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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十五章 メイドのメグの冥土の土産
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510.魔女の弟子と姉の想いを知る妹


ゴールデンスタジアム地下、ハーシェルの影が仕掛けた爆弾を眺めるラグナとステュクス。そして解除に勤しむデティとイシュキミリの間に暫しの沈黙が流れた…。


この解除が済んだら次はなにをするべきか、そう考えていたラグナは。


「………」


後はデティ達の作業が終わるのを見届けて…ん?


「どうした?ステュクス」


「え?あ…えっと」


ふと、視界の端に入ったステュクスの仕草が気になり声をかける。何やら彼はタンクを見て怪訝そうな顔をしているんだ、何か気がついた事があるなら聞いておきたいが…。


「いや、どーでもいいことなんすよ、だから気にしなくても…」


「なんでもいい、気がついた事があるんだろ?なら聞かせてくれ」


「ええっと、…実は」


すると、ステュクスはポケットに入った何かを取り出しこちらに見せる。これは…空き瓶?


「なんだこれ」


「試合終わりにスタッフから渡された治癒のポーションの空瓶です」


「これが…どうした?」


「いや、ポーションって大体このくらいの器に入れられてるもんなんですよ、詳しい事は分かりませんがなんたら法っていう条約で瓶の大きさと中に入ってるポーション量って国を問わず決められてるみたいで」


「魔力薬物規格比準算定法だな」


「そ、そう!それ!よくスラスラ出て来ますね」


その瞬間デティから飛んでくる『違う!魔力薬物規格算定比準法!』と言う訂正が飛んでくるが無視しよう、格好悪いし。


魔力薬物規格算定比準法とはポーション一本につき使える瓶の大きさはこれくらい、中に入れられる量はこのくらい、そして量と品質から価格を割り出し決められた額を定める法律の事で魔女十八権にて定められた国際基準法だ。


この法律が無いと劣悪な出来のポーションでも大量に売り出し一商品として売ればそれなりの額として売ることが出来てしまう。それがどれだけ劣悪な出来でも一気に樽一杯!とかになると普通の出来のポーションと同じ額になってしまうんだ。


するとどうなる?ポーション作りのノウハウもない奴でも大量にポーションを用意すれば商売が成立してしまい市場に出回るポーションの品質の下限値が底なしになってしまう。そうなると真っ当なポーションも売れなくなり魔力薬学業界は先細りになってしまう。


それを防ぐ為一つのポーションにつき量はこれくらい、額はこれくらいと定める基準を作りあまりにも劣悪なポーションが市場競争に参加出来ないようにする。それが魔力薬物規格算定比準法だ。


つまり、この世に出回る正規のポーション一本分の量は基本的には全て同じなんだ。中には大量に摂取しなければ効果が出ない物を売る為比較的大容量で売る場合もある為一概に同じとは言い切れないが…まぁこれは例外なので今は省くとして。


「それで?それがどうした」


「いや、この治癒のポーションに偽装してあの爆弾ポーションってこのスタジアムに持ち込まれたんですよね…。確か俺が見た限り治癒のポーションは二百本あったはず…」


「そうなのか?そこまでは知らないが…」


「二百本です、これは間違いありません。で、その二百本のポーションに偽装したなら治癒のポーションと同じ形同じデザイン同じ大きさの木箱に爆弾ポーションを入れて持ち込む必要がある。となるときっと使われてる瓶も内蔵量も同じじゃないと疑われる、だからあの爆弾ポーションは治癒のポーションと同じ量だけスタジアムに持ち込まれてる筈ですよね」


「そうなるな…ん?」


ステュクスがポーションの空き瓶を翳して目の前に置かれたポーション爆弾…そのタンクに込められたポーションと比較する。そこまで行って俺はようやくステュクスの言いたいことを理解する。


それは…恐らく。


「なんか、見た感じですけど…あそこにあるポーションの量。二百本分には見えないんですけど」


「ッ…!デティ!そのタンクに収められているポーションの量!どのくらいか分かるか!」


「え、えっと、目分量でいい?目分量でいいなら、見た感じ赤五十青五十、計百本分!」


「なッ…!?百本足りない…!?」


ゾッとする、確かに治癒のポーションに偽装してあの爆裂のポーションはスタジアムに持ち込まれたことになる。治癒と爆裂…それぞれを別の日に搬入しチェック係の目を誤魔化し勘違いさせ掻い潜る必要があるから、でなければバレてしまうから…。


しかし、だとするなら爆裂のポーションは治癒のポーションと同じ量だけ持ち込まれていなければならない。


だってスタジアム側も持ち込まれるポーションは確認しているはずだ。そこで治癒のポーションと偽って二百本持ち込まなければ『なんかそのポーションの量少なくない?もしかして治癒のポーションじゃない?』と怪しまれてしまう。


つまり、治癒も爆裂も同数スタジアムに持ち込まれていなければならない。だがここに置かれているポーションの量は合計百本分しかない…二百本あるうちの百本しかない。


あと半分…この場に無いんだ!


「まさか別の場所にまだ爆弾が仕掛けられていると…!?」


「や、やば!すぐに探しに行かないと!」


「待て!」


慌て出すロレンツォ卿と探しに行こうとするステュクスを止め、俺は顎に拳を当て考える。待てよ…考えてみろ、おかしいぞ。


「なんでそんな悠長な!まだスタジアムの何処かに爆弾が仕掛けられているかもしれないんですよ!ほっといたらスタジアムが!」


「スタジアムの内部にはない…!」


「え?なんでそう言い切れるんですか?」


「そりゃ、俺達がまだ生きてるからだ」


「へ?あ…!」


そうだ、ポーション爆弾の時限装置はとっくに作動している。別の場所に爆弾があったとしたらそっちも同じ時間に時限装置が作動していてもおかしくない。つまりもう爆発しているべきなんだよ…だが俺たちはまだ生きている、つまり爆発はしていない。


だからスタジアムには無い、どれだけ探しても出てくる事はない、これは確実だ。


だが…だとするなら。


「…じゃあ残り百本は何処に消えたんだ…!?」


異様だ、なんだかとても異様。気味の悪い意図が垣間見得て非常に嫌な気分になる。


スタジアムに爆弾が仕掛けられていないと言う事はどう言う事だ?…状況を見るにスタジアムに持ち込んだ爆裂のポーションを一度半分にしてその半分を態々外に出したことになる。なんでそんなややこしい事をした?こちらを撹乱する為?


いや、奴等は殺し屋だ。何かしらの計画の為に爆弾を用意した…ならスタジアム爆破は計画の一部。だったらこれも…いや。


(計画に変更があったのか…!)


この爆弾が用意されたのが数日前だとするなら…、その数日の間に奴らの計画を狂わせる何かがあったのだとしたら。


もう半分のポーションは…。


「メグか…!」


数日前に計画が始動し、そこから爆弾を仕掛けたのなら…コーディリア達がメグと邂逅したのは爆弾を設置した後!つまりメグの存在はコーディリア達にとってもイレギュラーだったはず。


そして今日まで始末出来なかったのなら、この際にメグもまた抹殺しようとするんじゃ無いのか!?なら爆弾があるのはメグの所だ!


「まずい!もう百本は恐らくクルス邸にある!」


「え?なんでですか?」


「メグは今クルス邸に向かってるんだよ、俺の推理だから恐らくと言う言葉がついて回るが…」


恐らくハーシェルの影達に依頼を出して動かしていたのはクルスだ、アイツがハーシェルの影を街に招き入れて動かしていた、館に入れて匿っていたんだ。まぁその事実に気がついたのは『スタジアムに爆弾が仕掛けられている』『そんな中一番早くスタジアムから逃げ出したのがクルス』と言う二点があったからだが。


きっとメグはクルス邸に向かった、だからアマルト達もそちらに向かわせた…けど。


「メグが危ない…今すぐ助けに向かわないと!」


「今から行くんすね!俺も行きますよ!」


「いやステュクス、お前は…」


「ね、ねぇ叔父さん、ラグナ叔父さん」


「後にしろリオス、ともかくステュクス、お前はここに残れ。向こうは敵の本拠地だ、お前も消耗しているだろうし危険だ」


「けどラグナさん!俺だって…」


「ねぇねぇ、ステュクス」


「後にしてくれクレー、俺だってメグさんにはお世話になったんです、あの人が危険なのに黙って指咥えてるなんて出来ねぇ!人の命が危険に晒されてるのに自分の命が危険だからって理由でなんか引き下がれねぇよ!」


「ステュクス…」


どうやら俺は、ステュクスと言う男の気概というものを見誤っていた様だ。そうだよな、でなけりゃここまで一生懸命戦わねぇよな…うん、それでこそだ。


「よし、なら俺とステュクスで今からクルス邸へ行ってくる!ここは任せていいか!デティ」


「いいよ!ラグナここにいてもやる事ないでしょ!」


「そうだけどもっとオブラートに包んで言って…、んじゃリオスとクレーはエリスを見ててくれ…」


リオスとクレーは気絶したエリスの介抱を頼む…と言いかけ、二人の様子を見て違和感に気がつく。リオスとクレーは何やら困ったように眉を顰めている…そしてその手元には…。


「…おい、エリスはどうした」


エリスがいない、さっきまで気絶していたはずのエリスがいないのだ。そう問いかけると二人はみるみるうちに眉を吊り上げ。


「だーかーらー!行っちゃったの!エリスさんが!」


「行った?何処に?」


「『クルスのところにメグさんがいる』って…ラグナさんの話を聞くなり目を覚まして飛んでちゃったの!」


「はぁ!?なんで言わなかったんだよ!?」


「言おうとしたのに聞いてくれなかったんじゃん!」


マジか…ああくそ!全然気が付かなかった!しかしエリスのやつ目が覚めていたのか?いや…多分ほぼ無意識に『メグが危ない』と言う言葉に本能で反応して飛び起きたんだ。彼女はそう言う事をする人だ。


しかし…あーもー!どいつもこいつも!単独行動ばっか!


「悪かったよ、リオス…クレー。だったら次はデティの警護頼む」


「え!私たちも行きたい!守っても守ってもらわなくてもいいよ!」


「違う、守る守らないじゃない」


そう語りながら俺はステュクスの手を掴む。するとステュクスは目を丸くして『え?』と口を開く…がそれをは無視!


リオスとクレーは連れて行かない、それはこの子達実力云々ではなくそもそも…。


「急いでるからだ!ついて来れるならついて来てもいいが…多分無理だろ!だから残ってろ!」


「え!?ちょっ!ラグナさん!待っ─────」


走る、ステュクスを背中に投げ乗せそのまま抱えて走り出す。俺の背中に乗せられるのは一人だけ、そのまま全力で走っていくならリオスとクレーを連れて行く余裕はない。


事実二人の抗議の声は俺の耳に入る前に遠ざかって行く。


「っしゃぁあああ!!舌噛むなよ!ステュクス!!」


「ッッ〜!?ッッーー!!」


走る、全力で走る、部屋から飛び出るなり砂塵を巻き上げ一気に廊下を走り道がわからなくなったので取り敢えず天井をぶち抜いて壁を走り地上を目指す。


待ってろよメグ…いや、待ってくれよ!世界…!頼むから間に合ってくれ!


………………………………………………………………


クルス邸…庭園。つい先程までコーディリアとアマルト達が戦っていた戦場にて。彼女は踊る。


「ふぅ〜〜〜…やはりいい、戦闘か…内容は筋力トレーニングとさして変わらないと言うのにアドレナリンの分泌量がまるで違う。人類が争いをやめられないのはきっとここに楽しさがあるからなんだろうね。君達もそう思わないかい?」


ハーシェルの影その三番…『破壊殺のチタニア』。ウルフカットの髪に鋭く尖った黄色い瞳を持った執事服の麗人は白いシャツにかかった埃を払いながら恍惚の表情を浮かべる。


彼女こそ、今アマルト、ナリア、ネレイドの三人が相対する『敵』である。彼女を倒さない限りメグを助けにいけない…だと言うのに。


「お、おいおい…嘘だろこれ…!」


「うう…」


今アマルト達は敵と『相対』自体出来ていない。全員が地に倒れ伏し驚愕する事しか出来ない。チタニアと言う存在の強大さに。


コーディリアは六番、チタニアは三番、そこまで大きな差はない…と何処かで思っていたのかもしれない。油断はしてないが楽観はあった…だが。


(別格過ぎる…コーディリアとはまるで比べ物にならねぇ。コイツに比べたらモース大賊団一番隊の隊長だったカイムでさえ可愛く見える…)


強い、あまりにも強い、強すぎる。ここまで強い存在をアマルトは魔女と姉以外に見た事がないほどに強すぎるのだ。先日物の見事に敗北を喫した一番隊の隊長カイムでさえ比較対象にならないほどチタニアは強かった。


そして何より驚きなのは…。


(これで『三番』かよ。同じ三魔人の最高幹部達とは比べ物にならない奴が三番手って…とんでもないのに喧嘩売っちまったんじゃないのか、俺達は)


ジズとジャックとモースの実力にそこまで差はない、全員が同じ三魔人。恐ろしい事に変わりはないが既に三魔人のうち二人を倒している自分達からすれば今回もなんとかなると楽観していた。


だが違った。組織力がまるで違う。ハーシェルの影達と言いコーディリア達と言いチタニアといい、下にいる連中の強さが違い過ぎる。


「さて、そろそろ私も本調子を取り戻せつつある。今までウォーミングアップに付き合ってくれてありがとう。そろそろ本気でやろうか」


(マジか、しかもあれ…強ち嘘とかハッタリで言ってる感じでも無さそうだぞ…)


辟易する、あれで本気じゃなかったのかと。こっちは三人でかかってるのにクリーンヒットを一発も与えられてないのに。


どうする、こっちも切り札を切るか?…一応あるにはある。制作難易度もバカ高くコストも洒落にならないからストックが殆どない俺の切り札…『ヒーローブレンド』。


魔獣の血を使った『ビーストブレンド』


アルクカース人の血を使った『ブレイブブレンド』


そして非戦闘型の『アイデアブレンド』


これら全てのブレンドはこの『ヒーローブレンド』を作る為の試作品と言ってもいい段階のもの。コイツはその費用と手間に見合う強力さを持つが…。


恐ろしいのは、今の俺の体力でヒーローブレンドを維持出来るか分からない点。既にビーストブレンドを二本程服用している状態で更にコイツを使えば、ちょっとマジで死ぬかもしれない。


ここで俺が死んだら…ナリアとネレイドが二人になる。そうなったら二人も死ぬ…それはダメだ、ヤケクソになるな…もっと考えるんだ。


「しかし、私と本気で戦えそうなのは…限られているね」


するとチタニアは顎に指を当て俺達を見て。


「まず、そこ茶髪の君」


「え?俺?」


チタニアは俺を指差し、やや不満げな顔を見せると。


「君は誠実な人なんだろう。剣の一振り一振りに仲間を思い遣る連携の心が感じられた。だがそれは脇役の考え方、ステージの中央に立つ男のやることではない。よって不合格」


「ふ、不合格?」


「そして次は女の子のような君」


「ぼ、僕ですか?」


「君は美しいね、動きも戦い方も何処を切り取っても芸術的だ。だが私と戦うにはあまりにも実力不足。よって不合格」


俺とナリアに向けて不合格とかなんとか吐かしながら勝手に失望するチタニアにちょっとイラつく。何?お前、品定めしてたの?


まぁ確かに俺達は不合格かもな…けど。


「だが…君は違う」


ネレイドは違う、俺は倒れ、ナリアも仰向けに転がる中…唯一傷つきながらも立ち続けるネレイドだけはチタニアは評価した。


「私…?」


「君はいい、何よりビジュアルがいい。大きいことは良いことだ、胸も尻も太腿もデカい方が良い。何より力強く逞しい…君は私と戦うに値する。喜び給え、君の在り方は私の琴線を刺激した」


「……嬉しくない」


「そうかい?私はこれでも世界各地の格闘技に手を出していてね。ボクシング…サバット、トツカのジュウドーにも触れている浮気者なんだ。そんな私から見て君のレスリングの技術はまさしくパーフェクトと言わざるを得ない。是非君を私の専任コーチに指名したいくらい…君は素晴らしい」


パチンと指を鳴らしネレイドを絶賛するチタニアはそのまま両手を叩いて『おめでとう』と祝辞さえ述べる。まぁ当のネレイドは全然嬉しそうじゃないが。


「バカにしてる…?」


「してないとも、君はスポーツ格闘技において私より優秀なファイターだ。そんなの初めて見たよ…けど、恐らくだが君は…」


しかし、チタニアは満面の笑みでポキポキと拳を鳴らし…。


「平場の殺し合いは素人だね、この場では私に理があるようだ…だがまぁ君で妥協するよ、殺し合いをしよう…君の殺人処女は私が貰うよ」


「…殺し合い、しない…私は人を殺さない」


「はぁ、失望させないでくれ。それは倫理観の話かい?それともなんとなくの正義感かい?どちらもくだらない。これは実戦、互いの命を賭けた真剣勝負…その場に相手を殺さないなんて理屈は要らない」


「それでも、殺さない」


「理屈的じゃないな、それは甘さだ。殺せないようじゃ真の闘争とは言えないね…まぁいい、その甘さでここまで来た事自体何かの間違いだろう。ならファイブナンバーの一員としてその間違いは正さねばならないね」


するとチタニアは静かに、そして流れるように手を開き構えを取る。あれがチタニアの戦闘スタイル。


「さぁ、今度は私に『魔術』を使わせてくれよ…」


───『破壊殺』のチタニア。依頼を受け行う暗殺はとても隠密とは言えず、暗殺対象が居住している館諸共全てを粉砕する特異な暗殺スタイルが特徴とされるハーシェルの影屈指の超パワーファイター。


その戦闘スタイルは空魔殺式を基盤に構築した全く新しい戦闘法。空魔殺式そのものを改定した独特の拳法──。


「空魔暗殺拳…」


剣は使わず、銃は使わず、己の肉体のみで戦う彼女を前にアマルトの斬撃は弾かれナリアの魔術は潰される。あれだけでもめちゃくちゃ強いってのに…まだ魔術まで隠し持ってるんだからどうしようもねぇ。


「クソッ、ネレイドだけに戦わせてたまるかよ…」


「血みどろの麗人…受けると思ってやってるなら大滑りですよ。僕が本物の美しさを見せてあげますから…!」


「ふむ、じゃあもう三人まとめてかかってきなさい。はぁ…完璧な私もモテすぎる点については欠点と言わざるを得ない」


自己肯定感最強かこいつ。…俺ももう引けないんだよ、またカイムの時みたいにボロ負けで仲間を助けられませんでした、って経験は一度で十分なんだ。


絶対…メグを助ける!


「…しかし、もう時間も残されていないだろうし。早めに終わらせるか」


「……あ?」


ふと、今の今までずっと仰々しくこちらに向けて語りかけ続けていたチタニアが…ポツリと呟いた言葉が妙に引っかかった。


もう時間も残されていない…?何がだ?メグが死ぬまでの時間?いやそれなら別に早めに終わらせるかなんていう必要はないだろ。


…そう言えばコイツ、最初も『時間稼ぎ』とか言ってたな…最初はコーディリアがメグを殺すまでの時間稼ぎかと思ったが、それはトリンキュロー…詳しくいうならトリンキュローの中に仕掛けられた爆弾の仕事のはず。


(なんか妙だ。なんでコーディリアはメグのところに行った…なんでコーディリアはここで待ち受けていた。なんで決戦の場所が『ここ』なんだ…?)


トリンキュローの中の爆弾を使い、メグを殺そうと思うなら場所など選ぶ必要はない。クルス邸で待ち受けている必要はない、なのに向こうはこちらの動きをある程度予測した上で敢えてここで待ち受けた…それは、何故なんだ。


まさかまだ…別にあるのか?奴等の計画が。


「ネレイド!なんかやばそうだ!早めに決着つけるぞ!」


「うん…うん?」


「……おや?」


瞬間、その場にいるネレイドとアマルト、そしてチタニアが何かに気がつき庭園の外に視線を向ける。何かが近づいてきているんだ…それも超高速で。


なんだ…いや、まさか…。


「おっと、頭上を通り過ぎられてしまった…今のは何かな?隼?それとも鷹?」


一瞬だった、それが俺達の頭上を通り抜け館の壁をぶち抜いてクルス邸へと入って行ったのは。チタニアはニタニタ笑いながらその様を夢想するように呟くが…。


俺たちには分かった、今…一瞬見えた金の髪は、間違いなくアイツ!やっぱりここぞと言う場面ではクソ頼りになるなアイツは───。


「まぁいい、まずは目の前の相手を殺し…後から確かめよう」


「ッ…しま…ッ!!」


「なっ!?ネレイドッ!」


しかし、余所見をしていた俺達をチタニアは見逃していなかった。別の場所に注意が向いたその瞬間を狙い手を鋭く尖らせ貫手の構えをとったチタニアが一気にネレイドに迫る。


まずい、チタニアの一撃はまずい。いくらネレイドでも弾き切れない!ヤベェ…気を抜いた────。



『私を忘れるなぁぁああああいあいあいあい!』


「ッ…!」


しかし、その手がネレイドに触れる寸前。響き渡った声にチタニアは動きを止め大地を蹴り砕きながら背後へと飛ぶ。と同時にチタニアが先程まで立っていた所に…そいつの蹴りが降り注ぐ。


「君は……」


「状況は何もわからん、けど!試合終わりにランニングで一気に駆け抜け私推参!私の知り合いに手を出す奴は全員蹴っ飛ばす!で…いいんだよね、ネレイド・イストミア!」


「オケアノス…!」


オケアノスだ、サッカーのユニフォームを着たままのオケアノスが何故かクルス邸まで飛んで来たのだ。


何でこいつがここにいる、オケアノスは今スタジアムにいるはずじゃ…いや、もうなんでもいい!このままチタニアを押し切るしかない!


………………………………………


「姉妹揃って、殺してやるよ…マーガレット!」


「う…く……!」


震える手で腹に突き刺さったナイフを抜く…が、状況は改善しない。ナイフに塗られていた麻痺毒のせいで体が動かない。恐らくこれは空魔謹製の『金縛り毒』…下手をすれば呼吸困難に陥り死に至る神経毒。


まぁ、そこの対策はしてるから体内浄化自体は可能…なんだけど。体が動くようになるまで数分かかる。


その数分が…今この状況においてはあまりにも膨大に感じる。


「コー…ディリア…」


「くっ…ふふ、その顔が見たかった…ずっとずっと…」


コーディリアだ。トリンキュロー姉様を取り戻して後は脱出するだけだというのにここに来てコーディリアの強襲を許してしまった。傍に居る姉様も今は万全ではないし私に至っては動けない。


こちらに向け銃を構えるコーディリアをなんとかする方法が…何もない。


(せめて、姉様だけでも…)


そう思い時界門を開こうと魔力を集めるが…ダメだ。体が痺れて上手く詠唱出来ない。…こんな、肝心な時に!


「コーディリア…、お前はまだメグの事を…」


「聞きたくないし、聞くつもりもありませんよトリンキュロー。洗脳が解け爆弾が起動しなかった時点でお前はもう用済み…、裏切り者はここで妹と一緒に死になさい」


「……ここまで、ジズに尽くしてきたというのに。私をあっさり切り捨てるんですね…」


「当たり前だろう、娘が父に服従するのは当然。そこに見返りを求める事自体おかしいんですよ」


「…なら、貴方もいつかジズに切り捨てられますよ。あの男の脳内に手駒を大切にするなんて発想自体ないんです。お前も…ファイブナンバーも…いずれ使い潰される。ジズは己さえ生存していればそれで良いと考えているはずですから」


「ああ…嗚呼、姉妹揃って本当に…父の事を分かったように、語るんじゃない!」


瞬間、コーディリアが私を狙い機銃のトリガーを引き───。


動けない、銃弾が放たれると分かっているのに動けない。これは回避出来ない、流石に死んだか…でも。


最期に姉様に会えたなら…まぁ、それも……。


「グッ…!」


「………え?」


しかし、弾丸は私の体を貫く事なく。目の前で苦悶の声が木霊するに留まる。何が起こったか…と考えるよりも前に最悪の想像が過る。そして、思考するよりも前に視界は確かな現実を捉え…。


「姉様!」


姉様だ、トリンキュロー姉様が私を庇って盾になったんだ。その体からは血が滴り苦しそうに私に覆いかぶさっている。私を守ってくれた…というより咄嗟に私を守ろうと体が動いてしまった形だろう。


「大丈夫…致命傷ではないですから…」


「そう言う問題じゃありません、どうして…私を…」


「何言ってるんですか、…私はお姉ちゃんですよ。妹を守るのが仕事で、妹は…姉に守られるのが、仕事なんですから」


確かに致命傷ではない。撃ち抜かれたのは肩と脹脛…今すぐ治療すれば助かる傷だ。けどそんな事はどうでもいい、姉が傷ついたという事実に…私が傷つけてしまったという事実に、私は打ちのめされる。


しかし、そんな事をどうでも良さげに笑うコーディリアは鼻を鳴らし。


「フンッ、やはりお前なら庇うと思っていましたよ。お前を直接狙うよりこっちの方が効率がいい…あわよくばこれで死ねば、と思ったが…まぁいいでしょう」


「コーディリア…お前は、ずっと…メグに…マーガレットに固執していた…」


「あ?」


すると姉は激痛を無視して私を抱きしめながら振り返り、コーディリアを睨みつける。


「お前は…恐れていたんじゃないのか。己の人間性の喪失を…」


「は…?」


「マーガレットを嫌う…そんな個人的な感情は、本来影には不要なもの。…ただ忠実に任務を成功させる為だけの影に…誰かを嫌うなんて事、あるはずもない…」


そこで私は考える。確かにコーディリアの私への固執は異様とも言える程に執念深かった。私は確かに周りに嫌われて居たがコーディリアだけがその嫌悪感を行動に移していた。


オフェリアもビアンカも、私をいじめて居たがそれはコーディリアに追従してのもの。イジメの発端は彼女自身の…個人的な感情が由来なのだ。


「お前はマーガレットへの嫌悪感に依存する事で、自身を人間であると。再認識したかったんだ」


「黙れ…」


「殺しを行い、人を屠殺し、まともな人間性を保てないあの館で…お前は一人、真の意味で影になる事を嫌った…それは、お前自身が…マーガレットのあり方を羨んだからだろう」


「黙れ…!!」


「一人、洗脳教育を受けず、ありのままの人間性を保ち続けるこの子が!お前は羨ましくて羨ましくて堪らなかった!それは…お前の弱さだよ、コーディリア。その羨望を攻撃性に変換した時点で…お前は羨んだ人間性を失い、ただの獣同然に堕ちたんだ…!」


「黙れと言っているッッ!!」


どうしてだろうか、今この場で私と姉の生殺与奪権を握っているはずのコーディリアが…今は途方もなく小さく見える。ただ私のあり方を羨んだ、仕事をせず立場を確立しているから私を疎んだのではない。


私という存在に…マーガレットという存在に、コーディリアはなりたかった。人間性を手放し感情のない殺し屋になりたくないから…。だから私を攻撃した、あまりにも幼く稚拙な感情から…私はいじめられていたんだ。


「コーディリア…考え直しなさい、マーガレットの殺しは誰かの依頼ではないはず。お前個人の殺し…能動的な殺しだ。それをすればお前は真の意味で人間では無くなる、お前の望んだ姿から…より一層遠ざかることになる」


「まだ言うか…!デタラメばかり!私は殺し屋だ!世界最強の殺し屋ハーシェルの影だ!マーガレットを殺し父から評価されファイブナンバーになって…そして…」


「自由を手に入れる?確かにファイブナンバーには自由行動が許されている。だがそれはジズが完全に首輪を嵌めたと認識したからだ…あれは仮初の自由。お前の望むものじゃない」


「ッ…そんな事はない、私は…私は……」


「コーディリア…!」


「う………」


揺らいでいる、核心を突かれコーディリアが揺らぐ。殺すのを躊躇っているんじゃない、姉様の言葉を否定する言葉が見つからずに困惑し、混乱しているんだ。そのくらい…コーディリアの芯とはあやふやで希薄なものだったのか。


そこを見抜いて精神攻撃を仕掛けるとは…流石姉様。


「…………」


ん?今姉様こちらを見た?…まさか、時間稼ぎをしてくれている?私が動けるようになるまでの。そうか!私が何かしようとしているのを察してくれているんだ!


時間が経てば麻痺も抜けてくる、事実あれだけ感覚の無かった体に痛みが走りつつある…つまり麻痺が解除されつつあるんだ。これなら…このまま行けば…!


「コーディリア、もうやめなさい。ここで殺せばお前の望む未来は閉ざされる。ここから先にあるのはジズに首輪を嵌められ未来永劫…死ぬまで使い潰されるだけだ!」


「私は…それでも…」


「いいと?なら何故マーガレットに固執した、何故今も固執する。それはまだお前の中に人間性が…心の炎が燻っているからだろう!」


「私は…私は…」


迷う、コーディリアが迷っている。プライドが高いが故に自分の望みを捨てられない彼女だからこそ…望み通りにならない未来を望む事はないんだ。


いいぞ、このまま行けば…あとちょっとで、口が動く。口が動けば…姉様を……。



『何を迷っている、コーディリア…』


「ッ……!」


瞬間、水が差される。あと少し…希望の光を前にして、影は差し込む。


『お前の仕事は、既に伝えてある通りだった筈…』


「この声は…」


正直、私はこの声にあまり覚えが無かった。彼女の肉声をはっきりと耳にしたことが殆どなかったから。だが…姉様は分かる。


突如として響いたその声に、姉様はみるみるうちに顔を青くし、声のした方を…背後を向く。それに釣られ私もまた目を向ける。


すると、…そこに居たのは。


「鋏が、余計な事を考えるな…」


「エア…リエル…!」


水色の髪、赤い瞳、記憶にある通りの特徴を持ったメイド。そして…今何より顔を見たくなかった最悪の存在。


百人近くいるハーシェルの影達の頂点に立ち。次期空魔の名を約束された最強の影…。


ハーシェルの影その一番…エアリエル・ハーシェルが。短刀を片手に悠然と立って居た。


「エアリエル…何故、貴方がここに」


「姉様と呼べ、少なくともそれが我が家のルールだ…トリンキュロー。そして…任務を放棄した者には死が加えられるのもまた、ルールだ」


思考が停止する、何故そこにエアリエルがいる。よりにもよってハーシェルの影最強の女がなんでこんな唐突に…。この街に来ているのはコーディリア達だけじゃないのか。


ファイブナンバーが来るわけがない。と言うのが私の中の凡その予測だった。そもそもファイブナンバーとは『切り札』であって『主戦力』ではない。そうホイホイと任務に出したりせずジズ個人の思惑を叶える為だけに各地を飛び回っているジズの手そのもの。


特にエアリエルなんかはジズの後継者としてそりゃあもう大切にされているはず。少なくとも私は彼女が依頼に出ているのを見たことがない、私と出会った時…齢を十数えるかどうかという年齢で既にファイブナンバーだったあの子は簡単には出撃しないはず。


なのに…どうして。


「…マーガレット…、お前もだ。裏切りは極刑だと父より言われて居なかったか」


「ッッ……」


チラリとエアリエルに見つめられただけで体が芯から震える。凄まじい殺意…いやあれはもう殺意なんて段階のものじゃない。


『死の気配』…、高所で足を踏み外した時、刃物を取り違えた時、川で溺れた時。人が確かに感じる死の気配が意志を持ってこちらを見ている。これがハーシェルの影その一番の実力…威圧だけなら、ジズとなんら変わりが無い。


(これはダメだ…もう終わりだ、状況を打開する術がない…)


形成は一気に逆転…どころか決定してしまった。エアリエルがここに来た以上…誰も逃げられない。私も姉様も消される…抵抗するための手段はどこにもない。


なんでこんな…、なんでエアリエルがここにいるんだよ…そんな理不尽、あっていいわけがない。


「………メグ…」


ふと、姉様がそんな私の顔を見て、浅く笑うと…。


「エアリエル…何故貴方はここにいるのですか」


そう、エアリエルに向け口を開くのだ。まさかまだ時間稼ぎを?だが毒が抜けても…私はもう…。


「答える必要はない」


「お前は、父の大願を成就させるという任務があるはず。なのに何故こんなところに?…それともこれは父の大願成就の一部?」


「………」


「否定しないんですね。父の大願はマレウス・マレフィカルムの乗っ取り…いや崩壊。一度機関を崩壊させ一から作り直す事。ならここにお前達がいるのはその計画一部ということになる」


「……何が言いたい」


「……ジズは殺しを行う時、まず最初に逃げ道を断つ。ならこれはきっと逃げ場を断つ算段の段階のはず…、マレフィカルムにとっての逃げ場と言えば…マレウス王家の後ろ盾、ですね」


「…………」


「マレウス王家はマレフィカルムにとって最大のスポンサーですからね。五百年前…今の元老院を作り上げた『第一人者』プリンケプス・ネビュラマキュラが行った莫大な支援があってマレウス・マレフィカルムは作り上げられ、今もその関係は続いている…つまり、今もマレウス王政府からのマレフィカルムへの支援は続いている…ここを断ち切らねばマレフィカルムは不死身です」


なんの…話をしているんだ、姉様は…そんな、まるで確認するような…。


これは、時間稼ぎじゃない…?


「つまり、エアリエル…そしてコーディリア…お前達の狙いは……」


「トリンキュロー…何が言いたいかはわからないが、それ以上を言うなら…お前は見逃す目はなくなる、その瞬間…お前は死ぬことになる」


「……………」


姉様は再びこちらを見る、私の顔を見る、そして…何かを決意するように浅く微笑み、エアリエルに再度視線を向ける。


「お前達の狙いは、『国家転覆』。マレウスという国が存続して居てはお前達も困りますものね、その為に…レギナ・ネビュラマキュラの抹殺でも企んでいるんでしょう。だからジズはコーディリアの他に貴方という最大の駒まで送り込んだ、違いますか?」


「………残念だ、トリンキュロー」


国家転覆…それがジズ達の真の狙い。プロパを殺した件もラエティティアが死んだ件もロレンツォ様を狙った件も全てがブラフ。本当の狙いは『マレウスという国家の転覆』。


そこで私の中で全てが繋がった。今まで合点が入って居なかった件も全て繋がった。


ジズは何故ジャック達を使ったのか。ジャックを使って海上封鎖し海への逃げ道を奪ったのは何故か?モースを使いライデン火山を噴火させ東部を消し去ろうとしたのは何故か。


全ては、マレウスという国がマレフィカルムと繋がって居たから。マレフィカルムへ反旗を翻したいジズの計画がより一層確実性を帯びる為の準備をジャック達にさせて居たからなんだ。


その狙いの最終段階はレギナ様の暗殺…まさかスタジアムで狙ってたのはロレンツォ様ではなくレギナ様?…にしてはやや大掛かりなのが気になるが。


「ジズはマレウスという国を滅ぼしマレフィカルムの退路を断つ…その為にこの街に戦力を集中させた!いずれここにジズ自身もやってくる!そうでしょうエアリエル!」


「……これ以上答える事はない、お前が何を狙っているか…不可解ではあるが」


瞬間、エアリエルはスカートの下からナイフを取り出しゆっくりこちらに向けて歩いてくる。


まずい、殺す気だ…エアリアルが姉様を殺す!今の姉様ではエアリエルから逃げられない!ダメだ。ダメだ!ダメ…!


「エア…リ……え…!」


「……お前は後だ、マーガレット」


ナイフが煌めく、赤熱したが如く紅蓮に輝く独特の刃を持つ大振りのナイフが高く掲げられ私の顔に反射する、刃が向かう先は姉様…それを見て私は…また。


「エアリエル…、お前はもう…人ではない」


「ああそうだトリンキュロー、私達は人ではない…我等は影。空魔ジズの影…主人の足元を離れる影は光と共に消え逝くのみ…」


「や…やめ……」


やめてくれ、もう失いたくないんだ。どうして私からばかり取り上げるんだ、私はただ姉様と生きて居たいだけなのに…。


どうして奪うんだ、どうして奪って平気な顔でいられるんだ、もう…もう…。


──────頬を伝う涙、悔しさに震える手、ただ己の無力さを呪いながら私は動かない喉を精一杯開き……。





「やめろぉぉぉおおおおおお!!!」


「ッ…!」


瞬間、無情にも振り下ろされるかに思われた刃は静止し、エアリアルが飛び退く。響き渡った声を警戒したのだ。


もうやめろと、叫ぶ声。…けどこの声は…。


私の物じゃない。別の人の声…いや、この声は…ッ!


「どりゃぁああああああああ!!!」


「チッ…邪魔か」


奥の扉を吹き飛ばし、コーディリアさえ跳ね飛ばし、飛来した光がエアリエルを狙い風を撒き散らす。そんな風を嫌いエアリエルは飛び退き…恨めしそうに睨みつける。


飛んできた風は…私の前に着地し、ギリギリと爆裂せんばかりに怒りを込めて拳を握る、吠える。


「状況は分かりません!お前が誰か!誰を殺そうとしているか!何も分かりません!…けど!」


それは、金髪をたなびかせ、黒いコートを翻し、現れた…、私の…友達。


「エリスの友達が!血と涙を流しながら睨んでるって事は!お前は敵なんだろうッ!だったらさせません!誰も殺させません!エリスが生きているうちは…テメェの好きにはさせないッ!」


「魔女の弟子…エリスか」


エリス様だ、彼女が信じられないくらい激怒しながら…現れたんだ。


……………………………………………………


目を覚ました瞬間にそれを聞いた…というよりは、混濁した意識の中で、それを聞いた。


『メグが危ない!』


その言葉を聞いた瞬間。水の中に沈んでいたエリスの意識はまるで引き上げられるように一気に覚醒し、半ば無意識ながらに動いて居た。


エリスの友達が危ない、場所はクルス邸、そこで命を狙われている。なら行かないと…。


殆ど意識がない状態で走り出し壁をぶっ壊して進み続け、地上に出たあたりでエリスは本格的に目を覚まし…明確に目的を見定めた。


何が起きたかよくわからないけどエリスは気絶して居たようだ。そこを多分助けられたんだろう、エリスがまだ生きているという事は多分爆弾はなんとかなったんだろう。助けてくれた人には感謝を伝えたいが今は後だ。


今はクルス邸を目指さねばなるまい、あそこにメグさんがいる。そして多分そこがハーシェルの影達の本拠地なんだろう。


クルスはハーシェル達と繋がって居た、でなければ昨日…ハーシェルの影達がクルスを人質に取ったあの状況の説明が出来ない。どうして奴らは態々クルスを人質に取った?屋敷に居るところを攫われたというがどうして態々神将という戦力を抱えるクルスを狙った?


狙うなら、誰でもよかったろう。よく知らないが特に護衛もつけてないカレイドスコープ卿でもなんならチクシュルーブでもよかったろう。なのにクルスを選んだ…それは奴らが元より繋がって居たから。


なんて今言っても仕方ない。だからエリスはかけ出すと共に…叫ぶ。


「オケアノスさんッ!!」


「あいよー!ようやく動くんだねー!」


エルドラドの街中を飛びながらエリスが叫べば、スタジアムの方から飛んでくる…オケアノスさんが。


エリスもちゃんと仕事したんですよ、連れてこいって言われたからロッカールームで声かけしておいたんです。


『多分今夜事が動くんで、エリスが呼んだら来てください』って、軽く言った。


そしたら『別にいいよ』って、軽く返された。本当は爆弾の時に呼べばよかったんですけど…まぁ、あの時はカッとなってて呼ぶどころではなかったので。


だが結果として戦力を温存出来た!


「今からクルス邸に向かいます!」


「おっけ!なんで!?」


「クルスがハーシェルの影と繋がってるかもしれないからです!」


「え!?マジで!?…そーいやアイツ、私の事頑なに館の中に入れようとしてなかったけど…そーいうことかい。…マジで見損なったぜ、ボン……」


そんな話をエリスがすれば、オケアノスさんは激怒……ではなく、本格的にショックを受けたのかションボリしてしまう。オケアノスさんとしても幼い頃から付き合いのあった人物が殺し屋を雇ってとんでもない事をやらかそうとしたという事実がショックなんだろう。


けど今は慰めの言葉を投げかけている場合ではない。


(見えた!クルス邸…って。なんですかあれ…すんごい魔力がいくつも…見慣れない魔力だ、それとネレイドさん達が戦ってる…既に事は始まっているか!)


見慣れない魔力が一つ、まるで夜空に屹立する柱の如き巨大な魔力が庭園に顕現している。コーディリアでもデズデモーナでもない…あの二人とは比べ物にならない存在とアマルトさん達が戦っている。


しかも魔力がかなり減ってる…消耗してるのか。こちらも助けたいが…ここは。


「オケアノスさん!ネレイドさん達を助けに行ってください!」


「あいよ!エリスは!」


「このまま加速してメグさんのところに行きます!」


そのまま一気に旋風圏跳を重ねて加速し衝撃波を撒き散らしながらクルス邸の窓を突き破り突入。そのままメグさんの気配を手繰りながらエントランスホールへと突っ込めば…。


「ッ…!」


そこに見えたのは銃を持ってしょんぼりしたコーディリア!腹から血を流したメグさん!血を流してる知らない人!を殺そうとしている知らない人!状況が分からん!だが…メグさんの目が言っている!


敵は…あの水色の髪の女!




そうしてエリスはメグさんと水色の髪のメイドの間に入り、殺されそうなメカクレメイドを守ったわけだが…本当にどういう状況だ。


「エ…リス…さ……ぁ」


「メグさん大丈夫ですか!?」


目の前の相手を警戒しながらか細い声を上げるメグさんに視線を向けると、メカクレメイドがエリスを見て…。


「大丈夫、メグは今麻痺毒で痺れてるだけ…呂律が回ってないから魔術が使えてないみたいだけれど」


「そ、そうなんですね…というか貴方は…」


よくよく、見てみる。このメカクレメイド…敵じゃなさそうだけど、というかこの人の顔…よく見たらメグさんに似て……。


「まさか……」


「………」


「なるほど…そういう事ですね」


なるほど、そうか…つまりメグさんは、願いを叶えたという事ですね!なら後はここから離脱するだけ!


「気をつけて、そこにいるメイドはハーシェルの影その一番エアリエル。実力は殆どジズと変わらない段階にいる最強の影です」


「エアリエル…!?なんでそんなのが───」


「邪魔すんなよ…いいとこだったのに!」


「ッ…!」


瞬間、目の前の存在に驚くよりも前に…背後から怒号が飛ぶ。コーディリアだ、ソイツが手に持った機銃をこちらに向け躊躇なく引き金を引いたのだ。


こいつもいるのか、厄介だな。けど今更銃弾なんか怖くもない!


「『螺旋流障壁』ッ!」


「なっ!?魔力形成?いや魔力防壁か!?」


後ろ手に魔力を放ち螺旋を描き回転する防壁を展開する。薄く展開された防壁は回転により銃弾を流すように弾き無効化する。…今はコーディリアの相手をしている場合じゃない。


「お前が…エアリエルですね!」


「…流障壁?…低レベルな技を誇るな……」


エアリエル…ハーシェルの影最強の存在、モース大賊団で言うところのカイム…ジャック海賊団で言うところのティモンさんみたいな存在か。


確かに佇まいに隙がない、それにこいつの纏う空気感…『圧倒的実力に裏打ちされた自尊心』を感じる。この手の空気を纏っている人間をエリスは二人しか知らない。


…シンとダアトだ。どちらも一つの組織で頂点にまで上り詰めて居た存在…こいつはそれらと同じなんだ。油断出来ない。


「…………」


「……お前も、ここで殺そう」


コーディリアの銃弾を弾き切り、エリスは静かに構える。するとエアリエルもまたクワガタのように二本のナイフを展開するように構え…場が静寂に包まれ──。


なかった。


「違う!」


「え?」


ふと、メカクレメイドさんが…トリンキュローさんが叫ぶのだ。違うと…何が?と聞くよりも前にトリンキュローさんは全霊で叫ぶ。


「見るところが違う!影だ!影を見ろ!」


「へ?影────」


必死な顔でこちらに叫ぶトリンキュローさんから咄嗟にエアリエルに視線を戻した瞬間のことだった。


エアリエルを中心に、世界が…崩れたのだ。


「────ぐがぁっ!?」


大地が崩れた、壁が切断された、天井が崩落した、この部屋全体に余す事なく被害が出た。当然エリスもまたそれに巻き込まれ吹き飛ばされ瓦礫の下敷きになる。


館そのものは崩れてない、この部屋だけを的確に破壊したのだ…だが問題は結果より過程。


見えなかったのだ。速すぎて攻撃が見えなかったとかではない…そもそもモーションからして何もなかったんだ。


(エアリエルは…『動いていなかった』!一度たりとも…全く)


攻撃を行ったと思われるエアリエルはなんの行動もしていない、刃を振ったわけでも魔術を詠唱したわけでもない。本当に一切の変化がなかったんだ…これならまだ別の誰かが潜んでてそいつが攻撃してきたと言われた方がまだ納得出来る。


何より…。


「ぐっ…うぅ…!」


瓦礫を押し退ければ見えるのは崩れたシャンデリア、崩れた壁の向こうに見える廊下の壁、ランタンから引火した炎で燃え上がり始める室内。そして視線を下におろせばエリスの胸には…巨大な十字の切り傷。つまり今の攻撃は斬撃ということになる。なんなんだ、何が起きたんだ。


「ほう…、そのコート。特別製か…両断してやるつもりだったが、切れなかった」


「何を…したんですか」


「見せただけだ、『本物』を」


「本物…?」


コートがあったから死なずに済んだだけで、下手したら今の一撃で死んでた可能性もあるのか……って!


この室内の惨状!やばい…メグさんは!?


「メグさん!」


彼女は今麻痺して動けないんだ!これで瓦礫に潰されていたら…、そう思い記憶を頼りに周囲を探す。確かメグさんは…あのシャンデリアの下に…!


「ッッ……」


慌てて駆け寄れば…そこには。


シャンデリアの下敷きになったメグさん…を守るように、覆い被さったトリンキュローさんの姿が…。


「姉…様……どう…し……」


「言ったでしょう…姉は、妹を…家族を守る物だと…」


「二人とも!」


慌ててシャンデリアを投げ飛ばし二人の姿を確認する、メグさんは無事だ…傷一つない。


けど…トリンキュローさんは…トリンキュローさんの傷は………。


…………いや!まだだ!まだデティに診せればまだ間に合う!


「二人とも、気を確かに!直ぐに治癒術師に見せますから…!」


「エリス…と…言いましたね」


すると二人を抱えて逃げようとするエリスの裾をトリンキュローさんはしかと掴み。


「妹を、頼みました…」


「頼まれません!貴方をどれほど想っていたか!貴方の妹が!どれだけ貴方との再会を望んでいたか!妹を守るのは姉の仕事なんでしょう!なら…真っ当してください!」


「………」


トリンキュローさんは何も答えない、ただ自分の下にいるメグさんの涙を拭い…。


「メグ…これを」


「これ…は……」


「こんな物しか貴方に残せない私を情けなく思ってくれても構いません、それでも…」


そう言って取り出したのは銀色のナイフ…空魔が愛用する銀色のナイフ。刃に刻まれし『愛すべき妹の名マーガレット』にトリンキュローさんはシャンデリアの破片で横線を入れ、震える手で『愛すべき妹メグ』と書き換え、メグさんの懐に入れる。


「メグ、生きなさい。人として生きなさい。誰かの影にもならず、獣にも落ちる事なく…もう二度とこの名を奪われることもなく、メグ・ジャバウォックとして生き抜きなさい…」


「いや…いやだ、姉様…」


「うっ…っ…エアリエルが出てきた時点で、避けられない事なんです…私は私の務めを真っ当します、だからメグ…お前はお前に託された仕事をやり抜きなさい」


するとトリンキュローさんは立ち上がりエリスの横に立つ。その立ち姿に垣間見るのは…全てを脱ぎ去ったが如き神々しい光。


人は多くの物を抱えて生きている、誰かへの想い、何かへの使命感、筆舌に尽くし難い憎悪、言葉では言い表せないくらいたくさんのものだ。しかし今のトリンキュローさんはそれを脱ぎ去っている。


何もない、されど空虚に有らず…それは。


何かを予期している覚悟だった。


「お前は、どうやら察したようだな」


「ええ、エアリエル…私達がここで背を向ければお前は背中から斬りかかる。そうなれば今の私たちに抵抗出来る手立てはない…けど、生き残る…生き残らせる事ができる唯一の瞬間は…存在する」


「不可能だ、全員死ぬ」


「さて、それはどうですかね…」


「……これを見てもか?」


瞬間、エアリエルがナイフを振るえば…何故か背後の壁が瓦解する。切り崩されガラガラと崩れる壁の向こうにあったのは。


「なっ!?スタジアムにあった…爆弾…!」


爆弾だ、スタジアムに置いてあった物と全く同一の物がそこには存在していた。何故あれがここに、というかもう一つあったのか!?いや…あれは。


もう…起動してる!


「もう逃げる時間はない、さらばだ…裏切り者達」


「ま…ッ!」


待て…その言葉をエリスが言い切る前にエアリエルの姿が消える。と同時に向こうに屹立する爆弾が動き出し、赤と青のポーションがパイプを通り…今、混ざり合おうとしている。


まずい、爆発する。どうする!魔術で破壊するか!?いやそれでもポーションは消し去れない!ならパイプに何か挟み込む!?ダメ!間に合わない!


間に合うかどうか怪しいけど、とにかく逃げるしかない!爆発の範囲よりも外まで飛ばないと!!


「二人とも────!」


エリスは咄嗟にメグさんとトリンキュローさんを連れて逃げようと叫ぶ。極限集中に入りスローになる世界でエリスはそれを見る。


震える手でトリンキュローさんに手を伸ばすメグさん、姉を助けてくれとばかりに懇願するようにエリスを見るメグさん…と。


トリンキュローさんを助けようと動き出したエリスに向けて…ゆっくり首を振るうトリンキュローさん自身の姿が…。


(─────────)


エリスの思考は停止する、最早爆弾を止めることは出来ない、爆発から逃げ切れるかも怪しい、スタジアムを消し飛ばす威力の爆弾を防ぐ手段もない…。


そんな迷いと諦めの中、トリンキュローさんが見せた顔を前にしたエリスは……。


全てを理解した。


「ッッ!!!」


「エリス…様ぁっ!?」


『メグさんだけ』を抱え全力で飛翔する…その時のメグさんの悲痛な声を、エリスはきっと忘れないだろう…一生。


…………………………………………………


私には妹がいる。世界でたった一人の私の家族にして…私の宝物。


人を殺し、人を殺し、人を殺し、汚れてしまった私の手。最早私は陽の当たる所を生きる事が出来ない程に汚れていた。


そんな汚れた私の人生で、唯一誇れる私の宝。


こんな汚れ切った私の人生も、あの子を助ける為に存在していたのだと思えば救われる。


そう思い、私はただひたすらにあの子の為に殺し続けた。死ぬと分かっていても魔女スピカにだって戦いを挑めた。


…けど、想い一つで覆せる程人類と魔女の差は小さくなく。私はあえなく大敗…それでも諦め切れず、私はヴェルトという男を巻き込んでしまった。あの人も…私がいなければ今頃はアジメクに戻れていたかもしれないのに、巻き込んでしまったんだ。


そうしてヴェルトと一緒に、ステュクス君と言う子供の面倒を見ているうちに、私は一時の安息を得たと言っていいだろう。血に塗れた人生にも光が射したと思っていた。


けど…それでも私は妹を諦め切れなかった。だからあの日…唐突に届けられたジズからの連絡を無視できなかった。


ステュクスとヴェルトを置いて空魔の館に向かった私に伝えられたのは『マーガレットは帝国に向かった』という話、そして『帝国にて、皇帝カノープスの弟子になった』という話。


つまり裏切りの話だ、それを聞いた私は安堵した…魔女の下にいるならジズも易々と手出しはできない。あの子は解放されたんだ…ならもう、私が何をするまでもないだろう。


けどジズはそう思っていなかった、ジズだけはマーガレットを諦めていなかった。自分を裏切った腹いせとジズは語っていたが、もっと別の理由で諦められなかったんだ。マーガレットはジズの持ち得ない物を持っているから…だから殺そうとした。


その殺しの手段に私は使われた、薬物を使われ洗脳され、手駒にされた…そこからの意識はないが。



気がついたら、立派に育ったマーガレットが…メグがいた。


(メグ…大きくなりましたね)


今のあの子はもう私の知る子ではない。きっと私が想像できないくらい沢山の事を経験し沢山の人と出会い、沢山の事を学んできたんだ。


良い師匠と出会い、良い友を作り、あの子の人生は今光の只中にある…本当は私もそばに居たいけど、そうするには私は汚れすぎた。


だからせめて…この人生は、あの子の光を守る為に使おう。


(父様…母様、貴方達の娘は…立派になりましたよ。あの子との思い出を貴方達にお話しすることはあんまり出来ないですけど…それでも、きっと───)


少し振り向けば、友をに抱えられ館から抜けていくメグの姿が見える。行かないでとばかりに涙を置いていく。


メグ…貴方はこんな姉にも、そんな顔をしてくれるんですね。


こんな私でも、貴方にそう思われていたのなら…この汚れた人生も決して無駄ではなかった。


「………」


目の前には今…起動し始めた爆弾がある、もう止められない。エアリエルは超一流の殺し屋だ、奴が現れた時点で既にこの館に細工がされていることは察していた。


…この瞬間にもあれは爆発する、完璧な起動タイミングだ、メグの友達は速いがこれでは逃げ切れない。このままではみんな死ぬ…それだけはさせない、絶対に!


(メグ…生きなさい、生き続けなさい。貴方の人生は誰かの死と誰かとの別れに満ちた過酷な人生でしょう。それでも貴方は生きなければならない!)


懐からワイヤーを取り出し、周囲の瓦礫をかき集めひたすらに壁を作る…少しでも爆発の威力を抑える為に、ただひたすらに、その場から逃げずに私は動く。全身の傷が痛むけど…もう少しだけ付き合ってくれ!


(いい事も悪い事も、含めて飲み込み、それでも生きる。それは辛いかもしれない、今は苦しいかもしれない…けど…けれど!)


熱が高まる、音が弾ける、燃え上がり視界が白に染まる…白が迫る、そんな中私は一一人……。


(けれど、それでも生きるんです、大丈夫…貴方は、愛されている────)


瞼の裏に妹の笑顔を思い浮かべ、笑う。それが無数の屍の上に立つ私の…光だから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新再開嬉しい!そしてお疲れ様です!︎ ……結果的にジズの思惑通りなのが残酷ですね、、 [一言] エリスにとってシンはなくてはならない存在で超難敵だったのは分かるんですけど、実際シンとタヴ…
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