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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十六章 黄金の正義とメルクリウス
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563.魔女の弟子と開戦の気配


「と言うわけで〜、元に戻りましてメルクリウスの仲間のアマルト君でぇ〜す!」


「どうも皆さま、私はメルクリウス様のメイド…ってわけじゃないんですけど補佐をしているメグでございます」


「ネレイド…よろしくね」


「俺はラグナだ。メルク達を…仲間達を助けてくれてありがとうな」


「これがメグさん達の本当の仲間達…」


「これでーす」


そして、改めて姿を見せたのは性別や姿を元に戻した仲間たち…ラグナ達地上組だった。シャナ殿の案内で機関内部に隠された秘密拠点に身を隠してすぐに、現れた謎の存在ということもあり警戒したものの…どうやら徒労に終わったようだ。


「色々あったみたいだなメルクさん」


「まぁな、そっちも無事でいてくれた事…嬉しく思う」


「ああ」


互いの無事を確かめ合うようにラグナと握手を交わす。なんでもラグナ達は自身の素性を隠すためにアマルトの呪術によって性別ごと変えて理想街に忍び込んで各地を探っていたようなのだ。


流石と言わざるを得ない、私の心配なんて跳ね除けてくれるメンバーだとは思っていたが想像以上だ。


「なにさアマルトォ〜、あんた女の子の時のが可愛いじゃ〜ん!ずっと女の子で居れば〜?」


「うっせぇ、なんならお前も男にしてやろうか?ワンチャン身長伸びるかもだぜ」


「マジ!?後でやって…絶対ね」


「お、…おう。顔怖いよ…?泣いちゃいそう」



「メグさんもネレイドさんも無事そうで何よりです」


「ナリアもね…」


「こちらも色々目処が立ちましたのでそろそろ合流しようかと思いこうして参りました。長らくお待たせして申し訳ありません。不便はありませんでしたか?」


「大丈夫です、みんな一緒でしたから」


状況は逼迫しているが、仲間と再会出来たのは大きい。私があの時メグを逃したのは…メグさえ無事なら私達はいつでも合流出来る体。地上組の活動がひと段落したら迎えに来てくれると分かっていたから…私達はそこまで進んで地上への脱出経路を探してこなかったわけだしな。


しかもタイミング的にはかなり良いタイミングだ、こうして新しい拠点を得て…落ち着いたタイミングだからな。


「…………」


「ん?どうした、ルビー」


「い、いや。メルクさんって他にも仲間いたんすね」


「紹介しただろ」


「あ…うん、けどこうして目にするとなお実感するというか」


「そえか、なら実感してくれ。彼らが私の…無上の友だ、なににも代え難い…な」


「メルクさん、俺は彼女の説明をしてもらってない。紹介してもらえるか?」


「おっとすまん、彼女は…」


と、私がラグナにルビーの事を紹介しようとするとルビーは必要ないとばかりにズイッと前に出て…。


「私はルビー!この地下を牛耳るギャングのボス!ルビー・ゾディアックだ!」


「ギャング?メルクさんがギャングと手を組むとはまた…」


「言ったろ、色々あったと」


「メルクさんの友達かなんか知らんけど、私は私の目で信用出来るって見定めた奴しか信用しない。そして弱い奴は絶対に信用しない…分かったな!そこの赤毛!」


「そっか。それなら、信用してくれて大丈夫だと思う」


「う…すげぇ自信」


こうして並ぶとラグナとルビーの雰囲気はやはり似ている気がする。それは彼らの髪色とかリーダー気質とか…そういうレベルではなく、奥底に通うものが同じ、そんな気がする。


だがやはりというかなんというか、それでも格と言うものではラグナの方が遥か先を行くようだ。まぁまだルビーは子供だしな。


「はて…ゾディアックですか…」


「ん?メグ知ってんのか?ゾディアックって姓」


「ええ知ってますよ、かなり大物の姓です。まぁソニアや逢魔ヶ時旅団の一件には関係ないので今は掘り下げない方がいいかも知れませんが…そうですね、後で話を聞く必要はありそうです」


「ふーん、まぁどうでもいいけど」


何やらメグとアマルトが気になる話をしているが…今は置いておくとしよう。


「さて、色々話したいことがある。俺達も地上で色々調べて分かったこともある」


「私達もだ、しかも状況はかなり差し迫るものだ」


「そっか。なら早急に話を進めたいが…その前にいいか?」


「ん?なんだ?」


そういえばラグナは先程から何やら神妙な面持ちで…あ、まさか。


「エリスだ、彼女がここにいない理由を聞きたい」


エリスか……これは、ラブコメの気配がするぞ。


…………………………………………


『エリスは気絶している、実は一度ソニアに捕まってな。その際拷問を受け…意識を失ってしまったんだ。傷は治したがまだ意識が戻らない』


それを聞いた時、俺は肝が冷えた。エリスが拷問を受けた…つまり必要以上に、不必要に彼女が痛めつけられたと言うことだ。


エリスは自分の体に無頓着なところがある。自分が痛い思いして解決するなら別にそれでもいいと思ってしまうタイプの子だ。結果それで死にかけた場面も山のようにあるし、今回もそれと同じような形なのだろう。


俺はこの拠点の奥で毛布をかけられ安らかに眠るエリスを見て…、無事であったことをひとまず喜び、そのあと…また彼女を守れなかった無力感に苛まれる。


「エリス……」


「………………」


「気絶してから数時間だ、そろそろ目覚めてもいいかも知れないが…こう言ってはあれだが彼女の体はやや特殊すぎる。このまま暫く目覚めない可能性も大いにある」


「…そうだな」


俺は静かに眠るエリスの横に立ち、静かにしゃがみ…彼女の頬に触れる。肌はサラサラしてる…冷や汗をかいている気配も、熱が出ている気配もない。呼吸も落ち着いているし…大丈夫そうだが。


「問題ねぇよ」


「あ?」


すると、俺の隣に立ち腕を組み問題ないとか言いやがるのは…さっき紹介してもらったルビーとか言う奴だ。それで、この状況の何がどうか問題ないって言うんだよ…と言いたかったがそれよりも前にメルクさんに肩をボンっ!と叩かれ制止される。


「エリスさんは強えんだ、それは私が何よりも分かってる。拷問なんかか食らったってへっちゃらだよ」


「…エリスが強いのは知ってる、痛みに鈍感なのも知ってる」


「なら…」


「それでも、エリスの体は特殊なんだ…」


「え?」


確かにエリスは痛みに慣れているし、傷も今更って感じだろう。だから拷問で受けた傷よりも痛い目にあったこともあるし、ある意味平気という面では平気かも知れない…だがそれでもエリスは特殊なんだ。


「すまん、ルビー。説明してなかったかもしれないがエリスは一度あったことは絶対に忘れない子なんだ」


「記憶力がいいのか?」


「と言う段階を大幅に超えている。二十年前のこの時間に何をしていたか即答出来るレベルだ、本当に一度見た物感じた事は一生忘れない…忘れないと言うより、彼女は忘れることができないんだ」


「そうなのか?でもそれとなんの関係が…」


「今回あった拷問も、記憶の波によって薄れることがない」


「あ…!」


エリスは、今も幼い頃に受けた虐待の傷に苦しんでいる。こうして旅をして分かったがエリスは過去の記憶に苦しめられることもままある、夜中も冷や汗をかきながら一人起きてバレないように水浴びに行くこともままあった。


忘れないのは便利である反面、嫌なことも一生抱えて生きていかなくてはいけない。彼女の脳の片隅には永遠に今回の一件が残る…。


「エリスの中には、永遠に痛みが残るんだ。恐怖も…苦痛も…永遠に。絶対に消えないんだ…」


「マジか…じゃあ今も」


だからエリスは、本当は傷や痛みとは隔絶した世界で生きていかなくてはならないんだ。羽毛に満ちた箱の中で…ずっと眠って過ごすべき子なんだ。戦いの中で生きていい子じゃない、今も痛みや苦しみを抱えながらも強く立てているのは彼女の精神力が常軌を逸しているから。


拷問を受ける…なんて経験していい子じゃない…。なのに……。


「エリス…すまない」


せめて、代わってやりたかった。お前の苦しみを全て背負う為に俺は強くなったのに…まるでダメだ、ガウリイルにも負け…お前を今も戦線に立たせている。惚れた女一人守れず何がアルクカースの王だ…情けない。


「…………」


それでも俺は、まだ君を戦わせなければならない。君は強い、実力的な意味合いではなく流れを変える力を持つ子だ、だから今この悪い流れの中にあって必ず必要な人間。


だから…負けるなエリス、痛みや…苦痛に────。


「別に…ラグナが謝る必要はないですよ」


「え?…」


「悪くないんですから、何も…」


「エリス…!?」


パチリとエリスの目が開き、俺を見る視線が柔らかく…目元が緩み、微笑む。起きていたのか…いや、起きたのか。


「意識が戻ったか、エリス」


「メルクさんですよね、エリスを助けてくれたの…ありがとうございます。お陰で助かりました」


「いやいいんだ、だが…平気か?」


「傷は治りましたからね。へっちゃらです、それに…ラグナの声が聞こえたんで、寝てられないって」


「お、俺…?」


するとエリスは俺の手を握ったまま上半身を起こし…強く凛々しく瞳を尖らせて。


「貴方がここに来たってことは、物事が動くってことですよね。なら寝てられません、エリスも戦います」


「エリス…」


君は…どこまでも強いな、本当にどこまでも…強い。俺が守るとか…俺が背負うとか、そう言うことを言うまでもなく…だからこそ。


「ッ…」


「ちょっ!?ラグナ!?」


思わず抱きしめる、あまりにも彼女が愛おしくて。理性が利かず…抱き締めてしまう。エリス…君は強い、そんなお前が好きだ。誰かが与えた傷や苦痛がお前の中に残るのが許せない、純白で美しいお前を俺以外の人間の手垢で汚しくて欲しくない。


けど、今は……。


「ラグナ……」


「エリス、一緒に戦おう…君が必要だ」


「ええ、ラグナ…」


俺の腕に、頬を当てて安らかに微笑む彼女を見て…再び決意を固める。彼女が折れない限り…俺も、決して折れないと……。




「え?メルクさん、ラグナとエリスさんって…出来てる?」


「出来てそうで、出来てないようで、限りなく出来てそうな、出来てない…だ」


「なにそれ…」


「こっちが聞きたい」


エリスと抱き合い…互いの生を確かめながら、俺達は真の意味で…再会を果たしたのだった。


……………………………………………


「よし色々落ち着いたな、つーわけで聞くけどお前らなんか掴めたか?ちなみに俺らは掴めた」


「エリス達だって掴めましたよ、拷問までされたんですから」


「そこでマウント取られても反論しづらいわ」


そして、私達は八人揃って互いに分かった話を整理していく。


まず私達が掴んだ事。


『ヘリオステクタイトは既に大量に作られている。そしてその千倍近い大きさを持ったアルフェルグ・ヘリオステクタイトの存在』


『ヘリオステクタイトの材料が人間である事、そしてその一斉確保が六日後に迫っている事』


そしてエリスが拷問の最中ソニアから感じ取った…。


『ソニアは、この作戦に全てを賭けている事。成し遂げるのはもしかしたら我々の想像を超えている可能性があると言う事実』


…何故ソニアがそこまで悲壮な覚悟を秘めているかは、教えてくれなかった…まぁ、想像はつくがな。


対してラグナ達が持ってきたのは。


『ヘリオステクタイトを全国に売り捌き全ての国に配備し魔女大国の優位性を消し去る事』


『ヘリオステクタイトの発射にはレゾネイトコンデンサーが必要な事、そしてそれを使わずとも一発は使用可能な事』


『レゾネイトコンデンサーは雷を魔力に変換出来る機構で、六日後に雷雲が迫る事』


『レゾネイトコンデンサーの場所』


『ソニアはまずヘリオステクタイトを使いサイディリアルに撃ち込むつもりだという事』


だ…、よくもまぁ潜入しながらここまで調べ上げたものだと感心するよ。そしてここに…表と裏の情報が出揃った。総合して考えると。


「ソニアは六日後にアルフェルグ・ヘリオステクタイトを発射する為の材料である人間と発射エネルギーである落雷を得ようとしてると考えるのが一番『らしい』わけか」


「そんな感じですね、でもエリスの見立てではアルフェルグ・ヘリオステクタイトの威力は大陸全域が被害を被る程ですよ…あんな物をサイディリアルを落とす為だけに使うとは思えません」


「うぅーん…手段と目的が一致しないか…」


腕を組む、ソニアのやろうとしている事は分かったが…アルフェルグ・ヘリオステクタイトを発射する為の土台を整えながらも、一致しない。手初めてにサイディリアルを陥すというソニアの言葉と用いられる兵器の規模が一致していない。


どうにも噛み合わない状況…そこでふと、ネレイドが口を開くのは。


「…ねぇ、それはソニアの目的でしょう?オウマは?」


と…確かにこの目的はソニアの物。当然か計画の中にはオウマの意思も介在しているだろう。一人分の人格で物事を考えるからややこしくなり整合性が取れていないのか…。


「オウマ…確かにアルフェルグ・ヘリオステクタイトの部分をオウマが思惑と思えば辻褄が合いますね」


「それこそ、帝国に大打撃を与える為にアルフェルグ・ヘリオステクタイトを発射したい…とか」


「カストリアからポルデュークかぁ…確かにそれなら大量のエネルギーを要する理由も納得がいくかも」


「つまりサイディリアルに攻撃を仕掛けたいソニアと、アルフェルグで帝国を潰したいオウマの、二つの目的が混在しながら同時進行で進んでいるってことか?」


「なるほど、そう考えれば態々電力を使ってまで大量のエネルギーを用意した意味も分かる。なんせ別大陸まで飛ばすわけだしな」


「そっか!じゃあ納得じゃん!ってどの道ヘリオステクタイトは撃たせちゃダメってことでしょ!」


「まぁ…そうだな」


皆の見解は一致し始めている。しかしそんな中…その話に水を差さず、ただ黙って疑問を浮かべているのは。


エリスだ……。


(オウマが、そんなことするか?…態々巨大な兵器を作って帝国に攻撃なんて。だってあそこにはまだ…フリードリヒさん達が、彼の友達がいるのに。アルフェルグなんて最悪の兵器を友達の頭の上に落とすだろうか…)


この中で唯一オウマと話した経験とあるエリスは疑問を浮かべる、オウマは帝国を恨んでいるがその中身にまで恨みは向けていない。それなのにアルフェルグで跡形もなく消し飛ばすなんて事するのか?と…。しかしこの件はメルクリウス達には内緒にしている事。口に出して疑問を呈する事はできない。


そして一方…メルクリウスも。


(何か匂う、ソニアがそんなごちゃごちゃした計画を立てるとは思えない)


メルクリウスもソニアの事をよく知る身として現状の目的の曖昧さに疑問を持っていた。アルフェルグ・ヘリオステクタイトは間違いなく何かしらの意図を持って造られた。いや…或いはヘリオステクタイトの量産はオマケ、本命がアルフェルグと見ていいくらいには力を入れている。


なのに、それを他人に使わせるか?ならソニア自身が魔女大国を恨んで…いや、そんな事をしても意味がない事はソニアだって分かってる、何より奴自身は魔女排斥派ではない。


なら…一体奴はどこにアルフェルグを飛ばすつもりなんだ?奴が真に狙っている存在とは、誰なんだ。


(正義は正義のやり方を。悪は悪のやり方を。…この二つは相容れないが…或いは)


正義と悪は違う物だ、だが相反するわけではない…ともすれば、その目的は一致して──。




「まぁ、にしても時間は限られているわけだし、そろそろ今後の動き方を決めておくか」


と、ラグナの一声により議論は一旦帰結する。まぁどの道ソニアのやり方は強引で乱暴だ、その目的がなんであれ人が死ぬなら破壊しなくてはならない。


「動くのは六日後だよな、その日…どう動く」


「決まってる、やるならこの一回で全部決める。ヘリオステクタイトの破壊とレゾネイトコンデンサーの破壊…一挙両取りで行く」


「なるほど、どう行きますか?」


「まず…地上組と地下組に分かれて行動する、即ち『レゾネイトコンデンサー破壊組』と『一斉確保阻止組』だ」


引き続き地上と地下に別れて活動する。各々にはやらなければならないことがあるからだ。


「まず地下組だが、…なぁルビー」


「あんだよ」


するとラグナはルビーに視線を向け。


「お前さ、今からここにいる奴だけ外に逃してやるって言ったらどうする」


「は?」


「ここにいるメグは空間を自在に繋げる魔術の使い手だ。今から外に繋がる道を作ってやれる…外に出れるが、今から出るか?」


「……いや、出来ねー。まだこの地下には人が大勢いるんだ。それに私が外に出たら…誰が一斉確保から地下の人達を守るんだよ!」


「だよな…なら、覚悟は決まってるよな」


「当然!」


よく言った!とラグナは膝を叩きながらこちらを見て笑い。


「地下組はルビー達と協力して地下の住人を連れて地下からの脱出をしてくれ。地下に人がいるうちはソニアの計画の目が消えない」


「なるほど、つまり…地下の人間を捕まえようとする懲罰隊と真っ向勝負になるな」


「ああ、そして地上組だが。それそれがそれぞれのエリアに赴いてレゾネイトコンデンサーを破壊する、当然エリアマスターと対決になるからこちらも大変だ…誰が何処に行く」


「なら私は遊楽園、シジキと決着をつける」


そう口にするのはネレイドだ、まだリベンジマッチが済んでないと彼女は意気込みを見せる。


「なら私は娼楽園へ赴きましょうかね。アナスタシアはメルクリウス様に随分な事をしてくれたようなので」


娼楽園への意気込みを見せるのはメグだ、私が四年前と一年前に彼女に負けたのを聞いて…代わりに戦ってくれると言うのだ。


「じゃあ俺は金楽園かな…」


「いいのか?アマルト」


「別にいいよ、サイとやるなら俺以外ないだろ」


「…分かった」


そして、目を伏せながら頬杖をつくアマルトはなんでもないことのようにサイとの対決を口にする。しかしサイか…確か奴は、いやアマルトなら大丈夫だろう。


「じゃあラグナが水楽園に行くの?」


「いや俺は居住区に向かいそのまま地下を破壊する、地下組のアシストだな。地下組が懲罰隊と戦うとしても地上の戦力を請け負う奴が必要だ…それを俺がやる必要がある」


「は?」


「あとそれとガウリイルと戦いたい」


「じゃ、じゃあ水楽園はどうするの!?」


地上にいるのは四人、四つのエリアを担当するなら全員が動かねばならない。だが逆に言えば居住区で暴れ私達のアシストが出来るのはラグナしかいない…何より。


「それに…ヘリオステクタイトを、俺がなんとかする」


ラグナしかいないんだ、敵の本陣に単独で突っ込み本丸を叩き…計画の中枢を破壊出来るのはラグナしかいないのだ。となるとここはもう確定…なら水楽園は。


「エリスが行きます、地下から水楽園に行く方法は心得てますしエリスは多分この中で一番あのエリアに詳しい」


「…分かった、ならエリスに任せてもいいか?」


「はい!任せてください!地下組の脱出も途中までは手伝うので安心してください」


「エリスちゃんが一番大変だね…」


「毎度のことながら、エリスには頭が上がらんよ」


とは言え全員が危険であることに変わりはない、結局ここでも修羅場を踏むことになる。けどまぁ…問題はないだろう。この八人ならな。


「というわけで各々、六日後まで準備よろしく」


「なら我々は地下の人達にそれとなく六日後のことを流布しておこう」


「分かったよ、ンじゃあ俺は地上で…跡片付けしておくよ」


「じゃあ俺は六日後までネレイドさんと修行!」


「では私は地下の人達に物資の援助を」


「いやその前にそもそもどうやってヘリオステクタイトを止めるかの議論を…」


「あ、そうだ…ラグナ。実はこれ…使えるんじゃないかなって」


「ん?これ?…これって。いや…確かに何かに使えそうだな。試してみるか」


各々がやる事を見つけていく、六日後に向けて視線を定めていく。そんな中…私が見るのは。


(ソニア……)


ソニアだ、この一件できっと…奴と決着をつけることになる。或いは直接決着…という形にはならないかもしれないが、それでもようやく奴との因縁も終わるか。


(ソニア、私はお前を止めるぞ…それが私の正義なんだからな)


私は私の正義を貫く、貫いてみせる…お前を相手に、な。


………………………………………………………………


「メルクリウスが生きていた…か」


「ああ、お前の目測通りな」


一方、フレデフォート悪窟街から標高はグンと上がり、天上界ロクス・アモエヌス頂上。ソニアのプライベートな空間にて、ソニアと逢魔ヶ時旅団の幹部達は集められていた。


「メルクリウス達はフレデフォート悪窟街に逃げ延びていた。今もあそこに潜伏している」


「ほう、エラリーの奴…しくじったな」


オウマは含みを持たせた笑みを見せる。地下はエラリーの担当だ、奴にも地下に弟子達が逃げている可能性を伝えてあった…のに、対応出来なかった以上奴の失態ということになる。奴は認めないかもしれないが、これは立派に大失態だ。


「地下に魔女の弟子が居る?なら今から俺達で突っ込んで全員潰してやりゃあいいじゃねぇか。相手にならねぇだろあんな奴ら!」


「サイ、お前は弟子達と戦ってないだろ。アイツらは強えよ、前回は楽勝だったが次はどうか分からない」


「う……」


油断はしない、オウマは実績と成果のみで相手を評価する。魔女の弟子達の実力は確かにこちら側に僅かに劣る…だが。


「アイツらがハーシェル一家を壊滅させた事を忘れるなよ」


ジズ爺を破滅させてる連中なんだ、八大同盟の中でジズ爺が一番弱くて倒されてもおかしくないくらいの雑魚だった…とかならまだしも、半世紀以上物の間自らの組織を玉座に座らせ続けた実績を持つのがジズなんだ。


同じ八大同盟だからこそ思う、生半可なことではないと。ジズは嫌いだがその実績は評価に値する、だからこそジズを倒したエリス達も評価する。


「ってことは外部に逃げたと思われてたラグナ達もまだどっかに潜んでるかもな…」


「警備を更に厳重にするか?オウマ」


「無駄だと思うが、やるだけやろうか」


ガウリイルの提案を一応受ける、ぶっちゃけこの数日間自分達の目にも入らなかった連中を今更一般公募で雇ってる警備員程度が見つけられるとは思えない、たとえ人数が増えたとしてもな。だが逆を言えば人数が増えれば奴らも俺達が警戒を高めている事に気がつくはず。


そうなればおいそれとは動かないだろう、それだけで抑止力になるはずだ。


「奴等はヘリオステクタイトの工場を探っていた、恐らくだが一斉確保の件も知っただろう。そこまでの情報を得た以上奴等も目的を持って動けるだけの材料が揃った、そしてレゾネイトコンデンサーの件も知られていたとしたら…恐らくだが地上と地下の二面作戦で攻めてくるだろうな…しかも六日後、作戦当日に」


ガウリイルは腕を組みながら続ける。こいつ普段はクソ抜けてる癖して戦闘方面になると本当に人が変わったみたいに頼りになるな…。


「どうするオウマ、手を打つか?」


「打たん、言ったろ…俺達は何にも道を譲らない、何があろうとも歩調は変えずに進む。連中が攻めてくるなら攻めてくるで別に構わん、迎え撃てばいい。当初の予定通りな」


「そうだったな…。なら最初の予定通り我々は持ち場についてレゾネイトコンデンサーを守りつつ、サイディリアルへの攻撃まで待機…だな」


「ああそうだ、頼んだぜ」


当初、この作戦を立てた時…俺達を止めに来るであろう存在として二つの勢力をピックしていた。それ故に俺達は既に万全の守備陣形を敷く準備が出来ている。


それに何より、…攻めてくるかもしれないが二つの勢力とはジズとレナトゥスだった。ジズは身軽だからこの件を知れば止めに来ると思ったし、この一件はレナトゥスにも内緒だからアイツに知られれば激怒して飛んでくると読んでいた。


…だがジズは言わずもがな、もうこの世にはいないし。レナトゥスも動いていない、この件を知っていようがいまいが関係ない程に別件に気を取られているかのどちらかだろう。


つまり俺達の相手は当初予定してた奴らよりも弱く、小さい。ここに安心を覚えるわけではないが、それでも…だ。


「六日後に雷雲を使ってヘリオステクタイトをサイディリアルに向けて発射し、壊滅状態になったマレウス王政府を牛耳りそのままディオスクロアの覇権を握る。それがソニア…お前の計画だな?」


「そうだよ、レナトゥスには世話になったがもうこれ以上利用価値はなさそうなんでな…消えてもらう事にした」


「しかしレナトゥスを殺して、他の八大同盟は黙ってないと思うが…例えば、イシュキミリ率いる魔術解放団体メサイア・アルカンシエルとか」


ふと、サイが唇を尖らせながらこちらを見てくる。確かに国内で事を起こせば突っかかってくる奴はいるだろう。特にイシュキミリの奴は表の顔もあるしサイディリアルが吹き飛べば激怒するかも知れない。


「ハッ、そうなりゃそのままメサイア・アルカンシエルとも戦争だな」


面白え、イシュキミリとはいつか決着をつけたいと思ってたんだ。同じ八大同盟だが…マレウスが滅べばそんなもんもう関係ない。何よりメサイア・アルカンシエルは俺達にとっても嫌な相手だ。


「ほう、メサイア・アルカンシエルともやるのか…ならカルウェナンとも再戦できるな」


「カルウェナン…!アイツはアタシの手で斬り殺したい…!」


特にガウリイルとアナスタシアはやりたいだろう。何せメサイア・アルカンシエルの大幹部の一人『天下無双の剣騎士』カルウェナンを相手に…二人は負けているからな。それもガウリイルとアナスタシアの二人がかりで。


カルウェナンは下手すりゃ俺やイシュキミリよりも強いかも知れないタマだ。なんせアイツはマレフィカルム中最強と言われる『五本指』の次点に立つマレフィカルム中六番手の使い手だ。そんなアイツとやれるなら…そりゃあ面白い事になりそうじゃないか。


「フッ、楽しい未来設計図が出来てくるな。ま、その為にもまずは目の前の目標を叶えましょう…ってなわけで、お前ら。抜かるなよ」


「ああ」


「任せてよ団長!」


「ピピッ…任務了解」


「ンァ…ああ、気が進まないが…やるよ」


「いいねいいねぇ、気が昂ぶって来たぜ…」


五人の幹部達に話を通し…一旦部屋から退出させ、六日後に迫る決戦に備えさせる。あとは時を待ち、俺達はその時を成就させれば勝ち…だが。


その前に…一つ、片付けなきゃならんことがある、そう…例えば。


「ソニア様ッ!」


キンッと響くような声が部屋に木霊し、幹部たちが出ていった扉を開けて入ってくる…それは。


「よう、どうしたよエラリー」


「オウマ団長…い、いえ…実は」


エラリーだ、ややエリート思考が強くそしてまぁ…色々面倒な奴だ。実力があるから重用はしてるが、俺はあんまり好きじゃ無い。


そんな奴が揉み手擦り手でソニアに寄ってきて…。


「じ、実は…その、メルクリウスを…取り逃してしまい」


「ああ聞いてる、別に構わん。私が逃したも同然だしな」


「そ、それでは…私の責任は」


その話か、自分の責任を軽くする為にここにきたと。


エラリーはメルクリウスを取り逃した。元はと言えばソニアがヘマやって逃したも同然だが、その後地下に逃げ延びたメルクリウスはエラリーだと対峙し…そして逃げられた。そこに自分の責任があるかどうかを確認しにきたのだ。


全ては、自分のキャリアを保つ為。完璧主義を保つにはあまりに実力不足な気がしないでもないが、それでもエラリーにとっては重要なことらしい。


「とは言えよ、エラリー。地下はお前の管轄だろ…今の今まで侵入者にも気が付かず呑気に仕事してたお前の落ち度は確かなもんだぜ?」


「う…しかし団長、それを言ったら…貴方だって」


「あ?お前それ…言うつもりか?言ったら終わりだぜ?組織所属の人間としてよ」


「う…くっ………」


「この落ち度は…実績によってしか挽回できない、わかるよな」


「それは…はい」


「ならお前も頑張れや…なぁ?」


「はい………………」


エラリーは不服そうだ、コイツはプライドが高すぎる。高すぎるプライド故に自分の落ち度を認められないところがある。ソニアに取り入りたいから傭兵団に入ったコイツは…いや言うまい。


俺にチクリと言われ、すごすごと退散していくエラリーを見送り…ソニアに視線を向ける。


「エラリーはきっとメルクリウスと戦うことになる。アイツは自分の落ち度を帳消しにする為に意地でもメルクリウスに食ってかかるだろう…勝てると思うか?ソニア」


「私に聞くなよ、お前が本職だろ…けど、どうだろうな。エラリーはプライドの塊だ、そのプライドを捨てた時の爆発がうまい方向に働けば案外いけるんじゃ無いのか?」


「いいのか?宿敵が別のやつに取られても」


「あんな奴に勝てず途中でくたばるような奴は私の宿敵じゃない」


へっ、そうかい…まぁ、心配しなくても大丈夫だろう。エラリーは強いが…多分メルクリウスは、もっと強いからな。


「にしても…ようやくだな、ソニア」


「ああ、待ちくたびれた…ようやく叶う」


オウマは、部屋に二人きりとなったソニアに目を向け…愛想を振りまくような笑みを見せる。お前をここに連れて来て四年、ようやく全てが成就する…俺の望む魔女が介在しない世界を作り上げることができる。


ただ…。


「なあ。ソニア」


「なんだよオウ…マ────ッ!?」


ギロリと睨み、ソニアの顔を覗き込む。ソニアの目を覗き込む。俺はさ、目的の成就を前に…とても気持ち良くなっているんだ。なのにさ…ソニア。


今俺は同時に、非常に気分が悪いんだぜ?


「なぁソニア、お前…俺に何か隠してないか?」


「はぁ?」


「お前とも付き合いが長い、もう四年の仲だ…だが今だに、俺は…『お前が何処を見ている』のか分からない、全くな」


ソニアと言う女は、最初見た時はなんとも…輝いている奴だった。自己の光によって他を燃やし、己だけが好きに出来る場所を…世界を作る事だけに注力している奴だった。そう言う我儘で自分勝手な奴は好きさ、自己がない奴より余程いい。そう言うお前だから俺は手を組む決断をしたんだ。


だが…どうだ?何時ごろからだったか、ソニアの輝きはくすみ始めた。


「レナトゥスと組んだ辺りから、お前の様子がおかしくなった。まるで何かに突き動かされるみたいにヘリオステクタイトの建造を急ぎ、計画になかったアルフェルグ・ヘリオステクタイトまで作り出して…剰え、レゾネイトコンデンサーまで作り上げた。その目的を俺に伝えることもなく…な」


「言ってんだろ、アルフェルグ・ヘリオステクタイトは保険だよ…魔女が恐れる武器を作り、兵器の真の意義を…」


「本当のことを言えよ、お前の輝きが薄れたのは…その病のせいか?」


「……………」


ソニアの体はもうかなり弱っている、きっと新しい世界の礎を作ってもその世界を見ることなく死ぬだろう。それがお前の輝きを薄れさせたのか…と聞くと。ソニアはゆっくりと首を横に振り。


「違う、これはただ私に与えられた時間に…終わりが来ただけだ。私は最後まで…私であることをがやめない。これが…私の在り方に変化を与えることはない」


「ならなんだ、お前はアルフェルグ・ヘリオステクタイトで何を狙うつもりだ」


「……もし私がここで黙ったり、嘘や偽りでお前を騙したら…どうする」


「協力関係はここで終わりだ、俺はお前を信用している…なのにお前が俺を信用してくれないならこれ以上一緒にはやっていけない」


「はぁ、最悪のカードを切って来たな。今更お前に捨てられたら…私は何も出来ない、分かったよ…けどこの話は、墓場まで持ってけよ」


「おう、雇い主との内緒話は絶対に喋らないさ」


「分かったよ…じゃあ、言うが…私が作り出したアルフェルグ・ヘリオステクタイト。これで狙うのは…」


するとソニアは窓の外を見る。遥かに続く地平の彼方を見て…さらにその向こうを見て…眉をひそめ。


「────────────」


口にする、ソニアが見据える真の敵の名前を…それを聞いた俺は、笑ってしまう。


「おいおい、そりゃあ敵じゃねぇよ。味方って意味じゃないぞ?俺達の敵にもならない雑魚って意味さ、お前がアルフェルグ・ヘリオステクタイトを使わなくても『潰せ』って言うなら今から俺が行って潰してこようか?」


正直、ソニアが今挙げた名前がそこまでの脅威になるとは思えない。奴等は魔女大国とマレフィカルムという巨大な組織同士の戦いの間でせせこましく立ち回るウジやハエに等しい存在。それをお前…あんな仰々しいモンを作ってまで備えたってか?


いよいよ頭までおかしくなったか?ソニア…そう思ったが、ソニアは再び首を振り。


「違う、オウマ…奴等を甘くみるな。奴等は恐ろしい存在だ」


「じゃあお前は、そいつらに対してアルフェルグ、ヘリオステクタイトを使うつもりか?」


「ああ、…オウマ。私はな…誰かの為に戦うつもりも、誰かの為に私の力を使うつもりはない。ソイツらも魔女の弟子も私にとって嫌な奴等だから消し去るつもりなんだ」


「お前はもう直ぐ死ぬだろう…、それでもか?」


するとソニアはふらりと力を抜いて、近くの椅子に腰をかけ…冷や汗を拭いながら、歯を見せ笑い。


「ああそうだ、私は…私が生きた証をこの世界に残す。悪は悪なりのやり方で…世界を変えて、な…」


「………………」


生きた証を…この世に残す…か。…ソニア、ソイツは俺にとっても…最悪のカードだ、ソイツを出されたら俺はもう…。


「分かったよ、好きにしろ…俺を裏切るわけじゃないみたいだしな」


「なんだよ、えらく素直だな…オウマ」


「まぁ、惚れた女と同じこと言われちゃあな」


「は?私に惚れたのか?」


「アホか、違うっての…ったく」


頭を掻いて、退出する。さぁて…どうやらソニアはソニアの目的の為に動くようだ。なら俺も俺の目的の為に動くとしよう。サイディリアルにヘリオステクタイトを落とし、世界をひっくり返し…魔女が介在しない世界を作る。


無秩序で、支配者なき世界…それはもう、あと少しで出来上がる。


(俺はジズ爺みたいに甘くねぇぜ…)


そして、それを阻止する為に立ち塞がる…最後の敵達の顔を思い浮かべ、拳に力を込める。


さあ…もう直ぐ決戦だ。

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