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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十一章 魔女狩りの時代と孤高の旅人
389/835

349.決戦 偽りの英雄


ロストアーツ強奪事件。アド・アストラを揺るがす最大最悪のこの事件の首謀者。それはエリスもよく知るムルク村出身の騎士ルーカスだった。


彼はレイバンもアルカナもグリシャも、全てを利用して…世界最大のマッチポンプを行う為にこの事件を画策し、そして己で解決することにより偽りの英雄へと成る為凶行に出た。


その為なら街が滅ぼうが幼馴染が死のうがどうでもいいとばかり彼はオフュークスを起動させ、全身をロストアーツで固め、今エリスの前に立ちはだかった。


壊れた星魔鎧とこの場にはない星魔剣を除いた全てのロストアーツ。世界最悪の兵器として作られたそれらを身に纏った今の彼が放つ気配は、もはやシリウスそのものだ。


「ククク…カカカカ、お前を殺しメリディアを殺し俺は英雄になる。エリス…お前をも上回るヒーローにな」


ジャリンジャリンと音を立てて星魔鎌と星魔槍を擦り合わせ、エリスに向かって歩み寄ってくるルーカスの瞳に最早正気は感じない。ここまで狂って…いや、彼はもうずっと前から狂っていたのかもしれない。


エリスがあの日、憧れを彼に見せたその時から。


「止めて見せろというのなら止めてやりますよ、こんなクソくだらないマッチポンプなんかぶっ潰してやります」


「そりゃ楽しみだ、後学のために見せてくれよ手本を、なぁ…俺の英雄」


「やかましいですよ、上等です!魔力覚醒!『ゼナ・デュナミス』!!」


一気に爆裂させるように魔力覚醒を解放する。


ルーカスは確かに強い。アジメク国内でも五本の指に入る強者だ、だが彼はまだ第二段階に至っていない。魔力覚醒を使えるエリスと彼とでは本来勝負にもならないくらい実力差がある。


本来なら…な。


「フハハハハハ!それが魔力覚醒かぁ!なら俺も見せるさ!『エーテルフルドライブ』!!」


ルーカスが掛け声を上げれば彼の身に纏った全てが強く光り輝き、緑色の閃光と凄まじい魔力を放つ。シリウスの血液を内蔵したロストアーツの魔力を解放したのだ。


その魔力の濃度や勢いはエリスの目測にはなるが、魔力覚醒とほぼ同級…いや上か?


「クッ!ゥ〜!凄まじい力だ!このまま廃棄するには惜しいな!英雄になった暁には下賜してもらうか?」


「貴方ねぇ…それは危険な力なんですよ!使い続ければ何が起こるか本当に分からないんです!直ぐに外して…」


「喧しいッッ!!」


振るう、ルーカスがその手に収められた星魔鎌スコルピウスを振るう。空間を押しのけ空間を作ることで何もかもを切り裂く『絶対切断』の能力を持ったその鎌はオフュークスの壁をスルリと切り裂きエリスの首元に迫り。


「ッ…本気で殺す気なんですね」


空を切る、身を屈め鎌の一撃を避けていたエリスによって切断は壁に直線を描くのみで終わる…が。今の一撃…完全にエリスを殺しに来ていた。


脅しとかハッタリとかではない。殺しに来ている、確実に。


「当たり前だろうが…お前さえいなければ、そう思い続けてきたんだぜ俺は。その願いが叶うんだ…焦る気持ちも分かれよ」


「そんなにエリスのことが嫌いだったんですね」


「ああ、…ああ!嫌いだとも!大嫌いだよ!お前がいなけりゃあ!俺は!!」


再度ルーカスが構える。今度は鎌と槍を二つ同時にだ。


……来る!


……………………………………………………


星魔城オフュークス。城でありながら兵器であり、兵器でありながら城であるこの存在の内部は通常の城と同じように運用出来る事を想定し中も作り込まれている。


そんな城の壁面が突如風船のように膨らみ…爆裂四散する。


「『猛火烈剣』ッ」


「くっ!?」


そしてその瓦礫の中から飛んでくるのは、この城にて最後の激突を繰り広げるエリスとルーカスだ。ルーカスの振るう槍と鎌の双撃の濁流が一気に壁を弾き飛ばしたのだ。


その余りの猛攻、その余りの速度、その余りの容赦のなさにエリスは回避と離脱しか行うことが出来ない。


「『旋回惨禍』ッ!」


そんな逃げるエリスに対し、ルーカスは槍と鎌の柄同士を突き合わせ、一本の巨大な双刃剣を作り出すと共に、スクリューのように回転させ廊下の壁をズタズタに切り裂きながらエリスを追いかける。


技と技の間に隙間がない。一つ一つの技がキチンと詰められた上で磨き上げれている。ルーカスを前にしたエリスは冷や汗を宙に舞わせる。


エリスはアルカナを通じてロストアーツと何度も戦ってきた。その都度エリスはその実力でロストアーツを捩じ伏せて来たエリスは、『これなら使わない方が強いだろ…』そんな感想ばかり抱いて来たが。


だが…今ルーカスが使うロストアーツは何よりも恐ろしいとさえ思える。それはルーカスが合計十個のロストアーツを一気に装備しているからか?


違う、巧いのだ…ルーカスはロストアーツの使い方を誰よりも心得ている。


「ちょこまかと逃げるな!『双龍地壊』!」


槍と鎌を地面に叩きつければそれだけで四方に斬撃が飛び、城を破壊しながらエリスを追い詰める。


そもそもルーカスはロストアーツなど使わなくとも強い。その剣技は騎士団長クレアに次ぐ程だ、それ故にロストアーツという武器を普段の剣の延長線上として扱える。


アドラヌス達はどこまで行っても簒奪者だ、正当なる担い手ではない。だがルーカスは違う、彼はキチンとした手順で選考された正式なる担い手…ロストアーツの本来の性能を引き出せる男なのだ。


故に今発揮されているこの力こそ、ロストアーツの真の力ということになる。


「うっ!チィッ!」


斬撃は回避したものの飛んできた瓦礫に腹を打たれ地面を転がるエリスは舌を打つ。魔力覚醒を行なっているのに防戦一方だ。ロストアーツを使えば第二段階到達者と同じ段階に立てる…という触れ込みを今実感している。


ロストアーツで身を固めたルーカスは間違いなく覚醒を行なった使い手と同レベルだ。…こんなに強いのは思っても見なかった。


ならばこちらも切り札『ボアネルゲ・デュナミス』で!と言いたいところだが…、ボアネルゲ・デュナミスを使うには超極限集中の使用が不可欠。つまりあれも一日十分のお決まりがあるんだ。


はぁ、こういう事があるから普段から使用を戒めているんだけど…、メムからの二連戦はやっぱりキツイな。


「どうした、この程度か?エリス。俺はこの程度の存在に憧れ半生を費やしたのか?」


「まだ始まったばっかでしょ、…貴方を倒す方法を考えてるんですよ」


「無いさ、ロストアーツをこれだけ装備した俺に弱点はない」


「みんなノリに乗ってる時はそういうんですよ…って言うか」


スルリとエリスはルーカスの向こう側を見る。エリスとルーカスが戦いながら通過した廊下を見て…思うのは一つ。


「折角のオフュークスを、こんなに壊しちゃって大丈夫何ですか?」


「ん?…ああ、大丈夫だ。何せ…」


するとルーカスの肉体から…いや身につけるロストアーツから光が溢れ、地面のパイプを伝って城全体に光が灯る。それと共に星魔城オフュークスに刻まれた傷の数々がヌルヌルと動き埋まっていく。


自己修復機能まで持ち合わせてるのか、マジで壊すの大変そうだなこれ…!


「ここにロストアーツが揃っている限りオフュークスは不壊だ。つまりコイツは俺以外には止められないんだよ…諦めろエリス」


なるほど、オフュークス内部にロストアーツがある限り解除された機能拘束は元に戻らないわけか。しかし参ったな…それじゃあこの城を壊すことも止めることも出来ないじゃないか。


今オフュークスは天番島へ向かっている、天番島に到着したらルーカスはメリディアを殺すだろう。いやそれだけで済めばいい…彼は危機を演出するためなんていうかバカみたいな理由で街を消しとばすのも辞さないと言っていた。


なら、下手をするとあの島に対しても攻撃を仕掛けるかもしれない。


なんとしてでも止めなければ。


「へぇ、いいこと聞きました。つまり貴方をぶっ潰してその身につけてるロストアーツもぶっ壊せばオフュークスも壊せるようになるってことですね。どの道貴方は倒すつもりだったので一石二鳥です」


「アハハハハハハハハ!言ってろよ…」


刹那、ルーカスが高笑いと共にエリスの前から消え…いや違う!


「やれるならな…!」


「後ろ!?」


咄嗟にしゃがみ背後から振るわれた鎌を回避する。これはあれだ…星魔脚カプリコヌスの『超高速移動』、本来はメグさんに支給される予定でありメムがファーグスの街で使っていたあの脚甲が作り出す神速を使い、エリス背後に回って来たんだ。


「おっと、避けられたか」


しかし次の瞬間にはルーカスは鎌を投げ捨て天井に突き刺すと共に、外套のように羽織る星魔帯ピスケスの裏から…拳銃を、星魔銃カンケールを取り出し。


容赦なく、しゃがむエリスに向けて引き金を引く。


「ぅわぁっ!ととと!危ないですよ!」


クルリと体を持ち上げカンケールを蹴り上げ射線をエリスから逸らす…が。


「甘い…『星魔脚カプリコヌス』ッ!!」


「なっ!?ぅぐッッ!?」


カンケールは囮、エリスがそれを蹴り上げ対処することを読んでいたかのように続けざまに飛んでくるのはルーカスの足、着用者に神速を与えるロストアーツ『カプリコヌス』による刹那の蹴撃。それがエリスの脇腹を突き砕き、骨が軋むような音を鳴らしながらボールのように蹴り飛ばされる。


「ぐはっ!いったぁ〜…」


「まだまだ!」


「チッ…」


向かってくる、カプリコヌスを得たルーカスの速度はエリスの旋風圏跳に比類する。このままじゃ追撃を受ける。なんとかしないと…!


「『火雷招』っ!」


放つのは迫撃の一撃。向かってくるルーカスに向けて態勢を半端に整えて火雷招を腕に這わせて容赦なく放つ。避けられるにせよ防がれるにせよ今は態勢を整える時間を稼がないと…。


「お前の動きは分かりやすいな…『星魔帯ピスケス』!」


「あ!それ!」


しかし、ルーカスは一々最適解を踏んでくる。展開するのは外套のように振り上げるのはピスケス。属性魔術を水を吸い込むタオルのように吸収してしまうアレを火雷招に向けて広げたのだ。


そうすれば当然、エリスの炎雷はスルスルとピスケスの中に吸い込まれていき。代わりにピスケスが炎と雷を帯びて…。


「返すぞ、エリス…!」


そんなピスケスを拳に巻けば、簡易煌王火雷掌の出来上がりだ。それをカプリコヌスの速度と共に今だ立ち上がり損ねたエリスの鳩尾目掛けて飛ばし…。


「『星魔拳タウルス』ッッ!!」


炎雷を纏ったピスケスを伴った星魔拳タウルスの一撃がエリスの体を打ち砕く。対象を破壊する衝撃波を放つタウルスの力により炎と雷が衝撃波と共に放たれ爆裂する…。


「ぐぅっ!?」


気がついた瞬間にはエリスは廊下の端まで飛ばされ、壁にめり込む。


分かってはいたけど、やはりクソ強いな。ルーカスにはロストアーツを適切に運用するだけの腕と頭がある。大いなるアルカナを遥かに上回る技量から繰り出されるロストアーツコンボ。


思ったよりも厄介だな、無策のゴリ押しで勝てる相手ではなさそうだ。


「いてて、魔力覚醒をしても押し切れないのはちょっと誤算ですよこれは」


「凄まじい威力の魔術だな、これが古式魔術の力か。こんなものを思うがままに振るっていたのか?お前は」


バチバチと電流を迸らせるルーカスが奥から悠然と歩いてくる、その手に迸る火雷招の感触を味わうようにもう一度握り締めればエリスの魔力は残滓も残さず彼の手から消える。


まぁ、古式魔術は凄いですよ。エリスだってもう十数年扱ってますけど未だそこが見えませんからね。


「俺だって世間じゃ天才と持て囃された男だ。この魔術の凄まじさを『才能』の一言で片付けるつもりはない、…これは間違いなく努力の賜物だ」


「…まぁ、エリスだって何年も修行してますからね」


「それは俺も同じだ、だが俺は終ぞこんな装備を使わなきゃお前と対等になれなかった。俺もお前も才能を持っていて努力もしていた。なのになんでこんなに差がついた?…明白だよな、聞くまでもない。お前は魔女に選ばれた…ただそれだけだったんだ」


「はぁ?」


壁から体を引き抜きルーカスの言葉に食ってかかる。何を言いたいのか…分からないな。


「分からないか?お前がそこまで特別になれたのは魔女に選ばれた幸運によるものだ。もし俺が魔女レグルスの弟子だったならばきっともっと上手くやれた…俺はもっと英雄になれていたはずなんだ」


「だから、何が言いたいんですか?」


「勘違いするなと言いたいんだ、お前は英雄になったんじゃない。魔女に英雄にしてもらったんだ。でなきゃお前みたいな奴がアジメクの英雄などと呼ばれるわけがない!」


「……つくづく話の合わない人ですね貴方は」


英雄になれたのは魔女のおかげ?バカですね貴方…。本当にそこにしか目がいってないんですね。


「確かにエリスが強くなれたのは師匠のおかげです、そこは認めます。けど…貴方がエリスに勝てない理由はそれだけですか?」


「なんだと…?」


「…それが分からないうちは、貴方は永遠にエリスと対等になんかなれませんよ。たとえエリスの百倍天才で百倍努力したってね」


「…フッ、ふははは!大した自信だ…」


対等にはなれない、つまり今のルーカスとエリスは対等じゃない。いくらどんな武器で武装しようがどんな計画を練ろうが貴方とエリスは同じラインに立ってない。お前が下でエリスが上…それは今この場では覆らない事実だ。


それはエリスが魔女の弟子でルーカスがそうじゃないからではない。もっと根本的なところから違うのだ。それを理解出来ないなら貴方は強くなれない。


それを伝えればルーカスは苛立ちを表すように星魔槍を前に掲げ。


「星魔槍アーリエス…形を変えよ」


アーリエスは千変万化の槍だ、持ち主の意思により伸びもするし縮みもする。まるで水銀のように流動体と化した槍は一度形を崩すと共に即座に新たな姿を作り出す。


それは…星魔鎌スコルピウスと同じ、全く同じ鎌型の姿を取る。


「左右で長さも重さも違って振るい辛かったんだ…、これで全力が出せる」


二本の鎌を振りかぶるような姿勢を取り、独特な構えをエリスに見せる。外套を羽織り悪魔の笑みを浮かべ鎌を携えるルーカスの姿は、死神を自称するリープなんかよりも…余程邪悪な死神に見えて…。


「切り刻む…!星魔脚カプリコヌス!!」


「来ますか!『旋風圏跳』!」


刹那、ぶつかり合うルーカスの鎌とエリスの蹴り、威力 速度と共に互角。一つ違う点があるとするなら…違う、ルーカスの勢いがエリスに勝っているのだ。


「魔女に選ばれ天に選ばれたお前とこうして戦える日を俺はどれだけ待ち侘びたか!」


二本の鎌を巧みに操るルーカスの動きは先程までのそれよりもずっと鋭い、蹴りを受けた鎌を咄嗟に引いて二本の鎌を手の中で風車のように回転させ肉薄したエリスを細切れにしようと動き出す。


「っちち!」


そんな鎌の嵐を身を捩りながら飛び上がることで回避してみせる。もし観客がいたなら拍手喝采ものの名回避だと思うんだが今は関係ないか。


しかしルーカスは元々一本の剣を扱う戦いを主流としていたはずなのに、慣れない鎌のそれも二刀流をやって見せてもこれだけの技量を見せるとは。


「ああそうさ!お前を俺の憧れだよ!お前が立っている場所が俺は欲しいんだよ!」


巧みに持ち手を変えて短く持つと共に至近距離のエリスの四肢を刈り取るように動くルーカスと拳で打ち合う。近接戦の技量だけならエリスと互角…いやそれ以上か。


「だから退いてくれよエリス!お前が受けている喝采は俺が得るべきだったものなのだから!」


「だからくだらないんですよ貴方の理屈は!」


惜しい…そんな感想しか湧いてこない。


ルーカスの技量は間違いなくアジメクで五本の指に入る。クレアさんが居なければ団長になっていたしエリスが居なければそれこそアジメクの英雄と呼ばれていただろう。それ程の技量を持ちながら彼は自身が何者でもないことにしか執心していない。


強く賢く面倒見も良く行動力にも溢れている。真面目に騎士をやっていればこんなにも頼りになる男は居なかっただろうに。何故こんな事にしか彼は自身の才能を使えないんだ…!


何より…。


「どうして!英雄になる事にしか興味がないんですかッッ!!」


鎌の刃を潜り抜けた先に見る一寸の隙。そこに身を挟み込むように拳を突き出し…怒りと共にルーカスの顔面に叩きつける。…が。


「ッ星魔盾リブラ!」


弾かれる、咄嗟にルーカスが展開した盾が生み出す魔力防壁。あれは防壁を展開するロストアーツ星魔盾リブラ。城塞と同程度の防御力を持つという厄介なロストアーツ。それによってエリスの拳は容易く弾かれてしまう、殴ったこっちが拳を痛めそうなくらいの硬度…これを真っ向から砕くには古式魔術がいるな。


「英雄になる事しか?何を言う…人に生まれたからには他人を凌駕した証を手に入れたいと思うことの何がおかしい!」


即座にルーカスは動き出す。リブラの盾に阻まれたエリスを狙って再び腰に差した星魔銃カンケールを抜き放ち…ん?


なんでカンケールなんだ、ここで。


「魔女に選ばれ幼い頃より他人を凌駕していたお前には分かるまい!」


「ッ!!」


防壁に細かな穴が空き、そこから飛んでくるのはの星魔の弾丸。魔力を押し固めたそれが弾丸として射出されエリスに襲いかかる。それを真正面から籠手で叩き落としてエリスは次なる攻勢に出る。


ともあれ相手が防壁を張るならやりようはある。エリスはネレイドさんみたいに技術で防壁を破壊するのは得意ではないので…力押しでいかせてもらう


「火天炎空よ、燦然たるその身 永遠たるその輝きを称え言祝ぎ 撃ち起こし、眼前の障壁を打ち払い、果ての明星の如き絶光を今ッ!『天元顕赫』ッッ!!」


両手の中で魔力をこねくり回し灼熱に変換すれば、光を放つ紅蓮の灼熱がエリスの指の隙間から漏れ出て地面や壁を焼き焦がし、それを纏めてルーカスへと投げ放ち──。


「それはリブラでは受け止められないな」


刹那、パッとリブラの防壁が消え。代わりにルーカスはピスケスを前に突き出し…、あ!やべっ!


「吸い付くせピスケス!」


属性魔術を吸収し含むピスケスはエリスの灼熱さえ無効化しその内側に留めてしまう。赤く光り輝く布と化した星魔帯ピスケスをクルリと即座に鎌に巻きつけるルーカスは…まるで大地でも耕すように大きく大きく振りかぶり。


「『灼炎一刃』ッ!!」


自らの技として放つ。炎を纏った星魔鎌は斬撃を放つと共に灼熱を纏い目の前に真紅の斬光を放ちなにもかもを焼き切っていく。防御が不可能なのは魔術を使った本人たるエリスが分かっている。


故に回避、回避しかない。旋風圏跳をフルに使い全速力で横に跳……。


「甘いんだよッ!星魔拳タウルス!」


そんなエリスの行動を分かっていたかのように回り込んだルーカスの拳が再度エリスを打ち据える。ただでさえ強力なルーカスの膂力はロストアーツの加護を受け、エリスの防壁を打ち破る程のものになり。


「ぐぇぇっ!」


壁を貫き瓦礫と共に吹き飛ばされる。こうなんども殴りつけられたら流石のエリスも参っちゃうよ…いてて。


「くぅ…痛いですねぇ…」


「まだ立つか、星魔拳タウルスは攻城兵器としての運用も考えられている程の代物だと言うのに、しぶとい奴だなお前は」


「まぁ、それが強みなので」


ボコボコにされてトライアンドエラーを繰り返すのがエリスですからね。とはいえもう十分ボコボコにされたのでそろそろなんとかしたい気持ちはあるんですけど…。


(面倒ですね)


体を触って傷の具合を確かめながら思考する。ルーカスの戦い方は実に的確だ、自身は常に鎌で牽制しながら決して欲張る事なくそれでいて無視出来ないレベルの攻撃を繰り出してくる。そしてこちらが攻めれば物理攻撃にはリブラ・魔術にはピスケスと的確に使い分け戦ってくる。


完璧な防御という土台があるからルーカスもモリモリ攻めてくる。なのに隙を見せるほどに欲張らない。


彼のこの防御をなんとかしないと勝ち目がないな。


(物理ではリブラは抜けない、リブラを抜ける魔術ではピスケスは抜けない、どうするかな)


ポクポクと考えること実に一秒。エリスは記憶を遡って考える、ルーカスと戦うのは初めてだがロストアーツと戦うのは初めてじゃない。今までの記憶の中に何かこの布陣を突破する鍵が…。


(────あ、閃いた)


あった、鍵が。そうだそうだ…簡単な事だ、いつも通りやればいいんだった。


「ふぅー…」


「ん?何か雰囲気が変わったな」


「分かります?」


「ああ、分かる…お前は確か窮地に陥ると異様な勝負強さを発揮するんだったな。デティフローアが言っていた…『追い込まれた時こそエリスちゃんの本領発揮』だと」


「あらら、あの子そんなこと言ってました?まぁ…事実、こっから本番ですけど」


ステップを踏む、軽く飛び跳ねながら一定のリズムで足を前後で入れ替えるようなステップ。威嚇するようにそいつを踏んで拳を握って構えを取る。まだまだやりますよ?


「本番か、まぁこっちはとっくに本気だがな!!」


鎌を握り直すルーカスの動きは既に見慣れたものだ。やる事は変わらない、彼は隙を見せないよう攻撃に関しては欲張って来ない、徹底して相手の乱れを待つタイプ。


つまり言い換えれば決して強くは踏み込んでこない。って事はつまり。


「遅いですよ!ルーカス!追憶!『旋風圏跳ブロー』!」


「なっ!?」


踏み込む、右足に強く強く力を込めて。旋風圏跳で腕を加速させ直線を描く旋風ブロー…そいつをルーカス目掛け突っ込む、当然先手を取られたルーカスは慌てふためきながらも…。


「星魔盾リブラァッ!」


「いっ…」


当然のように拳はリブラの壁に阻まれる、だが…計算通り。


これで…隙が出来た。


「鎌で受け止めるべきでしたね…ルーカス」


「ッ…まさか、チッ!星魔銃カンケールッ!」


ルーカスは慌てた様子で星魔銃を取り出しエリスに狙いを定める。…そうだ、こんな至近距離だというのに鎌ではなく銃なのだ。星魔銃ではエリスを傷つけられないと理解していても彼は鎌を使わない。


何故か?当然だ。


「リブラを展開した状態では…その鎌使えませんもんね」


「ぐっ…!」


図星をつかれたルーカスは苦虫を噛み潰す。リブラは使用者の周辺に半径1メートル程の地点に魔力防壁を作り出す。


魔力防壁ってのはそんなに便利なもんでもなくてね。外からの攻撃を弾く事ができるが同時に中からの攻撃も弾いてしまうんですよ。だって壁ですからね?壁は外から見ても中から見ても壁だ。だから鎌みたいな長物は取り回しが出来ない。


ともすれば万物を裁断する星魔鎌スコルピウスならば魔力防壁も叩き切れるかもしれないが、それで切れるのは防壁であってエリスではない。どの道動かせないことに変わりはない。だから銃を使う、魔力防壁を透過する同じ魔力性質を持つ弾丸を使うより他ないのだ。


…当然、これがルーカス自身が生み出した防壁ならばこうはならなかった、自身の意思で形を変えられる防壁ならば自身の動きを阻害される事はない。…だがこれは飽くまで外付けの力。


自身の力ではないから、自身の足枷になるのだ。


「鎌を振るえないならいくらでもやりようはありますよ!」


鎌を振るえず豆鉄砲を撃つことしか出来ないルーカスなんて怖くない、つまり防壁を展開している間はエリスは動き放題ってことだ。


だから大技を使いたい放題。


「起きろ紅炎、燃ゆる瞋恚は万界を焼き尽くし尚飽く事なく烈日と共に全てを苛む、立ち上る火柱は暁角となり、我が怒り!体現せよ『眩耀灼炎火法』!!」


燃え上がるはエリスの怒り、真っ赤な炎がルーカスの視界を覆い尽くす。この火力でそのまま魔力防壁を砕いてやるとばかりに溢れる獄炎。


だが、そんな炎の中ルーカスは笑う。


「バカが、せっかく作り出した隙を無駄にする気か?属性魔術が効かないのは百も承知だろう!」


即座に防壁を解き、代わりに星魔帯ピスケスをグルリと振り回し炎を吸い上げる。属性魔術は効かない、アドラヌスがやったように魔術をピスケスに吸わせ…その主導権を握る。


「さぁ自分の炎に焼き尽くされろ!『灼炎一刃』ッ!!」


「…………!」


再び炎を帯びたピスケスを鎌に纏わせ振り放つのは炎の斬撃。エリスの魔術を利用したカウンター…これがある限りエリスは属性魔術を封じられたに等しい。


……そうだ、封じられたに等しいだけで封じられたわけではなかったのだ。


「ルーカス、貴方は剣士だから分かりませんよね。魔術戦の恐ろしさが」


迫る炎の斬撃の中エリスはほくそ笑む。ルーカスは分からない、魔術師じゃながら魔術師同士の戦いの怖さが分からない。


魔術を打ち合うに当たって最も怖いのは何か?敵の大火力魔術?それとも魔術同士のコンビネーション?


違う、『何をしてくるか分からない』のが怖いのだ。言ってみれば互いにカードを伏せたまま睨み合うに等しい謂わば読み合いの戦いが魔術戦なんだ。


だがルーカスはどうだ?カウンターという事は少なくとも次撃ってくる攻撃が丸わかりだ。こんなの怖くもなんともないんですよ!


「水界写す閑雅たる水面鏡に、我が意によって降り注ぐ驟雨の如く眼前を打ち立て流麗なる怒濤の力を指し示す!『水旋狂濤白浪』!」


「なっ!?水ッ!?」


向かってくる紅蓮の炎に向かって放つのは大量の水…、両者は互いに打ち消しあいその場には視界を満たすばかりの大量の水蒸気が発生する。


ほらね、怖くない…。


「ぐっ!?水蒸気!?まさかこれが狙いでわざと炎を!」


その通り、炎を使わせるために炎を使った、水で相殺し目眩しをする為に使った。お陰でこの通り。


一面真っ白、何にも見えないですねぇ…ルーカス?


(チッ、まずい…完璧に乗せられている)


エリスの予測通りルーカスは今焦りの極致にある。このパターンはよく魔術導皇デティフローアから聞かされていたパターンによく似ている。


エリスちゃんが誰々にどうやって勝った。そんな話をよくクレア団長やデズモンドを相手にしていたのを盗み聞きしてエリスの勝ちパターンは学習していた。エリスは序盤は様子見に徹して後半に巻き返すのを得意とする。


特に後半にはその絶大な記憶力から相手の弱点を分析して襲い掛かるという。それを分かっていたから最初からフルスロットルで決めにかかったのに。あいつの体鋼で出来てるのかって疑うほどに硬いんだ。あれを何度もぶちのめした旧アルカナは化け物集団かとつくづく思ったよ。


(とにかく今はエリスの狙いを読まなくては、奴はどうやって俺の弱点を突くつもりだ、そもそも俺の弱点ってなんだ…)


普段の俺なら『弱点などない』と断言出来る、だが今は違う。ロストアーツという武器を主軸にしている以上俺には俺にさえ把握し切れない弱点がある可能性がある。事実さっきそれを突かれた。


なら先にそれを思考して、先んじてそれを潰してしまえば……。



そう、ルーカスが様子見に入ったのを…エリスは見逃さなかった。


「旋風圏跳ブロー!!」


その声に咄嗟に反応する、これはさっきエリスが見せた風で加速する正拳突きだ。事実霧の向こうから拳の影が見える。


何を考えているか分からないが…。


「星魔盾リブラッッ!!」


盾を展開して周辺に魔力防壁を展開する、これを使うと鎌が防壁に引っかかって上手く扱えなくなるんだ。さっきはそこを突かれた…だけど、今度はそれを逆手に取ってやる。受け止めた瞬間カンケールの最大放出を使う。…一度使えばしばらくは機能がショートする切り札だ。リープに渡した時敢えて教えなかったカンケールの隠し機能。


エリスも把握していないそれで一気に奴を消し飛ばしてやる。


(来た…!)


魔力防壁が音を鳴らす、エリスの拳を受け止め揺れる。よしここで銃を抜いて……。


「え?」


ルーカスは目を丸くする。魔力防壁に突き刺さったエリスの拳を見て…丸くする。


だって、今飛んできたエリスの拳…固く閉じられたその拳、防壁に突き刺さったそれは…二の腕から先がなかった…。


拳だけのそれはやがてグラリと揺れて地面に落ちて音を鳴らす…、なんだこれ。いや…まさか…。


(籠手だけ飛んできたのか!?)


霧で見えなかった、エリスは態とさっきと同じ技名を叫ぶ事で既知の技であると俺の油断を誘った、全てはこの為、初手の動きもこの霧も全て俺にリブラを使わせるためのブラフ…!?


じゃあエリスは一体どこに……と、ルーカスは考えているでしょうねぇ。


「こんにちわ、ルーカス」


「ぬぐっ!?」


ヌルリとエリスは立ち上がる。そこは…ルーカスの目の前、つまり展開された魔力防壁の中だ。霧に乗じて移動して籠手だけ旋風圏跳で飛ばしリブラを使わせる事で…エリスはルーカスと二人っきりの空間を作り出したのだ。


ここなら、ルーカスは自慢の鎌を使えないですからね。


「うっ…せ、星魔盾リブ…」


「おっと」


そうだよな、このまま防壁の中にエリスと二人っきりでいるのはまずいよな。だから貴方が防壁を解除しようとするのは目に見えてましたよ。


けどね、ここでロストアーツの弱点が貴方にとって致命となる。だって…。


「させませんよ、ルーカス…!」


「ぅごぉっ!?」


その首を掴み万力の勢いで締めてその言葉を閉ざす。…リブラは相変わらずルーカスの意思に反して防壁を展開したままだ。


そうだ、やはりそうなんだ。ロストアーツは『声による詠唱が不可欠』なんだ、みんなロストアーツを使うときはその名前をいつも呼んでいた。


つまりここでルーカスを黙らせてしまえば、彼の持っているいくつものロストアーツは全て無用の長物と化してしまう。当然彼を閉じ込める防壁もまた無くなることはない。


これがルーカス…貴方の弱点です。所詮ロストアーツは借り物の力である事…そこがどうしようもない弱点なんですよ!


「悪いですが次はエリスに付き合ってもらいますよ、何せ…」


「ぐっ!?」


首を引っ張り頭突きを繰り出す。自身の額を押しつけるようにルーカスにグリグリと密着させる…こうでもしないと入らないんですよ。


何せここは。


「ここはエリスの『間合い』ですからね」


「っっっ!?」


エリスの間合いは狭いんです、こうでもしないと入らないんです。けど…同時にこれがエリスであることを再確認する。相手の懐に入り込んで隙をついて縋り付くように進み続ける、そして辿り着いたこの場所こそにエリスの勝利はあるんだ。


エリスの間合いでなら、エリスは無敵ですよ…ルーカス!


「さぁ!地獄見せて…やりますよぉっっ!!!」


「ぐがぁっ!?!?」


もうそこからはやりたい放題だ、ルーカスは何も出来ない。それをいいことにエリスはもう彼の体を滅多打ち。拳を何度も懐に叩き込み、頭突きを何度も頭にぶつけ、あらん限りの蹴りで全身を打ち、両手で頭を固定しクルミでも割るように膝蹴りの雨霰を放ち。


そして…。


「寄越せ!」


「あ!やめ…!」


奪い取る、ルーカスからリブラとピスケスを…こりゃあいい、持っただけで力が溢れて来ますよ。


本当はこんなもの使いたくないですが…今だけは使わせてもらいますよ!!


「星魔盾リブラ!星魔帯ピスケス!今だけエリスに力を寄越しなさい!」


「ぅぐぅっ!?」


リブラの防壁を解除し自由になったルーカスを蹴り飛ばし、その隙にエリスはこの二つを始動させる、するとシリウスの魔力がエリスの体を包む。


本当に気分が悪い話だが、やはり奴の魔力は特別だ…今ならなんでも出来ると思えてくる。なら存分に利用させてもらいましょうか!


「必殺!!」


ピスケスで星魔盾リブラをクルクルと包んで一つのボールを作り出すと共にエリスはそれを軽く目の前に投げる。と…同時に使うのはエリスの必殺技。


「追憶…『旋風 雷響一脚』!」


足先に追憶で作り出した風雷を全て溜め込み。そのまま振り抜く、ステラウルブスに来た時スタジアムで師匠と一緒に見た例のスポーツ…サッカーのシュートを真似て、作り出したピスケスとリブラのボールを全力で蹴飛ばす。


すると、エリスの風雷をピスケスは吸い上げ自らの力とすると共に、そのままエリスの雷響一脚の威力を受け取り…凄絶なシュートとしてルーカスに瞬速の勢いで真っ直ぐ飛んでいき。


「なっ!?くぅぅっっ!?!?!?」


ルーカスも飛んでくる風雷ボールを鎌を二つクロスさせ防ぐが、その勢いまでは止めきれずジリジリと後ろに引きずられるように後退り、そして、。


「星魔盾リブラ!!展開しなさい!!」


「は……ぁ!?」


そして、リブラは外側のルーカスを閉じ込めるように展開され、今ルーカスは逃げ場を失った。それと同時に…最早逃がすつもりもないとばかりに回転を増したボールは一気に魔力を増幅させ…。


今、雷電の大爆発を発生させる。


「ぐぉぉおおおお!?!?!?!?!?」


本来ならこの城を半壊させる程の威力が込められたエリスの必殺、それがリブラの防壁により外に逃げることなく反射され凝縮される。竃の中の薪のように逃げ場の無い箱の中…ルーカスの体が雷光の中に消えていく。


これがエリスのロストアーツを使った必殺技、名付けて『旋風 雷響蹴斗』。もう二度とロストアーツを使わないことを考えると最初で最後の必殺技と言えるだろう。


「ルーカス、貴方とエリスの差は魔女の弟子かどうかでは無いと言いましたね」


やがて防壁は消え失せ、中の白煙が一気に解放され…ルーカスの姿が徐々に見えてくる。全身を黒く焼かれズタボロになり口から黒煙をもうもうと吐き白目を剥く彼の姿が…露わになる。


「確かに修行で差がついたかもしれません、けどもし貴方が魔女の弟子だったとしてもエリスは負けませんよ、だって…」


「が…ぁ…」


倒れふすルーカスを前にエリスは腕を組む、彼には負けない理由がある…だって彼には。


「だって貴方には先が無いからです、英雄になって何をするか、何をして英雄になるか、英雄になった後のビジョンが見えない『そこ止まり』の貴方には…どうせ何も成せやしませんよ」


英雄になる。お題目は確かに立派だがそこ止まりだ。それ以上がないからそれ以上になれない、本当に英雄になる人にとって英雄の称号は通過点にしかならないんですよ。


英雄を通過点として見る人間と英雄を終点として見る人間が戦えば…どっちが先に向かえるか、言うまでもないのだ。


「終わりです、これで。貴方のくだらない欲求と衝動で引き起こされたこのくだらない事件も…」


「ぅ…あ……」


もうルーカスは動けない、なら後はロストアーツを全て回収して…そして、ん?あれ?


どうすればいいんだ?この城どうすれば止まるんだ?ロストアーツは海に捨てるわけにはいかない、かと言って破壊も出来ない、ならばこの城の支配権を奪うしかないがこれはどうやったら動かせるんだ?


全く分からない…。ぶっ壊すか?跡形もなく。


「んー…と言ってもこの城にもシリウスの血が使われているんでしたね、じゃあどうしようかな」


腕を組み考える。どうしたもんかと…するとふと気がつく。城の壁に這うパイプ…魔力導線が妙に蠢いて光り輝いていることに。


何か…起こってるのか?いや、違うぞ。魔力が何処かに向かっているんだ。一体どこに…と魔力導線の光の動きを目で追っていると、視線は一つの物を目にする。


それは…。


「ルーカス…何を」


「ぅ…ぅああ…」


ルーカスだ、懐から取り出した星魔刃アクアリウスをパイプに突き刺し、そこから魔力を吸収している。そうだ…アクアリウスにも魔力導線が大量に使われているんだ、当然それそのものも魔力導線としての役割を持つ。


そして何よりアクアリウスの力。あれは水分を…水を操る刃だ、魔力を水に通して操るロストアーツだ。そのアクアリウスに今ルーカスの血が滴っている、ルーカスの血を通じて…オフュークス全体の魔力が…シリウスの魔力が入り込んでいる!?


「何してるんですか!ルーカス!やめなさい今すぐ!死にますよ!」


「ぐ…く…かかか、あはははは、博打だった…博打だったよ。正直な」


みるみるうちにルーカスの傷が癒えていく…まるでオフュークスが持つ自己修復機能を彼が得たみたいに。


…もしかして、一体化しているのか…そんな機能があるのか?いやあるわけがない、これは完全に開発者側も想定していなかったイレギュラーな使い方だ!


「そして俺は博打に勝った!アクアリウスを使い俺の体を操れば!ロストアーツと…オフュークスの力を得ることが出来る!」


「違います!それは貴方の体に魔力が逆流しているだけです!すぐにやめないと貴方の魂が壊れてしまいます!死にますよ!」


「死なないさ…死なないよ、英雄は死なないんだ…そういう風に出来ているんだから」


ユラリとルーカスは立ち上がる、その体に次々とオフュークスのパイプが突き刺さり彼の体と一体化していく。星魔城オフュークスに彼の体が迎え入れられ…融合しているんだ。


英雄は死なない、そんな意味不明な理屈の元、彼は再び立ち上がる。今度は…本物の怪物となって。


「あはははは!エリス!これなら…これならお前にも勝てそうだ!何せ今の俺は…世界最悪の兵器そのものなんだから!!」


その目はシリウスと同じ赤に染まり、その髪はシリウスと同じ白に染まり、全身に魔力導線が通った機械じみた体と化した彼は笑う…。


最早、うっすらと残っていた理性さえ…彼の中にはない。


「ルーカス…そんなんじゃ、ダメですよ…」


「なんとでも言え、…もう俺は英雄だ」


その言葉と共にルーカスはエリスに向けて手を翳す…すると。


「死ね」


呪詛と共に城全体が動き出す。脈打ち…内側にいるエリスに向けて、城の壁や床がそのままに襲い掛かってきて──。


………………………………………………


「エリスちゃん大丈夫かな」


天番島の砂浜に立つデティフローアは、アジメクがある方向の海を眺め…向こう側にいるエリスを想う。エリスちゃんに色々言われたから一人で行かせてしまったけど…大丈夫なのかな。


「不安か?デティ」


「ラグナ…」


そんなデティに寄り添うのはラグナだ、デティと同じくエリスを見送った友の一人。


他の友達もみんなこの海岸にいる、ここで待ってても意味はないってのはわかるんだけど、それでも少しでもエリスちゃんの側に寄り添いたくて…、魔女様達もまた会議を始めちゃったし、私達に出来ることは待つことだけなんだ。


だから、辛い…。


「ラグナはさ、エリスちゃんのこと心配じゃないの?」


「ん?心配か心配じゃないかで言えばそりゃあ心配だよ。というか俺はいつもエリスが心配だよ、彼女は考えなしに突っ込むところがあるからな」


「考えなしに突っ込んだ後に考えるんだよね、その大胆さが武器ではあるんだけど…見てる方はもうヒヤヒヤだよ」


「だな、まぁでもエリスならなんとかするさ。それに…エリスに言われたんだろ?ルーカスと決着をつけたいって」


「……うん」


エリスちゃんはルーカスが犯人ではないかと推理していた。ルーカスは口や態度はあれだけど職務には真面目で成果もあげてるからメルクさんやメグさんはそんなはず無いだろうと疑っていた。


けど、ごめんねルーカス。私はちょっと納得しちゃったよ、だってここ最近のルーカスから漂ってくるのはちょっと異常なまでの執着だったから。


(最初は何かに憧れているのかと思った、焦がれるように何かを求めていることは分かっていた…何を求めていたのかは分からなかったけど。ここ最近の彼は…ちょっと異常だった)


まぁ元々そんな子だったから不思議はないと言えば不思議はないんだけどさ、でももしルーカスがそんな悪事に身を染めていたのなら…彼を守れなかった私の責任だ。彼ともっと話しをしていればよかったのかもしれない。


…スピカ先生も昔そんなことで後悔したって言ってたのにな。ヴェルト団長と話が出来なかったから彼の過ちを止められなかった。まさか私も同じ過ちを繰り返すなんて…。


「エリスとルーカスは同郷の出だ、もしルーカスが過ちを犯したなら…エリスとしても止めたいんだろう」


「それは私も同じだよ、ルーカスは部下なんだよ」


「そうだな、…けど」


「分かってるよ、私の役目はルーカスが何かをしてから止めるんじゃなくて、そもそも何もさせないことだって」


「……あー、うん」


ラグナは言葉を選んでくれるけど、同じ国を治める者としてそこの部分には共感できる。部下が何かをしてから止めるのは別の人間の役目。私がするべきはそもそも何もさせない事だった…そういう点では私の役目は失敗に終わったのだ、力不足で…。


「あとはエリスの役目さ」


「そうだね…、もっとちゃんとしないと」


「あんまり気負いすぎるなよ、デティはこの中で一番多忙なんだから」


「でも多忙は言い訳にはならないよ」


「いやまぁそうなんだけど…、デティは強いよな」


「まぁね!」


私は強いんですよ、ド根性でなら誰にも負ける気は無い。と変に胸を張っていると…。


「……ねぇみんな、あれ見て」


「え?」


「どうした?」


日陰で休んでいたネレイドさんが、ふと海の方向を指さすのだ…それにつられて私もラグナも、メルクさんもメグさんもアマルトもナリア君もそちらを見て…それを見る。


「……何あれ」


「なんか飛んできてる?」


「なんでございましょうか」


なんか、水平線の向こうになんか見える。船って感じじゃないなぁ…だって海から離れてるし、じゃあウミネコ?いやそれにしては大きいような…ん?


「あれ…お城じゃ無い?」


お城が浮いてる、それがすんごーいスピードでこっちに来てるよ。とみんなで目を合わせれば…一人だけ真っ青な顔がある。


「あ…あわわ」


メルクさんだ、あの城を目に入れた途端グワァッ!と頭を抱えて…。


「あれオフュークスだっ!星魔城オフュークスだ!はわわ!どうしよう!」


「何!?それって今エリスが行ってるやつじゃ…!」


ルーカスが動かそうとしているとかいう超兵器だ、あれがオフュークス…私見るの初めてだ。ってかあれってエリスちゃんが止めに行った筈じゃ…まさか、失敗したの!?


「まさかエリス負けたのか!?」


「そ、そんな事ないよアマルトさん!」


「けど今実際動いていますし…如何しましょうラグナ様」


「どうしようラグナァッ!」


「うん、まずメルクさんは落ち着こうな…いやしかし、すげースピードだ…ありゃ止めるのはムズイな」


メルクさんやアマルトが慌てふためく中ラグナは相変わらずどっしりしてる。楽観もなくされど悲観でもなく現実だけを見つめる。そうして見つめた結果現実問題としてあれを止めるのは不可能との答えを出すのだ。


「もし彼処に乗っている者がこの島に攻撃を仕掛けてきたらこんな小島ひとたまりも無いんだぞ!落ち着けるか!」


メルクさんはあの城の建造を手掛けた人間だ、その恐ろしさは誰よりも知っている…ってことかな。


でもエリスちゃんどうしたんだろう…、まさか本当に負けちゃったの?…いや。


「…エリスちゃんはまだ負けてないみたいだよ、みんな」


「分かるのか?デティ」


「うん、エリスちゃんの魔力を感じる」


あの城の中からエリスちゃんの魔力をうっすら感じる、この距離だからどういう状態かは分からないが元気そうだ。恐らく起動自体は止められなかったけど必死に戦ってくれてるみたいだ。


「感じるってお前…、この距離だぞ?どんだけ広い範囲の魔力感じられるんだよ…」


「でも感じるよ、エリスちゃんはまだ大丈夫そう、…でも戦ってる相手がちょっと問題かな」


「問題?何かあるのか?」


「うん、なんか…シリウスみたいになってる」


「シリウス!?」


シリウス…私達八人にとってはトラウマに近いワードだ。でも事実あの城の中にいる存在はまるでシリウスみたいな気配だ。


いや。まだ『まるで』とか『みたい』とかそういう言葉が付くだけマシだ。このまま行ったら本当にシリウスになるかもしれない。


「このままいけば、シリウスが動かせる肉体が一つ増えるかもしれない」


「うえぇ!?マジィ!?…勘弁してくれよ。あれとはもうやりたくねぇよ」


「僕もですよ…」


「うう、私のせいだ。私が安易にシリウスの血など使ったから…」


アマルトは顔をしかめ、ナリア君はブルブル震え、メルクさんは頭を抱える。それだけの存在なんだ…、シリウスは。


「ってかやばいな、マジでもうすぐだぞ。なんとか撃ち落としたいが…」


とアマルトはここにいるメンツを見る。あの城を撃ち落としたいが気持ちはある。だが弟子たちの中で最も遠距離火力を出せるエリスちゃんがここには不在だ。後はみんな近接とか補助がメイン。私が一番射程距離が長いけどあれを落とせるとは到底思えない。


「そうだ!軍艦の全砲門で砲撃を…ってあの中にエリスがいるんだったー!!」


「メルク様とにかく落ち着きましょう」


「だが…!」


こういう時、みんな自然とラグナに視線が行く。ラグナが言う事が言ってしまえば答えだから。だがラグナは腕を組んだままピクリとも動かず城を見上げていて。


…流石のラグナもこればかりは難しいかな…。


「ねぇ、ラグナ」


「ん?なんだ?」


「難しそ?なんか浮かぶ?」


「考え中かなぁ」


「そっか、流石にあの城をなんとかするの難しいよね…」


「え?そっち?」


え?どっち?どっちの話?ってかラグナ今何考えて…。


「いや、あの城はエリスがなんとかするだろ?ただエリスがこっちに来ちまった以上俺達にもなんか出来ることないかなってさ」


「なんとかするって…」


「なんとかするさ、あいつがなんとかするって言ったんだ。エリスがなんとかすると言った以上アイツは意地でもなんとかする」


ラグナは確信めいて口にする。エリス任せ…と言うよりは実績の話だ。エリスは今までそうして来たしそうやって今ここに至っている。ならば彼女はそうなるように全霊を尽くす。


であるならば、こちらはこちらでそれを前提として動くべきだ。ラグナは今ここで何が出来るかを考える、あの城をなんとかするのはエリスちゃんの仕事だ。


「慌ててるところ悪いな」


「ん?…ゲッ」


ふと、弟子たちとは別の声が響き私達は揃って吊られるように声の主人へと目を向ける。砂浜に足を後をつけ気配も足音もなく忍び寄ったその人の顔を見て…まぁ苦手そうに顔を歪めるラグナはちょっと一歩引く。


まぁ分かるよ、現れたこの人は私も苦手だもん…だって。


「アーデルトラウト将軍…」


「おや、アーデルトラウト様。ご機嫌よう」


「フンッ…」


空を浮かぶ星魔城オフュークスを眺めてやや不機嫌そうに鼻を鳴らすのは帝国の最高戦力の一人、将軍アーデルトラウト・クエレブレさんだ…。


この人は魔女の弟子たちのことが嫌い…というより、普通に人当たりが悪い上に怖いから私も苦手なんだ。


特にラグナは昔彼女とやり合った事があり、その時アーデルトラウト将軍を挑発しすぎた事もあり今もちょっと微妙な関係らしく、ちょっと苦手っぽい。


「挨拶は抜きだ、それよりも…これはどういう事だ?メルクリウス首長。あなたは何かを知っている様子だが」


「あ、いや…そのぉ…」


「あれが秘匿されてた最後のロストアーツ星魔城オフュークスだ。しかも中にアド・アストラに対して敵意を持つ者が乗っている、今エリスがそれをなんとかするため戦ってる最中だ」


問い詰められ冷や汗を流ししどろもどろになるメルクさんに変わりラグナが状況を説明する。オフュークスは軍内部でも最上位機密として扱われていた、六王の一人である私でさえそのフォルムを知らないほどに完全に秘匿されてきたんだ。


流石のアーデルトラウトさんも初めてみたとばかりに顎を撫でる。


「受けた報告では、確かあれは帝国の如何なる魔装よりも強力だと聞くが?」


「……はい、世界最悪の兵器です」


「それが敵に奪われた…と。話は後だ、即刻撃ち落とす…全軍!敵襲だ!あの空飛ぶ棺桶を敵ごと深海に叩き落としてやれ!」


「ちょちょ!アーデルトラウトさん!あの中にはエリスもいるんですよ!」


「分かってる、だが死なんだろ。アイツは殺しても死なん」


いやそれはそうかもだけどさぁ!もっと躊躇しないの!?


なんて私達があたふたしている間にアーデルトラウトさんの号令に従い島の軍勢は即座に動き出す。その全ての切っ先が星魔城に向かい、全ての銃口に弾が詰められる。徐々に近づくあの城を撃ち落とすために…。


「おいおい、あっちゅーまに戦闘態勢が整っちまったぞ…」


「まぁ、ここの守護をするにあたって常に臨戦態勢は整えていましたからね」


「エリスさん大丈夫かな…」


「ここまで来たら祈るしかねぇんじゃねぇの?まぁアーデルトラウトさんの言う通りエリスはこの程度じゃ死なないだろうけどさ」


なんてアマルトは言っているけど、今更止められるわけもなく。迫り来る城に向けて軍艦の魔力砲台がその口を向け、次々と砲火を吹いて城に向けて攻撃を仕掛け始めた。


いくら世界最悪の兵器とは言え城であるならばあの数の砲火を受ければ一溜りもないはずだが…。


「あーっ!ダメだーっ!星魔城オフュークスには魔力防壁が何重にも展開する機能があるんだー!」


メルクさんが自身の髪を引っ張りながら騒ぎ立てると同時にオフュークスに向けて放たれた砲撃は全て透明な壁に阻まれ城そのものに傷を与えることさえ出来ず無意味に終わる。


そんじょそこらの防壁とはレベルが違う、マルミドワズを守る都市防衛型の魔力防壁と同レベルのそれを何枚も重ねて展開しているんだ。一つを破壊する事が出来ても他の防壁が即座に入れ替わりで現れその隙に破壊された防壁も修復される。


砲撃でも破壊できない防壁を複数回、それも一瞬で叩き込まねばアレを破壊することは出来ない…。


「砲撃でもダメか、となるとやや面倒だぞ…」


「うー!私としたことがなんであんな物作ってしまったんだー!」


面倒だと親指を噛むアーデルトラウトさんの横で崩れ落ちるメルクさんはとにかく一旦置いておくとして、事実砲撃以上の大火力はこの島には存在しない。


これ以上となると将軍自身が攻撃を仕掛ける必要があるが、あの高度まで飛び上がる術がない…。


「何事ですか!この泣きそうな騒ぎは!」


「せっかく優雅なバカンスかと思ったのに…憂鬱なことになってきましたね」


「あれは…」


「あ?お前ら…ハムレットにステンテレッロ…」


当然砲火を聞きつけて次々と兵士たちがこの海岸に集まってくる、その中にはエトワールの二大巨頭悲劇の騎士候補 落涙のハムレットと喜劇の騎士ステンテレッロ、そして。


「ん?あ、ユピテルじゃん」


「うぇ、アマルト義兄さん…憂鬱」


「人の顔を見て憂鬱とか言うんじゃねぇよ…」


頭の上に雨雲を浮かべ、天流神の異名を持つコルスコルピの魔術師ユピテルもいる。聞けばアマルトとは本家分家の間柄らしい二人は顔を合わせるなりややげんなりした様子を見せる。


アマルト…タリアテッレさんの時みたいにユピテル君にも嫌われてるんだね…。


「だが丁度いい!ユピテルお前空飛べたよな!」


「え?…まぁ、そのくらいなら」


「お前ちょっと行ってあれ止めてこい」


「あれ?あれってあの城?バカじゃないの?出来るわけないじゃん」


「いいから行け!」


「うへぇ〜…」


ユピテルは天候魔術の達人だ。浮雲を作り空に浮かび上がり天候を操り攻撃を仕掛けることができる。その点では確かに砲撃よりも有効な攻撃手段と呼べるかもしれないが、アマルトは無理だと嫌がるユピテルの首根っこを掴んで空へと無理矢理投げ飛ばす。


そう言うことしてるから嫌われるんじゃないかな…。


「チッ、仕方ない…当主様の命令なら憂鬱だけど従わないと。『ホワイトクラウン』!」


しかし、覚悟を決めたユピテルは白雲を生み出しその上に乗ると共にグングン上昇していき、星魔城オフュークスへ向かっていき…。


「『黎明の雷鳴』ッ!!」


杖を振り回し、足元の白雲を暗雲へと変化させると共に無数の稲妻を放ち、星魔城オフュークスに対して凄絶な攻撃を仕掛ける。光の槍衾とも思えるほどの雷撃の数々は正直私も息を呑むほど大したものだが…。


ダメだ、あれでは砲撃以上の効果は望めない。


「あれ?弾かれちゃった…ごめーん!アマルト義兄さーん!やっぱ無理ー!」


「諦めが早えよ!?」


ユピテルの放った雷撃は一つとしてオフュークスに当たることなく、その全てが防壁に弾かれユピテルもすっかり意気消沈。やっぱ無理ですよと暗雲から顔を覗かせ無理無理と手を振っている…が。


「…ッ!?なんだありゃ…」


ユピテルに目を向けていたアマルトは気がつく。ユピテルの背後に屹立する星魔城が…何やら蠢動していることに。何が起こっているか分からない…だが、よくないことであることはとにかく明白だ。


「まだ続けるの〜?憂鬱だよ〜義兄さ〜ん…」


「ユピテル!直ぐに引け!降りてこい!」


「え〜、行けって言ったり戻れって言ったり憂鬱だなぁ〜」


「違う!星魔城が動き始めてるんだ!なんかしてくるぞ!」


「え?」


城の形を保ち続けた星魔城オフュークスが蠢く。まるでそれが一つの生命体であるかのようにウネウネと蠢き。形を変えていく、変形とかじゃない…あれはもう変態に近い。


「なんだあれは、あんな機能…オフュークスにはつけてないぞ…」


まるでスライムのように空中で蠢き、原型を失ってもなお動き続けるオフュークスは…突如としてウニのように無数の砲塔を四方に突き出し…。


乱射した、巨大極まる砲門から火を吹かせ狙いを定めることもなくあちこちに向けて砲撃を繰り返す。幸い島に当たる物は一つとしてなかったが…。


「うわぁぁぁあああ!?!?!?」


「ユピテルッッ!!」


砲撃が直撃した海は巨大な白い柱を作り出し、その衝撃に飲まれたユピテルは雲から叩き落とされ水柱の中に消えていく…。


攻撃をしてきた。闇雲だったが攻撃してきた、それも…凄まじい威力の攻撃を。もしあれが島に直撃していたら…纏めて全部吹き飛んでいたぞ。


「チッ!、ユピテル!」


「待てアマルト!」


「ぐぇっ!?何するんだよラグナァッ!!」


咄嗟にユピテルを救いに行こうと海に飛び込むアマルトの足を掴み制止するラグナ、彼はジッと蠢き続ける星魔城を眺め続けている。


この火急の事態に陥ってなお彼は冷静に物を見据えて…。


「ユピテルを助けに行かねえと!アイツ泳げないんだ!」


「なら救出には別の人間に行かせる!、それよりお前にしか頼めないことがあるんだ!」


「え?俺?」


「ああ、…見てみろみんな」


そう言って指差すラグナの手の先にあるのは星魔城…いや、蠢く星魔城が先程の攻撃で狙ったであろう本来の標的。


先程の攻撃は島を狙ったものではなかった、さっきの砲撃は城を相手に一人で飛び回り攻撃を仕掛ける人影に対して行われたものだ。


つまり、…あそこにいるのは。


「エリスちゃん!?」


「アイツ、あの馬鹿でかい城を相手に戦ってんのか!?」


エリスちゃんだ、風を纏って蠢く星魔城を相手に一人で戦っているんだ。城を相手に戦うなんて滅茶苦茶な話だと思うけれどエリスちゃんなら確かにやりそうだ…。


まだエリスちゃんはやられていない、まだ彼女は諦めずに一人で戦っているんだ。だったら私達は…。


「ああ、エリスはまだ戦ってる…だから俺達には俺達に出来ることをやろう!」


友達が戦ってるなら、私達は私達に出来ることを…。


エリスちゃん一人に押し付けはしない。


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