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412.魔女の弟子と襲来のレッドランペイジ


「そういうわけだ、交渉成立、ありがとな?アマロ」


「おう、また…会えることを祈ってるぜ?ジャック」


「………………」


異様な空気で幕を閉じたジャックとアマロの取引、その場を静かに見守ったラグナは釈然としない心持ちであった。


終ぞ、分からなかったのだ。何故自分をこの場に連れてきたのか。態々ジャックが声をかけてここに俺を連れてきた意味が。俺に何かをしてもらいたかったわけではないだろう、取引の内容が俺に関係するものでもなかっただろう。


なら何故なのか、相変わらずジャックの真意は読めないままだ。読めないままなので。


「ジャック、なんで俺をここに連れてきたんだよ」


「あ?」


聞いてみた。今更こいつに対して悶々と思う必要もあるまい。何を考えているんだと思ったなら何を考えているんだと聞くまでだ。


アマロと向かい合ったままのジャックはキョトンとした顔でこちらを見る、アマロも『何言ってんの?』といった様子で俺を見る。


「なんでって…そりゃあ、なあ?アマロ」


「俺に聞くなよ、寧ろ俺が聞きたいね。お前…こういう場に部下を連れてきたりするタチじゃないだろうが」


「まぁ、部下じゃねぇしな。ってか俺に船の部下はいねぇよ、アイツらは俺の船に乗る船員だ」


「それを部下って言うんじゃねぇのよさ」


「ふむ…」


するとジャックは腕を組んで考え込む、まさかこいつに限って理由はありません!なんてことはないよな…いや分からん、無いかも。


「だははははは!まぁ顔合わせはしておいたほうがいいかなって思ったわけよ」


「なるほど、そういう事か」


と、納得の声をあげたのは俺では無い、アマロだ。アマロだけが何か分かったように静かに横になる。いやいやいや?俺何も分からんが?もっと教えてくれよ。


そう更に問いかけようとした瞬間。


「ラグナ様!大変です!」


「うぉっ!?びっくりしたっ!?」


いきなり背後から大声で話しかけられて肩が上がる、何事かと振り向けばそこには…顔面蒼白のメグさんが。


…これ、ただ事じゃ無いな。いつも余裕そうなメグさんが全く余裕がないなんて。


「なっ!?テメェどっから入りやがった!?」


「メグ?…どうやって入ったんだ」


驚いて銃を抜くアマロと訝しむジャックを他所に俺はメグと向かい合う、彼女は悪戯好きな困った性格をしてるが、こう言う顔をして俺を騙してくるような人じゃない。何かあったのは間違いない、少なくとも俺を至急呼び出さねばならないなにかが。


「そ、それが…」


そうメグさんは数度息を整えると。


「…ブルーホールの目の前に、突如オーバーAランクの魔獣レッドランペイジが出現しました。エリス様が迎撃しましたが失敗し負傷。エリス様がラグナ様とジャック様の援軍が必要だと…」


「オーバーAランク…!?ッエリスが負傷!?」


「レッドランペイジだと!?」


ジャックと目を合わせ互いの顔を見合う、オーバーAランクのレッドランペイジ?そりゃ伝説とかの類いだろう…、それになんの予兆もなく…いやあった。


予兆はあった、ブルーホールに立ち寄る前に出会ったあの魔獣の群れ。アイツらの様子はどこかアインやタマオノに率いられる魔獣に似ていた。もしかしたらその手の巨大魔獣が近くにいる可能性は考慮したが…まさかまじで来るとは。


ってかエリスが負傷!?エリスが負けたのか!?…エリスがいくら初戦に弱いからって最近は余程の事情がない限り負けなしだったのに。そのレベルか。


「なんだと!おい女!お前それは本当か!」


「ラグナ様、誰ですかこのブタ」


「バカ!ここの顔役だ!」


「ああ、女って言われたのがイラっときたのでつい。…本当です、今も外で交戦中です、急いで援護を!」


その話がマジなら今すぐいかねぇと、レッドランペイジがどのレベルか分からんが魔獣を多数引き連れてるなら即座に援護に行こう。大丈夫…こっちにゃ海洋最強の男がついて…え?


「…………」


「ジャック?」


そうジャックを見ると、何故か意気消沈した様子で椅子に座り込み…頭を抱えていた。おいおい、何似合わないことやってんだよ、まさか…。


「怯えてんのか?」


「…この海でレッドランペイジを恐れない奴はいねぇよ……」


「お前は海洋最強の存在だろう…」


「違うな、俺は海洋最強の『男』だ。海洋最強の生命体は…流石に向こうに譲るぜ、実際俺…昔アイツとやりあって負けてるし」


「なっ!?」


嘘だろ…海の上でジャックがやりあって負けてんのかよ。何がどうなったら…もしかして。


「それ、海洋魔術を手に入れる前の話だろ…?」


「いいや、海洋魔術は手に入れてたし…実力も今とさして変わらない。ヴェーラやティモンを動員して当時の船の戦力全部使って…俺ぁアイツに負けてんのさ、この俺が海の上でやりあって負けたのはアイツだけだよ」


「マジかよ…」


ジャックのその様子は、当時のことを思い出すように…痛々しく、そしてか弱かった。一体どれほどの力の差を味わったのか、一体どんな負け方をしたのか、聞いたわけじゃないが…何となくわかる。手酷く負けて二度と手を出さないと誓った…そんな感じだろう。


「そん時の船も沈められて、船員達もすげぇ数死んで…、命からがら逃げ延びたが俺とヴェーラとティモン以外全員海賊をやめちまった。海の真の恐ろしさを知った人間はもう二度と海には出られない…アイツは海賊の夢を喰い殺す最悪の化け物だよ」


「ッ……」


「悪いなアマロ、俺ぁ逃げるぜ。ラグナ…直ぐに船に戻って出航の準備だ、メグ 全員集めて船に乗れ、今ならまだ逃げられるかもしれない。魔獣は数が多い方を狙うからな」


そう言いながら立ち上がるジャックは、レッドランペイジと戦う素ぶりすら見せない。今ならまだ間に合うと言うのは…本当だろう。逃げるだけなら…今ならまだ間に合う、けど。


「おいジャック!そりゃあねぇだろ!俺の船は…ブルーホールはどうなる!」


「諦めろよアマロ、航海してりゃこう言うこともある。海ってのはいつだって唐突に牙を剥く…お前だって知ってるだろ」


「ここには数千人規模の海賊がいるんだぞ!海賊だけじゃねぇ!働き口を求めて海に出てきただけの奴も大勢いる!ここがなくなりゃその海賊や乗組員は全員死ぬ!他の海賊達だってもうこの海でやっていけなくなるんだぞ!」


そこに激昂するのはアマロだ、重そうな体を起き上がらせ立ち上がりジャックの前に立ちふさがる。ここは海賊の楽園…既に数千人近い人間がここにいる、他にも物を売ってる商人や働き口を求めてやってきただけの奴もいる。


見捨てれば、逃げれば、そいつらが全員死ぬ…。しかしジャックは。


「だから諦めろよ、そいつらだって海でやっていくって決めた日から、いつか海の藻屑になる覚悟はしてるだろ。ここがなくなりゃ…また誰かが似たようなことを始める。成るように成るさ」


「お前が及び腰になって何逃げ出そうとしてんだ!テメェは最強の海賊だろうが!お前が怯えていいわけがねぇだろうが!」


「ンなもん、勝手に他の奴らが呼んでるだけだろうが!勝手に人のこと崇めるなよ!俺ぁ神でも魔女でもねぇんだよ!!」


アマロを手で払いのければ、アマロは弱々しく尻餅をつく。そんなアマロを心配して美女達が駆け寄り…怯えた目で俺やジャックを見つめる。


「…ここにはなジャック、奴隷商船から解放された奴もいる。望まずして海に追い出された奴もいる…ここにいる女達だってそうだ、そいつらにも、お前は覚悟を問うのか…!」


「海ってのは、そう言う場所だろ。誰だっていつだって死ぬ時は死ぬのが海って場所さ」


「お前…見損なったぞ…!」


「認められるような奴じゃないだろ、海賊ってのはよ」


無慈悲にもアマロの言葉をすり抜けるように部屋の扉を開くジャックは、そこで立ち止まる。


…ジャックの言わんとすることは分かる、あのジャックが海の上でやって勝てないんじゃきっと誰がやっても勝てない。勝てないなら、無謀なら、最初から挑むことなく危険を避ける。


指揮官としては正しい判断だ、手を叩いて賞賛しよう。


……だがな。


「ラグナ、何してんだ。早く行くぞ」


「………それは、船長の命令か?」


振り向くことなく俺に強い口調で命令するジャックに問う、それは船長の命令か…と。


「当然だ」


そう答えるジャックの背中を見据えながら…俺は静かに息を吸う、確かにお前の判断は正しいよジャック、部下を生かす指揮官としては正しい…だが、だが…!!


「今のお前は、船長にゃ見えねぇよ。尻尾巻いて逃げる臆病者があの船の船長なのか?」


「…アア?」


ギロリとジャックがこちらを向く、臆病者だよジャック。今のお前の姿は理知的で冷静な船長じゃなく、怖い物を遠ざけようとする臆病者なんだよ。それは船長とは呼ばない…。


「お前、何が言いたいんだ」


「お前の言う冒険ってのはそんなもんなのかよって言いたいのさ。お前は海を乗り越え海に勝利し栄光を掴むことを望んでいるんだよな?…なのにいざ怖いものが目の前に現れたら尻尾巻いて逃げるのかよ…、テメェの夢はその程度なのかよ!」


「何を…!」


「海で死ぬ覚悟は誰もが決めてる?その覚悟が一番出来てねぇのはジャック!お前じゃないのか!何ブルって逃げ出そうとしてんだ!」


「テメェは分かってねぇんだよ、あいつの強さを…!」


するとジャックは戻ってきて俺の胸ぐらを掴み上げ牙を剥くように叫び散らす。


「アイツは不死身だ!何をやっても死なない!」


「…………」


「一撃で人を殺す毒を振りまく!」


「…………」


「身じろぎするだけで波が起こり軽く動いただけで船が沈む!」


「…………」


「人間を一匹も逃がさない!絶対に死なないこの海最強の生物がアイツなんだよ!それをこの間海に出たばっかりの青二才が吐かしてんじゃねぇぞ!」


「……それで」


「ああ?」


喚き散らす、鳴き散らす、そりゃあ大層な事だ。ジャックはレッドランペイジの怖いところをたくさん知っているようだ…。けど…それで?


「それで終わりか?諦めて逃げる理由はそれだけか?」


「な……」


「お前自身の覚悟を折る理由はそれだけかって聞いてんだよ!」


逆につかみ返す、ジャックの胸ぐらを掴み上げ吠える。危険なのは百も承知だよ、怖いのは俺も同じだよ、けどな…けど。それでも引けない理由があるなら引くな。


「ジャック、俺は仲間を守りたい。大切な友達が今レッドランペイジに傷つけられて追いやられている。…そいつを俺はぶっ飛ばしに行く」


「レッドランペイジに…勝つつもりか」


「ああ、その為なら…死んだって本望だ。お前はどうなんだ?ジャック…お前は海賊として、その矜持を貫く気はないか」


俺の力は仲間を守るためにある、その仲間が傷つけられた今もなお脅かされているなら俺は戦う。その果てに死ぬ覚悟は既に決まっている。けど…ジャック、お前の語る海の覚悟はどうなんだ?


「海で生きてりゃ死ぬこともある、俺もそう思うよ。けどさジャック…お前はどっちなんだ?逃げて死ぬ覚悟と意地貫いて死ぬ覚悟…どっちの覚悟を決めてんだ?」


「…………」


「まぁこうは言うけどさ、俺は誰も死なせる気はしないし誰も死なないぜ?だって勝つのは俺だからな」


ニッと歯を見せ笑いながらジャックを引き剥がし、メグと向き直る。時間が惜しい、みんなが危ないならすぐにでも行かないと。


「行こうかメグさん」


「え、ええ…ですがよかったんですか?ジャック様は」


「……言いたいことは言った、俺もジャックも覚悟は決まってるしな?」


そう肩越しにジャックを見ると、難しい顔をしてる。アイツもあんな顔するんだな…いい顔が見れた。


「ラグナ、分かってんのか。レッドランペイジに立ち向かうなんて…嵐に喧嘩売るようなもんだぞ」


「結構なことじゃねぇか、笑って行こうぜ?船長は嵐の中で笑うもん…だろ?」


「ッ……!」


「さぁ行こう!メグ!」


「はい!『時界門』!」


ジャックの覚悟が決まらないならついてこなくてもいい、ただ言いたいことは言えた。あとはジャック次第だと俺はメグの開いた時界門に身を投じ、この海最悪の伝説に喧嘩を売りに行く。


………………………………………………………………


「アマルト!もっと近づけないか!」


「無茶言うなよ!俺ぁエリスみたいに自由自在に飛べるわけじゃ…っ!来るぞ!」


「チィッ!」


ブルーホールを眼前に捉える海の只中で繰り広げられる攻防戦。突如として出現したレッドランペイジとそれに率いられる魔獣の群れは海を生きる者達の楽園たるブルーホールに狙いを定め攻撃を仕掛けてきた。


それ阻止するため戦ったエリスは戦闘不能、こちら側の切り札たるラグナとジャックが到着するまでそれじゃあみんなで隠れて待ってよう…なんてわけにもいかない魔女の弟子達は皆で揃ってレッドランペイジに攻撃を仕掛けていた。


「だぁぁあ!クソ!弾幕が濃い!」


「くっ!なんて数の魔獣だ!果てがないのか!?」


大空を飛ぶは怪鳥へと変身したアマルト、その背に乗って銃を乱射しレッドランペイジへ攻撃を仕掛けるメルク、そのコンビで先程からレッドランペイジに向け爆撃を仕掛けているのだがこれがまるで効果がない。


体皮が恐ろしく硬いのだ。銃弾なんか当然の如く通さないし…何より近づきすぎると体内にて飼育した魔獣による大攻撃が始まるのだ。今も迂闊に射程に入ったばかりにエクスプローシヴレモラの一斉掃射から逃げ回るので精一杯。


「回避は任せたぞアマルト!燃えろ魔力よ、焼けろ虚空よ 焼べよその身を、煌めく光芒は我が怒りの具現、群れを成し大義を為すは叡智の結晶!、駆け抜けろ!『錬成・烽魔連閃弾』!!」


「あいよ!」


次々と飛んでくる生体ミサイルのようなエクスプローシヴレモラの回避を怪鳥アマルトに任せたメルクリウスは、その場で両銃を輝かせ無数の焔蜂を錬成し一斉にレッドランペイジへと降り注がせる。


その数をして五十や六十じゃ効かない全力の広範囲爆撃、動きのトロいレッドランペイジには避ける術など無く無防備に平地の如き頭に直撃しもうもうと黒煙をあげる…が。


「チッ、これだけやっても無傷だと…!?」


「なんかおかしいぜメルク!こりゃなんかタネがある!」


「同感だ!だがそのタネを解き明かすには情報があまりに足りん…!」


無傷なのだ、エリスの火雷招を食らっても無傷でメルクリウスの錬金術を受けても無傷、こんな硬い存在がいるはずがない。何か奴が傷つかないタネがあるはずなのだがそれを察するにはあまりに情報が足りない。


歯噛みする思いで、それでも何かのきっかけを掴むように二人はレッドランペイジの周囲を旋回して引き続き爆撃を続ける。





「ネレイドさん!準備出来ました!」


「ん、ありがと…」


一方ブルーホールに残ったネレイドとナリアも攻撃の手配を整える。エリスのように飛べるわけでもなくラグナのように水上活動が出来るわけでもない者達はそもそもレッドランペイジに対する攻撃手段が限られる。


特に射程距離の短い二人が試行錯誤して用意した攻撃方法が。


「んしょ…じゃあやるよ」


「すげぇ…あのシスター、柱を肩で担いでるぞ」


周囲の海賊達が思わず口を破る。ネレイドが用意した攻撃手段とは…使わなくなった船のマストを成形し槍のように尖らせた巨大な柱だ。それにナリアが無数の『爆撃陣』などの攻撃用魔術陣を書き込んだ代物。


それを軽々と担いだネレイドは、一歩…二歩と緩やかに助走をつけると…。


「ふっっっ!!!」


投げた、オライオンのスポーツにもある投槍の要領で魔術陣が書き込まれた柱を投げ飛ばせば、それは砲弾以上の速度で空を飛び、海を割りながら一直線にレッドランペイジの眉間に衝突し。


「『爆撃陣』ッッ!!」


炸裂する、複数の魔術陣が一気に炸裂するその衝撃はエリスの火雷招にもまさる威力だ、ましてやネレイドの投槍の威力も加えたその攻撃の鋭さはレッドランペイジの体を揺るがし…。


「……ダメか!」


「うう、あれ以上出来ないってくらい書き込んだのに…!?」


やはり、爆煙が過ぎ去った後には傷一つないレッドランペイジが変わらず存在しており、ゆっくりゆっくり波を起こしながらブルーホールに迫ってくるんだ。


魔女の弟子が四人、連携攻撃を仕掛けてもその進行を止めることさえできない。はっきり言って強すぎる…これがオーバーAランクの猛威か、冷や汗と共に弟子達の脳裏に浮かぶ。


「もう一回、なんでもいい!みんなも投げ飛ばせそうなもの持ってきて!」


「あ、アイアイ!」


「俺達も大砲で援護だ!どこまで効くか分からないが突っ立ってボーッとしてたてんじゃ海賊の名が廃らぁ!」




そんな弟子達と海賊達の一斉攻撃の大騒ぎの中、動かない弟子が一人…いや二人。


「エリスちゃん…!」


「……ぅぅ…」


デティとエリスだ、先程の攻撃と共に毒を受けたエリスは力なくぐったりと倒れ伏し先程から動かない。既に治癒は終えて毒の治療は終わっているのに目が覚めないんだ。


「どう言うことだ、何故エリスは目を覚まさないんだろう」


そうヴェーラがエリスの看病をしながら小さく呟く、治癒は終えているのは確かだ。しかし、意識を取り戻さないのなら何か要因があるのか…すると。


「ううん、毒の治療自体は終わってる、傷ももちろんね。でも毒の影響自体はまだ残ってるんだと思う」


「ほう、流石だねデティ…君は医学の知識があるのかい?」


「一応ね」


デティにはエリスが目を覚まさない理由に検討が付いていた。毒の影響で魔力が乱されまくってる、毒そのものに魔力を乱す効果があったのだと思われる。


通常、自然界にそんな毒はない。魔力を乱し意識回復を阻害するなんてのはそれこそポーションでも調合しないと出来ない芸当だ。だが…この毒は魔獣レッドランペイジのものだ、普通のものではない。


(そもそも自然界には天敵足り得る特定の生物に対して有効な毒を持つ植物がいると言う。カプサイシンやカフェインなんかも本来はその類い、虫や哺乳類などから身を守るために虫や哺乳類に対して有効な毒を保有したんだ、なら…)


ならば、魔獣が毒を持つならどんな毒を持つ?そりゃ決まって人間に対して有効な毒だ。人間を効率よく殺すためだけの毒…そんな悪夢みたいな毒性物質を体内で作り出していてもなんら不思議はない。


「エリスちゃん、目を覚まして…」


対人毒は治した、後は毒の効果で乱れきった魔力が戻れば意識が戻るはず。今のエリスは謂わば魔力が乱気流のように乱れ意識障害を起こし昏倒しているに等しい。ならば時間経過で治るはずなんだが…。


果たして、その時間が来るまでブルーホールが無事であるかは怪しいところだ。


『な、なんだ!レッドランペイジが動き出したぞ!』


「ッ…!」


その声に反応して海の方角を見れば、レッドランペイジの様子がおかしい。今まで見せた動きとは違う動きをしている。具体的に言うなれば…まるでカーペットをめくるように自身の前部分を持ち上げその奥に見える巨大な口をこちらに向けているのだ。


何をするつもりか分からない、だが攻撃であることは間違いないだろう。


「ヴェーラさん」


「なんだい?」


「エリスちゃんの汗を拭ってあげてください、もし容体に変化があれば声で知らせて、私ちょっと行ってきます!」


「あ!デティ…」


駆け出し野次馬を跳ね除け走り出す。今ブルーホールには多くの人がいる、仲間がいる、動けないエリスちゃんがいる。今ここを沈められるわけにはいかない!何が何でも!!


『ォォォオォォォオオオオオオオ……』


まるで、蒸気船の汽笛のような重音が響き渡り、体を持ち上げたレッドランペイジの背部が大きく膨らんだかと思えば、次の瞬間……。


『うぉっ!ヤベェ!メルク!』


『くっ!ブルーホールに攻撃を!?』


放たれた、レッドランペイジの巨大な口から…水流が。高密度で噴射される横に落ちる滝…とでも表現する方が正しいであろう大瀑布、その規模はエリスの放つ古式魔術の数十倍、威力に至っては海の形をただの余波で湾曲させ歪める程。


ブルーホールに当たれば跡形もなく吹き飛ぶ、ブラストフィッシュの水大砲の要領で放たれる水極大砲、それは音を超える勢いで一気に皆のいるブルーホールに迫り…。


「『ダイヤモンドフォートレス』ッッ!!」


阻むのは光の壁、ブルーホール全域を覆うような巨大な魔力防壁が突如として出現し極大水流を弾き散らしていく。


現代結界魔術に於ける最高峰、ダイヤモンドフォーレトス。通常人間によって生み出される魔力防壁よりも数段強力かつ濃度の高いそれを誰でも生み出せるようになると言うコンセプトで作り出されながら、そのあまりの取得難易度と必要魔力量からこの魔術が世に出されて以降両手の指で数えられる程度しか使い手がいなかったとされる極大魔術を…デティが放ったのだ。


「デティ…!」


「ぐっ…ミスった、アブソリュートミゼラブルで防げば良かった…!」


ネレイドは咄嗟に足元を見る、そこには両手を広げ光を放ち真っ向からレッドランペイジの攻撃を受け止める結界魔術を放つデティの姿が。元より回復性能防御性能では他の追随を許さないデティが…冷や汗をかきながら苦しそうに奥歯を噛むその姿は、まだ危機が去っていないことを直感させる。


「大丈夫…!?」


「大丈夫!」


とは言うが、既にデティが繰り出した最初のダイヤモンドフォートレスは破砕している。今水流を防いでいるのはその後さらに展開した分だ。普通は単発でしか使わない極大魔術をガンガン投入してようやく拮抗させられているのが現状。


こんなことなら最初からアブソリュートミゼラブルで防げば…。いやアブソリュートミゼラブルだけじゃブルーホールをカバーし切れない。それだけ奴の放つ水流の規模が大きすぎるんだ。


「我慢比べ…だね…ッ!!負けないぞ〜…!!」


歯を食いしばり過ぎて口の端から一筋の血が垂れる。一瞬でも気を抜けばそのまま弾き飛ばされそうな程の勢いをその小さな両手だけで受け止めて堪える。奴の攻撃だって無尽蔵じゃないはず。


それだけを信じて、ただひたすらに耐え…。


「ぐっ…!」


デティが膝をつくと同時に、水流が消える。どうやらレッドランペイジの方が先に根をあげたようだ…。


「デティ!大丈夫…?しっかり…」


「らいひょ〜ふ…けど、ちょっと休憩させへ…、次の攻撃が来るまでに…また魔力と体力を回復させないとだから、治癒魔術…使う」


ぐったりと脱力しながらも直ぐに自分で古式治癒を行い再起動を試みているデティを見て…ネレイドは思う。そうだ、今のは凌いだが所詮はただ『一撃』。レッドランペイジからすれば今の攻撃なんて大した労力もなく何度も撃てる。


だがデティはどうだ、後何度耐えられる…?


「くっ…」


歯噛みしながらレッドランペイジを見遣る、忌々しい、あそこが陸地なら私も戦えるのに…そう、思いながらレッドランペイジを見ると、ネレイドは一つの違和感に気がつく。


(あれ…?レッドランペイジ、なんか…小さくなってる?)


以前として大きい、レッドランペイジが大きいことに変わりはない。だが…さっきよりも少しだけ小さくなっているような気がするんだ。これが何を意味するのか…全く分からないが、きっと何か意味があるような気が…


『オォォォォォォォォォォォオォ……』


「っ…耳痛い…」


いきなりレッドランペイジが吠える。まるで先程の攻撃を防がれたことに対して怒りを覚えるように身を震わせ体の芯まで響くような声で海を揺らす。


怒りだ、怒り。自身の中に滾る感情を制御出来ずレッドランペイジが暴れ出した。


これがデティなら『ムキィー!ムカつくぜー!』って言いながら地団駄を踏むだけで終わるのだが…そこは島ほどもあるサイズのレッドランペイジ、ただ怒りに身を任せて動き回るだけでもう災害級だ。


『こ、こいつ矢鱈に尻尾を!』


『触れるなよアマルト!触れたら死ぬぞ!』


『わかってるけどさぁ!こいつ尻尾長過ぎなんだよ!肝冷える〜〜!!』


無茶苦茶に振り回される十本の尻尾、それが周囲を飛び回るアマルトとメルクに襲いかかる。それが意図してから意図しない物かは不明だがそれでも脅威であることに変わりはない。


冷や汗を流しながら鳥へ変身したアマルトが必死に羽を動かし。空を滑るように毒の触手から逃げ回る…が、あまりにも範囲が広すぎる。


「ごめんメルク、逃げ切れないかも」


「案ずるな、なんとかする!」


迫る触手、それを目に収めた一つ…拳を握る。あの触手もまた凄まじい硬度を誇るのだろう、普通にやっては破壊も防御も不可能。だが、いくら硬くとも関係ない。


「フォーム・ニグレド…!」


拳にだけ、ニグレドの絶対破壊の力を顕現させ漆黒の煙を纏わせると共に…こちらめがけ振り下ろされる触手に腕を向け、開く。


「『破壊せよ』ッ!!」


「おお!?すげぇ!メルクすげぇ!」


衝撃波として放った漆黒の光は触手に激突すると共に弾け、一瞬にして触手の一部を腐敗させ塵へと変え、レッドランペイジの触手を見事両断することに成功する。


規模があまりにも広大過ぎて一撃で消し去ることは出来なかったが…、それでも奴の一撃を防ぐ事が出来た。いやそれ以上に有効打を見つけられた事が大きい。


いくら硬くともニグレドの力でなら破壊できる、破壊出来るなら倒せる、そんな確信を得るメルクリウス…だが。


「…ッ!!メルク!様子がおかしい!」


「なっ!?嘘だろう…!?」


刹那、アマルトが切れた触手の間を通過し終えた瞬間。切れた触手の端からウネウネと肉が生え瞬く間に再生してしまった。特筆すべきはその驚異の再生速度、傷ついた瞬間から再生を始め、傷口から伸びた肉が切り落とされた触手をキャッチし元どおりに戻してしまうほどに早いのだ。


異常なまでの再生速度、デビルコーラルやその他再生能力持ちの魔獣全てが可愛く見えるほどの再生の速さ。これは最早再生というより『補完』だ、無くなった部分が即座に補充され元に戻るよう…そうだ、まるで『海を殴りつけた時に直ぐに別の水が押し寄せ元に戻るように』。


「おいおい…こんなの倒せんのかよ…!」


「ッ………!」


メルクリウスも思わず呆然とする、手下の魔獣を用いた圧倒的な面攻撃、喰らえばほぼ即死の毒を持った巨大な十本の尻尾、そしてあの再生速度…こんなもの。手のつけようがない。


『ォォオォォオオオォォオオオオオ…………!!』


再び汽笛の如き咆哮が大海に響き渡り、レッドランペイジは尻尾を振り回す速度を上げ、周囲の有象無象を蹴散らすように船目掛け振り下ろす。


『う、うわぁぁぁぁあああ!?!?』


「しまった!海賊達が!」


メルクリウス達を援護するため大砲を撃っていた海賊船に尻尾が叩きつけられ一撃で船体が真っ二つに折れ沈んでいく。それを超高速で行うのだから最早止めようがない、アリでも踏み潰すように次々と沈められていく船…。


(どうすればいいんだ、倒すどころか…我々にはコイツを止めることさえ出来ん…!)


攻撃を仕掛けてもレッドランペイジは止まらない、どれだけ強力な攻撃をしてもあの再生速度で全て元どおり、攻撃は中断されることなく続行されるだろう。


(沈められる…このままじゃ、全員海の底へ沈められる…!)


そんな絶望感がその場の全員に共有される…それ程の威容を、目の前の紅の悪魔が示し続ける。


津波よりも、大嵐よりも、如何なる病魔や事故よりも、恐ろしいと言われるこの海最大の厄災…波濤の赤影。それを前に人類はなす術もない…そう諦めかけた、その時だった。


『メグ!!沈められた人達を救助して陸地へ!』


「ッ…!この声は!」


微かに灯る希望の光、聞くだけで安堵できるこの勇ましい声は。そうメルクとアマルトが視線を向けるのはブルーホールの方角、白波をあげ海を割りながら飛んでくるもう一つの赤い影。


あれは…!


「ラグナ!」


「遅えぞラグナー!」


ラグナだ!魔女の弟子最強の男が、今…この海最大の脅威へと立ち向かうべく、海の上を疾走していた。


良かった、ラグナが来てくれたならもう安心だ。


…………………………………………………………


俺がメグの時界門を通じてブルーホールの外縁に着いた時は…既に状況は最悪極まる物だった。


無数の船が砲火を上げ、海賊達が慌てて砲弾を調達し、ネレイドとナリアが二人で投擲を行い、アマルトとメルクさんが一緒に空を駆け、ガックリとうなだれ力尽きたデティが座り込み…エリスが、倒れていた。


その場にいる全員が、ただ一つの存在を恐れその存在を追い払うために動き、そして傷ついていた…。


聞くまでもない、今目の前にいる超巨大な怪物こそ…ジャックの言うこの海最強の存在レッドランペイジなんだろう。


なぁジャック、あいつに挑むのは嵐に喧嘩を売るようなもの?…何言ってんだよ。


あいつはもう既にこっちに喧嘩ふっかけて来てんだろ!仲間が既に傷つけられてんだろ!それをおめおめ尻尾巻いて逃げ帰れるかよ!


「テメェ!俺の不在に何好き勝手やらかしてくれてんだ!生きて帰れると思うなよッッ!!」


海の上を全力で走りながらレッドランペイジに向け突っ込む。既に船を沈められた者達の救助はメグさんに頼んである。俺はアマロの所から一気にここまで時界門で飛んできた…ってことはつまり、デティの推測は当たっていてピクシスがいない場所でなら時界門は自由に使えるということ。


時界門が自由に使えるなら今の彼女は万全だ!それより今の俺の相手は…。


「メルクさん!アマルト!一旦引いてくれ!」


『援護は必要ないか!?』


空を飛ぶ二人に声を飛ばす、援護は必要か…といえばまぁあった方がいいんだろうが、…でも今は。


「必要ない!全力で暴れたい!」


『ぜ、全力で…分かった!退くぞアマルト!』


『ああ!?気をつけろラグナ!そいつすげぇ強え!色んな能力を持ってて…』


「関係ねぇっ!」


飛ぶ、全力で海面を蹴り高く飛翔すると共に拳を握る。魔力ごと握り締め圧縮し作り出すのは擬似魔力覚醒。それを掴むように持ったまま俺は動くことなく虚空を見据えるレッドランペイジの眉間目掛け飛び…。


「俺の仲間につけてくれた傷を!百倍にして返すだけだ!!!」


許さない、俺の大切な友達を…仲間を!傷つけたコイツを俺は生きて返さない!普段人間を殺さないようかけている最低限のリミッターを外し、放つのは全力の…!


「『熱拳一発』ッ!!!」


『ォォォォォ……』


まるで、爆裂する雷管の如き勢いで放たれる紅の拳、全力の助走から繰り出される全力の飛翔、それを乗せた全身全霊の一撃。それはレッドランペイジの眉間に激突すると共に光を放ち…。


レッドランペイジの体に異変が起こる、内部に紅の光が迸りそれによりまるで沸騰した水のようにボコボコと体が隆起する。それはレッドランペイジの広大な体を一直線に駆け抜け…。


『ォォォオオオ……!!!』


背部に突き抜け破裂した。ラグナの拳がレッドランペイジの眉間から尻尾の付け根にまで続く大穴を作り出し衝撃波が貫通し更に背後の海まで割る。崩したのだ…あのレッドランペイジの体を。


『い、一撃で殺したぁーー!?!?』


『なんつー強さだあの赤毛のにーちゃん!?砲弾でもビクともしなかったのに!』


全身全霊の熱拳一発、通常人間に対して使わない威力のそれを叩きつければあのレッドランペイジでさえ耐えきることが出来ず一撃で爆発四散したのだ。それを見たブルーホールの海賊達は頭抱えて絶叫しながら狂喜し…。


『ラグナ!気ぃつけろ!そいつはその程度じゃ死なない!』


「え!?」


しかし、アマルトの言葉通り間違いなく絶命してもおかしくないレベルの傷を負った筈のレッドランペイジの体がみるみるうちに治っていく。まるで弾けた海のように押し広げられた穴が縮んで行き肉が引っ付きあっという間に無傷の状態に早変わり。


なんだコイツ、不死身か!?


『ォォォォォォォオオオオオオオ!!!!』


「ぐっ!?声デッカ!?」


そしてレッドランペイジは再び動き出す、ブルーホールよりも先に排除すべき存在としてラグナを認識し、その攻撃対象を移す。


空間を振動させる大咆哮に思わずラグナも耳を塞ぐ、その隙を見逃さずレッドランペイジは全身の肉をシールのようにペリペリと剥がし、中から大量のエクスプローシヴレモラが顔を出し…。


「やべっ…!?」


レッドランペイジの目の前にいたラグナには回避する術がない、それほどまでに速く…そして凄まじい勢いでエクスプローシヴレモラを射出したレッドランペイジの一斉掃射に海ごとラグナの体が吹き飛ばされる。


「ぐぅっ!?なんつー破壊力…!」


一発二発ならまだしも十発二十発とセットで爆裂されたら流石の俺も痛い。上着は容易く焼け焦げ体から黒煙を放ちつつ海上で受け身を取り再び沈まないよう走り出す。


しかしなんだ、今の妙な感触。レッドランペイジを殴りつけた時に感じたあの不気味な心地。今でも手に残っている…奴の肉体を殴った時、その時感じた変な感じが引っかかってしょうがない。


『ォォォオオオ…!』


「チッ!」


しかし考える暇も与えられず、レッドランペイジはその十本の尻尾を巧みに操り俺に向けて振り回す、長さも速度も範囲も全て規格外、全力で飛翔してようやく攻撃範囲から逃れられるかどうかというレベルだ。


「面倒クセェ…こうなったらその尻尾全部引きちぎって…!」


そう俺が尻尾を受け止める姿勢に入った瞬間、再び声が飛んでくる。


『ラグナ!そいつの尻尾には毒があるぞ!エリスもそれを受けて動けなくなった!』


「ああくそ!そっか!アカエイだから尾に毒が…!」


失念していた、鳥型の魔獣が空を飛べるように、魚型の魔獣が海を泳げるように、モデルとなった動物の特性を引き継いでいる魔獣は多く存在する。それはこのレッドランペイジも一緒なんだ。


その事をメルクさんの言葉で思い出した俺は、咄嗟に防御ではなく…頭上に向けて拳を放つ。


「ッッーーー」


その拳の風圧を利用し一気に急降下、一気に海中への潜水を果たせば先程まで俺がいた空間に無数の尻尾が殺到し空を切る。危ねぇ…毒か、衝撃は避けられても毒は避けられねぇ。


っとと、あんまり長い事海中にいるのも危険だな。相手は魚なんだ、海の中じゃ勝ち目がねぇ…!


(しかしとんでもねぇ強さだなレッドランペイジ。コイツ…どうやっても倒せば止まるんだ)


あのジャックが海上で負けたというのも頷ける強さとタフさだ、何度かやってりゃあの再生も無くなるかな、それともやり方を変えなきゃ傷がつかないタイプか?情報が少なすぎて…。


(…ん?)


なんか、なんだ?俺…流されてないか?おかしいな、水の中を遊泳する俺の体が流される…というよりグイグイ引っ張られる、前ヘ前ヘ…レッドランペイジの方へ。


(って!?アイツ!水ごと俺を吸い込んでるのか!?)


見ればレッドランペイジの下に開いた巨大な亀裂の如き口が大きく開かれ物凄い勢いで水を吸い込んでいるんだ。当然俺だけではなく周りの魔獣達も吸い込まれて奴の体の中へ消えていく。


ああやって魔獣を装弾してたのか…じゃなくて!やばいやばい死ぬ!流石に食われたら死ぬ!


(この!なめんじゃねぇぞッ!!)


全力でその場でバタ足を繰り出し水面へと浮上、水を突き破り空中に躍り出て吸い込みを回避すると共に…再び俺はレッドランペイジに向き直り。


攻撃を仕掛けようとした瞬間、止まる。レッドランペイジの姿を目にして、止まる。その異様な姿を目して。


「うっそ…なにそれ…」


俺が目にしたのは…巨大な水球、頭部がまるで水風船のように膨らみ青色に変色したレッドランペイジの姿。こいつ飲み込んだ海水をそのまま体内に蓄えて…あ。


もしかして、さっきの吸い込みって、それそのものが攻撃行動じゃなくて…ただの『モーション』。攻撃の前の…前兆でしかなかったのか…!?


「────────ッ」


脳裏を過る最悪の答え、最悪の予想、それは俺の意志に反して現実のものとなる。


まるで風船のように膨らんだレッドランペイジの頭部に、ほんの小さな穴が開く。サイズにして一軒家程の大きさの穴…、当然水がパンパンに詰まった頭部に穴が開けば、なにが起こるかは必定。


元に戻ろうとするレッドランペイジの肉体が元来より持つ弾力性と水そのものが持つ水圧、この二つが合わさり放たれる…超自然の一撃。


もしあれに名前があるのなら、こう呼ぶのが適切であろう。


その名も『アブレシブジェットキャノン』と…。


「ぅぐぅっッッ────ッ!?!?」


この世に存在する物質の中で、最も切断に特化した物質とは何か?鉄?鋼?金剛石?どれも違う。


この世で最も破壊、そして切断に特化した物質こそが…『水』である。


レッドランペイジによって放たれた水砲弾は取り込んだ膨大な水量からなる水圧とレッドランペイジの風船のような体が元に戻ろうとする弾力性によって勢いを得ている。その勢いは音速を超えるほどでありこの時点で大体の物は破壊出来るだろう。


だがここからが水という物質の本領を発揮する瞬間である。知ってから知らずかレッドランペイジが今行なっている手法は未だこの世界のこの時代に存在しない『この世で最も強力な切断法』に似ている。


それこそがアブレシブジェット、吸い込んだ魔獣を噛み砕き肉と骨を細かくした上で水噴射に乗せる。するとそれらは研磨剤の役割を果たしただの水を刃に変える。


時に鉄やダイアモンドの切断に用いられると言われるそれを、この世で最も強力な切断を、レッドランペイジはその果てしない肉体と凶暴極まる本能により実現させ…たった一人の男に向けて解き放ったのだ。


「ぐぁぁっ…!?」


叩きつけられる、海面に。その上でもなお止まらない水噴射は海を切断しラグナを吹き飛ばし続ける。加え続けられる圧倒的な破壊の奔流、あらゆる物質を流し去る水の刃、その最中にあって腕をクロスさせ必死に魔力防御を保とうとするが…この破壊力の前では紙切れ同然。


執拗に続けられる水放射、轟音と共に海を割り続けるレッドランペイジの必殺の一撃。それはラグナが完全に破壊されるまで続き───。



……否。


『ォォォオオオ……!?』


刹那、水放射を続けていたレッドランペイジの体が中頃からへし折れ破裂し、水風船と化した体が爆発四散し海水を雨のように撒き散らす。


『へ……?』


周囲の海賊も思わず目を丸くする、先程まで猛威を振るっていたレッドランペイジがいきなり爆発したのだから当然だ。もしかして水を蓄えすぎて自滅したか?…とも思ったが…違う。


破裂したのではない、破裂させられたのだ。


誰に?決まっている。


「プハッァ!死ぬかと思った…!」


水から這い出てくる血まみれのラグナがゼェゼェと必死に呼吸を繰り返す。その身からは揺らぐような炎が沸き立っており……。


使ったんだ、魔力覚醒『拳神一如之極意』を。自身を中心とした全ての事象の流れを操るこの魔力覚醒を使えばどれほど強力な水噴射でも、それが水流であるならば捻じ曲げ逆に相手に返すことが出来る。


咄嗟の事で反応が遅れ少し食らってしまったが…、でもキチンと返して下からブチ抜いてやった。


「危なかった…今のはマジで死ぬとこだった」


全身から魔力を滾らせ、滴る血を振り払い…もう一度レッドランペイジへ目を向けると、…嗚呼、やっぱりというかなんというか。治り始めてる。


『嘘だろ!木っ端微塵に吹き飛ばしても蘇るのかよ!』


『これ以上ないくらい吹き飛ばしたのに、肉体が元に戻りつつある…あんなのどうしたら…』


「面倒クセェ…どうすりゃいいんだこれ」


弾け飛んだ残骸が再び動き出し肉体が再生していく。体に風穴開けて爆発させてカケラしか残ってない状態にまで持って行ったのに平然と蘇って動き始めやがる。


アイツにゃ体力って概念がないのか?マジの自然災害か何かなのか?もうこうなったら跡形もなく吹き飛ばすしかないが…流石に島一つ跡形もなく消しとばす手段は現状存在しない。


つまり、無理なのか?ジャックの言った通り…レッドランペイジに勝つのは、不可能なのか?


『ォォォオォォオオ……』


「へっ、諦めてたまるかよ。ドタマに来てんのはこっちも同じなんだ!テメェが沈まねぇなら沈むまで殴り飛ばしてやるッッ!!」


あっという間に元に戻ったレッドランペイジが再び尻尾を振るい体内の魔獣による一斉掃射を繰り広げ、俺に対する過剰攻撃を行う。最早災害と見紛う程の大激突が再び海上が繰り広げられる。


「死に去らせッッ!!『風天 終壊烈神拳』!!」


魔力覚醒を解放したラグナの拳が天を引き裂く風圧を作り出し、触れる事なくレッドランペイジの半身を削り取る。しかしそんな事御構い無しに動き続けるレッドランペイジは肉体を再生させながらも変形させ、その身に無数の口を作り出し…。


「うぉっ!?噛み付いてきた!?」


その無数の口を飛ばしラグナを喰らおうと次々食ってかかる。よく見ればその口はサメと同じ形状をしており、どうやら取り込んだ魔獣の力もこいつは自在に操れるようだ。


ギラリと輝く牙を秘めた口は海の上を疾走するラグナを捕まえようと海水ごとバクバクと暴食の限りを尽くす。そいつを手で弾きながら疾駆するラグナと狙い続けるレッドランペイジ…すると。


今度はその口で飲み込んだ海水を体中に開いた穴からガトリングのように連射し始めたではないか。一発で船を沈めるような水弾の連射に切り替えたレッドランペイジ。相変わらず熾烈な攻めだ、だが…。


「狙いが荒いんだよ!『熱拳龍咆』ッ!」


雨のように降り注ぐ破壊の水弾の間から、両手を合わせ突き出すラグナ。それと共に放たれる魔力防壁による衝撃波がまたもレッドランペイジの前半分を大きく消しとばす…だが、全てを消しとばすには至らない。


一撃で消し去れなければレッドランペイジは直ぐに元に戻りまた行動を開始する。


レッドランペイジの攻撃はラグナに当たらない、だがラグナの攻撃は決め手にならない。


千日手…とでも呼ぼうか。互いに互い、全力を込めた攻撃を相手に叩きつけあい海が揺れ空が震える。そんな凄絶な戦いを見守るブルーホールは…。


「マジかよ、ラグナでもダメなのかよ…!」


慄いていた、アマルトは遠くで戦い続けるラグナの姿を見て本格的に焦りを感じる。はっきり言ってラグナの存在はこちら側にとっての切り札でもある。海の上で全員が戦えない以上今現在レッドランペイジと張り合える存在はラグナしかいない。


なのに、そのラグナでさえレッドランペイジを相手に魔力覚醒を用いても互角なのだ。…いや無限に再生出来る分持久戦ではレッドランペイジの方が有利だ。いくらラグナでもあんな全力で動き続けていたらいつか限界がくる。


ラグナは恐ろしく強く、無敵の力を持っている反面…時間制限があるんだ。普段は十分補給出来てる上一撃で終わる為それを意識することはないが、ラグナは常に体内に残されたエネルギーを燃焼させて戦っている。


食事という行為でしか補給出来ないエネルギー…ここ最近の船の上での生活で十分に補給出来ているとは言えない状況が続いていた。ならばラグナが全力を出していられる時間も相応に短い。その限界がきたらラグナは戦えなくなる…そうなったら、もう。


「くそッ!情けねぇ!なんで俺ここにいるんだよ!ラグナと一緒に戦いてえのに!」


「海の上を走ることができるラグナや空を飛べるエリス…この二人しかレッドランペイジとは戦えん…!情けない話だがな」


「もどかしい…!」


弟子達も見守ることしかできない、せめて陸地だったなら全員で連携できるのに…と。或いは今のラグナを助けられるのはエリスくらいなもんだがそのエリスが戦闘不能である以上もう…。


「何か、何か方法は…!」


考える、何かできることはないか考える。ラグナにだけ重荷を背負わせたくない…、だがあの場は魔女の弟子『最強』の男と海洋『最強』の生物が戦いを繰り広げているんだ。生半可な方法じゃ援護にもならない。そう弟子たちが思考を巡らせた、その時だった。


『ああ、悪い…退いてくれねぇか』


「あ?ッてぇな…何すんだよ」


声をかけると共に強引に肩を引かれその場から立ち退かされたアマルトが若干キレ気味に声の主を睨み付ける。するとアマルトを退けて海へと歩むその男の後ろを姿を見て…アマルトは。


思い至る、そういや…もう一人、この場にゃ最強の名を冠する男がいたことを。


「悪りぃな、遅刻しちまった…ちょっくら挽回してくるぜ。船員にだけ戦わせて、船長が奥に引きこもってるなんてやり方は…俺ぁ好きじゃねぇからよ」


「お前…」


それはゆっくりと海に足を下ろし、拳を掲げて…向かう。レッドランペイジとの戦いの場へと。


…………………………………………………………


「オラァッ!!!」


『ォォォオオオォォォオオオ…………』


空の向こうまで響くような咆哮と共にレッドランペイジが今日何度目かの爆裂四散を経験する。ラグナの奥義が炸裂し上半分が一撃で消し飛ぶのだ…しかし。


『ォォォォォォォォオオオ……』


「キリがねぇ…!」


ラグナが態勢を立て直し次の攻撃行動に移るまでに再生を終え反撃を繰り出してくるレッドランペイジによって二の足を踏み、一旦回避に移る。流れを操る魔力覚醒の力を使い自身を前方向に流すことにより実現する高速移動は確かにレッドランペイジの神速の尻尾にも対応出来るだけの速度だろう…だが。


彼が述べた通りキリがない。魔力覚醒を使ってようやく張り合える段階まで行ったがそれでも何度レッドランペイジを破壊しても直ぐに元に戻ってしまうんじゃ勝ちようがない。


もう既に全力で動き始めてかなりの時間が経った。半刻程全力で稼働し魔力覚醒を発動させ奥義もバンバン使う大盤振る舞い…それで互角なんだ。なのに倒しきれない、ここまで至ってようやくラグナはオーバーAランクという存在の恐ろしさを痛感している。


確かにこれは昔の魔女大国最高戦力じゃ対応出来ないだろう、力の高まってきた最近の最高戦力で漸く互角…魔女様が出なければ倒せないというのは確かにそうだ。寧ろ師範はこれと同程度の存在を一撃で消し飛ばしてたのかよ。やっぱすげぇなあの人!


『ォォォオオオオ……』


「くっ!」


尾を振るう攻撃の精度がさっきから増している。今まで闇雲に振り回していた尾が今は頭上と水中の両方から飛んでくる。目に入りやすい頭上に注意しすぎると見えない海中の攻撃に面を食らう。水中を意識しすぎると上から叩かれる。三次元的戦闘法に避けるのに精一杯だ。


まさかこいつさっきまで本調子じゃなかったのか?今まで戦闘という戦闘をやってこなかったから…戦うまでもなく敵を撃滅出来ていたから、ってことはこいつまだ全然伸び代があんのかよ。


「キシャァッ!」


「おっと!?」


刹那、いきなり横から突っ込んできたスピアーダーツを手で叩き弾き返す。そうだった!この海今大量に魔獣が…。


あ!しまった!


『ォォォォォォォォオオオ…』


「ぐぅっ!?」


突如飛んできた水砲弾、レッドランペイジが放つ的確無比な狙撃が注意を怠った俺の背中に直撃し魔力防御なんか軽く砕いて吹き飛ばす。やらかした、俺の魔力覚醒は流れを操作して回避や防御は出来るが…その操作は俺の意識で行なっている。意識が外れた不意打ちじゃ対応出来ねぇんだ。


「ぐっ、この…」


海に沈みながら急いで海面に戻ろうと腕を動かすが、腕が重い…消耗が激し過ぎる上にダメージを負いすぎた。さっきみたいに尽きない連続攻撃に晒されすぎてダメージが蓄積されすぎている。それがどうやら決壊寸前らしい…。


レッドランペイジは無限に再生する、勝つことはできない。こんな戦いを永遠に続けていたら負けるのはこっちだ。


ジャックの言った通り、勝てないのか…いや、諦めてたまるか。諦めてたまるか!折ってたまるか!この意志を!


「ぐぅぅぅぅ!!死んでも引かねぇぇぇッ!!」


意地と根性、それを燃やして海面に這い出る。今はとにかく戦うんだ…戦い続けるんだ、さもないと掴める光明も掴めない。俺がここで逃げたなら仲間がみんな死ぬのだから。


「ぜぇ…ぜぇ…」


『ォォォオォォォォオオオオ……』


そして、海面から頭を出せば見えるのは聳えるような赤の壁、レッドランペイジだ。依然として無傷で…そして変わらぬ威容に足元が寒くなる。どうすりゃいい…死んでも引かない、死んでも負けたくない、理屈は変わらないが実際問題どうするよ…こいつ。


「せめて…もうちょい情報があれば…」


今のままじゃ分からない事が多すぎる、こいつは何が出来るのか、何が出来ないのか、弱点は何か、それらの情報が一切ない。これじゃ作戦なんか立てようがない。


けど…それでも。


「ッ…まだやるよな、俺もやる気だぜ?続けようや…赤影」


『ォォオオオオオオオオオオ……!!』


一層強く吠えるレッドランペイジに向け、再び海面に立ち駆け出そうと拳を握り締めた瞬間…今までとは違う動きをレッドランペイジが見せる。


そう、具体的に言うなれば…ベロンと絨毯を捲るようにレッドランペイジが体を持ち上げ、その口を大きく開けてこちらに向けたのだ。その瞬間まるで何かのトラウマを刺激されたようにブルーホールや周りの海賊船から悲鳴が上がる。


まさか、なんかヤベェ攻撃が来るのか!?まずい!回避を…。


『───────────ッッ!!!!』


刹那、俺の回避を待たずしてレッドランペイジが放つのは水砲弾。口から放つそれは俺に対して使っていたような威力重視の砲弾ではなく、勢いと範囲重視の大規模水流。


この範囲、回避は不可能。


この水量、防御は不可能。


この速度、流れを変えるには時間が足りない。


やっべぇ…ヘマったか!?


「クッ!」


咄嗟に出来ることと言えば後ろに飛びながら両手をクロスさせ防御姿勢を取るくらい、海面に逃げるのも間に合わない、受けるしかない。けど…今の俺で受け切れるか…!?


迫る蒼にゾッと背筋が寒くなった、その時だ。


「『引き波』!」


「え!?」


突如海が変形し腕の形になると共に俺を水底まで引きずりこむ。これの技は…今の声は…まさかっ!


「『超々々大津波』ッ!!!」


『ォォォォォ……!?』


ラグナが海面に引きずりこまれると共に、脈動する大海。それは意志を持ったようにうねりを伴って鳴動し…爆裂するように波を立てる。海底から掬い上げ天まで届くような有史以来最大の津波はレッドランペイジの水放射を掻き消しレッドランペイジごと天の彼方まで吹き飛ばす。


これほどの大技を、この海で実現出来る存在は一人しかいない。ここまで海を自らの意思のままに操れる男は…世界に一人しかいない。


そうだ、漸く…来てくれたか…。


「プハッ!ジャック!!」


「おう!遅くなったなラグナ!まだ見せ場は残ってるか?」


海面に這い出て頭上を見れば、そこには…海の上に立ちカトラスを肩に背負う大男。この海最強の海賊…海魔ジャック・リヴァイアの姿があった。なんだよ…散々ビビり散らかしてたくせに。格好つけて…来てくれたのかよ!


「遅すぎだぞ!お前!」


「へへ、悪い悪い!」


「レッドランペイジは?」


ジャックのところまで泳いで向かい、周囲を見回せば、ジャックが巻き起こした津波によりザバザバと荒れる海ばかりが残っており。レッドランペイジの姿が見えない。さっきジャックが起こした津波で吹き飛ばされたのか?


「アイツは出来る限り遠くへ流した、レッドランペイジはあの巨体だからな。泳ぐ速度自体はすげぇ遅いんだ…まぁ執念深いから直ぐにまた戻ってくるだろうがな」


「遠くにやっちまったら倒せねぇじゃん!」


「こんだけこっ酷くやられておいてまだやる気かよ!」


「ああ!俺ぁ引かねえ!」


「結構な事だ、けど今のままじゃ無理だ。お前も実感したろ?アイツを倒すのは無理なんだよ」


アマロの部屋で言われたことと同じ、倒すのは無理…その言葉に対して、今もなお強く啖呵をきれるほど今は無謀でもない。現実という冷水ぶっかけられて理解した。


きっとジャックは、今の俺と同じ気持ちは昔味わったんだろう。この気持ちに加え敗北という逃れられない結果も伴って。確かにジャックは海の上では無敵だ…けどレッドランペイジはさらにその上を行く不死身、勝ち目がないんじゃいくら強くても勝てない。


それは、分かるんだけども…。


「……へへ、そうしょぼくれんなよ。もう逃げるなんて言わねぇよ」


「え?そうなのか?」


「おうよ、言ったろ?今のままじゃ無理ってよ…。レッドランペイジはな?常に海水を吸収して自分のエネルギーに変えてるんだ。つまり奴は海の中にいる限り無限に再生するんだよ」


「なっ…!?」


海の中にいる限り無限に再生!?それ海洋生物が持ってていい能力じゃねぇだろ。でも納得…確かにアイツを殴った時感じた水風船みたいな感触。あれはきっと奴の体が海水で構成されてたからだ。


そうか、そうだったのか。アイツの能力は海水があれば発動するのか…ってここ海だぞ。どうすりゃいいかわからん事に変わりはないぞこれ。


「海の上じゃアイツには絶対勝てん、だから…作戦立てるぞ。ラグナ」


「作戦?」


「その為の時間を稼いだんだ、ブルーホールにゃ歴戦の海の男たちがワンサカ残ってる。そいつらの知恵を結集して…やるぞ!二百年間誰もなし得なかった前人未到の大偉業!赤影討伐!」


手を貸せ!お前の力が必要だ!そう言って俺に向けて手を伸ばすジャック姿が、そのびしょ濡れの体を太陽が照らして輝かせる。未だ嘗て誰も成し遂げたことの無い偉業。誰も倒せなかったからこそ奴は今もこの海にて人を食らい続けている。


俺一人じゃ出来ないそれを、ジャック一人じゃ出来ないそれを、俺たち二人で成し遂げる。


その為に、今は…。


「ああ、ありがとよ、ジャック」


「こっちのセリフだっーてぇーの!」


手を取る、ジャックの手を。


さぁやるぞ、今度こそ…オーバーAランクの大魔獣、波濤の赤影レッドランペイジの討伐を!


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