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416.魔女の弟子と新たなる出航、そして…



『レッドランペイジはもういない、これからはマレウスの海は俺達の物だ!』


レッドランペイジを討伐作戦、何時間にも渡る死闘の果てに見事にオーバーAランクの大魔獣レッドランペイジを倒したラグナは、はためく海賊旗の下で集った海賊艦隊に向かってそう宣言した。


二百年間このエンハンブレ諸島にて海賊や船乗り達を殺し続けていたレッドランペイジはもういない、誰も倒すことが出来ず討伐は不可能とまで呼ばれたあの怪物はもうこの海にはいないんだ。今日この日を以ってしてエンハンブレ諸島の海は正式に人類のものとなった。


それを成し遂げたラグナは海賊達より『蒼の英雄』と讃えられ、月夜の下で喝采を浴び続けた。きっとこの様は未来永劫語り紡がれていくだろう。レッドランペイジが生きた時間よりもずっと長い時間、ラグナの名はこの海に残り続けるんだ。


そこからはもう祝勝会よ、戦いの前もはしゃいでいたが今度の宴はレベルが違う。何せもう気にする事は何にもないんだ、みんな思う存分酒を飲み思う存分騒いだ。宴会の会場はブルーホール全体。


海賊と商人が手と手を取り合いフォークダンスを踊り、ブルーホールに家族を残した船乗りは互いの生還を喜び分かち合い抱きしめて涙する。集まった船長達も皆酒を飲みあい、昼よりもなお濃い喧騒が夜の静寂を切り裂いていた。


そんな宴会の中心にいるのは、勿論。


「へいお待ち!ラグナさん!ドンドン食えよ!」


「おう!サンキュー!」


「すげぇー!まだ食うのかよ!流石は蒼の英雄様だ!」


かつて軍議場として使った大広場にて、床に大量に並べられた料理の数々を口に放り込み食べ続けるラグナの姿がそこにはあった。周囲は海賊達が囃し立てるように拍手喝采を鳴り響かせており、そんな喧騒を無視するようにラグナは食べ進める。


というか急いで食べないといけないんだ、エネルギーが底をつきかけているが故に今は少しでも多くの物を口の中に入れて咀嚼し嚥下しなければならない。それだけ先程の戦いは消耗した、肉体的なダメージはデティが治してくれるがこのエネルギーばかりはそうもいかない。


だから…。


「ガツガツ、ムグムグ、ゴクッ」


食べる食べる、最近になって最もエネルギー効率が良いのは脂っぽい食事であることを理解した為出来る限り肉を、際立って脂身を多く摂取する。普通なら激太りしてもおかしくない食事だがラグナの体はいくら食べても贅肉にならない、全て筋肉かエネルギーに変換される為効率がいい…のかな、分からん。俺としてはもう少し体脂肪率をあげてスタミナをつけたいんだが。その辺がどうなってるかは分からない。


「なぁなぁラグナさん!レッドランペイジとの戦いについて聞かせてくれよ〜!」


「ムグッ!?プハッ、聞かせてくれって見てたろお前ら」


「それでもだよ〜!」


一人の若い船員がラグナに武勇伝を強請る、とは言っても全員当事者だろ。語るも何も同じもの見てんだから今更喋る必要あんのか?


でも、多分そういう事じゃねぇんだろうな。今海賊達は人生で一番興奮している、誰もなし得なかった偉業を前にして高揚して舞い上がっている。だからこの興奮を誰かと分かち合いたいんだ、少しでもこの熱を発散する為に口に出している。


大戦に勝った後に感覚は似てる、自分でも興奮しすぎて何言ってるか分からない感覚。これはそれと同じなんだろう。


「わーったよ、後で話してやるからみんな離れてろ、暑い」


「へい!ラグナさん!」


「なぁラグナさん!あんたうちの船長にならないかよ!」


「そーだよ!うちの船長より百倍イカすぜ!」


「船長の俺もそう思う!俺の船長になってくれラグナさーん!」


「やなこった、俺ぁそういう生き方はしないの!」


爆笑しながら散っていくか海賊達を見て、ちょっとだけ口角が上がる。


いいもんだ、戦いも好きだが戦いの後のこのくだらねー喧騒が好きだ。でっかい戦いの後はみんなで勝利を分かち合って酒を飲み合う。これこそ戦士にとっての至福の時なのだ、まぁ俺は酒は飲まんが。


「人気者だな、ラグナ」


「ん?ははは、照れるけどな」


ふと、声をかけられ正面を見れば…そこには、何よりも大切な仲間達がいる。アマルトにデティ、ネレイドさんにメルクさん、ナリアとメグと…そして、エリスもいる。


みんなで一緒に運ばれてくる飯を食って今日の勝利を祝っているのだ。


「しかしマジで一人でレッドランペイジを倒しちまうとはな」


そう語りながら笑うアマルトを見つつも、俺はそれを否定する為首を横に振る。俺はレッドランペイジを一人で倒したんだ!とは言えねぇよ。だって…。


「一人で勝てたわけじゃない、みんなが居たからさ。みんなが居てくれたから、助けてくれたから、俺がトドメをさせたってだけだよ」


「いやつっても俺何もしてないし」


「そんな事ねぇだろ?届いてたぜ?アマルト。お前の声が、ずっと俺を応援してくれてたよな、おかげで最後まで立てたよ」


「なっ!?そ、そういう男前なこと言うのは別のや奴にしとけよ、気恥ずかしいわ」


ボッと赤面して誤魔化すようにスパゲティを啜るアマルトを見てると思わず吹き出してしまう。可愛い奴だなこいつは。


「しかし実際大した奴だよ、あのオーバーAランクを討伐するなんてな」


「冒険者協会の規定に則ればオーバーAランクの討伐に関与したものは皆『字』が与えられるようですが、如何いたしますか?ラグナ様」


「いやいいよ、ちょっとこの件は目立ち過ぎだ。ここの海賊達が頑張って討伐したってことにしとこう」


「ラグナ…無欲…」


「まぁ〜ラグナはもう名誉とか地位とか求める段階の人じゃないしね〜、普通に王様だし」


みんなで地べたに座って食事を楽しむ、みんなからもこうやって褒めてもらえると嬉しいな。でも俺だって一人で倒せたとは思ってないんだよ、だってみんなの声があったから最後まで立てた、戦えた。俺一人で戦ってたらどこかで折れてた。


それくらい、あいつは強敵だった。みんなのおかげなんだ。


だからこうしてまたみんなと一緒にご飯が食べられるんだ、最高だよ。本当に。


「……にしても」


と、感傷に浸るのもほどほどにして。俺はチラリと目を横に向ける。そこには…一つ、気になるものが。


「二百年間一度も負けたことのない魔獣を討伐した…ですか、エリスも昔今まで無敗とか名乗る奴ぶっ飛ばしたことありますけど、いいですよね。こう…スカァッとします」


「なぁ、エリス…体は大丈夫なのか?」


そこには元気に肉をモリモリ食うエリスの姿がある。レッドランペイジとの戦いの最終局面で援護に駆けつけてくれた彼女の事を俺は『エリスはきっと来てくれる』と信じては居たものの。


実際、こうして元気に動いてるところを見ると若干不安になる。俺の援護をした後すぐぶっ倒れたみたいだし。


大丈夫なの…?と俺が体調を気遣うとエリスは。


「ええ、平気ですよ」


「倒れたんだろ?」


「肉食ったら元気になりました」


俺が言うのもなんだけどどんな体してんだ。まぁデティは『一日安静って言ったでしょ!!!!』とブチ切れてるが、エリスだって戦いに関しては素人じゃない。寧ろベテラン、自分の体の具合は分かるしこの場面で変に嘘ついて無理するタイプでもない。大丈夫と言うのなら大丈夫だろう。


「しかし厄介な毒でした、まさか魔力を乱す効果がある毒を持ってるとは…危うくまたシリウスとお話する所でした。いや挨拶くらいはしたかもしれませんね、デティには助けられました」


「ほんとだよもう!危なかったんだからね!」


「そう言えば、ジャックは大丈夫なのだろうか。彼もレッドランペイジの毒を受けたそうだが」


そうメルクさんがワインボトルのコルクを開けながら問いかける。そうだ、ジャックもレッドランペイジの最後の抵抗を受けて毒を…、でもデティがここにいるってことは。


「勿論、解毒は成功してるよ。二回目だからね、慣れたもんよ」


「そうか、…よかった。今はどこに?」


「エリスちゃんと同じ診療所、けど凄いねあの人。生命力に関しちゃエリスちゃん以上かも、毒を受けても直ぐに目覚めて解毒も終わってないのにラグナとレッドランペイジの決着を見るんだー!って言って這いずって円卓島見てたよ」


「マジかよ…」


「しかも戦いが終わったらそのままラグナの所に行こうとしたからティモンさんにぶん殴ってもらって診療所に投げ捨てといた。流石に無理しすぎだよ」


そっか、ジャックは最後まで俺を見てたのか。…全く、ロクでもねぇ奴だよ、ほんと。最後まで無茶ばっかりして…ったく。


「ふふふ…」


「どしたの?急に笑って」


「別に、まぁ元気そうなら良かったよ。あんな奴でも一応恩人だしさ」


「だね…、ジャックと最初会った時はどうなるかと思ったけど…、なんか、上手くやれてる…と思う」


ネレイドさんがチマチマと魚の素焼きをモチモチ食いながら柔らかく微笑む。たしかに…出会った当初は色々あったけど、俺はもうジャックを敵として見ることは出来ない。仲間だとも思ってるし頼りになる男だとも思ってる。


アイツは海賊で、俺はアイツを取り締まる側で、本来相入れないしこんな出会い方じゃなけりゃ殺しあってた仲だけど、それでも…こうして仲間として分かり合えるんだな。


「それでどうするんですか?ラグナ」


「へ?」


ふと、エリスに声をかけられそちらを見ると…ギョッとする。いきなりの事に驚いてしまったんだ。


だって、何気なしに見たエリスの目が異様に鋭かったから。これはエリスが戦闘前に見せる情けとか容赦とかを捨てる瞳。船の上じゃあんまり見せない闘争心剥き出しの瞳。俺はこれを内心『鉄の眼光』と呼んでるわけだが、それを今この場で見せていることに驚いてるんだ。


何故今そんな目をする。チャーミングではあるが。


「どうするって…何を?」


「顛末です、ラグナはこのままジャック達に黒鉄島へと送る船を出させて、黒鉄島を調査する。その後はどうするんですか?」


「いや、ピクシスを引き離して時界門で馬車に戻るつもりだが…、何か問題でもあるのか?」


「ジャック達はそのままにするんですか?アイツら、一応エンハンブレ諸島を不当に占領してボヤージュの街の人たちを苦しめてる元凶ですけど」


「っ…」


そこを突かれると痛いというか、確かにジャック達はエンハンブレ諸島を縄張りとして海賊達以外を近づけないようにしている。そのせいでボヤージュの街は干からびる寸前、何もしてない無辜の民が苦しんでいるんだ。


なら、ジャックは退治した方がいい…んだよな。


「あー…すっかり忘れる所だったぜ」


「そう言えばそうだったな、ジャック達は気のいい奴らだが…悪人だ」


「恩義はありますが、ジャックさん達のせいでボヤージュの人達は漁が出来てませんもんね…」


「ええ、なのでどうするかを聞きたいんですラグナ、この件の顛末をどう考えているかを。ラグナが言えばエリスは沈めますよ?あの船を、ピクシスもヴェーラもティモンもマリナもジャックも全員海の藻屑にします」


貴方の答えが聞きたいとエリスは語る。エリスは既に覚悟を決めているんだろう、世話になった船だろうが沈める覚悟が、とは言えちょっと過激だが…。


…なんか、師範の言ってた事が分かってきたぞ。


師範はよく昔レグルス様と旅をしていた頃のことを振り返って。


『アイツは直ぐに破壊と殺戮で事を終わらせようとする。言ってみりゃとんでもなく過激な奴なんだ。あれの首根っこを掴みながらいろんな事件を解決するのは苦労したぜ…』と。


多分こういう事なんだろう、まぁエリスはレグルス様に比べて幾分聞き分けがいいだけマシだが…うん。


破壊と殺戮だけが、解決の手段じゃない。


「いや、せっかくここまでジャック達と信頼関係を結べたんだ。交渉してみるよ」


「いけますか?」


「なんとかする」


そう俺が伝えるとエリスは目を伏せ『ラグナがそういうなら』と口にして、いつもの目に戻る。


ああそうだとも、何も壊すだけが物事を解決する方法とは限らない。アイツはエンハンブレ諸島に拘る程小さな男じゃない、やめろと言えば聞き分けてくれるかもしれない。


楽観的だが、今はそう信じたい。そう思えるくらいには今俺はジャックという男を気に入っているんだ。


『おぉーい!ラグナさーん!』


「お?おかわりが来たかな」


「お前どんだけ食うんだよ…」


なんて話してる間に俺たちに向けて手を振り、いそいそと近寄ってくるのはこのブルーホールの顔役アマロだ。彼はなんとも上機嫌といった様子で足を高く上げながらスキップのような姿勢で俺の元へと歩いてきて。


「いやぁ!助かったじゃないのよさ!お前がレッドランペイジを倒してくれたおかげでこのブルーホールが救われた!この礼はどうやったしたらいいか見当もつかんぜ!」


「いやいや、俺一人でやったわけじゃないし」


「だがお前のおかげだ、お前が戦おうとみんなを焚きつけてくれたから戦えたんだ。そこは変わらないじゃないのよさ、ヒッヒッヒッ!」


アマロも嬉しそうだ、涙ながらにブルーホールを救ってくれと懇願しただけあって、彼はここを大切にしているようだ。ここには海賊ではない人も多くいる、仕方なく乗ってる者もここしか居場所がない者もいる。そう言った人たちの最後の砦たるブルーホールが守られたということは、ここにいるそういう人達の事も守ることが出来たって事なんだ。


「それによ!あんたがレッドランペイジを倒した時に奴が吐き出した黄金の数々!ありゃあどれも値打ちものばかりな上に経年劣化も殆どねぇ!何百年も前のお宝が一気に目の前に現れたんだ!みんな笑いが止まらねえよ!」


「そうかい、そりゃよかった」


やや照れ臭く頬を掻く、レッドランペイジの体内は俺が読んだ通り魔術によって別世界と化していたようで、中に収納されていたものは全て何百年も前のものなのにまるで昨日取り出したかのような真新しさを保っていた。


黄金はよく磨かれたままだし、それ以外の財宝も煌びやかなままだった。それらが一気に転がり込んで海賊達も大笑い、みんなで一斉に黄金を掻き集めて回収してたよ。


「それもこれもあんたのお陰だ!で?あの黄金はどうするんだ?」


「へ?どうするって?」


「どこに売るかだよ、あの黄金は全部お前のものなんだ、この海じゃ最初に手にした者に所有権があるからな」


「え!?俺のなの!?」


「当たり前だろ!?何言ってんだよ」


えぇ、俺ぁてっきりここの海賊達で山分けにするもんかと思ってたな。いや気持ちは嬉しいけどさ、俺別にいらないよ、宝なんて。金に困ってるわけでもないし何かが欲しいわけでもない。いきなり大量の金銀財宝を渡されても物の置き場に困るというか。


うーん…でも確かに俺が手に入れしたものだし、何より『要らない』と口にするのも宝の価値にケチをつけるようであんまり好きな返答じゃないな。なら…。


「じゃあアマロ、今回の宴会で飲み食いした分は俺が持つよ。支払いはあの宝で足りるかな?」


「おぉ!?」


『おおおおお!?!?』


「ん?」


今日の支払いは宝でやるよ、アマロは最初から無償のつもりだったろうが。ただ譲られるよりそういう格好の方がありがたいだろう。そう思って善意で言ったら…なんか変にドヨドヨと海賊達が戦慄き始める。なんか…変なことやらかしたか…?


海賊界隈では見つけた宝で支払いはダメ的な〜…そんな仕来りが…ある、とか?


そう気になって周りをチラチラ見てみると。


『今日の酒代は今日見つけた宝で…って俺も言ってみて〜っ!!!』


『すげぇ〜!イカすぜラグナさん!いやラグナの兄貴!』


『今日の酒代は蒼の英雄ラグナの奢りだ!すげぇよ!太っ腹にも程があるぜラグナの兄貴ぃ〜!!』


ヒャッホー!と拳を掲げる海賊達は大盛り上がり、どうやら反応は嫌悪ではなくその逆、好意的なものだったようでホッとする。


「すげぇなラグナ、お前どんだけ海賊達のツボを分かってんだよ」


「え?そうなの?」


「そうさ!今みたいなこと言われちゃ海賊は惚れ込んじまうもんだよ、ここにいる海賊全員を一気に心酔させちまうなんてお前まじで何者だよ、本当に船長に向いてるんじゃないのよさ!」


「いやいや、俺は船長になるつもりはないって…」


「惜しいなあ、だが…お前の素性を考える限り、これくらい当然か。本当は助ける義理なんてなかっただろうに…ありがとうよ、蒼の英雄様。久しく血が滾る戦いぶりだった、あと二十年若けりゃ…俺もアンタに挑んでたかもな、ヒッヒッヒッ!」


あぁー!儲けた儲けた!!と腹を叩いて立ち去るアマロを見て、騒ぎ立てる海賊達を見て、俺も一息つく。


ありがとう…か。これは誰から言われても嬉しいもんだな。


「フッ、さぁて?今日はきっと朝まで宴だぞラグナ。君が火をつけたんだ、責任持って楽しまないとな」


「だな、よし!俺も朝まで食うぞ!」


「でもあれだけの黄金、一度も手にすることなく人にあげちゃうのは抵抗がありますねぇ」


「お?なんだ?ナリアも黄金とかそういうのに興味あんのか?意外だなぁ」


「い、いや僕だって一回くらいやってみたいんですよ。金貨のプールで泳いだりとか」


「意外に俗物なのな、ならメルクに頼もうぜ」


「あまり良いものではないぞナリア アマルト、やるだけやったら二秒で飽きるし後片付けも大変だからな」


「やったことあんのかよ…」


次々と運ばれてくる料理を仲間達とともに舌鼓を打つ。

戦いを終えて、脅威を撃ち破り、全てが終わって大団円。…ってわけでもないけど、今はただこの光景と勝利の余韻を楽しむこととする。


明日にはまた出航なのだから、今は笑えるだけ笑っとこうぜ、なぁ?みんな。


…………………………………………………………………………



「アホーイ!それじゃあ野郎ども!色々あったが出航するぜ!準備はいいかー!」


「い…いいっすけど、船長は体大丈夫なんすか?」


「問題ねぇぜ!寧ろテメェら!俺が寝てる間に飲みまくりやがって!許さねぇからな!一生!」


「あほーい……」


そして翌日、全快したジャックの号令の下船に大量の食糧と水と酒、その他航海に必要な道具が詰め込まれる。本来購入したものよりも量が多いのはアマロ曰く『昨日のお釣り』だそうだ。


「ラグナ、お前も準備いいか?」


「ああ、いいけど?なんで?」


俺もまた航海の準備を終えて船に乗り込むとジャックにそう声をかけられた。準備はいいかって…そりゃいいと思うけど。


「ほんとにそうか?ほれ、あれ見てみろ」


「ん?」


ふと、何気なしに後ろを見ると。ブルーホールに…大量の海賊達が集まって俺を見送っていた。海賊だけじゃない、商人や住民に至るまで全員が俺の出航を惜しんで詰め掛けていたのだ。


「せっかく知り合えたのにもうお別れなんて寂しいぜラグナの兄貴ぃ!」


「もっと色々話が聞きたかったよ!蒼の英雄様ぁ!」


「またどっかで会えたら今日のお礼をさせてくれよな!」


「みんな…」


ありがとう、ありがとう、そんな言葉が雨のように降り注ぎ俺の体を打つ。感動とでも呼ぶのだろうか、今俺は初めて本当の意味であの日見送ったエリスの背中を…あの時のエリスの気持ちが分かった気がした。


これが旅の別れか、寂しいもんだな。昨日が永遠に続いたならまだ一緒にいれたんだろうが現実はそうじゃない。


だけど同時に分かってる、旅の別れは永遠の別れじゃない。またいつかどこかで会えるもんだと…俺は知ってるから。


別れを告げる海賊達を押し退けて、現れるのはアマロだ。彼は俺の顔を一瞥すると。


「…そんじゃあな、英雄様。任せるぜ?この海を」


「は?そりゃどういう意味…」


「あばよ〜!」


と、何やら意味深な言葉だけを残して消えていった、俺の制止の言葉も海賊達の喧騒に掻き消されて届くことはなく。アマロの姿はあっという間に見えなくなる。


どういう意味だったんだ、あれは。


まぁいいか、それより…。


「みんな!またどっかで会えたらそん時はまた飯食おうぜ!」


じゃあな!と拳を掲げれば海賊達がドッと一斉に聞き取れない量の別れの言葉を叫び、俺に合わせるように拳を掲げる。別れを惜しまれるというのはなんだか嬉しいもので、そんな若干の高揚を覚えつつ、俺は振り返り…ジャックの顔を見遣る。


「準備オーケーだ」


「へっ、イカす挨拶だぜ。よっしゃ!んじゃあ行くぜ野郎ども!穂を張れ!錨を上げろ!出航の雄叫びを海に聞かせてやれぇい!アホーイ!!」


『アホーイ!船長ー!!』


ジャックの号令に従い掲げられる帆と海上から引き上げられる錨、船は再び旅を始め、港で別れを告げる言葉にこちらも手を振って返し船はまた別の島へ。


…う〜ん!海賊してるなぁ〜、俺。海賊やる気微塵もねぇんだけど〜…。


「よし!錨は上げたな、帆も掲げたな、じゃあ次は…何するか分かるよな」


「っ…」


海賊達が色めき立つ、みんなの目が変わる。ついに来た…船を出した後やる事と言えば一つしかない。


…ブルーホールで物資を調達するまでの間保留になっていた、次の目的地の決定。色々あったが忘れたことはない。なんせこれが俺の目的なのだから。


ここで黒鉄島を推薦し、黒鉄島行きを確保する。…けど。


「野郎ども!次はどこに行きたい!」


「俺!ブレトワルダ王国!」


「レングガルズ!」


「トツカ!」


「シバルバー!」


次々と海賊達が次の目的地について手を挙げる、次はここがいいとジャックに推薦するんだ。ここに意見全部が俺のライバル…ってかどれもこれも外文明の国ばかりじゃないか!そんなとこ行ってたらとてもじゃないが三年の期間に間に合わなくなる!


何が何でも通さないと…俺の意見を、けど。


「っ…」


前回のやり方じゃダメだった、別のやり方を考えないと…あれからずっと考えてたけど何にも浮かんでねぇんだなこれが。だって何が正しいやり方なのかも分からないのにこんな…。


「おい、ラグナ」


「へ?」


ふと、裾を引っ張られ後ろを振り向くと、そこには難しい顔をした…ピクシスが。そうだブルーホール行きを提案して時間を稼いでくれたのもピクシスなんだ。ピクシスの行為を無駄にしないためにも成功させたいけど…。


「ピクシス…?」


「何悩んでるんだお前は、早く言え」


「けどいい手が何も浮かんでないんだ」


「いい手?バカかお前は、昨日ブルーホールで見せた強引さはどこへ行った」


「強引さ?」


「そうだ、昨日の一件で海賊がどういう生き物か分かったはずだ。行ってこい、大丈夫…今度はきっと上手くいく」


そう言い残すとともにピクシスは俺の背を押し、ジャックに意見を言う海賊達よりも一歩前へ…俺を押し出す。そうすれば必然、皆の注目は俺に集まり、ジャックもまた俺を見下ろす。


「あ…えっと」


「……ラグナ、なんか言いたいことあんじゃねぇのか?」


「…………」


海賊がどう言う生き物か、海賊は何を好み、何を魅力的と思うか。それは宝か?財宝か?


違うんだ、海賊達は宝や利益をただの『通過点』としてしか見ていない。宝を手に入れることが目的で海賊やってるなら昨日の財宝の山を前にしただけで海賊達はその活動をやめている、だが実際はそうはならなかった。


所詮宝は儲けでしかない、真の目的はそこにはない。結局…海賊達が求めているのは。


「…ジャック、俺は黒鉄島に行きたい」


「ほう?しかしあそこには何もないと言った筈だが?」


「ああ、かもな…けど」


クルリと振り向き、他の海賊達の目を見据える。確かに黒鉄島には宝はないかもしれない、けど…それでも。


「それでも、俺は黒鉄島に行きたい!確かに他の奴らが言うような宝はないかもしれない!行っても何にもないかもしれない!けど…俺が行きてえんだ!文句あるか!!!」


暴論、理屈のかけらもない、理性的でもなければ議論の余地もない。まさにワガママ…そんな言葉を発しながら俺は更に親指を背中に向けて胸を張り。


「黙ってついてくりゃ、いいもん見せてやるぜ?それとも俺を信用出来ねえか?」


そう、ニヒルに演じて言葉を紡ぐ。ただそれだけだ、俺がするべきなのはそれだけ。


国王の俺から言わせて貰えば、こんな事を議論の場でする奴は摘み出されても文句は言えない。何かの意見を通したいならキチンとしたエビデンスを用意して、現時点の組織的なパーパスにフィーチャーした理論を展開する必要がある。


だがここはそんな堅苦しい場所じゃない、必要なのは理屈ではなく、理由ではなく、理論でもなく。


「へっ、面白そうじゃねぇか」


「蒼の英雄様が言うんじゃこっちが折れるしかねぇか」


「近場だしいいんじゃねぇか?寧ろ面白そうだ、英雄になっちまうくらい凄い奴のラグナが言う目的ってやつを見てみたいぜ!」


「いーぜー!レッドランペイジを倒したご褒美だ!譲ってやるよー!」


重要なのは『行きたいかどうか』なのだ、なぜ行きたいとかではなくなんとなく行ってみたい…その興味が惹かれるかどうか。そしてそれを見せるには小難しい理屈とかを懇々と語るより簡潔に誘った方が海賊ってやつは寄ってくるもんだ。


俺の暴論を聞いた海賊達は笑いながら面白そうだと語り出す、結局それが大事なんだ、面白そう。そう思わせたら勝ち…だよな?ピクシス。


そうピクシスにウインクすれば彼は無反応無表情で腕を組みながらそっぽを向く…ふりをしながらこっそり親指を立てて讃えてくれる。どうやら合格を貰えたようだ。


「くくく、だっはっはっはっ!面白え誘い文句じゃねぇか!よっしゃ!満場一致みたいだし…向かってやるとするか、黒鉄島に!」


パンッ!と音を立ててジャックが俺の背を叩き笑う、そんな俺を見て『ラグナの言う事なら俺達も聞くよ』と海賊達が声を上げ、ピクシスがそれを呆れたような柔らかな笑顔で眺める。


一体となっている、キングメルビレイ号のジャック海賊団が今…俺を受け入れて一体になってくれている。そんな暖かな気配に思わず涙ぐみつつも…俺は拳を握る。


ようやく、ようやく俺は。黒鉄島行きの道を掴むことが出来た。長かったが…もう直ぐだ。


………………………………………………………………


それからはいつもの航海が始まった、エリス達は厨房で料理を、俺達は揃って雑用を、偶にジャックに航海の指南を受けつつ…日が暮れ晩飯を食ってからは就寝。


いつもの流れだ。もう慣れきった航海生活を淡々と過ごしつつ…俺は言われた。


ヴェーラさん曰く『黒鉄島への行き方はもう分かってるからね、ここからなら一週間くらいで着くと思うよ』と。


ティモンさん曰く『何やら頑張ったようだな、そのご褒美みたいなものだ。胸を張って行け、ラグナ』と。


ピクシス曰く『全く、黒鉄島になんか行っても儲けは何も出ないのに。無駄な航海をさせおってからに』と。


海賊達からも黒鉄島行きを歓迎され、アマルト達からもお褒めの言葉を貰い。俺は床についてぐっすりと眠る……。


「うぅ…」


事はなかった、寝る前にちょっと催しちゃって…既にベッドの中で毛布を抱きしめ丸まって眠るアマルトと死んだようにピクリとも動かず直立で眠るナリアを起こさないように、俺は居住室を出て船の甲板に出る。


「さむ……」


外に出れば夜風が吹いて体が震える、既に空は暗く綺麗な星々が黒い海を照らしている。昼間とは違って最低限の人間しか起きていないせいか、静かなキングメルビレイ号の甲板を歩む。


……寝室から甲板を経由しないとトイレ行けないのって構造上の欠陥だろ…。


「はぁ、さむさむ…寒いのは苦手だ。とっととトイレ行ってベッドに…ん?」


早くトイレに行こうとしていたところ、ふと…目に入るのは。


珍しく甲板に出て手摺にもたれて海を眺め、夜景を肴に酒を飲むジャックの姿があった。アイツが黄昏てるなんて珍しいな。なんて思ってるとジャックが俺に気がついたのか、ちょいちょいと手で招いてくる。


トイレ行きたいんだけど…仕方なし。


「なんだよ、ジャック」


「いや、丁度いいと思ってよ…酒付き合えや」


「酒は戒めてるって言ったろ?」


「固いやつだな、そんなんじゃ立派な海賊になれんぞ?」


「ならねぇとも言ってる筈だよ」


「……そうだったな」


俺はジャックの隣に立ち、手摺に座り込むように腰を落ち着ける。無視して行ってもいいんだけど…なんかジャックの様子が気になったから、話を聞いてみたくなったんだ。


すると、俺の気遣いに気がついたのか。ジャックは海を眺めながら徐に口を開き…。


「おめでとさん、ようやく念願の黒鉄島に行けるみたいだな」


「ああ、ここまで長かったよ、本当ならあの日終わってる筈だったのに」


「そりゃ悪かったな」


「いじけてんのか?…回り道にはなったが、楽しかったぜ?」


「楽しかった…ねぇ」


事実、俺はいい経験をさせてもらったと思ってる。色んなことを学べたし、色んな物を味わうことが出来た。城の中にいては体験出来なかったものばかりだ、そう言う点ではジャックには感謝してるよ。


するとジャックは…。


「お前はすげぇなラグナ、俺ぁお前を一目見た時から只者じゃないと思っていたが…まさかここまでとは思わなかったぜ」


「そうか?最初会った時なんてそれこそお前に無様に沈められたじゃんか」


「…海の上で俺に見せたあの闘志と姿勢、仲間思いのお前の姿…それを見せつけられてなきゃ俺はお前を拾わなかった。それくらいあん時のお前はギラギラ燃えてたぜ」


へへへと笑うジャックが語る言葉にちょっと驚く、俺を拾った理由って…あの時俺が仲間を守ろうとしたから?そんな理由で?…まぁ今ならなんとなくわかるが、ああ言うのも海賊的には受けがいいとかなのだろうか。


別にウケ狙いだったわけじゃねぇし、本気で仲間を守ろうとしてダメだっただけだし。そこ褒められてもな…。


「最初は見込みあるガキだと思ってた、けどあれからお前の強さをまざまざと見せつけられてお前って存在を刻み付けられて、終いにゃレッドランペイジを倒して海賊の歴史まで変えちまいやがった。大したやつだよ」


「そんなことねぇよ、ずっと言ってるけど俺一人でやったわけじゃねぇし」


「そうかい?だが少なくとも、お前は賊の歴史の中じゃ間違いなくクユーサーに並ぶ大人物になったぜ」


「賊の歴史に名を残しても…ん?クユーサー?誰だそれ」


ふと、聞いたことない名前に目を丸くする。クユーサー?聞いたことない名前だな。レッドランペイジを倒した事でそのクユーサーと並んだってことか?だとするとこう…言っちゃなんだが凄いやつなんだなクユーサーってのは。


「凄い奴なのか?そいつ、ジャックよりも凄い海賊とか?」


「ちげえよ、クユーサーは海賊じゃない…いや海賊もやってたかな?アイツはな、マフィアさ…」


「マフィア…」


「ああ、別名史上最強最悪の大罪人…『業魔』クユーサー・ジャハンナム。俺達三魔人の…所謂先輩だな」


最強の大罪人…業魔クユーサー?三魔人の先輩って、三魔人は『海魔』『山魔』『空魔』の三人のはずだろう、そこに『業魔』なんて奴はいなかった、ましてや世界最強の犯罪者なら俺が知らないはずがない。


「誰なんだ、そいつ…」


「…今から百年前、裏社会に君臨した闇の王。まだ三魔人の枠組みもなく空魔ジズも生まれる前に今の犯罪者コミュニティをマレウスに形成した…所謂賊全ての神さまみたいなやつさ」


ジャック曰く、その『業魔』クユーサーの強さと偉大さに肖って三魔人はそれぞれ『魔』の文字を授かったと言われる程、賊の世界に多大なる影響を与えた大人物だそうで。百年前にマレウスと犯罪者社会に黄金時代を築き上げた男だそうだ。


百年前か、なら知らない筈だ。なんせ今はジャック達三魔人の時代だ、彼らの名前に隠れていつしか業魔の名前も擦り切れて消えてしまったんだろう。


「そいつ、強いのか?」


「ああ、強えぞ。なんせ史上最強だ、唯一クユーサーの生前を知るジズ爺をして…もし今のマレフィカルムに所属していたなら、八大同盟上位クラスに食い込めるだとかなんとか…」


「…ジャックより強いのか?」


「さぁ?俺は会ったことねぇし、俺が海賊やる頃にはとっく処刑されてたらしいし、知らねえ。けどジズ爺曰く俺達三魔人がそれぞれ得意なフィールドで束になっても敵わないそうだと…、思い出補正も込みなんだろうけど」


海を渡って帝国相手に喧嘩ふっかけて、帝国軍を蹴散らし当時の世界最強を名乗っていた将軍に癒えない傷を与え、その中で仲間の裏切りにあい、帝国に捕縛され処刑されたらしい事はジャックも聞いたことがあるらしい。


凄い奴もいたもんだな、帝国相手に喧嘩ふっかけられるくらい強く、そして組織もデカかったのか。


「俺より強いって言われるのは俺としちゃ面白くない話だが、まぁそれでもクユーサーは凄い奴だと思うよ、そんなクユーサーに並べるくらいお前は凄いってことさ」


ふーん、褒められるのは嬉しいけどそんな奴に並べられるのもなぁ。


「そうかい、よっと…昔話サンキューよ、酒のつまみになったか?」


「なるわけねぇだろこんな面白くねぇ話、もう行くのか?」


「ああ、トイレ行きたいんでな」


手摺から降りてポケットに手を突っ込み、こちらに振り向くジャックを見ることもなく俺は歩き出し…。


「待てよ、その前に…話しておきたい」


「あ?何が…ってお前、それ」


すると何やら呼び止められ、やや気だるく振り向くと…ジャックの手には紙の束が握られていた。あれは確か…アマロから貰ったやつ?


「さっきこの中を見た、ここに俺の狙っている代物があるそうだ」


「…なぁ、ジャック。お前はテトラヴィブロスに行きたいんだよな、そこにある海の秘宝が欲しいって言ってたよな?。じゃあそこに書かれてるのはテトラヴィブロスなんじゃないのか?」


「違う、ここに書かれているのはテトラヴィブロスに行って帰ってくるための鍵…、普通に行ってちゃ死ぬのはお前も知ってるだろ?」


テトラヴィブロスに入ると船は沈む、原理は分からないが事実そう言うものとして伝わっているのだから覆しようのない事実なのだ、だが…ジャックは言う。行って帰ってくるための鍵があると。


「そんなの、マジであるのか?」


「マジかは分からん、だが賭けてみる価値はあると思ってる。ずっと探していた、こいつの在り処を…そして俺は漸く、見つけたんだ」


「なんなんだ?鍵って、テトラヴィブロスの魔力を無効化できるものなんて実在するのか?」


「…いいやない、だが別にテトラヴィブロスの力をなんとかしなくても帰って来れればそれでいいわけだろ?」


「まぁ、そうだが…じゃあ、なんだよ」


するとジャックはもう一度海を、いや…水底を眺めて、軽く酒を一口含み飲み込むと。


「……人魚だ」


「え?人魚…ってそりゃお前…」


「知ってるだろ?人魚の肉を食うと…一生陸に上がれなくなる代わりに海の上じゃ死ななくなる、ってよ」


聞いたことがある、けどそりゃ人魚って眉唾の上にさらに乗っかった都市伝説だろ。そもそも人魚が実在するかも分からないのに、お前…そんな話をマジで信じてるのかよ。


確かに海の上で死ななくなるなら、テトラヴィブロスに行っても帰ってくる事はできるだろう、だけどそれは人魚がいたらの話だろうが。


「お前…その話マジで信じてるのかよ、第一人魚なんて…」


「人魚はいるぜ、こりゃ伝承でもなんでもない。事実なんだ、このエンハンブレ諸島の何処かには古くから人魚がいる…キチンとした目撃情報もある、証拠もな」


「いや、でもボヤージュの街じゃ…」


「あいつらよりも俺達は海にいるんだぜ?まぁ実際俺も一度しか見たことないから、珍しいのは事実だがな」


「……マジかよ」


じゃああの日、エリスが見た人魚らしき影は…本当に人魚だったのか!?嘘だろ、人魚って実在するのかよ。なんか…ワクワクするな。


「じゃ、じゃあその地図に書かれた場所に人魚が?」


「ああ、アマロが必死こいて探してくれた。人魚の里がこの地図に書かれてる、そこには人魚が大勢住んでいて…今も暮らしているそうだ」


「ど、何処なんだ?何処に人魚が…」


その瞬間、バッと広げられ見せつけられる地図の中。そこに書かれた島の形と…その名前は。


「黒鉄…島…!?」


黒鉄島だ、黒鉄島に…人魚がいる…ってことなのか?いや、あそこに?嘘だろ?いたのか?って言うかなんつー偶然だよ。俺達の目的地にジャックの目的もあるって。


「正直びっくらこいたぜ、俺の目的地とお前らの目的地が一緒なんだからな」


「お前、だから…」


「勘違いすんなよ、あれはお前が勝ち取った意見だ。事実他の奴らも納得してたろ?納得させたのはお前、俺はそれに乗っただけだ」


そうは言うが、なんか騙された気分だよ。でもそっか、なら丁度いいのか?俺は黒鉄島に行きマレフィカルムの本部を探し、ジャックは人魚を探し捕まえて食べる。


エリス曰く結構人っぽい感じらしいけど、それ食うのか?倫理観とか…を問うのはダメか、こいつ海賊だし。


「差し詰め黒鉄島の秘宝…って言ったところかな、お前も食うか?」


「死んでもごめんだよ、食うなら勝手にしろ…ってか黒鉄島に何にもないってわけじゃないのな、他の海賊達にも言ったのか?」


「言ってねぇ、人魚の肉を食うのは俺だけだからな」


「え?なんで、そんなことしたらテトラヴィブロスから生きて帰って来れるのはお前だけになるだろうが」


「あ?ああ、…違うな。そもそも俺、テトラヴィブロスには一人で行くつもりだしな」


「は…?」


何…言ってんだよ、そりゃ。お前…それってジャックがこの海賊団から抜けるってことか?そんなことしたらお前、どうすんだよ。ここにいるみんなは…みんなお前を慕ってここまで来てんのに、今更自分だけ夢を叶えてトンズラこく気かよ…!


「お前、自分で何言ってるか分かってんのかよ…!!!」


「俺の夢は俺の夢、他の奴らの夢は他の奴らの夢だ。俺は他の奴の夢を笑うことはしない、だが叶えてやろうともしない、其奴の夢は其奴だけのもんだからな…」


「でもお前は船長だろ…!?」


「この船長の座を降りるって言ってんの。第一人魚の肉食ったら陸に上がれねぇんだぞ?俺は元々上がれないから別にいいけどよ。他の奴らはそうもいかない、それに…」


「それに…?」


「………、俺はテトラヴィブロスから帰ってきたら、約束を果たさなきゃいけない。それに他の船員を巻き込みたくないんだ」


「約束?」


何を言ってるんだジャック、お前は何を言いたいんだ。なんでそんなに悲しそうな顔をして夢を語るんだ。お前はもっと夢を楽しそうに語ってただろ。そんな顔してまで語る夢になんか…価値はないぞ。


まるで意を決したかのような視線を向けるジャックは、静かに息を吐き。


「俺は、人魚の肉を食ってテトラヴィブロスに行ったら、…マレウス・マレフィカルムとの約束を果たし、奴らの傘下に入って魔女と敵対するつもりだ」


「……は?」


「だからそん時までは、仲良くしようぜ…魔女の弟子ラグナ」


マレフィカルム…その名が何故今出てくる。何故お前がマレフィカルムに入ろうとしている。


混乱した頭じゃまるで状況は掴めないが、一つ分かることがあるとするなら。


俺達は…何処まで行っても、敵同士だって事…ただそれだけだった。

章も佳境に入って参りましたがここで一旦投稿はお休みして次は10/5になります。少々お待たせしてしまいますがお待ち頂けると幸いです。

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