497.魔女の弟子と影との初戦
ロレンツォ・リュディアの暗殺未遂…そう言う風に文字として表すと凄まじい大事件が起こったように思える。マレウスでも屈指の貴族であるロレンツォ様を狙った最悪の大事件、血迷ったラエティティアによって引き起こされたこの未遂事件はメグさんの手によって阻止された。
食事会の最中、毒入りナプキンを使って行われそうになった毒殺を阻止してさぁ安心…と言うわけにはいかない。エリス達はただ暗殺事件を解決する為に動いていたけわではない。
この街にいると言うハーシェルの影、そいつらを捕まえてエルドラドに差し込む黒い影を完全に打ち払う為に戦っていたのだ。奴らがいる限り次またどこで暗殺事件が起こるかも分からない、だからここで捕まえなければならない。
「エリス様!ネレイド様!こちらです!」
「はい!」
夜のゴールドラッシ城、人通りの少なくなった廊下をメグさんとエリスとネレイドさんの三人で激走する。今エリス達はハーシェル達が隠れているであろう場所へ向かっている。
ハーシェル達の潜伏場所を掴んだおかげでその依頼主であるラエティティアにも干渉ができる、今そちらにはアマルトさんとナリアさんとステュクスが向かっている。
ラグナ達はまだロレンツォ様と一緒にいる…手分けする形になるがこの形がベストだ。
「にしても人通りが全然ないですね」
「ん、昨日は夜でも人がたくさん居たのに…」
「私が事前に人払いをしておいたのです。戦えない人間が城中にいると危険なので」
つまり、これから戦闘になるのは避けられないと言うことか、まあなんとなく予測は出来ていた。何せエリスは今から殺し屋を捕まえに行くんだ、捕まえにきましたって言っただけで大人しく捕まる殺し屋はいない…確実に抵抗してくる。
(メグさんが言っていた『四人の殺し屋』…あの情報が本当なら、結構キツい戦いになりそうだ)
既にメグさんから情報は受け取っている、コーディリア…ビアンカを始めとした四人の一級殺し屋達。…いや、殺し屋って言い方はもう相応しくないのかもしれない。
正しい言い方をするなら…『八大同盟ハーシェル一家の幹部達』、そう言った方がいいだろう。つまりエリス達は八大同盟の幹部達と戦うことになるんだ、…生半可な相手じゃないのは確実だ。
「おーい、皆さん!」
「ん?ある?イシュキミリさん?」
ふと、背後から声をかけられチラリと視線を肩越しに向けると。そこには長い金の髪を流しながら走る美男子の姿が…。
デティが連れてきた協力者のイシュキミリ・グランシャリオさんがエリス達を追いかけて走ってきていたんだ。確かこの人…部屋の前で待機してだはずだけど。
「なにしにきてるんですか!イシュキミリさん!」
「私も助太刀に来たんです、皆さんだけ危ない目には合わせられません」
「イシュキミリ様、お心遣いはありがたいのですがこれから戦うのは超一級の危険人物達。怪我では済まない可能性があります」
「問題ありません、皆さん程ではありませんが私にも戦いの心得くらいはありますし、ある程度の攻撃魔術も使えます、きっと役に立ってみせますから」
「うーん…ではあまり前に出ないように」
戦いの心得はあるって言ってもこの人ただの貴族だしなぁ。助けに来てくれたのはありがたいが…生半可な腕では殺されてしまうかもしれない。とは言え今更追い返すわけにもいかないのでとりあえずこのまま走ることとする。
やばかったら取り敢えず投げ飛ばしてでも遠ざければいいや。
「奴等は一階の倉庫付近にいると思われます、なのでこのまま走ってそちらに向かい──」
『キャーーッッ!!』
「ッ…悲鳴!」
刹那、廊下に響き渡る悲鳴。それをいち早く察知したネレイドさんはその場で首を振るう、すると脇道に逸れた先に見えるのは血塗れのメイドとそれを襲い殺そうと迫るメイド…いや、アイツ!ハーシェルの影か!
「た、助けてッ!」
「ッ…させない!」
「……フンッ!」
助けを求めるメイド、一も二もなく踵を返し助けに向かうネレイドさん、そしてそれを見た瞬間標的を目の前のメイドからネレイドさんに切り替えたハーシェルの影は懐から二丁の拳銃を取り出し、一切の躊躇もなくネレイドさんに向けて連射してきたのだ。
「そんな豆鉄砲…効かない!」
しかしそこはネレイドさんだ、廊下の脇に飾られていた青銅の水瓶を片手で掴み振り回し迫る銃弾を防ぐと共に水瓶を頭上に投げ飛ばし…。
「『プルガトリオ・ブラスト』ッ!」
握る拳に紅の魔力が宿り、それを一気に高めながら振り抜く。まるでラグナの『熱拳龍劾』の如き魔力闘法…。ネレイドさん曰くモースの戦い方から学んだとされる凝縮した魔力の砲弾により遠距離攻撃。それは空を切り裂きハーシェルの影に激突し。
「ぐぶふぅっ!?」
弾き飛ばす。拳大の魔力弾…と言っても肝心のネレイドさんの拳がまぁデカいんだ、当然その分魔力出力もえげつないことになっており、まぁ簡単に言えば弾に轢かれたハーシェルの影はその場で錐揉み天井に突き刺さりながら意識を失うことになるのだ。
…ネレイドさん、いつの間にあんな新技を。
「フーッ!…まさか他にもハーシェルの影が居たなんて、…貴方大丈夫───」
ハーシェルの影を吹き飛ばし一安心、襲われていたメイドに目を向けて取り敢えず避難させようとした、その時だった。
「かかったな…」
「あ…っ!」
起き上がっていた、血まみれのメイドが懐からナイフを取り出しネレイドさんに向けて飛び掛かっていた。そうだ…つまりこれは…。
「見え見えの罠じゃねぇーかーッッ!!」
「ぎゃふっ!?」
「エリスっ!」
全力でその場で地面を蹴り、加速すると共にネレイドさんに迫るメイドを蹴り飛ばし壁をぶち抜き遥か彼方まで吹き飛ばす。
つまりこれは罠だ、今さっき襲われている風に見えたメイドもまたハーシェルの影だった。襲われているメイドを装いエリス達を誘き出し不意を突き確実に仕留めようと張られた罠だったのだ。
そこにまんまと引っかかったネレイドさんを、殺そうと襲い掛かってきたんだよコイツらは。でもな…分かりやすすぎるよ。
「城の人間は全員避難済みの筈なのに襲われてるメイドがいるわけないでしょうがー!」
「ごめん、エリス…」
「あ、ネレイドさんに言ったわけではないですよ!」
にしても、さっき爆発した奴以外にもさらに二人…?これで三人目だぞ、一体何人のハーシェルの影がこの城に来てるんだ?そんな大人数で仕事をする物なのか?ハーシェルの影って…。
『お二人ともなに遊んでいるんですか!』
「あ!すみませんメグさん、でも遊んでるわけでは…」
『いいから来てくださいッ!時間がないんですッ!』
廊下の向こうから叫ぶメグさんの顔の怖いこと。いやまぁ切羽詰まった場面である事はそうなのだが…。メグさんのあんな怖い顔久々に見たかも。最後に見たのはいつかって?帝国でメグさんと戦った時だよ。
「すみません!今行きま──」
とにかくこれ以上メグさんを怒らせてはいけない、そう思い焦って走り出そうと足を踏み出した瞬間…。
「え?」
「あ…」
ガコン…と音を立てて廊下が、地面が沈んだのだ。何事かと視線を下に向けると…地面が切れていた。エリス達を囲むように地面が円形に切断され自重で沈んでいたのだ。何事か、なにが起こったのか、まるで理解出来ないままエリスとネレイドさんは沈む地面に飲まれ下層へと落ちていき…。
「エリス様!ネレイド様!」
「ちょっ!?これ高ッ…!」
落ちる、目を見開き悲鳴をあげるメグさんの声が遠ざかりエリス達は切り落とされた地面と共に下層へと落ちる…。上層の床が抜ければ向かう先は一階下、エリス達は強制的に下層へと落とされたのだ。
………………………………
「っと!」
「よっこらせ…」
砕け落ちる地面から飛び降りエリスとネレイドさんは周囲を見回す。廊下から落ちた先は…広々とした部屋に様々な物が乱雑に置かれている倉庫だった。
…そうだ、倉庫だ。さっきメグさんがハーシェル達が隠れていると言っていた…『倉庫』だった。
『おや?マーガレットが落ちてくるかと思ったのですが…見知らぬ女が二人釣れました』
『コイツらも魔女の弟子だろ…、なら殺しの対象だ。ハズレじゃねぇーよなー!』
『取り敢えず、この子達から殺しますか』
「…お前ら」
キラキラと舞い上がるほこりの向こうに見えるのは三つの影。そのどれもがメイドだ、三人のメイドが倒れた棚の上に座りながらエリス達を睨み微笑んでいた。
エリス達をここに落としたのはコイツらだろう。真上に開いた穴…本来分厚い石材で出来たはずの天井をチーズのようにくり抜き穴を作る…そんな事出来る奴が早々いるはずがない。
「お前ら…ハーシェルだな」
「もう誤魔化す必要はないようですね…魔女の弟子エリス、そして魔女の弟子ネレイド」
現れたメイドは三人。リーダー格と思われる小麦色の髪をした長身のメイドと銀髪を腰まで伸ばしたメガネのメイド、そして褐色黒髪鼻絆創膏の凶悪そうな面のメイド。
コイツら全員、メグさんから貰った情報にあった奴等と合致する。じゃあコイツらが例の…。
「そう言う貴方はコーディリア・ハーシェルですね?そっちのはビアンカ・ハーシェルとオフェリア・ハーシェル」
「ほう、マーガレットから話は聞いていましたか」
小麦色の髪の奴がハーシェルの影その六番『惨殺』のコーディリア、褐色鼻絆創膏がその七番『撲殺』のオフェリア、銀髪メガネがその八番『絞殺』のビアンカ。
百人はいるというエリート殺し屋集団達の中でトップ10に入るエリート中のエリート達。ジズにとっての主戦力達が三人も揃い踏みしてエリス達を睨め付けていた。
コイツらの詳しい話はメグさんから聞いている、どいつもコイツも恐ろしい奴らばかりだ…油断が出来ない。
「お前らがプロパを殺し、ロレンツォ様を殺そうとした奴等の首謀者ですね!」
「仕事の成果を誇る趣味はありません、それよりも…貴方達は貴方達の身の心配をした方がいい」
するとリーダー格のコーディリアは手元の瓦礫を投げ飛ばし頭上の穴を塞ぎ上層にいるメグさんとの合流を阻止し…エリス達の逃げ場を奪うと共に全員がエリス達の前に立ち。
「貴方達も抹殺対象なんです、それも父から命ぜられた特別排除対象…本当はマーガレットを殺すつもりでここに誘き寄せたつもりでしたが、まぁこれも怪我の功名、死んでください」
「………」
あのメイド達、あれも罠だったか。上のハーシェルの影と交戦した瞬間天井をくり抜き上にいるエリス達を落とし、この倉庫で抹殺するつもりだったのか。
こいつら、最初から逃げるつもりなんてサラサラないんだ。追ってくるなら追手を殺す…それがコイツらのやり方か。
「上等です、貴方達全員ぶちのめしてやりますから」
「うん、人の命を軽んじる輩は…許さない」
「フッ、あのウジムシの友人らしく甘ったれた事ばかり言う。ビアンカ…オフェリア、相手をしなさい」
「分かりました、コーディリアお姉様」
「いいぜぇーッ!一丁やってやるよ…ビアンカ、アタシはあのデカブツをやるッ!」
「有事ですね、では私はあのダサいコートの小娘を」
「誰のコートがダサいって!?このトンチキコスプレメイド集団が!人の格好バカに出来るナリかお前ら!!」
両腕に籠手を嵌め両足を開いて構えを取る。上等だカス共が、なにが抹殺だよイキり散らかしやがって…ここで終わらせる気なのはお前らだけじゃないんだよ!
と、師匠譲りのコートをバカにされて怒髪天のエリスも居れば、もう一人…冷静に場を分析するエリスもまた心の中には居る。
はっきり言ってしまえば状況はかなり悪い、向こうが指定したフィールドで戦うことになってしまっているわけだしね。何より敵は人の命さえ何とも思わない外道集団、ここに来て真っ当に決闘を…なんてタイプじゃないのは明白。
気をつけながら…ぶっ潰そう。
「行きますよ!ネレイドさん!」
「ん…捻り潰す…!」
「ヒャーーーーーハハ!アガって来たーッ!殴って叩いてミンチにしてやるからさぁ〜!簡単に死なないでくれよなぁ〜!」
ネレイドさんに向けて飛び掛かってくるのは『撲殺』のオフェリア。メグさん曰くハーシェル一家に置いて随一の怪力の持ち主であり、殺し屋でありながら徒手空拳をメインとするインファイターとの事。
「『ジェットスラスター』ッ!」
「む…」
その得意魔術は『ジェットスラスター』、一気に体の一部から風を噴射し加速を行う限定的加速魔術だ。風を用いた加速魔術と言えば『アフクリテス テスタメント』があるが、風を全身に纏うこれに対してジェットスラスターは体の一部から風を噴射するだけの限定的な加速に留まる。
つまり、近接線専用の加速魔術なのだ。形としてはエリスの疾風韋駄天の型に似ているとも言える。
「エリスの風魔術に似てる…」
肘から風を噴射し神速の拳を放つオフェリアに対し、腕を広げ受け止める形での防御をしようとするネレイドさん…、だがだめだ、それはダメだ!メグさんが言っていた!『オフェリアの拳は絶対に素手で受け止めてはいけない』んだ!
「ダメです!ネレイドさん!」
「あ!この子がオフェリアか…!クッ!」
咄嗟に魔力防壁を展開し自分の目の前でオフェリアの拳を停止させる。すると…オフェリアはニタリと笑い。
「ピュウッパォアッ!」
「グッ!?」
なんて不可思議な奇声をあげると同時にオフェリアの拳が爆裂。防壁で防いだ筈のネレイドさんの体が後ろへと吹き飛ばされザリザリと地面を擦るように滑る。
あのネレイドさんが、防御の上から吹き飛ばされた。圧倒的なウェイトの差があると言うのにオフェリアの拳一つで吹き飛ばされた…何故か?それ程の怪力を持つとか?違う…違うんだ。
「あれが…メグの言ってた…『管』」
「ンフフフ…さぁやろうや、次はぶっ殺してやるからよーォォッ!」
拳を構えるオフェリア、その握られた拳骨の指の間をよく見ると細い針のような物が突き出ているのがよくわかる。あれは『管』だ…注射の針のように中が空洞になっているんだ。
オフェリアは相手を殴りつけると同時にあの管を相手の肉に突き刺し、『ジェットスラスター』で一気に相手の体内に空気を送り込み破裂させる戦法を使う。先程ネレイドさんを防壁の上から吹き飛ばしたのも突き刺した管を通じて風が噴射されたからだ。
ネレイドさんが吹き飛ぶ勢いで噴射される風なんて体の中に送り込まれたらどんな人だって死んでしまう。だからメグさんは『絶対に素手で防ぐな』と言っていたんだ。
「それ危ないからやめて、殴り合いが好きなら…いくらでも応じる」
「違うなぁーッン!アタシはさぁ…殴り合いが好きなんじゃなくて!撲って殺すのが好きなんだよーッ!」
「ッ…!」
拳を握りネレイドさんを立て続けに襲い続けるオフェリア、ネレイドさんも魔力防壁で防いでいる物のその防壁すら突破してくる風の殴打に苦しめられている。
まずい、ネレイドさんでさえ押されてる…!エリスも助けに行った方が…。
「余所見、褒められた行動ではありませんね」
「ッ…!?」
「有事です、なので…容赦のご期待はならさないように」
刹那、しゃがむ…と同時に頭上で何かが破裂する。まるで銃声のような破裂音が耳を劈く。何かされた…今目の前で腕を組む『絞殺』のビアンカに…!
「なにをしたんですか…、魔術?じゃないですね、詠唱がなかった…」
「魔術?貴方達魔術師はいつもそれですね。この世で武器になるのは魔術だけですか?」
絞殺のビアンカ…メグさんから情報は聞いている、つまり今さっき奴が放ったのは魔術じゃなくて。
「それが、ワイヤーですか…!」
「ええ、人類が最初に手をした音速を超える武器にして史上最も合理化された術理を詰めた武器…それがこれです」
手を広げヒュンヒュンと音を立てて振り回すのは…髪の毛程の細さの鉄糸だ。あれがビアンカの武器にして技。奴はワイヤーを十本の指から伸ばし自在に操る術を持つのだ。
「人を殺すのに派手さはいらないのです。視えず、悟られず、気付かれず…それが暗殺の極意であり真髄。これはその暗殺の極意を体現した在り方です…さぁ、堪能なさい」
「うっ…!」
高速で両手を振り回す、と同時にエリスの視界いっぱい銀の閃光が煌めきまくる。あれ全部ワイヤーか!?攻撃範囲が広すぎる上に速すぎる!
魔術で払うか?いや間に合わない!
「よっと!はっ!」
「あらまぁ、品ない避け方。有事ですね」
ワイヤーの隙間を潜るように踊り全力で回避する、と同時にワイヤーによって切り裂かれた壁や床がバックリと割れる…威力も凄まじいなおい。
これが絞殺のビアンカだとメグさんは言っていた。ワイヤー一本一本を己の指先の如く操り相手を殺す事に特化した殺し屋…、本人はその場から一歩たりとも動かず好きなように出来る…か。このまま好きにさせていてもいいことはなさそうだ!
「ッ…お前が!」
「む…」
迫るワイヤーの斬撃を籠手で弾けば金属音と共に火花が鳴り響く。糸一本でこの重さか…!けど!構うことはない、今はそれよりも聞かねばならないことがある。
「お前が、プロパを殺したんですか!」
「…ふむ、なんと答えましょうか。『はい』と正直に答えるべきか…『いいえ』と煙に巻くべきか…」
「お前!」
バカにするような笑みを浮かべたビアンカに更に怒りが募る…こいつ!
「プロパには!家族がいたんですよ!」
「そうですか」
「嫌な奴でしたけど!殺される程じゃありませんでした!」
「そうですか」
「人一人の人生を奪っておいて…なんでテメェが涼しい顔で生きてんだよッ!」
「人はいつか死にますよ、なら今でもいいでしょう」
「それを決める権利が、なんでお前にあるんだよッ!!」
「有事でしたので」
「話にならないッ!!」
次々と迫るワイヤーの斬撃を拳で弾きながら直進する。許せなかった…人を殺すと言う行為は簡単であってはいけないのだ。それは道徳の話でもあり人が構成する社会に於ける絶対の掟の話でもある。
殺すなとは言わない、こんなご時世だ…人を殺す事もあるだろう。だがそれでも殺しは罪深いのだ、そこを忘れてはいけないのだ、だからコイツみたいに人を殺して笑っていていいはずがないんだ!
「お前に人を殺す権利があると言うのなら、エリスはお前をぶっ潰し罰する権利を主張してやりますよ!」
「死ぬのは貴方ではあるのですが…困りましたね」
手を伸ばす、鉄の雨を突っ切ってビアンカに手を伸ばす。この手の遠距離武器を使う奴は決まってインファイトに弱い!互いの額を擦り付け合うような殴り合いに持ち込めばこちらの物だ。
そう考えるエリスの接近を前にしてビアンカはギチギチと音が鳴るほどの勢いで拳を握り。
「改定・空魔殺式…」
「む…!」
動きを止める、何かがおかしい…そんな気がして動きを止める。メグさんが言っていた事…それが脳裏に引っかかるのだ。
『ジズが組み上げた史上最高にして最適な殺人法…空魔殺式、一から十まである空魔殺式を会得していればいる程その影の強さは分かるのです』
彼女はそんな風に言っていた、それと同時に…こうも言っていた。
『そして、十番以降のエリート達は空魔殺式を全て会得した上で彼女達にはそれを『改良』する権利が与えられている。各々にしか扱えない固有技能…その威力はジズが扱う本来の殺式に並ぶ程の威力を持ちますので、どうかご注意を』
と…つまり今から来るのは。
(まずい!)
咄嗟に手を引っ込め防御の姿勢を取る。何かくる…その予感は正しくビアンカは握った拳をこちらに突き出し…。
「『有事必殺・弾の糸』ッ!」
握った拳を勢いよく開く、デコピンの要領でそれぞれの指を一気に弾いたのだ。その勢いと速度はワイヤーに伝わり、先端に向かうにつれて加速していき波撃ちながら速度と切断力を高め…一気にエリスに向けて殺到する。
「ぅへぇっ!?」
全身に走る衝撃、籠手とコートのお陰でバラバラにはならなかったけども…まるで全身を鉄の棒で殴打されたかのような衝撃に口から息が漏れ出て、そのまま体は後ろへと押し出され倉庫の壁に叩きつけられる。
なんつー威力…!ワイヤー操るだけでこれだけの攻撃が出来るのか!…っていう〜かー。
(やばいかも…ちょっと強すぎないか?ビアンカは『実働部隊の中で最強』なだけで『ハーシェル一家で最強』なわけじゃない…、少なくともこれより強いのが後七人以上居るって事ですよね)
敵方の戦力で八番目の強さでこれだ、ファイブナンバーですらない奴でこの強さだ。メグさんをしてファイブナンバーは他とは隔絶した強さをもっと言っていたし…、一体どれほどの戦力を抱えているんだ…ハーシェル一家は。
(間違いなく、こいつの実力はモース大賊団の五隊長の中堅クラスの強さだ。…それが八番手…ハーシェル一家の組織力は他の三魔人とは比較にならないか!)
痛む体を引き摺りながら考える。こいつらは少なく見積もってもモース大賊団の五隊長クラス、オセやベリトと言った面々と同じかそれ以上。アルカナのアインや継承戦時のベオセルクさんよりも強い…そんなのが敵の中枢ですらない事実に戦慄する。
これが八大同盟…、マレフィカルム最強格の組織の強さか。
「さぁ、死ぬ準備は出来ましたか?」
「………」
自分の周囲でワイヤーを踊らせるビアンカを睨み、その背後に立つコーディリアをも見据える。…こりゃあ……。
いいな、久しい修羅場だ…!燃えてきた!
「上等です、こっちも堅苦しい会談だのなんだので肩が凝ってたんです…いい運動になりそうですよ!」
「減らず口を…、貴方の死体をマーガレットの前に吊るせば、彼女はどんな顔をするのやら」
拳を握る、エリス達を殺しに来てくれたのはありがたい…逃げ出されたら面倒でしたからね。
来るなら潰す…やってやる!!
………………………………………
「エリス様!」
塞がれた穴を前にメグは吠える、やられた…罠だった、思考で完全にコーディリアに上回られた。エリス様達が下層に分断された、この下は倉庫…コーディリア達がいる部屋だ!
「クソッ!」
穴を塞ぐように突き刺さった瓦礫を殴りつけてメグは己の不甲斐なさを呪う。私はコーディリア達を追う事で頭が一杯になっていた。
『攻めるのはこちら側』だと思っていた、『奴らは逃げる側』だと思っていた。まずそこから間違えていた…奴等はハーシェル、逃げる選択肢はハナッからない!襲ってくるなら蹴散らしてでも仕事を遂行しようとする狂人達だった!
「ッ…急いで倉庫に助けに行かないと!」
エリス様達が簡単にやられるとは思えない、だがハーシェルの恐ろしさは『強さ』とは別のところにある、なにをしてくるかがまるで分からない。急いで倉庫に向かわないと、もうこの穴は使えないから…急いで走って。
「待った」
「なっ!?」
走り出そうとした瞬間、私を手で制して止めるのは…私と一緒にこの場に残ったイシュキミリ様だ。それが怜悧な顔つきのまま待てと私に言うのだ。待ってる時間なんて…何処にも、何処にもないのに!
「何がですか!急がないとエリス様達が!」
「落ち着け、君は今何処に向かおうとしてる」
「倉庫です!急いで向かわないと…」
「だから落ち着きなさい!」
イシュキミリ様は私の肩を掴み吠える、落ち着けって…何が……。
「君、無双の魔女カノープス様の弟子だろう?カノープス様は万里を一瞬で転移する時空魔術の使い手だと聞いている、君にもそれは出来ないのかい?倉庫に転移する魔術とか…あるだろう、それを使いなさい」
「あ……」
そうだ、何を焦っていたんだ。走って行くんじゃなくて時界門を使えばいい。エリス様達の所になら転移出来る…。
こんな、こんな基本的な事さえ思いつかないほど…私は逸っていたのか?コーディリア達を前にして…。
(奴らを捕まえれば、姉様を取り戻せると…焦っていたのか)
もしかしたらコーディリアと一緒に、トリンキュロー姉様がいるかもしれないと…奴等を倒せば姉様を取り戻せると、私は焦っていたのか。
頭を抑え、私は自分が自分で想定している以上に焦り散らしていた事に気がつく。
「今、一分一秒を争う時だと言うのは私にも分かる、だからこそ落ち着け…クールになれ。慌てて十秒無駄な行動をするより落ち着く為に一秒使った方が速い」
「…そうでございますね、ありがとうございます…イシュキミリ様」
「礼はいいさ、友達を助けに行こう!」
イシュキミリ様…、私を落ち着かせてくれたのですね。デティフローア様が信頼する理由が分かったかもしれません、流石は魔術界の次代を担うとまで目されたお方です。
「よし、では時界門を開くのでイシュキミリ様は────」
「メグ君ッ!」
「きゃっ!?」
刹那、眼光を変えたイシュキミリ様が私の腰を掴んだまま横に飛ぶ…今度は何かと思った瞬間、廊下を横断するが如く飛翔する無数の鉛玉が銃声と共に空を切り、轟音を鳴らす。
「なっ…銃弾!?」
『チィッ!外しちゃったよ…!裏切り者のマーガレットを殺す大々々チャンスだったのにさぁっ!キィーッ!」
ガコン!と音を立て、蒸気を漂わせながら廊下の向こう側から現れる…メイド服。あの十字の瞳と下品な顔つきは。
「貴方はクレシダ…ですね?」
「お初にお目にかかりま〜す!マーガレットセンパ〜イ!」
両手に機関銃を持ちながら十字の眼孔を歪ませる緑髪のメイド…、こうやって顔を合わせるのは初めてだが、手元の情報から察するに奴はハーシェルの影その九番『銃殺』のクレシダだ。
私があの館を去ってから影になり、そのまま破竹の勢いで九番にまで成り上がった殺しの天才か…。
「私は上に残った奴らの掃討ってぇ…一番ダリ〜仕事任されてたのにさぁ、…一番ツイてるなぁ!まさかコーディリアお姉様がシクるなんてぇ!」
「…私を殺すつもりで?」
「ったり前ぇっーッ!テメェは漏れなく超一級の抹殺対象!最優先でぶっ殺せってお触れが出てんだもッ!お前殺せばミランダ降ろしてファイブナンバーになれるんだよッ!」
「ナンバーなんて…アホらしい、やはり貴方達は…揃いも揃って下品です」
立ち上がりながら、下を確認する。時界門を使って今すぐエリス様のところに行きたいが…それを強行出来るほどにクレシダは弱くない、時界門を開く動作に銃弾を割り込ませ阻止するくらいのことはしてくる相手だ。
(倒さなければ、先に進めないか……ん?)
ふと、気配を感じさりげなく手鏡で背後を確認すると…なんと後ろの廊下からもゾロゾロとメイド達が現れるのだ。数にして二十人…立ち振る舞いからして五十番以下の雑魚達だろうけど…。
数が多い、いくら五十番より下の奴らとは言えこいつらもジズから訓練を受けた殺し屋、そこらの殺し屋より余程戦闘能力がある…。
「チッ、クレシダだけでも厄介なのに…」
「……では、手分けして倒そうか」
「へ?イシュキミリ様…まさか」
「私が露払いをしよう、君はあの銃火器持ちを倒してくれ」
私に背中を預けながら、何処からか分厚い本を取り出し構えを取るイシュキミリ様は言う…背後の雑魚はこちらがやると。いやありがたいけど…任せていいのか?これでイシュキミリ様が死んでしまったらそれこそ意味が…。
「迷うな、友達を一秒でも早く助けに行くならこれがベストだ」
「ッ…わかりました、どうか死なないでくださいね」
「ああ任せなさい、私は…父から未来の魔術界を託されているんだ。まだまだ死ねない…!」
クレシダに視線を合わせる、両手には大型の機関銃。見たところ他にも幾つか銃火器を持っている様子だし…とっとと距離を詰めて決めるか。
「では、行きます!」
「ああ、行ってこい!」
走り出す、廊下を駆け抜け一直線にクレシダを目指す。ここは廊下…両脇には壁、直線に伸びる空間、機関銃持ちのクレシダにとってはまさしく必殺のフィールドでもある。奴がこの場にいる人間の掃討を任されたというのも納得の状況。
「ヒハハ!来いや!そして死ねや!マーガレットォォォオオオ!!!」
クレシダの瞳孔が開き刻まれた十字が赤く輝く。あれが特異魔眼の一種…『狙撃の魔眼』か!
────魔眼は基本的に『遠視』『暗視』『熱視』『魔視』『透視』の五種類しか存在しない。だがそれは飽くまで基本的に…と言うだけで例外は存在する。例えば魔女様レベルで魔眼を極めると未来を読む『流視の魔眼』を扱えたり、凡ゆる物を看破する『真理の魔眼』が使えたりとその発展系が存在するのもまた事実。
そして、その中でも一際異形なのが特異魔眼と呼ばれる系譜。魔眼を習得した眼球に外的魔力要因による刺激を受けた際、極めて稀に発症すると言われる魔力異常によって魔眼が変質する状態を特異魔眼と呼ぶ。
デティフローア様曰く重瞳などの現象にも類似する現象と呼んでおり、メルク様曰く
魔眼が特異魔眼に変質すると、本来の魔眼では再現不可能な挙動を行う場合が多い。今現在確認されている例としては『音が見えるようになる音視の魔眼』や『目から熱光線を放つ光視の魔眼』などが存在する。フォーマルハウト様の『目で魔術を発動させる術理の魔眼』もまたこの一種だと陛下から聞いたことがある。
極めて強力な力を持つことの引き換えに特異魔眼は制御が難しく、に発動し続けてしまうと言う……。
クレシダが持つ狙撃の魔眼もその一種。遠視が変質し『ほぼ無限にズームが可能であり、かつ対象を自動で追尾する』と言う力を持ち、この力により彼女は百発百中に近い狙撃能力を実現しているんだ。
「フッ!」
「逃さねぇし逃げられねぇよ!」
迫る弾丸の雨を前に止まることなく私は地面を蹴り壁を走り、そのまま天井を駆け抜け縦横無尽に銃弾を避ける。
こうして高速で動いているのにクレシダの目は確実に私を捉えている。絶対に相手を見失わない瞳とは面倒な物だが、それでも弾丸は追尾してくるわけではないので避ける事自体は出来る…だが。
「距離詰めて私と張り合うつもりぃ?ナメんなやッ!改定・空魔殺式ッ!」
「来るか…ッ!」
両手の機関銃を捨てまた新たな機関銃を取り出すと共に迫る私から銃口を逸らす。来る…改定空魔殺式が…!クレシダの持つ技の中で最大級のそれが!
「『籠目蜘蛛張』ッ!」
四方八方に乱雑に銃を乱射し壁を用いた乱反射により空間のほぼ全域を網羅する弾幕を放つ。矢鱈滅鱈に見えてこれが全て計算され尽くし弾道と狙撃の魔眼を利用し敵の座標を正確に把握した上での上下左右からの究極の狙撃。
…これは回避し切れない、どう足掻いても避け切れず殺されるだろうな……進み続けていたら、の話ですが。
「ッ…!」
懐から取り出したナイフを使い迫る弾丸を叩きその場で回転し全方向から迫る弾丸の嵐の間を掻い潜る、その場で停止し回避に専念すればこのくらいなら避けられる。
空間認識…それは時空魔術使いにとって必須スキルなんですよ。だから私に全方位からの飽和攻撃はあんまり効果はありませんよ。
「よっと…」
「お、おお…すげぇ〜全部避けた〜…、これがお父様が目を見つけた最高の逸材かぁ〜…!」
「貴方のやり方は殺し屋にしては雑過ぎますよ、そんなのを九番に添えるなんて…ジズもそろそろボケて来ましたか?」
「なっ!こいつぅ〜…!」
地面に着地し考える、やはりクレシダは強い…近づこうにも近づき切れない、銃撃の速度と精密性を考えるに、迂闊に時界門を使って武器を取り寄せるのは寧ろ悪手か。立ち止まって武器を取り出している間に蜂の巣だ。
…いや、なら別の方法を────。
「『フェニックスエクスプロージョン』ッ!!」
「おお!?」
刹那、背後から爆風と目が痛くなるほどの真っ赤な光が溢れ出し思わず振り向いてしまう、クレシダもまたそちらに目を奪われる。
轟音、衝撃、熱、その全てが炸裂する…私の背後で。誰が起こしたかなんて考えるまでもない。
「その程度かい、ハーシェルの影…」
イシュキミリ様だ…。分厚い本を開きながら燃え盛る廊下の中に立ち、数十人近いハーシェルの影を一人で抑え込んでいる…どころか押してさえいる。
荒れ狂う魔力の奔流を漂わせながら毅然として立つ姿は…さながら魔術の王として風格を思わせる。
「クッ…波状攻撃!魔術と魔術の間を狙う!」
ハーシェルの影達の中で比較的高ナンバーと思われる者が叫び、炎を切ってイシュキミリ様に波状攻撃を仕掛けようと走り出す。魔術は連発が出来ない…ある意味波状攻撃はイシュキミリ様にとって最も相性の悪い相手とも言える。
「ふむ、これなら…『三枚』程でいいか」
だがイシュキミリ様は静かに本のページを数枚千切り取ると…。
「展開…『魔導箋・炎焃の項』」
千切り取られたページ達は空中を漂い、イシュキミリ様の魔力に呼応し赤く赫く燃え上がる。あの輝きは付与魔術?いやそれだけじゃない…なんだあれは!
燃え上がるページを侍らせて、静かに現代魔術の詠唱を終えると…それは巻き起こる。
「『久那土赫焉』」
指を鳴らす、同時に燃え盛る豪炎、爆炎、烈炎は廊下の壁を這い砲撃のような速度と威力で一気に燃え広がり迫るハーシェルの影達を吹き飛ばしその身を焼き焦がす。
その燃え盛る衝撃波は廊下を突き抜けて向こう側の壁にまで迫り城の外へと飛び出て夜空を映す。信じられない威力と常識外れの破壊力。
だって今の…『初歩的な魔術と同程度の魔力』しか使ってなかった。
「ふぅ…」
「イシュキミリ様…ひょっとしてメチャクチャお強い?」
「言ったろ?戦いの心得はあると」
心得なんてレベルじゃない、普通に一戦級の強さだ…ただの貴族なのにこれほど。いや違った。
そうだ、この方はあのトラヴィス・グランシャリオのご子息なんだ。かつて『太陽の化身』とまで呼ばれ炎熱魔術系統に革命を起こし魔導の麒麟児にして今現在世界最強の魔術師であるヴォルフガング様と唯一同格と目される大魔術師トラヴィスの息子なんだ。
あの滅多に人を褒めないヴォルフガング様が『多分戦ったら勝てないんじゃないかな…』と自信無さげに語る程の腕前を持つトラヴィス様のご子息が…弱いわけがないんだ。
「い、今の魔術は一体…」
「ああ、あれ?私が開発した魔導箋って言う魔術の使い方、ややこしいから今は説明しないけどね」
───後日、デティフローア様を通じて聞かされた魔導箋の詳細を聞いた時、私はこの時以上の衝撃を受けた。
『魔導箋』、それは最も効率よく単独で合体魔術を放つ方法である。魔術陣を書き込んだページを数枚千切り、それに付与魔術をかける事で自身の魔術の補佐をさせると言う魔術の新たな使い方。
例えば今しがた見せた魔術は、炎熱系の魔術陣が書き込まれたページに炎熱系の付与魔術をかける。すると付与魔術の付加に耐えられなくなったページは自壊を初める。
魔術陣の中に込められた炎の魔力と付与魔術に込められた炎の力を伴ったまま自壊するページは、付与の付加により崩壊する瞬間一瞬だけ、内部に込めた炎属性の魔力は周囲に解き放たれる法則が存在する。
それを詠唱と魔力によって制御し魔術に変換する…すると、事実上複数の魔術が全く同時に発生することになり合体魔術へと変化し威力が数段上の物になる。
ページ一枚につき魔術師一人分の効果があり…今見せたページ三枚の魔術は、イシュキミリ様を合わせて魔術師四人分の攻撃となったわけだ…。これなら通常の三分の一程度の魔力で通常の二倍以上の威力を発揮出来る。
はっきり言おう、革命だ。安易で用意も簡単で高威力、こんなものが世に出れば瞬く間に広がり、魔術師は全員杖ではなく魔導書を持つ時代が来る。…いやそれだけじゃない、剣士も戦士も敵じゃなくなる、魔術師一強の時代が来る。
そんな物を、イシュキミリ様は単独で作り上げたのだ…。天才だ、この人はトラヴィス様を上回る史上最高の現代魔術師になるかもしれない。
「さて、こっちも終わったし…そっち、手伝おうか?」
「あ……」
指を指されて気がつく、私の後ろで呆気を取られているクレシダの存在に。
「イシュ…キミリ…?イシュキミリ?イシュキミリ…が、なんでここに?」
何やら目を白黒させながらブツブツ言っているクレシダを指差したイシュキミリ様はニコリと軽く微笑む、確かにあの魔術を使えるイシュキミリ様ならクレシダの銃撃もクリアできる…けど。
「いえ、私がやります…糸口を見つけたので」
「そうか、なら…お手並み拝見だ。無双の魔女より伝授されし至高の技、見せてもらおう」
「はいっ!」
再びナイフを構える、するとクレシダも気がついたのか…ギリギリと歯を食い縛り。
「どいつも…こいつも!この裏切り者がぁぁあああああ!!!」
裏切り者と私を罵りながら再び銃撃を浴びせかけるクレシダに向け一気に距離を詰める。ただ銃撃なら回避出来る…だがきっと、またある程度近づいたら…。
「チッ、やっぱ普通に撃つだけじゃダメだ!だったらまた!改定・空魔殺式!」
銃を捨て、また新たな機関銃を取り出す。一体いくつ銃を持って来てるのか知らないが、彼女にとってはあれがリロードのつもりなのだろう。
そうだ、リロードなんだ…奴はあの掃射を行う前に必ずリロードする。ならここに…隙が生まれる。
「『籠目蜘蛛張』ッ!」
「『時界門』ッ!」
リロードの一瞬の隙を用いて展開する時界門。迫る銃撃の嵐の中私は回避を捨てて一気に時界門の中に身を突っ込む。
「ッあ!?どこ行ったッ!?」
時界門に入り姿を消した私を前にクレシダは一瞬混乱する、自動で追尾する筈の狙撃の魔眼が相手を見失うことなど稀だからだ。だが…だからこそ気がつく、自動追尾を免れたと言うことは…今メグは目届かないところにいると、つまり。
「後ろかッ!」
機関銃を捨て袖から拳銃を取り出しながら背後に向き直る…が、もう遅い、遅いんだよ!
「貴方のそれが、ジズより授かった奥義と言うなら…私も見せましょう、陛下より授かりし時空魔術の奥義を…ッ!」
「あっ!?」
振り向いた瞬間向けられた拳銃を蹴り飛ばし、私は時界門から飛び出しながらクレシダの目前に躍り出る。一瞬の隙を利用してクレシダの背後に転移し、今…距離を詰めたのだ。
ならば後は簡単だ…、そう心の中で唱えながら拳をギュッと握りながら空中で大きく腕を振りかぶり。
「あ…ああ…!?」
拳銃を蹴り飛ばされ怯えるクレシダの、顔面に向けて…ッ!
「『阿毘羅雲拳』ッ!」
「ぐぎゅぅっ!?!?」
叩きつける─────ッ!
空間を凝固させ、拳に纏わせ一気に相手に向けて爆裂させる時空魔術の一種『阿毘羅雲拳』。陛下の使うそれに比べたらまだまだ可愛い代物ですが…世界ごと相手を殴り抜くこの一撃はクレシダ一人ぶっ潰すのにはあまりにもオーバースペック。
頭の上から叩きつけられた世界の拳はクレシダを殴り抜きながら地面ごとぶっ壊し、床が抜ける。
「ぎゃふぁっっ…!?」
「邪魔…しないでもらえますか…!」
砕け散る廊下、クレシダごと地面を殴り壊しそのまま落ちる。この真下はコーディリアのいる倉庫…だったら時界門を作らずそのまま直行してやる!
「イシュキミリ様!イシュキミリ様はそのまま倉庫の出入り口を見張っておいてください!」
「ああ、迂回していくよ」
そうイシュキミリ様に指示をし、私は倉庫へと落ちていき、落ちていき、落ちて────。
「ふむ」
そして、一人残されたイシュキミリは顎を指で撫でながら一人思い耽る。メグに指示された通りこのまま階段を降りて倉庫の出入り口へと向かおうか…にしても。
「あれが、本家本元の古式時空魔術か…、やはり贋作と違って出来がいい。しかしどういう原理で動いているのか理解が出来ない、ふーむ…古式魔術と現代魔術は根本から違いそうだ」
目を伏せメグの魔術を思い出し、記憶の中でその魔術の完成度の高さに恍惚の表情を浮かべる。やはり古式魔術は別格だ、あれこそ本物の魔術だ、古式魔術の前では現代魔術はさながら模写や贋作のようにさえ思えてくる。
「やはり、古式魔術こそ…世に広めるべき魔術。現代魔術なんて物を作り広めた人間は…酷く愚かしく思える。人の願いを叶えられない現代魔術程価値のないものなんて…この世にないというのに」
古式魔術はより魔の源流に近いと言える。そして魔の源流に近いからこそ…やはり魔術とは人の手に余る物であると理解出来る。
魔術は、神だ。テシュタル教徒が崇める紛い物の神ではない、この地上に顕現せし神の御姿なのだ。
「ふぅ、もう少し古式魔術を目にした感傷に浸りたいが、サボって何か言われるのも癪だ。急ぐとするか」
お楽しみは後にとっておくとして、今は仕事をしようとイシュキミリは踵を返し歩み出そうと足を前へ出し…。
「ん?」
「あ、貴方は……」
ふと、先程のハーシェルの影の一人が全身に傷を負いながらも立ち上がり、こちらを睨みつけていた。あの魔術を食らってまだ動けたか…メグの前だから情けをかけて殺さないでいてやった物を。
「退け、私は今急いでいる」
「貴方は…!イシュキミリ様ですよね…、八大同盟…メサイアアルカンシエルの盟主、我が父の同胞…イシュキミリ様ですよね…!」
「…………」
その名を口にされムッとする、八大同盟の盟主という点をこの場で口にされた事も、ジズの同胞と呼ばれたことも、どちらも腹立たしい。
今私はメサイアアルカンシエルのトップ・イシュキミリとしてこの場に来ているわけではなく、トラヴィスの息子イシュキミリとして来ているんだ。仕事とプライベートは分けるタイプなんだが…。
「はぁ、…繰り返すのは好きじゃない、退けと言ってるんだけど。三度目はないぞ…」
「なぜ貴方が魔女の弟子の味方をするんですか…!貴方も八大同盟なら、我らハーシェルの味方を…」
「するわけがないだろう、…私が何も知らないと思ったか?」
「ッ……」
「オウマから聞いている、ジズはマレフィカルムを裏切っていると…。だからプロパを殺したんだろう?アレはマレフィカルムにとっては有益な資金提供者だった」
「ち、違…それは、仕事で…」
「どちらにせよ、君達が我々に弓を引いたのは事実だ、味方をしてやる謂れはない。けど私はここにプライベートで来ている…メサイアアルカンシエルのメンバーを招致してジズに抗争ふっかけるつもりはない、だから今すぐ消えろ…私の素性を口にしないのなら生かしておいてやる。今の私は…心優しいイシュキミリ君でないといけないからね」
「……………」
笑顔の仮面を被って微笑みかける、が…ハーシェルの影はナイフを取り出し、怒りの眼光を向けてくる。
はぁ…つくづく、駒と言うのは。ジズの手駒程度が、私に敵うわけがないだろう。
「お前は…お前だけは!殺してやる!イシュキミ───」
「はぁ…下犬が…!三度目はないと言った筈だ」
歩む、魔術道王の名を冠するイシュキミリが歩む。その道は王道であり阻む物はない、例え目の前に敵が居ようとも…道を譲ることはなく、また阻まれることも無い。
ハーシェルの影は確かにナイフを構えイシュキミリに切りかかっただろう。だが…イシュキミリが一歩踏み出しただけで…。
「な─────」
凍りついた、比喩ではない、体の芯から凍りつきメイドを精巧に模した氷の彫像へと変貌させた。詠唱もなく、魔術でもなく…『誰にも感知されない程素早く、一瞬だけ魔力覚醒を解放』して凍てつかせたのだ。
そして二歩目を歩み出す頃には既にメイドの氷像はヒビ割れ跡形もなく砕け散り、その場に氷霜の粒子を漂わせ消え失せる。
もう一度言おう、彼の歩みを止める物はない、何一つとして。もしいたならば…彼は容赦なくそれを消し去るからだ。
「犬の躾がなってないぞ、ジズ・ハーシェル」
イシュキミリ・グランシャリオ…、彼の父トラヴィスが『太陽の化身』であるならば、その逆を征く彼はさながら『霜の王』。裏の世界に名を轟かせるもう一人の魔術の支配者は髪を整えながら何もなかったかのように進む、進む。
……………………………………………
そして。時は若干巻き戻り…メグとクレシダが迫り合いを始めた頃。下層の倉庫では…。
「意味を持ち形を現し影を這い意義を為せ『蛇鞭戒鎖』ッ!」
「むっ!?」
乱れ飛ぶ銀のワイヤーの雨に向け、エリスは手をかざし魔力の縄を放ちメチャクチャに振り回しビアンカの操るワイヤーに絡め空中で停止させる。
「取った!」
「対応が早い…流石は魔女の弟子」
グッ!と縄を掴めばビアンカの指から伸びるワイヤーとエリスの魔力な縄が空中でピンと張る。ようやく捕まえたぞ…ビアンカ!ワイヤーが無けりゃお前なんか怖くないんだ!
「カリアナッサ・スレッジハンマー ッ!」
「げばはぁっ!?」
一方エリスと共に戦っていたネレイドさんもまたオフェリアの拳撃を見切り、逆に拳骨の薙ぎ払いにてオフェリアを吹き飛ばし倉庫の棚へと叩きつける。
「あ、あれ…おかしいな、殴り合いで…あたし、負けてる?」
「お前の拳は『狙い』過ぎだ、当たれば必殺の拳を持つが故に拳を当てる事にしか注意が行っていない…、武とは『如何にして相手に攻撃を当てるか』の道筋を考える物。闇雲に拳を振るうお前に私が負けるわけがない」
ネレイドさんとて武術の達人、何の考えもなくオフェリア相手に防戦一方だったわけではない。相手の動きを見切り、その上で一撃も貰わずに倒す為の勝ち筋を組み立てていたのだ。
「ッ…おいビアンカ!いつまでそんな奴に苦戦してんだ!早く殺してこっち手伝え!このデカブツメチャクチャ強え!」
「オフェリア姉様!援護を貰いたいのはこっちです…!こいつ、見かけの割に手数が多い…」
膝を突くオフェリアを睨むネレイドさん、ワイヤーのカーテン越しに睨み合うエリスとオフェリア。場の戦況は拮抗していると言える。
いや、まだ向こうにはコーディリアが控えているのが気になるし、メグさんが言っていたクレシダなる人物の姿も見えないのが気になる。完全に互角かは分からない…だからこそ。
「ネレイドさん…このまま一気に魔力覚醒で決めてやりましょう!」
本当は、もう少し様子見をしたかったが…あんまり悠長にしてられる状況でもなさそうだ。なんかさっきから上層から銃声とか聞こえるし…とっとと終わらせる!
「魔力覚醒…いいね、やろうか」
「なぁーっ!?魔力覚醒〜!?お前ら魔力覚醒まで使えるのかよ!?やめろよアタシたちまだ使えないんだから!」
「オフェリア姉様!?それ言ったら…」
「へぇーっ!いい事聞いちゃった〜!なら俄然覚醒しちゃうもんねー!」
なんだ、こいつら魔力覚醒に対する明確な対抗手段を持ってないのか、なら温存する必要はないや、とっとと覚醒して全員ぶっ潰して捻り上げてやろう。
そうエリスたちが力を込めた瞬間のことだった。焦ったビアンカが咄嗟に指からワイヤーを切り離し背後で様子を見守っているコーディリアの方を見て。
「コーディリアお姉様!まずいです!こいつら二人とも魔力覚醒者です!」
「そのようですね…参りました。魔力覚醒者に対抗するにはファイブナンバーの助力が必要ですね…」
「そういうわけです!分かったなら早めに降参した方がいいですよ!」
「ふむ…降参、その前に…私達も切り札を使って涙ぐましい抵抗をするとしましょう」
「………?」
コーディリアの態度がおかしい、とても追い詰められた人間の顔とは思えない。何か隠してる?…いや、隠しているべきだろう。だってこんなの想定して居ない方がおかしい。
こいつらが今相手をしているのは『魔女の弟子』だぞ。その中で何人が魔力覚醒を会得してるかなんて…普通は知っているべきだし知らなくとも考慮すべき可能性だ。
ビアンカとオフェリアは明確な対抗手段を用意して居なくとも、ここまで用意周到に準備を重ねたコーディリアなら、何か────。
「『デストラクトサクション』」
小さく、コーディリアが詠唱を紡ぐとその手は何もかもを引き寄せる吸引を発揮し、近くの棚の影に隠されて居たそれを引き寄せる。
風により舞上げられたそれはコーディリアの腕の中で止まり…。
「さて、これはなんでしょう」
「んぐーっ!んぐっー!!」
引き寄せられたのは人だ、椅子に括り付けられ猿轡を噛まされ拘束された男…いや、アレは…。
「クルス・クルセイドッ!?」
クルスだ、あの外道教皇のクルスが涙を目にいっぱい溜めた状態で助けを求めるように首をブンブン振って居た。なんでクルスがこんなところに…。
混乱するエリスたちを前にコーディリアはクルスの猿轡を外すと…。
「お!おい!お前ら!なんだこれ!何が起きてんだよオイ!助けてくれ!助けてくれー!」
「あ、貴方そんなところで何してるんですか!」
「知らねぇよッ!いきなり袋被せられて誘拐されたんだよーッ!」
「ええ、彼には人質になってもらおうかと…ね」
「ヒィッ!?拳銃ッ!?」
カチリとハンマーを下ろした状態でクルスのこめかみに拳銃を突きつけるコーディリアは笑う。つまり…クルスを人質にするつもりか。
「…………」
「こいつを殺されたくなければ、抵抗をやめなさい」
「…好きにしなさいよ、ソイツはエリス達にとっても憎い相手です。人質として価値はありません」
「あ…そうでしたか、それは残念…ならさっさと殺しましょうか」
引き金に指がかけられる、銃口がより一層押しつけられる。
これは殺す、それが肌で分かる。これはハッタリじゃない…マジ殺す、コーディリアはクルスを絶対に殺す。そんな考えが頭に過った瞬間、クルスは恐怖で顔を歪め。
「ひぐっ!た…助けてーッッ!!誰か助けてくれーっ!誰でもいい!誰でもいいからーっ!死にたくないーッ!」
「ッ…!」
「…ふふふ」
眉間に皺を寄せるエリスを見て、コーディリアは嘲笑い引き金から指を外す。読まれた…エリスのハッタリが効かなかった…。ああそうだよ、殺してもいいなんて思ってない、死んでもいいなんて思ってない、だって…クルスがどれだけクズでも、生きるべきか死ぬべきかの判断なんて…エリスにはつけられない。
「言葉ばかり強くて、情けない限り。貴方達はこれを死なせるわけにはいかない、ロレンツォ同様こいつも王貴五芒星である以上死ねば混乱を生む…」
「…………」
「そういうわけです、大丈夫。こちらからの要求は三つ。『魔力覚醒はするな』『抵抗はするな』…そして」
ギラリとコーディリアは口を三日月のように歪め、動けないエリス達に向け銃口を向け。
「『死ね』…この三点さえ守っていただければ、クルス様は解放しましょう」
「…ッ……」
正直、万事休すだよ。クルスは死なせられない…それは打算的な意味合いでもエリスの価値観的な意味合いでもそうだ。
エリスはハーシェルを否定している、人を死なせる判断をしていい人間はいないとエリスは彼女たちに言った。そんなエリスがクルスを死なせればそれは即ちハーシェルの理屈が正しい事が証明される。それはダメだ、こんな外道共を肯定するなら死んだ方がマシだ。
けど、実際死にそうになってるんだよなぁ…ここから、どう巻き返すか。
……ん?あれ?
(なんか、おかしくないか…?)
ふと、捕まっているクルスを見て…何か、違和感のような物を感じる。なんだこの気持ち悪い感じは……。
「さぁ、ビアンカ…オフェリア…殺しなさい」
「はぁい、お姉様」
「はい、お姉様」
「………」
いや、今はそれどころの騒ぎじゃないな、…実際どうする。これ…ネレイドさんと視点を交わしながらどうするかを無言で相談する。クルスに銃口が向けられている限り抵抗ができない…。
一瞬でもいい、クルスから銃口が逸れれば…エリスはなんとか出来る。だから一瞬でも…隙があれば。
そう、祈る。天に祈る…その祈りは或いは本当に届いたのか……。
「…ん?」
コーディリアが見上げる、エリスが祈りを向けた天に…天井に。何か異様な気配を感じ皆が天を見上げる…すると。
割れている…割れ初めている。天井が!まさか!
『コォォォオディリァァアアアアアッッッッッ!!』
怒号、爆音、激動、一瞬にして世界が塗り替わる衝撃を伴って天井が砕け…その向こうから、現れる…彼女が!
「メグさん!!」
「マーガレット!?」
メグさんだ、見知らぬメイドを殴り抜きながら天井を砕き吠え立てながらメグさんが倉庫に突っ込んで来たんだ。
その異様なる姿を前に咄嗟にコーディリアも驚きの声をあげ…。
「やはり来たか!マーガレットッッ!!」
「コーディリア!今度は逃がしません!絶対に!」
「吐かせェッ!」
天から降って来るメグさんに向けコーディリアは迎え撃つように拳銃を向け躊躇なく銃撃を繰り出す。相対するメグさんもまた時界門から取り出した大型のブレードを手繰り銃弾を弾き返す共にコーディリアへと突っ込む。
「チッ…、…待てッ!こっちには人質が…」
そこでコーディリアは気がつく、手元に人質がいる事に。直様拳銃を戻しクルスの額に拳銃を向ける…が、遅い。
あまりにも遅い、コーディリアの視線がメグさんに集中しクルスから銃口が外れた時点で…エリス達が大人しくしている理由はどこにもないのだから。
「『旋風圏跳』ッ!」
「なっ!?エリスか!」
一閃、煌めく銀の閃光が銃を穿つ。エリスだ…先程ビアンカが捨てたワイヤーを拝借し咄嗟に風に乗せてコーディリアに向け放ったのだ。
殺しの道具として手入れされているワイヤーは易々と拳銃に突き刺さり。そのままワイヤーを引っ張らればコーディリアの手元から拳銃が引き剥がされる。
これで、脅しの道具は無くなりましたね!コーディリア!
「チィッ!予定が狂った…これはもう、撤退しかないか…」
「だから逃さないと言っているでしょうがッ!」
叩き込む、鋼鉄のブレードをコーディリアへと。迎え撃つようにコーディリアも懐から取り出した大振りのダガーで火花が散る程の衝突を起こす。
ギリギリと音を立てて、赤熱する刃と刃。その向こうで睨み合う二つの視線。
この二人が、先程街でぶつかり合ったことは知っている。その時は勝負がつかなかったことも知っている。だがあのメグさんが何故コーディリアを取り逃がしたのかまでは聞いてない…何より。
(異様だ、メグさん…貴方がそんな目をする程、コーディリアと因縁があるんですか)
「コーディリアァァッッ!!」
「ギャーギャー叫ぶなよ!ウジムシがァッ!」
繰り広げられる二人の世界に、エリスは…メグさんが何かを隠していることを悟り、息を呑む。
もしかしたら、今…エルドラドで起こっている事件は全て────。




