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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十四章 闘神ネレイド、炎の大一番
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453.魔女の弟子と神都狂騒


東部クルセイド領は不毛の大地である。地底火山により大地は暖められ常に鉱物性ガスが大地に染み渡っているせいで殆どの場所で作物が育たず、灼熱の大地としてマレウスの三大危険地帯のうちの一つに数えられてしまうくらいには危険な場所だ。


そんな場所に街を築いてはさしもの真方教会とは言え権勢を保つのは難しいだろう。信仰は如何なる艱難辛苦も超越するがそれはそれとしてご飯と飲み水がなければ生きていけないのが現実。


だがそれでも教会は東部で繁栄し、東部の支配権を確立する程の力を得た。


それは何故か…決まっている。『あった』からだよ、この何もない大地の中…ただ一箇所だけ、ここにはそれがあった。


そう、それこそが…神都サラキア。別名…水の都サラキアの所以。


………………………………………………………


私達がガイアの街を出て、三日ほど。灼熱の大地を突っ切って進み続けてようやくそれは見えてきた。



大きく大きく盛り上がるように隆起した山が真っ二つに割れたような、そんな不思議な地形が見えてくるんだ。割れた亀裂から光が差し込みある種の神々しささえ覚える自然の作り上げた神秘。


丁度西側から見ると、東から登る太陽と重なり、まるで天国へ通じる門が開いているように光が差し込むことから『天昇門』の異名を持つ神聖なる地。


その門の中、聳える絶壁の間にてこのクルセイド領の中枢たる神都サラキアは今日も荘厳なる鐘の音を響かせる。


…サラキア、『神都』『水の都』『真方教会総本山』『神に愛された街』多くの異名を持つこの街は東部で最も栄えていると言われており、その総人口は凡そ百三十万。東部人口の凡そ70%が集中する大都市である。山を割ったような天昇門の間と言うとやや狭苦しく感じる者もいるが、その実態はマレウスでもトップクラスの広大さを誇る大都市だ。


また、両側に屹立する絶壁は灼熱の大地から吹く熱風を防ぐ役割を果たすだけでなく、側面からの攻撃を完全に封じ、軍展開を許さぬ天然の要害としても有名であり、ここにサラキアがあるからマレウス王国軍はテシュタル真方教会を討滅出来ぬと断言される理由ともなっている。


景観、居住面、そして荘厳さ。あらゆる面から見て最も街を作るに適した地である神都サラキア。だが…その際たる理由はそこにはない。ここが神に愛された街と言われる所以は別にある。


……それは。





「ここが、神都サラキアか」


「なんていうか凄いところに街があるね」


「まるで巨大な剣で山を割ったような地形だな、不思議な場所に街を作ったもんだ」


「…だね」


私達は三日ほどでようやくサラキアに到着した。クルス・クルセイドがいる真方教会の本部である街。それは乾き切ったガイアの街とは正反対に涼しげで、なによりとても栄えていた。


教徒服を来た僧侶やシスターが活発に往来し、子供達が駆け回り、買い物をする客の手にはみずみずしい野菜の数々…。今まで見てきたどの街よりも活き活きしている。


なにより…、そうだ。なにより違うのが。


「凄い数の噴水だな…」


メルクさんが思わずポツリと呟く。そう、こうして街の入り口に立ち景観を眺めただけで分かるほどに街に噴水が多い。そこかしこに…なんてレベルじゃない。


通りの両側には水路があり、常に清潔な水が流れており。街路樹代わりにピューピュー水が噴き出て虹を輝かせている。その数…ザッと数えたところ。数えたところ…うん、数え切れない。


水だ、水が凄まじい量存在するのだ。


「どういう事なんだ、他の街にはこんなにも水で溢れた場所なんてなかったぞ」


「いやそもそも東部自体があんなに乾いてるのになんでここにだけ水が…」


「見て見て!あそこ見て!テシュタル像の口から水出てるよ!ドバドバ水で出る!あれは…あれはいいの!?」


「…………」


まるで水が飾りだ、贅沢に潤沢に水を使って演出している。他の町は乾いた野菜を焼いて食べているのに、この街は飲み水どころか水を遊びに使う余裕さえある…。


何故こうも水があるのか、どこからこの水は湧いてくるのか、ラグナ達は不思議そうにしている。…けど私は知っているんだ。


「みんな、こっち来て」


「ん?どこ行くんだ?ネレイドさん」


この街に来る前に、アルトルートさんからサラキアがどんな街か私は聞いている。何故この街は水に満ちているのか、どうしてこの街はこんなにも栄えているのか、サラキアは何故クルセイド領の中心足れるのか。


その正体をこの目で見る為に、近くの建物に飛び乗り屋根を駆け上がり上を目指し、街を見下ろせる場所を目指し…一望する。サラキアという街を。


するとそこには。


「よいしょ、それで何を見せてくれ…る…ってうぉっ…なんじゃありゃあ…!?」


「冗談だろう…」


「えぇ〜…ズル〜…」


皆、思わず口を手で覆う。そう…街を見下ろし見えてきた景色、そこに存在していた水の出所。それは…。


「なんだあの穴は…!」


『穴』だ、それも城一つ分の面積がある超巨大な穴、その端に家をひっくり返して作ったような巨大なバケツを無数に取り付けたレールが取り付けられており。回転しながら穴の中から水を汲み上げ続けている。


そう、この潤沢な水はあの穴の中から出てきているんだ。


つまりあれは。


「水源…!?」


「にしても大きすぎない!?」


アルトルートさんは語った。そもそもこの東部という土地は乾き切ってこそいるが、大地が暖められているだけで別段雨が降らないというわけでもない。キチンと雨自体は降る。


その水は大地に吸い込まれ、地下水となって暖められ温泉となるわけだが…この街だけは違った。


このサラキアという街の異様な形。山を割ったような不思議な形。…実はサラキアは元々『火山』だったのだ。いや正確に言うなら火山が地下に沈められた際行き場を無くしたエネルギーが暴発した地点…とでも言おうかな。


元々ここにあった小さな火山が、大火山であるライデン火山の沈下に伴い溶岩が一気に押し出され流れ込み爆発。山が二つに裂けるほどの超巨大な暴発を起こした。そしてここに元々あった名も亡き火山は死に、爆発の際生まれた巨大な穴に雨が降り注ぎ地下水となり、超巨大なカルデラ湖へ生まれ変わったのだ。


溶岩でも暖め切れない程の膨大な水はこの街の周辺だけを冷却し、冷却された溶岩は硬化し硬い岩盤となり更に溶岩を遠ざけ、地下水を温泉ではなく真水として保存する。


それが使っても使い切れない水の正体だ。数百年間休まず使っても使い切れないどころか、一時は大雨で溢れそうになったこともあるほどだと。とんでもない話だよね。


その事をラグナ達に説明すると『ほほう』と口を開き。


「なるほど、あれカルデラ湖なのか、だとしたら深度も相当なもんだろうな…」


「有害な物質が濾過されて自然に浄化されて真水になってるって事?凄いね、本当に奇跡じゃん」


「ああ、何もかもがギリギリ…何か一つかけ違えればこのサラキアという街は生まれなかったかもしれない。まさしく神に愛された街だ…」


あの大穴の水の量は果てしない。今もこの両側の壁が雨水を吸収して流し込んでるから減りもしない。そして飲める状態になって穴の中に保存される…と。


その奇跡の所業に、皆は神を見る。


…にしても、オライオンの中央都市エノシガリオスとは正反対だな。あそこは凍りついた超巨大な湖の中の街なのに、こちらは街の中に超巨大な湖がある。どちらも自然という奇跡が生み出した街だ。


やはりこの街も神に愛されているのだろう。オライオンテシュタルにも真方教会にも貴賎はないということか。


「…この水の街に、今…モース大賊団が暗躍してるってことか」


「だね、どうする?ラグナ」


「…へっ、決まってるだろ?」


ニタリと笑うラグナは腕を組み、再度街を一望する。


これから、私達のサラキアでの戦いが始まる────。


……………………………………………………………


「よっと」


取り敢えず私達は屋根の上から降りる。あんまり注目を集めるのは良くないからね、怒られる前に降りておこうという判断だ。


そしてもう一度街の入り口に戻ってきた私達はそれぞれ用意した教徒服を着込み。


「それで、実際どうするんだ?ラグナ」


「まずはナールを見つける」


と、ラグナは指針を決める。まぁ最初から決まっていたことだけどやっぱりナールを探すようだ。


モース大賊団の優先対象はナールだしね、ナールを殺されたら神聖軍も止められなくなる。ただ…。


「ナールを殺そうとするモース大賊団を逆に捕まえて倒す。それで奴等のサラキア崩壊計画は瓦解することになる。次いでにナールに交渉してテルモテルスへの侵攻をやめさせる…こちらに関してはちょっと難しいから状況に応じて臨機応変かつ柔軟に対応していこう」


「おけ!行き当たりばったりだね!」


「…ま、まぁそうだけど。後出来ればヒンメルフェルトさんの遺品も返してもらおうか…、なんか随分な厄物みたいだし」


やることは多い、モース大賊団を捕まえてサラキア崩壊計画を止める。ナールを助けて交渉する。クルスからヒンメルフェルト様の遺品をかけしてもらう。どれもこれも抜群に難易度の高いミッションだがやるしかない。


そして、その為にはまず…。


「ナールが何処に居るか…分からないよね」


私達はこの街に初めてきた、ナールが何処に居るか。まずはそこから時間をかけないといけない。だがこの街はクルセイド領の中心ということもあり相当大きい。ガイアの街も大きかったが面積で言えばそれ以上だ。


この中から探すのは相当…と思ったが、ラグナは静かに首を振り。


「探す必要はない、会いに行くだけだし」


「え?」


「アイツ言ってたろ?教皇指定特区の神父だって。つまり教会を所有してるんだろ?それもネレイドさんが言うに相当いい感じの教会を」


「あ…!」


そうだ、ナールは教皇から直々に任命してもらった大司祭。なら街の中心部に近い地点にある教会を管理しているはずだ。管理していると言うことはそこにいるってことか!


「さっき街を一望した時にそれっぽいのを見つけておいた、そこにいけばいいさ」


「なんだなんだラグナ、お前エリスみたいな事をするじゃないか」


「いつもはエリスちゃん任せの癖によく覚えてたねぇ」


「お、俺別にそんな物忘れ酷くねぇっての!おらいくぞ!ナールの側張ってりゃいつか山賊達もやってくるだろうし!」


プリプリと照れ隠しに怒るラグナの背中をクスクスと笑いながら着いていくデティとメルクさん。そんな二人を追いかけるように私も歩く。


「エリスがいなくて寂しいか?」


「つーん」


「怒るなよラグナ」


「怒ってないやい、…む」


ふと、ラグナがフードを被りこちらを見て。


「ネレイドさん、幻惑魔術で自分だけでいいから姿を消してくれ」


「…分かった、移ろう虚ろを写し映せ『一色幻光』」


と姿を消したところで、目の前の人影から…見るからに物々しい雰囲気の男達が現れる。銀の鎧に白い布を組み合わせたテシュタル神聖軍の…いや真方教会神聖軍の鎧だ。一瞬私達に接触に来たのかと思ったが、それにしてはやや歩調が穏やかすぎる。


きっと見回りだろう。と私は幻影で姿を隠していると…ふと神聖軍が果物屋の前で足を止めて。


「おい、これ貰っていくからな」


「あ、ちょっと…!」


「ああ?なんか文句でもあるか?街を守ってやってる俺達に対する礼だと思え」


「そ、そんな…」


いきなり店の品物を料金を払わず奪い取りリンゴをむしゃむしゃと食べ始めたのだ。そこに気安さのような物はなく店主は本気で困っているし、よく見れば周りの通行人も他の店の人間も関わり合いになりたくなさそうに目を逸らしている。


「あーあー、ったくなんで俺たちがこんな退屈な街の巡回なんかしなきゃならねぇんだよ」


「折角なら例の遠征に帯同したかったよな。久々に暴れたかったよ」


そしてそのまま店の前に陣取り座り込み雑談まで始める始末。すると周囲の通行人はあからさまにそこだけで避けて通るのだ。


恐れられている。神聖軍が民衆から恐れられている。…オマケに規律も無く、剰え無用に力を振いたいとまで言う始末。


(…許されることではない、一体軍の管理はどうなってるんだ…!)


当然だが私の統べるテシュタル神聖軍でこんな事をすれば懲罰は免れない。いやそれ以上に店の物を勝手に取ったなどと言う報告が私の耳に届いたなら、私は即日でそいつらを軍から叩き出す。


軍に身を置く者こそ、誰よりも規律正しく秩序を重んじるべきなのに…。


「…………ッ!」


「待てよ」


ぶっ潰してやると前に踏み出そうとした瞬間ラグナが手を前に出して私の行手を遮る。幻惑で身を隠し私の姿は見えないようになっているにも関わらずラグナは私の動きを察知して首を振る。


手は出すなと言うのだ…。


「ここでこいつらをぶっ飛ばしてもなんも変わらないだろ」


「そうだけど…」


「他所の軍の規律に口出ししても意味なんかない。それより先を急ごう」


「…………うん」


歩き出すラグナの後を追って私は後ろ髪引かれる思いで駄弁ってる兵士達の顔をジッと見ながら歩く、アイツらの顔覚えておこう。黒髪短髪の男とオレンジ髪の丸顔だな…よし。


「と言うかさラグナ」


「んー?なんだ?」


「なんでネレイドさんに姿隠させたの?」


「そりゃ…」


デティに言われてラグナは振り向く…が視点は私を捉えていない。ラグナ達にも今の私は見えていないんだ。でも確かになんで隠れさせたんだろう。


「オラティオの一件があるからな、そん時の兵士がここにいないとも限らんし」


ああ、そう言えば…あの時も真方教会のナントカって槍使いが来ていたっけ。それを私がついついぶっ飛ばしてしまったんだ。


「その時のことを覚えててまた喧嘩売って来るかもだし」


「それ言ったら私達もじゃない?」


「あの時俺ら大したことしてないし印象には残ってないだろ、でもネレイドさんはちょっと目立ちすぎた」


「そうだね…、それに私…大きいから印象にも残るし」


「そう言うことだ、幸いネレイドさんは幻惑魔術を使えば隠密出来るし問題にはならないだろうけどな。それでもあんまり姿は見られない方がいいかも」


「ん、分かった」


この街にいる間はずっと幻惑魔術を途切れさせない方がいいかもしれない。どう見たって私は目立つし一目で記憶出来る図体してるし、私の事を覚えてる人がいたらそれはそれで面倒ごとになるから。


「よし、じゃあそう言うわけで…取り敢えずナールのところに急ごう。アイツの所在地を知らなきゃ」


「だな」


そして私達は大通りをやや早足で駆け抜ける。其処彼処から水が噴き出しあちこちに虹が掛かる道を行く、喧騒と共に水音が喧しく響く大通りを抜ければ…広場と思われるスペースに着く。


どうやら、ここから先が一種の境目らしい。


「む、景観が変わり始めたな」


「豪華になってきた…」


メルクさんの言うように、街の景観が一段階上に上がった。白く美しい塗装に金細工の家々が連なりそこに太陽の光が上から降り注ぎ周囲の水が反射しキラキラと輝く。何にも考えずにかボーッと見ていればこれほど美しい街並みはないと言えるだろう。


あれだけ貧相だった東部にこんな綺麗な街があるなんてね。どうやらここから先は富裕層の街になるようだ。


そして、そんな豪奢な街の中に見える一等大きな教会がある。この真方教会の本部に於ける教会、サラキア大教会だ。


「見えてきたな、あそこにナールが?」


「恐らくはな」


私達はやや離れた広場から教会の様子を眺める。街の往来は激しく特にサラキア大教会には多くの人達が出入りしている。なんか…東部にきてから真っ当な教会を見たの初めてかもしれないな。


「で?ここからどうする?ラグナ」


「ナールの側に居れば山賊達がやってくる。そこを撃破しよう…後出来ればナールには死んでほしくないな、死なれたら交渉も出来ん」


あそこにナールはいる。けど接触は出来ない。何故ならナールは私達を知っているから、そんな私達が『これから襲撃に来ますよ!守らせて!』って言っても聞いてくれるわけがない。


じゃあ言うこと聞かんやつは勝手に死ね、と言うわけにもいかない。ナールを助けて交渉してガイアの街へ侵攻を直ぐにでもやめさせないと。


「……奴等はナールを狙う筈だ。そしてもうこの街に居るなら…真っ先に狙う。そう言えば奴等はもうこの街に到着している筈なのになんでまだナールが狙われてないんだ」


ふと、ラグナが譫言のようにブツブツと語る。そう言えばナールが第一目標ならもうぶっ殺されててもおかしくない頃合いなのに、なんでまだ何も起こってないんだろう。


「……真っ向から押し入って襲撃じゃないのか。だとすると…もしかして──」


『こりゃ!お前ら何やっとるんじゃ!』


「いっっ!?!?」


突如、背後から声が響き全員の肩が揺れる。何事かと急いで振り向けば…そこにはヨボヨボのお爺さんが民家の扉を開けてこちらを睨んでいた。…ああ、私達このお爺さんの玄関口に陣取ってたのか。


「す、すみません。ただちょっとあの教会眺めてて…」


「教会?…ああ、サラキア大教会か。そんなもん眺めて何を?」


お爺さんはメガネをかけて伺うように小さく首を傾げる。どうやらそれ程怒っているわけではないようだ。


「あー…その、実はあそこに居るナール神父って…ぶっちゃけ命狙われてたりします?」


「ンなもん狙われとるに決まっとるじゃろう。アイツ四方八方から恨まれとるからのう、何処かの誰がいきなり刺してきて誰も変だと思わんわ」


「どんだけ嫌われてんだよ…」


「だから普段はあの教会にはおらん、普段は自身の金庫がある別邸に隠れておるわ。神聖軍の駐屯所に直結しとる安全な場所にのう」


「ええ!?あそこに居ないの!?」


「おうおらんとも、ああ言うズルい奴ってのは同時に賢く臆病なモンじゃ」


「……ま、頷けるか」


メルクさんが何か納得したように頷く。どうやらナールは普段はあの教会にいないようだ、きっとガイアの街だけでなく色んなところで色んな悪いことをやってきているんだ。そのせいで彼は多くの人からの恨みの刃を向けられている。


それなのに悪どい金稼ぎが出来るなんて、ある意味凄いかも。


「しかし軍の駐屯所の方か…」


それなら襲われてないのも納得だとラグナは目を伏せる。なんてことはない、そもそもナールは普段から命を狙われ過ぎていて意識せずモース大賊団の魔の手を遠ざけていたとは。


普段はあの教会に居ないなら狙われる心配は────普段は?


「ん、待てよ。普段はと言ったな?じゃああの教会に来ることもあるのか?」


メルクさんが問う、私より一瞬早く気がついた彼女がそれを。するとお爺さんは…。


「ああ、あの教会に寄せられた寄付金を取りにな。奴は他人の手で金は運ばせんから」


「それはいつだ!」


「ん?んん…おお!今日じゃった!」


──刹那、全員が振り向き教会の方を向く。


するとどうだ、そこには兵士を連れて今にも教会に入ろうとしているナールの姿があるではないか。


まずい!今日は教会に立ち入る人が多かった!と言うことはそれだけ中に人が入り込める余地が──────。



『ハロー…おデブちゃん』


扉を開けたナールの額に、扉の隙間からヌッと這い出た銃口が向けられる。その向こうに居たのは特徴的なアフロ頭…五番隊の隊長、シャックスだ。


「はうあっ!?な…なんだお前は!?」


「いや、この場合は…グッバイかな」



「まずいっ……!!」


「ッッーーー!!!」


教会の中で待ち伏せをしていたんだ、この時を待っていたんだ、奴らは最初からこの日この時を狙ってナールを殺すつもりだったんだ。


既にシャックスの銃はトリガーに指がかけられている。もう一切の猶予がない、もう何度か瞬きをする間にナールの頭は吹き飛ばされる…それはさせてはいけない!


ただそれだけを思った私の体は既に空中に飛翔し、加速していた。


「それじゃ───チッ!」


「させるかッッ!!」


「あぶねぇーっ!」


矢のようなドロップキックを加えるがシャックスの対応の方が速く咄嗟に銃を仕舞い身を翻し私の攻撃を回避したのだ。その身のこなし、速度、どれをとっても只者じゃない。


「な…なんだお前らはぁーっ!!」


「あ!こいつ!オラティオの街にいた!」


「っ…!」


ザリザリと地面の上を滑って減速しながら舌を打つ、しまった…姿隠しの幻影を振り払ってしまったか。見られた…私の体を。


けど今はいい、今はそれより。


「ハッハー!噂に聞いた通り!アンタ!マジでウチのお頭そっくりじゃねぇか!!」


「五番隊の隊長…シャックス…!」


「こんなところまで俺達追っかけてきたのかい?難儀だねぇ。だけど前回みたいに手加減はしてやれねぇよ?空き巣とかやってる場合じゃねぇもんでさぁ」


クルクルと両手に握った銃をこちらに向けて構えるシャックスと向き直る。けどダメだ…こいつだけじゃない、気配がまだ何処かにある!シャックスだけじゃない…他にも敵がいる。


けど、こいつから目が離せない…!


「そら!ダンスパーティーだ!」


そう叫びながらシャックスは懐から黒い宝玉をあちこちにばら撒き出す。あれがデティと言ってた収納魔術『ジーゲルラベオン』!


確かに直接攻撃力に直結する魔術じゃない…だが。


(何をしてくる…!)


分からない、振り撒いたアレがなんなのか。宝玉の中身はシャックスが中身を取り出すまで分からない、アレが爆弾なのかまた別の物なのか。厄介極まりない、こいつは下手に動かすと引っ掻き回され続けるタイプのやつだ。


その前に片付ける!


「ごめん!!今度弁償します!!」


近くの椅子を掴み体を一回転させながらスイングしシャックスに向けて投げつける。背もたれのある比較的大きな椅子が直線に飛びシャックスに向かうが…。


「おっと危ない!『ジーゲルラベオン』!」


「むぅっ!?」


シャックスが手をかざせばシャックスに向かって行った椅子が光に包まれ宝玉に変換され飛んでいく。当然だが抱えるような大きさの椅子よりも掌サイズの宝玉の方が小さい、故にシャックスは軽く体を逸らすだけで私の攻撃を回避出来て───。


「そぅら!『解除』!」


「何を───ぐふぅっ!?」


パチンとシャックスが指を鳴らした瞬間、私は横っ面を殴り飛ばされゴロゴロと床を転がる。一体何がと視線を横に向けるとそこには重厚な大理石の柱が横たわっていた。


私の真横に転がった宝玉の中から出てきたんだ。こんなにも大きな柱が…、収納出来る物品のサイズは問わないのか!


「クッ…!」


「おぉう、今食らっても全然平気かい。タフだねぇ〜!」


『おい!刺客だ!人を呼べ!神将もだ!こいつら全員私を殺しに来たんだ!』


「チッ、騒ぎになっちまった…!とっとと…」


刹那、シャックスが教会の入り口で人を呼ぶナールに拳銃を向ける…のを察知した私は近くに置いてあった観葉植物を持ち上げ投げ飛ばす。


「っと!邪魔すんなって」


「する!殺させない!」


「チッ、タフな上に反応がいい…こいつ抜いて殺すのは難しいかなぁ…ってわけでぇ!」


するとシャックスは私の投擲を軽く回避すると共にクルリと反転し教会奥のステンドグラスに向けて…。


「失敗!プランB!」


そう叫ぶのだ、するとその瞬間。


『シャックスの阿呆!しくじったな!』


ステンドグラスを引き裂き和服を着込んだ女が目を血走らせ教会の中に突っ込んでくる。アレは恐らくオセだ…地獄のオセ!やはり隠れていたか!


「悪いオセ!諸共頼むわぁ!」


「命令するでないわぁ!『鬼怒川怨閃』!」


パン!と勢いよく手を叩くオセの合図に伴い彼女が開けたステンドグラスグラスから何かが大量に流れ込んでくる。それは湯気を立ち昇らせながら一気に部屋の中を灼熱に変える…お湯?


お湯だ!しかも信じられないくらい高温のお湯の津波!?やばい!受け止めきれな…。


「『ドゥオデキムスフルクシオ』!!」


放たれる魔術、水流操作魔術が私に向けて殺到するそれの流れを変えて真上へ受け流し、教会の外へ押し出し空に向けて振り撒き無力化する。あれだけの量の水を一瞬で支配下に置いたのだ…こんなことができるのは一人しかいない!


「デティ!」


「助太刀に来たよ!」


「悪いネレイドさん!遅れた!」


「シャックス!今日こそを貴様を捕らえてやる!」


「ゲェッ!メルクリウス!こんなところまで…ご苦労なこったぜ!」


デティだ、彼女が魔術でオセのお湯を受け流してくれたんだ!それにメルクさんもラグナも来てくれた!これで勝てる!


「オセ、だったっけ?」


「なんだチビ」


「チビ言うなやッッ!!…じゃなくて、貴方の魔術…それだったんだね」


「はぁ?」


オセの魔術を見てなんとなく合点が入ったとばかりに頷くデティとそれを見て怪訝そうな顔をするオセ。睨み合うシャックスとメルクリウス。そして同じく構える私とラグナ。


両陣営が教会の中で火花を散らし睨み合う…すると。


『動くな!!』


「っ…!」


そんな私達を止めるように、教会の入り口に大量の神聖軍の兵士が銃を構えて現れる。その総数をして三十人ほど…それらがナールを守るように構えているんだ。


「貴様らぁ〜!私を殺しに来たなぁ〜?テルモテルスの使者共!」


「わ、私達!?」


しかもナールが怒りの目を向けているのはシャックス達ではなく私達の方だ。ナールから見れば私もシャックス達と同列ということか?さっき…どう見ても命助けたはずなんだが。


「分かりきってたが、やっぱこれ命助けてもこいつ恩義なんぞ感じないのでは?」


「うーん、ここまでとは。こりゃ交渉も難儀になりそうだ!」


ラグナも困ったように頭を掻く。ナールはきっと人を信じられないんだ、普段から命を狙われて慣れ過ぎて彼は目に映る全てが敵に見えてしまう。それはある意味悲しいことでもあるな。


「おいっ!どうするシャックス!」


「ん〜このまま押し切ってもいいけどもぉ…ヤベェのが来てる。ずらかるぞ!」


「あ!」


私達が背後の神聖軍に気を取られた隙にシャックス達はオセの開けたステンドグラスの穴から逃げていく。


(どうする、奴等を追うか?でも今ここから逃げたら私達も神聖軍に追われることになる…しかしシャックス達を逃す事で生まれるリスクも大き過ぎる…)


一瞬の逡巡。シャックスの背中がグラスの向こうに消えたその時、ラグナは。


「ネレイドさん、待て」


「え…?」


なんで…そう言いかけたが、既に私達は周辺を神聖軍に囲まれていることに気がつく。そんな中いそいそと神聖軍を押し退けて奥からナール神父が現れ。


「私を殺しにきたなぁ?やはり来ると思っていたぞ!」


「違う、誤解だ。あんたも見てたろ、ネレイドさんはアンタを助けたんだ!」


「はっ、私を助けた?違うだろう。確かにあのアフロは私の命を狙っていた…だがそれはお前達も同じこと、獲物を独り占めされたくなかったから奪い合っただけだろう!」


「待て!違う!我々はお前と交渉きたのだ!今東部はモース大賊団の脅威に晒されている。今は我々で争っている場合じゃないんだ!」


「お前達の言葉を信用するに足る物が何処にもないではないか!」


う、これはシャックス達を追いかける所の話ではない、というよりこれは…交渉の余地もないように見えるけど。そもそも私達ナール神父を助けたのになんでこんなに敵意を向けられなきゃいけないの…?


「ちょっとラグナ!交渉するって言ってたけどなんか交渉材料無いの!?」


「悪いデティ、あるにはあるんだが…ナールの過去の罪をチラつかせて交渉するつもりだったんだよ…。けど今この状況でそれを出したら」


「交渉の余地もなく私達を亡き者にしようとして終わり…か」


「ああ、本当はもうちょい落ち着いた場面で話をする予定だったんだが、まさか問答無用で兵を呼んで包囲してくるとは…」


ラグナも困ったように眉を垂れさせている。あそこで助けに飛び出したのは間違いだったのか?いや間違いなものか、ナールという人間がどんな人間でも命を助けられたことに対して私は後悔はない。


だが、それでも…ナールはどうやら人を信じる心がないようだ。


「信用などするものか…私を殺そうとする者は誰も彼も殺してやる…!」


ナールは取り憑かれている。疑心と恐怖にに取り憑かれている、彼は人に騙されるのが怖いんだ。傷つけられるよりも騙される方が怖い…彼にとって騙される事は死を意味するほだから。


故に彼は最初から全てを敵として認識する。懐に誰も入れなければ騙される事はないから。


…或いは彼は、この世で最も哀れな人種なのかも知れないな。


「ナール、落ち着いて…私達は敵じゃないの。だから兵を…」


そう私が敵意を示さず、両手を開いて近づこうしたその時……。



一発の銃声が響き渡った。


「ネレイドさん!」


「ネレイド!!」


「…ッ…大丈夫、掠っただけ」


そう、掠っただけだ。頬に銃弾が掠め一筋の傷が出来ただけで命に関わるものではない。


けど、それは他でもないナールの手に握られた拳銃から放たれていた。つまり…これは。


拒絶だ…。


「……………」


「寄るな!ぶっ殺すぞ!」


「…聖職者が、そんな事言ったらダメだよ……」


こうなっては、仕方ないか…。


「ラグナ、逃げようか」


「……そうだな、それしかないか」


ナールと交渉する…って線は、どうやら捨てた方がいいみたいだ。別の方法を考えよう。このままここで彼と話していても平行線だ、だからここは撤退する。何より大賊団の存在を確認出来ただけでも良しとしよう。


「逃げられると思うな!やれ!奴らを殺せ!」


『撃てーーーッ!』


「そうと決まりゃ逃げるぜ!みんな!」


「結局こうなるか!」


「私神聖軍に追われるの初めてだからお手柔らかにお願いしまーす!」


「フンッ!」


放たれる一斉掃射に手をかざし魔力防壁を作り出すと共に皆の退路を確保する。出入り口は封鎖されている…なら行くべき場所は一つ。シャックス達と同じ割れたステンドグラスの向こうだ!


「こっちだ!ネレイド!」


「んー!」


みんなでステンドグラスを越えれば教会の裏手へと出る。ややカビっぽい裏路地に出てそのまま走り出すと。


『居たぞ!こっちだ!』


「げぇっ!どんだけ居るんだよ!」


目の前曲がり角からも神聖軍が退去してやってくる。まぁ目の前に本部があるんだからそりゃワラワラ出てくるよな…!


「もうやっちゃうよ!いいよね!」


「ああ!仕方あるまい!」


「『ヒートファランクス』!」


「燃えろ魔力よ、焼けろ虚空よ 焼べよその身を、煌めく光芒は我が怒りの具現、群れを成し大義を為すは叡智の結晶!、駆け抜けろ!『錬成・烽魔連閃弾』!」


放たれるメルクさんとデティの炎熱魔術、それは神聖軍の弾幕を撃ち破り爆裂し目の前の一団を纏めて吹き飛ばす。本当は敵対するつもりはなかったけど…銃ぶっ放されて敵対してませんは流石に無理だからね。


向こうから撃ってきたんだ、喧嘩売った相手の怖さを教えてあげないといけない。


「道は確保した!行くぞ!」


「ああ!」


「それでどうする!ラグナ!何処へ行く!」


「………………」


ラグナは走りながら腕を組んで少しの間考えると…。


「何をするにしても姿を隠すしかない。何処か隠れられそうな場所を探そう、その後は大賊団を探す。奴等もこの騒ぎの中じゃナールは狙わないだろう」


「そりゃあそうだ、分かった!」


「デティ!魔力探知で空き家を探してくれ!その中に一旦身を隠す!」


「はーい!」


そんな相談をしながら私達は裏路地から表通りに出る。すると既に野次馬が大量に集まっておりその周りを神聖軍が銃を携帯したまま探し回っている。


もうかなりの騒ぎになっているな…、蜂の巣を突いたような大騒ぎだ。


「デティ、空き家は見つかりそうか?」


「うーん、人が多すぎるよう…」


「もう少し人通りの少ないところに行くか…」


「だが既にこの周辺は敵兵が跋扈しているぞ、包囲網も直ぐに完成する…そうなったら」


「…分かってる」


状況は逼迫している、神聖軍の包囲はすぐに出来上がるだろう。ここは奴等にとって本拠地に近い街…土地勘は向こうにある。この街に来たばかりの私達は不利だ。


…動きを止める必要があるな。


「ラグナ、私が囮になる」


「なんだって…?」


「私が注意を引く、私が暴れ回れば神聖軍も包囲どころじゃなくなるでしょ」


「ダメだ、囮なら俺が…」


「ラグナはみんなを纏める役目があるでしょ、私はメルクさんやデティほどいろんな事が出来るわけじゃない。この大きな体はただ…その…闘うことにしか使えないから」


一瞬言い淀む。『壊す事と奪う事にしか使えない』と言いかけたから…でもそれはモースの言った言葉と同じ。それじゃあまるで私が奴の娘である事を肯定するようで…。


ラグナは私の言葉を聞いて迷っている。冷や汗を流し唇を噛み目を伏せてから…。


「分かった、信じるぞ」


そう言ってくれるんだ、信じると。嬉しかった、勿論私も命を懸けて…というつもりはない、みんなの役に立ちたいだからね。


「うん、大丈夫。私の強さは知ってるでしょ?」


「ああ、…後で絶対に合流する、無事で居てくれよ」


「すまん、ネレイド…頼むぞ」


「死んじゃ嫌だからね…!」


「うん…!」


大丈夫、私なら大丈夫…。みんなが人混みの中に消えていくのを確認した後…私はシスター服を脱ぎ捨て、スウェットスーツと鍛え抜かれた腹筋を露わにする。


私はこれから神聖軍と戦う、私はこれから神敵となる。テシュタルの名の下戦う者達と戦うのにテシュタルの衣服を身に纏ったままではダメだ。


これは一種の意思表明、私はこれから…神敵となる。


「すぅ…」


全身から闘志を滲ませ息を大きく吸えば、その異様な空気を感じ取り周囲の人々が逃げていき…私の姿が晒され。そして…。


「私はここにいるぞッ!神聖軍ッッ!!」


吠え立て叫ぶ。私はここにいるぞと…。その声に反応してあちこちから神聖軍が集まってきて私は瞬く間に包囲され…四方八方から銃を向けられる。


「貴様!神敵!観念しろ!」


「観念?するわけがないだろう…お前達如きに」


「な、なんだと…!」


「その銃、神聖軍の標準装備か?」


手に握られているのはよくある軍用銃。デルセクトで量産されている物よりも一段階落ちる品質の物、世界で一般的に用いられているスケールの銃だ。それを神聖軍はどいつもこいつも持っている…。


「くだらない、そんな銃に頼らなければならないほどに軟弱なのか?マレウスの真方教会は」


「ッ何が言いたい!」


「オライオンの神聖軍はそんな物に頼らない。鍛え抜かれた肉体でのみ戦い己を鍛える。お前達ような小柄で今にも折れそうな細腕の兵など存在しない。そんな道具に頼る軟弱な雑兵が私に迫れるとでも?」


「ッ…き、貴様ぁ〜!」


怒り狂った兵士が銃を撃ち放つが、そんな物見ていなくても防壁で防げる。だが事実だろう、銃単体で戦う者は弱い。鍛えれば銃以上の戦闘能力を持つ事が出来るのにそんな物に頼っている時点でそいつはそこまでという事になる。


デルセクトだって、銃だけじゃなくて錬金術も加えて戦っている。銃を抱えて兵士ヅラする奴なんか我オライオン軍には居ない。オライオン神聖軍とマレウス神聖軍…どちらが上かなど論ずるまでもない!


「さぁ退け!それともお前達雑兵に私が止められるァッ!!」


「ぐぁぁっ!!??』


全力で腕を振るう。その一撃で大地が抉れ爆裂し兵士が次々と吹き飛んでいく。この程度か…!悲しくなるぞ!


「な…なんで怪力、化け物め…!」


「怯むな…怯むなー!撃て撃て!!」


「豆鉄砲が、いくら束になって無駄だ…攻撃とは、こうやってするものだッ!!」


続け様にネレイドは大地を踏み抜く。ただそれだけで地面が割れ四方八方に衝撃波が飛び交い兵士達が更に宙を舞う。


浮かび上がった兵士をその手で掴み、大きな体を全力で使いグルリと振りかぶると共に投げ放つ。ただそれだけで人体は砲弾と化し向こうで銃を構えていた兵士達が纏めて吹き飛ぶ。


「さぁどうした!貴様らの信仰心はの程度か!」


「ダメだー!応援を呼べー!!!俺達じゃ絶対に止められない!」


「ひぃぃーー!神様ーー!!」


「軟弱な!どんな鍛え方をしていたらこんな雑魚が出来上がる!私がその性根を叩き直してやる!!」


近くに植えてあった街路樹を毟り取り槍のように振り回し兵士達を掃き飛ばす。敵を前にして背を向けるとは何事か!神敵を前に神に縋るとは何事か!お前達はなんだ!神の刃!神の意志の代理人だろうが!!


怒りのままに大暴れし兵士を蹴散らしていると…ふと。


「ッ……!」


殺気を感じ咄嗟に木を盾にすると、立派な街路樹がスパスパと細切れにされる…強いのが来たか?


「ふっふっふっ、確かにお前の言う通りだ…」


「誰だ貴様は」


すると、目の前に二本の斧を携えた痩せ技の大男が笑いながら現れ…ん?髑髏のマーク。こいつ執行官か…。


「私は邪教執行官『伐採のドリス』。安心しろ、私はそこらの軟弱な兵士とは訳が違う」


「………」


「ハッハッハッ、皮を剥いで泣き叫び許しを乞うお前を神の御前に引き摺り出し、私の考え得る最高に残虐な方法で殺し裁きを…ぷぇっ!?」


掴む、顔面を。こいつアホか…何敵の前でペラペラ喋ってんだ。オライオンでそんな無駄なことしてたらベンちゃんに殺されるぞ。


「邪魔ッ…!」


「ぐげぇっ!?」


そのまま地面に叩きつけ頭から埋める。アホは邪魔だから消えていてくれ…。


「隙ありー!!俺は邪教執行官『闇討ちのガラクサウラ』!魔力防壁に自信があるようだが俺の剣は魔力防壁さえ叩き切る剛腕…げぅっ!?」


「誰?貴方」


なんか飛んできたら取り敢えず叩き潰した、誰だこいつ…。


「兄者をよくも!俺は邪教執行官『騙し討ちのプレクサウラ』!腕に自信があるようだがこうやって不意を突けば如何なる達人も…ごふぅっ!?」


「ないよ、隙」


なんか槍を持って飛んできた奴も踏み潰す。なんなんだ、この程度なのか?邪教執行官は。と言うか闇討ちとか騙し討ちとか、テシュタル様も泣いているぞ。


「次は?不意打ちのなんたらとかそう言うの?」


「邪教執行官までやられた…もうダメだ」


「神よ!我々に救いを!救いの手を!」


「はぁ…」


情けない、神聖軍は神を背に戦い神を守る者達を言う、それは翻って神に背を向ける者でもある。それが戦いの最中に神に祈るなんて…。


先程の邪教執行官もそうだ、教育が行き届いて居ない。信心が足りて居ない。恐怖も痛みも…信仰心ですり潰せ。それが出来ないのなら銃など持つな。


「ふん、これなら逃げ回る必要性もなかったな…」


軽く蹴散らしてラグナ達と合流しよう…そう思い踏み出した瞬間。


「大した剛勇だね、眩しいよ」


「ッ……」


まるで背中に岩でも背負ったかのように重圧が、背後より降りかかる。軽薄で軽快で、それでいて重厚な声に私の動きが止まる。


…ついに来たか、私が最も警戒して居た存在が。


「…オケアノス」


「やあ、この間ぶりだね。こんな再会になるとは思ってなかったが」


黒い髪、黒い肌、ド派手な羽根飾りをした女 オケアノス。真方教会最強の使い手にして最大の障害…、争神将オケアノス。それがポケットに手を突っ込んだまま微笑みかける。


そんなオケアノスを肩越しに眺め、目を尖らせる。


「ようやく来たか」


「君、どう言うつもり?さっき聞いたよ…ナール神父を暗殺しようとしたんだって?困るんだよね、あんな奴でもボン…うちの教皇のお気に入りなんだ。彼ってば細かな擦り合わせや物事のセッティングが抜群に上手くてさ、殺されると非常に困る」


「違う、殺そうとして居ない」


「そうかい?だが…宗教に法はない。神が黒と言えば黒になる世界、それが宗教だ。そして今…神が君を黒と言っているそうだ」


「…私達はただ、東部を守りたいだけ」


「そうかい、ご立派じゃないか。私には関係ないけど」


背後のオケアノスと向き直る。私の視線が上から、オケアノスの視線が下から、互いに睨み合いぶつかり合う闘志と闘志が空間を軋ませる。


「君はいい奴だ、サッカーに付き合ってくれたしとて素晴らしい才能を持っている。出来れば君を私の作るチームに勧誘したかったが…、悪いが君を拘束するよう命令が来ている」


「…………」


「ねぇ、今から君をボコボコにぶちのめして牢屋に入れるんだけどその前に聞かせてくれよ。君…本当にただ旅人?」


「……そうだ」


「…あんまり人を馬鹿にしないほうがいいよ。そんなどデカい人間が世界に何人いると思ってるんだい?それともまだ気がついてないフリをしてもらえると思われるくらい、私って優しそうに見えるかな」


「……争神将オケアノス、君の軍では敵を前にベラベラ喋るのが規則なのか?」


「…んん?」


「無駄口が多い、そんなんだから君達はオライオンテシュタルの神聖軍以下なんだ。もっと向上心を持った方がいい」


「アッ…ハハハハ!いいねぇ!君木偶の坊みたいな見た目してる癖して唆ること言うじゃんかぁ!」


オケアノスが構えを取る。ピョンピョンと跳ねるような警戒な構えを取った彼女は私の挑発に乗ったようにギラリと滾り。


「いいよいいよ!なら決めようや…ネレイドォ!世界最強の神将がどっちかをさぁ!」


「…………」


戦うつもりはなかった、ただこいつはあまりにも危険過ぎる。神聖軍がどれだけ大挙してやってくるよりこいつ一人が動き回る方がラグナ達にとって危険になる。


だから、こいつを足止めする必要がある。ラグナ達が身を隠し次の行動に移れるまで。ここで…!


「さぁ…キックオフだッ!!」


「ッッ──」


そして、戦いの火蓋を切って落とすようにオケアノスは動き出す。まるで彼女が体がバラバラに爆ぜ散ったかと思うほどの勢いで動き出し、怒涛の連続蹴りが私の体に減り込み私の足裏から地面を引き剥がす。


「ぐっ…ぬふぅぅん…!」


「お!全然飛ばねー。大体の奴は私の蹴り食らったら山の向こうまで飛んでくのにさぁ!こりゃあ楽しめそうだ!」


「………!」


防御の姿勢を取りなるべく時間を稼ぐように立ち回る。オケアノスの戦い方は凡その予想通り蹴りを主体にしたものだ。カモシカのように鍛え上げられた足から放たれる蹴りは凄まじく重く、鋭く空を切る鞭のように飛ぶ。


動き方としてはカポエラに近い物に見えるが、その実態は根本的に違う。


「ふぅぅっ!」


「おおっと!アハハ!」


僅かな隙をついて掴みかかるが、オケアノスはクルリと空中で一回転して高笑いを響かせる。違う、彼女は戦って居ない。


これは…。


(彼女からは『武』が感じられない。これは…『遊』か?)


武術とは、如何に効率よく相手を破壊するか…と言う術理である。『ここをこうすれば相手を倒せる』と言う思考に埋め尽くされたその動きは合理極まる。


だがオケアノスの動きから感じるのは『遊』。どうすれば敵を倒せるとか、どうすれば戦えるとか、そんなことは考えて居ない。『ここをこうすれば面白い』…彼女の頭の中にあるのはそれだけだ。合理性はない、故に読めない、興味本位で動くから時に無駄な動きをするし時にあまりにも効率よく動く。


まさしく天衣無縫の戦いだ。


「戦いを楽しんでいるのか、お前は!」


「楽しまなきゃ損じゃないか!サッカーもバトルもさぁ!」


グルリと空中で一回転して放たれる回し蹴りは、まるで地面に足をついて放ったかのように芯がしっかりしており軸もブレていない。何よりこの私を近接戦で圧倒するなんて初めて…じゃないな。ラグナ、エリス、シリウス、ダアト、モースに続いて六人目くらいか…はぁ、強い人がいっぱいだ。


「ぐぅ…!強い…!」


『おお!流石だ!流石我らが神将様だ!』


『俺あの人が戦ってるところ初めて見たかも…』


『俺も…』


「さぁさぁネレイド!君の力はそんなもんかい?」


「………」


言ってくれる、勿論…この程度じゃないさ。蹴りを受けながらも立ち上がり、再び構えを取る。するとオケアノスは嬉しそうに笑い。


「そう来なくちゃ!!」


再び突っ込んでくる、クルリと体を一回転させ、手で地面を掴むと共にまるでパンチのような蹴りを何度も何度も振るってくる、逆立ちをしながらの蹴りの乱舞、それを一つ一つ丁寧に合わせるように拳で受け流し耐え忍ぶ。


「私はさぁ!生まれてから一回も!マジになったことがないんだよね!」


「そう…!」


腕の力だけで跳躍し空中で一回転すると共にまるで斧を振るような蹴りを私の側頭部目掛け放つ。それを腕でガードすれば私は腰から浮かび上がるような感覚を覚えバランスを崩す。


「どいつもこいつも雑魚ばっか…、高尚な目的を語る戦士も、忠義に生きる騎士も、どれもこれも力の伴わない虚像ばかり。私を楽しませる物はこの国には皆無だった!」


「………!」


地面に着地すると共に三度蹴る、一度目は地面、続いて壁、そこから加速し私に向け矢の如き飛び蹴りが加わり、今度こそ私の防御は吹き飛ばされ一回転して地面を転がることになる。


「みんな脆い、みんな遅い、みんなトロい、退屈で退屈で仕方なくてルールがあるサッカーの中でしか私は誰とも本気でやり合えない。誰も私に追いつけない!」


「ぐっ…ぶふぅ…!まだまだ!」


土だらけになりながら立ち上がるとその瞬間私の顔にオケアノスの足裏が重なり、全身を貫く衝撃波が体ごと地面を砕く。


「でも、君なら…或いは君ならばと、期待して居た。私と同じ名を持ちもう一人の最強と呼ばれる君ならば…私の退屈も破壊してくれると思っていた。君は私の最後の希望だったんだよ」


「ぐっ…!」


「でも君もなの?君も私を前に冷や汗をかいて息を荒げさせるの?全身に青あざを作って蹲るの?君も他と同じなの?…私は本当に世界最強なの?」


傲慢、恐ろしいまでの傲慢。されどその傲慢が罷り通る程に…オケアノスは天才だ。彼女の力は彼女のエゴイズムに見合った物だ。


私もまた神に愛された肉体を持つと言われる一種の天才だが、どうやらオケアノスはそれ以上。私の肉体が完成された物なのだとするなら…奴の肉体は完璧な物。最初から全てを持ち合わせる人間のそれだ。


強い、強いのにまだその力の片鱗さえ見せていない。これほどか…神将。


「これならまだあっちの方が楽しめたよ、金髪の女…名前なんだったかい?彼女は今どこに居るんだ?テルモテルスか?なら私も遠征に参加すればよかったな」


「エリスに…手は出させない…!」


「…分かっているのかな、私は今君に対する興味を失いつつある、その事の意味が」


ザリザリと素足で地面を擦りながら姿勢を低く、構えを取り直す。冷徹で冷淡な瞳、来る…来るぞ。オケアノスの本気が…!


「もう、終わらせてもいいかな…!」


私とエリスが見たオケアノスの本気の動き、スピードに特化したエリスでさえついていくことが出来なかったオケアノスの本気中の本気の速度。


それは解放と共に地面が砕け、サラキア全体が揺れ、彼女の体は音を背に加速する。


「『アクセルドリブル』…!」


「ッ……!」


それはオケアノスという名の光、人間の認識速度を一手上回る速度。さっきまでそこに居たのに、まるでページを捲ったように世界は変わり、目の前にオケアノスの姿が───。


「『オーバーヘッド』ッ!」


「がァッ!?」


地面が砕け叩きつけられる体──。


「まだまだッ!」


体がもう一度バウンドする前に私の体は更に蹴り上げられる。まるでサッカーのように蹴り上げられた私に追いついたオケアノスは街を駆け抜けながら何度も何度も私を蹴り上げる。蹴られる都度加速する私の体、それよりも速く加速するオケアノス。激化する連打、激しくなる殴打の嵐。


やられる、このままじゃ…!


「移ろう虚ろを写し映せ『一色幻光』!」


「むっ!?」


刹那、私の体を捉えたはずのオケアノスの足が空を蹴る。何が起きたか、それを分析するために割かれるオケアノスの思考リソース、同時に停止するオケアノスの体…それを。


「『カリアナッサ・スレッジハンマー 』!」


「ぃっ!?」


上から殴りつけ撃ち落とす。石畳はオケアノスの体で砕け散り噴水はひしゃげ戦いの場に虹がかかる。


「ッ…今のは何かな、面白い技を使う!」


「…全然元気だな」


「勿論!あの程度じゃやられてあげられないよ!」


「……なら、もっとしてあげる」


「面白い…面白いよ!これはまだまだ期待出来そうだ!」


凶暴に笑うオケアノスと、口の端から流れる血を拭うネレイド。雨の如く降り注ぐ水の中…二人は向かい合い、その拳と足が今────。


………………………………………………………………………


「こっち!こっちだよラグナ!こっちに空き家がある!」


「よし!一先ずそこに逃げ込むぞ!」


路地裏を走るラグナ達は漸く安寧の地を見つけそこに向けて猛然とダッシュする。早くしないと神聖軍に囲まれる、別に神聖軍を蹴散らすくらいなら多分出来る、だが重要なのはそこじゃない。


問題は蹴散らさなければならないという状況。ここは神聖軍の本部だ、倒しても倒してもキリがない。キリがないから永遠に戦わなくてはならない、そして俺たちにはそんなことしている時間はない。直ぐに隠匿して大賊団の動向を探らねばならないのだ。


今はネレイドが時間を稼いでいるからいいが、また捜索モードに入られたら厄介だ。そうなったら大賊団も動けないが…。


(くそッ、どうする。どうやってガイアの街に向かう神聖軍を止める!ナールとの交渉は無理だ、奴はそもそも交渉の席に座れるタマじゃない!じゃあその上?クルスか?いやあいつも話を聞くタイプじゃねぇ…!もう一旦ガイアの街に戻って俺も迎撃を…ダメだ、そうなるとサラキアで動く大賊団を止められない!)


頭をフル稼働で状況を整理させる、状況が雁字搦めだ。何をするにしても全ての問題が同時に進行している以上全てを同時に解決するしかない。だがそんな方法…あるのか?交渉が決裂した今この瞬間にも。


(くそ、こういう時どうすりゃいいんだ…師範)


ラグナの意識が完全に思考へと移行したその瞬間…。


「ッ…!お前ら例の神敵か!?」


「なっ!?しまった…!」


油断した!もう目の前に空き家があるというのに、路地裏の曲がり角からいきなり飛び出してきた神聖軍に見つかった!いや…こいつ一人か!なら。


こいつだけでも気絶させて…!


「ッ…はぁっ!」


「マジか!?」


一切の躊躇なくその場で拳を握り目の前に現れた神聖軍の兵士に拳を放つ…が、何とそいつは腰に差した剣を抜くと同時に俺の拳を的確に反らし剰え切り返してきやがった。その斬撃を俺が防げば更に続くように何度も的確な剣撃が飛び、幾度となく金属音が鳴り響き、路地裏に火花が数度飛び…。


最終的にはこの俺が押し返されてしまった。


「くっ…!」


「速え〜…赤髪の神敵、お前…洒落にならんくらい強いな」


そりゃこっちのセリフだ、何だこいつ。構えに隙がない、…というかこの魔力…こいつ魔力覚醒使えるのか?嘘だろ、オケアノス以外にこんな強いやつまでいるのかよ。


「おい神敵…って呼びたくねぇ、お前名前は」


「…ラグナだよ」


「ラグナね、なぁ…投降してくれよ。俺こんなことしてる場合じゃねぇんだ」


「そりゃこっちのセリフだっての!」


「チッ、こんな時に面倒な…!」


深く腰を下ろす姿勢、剣をこちらに向ける構え。…この構え方、アジメク式の軍剣術に似てるな、でも何でマレウスの…それも真方教会の兵士がアジメク式の剣術を…。


まぁそんなことどうでもいい、こうなったら魔力覚醒を使ってでも…こいつを蹴散らして!


「大丈夫!?ラグナ!?」


「ああ、問題ねぇよデティ!下がってろ!こいつメチャクチャ強え!」


「………………デティ?」


ふと、目の前の剣士の動きが止まる。いや止まるというか、震え出す、顔は青く、唇は痙攣して、ワナワナと落ち着きなく剣を下ろし…デティを見る。俺の背後のデティを見て指差し。


「な…あ、え?…お…う…嘘だろ、いや…え?何でここに…あり得ない」


「な、何だよ!デティになんか用か!」


「何!?その反応何!?私何かした!?」


あ…あ…と言葉を失い、チラリと自分の剣を見た剣士は咄嗟に地面に剣を置き…ん?え?


「ま、まさかあんた…いえ、貴方は!デティフローア…クリサンセマム様では…」


「え!?なんで私のこと知ってるのー!?」


そう呼ぶのだ、デティの本名を。アジメク式の剣術と言いデティの事を知ってるなんて…何者だと俺が疑ると。男はただひたすらその事実を噛み締めるように顔をギュッと皺だらけにして。


口を開こうとして、閉じて、やっぱり開こうとして、凄まじい葛藤の中なにかを言おうと繰り返す。その真摯で真剣な様に俺はすっかり闘志を失い、ただ待つ。


これほどの技量を持つ男がこれだけ悩んでいるんだ、きっと相応の理由があるのだろうと、ただ見守ると。


男はゆっくりと…覚悟を決めるように息を吐き出し。


「こんな事、言える立場ではないのかもしれない。ですがどうか名乗ることをお許しください…」


「…うん」


静かに跪く男を前に、いつしかデティも魔術導皇の顔へと変貌し、下げられる男の頭を見下ろすと…彼はこう名乗り出す。


「私は、元アジメク友愛の騎士団の団長…ヴェルト・エンキアンサス…と言うものです」


「え?」


「知ってるか?デティ」


「知ってるもなにも…貴方!」


「ええ、貴方の父の…親友だった男です」


目を輝かせるデティと、万感の思いで涙を流すヴェルト…、彼はそう名乗るだけでもう力を使い果たしたように涙と鼻水をダラダラと流しながらデティを見て…。


「本当に、本当に立派になられました…デティフローア様…!」


「ヴェルトおじさん!久しぶり〜!」


「ええ、ええ…本当に…久しぶりです」


それは、十数年ぶりの騎士と王の…いや、或いはもっと深い関係の者同士の再会となるのだった。


…………………………………………………………………


ヴェルトとデティが再会した同時刻、サラキアの大通り。かつての美しい街並みは消え去り…崩れ去り砕け散った街路路の中。


殺到するのは神聖軍、その中心に立つのは…争神将オケアノスだ。


「神将様!ご無事ですか!」


「雑兵諸君、要らない増援掻き集めてくれてご苦労様。けど必死こいて勇気絞ってきてくれたとこ悪いけど…」


そして、そんなオケアノスの視線の先にあるのは────。



「もう終わったから、それ…必要ないよ」


「……………………」


大の字になり、倒壊した家屋の瓦礫の中倒れるネレイドの姿だった。


「ああ、終わりだとも。…さようなら、私の夢」


ため息を吐く、…片思いもこれで終わりかな。

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