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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
三章 争乱の魔女アルクトゥルス
57/842

52.孤独の魔女と強襲の第三王子ベオセルク


(さて、どうするか…)


ラグナ軍の動きを統括するサイラスは拠点の中で頭を抱えていた


こちらの不用意から招いてしまったベオセルク軍との戦いは、はっきり言って最悪のものだった、一応我らは拠点を中心に防衛戦を行なっている、だが常々言っていたように我らは先手を打たれたら負ける


理由は単純だ、我らラグナ軍は総戦力いう点では全候補者の中で最も低い、故に策を弄し事前に準備し、相手に何もできない状況を作り 短期決戦で決める必要がある…つまり戦いにおいて先手をこちらが取るのは絶対条件だった


が…その先手は 敵に奪われた、今戦場の流れは敵に握られている、格上の相手にだ…ここで我らが撤退しても敵の追撃を逃れられず、全滅は免れないだろう


(一応アルミランテに頼んで、エリス君と若だけでも逃してもらえるように指示したが、果たして上手く行っただろうか)


若さえ無事なら負けはない、エリス君さえ無事ならまだ勝機はある…あの二人だけでも逃げることができれば、まだチャンスはある


だが若はあのベオセルクと…エリスちゃんに至っては討滅戦士団を相手にしていた、あそこから逃げる事は容易ではない、…だがもし逃げることができたのだとしたら、いやもう逃げられたと仮定して動こう


我らに出来るのは後の事を考え少しでも敵を消耗させること


(頭を切り替えるか、目の前の戦場に集中しろ)


頬を叩きまずは己に指示を出す、冷静に分析して軍を動かすんだ…この場に若がいない以上、自分が軍を動かす必要がある


対するは餓獣戦士団、ベオセルクが手ずから集め 自ら鍛えた謎多き軍団、その練度は第一戦士隊にも匹敵する…当然の如く格上だ、真っ向からぶつかってはいけない


一応門の付近にカロケリ族を集め前衛として防衛にあたらせつつ、後衛としてバードランド達が援護を行うよう動いている、門という地形を生かし 敵の数を絞りながら防衛するのだ…だがこんな小細工もいつまで保つか…今は拮抗しているが、ここにベオセルクとリオンと言う主力が加わったらもう守りきれない


今のうちになんとかしないと…


「どうする?サイラス、何か策はあるのかのう?」


ハロルドさんが声をかけてくる、彼ら老兵隊は一応今は後ろに下がってもらっている、老人は危ないから下がってて?なんて言うつもりはない、彼等は戦士だ 一応控えの戦士として戦場を見てもらっているのだ


「そうですな、はっきり言えば策はないです…現状を打破する方法は今のところありません」


「やはりな、いや責めておるわけではない…むしろこの状況で指揮官たるお前が取り乱さず冷静でおることが一番じゃ」


はっきり言う、彼等は歴戦だ 別に気を使って隠さなくても、変に慌てずどっしり構えてくれる、頼りになるが…さて彼等を上手く使って状況を変えたい


普通に考えるなら、正面門に集まった連中を後ろから叩く為 裏口から彼等には外に出てもらって前と後ろで敵兵を挟撃が一番いい手だが…


(恐らく、後方を空けているのは罠だ)


奴らは狡猾だ、多分正面の門に敵が集中しているのは『必死に拠点を落とそうとして正面に兵を集中させている』体を演じる為だ、勇んで彼等を裏口から出せば 恐らく後方に控える伏兵が迎え撃って 逆に我らが挟み撃ちに合う事になる


ラクレス様を相手に使った手と大まかには同じ陽動戦術、いや、あの戦いを我らが知っているのは相手も把握している、なのに同じ手でくるのは不自然じゃないか?


後ろを空けているのは威圧の為?実際は伏兵などいないのか?


「ハロルドさん、敵は後ろに控えていると思いますか?」


「ううむ、どうじゃろうな…ただ 正面にいる敵の数から見て、敵はまだどこかに兵を控えさせていると見るべきじゃ」


たしかに正面に集中している人間だけではベオセルク軍総勢五百名揃い踏みとは言えない、精々正面には四百人程度か…なら後百名何処にいるかだ


「……」


エリス君からもらった地図を広げる、何処かに何かヒントはないか 敵は何処に潜んでいる?後方か?それとももっと別の場所か?、彼女の地図はここ数日使って分かったがかなりの精度だ 見た目は子供の落書きだが馬鹿にできない


あるのは森…周囲を込む森…後はこの拠点を挟むように存在する山か、…ん?いやこの地図をよく見ると右と左の山で形状がかなり異なることが分かる、当たり前の話だが山とは一つ一つ形が違う


パッと見た程度じゃ木々に邪魔されてよく見えないが、右側が断崖絶壁の山なのに対して左側の山 …これはかなりなだらかな坂になっているのが分かる、山…なだらかな坂…上か、上だ 上にいるんだ!


「ハロルドさん!敵は上にいますんこの左側の山、そこの坂がなだらかになっています!、恐らく山の上から落石でも落として拠点そのものを崩そうとしているのかもしれなません!」


「何?山の上からじゃと?じゃが左側にも森がある、岩を転がしたって木に邪魔されて岩など転がってこんぞ」


「だから百人も動員しているんです!、恐らく今左方の森の中で奴らは木を切り倒す作業をしているはずです、戦いの喧騒に紛れて木をある程度切り倒し 残りは一気に山の上から転がした大岩で薙ぎ倒す算段でしょう、そしてその大岩はこの拠点に突っ込み 我々は大打撃を受ける…」


つまり敵は左方にいる!後方ではない、これを放置すれば拠点は陥落する!急いで対処せねば


「ハロルドさん、他の兵を連れて 左方の森へ向かってください…恐らく敵は木を切るのに集中しているから、不意を突けばいけるはずです」


「あい分かった!、任されよ!…行くぞ!敵の肝煎りの作戦を潰してやるのじゃ!」


ハロルドさん達は我輩が指示を飛ばしただけで直ぐに行動に移してくれる、裏口から出て 後方の茂みを通って左方を叩く、…うん 我輩の読み通り後ろに兵は控えてなかった


危なかった…前の作戦を警戒して敵のいない後方を睨み続けていたら、我輩達は完全に落石に不意を突かれていた、多分この読みは間違いないだろう


しかし一瞬で地形を把握しその場で作戦を立案するとは、あの獣王子め…侮れないにも程があるぞ


「サイラス!大変だ!敵の奴ら火矢の準備を始めてるぞ!」


「そうか…」


「いやそうかってお前!もっと慌てろよ、拠点燃やされたら元も子のねぇぞ」


慌ててこちらに駆け寄ってくるのはバードランドだ、慌てろって…慌てる要素がない


「準備って、どうせ敵が後方でこれ見よがしに瓶の中に紙を巻いた矢を漬け込んでいるんだろ?」


「そうだ!、油塗ったくって火をつけようとしてるんだ!」


「それはブラフだ、恐らく瓶の中はただの水、我らの動揺を誘おうとしているだけだ」


奴らの攻城戦略は岩による突破だと先程読んだ、なら火までつける必要はない、恐らく…恐らくだが 火をつけようとしているところを見せて慌てさせ 火がつかないところを見せ安心させ、その安心の中で岩を落とす、緩急だ…緊張させた後安堵させることで隙を作ろうとしているんだ


もし本当に火矢で拠点に火をつけようとしているなら、見えるところで火矢など作らんだろう普通


「つまり…ハッタリか?」


「ああ、敵はあの手この手で我らを脅し その都度安堵させようとしてくる、精神的に揺さぶりをかけようとしているんだ、全部無視しろ!」


火をつけられるのを我らは一番嫌っている、そこを突かれれば慌てる…のを見越しているんだ、乗らんその手には 味方には敵の揺さぶりには乗らないよう口聞する、もし本当に火をつけられたとしてもその部分だけ切り離せば被害は軽微で済む…伊達に急拵えのあばら家ではない 木材の切り離しくらい簡単に出来る…


すると、敵も偽の火矢で動揺しないことを確認するなり直ぐにそれを捨てて攻めにかかってきた…


しかし敵の動きに先程から違和感しか感じない、いや用兵がとかじゃない



こいつら全員、ラクレスさんとの戦を終えてそのまま直ぐにここに直行しているんだろう?、なら疲弊の極みにあるはずだ、いくら戦いが圧勝とはいえ戦とはただそれだけで精神をすり減らす、休養もなしに連戦とは…いや…いやもしかしたら


隠してる?疲れているのを…だからくだらない揺さぶりなどかけてくるんじゃないのか?、奴らは全員第一戦士隊級の強さを持つが…何故 こうも圧倒的優位に立ちながらこんなあばら家みたいな拠点一つ落とせない?


それは我らが奮戦しているからじゃない、敵が消耗しているからだ


「バードランド、戦士隊を率いて 右方から戦士団を叩いてくれ」


「お前!、俺たちに死ねってか!」


「違う…だが上手くやれば敵を押し返せるかもしれん、いいか?戦い方はこうだ…まず」


戦術をバードランドにレクチャーする、恐らく 他の軍師が聞けばため息が出るようなお粗末なものだろう、だが 今我輩に思いつく全てを試す




「行くぞオラァーッ!」


剣と盾を構えたバードランド達百人隊が気炎高く叫び、正面門に集中する餓獣戦士団へと突撃を開始する、敵兵を凡そ四百人 戦力差四倍、しかも全員格上 真っ向からぶつかれば勝ち目はない


「………………」


だが餓獣戦士団は油断なくゆらりと幽鬼の様に構えを取ると 攻城作戦にかかる兵と迎撃する兵に分かれ バードランド達に向かってくる


全員が人間離れした挙動でバードランド達に襲いくる、そして両軍ぶつかり合い 戦闘が始まる、一流とは疲弊しても一流だ…バードランド達百人隊にも少なくない被害が出る、だがバードランド達も負けてない 敵にくみつき薙ぎ倒して行く


やはり敵の動きが鈍い、本来の力を発揮できれば瞬く間にバードランド達を撃滅できるだろうに、ああ…後バードランド達が命がけで戦っているというのもある


若と決闘した時みたいな何が何でも負けてたまるかという、鬼気迫る勢いだ…今の彼らを落ちこぼれと呼ぶものはいない


…だがこのままやれば負ける、だから


「今だ!射て!」


我輩が号令を出す、すると右方の茂みから顔を出した五十の弓兵隊が次々と矢を放ち始める、バードランド達を囲もうとしていた餓獣戦士団は矢の雨晒されて次々倒れて行く、普段の彼らなら茂みに隠れる伏兵など簡単に看破できたろうに


「続け!傭兵団!」


弓兵隊に対処しようと更に兵を分け始めたところで更に拠点の屋根の上に隠れていたモンタナ傭兵団が弓兵隊を襲おうと背を見せた連中に矢を浴びせる、何も仕留めようとしなくていい、腕を射れば攻撃力は半減し 足を撃てば機動力は大幅に下がる、モンタナ傭兵団とてアルクカースの戦士だ 矢を持たせても仕事はしてくれる


問題は迎撃にこちらの兵を割いたせいで正面門の守りが薄くなること、モンタナ傭兵団にはあまり矢を持たせていないから この集中砲火はあまり長く続かないこと、そしてどれだけ優位になってもバードランド達にも限界があり敵はどれだけやっても格上であることくらいか


問題だらけだ、だが少しでも兵を減らし消耗させることが狙いだ、…バードランド達は相変わらず奮戦する 弓兵隊も近づかれそうになったら木を倒し敵を牽制する モンタナ傭兵団も汚名を挽回する為、矢がなくなれば屋根から飛び降り餓獣戦士団に飛び掛かる…



…その間我輩は突っ立っていたかといえばそうではない、一人で準備をする…恐らくこの後到来するであろう敵の切り札に対する、こちら側の切り札を…大慌てでだ


こんなに汗を流したのは生まれて初めてかもしれない だがここでどれだけ準備が出来るかで後の展開が変わってくる


そう、若が我らの為に勝利する その展開に少しでも近づけるんだ



時間にして十数分程だろうか、軽く戦場を見渡せば相変わらずこちらの被害は酷いが よく見れば餓獣戦士団側にも被害が出ていることが分かる、我輩の予想以上にみんな奮戦してくれているみたいだ


左方のハロルドはうまくやっただろうか 右方のバードランドは無事だろうか、正面のカロケリ族や他の兵士達は持ちこたえているか…


外が静かになった、…いや多分 奴が指揮に戻ったのだろう、混迷とした餓獣戦士団が引いていく…


……来るぞ、もう直ぐに来る 敵の切り札が


そう覚悟を決めた瞬間、ズシンと床が揺れ 刹那我輩の両隣に何か飛んでくる、敵の砲弾か何かか?、いや違う…これは


「ぐふぅ…がぁ…」


「げぶふぅ…イテェ」


「テオドーラ!バードランド!」


我輩の後ろで地に伏すの正面で守りに当たっていたテオドーラと右方で敵を攻めていたはずのバードランドの二人だ、何故二人がここにと問う必要はないだろう…カロケリ族が守っていた筈の正面門からそいつは堂々と入ってくる


「どんな奴が指揮を取ってるかと思えば、こんなガリガリな奴とはな」


第三王子ベオセルク、彼が単独で正面門を突破して現れたのだ…見れば正面の守りについていたカロケリ族は皆倒れており、それを攻めていた餓獣戦士団の姿はない…恐らくベオセルクが一人で攻める方向に切り替えたのだろう


デタラメな奴だ、餓獣戦士団が揃って攻めても抜けない守りを一人で突破するとは…やはり、第三王子陣営最大の難関はコイツか


「ふん、そのガリガリにいいようにやられた貴様は差し詰め負け犬か?」


「はぁ?、俺は犬じゃねぇ、どう見ても人間だろ」


なんだコイツ、真顔の正論で返してきたぞ…まぁいい、この場の戦いは最終局面に移ったということだろう、バードランドがここにいるということは 右方の戦士達はベオセルクにやられたと見ていい


つまりもう、戦えるものは殆ど残っていない…ということになる


「それで、どうする…最後の一兵になるまで逃げた王子の為に使命に殉ずるか?」


逃げた…か、なるほどアルミランテはうまくやってくれたらしい、ならあとは安心だな…あの二人ならなんとかしてくれよう、実力では確かにベオセルクに及ばないかもしれないが、ただそれだけが勝敗を決するわけではない


じゃあ、あとは…


「どうするか?決まっていよう!、この我輩が お前を倒すのだ…ハハハハ!」


腕を組み胸を張る、我輩がコイツを打倒する …出来ればいいが、さぁてどうしたもんかな、


敵軍の切り札 ベオセルクという怪物を抑える為のこちら側の切り札はいくつかあるが、そのどれもが今すぐ発動させられない…少し離れた位置に用意してあるから コイツをそこにおびき出す必要があるが


我輩一人でできるか?…


「あ?、俺を倒す?…上等抜かすじゃねぇか」


パキポキと鳴り響く拳の音、ああヤダ我輩昔からこの音嫌い、震える膝を必死で隠しながら考えるのは勝利条件


まず第一勝利条件 時間稼ぎ、エリス君と若がここから離れて態勢を整えるまでの時間稼ぎ、1秒でもいいから長くこの男をここに拘束すること


第二勝利条件、少しでもコイツに手傷を負わせること、可能なら撃破…こちらは少々難しい、我輩一人で命をかけたとてかすり傷一つ負わせられないだろう、撃破なんて夢のまた夢だ


だからこそ考える、夢のまた夢も現実にするのはいつだって今まで積み重ねた思考と知恵の山、故に常に考え続ける、何か手がないかを


仕方ない、ここは早速奥の手を使うか


「ふん、余裕をぶっこいいられるのもいまのう…あ!若!ダメです!戻ってきては!」


「んぁ?チビラグナがもう戻ってきたか…」


全霊で反転し走る、嘘だ ハッタリだ ベオセルクの後ろに向かって奴が反応しそうなことを叫ぶ、ただこれだけだがこれが存外に効く、今のうちに後ろに走って…少しでも準備を


「って…誰もいねぇじゃねぇか!」


「ぐはぁっー!?」


一瞬だった、我が俊足で後方にめためたに走って距離を取っていたというのに、ベオセルクは振り向きざまにはなった飛び蹴りであっという間に距離を詰め我輩をぶっ飛ばした


ぐぅぅいたい!、骨折れたこれ絶対…ああでもダメだ、立てる 立てちゃう…まだ立てちゃうから戦わないと


「ぐっ、…ふふふ 案外素直なんだな、お前」


「ハッタリにしちゃ上等だったが、そのあとが逃げの一手ってのが頂けねぇな、おまけに俺の一撃で虫の息じゃねぇかお前」


「これも演技だ、実はピンピンしてる、寝首をかく為の準備さ」


嘘だ、もう一発もらったら死ぬかもしれない、切れた唇からポタリと血が滴る…さてここからどうする、もう一度奴の視線をそらせば 、直ぐにでも切り札を発動させられる…のに


「さて、もういいか テメェにとどめを刺して、とっととラグナを追わなきゃならねぇからな」


そう言って掲げられる拳、ま…まずい…


「ああいやそのあのえっと…あ!て テオドーラ!やめろ貴様!寝てろ!襲いかかるんじゃない!殺されるぞ!」


「またハッタリか?何度も同じ手を喰らうか…ぐっ!?」


ガツンとブレるベオセルクの頭蓋、馬鹿め 今度は本当だ

さしもの奴も完全な不意を突かれてはダメージは免れないだろう、何せ 後頭部を全力でメイスで殴られたのだ…ダメージを負ってもらわねば困る


「誰が!誰に!殺されるって!?」


「テメェ、生きてたか…」


ベオセルクの背後に立つのは争心解放を行った全力全開のテオドーラだ、その体は満身創痍だが目は死んでいない、助かった…いや後ろからよろけながら歩いてくるテオドーラが見えたから、カマかけてみたら思う他上手くいった…


「上等だ、まずはテメェと決着をつけてやる」


「ウルセェ!、ウチのダチに手ェ出して生きて帰れると思うんじゃねぇ!」


それはまさしく獣の殺し合いだ、人の身で放たれているとは思えない動きの数々 テオドーラがめちゃくちゃな挙動でメイスを振るい ベオセルクが其れ等全てを避け反撃に飛んでくる蹴りや拳が鈍い音を立てる、…くぅ ダメそうだ


如何にテオドーラとは言え、やはり一対一で勝てる相手ではないか…い 今のうちに準備に取り掛かろう


…………………………………………………………


「ぐ…ぐそっ!…、テメェ…ちょこまか逃げるんじゃねぇ、臆病モンが…」


「お前の攻撃があんまりにもトロいもんでな、こんな攻撃…当たれって方が難しいぜ」


より一層、ボロ雑巾のように 傷だらけになるテオドーラと、未だ無傷のベオセルク…実力に差があるのが視覚的に伝わってくる

テオドーラの青く腫れ上がった足も限界が近い…これ以上は無理か、だがサイラスが何かしようとしているのは分かる 何をしようとしているのかは知らないが、アイツが震える足を抑えて立ち向かっているのが見えた、


なら信じて乗っかるのがダチの役目だ…とは言え流石にこれ以上はウチも無理ぃ、もう一歩も動けん


なんて諦めていると


「ちゃりやぁぁぁぁ!!」


「あん?、っははは…例のジジイか、ってことは山の上に配置した落石部隊はやられたみたいだな、案外やるじゃねぇか」


「ハロルドさん!!」


別働隊で動いていたハロルドが戻ってきたのだ、その身に刻まれた傷の数々が先程までの激戦を想起させるが、それでも果敢に剣を構えて ベオセルクに向かっていく、だがダメだ あれじゃあ避けられる…


「来い、クソジジイに引導を渡して…っ!?」


「待てやぁぁぁぁぁぁ!俺を忘れてんじゃねぇぇぇえ!!!」


突如としてベオセルクの足元から何かが起き上がりその体に抱きつき抑える、い いや…バードランドだ、アイツ私以上にボコボコにされてたのにまだ意識があったのか


「テメェもか…どんどん集まってくるな」


「当たり前だ、俺はもう 負け犬にゃあならねぇって誓ってここに立ってんだ!、テメェみたいなのに負けるわけにはいかねえんだよ!」


「よくやった若いの!、そのまま抑えとれ!」


抱きつき その場に貼り付けられたベオセルク、ああなっては避けられない ハロルドがその目の前で剣を大きく振りかぶる…が、ベオセルクの顔色が変わることはない


「…っふっ!…」


両腕は抑えられた、だがまだ足が残っている 片足を器用にあげ 腰の動きだけで足を振るい、ハロルドの剣を叩き割り…そのまま


「なに!?足だけで…ぐほぉっ!?」


蹴り飛ばされる、ハロルドの枯れ枝のような体はくの字に曲がり遥か向こうへと吹き飛ばされ転がっていく、いや…死んでないよな!?


「無駄だったな、デカブツ …お前の命をかけた拘束も」


「へへへ…果たしてそうかな、あのズル賢いジジイが ただその身一つでただ突貫を仕掛けてきたって、本気で思ってんのかよ、お前…!」


「なに?」


「そのとオーリ!!本命はこっちジャァァァァ!!!」


ハロルドの陰に隠れていた何かが屹立する、その手には崩れた拠点の一部から持ってきたであろう長い鉄柱が握られており…


リバダビアだ!、ハロルドの奴 リバダビアを連れてきて、自分を囮にしたんだ…!


「そのまま抑えてイロ!バードランド!命がケデ!」


「応よ!」


「っっ…!!!!??」


今度こそ 無防備となったベオセルクの体に リバダビアの鉄柱一撃が叩き込まれ、その身にまとっていた鎧がひしゃげて砕け散るのが見える!、ベオセルクが初めてその顔を苦痛に歪め鉄柱を受けがくりと力なく項垂れる…やったか?…いや


「…それだけか?」


「ぅおっ!?マジかコイツまだ動け…っ!?」


嘘だろ、あの化け物まだ動けるのか 土手っ腹でカロケリ族全霊の一撃受け止めておきながらも未だその動きは衰えることがなく、いやむしろ鞭を入れられた馬のようにその動きはさらにキレを増す


「ぐっ!、くそっ!こいつ俺よりちいせぇのに なんて怪力だ…ぐぉぁっ!?」


足が地面に食い込ませるとそのまま自分よりも倍近く大きなバードランドの体を僅かな体の部位だけで持ち上げ、そのまま振りほどくように投げ飛ばす


「お前…ホントに人間カ?、実は魔獣とかじゃないノカ?」


「あんな雑魚どもと同列に扱うんじゃねぇ!俺ぁ人間だ!人間の戦士だ!」


素手のベオセルクと 鉄柱を振り回すリバダビアがぶつかり合う、リバダビアの攻撃は早い あんなどでかい鉄柱を振り回しているというのに、まるで当たらない


アレとは一度やりあったから分かる、ベオセルクは戦士として強い…というより 生物として強い


人間のくせして四つ足をつきながら飛びかかり 手を軸にして足で突きを打ってくる、噛みつきもする引っ掻きもする 人と戦ってると思うと面食らって思わぬ不意打ちを食らう


リバダビアの攻撃が当たらないのは 人の急所を狙っているからだ、だからベオセルクは時に地面に張り付くようにして鉄柱を避け 空中を転がるようにして避け どんどん彼女に近づき…そして


「がふぅ…ウグゥ…」


鉄さえも砕く拳でその身を吹き飛ばされる、これだけの数でかかってんのに勝ち筋が見えねぇ!、何より腹立つのがコイツが素手だってことだ、つまり付与魔術を一切使ってないんだ!最初から!



「で?、次は誰がくるんだ?…それとももう品切れか?」


ものの数分、ラグナがかき集めた戦士が全員に地に伏せ 動けずに呻き声を上げている、餓獣戦士団と互角に戦えて少し勘違いしてしまったようだ、コイツは…最初から一人でウチら全員を倒せたんだ


「じゃあ、お前で最後だな…」


今立っているのはウチが最後、とはいえ足は棒のように動かず…手に力は籠らない、…負け…か、だけど諦めるくらいなら 最後まで戦って…!


「テオドーラ!そこを退け!引くぞ!」


ふと、サイラスの声が響く…引く?引くってどういうことだ、ってかサイラスどこにいるんだ? 周囲を見渡してもその姿は見えない、あいつ今どこでなにやって。


「ああ?、引くだぁ?今更軍を引いて撤退でもする気か?」


「違う!引くのは 幕だ!この戦いに!」


「はぁ?、む?」


サイラスの号令により、突如地面から縄が現れる、いや違う 巧妙に床に隠されていた縄が、何かに引っ張られちょうどその真上に立っていたベオセルクの足や手 その体に絡みつきその動きを制限してその場に貼り付ける


「これは…なるほど、あのガリガリ…俺をここに誘き寄せるために逃げ回ってたか」


ベオセルクが腕を動かし足を振り回して逃げ出そうとするが縄は存外に固い、なんだあの縄は…どこからとそこまで考えて分かる、あの縄は投石機に使った頑丈な縄だ


この拠点には投石機や様々な攻城兵器の部品が使われている、壁をひっぺがせばこのくらいの部品は出てくるだろう

よく見れば縄を引っ張っているとは人ではなく投石機などの兵器を動かすための機構や車輪を組み合わせ縄を巻き取り引っ張っているのだ人間をはるかに超える『法則』と言う名の怪力はさしものベオセルクも容易に抜け出すことはできないようだ


「それで、縄で拘束して俺を止めたつもりか?…こんなもん直ぐに…」


「いいや違う、言ったろう 倒すつもりだと、貴様を!」


そして、トドメと言わんばかりに拠点の壁が現れ それが姿をあらわす、壁を破り現れたのは鋭く研がれた槍のような巨大な丸太、それを縄でバランスよく引き上げたそれが 振り子のようにその身を振りながら現れる…あれは


「破城槌…!」


分厚く 堅牢な城門を、ただの人の身で抉じ開ける為作られた攻城兵器、それにより得られる威力 破壊力 突破力は単一の人間が出せる火力を大幅に超えている、それは例えあの貧弱なサイラスが生み出したものであれ変わらない


壁の向こう側でサイラスは事前にこれを組み上げていたんだ、それを縄の罠で拘束しその隙にベオセルクへこの破城槌を叩き込む、それがベオセルク撃破の為のサイラスの策…!


「即興破城槌だ、酷使すりゃ壊れる酷い出来だが…威力は変わらん、自慢の馬鹿力や獣じみた動きで避けられるなら避けてみろ!」


「テメェ…ッ!、チッ 回避は間に合わねぇか!」


破城槌はより一層強く その身を振りかぶる、上から下へ ただそれだけの行動によって生まれる莫大なエネルギーが、丸太の先端という一部分に集中した時…どれほどの力が発生するか、想像に難くない


ベオセルクもこればかりはまずいと必死に力を込め縄を引きちぎろうとするが、もう遅い…縄でくくりつけられたベオセルク目掛けそれは音を立てて肉薄し……



「ッッ!?ぐぉぉっっっ!?!?」


あげた、あの男が 鋼のように堅い男が初めて鮮血を撒き散らしながら苦悶の声をあげ、縄を引きちぎりながら破城槌の一撃で吹き飛ぶ、凄い威力だ…ただ威力を前提として作っていたのか破城槌は自分の生み出す力に耐えきれずガラガラと瓦解しその形を崩していく


「よっしゃぁぁ!、どーーよ!必殺『破城槌ブレイカー作戦!』」


「クソダセェ名前以外は完璧っスよ!サイラス!」


ぴょんぴょこ飛び跳ねながら崩れた破城槌の奥から現れるサイラス、いやよくやった 本当によくやった、コイツ存外にガッツがあるじゃないか!駆け寄ってその背を叩きたいが ウチの足はガクガクと動かない


ったく情けないな、ウチ…



「フハハハハ!どうだテオドーラ 最後に物を言うのはここなのだ」


「ああ、はいはい でも実際凄かった…やったじゃん、アイツを倒しちゃうなんて」


「だろう?凄いだろう?、ほれ使え」


そう言いながらこちらに近づいてくるサイラスを褒める、今日ばかりはコイツをほめてやらないと、確かにコイツ 力は弱いけど意外と強かなんだな…、おっと サイラスの投げ渡すポーションを受け取り、蓋を引っぺがし一気に中を仰ぐ


「ぐふぅ〜効くぅ〜、足も動くようになった 痛いところももうないし、うん!万全万全」


「だが、終わりではないぞ テオドーラ」


「へ?…終わりじゃないって、もう候補者いないじゃん」


「何をいう、お前本当にアレであの男が倒せたと思うか」


血の気が引く、だが同時に思う…あれで倒れるとは思えない、慌てて奴が吹き飛んだ方向に目をやれば…、吹き飛ぶ 崩れた壁の瓦礫の中から腕が飛び出してくる、マジかよ


「効いたぜ…今のは」


「マジかよ、普通死ぬなりなんなりするだろう…」


ガラガラと瓦礫を跳ね除け起き上がるのはベオセルク、確かに胸元には凄惨な傷がつけられているが、まだ意識がある まだ動けている、城門さえもぶっ壊す一撃を受けて…本当に人間かよ


「ここからが本番だ、テオドーラ…少しでも奴にダメージを与えるぞ、若に繋ぐ!」


なるほど、ウチを回復させたのは…つまりベオセルクと死ぬまで戦えってことか、なるほどね


いーじゃん、丁度ウチも戦い足りなかったところなんだ、最終局面足を負傷して観戦してました じゃあ情けないにもほどがある


「ポーションか 準備がいいなぁ?で?次は…何見せてくれんだ?、軍師サンよぉ」


「地獄だ、楽しみにしておけ!」


と声高にサイラスは叫ぶが、こりゃあ多分万策尽きたな 足が震えている、しゃーなし!あとはうちが死に物狂いで頑張るか!


メイスを握り直し、サイラスと並び立ち…手負いの餓獣の前で構える、大丈夫 あとは若がなんとかしてくれる、そう信じ ウチらは若の戦いに…次に繋げるんだ


「ハッ、楽しみだ…じゃあ 今度は全力で 、行かせてもらうぜ…!!」


「上等じゃこの野郎!、ぶっ殺されても 文句言うんじゃねぇぞ!」


ベオセルクが顔を上げる、メイスを構えて かすり傷一つでいいから 若に繋げる、親の七光りの底力見せつけてやんよぉっ!



……………………………………………………………………


「驚いたな、あのベオセルクという男」


要塞フリードリスの屋上で、レグルスは息を巻く…ここから遥かに離れたホーフェンの地さえ 魔女の目にかかれば事細かに観戦することができるのだ


今私は アルクカースの中央、継承戦の地ホーフェンから遠く離れた要塞フリードリスにてその戦いの行く末を見守っている、最初はホーフォンに残り 近くでラグナ達の戦いを見届けるつもりだったが


アルクトゥルスに 魔女が側にいるのは卑怯と言われ こうしてアルクトゥルスに連れられフリードリスまでやってきたのだ、遠視透視があれば観戦には事欠かんが…、これは弟子の戦いでもある 出来れば側にいてやりたかった


「百星の明は一月の光に如かず、有象無象がうじゃうじゃ集っていようがただ一人の絶対強者の前じゃあ、数の差なんてのは問題じゃねぇんだ」


私の隣で無表情で戦いを見届けるのは 争乱の魔女アルクトゥルス、それを見ても眉一つ動かさない


そう…それ、とは今我々が見ている戦い ラグナ軍とその兄ベオセルク軍の戦い、というよりはベオセルクの戦いぶりか


国王候補最強の第三王子ベオセルク、その名は都度都度聞いていたが やはり奴だけレベルが隔絶しているのが分かる、ベオセルク対ラクレスの戦いも見ていたが まぁ圧倒的だった、ラクレス陣営も強かったがベオセルクはそれ以上に強かった


そしてその猛威はラグナ達にも振るわれ、ただ一人でラグナが集めた軍を壊滅させたんだ、テオドーラもやられた サイラスもリバダビアもバードランドもハロルドも、たった一人の男に打ち倒され残るはラグナとエリスだけになってしまった


「ベオセルクか、それにしてもそっくりだな」


「ああ?、何にだよ」


「アルク…昔のお前にだ」


ベオセルクの戦い方や立ち振る舞いは、八千年前…いや私達と出会ったばかりの頃にそっくりだ、合理を理解した上で合理を捨て 合理を超える、そんな在り方が瓜二つだ…なんていうとアルクトゥルスは嫌そ〜に顔を歪め


「あんなはしたない戦い方するやつと一緒にすんなよ、まぁ分からんでもねぇ ベオセルクを見ていると偶に…あれ?コイツオレ様と同じこと言ってねぇ?って思うことはある」


だろうな、頭がいいくせして調子乗って罠にハマるところとかそっくりだ、しかし…


「自分そっくりだと理解してるなら もう少し応援してやったらどうだ?、お前好きだろ?自分」


「自分と同じだから嫌いなんだよ」


同族嫌悪か、…しかしこうしてアルクトゥルスと少し話しをして分かったが、どうにもアルクトゥルスはラグナに肩入れしているような気がする、気がするって程度別にアルクトゥルスが陰ながらラグナを応援したりとか そんな事してるわけじゃない


ただアルクは気がつくとラグナを見ていることが多い、何も言わないが…黙ってラグナの指示を飛ばす姿を見ている、それが私には分からない


アルクと私は 謂わばライバルのような関係だった、八千年前はよく喧嘩したし殴り合いもした 故にこそ他の魔女よりも私たちの中は親密だった、無双の魔女カノープスに次ぐぐらい私はアルクと仲が良かったと思っている


だからこそコイツの趣味とか趣向は分かるが、ラグナに肩入れする理由が私には分からない、…この八千年で何か趣味に変化があったか?


「ラグナに肩入れしているようだが、なんでだ?」


だから聞く、分からんことは素直に聞くに限る


「はぁ?、別にラグナに肩入れなんざ…いやしてるかもな、まぁしてたとしてもテメェにゃ関係ねぇよ」


そうかい、一度聞いて答えないなら どれだけ食い下がってもアルクは答えない、気が乗らないことは喋らない女だコイツは、なら今は置いておくか


「しかし、こうやってお前と話をしてると 昔を思い出すな、久しぶりに再会したお前とはもうこんな風に穏やかに話せるとは思わなかったぞ」


アルクトゥルスと国境で会った時、コイツはもう狂ってしまったと思っていた 闘争本能に支配され 暴れる怪物に成り下がってしまったと思っていたが、意外なことにコイツは今非常に落ち着いている


存外、あまり変わってはいないのかもしれないな


「………久しぶりか…確かにもう八千年経ってんだよな、なぁレグルス なんでお前はオレ様についてきてくれなかったんだ」


「は?…」


「お前が、あの厄災の中で これ以上ないくらい傷ついたのは分かる、だけど そんなのみんなと一緒なら乗り越えられたんじゃないのか、オレ様とお前なら…そんな傷乗り越えられたんじゃないのか」


「確かにそうだ、…けど 私はこれ以上みんなと一緒にいてはいけないと思ったから…」


「なんでだ?、あの時お前は確かに同じことを言ったが理由は語らなかった、なんでオレ様達と一緒にいられないんだ?」


なんでって…そりゃあ、…あれ?なんでだ?思い出せん なんで私はみんなと離れたんだ、いや理由はいろいろ浮かんで来るんだ、私には世界を治める資格などないとか 私に厄災の責任の一端があるからとか もう疲れてしまったからとか


でも、なんで?と遡ると その根源…謂わばなんでそう思ったかの理由が白い靄のようなものがかかっていて、思い出せない


というか私はそもそも どうしてみんなと離れ身を隠すという選択を…ッ!?、いたた…ダメだ このことについて思い出そうともすると頭が痛くなる、…そうだな もう八千年も前のことだ思い出せなくて当然か


「悪いな、思い出せん」


「そりゃねぇぜ」


だな、私も思うよ…


「ほら、そんな話よりもラグナ達の戦いを見るぞ…ラグナが勝つにしてもベオセルクが勝つにしても次で最後だ、その戦いの行方でこの国の この世界の命運が分かたれる」


「ああ、オレ様が気持ちよ〜く戦争出来るか、オレ様の野望をラグナが打ち破るか その、命運がなぁ?」


やはり戦争は諦めていないか、このまま流れで説得しようかと思ったが、やはり 根っこの部分は変わらんか、だがそれもラグナが勝てばいいだけの話だ


頼むぞ、ラグナ エリス…戦乱を食い止められるかは、お前達二人の手にかかっているんだ


そう願いを込めて、ホーフェン地方の山の奥…流れる川辺の一角、全霊で戦いの場から逃げ延びたエリスとラグナに目を向ける



荒れ始めた 曇り始めた天は、乱世を思わせる風雲か…或いは全てを包む暗雲か…




………………………………………………………………


「はぁ…はぁ、ぐっ イタタ…」


木や枝でズタズタにされた体を 川の水で洗えば、ジンジンとした痛みが走る…清潔とは言えないだろうが、血塗れよりはマシである


痛みに耐えながら、近くの岩部に腰を落ち着かせ 息を整える、ここまで全速全力で走り続けてきたんだ…魔力以上に体力がカツカツだ



…今エリスは…、うん どこにいるか分からない、ホーフェンの山のどこかだと思うけどベオセルクさんから逃げるためにラグナを連れて全力で飛んでいたから、現在地とかは分からない…


そう、エリスとラグナはベオセルクさんの強襲により敗色濃厚となった戦いの中、拠点と仲間を捨てて全力でここまで逃げてきたのだ


敗北した、あの戦いはエリス達の完全なる敗北だ、あれだけの餓獣戦士団と強力な力を持つベオセルクさんとリオンさんに囲まれては、皆はひとたまりも無いだろう、今頃 全員敗れていると見ていい


拠点を失い 仲間を失い、継承戦に負けていないというだけで 先程の戦いはエリス達の完全敗北に終わった


「はぁ…」


思わずため息が出る、まるで相手にならなかった エリスはこれでも何ヶ月もの間師匠と修行を積んで、万全の状態でこの継承戦に臨んだつもりだった、だがどうだこの敗北は…最強になれたつもりはない、だがもう少しくらい…


いややめよう、そもそもあの修行が無ければエリスは役に立つことさえできなかったろうから、そこは前向きに捉えよう


「………ラグナ?」


「………」


エリスは、すぐそこで仰向けになって倒れているラグナに声をかける、さっきから微動だにしないが生きている、意識もある…だが さっきからずっとこの調子だ、空を見上げて黙って…かれこれ一時間くらい動かない


彼はエリス以上に敗北感を噛みしめているに違いない、拠点も仲間も 王子として守らなければならないもの全てを捨てて彼は今ここにいる、彼の見上げる空は、薄黒い雲に覆われ荒れている、あの曇天はまさにラグナの心情と同じと言えるだろう


…どうしたものか、…落ち込むのは分かるが 継承戦はまだ続いている、ラグナがここにいる限り餓獣戦士団はエリス達に追っ手を差し向けるだろう


もしこの場で餓獣戦士団に囲まれればエリス達はどうなるだろうか、そもそもラグナは戦ってくれるだろうか、その追っ手にリオンさんがいたら ベオセルクさんがいたら、今度こそお終いだ、次の行動に移るなら早いほうがいい


かといってさぁ動くぞという空気じゃないのも分かる


「…あ、雨」


川辺でグズグズしている間に エリス達は天候にすら見放されたようだ、ポツリポツリとエリスのおでこに雨粒が滴り あっという間にこの体を濡らしていく、濡れた体は体温を奪い やがてその精密さを奪う…雨晒しになっていいことなど一つもない


落ち込むのは分かるが、今はここから離れよう…近くに洞窟でもあればそこで休んで…


「ラグナ?、雨が降ってきました 場所を移しましょう」


「……エリス」


ふと、彼の方を見る…彼の頬を伝う一筋のそれは雨粒でないことはすぐに分かった


「ラグナ、もしかして泣いて…」


「すまない、…俺が不甲斐ないばかりに せっかく君が作ってくれたチャンスを、君が導いてくれた継承戦を…勝つことが出来なかった、みんなを守ることが…出来なかった」


叫ぶわけではない 泣き噦るわけではない、ただ嗄れた声で絞り出すような声で、静かに ともすれば雨音に負けてしまいそうなか弱い声で…彼は慟哭していた


…ラグナ、よほど先程の完敗が応えているようだ、いや応えないわけがない 彼は全てを背負い戦っていた、仲間と国の未来を背負い 戦い その結果が自分の力不足による敗走…など 平気な顔して笑えるやつなんかいやしない


「ラグナは 良くやっていますよ?」


でもこれはお為ごかしじゃない、本当のことだ 彼はまだ子供だ、エリスとほとんど変わらない子供、本当ならまだ親に甘えていてもおかしくないような年齢で部下をまとめ 物資を揃え 拠点を作り策を編み、国の未来を背負って戦っている、これ以上に恙無くことを進められるなら、それはもう人間じゃない


彼は自分の幼さを言い訳にしないだろうがそれでも思う 、よくやっていると


「やめてくれ、そんな言葉聞きたくない…決意を固めても 勝つと心を燃やしても、絶対的な力の差は覆らない、俺がどれだけ覚悟を決めたって…何も変えられない」


彼の弱音は止まらない、いや本当は心の何処かに隠していたんだ この不安を…、表に出さずひた隠しにしていた暗い感情が、弱くなった彼の心を突き破り 外へ出てきたんだ


「………俺は、弱い…」


打ちのめされてしまった、敗北以上に堪える敗北 体以上に傷ついた心、腐るように崩れた意思と覚悟は 弱さという毒に犯され、立ち上がる力さえも失わせる


そこで、ようやく理解した…師匠の教え、強さとは何か 弱さとは何か、師匠は言った 強さと何かを変えられる力だと 弱さとは何も変えられないことだと


しかしフリゲイトの衛兵たちは見せた、命がけで戦う強さを それでも守れない弱さを


そしてラグナは見せた、無謀な戦いでも一人で戦い抜き諦めない強さを そして見せた、やはりダメだと諦めてしまう弱さを



そこに見る、エリスは強さと弱さを見る 、この二つの形に真理はなく 答えはなく 一定ではなく一つではない、されど根本となる部分は同じ…根っこは同じだ


きっと…きっと、強さとは戦い挑むこと 挑まなければ変えられない守れない 、弱さとは戦わないこと 諦めてしまうこと 挑まないこと、一度自分を弱いと思えば もう挑めない 戦えない 変われない 変えられない


だから、だからこそ!


「ラグナ!」


「え エリス!?」


涙を流し押し黙る彼の胸ぐらを掴む、己を弱いと吐露する彼を強引に持ち上げそして…


「失礼します!」


「え?失礼って…ぶへっ!?」


引っ叩く、その頬を 心を鬼にして出来る限り強く、弱さのこびりついた彼の顔から 弱い心を打ち払うように


「な なんで殴るんだよ!」


「目を覚ましてもらうためです」


「め…目ぇ?」


「いいですか?ラグナ よく聞いてください?、別に折れる事は構いません、敗北感に苛まれ 打ちのめされ力尽きてしまうのは仕方ない事だと思います、でも 決して自分を弱いと思っていけません 弱いと言い切ってしまうのはいけません、それは自分の今までの頑張りを汚してしまうことになるのですから」


胸ぐらを掴みあげ顔を近づけ、出来る限り強い口調で厳しく伝える、弱さを認めてはいけない それは甘えだ、弱くあっていい筈などないのだから


「ラグナは確かに強くありません、でも強くないだけです!これから強くなればいいんです、弱いと諦めてしまってはもう立てなくなってしまいます!」


「………」


「折れるのは構いません、負けるのも構いません 打ちのめされて力尽きて 倒れるのも仕方ありません、ただ負けたらもう一度挑めばいいんです 倒れたら立ち上がればいいんです、強くなければ強くなればいいんです、でも弱さを認めたら 何にもできません、立ち上がれないから戦えない戦えないから変われない 変えられない」


「エリス、…でも俺は」


「でもじゃありません!、挑むのなら 戦うのなら その先にあるものを求めるなら!、どんなに辛くても惨めでも強く在るのです 、強く在れないのなら弱くなければいいのです!弱くなければ また立てます、また立てるのならラグナは まだ戦えます」


「まだ戦えるなら、俺は強くなれる…と言いたいのか?」


「はい、弱くなければいつだって強くなれます、その為にも立ち続け戦い続けなければなりません、弱く在らない為にも ラグナ、自分の足で立ってください、あなたの背中には多くのものが乗ってるんでしょう?ならそう簡単に倒れてはいけません!」


結局のところ 弱くなければいいのだ、自分を弱いと思わなければいいのだ…たとえ無理筋でも自分だけが想い続けていればいい、強さとは自分の中にあるもの それを否定してはいけないのだ


「立て…か、君は厳しいことを言うな…立って 挑んで…また負けたらどうするんだ」


「また挑むんです、戦い続けること挑み続けること…いいえ、何かを求め続けることが 強さなのですから、それを捨てたら 何も得られません」


「…………」


ラグナは考える、別にエリス説得されたとか エリスの無理矢理な理屈に感銘を受けたとかではない、ただ…決着をつけているのだ、自分の中の弱い自分と


「…エリス、やはり俺は君ほど強くはない…」


「ラグナ…でも」


「でもじゃない、…まぁ 君ほど強くはないが 確かにこのまま弱い弱いと自分を卑下にし続けても意味がないな、気持ち一つで何かが変えられるとは思えないが。気持ち一つ変えられないなら 国を変えるなんて夢のまた夢か」


そう言うと彼はエリスの手を離れ、ゆっくりと大地に立ち…


「よし…休憩は終わりにしようか、このまま蹲ってたら 弱くなっちゃうもんな」


「ラグナ!…はい!」


そう言う彼の瞳には、また いつもの力強さが宿っていた、折れたかもしれない負けたかもしれない、もう戦うだけの何かは残ってないかもしれない、でも…まだ 挑み続けることはできる


………………………………………………


その敗北は決定的だった、俺とベオセルク兄様の間にある差を、まざまざと見せつけられるかのような敗北は…俺の心に深く残った


ベオセルク兄様が強いのは分かりきっていた、誰しも彼を真のアルクカース人と称えるほどの力を持ち、敵対する全てをねじ伏せてきたその強さを 一番間近で見てきたのは他ならぬ弟である俺だからだ


だから、その強さを知っていたから こうして手も足も出ずに負けてしまうことに関して、あまり驚きはなかった、あるのは諦念に似た 『やはりな』というため息だけ


どれだけ頑張っても兄には勝てない どれだけ背伸びしても兄には及ばない


今まで必死に目を背けてきた現実で頭を殴られ 打ちのめされた、兄の強さには敵わない…それを心から理解してしまった時、俺はもう戦う気さえ失せてしまっていた


仲間を見捨て 拠点を捨てて なんとか生き延びこの川辺に到着した頃には、もう俺の中には諦めと言い訳しか残ってなかった、きっと俺はここで腐っていくんだ、信念も果たせないまま…弱いまま…俺は



そう、諦めかけていた時 俺を引き起こし、その頬をぶっ叩いて目を覚まさせてくれたのはやはりエリスだった


彼女は言った『打ちひしがれても負けても倒されても、弱く在るな 強く在れ』と例えどんな状況でも弱さにだけは負けるなと…厳しく叱りつけるように、俺に気持ちをぶつけてきたんだ


エリスの言葉を聞いて感極まって俺は奮起…なんて言えるほど、俺は単純じゃない …だけど同時に思った


エリスの語る強さとは、即ちベオセルク兄様の強さと同じなのではと


俺はあの人は強いから負けないと思ってきた、強いから最後まで立っているんだと、違う 逆なんだ、ベオセルク兄様は誰が相手でも負けないから強いんだ、どんな状況でも最後まで立っているから強く在り続けられるんだ


それに引き換え俺はどうだ、何があっても諦めないと口走りながら一度負けたくらいで地に伏し弱さを言い訳に今 弱者になりさがろうとしている、そうじゃないんだ…


立つんだ、俺はエリスほど強くない ベオセルク兄様ほど強くない、けど 二人と同じように立ち続け挑み続けることくらいは出来るんじゃないのか?、挑み続けることくらいは俺にだって出来るんじゃないのか?


違う、やるんだ…諦めないと口にするのは易い、だが挫折を前にした時 立ち上がれるかどうかが分水嶺なのだ、諦めないのなら 諦めないのなら!


もう一度 自分の足で立ち、何度でも 兄の前に立つんだ…全ては、この国のを守るという 信念のために


「さて、じゃあ始めるか…打倒ベオセルク兄様作戦の軍議を」


俺は、近くの雨を凌げる場所でエリスと二人きりの軍議を始める、もう一度兄と戦う為の最後の軍議を


「おー!、やってやりましょう!ラグナ!」


こんな絶望的な状況だというのに彼女は快活に笑っている、本当に強い子だ…俺以上に絶望的な状況を潜り抜けてきた経験からか、彼女のこの明るさには救われる


「ああ、しかし 負けん気を抱えて再戦しても、まぁまず負けるだろうな」


「ですね、悔しいですがエリスとラグナが120%の力を発揮し連携を完璧にこなしてもベオセルクさんはそれを上回ってくるでしょう、エリスが今まで戦ってきた相手の中で間違いなく最強の相手です」


「俺にとってもそうさ、策を用いて翻弄したいが…何かいい手は無いものか、エリス?君何か策はないかな」


「え エリスですか!?策といっても…」


確かにエリスは軍師じゃない、策を弄すればサイラスの方が上だ、だが土壇場で発揮するその閃きは目を見張るものがある


エリスの真の武器は強力な魔術でも記憶力でもない、最後の最後 瀬戸際になって突破口を切り開くアイディアこそがエリスの真骨頂だ、だからこそ それに期待してエリスに考えを聞く


「…作戦一つ 戦い方一つでどうにかなる相手ではありません、やはり道具か何か…別のプラスアルファが欲しいところですが、ラグナ 何か持ってますか?」


「持ってますかって、いきなりのことだったから何も持ってないぞ」


「なるほど、となるとエリスの手持ちで何とかするしかないですか」


というなりエリスは腰に下げたポーチからあれやらこれやらを次々取り出す、ってすごい量だな


「エリス…普段からこんなに持ち歩いているのか?」


「普段はもう少し抑えめですが、継承戦に当たって 拠点にあるものをいくつか拝借していたんです、ホリンさんの時には使うことはありませんでしたがね」


そういって地面に並べるのは数多くの道具達、ペン インク 紙のような雑貨品と小型のナイフと…松明用の油を少量そして紙に包まれた爆薬?、全部拠点にあったものだ いつの間にくすねていたんだ


「師匠が最悪拠点が陥落しても一人で動けるようにと仰られていたので」


「レグルス様の…なるほど」


あの人がまだ戦場に残っていてくれたら知恵を授けてくれたか、或いはこの状況も少しは違ったんだろうが、いない人間のことを気にしてもしょうがない


「あと持ってるとしたらポーションでしょうが、これは今のエリスとラグナの傷を直したら空になっちゃいますね」


「実質空き瓶一個みたいなもんか、ふぅーむ しかしどうしたものか、これらを組み合わせてもな…油や爆薬は策に用いるにしては少ないしな」


「どちらもきっかし一回分です」


爆薬の一回分って何なのかよくわからんが、確かに数は多くない 建物一個吹っ飛ばすなんて夢のまた夢な極少量、…武器としては使えなさそうだ


「あと、ラグナ…先ほどの戦いを見ていて思ったのですが、ラグナ 争心解放は使えないのですか?」


「えっ…いや、使えないことはないけれど…」


いきなり飛んできたエリスの言葉に思わず目を逸らしてしまう、しまった さっきエリスを助ける時思わず使っていたか、いや…まぁ俺もアルクカース王族の端くれ 争心解放の一つくらいは使える…使えるには使えるが


「出来れば使いたくないってのが本音だ、…頭の中を闘争本能一色にして気がついたら敵が倒れてる…ってのが苦手なんだよな、前使った時もやり過ぎて 敵を倒しても止まらずそのまま要塞に突っ込んで大暴れ、父上をなぎ倒してそのままアルクトゥルス様に飛びかかったらしいんだ、俺」


争心解放と一口に言っても様々だ、ホリン姉様のように純粋に戦闘能力が向上するだけのタイプと、テオドーラのように漲る闘志に性格が引っ張られるタイプ、そして 俺みたいに自我を失い暴走するタイプ…俺のは争心解放の中で最悪のタイプと言える


瞬間的な馬力は恐らく俺が一番強い、何せ自分の体のことを考えないから 腕がへし折れる勢いで殴れる、腰が千切れる勢いで蹴れる、だが…結果的に何をするか分からないそれを戦いに用いる気にはなれない


「まるで暴走ですね…でもさっき使った時は暴走しているようなそぶりはなかったですよ?」


「そうなのかな、記憶が曖昧だからよくわからないや、ただエリスを助けることで一杯だったから…、なぁエリス 俺も争心解放使ったほうがいいかな」


「暴走ですか…ではその辺は任せます、不確定要素を作戦に持ち込むのは怖いので 飽くまでエリス達の作戦は確実に発動させ 確実に効果があるものにしましょう」


エリスは少々残念そうだ、俺が争心解放をしっかり使えれば 確かに単純な戦力アップに繋がるが、もしかしたら俺が暴走した結果エリス襲いかかる可能性があるんだ、そんな不確定なものは持ち込めない


そう残念そうに吐息を吐くと再び自分の持ち物とにらめっこを始める、…何か 俺にできることはないだろうか


「ん?…」


するとふと、奥の茂みががさりと揺れるとが見えた…雨粒で弾かれたようには見えない、魔獣か 最悪追っ手か…どちらにせよ平和的な解決は望むべくもない、泥で汚れた宝剣ウルスに手を掛け茂みを睨む


「……あれ?ラグナどうしました?」


「シッ、奥の茂みに何か……」


刹那、エリスの声を引き金に 茂みが一層揺れ 中からそいつが飛び出して…


「ココにいタカ、ラグナ エリス」


「リバダビア!?、無事だった…訳ではなさそうだな」


茂みの奥から現れたのは、全身を酷く痛めつけられたリバダビアの姿だった、いや 彼女は拠点に残してきたはずだが、というか


「何故この場所が分かったんだ…それに何でお前がここに、戦闘が終わったわけじゃないんだろう?」


「ウルサーイ!、順を追って説明スル!、だが お前達二人が無事で良かッタ、皆勇敢に戦った甲斐がアル」


というとリバダビアはイタタと体を揺らしながら俺たちの隣に座り体を休める…、その後 彼女は一つ一つ 詳しく状況を説明してくれた




まず俺たちの拠点だが、やはり陥落したらしい サイラスとテオドーラが粘ってくれたらしいが、最終的にはリバダビア以外の人間全員敗北したらしい、命までは取られていないようだが皆気絶させられ ホーフェンの外に叩き出されたようだ…これで皆は失格


そんな中リバダビアはベオセルクとの戦いの最中サイラスに若の援護を頼むと声をかけられ気絶したふりをして皆が敗れた後 隙を見て抜け出したようだ、リバダビアはカロケリ山という険しい自然の中で育った野生児、その嗅覚と自然の中での動きはピカイチだ、故に森の木々に付着したエリスの血の匂いを辿ってここまでやってきてくれたらしい


…その後、遠目にだが拠点に崩されているているのを確認したようで 俺たちの用意した全ては瓦礫の中に消えた、唯一の救いはサイラスが事前にポーションを使い切るよう動いてくれていたおかげであの反則ポーションが敵の手に渡らなかったことくらいか


しかしおかげで残りのポーションはエリスの持ってきたポーションとリバダビアが持たされた物の計2本のみ、それも今の俺たちの傷を癒せば残りはゼロだ…


「そうか、…分かってはいたけどみんなやられたか」


「アア、皆勇敢に戦っタゾ、偉大なりしアルミランテも討滅戦士団相手に奮戦シタ、負けたガナ!やはり魔女直属強イ!」


「アルミランテさんまで、エリスを助けたばかりに…」


「安心シロ、敵には手傷は負わセタ、ベオセルクにも討滅戦士団にもこれでもかってくらい傷跡を残してやッタ、後はアタシ達が勝つだケダ」


……勝つだけ…か、確かにな もうジタバタする領域はとっくに超えたのかもしれない、サイラスもテオドーラも バードランドもハロルドも、カロケリ族もモンタナ傭兵団も…俺に手を貸してくれた他の兵団達も、皆俺が最後に勝つ事を信じて 戦い続けた 張り続けた


なら、やっぱり俺は みんなの為にも最後まで強く立ち続けなきゃな


「…ラグナ、エリスもいくつか策を思いつきました 決定打にはなり得ないでしょうが、ベオセルクさんにも通用するはずです」


「アタシもこの傷を治せば直ぐにでも戦えルゾ、ラグナ」


二人は既に覚悟を決めているようだ、…戦士は俺を含めだった三人 対するは最強の名を冠する王子とその配下達、戦力差は絶望的、だというのに恐れも諦めももう俺の中にはない


ここまできたらやるしかない、いや やるんだ…俺は、彼女達とベオセルク兄様に勝つ、仲間の意思とこの国を守る為に


「エリス リバダビア、俺は今からベオセルク兄様を倒しに行く…ついてきてくれるかな」


「ええ、勿論」


「何を当たり前のことを聞いてるんだバカタレーッ!それよりも作戦伝えろアホーッ!」


殴られてしまった、だがいい…それじゃあ長かった継承戦に幕を閉じる最後の戦いを始めよう

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