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363.魔女の弟子と母の影



コンクルシオでの激闘から一夜明け、エリス達は悪魔の見えざる手から逃れプリシーラさんを次のライブ会場『丘の街パナラマ』へと送り届ける為、名もなき森を進むこととなった。


昨夜、プリシーラさんとも友好を深められたおかげで彼女もようやくエリス達を信頼する気になってくれたようだ。だから昨日は彼女をギュッと抱きしめてベッドに潜り込んだ。


昔、ハーメアがエリスにしてくれたみたいにね。



そんな風に夜が明け、森の中に木漏れ日が差し込む頃…エリス達は再び出発の準備を進めることになったのだが…。


「ふっ…はっ…、はっ!」


「…………」


朝ごはんを終えて、食器を片付け終えると…馬車の外、木々の隙間から差し込む陽光と言う名のスポットライトを浴びてプリシーラさんが外で踊っていた。


踊っていた…というか、多分次のライブの練習だろうな。コンクルシオのライブ会場でやってたのと同じ動きだし、エリスはそれを馬車の中から呆然と見つめていた。


別に何かを思ってるわけじゃない、ただ彼女は本当にアイドルという活動に本気なんだなぁと感心していたわけですよ。


すると、プリシーラさんのダンスは盛り上がりどころを超えて…、今終わった。


「はっ…はぁはぁ…」


決めポーズをとって作り笑顔で汗を流すプリシーラさん、しかしその身から漂う気配はやはりなんとなく納得がいっていないような感じだ。やり遂げた!という達成感よりまたダメだったという後悔の念が滲んでいるような気がする。


しかし、そのダンスを見ていた二人の観客は。


「すごーい!キレッキレのダンスじゃん!本番はこれに歌も加わるの?すごーい!」


「凄いです!プリシーラさん!」


デティとナリアさんは落ち葉のクッションの上に座り彼女の踊りを褒め称える。事実としてプリシーラさんは納得いってないようだが観客からしたら随分立派なものに思える。あれでドヤ顔をしてても違和感がないくらいにはいい出来だったように思えるが…。


「凄くないわ…、ステップがブレブレだもの。終わった後にこんなに元の立ち位置からズレてるんじゃ本番じゃ笑われるわ」


「え?そうなの?見てる分には分からないけど、気にしすぎじゃない?」


「…そうかな」


確かに、ズレてる。エリスには分かりますよ、プリシーラさんが踊り始めた地点を中心とするなら今立っているのは二歩半ほどズレてる。本番のステージは中心に立つプリシーラさんの見栄えを気にして作られているだろう、だから立ち位置がずれるとその見栄えが半減する。


これがもしステージの上ならこの二本半は結構な差だ。けどそれが分からないデティは首を傾げているが…。


「そうですね、今のままだと不完全かもしれませんね」


プロは違う、芸術大国エトワールのステージにてその中心に立ち続けるナリアさんにはその違いが分かるのだ。


「え?分かるの?」


「なんとなくですがね。多分気に入ってないのって中盤のステップが交差して体を反転させるところですよね」


「そ、そうだけど…え?一目見ただけで?あんた何者?」


「そこだけあからさまに動きが固かったので、多分変に意識し過ぎて体重移動がおざなりになってるんだと思います。…うーん僕は人に物を教えられるほどじゃないですが、僕ならこうやって練習するかもです」


そう言いながらナリアさんは地面に一歩の線を描き…その上に跨るように立つと。


「次はこの線を中心に意識してステップを踏んでみてください、僕が手拍子でリズムを取るので」


「いや素人のアンタに指図なんて……、いえ。分かったわ、ここに立てばいいのね?」


一瞬アイドルとしてのプロ根性が出てしまうが、それでも彼女は大人しくナリアさんの言うことを聞いて彼の引いた線の上に立つと。


「はい!ではどうぞ!」


「すぅー…はっ!」


「はいはい!テンポを意識して!目線は下じゃなくて前に、お客さんは前にしかいませんよ!」


「ふっ…ふっ!」


「いい感じです、流石のリズム感ですね!」


パンパンと手を叩くナリアさんの手拍子に合わせて先程のステップを踏むプリシーラさんの動きは、素人目で見ても明らかにさっきよりもブレが少ない。なるほど、ステップを踏んだ時変に立ち位置を意識していたせいで体幹がズレていたんだ。けど下に線を引いてそこに体幹を合わせたおかげでそのズレも少なく…。


「うそ…出来た、完璧に…、あんなに練習しても上手くいかなかったのに…」


踊り終えた後のプリシーラさんの立ち位置のズレは一切ない、その事実に一番驚いているのがプリシーラさん自身だ。


対するナリアさんはそれを見てなんとも満足そうに笑い。


「やっぱり!プリシーラさんは普段の練習を欠かしてないみたいなのでちょっとのきっかけで変われると思ってました、流石です」


「い、いやいや。アンタ…いや貴方本当に何者よ。冒険者協会の踊り子達もここまで具体的にアドバイスしてくれる人なんていなかったわ。まさか貴方…プロ?」


「ま、まぁ…ちょっと分かるだけですよ」


ちょっと?祖国に帰れば数十万の観客の前で演技を披露し世界に億単位でファンがいる役者がちょっとなの?


「ねぇ!他にも色々聞きたいんだけど教えてくれる!?」


「えっと、僕に分かる範囲ならお手伝いしますよ」


「じゃあその…声の出し方で分からないところがあるんだけど」


「では僕が普段してるボイトレの仕方を教えますね、えっとまず力を込めるのは大体この部分で…、意識するのは山の向こうで」


「うんうん」


優しげに微笑みながらプリシーラさんに自身の知っていることを惜しげもなく伝授するナリアさんを見てると、エトワールでの旅路を思い出すな。


あの時、素人役者だったエリスに演技を教えてくれたのもナリアさんだったな。彼の指導は分かりやすい上にやりやすい、まず教えて その次に自分が実践して それからこちらやらせてくれる。違う部分があれば控えめに教えてくれるしその時のフォローも欠かさない。


練習が楽しくなるように振舞ってくれるんだ、きっとそれをナリアさんに与えたのはあの悪人ヅラの聖人役者のクンラートさんなんだろうなぁ。今はそこに史上最高の役者たるプロキオン様の指導も加わって今のナリアさんは世界屈指の指導役となっているんだろう。


「わ、私目から鱗だわ。貴方本当に凄い人だったのね…ナリアさん」


「そんな事ないですよ!でも…役に立てたようなら僕も嬉しいです」


「二人とも凄いよー!」


なんだか、プリシーラさんもだんだんみんなと仲良くなれてるようで良かったなぁ。


なぁんて呆然と眺めていると。


「おう、暇そうだな?」


「ん?アマルトさん?」


「暇そうなら味見役やってくれや」


ポーンとエリスの肩を叩いてキッチンの方から現れるのはアマルトさんだ、その手には木の皿が握られており、それをエリスに差し出すのだ。


なんだこれ。


「なんです?これ」


「デティに昨日の花弁の砂糖漬けみたいなの作ってくれって頼まれてさ。けどありゃあコンクルシオの花じゃないと作れないから…色々考えて作った代用品だ」


そう言いながら差し出されたのは、なんか赤いビスケットみたいなお菓子だ。朝からこんなもの作ってたのか?なんて思いながら触ってみると…なんかベタベタしてるな。


「なんかベタベタします」


「薄く切ったリンゴをシロップに漬けて、それを薄く溶かしたキャンディでコーティングしたからな。ベタつくと思って布巾も用意したよ。食え」


「なんか食べる前から虫歯になりそうなお菓子ですね」


「あのチビはそういうの好きだろ」


「そうですね、じゃあおひとつ」


ややキャンディでべとつくそれを口に一枚運んでみる。リンゴはアマルトさんの言う通りかなり薄く切られている為キャンディでコーティングされつつも歯でポリポリ噛み砕けるくらいには脆い。そいつを噛んでみると内側からシロップに漬けられたリンゴの甘みと酸味が口いっぱいに広がってくる。


うん、薄切りってのがミソだな。お陰でシロップの甘味自体もそこまできつくないし食べやすい。


「美味しいです」


「だろ?名付けてフルーツキャンディチップス、昨日ベッドに入りながら即興で考えた菓子だ」


「凄いですね、でもちょっとベタベタするのが気になりますね。粉砂糖とか塗してみては?」


「うーん、それもありだけど俺って味が被るのあんまり好きじゃねぇんだよなぁ…」


「ああ、シロップと砂糖で味が被っちゃいますね」


「シロップ漬けるのやめてそっちにするかなぁ…」


「それか細かく砕いてスプーンで食べられるようにするとか」


「それもう別物じゃね?でもそういうのもありか…、コンセプトとしては食感と甘みの複合を…おん?」


ふと、アマルトさんが馬車の揺れを気にして外に視線を向けるのだ、揺れないはずの馬車がグラグラ揺れる…その自体に何事かとエリスもまた外に目を向けると、そこには。


「ん?ネレイド?何やっての?」


「あ、アマルト…エリス…ごめんね、今ちょっと大工作業中」


そこにはネレイドさんが刷毛を持って何かを馬車に塗りたくっていたのだ。かなり念入りに塗っているようで、それで馬車が揺れていたようだ。


「大工?ってか何塗ってんのさ」


「これ?、これはコールドウッドの樹脂…を薬剤で溶かした奴。オライオンに生えてる木だよ」


「樹脂…もしかしてニスか?」


ニス…確か木材に塗ってコーティングし、木材の強度を高める奴か。でもこの馬車だってそれくらいの加工はしてあるはずだけど…。一応馬車を一から作ったことがあるというネレイドさんがそれに気がつかないはずがない。


すると、ネレイドさんは桶に入った半透明の樹液をこちらに見せると、ツンと鼻をつく変な匂いがする。


「んっとね、これはテシュタル神聖軍に昔から伝わる馬車の強化法なんだ。コールドウッドの樹脂はとても強靭で、塗るだけでとっても硬くなるの。普通のニスよりもずっとね」


「へぇ、そりゃすげぇ」


「あんまり必要ないかもだけど、断熱材としての役目もあるから燃えにくく凍りづらくなるの。これ塗っとけば低ランクの魔獣の攻撃くらいなら弾けるよ」


なるほど、オライオンは魔獣が出るから馬車の強化術も他国に比べて発展してるのか。おそらくそれをメグさんに伝え材料を取り寄せ自主的に馬車の強化をしてくれているんだろう。


旅とは何が起こるか分からない、だからこそ何が必要になるか分からない。備えて損することはない筈だ。


「これ塗り終わったら出発だって」


「なるほど、エリス達も手伝いましょうか?」


「ううん、あとちょっとで終わるから。それよりアマルト…そのお菓子何?」


「ん?これか?フルーツキャンディチップス。さっき作った奴だけど食うか?」


「うん、でも今手が汚れてるから…食べさせて」


「ほいよ、食え」


「ん、おいし」


ポーイとキャンディチップスをポリポリ食べ、より一層気合を入れたネレイドさんはパパッと馬車に加工を施していく。


しかし、メグさんもネレイドさんもこの間からずっと馬車の改造をしている気がする。コンクルシオの街に着く前も…馬車が今の形になった後もだ。これ以上どこを弄っているのか…別に嫌ってわけではないが特に変化も見られないのに、何をいじっているのか気になるな。


「おーい、ネレイドさーん。ジャーニーはやる気満々だぞー?後作業にどのくらいかかるー?」


「ん、ラグナ。大丈夫…後ここに塗り込めば…終わり」


そして、ラグナが手入れを終えたジャーニーを連れてきて旅の準備は完了する。さて…それじゃあそろそろ出発しますかね。


……………………………………………………




「はいよー、ジャーニー」


「ヒヒーン!」


パッカラパッカラ音を立てて木々の隙間を縫うように、木の根っこを避けるようにジャーニーは進みネレイドさんが握る手綱のままに馬車を前へ前へと運んでいく。


出発の準備を終わらせて次の街を目指し始めたエリス達は馬車の中で過ごし、ただ時を待ち続ける。


「ほう、自費開催でやっていた所から王貴五芒星からライブの打診が来るまでに上り詰めたか。そこまでの道程はさぞ辛く険しいものだったろう?」


「あはは…、まぁ確かに大変でしたけど…私歌を歌うのが好きなので」


「立派だな、好きとは最大の推進力とはよく言ったものだ」


エリスがソファに座りジッと見つめる先にはメルクさんとプリシーラさんが机に着いてお茶を嗜んでいる。メルクさんの方からプリシーラさんを誘い、ああして話を聞いているんだ。


先ほどのナリアさん達と言い、今のメルクさんと言い、みんなプリシーラさんを慮ってくれているんだな。


「ふふふ…」


「エリスちゃん何笑ってるの?」


「え?いえ…」


なんだか微笑ましくて笑っていると珍しく昼間からソファで寛ぐデティに不思議そうに声をかけられる。いつもならこの時間帯は仕事をしてる筈なのに…。


「今日は仕事はいいんですか?デティ」


「今日の分は少なかったからね、休めるときに休まないと…それにアマルトから美味しいお菓子貰ったしね!」


そう言いながらデティが見せつけてくるのは先程アマルトさんが作ったフルーツキャンディチップス。それを手をベタベタにしながら美味しそうにボリボリ食べている。


取り敢えず改良する余地ありと見たもののそれはそれとして作った分はデティに押し付けたようだ。


アマルトさんは飽くまで作るのが好きだからね、処理は食べるのが好きな人に任せて自分は使った道具を洗って片付けている。


……そうだ、せっかくデティが暇なら先に聞いておこうかな。


「すみません、デティ。実は聞きたいことがあるのですが」


「ポリポリバリバリ、んー?なにー?」


「悪魔の見えざる手のボスのデッドマンが使っていた魔術が、見たこともない不可解なものでしたので…意見を聞けないかなと」


デッドマン…奴が使っていた不可思議な魔術。詠唱を必要とせず指を曲げただけで魔術が発動する理解不能なあの技についてデティに意見を伺っておこう。この世の全ての魔術について知り得ている彼女なら何か知ってるかもしれないし。


何より、この先プリシーラさんを守るならまた奴と戦うことになるだろうからね、それまでに攻略法を考えておかないと。


「んー?ゴクッ」


するとデティは急いで口の中のものを飲み込み、付近で手を拭きキリッと目を尖らせると。


「どんなのだった?」


「それが、デッドマンは詠唱を使わず魔術を発動させていたのです」


「詠唱無しかぁ、その時点で結構特異ではあるけど例がないわけじゃないかな。特殊詠唱の一種だと思うけど…何かデッドマンがやってた仕草とかある?エリスちゃんなら覚えてるでしょ?」


「はい、こう…右手の指を折り曲げていました」


デッドマンのそれを真似るように指を折り曲げる。奴はそれぞれの指をクイっとトリガーを引くように曲げるだけで魔術を発動させていた。一切詠唱などもなく、モーションなどもなく、ただただ静かに指を曲げるだけ…これで意のままに魔術を操れるなら強力極まりないが…。


するとデティはその仕草を見ただけで首を縦に振り。


「うん、それ『手足印法術』かな。やっぱり特殊詠唱だよ」


そう一撃で答えを言い当てるのだ。流石デティだ、やはり知っていたか。


「ほう、その手足印法術ってのはなんなのですか?」


「文字通りだよ、こう…手足で特定の形、『印』を組んで魔術を発動させるの」


「出来るんですか?そんなの事」


「あははは、何言ってんのエリスちゃん。普通出来るわけないじゃん」


あははは!と膝を叩いて笑うデティは言う、そんな事出来るわけないと。いや自分で言って置いて出来ないんですか…?


そう問い詰める前にデティは直ぐに険しい顔になり…。


「ふぅ…うん、『普通』は出来ない。これは机上の空論…だったんだよ」


「ってことは実現した人間が?」


「うん、そもそも手足印法術の原点は魔術陣なんだ。その人手に刺青入れてなかった?」


「ああ、入れてましたね」


「その刺青が仮の魔術陣の役割を果たしてて、それによって手の形を変えることで陣を手の中で完成させ自由に魔術を発動させるって理論が…今から七十年前くらいに流行ったんだよね」


七十年前か、っていうとマグダレーナさんとかそのくらいの時代だな…。デティにとっては多分お祖父ちゃんの治世の頃だろう。


「詠唱もなく魔術を発動させられるって事でこの手足印法術を会得しようとした人達が多くいたんだけど…、まぁ今の発声詠唱一強の時代を見れば分かると思うけどそれ以降流行らなかったんだよね。なんせ信じられない欠陥があったらね」


「欠陥?何か弱点が?」


「弱点じゃないよ、それを会得する工程が問題なの。そもそも人の手だけで魔術を使うなんてのは無理な話でさ。これを実現しようと思うと人間一人の魔力動脈…あー魔力の通り道が足りないから無理なんだ」


…ん?人間一人の魔術動脈で無理ならどうやっても不可能なのでは?だって魔術とは一人で使うもので…、いや。


違うな、非常な嫌なものだが方法は一つだけあるぞ…?そうエリスが顔を歪めるとデティも理解したのか軽く頷き。


「そう、足りないなら外部から補充すればいい。だからその人の手に別の人間の魔力動脈を移植するんだ、魔力動脈は血管と同じ…抜き取られて生きてられる人間なんていない、つまり…」


「別の人間を殺して、その臓物を腕に埋め込んでる…って事ですか」


「ま、まぁ凄く気色悪言い方をしたらそうだね。それに脈を移植してもそれがその人間に適合しなければ暴発して腕が弾け飛ぶの、欠陥に次ぐ欠陥で瞬く間に使用者が居なくなった詠唱法なんだけど…まぁそりゃ裏社会にはまだ残ってるよねぇ」


恐らくデッドマンは別の人間を殺し、その人間の魔力の通り道である魔力動脈を自身の腕に埋め込み手足印法術を会得したんだ。人攫い屋であるデッドマンにならそれも可能だろう。


人を一人殺して、手に入れた力。それで数え切れないくらいの人間の人生を狂わせている…、どこまでも許し難い男だ。


「この手足印法術は自身の肉体を改造して初めて行える離れ業だよ。指一本につき一つの魔術を登録出来る代わりに登録した魔術以外は使えなくなっちゃうの」


「なるほど、ということは奴が使える魔術は五種類のみということですね」


とはいうが、奴がエリスとの戦いで使った魔術は『風を操る魔術』『死神を具現化する魔術』『矢を放つ魔術』『爆発する光球を出す魔術』の四種類だけ…まだあと一種類を残してあの強さだ。


あと一種類、親指に登録された魔術がある。そしてこれはエリスの直感というか今までの経験則というか…、飽くまで予測になるが。最後の一種はデッドマンにとっての虎の子…切り札なのだろう。


それを見ることが出来なかった事だけが怖いな、一体どんな魔術を残してるんだ。


「え?五種類?いやいや手足印法術は指の数だけ使えるから全部で二十だよ?」


そう言いながらデティは両手と素足をグッパーと開いて見せる。二十種類も?そんだけ使えりゃ上等じゃない?デメリットにならない気がするが…というか。


「そんなに使える気配ななかったですよ。あいついつも右手だけで魔術使ってましたし、左手は常に武器を持ってましたから」


もし手で印を組んで魔術を使うなら武器は持たないだろう。持ってても邪魔になるだけだし…。


そうデティに伝えるためにエリスはデッドマンの真似をして右手を開閉すると。


「…あー…なるほど、じゃあ多分そいつ左手義手だね」


「え?そうなんですか?」


「さっきも言ったように魔力動脈が適合しないと暴発するって言ったでしょ?多分デッドマン君はその移植手術で一回失敗して左手が吹き飛んでるんだよ、多分足も隠れてるだけで五体満足じゃないと思うよ」


うげぇ…思わず舌を出して顔を歪めてしまう。そうまでして使いたいか?そんな技術。無事なのが右手だけって…。というか左手が義手なのだとしたら、相当高度な義腕な気が…。


「何やら真面目な話をしておりますね、エリス様?デティ様?」


「ん?メグさん?どうしました?」


「いえ、ご歓談の最中に申し訳ありません。先程協会幹部のケイト様から書簡が届きました」


そう言いながらメグさんがチラリと見せるのは魔術筒。昔デティとやり取りをするのに使っていた旧型の魔伝だ。これはケイトさんがエリス達に連絡をする用に持たせてくれたものだったな。


「昨晩、悪魔の見えざる手の襲撃を受けたことやコンクルシオの状況。そしてプリシーラ様をこちらで護衛している件を伝えておいたところ、先程返信が来ました」


「先程ってもう昼過ぎですよ」


「余程のお寝坊さんか余程の多忙なのでしょう」


寝坊ってのは無いだろうから多忙の方だろうな、しかし…ケイトさんが護衛をしてくれって頼んだ協会肝煎りのプロジェクトの要たるプリシーラさんが襲われたというのに、その返信がこんなにも遅れるって…。実際どうなんだ?どうかとエリスは思いますよ。


「……返信してくれるだけ、まだいい方ね」


するとプリシーラさんがやや拗ねたように唇を尖らせているのが見える。あの目はエリス達に見せていた露悪的な目と同じだ。どうやらプリシーラさんは思いの外協会から良い待遇を受けてるわけじゃなさそうだな。


「それで、なんて書いてあったの?」


「はい、読み上げますね」


協会からの連絡には流石のプリシーラさんも興味があるのか、メルクさんに一言断りを入れてこちらの方に歩み寄ってくる。


それを受けメグさんはエリスに手渡そうとした書簡を自身で読み上げ始める。内容としては…。


『こんにちわ皆さん、早速私の期待通りの戦果を挙げてくれたようで何よりです。敵方の戦力が凄まじいものであることはこちらとしても把握していましたがまさか皆さん以外の戦力が手も足も出なかったとは驚きです。ですが同時に皆さんに依頼して正解であったとも思っております』


悪魔の見えざる手の戦力についてケイトさんは凡そ予想しており、エリス達ならば対抗出来るだろうと考えている…というラグナの予測はどうやら正解だったようだ。


『なので、このまま皆さんにはプリシーラを次のライブ会場に送り届けて頂きたいとも考えております。今回のライブはチクシュルーブ卿もかなり期待しているようなのでこっちとしても出来る限り成功させたいです。当然皆様だけにお任せするつもりはございません、丁度先程依頼を終えた四つツ字冒険者が二名程現れたので、そちらを『パナラマ』と『チクシュルーブ』に配置いたしますので、そちらで連携をお願いします』


「四ツ字冒険者が二人も?凄いですね」


「動かせるなら最初から動かしなさいよ」


まぁそれはそうなんだけど、そこに突っ込むのはやめましょうよプリシーラさん。


それよりエリスが気になるのが、ケイトさんの文面が予想よりもずっと淡白で冷たいことだろう。何せプリシーラさんの体調や状態を気にする文が一つとしてない、彼女が今回の件で傷ついていると考えないのか?


「…プリシーラに関してはノータッチか、大事にしているとは言っていたが…いまいちおざなりなのが気になるな」


「役者のメンタル面の扱いが…協会はあんまり分かってないみたいですね、いつかのマルフレッドさんみたいです」


「…いつものことよ」


四ツ字冒険者の配置だって、考えてみれば遅い。コンクルシオで攫われる可能性も大いにあったのに、手が空いたからそっちに向かわせるはないんじゃなかろうか。


こんな状況下でプリシーラさんは危険なマレウスを飛び回って仕事をしてたのか…。


「大丈夫ですよ、プリシーラさん。エリス達が守りますから」


「…うん、協会よりもずっとエリスさん達の方が頼りになるわ」


ふふふと彼女は笑ってくれる。せめてエリス達と一緒にいる間だけはこの笑顔を絶やさないようにしないとな。


「以上がケイト様から届いた書簡になります」


「読み上げありがとうございます、メグさん」


「いえいえ、それよりエリス様?」


「ん?なんです?」


「いえ、この書簡の文末にはこのような事柄が書かれていますが…何か知ってますか?」


「え?」


そう言ってメグさんから渡される書簡、その最後の文には…。


『パナラマで待つ四ツ字冒険者はエリス様の名前を聞いた瞬間、自分も助けになりたいと胸を叩いてくださいました。なんでもエリス様とは昔からの知り合いだとか、四ツ字冒険者にもコネがあるとは流石です』


と…。四ツ字冒険者はエリスの名前を聞いた瞬間?エリス様とは昔からの知り合い?なんの話だ。


エリスが会ったことのある四ツ字冒険者なんてレッドグローブさんか何時ぞやであった猫神天然のネコロアくらいしかいないぞ。しかもこの二人がエリスの名前を聞いて喜んで来てくれるとも思えない。


…誰なんだ、この四ツ字冒険者って。



「分かりません、身に覚えがないです」


「ふむ、エリス様が身に覚えがない…というのは些か気になりますね」


メグさんはそう言ってくれるが、会ったことあるのに思い出せない、こういう事は実は結構ある。というのもエリスの記憶はあくまで昔の事柄なんだ。現実とは刻々と変化する…故に久しく会って成長した姿とかを見るとパッと見では思い出せなかったりする。


これも多分その類。昔は四ツ字冒険者じゃなかった人が今は四ツ字になってるとかそんな事だろう。しかしそれでも四ツ字になれそうな冒険者の中でエリスを助けようと手をあげてくれる人に知り合いなんていないぞ…?どうなってるんだ?


「んー?どうしたんだー?」


すると、みんなで集まって話し込んでいるのに気がついたのか、男子部屋の扉を開けてやや汗を流したラグナが顔を見せる。彼はいつも日中は筋トレに励んでるらしいからこの汗はその副産物だろうな。


「おいラグナ、汗だらけだぞ」


「あ、ごめん…すぐに拭くよ。それよりエリス?」


「ん?なんです?」


「今日の夜の番はエリスだろ?今のうちに寝ておいた方が良くないか?」


今日の夜の番はエリスだ、確かに夜中眠くならないように今のうちに寝ておくのもいいかもしれないな。


「ん、分かりました。ではちょっと昼寝させていただきますね」


「じゃー今日は私と寝よーね?プリシーラちゃん!」


「え?う、うん…けど一つ気になったんだけど。そっちが男子部屋でこっちが女子部屋なのよね、…昨日ナリアさん男子部屋で寝てなかった?」


「はい、僕男なので」


「えぇっ!?ウッソだぁっ!?」


何やら騒がしく騒ぎ始めるプリシーラさんを置いてエリスは女子部屋へと移る。人数がいる旅ってのは楽でいいな。夜の番に備えてこうやって寝ることも出来るんだから。


といっても師匠と二人旅の時は夜の番なんで必要ありませんでしたけどね。師匠は山賊が寄ってきたら自動的に起きますし、師匠がいると獣も虫も寄って来ませんでしたから、


あれどういう仕組みなんだろう…。


…………………………………………


そして…、一日中エリス達は森の中を移動し続け日が完全に沈み暗くなるまで馬車を走らせ続けた。それでもまだ森を超えることは出来ず、また明日も森の旅路になることが確定したところで今日の移動は終わり。


ジャーニーの寝床を用意してあげて、アマルトさん特製のビーフストロガノフに舌鼓を打ち、濡れたタオルで体を拭いて…今日の活動は終わりを告げる。


みんな各々のベッドに戻り、プリシーラさんもデティを抱き枕にして就寝し、エリス達は森の中で眠りにつく事になる…エリス以外ですけどね。


「ふっ…ふっ…」


今日の夜の番はエリスです、こんな森の中ならないとは思いますが一応山賊や魔獣が来た時対応するためエリスは夜通しで起きて見張りをするんだ。


とはいえ夜中起きてるのは暇だし、ボーッとしてると眠くなるので今は馬車の外に出て一人で修行をしてる。


馬車の前の軽い広場で体を動かす、というか架空の相手と殴り合いの練習だ。コートを脱いで薄着になって暴れまわる。


「っ…ふっ…!」


なるべく声を殺して拳を振るい足を蹴り上げる。これはこの三年で編み出した修行法『追憶武闘』だ。リゲル様がエリスに対して使った夢世界でかつての敵と戦わせるって技を昇華させて昔戦った相手の記憶を呼び起こしいつでもどこでも実践さながらの戦闘が出来るようにしたのだ。


今日の相手はレーシュだ。彼女と記憶の中で殴り合いを演じる。相変わらずレーシュは強いなぁ…。


「っ…!」


突いた拳の上に、落ち葉が乗る。視線を感じる…研ぎ澄まされた感覚が刺激され目線だけで視線の元を探る。まさか悪魔の見えざる手の追っ手か?と思ったが視線の先は馬車の方角、つまり。


「プリシーラさん?どうされました?」


プリシーラさんだ、モコモコの寝巻きを着たまま馬車の方から顔を覗かせている。もしかして起こしてしまったかな。


「あ、その…ごめん邪魔して」


「いえ、こちらこそ夜中にうるさくしてごめんなさい」


「ううん、そうじゃ無いの…ただエリスさんとお話ししたくて」


「そういうことでしたか、ならちょっとだけお話ししましょうか」


丁度修行にも一区切りついたしね。タオルで体を拭きながら枝に引っ掛けたコートを回収し彼女の待つ馬車の方へと歩み寄ると…なんかプリシーラさんが変な目で見てくる。ん?何?その目。


「えっと、どうしました?」


「…エリスさんって普段コートで見えないだけで、脱ぐと凄いムキムキなのね」


「え…!?」


ふと己の二の腕とプリシーラさんの二の腕を見比べる。うう、確かにムキムキだ…体とかゴツゴツしてるし、プニプニなプリシーラさんとは対照的だ。


「な、なんだか恥ずかしいですね」


「なんで?全然恥ずかしく無いわ、とってもカッコいい…エリスさんが男ならさぞやイケメンだったでしょうね」


「ふっ、それじゃあ今ほどプリシーラさんには好かれてませんでしたね。苦手なんですよね?イケメン」


そう言いながら彼女の隣に座る。確か出会った時プリシーラさんが言っていたな…イケメンが苦手だとか、髭面が好みだとか。


するとプリシーラさんは苦笑いをし…。


「ああ、あれね。嘘だから」


「え?嘘なんです?」


「うん、普通にイケメンが好き。でも協会からそう言えって言われた…冒険者は髭面が多いからウケがいいんだって」


「そりゃ、なんともまぁ」


何が好きかも正直に言えないとは難儀なもんだな。エリスもアイドルになってたら同じこと言われてたのかな。うーん、やっぱ見えないな、エリスがハーメアのように旅をしながら役者をするのってのは。


「…さっきの手紙、覚えてる?」


「手紙?冒険者協会からのですか?」


「うん…、あれが私の協会での扱い。私はあいつらは私の事を大切だって言いながら…何処かでは邪魔者だと思ってるの。あるいはもう必要ないのか…」


そう言いながらプリシーラさんは静かに膝を抱えて天を見上げる。そこには木々の隙間から覗く満天の星空が見える、そんな星空に彼女は手を伸ばし…指を這わせる。


「私はただ歌が好きだっただけ、それを色んな人に届けて『いい歌だね』っていって欲しかっただけ。だからアイドルという職に飛びついたし…それで頂点を目指した」


「…いいじゃないですか、それで今絶頂期でしょう?」


「うん、絶頂期…だけど最近分からなくなっちゃったの」


「分からなく?」


「うん……これ、出来れば内緒にして欲しいんだけどね。私…貴族なの」


そう決心したように口にするプリシーラさんを見て、まぁなんと言うか驚きはあんまりなかった。だってそれなりに気品もあるし食事の取り方だってマナーもちゃんとしてる。それなりの家の出なのだろうなとは思っていたから。


それに。


「そうなんですね、でも珍しい話じゃないでしょう?貴族が冒険者やるのなんて」


こう言っては何だが隠すほどのこともない気がする。貴族が冒険者をやるってのはこれが案外に多い話だ。ディオスクロア大学園で学んだ事を試すためだけに冒険者になったり、道楽目的で冒険者になったり。エリスが冒険者になった時も貴族が試験を受けにきてたしね。


「そこら辺の貴族とはわけが違うの。だって私の家…エストレージャ家は代々この国の財務大臣を務めてきた大物貴族だから…」


「あらまぁ、そりゃあまた…」


と思ったら結構大物だ。財務大臣の娘って言ったらエリスの知り合いにはカリストさんくらいしか居ない。それがアイドル冒険者をやってるか…異常事態にも程がある。


「大物ですね、何で冒険者に…」


「…あの家が嫌だったからよ、私は歌うのが好き 大好き。けど母様は『歌を歌う暇があったら勉強しろ、お前はエストレージャの名を継いで新たな王に仕えるのだから』って…歌を、私のアイデンティティを否定した」


「だから、反発して家を出て冒険者に?」


「うん、自分一人で生きてやる!って思ってね。アイドル活動がどれだけ苦しくてもやめなかったのは歌が好きなのと同時に…家に帰りたくなかったからってのもあるかも」


「そうだったんですね…」


「アイドル活動はよかった、苦しいけど自由に歌えるし…自分で生きていけるから。でもそんな楽しみさえ母様は奪ったの」


「奪った…って」


「協会と母様は繋がってる、最初こそ放置していたのに…私が売れ始めた途端アレコレと干渉してきたの。ライブを開く場所とか歌う歌とか全部ね…そしてその収益は母様の所に行っているの」


そりゃあ…また、うん。思ったよりも大きな話だな…。母から逃げようと思っていたのに気がついたら母の手のひらの上で利用されてたんだから。


ああ、なるほど。エリス達に露悪的な態度をとったのも協会に対する不信感の表れだったのだろう。協会が使わせたと言うことはもしかしたら母の使いかもしれない、しかもその上でアイドル冒険者を否定したエリスが来たのだ…信用出来ないのは当然だ。


「私は確かに頂点まで上り詰めた、けどそれと同時に私から歌を奪おうとする母様の手のひらの上に転がり込んだ事を意味する。私このままアイドル続けてていいのかな…母様の操り人形のままでいいのか分からなくなっちゃったの」


このまま歌を歌い続けるのもいい、けど歌を歌い続ければ母からの干渉は免れない。もしかしたらいつか連れ戻されるかもしれない。なら逃げて全く新しいところで歌を歌ったほうがいい…そんな感情が彼女の中にはあるのだろうな。


……うん。


「歌うのが嫌ですか?」


「分かんない」


「歌を利用されるのが嫌ですか?」


「分かんない」


「…じゃあ、アイドルをやめたいですか?」


「……分かんない、何にも」


迷っているな、冒険者協会や母親に対して不信感はあるものの彼女も協会への恩義は確かに感じているんだろう。だから手を切ることはしないし彼らのいうことを聞いてちゃんとライブをやり通そうとしている。


だがそれはあくまで役割と使命の話。個人感情はまた別。


母親に干渉を受けている協会で歌い続けるのは彼女が最も大切にするアイデンティティが汚される、されどそんなワガママを通すわけにもいかない。だから一人で悩んで答えを見失っているんだろう…、悩みを忘れるほどにアイドル活動とその練習に没頭しているんだろう。


「何にも分からない…ですか」


「うん……」


自分がどうしたいのか、どうするべきなのか分からない。歌うのが好きだけど嫌い、冒険者協会の存在はありがたいけど居なくなって欲しい、アイドルは続けたいけどやめたい、母から逃げたいけど逃げられない。


相反する感情が双方同程度の大きさなのだろう。今プリシーラという名の天秤は左右に置かれた感情という錘によってグラグラと右へ左へ揺れているんだ。


けど。


「いいんじゃないですか、分からないなら今は答えなんか出さなくて」


「え?」


「答えが分からない事について考えるから苦しいんです。苦しいんなら考えない方が楽ですよ」


「でも、放置していい問題でもないわ…。私はどうしたいのか、それを見つけない限り私は…」


「立ち止まって足元見てたって、自分の足しか見えませんよ」


「……っ」


悩むのは良い、苦しむのも良い。どっちも本気だから悩むし苦しいんだ、けど…悩んで苦しんで頭を抱えて立ち止まってたって、何にも見えやない。


「答えは前にしかありません、前を見て歩いて進んで行けばそのうち答えだって拾えます。だから今は今に没頭するべきです」


「今は…今に…」


「そう、悩むまでもなく今やるべき事は…貴方の中でははっきりしてるんじゃないんですか?」


「……うん」


ならいい、やるべきことだけ見えていればいい。それが正しいかは分からないが少なくともエリスはそうやって生きてきた、だからエリスにはこうとしか言えない。


「…エリスさんは優しいね」


「別に優しくはないと思いますよ?」


「そういう所とか、私の曖昧な問いに真剣になってくれる所とか…」


「……真剣にもなりますよ」


プリシーラさんは相変わらず膝を抱えたままだ。けど、その視線は先程より柔らかい。エリスの言葉が彼女の道行きの一助になれたのならば幸いだ。


「…ねえエリスさん」


「ん?なんです?」


「実はね、私────」


ふと、プリシーラさんが顔を上げてエリスに何かを言おうと口を開き───。


「ッ待った!」


「えっ!?」


刹那、体を反転させ足を振り上げれば虚空に煌めく火花。闇夜を切り裂く赤い閃光がエリスの足に弾かれ虚空を舞う…。


それは数度回転した後、地面に突き刺さる…矢だ、茂みの向こうから弓矢が射られた。


「え…ええ!?矢!?なんで…どこから!」


「…………」


一瞬デッドマンが現れたのかと警戒もしたが、飛んで来た矢は鉄製だ。普通の矢…けど狩人が獣と間違えて撃っちゃいましたって感じじゃなさそうだな。


「何者ですか、人に向かって矢ぁ引いといて今更間違えましたは通じませんよ」


「ヒッヒッヒッ、今のは『挨拶』さ。俺なりのな」


ガサガサと音を立てて現れる。茂みを切り裂いて男が現れる。チリチリ頭に無精髭、獣革のコートを着込んだ如何にも乱雑そうな男はエリスに向けて右手を向ける。


いや、あれは『手』なのか?彼の肘から先は鉄の筒に覆われており、まるでデルセクトの銃火器…『ガトリング砲』の如き異様を晒している。なんだあれ。


「貴方、悪魔の見えざる手…ですよね」


「その通り、悪魔の見えざる手…ロダキーノ隊の隊長『砲腕のロットワイラー』。そこのお嬢ちゃんを寄越せば命だけは助けてやるよ」


砲腕のロットワイラー…その名の通り砲塔と化した右手をこちらに向けてゲロリと笑う男はエリスに向けてプリシーラさんを寄越せという。他でもないエリスに向けてだ、ナメやがって…!


「渡すわけないでしょうが、寧ろここでぺしゃんこに叩き潰して…ッ!?」


「お?気がついたか?勿論ながら既に包囲している…抵抗すればその馬車ごと蜂の巣だぜ」


こいつ、一人じゃない。何人もいる…エリス達を囲むように茂みの中を駆け抜けている。それもとても人の足とは思えない速度で高速で動き回っている。エリスが接近に気がつく前にここまで肉薄するなんて…凄まじい脚力。いや、何かに乗ってる?


「で?どうする」


「…脅しで屈するように見えますか?」


「ああ、見えないね…だから挨拶していたのさ。遠慮なくぶっ殺す為にな!」


最早最初から交渉のつもりはないとばかりにロットワイラーは砲塔となった右手を突き出し、そこから垂れるワイヤーをグイッと引っ張ると内部の機構が起動し、煙をあげると共に回転を始める。


ドラムロールの如き高速の発砲と共に回転した砲塔が火を噴き先程の鉄の鏃を五月雨の如く発射する。


「防壁…展開!」


手を前にかざしエリスの身に纏う流障壁を最大化し馬車もプリシーラさんも諸共鏃から守るが…。


ダメだ、これじゃあ前方を守るので精一杯。先ほど発砲音が文字通りの嚆矢となったようで周囲に潜む影達が一斉に動き出した。このままじゃ本当に蜂の巣にされる!


「プリシーラさん!ジャーニー起こして馬車に繋いで!すぐにここを離脱します」


「う、うん!ジャーニーってこの馬だよね…ってうわっ!?」


「ヒヒーン!」


プリシーラさんに声をかけるまでもなく事態を把握していたのか、ジャーニーは即座に起き上がり自ら馬車の方まで走り『はよ繋げろや!』とばかりにプリシーラさんを怒鳴りつける。なんて賢い馬なんだ…やはりこの子を選んで正解だった!


「えっと、これをこうしてああして…出来た!出来たよエリスさん!」


「よしっ!馬車を出します!ジャーニー!全速力!」


プリシーラさんを即座に掴み投げ入れると共にエリスは馬車に繋がれたジャーニーの手綱を握り走れと命じると。


「ブルルッ!」


駆け出す、凄まじい速度で加速して木々の隙間を縫うようにジャーニーはエリスが命じるまでもなく馬車を引いて森の中を疾走する。魔力機構のおかげで馬車自体がかなり軽量になっているとはいえ…それでも凄まじい脚力だ。


ジャーニーも今この状況がやばいってのは分かってくれてるみたいだ。


「ジャーニー!走りづらいところを頑張らせてすみません!」


「ヒヒーン!」



「逃げられると思うんじゃねぇ!猟犬隊!追え!追え追え!」


すると今度はロットワイラーの叫び声が響き渡る。その声に呼応し周囲でエリス達を囲んでいた彼の配下がエリス達に追いすがる…その姿は。


「い、犬!?」


「グルルァッ!」


犬だ、かなり大型な犬に人が跨ってエリス達を追いかけて来ているんだ。なるほど…人並み外れた速度だと思ったが、まさか犬に跨っているなんて。


「逃すな!殺せ!」


追いかけてくるのは凡そ十数人程度。それが皆一様にボウガンを携えこちらを狙っている…やばい、どうしよう!


「エリス!何事だ!」


「何があった!」


「み、みんな!追手です!」


どうやらプリシーラさんがみんなを叩き起こしてくれたのか、奥からラグナやメルクさん…みんなが顔を出して状況を察する。


「犬が追っかけてきてるー!?」


「マジかよ!あんな…いやそれよりもなんで場所がバレたんだ!?」


「……まさか」


この広大な森、しかも暗闇の中的確にエリス達の場所を探し出せるなんてどう考えてもおかしいとアマルトさんは叫ぶが…、メグさんは思い当たる節があるとばかりに自身の服の匂いを嗅ぐ、すると。


「ッ!服です!この服にコンクルシオの花の匂いがかすかに残っています!」


「そういやあそこの花、匂いが二、三日取れないんだったな…!」


やらかした、匂いの警戒まではしてなかった。あの強烈な匂いだ…微かにでも残っていれば犬の鼻なら追える。なるほど、奴らはさしずめ逃げた奴隷を追いかける追撃部隊と言ったところか。


「ってかどーすんのー!?流石のジャーニーも森の中じゃ犬に追いつかれちゃうよ!」


「無論!迎撃する!アマルト!私の足を支えておけ!」


「え?あっ!おい!」


そう言ってメルクさんはもう馬車の外に身を投げ出す勢いで乗り出し、アマルトさんに足を引っ張らせた状態で体を後方の追っ手達に向けると。


「寄らば撃つッ!!!」


その両手の銃を連射し高速で森を駆け抜ける追っ手達に牽制の銃撃を見舞うが…。


「ぎゃははは!当たらねえよ!」


「チッ、障害物が多すぎる!」


追手達は犬を巧みに操りジグザグとその場で駆け出し森の木々を遮蔽物として銃撃を回避するのだ。この木という障害物がこの場のミソだ、向こうの方が小回りが利くからそう言った回避が行いやすいんだ。


おまけにこの暗闇、あんな小さな的に当てるなんて無理難題だ。


「そぉら!お返しだ!!」


対する追手達の攻撃、ボウガンを用いた鏃による追撃はエリス達に簡単に当たる。こっちは馬車ってなんとも当てやすい的なんだ。向こうは夜目も利くようだし…これ思ったより不利だぞ。


「っ!アマルト!」


「あいよ!!」


咄嗟にアマルトさんに体を引かせ、馬車の中に転がり戻るメルクさん。既に銃撃による牽制は諦めこの場をどう乗り切るかを考え始める。


「すまんエリス!すぐに打開策を練る!それまでなんとか耐えてくれ!」


「分かりました!なるべくすぐ…っとわっ!」


刹那、横から飛んで来た鏃、ジャーニーを狙ったその一撃を咄嗟に足を伸ばし脚甲で弾き返す。こいつら…ジャーニーを狙ってきやがった!


「チッ、中々やるなぁ…」


そしてボウガンを放った張本人は馬車と並走しながら茂みと闇の中に消える。ダメだ…音は聞こえるのにどこにいるか全然分からない、というか四方八方から気配がする…右の茂みからも左の茂みからも背後の闇からも。もしかして今エリス達相当囲まれてるんじゃ…!


「この、出てきなさい!」


「ハッ、誰が言うこと聞いて出てくるかよ!テメェらここで串刺しになるのさ!」


次々と放たれる鉄矢を手綱を握ったまま足を振るい次々と蹴り落としていく。その攻撃にジャーニーも気がついてはいるがエリスを信頼してくれているのか。見向きもせずに真っ直ぐ駆け抜けてくれる。


このまま何処まで逃げればいいんだ、一旦森を出るか?いやそれじゃあ多分相手の思うツボだ…!


「悪りぃな!デッドマンからのお達しなんだ!テメェら全員ここで死んでくれってよ!」


「デッドマンが…!チッ、囲まれてる…!」


既にジャーニーとエリスの周りは犬の眼光だらけ、四方八方を囲まれている。ジャーニーを潰してエリス達の足を消すつもりか…!そうはさせるか!


「ジャーニー…貴方のことは死んでもエリスが守ります、だから貴方は全力で駆け抜けてください!」


「ブルルッヒヒーン!」


「よし、…来なさい!」


手綱を握ったまま御者席で立ち上がり構えを取る。どっからでも掛かってきなさい、全員纏めて相手してやる!


「ハッ!上等だよ!やっちまえ!」


「ハァッ!」


エリス達を囲むボウガンから放たれる鋭い鉄矢、正確に狙いを定められたそれは全てジャーニーを狙って空を裂く。しかしそれがジャーニーに当たる前に身を乗り出して矢を蹴り落とす。


「どんな身体能力してんだあいつ!」


「よっと!はっ!ほいっ!」


全方位から放たれ次々とジャーニーに殺到する鉄矢、それを一つ残らず見逃さず馬車の木組みやジャーニーに足を引っ掛け体を振り回し曲芸じみた動きで叩き落としていく。


くっそ!この下郎どもが!ウチの相棒に向けてボカボカ弓撃ちやがって!


「狙うならエリスを狙いなさい!ホラッ!」


「はっ!そんなに死にてぇなら…テメェから死ねぇっ!」


「っ…!」


刹那、背後から飛びかかってくる。牙を並べた犬の大口。騎乗する犬にそのまま飛びかからせたのだ…!エリスの喉元を食い破るため殺意を爛々と滾らせた犬の眼光はそのままエリスの身に牙を立て。


「フンッ!」


「は?」


ってそんなん簡単にやられるわけないだろうが!エリスが!犬に噛まれた程度で参るか!


噛み付こうとするその大口を逆に両手で掴み持ち上げれば、その背に乗った賊はギョッと顔を青くし。


「な!?ざけんな!この犬は戦争用に訓練された戦犬だぞ!?牛だって咬み殺すこいつの顎を…手で止めるってお前…!」


「ッシャァォラッ!」


「ぐぎゃっ!?」


関係あるか、そのまま犬の体をグルリと一回転させ投げ飛ばし、ついでに犬もその辺に捨てる。悪いのは賊ですからね、犬の方には慈悲くらい向けますよ。


「さぁっ!次は誰がこうなりたいですか!」


「頭いかれてんのかあの女!ダメだ!女の方は狙うな!馬を狙え!」


「この…!」


テコでもエリスを狙わないか!仕方ない、ならば古式魔術でここら一体纏めて吹き飛ばして…ってそんな事したらジャーニーにも被害が…!


「情けねぇなぁ…お前ら」


「っ!その声は…!ロットワイラー…!」


すると、エリスを仕留めきれない部下達に業を煮やしたロットワイラーの影がエリス達の馬車に並ぶように疾駆する。まるで熊みたいな巨大な犬に跨りその砲塔の如き右手をエリスに…いや、馬車に向けると。


「女じゃなくて馬車ぁ狙え!用があるのは中身の方なんだからよぉっ!「


刹那放たれる掃射、回転する砲塔が火を噴くように鉄矢を噴射し目の前のエリス達の馬車に向けて…ラグナ達のいる馬車に向けて解き放ったのだ。


鋭く尖る矢の洪水は一気に木組みの馬車に殺到し、馬車を大きく揺らすほどの衝撃をエリス達に叩き込む。


「ぅぐっ!あ…危ない、車輪が外れかけた」


幸いネレイドさんが施してくれたコーティングのお陰で貫通することはなかったが、それでもだ。


こんなのいつまでも続けてられない。何処かで歯車が狂えば一気に終わる。かと言ってエリスはこちらで手一杯ですし…、ラグナ!みんな!なんかいい感じの打開策早めにお願いします!


……………………………………


『チッ!なんだこの馬車!?クソ固え!』


「あ、アイスウッドの樹液塗っといて正解だった…」


一方馬車の中にて集まる魔女の弟子達とプリシーラ。外から響く追手の声に彼らは身を縮こまらせて恐れ慄いて…いたわけではない。


外でエリスが敵の攻撃を捌いてジャーニーがなんとか捕まらないように疾駆してくれている間にこの窮状をなんとかしようと頭を捻らせていた。


「すげぇ音…、今何発当たったんだ?」


「秒間に数十発は飛んで来たな、多分そう言う機構を持ち合わせた奴がいるんだろう」


皆中央のリビングに集まり床に座って先程の攻撃に対して苦笑いを浮かべる。先程のロットワイラーのガトリングボウガンによる掃射は内部にいるラグナ達にも伝わっていたのだ。敵はそれなりの武装を揃えてきている。エリスは今それから必死にジャーニーを守っているが…それもいつまで続くか分からない。


それに。


「なぁネレイドさん、そのアイスウッドの樹液によるコーティングって…どのくらい持ち堪えられる?」


「…敵が使っていた鉄矢の規模と威力を見るに、持って後数分。飽くまで保険程度の防御でしかないから」


敵の攻撃がこのまま馬車に集中すれば馬車だって危ないのだ。アイスウッドのコーティングも所詮は樹液を固めて壁面に塗っただけ、鉄矢を受け続ければ当然瓦解する。


一刻の猶予もない、そんな状況の中…プリシーラは。


「ご、ごめんなさい…私のせいで…!」


涙を浮かべて謝罪していた、ロットワイラーはプリシーラを狙ってるんだ。その副査さんとしてラグナ達の窮地が引き起こされている。その事実に彼女は落涙を禁じ得ず…。


「誰のせいでもねえよ、強いて言うなればこんな無法繰り広げてる外の馬鹿野郎達のせいだ。お前が泣くなよ」


「あ、アマルトさん…」


「ほれハンカチ、取り敢えずそこで落ち着いてな。それまでに俺が…ラグナがなんとかするから」


「俺かよ!?」


プリシーラの頬を流れる涙をハンカチで拭うアマルトはラグナがなんとかすると胸を叩く。この状況を自分一人でなんとか出来ると述べられるほどの自尊心は彼にはないのだ。


「ってかさ!ラグナー!外に飛び出して追手みんなボコボコにしてよー!」


そう声を上げるのはデティだ、ラグナならば外にいる追手くらい片手間に倒すくらいは出来るだろう…出来るだろうが。ラグナはうーんと唸りながら首を傾げる。


「流石に外に出て倒すってのはちょっと現実的じゃねぇな。相手は高速で移動しているわけだし、何より狙いはこの馬車だ。俺が外に出ても無視して置き去りにして馬車を狙って走り続ける…流石に夜の森だと匂いで探知出来る犬の方が速い」


流石のラグナも何も見えず木々が乱立するこの夜の森で高速で疾駆する犬を捕まえて倒すと言うのは現実的ではない。まぁそれでも木々をなぎ倒して追いつくことは出来るが…数分というタイムリミットの中に収める自信はない。


「じゃあ…どうしよう」


「敵の位置が掴めないというのが問題だな、場所さえ分かれば魔術でゴリ押せるのだが…」


「こういう時、僕の魔術陣じゃ役に立てないのがもどかしいです」


「…………」


考え込む、何か良い手はないものかと。その間にも外からは追手の声が響き渡り…。


『撃て撃て!馬車ぶっ壊せ!前方の奴らは馬を射殺せ!馬車止めろ!』


『あいよ!隊長!』


『くらいやがれ!』


『あぁーっ!もう!うざったい!』


続々と放たれる矢は馬車の壁面をドンドンと叩き、ジャーニーを狙い矢をエリスが叩き落とす金属音が中にまで響く。外の猛攻は苛烈になる一方だ、何せ敵は反撃の心配がないんだからガンガン攻めていける…。


このままじゃ馬車かジャーニー…どちらかがやられるのは時間の問題。


「だぁー!クソ!じれってぇ!」


その瞬間アマルトが頭をかいて苛立ちのまま立ち上がると…。


「なぁおい!この馬車なんか武器とかついてねぇの!?大砲とか!魔装とか!」


「何馬鹿なこと言ってのアマルト!これ馬車だよ!?戦車じゃないんだから武器なんか載せてるわけないじゃん!」


「けどよ!このまま敵のいいようにやられ続けるってのはなんかこう…腹立たねー!?」


「立つけどさー!」


やいのやいのと言い合うアマルトとデティにラグナも静かに頷く。何か攻撃手段…或いは敵が恐ろしいと思える武器さえあれば敵の攻勢を挫くことが出来る。だが魔術は当たらず敵の位置も掴めないとなるとやれることなんて…。


「武器…ですか、ないこともないですよ」


「え!?マジか!?メグ!」


「まだ調整中なのでお披露目は後にするつもりでしたし、出来ればこの場でも使いたくなかったのですが…」


「武器あるの?」


「はい、その機能の殆どは未だ使用不可ですが…、背に腹は変えられません!使いましょう!この馬車唯一の反撃機構を!」


この馬車に取り付けられた多数の魔装、その中で唯一…反撃用として用意していた一つの機構。未だ調整段階であり『使える』と豪語出来る段階にはないが…この状況下だ。


最早迷っている暇はないとメグは静かに立ち上がり、そして反撃機構を起動するのに必要な…最後のピースに目を向ける。


「それでは、力を貸していただけますか?」


そう、声をかけるのは────。


「え?私?」


「はい、これの起動には貴方の力が必要不可欠なのです。デティ様」


デティだ、メグの視線に釣られて皆がデティの顔に注目する中…デティただ一人が自身の顔に指を当てて首を傾げる。


そうだ、この反撃機構の起動及び運用にはデティフローアの存在が必要不可欠なのだから。


「では、始めましょう…『デティ・システム』の起動を」


「なんか死ぬほど嫌な予感するんだけど…」


メグは静かに拳を握りしめ…見据える。さぁ、反撃開始だ。



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