578.魔女の弟子と急転直下の大混戦
「ふぅ〜、食った食った〜」
「久しぶりに食うアマルトの飯はやはり格別だな」
「ンッフッフッフッ、毎度あり」
チクシュルーブを発った翌日。朝食を食べ終わった魔女の弟子達はダイニングにて満腹のお腹を撫でながら満足そうに笑う。
今は南部の古都ウルサマヨリを目指す道中にある、距離的にまだまだこれからと言ったところだが、地下から解放されたエリス達にとっては非常に充実した日々とも言えるだろう。
「にしても古都ウルサマヨリかぁ…どんなところなんだろうな」
「ん…南部の魔術理学院には行ったけど、あんな感じかな」
「さぁ、デティさんに聞いてみますか?」
そうラグナ、ネレイド、ナリアの三人はこれから向かう街に思いを馳せる。これから自分達が行くウルサマヨリがどんな場所なのか、知っているのは恐らくデティだけなのだが…。
「おーい、デティ〜?」
「……………」
「デティー!」
「あっ!?何!?朝ご飯!?」
「それはもう食ったろ…」
昨日からこの調子だ、ボーッと何かを気にするような。そんな感じで心ここに在らずと言った様子。話しかけても適当な相槌しか打たないしいつも以上にホゲーっとしてる。
「どうしたの?デティ…ボーッとしてる…」
「い、いやそんなことはないよネレイドさん、私はいつもこんな感じだよ?」
「そっか、そうだね」
「いやそこは否定して欲しかったていうか…。とにかくなんでもないから!あ!アマルト!お皿片付け手伝うね!」
「え?あ!おい!」
すると何かを誤魔化すように急いで朝食の皿を机から集め重ねて洗い場へ持って行こうとするデティ、しかしつるりと足が滑り…。
「うぎゃァーッ!!!」
「だあーっ!皿割るんじゃねぇーッ!」
「ごめーん!すぐ破片集めるね!」
「デティ様!危ないです!」
「大丈夫大丈…痛ーい!指切ったー!」
「箒と塵取り持って来ました!これを!」
「ひーん…ごめんなさい…」
すっ転んで皿を割り、そのまま破片を集めようとして指を切り。見事におっちょこちょいコンボを決めるデティにエリスは箒とちりとりを持って来てデティと一緒に破片の片付けに移行する。
こういう時は絆創膏とか必要かもだけど…まぁデティは自分で治せるしな。それより…。
「どうしたんですかデティ…らしくないですよ」
「うぅ、本当になんでもないんだってば…」
「嘘ついてますよね、エリスしつこいですよ。何があったんですか?」
「ぅー…ただ、トラヴィス卿の所に行くのが…ちょっと、初めてで。緊張してて」
「緊張?」
「私のお父様の師匠で、私にとっても大恩人で、凄く凄く…すごーく気を使う相手なの。もし暫くウルサマヨリに滞在することになると…私、神経すり減りしちゃう」
うーん、嘘をついてる感じはしないな。思えばデティはトラヴィス卿の前では常に導皇モードで神経を張り詰めさせていた。多分…かなり気を使う相手なんだろう。
だからここまで…。
「別に気にする必要はないのでは?優しそうな人ですし…」
「エリスちゃんは知らないんだよ…あの人きちんと厳しいよ…?」
「そうなんですか?」
「自他共に厳しい人、優しいには優しいけど…不甲斐ないところを見せたらなんて言われるかぁ〜…」
あわわと頭を抱えてしまう。そういうこともあるのか…まぁデティ的には恐らく魔女以外で唯一目上の魔術師ということにもなるんだろうし、緊張もするか。
「だははっ!まぁいいんじゃねぇの?弛んでるところがあったら隠さず指摘して貰えばいいじゃん」
「アマルト!言っとくけどね!みんなも一緒だからね!絶対トラヴィス卿の前でだらしないところ見せないでよ!」
「俺は大丈夫、そういうマナーは叩き込まれてまーす」
「私だって叩き込まれてらい!つーかそれなら普段からきちんとしろや!」
「それよりお前は割った皿片付けろ」
「ひゃい…」
そう言ってデティは塵取りに集めた皿をしげしげと袋に移し替えていく。ここまで手伝えば十分かな…。
「さて、それじゃあ朝ごはんも食べたことですし、エリスはそろそろ行きますね」
「へ?行くって何処に?」
「いえ、実は今日帝国に行こうかと思ってまして…、これを届けに」
「これ?」
そう言ってエリスが取り出したのは、ペンダントだ…。
「それはオウマの…」
「はい、彼の形見です」
オウマが死の寸前にエリスに投げ渡したペンダント。それはオウマ達特記組最強世代の友情の証だ。それをオウマはエリスに向けて投げ渡した…その意味がエリスには理解出来る。
きっと、持って行って欲しかったんだ…帝国に、故郷に。生涯戻ることが叶わなかった、戻ることを望まなかった彼の故郷、せめて死した後にこの友情だけでも持っていきたかったんだろう。
エリスが帝国と繋がっていることを知っているオウマと、オウマの友への想いを唯一知るエリス。この関係があったからこそオウマは最後にエリスにこれを投げ渡した。彼は敵だったけど…死んだ後に敵も味方もあるまいよ。
「なのでメグさんには帝国行きの時界門を用意して欲しいのですが…」
「あ、それなら私も同行します。私もこいつを帝国に連れて行きたいので」
「これ?」
するとエリスと同じように懐からメグさんも何かを取り出す。それは…写真?アマルトさんの写真だ。
「あれ?それアマルトさんの写真ですよね。エリスが処分頼んでおいた」
「おい!勝手に俺の写真処分すんな!」
「おんなじ写真何枚も撮らないていいでしょ!同じ場所の写真だけで十枚もある!しかも全部ポーズ同じ!寸分違わない!嵩張る!」
「いーじゃん!写真に対する理解が浅いんだから!」
「浅いも何もまだ世間に発表されてない技術でしょ!」
「うるせー!処分すんなよメグ!」
「はい、なので保管しておきました…ですが同時にこいつを収容するのに使わせてもらいましたよ」
そう言って写真を見せつけるメグさん、そこにはアマルトさん以外の誰かがいて…ってぇ!?
「アナスタシア!?」
『はぁ〜…オウマ団長が死ぬなんて〜…』
「喋った!生きてる…」
「アナスタシアと戦った際、私の魔力覚醒を使って中に閉じ込めたんです」
「え?出れるんですか?」
「私が許可しない限りは無理ですね」
「えぐ…」
とんでもない話だな、覚醒で閉じ込めたってあれですよね…二次元の世界に移動するやつですよね。それ使ってアナスタシアを写真の世界に…?やばいですよねそれ。次元を超える力は今現在メグさんの覚醒でしか確認されていない。
つまり上手くいけば魔女様さえ封印してしまえるという事だ、もしかしたらシリウスも…いやアイツは分からないな、平気で次元とか超えてきそうだ。
「よく見たら食糧が写真の中に入ってますね」
「餌です、ちゃんと食べてるようで何より」
『ひぃーん…逢魔ヶ時旅団はどうなっちまったんだぁ…』
「というわけでこいつも移送ついでにエリス様を帝国に送りますね」
「いいのかよ勝手に帰って」
「その為の申請を昨日送ってたんです。そしたらそういう理由ならいいよってカノープス様が」
「まぁ…オウマも元は帝国の人間だし、カノープス様も何か思うところがあるんだろう」
「そういうわけです。ラグナ達も一緒に行きますか?」
「いやいいよ、俺たちが行っても用事ないし」
「そうですか…わかりました。じゃ!帝国に行って来ますね、多分夕方ごろには帰ると思いますので」
「はーい、気をつけてー…って、気をつけるようなこともないだろうけど」
やることといえば帝国に行ってオウマのペンダントを持って行くだけ、時間も取らないし何かをするわけでもない。時間がかかったとしても半日程度だろう。
故にエリスのメグさんは二人で帝国に向かうこととした。一応これが…オウマに勝った者としての責任だろう。
「では参りますよエリス様、『時界門』」
「はい、ではみんな行って来ます」
「うーい」
そうしてエリスは軽く手を上げ、メグさんと二人で帝国行きの時界門の中へと入るのだった。
……………………………………………………
「おっと、ここは…」
「マルミドワズでございます、まずは今回の一件を許可してくださった陛下にご挨拶しなくては」
フッと視界が変わり先程まで見ていた簡素な板作りの壁から、丁寧に装飾が施された大理石の壁に視界が切り替わる。周りを見回せば直ぐに場所を理解した、ここはメグさんのいうように世界最高の街マルミドワズ…その中心である大帝宮殿だ。
ここはマルミドワズの廊下、謁見の間の前。後ろにある窓を見ればそこには雲と鳥を見下ろす一面の青世界が広がっている。こうしてマルミドワズに来るのは久しぶりか?いや旅立ちの前に一度来たのか。
「では行きますよエリス様、襟を正してください。あ…口元に食べかすが」
「え!?直さないと」
流石にカノープス様に会うのだから失礼な格好ではいけない。あの人…マナーには凄くうるさい、というか…その辺きっちりしてるんだ。親しくなってもそれはそれとして平民と皇帝の立場の差は守れ…というスタンスであるカノープス様の前にだらしない格好で行けば、まぁ…ちくちく来る小言は言われるはずだ。
「OKです」
「はい、では…失礼致します陛下、メグ・ジャバウォックと孤独の魔女の弟子エリス両名、先日のお伺い通りに参りました」
『ああ、入れ』
扉の前で挨拶すれば、威厳ある声が響く。カノープス様の声だ…うう、今になって緊張して来た。けどもう始まってしまった物は仕方ない、気合い入れるか。
そうしてエリス達は扉を開けて中に入れば、そこにはカノープス様一人で玉座に座っていた。
「うむ、健勝なようで何よりだ」
「あ…カノープス様、お久しぶりです」
「はぁ…全く、エリス。お前は都度都度魔女大国に帰って来おって…この間も帰還を許可したばかりだというのに」
「すみませぇん…」
うう、きっちりしててもお小言言われた…まぁ実際使命を達成するまで魔女大国に帰って来ては行けないと言われてるのに都度都度帰って来てるのは事実だしね。しかも実は…近々もう一度魔女大国に帰らねばならない要件が後一つあるので、なんというか…申し訳ない。
「申し訳ありません陛下」
「よい、それを込み合いで許可したのは我だ。で?例のペンダントは?」
「あ、こちらです」
そしてカノープス様は早速と言った様子でペンダントの件を聞く。それに答えエリスはオウマの汚れたペンダントを取り出すと。
「あれ?」
今さっき取り出して手の中にあったはずのペンダントがフッと消える。あれ?何処行った…。
「ふむこれか」
と思ったらいつの間にかカノープス様の手の中に移動していた…時間を止めて回収したのか。相変わらず凄まじいというか…その辺の迷惑考えない人だな。
「これは、例のオウマ・フライングダッチマンが所有していたというペンダントで間違い無いな?」
「え?あ、はい」
「…確かに帝国産の金属で帝国の技術を用いて作られたペンダントだ。フリードリヒ将軍が身につけていたものによく似ている…間違い無いか。そしてお前達が八大同盟の一角逢魔ヶ時旅団を討伐したというのも間違いないようだ」
「はい、倒しました」
「凄まじいことをやって退ける物よ、あれは魔女大国でも手を焼く輩。それをこうも短期間に二つも落とすとは」
カノープス様は手の中でペンダントを踊らせ、そのまま魔力で浮かび上がらせ…よくよく観察するように目を細める。
「にしても、オウマ・フライングダッチマンか…彼奴には期待していたのだがな」
「そうなんですか?というか覚えてるんですね」
「帝国の人間が皆我が子。我が子の名を覚えぬ親はいない、オウマの事も…そのように扱ったつもりだったのだがな」
とは言うが、オウマは自分やリーシャさんの扱いに不満を持ち、そこから魔女の存在への疑念に繋がり八大同盟入りを果たした男だ、それほど思われていたのなら…何故彼はそんな、帝国に疑問を持つようなことに。
「カノープス様、聞いてください」
「なんだ」
「オウマはカノープス様に疑問を持ち、帝国を抜けました。オウマは自分の扱いに不満を持ち、魔女排斥組織と前線で戦わず闇雲に兵士を傷つける貴方の姿勢に疑問を持ったんです」
「ちょっ!エリス様!」
「リーシャさんの件もそうです、アルカナの時は仕方なかったとはいえ…もう少し周囲に説明をしていれば、心の内を話していればこんなことにはならなかったんじゃないんですか」
「…ほう、貴様。逢魔ヶ時旅団の一件やオウマ離反の原因が我にあると言いたいのか?」
「はい」
凄まじい威圧が飛んでくるが、威圧されて黙るつもりはない。オウマに同情するつもりも彼に理解を示すつもりもない。だが実際そう思っている兵士は沢山いるだろうしそれが第二のオウマを生まないとも限らない。ならばこそ、その真意を糺す意味合いはあるのではないだろうか。
カノープス様は険しい顔で数秒エリスを見遣ると…直ぐに力を抜き。
「ああそうだな、我に責任がある」
そう言って目を伏せ、目の前からペンダントが消え再びエリスの手の中にオウマのペンダントが戻る。
「だがいつ到来するか分からぬシリウスの脅威に対抗するには、我自身が切り札として待機する必要があった。故に簡単に動くわけにはいかなかったのだ…そのせいで、多くの兵士を死なせたのも事実」
「それは…分かります」
「お前の言うようにオウマや他の兵士達にもっと早く説明していればよかったな。我は何処かで我等魔女の問題と今を生きる者達を切り分けて考えていたのやもしれん。そこに疑心が芽生えたのなら…我はオウマを口汚く罵る事は出来んな」
それは分かっている、理解しているんだ。カノープス様は何も使い捨ての駒として兵士を使っているわけではない、自らに代わり世界を守れる者たちとして帝国軍を信頼していると。リーシャさんの件も戦えなくなった彼女を除隊するのではなく道を示しただけなのだと言うことも理解している。
ただ、塔の上から俯瞰する物の視界を、地に這いつくばる者が理解出来ないように。一介の兵士でしかなかったオウマにカノープス様の視座は理解出来なかったし、する必要もなかった。だからすれ違いが生まれたのかもしれない。
「……オウマが我等に対して決定的に牙を剥き始めたのは、リーシャ・セイレーンの負傷と自らの極方転勤がきっかけだ」
「極方転勤?」
「我はオウマに天番島の守護を命じた。アン・アンピプテラ師団長の下に行けと命じたのだ」
ああ、天番島か…あそこは完全に僻地だ、左遷と捉えてもおかしくないな…。
「我はオウマに期待していた、だが奴は些か出世欲が強すぎた。俗的な言い方をすれば異様にギラギラしていたのだ。我はそこに危うさを感じた…あのまま奴を最前線に配置すれば奴は無茶をして死にかねないとな」
「だから、戦線から離れた極方に?」
「あそこでフリードリヒのような呑気さを身につけてくれればと思った上に、天番島は我にとっても大切な場所…右腕たる人間にしか任せない、信頼と期待があってこそ、天番島の守護をオウマに命じたつもりだったが、裏目に出たようだ」
カノープス様は片目を開けペンダントを見る、この人は本当に色々考えてるんだな…まぁ、考えてることが裏目に出ることがままあるけど。なんて思ってるとメグさんに睨まれた。
「本来ならばオウマは我が止めるべきだったのだろうが…感謝するぞ、エリス。して…それがあると言う事は」
「はい、オウマは死にました。ただ…『自らの死に魔女を介在させない。自分の死は自分だけの物だ』と語って」
「一意専心…好ましいが、そうか…奴はそこまで」
天を見上げ、目を伏せる。敵とはなったが元を正せば帝国の民、それが自らの意思を貫き死した事実にカノープス様は何を思うのか。エリスにはやはり…慮る事は出来ない。
「出来ればこのままこれをフリードリヒさんに渡したいんですけど…」
「…分かった、そう言う事であるならば一時帝国に滞在することを許す。我が失態の尻拭い、感謝するぞ」
「いえいえ、それでは……」
『おや?エリスか?』
「へ?」
これからフリードリヒさんのところに行こうかと思っていたが、ふと…玉座の裏から聞こえた聞き馴染みのある声にエリスの体は固まる。あれ?この声って…。
「師匠!?」
「なんだ。お前も来ていたのか?何をしに来たんだ」
レグルス師匠だ、何処から持って来たのか分からないがリンゴをモリモリ食べながら師匠はカノープス様の隣に立つ。
師匠が帝国に居るなんて珍しい…と言うかなんでこんなところにいるんだろう。
「えっと、これを届けに来たんです」
「なんだこの小汚いペンダントは」
「オウマ・フライングダッチマンのです」
「誰だそれは、まぁ別に興味もないが」
相変わらずだなぁ師匠は、元気そうで何よりだ。
「ところで師匠は何故ここに?」
「ん?…まぁ、色々あってな」
「レグルスは数日前からここに滞在しているのだ、しかし我が理由を尋ねても答えてくれん」
「別にいいだろう、アイツも居るんだし」
「奴に関しては滞在を許可していない。が…まぁ、言っても聞かないのは昔からだ、もう諦めたよ」
「え?他に誰かいるんですか?」
まだ別に誰かいるのかと思ったその瞬間だった。
『いますよ私も』
「ひょっ!?」
いきなり冷たい手がエリスの首に触れ、まるで大きな音に驚いた猫のように飛び上がり師匠の背後に周り、手の正体を確かめる…するとそこにいたのは。
「アンタレス様!」
「久しぶりですねエリスいえ本当に久しぶりです貴方私の前に全く顔出さないんですから嫌われているかと思いましたよ割と本当に」
アンタレス様だ、薄暗い緑色の髪に丸眼鏡の奥に見えるギロリと鋭い人相の悪い目。そして髪の隙間から見えるバチバチのピアス、そしてこの捲し立てるような奇妙奇天烈な喋り方。アマルトさん同様柄の悪さと陰気さが奇妙にマッチした恐ろしさを持つお方…アンタレス様だ。
いやこっちは本当に珍しいな、あの地下室から出て剰え帝国に来てるなんて…。
「アンタレス様も帝国に来てたんですね」
「今夏ですよね」
「え?ええ…」
「だからです」
どう言うこと…?
「アンタレスがいる地下室は夏場になると湿気で地獄のような暑さになるのだ。魔力で暑さはある程度緩和できるが…にしたとしても煩わしいことに変わりはない、故に…」
「空調が完備されていて涼しげな帝国で読書を楽しもうかと思いましてここなら頼めば紅茶でもなんでも出てくるので」
「あ…そう言う事ですか」
そんな自宅が暑いから友達の家に遊びに来たみたいな…。本当に魔女様達って暇なんだなぁ…。
「それでは私は屋上で本読んでるので後でお茶とお菓子持って来てくださいねカノープス」
「お前は我をなんだと思ってるんだ。給仕に言え」
「じゃあ頼みましたよメグ」
「え…私、これから行くところがありまして…」
「えぇ…言うこと聞いてくれないと呪っちゃいますけどいいですか?」
「あまり我が弟子を困らせるな!」
『冗談です』と口にしながらアンタレス様は手をシュッシュッ!と動かし別れの挨拶をするなり何処かへと消えていく。なんだったんだあの人は。
「じゃあ師匠、行ってきますね」
「ああ、私はもう少しここに滞在する。ないとは思うが何か言うべきことがあればまたここに戻ってこい」
「はーい!」
ともあれ、今回の要件は魔女様達にはない。早速フリードリヒさんに渡すべくエリス達は大帝宮殿の廊下に出てフリードリヒさんを探す。彼は将軍だから軍部にいる…とかではなく、きっと……。
………………………………………………
「いた」
「はぁ、嘆かわしい…」
見つけた、軍部ではなく。大帝宮殿の中庭…その目につかないところでタバコを吸っていた。フリードリヒさんはエリス達を見るなりギョッとしてタバコを消して…。
「あ、あれ?エリスさんにメグじゃんよ、どうしたん?珍しいなぁ」
「フリードリヒ将軍…お仕事はどうされたので?」
「え?いや?休憩時間だけど?」
「私が聞いている話では休憩時間はまだのようですが」
「まだ朝ですけど…」
「た…ははは、すまん…内緒にしといてくれ」
つまりサボりか、この人は将軍になっても変わらないな…。まぁエリスは帝国の人間ではないので別に何にも言いませんよ。
「はぁ、実はフリードリヒさんにお届け物が」
「お届け物?何?」
「これです」
「これ?……ッ!それは」
すると先程まで呑気な顔をしていたフリードリヒさんが、ペンダントを見るなり顔色を変えてエリスの手を取りペンダントを確認する。そしてワナワナ震える目でこちらを見て…そうか、なんとなく理解したか。
「はい、オウマ・フライングダッチマンの物です」
「オウマの!?アイツは今何処に!」
「死にました、エリス達との戦いに敗れた彼は…自ら命を絶ちました」
「…………」
フリードリヒさんの瞳孔がギッと開き、全てを察したようだ。そのまま彼はスルリとエリスから手を離し…その場に脱力する様に座り込んでしまう。
「そうか…死んだか。…アイツ、今逢魔ヶ時旅団って魔女排斥組織率いてたんだったな」
「はい、逢魔ヶ時旅団とエリス達は戦い、そして勝利しました…そしてオウマは…」
「馬鹿野郎が…!どこまで馬鹿なら気が済むんだあの馬鹿は!なんでもかんでも生き死にを絡めすぎなんだよ!本当に…親友として、情けないぜ…!」
拳を地面に叩きつけ、やるせないとばかりに吠える。本当にオウマは馬鹿ですよ、こんな友達を置いて故郷に帰らず、そのまま自分の命を絶つなんて。信じられないくらい大馬鹿野郎です。
「……ッ!でもなんでそのペンダントが」
「死の寸前、オウマはエリスに向けてこのペンダントを投げ渡したんです。きっと…爆発で壊してしまうのが嫌だったから」
「…俺はてっきり、もう捨てるか壊してると思ってた。アイツはすぐになんでも壊しちまうから、こんな小物なんて好かないだろうし…何より、身に付けてるところも、見たことがなかったから。
「彼は何もかもを捨てました、けどこれだけは…捨てられなかったんでしょう」
「………なら、帰ってこいよ…。帰ってきて一言謝ってくれれば、俺もトルデもジルビアも…みんなお前の事守るつもりでいたってのによ」
「…………」
フリードリヒさんは悲しそうに俯きながら姿勢を崩し、大きくやるせないため息を吐く。フリードリヒさん達もなんだかんだ言いながらもオウマの事をまだ親友だと思ってたんだ。思っていたからこそ、オウマの名を口にするのを憚ったんだ。
けどね、フリードリヒさん。
「フリードリヒさん、オウマはね。エリスと邂逅するなり二人きりになって…『フリードリヒは元気か』って聞いてきたんです」
「オウマが…?」
「はい、そしてリーシャさんに関する恩を返すって言って、エリスに色々な情報をくれました。彼はまだみんなの事を友達だと思っていたみたいです」
「………そうかよ」
これはエリスの仲間にも言ってない話だ、事実隣で聞いてるメグさんも『マジで?』って顔をしてる、エリスはこれを誰にも言うつもりがなかった。彼は終ぞエリスとの関係を誰にも言わなかった、だからエリスも言うつもりはない。
けどフリードリヒさんは別だ、彼に対して言わずして…一体誰がオウマの胸中を届けられる。当の本人が死んでしまったのだから。
「アイツはまだ俺達を友達だと思っていた…その何よりの証拠が、これか…好き勝手やって、好き勝手死にやがって…」
「エリスは、オウマと敵対していましたが…それでもこれは届けるべきだと思って、帝国に来たんです」
「そうか、サンキューな。…オウマは最後になんて?」
「『俺の死は俺だけの物だ』って…魔女の勢力との戦いで死ぬのを嫌い、自害を選んだんです。それが自爆だったので…遺体は残ってませんが」
「そうか、出来れば帝国の墓に入れてやりたかったが…。俺の死は俺だけの物か…アイツもしかして、ずっと気にしてたのかな」
「え?何がですか?」
ふと、フリードリヒさんは何か思い当たる節があるような口振りでエリスから視線を外し。
「いや…アイツん家って親父が元士官学校生だったんだよ。けど成績が良くなくて軍人になれなくてさ…ただ人一倍愛国心が強くて、それで息子のオウマに色々言ったみたいなんだ」
「例えば…?」
「『皇帝の為に死ぬのが、愛国者の務め』…とかな。昔酒に酔った時にポロッと言ってたよ…殆ど自分の事言わないオウマが静々と語るもんだから妙に記憶に残っててな」
「なるほど…、愛国者の務めですか。じゃあオウマは…」
「それに反発したのかもな、ったく…ガキくさいに程がある。けど…アイツらしい、最後まで自分を貫いて死んだ…なんてな」
するとフリードリヒさんは立ち上がり、大きくため息を吐き肩を落とし…。
「軍人だから覚悟はしてたけど、まさかダチが二人も死ぬなんてな…ショックだよ」
「フリードリヒさん…」
「………悪い、エリスさん…それにメグ、付き合ってくれるか?」
「へ?なんですか?」
「そのペンダント、出来ればリーシャの墓前に備えてやりたい。アイツら仲よかったしさ、一緒にしてやればきっとあの世でも会えるんじゃないかな」
「なるほど…」
そうか、あの墓前に…それはいいかもしれない。フリードリヒさんには教えてないけど、オウマはリーシャさんに惚れていたらしいし、そうしてあげたほうがいい気がする。
「しかしここからリーシャ様の故郷の墓地となるとやや距離がありますね」
「うん、だから、メグ、お願い」
「…別にいいですけど人の事足みたいに使わないでください」
「エリスさんの事もお前が連れてきたんだろ?」
「友達は別です」
ニュッと不機嫌そうな顔を浮かべるメグさんを一応宥めつつ、エリス達はリーシャさんの墓地へと向かうことにした。
オウマもこれで多少は浮かばれるだろう。
……………………………………………………………
リーシャさんの故郷はマルミドワズから少し離れた区画の村だ、一面に広がる麦畑の中ポツンと打ち立てられた牧歌的な村、そこにリーシャさんのお墓がある、帝国を旅立ちオライオンに向かう時以来だ、ここに来るのは。
だからエリスは久しく会うリーシャさんを前にやや緊張していたのだが……。
「は……?」
「え?…」
墓地に向かい、目にした光景を前にエリスとフリードリヒさん、そしてメグさんは固まることとなる。そこにはリーシャさんの墓地がある…墓地があるのだが。
問題はそこではない、問題は墓地の状態…。
「誰だ!こんな事しやがったクソ野郎はッ!!」
怒るフリードリヒさんはリーシャさんの墓地を見て顔を歪める。そこにあったリーシャさんの墓地は。
掘り返され、荒らされていたのだ。
「エリス様…リーシャ様の棺桶がなくなっています…!」
「なんで…、一体誰が何のためにそんな事を…」
「分かりません、ですがどうやら…リーシャ様のみを的確に狙った犯行のようで」
穴の中を見ると、棺桶がなくなっていた。同時に周りの墓地は荒らされておらずリーシャさんだけが連れ攫われていたのだ。これは間違いなく…意図的な、リーシャさんだけを狙った犯行。
「何処のどいつだ…!」
「分かりません、墓荒らしかとも思いましたがリーシャ様は火葬され棺桶の中には骨しか入っていません。そんな物持ち出したとして一体何になるのか…」
「ッ………」
エリスは荒らされた墓を見て…とても悲しい気持ちになる。リーシャさんはここでゆっくり休んでいただけなのに、何処かの誰かがリーシャさんを連れて行ってしまうなんて…。
許せないと静かな怒りが沸き立つと同時に…。
(なんなんだ、これ…)
とても不気味な何かを感じる、この事件の隙間から垣間見える何か異様な意志…その不気味さに冷や汗をかく。エリスの直感が言っている、これは…ただの事件じゃない、何かとても重要なことの始まりで…これはその一端。
「ともかく今すぐマルミドワズに戻って捜索だ!許せねぇ…俺の友達の墓を荒らしやがったクソ野郎!絶対見つけ出してぶっ殺してやる!」
「はい、エリス達も戻りましょうメグさん」
「畏まりました、冥土大隊も動員して─────」
そう、エリス達が移動しようときたその時だった。
大地を揺らす鳴動が駆け巡る、耳を裂く爆音が響き渡る、異常事態を告げる警鐘が脳内で響き渡る。
「爆発音!?」
「マルミドワズからだ!」
「え…!?」
咄嗟に爆発音のした方を見ると…そこには、一角が爆発して炎上しているマルミドワズの姿がここからでも確認出来た。事故が起きた?いいや違う…爆発した区画の周りを何かが飛んでいる。
つまり…。
「マルミドワズが襲撃されてるッ!?」
それは突如として訪れた襲撃、帝国首都マルミドワズに訪れた…最悪の強襲であった。アルカナも転移魔力機構を使ったんだ…なのに空から直接マルミドワズを攻めるなんて、何なんだあれ!
「エリス様ッ!」
「はいっ!今すぐマルミドワズに…大帝宮殿へ向かいましょう!」
敵に襲撃された箇所は大帝宮殿…つまり師匠がいる場所だ、師匠の事なら大丈夫だとは思うが、それでも…弟子として見てられない!
エリス達もあの襲撃を迎え撃つんだとメグさんとフリードリヒさんを連れてエリス達は即座に大帝宮殿へと戻るのであった……。
………………………………………………………
「んんん〜〜〜〜!お久しぶりどぅえ〜〜〜す!愛しきマルミドワズ!!時間にして五百年ぶりくらいですねぇーっ!帰りたかったわけじゃないですが私が今帰りましたよ〜!」
大帝宮殿を囲むように飛び交うのは一つ目の不気味なドラゴン達だ、それが統率をとるように大帝宮殿を囲み…その上に無数の人間を乗せマルミドワズに襲撃をかける。
その中で一際巨大な三つ目のドラゴンに乗る黒衣の女はゲタゲタとはしゃぐ、そう…彼女こそは。
「久しぶりですねぇカノープス。ガオケレナ・フィロソフィアがピクニックがてら…ぶっ潰しにきましたよ」
ガオケレナ・フィロソフィア…マレウス・マレフィカルムを創立し以降五百年間生き続けている総帥にして不死身の怪物。それが直接帝国に対して襲撃をかけたのだ。
かつて、帝国に所属していた過去を持つガオケレナにとってこれは五百年ぶりの里帰り。カノープスに反旗を翻し直接対決の後敗北、そして逃げ延び今日まで戦力を蓄え続けた彼女は今日ようやく復讐へとやってきたのだ。
「今日は頼りになる味方をたくさん連れてきましたよ、ねぇ?ホド」
「はいガオケレナ様、マレフィカルムに所属する魔女排斥組織の中でも上位の強さを持つ組織が凡そ五百…何より今回はあの『暴君』も参加していますし、それに」
「セフィラも五名、参加してます」
ガオケレナの背後に立つのは五人の男女達。全員がセフィロトの大樹の幹部『セフィラ』達。
「いやぁここが帝国ですかぁ、壮観ですねぇ。私お上りさんってバレませんかね」
奇妙な仮面をつけた白髪の者、男にも女にも見える不気味な姿を持つのは『王冠』のケテル。
「ふむ、やはり帝国は一筋縄ではいかなさそうだ…これは久しぶりに動けそうでワクワクしているなぁ」
紳士服を着て髭を撫でる壮年の男性、彼の名は『知恵』のコクマー。
「ンッフッフッフッ、いやいや久しい実戦で血が高鳴って、はしたない笑みが…」
ニィッと笑うのは藍髪と生花をくくりつけたドレスを揺らす奇妙な女、総帥の補佐官であり右腕『栄光』のホド。
そして…。
「バシレウス様、そろそろ到着ですよ」
「チッ、うるせぇ…」
純白の髪に赤い瞳、そして傷だらけのコートを羽織る凶悪そうな男…『王国』のマルクトことバシレウス。そしてその側で甲斐甲斐しくバシレウスの世話を焼く黒衣の女魔道士…現マレフィカルム最強の存在『知識』のダアト。
以上五名のセフィラが随伴する。マレフィカルム全組織が反旗を翻してもセフィラのみで迎撃が可能と言われている大戦力が帝国襲撃を共にする。
そしてそんなセフィラや総帥をサポートするのは逢魔ヶ時旅団の傘下や空魔ジズの残党、至上の喜劇マーレボルジェの傘下、他にも八大同盟に属する事なく生き残り続ける一匹狼の強者などの武闘派組織が揃い踏む。
また、新進気鋭の『新たなるグランエテイヤ』を率い『ラセツ』を超えてマレフィカルム五本指の四番目に名を連ねた『暴君』も参加している。
戦力としてかなりの物だ、魔女大国に攻め込んだ魔女排斥組織の襲撃として恐らく史上最大規模の物。何より…初めて総帥が戦線に立ち戦うのだ。
「ふぅ〜…ひっさしぶりの実戦、体鈍ってなきゃいいけど」
コキリコキリと音を立てて運動するガオケレナは笑みと共に大帝宮殿の中から感じる魔力を見て眉をひそめる。
(おや?魔女が三人いる。カノープスだけじゃない?こりゃあ参りましたね、一気に勝ち筋が無くなりましたよ)
大帝宮殿内から感じる大魔力は三つ、カノープスだけではなく他に魔女がいる。他の魔女の援軍は予測していたがまさか最初からいるなんてのは想定外だ。
魔女一人につきセフィラ三人で食い止められる計算だ、一方こちらには五人しかいない。残りの二人は将軍の足止めに使い、私が魔女を一人請け負うとしても魔女が一人フリーになる。もうこれで詰みに近い。
(まぁ別に、今回で大帝宮殿を陥して戦争を終わらせるつもりはありませんから別にいいですが、なーんか妙ですね。何処ぞの誰かがこの作戦を漏らしたか?だとしたら誰だ…)
今回の目的は大帝宮殿の陥落ではないにしても、事前に作戦が誰かにバラされた可能性がある以上捨ておけない。
「今回の目的はいっぱいありますけど、さてさてどれだけの目的を達成出来ますかね…まぁそれもこれも、貴方のためですよ?我が愛しき弟子よ」
「…………………」
「貴方は天才です、ですがまだ修羅場を潜った経験があまりに少ない。だからこうして用意してあげたんです」
今回の最たる目的はバシレウスの育成。バシレウスは天才だがまだ実戦経験が浅い、いや正確に言うなら『死ぬかもしれない戦い』の経験が浅い、それはバシレウスが生まれつき絶大な力を持つが故の弱点。
なので、一番ヤバそうな場所に突っ込んで一気に実力を爆発させる。バシレウスの吸収力は天下一品だ…上手くいけば魔女の技さえ物に出来るかもしれない、そうなれば…いつか私や魔女さえも超える可能性がある…いや、いつかと言わず。
ここで、超えるかもしれない。
「バシレウス…貴方に命じます、貴方はこの戦いで『四人の将軍のうちの誰かの首を持ってきなさい』…出来るなら、人類最強と名高いルードヴィヒの…分かりましたか?」
「別に構わねぇよ、誰だろうが殺してやる」
「うふふふふ…さぁて、楽しいダンスパーティーです。みんな張り切って踊りましょう…!」
瞳孔を見開き、ガオケレナは号令を翳す。世界最強の帝国の威光をこの一戦で崩し、陰りを及ぼす。こっちだって八大同盟を一つ崩されたんですし…魔女大国一つ、崩してもいいですよねぇ。
ねぇ?エリスさん。
…………………………………………………………
「………………」
一方…ガオケレナが襲撃をかけた同日、同刻、一人の男が気配を察して顔を上げる。
揺れた、地面が。何か腹の底に来るような衝撃が大地を駆け巡った。手を拘束する鎖がカラカラと揺れるのを見て、男は視線を檻の外へと向ける。
『なんだこの衝撃は!』
『まずい!襲撃か!この監獄には絶対に近寄らせるな!』
ここはマルミドワズに存在する第一級収容所。魔女大国に仇成した世界最悪の囚人達を捉えておく場所…プルトンディースに並ぶ厳重設備を持つこの監獄にも、襲撃の余波は届いていたのだ。
その騒ぎを聞きつけ、男の前の牢屋に入った影が蠢く。
「なになに?何の騒ぎ?お祭り?」
影は太陽の如き橙色の髪を揺らし檻を掴みニタリと笑いながら看守に尋ねる。
「お前達には関係ない!大人しくしていろ!」
「教えてくれるくらいいいじゃんか、ケチだなぁ…ここは退屈なんだ。娯楽なんてお話くらいしかないだろう?」
「喧しい!」
「ちぇ…」
しかし、囚人に教えることなどない、と言わんばかりに看守達は足早に立ち去ってしまう。あの慌てふためきようを見るにどうやら本当に何かあったようだと悟った女は嬉しそうに笑いながら。
「ねぇねぇどう思う?」
そう言って隣の檻に入った男に声をかけると…男は。
「うるさいなぁ、眠れないだろ…」
そう言ってナイトキャップを被ったまま起き上がり、すぐにまた退屈そうに横になってしまう。だが…ここにいる囚人全員が、襲撃を察知したのは事実だ。
女は直ぐに、目の前の男に…目を向ける。
「ねぇ、君はどう思う?」
「……………そうだな」
男は、椅子に腰をかけたまま手枷を持ち上げ…目の前の女、いやかつての同胞達の問いに応えるように、瞼を開ける。
恐らくこの襲撃はマレフィカルムによる物、今外では魔女と反魔女派が戦っていることだろう。このマルミドワズに襲撃をかけるなんて剛毅な真似を出来るだけの気概が今のマレフィカルムにあったのは驚きだが。
そうだな、少なくともこの状況と戦いを一言で言い表すなら…男はこう言うだろう。
「………革命の香りがする」
そう言って男は…否、元大いなるアルカナの大幹部…No.21 宇宙のタヴは外で巻き起こる革命の足音に笑みを浮かべ、同胞達に語る。
人は死ぬ、国は死ぬ、されど圧政ある限り…革命は死なない。
……………………第十六章 終