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365.魔女の弟子とルクスソリス


「パッカラパッカラ〜」


「ヒヒーン」


サラサラと流れる川と落ちるような風に葉を揺らす葉の音色。名も無き森を超えた先にある緩やかな渓谷を進む馬車は久しく浴びる陽光に照らされ、ギコギコと車輪が音を立ててやや足場の悪い道を馬車は緩やかに進む。


「い〜天気だなぁ」


「ですねぇ、景色も最高です」


そんな馬車の御者をナリアさんに任せ、エリスとラグナは馬車の屋根に寝転び青空を眺め日光浴をしていた。


今日も穏やかな日だな、水辺を滑る風も心地良いし、静かで物思いに耽るには最高の環境だ。


「結局、あれから何にもなかったな」


「ですね、アマルトさんのカムフラージュが効いたのか…そもそもあれ以外の追っ手がいなかったのか。どちらにせよ平和なのは良い事です」


「だぁな」


一応襲撃を警戒して二人で屋根に登っていたが、特に何もない日々が続きエリス達はやや日和っているのかもしれないな。


……砲腕のロットワイラーの襲撃から早五日、名も無き森での旅路を終えエリス達は人目の付かぬ渓谷沿いを進みながら次なるライブ会場『丘の街パナラマ』へと向かっている。


が、以前の襲撃からもう五日も経つというのに敵の第二陣は現れる気配はなく。エリス達の全力の警戒も空振りを決めてしまっている…というわけだ。


あれから馬車をちょっとだけ改造したり、デティが馬車の魔力機構の操作法を覚えたり、日中は御者の他に数人が屋根に登り即座に戦闘態勢を取れるように待機したりと色々対策を打ち立てたんだがなぁ。


「もしかしたら、敵の狙いは俺たちにストレスを与える事だったのかもしれないな」


「え?そうなんですか?」


「飽くまで仮説だけど、追ってきたのがアイツらだけってのが引っかかる。居場所が分かるなら他の幹部も誰か動向してりゃ前回の襲撃だってもっと上手く行ってた筈だろ?」


「確かに…、幹部でも仕留められない存在だってのは敵だって分かってるのに。その割には戦力が心許なかったですね」


「ああ、だから奴らにとっての決戦場はここじゃない。ここは飽くまで下拵えってとこだろ」


ラグナの語る敵の狙いを聞いてなんとなく納得が行く。敵が本気だったならエリス達はもっと苦戦していた筈だ。しかし、そこで本気を出して挑んで来なかったってことは敵にとってもっと都合のいい戦場があるって事だ。


…今のところ思いつくのは次の目的地である丘の街パナラマだが…。パナラマには四ツ字冒険者がいる、魔女大国最高戦力に匹敵するとも謳われる協会最強の冒険者の一角が待機してるんだ。


もし、パナラマで襲撃を仕掛けてくるというのなら、そっちの方がありがたいな。


「ま、敵が何考えてるかなんてここで考えたって仕方ないんだけどな」


「そうですね、…ふぁ…眠い」


「ちょっと寝るか?俺が見張っとくけど」


「ん、大丈夫です」


あんまりにも呑気な日差しなので眠くなってしまったが…寝るわけにはいかないよ。みんなちゃんと仕事してるんだから、エリスだけ呑気にグースカとはいかないよ。


いやでも暇だな…。


「おーい!お前らー!」


「ん?アマルト?」


「暇なら釣りでもしてろよ、ほれ釣竿」


するとアマルトさんが屋根に登ってきて簡素な釣竿を二本こっちに寄越してくるのだ。いきなり何を言いだすんだこの人は。


「釣りでもって、いきなりどうしたんですか?」


「いや、いい感じの川が目の前にあるし。なんか釣れりゃ飯にしてやるよ」


「マジ?頑張ろうかな…!」


「いやラグナ…頑張ろうかなって、そもそも目の前の川で釣りするんですか?馬車動かしたまま?」


「それでもバカな魚は釣れるだろ、手持ち無沙汰ならやってみるだけやってみな、よっと」


するとアマルトさんも馬車の上に着地しその場に座り込む。幸いここは渓谷…川との距離も然程離れてないしルアーを引きずりながらなら釣りくらいは出来るだろう。釣れるかどうかはまた別の話だがな。


まぁいいや、どの道暇だし釣り針くらいなら垂らしてみるかな。


「でも急に魚なんてどうしたんですか?魚が欲しいなら帝国から取り寄せればいいじゃないですか」


「それでも目の前で釣った魚にゃ鮮度じゃ敵わないだろ?新鮮な魚ってのはそれだけで美味しいもんさ」


「ふーん、じゃあ俺あれ食いたいな」


するとラグナは釣り針を垂らしながら『あれだよあれ』と手を握りこむようなジェスチャーを見せると…。


「ああ!あれだ、スシ!スシが食いてえ」


「はぁ?スシ?…まぁ、昔勉強したから作れないこともないけどよ……ありゃあ普通海の魚でやるもんだ、川魚でスシなんて聞いたことねえよ」


「そうなの?魚ならなんでもいいと思ってた」


「川魚はクソみてえに寄生虫だらけだから普通は生じゃ食えねーの。まぁ海魚も生で食うのはどうかと思うけど」


スシ…その名前には聞き覚えがあった。確かその名前を口にしたのは…そうだ、トツカから来た外来人のヤゴロウさんだ。


確か彼が言うに生の魚の切り身を米に乗せただけの簡素な料理の名前こそが『スシ』、ヤゴロウさんの故郷トツカの伝統的なファーストフードだと言うそれの名前を久しく聞いてなんだか懐かしい気分になる。


「二人ともスシを知ってるんですか?」


「ん?あ〜、昔イオに食いたいって言われてよ。一応見様見真似で作ったことがあるんだ、評価はイマイチだったけどなー」


「逆に聞くけど、エリスは知ってるのか?」


「ええ、昔マレウスを旅していた時出会ったトツカの旅人さんから聞いたことがあります。現物は見た事ないですが」


「マレウスで、なるほど。通りで」


トツカとディオスクロア文明圏は殆ど貿易を行っていないという。故に互いの文化を知り得る者は殆ど無く、エリスもこの旅でトツカの名前を聞いた事は殆ど無い。それほどに縁遠い存在たるトツカの料理を…どうしてイオさんが欲しがったんだ?


するとアマルトさんはしたり顔でへらへらと笑い。


「なぁエリス、お前さては知らねえな?今マレウスでトツカ食が大ブーム起こしてんのを」


「え!?流行ってんですか!?あの変な食べ方が!?」


「マレウスには元々生食文化があったからな。受け入れる土壌はあったんだろう、確か数年くらい前からマレウスはトツカと独自の貿易ラインを確立して向こうの品物をこっちに流してるって聞いたことあるぜ?その中にゃあ当然向こうの食文化も含まれてるってわけさ」


他国の食い方が一時的に国内で流行るってのはよくあることだとアマルトさんは言う。ましてやそれが殆ど交流が無かった外文明の話なら興味はより一層唆られるというものだ。


数年前ってことは多分、エリスがマレウスを出てから…レナトゥスが本格的に政権を取ってからの話なのだろう。本当にエリスがいない間に変わったんだな、この国は。


「まだアド・アストラでさえ確立していない外文明との交易、それをマレウスは独力で成し遂げていたんだ。…本当はロストアーツの一件が無けりゃ俺とメルクさんで外文明の大陸に行って友好関係を結ぶプロジェクトもあったんだがな…色々あってオジャンだ」


なんてラグナはやや悔しそうに頭をかいて釣り糸を刺激する。多分デティが外文明に対して接触していたのもその一環なのかもしれない。


ディオスクロア文明圏は世界最大の文明領域だ。しかし世界そのものではない、ディオスクロア文明圏の外には本当にまるっきり未知の世界が広がっている。


…うーん、ワクワクするなぁ。もしこの旅が終わってその外文明に行くってプロジェクトが生きてたらエリスも混ぜて欲しいなぁ。


「そうだったんですね…」


「今じゃマレウスも土地の一つを丸々トツカに分け与えて『特別領事街』なんてのも作って上手く付き合ってるって話だ。きっと魔女大国に対抗するに当たって外に同盟国を作ろうって算段だろうな。外文明にも最近じゃ何故か魔術が普及し始めてるしな」


「へぇ、…じゃあマレウスだとスシとか食べられるんですか?」


「紛い物なら多分どこでも、でも本物を食おうと思ったら特別領事街に行くしかないんじゃないか?行ったことないから知らんけど」


トツカに分け与えられた街…特別領事街か。そこでならきっとマレウスでありながらトツカの国風を味わえるのだろう。


…もしかしたら、ヤゴロウさんもそこにいるかもしれないな。もしまだマレウスにいるのなら会って挨拶くらいはしておきたいな。


「ってか全然釣れねぇんだけど!?」


「やっぱ移動しながらじゃ無理があったかな」


「釣りは忍耐と根性ですよ二人とも。何があってもここを動かないくらいの気概で臨まないと漁果は得られません」


「へぇ、流石旅人。釣りは慣れてんのか?」


「いえ、普段は水に潜って魚取ってるんで釣りとかは殆どしないですね、面倒いししんどいので」


「熊かお前は」


ここでこうやって釣り糸垂らすより川の中に飛び込んで魚捕まえた方が早い。三年間の旅生活でもそうやって魚捕まえてましたからねエリスは。


しかし本当に釣れないな、やっぱ餌つけてないからな。…なんて悩んでいると。


『エリスさん!エリスさん!』


「ん?どうしました?プリシーラさん?」


『ちょっと見て欲しいものがあるんだけど!』


「はーい、今行きますよ〜。というわけでアマルトさんパス」


「は!?なんで俺!?いや俺これから今日の晩飯の下拵えが…あーもう!行っちまいやがった!」


響いたプリシーラさんの声に応えてエリスは馬車の中へと戻りアマルトさんに釣竿を押し付ける。


あれから、プリシーラさんの様子はというと…。


「エリスさん!衣装こんな感じでいいかな…」


スルリと入口の縁を掴み馬車の中に入り込むとそこにはコンクルシオの街で着込んでいたアイドル衣装に身を包み、その場でくるりと回っている。


「ええ、いいと思いますよ」


「えへへ、メグさんにほつれてた所とか直してもらったんだけど。なんか前より動きやすい気がするのよね」


「プリシーラ様の衣装はサイズから何から作りがチグハグでしたので、このメグ…全力で修復しておきました」


キラーンと輝く裁縫針を構えるメグさんによって直されたアイドル衣装は以前見た時よりも心なしか輝いて見える。いや、輝いているのはプリシーラさんの方か。


「フッ、やる気十分といった様子だな?プリシーラ殿」


「うん、…ここまでしてもらったんだもん。次のライブはきっちり成功させたいの…、こんな風に思ったのなんて久しぶり」


久しぶり…そう語る彼女の背中は、どこか疲れているようにも見えて…それでいて燃えているようにも見える。失った煌めきが彼女の中で戻りつつある…そんな気がするんだ。


「プリシーラさん…」


「私、やっぱりまだアイドルを続けるかやめるか決められないけどさ。でも今は…エリスさんの為に、みんなの為に歌いたい。それだけは胸を張って言えるよ!」


胸を叩いてそう語る彼女はブレていない。迷いがない。最初会った時のように迷っていないなら…きっとライブは成功するだろう。


その為にもエリス達がキチンと守らないとな。


「プリチーだね、ああいうキラキラな衣装には憧れるかなぁ」


「デティも、着たら…似合うかもよ…?」


「私の場合オーダーメイドしないといけないから、興味本位で一から作るのはちょっとねぇ〜」


「そっか…」



「それより、もうすぐ次の目的地パナラマが近いんだ、プリシーラ殿だけで無く我々も準備を進めよう」


本を閉じ、華麗に立ち上がるメルクさんが語る。準備…それは次の目的地丘の街パナラマを見据える。


……丘の街パナラマ。小高い丘の上に建てられた街でありなんとも気色悪い事に街の80%が急斜面という住みにくそうな街だ。道端でボール遊びをしようもんなら瞬く間にボールが街の外まで走っていってしまうらしい。


なんでこんな変なところに住居を構えているのか…。それはやはりパナラマも昔はパナラマ王国という国であった名残。魔獣から自衛する為に高所に陣取り街を防衛する為パナラマ人は古来より丘の上に街を作るという風習があったらしい、これはその名残だ。


とはいえ、今はそんな風習も形骸化している。自衛なんかしなくても冒険者に依頼すりゃ街に近づく前に魔獣を倒せるからね。


「パナラマはマレウスでも随一の武名で知られるルクスソリス家が治めている地としても知られています。なんでも当時の当主が数十年前に巻き起こった国内の動乱を鎮め大活躍して以来マレウスでも屈指の武人の街と知られているようでございます」


「細くありがとうメグ、まぁ先程調べた通りパナラマは元来魔獣に対する自衛意識の高い街だ。それは当然外からやってくる賊に対しても有効、つまり前回のように悪魔の見えざる手が外から攻めてくる可能性は低いだろう」


丘の上にあるということは周辺の見晴らしが良いということ。前回のように外から一段連れて現れれば街に入る前に『なんだあいつら!?』となってバレることになる。


連中だってプロだ、前回と同じ手段では攻めてこないだろう。


「あー、そういえばさ。街の防衛で思い出したんだけどさ」


するとデティがネレイドさんの膝の上でポンと手を叩き。


「どうしたんですか?デティ」


「いや、街の防衛ならコンクルシオもしてたよね?街の門締め切ってさ?厳重に警備してさ?なのにあーんなにあっさり街に入り込まれて…、確か西門が開いてたってアマルト言ってたよね。どうやって開けたのかな」


「そういえばそこについてはノータッチだったな…」


コンクルシオは四方の門を閉じていた。外から開けることはほぼほぼ不可能と言えるほどに厳重に、しかしアマルトさんは事前に何者かが西門について話していることを聞き及び現場に急行したところ…閉まってるはずの西門が開いていたのだ。


これはどう考えても内部から開けられたとしか考えられない。だがどうやって…とみんなは考えるが、エリスは知ってる。


「その件については、多分ですが答えはわかります。過ぎたことなので特にいうこともないかと思ってましたが…」


「ん?そうなのか?だが共有してくれ。もしかしたら何かしらのヒントになるかもしれない」


「分かりました、と言っても今更答えあわせも出来ませんが…門を開けた犯人はエドマンです。あの街長が門を開けたんです」


「何!?街長自ら街の中に賊を招き入れたというのか!?ありえるのかそんなこと…」


「いえ、多分ですがエドマンは街長じゃありません。元々悪魔の見えざる手だった男でしょう…その構成員が街長として入れ替わり内部で工作を行ったものと思われます」


おそらく犯人はエドマン、アマルトさんが聞いた謎の密会を行なっていたのもエドマンで間違いないだろう。彼は本来の街長ではなくその地位を簒奪し街長になりすましていた偽物…その正体は悪魔の見えざる手の構成員だろう。


これに気がついたのはコンクルシオを出てからだから追及することは出来なかったが、奴が偽物である事を示す事柄はあった…その時に違和感を感じられなかったのは痛恨の極みだ。


「偽物?何故そう言い切れる。そもそも我々は彼と殆ど話してもいないのに」


「必要ありませんよ、あの街は特殊でしたからね。…デティ?あの街の人って他の人に会った時、一番最初に何しますか?」


「え?…うーん、挨拶?いやあの街の挨拶はチッスなんだっけ?」


「そうです、街の人間全員がキスを求める中…エドマンがエリス達と出会った時、求めた挨拶がどんなものだったか覚えてますか?」


「…………握手だった」


ネレイドさん正解です、その通り。エドマンはエリス達に邂逅した時…いの一番に握手を求め、その後キスを求めてくることは一度としてなかった。


コンクルシオの伝統的な挨拶を何故街長たるエドマンがしない?答えは単純。彼はコンクルシオの街の人間ではないから咄嗟に出てこなかったのだろう。


「なんと…奴が工作員だっただと?クッ!私としたことが気がつけなかった…!」


「待って!それおかしいわよ!エドマン街長は私を出迎えた時何人もの街人に会ってたけど誰も偽物だなんて言わなかったわよ!」


そうプリシーラさんは否定する。なるほど、彼女はエリス達よりもエドマン街長と交流してるのか…。


「その時エドマンは貴方にキスを求めましたか?」


「…………求めてない、みんなが私にキスを迫る中、彼だけがそれを遠巻きに見てた…」


「ならやはり」


「でも!街人が指摘しないのはおかしくない!?」


「おかしいないよプリシーラちゃん」


しかし、プリシーラの否定をデティが否定する。うん…まぁ、そこはどうにでもなるんだよね、恐らくだが…。


「この世にはね、変身魔術ってのがあるの。それを使えば顔も体型も変えられる…色々制約はあるけどそれを使えば変装することも可能だよ」


「そんな…!じゃあ本物のエドマンは…!」


「まぁ、生かしておく必要はないだろうな」


「ッ!!」


既に本物のエドマンは殺され、門を開けるためだけに成り代わりその立場を奪われたのだ。今頃コンクルシオの街は被害を受けたにも関わらず街長不在でどえらいことになってるはずだろう。


…酷い話だが、エリス達にはどうすることも出来ない。


「というかデティ、貴方見抜けなかったんですか、貴方なら変身魔術も魔力感知で見破れたでしょう?」


「会ったの一瞬だったし…緊張してたし…ううー、ごめーん!」


「まぁエリスもこの件の共有が遅れたので何も言えませんが…」


「それに、変身魔術もそこまで便利なものでも無いし…ってかマジで魔力感じなかったし、不思議だなぁ……」




「ふむ、参ったな。向こうには変身魔術の使い手もいるのか。そしてこうも簡単に成り代わって近づいてくるとは…危険だな」


変身魔術の存在は、ある意味敵方にとってのジョーカー。どこにでも配置できどのようにでも使える文字通り人攫い屋にとっての切り札なんだ。


言うまでもないが、きっとパナラマの街にも既にそいつは移動しているだろう。何処に居て誰に入れ替わっているか分からない以上、警戒しなくては。


うん、これもっと早く共有とくべきだったな。反省しないと。


「ともかく、何があろうともライブは成功させるから…安心しろ、プリシーラ殿」


「はい、ありがとうございます。メルクさん」



「プリシーラちゃん…結構素直になったね」


「…………」


ネレイドは見る、当初出会ったばかりの頃はツンケンしていた彼女が今はこうも素直に笑っていると言う事実を見て、ニッコリと微笑むが。


対するデティは、何も答えることはなく…ただ眉を顰めていた。


「…………さて、それはどうかな」


デティには見えていたから。プリシーラの内面から渦巻く魔力…それは間違いなく、罪悪感からくるものだったのだから。


……………………………………………………


『パナラマが見えてきましたよー!降りる準備を〜!」


そんなナリアさんの言葉と共に皆一様に支度を整え馬車の外に顔を出す。丘の街パナラマ…それが悠然と視界に広がり、溢れ出た第一声は。


「あ、意外にちゃんとした街なんだ」


どんなのを想像していたのか、デティがそう口にする。


目の前に見えるのは山と丘の境目くらいの小高い丘をグルリと蜷局を巻くように石畳が敷き詰められ、その脇を彩るように建物が真っ直ぐに上を向いて建てられている。意外にちゃんとしていると言うより街としてはかなり栄えている部類だ。


「どんな物を想像していたんだデティ」


「こう、丘に沿って建物が建ってて、家とか全部斜めなの」


「それは住みにくいというより住めないだろ…」


アジメクにはあれくらい大きな丘とかないから見慣れないのかもしれない。あそこは信じられないくらい平原しかないからな。


「…ライブ会場な丘の頂上。領主館の目の前で行われる予定だよ」


「へぇ、領主様の目の前でライブたぁ気前がいいな」


「そこしか広場がないそうよ」


「あ、そう言う事」


丘の上に視線を向ければ立派な石のお城が立っている。城の景観とは即ち持ち主の権勢を現す。立派に磨き込まれた白岩の壁を見るにどうやらエリス達が想像しているよりもこの街はそれなりの立場ある街のようだ。


「しっかし立派な城だな、攻め落とすのが大変そうだ」


とはラグナの評価、これから立ち入る街を攻め落とす云々の視点で見るのはどうかと思うが…、ああそう言えば。


「ここの領主様は武勇で知られる方らしいですよ?確か、ルクスソリス家って」


「…ルクスソリス?なんか聞いたことあるな」


「知ってるんですか?ルクスソリス家を」


「知ってるってか、なーんかどっかで聞いた気がするんだよなぁ」


「武勇で有名だからでは?」


「んー…分からん、思い出せん」


なんか気になる言い方だな、もしかしてルクスソリスってラグナでも知ってるくらい有名な家なのかな。でも国交断絶してるマレウスからデルセクトを挟んだアルクカースまで轟くって相当なことだと思うけど。


「ここはレナトゥス派の街だからね、資金も潤沢なんだと思う」


「レナトゥス派…宰相レナトゥスに恭順する者たちか?」


「うん、レナトゥスの第一の子分でもあるチクシュルーブの領内はあの人の庭みたいなもんだから」


そう言えばここは王貴五芒星の理想卿チクシュルーブが保有する領土内部だったな、うーん…目下のところエリス的にはレナトゥスは油断ならない存在というか、事実上の敵みたいなもんだからなぁ。ここの領主もあんまり気を許していい相手ではなさそうだ。


「丘の入り口に馬車を停める場所があるみたいですね、そこに停めたらみんなで行きましょうか」


「そうだな、まずはエリスの知り合いっていう四ツ字と合流しとかねぇと。合流場所は書いてあるんだったか?」


「はい、パナラマの領主館にて待ち合わせの予定です」


「うげ、頂上じゃん…」


「ん、じゃあまずはそこに移動しようか。プリシーラも付いてきてくれるか?」


「うん、お願い」


ラグナが取り敢えずの動きを纏める頃、丘の入り口…複数の馬車が規律的に停められている地点にエリス達の馬車も加え、長い旅路は一旦止まる。


「よし、到着!ジャーニーもお疲れ様」


「ヒヒーン!」


「僕達が仕事してる間、ゆっくり休んでね」


よしよしとナリアさんはジャーニーの頭を撫でながら御者席から降りて軽く屈伸をする。


ちなみに、エリス達が長期間馬車を離れる場合その間のジャーニーの世話はメグさんの直属の部下がやってくれるようだ。冥土大隊から引っ張ってきたプロの厩務員らしく馬の管理には慣れているとのことなので安心なのだが。


アリスさんやイリスさんといい、ガンガン帝国から人員引っ張って来て…メイドの皆さんも大変だ、彼女達には感謝しないと。


「よしっ!じゃあ行こうぜ!」


「あ!ちょっと!ラグナぁ!」


ウキウキした様子で今まで疼きにうずいていた体を馬車から跳ね飛ばし、ラグナは早速パナラマの方へと向かってしまう。全くもう…なんて言えるほどエリスも冷静ではなく大急ぎでラグナを追いかけ、皆もそれに追従しエリス達のパナラマの冒険は始まるのであった。


………………………………………………


「ずーっと坂、足腰痛え」


「文句言わないでくださいよ、アマルトさん」


「ネレイドさーん、ごめんねー」


「いいよ、しっかり掴まってて」


「ここローラーつけて走ったら面白そうじゃありませんか?」


「ぼ、僕は遠慮します」


なんて意気込んだのも束の間、永遠に続く坂はエリス達の意気込みを挫くには十分だった。まぁ丘の上に出来てるからね、当然ながら平地はなくずーっと後ろから引っ張られるような心地で坂をみんなで登り続けるんだ。


アマルトさんはひぃーと汗を流し、デティなんかはもう早々に諦めてネレイドさんにおんぶしてもらってる。メグさんは…まぁこの人はいつでも人生楽しそうだし、ナリアさんも体力は結構あるから大丈夫そうだ。


「プリシーラさん?大丈夫ですか?」


「う、うん…」


プリシーラさんも最初は意気込みよく歩いていたがそろそろバテて来たのかちょっとキツそうな顔してたので、背中をそっと押してあげる。このままだと転がっていっちゃいそうだ。


「面白い街だな、日常生活送るだけで足腰の修行になりそうだ」


「お前は随分余裕そうだなラグナ…」


「まぁ昔は岩引いて山とか登らされたしな」


「くぅ、私も普段からポータルを使って楽などせず階段使えばよかった…!」


「ははは、…しかしこの街、なんか妙だよな」


そう語るラグナの視線は鋭く、歩き渡るパナラマの街並みを見るのだ。変…と言うほど変には見えない、多少急勾配にはなっているもののそれ以外は一見すれば普通の街だ。


…けど。


「ああ、コンクルシオの時のような活気がない」


メルクさんも既にその違和感には気がついていたようだ。そう…活気がない。人通りは少なくプリシーラさんのライブが明日あると言うのになんだか街全体が元気がないんだ。異様に静かっていうか…擦れ違う街の人たちもなんかエリス達の顔を見るなり変に怯えるように見てくるし。


「この街じゃ、あんな風に怯えた目で見るのが挨拶なのかもな。コンクルシオみたいにさ」


「バカなこと言ってないのアマルト、あの人たち本気で怯えた魔力してたよ」


「何かあったんでしょうか」


視線を走らせる…、うん。やはりそうだ、活気がないと感じる違和感の正体…分かったかも。


「ん?エリス。なんか分かったか?」


「え?顔に出てました?」


「ああ、エリスって何かに気がついた時目がキリッとするから」


は、恥ずかしい、ラグナに指摘されて目元を触ると確かにやや強張っているのが分かる。うー…分かってても人前で言わないでくださいよ。


「…はい、この街活気がないんじゃなくて子供が居ないんですよ、子供」


「え?あー…確かにいないな」


「うん、いないね…多分外で遊べないんだよ…。こんな坂じゃサッカーも出来ないしね…あ、違うよ?ダジャレじゃないよ?」


わかってますよネレイドさん、だからそんなにアセアセしないでください、デティが落ちそうです。


「子供が居ない…ってわけでもなさそうだ、まぁこういう街なんだろ」


よくよく見てみれば窓の奥に子供の姿は見える。ただ単に子供が誰一人として外に出てないだけで居るには居るんだな。ラグナの言う通りそう言う文化のある街なのかもしれない、外にあんまり子供を出してはいけないとか子供は外出してはいけないとか…そんな感じの風習があるんだろう。


「これなら鳥にでも変身して飛んでくりゃよかった」


「そう嘆かないでくださいませアマルト様、ほら…領主館が見えてまいりましたよ」


まぁともかく子供が何処にいてなんで外に出ないかとかそう言うのは言ってしまえばどうでも良い事。今エリス達が専念すべきはプリシーラさんの護衛だ。


数十分後程登りに登ってようやく見えてくる頂上。そこには久しく見える平地と豪勢な白岩の城見えてくる。そして恐らくライブ会場として建設されたであろう木組みのステージも脇に見えるな。


コンクルシオほど大々的にではないもののそれなりの大きさだ、明日はここに人が殺到するのだろう。


「……他の冒険者はいないみたいだな」


「ですね、…死傷者はそれ程多かったようにも見えませんが、やはりまだ回復出来ていないのでしょう」


コンクルシオにいた数多くの冒険者達。プリシーラの護衛や彼女の親衛隊の姿はそこにはなく、建設を急ぐ業者のみが屯している。


悪魔の見えざる手は護衛の冒険者を進んで排除しようとしており、前回の襲撃でその大部分が撃破されてしまった。冒険者の彼らとてなまじ修羅場をくぐっていないから全員殺されていました…なんてことはないだろうが。


少なくとも彼らと合流は出来ないようだ。


「………………」


プリシーラさんは何も言わない、ただ冒険者の居ないステージを見て下唇を噛み締めている。何にも思わない…ってことはないだろう、彼女はそれほど冷酷になれるタイプじゃない、だがだからと言って涙したりするほど甘くもない。


冒険者の彼らは仕事を請け負い全う出来なかっただけなのだ。


「でも四ツ字冒険者ってのあそこの城にいるんでしょ?どんな人か楽しみだね」


「だね、…エリスと知り合いって言うけど…」


デティとネレイドさんの視線を受けながら、エリスは再び考える。結局その四ツ字が誰か…と言う答えは出なかった。多分だがどれだけ考えても分からない気がする、これならもう直接会って確かめた方が早い気がする。


故にエリス達はパナラマの頂上に鎮座する白岩の城の門を目の前に眺め…その前を守る守衛に軽く挨拶をする。


「コンチワー、アイドル冒険者プリシーラ一丁お持ちしやしたー!」


「ん?アイドル冒険者…つまり君達がプリシーラ・エストレージャ殿の護衛の冒険者か?話には聞いている、領主様と協会から派遣された四ツ字冒険者様がお待ちだ」


アマルトさんが軽く手を挙げて声をかければ守衛は全てを察したのか、小さく頷き内側の兵士に合図しその重厚な門を開ける。


「中で既に待っている、急ぐように」


「へいへいよー、ほら行こうぜ」


「アマルトー!もっと恥ずかしくない振る舞いをしてよー」


城の門をくぐり内へと歩みを進めるエリス達。外から見ても思ったが…この城以外に出来がいい。景観もそうだが防衛設備もかなりしっかりしている、これは城っていうより…。


「外から見ても立派だったが、近くで見たらなお顕著だな、まるで要塞だ」


「要塞?」


ラグナがポツリと口にする。エリスも同じ意見だ…まるで要塞や砦の類だ。パナラマは古来より自衛能力の高い国であったとも聞くし多分その名残なんだろう。


門を潜り、砦のような城の中に入れば内側は無骨な石造りとなっており、見栄を張るような表の美麗さは無く、丈夫さや力強さを感じさせるデザインとなっている。


「ああ、要塞だ。しかもこの城…多分改修されて間もない。恐らく当代の領主が居城に改造を施したんだろう」


「凄いねラグナさん、多分その通りだよ…だってこの城の主、パナラマ領主は勇猛で知られるマレウス切っての勇将だから」


「へぇ、流石詳しいなプリシーラ」


プリシーラさんは語る、この城の主人パナラマはマレウスでも知られる将であると。武名で知られたルクスソリス家、それがこの街の領主様だ。


「名をゴードン・ルクスソリス。チクシュルーブ領の大戦力の一翼を担う剛騎士。別名戦の申し子なんて呼ばれるくらい凄い人なの」


「へぇ!戦の申し子!」


「なんでワクワクしてるのラグナさん、ゴードンさんはもう騎士を引退して久しいけど未だ自領の強化に勤しんでる人だから…怒らせたら怖いよ?」


「だろうな、さっきの兵士の装備はどれも最新式の剣や鎧だった。その辺に金を惜しまないタイプってのは戦争が好きか自分の領土が好きかのどっちかしかいない」


視界の端に移る兵士たちの装備、それはどれも美しい銀色でありよく磨き込まれている事がわかる。城を要塞のように改修したり兵士の装備を整えたり…そのゴードンって人はかなり防衛面に気を使っているようだ。


「しかし、怒らせたら怖いって…プリシーラさん、ゴードン卿とは知り合いなんですか?」


「…昔あった事があるだけよ、それよりほら…噂をすれば」


「んん?」


何故プリシーラさんと地方の領主に面識があるのか…今までパナラマに対して一切反応を見せていなかったのに、ここに来て何か知っている素振りを見せるプリシーラさんに違和感を感じるも華麗に流される。まぁ聞いてほしくないなら聞きませんが…。


それより、プリシーラさんの言う通り。エリス達の歩む石の回廊…その向こう側、何やら騒がしい一団がやってくるのが見える。


人影は三名、それは何やら言い合いをするようにギャーギャーと喚きながらこちらに向かってまっすぐ歩いてくるのだ。


「お祖父様!冒険者など頼らずともパナラマの地は我ら兄弟にお任せください!」


「そうですよ!兄様の言う通りです!どこの馬の骨とも知らぬ者共に守ってもらわねばならない程我らルクスソリス兄弟は軟弱ではありません!」


騒いでいるのは二人の若者だ。二人とも身綺麗に髪や服を整えていることから、或いはその身に纏う鎧の豪奢な飾り付けから相応の地位にいる事がわかる。


自らをルクスソリス兄弟と名乗る二人の若者、片方は無骨な剣を、もう片方は巨大な斧を軽々と片手で持ちながら中央に立つ大男を責めるような口調で捲したてる…しかし。


「ガハハハハハハ!気合いは十分!されど武勇と蛮勇を履き違えてはならんぞ!ぐわはははははは!」


大男、長い白髪は腰まで届き、三つ編みにした真っ白なあごひげは胸元まで届く異様な姿の巨漢の老人。いや老人かあれ…と思うほどに若々しさに満ちた瞳を持った老騎士は岩みたいな胸板を揺らしながら甲冑を鳴らしルクスソリス兄弟の言葉を無視してこちらに歩みを進める。


…恐らくだが、あの剛毅なの老人が例の。


「む?ほう!噂をすればどうやら着いたようだな!見慣れぬ風体の者共がいるぞ!」


「貴方が、このパナラマを治める領主のゴードン・ルクスソリス様…でよろしかったでしょうか?」


こういう時、エリス達を代表してサッと前に出てくれるのはラグナだ。彼は雲を突くような高背の老騎士を前に恭しく、そして礼儀正しく一礼をして見せる。


するとラグナの態度を痛く気に入ったのか、老騎士は再大口を開けて笑い。


「ガハハハハハ!その通り!儂こそゴードン・ルクスソリスである!この気高きパナラマの地を守護せし剛牙のゴードンとは儂の事よ!」


ゴードンさん…この人がマレウス切っての勇将。今はもう現役を引退しているらしいが…これあれだ、マグダレーナさんとかプルチネッラさんとかと同じでまだまだ全然戦えるタイプの老人だ。


何せその肉体、未だ一切の衰えを見せていない。その身を守る分厚い鉄板の鎧と通常のそれよりも数段は大きなハルバード。それらを身につけながら全く重さを感じさせていない…この人強いな。


「ガハハハハハ!若者にしては礼儀がなっているな!」


想像していたよりずっと鋭い目つきと豪胆な肉体。もっとでっぷり太ったジジイを想像していたが、やはり戦の申し子と呼ばれるだけの器と胆力は健在なようだ。


「お前達がプリシーラを護送してきた冒険者で良いのだな?」


「はい、この地で催されるライブの為ここまで彼女を連れて参りました」


「ん?うむ!ご苦労であった!ケイト殿からは聞いているぞ!なんでもプリシーラを狙う不届き者がいるとか…」


「それはこの目で確認しております、コンクルシオの街も下手人によって甚大な被害を被っています」


「ガハハハハハ!まぁあの街は腑抜けの街だからな!仕方ないだろう!それよりもお前達の話や名が聞きたい!これより来賓室を開く!着いて参れ!」


まさしく剛毅豪胆、ゴードンは高らかに笑いながら踵を返し鋭い足取りで来賓室へ向かっていく。エリス達もまたそれに追従しようとするが…。


「お前達が、冒険者だな」


それを止めるのはルクスソリス兄弟。ゴードンに向け自分達だけで十分だと主張していたように二人はエリス達に対して鋭く怪訝そうな視線を向けている…というか、まぁ敵視だな、こりゃ。


ったく、どいつもこいつも出会い頭に嫌そうな目でこっち見やがって。マレウスではこれが普通なのか?


「俺はヴィンセント・ルクスソリス。今は亡き父に代わりパナラマの未来を守る勇将ヴィンセントだ、誰かの手を借りるつもりはないからよろしく」


「僕はシーヴァー・ルクスソリス。ヴィンセント兄様の語ったように例え如何なる敵が現れようとも僕達だけで切り抜けるつもりだ。余所者の出番はない」


無骨な剣を地面に突き刺し傲慢にもエリス達を見下ろすのはヴィンセント・ルクスソリス。活動的な褐色の肌に紺色の短髪、そして意志の強さを示すような鋭い紅眼。見るからに威勢のいい若武者って感じの青年だな。


一方巨大な斧を地面に突き立てるのはその弟シーヴァー・ルクスソリス。兄ヴィンセントと同じ髪と瞳と顔を持ち、違う点があるとするなら彼は兄とは違い髪が長いくらいだ。


エリス達を歓迎するつもりはない…そう言いたげなルクスソリス兄弟。さっきゴードンさんをお祖父様と呼んでいたあたりから察していたが、どうやら二人はゴードンさんのお孫さんらしい。


「パナラマはマレウスの要衝。そこの守護を任された我等ルクスソリスの血族はマレウス最強。金に欲しさに集まった冒険者なんぞに出る幕を与えるほど甘くはない」


「ましてやこんな子供ばかりの…、どこからどう見ても新人冒険者ばかりじゃないか。宿は用意してやるから明後日の催し物が終わるまで大人しくしているんだな」


子供か、年齢的にはエリス達と変わらないようにも見えるが…何故だろうな、ヴィンセント達の鋭い視線を受けても不敵に笑うラグナの方が余程大人に見える。


「フッ、俺達は俺達の職務全うの為全霊を尽くさせて頂きます。互いに頑張りましょう?ヴィンセント殿 シーヴァー殿」


「……こいつ、生意気な」


「おい!ヴィンセント!シーヴァー!何客人を足止めしておるのだ!自らの居城で客人に立ち話を仕掛けるとはそれでも次期当主か!」


「チッ、…まぁいい」


遥か彼方、廊下の奥から飛んでくるゴードンの怒号にヴィンセントは一瞬肩を震わせると、せめてもの抵抗とばかりに舌を打ち踵を返しエリス達を案内する様に渋々とばかりに歩き出す。


まぁなんというか、まるでアルクカースの新米兵みたいに気持ちばかりが燃え盛っている印象だな。そういう点ではその手の人間の扱いが慣れているラグナの方が一枚上手だ、ルクスソリス兄弟の挑発にも特に反応も示さず…いや妙にニヤニヤと笑いながら。


「なぁエリス、楽しくなってきたな」


何故か、物凄く楽しそうに笑っているのであった。


はぁ…なんか、不安になってきたぞ。


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