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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十四章 闘神ネレイド、炎の大一番
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460.闘神将ネレイドVS争神将オケアノス


「ねぇ…あれ」


「うん、例の『怪物女』だ…近寄るな、どんな目に遭わされるか…」


「…………」


ポツリポツリと雨垂れのように重く滴るような足取りでサラキアの街を歩む。周りの人達と目を合わさないように下を向いて、足を引き摺るように歩く。


「聞いた?この間喧嘩して子供を怪我させたって」


「聞いた聞いた、全くあんな危険物がどうして街中に…」


「恐ろしいわぁ…」


「………………」


誰かと目を合わせたら、きっと怯えられる。誰かに声をかけたら恐れられる。


私が誰の事も理解できないように、誰も私を理解してくれない。勇気を振り絞ってもなんの意味もない…。まだ十を数えぬ年齢で、少女は現実というものを知り、打ちのめされたのだ。


「テシュタル様はどうしてあんな子を産み落としたのかしら…」


「………」


誰かが言った言葉を背に受けて、私は逃げるように家に…教会の扉を開けて奥に転がり込む。壁を隔ててもよく聞こえる耳を塞いで教会の奥に、ステンドグラスの下にて神へ祈るあの人へ…私は、オケアノスは縋り付くように歩み寄り。


「ねぇねぇアデマールお爺ちゃん」


「んぅ?なんだい、オケアノス」


それはいつ日だったか、どれほど昔だったか。幼き日…私は問うた。父親代わりとして私を育ててくれたアデマール様に、問いかけた。


「ねぇ、私ってさ…本当に…人間なの?」


それは、本当なら聞きたくなかった問いかけ。本当なら一生見ないフリして知らないフリして気がつかないフリをして…大人になってお婆ちゃんになって寿命が尽きるまで直視するつもりのなかった問いかけ。


私は本当に人間なのか。そんな間抜けな問いかけを本気で口にする、口にするより他なかった。


だって…。


「どう考えても私、普通じゃないよ。…アデマールお爺ちゃんもそう思うでしょ?」


ワナワナと震えるオケアノスの手には傷一つない。今日…私は三人の兵士と喧嘩をした、横暴な兵士がまだ小さな子供とぶつかってロクに謝罪もしなかったから…テシュタル様の教えに従い三人の兵士を諭した。


けどお前みたいな子供が生意気だと言う話になり、喧嘩になり…私は勝った。鎧を着て剣を持っていた兵士を三人相手にして、無傷で勝った。


分厚い鉄板の鎧はオケアノスが殴ればボコボコに凹み、半狂乱になった兵士が剣で切り掛かっても剣が折れ、びっくりして蹴飛ばしたら兵士が家に突っ込み…家が一つ崩れた。


前々から感じていた違和感を自覚させるように、突き刺さったのは周りの目。怪物を見るような目…。


そんな観衆がふと呟いた言葉…『人間じゃない…』。その言葉がオケアノスを現実に戻す。


私は人間なのか?本当に人間なのか?


「ねぇ、教えてよ。私は人間なの?それとも魔獣?…それとも…もっと別の…恐ろしい何かなの?」


普通じゃない、人間じゃない、なら私はなんだ。私は…なんなんだ。


人間でも魔獣でもない私は、もしかして…ずっと一人ぼっちなのか?私に親がいないのはそう言う事なのか?…そう問いかけるとアデマール様はふふふと静かに笑い。


「お前は人間だよオケアノス、人ではない何かに成り下がる事を恐れるのは人間だけだ」


そう言うんだ。いつもの優しい笑顔で私の望んだ事を言う。いつもならそれで納得出来るが今日はもうそう言うわけにはいかない。


だって私はもう誰からも人間として見られていない!畏怖の象徴だ!周りの子供達からは避けられ、大人からも怖がられ…それは、私が他とは違うからじゃないのか。


「アデマールお爺ちゃん!本当の事を教えてよ!私は…独りなの?」


私は独りなのか、一人ぼっちなのか。そんな言葉を投げかけられたアデマールお爺ちゃんは窓の外に目を向けて…こう言ったんだ。


「いや、一人じゃないよ。お前と同じ子はいる」


「え?…」


「生まれながらにして強い力を持ち、他とは隔絶した恵まれた力を…人々の為に使う人物が」


「だ、誰なの?何処にいるの?」


「マレウスにはいない、遠く海を隔てた向こう…オライオンにて、テシュタル様の為に戦う勇敢なる者…名を、ネレイド・イストミア。幼くして人人のために戦う神の刃さ」


「神の…刃」


それからお爺ちゃんは教えてくれた。ネレイドなる人物もまた私と同じ他を隔絶した力を持ちながらも人に認められている事を。


海の向こうポルデューク大陸に名を轟かせる蒼の巨人ネレイドは人々の為に戦い、その力を善のために奮い、歩み続けていると言う。


恐れられる事を恐れず、嫌われる事を嫌わず、傷つきながらも気高く立ち上がり…彼女は今も力強くそこにいると言う。


私と同じ存在でありながら、私とは真逆の場所にいる彼女の話を聞いた私は、彼女の名前しか知らないのに…。


「す、すごい…!」


憧れた、憧れたんだ。私のような普通じゃない力を使って…普通の人には出来ない事をやっている。その事実に私は目を輝かせアデマールお爺ちゃんの裾を掴み…。


「ね、ねぇ!アデマールお爺ちゃん!…私も、その人みたいになりたい。私も誰かに認められたい!」


「そうだな、なら…彼女のように生きるよう心がけるのだ。人の為に、誰かの為に、その力を奮えばいい」


それは私にとっての希望だった。私みたいな奴でもしっかりやっていけると言う希望だった。いつかネレイド・イストミアのようになりたいと心の底から願い…私は、初めて誰かの背を追いかけた。


神聖軍に入ったのだってネレイド・イストミアが神聖軍に居ると聞いたからだ。神将になる話を受け入れただって…アデマールお爺ちゃんへの義理と温情と、ネレイドへのほんの少しの憧れからだ。


誰からも認められる事なく生きる私でも、いつかネレイドのように…。


その日から私は、希望を抱いてここまで歩いてきた。長い長い道のりだ。いつしかネレイドへの憧れを忘れかけ、自分がなんのために戦うか分からなくなるくらい…長く長く歩いてきた。


そんなある日に、私は出会ったんだ。


私を、孤独から救ってくれた人に。ネレイド・イストミアに。


………………………………………………………


「エリスはエリスです、冒険者やってます」


「うん、エリスちゃんだね…それで君は?」


最初にネレイド・イストミアに出会ったのは友の街ドゥルーク。ひったくりを前に機敏な動きを見せる彼女にサッカーの才能を見出し偶然声をかけたんだ。その時出会ったサッカーの上手い金髪の子と一緒にいたのが。


「私は………ネレイド」


「ネレイド…?」


最初、その名前を聞いた時。ピンと来た…もしかしてこの人はネレイド・イストミアなのでは?と…だが次いで浮かんできたのは。


(まさかな)


否定の言葉だった、だって私にとってネレイドは会うことの出来ない海の向こうの人物だったから。でもネレイド・イストミアが持つ青い髪も巨大な体も…特徴が合致してるし。


「ネレイド…ねぇ」


「…………」


もしかしたら、そう思ったり…いやいやそんなはずないと思ったり。目まぐるしく思考を入れ替える私は、なるべく焦りを隠すように彼女に聞いて見た。


「うーん、何処かで聞いた事がある気がするけど君って有名人?」


なんてね。正直今思えばあんまりにも遠回りすぎたよ。私にとってはネレイドは有名人だ、何せ海の向こうにも名前が知られてるんだから。けど彼女はそう聞くと静かに首を振り。


「別にそんな事はない」


そう否定された、…そう言われたら、それ以上追求出来なかった。いやいやお前はネレイド・イストミアだろ!?なんて聞いたら私がネレイドの事を知っているのも、憧れているのもバレてしまう。


それは恥ずかしかったし、そもそも海の向こうにいるはずのネレイド・イストミアがこの街にいるという事実を知ってしまうのはなんか面倒ごとに繋がる気がして、避けてしまった。


「そっか、じゃあ気のせいか!うん!よろしくね!ネレイド!」


「よろしくね」


そう言って誤魔化すしかなかった。私に出来る精々の言葉と言えば…『いい名前だ』なんで口にするくらいだった。ネレイドは私にとって希望の言葉。彼女の名前に救われた身としては…その言葉だけは伝えたかった。


そうして私はネレイドとその友人とサッカーを楽しみ…、いや楽しくはなかったかな。なんだか違和感を感じてしまって…変な言い訳をして逃げしまった。


…はっきり言おう、私はあのサッカーで本気を出した。楽しかった、憧れのネレイド・イストミアと一緒に大好きなサッカーが出来たんだからね。彼女は本当に強かった。本当に強くてつい本気を出してしまったね。


本当に…本当に、君に会えてよかったと心の底から思えたよ、ネレイド・イストミア。




けど、そんな私の希望を粉々に打ち砕く事件が起こったのはそれから少ししてからだ。



ナールがガイアの街を攻めると言い出したあたりからかな。相変わらず血生臭い戦争ごっこをやろうとして辟易としていた私に、一通の手紙が届いた。


差出人は不明、真っ白な便箋に入った真っ白な手紙には、こう書かれていた。


『近々そちらにネレイド・イストミアが行くだろう。そこでお前の希望足り得るかを試すがいい。そして…お前が本当に一人ではないかを、再度確認しろ』


と、まるで未来を知っているかのような口振りの文章を見て、私はあの日出会ったネレイドがやはりネレイド・イストミアである事を悟った。と同時にこの手紙に書かれていた内容…私の希望足り得るかを試せという言葉に違和感を感じた。


どういう意味だ、どういうつもりだ、全く分からない。分からないけれどこれがもし本当なら…私はネレイドと戦うことが出来るのだろうか。今度はサッカーではなく、本気の戦いを。


そう思っているうちに、本当にネレイドはサラキアに現れた。そして今度はご丁寧に戦う理由もくっつけて。


別に手紙に従うつもりはなかった、それでもやらなきゃいけないからやった。その結果私は…勝ってしまったんだ。ネレイド・イストミアに。


私が思っているよりネレイドは弱く、私が思っているより私は特別だった。いや…或いはネレイドは偽物の特別だったのかもしれない。


そう思うとふと怒りが湧いてきた、こんなのに今まで突き動かされて生きてきたのか?私はこんなのを希望にしていたのか?なんてことはない…ネレイドも他と同じ『普通』じゃないか。


結局…私はやっぱり一人なんじゃないか。あの手紙が言いたかったのはこういうことか。


この世と言う広大なコートの中ポツンと立ち尽くす私の前には、ただボールとゴールだけが用意されている。


誰も私に立ち塞がらない、誰も私と競わない、競えない。ただボールを蹴れば結果と言う得点が入るだけ…。こんな無為な行為に一体どれほどの価値があるのか、それさえも分からない。


…嗚呼、寂しい、寂しい、寂しい…。


誰か、私を止めてよ。誰か、私の前に立ってよ。


でなきゃ私は…………。





───────────────


「フンッッ!!」


「はぁっっ!!!」


激突する拳と足、その衝撃は大地を揺らし周囲の水を波立たせ、轟音を鳴らし神殿全体を鳴動させる。まるで火山の噴火の如き激震、それが…ただの二人によって成されているのだ。


「おやめください!ここで戦うのは!ここは…神聖な場所なんです!やめてください!!」


兵士の一人が叫ぶ。やめてくれと…ここは数百年の歴史があるナウプリオス大神殿。テシュタル真方教会の総本山…その中庭なのだ。戦っていい場所じゃないし…何より。


「やめろォッ!オケアノス!ネレイドォーッ!」


今目の前で争いを始めたのは、常人の域に留まる存在ではない。


片や、オライオン最強の名を戴く闘神将ネレイド・イストミア。


片や、真方教会最強の名を戴く争神将オケアノス・エケ=ケイリア。


こんな人のいるところで戦っていい人達ではない。ただ一挙手一投足が災害になり得る神に愛されし神将がこんなところで戦ってはいけないと、壮年の神聖軍部隊長が叫ぶも…それはただ木霊するばかりで肝心の二人には届かない。


「何度やっても同じなんだよ!ネレイド・イストミア!お前は私に敵わない!」


「それは…どうかな!!」


バチバチと、ギリギリと、互いの魔力が呼応し膨張し激突し軋み合う。空間を押し潰し異音が鳴り響き迸る何かを超えた向こうにある眼光を互いに見つめ合う。


あってはならぬ、神将同士のぶつかり合い。当代最強の称号を持つ者同士の戦闘が始まってしまったのだ。


「ッ…!!」


その瞬間、壮年の神聖軍部隊長は何かを察する。長く戦いの世界に身を置いてきた、命の危険と呼ばれる瞬間に何度も立ち会ってきた、その直感が告げている。


これはもうどうしようもない、逃げるしかないと。


「そ、総員!退避ーーッッ!!ナウプリオス大神殿を…放棄せよーーッッ!!」


このままいけばネレイドとオケアノスの戦いは激化する。そして激化の果てに…どのような結末を迎えるか、それはまだ分からない。だが…その戦いの中心にあっては誰一人として生き延びることは出来ない。


例え数百年の歴史あるナウプリオス大神殿を、真方教会の総本山たるナウプリオス大神殿を、テシュタルの権威の象徴たるこのナウプリオス大神殿を放棄してでも、逃げなければ死ぬと悟った部隊長は、恐らく長い人生で最も大きな声で叫び、可愛い部下たちを避難させる。


例えこの場にいる全戦力がこの二人を止める為に立ち向かっても意味がない、もう…逃げるしかないのだ。


………………………………………………………………


「『カリアナッサ・スレッジハンマー …」


拳を握り、前を睨む。狙うは一人、もう一人の神将オケアノス。手加減はしない、出し惜しみもしない、出来ない。そんな相手にネレイドは。


「『ラッシュ』!」


鉄拳の雨を降り注がせる。一瞬その両碗が無数に分裂して見えるほどの怒涛の振り下ろしをただ一人に向けて解放する。一撃で大地をひっくり返すような剛撃の五月雨…しかし。


「ッ遅い!!」


オケアノスには当たらない、オケアノスには届かない、オケアノスには触れることも出来ない。足を一つ強く踏み締め大地を蹴って加速するオケアノスの速度はネレイドの出せる全霊を軽く数倍は超える速さで疾駆し、拳の雨を掻い潜り…ネレイドの鳩尾に一撃、槍の如く鋭い蹴りがネレイドの体を揺らす。


「ぐぶふぅっ!」


鈍く広がる激痛。呼吸が一瞬止まり頭痛と眩暈が襲い掛かる。地獄の苦しみ…だがそれ以上にネレイドの脳裏に過るのは、危機感。


まずい、今一撃で頭が下に降りてしまった。体が曲がり頭部が投げ出された、クラクラと揺れる視線の向こうでオケアノスが飛び跳ねる、来る───。


「『クレイモア・オーバーヘッド』!」


「ぐっ…!」


後頭部に叩きつけられるは大剣の振り下ろしの如き一撃。あまりの威力に大地が割れ脹脛まで地面に埋まり思わず手を大地についてしまう。重い…重すぎる、私の半分くらいの体躯なのに何処からこんな重厚感のある一撃を出しているのか。


理屈と学問ではそもそも根っこから説明がつかない身体能力、神に愛された肉体…そう呼ばれる理由が詰まった一撃だ。


「ッ…まだまだ…!」


「街での戦いのダメージも抜けてないだろうに、よくやるよ…!」


だがそれでも引くわけにはいかない、足を大地から引き抜き再び態勢を低く抑えながらオケアノスに突っ込む。


………オケアノスは強い、神将の名に相応しい強さだと言える。事実私は一度彼女と戦って負けているし、その時手加減をしていかと聞かれれば全然そんなことは無い。街で戦った時も本気で戦って、その結果私は惨敗を喫した。


それがもう一度やって勝てるのか、あれから数十分も経っていないのに、再戦して勝てるのか。正直分からない。


だが、前回と明確に違う点があるとするなら、それは…。


「やるよ…!だって私は…ネレイド・イストミアだからっ!!」


引けない理由がある。オケアノスの真意を知って彼女の悲しみを知って、彼女を孤独から救ってあげられるのが私だけなのだと思い知ったから。私は引かない。


証明してやる、特別な人間などいやしない、私も貴方も…同じ人間である事を証明するんだ!


「フンッ!」


「雑な体捌きだね、レスリングってのはそんな大味なのかい!?」


掴みかかろうと腕を振るうもオケアノスは私の動きを一瞥しただけでその全てを把握し、クルリと空中で一回転して回避してみせる。


オケアノスの武器はこの身体能力だ、肉体的超人の最高峰に位置する彼女は剣も魔術も使う事なくそれらを使う人々の上にいる。中でも特筆すべきは脚力…生み出されるスピードもパワーも桁が違う。


「ほらここも隙だらけッ!」


着地と共に一回転して砂塵を巻き上げ、その勢いで行われるカミソリの如き足払いに私の姿勢が崩される。


この私が、足払い一つで尻餅をつく…異常事態だよ。けどそれを可能にしている身体能力をオケアノスは持っている。


彼女はこのメチャクチャな身体能力の所為で…自分を孤独だと思い込んでいるんだ。いや…事実孤独なんだ。他とは違うってだけで孤立する理由にはなる。


だけど、ダメなんだ…認めたら。自分は孤独なんだって認めちゃダメなんだよオケアノス、認めたら…貴方はずっと孤独だよ…!


「ッフンっ!」


「おお…凄い」


足払いを受け尻餅を突きながらも片腕で自分の体を持ち上げ、くるりと一回転で再び立ち上がり、オケアノスと相対する。


勝たなきゃいけない、彼女が特別でない事を証明するために。ここは絶対に勝たなきゃいけない。だからこうして無理を押して再戦しているんだから。


…けど、そう言う理屈抜きにしても。


(相変わらず、強い…)


顎に伝う汗を拭う。強いんだ、オケアノスは。これでロクに戦闘のトレーニングを積んでいないと言うんだからちょっと複雑な気分になる。


そして強いには強いが、それ以上に厄介なのがオケアノスのスタイルだ。彼女はサッカーで培った超高速での駆け引きを得意とする。急加速急停止を目紛しく入れ替え相手の虚を突き防御の隙間を縫って叩き込まれる一撃は重く鋭い。


私の鈍重かつ過剰なパワーで押し進めるタイプにとってこう言うタイプは一番やり辛い。この体躯で多少大雑把に攻めても大概の相手は何とかなるけど、こう言うタイプはそれさえ飛び越えてくるんだから。


私もやり方を変える必要があるか…?例えば幻惑魔術で攻めるとか。


……いや。


「ッ!!」


「また突進、あれを使わないの?幻惑魔術!」


使わない、幻惑魔術は使わない!幻惑魔術を使えば『お前が強いのは魔女の弟子だからじゃん』って言い訳が通ってしまう。純粋に私が私として持ち得る技能で戦わなければオケアノスを納得させられない!


苦しくても辛くても、プロレスは私が持ち得る最大にして唯一の武器なんだ!これで負けるわけにはいかない!


「『アガウエ・スマッシュエルボ』」


「『ジャベリン・トゥーキック』!」


まるで、巨大な金属同士が激突したような。聞くだけで振り返ってしまうほどの轟音が響き私とオケアノスは互いに退け反り、地面を滑りながら体勢を整える。


痛い、私の肘とオケアノスの足がぶつかって…痛かった。こんなの初めてだ。…ッ!来る!


「オラオラオラ!まさか私を相手に手加減してるつもり!?後で負けた時の言い訳に使うつもりか!そんなくだらない心持ちで私の相手が出来ると思うなよ!」


一足で最高速度に至るオケアノスがそのまま突っ込んでくる。まるで矢だ…鋭く尖るような蹴りが再び私の顔面を捕らえ、突き抜ける衝撃にグラリと態勢が崩れる。


まだまだ…!


「フッ!」


「遅い!」


捕まえようと手を伸ばすが、その時既にオケアノスは大地を疾駆しており、顔を蹴られ伸び切った脇腹に膝蹴りをが突き刺さる。


「ぐぶふっ…この!」


「遅い遅い!」


払うように手を振るうが、オケアノスはいない、いつのまにか中庭の隅で深く腰下ろしており…。


「よーい…ドン!」


助走だ、さっきとは比較にならない距離からの助走…そして。


「『ハンマーボレーシュート』!」


「がはぁっ!?」


吹き飛ばされる、私の体がボールみたいに吹き飛ばされ、中庭の中心にある噴水に激突し粉砕する。ザリザリと地面を擦るように吹き飛ばされた私の上に、壊れた噴水から降り注ぐ水が浴びせかけられる。


「くっ…はぁ…はぁ…!」


「タフだね、だけど…お前の手は私には届かない。誰も私に追いつけない、誰も私と競えない…」


なんとかしないと、なんとか奴を捕らえないと勝負にならない。でもオケアノスは私が速さに順応するのを防ぐため、一撃一撃加えるごとにドンドン加速して行っている。あれだけ速いと感じた街での戦いの時よりも今はずっと速い。


目で追えない…一体、彼女の限界速度は何処なんだ…!


……………………………………………………………………


「…そうだ、私の世界は…私だけのもの。他の誰も…私には…」


───刹那、オケアノスは目を開く。


オケアノスの目に映る世界、それは。


『緩慢』…その一言に尽きる。ゆっくりと起きあがろうとするネレイドの姿も、風に揺れる芝生も、吹き上がり大地に落ちる水さえも…緩慢に見える。全てが余りにもゆっくりと見えるのだ。


普段抑えていれば、なんてことはなくなるが、多少集中するとこれだ…少し気が入るとこれだ。こうなるともう周りが遅すぎて何をしようとしてるのかさえ分からない、遅すぎて何を言ってるのかも理解出来ない。


これが、オケアノスの孤独な世界…彼女だけの世界。

          

「はぁ…決めるかな!」


目を鋭く、集中を更に深化。踏み出し走り出し、空中で静止する邪魔な水滴をちょっと避けながら、未だに接近に気がつかないネレイドに向けて…。


「『クレッセントシュート』!」


「ぐぅっ!!」


三日月を描くようなシュートを放ち、彼女の体が大きく仰反る…その間にバックステップ、距離をとって中庭を縦横無尽に駆け巡り、何度も何度も助走を重ねてネレイドに蹴りを加える。


遅い、遅い、遅い、遅い、全てが遅い。遅すぎる。本気を出したら誰も追いつけない所に私はいる、本気を出したら誰も入ってこれない世界に私はいる。


水が地面に落ちるよりも前に、ネレイドの全身を蹴り上げる。踏み締めた大地が歪むよりも前に駆け抜ける。


超加速の世界、これがオケアノスの強さの根源。異常なまでに発達した脚力と人間の域に収まらない動体視力こそが彼女を最強の超人に仕立て上げているのだ。


「これで分かったか、これで理解したか、私はお前よりも…誰よりも…強いんだよッッ!!」


全霊で飛び、一直線に加速し、放たれる蹴りはネレイドの頭を大きく後ろに吹き飛ばす。一撃で城さえ砕くオケアノスの全力の蹴り。これを受けてネレイドは一度敗北している、街で戦った時と同じパターンだ。


もう、これで終わりに。そう願ったオケアノスの祈りは…。


「ッ…!オケアノス…!」


口元から血を吐きながらも、大きく仰け反りながらも、ギロリと頭を持ち上げこちらを睨むネレイドによって阻まれる。


「まだ諦めてないか!何度やっても…ん?」


ふと、気がつく。あれ?動けない?


何かに阻まれ加速が出来ない…そう思い視線を下に向けると、そこには…伸ばされたネレイドの手が…指が、オケアノスの服の先に引っ掛かっていて。


「やっと、捕まえた…」


(こ、こいつ!蹴られながらずっと私を追ってたのか!?視線も思考も追いつかない加速の中で…直感だけで。ってか手ェ長!?)


ここで、オケアノスに誤算が生まれた。確かに今の一撃を食らって倒れないやつはいないし事実としてネレイドは倒れる寸前まで行った。


だが、誤算だった。オケアノスは『このサイズの敵』と戦った経験がない。手の長さ、指の長さ…どれも、オケアノスが経験した何よりも長く、常識外れで。


「ッ…指が引っかかったらなんだって─────」


響くのは、爆音。


指先を引っ掛けたネレイドを蹴りで追い払おうとした瞬間、オケアノスの足は地面を見失い。意識はその瞬間…世界を見失う。


「え?あれ?」


聞こえるのはガラガラと崩れる音、感じるのは全身に響く鈍痛。気がつくと私は…神殿の柱も壁もぶち破り、崩れた部屋の中で倒れていた。


なんだ?なんでここにいるんだ?私…どうやってここに?さっきまで中庭にいたのに。


(まさか…投げたのか?私を。服の先に引っかかった指一本で…?)


指先だけだった、服を捕らえていたのは。その指先だけで…神殿の中にまで及ぶ程の勢いで投げ飛ばしたというのか。


瓦礫を押し退け、起き上がるオケアノスは自らの頬に指を当てると、冷たい感触が人差し指に及ぶ。これは…。


冷や汗?


(…私が焦っている、私は今…驚いている?)


蹴っても叩いても飛ばしてもまるで倒れないばかりかドンドン戦いが激化している。ネレイドは弱るどころか強くなり続けている。その事実に…。


…震える唇が笑みを含む。初めてだった…生まれて初めて、オケアノスは想像を上回られた。初めて自分が抱いていた常識を破壊された。


(マジか…!そんな事出来るか!?普通!あんなの…普通じゃないよ…!)


私が今まで言われていた事を、私の心が発してしまう。なるほど…奴もまた超人。


恐らくこの地上で唯一、私に匹敵する存在…!


「オケアノス…」


「ッ…ネレイド!」


崩れた壁の穴を更に砕いてネレイドが踏み込んでくる。全身を打撲にて染め上げ、口と鼻から血を流し、鋭く尖った視線が私を睨む。


まだ全然諦めてない、私が蹴り飛ばしてここまで折れなかった存在は初めてだ。


本当に、なんなんだこいつと言う思考が生まれると共に、私の心はすぐに答えを出す。


(これが、ネレイド・イストミア…私が憧れた、もう一人の神将!)


今私は疼いている、体が震えて激っている。嗚呼…なんて事だ。


「続けよっか」


「勿論…」


破壊された部屋の中心で、二人共に屹立し睨み合いながら、私は服の埃を払いネレイドは顔の血を拭う。続けよう…まだまだ、これからなんだから。


「っクハハハ!ネレイドォッ!!」


「オケアノスッッ!!」


地面を蹴る、ネレイドが手を伸ばす。ここからだ…これから面白くなりそうだ!


…………………………………………………………………


「オラァッ!」


「ぐぅっ!」


壁が粉砕されネレイドが一歩引く、隣の部屋に踏み込みながら…。


「まだまだァッ!!」


「ちょっ!?」


オケアノスの足を掴み、後ろに向けて全身を回すように叩きつけ投げ飛ばし、それだけで隣の部屋にあった全てが宙に浮くほどの衝撃波が走る。


「ごの…!」


「フッー…フッー!」


周囲の破壊などお構いなしに二人は睨み合い続ける。即座に起き上がったオケアノスの脚閃光がネレイドの全身を撃ち抜き鮮血が舞う。それを耐え抜きオケアノスの胴体を掴んだネレイドが大きく振りかぶり投げ飛ばす。


「ごはぁっ!?」


『キャーッ!?』


投げ飛ばされたオケアノスは更に向こう側の壁を砕き、更にネレイドがそこに踏み込めば…そこにはまだ人がいた。シスター達だ、避難命令が出たのに部屋の奥に隠れていれば安全だなんて思い込んだ安易で危機感の欠如したシスター達が物置の奥に隠れていたんだ。


そこにいきなり突っ込んでくる血塗れの神将二人、恐怖しない方がおかしい…だが。


「ネレイドォ…!いいねぇ!久々に楽しくなってきたよ!」


「楽しませるつもりはない…!」


気がつきていない、二人ともお互いに目の前の人間しか見えていない。剰え二人ともこの場で戦いを続行し。


「オラァっ!」


「ぐっ!痛くも痒くもない!」


オケアノスに頬を蹴り抜かれ血を吹き壁を染める。それでも引かないネレイドは腕をハンマーのように振り下ろしオケアノスの体を地面に叩きつけ…。


「ぐふっ…こっちだってぇ、全然痛くッ…ないもんね!」


大地が砕け衝撃で周囲の壁にヒビが入る。今この場では…互いに回避は出来ない。巨大な体を持つネレイドは勿論、そのネレイドに阻まれ狭い室内では加速も助走も行えないオケアノスは、二人揃ってその身に秘めたパワーだけで戦っている。


「次はお前が血ィ吐いて苦しめやッ!」


「ぐぶふ…ぁが、…お前がなぁッ!」


蹴りと拳が鈍い音を立てて何度も互いの体をどつき合う。一度相手の体に触れる都度鮮血が飛び出し衝撃で物が崩れて行く。破壊と破壊の押し付け合い、まるで神の怒りがそこにあるとでも言わんばかりの激烈な格闘戦。


「取った!」


「ッ…!」


その末にネレイドは再びオケアノスの体を掴み、今度は両手で地面に叩きつけようと頭の上に振り上げる…が。


「何度も!」


「ぐっ!?」


オケアノスは掴まれながらも体を振るいネレイドの顔面を数度蹴り上げ、拘束が弱まった瞬間。


「やらせるかァッ!!」


「ぎぃっ!?」


壁に手を突き、全力でネレイドの体を蹴り抜く、足型の衝撃波がネレイドの背後に抜け、そのまま吹き飛んだネレイドは更に奥の部屋まで突き抜けていく。


「待て!ネレイド!」


そして、ようやく破壊は次の部屋へ。シスター達はポカンとしながらも股から溢れた液体を隠すこともなく、呆然と脱力する。



「ネレイドォォォオッッ!!」


「黙れッ!」


次の部屋は書庫だ、サラキアの運営に用いられた数多の書類やクルセイド家の輝かしい歴史の刻まれた書庫で激戦を続ける。部屋に突っ込んだオケアノスを嵐のようなネレイドの平手打ちが襲い、本棚をぶち抜いてオケアノスは吹き飛ぶ。


「ぐっ!?普通ビンタって…顔に来るもんだろ…!なんで全身ぶち抜くかね…!」


ゲホゲホと蹲りながらも痛みに悶える。脚力は腕力の三倍だ、腕と脚じゃ力比べにもならない…のに。今この場で行われる力比べではネレイドとオケアノスは同等のパフォーマンスを見せている。


つまり、オケアノスが本来持ち得るパワーの三倍程の力をネレイドは持っていると言う事。


(デタラメだ、私が押してたのは速さ比べをしていたからか…!)


油断した、油断して力比べ上等の狭い室内戦を挑んでしまった。ここはネレイドの独壇場だ、ここで行われるのはサッカーではなくレスリング。ネレイドにとって有意な戦場。


今すぐ室外に飛び出さないとめった打ちにされる…けど。


(そんな甘っちょろい事してたまるかよ…!ネレイドは幻惑魔術を封じて戦ってるのに、私がここで逃げたら…そりゃあもう負けだろうが!)


なんで私の方が強いのに自分の方から負けを認めるようなことしなくちゃいけないんだ。ネレイドに有意な戦場?そんな物最強の私なら覆せる。


そう思い立ちあがろうとした瞬間、世界が闇に包まれる。


「ッなんだこれ!?いや影か!」


即座にその場から走り出し回避を行えば、オケアノスが蹲っていた地点に雷の如く足が振り下ろされ、地面にぽっかり穴が開く。


「チッ…」


ネレイドだ、蹲った隙を逃さず追い討ちをかけにきた。


「ハハハッ!マジで言ってる?それ大理石なんだけど…!」


今、背筋が凍った。オケアノスは今恐怖した、今の一撃をもらってたらどうなってたか…初めて攻撃を貰うのが怖かった。


圧倒的なパワー、私の体躯ではどうあっても積載不可能な量の筋肉と重量。人と言う身で体現し得る理想の戦闘形態。まるで別の誰かとドツキ合う為に作られたかのような体。今初めてネレイドの恐ろしさを理解したかもしれない。


だが…!


(その図体じゃあ小回りは効かんでしょう!!)


走り出す、いや…飛び跳ねたと言うべきか。オケアノスの一足は刹那の間に最高速度へ到達し、音を追い抜き部屋の中で乱反射する。壁を蹴った轟音が一切途切れぬ程の超高速による撹乱。目で追うことすら不可能な飛翔。


それでネレイドの周りを飛び回り、奴の視線を完全に振り切った瞬間…オケアノスは勝負に出る。


(貰った…!)


放つのはトゥーキック、つま先による蹴り。一撃で大地を割る蹴りを背後からネレイドの眉間目掛け放つ。この一撃で殺す…その覚悟を込めて完全に無防備となったネレイドの頭に足を振るい…。


「そこか…!」


「なっ!?」


しかし、全てが緩慢に動くオケアノスの世界で…ネレイドが動き出す。グルリと振り向いてオケアノスを視界に捉える。


そんな馬鹿な、なんて驚きの言葉が出るよりも前にネレイドの腕が振り下ろされオケアノスは地面に叩き落とされ、大理石の床を砕いて血を噴き出す。


(ぐっ…うっ!?マジかよ、なんで追い付いてきた!?今の今まで全然対応出来て無かったのに…なんでこの期に及んで!)


血を拭いながらすぐに立ち上がりネレイドから距離を取る。それもまたオケアノスにとっては最高速度のステップだった、だが…やはりネレイドは目で追ってきている。


どうあっても目で捉えることが出来ていなかったのに、そう言えばさっきから普通に私に攻撃当ててきてるけど…まさか。


「フッー…フッー…!」


「まさかお前…!」


目が血走り、口から蒸気の吐息を吐き、全身から噴き出た汗が体温で蒸発し煙となっている。筋肉は最初見た時よりも一回り大きく隆起し、常人では耐えられない速度で血が流れ血管が肥大化し浮かび上がっている。


さっきまでとは全然姿が違う…まさかこいつ。


(お、おいおい!お前…その強さでスロースターターなの!?どこまでメチャクチャなら気が済むんだよ本当に!)


街で戦った時から今この場に至るまで…ネレイドは全力ではあったが全霊ではなかった。彼女は戦いの中で段階的にスロットを上げている。それはその巨大な図体故の弱点とも呼べるだろうか…体が大きすぎるあまりアドレナリンが分泌され心臓が加速するのに時間がかかる。そこから身体に影響が出るのにはもっと時間がかかる。


今まで、それを苦にしなかったのは…そもそもネレイドが本来の力を発揮しなければならない場面が殆どなかったから。それ程の力を抱えて今まで生きてきたから。


まさしく、メチャクチャと形容するのに相応しい。


「…なるほど、アンタも…本気を出さずに生きてきたんだね」


ある意味、それは苦痛なことだとオケアノスは目を伏せる。自分の本気を出さずに生きるのは苦しいことだと彼女は思っている。だから…やはりネレイドも自分と同じ超人なのだと同情を向けるが。


「……?」


当のネレイドには一切の自覚なし。今の自分の状態も特に理解していない。


ただ、戦いが長引くと動きやすい事はなんとなくだが理解していた。ラグナと戦った後続け様にエリスと戦ったあの時や夜中戦い尽くしたシリウスの時、どちらも後半に差し掛かるにつれて力を出せるなとは思っていたが…。


別に、それが苦だとは思っていない。のだが…そんな奇妙なすれ違いは特に互いに引っかかる事はなく戦いは続く、だってそんな些細な事…今はどうでもいいから。


「そっちがその気なら、こっちだって全力の戦い見せてやる!」


「……出し惜しみしてる場合か?」


「うっさい!」


その瞬間オケアノスは近くの本棚を蹴り倒す。ばきりと音を立てて本棚の一角が繰り抜かれ倒壊するように倒れる棚から本が雪崩のようにこぼれ落ち…。


「そら!シュート!」


「ッ…!?」


蹴った。分厚い本を芯で捉えて蹴り抜いた。それはまさしくゴールを狙うサッカーシュート。足を大きく後ろに引いて全身の体重移動を活かした一局集中型のキックは本のページを開く事なく閉じたまま飛び、ネレイドの肩を射抜く。


「ッ…ぬぅ」


右肩に一撃を貰ったネレイドはその肩に手を当て、ゴキンと音を立てて押し込む。今の一撃で関節が外れたのだ。超重量級…城砦の如き堅牢さを誇るネレイドの体が、損傷した。


「さぁドンドン行くよ!」


そこから始まるのはワンサイドゲーム。今までやって来たキックは謂わばオマケ…サッカーを鍛える過程でオケアノスが獲得したなんとなくそれっぽい形で撃たれているだけのキックだった。


しかしこれは違う、人生で初めて真剣に打ち込めるものとしてオケアノスが愛したサッカーの技術を用いた技。ただでさえ天才的な戦闘センスを持ち合わせる彼女が本気を出して学んだのだ…その技量は若年ながらに既に達人の域に到達している。


(まるで、トリトンのボールみたいだ…)


目を細め両腕で飛んでくる本をガードするネレイドは目を細め、美しいシュートを見せるオケアノスに祖国に残して来た友を見る。


トリトン、オライオンベースボールの申し子と呼ばれる世界一のベースボールプレイヤー…彼もまたスポーツの技術を用いて戦っていた。一千年に一度の天才と呼ばれたトリトンの投球とオケアノスのキックは…殆ど同格。


もしオケアノスにトリトンと同格の技量があるなら、きっとここで下手に回避をしてもこのシュートからは逃げられない。


そう感じたネレイドは、スッと息を吐き…。


「ッッ────!」


「マジか!?」


突っ込む、両腕をガードに回したまま力付くでシュートの雨の中を突っ込んでくる。一撃で関節を外すほどの威力があるシュートを気合と根性と覚悟と痩せ我慢で耐え抜いてドンドン向かってくる。それを見たオケアノスは…。


(いや精神性で耐えられるもんでもないでしょ!?我慢しようと思って我慢出来るなら私最強名乗ってないよ!)


これはオケアノスにとっての最強の戦術。これで幾多の相手を倒して来たしヴェルトだってこの戦術の前に膝をついた。我慢しようと思って我慢出来るならオケアノスは最強ではない…だが。


オケアノスの脳裏に浮かぶ、一つの言葉。それは敬愛するアデマール様が残した…一つの言葉。


(まさか…『アレ』が…?)


世迷言だと思ったあの言葉。まさかそれがネレイドに…。


「あ!」


しまったと口を開く、余所事を考えた所為でキックがブレた。本を打ち据えるポイントが若干ズレた所為で本は畳まれたまま飛ばず空中で開きページが破裂するように周りに飛び散る…。


視界が、舞い散る紙に閉ざされて…。


「ッ…!オケアノス…!」


「ね、ネレイド…!」


そんな紙のカーテンの向こうから伸びるのは血だらけの腕、向こうから睨むのは青い髪を赤く染めた鬼…否、闘神…。


それが、オケアノスの胸ぐらを掴み…。


「…今のが貴方の必殺技?なら、私もお返しする」


吸い寄せられるようにネレイドの体に密着させられる。必死に手足を動かしてジタバタ暴れるがまるで無意味、まるでここまで来た相手を逃さない術を知り得ているように、腕の中で暴れるオケアノスを抑え込んだネレイドは…。


「行くよ、歯ぁ食いしばって」


「ちょ、ちょっと待って待って!何するの!?高い高い!?」


オケアノスの背中に覆いかぶさるように手を回し、臍の下でグッと両手を連結させたネレイドは勢いよくオケアノスの体を持ち上げる。


高い、周りの本棚よりも頭が上にある、埃っぽい天井がそこに見える。何されるの…私────。


「『ネプチューンボム』!」


「グッ───!」


叩き落とされる、地面に向けて背中から思い切り叩きつけられる。その衝撃に一瞬意識が飛んだ瞬間ネレイドは更にバウンドしたオケアノスの体を持ち変え、頭を下に…腰を掴んで持ち上げて。


「『ポセイドンドライバー』!」


「ガッ─────!?」


頭から更に叩き落とされる。ただでさえ高いネレイドの身長と腕力を生かして何度も叩きつけられ地面が砕けていき、再びオケアノスの意識は数秒暗く染まる。


その隙を逃さないネレイドは、決めの姿勢に入る。


「受け身…取ってね」


「どう…やって…」


後ろから抱きつくようにオケアノスの腋の下から腕を回し、また腰の辺りで腕を連結させる。ヤバい…めっちゃガッチリ掴まれてる、抜け出せない、それにさっきの投げと同じく私を逃さないようにしてる。


逃げなきゃ、でも手足が動かない。頭がぐわんぐわんする、意識がぐにゃぐにゃで息が出来ない。


こんなの初めてだ、これが…私の憧れた────。


「『デウス・スープレックス』ッッ!!」


「ゔがぁ─────!?」


ネレイド究極のフィニッシュホールド。彼女が祖国にてベルトでベルトを防衛し続けるにあたって用いたポセイドンドライバー、ネプチューンボム、デウス・スープレックスの三つのフィニッシュホールドを掛け合わせた…通称『トライデント・スペシャル』。


何度も相手を大地に叩きつけるこの大技、それを受けて真っ先に限界を迎えたのは…大理石の大地。


「むっ…!」


大地が砕け足場がなくなる、このままアクタイエ・ムーンサルトに繋げようと再びオケアノスに手を伸ばした瞬間。


「ッッやってくれたよなぁ!ネレイドォッ!」


「オケアノス…!?何…その顔…!」


空中で体勢を変えて吠えるオケアノスの顔…それは何度も叩きつけられ血が噴き出し顔中血まみれになりながらも、その血よりもなお赤き瞳で…充血した瞳で笑い牙を剥く。


…入ったのだ、ネレイドが長い時間かけてエンジンをかけて限界を超えたように、オケアノスもあっさりと限界を超えたのだ。


そもそも、オケアノスが今まで限界だと思っていたラインは『これ以上は必要ないな』と自分で勝手に思い込んでいたラインでしかない。事実今までの人生でこれ以上の力が必要とされた事は一度もない。


だが、今必要になった、だからラインを踏み越えて限界を超えた。ただそれだけの簡単な理由で彼女体は悠々と限界を越える。


「最高の気分だ、やはり私は最強だ…でも」


赤い瞳でネレイドを眺めながら砕ける大地の中に共に落ちる。自分が最強である事は揺らがない、私は誰にも競われることも阻まれることもない、それは悲しく寂しいことだと…思っていた。


けど…。今は違う。


「どうやら私は、お前を倒さなきゃ本当の意味で最強は名乗れそうにない!」


最強になりたいと今初めて思う。自分が最強であることを証明したいと本能で思う。


…それは、オケアノスも自覚せぬ『競争心』。今…オケアノスは競っているんだ、ネレイドと。今オケアノスは阻まれているんだ、ネレイドに。


それを見たネレイドな静かに笑い。


「…フッ、貴方はなれない。最強には」


挑発する、もっと来いと。やるならトコトン…どこまでもやろう。お互い納得して戦いが終わった後『アイツの方が強かった』と心の底から称え合えるように、全てを出し切ろう。


お前は一人じゃない、お前には私がいる。私がいる限りお前は本当の意味で一人ぼっちにはならない、何故なら私のお前は同じなのだから…!


そんなオケアノスの希望の願いに叶えるように、ネレイドと言う神は再び奮い立ち、闇へ落ちながら構えを取る。


「ネレイドォオォオオオ!!!」


「来い!オケアノスッッ!!」


全身を血に染め上げた二人の神将は虚空の洞へ落ちながらも殴り合い蹴り合いを続け…そして。


…………………………………………………………………


「ねぇねぇクルにゃん!そろそろ逃げとないとー、さっきから上ですごい音してるよー」


「お、俺は…俺は逃げないぞ!」


オフィーリアは呆れ果ててため息を吐く。相変わらず宝物庫のど真ん中で玉座にしがみつくクルスの滑稽さに、笑う気も起きないのだ。


先程兵士がやって来て、この神殿で神将同士の戦いが始まった…今すぐ避難してくださいと言われたのだが、クルスはそれを突っぱねた。


理由?そんなもの決まっている。


「この宝は誰にも渡さない!この部屋は俺が俺である証明だ!俺は世界で一番偉いんだ!」


部屋の中には金の壺、銀の像、宝石の数々に美しい青銅の芸術品。この世の全てがここにある、そのこの世の全てにクルスは齧り付く。


気が狂ったように、富と立場に固執する。彼にとって教皇とは名前ではなく部屋に飾れた金品財宝であり、あの玉座そのものなのだ。それを捨てて逃げることなんて出来ないと彼は駄々っ子のように首を振る。


「ねぇ、私は逃げるよ?」


「勝手にしろ!…ここが一番安全なんだ、だってここは地下だぞ。上で戦ってる奴がどうやってここまで来るんだ…それに」


ブツブツと何か呟くクルスの話を聞く気にもなれずオフィーリアは軽く手を振って部屋から退出する。そして…宝物庫にはクルスだけが残される。


(逃げないぞ…逃げないぞ、ここから逃げたら…俺はどこに行けばいい。財宝を捨てたら俺に何が残る、玉座を捨てたら何が残る。そうしたら俺はまた…あの惨めな生活に逆戻りなんじゃないのか!?)


恐れるのは如何なる傷でも苦痛でもなく、過去への逆行。誰でもなかったあの頃感じた貧困への恐怖。玉座を捨て財宝を捨て教皇の座を捨てたら…自分はまた誰でもなくなる。


誰でもなくなったらまたあの生活だ、それは嫌だ。自分は偉いんだと言い聞かせていないと気が狂いそうなのに、本当に偉くなくなったら俺は…俺は。


「大丈夫…大丈夫、俺には神がついてるんだ。テシュタル様がこれを守ってくれる…だって俺は神の代理人である教皇様だぞ!これを守らなきゃ神は誰を守ってくれる…それのも神は……」


刹那、頭に過る…羅睺の遺産の中に書かれていた恐るべき内容。アレが本当なら俺はここで…。


いやいや大丈夫だ!俺は大丈夫だ!神は俺を救ってくださるから大丈夫だ!だから…だから。


「…もし俺の全てを奪いに来たら、これで殺してやる」


そう言って狂気に喘ぐクルスは手の中の拳銃と腰の剣に手を当てる。殺してやる、俺を蹴落とそうとする奴は全員殺してやる。今までやって来たように殺してやる、俺の殺しは神の裁きだ、きっとうまく行く…。


「そうだ、そうだ!俺は教皇なんだ!全部上手く行く!なんせ俺は教皇なんだから!だって教皇だから!何より教皇なのだから!!」


アハハハハハハと笑い天を見上げたその時──。


「…え?」


天井のシャンデリアが揺れた…と思った瞬間、天井が割れ、空から何かが降ってくる。


「なっ…!?」


降って来た、天井が…まさか崩落と危ぶんだが…違う。


降って来たのは…。


「フッー…フッー」


「くく、ははは…!」


「ネレイド…オケアノス…!?」


蒸気を口から放つネレイドと目を赤く染めるオケアノスの二人だった。こいつら上で戦ってたはずじゃ!?何でここに!?ってかそもそも何で戦ってんだよ!


「ッ…おい!オケアノス!ネレイド!テメェら何やってるか自分で分かってんのか!ここは俺様の城だぞ!」


銃を構え二人に突きつける。段々怒りが湧いて来た、何でこいつらの所為で俺が被害を被らなきゃいけないんだ。


戦っているのは俺に利用されるはずだったネレイドと、俺の奴隷であるオケアノスだぞ!


「おい!ネレイド!テメェの首は切り落として晒すことに決めた!その首でレナトゥスに手柄を主張し!そしてオライオンテシュタルの希望を挫くのに使わせてもらう!」


「フッー…!フッー…!」


「テメェの人生は俺の踏み台になるためにあったってわけだ!ギャハハハ!見るに堪えないデカブツ女が偉そうに俺に刃向かった罰だ!逆らう奴は全員死ぬんだよ!」


そして次に拳銃を向けるのは…オケアノスだ。アイツ…!何やってんだ。


「おいオケアノス!テメェ自分が何しでかしたか分かってんのか。俺がテメェを使ってやってたのはテメェが仕事をしてたからだよ。それをこの失態…!どう責任を取るつもりだ?ああ?」


「ククク…!」


「罰としてテメェの手足は切り落とす!サッカーだったか?あれ…一生出来なくしてやるよ!俺を怒らせたんだから当然だよな!俺はな!怒らせたらな!怖いんだよ!」


吠える、全力で吠える。怒りをぶつけるように全力で…しかし。


「お、おい…お前ら!」


「…………………」


「…………………」


無視…!ガン無視!まるで眼中にない。そもそも話すら聞いてない。何だこれ…なんで俺が無視されてるんだ?あ?なんで俺がオライオンテシュタル風情に…オケアノス風情に。


ってか…こいつらまさか。


「おい…お前らまさか、ここで戦うなんて言わないよな。この部屋はな!俺の財を全て注ぎ込んで集めた宝で満たされてるんだよ!お前らじゃ一生かかっても弁償しきれないほどの額だぞ!?分かってるのかよ!分かってんだったらとっとと出てけ!」


「………睨み合いは飽きたよネレイド、決めようや…そろそろ!」


「無論だ、てっきり私はお前が息を整ええているものと思って待っていたのだが。その必要はなかったか?」


「クハハ!吐かせや!」


「お、お前ら〜〜ッッ!!」


やる気だ!ここでやる気だ!やめろ…やめてくれ、ここは俺の全て…俺が教皇である証明の全てなんだ。ここを壊されたら俺は…!誰よりも偉い俺は…!!


「やめろーーーッッ!!!」


しかし、哀れな信徒の言葉な届くことなく…目の前の神将達は。


「フンッ!!」


「オラァッッ!!」


「ぎゃっ!?」


激突する拳と蹴り、その衝撃が大地を伝い壁を揺らし室内に突風を生み出す。ただそれだけで周囲の宝がガシャガシャと音を立てて棚から崩れ落ちて壊れていく。


「ああー!俺のコレクションがー!?!?アレだけで金貨千枚はいったぞ!おい!お前ら…」


「倒れろやネレイドォォォ!!」


「お前が先だッッ!!」


「なっ…あ…!」


繰り広げられているのは、人の戦いか?


真正面から殴り合い蹴り合い、その都度何か光のようなものが迸り轟音が走る。高速で走り回るオケアノスが蹴りを放ち、ネレイドが腕の一振りで世界を軋ませる。


あちこちで砂埃の柱が上がり、爆発し、立っているのもやっとな地震を巻き起こし、その中心で二人は戦い続ける。


「っと!喰らえや!」


「ああー!俺の壺ー!?」


棚を蹴り降って来た青銅の水瓶をボールのように蹴り飛ばしネレイドに放つ。あの壺は態々デルセクトを経由して買い取った超値打ち物!もう二度と手に入らない金貨数百枚のレア物が…!


「もう効かない!」


「ギャアーッ!俺様の銅像がー!?」


俺様を象った銅像を片手で掴んだネレイドが飛んできた青銅の壺を打ち払い防ぐ。青銅の壺は風船みたいに弾け、衝撃で銅像も中頃からへし折れ。壊れていく…。


「いつまで防げるかなぁッ!」


「いつまでもだ!」


「や、やめ…やめろ!やめてくれぇーっ!」


オケアノスが蹴る、ネレイドが防ぐ。周りにある貴重な財宝の数々を使って撃ち合う二人にクルスは頭を抱える。なくなっていく…俺の全てがなくなっていく。


財宝がなくなったら、俺は贅沢三昧出来なくなる。俺が教皇であるためのアイデンティティがなくなる…。いやだ、いやだ…もうあの生活には…戻りたく───。


「いけぇッ!!!」


「はぁぁっっ!!」


粗方壊し尽くしたオケアノスは最後にクルセイド家に伝わる伝説の黄金槍を蹴り放ち。粗方破壊し尽くしネレイドはクルセイド家に伝わる伝説の神盾で槍を弾き。


弾かれた槍が、クルスの頭の上を通過し…これまたクルセイド家に伝わる家宝中の家宝、神の玉座に突き刺さり衝撃で真っ二つにしてしまう。


あ…ああ、玉座まで…家宝まで…。


「チッ…蹴り尽くしたか」


「もう武器は必要ない、ここからは…互いの全てを出し切ろう」


ドスンとネレイドが一歩踏み出す。オケアノスが応じるように腰を深く落とし殴り合いを始める。もう財宝がどこにも無い…後はもう、ここに残っているのは二人と俺だけ…俺、だけ?


「はっ…!?」


ドスンと音を立てて二人が弾き合い距離を取る…すると、それは意図的か偶然か。


今、二人はクルスを挟んで睨み合っている。


「全部出し切る…か、面白い…このままやり合っても一生終わらなさそうだし、いいよ。本気出してあげる」


「なら私もようやく、本気を出せるな」


「ま、待て…待て待て!分かった!宝を壊したことはもう許す!許してやる!だからここで戦うのはもうやめろ!!」


首を左右に振って必死に説得する。宝が壊されたのは正直許せないが…このままここで二人と同じ部屋にいたら、俺が死ぬ!


それは流石に怖い!傷を負うのも苦しいのも宝を失うのに比べたら辛く無い、だが死ぬのは別だ!死んだらマジで終わりだ!俺はまだまだ生きてたい!


「頼む!頼むから!俺はまだまだ死にたくないんだよぉぉ!!」


まだやってないことがたくさんある!酒を飲みたい!金に溺れていたい!この東部を支配し続けたい!俺は…俺は!


「だから!頼むから出でってくれーー!!」


祈るように両手を合わせると、二人はようやくクルスの言うことを聞いたのか…スッと力を抜いて構えを解く。


分かって…くれたのか?


「よ、よかった…通じたか、もう好きにしろ!何処へなりとでも行って───」


そう顔を上げて二人を見た瞬間………。


「魔力…」


「へ?」


魔力が、渦巻く。


「…覚醒」


「え?」


魔力が、轟く。


構えを解いたのでは無い、二人は更に戦いを激化させるため…もう一段階上のステージへと昇っているだけ、戦いはまだまだ…終わらない。


「あ…あ、ああああああ……!


その迫力に、クルスは思わず腰を抜かし、小便を漏らし…ガタガタと震える。今自分を挟んでいるのは。


「『虚構神言・闘神顕現』…!」


「『暴零蹴斗』…!」


二人の魔力覚醒者、テシュタルと言う名を背負う二人の最強。それが魔力を渦巻かせ再び鋭く構えを取る。


クルスを挟んで…その戦いが巻き起こるのだ。


「も、も、も…もう、もうやめてくれぇぇぇええええええ!!!!」


頭を抱えて絶叫する。その懺悔は虚なる玉座の間に響き渡り…神将対神将の戦いの最終段階の狼煙となる。


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