませろよ」


これが全くもって物にならない。アンブロシウスさんの攻撃を防壁を使って弾け…と言われひたすらボコボコにされているのだが、一向に成果の上がらない修行にアマルトとナリア君は遂に根を上げてしまう。


「ふぅむ、参りましたねぇ…デティフローア様はどうでしょうか」


「私はいけるよ、けど…ごめんねアンブロシウスさん、私このままこの修行を続けても成果が出る様には思えない」


「忌憚ない意見ですなぁ、申し訳ない。私は旦那様の様に口で伝えるのが上手ではありませんでして…」


「だからっていきなりボコボコにする必要はないだろ」


「いいえあります、あるからやっているのです」


「つってもよー」


アンブロシウスさんは長年トラヴィス卿を支えた相棒にして助手だ、だが飽くまで助手であり魔術導皇の指導役を務めたトラヴィス卿程の教鞭の腕は持ち合わせない。とは言え私達以上に魔力についての造詣が深いのは言うまでもないのだが。


私はこのままこのひたすらボコボコにされる修行を続けても成果が上がる様には思えない…だって。


(アンブロシウスさんがやっているのは直感型の修行、自分である程度の気付きや天啓を導ける人に向いた修行、エリスちゃんやラグナになら物凄い効果があるだろうけど…アマルトやナリア君は物事に理屈や理論を求めるタイプ。言ってしまえば理論派だ、理論派に直感型の修行は合わない)


これはアマルト達がダメで、だから出来ないのではなくそもそもタイプが違う。エリスちゃん達は目の前にある物事から色々考え失敗を繰り返しながら成功を得るタイプ。


一方アマルトやナリア君はまずどんな物事にも理論や理屈を求める。計算式を提示されれば真摯に取り組み確実に成功を導けるタイプなんだ。今はその計算式も提示されていない状態、これでは二人の良さが発揮されていない。


アンブロシウスさんも多分そこには気が付いている、だからアマルトとナリア君がその計算式に気付けるように明確な答えは出さずに色々やっているが…すれ違っている。


(参ったなぁ、早速心配事が表出化しちゃった)


心配事…つまり師匠とは別の教え方をする人間指導に対する軋轢…。アンタレス様やプロキオン様とは違う指導をする人間の教え方が合わない…と言う事態。こればかりは誰かの意思でなんとかなる物ではないし、やばいかも。


「参りましたねぇ」


「こっちも参ったよ」


そうアンブロシウスさんとアマルトが互いに首を捻っていると…。


「アンブロシウス、その教え方じゃダメだ。二人は理屈派、直感に求める修行では成果が出ないよ」


「む?イシュキミリ様」


すると、木々をかき分けて館の方から現れるのは…イシュキミリ、イシュ君だ。トラヴィス卿の子息で仕事の都合で暫く館の方に滞在することになった彼がやや真剣な面持ちで私達の元にやってくる。


しかも、私の思ったことと全く同じ言葉を口にしながら。


「指導する側は、指導される側のタイプに合わせるべきだ。指導する側のやり方をひたすらに貫き矯正するようなやり方はナンセンスだよ、アンブロシウス」


「いやはや、お言葉の通りで…」


「だからそうだね、例えば…ねぇアマルト君、立てるかな」


「お、おう」


すると座り込んだアマルトの手を取りイシュ君は彼を引き起こすと、突然…拳を握り。


「よっ!」


「うぉぁっ危ねぇ!?」


いきなりアマルトに対して殴りかかったのだ、まぁ敵意のある拳ではなかった為アマルトもその拳を受け止め、なんとか殴り飛ばされるような事態にはならなかったが、いきなり殴りかかられてアマルトはみるみるうちに憤慨し。


「お前なぁ、なんだよ。いきなり殴りやがって…」


「ふふ、ごめんごめん。でもいい反応だね、目で見てから反応したんじゃない、まさしく本能だね」


「一応これでも修羅場潜ってるからな、で?これがなんだよ」


「いいかい?今君が習得しようとしている魔法は技術ではない、本能なのさ」


「本能?」


「うん、魔術は習得しなければ扱うことが出来ない技術…対する魔法は魔力があれば誰でも直感で操ることが出来る本能、謂わば第三の腕なのさ。だから何をどうすれば魔法が出来る…ってことはない、明確なやり方も教えることは出来ない、腕の詳しい動かし方を言語化して教えることが出来ないようにね」


「確かに、そうかもな…じゃあどうすればいいんだよ」


「そこで本能さ、誰にも教えられることなく腕の動かし方を誰もが知っているように、本当は誰しもが魔法の使い方を知っている。その使い方への意識の向け方を理解すれば誰にでも使える…まぁある程度の才能は必要だが君はそこもある、だから…意識するんだ」


「意識……って、どうすりゃ意識出来るんだ?魔力の動かし方なんてそりゃずっと意識してるが…」


「向ける場所が違う、よし…それならこれならどうだろう」


するとイシュ君は自分の洋服についている飾り付けのチェーンを取り外し、アマルトの両腕を拘束する、まるで手錠のように雁字搦めに結ぶと…。


「これでよし」


「何がよし?え?何されるの?」


「私がもう一度君のことを殴る」


「は!?待てよ!腕拘束されてたら受け止められねぇって!」


「いいから!行くよッ!!」


「ッ…!」


そして再び、イシュ君はアマルトに向けて拳を放つ。さっきは手で咄嗟に取れたけど今度はその手も拘束されている、故に防ぐことも出来ずアマルトの鼻っ柱にイシュ君拳が迫り……。


寸前で止まる…と同時に。


「アマルト君、魔視眼」

 

「へ…へ?」


「いいから」


「お、おう…んぉ?」


アマルトの鼻に触れるかどうかと言うところで拳を止め、怯えるアマルトに魔視眼を使うよう促す。そしてそれに答え魔視眼を開くと…イシュ君の拳の先に、アマルトの魔力が集まっている。防壁のように固まってはいないが…確かに魔力が集まっている。


「君は私が殴ろうとした時手で受け止めようとした、だがその手を拘束されたから…君は第三の手で受け止めようとしたんだ…つまりこれが」


「魔法……そうか、咄嗟に受け止めようと反応する、その『反応』こそが…エリス達の言ってた神経を使うってそう言うことか」


「そう、だから意識を向けるべきは攻撃を受ける寸前に体が反応し魔力が勝手に動く…その動きに注目するんだ」


魔法は第三の腕、ならば両腕を拘束し反射的に手が出るようなシチュエーションに持っていけば、両腕に代わり動く第三の腕…その動きを如実に見ることができるんだ。


そしてそれを説明されればアマルトも即座に理解する、イシュ君より提示された計算式を丁寧に解いていき、求められる答えを用意する。理論派に対して説明し辛い本能の部分を上手く言語化したんだ、これならアマルトもナリア君も理解出来る。


「交感神経と副交感神経を切り替えるような感覚か?つまり…こうだ!」


するとアマルトは目の前に魔力を集中させ、今しがた得た知識と感覚をそのまま反芻するように手を開く。魔力と言うもう一つの手を動かし、それを掻き集め、形にする。一度要領を掴んでしまえば…。


「出た!」


「おぉ!凄いですアマルトさん!」


「スッゲー!あんたすげぇよイシュキミリさん!まさかこんな一発で出るなんて!」


出た、しかも最初からかなりの強度を確立させてアマルトの前方に防壁が出来るんだ。いくらコツを教えられたにしても…いきなりここまでの防壁が出るなんて。やっぱりアマルトは防壁のちゃんとした理屈が必要だっただけで、実力はそもそも十分だったんだ。


「いやぁ、元々君に可能とするだけの実力があっただけだよ。私はその手伝いをしただけさ」


「だとしてもさ、悪いな失礼な態度とって」


「あ、あの!イシュキミリさん!僕にも教えて欲しいです!」


「構わないよ、アンブロシウス。防壁の方は私が教えるよ、君は父上の手伝いに行ってやってくれないか」


「畏まりました、流石はイシュキミリさんですね」


「んふふ」


なんか嬉しそうに頬を赤らめて喜ぶイシュ君はそのままアンブロシウスさんをトラヴィス卿の方へと移動させ、私達の魔力防壁の特訓に付き合ってくれるようだ。


「よし、アマルト君は引き続き手を縛ったまま防壁を移動させられるよう練習を、慣れたら防壁をもう少し大きくして全身を覆えるように意識してみよう。ナリア君は…よし、こっちに来てくれ」


「はい!」


「君はアマルト君のように教えるよりも、こっちの方が分かりやすいかもしれない」


そう言って彼は近くの岩場を椅子にしてアマルトの魔力の動き方に意識を向けつつ、目の前のナリア君に魔力の動かし方を指南する。


「聞いたところ君は芸術家だと聞くね」


「はい、学者です」


「ならなら造形は出来るかな?」


「造形?」


「ああ、石膏で像を作るように、魔力で何か形を作ってくれ」


「防壁じゃなくて?」


「うん、そうだよ」


「こ、こうですか?」


手元で星形を作るイシュ君とハート型を作るナリア君、その様を遠目で見守る私。見守るのはイシュ君の顔…優しくて、それでいて何処か誇りを思わせるような、気高い顔つき。


「それを…薄くしていって?」


「薄く?…こうやって…こ、これ以上やったら消えちゃいます」


「なら魔力を追加して、厚さはそのままに、出来る限り形や大きさを変えず、魔力を追加して」


「こ、こうですか…」


「ちょっと違うな、魔力防壁に必要なのはイメージと意識、意識するんだ…イメージするんだ、硬くて頑丈な彫刻を」


「彫刻…こんな感じですか?」


「うん、待っててね?」


するとイシュ君はナリア君の作った薄いハートを指で突く、するとイシュ君の指先が何かに当たって止まる…つまり。


「あ!触れる!?」


「うん、まだ柔らかいけどきちんと防壁になってる。やっぱり君も理屈が分かっていなかっただけで防壁を作る才能と実力はあったんだね。あとはこれをアマルト君みたいに反射や反応で出せるようにしていこう」


「は、はい!ありがとうございます!イシュキミリさん!」


「ははは、私は後押しをしただけさ」


…楽しそうだ、誰かに何かを教えるのをイシュ君は楽しんでいる。自分の理屈や理論を誰かに分け与え、そしてそれが物になる様を見るのに楽しさを覚えている。


心底思う、彼は指導者に向いている。彼が魔術界の先頭に立てば間違いなくこの世界は進歩すると。彼はあまりにもその才能がある。


「よし、基本は教えた、あとは反芻だ。じゃあアマルト君と一緒に同じ練習をしてきて?」


「はい!本当にありがとうございます!イシュキミリさん!!」


「ふふ、こっちこそ。また何かあったら教えるよ」


「はい!」


軽く手を振ってアマルトと同じように防壁を形にする修行に移ったナリア君、を見て…私は岩に座るイシュ君に歩み寄る。すると彼は私が近寄ってくるのを見て岩から立ち上がり、姿勢を正す。


「デティ様も私のご指導が必要でしょうか」


「嘘ついちゃって、私にそれが必要だと思う?」


指導は必要ない、何故なら私はもう…防壁を使える。


「ほら」


「おや、完璧…」


指先に防壁を作り出し、イシュ君に見せるとその完成度の高さに彼は息巻く、悪いね…実はもう使えるんだ。と言うか、使えないわけがないよね、魔術導皇が。


「いつからですか?」


「四年前から、私の師匠スピカ先生は魔力を固定する修行をよくするからね、その延長で防壁も習ってる。まぁ?魔術導皇として魔法を使うわけにはいかないから使わないけど」


「確かに、魔術は魔法否定の為に生み出された歴史があると聞いたことがあります。魔法が使える人間と使えない人間で分かれ、魔法を使える人間に一定の賎民意識が生まれていた時代…魔術始祖と呼ばれた人物が、魔術を生み出しその隔てりを無くしたとか」


「詳しいね、よく勉強してる。そう…魔術は魔法否定の技術、言い換えれば魔法は魔術進歩の否定だからね。魔術導皇が進んで使うわけにはいかない」


「ですがそれはそれとしても、ここにいる必要はないのでは?他の人達と一緒に父上のところへ行くべきでは」


「私まで行っちゃったらアマルト達は誰が見るの?二人は防壁を使えるだけの実力はあるけど理屈が分かってない、だから私が残って色々手伝いができたらって思ってさ。まぁ何も出来なかったし…イシュ君がきてくれなかったら何も変わらなかった、ありがとね」


「なるほど……あんまり、褒められた行動ではないですが、理解しました」


イシュ君は私の行動にやや難色を示す。分かってるよ、本当は出来るのに出来ないふりをしてアマルトとナリア君の手助けをしようなんて、こんなの二人に対しての侮辱に他ならないと…でも、そうだとしても、私は二人を置いて行く気にはなれなかったんだ。


「この事を二人が知ったら、酷くショックを受けるでしょうね」


「かもね」


「彼らはみんなと対等でいたい、だからあそこまで頑張ってるわけですし、施しとかお情けとか、そう言うのをもらっても嬉しくないでしょう…友達なんですから」


「うん、…そうだね。だから内緒にしてね」


「ええ、そうしましょう。その方がいい」


だから助かったと私は思うわけだ、私が出来る事を隠しつつ二人に教えるのは物凄く気を使うし難しい…だからどうしたものかと悩んでいた。イシュ君が来て色々アドバイスしてくれたから丸く収まった。


「それにしても上手いね、色々教えるの」


「…まぁ、昔は友に色々と強請られて教えていたので」


「友に?」


「ええ、…昔…父の館は学舎だったことがあるんですよ」


それは初めて聞いたな、トラヴィス卿が何かを教えていた?あの館が学舎だった?そんな話は本当に初めて聞いた。これでもトラヴィス卿とは長い付き合いなのに…。


「聞いたことないかも」


「そうですか…まぁ、数年程度の話なのであまり表沙汰にはならないかもしれませんね。その時、家を空けがちだった父に代わって、幼く未熟ではありましたが私が代わりに学舎の生徒達に色々教えていたのです」


「へぇ、凄いじゃん。やっぱりイシュ君は天才だよ」


「そうだと良いのですがね…」


「…………」


そう言って笑うイシュ君の顔を見て、私はやはり違和感を感じた。物腰は柔らかだ…けど、これを話している時の彼の心は…『筆舌に尽くし難いほどに荒れていた』からだ。


とても、懐かしい思い出を語る人間の心ではない。それが怒りなのか悲しみなのか判別がつかないほどに彼の心が爆発していた。正直なんで彼はこんなにも荒れているのか…よくわからないし、聞いてみたいけど。


聞かない方が良さそうだ、聞いたら彼に嫌われてしまいそうだし。


「それよりデティ様、実はお話がありまして」


「お話?」


「ええ、私の仕事の件は言いましたっけ?」


「んーん、聞いてない。七魔賢以外にも何かやってるの?」


「実は今、魔術理学院の方で働いていまして。と言っても魔術理学院の下部組織ではあるのですが…そちらで魔術の研究の方をやっているんです」


「へぇー!いいじゃん、面白そうなお話が聞けそう」


「はい、それで今研究している内容が魂と肉体のリンクについてで、そちらの論文を書いたのですが見ていただくことは出来ますでしょうか」


「ふむふむ、いいですよ。デティさんが見てあげましょう」


「それはありがたい」


アマルト達が防壁をマスターすれば私達はラグナ達と合流出来る。だから今は多少時間もある、なので私は近くの小さな岩を椅子代わりにイシュ君が取り出した論文を手にそれを読み込む。


魂と肉体のリンクについて、魂と肉体はリンクしている。魂が劣化すれば肉体は老いる、肉体が傷付けば魂は衰弱する。そこは分かっているが実のところ魂と肉体がどのようにしてリンクし互いに干渉し合える状態にあるのかは分かっていない。


イシュ君はそこに関しての研究をしているようだ。それもかなり面白い考察を多数の実証を交えて…とても読みやすい論文だ。


「面白いね、私は支持するよ」


「ありがとうございます、デティ様にそう言っていただけると凄く心強いです」


「なはは!嬉しいこと言ってくれるねぇ!でもこの分野が解き明かされれば多くの人達を救えるね」


「ええ、私もそう確信しています」


魂と肉体の関係性を解き明かせばそれだけで凄まじい革命を起こすことができる。例えば…魂と肉体のリンクを一時的に切り離し、別の肉体とリンクさせている間に空になった肉体を物理的に治療し、終わったら魂のリンクを戻すことにより致死率の高い外科手術を安全に終わらせたり、いや…もしかたらそれ以上に…。


「死者蘇生も可能になる…と私は思っています」


「…………」


そう、可能になる。肉体が衰弱し魂が散ってしまう前に再度リンクさせれば…或いは死者も蘇る。削れて消えかけた魂を魔力などで補完あげれば…息を吹き返すこともあるかもしれない。


不可能と言われた三大魔術、『時間遡行』『世界崩壊』に並ぶ『死者蘇生』が…可能になるかもしれない。


「色々制限はあるでしょうが…私はこれなら可能だと考えています。デティ様は…私を支持してくれる、そうですよね」


「………………」


「デティ様?」


死者蘇生か……………うーん、うーん…。


「うん、支持するよ」


「ありがとうございます、私はこの研究に…心血を注ぐ覚悟です。これさえ完成すれば…」


「…………」


これはもしかしたら私の悪い癖なのか?さっき注意されたばかりなのに、またやってしまっている。でもアマルトの時もそうだし、今だってそうなんだ。必死で頑張ってる人の邪魔をしたくない、努力に水を差したくない、それだけなんだ。


だから…黙っていた方がいいんだろう…。私が…既に限定的な死者蘇生魔術を確立させている事を。そしてその使用を戒めている事を……。


だってあれ…なんで使えるか私よく分かってないし。


「他にはどんな研究をしてるの?色々聞かせて」


「いいのですか?でしたら…」


そうして私はイシュ君と友に腰を下ろして話し合う。やはりと言うかなんと言うかイシュ君の魔術に対する真摯さは本当に素晴らしい。情熱も目標も…それを支える才能も能力もある。


間違いなく、彼はこの時代最高の魔術師だ…彼以上の魔術師はいない。そう確信出来てしまう。


…それはつまり……。


「あ、そうだデティ様。よければ時間がある時に…いえ時間はまた今度私が作りますので是非私とウルサマヨリの公の場ににお越しいただけますか?」


「へ?公の場に…?いいの?多分だけど、私が行ったら騒ぎになるよ」


「いえ、なっていいんです。実は…今度マレウス魔術議会と呼ばれる物が開催されましてね」


「ああ、知ってるよ。今年の開催地はウルサマヨリだっけ?」


マレウス魔術議会とは、読んで字の如く…マレウスでの魔術研究の成果を持ち寄り今後のマレウス魔術業界の方針を決定する会議だ。そしてそこで決定した内容をそのままさらに上へ…つまり私が主催する導皇会議へと持ち寄る。そこでマレウスの代表として七魔賢のイシュ君が発言することになる。


言ってみれば私が毎年やってる導皇会議の前準備に近い会議。いつも開催地が違うとは聞いていたし、確か今年の開催地はウルサマヨリ…とも聞いていた。


「はい、そこに出席しませんか?」


「えぇー!だるくなーい!?それ私が参加したら」


「怠くないですよ、寧ろ身が引き締まるんじゃないですか?今年はマレウス魔術御三家が全て参加するらしいですし、丁度いいと思います」


「魔術御三家って…グランシャリオとクルスデルスールとケフェウスだよね」


マレウス魔術界の権威とも呼ばれる魔術御三家。古くから権勢を保ちマレウス魔術界を牽引し、多くの研究成果を出してきた三つの名家。


稀代の天才トラヴィス・グランシャリオを輩出した古豪にして御三家筆頭とも呼ばれるグランシャリオ家。


かつては魔術導皇に肉薄する程の影響力を持ったとされる七魔賢常連のクルスデルスール家。


上二つと比べると一段落ちるがそれでも優秀な魔術師ばかり輩出し一時は理学院のトップすら担ったケフェウス家。


それらがマレウス魔術界の重鎮として色んなことを決めたり決めなかったりしているのだ。魔術界も結局血統権威社会…いや、魔術界は血統だの家柄だので地位が決まる場合が多い。より良い家系に生まれている人間の方が上等な教育が受けられるって面もあるが、誰の息子だ誰の子孫だで何もしてなくても評価されてしまう界隈なのだ。


なんでかって?そりゃあ魔術界の頂点たるクリサンセマム家がまさしく血統権威の象徴みたいなもんですからね。ええそうです、私こそが元凶です。


「はい、私…イシュキミリ・グランシャリオとマティアス・クルスデルスールとレイダ・ケフェウスの三名が揃う数少ない機会です。そこに是非参加していただきたい。何より…私の師匠も来るんです」


「師匠?トラヴィス卿じゃなくて?」


「父は仕事でほとんど家に帰ってませんからね、代わりに私に魔術の指南をしてくれたのは…ファウスト・アルマゲストでした」


「ファウスト…って、それ…」


「はい、現マレウス魔術理学院の本部院長です」


マレウス魔術界の頂点…魔術研究の公的研究機関のトップに立つ人間が、イシュ君の師匠!?そんな凄い人に教育してもらっていたんだ。実際のところどう言う人かは分からないが、公的研究機関の頂点がボンクラなわけがない。


「へぇ、凄い人から教わってるんだね」


「ええ、自慢の師匠です。なので私としてもちょっといいところを見せたいんです…それが」


「魔術導皇の招致ね、まぁいいよ。イシュ君にはお世話になったし私もお返ししたいや」


「それはありがたい!いや本当にありがとう!研究成果もロクに出てないし、他の御三家を前に縮こまらなきゃ行けないところでしたよ!」


「ちょ…ちょっと!?」


そう言いながらイシュ君は私の手を取って顔を近づけ笑みを浮かべながらブンブンと手を振ってくれる、その本当に嬉しそうな顔が私は………。


「おーい、いい感じになってるところ悪いけどよー」


「えっ!?」


「おや?」


「指導お願いできんかね」


ふと気がつくとアマルトがジトーっとこっちを見ていた、接近に気が付かなかった、変なところ見られた!と言うか誤解して!


「ち、ちが!アマルト!」


「別に否定する要素はないだろ、それよりイシュキミリさん、ちょっと聞きたいことがあんだけどよ」


「ああ、構わないよ」


にこやかにイシュ君に話しかけるアマルトに応じてイシュ君は『それでは、お願いしますね』と歯を見せて笑いつつ立ち上がり、彼等の指導へと向かっていく。


びっくりしたぁ…何がびっくりしたってイシュ君がいきなり手を握ってきてびっくりした。お恥ずかしい話しながらこのデティフローア…男性とのお付き合いは無いし男友達もラグナ、アマルト、ナリア君の三人しかいない。上にラグナはエリスちゃんにぞっこんナリア君はそもそもそう言う目で見れないアマルトは人格が論外とそもそも恋愛色を感じさせない人間しか近くにいない物で…こう。


うん、びっくりしたぁ!男に手を握られ顔を近づけさせられるとか!そんな不埒な真似したことがなかった物でして!びっくりしたぁ!


「…………」


…そう考えると、否が応でも頭に浮かぶのは…まぁ、そう言う話。私の恋愛事情という話。


いや恋愛と呼ぶべきでは無いのかもしれない、私は…私の家系クリサンセマムは代々その時代最高の魔術師を伴侶として迎えるしきたりがある。その選定条件は厳しく実力や功績、人格や健康状態など様々な要因が試されるが…何より重要なのは家柄。


さっきも言ったが魔術師社会は血統権威社会、どれだけ優秀な天才でも路傍で物乞いしてるような人とは婚姻を結べない。例えその魔術導皇どれだけ心が他に向いていようとも、しきたりとして決まった人間としか子供を作れない。


逆を言えば…イシュ君は、私の見立てにはなるが条件を全てクリアしているようにも思える。…私は魔蝕の日に子を産まなければならない、十二年に一度の魔蝕の日に。


そして、魔蝕の日は来年…。


(順当に行けば、私は今年中に婚姻を済ませ春が来る前には『済ませ』なければならない。その為には相手の選定が必要、元来選定はスピカ先生か魔術評議会が行うけど双方ともに未だアクションはなし…けれどきっと、選ばれるのは)


アマルトと話すイシュ君を見る。同年代で彼以上の魔術師はいない、血統面でも実力面でも申し分ないのは…彼だけ。


そうなると私はきっと……。


「おーい、デティ〜」


「はぇ!?」


ふと、イシュ君の隣に立つアマルトに声をかけられギョッとする。やばい…変な事考えてたのがバレたかな…。


「な、なに」


「何って、俺とナリアはもう防壁をある程度使えるようになったぜ?」


「え?もう?」


「おう、ほら」


するとアマルトは私に近づいて手を広げる。すると防壁を目の前に作り出し…それを球体にしたり伸ばしたり縮めたりと自由自在に動かして、最終的に自分をすっぽり覆うほどの物を用意して見せるのだ。


素晴らしいの一言だ、習得と同時にここまでのレベルに至れるなんて…天才的な感性と言える、いや。元々アマルトの気質を考えれば成長が早いのは納得か。理論派は理屈や理論がなければスタートすら出来ないが、一度理屈を理解してしまえばそこから自分でデータを集め形にすることが出来る。


そういう意味では、彼の成長速度が速いのも当然と言えば当然…かぁ?それはそれとして早すぎる気がするぞ。


「随分早いね」


「いやぁ〜そういや俺、お師匠から防壁習ってたわ」


「は?」


「でも言ってる意味が理解出来なくてさ、イシュキミリのアドバイスでようやく分かったんだ。で?それ試したらこの通りよ」


「……………」


大丈夫かこいつ、ま…まぁ確かにアンタレス様はあまりに賢すぎるが故に前提知識を相手が知っていることを下地に物事を話す節がある。分かり難いのは分かるっちゃ分かるけどさぁ。


「僕も防壁修得できました!デティさんはどうですか!」


「私?私もイシュ君にアドバイスしてもらって出来るようになったよ。ほら」


と言いつつ、慣れた手つきで私は防壁を作り出し自分の体をすっぽり覆う。本当は随分前からできたけど…まぁ内緒ね。


「へぇ、お前便利そうだな、全身覆っても防壁小さくて済むから」


「喧嘩売っとんのかお前ーッ!!!」


「あ、アマルト君、あんまり魔術導皇を馬鹿にするのは…」


「馬鹿にしてないって。ただ、いいな〜って」


「イシュ君こいつ無視していいよ!バカだから!」


「なはは」


バカを見てたらなんか悩んでるのもバカバカしくなった、本当にこいつノンデリ!あり得ないくらいアホ!いつか洒落にならないくらいボコボコにしてやる!


「ま、まぁともあれ。多分だがここにいるメンツ全員で父上と合流しても問題ないだろう」


「やったー!なぁイシュキミリ、お前も一緒に来てくれよ〜」


「そうですよ!イシュキミリさんが一緒に来てくれて、それでまたアドバイスをしてくれたら助かります!」


「い、いや…そう言っていただけるのはありがたいのですが私は父程優秀ではないし、父がいるならそっちの指導を受けた方が…」


「イシュ君、こいつらバカだから嘘とかおべっかとか言えなくてね。本気でそう思ってるんだと思うよ。だからさ…来てくれない?」


「アマルトさんはともかく僕もバカ判定ですかデティさん!?」


「或いはそう、部分的にはそう」


「ショック!」


「…魔術導皇が仰るのでしたら」


「やりぃ!んじゃ行こうぜ!どんな修行してんだろうなぁ!」


「イシュキミリさんがいたら楽勝ですよ!」


「あはは…」


ともかく、これで合流出来るようになった。エリスちゃん達がどんな修行をしてるかは分からないが…楽しみだ。あのトラヴィス卿の修練を受けることが出来るのだから…!


…………………………………………………


「というわけで合流でーす」


「よろしくお願いします、みなさん」


「凄いですね、三人とももう防壁を会得したんですか?」


それから私たち三人はエリスちゃん達と合流を果たす、丁度みんな休憩時間中だったらしく水分補給と簡単な食事を取っており、私達を見るなり汗を拭って立ち上がり歓迎してくれる…というより、私達がこの早さで合流を果たしたのが驚きだ、といった様子だ。


「なんだよエリス、俺達が防壁習得に手間取ると思ってたのか?」


「手間取るというか…修得しますでそんな簡単に修得できるもんでもないでしょう。エリス三年かけたんですけど」


「なはは、まぁこんなもんよ」


「一応僕達も師匠達から防壁の修行は受けてたんですけど、イマイチ僕達の中で噛み合わなくて…そこをイシュキミリさんがアドバイスしてくれて!形になったんです」


「イシュキミリさんが?」


するとエリスちゃんはジロジロとイシュ君を見つめる。そんなエリスちゃんの視線にイシュ君は困ったように苦笑いを浮かべる…。まぁエリスちゃんの眼光が強すぎるってのもあるかもしれないが、急にジロジロと見られたら誰でも困惑するか。


「どうしたのエリスちゃん」


「いえ、イシュキミリさんってやっぱり魔術師としても一級なんですね」


「まぁ、幼少より鍛錬に励んでいますから。魔女様には及ばないですが良き師も得ましたしね」


「いやぁ〜マジでイシュキミリは頼りになるぜ?俺も一応教師として教え方のノウハウは心得てるつもりだが、イシュキミリの指導法は死ぬほど分かりやすい。うちのお師匠に爪の垢煎じて飲ませてやりたいぜ」


「ド陰キャのアマルトさんが信用するってことは、相当頼りになるんですね」


「悪かったな陰キャで」


「あはは…」


困ってるよイシュ君が見るからに…。


「イシュキミリ、お前が指導したのか…?」


「父上…、はい。困っているようでしたので私が彼等に指導を」


すると、遠くからこちら様子を伺っていたトラヴィス卿がやや難しい顔をしながら杖をついてこちらにやってきて…チラリとそのままアマルト達に視線を移し。


「アマルト君、ナリア君、デティフローア様、防壁を見せていただいても?」


「あ、うーす!」


「はい!」


「はい、トラヴィス卿」


ふと、促されるままに私達は三人揃って防壁を手元に作り出す。するとエリスちゃん達他の弟子から『おお』と言う歓声が上がり、トラヴィス卿はそれを見つめ。


「ふむ、素晴らしい。完全に習得している、よくぞこの短時間で物にした…これよりこちら側の修行に合流してもらおう」


「よっしゃー!遅れた分一気に捲るぜナリア!」


「はい!イシュキミリさんのおがけでこんなに早く合流出来ました!」


「いえ…私なんか…」


そう謙遜の言葉をいつも通り口にしようとしたイシュ君だったが。


「誇れ、イシュキミリ」


「え?」


その言葉を遮り、誇るよう促したのは…他でもない父トラヴィスだった。杖に体重を預けながらも真っ直ぐイシュ君を見つめ今しがた口にしようとした言葉を真っ向から否定する。


「お前はよくやったさ、アンブロシウスから聞いた。彼のやり方では上手くいかなかったところをお前がなんとかしてくれたと…、そして彼等はお前に感謝している。紛れもなくイシュキミリ…お前の功績だ」


「父上……」


「まだ、例の件を引きずっているのは分かる。だがお前もあれから成長した…乗り越えられたんだよ、お前は」


「……………」


イシュ君は何も言わない、何か二人だけの空間のようなものが形成されている気がして私達も何も言えない。二人は親子だし私達の知らない事情も色々あるんだろうし、それに私達が首を突っ込む義理がないことは理解している。


けど…空気が重い。


「なぁデティ、イシュキミリって昔なんかあったのか?」


「い、いや知らないけど」


アマルトがこっそり聞いてくるが、聞かれても分からない。私がイシュ君のことを知ったのはみんなと同じエルドラド会談なんだし…と思って、ふと思う。


私はトラヴィス卿とそれなりの仲だ、何度か会ったことがあるし、結構踏み入った話をした事もある。だが…私は一度としてトラヴィス卿の息子、延いては家庭環境の話を聞いたことがなかったと。


トラヴィス卿は世界中を駆け回っていた、家にも殆ど帰れてないと言っていた、だから彼の家庭環境は判然としないというより、誰も気にしていなかった…けど。


「いいんです、それはもう」


「………そうか」


もしかすると、トラヴィス・グランシャリオという偉大な男の働きの影に…何か大きな歪みのような物が生まれてしまっているのではないか。彼が生み出した多くの偉業の皺寄せが…トラヴィス卿か、彼の家族に行っていたのではないか。


そんな…言い知れない不安のような物が胸を襲い……。


「それより父上、そろそろ修行を再開しませんか?」


「それもそうだな、全員揃った事だ…ここからギアを上げていこう、まず合流した三人にもコップを」


「はい、旦那様」


そして私達は頭の上に防壁を展開させられコップを乗せられる、なるほど。日常的に防壁を扱わせ常に魔力運用を心掛けさせる修行か、似たような修行をスピカ先生からさせられた事もあるしこれは楽勝かな。


「昨日見た時から思ってたんだよ、ラグナ達みんな頭の上にコップ乗せてさ。ふざけてんのかなって思ってた」


「冗談でこんなことするわけないだろうが」


「こ、これ…バランス取るの難しいですね」


「ナリア君、体を動かしてバランスを取るんじゃなくて防壁を水平に保つようにすればいいんだよ。自分の体と防壁を切り分けて考えるんだ、この修行は防壁を無意識にかつ意識的に運用できるようにするための修行だから」


「む、無意識に意識的ですか?」


「そう、この修行に明確なアドバイスや助言は出来ない。つまるところ慣れる為の過程だから失敗や失態を繰り返して慣れて自分なりの答えを出すしかない」


「わ、分かりました」


早速イシュ君がナリア君に助言してる、やはりというかなんというかイシュ君の魔力闘法に対する理解度は凄まじく高い。魔力闘法の腕前だけ見れば恐らくだが弟子達の誰よりも上位にいるだろうことが容易に想像出来る。そう…私よりも魔法が上手いんだ。


「では休憩明け一発からキツいの行くぞ。さぁ全員立て、君達には一日も早く防壁基礎修行を抜けてもらわねばならない、私が教えたいのはこの先の段階なんだからな」


「この先の段階?防壁の先に何があるんですか?」


「魔力覚醒だ、言ったろうここにいる全員を上の段階に導くと。少なくともここで全員…魔力覚醒と極・魔力覚醒を会得してもらうぞ?」


「おお!」


全員が喜色に湧く、特にアマルトはオーバーリアクションで湧き立ち危うく頭の上のコップを落としそうになるくらいだ。


全員が魔力覚醒を、八人全員が覚醒を使えれば少なくとも世界を見回しても敵はいなくなるだろう。なんせ八大同盟の組織だって多くて覚醒者は五人から六人程度。それが八人全員が覚醒者なんだ、生半可な集団ではなくなる。


そして逆に言えばここから先はそれくらいの戦力でなければ戦い抜くのは難しいということ。ならば一刻も早くこの先の修行へ行けるようにしなくてはならないだろう。


「俺!どんな修行だってするぜ!」


「ほういい気合いだなアマルト君」


「…言っちまったな、アマルト」


「へ?」


「先にくたばるなよ、アマルト」


「え?」


「葬式はマレウス式がいいですか?それともコルスコルピ式?」


「え…え?一応コルスコルピ式…え?何?」


ラグナにメルクさん、メグさんと全員からジト目で見られ困惑するアマルト。そう、アマルトは気が付いてないんだ、魔力覚醒の話が出たあたりから浮き足立って…トラヴィス卿の目つきが変わってることに。


見たことないくらい鋭くなってる、会議でも見せないようなおっかない顔に。そこで理解する…お父様の言ってた『トラヴィス卿はスパルタだった…』という言葉を。


「その意気や良し!ならばやるぞ!『死蜂修行』!」


「なんでだろう、今『死』とか聞こえた気がする」


「むんっ!」


するとトラヴィス卿は近くの木を杖で叩く。壮年に至り筋力の衰え始めたトラヴィス卿の腕力はともすれば若者にも負ける物かもしれないが、あのタイタンアームを揺らした時同様。魔力を用いて衝撃波を生み出し木を大きく揺らすのだ…すると。


トラヴィス卿の隣に、一軒家くらいの大きさの何かが落ちてくる…あれは。


「え?これ蜂の巣?」


「ああ、『死蜂の巣』だ」


そう告げた瞬間、巨大な蜂の巣からもう大量の小さな蜂がワラワラ出てくるのだ。大きさで言えば小指の爪ほど、されどその数な万…いや億に届くかというほどの数の蜂が飛び出てくる、勿論だが激怒している。なんせ自宅が急に滑落して、そしてその先に恐らく自宅を叩き落としたと思われる悪漢が集まっているんだ…。


「蜂ィ!?」


「さぁ防壁を展開しろ!死蜂が諦めるまでこの修行は終わらんぞ!」


「ヒィッーッ!?」


蜂を前に蜘蛛の子を散らす…というのも変な話だが私達は一斉にワッ!と走り出し逃げ出すが、流石に蜂相手では足で逃げることは出来ない。あっという間に私達は蜂に囲まれてしまう。だからこその防壁だ、私達はその場で立ち止まり防壁を展開するより他ない…のだが。


「ぎゃー!来るな来るな!」


「ぼ、防壁が蜂で覆われて前が見えねぇ…!」


「というか…なんか暑いです!」


円形の防壁を展開した私達に蜂は一斉に飛びかかり、瞬く間に蜂のボールが出来上がる。一切の隙間なく敷き詰められた蜂の塊は視界の確保すらままならず…何故か防壁内部の温度まで急激に上がり始めたのだ。


「それは熱殺蜂球だ、死蜂は体を揺らすことで体温を100℃まで上げることが出来る」


「ピザ窯かよ!」


「そしてそれを使い対象の温度を上げ、蒸し殺す」


「ちなみに人間が耐えられる温度は一般的に42℃と言われてまーす!それ以上を超えると蛋白質が凝固して死んでしまうので気をつけてくださーい!」


「ふざけんなー!」


イシュ君の声を聞いて全員が大慌てで防壁を動かして蜂を払い温度の上昇を防ぐ、蜂に組み付かれ長時間経てばそのまま蒸し殺されてしまう。そんな話を聞いて心穏やかで居られるわけがない。


そう、この修行は防壁を展開しながら走り回りとにかく組み付かれないようにする為の修行。動きながら防壁を展開する修行なんだ。


「ちなみにこの蜂って刺されるとどうなるんすかー!?今死蜂とか言いましたよねー!絶対毒ありますよねー!」


「死蜂は魔獣ではなく南部密林に住まう独自の蜂でな。獣を覆い尽くし蒸し殺す事でその肉を食う肉食の蜂だ、そして当然その針には毒がある…刺されれば、まぁ死にはしないが死ぬほど苦しいぞ」


「死ぬほど苦しい!?何が起こるんですか!イシュキミリさん!」


「死蜂の毒は心肺機関に作用する毒です、刺されれば呼吸が出来ず死ぬ…んですが、人間に対してはやや毒の効き目が弱くてですね。刺されると三十分くらい笑いが止まりません」


「なんでそんなバラエティ豊かな生き物がいるんだよ!」


「不思議ですよねー」


「っていうかイシュ君達は大丈夫なの!?」


「私達は防壁を使って追い払ってるので心配しなくてもいいですよ」


「くそう!」


ダカダカとみんなが走る音がする、私もちっこい足をフル回転で走る…すると。


「早速脱落者が出たな」


「え!?誰ですか!?」


「メグだ」


「あ……」


そう言えばあの人、あんまり表に出さないけど虫嫌いだったな。本人曰く否定してるし『カブトムシとか好きですから!』と言ってるけど…虫が出ると音もなく消えるし。多分虫に囲まれてる状況が耐えられなくて声も出さずに気絶したんだろう。


「さぁ逃げろ逃げろ!脱落者は死の苦しみが待ってるぞッ!!」


「だぁー!畜生!いきなり厳しいじゃん!」


「だから言ったでしょうアマルトさん!貴方をコルスコルピ式で埋葬すると!」


「勝手に殺すな!」


「ヒィッーッ来るな来るなーッ!」


「蜂のお腹って…こうなってるんだ…」


そうして私達の修行は続く、とにかく今は…防壁に慣れるため、一段上へ…行くために……。



…………………………………………………………


「さぁ!次は防壁の最大出力を上げる修行だ!」


修行は続く、次にエリス達は火にかけた巨大な鍋の上にぶら下げられる、下にはグツグツと煮えたぎるお湯が見える…、そして破裂する泡は凄まじい熱気を放ち、上で宙吊りにされるエリス達を蒸し焼きにするのだ。


「いや死ぬーーーッ!!」


「熱を遠ざけるだけの防壁を張れ!大丈夫!医薬品なら山ほどある!遠慮なく怪我しろ!」


「ぐぅー!!」


必死に防壁を展開して熱を遠ざける、分厚くしてもまだ暑い、だからもっと厚くする…!


「どんだけ厚くしても暑い〜!!」


「あ!複数枚展開です!空気の断層を作るんです!」


「ね、ネレイド…お前平気なのか?」


「ちょっとあつい」



他にも修行は続く……。


「次は防壁の重要性を知る修行だ!」


「アホかッ!死ぬわ!」


「ぐぎゃおおおおおお!!」


両手を雁字搦めにされたエリス達は走る、背後には巨大なドラゴン…マレウスヌマチアナコンダドラゴンが牙を鋭く光らせエリス達を追いかける。


「抵抗は禁止だ!攻撃を防壁で防げ!単純だ!」


「シンプルに死ぬって話してんの!」


「こいつめっちゃ噛んでくる!防壁ごと潰されるかも…!」


「ぐぎゃおおおおお!!」


次々と口を広げ噛みついてくる巨大なドラゴンから逃げ回りながら口撃を防壁で防ぐ。その瞬間ドラゴンはただ一人に狙いを定め…口を開けて突っ込む。その先にいたのは。


「ネレイドさん!」


「むんっ…!」


ネレイドさんだ…けどネレイドさんはドラゴンの顎を防壁で受け止め、剰え全体重を乗せた突撃さえも受け止めてみせる。凄まじいのは防壁の硬度、あんなどでかい顎による一撃を受け止めてもびくともしない…けどそれ以上に。


「ネレイドさん……」


エリスは、ネレイドさんを見て一つ思う…もしかしてネレイドさん────。




そして次の修行は…。


「さぁ防壁を使え!とにかく使え!休む暇は与えんぞ!」


「魔力尽きる〜!」


エリス達は八人で円になって立つ。その中心には地面に刺さった縄が天に目掛け伸びて大地を支えている。


…そう、大地を支えているんだ、上に伸びる縄がエリスたちの立つ大地を。そうつまり今エリスたちは。


「この縄が切れたら俺達下に落ちるんだよな!?」


「のようでございます、あわわ…メルク様見てくださいなあそこの池。メッチャ虫います」


「ひぃいい!見せるなメグ!」


エリス達は今タイタンフッドの枝に括り付けられた縄…を結ばれた巨大な木の板の上にいる。木の板の下は池だ、それもなんか大量にいる謎の池だ。この縄が切れたらエリス達は揃って池に真っ逆さま、だというのに。


「あ!また来たぞ!」


「チッ!防壁を!」


『ケェェエエエーーーーン』


木の葉を引き裂いて現れるのは巨大な鷹…マレウスヌマチヒトクイイーグルだ。そいつを誘引する作用がある薬を塗り込まれた縄を狙って無数のイーグルが迫る。エリス達はこれを防壁で跳ね除ける必要がある…そういう修行だ。


「これ!俺達だけを守ればいいってわけでもないのか!」


「魔術が使えればあんなのエリスが撃ち落とすのに!」


「文句を言うな!来るぞ!」


次々と迫る鷹をエリス達は防壁で弾く。不安定な足場の上で跳ね縄を狙う嘴を弾き、羽から繰り出される突風を防壁で跳ね除け、とにかく縄を切られないように立ち回る…すると。


「デカいの…来る!」


デティが叫ぶ…と同時に木々の向こうから通常個体よりも数段大きなマレウスヌマチヒトクイイーグルが現れる…あれはまさかマレウスヌマチジャイアントヒトクイイーグル!


「あんなのに突っ込まれたら弾く弾かないってレベルじゃねぇよ!」


「私に任せて…!」


突っ込んでくるマレウスヌマチジャイアントヒトクイイーグル…あれに突っ込まれたらそもそも衝撃を受け止め切れない。そう判断した瞬間ネレイドさんが足場から飛び降りその巨大な嘴に向けて…。


「防壁展開ッッ!!」


『ゲェェエエエーーーーン!!!』


「すげぇ!受け止めた!」


…受け止める、空中で防壁を展開して嘴を受け止め切ったんだ。あの巨体を持つ怪物の突撃を完全に受け止め防壁で防ぎ切った…とてもエリスには出来そうにない芸当。


やはり、やはりそうだ。エリスの気づきは正しかった…やっぱりネレイドさん…。


(ネレイドさん…防壁メチャクチャ強くなってない?)


明らかに修行を始める前と後でネレイドさんの防壁の強度が変わっている。元々防壁の才能があったとは聞かされていたが…いや、恐らくこの修行の中でモースの知識を得ることで歪んでいた部分を矯正し、寧ろモースの技術を取り入れ完全に自分の物にしたんだ。


今のネレイドさんはあのモース・ベビーリア並みの防壁を…いや或いはそれ以上に頑強な防壁を持っている可能性が───。


「あ…」


瞬間、ネレイドさんが気の抜けた声を出す。…嘴は防げた…嘴は。しかし全身を使って突っ込んできたその衝撃まではやはり防ぎ切れず、ピューンと音を立ててネレイドさんがこっちに突っ込んできて…。


「お…」


「へ…」


ブチリと音を立てて縄が切れる、突っ込んできたネレイドさんの体で縄が切れる。その瞬間エリス達はフワリと体が浮いて……。


「ぎゃーっ!落ちますよーっ!」


「ネレイドさーーん!!」


「ごめんね」


「くぅー…いいよ、けど…どうしようか」


「ひぃいいいーーー!!落ちる落ちる!」


「せめてあの池に居るのがなんなのかだけ教えてくださーーーい!!」




そして、巻き上がる水柱を見てトラヴィスは腕を組み。


「うむ、順調だな。池から上がったら次の修行に行くぞ!早く上がってこい!」


修行は順調だ、この分なら一ヶ月…いや更に短い時間で防壁をマスターできるかもしれないとトラヴィスは確信し…修行は続く。



………………………………………………………


場所は変わり、マレウスの中央都市サイディリアルにて。エリス達が修行に明け暮れ始めたと同時刻……。



「承認…しません」


マレウスの中心に屹立せし巨大な城。星雲城の主人レギナ・ネビュラマキュラは受け取った書面を破り捨て首を横に振るう。ヒラリと落ちる紙片を見遣るのは彼女の足元に平伏すこの国の宰相…レナトゥスだ。


「今、なんと?」


「このような提案は受け入れない、と言ったのです」


レナトゥスは徐に立ち上がり、つい先程自分が提案したとある政策が書き込まれた紙を足元に見つめ、忌々しげに顔を歪めるが…直ぐに取り繕うように笑顔を見せ、再び国王に傅く。


「王よ、これはこの国…貴方の国たるマレウスを生かす為に必須の政策。これがなければマレウスは先細り、いつかは自壊を始めてしまう…そうならない為に──」


「言い方を改めなさいレナトゥス、『貴方のお友達にあげる分のお金がないから、民から貪る』…そう言いたいのでしょう」


「まさか、私は…」


「ならなんです!このふざけた政策は!『税制の改定』?こんな物は税金とは言わない!罰金です!」


レナトゥスが提案したのは民から金を巻き上げる為の税制改訂案。いや…増税とでも言おうか。


日が沈んだ後に女性が一人で歩いていたら税金、男性が休日一度も家から出なければ税金、子供一人あたりにつき税金、果てには洗濯物を干さなければ税金食器を洗わなければ税金歯を磨かなければ税金…頭がおかしいとしか思えない。


「レナトゥス!私は今貴方の政治手腕にさえ疑問を持っていますよ!こんなふざけた案を堂々とよくこの御前に出せた物ですね!」


「王もお聞きになったでしょう!王貴五芒星チクシュルーブの死去!これに加えエルドラドではロレンツォ殿も死んだ!この国の財政を担う二人が落ちたのです!マレウス政府がこれから何かをする為に必要な金が!もう入ってこないのです!だから民から直接受け取るしかないでしょう!」


「……珍しいですねレナトゥス、貴方がそこまで焦るなんて」


「ッ……」


レナトゥスは柄にもなく焦っている。そもそも王貴五芒星はレナトゥスの提案で作られた物だ、謂わばレナトゥスの手足…その内で金銭や財政を支える、レナトゥスの資金源となっていたチクシュルーブとロレンツォがいなくなった。


これは痛い、あまりにも痛い。レナトゥスにとって信じられない程の大打撃だ…だからだろう、ここまで焦っているのは。


「それに、貴方はいつも私に政策の承認など行っていなかったでしょう?」


「そ、それは王のお手を煩わせるまでもないと…」


「いいえ、貴方の力が落ちてきているんです。王貴五芒星が欠ければ欠ける程、貴方の国内での影響力は落ちて行く…だからこうして今も自分の権威が絶対であるかのように、私を容易く動かして健在ぶりをアピールしたかったのでしょうが…私はそんなに軽くありませんよ」


「こ……小娘が…ッ!」


これは完全に誤算だったといえる。レナトゥスにとってレギナは御し易いハリボテの王、力関係は自分の方が圧倒的に上、レギナを顎でつかうのが自分、そう思い込んでいたし事実そうだった。


ついこの間までは…だが。


(おかしい、エルドラドから帰ってきたあたりからレギナの雰囲気が余りにも変わり過ぎている。王としての気風を身につけて帰ってきた…今はもう一種のカリスマ性さえ得始めている。対する私は資金源を失い賄賂やコネを繋ぎ止めておけるだけの金銭を失い求心力が落ちている…まずい、このままでは逆転される…!)


レギナは今やもう立派に王として立ち上がられるだけの力を得た。知識や経験ではまだまだ足りず誰かの手を借りなければならないが少なくとも気概と気風は得た。彼女は勇気を持って行動し、民を第一に考え行動する。


その様は、荒み切ったマレウスの中にあって勝利の女神のように映るだろう。馬鹿な愚民はレギナに縋るかもしれない、民が縋れば貴族も靡くかもしれない。そうしてレギナの周りにいる人間が増えれば増えるほど、レナトゥスが動かせる範囲が少なくなる。


逆転される、ここまで上り詰めておいて逆転される。今はもう元老院の後ろ盾もない…。


「財政に関して不安があるのは私も同じです、なので兼ねてより考えていた魔女大国との融和を実現させ、他国との貿易を再開します」


「それはなりません!今魔女大国との国交を再開し奴らを招き入れればマレウスが呑まれる!」


「消えて無くなり自壊するよりは良いです!それに…貴方は常々言っているではないですか。マレウスは強い国だ、マレウスは何処にも負けない素晴らしい国だと、なら魔女大国を招き入れても呑まれて消えることはないでしょう?少なくとも貴方はそう信じてる筈だ。それともその愛国の言葉は詭弁だったと!?」


「グッ…」


論理破綻、レナトゥスの言葉がまるでターンテーブルを回すようにクルリと返って来て今レナトゥス自身を苦しめ、反論の余地を奪う。


ここで愛国を語れば『ならマレウスを信じて魔女大国を受け入れろ』と繋がる。


耳障りのいい言葉で騙くらかし嘘を語れば『愛国を詭弁に使うお前は宰相には相応しくない』と繋がる。


つまりなんとも答えられない、黙らざるを得ない状況に追いやられた…。


(論破されただと、この私が…コイツに、この小鼠にィッ!!)


フルフルと震える拳に力が篭り、それはやがて力となってレナトゥスに無思考の情動を促す。


「図に乗るなよ…小鼠ィッ!!」


「おっと待った!」


「ッ…」


咄嗟に掴みかかろうとしたレナトゥスの首元に刃が突きつけられる。レギナの横に控えていた近衛騎士が…忌々しい金髪の近衛騎士ステュクスがギロリとレナトゥスを睨み、制止する。


「宰相さん、今あんた何しようとしたよ。まさかレギナに手を出そうなんて考えてないよな」


「ッ…そこを退け、近衛騎士風情が…!」


「断る、これが俺の仕事だ…少なくとも今のあんたより俺のが職務に忠実だぜ?」


「クッ…くそ…、手を出そうとしたわけじゃない。ただ虫が見えたから…払おうとしただけだ」


「えぇ〜?本当に?」


「うるさい…穢らわしい剣を退けろ無礼者」


ズイッとステュクスの星魔剣を押し払いレナトゥスは一歩下がる、この私が…こんな雑魚に押し止められるとは屈辱だ。実力行使ならいつでも皆殺しに出来るのに…今は逆に宰相の座が疎ましいと思いながらレナトゥスは視線を外す。


それはまさしく、敗北であった。


「レナトゥス、財政難を憂いこの国の未来を案ずるなら次はもっとマシな政策を考えなさい。民に危害を加えるような物は私が承認しません。分かりましたね」


「……………、ええ…分かりました。申し訳ございません王よ」


「分かれば良いのです、下がりなさい」


「ハッ、失礼致しました」


そうしてレナトゥスは静々と頭を下げ…ゆらりと謁見の間を後にする。その背中を見て、レナトゥスが遠ざかったことを確認したレギナは……ホッと息を吐く。


「はふぅ、なんとかなりました」


「やったなレギナ、あのレナトゥスを追っ返すなんて成長したじゃんか」


「い、いえ…この間良いお手本を見れたので」


ステュクスはレギナの肩をツンツンと肘で突きながら笑う。エルドラド会談前はあんなに大きく見えたレナトゥスが今はちっぽけに見えた、いや事実レナトゥスは小さくなった。自らの力である王貴五芒星を失い始めたレナトゥスに以前のような絶対性はない。


「そ、それにステュクスも…その、かっこよかった…ですよ?とっても」


「そうか?レギナの方がカッコよかったと思うけど…」


「いえそういう話では…」


熟れたりんごのように顔を赤く染めるレギナから視線を外したステュクスは静かにレナトゥスの去った方を見る。


(にしてもレナトゥスの奴、マジで焦ってたな。これで力を削がれて徐々に衰退して行く…ってタマにも思えない。またなんかとんでもない事をやってきそうだ…警戒しとかなきゃ)


レナトゥスは例え弱体化しても恐ろしい女だ。こういう時何をするか分からない恐ろしさは未だ健在、またどっかで逆転の一手を打とうとしてくるかもしれない…。


そういう時自分がどうすればいいか、少しでも考えないと。


『なんじゃあ、あの女…ワシの事汚い〜とか言いおって、おうステュクス!帰ったらワシの事磨けよ!』


(ロア…別にいいけど)


ふと、ステュクスの剣が光り輝き脳内に声を響かせる。コイツはロア、エルドラド会談の最中にいきなり喋り出した変な奴。性格は割と最悪だがその知識量は凄まじく今日もレギナを守る為に知恵を貸してくれていたんだ。


(なぁロア、レナトゥスの奴…これで引き下がると思うか?)


『さぁのう。彼奴にとって引き下がるラインが何処か分からん。引き下がるラインは人によって違う、財産を失った時、家族が危機に陥った時、自らの命が危機に脅かされた時。人は様々なラインで引き返す事を選択する、レナトゥスは今財産を失う段階に来ているが引き下がる気配は無し…はてさてどこで引き下がるか』


(じゃあ家族が危機に瀕した時とかじゃないと引かないかな…)


『アレが家族が危機にってタイミングで引き下がるとは思えんし、最悪自らの命が脅かされた時…それか』


(それか?)


『自らの命も顧みず、最後まで突っ込んでくるかもしれん。そういう奴は怖いぞ?自らの命を勘定に入れなくなった途端とんでもない事をしてくるからのう。謂わば死兵…失う物がないとは即ち無敵じゃからのう』


(ならその時は俺が戦って守らないとな…ロア、俺はレナトゥスに勝てるか?)


『ぎゃははは!無理じゃのう!流石のワシもサポートし切れん!十中八九百発百中で死ぬわ!お前がな?タイマンで戦り合う事になった時点で現状では詰み確定じゃ、そうならんよう立ち回れ』


(そうか…警戒しとく)


『そうせいそうせい、ワシにとってはどーでもええわ。それに言っておくとお前たちはまだレナトゥスを追い詰めたわけじゃない、くれぐれも勝った気にはなるでないぞ』


(分かった)


と、こんな風にロアは逐一俺に知恵を授けてくれる。星魔剣ディオスクロアにこんな機能があったとは知らなかったが少なくともコイツが喋るようになってから俺は随分楽させてもらってる。


なんせこんな賢い奴がうちの陣営としてブレインとして働いてくれているんだ。ありがたい事この上ない…。


(レナトゥス…)


だが。それでもやはりレナトゥスに対して警戒が拭えないのは…嫌な予感がしているからか。


………………………………………


「クソがァッ!」


そしてレナトゥスは人気のない廊下にて拳を壁に叩きつけ怒りのまま吠える。屈辱と敗北感に苛まれやり場のない怒りが拳を動かしレギナに叩きつける予定だったそれを壁に向け。重厚な岩の壁に拳型の穴が開く。


「レナトゥス様、落ち着いてください」


「マクスウェル…この屈辱がお前に分かるか、お前に…。積み上げた物が崩れ、足元を這う小鼠に一杯食わされたこの悪辣なる屈辱が」


レナトゥスを落ち着けるように肩に手を置くのはこの国の将軍、マクスウェル・ヘレルベンサハルだ。二人は共に悩みを打ち明け合うほどに親密…というわけではない。


ただ共に秘密を共有しているだけだ。


二人は表の顔は宰相と将軍ではある物の、その裏の顔こそ世に蔓延る闇の象徴マレウス・マレフィカルムの中枢組織セフィロトの大樹の幹部…セフィラである。


レナトゥスは基礎のイェソド、マクスウェルは勝利のネツァク。それぞれ共に裏の名前を持つからこそ、相手に対して何かを隠す必要がないのだ。


「…レナトゥス様、先程帝国に行っている総帥から連絡がありました」


「………………」


「目的である将軍の抹殺は叶わなかった物の、目的の大部分は達成できたと。バシレウス様は更なる力を…」


「今!あのクソガキの顔を思い出したら苛立ちで腑が煮え繰り返る!それ以上続けるなネツァク!」


「…申し訳ありません」


バシレウスもレギナも、かつてはあんなに小さく薄汚い子供だったというのに…今やどちらも私を口で使う身分になった。私が慈悲をかけて生かしてやったというのにだ!腹が立つ…バシレウスもレギナも!目障りだ!


「………クソ、どうしてくれようか」


「レギナが余計な力と知恵をつけ始めているのは事実。レナトゥス様…クーデターを起こすのは…」


「もう無理だ、王貴五芒星が三角も死んだ。特にロレンツォとチクシュルーブの穴は大きい、クルスがいない今真方教会も私は動かせない!」


「魔導卿トラヴィスと鏡面卿カレイドスコープは…」


「奴等はただ敵にしないために受け入れたに過ぎん、私の味方にはなり得ない…!」


こんな事ならクルスを始末しなければよかった、いや…あのゴミクズの事だ。私の弱目を見るなり勇んで反乱を起こしたに違いない。真方教会を動かせないのは痛手だが今アイツがいないのは幸運でもある。


だが同時に、今…レナトゥスは表立ってレギナを殺す手立てがなくなったのも事実。これが嫌だ、腹が立つ。いつでも殺せた虫が空に飛び立って目の前を飛び回るくらい腹が立つ。


「…なら如何しますか」


「……マクスウェル、東部で待機しているオフィーリアに連絡しろ」


「ッ…オフィーリアに…!?」


オフィーリア・ファムファタール…またの名を美麗のティファレト。私と同じセフィラの一員にして今レナトゥスが動かせる戦力の中で最強の存在。それに連絡をする…。


「レギナには…父君と同じ末路を辿っていただく」


「暗殺するおつもりで?」


「ああそうだ」


レギナの父イージスは失敗作だった、故に殺した。世間的には病死とされているが…それもオフィーリアの力による物。死を司る奴の力が有れば如何なる死も作り出せる。


オフィーリアは私と同じ第三段階の強者、忌々しいステュクスごと殺すことも容易い。何より彼女が動いて殺せなかった者は居ない…誰にも悟られず一国の国王を暗殺した女だ、オフィーリアを使ってレギナを消す。


「ですが総帥に無断でセフィラを動かすのは…」


「ジズやハーシェル一家はもう居ないのだから仕方ないだろう…、総帥には私から話をしておく。だから早くしろ…このままでは奴がマレウスに魔女大国を引き込んでしまう。そうなればマレフィカルム本部が見つかるのなんてあっという間だぞ…。本部が奴らに見つかってみろ、物量戦では勝ち目などまるでないぞ!」


「………わかりました、では私から彼女に伝えておきます」


レギナは力を持ち過ぎた、従順なままでいれば利用してやったというのに…エルドラドで六王に余計な知恵でも吹き込まれたか。だがいい…レギナを病死とし新たな王を擁立するのは容易い。


最早ネビュラマキュラの悲願など知ったことか…私は私が求める物を得るために動く。それはもう目前なんだ…今更止まれるか。


「嗚呼、シリウス様…もうすぐ、もう直ぐです。魔女時代始まって以来最大の魔蝕…惑星直列による最強の魔蝕。天列魔蝕はもう目前です…」


天を見上げ手を広げる。観測出来得る中で最大級の奇跡、天列魔蝕が起こるのは来年の暮れ…それで我々の、いや私の悲願は達成される。


シリウス・アレーティアの完全なる復活…そうすれば、そうすれば……。


…………………………………………………………


それから、レナトゥスとの謁見を終えたレギナは一息つくため…俺と一緒に中庭で優雅なティータイムと洒落込んでいた。いやいいね?ティータイムだってよ、こんな昼下がりにお花に囲まれて茶を飲むなんて生活がやってくるなんて…ステュクスさんは思いもしませんでしたぜ。


「はむはむ!むしゃむしゃ!じゅちゅっ!」


「レギナ…流石に行儀が悪い…」


「ハッ!すみません…お腹が空いていたので」


右手にクッキーを数枚持って、左手にティーカップを鷲掴み、そして前のめりになりながら優雅とは程遠いティータイムをするレギナを眺めながら、ステュクスは白亜の椅子に座りながら目の前の中庭に目を向ける。


(いやぁ〜…平和だ)


目の前にはマレウス王城名物『花々殿』という名の巨大な中庭が広がっている。花の植えられた生垣と白い柱がそこかしこに置かれ、まるで空間をキャンパスにして絵を描いたように色取り取りの花が咲き乱れている。


ここを管理しているのはレナトゥスだ、彼女の趣味はガーデニングらしくいつも業者を呼んであれやこれやと指示をしながら中庭を作り上げている。あんな悪逆非道が服着て歩いてるみたいな奴でも、こんな美しい光景を作り上げられるんだから…まぁ芸術ってのは不思議なもんだな。


俺とレギナはそんな中庭をボーッと眺めながら何もない昼下がりを享受する。白い机と白い椅子には汚れ一つない…まるで俺のスケジュール表みたい。


「平和だなぁレギナ」


「むちゃむちゃ、何言ってるんですかステュクス。レナトゥスも言っていたでしょう?国を支える二つの柱が一気に崩れたんですよ?ここから国内はドンドン荒れていきます…平和じゃないですよ」


「いやまぁ国内全体で見りゃ平和な時期なんてのはないのかもしれないけどさ。エルドラド会談の為に必死に動き回ってた時期と比べりゃ…平和だろ」


「ま、まぁあの修羅場に比べれば…幾分」


あれは俺の人生でも有数の修羅場だった、それも無事では済まず少なからず…色んなものを失った、二度と取り返せない物をいくつも。あの凄惨な鉄火場に比べれば今は確実に平和だと言える。


「最近じゃアレスさんとの修行も行き詰まってるし…なーんか呆然と時間が過ぎてる気がしてなぁ、不安だよ」


「不安なんですか?」


「うん…、レギナも言ったけどこれからドンドン国内は荒れる。エルドラドみたいな大事件がまた近くで起こらないとも限らない。その時俺がレギナを守り切れるように…強くなりたいんだ」


「ステュクス……」


俺は魔力覚醒を得た、それを確実なものにする為の修行を積んだ。だがそれでも…安心出来ない。


エルドラド会談を引き起こした張本人ジズ・ハーシェルと俺は戦い、まるで相手にもならず惨敗した、いやそもそも戦いにすらならなかった。あんな強い奴がこの世にいるのが信じられないレベルだ。


そして、姉貴の仲間はそんなジズを倒した。メグさんがタイマン張ってトリンキュローさんの仇を討った。正直スゲェと思ったよ、絶対動かない壁を…ただ一人の人間が一念によって動かしたような物なのだから。


だからこそ思う、もしまた似たようなことが起こった時。俺は果たして姉貴達みたいな戦いが出来るのかと…。


「もっと強くなりたいんだけど…どうすればいいか、道が見えない」


「すみません、その分野では私は力になれません…」


「ああいいんだ、レギナはレギナで頑張ってるんだしさ」


「うぅ…」


もっと強くならないといけない。アレスさんとの修行だけでなく…何かもっと。


(ロア、なんかないか?強くなれる方法)


『はぁ〜〜?』


一応、ロアにも聞いてみるが…。


『阿呆、一足飛びに強くなれるならみんなやっとる。世の中にいる強い奴は皆強くなることを望んで日々修行を積み重ねておる。強くなれているのかどうか分からない、進んでいるかも分からない闇の中をただ何かを信じて歩いておる。ならお前もそうせえ、としか言えん』


(お前ってふざけた奴だけど変にリアリストだよな)


『違うのう、ワシはマキャベリストのロマンチストじゃ』


(何処かだよ)


『ともかくワシは非道や反則は好きじゃが強くなることに関してはズルっこは嫌いじゃ。外から無理矢理詰め込んだ力など培われた修練の前には儚い物じゃからのう、お前も強くなりたきゃ毎日腕立て!剣の素振り!これを欠かさぬことじゃ、小細工だのなんだのに頼ってもどっかで崩れるからのう』


(まぁ…そうだよな)


ロアはメチャクチャな事ばかり言うが強さに関しては非常に真摯だ、超常的な知識を持つのに毎日の走り込みと素振りに勝るも無しと汗臭い努力は否定しない。寧ろ俺が下手に新しいトレーニングとかを取り入れると『それはただ疲れて努力した感を得ているだけで、お前自身の糧にはなってないぞ』と諌める始末。


まぁ…だからそう言う点で信頼出来るってのもあるんだが。


『じゃかそうじゃのう、一気に…そして劇的に強くなる方法が、ないわけでもない』


(え?マジ?なんだよもったいぶるなよ)


『それはエルドラド会談のような修羅場にもう一度突っ込む事』


(却下、流石に次やったら死ぬ)


もう二度と味わいたくないって言ってるだろうに、またあんな戦場みたいな場所に叩き込まれたら俺今度こそ死ぬよ…。


『聞きたいって言ったんじゃから最後まで聞かんかいボケ!いいか?人間強くなるには死に物狂いで戦うのが一番じゃ!ワシがもしお前の師匠なら今から魔女大国に喧嘩売ってこいと言うくらいじゃ!…事実、お前エルドラド会談でメチャクチャ強くなれたじゃろ』


(まぁ……でもそう簡単に修羅場なんて転がってるかよ)


『さぁのう、レギナに聞いてみたらどうじゃ』


(は?なんで…まぁいいや)


何故レギナに聞けと言うのかは分からないが、一応聞いてみるか…そう思いクッキーを紅茶に浸して食べているレギナに目を向け。


「なぁレギナ、なんかこう…実戦形式で戦えそうな、大規模な戦いとかってあるかな、この辺に」


「え…あったら軍派遣してると思うんですけど」


「ま、まぁそうなんだけど」


「あ、でも…あれがありますよ、戦いになるかは分かりませんが大規模なイベントなら」


「え?なんだよ」


「サイディリアルの冒険者協会本部で今度『大冒険祭』をやるんですよ」


「あー…もうそんな時期か…」


大冒険祭…別名冒険者の祭典。全冒険者の憧れ、いつか大冒険祭で最優秀賞を取って全国の冒険者に『俺こそが最強だ!』と名乗りを上げるのが…冒険者になった人間全ての夢なんだ。


勿論若かりし頃のステュクスさんも憧れましたさ、なんなら出場しようともしたさ、けどすぐに思い知った。ここは俺が来るべき場所じゃないってな。


大冒険祭は通常一組十人で参加する事になる。十人に満たなきゃそもそも参加も出来ない、だから大冒険祭中に臨時でパーティを組むことがあるが…問題なのは、『冒険者なら誰でも参加出来る点』にある。


そうだ、つまり大型のチームやクランが人員を十人に分けて複数の組を作って参加することもできる。デカいクランになると平気で二百人三百人が在籍する、それが十人一組に分かれても二十組三十組出来る。そいつらが大冒険祭中にそれぞれ協力して動くんだ…。


臨時でパーティを作っても軍隊のように動く複数の組には太刀打ち出来ない。そう…大冒険祭は冒険者の実力を競う場ではなく『組織力』が物を言う場なんだ。


そこに新米冒険者が飛び込んでも何にも出来ない。事実いつも超大型クラン同士が戦争同然でぶつかって勝敗を決めている。だから…俺みたいなのが来る場所じゃないって思い知ったのさ。


「ステュクスもまだ冒険者の資格は持ってますよね」


「どうだったかな、でも参加しようと思えば多分参加できると思う。冒険者免許の再取得は簡単だし」


「なら参加してみればいいんじゃないですか?ステュクスの言う大規模な戦いにもなると思いますし」


「うーん」


ロアが言いたかったのはこれか?本当になんでも知ってるな。にしても大冒険祭に参加かぁ。


どーせ、優勝するのはいつも通り大型クラン。現冒険者協会最強の男ストゥルティ・フールマン率いる現行最強のクラン『リーベルタース』は二連覇を果たしており、今年もまた優勝を狙ってくるだろう。


ライバルになり得るのは最近急激に勢力を伸ばしている『北辰烈技會』。元々大型クランとして名を馳せていたいくつかのクランを飲み込み吸収する形で生まれた超大型クラン。リーダーは…誰だったか忘れたけど噂じゃストゥルティとタイマン張れる強さだとは聞いている。


上二つには劣るが元最強のクラン『赤龍之顎』もやばい、なんせかつて大冒険王と呼ばれたガンダーマンの率いたクランなんだからな、ネームバリューもバッチリさ。ただまぁ最近じゃリーベルタースに押され気味、業界二位の座も北辰烈技會に取られていいとこなしだが…それでも強い事に変わりはない。


恐らくこの三つの独壇場、俺が行っても特に活躍なんて…。


(いや、活躍する必要はないのか?ただ戦いを求めて参加すれば…ってなんかやだな、姉貴みたい)


「どうですか?参加してみません?面白そうですし」


「いやいや、そもそも俺がそう簡単に抜けられるかよ。俺近衛騎士だぜ?」


「じゃあ王政府代表としていきましょう」


「余計行きづらいわ」


まぁでも、大冒険祭はいい機会になるかもしれないな…一応覚えておこう、参加するかは置いておいてね…。


「ステュクス!」


「ん?」


ふと、俺を呼ぶ声がする。何事かねと視線を横に移してみれば…そこには息を切らしてこちらに走ってくる俺の相棒カリナが居た。彼女は俺の側で立ち止まると膝に手をついて息を整えて…。


「どうした?カリナ」


「そ、それが…今ステュクスを出せって言う奴が来てさ」


「俺?なんで俺?」


「私に聞かないでよ、あんたまたどっかで恨み買ったの?エリスさんの時にみたいに」


「いやあれはほとんど貰い事故みたいなもんだし…」


しかし俺を訪ねてくる人間のアテなんてないぞ?いやレッドグローブさん?いやぁ…あの人は俺を出せって騒ぐような人ではない、となると…うーん。アテがない。


『ステュクスは何処だーっ!』


「やばっ!?アイツ我慢出来なくて突っ込んで来ちゃった!」


「おいおい大問題だぞ!レナトゥスにバレたら頭吹っ飛ぶくらい怒られる!」


「ステュクス!なんとかしてください!」


「俺ぇ!?」


すると遠くから俺を呼ぶ声と、そして声の主が出しているであろう足音が一直線にこちらに向けてすっ飛んでくるのを感じる。何事かは分からない、だが俺を訪ねて来てるなら…俺が応対するべきなのか!?


「ここか!」


「いっ!あんた誰!?」


そして、そいつはピョーンと飛び跳ね中庭のど真ん中に降りてくると…その真っ赤な髪を揺らして、快活な印象を受ける緋色の瞳をクリクリと輝かせ、俺よりも大きな図体を持ち上げて…俺を見る。


……知らない奴だ、知らない女だ、こんな奴俺は知らない、だが分かる…十中八九…。


「あんただな!アタシはルビー!よろしくな!」


「何処をどうよろしくすれば!?」


…面倒ごとだ…!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! 迫る次の魔蝕。王都でも不穏な動きがちらほら...ステュクス側も大変ですねー。 [気になる点] デティって「できる」のか…?身体的に不安過ぎるけどそんなに時間も残されてな…
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