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389.魔女の弟子と狂信の怪物達


悪魔の見えざる手との決戦から一日経って、プリシーラのライブを翌日に控えたこの日。本当なら俺達は明日のライブに備えて動かねばならないところだったのだが。


「ラグナ様、こちら顛末報告書にになります」


「ん、ありがとうメグ…別に口頭でもいいんだけど」


「こうしておいた方が雰囲気出ますので」


「…そっか」


いつもよりも静かな馬車のダイニングにて、ラグナはブラックコーヒー片手にメグから渡された顛末報告書…まぁ簡単に言えば昨日の戦いの結果、何がどうなったかの報告を受け取る。


あの戦いは比較的大規模なものとなった、多くの囚われの人達を助け出し、使われていないとは言え鉱山を一つぶっ潰し、犯罪組織を一つ潰した。もうてんやわんやの大騒ぎで昨日は夜遅くまで色々と動いていたんだ。


その結果が書き込まれた書類に目を通す。


色々あるけど、最初に述べるなら捕まっていた人たちだろう。俺達は全速力で捕まっている人たちを檻から解放し片っ端からメグの時界門に放り込んだり窓から投げ捨てたりしてなんとか崩落から救い出すことができた。


メグがどこからか持ってきた在庫表…言い方は悪いが捕まっていた人達の名簿を見るに全員助け出せたことも確認済み。


次に問題になったのが助けた人達をどうするか。人数にして百人以上で中には衰弱してる人や人間不信に陥っている者もいた。助けるだけ助けたので後は自分でなんとかしてね!なんて無責任なことを言う奴は人を助ける資格がない。故に彼らをどうするか話し合っていたところ。


チクシュルーブ…ソニアの使者がやってきて俺達の悪魔の見えざる手撃滅の功労を讃えた上で捕まっていた人達を迅速に故郷に送り届けてくれると宣言してくれた。


なんと優しい!と思ったがメルクさん曰く。


『これからこの街は来賓で一杯になる。それを纏めて街において置いたり行方不明にして始末するとソニア的にもまずいからな、おそらくとっとと街から追い出したいんだろう』


との事。まぁ半ば浮浪者みたいなのが街にうようよいると目立つし、そいつらを纏めて地下に送るにしても全員行方不明になると流石に角が立つ…だから普通に街に送り届けてくれるらしい。信用は出来ないが今はそれがベストだと判断したのでお願いした。


そして悪魔の見えざる手に関しては全員マレウスの治安維持隊に突き出した、チクシュルーブの私兵団にではない、国に突き出したんだ。


一応ソニア側から文句もあった、『ウチでそちらも預かりますよ?』と。大方自分の顔に泥を塗った連中全員拷問で殺したかったのだろうがそうはいかない。代わりに私兵団に悪魔の見えざる手と関係を持っている連中が居たから信用できない旨を伝えるとソニアの関心は逆にそちらに向かった。


いくら犯罪者でも、いや犯罪者だからこそ無闇に殺させるわけにはいかない。彼等には法で裁きを与えられるべきだ。…ただ幹部連中は逃げてしまったらしい、ロダキーノとラスクとチクル…そしてデッドマンの四人が逃げた。


一番逃しちゃいけない奴らをこの国の治安維持隊は逃しちまったらしい、頼りにならねえな。まぁ一応今全力で追ってるらしいしそのうち捕まるだろ…と楽観することしか今は出来ない。


それでプラキドゥム鉱山だが…、山が完全崩落して消失した。ただあそこは既に使われていないものだったお陰で人的にも資源的にも影響は少ないらしい。ソニアの方も文句は言ってこなかった。


結果としてなんとかなるにはなった。幹部を取り逃がしたのは痛いがもう組織は瓦解し壊滅している。今更どうのこうのは出来ないだろう。


「あるがとう、メグ」


「いえ、この程度造作もありません」



「ん、ラグナもメグもいるか。ちょうどいい」


「ただいま戻りましたー」


「お、ナリアもメルクさんも戻ったか」


すると丁度良く馬車に例のメガネをかけたメルクさんとナリアの二人が軽く手を上げながら帰ってくる。どうやら彼等の仕事は終わったようだ。


ああ、仕事というのは…。


「この街の図書館で調べてきたぞ?黒鉄島について」


黒鉄島だ、ロダキーノから聞いた魔女排斥機関の本部があるという島の名前、どこにあってどういう場所なのか調査が必要だと言ったらメルクさんがナリアを連れ立って街に調べに行ってくれたのだ。


ソニアも今は事件の事後処理に忙しいだろうし、街に出ても問題ないと思うとの判断だ。


「それで、どういう場所かわかったか?」


「ああ、軽く本を触るだけで直ぐに出てきたよ」


「有名な場所…ってことか?」


「有名な場所だった…とでも言おうかな。かつてはマレウスの海洋調査の拠点があった場所らしい」


そんな場所にマレウス・マレフィカルムの本部が…。なんとなく連中は人目のつかないところで潜んでいるもんだと思ったが、海洋調査の拠点になっていたなら人通りもかなりあっただろうな。


「黒鉄島はマレウスの南方に北西に浮かぶ島で、かつて海洋調査を行うため拠点を設立した場所だった…ということもあり、一時はバカンスに向かう者も多くいたそうだ」


「そういや、全部過去形だけど今はどうなってるんだ?」


「全くの無人だそうだ、海洋調査は既に十五年前に打ち切られている。それにあの近辺は海賊も出るしな、そもそもバカンスにも調査にも不向きだと判断されたようだ」


「まぁ、だろうな…マレフィカルムの本部はありそうか?」


「…分からん、無人になった今なら本部を置くには申し分ないだろうが、ロダキーノ達が八大同盟だったのは二十年も前だろう?その時は黒鉄島は絶賛人が集まっていた頃だ。どうにもこうにも…そこに隠れて本部を置くというのは賢い選択ではないように思える」


「僕が調べた情報も似たような感じでしたよ?ただ黒鉄島には観光名所の遺跡があったらしいです」


「遺跡?まさかそこに?」


「いやいや、観光名所を本部にはしないと思いますよ?」


「それもそうだな、うーん…ガセを捕まされたのか?」


「ロダキーノは一度情報を渡すフリをして肝心なことを言わない…と言うことをやってる奴だからな、鵜呑みには出来ん」


だが同時に奴は嘘も言ってなかった、と言うことは少なくともマレフィカルムの本部は黒鉄島にあることは間違いない…と言う意味にもなる。鵜呑みにしたくはないが…真相を知るには調べるしかないか。


「で?どうする?これからの方針は」


「取り敢えず明日のライブを終えたら一度アマデトワールに向かおう、海洋調査というのなら冒険者も関わっていたかもしれない、なら…」


「ケイトさんも何か知ってるかもしれないってことですね」


「そうだ、それに依頼完了の報告をしておきたいしな」


もう悪魔の見えざる手は居ない、デッドマン達は健在だがたった四人でチクシュルーブが守るプリシーラを襲うことはできないだろう。確かに奴らは私兵団と繋がりを持っていたがそれは飽くまでギブアンドテイクの関係。奴らに影響力がなくなった以上…私兵団も奴らに肩入れする理由はないからな。


寧ろソニアの粛清を恐れて、今頃情報を売ってる可能性もある。


「ならそういう方向で行こうか、とはいえ明日に備えると言っても当の本人の調子にもよるが…」



「問題ねえよ、今終わったからさ」


「ん、アマルト達も帰ったか」


よっす!と人差し指と中指を立ててニヒルに挨拶するアマルトの後ろにはデティとネレイドと…プリシーラだ。こちらの三人は見ての通りプリシーラを連れて…仕上げをしてきていた。


つまるところ、今回の一件をマンチニールさんに伝えに行った。今までのそれが誤解であったことと和解の為になるべく角が立たない三人を選んで頼んだんだが…、プリシーラの顔が晴れないな。


もしかして、和解が上手くいかなかったのか?


「…和解出来なかったか?」


「そこについては安心しろよ、二人揃ってぶっきらぼうだったが…まぁいい方向に着地するだろ」


「……?どういう意味だ?」


「こっから先は家庭の問題、俺達が首突っ込むことじゃねぇの」


「なるほど…、でもそれじゃあなんでプリシーラはそんなに暗い顔してるんだ?」


「ああ、それは…」


とアマルトが口を開こうとすると、それを阻止するようにプリシーラが前に出て…強張った顔を俺に向ける。いや顔を向けているのは俺達全員か…?


なをて訝しんでいると、徐に彼女は頭を下げて…。


「本当に、ごめんなさい…みんなに大事なことを内緒にしてて」


「え?ああ、そういうことか」


そっちか、悪魔の見えざる手を動かして黒幕だった件ね。正直悪魔の見えざる手をぶっ飛ばしたからもうどうでもよくなってたが。


どうでもよくないよな、彼女からしてみれば。大事なことだ。


「私。自分で勝手に色々思いつめて、憶測で物事を決め込んで、その上でみんなを大変なことに巻き込んで、剰え裏切って姿を消して…ほんと、どうしようもない奴だと自分でも思う…」


「そう自分を卑下にするもんじゃないよ、まぁ話してくれてたらってのはあるかもだけどさ」


「だが、プリシーラ…お前は我等の下を離れようと思えばいつでも離れられた、だがそれをしなかった…それはお前なりに思うところがあったからだろう?」


「…うん、みんなに会う前まで、みんなの事を知る前までは、この国に私の味方なんていないと思ってた。けど…違うんだね、私が勝手に敵を作ってただけだったんだ」


曇った瞳で見れば、味方も敵に見えるし敵も味方に見える。人間関係ってのは冷静に見ていけば案外その細かな部分まで見えてくる、けどそれが出来なくらいプリシーラは思いつめていた…というより、母親を恐れていたんだ。


絶対的な存在である母は常に自分の全てを掌握してるに違いない…という半ば被害妄想に近いそれが暴走した結果なのだろう。そこを悪魔の見えざる手に付け込まれかけたそうだが…まぁ結果としてなんとかなったし俺としてはもういいかなって気はある。


あるさ、人間誰しもそういうことくらいさ。それを認めて謝れるなら立派じゃないのよさ。


「そうか、で。どうするんだ?」


でも聞いておきたいことがあるとするなら…彼女が悪魔の見えざる手を使ってやろうとしたこと、その続きを聞きたい。


「エトワールか」


メルクさんが小さく呟く、その通りだ。プリシーラは悪魔の見えざる手を使ってエトワールに亡命しようとした…が結果としてその計画は頓挫。ならこの後どうするんだ?そう伺うと。


「正直、エトワールに行きたいって気持ちはある。お母様から逃げたいっていう気持ちは抜きにしても…やっぱりあそこは美術を修める者の永遠の憧れだから、けど…」


「けど?」


「……私、もうちょっとここで頑張ってみる。もう一度確認したいの…この国でアイドルをやるってことの意味を」


「そっか、なら…分かった」


もう母親の魔の手から逃れるって必要がないことは分かったし、そうやって踏ん切りがついたならそれでいいんじゃないかな。まぁこれでもまだ絶対にエトワールに行くんだ!って気持ちがあるんだったら…。


しょうがない、また同じ事をやらかすくらいなら俺達の力でエトワールに連れて行ってもいいと思っていた。まあその後のサポートは一切しないつもりだったが…ここで頑張るというのならそれでいい。


苦難はあるだろうが、そんなもん覚悟の上だろう。


…しかし気になるな、母親との会話はどんな感じだったんだろうか。無事誤解は解けたのかな、アマルトが大丈夫っていうなら大丈夫なんだろうけど、それでも気になるもんは気になるよ。俺もついていけばよかった。


「…それで?もう一方の家庭問題の方はどうなってる?」


「家庭問題?…ああ、エリスの件か」


ふと、アマルトが見つめるのは女子寝室のある方向…つまりエリスがいる方だ。俺がみんなについていかなった理由は…これだ。


「エリス様はまだ寝室で思い悩んでいるようでございます」


「昨日からずっとか…、一回も外に出てないんだろ?」


「ああ、ここで見てたけどまだ部屋だ」


「ふーん、まぁ…プリシーラの件もそうだけど、家族の問題ってのは他人が思うよりも根深く本人にとっては重大だ。アイツも…家族については色々抱えてるみたいだしな」


エリスはあれからずっと口を閉ざしたままだ、傷ついたステュクスを連れて俺達に合流した時。


『勝手な事をして申し訳ありませんでした!』


と、全力で謝り。


『少し、頭を整理する時間をください』


と言ってて寝室の床に座り、瞑想のように頭の中に整理をつけていた。理由は恐らく…ステュクスと戦った事だろう。


あれから何があったのかは分からない、だがあれほどステュクスを憎んでいたエリスがステュクスを助けた、ということはステュクスの言う通りなんとかなったものだと思ったが。


…やはり、このまま放置はできないな。


「…ちょっと、話聞いてくるよ」


「あんまり突くなよ?と言いたいけど。このままじゃアイツ多分一生あそこにいるしな、頼んだぜ?俺は今日の晩飯を作るのでよろしく」


「ああ…」


エリスの様子を見に行こうと立ち上がり、ダイニングを出て女子寝室に行こうとしたその時、俺の裾をデティが引っ張り上目遣いを向けていた。


「ん?どうした?」


「んーん、エリスちゃんの魔力を読んでたの」


「うん、それで?」


「……あの子、ああやって考え込むと止まらない所があるの。変に考え込んで変な答えを出して歪んだままでも進もうとする。だからさ、ラグナ」


「…………」


デティはあまりにも真剣な面持ちで俺を見上げるその顔に思わず生唾を飲んでしまう、こう言う時のデティは風格がある、そしてそう言う風格を漂わせる時はいつも深刻な状況で──。


「ギュッ!って抱きしめてチュッ!ってしてあげて!」


「…………」


「ベッドもあるしさ」


「…………」


「チャンス!」


「ネレイドさん、頼む」


「うん、デティ?今ふざける所じゃない」


「ふんぎー!ふざけてないやーい!」


ネレイドさんに頼んでデティを引き剥がしてもらう、何をふざけたこと言ってんだ。ギュッとしてチュッ?そんなことするかよ。そんな…彼女の傷心に漬け込むようなことするくらいなら俺は舌噛み切って死ぬ。


そんなため息を漏らしながら俺は女子寝室の扉をノックすると、エリスの『どうぞ』と言う声が響いてくる。許可は貰った、拒絶はない、なので俺はゆっくりと扉をあけて…中のエリスに声をかける。


「考えはまとまったか?エリス」


「ラグナ…?」


俺が来たのは意外だったのか?床の上で座禅を組む彼女は徐にこちらを見た…かと思いきや直ぐに視線を外す、こりゃ重症だな。


「まとまってなさそうだな、ステュクスの件か?」


「…はい、そうです。彼の事を考えていました」


「何を話したんだ?」


「…ハーメアの復讐をするな、人を殺すな、自分を大切にしろ…って」


至極真っ当な意見じゃないか、まぁ確かに真っ直ぐな目をしたやつだとは思ったからエリスの事を任せたわけだけども、やっぱ悪いやつじゃないのかもな。


そう俺はエリスの隣に座り、彼女の憂いげな横顔を見つめ続ける。


「そうか、それ聞いて…エリスはどう思ったんだ?」


「最初は煩わしいと、今はそんなお為ごかしを聞きたいんじゃないと…でも。今は彼が正しい事を言っていたと思いますよ」


お?思いの外冷静だな。てっきりステュクスを許せないから今もこうして悩んでいるものと思っていたが、違うのか?


…違うんだろうな、そんな答えが直ぐに出てくる。だってこうやって見つめるエリスの横顔があまりにも複雑そうだったからだ。


「そうです、彼は正しい…いつも徹頭徹尾正しい側が彼、間違っているのがエリスなんです」


「い、いやいや考えすぎじゃ…」


「ソレイユ村で初めて会った時も、彼は正しい事を言っていた。だからみんな彼の味方をした、今回だって彼は正しい事をした、お陰で死人は出なかったしエリスは人を殺さずに済んだ」


「それは…」


「リオス君やクレーちゃんがステュクスの味方をしてるのだって…ステュクスが騙してるからだなんて本当は思ってません、星魔剣を悪用するだろうなんてカケラも考えていません。彼はいつも正しいですから」


拗らせている、俺は一時はちょっとあれだったけど兄や姉には恵まれていたし兄弟関係は比較的良好だったから…こんなにも拗れ切った姉弟関係を見るのは、初めてとも言える。


あまりにも相容れなさすぎる。これならお互いの存在を知らずに生きていた方が互いに幸せだったまである程に相容れない。


自分の震える手を見て歯を噛み締めるエリスの顔は、ただただ悔しさに満ちていた。


「ステュクスは善人なのでしょう、星魔剣を持ち出したのも何か理由があるんでしょう。だから…エリスが彼を追い詰める理由はもうどこにも無い」


「…かもな」


「けど、こうして考えて思った事があります」


「なんだい?」


「エリスは…、理屈や理由を抜きにしてステュクスの存在を容認出来ないんです、魔女を侮辱したとかメルクさんに被害を与えたとかリオス君達を攫ったとか…そういうのは飽くまで理由付けにすぎなかったということ」


許せないのは行いではなく存在か、そこまでに憎悪を向けるほどに…エリスはステュクスという存在を羨んでいるのだろう。間違える己と正しい弟…母に捨てられた己と母に愛された弟…、ある種の嫉妬とも取れる感情。


それ故にエリスはステュクスを嫌う…か。うーん、ややこしいような単純なような。エリスの考え過ぎなような…って!?


「お、おい。エリス…泣いてんのか?」


「…泣いてません、ただ悔しいだけです。エリスは…どうしたらいいんですか。彼を認めればいいのか認めなければよいのか…分かりません」


むくれた顔で涙を流すエリスを見て思わず驚きその肩に手を置く、そこまで深刻に考える必要はない…と言えるのはそれは俺が他人だからだ。当の本人達にとっては深刻で甚大な問題なのだ。


今のエリスはぐちゃぐちゃだ、ステュクスという男は責めるべき存在ではない、ただ己の形のない憎悪だけが弟を嫌悪するように囁いている。それを理解してるからこそどうしたらいいか分からないのだ。


「エリスは間違っていて、ステュクスが正しくて、エリスはハーメアにとって過ちの象徴で、ステュクスこそが正当なるハーメアの子供で…それならエリスは…」


「…これ以上考えるな、とりあえず今は…その、考えるな」


肩を抱き寄せればエリスの姿勢は容易く崩れ俺の胸にもたれかかって、その中で静かに嗚咽する。こういうややこしい問題は時間が解決してくれる…けどエリスの場合はそうもいかない。


だからエリスには二つしか道がない。ステュクスを認めるか…どこまでも嫌悪し続けるか。認めれば己の存在意義さえも揺らぎ、嫌悪すれば苦しみ続ける。


どっちを選んだらいいかなんて、俺には容易く答えられない。この問題を解決できるのはエリス…と、その弟たるステュクスだけなんだろう。


「…………ステュクスか」


「ッ…っ…ぅ…」


「エリス、気が済むまで泣いていろ。俺はずっとここにいるから」


とりあえず、今俺に出来るのはエリスが落ち着くまでここでこうしている…ってことだけなのかもしれないな。


ゆっくりとその背中を撫でて、俺は上を見る。ステュクス…という男について、今は考える。


………………………………………………………………


「で?ついカッ!となってヤッちまったってわけか?」


「うっせぇーな…仕方ねぇだろうが」


暗い暗い、薄暗い地獄。カビと血の匂いが染み込んだ地獄の底みたいな空間で笑うのは八大同盟の長の一人オウマ・フライングダッチマンは近くの酒樽に腰を下ろす。その中に詰められているのは酒ではないのは確かだろう、髑髏でも込められていた方がまだ納得が出来る。


何せここは、この世の地獄…正真正銘の血みどろ地獄なのだから。


「だが文句はねぇだろ、悪魔の見えざる手を動かしてた貴族ってのは見つけたんだからな」


そんなオウマを睨みつけるようにソニアは肩越しに睨め付ける…、そうだ。ソニアだ、チクシュルーブじゃあない、外の世界では素性を明かせない彼女もここだけはその仮面を取る。


ここはソニアの居城たる摩天楼の地下に存在する拷問施設。拷問狂たる彼女がその倒錯した性癖を満たすためだけに作られた苦痛の園。薄暗い石の廊下に僅かに建てられた蝋燭だけが光源の見るからに悍ましい空間の最奥に彼女とオウマはいる。


そして、そんな二人の視線の先にいるのは…。


「しかしいいのか?裏切り者の売国奴とはいえ子爵を一人殺しちまって」


「いーんだよ、なんとでもなる」


磔にされた男…コットン子爵だ。既にソニアの手によって拷問し尽くされ絶命したそれをオウマは呆れて、ソニアは興味なさげに見る。


彼は悪魔の見えざる手を動かしていた本物の依頼人だった、表向きにはプリシーラということにしつつ彼は裏からプリシーラの誘拐を目論んでいた。ソニアの手にかかれば彼が悪魔の見えざる手と関わりを持っていることも簡単に調べられた。


故に私兵団によって強制連行しここに連れてきて、色々と聞くために拷問の限りを尽くしたのだ。その結果得られた答えは……。


「で?なんかわかった?」


「何にも、こいつは何も知らなかった…いや、覚えてなかった」


「へぇ?そりゃどういうことだよ」


「記憶消しのポーションだよ、こいつは事前にそいつを飲んで全部忘れた上でこの街に来てやがった。だからいくら何を聞いても知らぬ存ぜぬさ、こいつの手荷物に記憶消しのポーションが入っていた空ビンを見つけて…もう無駄だとわかったから殺した」


「記憶消し?ハハハッやられたな!」


今、世間一般的にはポーション=治癒という認識が広まっているが実際は違う。ポーションとは薬草などを魔力で煎じて様々な効果を生む魔力薬の事を指すのだ、だからその効果は多種多様なものになる。ソニアが以前扱っていたカエルムも分類上はポーションに入る、まぁあれはそれを固形化したものだが。


そんな数多くあるポーション、その中でも異質なのが『記憶消しのポーション』だ。


「まさかこいつがそんなもん持ってるなんて、驚きだよ」


「ま、表にも裏にもあんまり出回るもんじゃねぇしな。作れる人間だって少ないから記憶消しを一つで豪邸が建つくらいには値が張る」


記憶消しの効果は読んで字の如く、飲んだ人間の頭から指定した記憶を消し去るのだ。その効果は作り手の裁量によって幾らでも操作可能。範囲は昨日食った飯のおかずの一品を忘れるなんて細かいところから自分の名前に至るまでどこまででも選んで消せる。


まぁだから作るのが難しいってのもあるが、この記憶消しは上流階級の間では一種の精神安定剤として利用されてるってんだから怖いよな。失敗した記憶や苦い記憶を選んで消すことにより自らの精神を安定化する為に上流階級が買い占めてる…だから一般の市場には出回らない。


そんな代物をコットンは使っていたんだ、まさかコイツが記憶消しを手に入れていたのはソニアにとっても大きな誤算だった。


「ってかお前は使わねえの?ソニア」


「使うわけねぇだろ、失敗や屈辱を忘れたら対策立てられねぇだろ。記憶消しは精神安定の一助にはなるが…逆に言えば失敗を忘れるからまた同じ失敗をすることになる。そういう人間はいつまで経っても成長しない」


「…お前、クズのくせしてそういうところはしっかりしてるよな。しかし記憶消しねぇ…そいつはコットン子爵の手荷物に?」


「あ?ああ、私が直々に調べた。バッグの中に空ビンがな」


その言葉を聞いたオウマはニタついた笑みを消し、口角を下げ眉間に皺を寄せ始める。そのあからさまな表情にソニアは一瞬怪訝そうな顔を見せる。オウマがここまで考え込むのは初めて見たからだ。


すると、オウマは…トントンと己の額を指でつついて。


「妙じゃねぇか?」


そういうのだ、それはつまりソニアの出した答えに何か穴があり、その仕事の出来に満足が行っていないということを意味する。オウマには恩があるし逆らうべきではないのはわかる…だが同時に『私はこいつの部下ではない』という意識が燃え上がる。


「あ?どういう意味だよ」


「そのまんまだよ、…例えばさ。お前そこで死んでるコットン子爵をこの後どうするつもりだ?」


「は?ンなもん燃やして誰か分からなくした上で埋めるに決まってんだろ、持ってても邪魔なだけだし。何より用済みだからな、捨てるに決まってる」


「そう…用済みになった物は捨てるのが基本、飲み干した薬のカラ瓶を後生大事に鞄の中に入れておくか?普通」


「ッ…!」


記憶消しを飲んだとて、記憶が何もかも無くなるわけではない。消した記憶がなんなのか分からずとも目の前に空き瓶があれば普通は捨てる。空き瓶が見つかり飲んだ事が発覚するのを恐れていたとしても普通カバンの中に入れて持ち歩かない。割るなりなんなりして捨てればそれで終わりだ。


だがコットン子爵は空き瓶を持っていた、ある意味…これ見よがしに。


「コットンは…記憶消しを飲んだのか、それとも飲まされたのか…」


「つまり何か?コイツは黒幕が切ったトカゲの尻尾で…本命はまだ別にいるってことかよ」


「だろうな、居るだろうよ確実に。…まぁそれが誰なのか、大体分かってるけどな」


「は?誰だよ、ってか分かってんなら私に調査なんて面倒な事させんなよ」


「飽くまでそいつは容疑者でしかなかった、だが…恐らくだが悪魔の見えざる手がしくじるって誤算を踏んだせいで、記憶消し使う羽目になったんだ…つまりこれは奴等が見せた隙だ。本当ならそいつの目の前にコットンを引き立てりゃ全部終わったんだがな」


「うっ…悪かったよ…」


オウマはやや苛立った様子で頭を掻き毟る。今回の一件はわがままお嬢様の暴走でもなく、コットン子爵の暗躍でもなく、さらにその裏…マレウス・マレフィカルムの根幹に関わる問題だった。


様々な動機や人物を中継する事で本来の目的やその正体を巧みに隠しては居るが…流石に悪魔の見えざる手が壊滅するなんていう大誤算が発生したせいでそいつの目論見は外れ、大急ぎで火消しに走った…がそこでボロが出たのだ。


記憶消しなんて分かりやすいタネ使うのはアイツしかいない、本当ならそいつの目の前にコットンを連れて行けば更なるボロを期待できた。


だが残念ながらコットンは不慮の事態で死んでしまった。黒幕にとってみればこっちもまた大誤算だ…嬉しい方のな、お陰でこっちがいくら追求しても証拠がない以上奴はのらりくらりと躱すだろう。


(…あのジジイを玉座から引き摺り下ろせるチャンスだったのに。まぁ結果としてプリシーラは無事だからいいか…)


どこの誰かだから知らないが悪魔の見えざる手を壊滅させてくれたのはありがたい限りだ。奴等を壊滅させるにゃちょいと戦力が居る。八大同盟じゃ過剰戦力すぎるし下部組織じゃ返り討ちあう。


大成功とはいかないが、成功くらいの塩梅で物事を終わらせられた。ならよしとしようや。


「ってかさ!何もコットンじゃなくていいだろ!」


「あ?何が?」


ふと、ソニアが声を上げる。そのけたたましい声を煩わしそうにオウマは耳をほじりながら聞き返すと。


「悪魔の見えざる手だよ!幹部連中見つけて捕まえてさ!そいつらから聞き出しゃコットン以上に情報が…」


「あー、そりゃ無理だな」


「は?なんで…」


なんでってそりゃあお前。


「奴等はもう、目をつけられたからな」


「…目を?誰に」


誰に?決まってる。プリシーラを狙うってことはつまり彼奴に弓を引くってことはだ、そしてアイツは射掛けられた弓に対して沈黙を貫くほど利口じゃない。


今頃、激怒している事だろう。


…………………………………………………………


「しゅ、襲撃だーー!!」


「急いで軍に報告を!収容している悪魔の見えざる手を…幹部達が取り戻しに来た!」


闇夜に響く警鐘。理想街チクシュルーブの最寄りにあるマレウス西方留置場。西方地域で捕らえられた犯罪者を中央の大監獄に移送する為の準備が整うまでの仮の監獄として機能しているこの西方留置場に今夜…襲撃者が現れたのだ。


「この程度でぼくが諦めるわけねぇだろうが!!」


「悪魔の見えざるの幹部…デッドマンだー!!」


岩壁の要塞とも言える西方留置場の壁を破壊して乗り込んでくる男…先日逃亡したばかりのデッドマンが杖を振るって看守を薙ぎ倒し大暴れする。


エリスに敗れ、城から救い出された彼は治安維持隊に引き渡される際に他の幹部と共に逃亡、仮のアジトに置いてあったポーションで傷を癒し新たな義手義足を取り付け再び再起を図る為捕らえられた部下達を強奪に来たのだ。


「レッドグローブ…ぼくを救いに来たとか言っておきながらなんだよこの仕打ちは!絶対許さない、エリス!あの女もだ!直ぐに悪魔の見えざる手を再起してアイツらを嬲り殺してやる!」


「そうだぜ!俺達の伝説はこれからだっ!!」


「くちゃくちゃ…、あの屈辱は絶対晴らす」


「さぁ退きなさいの舞!」


ロダキーノ、チクル、ラスクも一緒だ。彼らが望むのは魔女の弟子達への復讐、裏切り者のレッドグローブの殺害、もはやそれだけだ。


折角ジズの話に乗って全てがうまく行きかけていたのに、それを目の前で破壊された彼らに残されたのは復讐の道だけ、故に復讐の鬼と化した彼らは留置場を破壊し尽くすために暴れ尽くす。


いくら公的施設とは言え、この留置場には大した戦力はいない。少なくとも幹部四人を相手に出来るような大物はいない。故に彼らの進撃を阻むものはいない。


「くちゃくちゃ…ってかムスクルスは?」


「アイツは改心したとか言って自分の足でマレウスの中央大監獄に向かったよ。ここにはいない」


「はぁ!?じゃあいつも裏切り者じゃないの!」


「ああそうだ!全部終わったらアイツも殺してやる!だから…」


怒りの魔力に満ち満ちたデッドマンは激怒に身を任せ、取り囲む幹部達に向け大きく杖を振りかぶり…。


「そこを退けッッッ!!」


「ぐぁぁあぁぁ!!!」


「つ、強い!こんな怪物…どうやって冒険者達は捕らえたというんだ!」


杖の一振りで看守達は吹き飛ばされ全滅、ざわめく留置場の中に大穴を開けデッドマンの怒りの咆哮が轟く、最早止める者はいない、折角捕らえた悪魔の見えざる手は彼らによって解放されてしまうだろう…。


そう、幹部達も看守達も確信した…その時。



「ここは公的施設、つまり国の持ち物、つまり私の持ち物、つまり私の持ち物を壊し暴れるお前達は反逆者。そう…極刑だな」


「ッ!?誰だ!」


しかし、そんな幹部達の行進を止める影が三つ。ぶち壊して開けた留置場の穴から現れる。


杖を突き、緑色をたなびかせ紫の軍服を着込み、胸に幾多の勲章をつけた其奴は二人の部下を伴って悪魔の見えざる手の目の前に立ち塞がる…その顔を見たデッドマンは、目を見開き口を開ける。


其奴の顔を知らない人間はこの国に一人としていない、其奴の名前を知らない人間はこの国に一人もいない、其奴を知らぬ者は…マレウスに一人としていない。


その者の肩書きは、マレウス王国軍最高司令官にしてマレウス司法の最高裁判官にしてマレウスの宰相…つまり彼女は。


「レナトゥス…!?」


「然り、私はレナトゥス。そう…この国の王だな」


宰相でありながら自身を王と口にするその傲慢が、許されてしまうくらいにはその女が手にする権力は絶大。この国における凡ゆる機関の最高責任者の座を独占する最強の権力者。


名をレナトゥス・メテオロリティス。顔に深く刻まれた傷跡とデッドマンを遥かに上回る性能の義手と義足を持ったこの国の宰相だ。


そして彼女が連れる二つの影は。


「ひゃ〜ん!レナトゥスしゃまったら威風ど〜ど〜!かっくい〜!惚れちゃいしょ〜!」


「オフィーリア、シャンとしろ。そう…私の護衛ならばな」


まるで濡れたような艶やかさを持つ金色の長髪、明らかに丈の合わぬ袖で手元を隠しプラプラと揺らし、ほにゃとした笑みを浮かべるオフィーリアと呼ばれる女。そして…。


「まさか、たった四人に留置場がこれほど破壊されるとは。これは各地方の留置場の警備を更に強固にせねばなりませんね。レナトゥス様」


「うむ、そこは任せるぞ?マクスウェル将軍」


灰色の髪を切り揃えおかっぱにした眼鏡の威丈高。深緑の装飾をあしらった緑の礼服を着込んだ男はやれやれと姿勢良くレナトゥスに追従する。


……オフィーリアとかいう女はともかくとして、マクスウェル将軍と言えばマレウスの王国軍を統べる存在、軍の最高司令官たるレナトゥスを支える武の化身。


そんな宰相に加え将軍という大物の登場に竦む悪魔の見えざる手の幹部達。


何故ここに宰相が…、何をしにこの場に?どうして留置場に、尽きぬ疑問はともかくとして。


「なんだよ、お前…ぼく達の邪魔をしようって!?」


「無論、と言いたいが我等はお前の邪魔をしに来たわけではない。いや…お前達が我等の邪魔になったから消しに来た…と言った方がいいかな?」


「は?宰相が直々に?…殺されたいの?」


「いや〜ん!レナトゥスしゃま〜!あいちゅらこわ〜いん。守って守って〜オフィちゃん死んじゃう〜!」


「オフィーリア、レナトゥス様を盾にしてどうする。一応これも仕事だ、前に出て戦わないか」


消しに来た、つまり殺しに来たのだ。宰相が軍も連れず部下二人を連れて…なんという愚かなことだろうか。邪魔をするならレナトゥスだろうがなんだろうが殺してやる…そう思うデッドマンだが同時に考える。


(あのオフィーリアとかいう女、あの口調…それにあの髪色。何処かで…)


金色の女と緑色の男、そしてレナトゥスという紫の女…この特徴、何処かで聞いた気がする。だがその違和感もレナトゥスが持つ圧倒的知名度の前に掻き消える。


いや今は考えている場合ではない、とっととこいつらを殺してしまわないと本当に軍が出て来かねないとデッドマンは首を振り。


「なんでもいい!ぶっ殺してやるよ!」


「ははは!宰相ぶっ殺せば俺は最強!伝説になれるぜ!」


「くちゃくちゃ…まぁいいや、やっちゃうか」


「うふふ!最高の舞踏をお見せしましょう!」



「ふむ、恐れぬか…だがそれもいい。そう…蛮勇だな」


「ひゃわわ!バトルになっちゃったよ〜!」


「大人しく殺されてくれていれば…楽だったのですが」


静かに火蓋が切って落とされる悪魔の見えざる手とレナトゥス達の戦い、それは熾烈な激戦となる─────事はなかった。


そう、そもそも勝負になるはずもなかったのだ。


「『サウザンドサウンド』!弾け飛びなさい!」


「『チューイングリード』!雅夢沙羅ッ!」


音の爆裂破を放つラスクと変幻自在の剣を繰り出すチクル、その攻撃によりにも寄って最も早く反応したのは…。


「ひゃわ…あ〜、バトルにもならないかぁ〜」


この場に最も不釣り合いなゆるふわ女子…オフィーリアだった。彼女は信じられないほどの速度で音の衝撃もガムの剣も回避し、まるで地を這う虫のような俊敏さを見せ動き出す。


「何あいつ!?メチャクチャ速い!?」


「嘘だろ、将軍はともかく…なんだあの女。あんなやつ知らないんだけど!」


「ひゃわ〜!ひゅんひゅん!」


避ける、避ける、避ける、凄まじい運動能力を見せるオフィーリアに対して手も足も出ず攻撃の一つも直撃させられないラスクとチクル、幹部として相応しい実力を持つ二人の攻撃が空を切る…。


「あは〜!おそーい!」


「この!バカにして!」


「だったら直接!」


飛び道具をぶつけても倒せない、そう判断したチクルとラスクは武器をその手に踊るようにそして遊ぶように回避するオフィーリアに向け飛びかかり…。


「嗚呼…」


刹那、オフィーリアの緩み切った顔が…鉄のように鋭く固まり。


動きが────加速する。


「なっ!?」


と一言ラスクがあげる暇しか与えられぬほどの速度で、寧ろ逆にオフィーリアが二人の懐に潜る、すると…だるだるの袖に隠されたその手が露わになって、そして…。


「『アヴローラ・メメントモリ』」


「ぅあ─────」


「な…ぁ────」


漆黒の煌めきを帯びたオフィーリアの手が二人の体に触れた…その瞬間、ラスクとチクルがその勢いをその場で失い、倒れ込む。


転けたのか?それとも何かしらのダメージを負ったのか?…違う。


───死んだのだ。


「は?いや、なんだ…」


デッドマンが目を見開く、ただオフィーリアに触れられただけでラスクとチクルが死んだ。まるで毒を吹きかけられた虫の如く容易くその心臓を止められ泡吹いて死に絶えた。


あまりの事態に思考が停止する、そんなことが…ありえるのかと。


「にゅふふ…、にひひ…、必殺ってのはこういうのを言うんだよなぁ〜?」


「なんだよあいつ…!」


オフィーリアが使った魔術をこの場の誰も知らない。それもそうだ…古の魔術導皇がその総力を持ってその存在を根絶し忘却と言う名の封印を施した最悪の禁忌魔術、それこそが『アヴローラ・メメントモリ』


その別名を『絶命魔術』…即ちその魔術に触れた存在は、如何なる強者であれ一瞬で絶命する…史上最悪の魔術をオフィーリアは使うのだ。


死を扱うとは即ち人の領域に収まらぬ存在への昇華を意味する、生半可な実力では使うことさえ許されない絶命魔術を指先のように容易く扱うオフィーリアは笑う。


こんな存在が地上に実在することが許されること自体が…この世の道理に対する違法であろうとデッドマンは唾を飲む。


その隙にも、敵は待ってくれない。


「この程度ですか」


「ぐっ、どいつもこいつも…この俺をコケにしやがって…!」


ロダキーノが膝をつく。新たに用意した黄金の鎧が…鋼を遥かに上回る最高の硬度を持つはずの魔鉱石で作られた鎧が、ボコボコに凹み目の前の男…マクスウェルを睨みつける。


マクスウェル将軍、国内最強の存在である近衛騎士エクスヴォート・ルクスソリスと対を成すもう一人のマレウス最強は是非もなしと眼鏡をかけ直す。


「それで、最強がなんと?無敵がなんと?伝説が…なんでしたか?」


「この…軟弱なマレウス人如きが!アルクカース人の俺を見下してるんじゃねぇ!魔力覚醒!『伐折羅陀羅婆娑羅』ぁぁぁああ!!!」


「ほう、魔力覚醒」


全力で力を込め、黄金の鎧と同化し巨大な黄金魔神と化したロダキーノはマクスウェル向けて押し潰すように殴りかかる。


……マクスウェルはエクスヴォートと違い第三段階まで至っていない。彼は第二段階の魔力覚醒までしか習得していない。


第三段階のエクスヴォートと第二段階のマクスウェルではそもそも実力に差があるはず。なのに軍部での評価は『二人は互角である』と実しやかに囁かれている。


それは何故か?その答えは単純…マクスウェルという存在は、あまりにも異質だからだ。


「それならば私も魔力覚醒を使いましょうか…」


眼鏡のレンズが月夜を反射し光り輝く。そんな彼の異名は…魔力覚醒は。


「ふむ、では…『六つ』ほど同時に発動させれば圧倒出来ますかね」


「は?」


別名『明星のマクスウェル』…彼は本来、いやどんな人間でも必ず一つしか持たないはずの魔力覚醒を…同時に複数使える唯一の人間なのだ。


「六連魔力覚醒『ヘキサグラムの燐光』」


「は…な…え?」


光り輝く六角形の後光を背負い、輝く魔力を全身から放つマクスウェル。彼は同時に複数の魔力覚醒を使うことが出来る、正式な観測で確認されている記録では『同時に四十二の魔力覚醒を発動させた』との記述がある。


ありえないことだ、魔力覚醒とはその者の生き様であり多重人格者であろうとも魔力覚醒は一つしか習得出来ない。魔女でさえ、シリウスでさえ、一つだけなのだ。


だがあろうことかマクスウェルは同時に複数使える、一つ二つどころの騒ぎではなく数十…いや観測されていないだけで数百数千を同時に操れるかもしれない異形の存在なのだ。


この力故に第三段階のエクスヴォートと互角と称され、このマレウスの頂点に立つことが出来たのだ。


「同時に六つも…、どういう原理だよ。何をどうやったらそんな多数の魔力覚醒を使えんだよ…」


「さぁ、どうしてでしょうかね。少なくとも…」


バチバチと迸る電流、燃え盛る火炎、凍りつく冷気、粉砕する岩石、吹きすさぶ風、流れ湧く水…六つの属性を同時に生み出し片手に纏い遊ばせるマクスウェルの姿に畏怖を覚えるロダキーノ。


ラグナに対しては、格の違いを思い知らされた。


だが今目の前にした男は…マクスウェルはロダキーノに思い知らせる、格の違いではなく…次元の違いを。


「では、失礼して…」


刹那、マクスウェルの姿がブレる。輪郭がぼやけて姿が認識出来ない程の速度で──。


「終わらせていただきます」


「ッッッが…あ…!?」


一言、一撃、一瞬。ロダキーノの反応すら許さぬ速度で動いたマクスウェルはすれ違い様にその黄金の胴体へ複数の属性、複数の覚醒を纏った拳を叩き込みその全てを粉砕する。


たったの一撃でロダキーノの黄金の外殻は砕け散り、血を吐き白目を剥き倒れ伏した。悪魔の見えざる手最強の幹部が…こうも容易く。


(異常だ、こいつら二人とも異常だ…なんだこいつら、これじゃまるで…)


この絶望感は前にも一度味わったことがある。何をやっても無駄だと言われるようなこの感覚…それを前にして出来ることなど何もない。


オフィーリアもマクスウェルも常軌を逸した強さだ。下手をしたら八大同盟のボス級の強さだ、こんなのが二人も襲撃をかけてくるなんて。


「どいつも…こいつも!ふざけるなよ!目の前まで来てたのに!あと少しで再び裏社会の王になれたのに」


「裏社会の…王?」


「そうだ!この世界の裏側全てを掌握しぼくこそが!全てを牛耳る王になるはずだったのに!それをお前が…お前が!!」


怒りによって燃え盛るデッドマンは駆け抜ける、狙うはレナトゥスただ一人。どうあってもオフィーリアとマクスウェルには勝てない、なら宰相を狙い殺してやろうと杖を振り抜く。


「王、王か」


そんなデッドマンの言葉を反芻するレナトゥスは動かない、いや動けないのか。そりゃあそうだ、奴は戦士でも魔術師でもなんでもない宰相だ。国を動かすだけのこの女にデッドマンの一撃はあまりにも重く速すぎる、その頭蓋を叩き割るなど容易いと…少なくともデッドマンは思っていた。


「いや、王は私だ。表も裏も遍く全ては我が所有物だ…勝手に王を僭称するな。そう…不敬だな」


…しかし、そもそもレナトゥスを狙われてもオフィーリアもマクスウェルも動かない時点で…つまりはそういうことなのである。


「なっ…はぁ!?」


デッドマンは目を剥く、なんせ全力で振るったはずの杖が、一撃で数多の看守を吹き飛ばしたその一撃が…レナトゥスの片手に掴まれ防がれていたからだ。


押しても引いてもビクともしない、まるで杖が大岩に挟まれてしまったかのように抜くことが出来ない。それを掴んでいるのが…戦えない筈の宰相なのだから、尚更…。


「あーあー、レナトゥスしゃまが戦えないと思ってるのかにゃ〜?」


「憐れな、あのお方は宰相という座に縛られていなければ…エクスヴォートにさえ追随する猛者だと言うのに。伊達に私の上司はやってないんですよ…その方は」


「おっ…お前、強いのかよ!」


デッドマンの言葉通り、レナトゥスという女はそもそも普通の宰相ではないのだ。


その内に秘める魔力の総量はエクスヴォートさえ上回り、あのマクスウェルさえも従わせ、謀略渦巻くマレウス王宮をその身一つで切り抜け、あの破壊の化身と呼ばれたバシレウスの隣に立ち、殺されないばかりか暴走した彼を抑え込むくらいには…レナトゥス・メテオロリティスには実力があるのだ。


「然り、マレウス王宮という祓魔殿にて何度も命を狙われ、何度も罠に嵌められ、何度も絶望を味わいながらも私がこの座に座り続けているのは…全て、我が身を我が力で守り抜いたが故。君如きでは私は倒せない、そう…これが実力の差だな」


「この!ふざけるな!『一指・死神の狩り鎌』!」


折り曲げるは小指、それによって形作られる死神は独力で動き出しその大鎌でレナトゥスを狙う。


高速で振るわれ甲高い音を立てて空間を切り裂く鎌、それは一直線にレナトゥスの首目掛け飛び…。


「ところで君は知っているかな」


消えた、鎌が…いやデッドマンが出した死神がレナトゥスに触れた瞬間消えた。鎌がレナトゥスの首に当たった瞬間、まるでなにかが伝搬するようにそれが死神にまで伝わり魔術が根底から破壊された。


いや、破壊されたというよりこれは…何かが消し飛ばされた?それに鎌が消失する寸前なにかを呟いていたような気がしたが、まさか詠唱?ならこれ魔術か?そんな疑問を抱くデッドマンを前にレナトゥスは語り続ける。


「この世界で最も強き者の名を」


「な、なにが…」


「その者の名は魔女。世界最大の力の権化、八千年間という悠久の時を生き国を…世界を統治し続けた絶対存在。私は彼女達を超えることこそが人類の命題であると信じている」


「…非魔女国家の宰相が、魔女崇拝か?」


「崇拝ではない、宣戦布告だ。我らマレウスの民は盲目に従い進歩を失った魔女大国の民とは違い真なる意味で人類の命題に挑む崇高なる人間達だ、しかしてならば…超えるためにはなにが必要か?私は考えた。そんな時手に入れたのが…この力だ」


そういうなり、この国最大規模と称されるレナトゥスの魔力がとめどなく溢れ、洪水のように大地を覆いその圧だけでデッドマンを吹き飛ばさんが如き勢いで氾濫する。


「ぐっ!?なんて魔力だ…!?」


「私自身魔蝕の加護を受けて生まれた身でね。この魔力はその恩恵さ、だからこそお陰でこの魔術を操るだけの魔力を手に入れた…、そう『リューゲラディーレン』」


リューゲラディーレン…そう詠唱を施した瞬間、レナトゥスの手が白い光を放ち始める。白…というには白過ぎる。まるでその空間の全てが消し去れたかのような…言うなれば無色。


そんな光に触れたデッドマンの杖は…ごっそりと削られるように消失した。


「な……」


「これが私の魔術、かつて古の時代魔女レグルスが使ったと言われる伝説の魔術を現代化した、そう!言うなれば現代虚空魔術さ」


「虚空…魔術?」


それは存在する筈のない現代魔術、かつてレグルスだけが使えたと言われる最大にして最悪の魔術『虚空魔術』。触れたもの全てを消し去り削り取る第五属性『空』を扱う唯一の魔術。


その力は絶対無敵と思われた原初の魔女シリウスにさえも手傷を与え、その命を奪い去る起因にもなった強力無比な魔術系統。されど唯一の使い手たるレグルスが継承する事を嫌った為に伝承されず歴史の影に埋もれてしまった幻の魔術でもある。


当然ながら継承されていなければ現代化など出来るはずもない。故にその魔術は存在しない筈である。


しかし、レナトゥスは扱う。レグルスと同じように虚空をこの手に纏わせデッドマンを見下ろす。


「分かるか、魔蝕の加護があれば人類は容易く魔女の力を扱うことが出来るのだ。全人類が魔蝕の力を授かれば…皆が魔女と同じ段階に行き着けば、魔女はその特異性を失いただの人間となる!」


「お前……」


「そうだ!我等は神を降ろす!そして我らこそが神となる!…その崇高な目的を、お前達は邪魔をした、路傍に転がる石程度の邪魔さ加減ではあるが、それでも邪魔は邪魔だ、私は如何なる不安要素の存在を許さない」


拳を握る、魔力を滾らせる、その姿は本来の身長よりも何倍も大きく見える。こいつただの宰相じゃない…そもそも普通の人間ですらない。ただの人間がここまでの力を得ることはない。


……いや、まさか…こいつ、ひょっとして…。


「お前、まさか……」


「おっと、私の正体にも気がついてしまったか。ならなこの事殺さねばな…ではな」


こいつだけじゃない、レナトゥスもオフィーリアもマクスウェルも…こいつら全員揃って!!


「『ヴァイスラディーレン』!」


振り払う、射線上に白の極光を放つレナトゥス。それは空間に作用する消しゴムの如く目の前の何もかもを塵として消し去る、この世で最も無情なる力。


レナトゥスの目の前に存在していた何もかもが光と共に消え去る、瓦礫も雑草もデッドマン自身をも空間ごと消し去り無だけをその場に残す…。


「フッ、ハハハ…やはり素晴らしい、そう…素晴らしいな!この力は!まさしく王者の力!一切の敵対者を許さぬ究極の力!」


「ひゃ〜ん!さしゅがレナトゥスしゃま〜!だいだいだーい勝利でっしゅー!」


「宰相自ら戦わせてしまうとは、軍人として情けない限りです」


「良い!オフィーリアもマクスウェルもよくやった!そう!称え合おう!我らの勝利を!そして…我らの絶対性を!」


敵対者の全てを消し去ったレナトゥスは月夜にマントをはためかせ、天を仰いで高らかに笑う。悪魔の見えざる手?元八大同盟?何するものぞ、我らこそは新たなる世界と新たなる人類を生み出せし創世者となる者である。


「さあ行くぞ、路傍の石を蹴り飛ばし、あらゆる壁を叩き砕き、我らが望む世界を築く!天より見ていてくださいませ!我らは必ずや貴方の意志を継いで見せましょう!」


天に吠える、彼女にとっての信仰の対象 魔蝕に向かって、いや…その魔蝕の根源に存在する彼女にとっての神に…。


「故に我らに更なる加護を与え給え!我らが神!シリウス様ッ!!」


両手を広げ吠える。はるか古の時代に生まれし真人類、人間に新たな可能性を示した我らが祖は死してなお古き人類に道を示してくださっている。


ならば我らシリウスの信奉者はその意思に殉じて彼女の成し遂げようとしていた目的を遂行する必要がある。


そして、その為の準備は着々と進んでいる。見ていてくださいシリウス様…必ずや我らは貴方の御座にまで到達してみせましょうぞ!


……………………………………………………………………


「お?気が済んだか?エリス」


「エリスちゃん!」


「エリス…、どうやらラグナは上手くやれたようだな」


女子寝室の扉を開き、幾許かぶりにみんなの顔を直視する。ラグナの胸元で泣いて泣いて、悔しさを噛み殺して噛み殺して、悩みに悩んで…そして、エリスは吹っ切れましたよ。


泣いたら頭がスッキリしました!悩んだらお腹が空きました!考えてるのがバカバカしくなりました!


エリスがここでどれだけ考えても答えなんか出るわけない。答えのない問いについては考えないってのがエリスのポリシーだ。だから今は見ないフリをする…どうせいつか目を背けられない時が来るんだ。ならその時までこの問題は保留!


そしてそれよりも前になんとかしなきゃいけない問題について考えよう!…そう、その問題ってのは。


「みんな!改めて謝らせてください!すみませんでした!」


頭を下げる、謝るのは怒りに任せて単独行動した事だ。子供達を助けるためとはいえ単独行動した結果どえらいことになった、相変わらず怒りに身をまかせるとロクでもないことになるって言うのにエリスはいつまで経っても成長しない。


故に謝る、みんなに迷惑と心配をかけたから。全力で謝る。


そんな頭を下げるエリスを見てみんなは。


「別にいいよ、なんか問題があったわけでもないし」


「まぁ、次からはあんな単独行動は控えてもらいたいがな」


「心配はしてたんだからね!けど無事だから全部良し!」


「ん…エリスがまた元気になって…よかった」


肩を叩いて、無事ならばいいと言ってくれるみんなの言葉に泣き腫らした目がまた涙を絞り出そうとしてしまう。みんなの優しさを甘えではなく姿勢で答えなくてはならないだろう。


「踏ん切りがついたんだな、エリス」


「はい、ラグナのお陰です」


「俺は何にもしてないよ、気の効いたことも言えなかったから」


「いえ…ただ、貴方が側にいてくれるだけでいいんです。それだけでエリスは…強くなれますから」


「…おいおい」


なんて言ってラグナはやや照れ臭そうにそっぽを向く。でも実際そうだよ、彼が側にいてくれたからエリスは吹っ切れた、うじうじ悩むことがダメなことだと気がつけた。


嫌な考えに支配されてウダウダ言ってるエリスを黙って抱きとめてくれる、ただそれだけでいいんだ。逞しく頼り甲斐のあるその腕で…。


「はい、イチャイチャするのやめ。それより晩飯にするぞ!今日は俺特性激ウマラザニア!大量に作ったから食い尽くせよ!」


「はい!アマルトさん!ってか今って夜なんですか!?エリス朝ごはんも昼ごはんも食べてません!」


「声かけられる雰囲気じゃなかっただろお前!」


「エリス様、復活記念に私のタバスコ使います?」


「使いません!」


なんてみんなで和気藹々とダイニングにご飯を食べに行こうとした瞬間のことだった。


「待って…エリスさん」


「ん?プリシーラさん?」


止められる、プリシーラさんに。ややもじもじした様子で言いにくそうにチラチラと他所を見て、決心したように拳を握り…やっぱり無理かもと手を開き、それでもやはり言うべきだと拳を再度握り直し。


キッとこちらを見据える、…いい目だ。少なくとも以前とは違う、決心がついた瞳だ。


「どうしました?」


「…エリスさんには謝ってなかったから。ごめんなさい…エリスさんの優しさを裏切るようなことをして」


嗚呼、やっぱりプリシーラさんが悪魔の見えざる手の依頼人だったんだな。もしかしたら違うかもなんて考えていたけど…そっか。


やはり、エトワールに行くために、母親から逃れために、悪魔の見えざる手を頼ったんだろう。お世辞にもよい方法とは言えない…けど。


「いいんですよ、どの道助けるつもりでしたから」


「……エリスさんは、どこまでも優しいね」


「そ、そうですか?エリス助けには行ったものの結局プリシーラさんの事見つけられないばかりか別のことしてましたし…」


「ううん、エリスさんがここまで守ってくれたんだよ。守ってくれたから…私は最後まで迷っていた。この国にもまだこんな優しい人がいて、私を見てくれる人がいるなら…やっぱりやめようかなって」


「…………」


「でも私は結局間違えた方を選んだ、そこで思ったの…私が選ぶべきは、私を信じてくれる人たちなんだって、エリスさんやファンのみんな…そんな人達がいる場所こそが私のいるべき場所だって、ようやく…気がつけた」


何があったのかは知らない、けどあの魔手城にて彼女に大切な物の再確認をさせる何かがあったんだろう。ならよかった…、だってファンの皆さん、貴方の親衛隊を自称する皆さん、みんなみんな貴方のことが大好きでしたから。貴方がいなくなったら悲しみますよ。


それに、マンチニールさんもね。


「だから、私明日のライブで…歌うよ、アイドルとしての責任を果たしてみんなを満足させられる歌を歌う、だから…!」


そう言いながらプリシーラさんはエリスの両手を掴み、涙を目に浮かべながら…宣言する。


「だから、エリスさん…聞いてね。私…私に出来ることをするから」


「え?ええ…分かり…ました?」


その覚悟と悲壮に満ちた瞳、やる気があるのは結構だけど…なんでそんなにやる気なの?


まぁいいや、…楽しみにさせてもらいますよ。貴方の歌を…夢を、エリスに見せてくださいね。

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[良い点] 初めての感想です! 相変わらず面白くて一生読んじゃいますね。 デルセクト編から追わせて頂いていますがもう389話ですか…毎度楽しませて貰っていますm(_ _)m これからも頑張ってください…
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