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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十一章 魔女狩りの時代と孤高の旅人
384/835

344.魔女の弟子と天番島


メリディアがアルカナを動かしていた真犯人かもしれない。そんな噂が流布されて、アド・アストラ内部に一気に浮上した『メリディア黒幕説』。


この陰謀論じみた眉唾話は瞬く間に組織の中を駆け回り、皆メリディアを真犯人だと信じ込み、彼女を探す為動き出していた。


今、彼女を真の意味で擁護する人間なんてのは居ないに等しい。それが真犯人の思惑通りであることに気づく人間は居ないに等しい…。


故にエリス達魔女の弟子は、秘密裏ながらもメリディア捜索の手をあれやこれやと手を回し妨害。


そうこうしている間にあっという間に時間は過ぎて行き。



エリス達は、特になんの進展もないまま。タイムリミットである八魔女会議の日を迎えることとなった。



…………………………………………………


魔女会議、以前開かれたのは凡そ五百年前。それまでは定期的に開かれていた物のある日を境にシリウスの影響が表層化し、奴の計画通り魔女達は皆疎遠になりそれに伴い魔女会議も開かれることなく。今日この日を迎えた。


シリウスを倒し、再び団結を手にした魔女達により再び魔女会議が開かれることとなった。今度は今まで姿を隠していた孤独の魔女レグルスも加え…完璧な形での『八魔女会議』としてだ。



当日、魔女達は皆ディオスクロア文明圏の南端にある常夏の孤島『天番島』へと集う。数千年前にカノープス様が発見し、なんかいい感じだったから会議場に指定。それ以来魔女達は会議の日は自国を離れ、その島に集結することとなっている。


当然ではあるが、護衛も多数引き連れてだ。魔女様達が今更襲撃を受けたって大したことにはならないだろうが、それでもポーズとして…あと自国の発展を他の魔女に自慢する為に手塩にかけて育てた人材をワラワラ引き連れてていくのだ。


まぁ、今回は魔女様の手勢ではなくその弟子達の作り出した組織『アド・アストラ』が会議場の警備を務めるから、今までの『人材自慢』の様相ではなくガチの警備態勢が敷かれることとなった。


小国の凡そ半分程度の小さな島に、アド・アストラの最高戦力達が呼び寄せられる。普段はマレフィカルムとの睨み合いに割かれている大戦力がこの日だけは天番島に集結する。


魔女様も加えれば、恐らく史上最も堅牢な戦力を要する小島の出来上がりというわけだ。


「ようこそ〜、よくぞおいでくださいました〜」


埠頭に着港した巨大な船を両手を広げて歓迎するのは、麦わら帽子にボロいシャツを着込んだ女放浪人…ではなく、この幻の島の管理と防衛を任されている帝国師団長の一人。


第二十三師団の団長アン・アンピプテラだ。かつては出世の鬼と呼ばれ全師団長の中で常にNo.2か3に就き続ける実力者。皇帝の思い出の地である帝国最重要領域の防衛を皇帝自ら任せた帝国の虎の子である。


「うむ、アン…防衛の任。ご苦労だった」


「いやはぁ〜皇帝陛下ぁ、まさか私が役目を果たす日が来るとは思いませんでしたよぉ〜」


船から降りてくるのはこの天番島の所有者にして帝国の支配者、無双の魔女カノープスだ。この天番島には上陸を防ぐ術としてポータルが配置されていない為。帝国領内から船を飛ばしてやってくる他ない。


故にこうして帝国の軍艦を客船代わりにして現れた皇帝カノープスは、久しく訪れる天番島を前に、やや表情を綻ばせる。


「我もだ、まさかここをまた使う日が来るとは思っても見なかった」


「えぇー、使う予定がない場所を守らせてたんですかぁ〜?」


「そう言うな、我にとってここは首都マルミドワズと同じだけ大切な島。外文明の蛮族に渡さない為にも選りすぐりの強者が必要だったのだ」


「まぁ、私はゆっくりできてよかったですけど?」


「ふふ、そうか…」


見つめるのは天番島の姿。白い浜、青い海、温暖な気候と生え揃った椰子の木。寒冷なポルデューク大陸では見ない光景と環境。着込んできた外套が不要であることを再認識させられるほどこの島の環境は整っている。


やはり我が見つけた完璧な楽園。我が宝は今も健在か。とカノープスは深く頷く。


「陛下の至宝、その守護の任…よくぞ果たされましたね、アン様」


「ん?おお〜!君は!」


すると、そんなカノープスに追従して一人のメイドが現れる。彼女こそ無双の魔女の弟子県皇帝専属メイド長兼第四師団の師団長と色々兼任するメグ・ジャバウォックだ。彼女を見た瞬間アンは顔を明るく笑顔に染め。


「お久しぶりですね、アン様」


「うんうん、久しぶり〜。大きくなったねぇ前会った時はこんくらいだったのにさぁ」


「嘘です、我々は今日が初対面です」


「だよねぇ、そんな気がしたぁ。よかったぁ忘れてたのかと思っちゃって焦ったよぉ〜、でも話には聞いてるよ?陛下のお弟子さんだよね?」


「恐縮です、それより議会場はどちらに?」


「大体あっちの方だと思うようにぉ、もう準備済ませてあるからぁ」


「なるほど、全然分かりませんが場所は把握しています。陛下、参りましょう」


「お前らパッションで生き過ぎだろう…」


享楽主義のメグとちゃらんぽらんの擬人化アンのやりとりを見てなんだかちょっと不安になるカノープスは、メグの案内で椰子の木生い茂る森へと向かう。


それと共に、また船から降りてくるのは。


「やはりここは良いですね、とても落ち着く空気です」


「………暑い」


「おやおやぁ、多分あなたは夢見の魔女リゲル様とそのお弟子さんですねぇ」


ツカツカと桟橋を降るのは最近暇を持て余してフラフラと彼方此方へ旅をしている夢見の魔女リゲルと、慣れない温暖な気候にダラダラと汗を流し若干バテ気味の弟子ネレイドだ。二人もまた船に乗ってこの天番島を訪れていた。


「ようこそぉ〜」


「ふふふ、出迎えありがとうございます」


「暑い…母さん、海に入ってもいい?」


「あらあらネレイドったら。また後でね」


「溶けちゃう………」


「議会場はあっちの方ですよ〜」


「うふふ、全然分かりません」


ほいほーいと指をさすアンに笑みを崩さないリゲルは、ネレイドの大きな手を引いてカノープスの後に続く。


この船には魔女様達全員が乗っている。故に次に降りてくるのもまた魔女…。


「素晴らしいね、相変わらず神は僕達に素晴らしい芸術を見せてくれる」


「本当ですね!コーチ!こんな綺麗な景色僕見たことありません!」


「世の中にはこんな絶景が多数眠っているのさ!」


「えぇっと、あなたたちは…男に見える女と女に見える男のコンビ。閃光の魔女プロキオン様とそのお弟子さんですね」


ワタワタと手元の冊子を確認して慌ただしく挨拶する先には、まるで王子様のような華麗で美麗な容貌の閃光の魔女プロキオンと。まるでお姫様のように可憐で華奢な男の子のサトゥルナリアだ。


二人は天番島の光景を物珍しそうに眺め、素晴らしい 美しいと大絶賛だ。


「いい景色でしょお??ここ」


「はい!とっても!」


「向こうにある会議場も結構いい感じなんでぇ、是非とも見てください」


「本当ですか!行きましょうコーチ!」


「ああ、行こうか。おっと砂浜に足を取られないようにね?」


優しくナリアの手を取りエスコートを見せるプロキオン。その二人の姿はまるでダンスパーティーに出席した王子と姫のようだなとアンは特に思うことはなくそそくさと視線を船へ戻し、降りてくる客人のもてなしへ注力する。


御察しの通りこの船には今この世界で最大級の要人である魔女様達とその弟子達が乗っている。それを無事出迎える事がアンに課された任務なのだから。


「ぜぇ…ぜぇ、なんでだよ…」


ズルズルと足を引きずって現れる茶髪の癖毛、些かチャラそうな見た目の青年が苦しそうに甲板から姿を見せる。


重そうに足を引きずり、苦しそうに息を吐き、桟橋を渡る彼は…。


「ってなんで俺がアンタの事背負わなきゃなんねぇんだよ!!」


「うるさいですねバカ弟子キリキリ歩きなさい肌が焼ける」


「馬か俺は!」


「鹿が足りないわね」


「うっせぇ!」


現れたのは探求の魔女の弟子アマルト、そして彼におんぶされる形で背負われながら本を読んでいるメガネの女性…彼女こそが探求の魔女アンタレスだろう。何故こんな状況になっているかは分からないがアマルトは律儀にもアンタレスのだるだるのローブを地面に引きずらないように手で纏めて、苦言を吐き出しながらも埠頭に降りてくる。


「ようこそぉ!天番島へぇ!」


「ああ、出迎えサンキュー。いきなりで悪いが屋根がある場所知らねぇかな?この荷物が日光のある空間で動きたくないとか吐かしやがるもんだからさ」


「早くしなさいバカ弟子私の玉肌が黒くなってしまうわ」


「だー!黙ってろ!」


「あはははぁ、あっちの方に会議場があるからそっちで休んだらいいよぉ」


「どっちの方だよ…って、あれネレイドか?丁度いいやアイツについて行こう」


ポヤーッとしたアンの案内に眉を顰めるも、直後遠目でも分かるほど巨大な親友の姿を見つけ、これ幸いとその背中を追いかけに行くアマルト。


「バカ弟子早く歩き過ぎよ帽子が取れしまうわ」


「うるせぇ!ちっとくらい焼けろ!」


「いやよ」


(どっちが師匠なんだろう…)


なんのかんのと言いながら去っていくアマルト達の背中を見届けていると。


「失礼、君がこの島の案内人でいいのかな?」


「へぇ?」


慌てて振り向けば既に新たな客人が降りてきていた。青い髪にこの島ではやや厚着となる堅苦しい制服を着込んだ凛々しい女性と、そんな彼女に守られるように背後に立つ金髪の美しい美女…この二人は。


「ああ、栄光の魔女フォーマルハウト様とそのお弟子様ですね」


「そうだ、マスター。暑くないですか?」


「ええ、わたくしは大丈夫ですわ。私からしたらそんな厚着をしている貴方の方が心配なのですが」


「私は大丈夫です」


世界一の錬金術師とも呼ばれる栄光の魔女フォーマルハウトと世界一の大富豪メルクリウスのゴージャスリッチコンビの登場にアンはやや襟を正す。この人達は他のコンビと違ってちゃんと要人だし。


「あぁーえっとぉ…」


「緊張しなくても良い、それより会議場はどっちかな?」


「あー…、そこにある森を抜けた所に新築したのがあります、道なりに進めばすぐに見えてくる筈です」


「ん、ご苦労。マスターこちらへ、砂浜は焼けて居ますのでご注意を」


「別に火傷なんかしたりしませんわ、でもありがとう我が教え子。立派になりましたわね」


素足で歩くフォーマルハウトの御御足を守る為『誰か砂浜にカーペットを!』と叫ぶメルクリウスを止めつつ、フォーマルハウト達は森の方へ向かい…。


(っといけない、ボーッとする暇はなかったんだった)


船からは次から次へと降りてくる。アンの記憶が正しければここからは魔女も弟子も超大物の要人ばかりだ。失礼がないようにしないと…、そんな風に彼女が姿勢を正せば丁度船から降りてくる影がある。


「ここが天番島、噂に聞いていた物より随分と綺麗ですね。先生」


小さな体躯に大きな錫杖を構える少女…あの特徴的な姿は一眼見れば分かる。彼女は魔術界の全利権を持つ謂わば魔術界の王、魔術導皇デティフローアだ。


「………………」


そしてその隣に立つピンク色のドレスを着た妖精の如き麗人は友愛の魔女スピカだろう。スピカは弟子であるデティフローアの言葉に答えることなく無視をしてツカツカと降りてくる。


剣呑な空気だ、仲悪いのかな…とやや冷や汗を流しつつアンは応対を開始する。


「ようこそぉ、天番島…へ…え?」


「………………」


しかし、そんなアンさえも無視してスピカはその脇を抜け、桟橋の端まで一人で早足で歩いて行く、その顔は険しくあからさまに機嫌が悪そうに見えて、ギョッとアンは背筋を冷やす。


(げぇ、なんかめちゃくちゃ機嫌悪いじゃん…ってかどこ行くの?)


スピカは案を無視して、前へ前へ進む、埠頭に降りるなり何も言わずに海に向かい、あわや飛び込むのかと思うほどの距離までたどり着くなり足を止め。


そして……。


「おえぇええええええええーーー」


吐いた、埠頭の端で跪きゲロゲロゲーと嘔吐した。…そこでアンはようやく思い出す、昔聞いた『アジメクの魔女は乗り物に弱く、馬車に乗るだけで極度の乗り物酔いを発症する』と。


まさか、機嫌が悪かったのではなく体調が悪かった?乗り物酔いしてただけ?


呆然とするアンを差し置いてデティフローアは嘔吐するスピカの下まで走り。


「先生ー!大丈夫!?」


「でてぃ…おええええ…、もう吐くもの残ってなくて胃液しか出ません…」


「船の中でずっと吐いてましたもんね、よしよし」


げぇーと吐き続けるスピカの背中を摩り大丈夫大丈夫と看病するデティフローアの姿は、見た目はともかくかなり大人びて見える。


「これは乗り物酔いを完全に治す魔術が必要ですね」


「うぅぷ、それよりあれ使えばいいじゃないですか…ぷふっ、あのワープするやつ…あれが登場して私、乗り物乗らなくて済むと思ってたのにぃ…おえええ」


「しょうがないですよ天番島にはワープ先になる転移魔力機構がありませんし、カノープス様が態々転移防止用の魔術をここに埋め込んでますから」


「おええええ、なんのために文明が進歩してるんですかぁぁ……」


「少なくとも酔い止めの為ではないです」


これは暫く動けないだろうな。案内は後回しでもいいだろう…。


「ギャハハハハ!情けねぇなスピカァッ!よくもまぁそんなに口から水出せるもんだぜ!尻叩いたらもっと出るんじゃねぇの!?ギャハハハハ!!」


すると、品のない笑い声が響き渡る。お世辞にも調子が悪そうに見えるスピカを小馬鹿にして桟橋を渡る声の主、それをスピカはギロリと睨みつけ。


「やっっっかましいですよアルクトゥルスさん!むしろなんでみんなあんな気持ち悪いものに乗って平気なんですか!」


「テメェの三半規管が弱いからだよ、後自律神経が乱れてるから…つまり前の日の睡眠不足が原因の可能性もあるが…、テメェの場合は才能だわな!ギャハハハハ!!」


手を叩き猿のように笑うのは赤髪金眼の巨躯の筋肉。何故か水着姿の争乱の魔女アルクトゥルスがおちょくるように笑う。


アルクカースの魔女か、国の蛮族具合に似てあまりに品がない。


「師範、スピカ様は本気で苦しんでるんですからもう少し優しくしてあげないと」


「ああ?いいンだよ、こいつはいつもこんな感じなんだ。いちいち心配してたらこっちの身が持たねェーっての」


そんなアルクトゥルスを咎めるように少し遅れて桟橋から降りてくるのは、アルクカースの大王ラグナ・アルクカース。アルクカース史に於る建国の王に既に並ぶ程の権勢を誇る若き賢王は己の師の言い分に溜息を吐きながら。


「大丈夫そうか?デティ」


「んー、まぁアルクトゥルス様の言う通りこんなのしょっちゅうだからね。ちょっと休んだら合流出来ると思うから先行ってて?」


「分かった、なんかあったらすぐに言え?俺がスピカ様はおんぶしていくから」


「だはははは!弟子におんぶされるとか魔女としてみっともねぇー!」


「船の中で一人水着に着替えて遠泳してた師範の方が俺はみっともないですよ!俺どんだけ恥ずかしかったと思ってるんですか!」


「うっせぇボケ、おらオレ様の服持ってこっち来い」


「どこで着替えるつもりですか!師範!ちょっと!」


こちらの案内を聞くまでもなく森の方へとフラフラペタペタ歩いて行ってしまうアルクトゥルスを追いかけるラグナの手には豪華な軍服。なんというか大変そうな師弟だな。


(さて、これで王様組は終わりか…あとは)


アンの目つきが険しくなる。あと残っている魔女とその弟子は…何か立場を持つわけでもなく影響力があるわけでもない、だがそれでもアンにとっては非常に興味深いと思えるだけの存在である。


どんな姿をしているのか、どんな奴なのか。ずっと気になっていたそれは…徐に船から顔を出して、潮風を一身に浴びるように両手を広げる。


「ここが天番島」


両手を広げコートと金髪をはためかせる女。彼女こそ孤独の魔女の弟子エリス、流浪の風とも称されるように決まった居住地を持たず世界中を巡っている唯一の弟子。


その実力は弟子たちの中でも屈指と噂されており、実績も抜群。何より気になるのは。


(あれが帝国軍に喧嘩売った女か)


史上初めてだよ、個人で帝国に喧嘩を売った人間なんて。剰え生き残りその力を帝国から認められるなんて前代未聞だ、そんなとんでもない事をやってのけたのがあの少女だと言うのだから驚きだ。


そんなエリスを守るように脇に立ち煩わしそうに潮風を受け流す黒影はいつのまにかぬるりと現れ。


「ああ、そうだな」


エリスが最も謎の多い弟子だとするなら、こちらは最も謎の多い魔女。八千年間その素性が一切不明とされ実在すら不確かだった存在が今、魔女会議に出席している。八千年間初めてのことが起ころうとしている。


孤独の魔女レグルスが、私の前に現れている。


「はい、何より…」


「ッ……!」


エリスがこちらを見た、船の上から見下ろした。切れ目で凛々しいその顔立ちは狼を思わせる威容、なるほど並みの人間なら睨まれただけでもちびっちゃうだろうな。


この私でさえ、咄嗟に握ってしまった…拳を。


そう警戒心を露わにするアンを差し置いて、エリスは小さく息を吸い。


「ッッっっ!!」


飛び込んできた、凄まじい速度で。早い…いやあまりに速い跳躍、アンは一瞬で臨戦態勢を整え…て、ようやく悟る


敵対心がないことに。


「何よりみてください師匠!」


するとエリスはスルリとアンをスルーして砂浜に飛び込み。


「砂ッ!サラッサラ!」


「ああ、そうだな」


「海!青ッ!」


「ああ、そうだな」


「アァーッ!、椰子の木!」


「ああ、そうだな」


「ヤドカリいます!」


「ああ、そうだな」


「うひょー!」


「ああ、そうだな」


すげー!と天番島の独特の環境を見てはしゃぎ回るエリスを見て気が抜ける。警戒しすぎたか…、まぁ別に彼女はもう敵じゃないし構わないか。


「師匠!あっち行きましょう!」


「私は早く日陰に行きたい」


勝手にこっちの話も聞かずに何処かへと走っていくエリスを見て、一瞬呼び止めるかどうか迷うが…やめておこう。


(まだ仕事が残ってるしね)


チラリと海の方へと目を向ける。いつもは世界の果てまで見えそうな青の一線が広がる水平が今は鉄の船に埋め尽くされている。あれらは全て魔女を護衛するためだけに招聘された軍艦…中には各国の強者達が乗っている。


あれらが今からどんどん降りてくるんだ。もう遊んでいる暇はない…。


「あーめんどくせー…、早く釣りしたいのになぁ」


がっくりと肩を落としつつも、気合いを入れ直す。一応久々の仕事なんだ、たまには陛下の役に立たないとな。



「ぅぶおえぇええええええ」


「先生!」


(この人達いつまでここにいるんだろう)


いつまでもいつまでも嘔吐し続けるスピカはまぁ…放っておこうか。


……………………………………………………


「差し込む白日、流れるさざ波、あったかい空気に長閑な空気。本当に天国みたいですねぇ」


「ああ、人が多くなければ最高だったな」


遂に迎えた八魔女会議当日。その日はまだ日が昇るよりもが早くからみんなで帝国領の南方に集まって帝国製の高速軍艦で波を切り裂き会議場のある天番島へと赴くこととなった。


その島は皇帝カノープス様の管轄地である為アド・アストラの旗は立てられない、だから当然ポータルも無いし何より転移魔術を封じる仕掛けがある為転移して向かうことも出来ない、それ故の船旅。


アド・アストラの主力が何十もの軍艦を用いて目指し辿り着いたのは小さな小島。自然の妙で出来た海の隙間とでも言うべき小さな島は、ポルデュークの気候からはかけ離れた温暖かつ長閑極まる楽園の様相だったのだ。


感覚としてはコルスコルピのデルフィーノ村が一番近いかもしれない。白い砂浜と椰子の木があのリゾート村を想起させるが、あれは土地開発と観光力の強化の結果生まれた物。対するこちらは人の手が少なくとも五百年は加わっていない天然由来。どっちにロマンを感じるかといえばエリスはこちらだろう。


染めたような白い砂浜に押し寄せる青い小波を見てるだけで日々の疲れが癒される。


が…。


「オーライオーライ!こっちだ!」


「この魔力機構はどこに置く?」


「おいテント設営はまだか!もうすぐ会議が始まるぞ!」


エリスがロマンを感じていた白い砂浜は軍靴に踏み荒らされ次々と上陸してくるアド・アストラ軍人たちによって蹂躙されていく。皆今回の会議を守る為ここに仮ながらも防衛拠点を作ろうと躍起になっているんだ。


……仕方ないことだ、エリス達はここに遊びにきたわけでは無いのだ。みんなと砂浜で遊べたらいいなとか、ビーチバレーとかを出来たらいいなとか、思ってないから。


「浪漫も情緒もない」


「そう言うなエリス、今日は八魔女会議だ。アド・アストラ全体が動いて我らを守ろうとしている以上マレフィカルムもこの事は察知しているだろう。血気盛んな魔女排斥派が攻めてこないとも限らん」


魔女排斥派からしたら普段はどこにいるか分からない魔女達は全員一つの小島に集まってるなんて見逃せないイベントだしな、またあの魔女排斥連合みたいな感じでどこぞの誰かが組織を集めて攻めてこないとも限らない。


とはいえそいつらが攻めてきたって八人の魔女に傷一つつけることは出来ないだろうに。


「……まぁ、仕方ないですね」


とはいえこれは決定事項。メルクさんが気合を入れて『魔女様達の会議をお守りする!』と言っている以上エリスもそれに従わなくてはならない。みんなとビーチバレーは惜しいけど今日はそう言う遊び感覚は抜いておこう。


「さてエリス、修行するぞ」


「へ?何言ってるんですか?師匠」


ふと、修行を始めようとする師匠を見て目を丸くする。何言ってるんだ師匠、貴方は会議に参加するんですよ?


「会議があるじゃないですか」


「だがまだ時間がある、その前にお前に修行をつけおきたい」


「なんでそんな…」


「次お前に修行をつけられるのがいつになるか分からんのでな」


「え?」


なんだそれは、次いつ修行をつけられるか分からない?…どう言う意味ですか。そう問いかけるようにエリスが見つめると師匠は目をそらすことなく。


「お前はこれから忙しくなるだろう。アド・アストラの一員としてまた各地に任務に赴くことになるかもしれない。事実この一ヶ月はお前にろくに修行をつけられなかったからな」


「たしかに…」


「だから、こう言う小さな空き時間で少しでもお前に極意を教えておきたい。どうやらラグナは我々の想像以上に強くなっているようだしな…、このままではアルクトゥルスにマウントを取られる」


うん、ラグナはたしかに強くなっていた。エリスがやっとこさ物にした『間合い』の概念を彼は既に攻撃にも防御にも使えている。


間合いはエリス達魔女の弟子に於ける新たな重要要素だ、魔力を鍛える段階は終わり今度はそれを扱う段階に入っているんだから、少しでも技術の継承はしてほしい。


「分かりました、では何からしますか?」


「ふむ、見たところ以前私が教えた『間合い』は掴めたようだな」


砂浜から離れエリス達は椰子の木生い茂る森の中へと進んでいく。


師匠の言う通りエリスは間合いを掴んだ。


…間合い、領域、テリトリー、色々な言い方は出来るが。改めて再確認しておくと…だ。


『間合い』とは謂わば自身の魔力を張り巡らせ完全に支配出来る空間の事だ、この中を自らの魔力で満たす事で、例えばその中に防壁を貼ったり魔術を自在に操ったりする事で好きに出来る自分の空間。


簡単に言えば『魔力を自由に動かせる空間』の事を『間合い』と呼ぶのだとエリスは解釈している。


グリシャとの戦いでエリスはようやくこの間合いを掴む事が出来た。間合いは個々人によって変わり、無理に広げ過ぎると下手に機能しなくなってしまうんだ。


「はい、出来ました。これでエリスも第三段階に行けますか?」


「無理だ、まだ行けない。今度はその肉体の殻を破らなくては行けないからな」


師匠が言うに、第三段階に行くには肉体の殻を破る工程が必要なのだと言う。魔力覚醒は肉体の中を膨張させた魂で満たす事で魂と肉体の逆目がなくなる事で発生する。


しかし第三段階である極・魔力覚醒はそれだけでは足りない、今度は膨張させた魂を肉体から溢れ出させ、肉体のみならず自身の『間合い』全てを膨張させた魂で満たす事により空間ごと覚醒する必要がある。それが極・魔力覚醒なんだ。


空間ごと覚醒を行う極・魔力覚醒は強力無比だ。なんせ自身の間合いの中は自分の魂の中も同義、だからその中の温度を操る事も出来るしその中ならば幾らでも魔力防壁を張れるしどんな形でも無尽蔵に魔術を使える。


そんな強力な極・魔力覚醒を使う為に、まずは満たすための器である間合いをしっかりと定義しておく必要があるのだ。そしてエリスはそれを掴めた…とは言えそれはあくまで第一工程をクリアしただけなんだ。


「まあいい、使ってみろ」


「はい、…ふぅ…」


間合い、これを掴むには魔力を完全に扱い細やかな感覚を感じられるようにならないといけない。エリスも最近分かるような魔力の小さな揺らぎそれを手繰り寄せて…魔力を押し出し、固めて…纏う。


「『流風の型』!」


エリスが編み出した魔風捷鬼の型と流障壁を掛け合わせた技、自分の間合いの中を魔力の風で包み込むこの技は間合いを最も可視化しやすくする状態とも言える。エリスの間合いの中を吹き荒れる風…この風が吹く領域はエリスの間合いだ。


けど…。


「ん…ん?それだけか?」


「……はい」


師匠はエリスの間合いを見て目を剥く、そりゃそうだ。エリスが掴んだ間合い、つまりエリスの『世界』とも呼べる空間はエリスの皮膚から数センチ先まで。間合いと言うよりは自分の周辺を魔力が滲み出ているだけみたいなもんだ。


は…恥ずかしい、なんか恥ずかしい。だってラグナの間合いを見たけどラグナの間合いは少なく見積もっても数メートルはあった。なのにエリスは数センチ…恥ずかしい。


「……小さな間合いだな、可愛らしさも覚えるぞ」


「うう…」


「だが、確かに間合いを掴んでいる。発生している魔力防壁も以前よりも強固だ」


エリスの魔力防壁は間違った広さで展開されてたから本来の硬度を発揮してなかったんだ。だからグリシャの攻撃も防げなかった。けど今は違うと師匠はエリスの防壁をコンコンとノックして満足げに微笑む。


「…エリス才能ないんですかね」


「ん?何故だ?」


「だってこんなに間合いが狭いですし、ラグナはもっと広かったですし」


「んん、そうだな…確かに間合いは広ければ広いほど強いと見たほうがいいだろうな。例えばアーデルトラウトなんかはこの島を半分覆うほどの間合いを持っている」


「え!?そうなんですか!?あの人槍しか持ってないですよ!?」


「そう言う攻撃の射程距離と間合いは違う。間合いとは自身の魔力を確実に操れ感じられる領域の事だ、つまりアーデルトラウトはこの島の半分くらいなら何処にでも魔力を飛ばし操り感じることも出来る」


流石は次期筆頭将軍、間合いとは天性の才能で決まる…それだけ広い領域を持ってると言うことはある意味彼女は天才だからこそそこまで行きつけたと言う事になるのだろう。


まぁいくら間合いが広くてもそれを感じて操れるだけの段階にまで強くならなければ何の意味もないが。


「凄いですって…ん?でもアルクトゥルス様は狭いんですよね、確かあの人の間合いは自分の手の届く範囲だって…」


「あれは一つの例えだ、奴が大事にしている間合いはその範囲だけで本来の間合いはもっと広い」


「広い?…魔女様の『間合い』はどれだけの規模なんですか?」


間合いは才能で決まる。ある意味その人の才能を推し量る指標にもなる、そして恐らくこの世界最大の天才は魔女様達だ、ならそんな人たちの間合いはどれだけのものなのか。知っても得することはないがついつい気になったので聞いてみる。


すると師匠は。


「ん?簡単だよ、一目で確認する方法があるだろう」


「え?そうなんですか?」


「ああ、お前も見たことあるだろう…世界地図を」


世界地図、見たことあるけど…けど流石にそこには書かれてないよ、魔女様の間合いなんて。


分かりません、と言った顔をしていると師匠は…やれやれとため息をつき。


「そも、気になったことはないか?」


「何がですか?」


「魔女大国の領土はどうやって決められているか、その気になればもっと広い範囲を治められる筈の奴らが何故あの領域を治めているか」


確かに、魔女様達はディオスクロア文明圏を七等分しているが、全部は治めていない。その隙間には非魔女国家やマレウスなどの魔女大国でない国が存在している。もし完璧に収めるなら、もっとこう…線引きして隙間なく治めてもいいのに。


……ん?そういえば随分前に、師匠が言っていたな。魔女大国は魔女の魔力に満たされていて、そのおかげで温度や気候が魔女の思うままになっているって。


これって…同じじゃないか?エリス達の『間合い』と。間合いも極めて極・魔力覚醒まで行けば内部の温度や環境を変えられる…それと、同じって事は。


まさか!


「気がついたか、そうだ。魔女の間合いは『魔女大国全域』、中央都市から魔力を発して間合いとして支配できる領域を魔女大国としたのだ」


「ひ…ひろぉ…!?」


いやいやいくらなんでも広過ぎるだろ、国一つ覆うんじゃなくて世界を支配する大国家全体が魔女様の領域?確かに…一番強いカノープス様の治める帝国は全魔女大国で一番の領地を持っている…。


「ちなみに間合いの広さは一番がカノープス、二番が私、三番がアルクトゥルスだ」


「師匠そんなに広いんですか!?」


「ああ、私が治世に参加していれば他の魔女大国はもう少し小さくなっていただろうな」


師匠は少なく見積もってもアガスティヤとアルクカースの間くらいの大きさはあるってことか。広過ぎる…いくらなんでも。


「じゃ!じゃあシリウスは!」


エリスの好奇心は止まらない、魔女様でそんなに広いならシリウスは?シリウスは史上最強だ。悔しいけど師匠達八人を合わせてもまだシリウスの方が強いらしい。ならそんなシリウスの才能…間合いはどれだけ?


と聞くと師匠は首を傾げて。


「よく分からん、だが…少なくとも奴はあそこまで届いていた」


と師匠は上を…空を指差す。まさか…空さえ覆うほど大きいと言うのか。確か奴が力を解放しただけで人類の九割が死んだと言うし、それもあり得て…。


「空ですか、広いですね…」


「空?何言ってるんだ、私が指差してるのはあれだ…」


よく見ろと師匠が指差す先を再確認する。すると師匠は空ではなく…太陽を指差していて…。


「奴の間合いは我々にも全容が把握出来ていない、だが少なくとも太陽まで届いていた」


「え……」


それって、空どころかこの星も飛び越し、宇宙の星まで間合いが届いてるって…事?


ああ、そういえば…昔マレウスにいる時聞いたじゃないか、シリウスは星の動きさえ操り魔術を発動させられたと。つまり…


「奴の間合いは観測不可能、我々が確認出来ただけの範囲を言うなら『太陽系全域』だ。奴はその範囲なら好きに出来る、満足か?」


「あわわ…」


わかっちゃ居たけどシリウスって意味わからないぐらい天才なんだな。もうこの星に収まってないじゃん、むしろ良く師匠達そんな存在倒せたな…こりゃ確かに八千年世界を治めても文句言われないわ。


シリウスって…もう殆ど神様じゃん。


「なんか、圧倒されちゃうなぁ」


みんな広いや、国とか宇宙の話ししてんだもん。それに引き換えどうだエリスの間合いの狭さ、ちっちゃくて可愛いね。


…間合いは実質その者の才能を示す。その範囲に魔力を届かせる才能とは鍛えてもどうにもならない。つまりエリスはどこまで行っても凡人以下…。


「まぁ確かにそう言う点で言えばお前は才能がないのかもな、いやある意味その狭さは特別と行ってもいいレベルだ。凡人でももう少しあるぞ」


「う………」


「だが、才能だけで全てが決まるわけじゃない」


すると師匠はストンと腰を下ろし。


「私の友に、英雄と呼ばれた者が居た」


「英雄?」


「ああ、我々の生きた時代…我が故郷、双宮国ディオスクロアという国における。まぁ今で言うところの最強戦力と呼ばれる者だ」


「最強…ん?その国師匠達が居た国ですよね、師匠達はそこに数えられないんですか?」


「勿論、我々を入れてもなお最強と呼ばれた女だ。奴はカノープスに匹敵するか…或いは上回るかもしれないほどに強かったんだ」


それってつまり魔女様達よりも強かったって事ですか…?そんなバカなことがあるもんか。あの羅睺十悪星だって魔女様達と互角かちょっと上くらいでしょ?それよりも強いって、間違いなく当時の人類最強じゃないか。


「その者の名はアルデバラン、英雄アルデバラン・アルゼモール…ディオスクロアの守護者と呼ばれた女だ」


アルデバラン!聞いたことがある!確か師匠達と一緒に世界を守ってたって言うあの!


ディオスクロア大学園の時刻みの間にて、その名が刻まれていた卒業生の一人だ。大昔名前を聞いた事があったけど…その人そんなに強かったの!?


「そんなに強い人が?」


「ああ、我らと共にしてシリウスと戦ってくれた盟友の一人だよ。…ディオスクロアの首都ゲミンガ防衛戦でシリウスと一騎打ちをして、撃退するのと引き換えに命を落としてしまったがな」


しかもあのシリウスと一騎打ち?しかも単独で撃退?魔女様達でさえ八人がかりだったのに。もしその人が生きていて師匠達と同じように不老だったら…少なくとも今この時代は魔女時代とは呼ばれていなかったかもしれないな。


「その人が…一体なんですか?なんでそんなすごい人の話を今?」


「奴もな、お前と同じかそれ以下の間合いを持っていた」


「え!?そんなに強いのに…間合いが狭かったんですか?」


「ああ、笑ってしまうくらい狭かった。だが同時に笑ってしまうくらい強かった、奴には確かに才能はなかったが、奴は努力だけで魔女を超えたのだ」


「努力だけで…」


「ああ、私達やシリウスだってなんの努力もなしにこの段階まで行ったわけじゃない。どれだけ才能があろうとも結局行くところまで行くだけの努力の質量は変わらない、その点で言えばお前は十分努力している」


そうだろ?なんて語る師匠の瞳にエリスは答えを見る。間合いがなんだ才能がなんだ、結局必要なのは努力と努力…そして努力だけなのだ。


きっとアルデバランさんも死ぬ気で努力したんだろう。どう言う人だったか分からないが…強く強く信念を持ち、確たる意志の下努力をし続けたのかもしれない。


そしてその努力は、史上最強のシリウスにさえ届いた。努力は実るのだ…絶対に。


「フッ、思えばアルデバランが同級生だったからこそ私はディオスクロア大学園を卒業できたのかもな」


「え?そうなんですか?」


「ああ、私が暴れたら即座にアルデバランが飛んできた。奴は学園の自治を司る組織に所属していたからな、私が暴れたら私以上に暴れて私を張り倒して止めたんだ。その都度私以上に怒られていたがな」


……なんかめちゃくちゃな人だな、師匠もアルデバランさんも。


「奴は尊敬出来る人間だった、私はお前にもそう言う人間になって欲しいと思っている。だから努力は怠るなよ」


「はい!師匠!」


「よし、じゃあ軽く間合いを見てやる。これからは第三段階を目指してひたすら修練だ」


「はい!」


英雄アルデバラン、師匠さえも尊敬する程の偉人。そんな人みたいになれるかは分からないけど…頑張ろう。なれるか分からないってことは少なくともなれないわけじゃないんだから。


アルデバランのように努力して、師匠みたいに強くなって、そして…いつかエリスは……。


……………………………………………………



「ここが会議場ッスか?」


「広いね…」


一方エリスを差し置いて先に向かった七人の魔女と七人の弟子達は天番島の中央に打ち立てられた会議場を目にして口を丸く広げて驚いていた。


「ふむ、五百年ぶりだが…みんなきちんと管理していてくれたようだな、我等の会議場…『シュンポシオン論議城』」


「これが…」


森の奥に存在したのは、これまた大きく立派な白岩造りの城であった。大国の王がここに住んでいますと言われれば信じてしまいそうなほどに荘厳な城、やや苔むし張ったツタもまた一つの飾りとみられるくらいには趣もある。


これがただ何年かに一度集まって、一日話し合いをするためだけに用いられていたと言うのが驚きだ。


「すげぇー、まだ残ってたんだなここ」


「久しぶりですわね、かれこれ五百年ぶりかしら」


「これも神のご加護…と言うよりは、管理していた方々の努力の証ですね」


「美だ、時の流れと言う名の神の塗料で彩られたこの城はより一層美しくなったと言えるだろうね」


「はぁ…いいから中に入りません?この島暑いんですけど」


「うぇえ…気持ち悪…頭痛ぃ…」


シュンポシオン論議城を前にした魔女達は皆懐かしい懐かしいと口を揃えて微笑む。若干一名未だに乗り物酔いで苦しんでいるが皆再びここに集まれたことを心から喜んでいるようにも見える。


そんな師の背中を見て弟子達は。


「話には聞いていたが、聞きおよぶそれよりも数段は立派な城だな」


「会議するためだけにここ使いますってのも、もったいない話だよな」


「ある意味、この城こそが魔女の権勢の象徴なのかもな。俺の住むフリードリス大要塞やデルセクトの翡翠の塔…もう無いがアジメクの白亜の城にしても、魔女様の使う居城はとにかくでかい。そしてデカイってのはそれだけでも偉そうに見えるもんだ」


「ふぉおおおお!凄い芸術的じゃありません!ああこの光景を絵画か何かに残したいくらいです!」


「こんなに大きいとお掃除大変そうですね」


「……暑い」


「ネレイドさんもダウンしてるの?起きてー、『ブリザードパウダースノー』」


弟子達もまた師と同じように初めて見るこの城の壮観さに息を飲んでいた。若干一名…ネレイドだけが慣れない温暖な気候にバテてしまい、デティの放つ雪魔術を頭から被っている為それどころでは無いが。


それでも魔女も弟子もみんながみんなこの城を眺めていると。


「ぁん?ってかエリスは?レグルス様は?」


ふと、アマルトが気がつく。この場で一番騒ぎそうな奴がいないことに。右見ても左見ても何処にも居ない、さっきまで一緒に居たよな?と他に同意を求めるが。


「エリスちゃんならさっき砂浜ではしゃいでたよ」


「はぁ!?そっからはしゃいでんのかよ…連れ戻すか?ラグナ」


「いいよ、好きにさせてやろう」


「ああ、それより早く会議の支度を始めてしまおう」


あの子も子供じゃ無いんだしエリスならそのうち来るだろう。との共通認識を示しそれよりさっさと会議をしようと弟子達はシュンポシオン論議城へと向かっていく、それを見てアマルトは…。


「自由奔放過ぎるだろ、ってかレグルス様は?」


「レグルスさぁんもエリスについているんでしょうね」


「いやいやあの人はこれから会議じゃねぇの?」


とは言うがアマルトの背中に乗ったアンタレスは諦めろとばかりに首を横に振る。それは他の魔女達も同意見らしく。


「諦めろアンタレスの弟子、レグルスとはそう言う女だ」


「約束の時間の五分前まで遊んでる女だよレグルスは」


「彼女には緊張感とかは無いのですわ。でも不思議と遅刻はする人では無いので放っておいても大丈夫でしょう」


「彼女はあれで考えている人だからね、今やるべき事とそうで無いことの区別はついているさ」


「ええ、それより早く会議場へ。我が娘がこのままでは溶けてしまいます」


「気持ち悪いぃぃ……」


魔女達もまたレグルスはそう言うもんだと共通認識を示しとっととシュンポシオン論議城へと向かっていってしまう。そんな様を見てなんとなく…エリスの立ち位置とレグルスの立ち位置ってのは似ているんだな。と思うアマルトなのであった


「それよりバカ弟子早く行きなさい」


「ケツ叩くなっての!!」


それより今は自分のこと!とばかりに手に持った本でベシベシと尻を叩くアンタレスに、アマルトは辟易しながらも皆に続く。




…………………………………………………………



「内部も問題ないようだな」


「僕の不朽陣が効いているとはいえ、ここまでしっかり残っているなんてね」


一足先にシュンポシオン論議城へと足を踏み入れた魔女達は慣れた足取りで城内を進む、いくら綺麗に残ってるとはいえ最後に使われたのは五百年前。この豪勢な見てくれに不釣り合いなくらい調度品やカーペットなどの装飾は皆無。まるで引っ越した次の日のような何もない城内を魔女達は歩む。


「我がここを任せられると踏んだエリート達、極方守護隊に管理は任せてあるからな」


「ああ〜さっき埠頭にいた浪人みたいな奴か?」


アルクトゥルスは顎を撫でながら思い出す。埠頭で出迎えたアンと言う名の師団長、あれが普段はここの管理をしていると言う。他の守護隊も普段はこの城を居住区として使っているとは言うが。


「カノープス…テメェなんて勿体ない人材の使い方をするんだよ、彼処に居たアンって女…アイツはマジの逸材だったぜ?才能だけじゃなくてしっかり実力もある。きちんとした現場に出してりゃ今頃将軍が一人増えてたかもな」


アンの実力の高さにはアルクトゥルスも舌を巻く程だ。師団長達の中で唯一三年前から第二段階に至って居たと言う噂通り、三十二師団の中でもトップクラスの力を持っているといっても過言ではない。


ああいう天才は鞭打ってでも働かせるに限ると口にするアルクトゥルスの言葉をやれやれと肩を竦め受け止めるカノープスは。


「アンが逸材なことくらい気がついていた。だが彼女は野心が強すぎたのだ、ああいう野心が強いのは人が多いところに置いておくと共喰いを始める」


「だからここで飼い殺すってか?」


「この地の守護もちゃんと重要な任務だ、我が宝を任せているわけだからな。そういう意味では我はアンに至上の信頼を向けている」


これはカノープスとアルクトゥルスの価値観の違いだろうと後から追従する他の魔女達は思う。共食いするなら生き残った方を重用するアルクトゥルスと人材は余すことなく使うカノープス。指揮官と王の価値観…相変わらず二人の方針はソリが合わないようだ。


「信頼とかそういう問題でも…いや、続きはここで話そうぜ」


「我のアンの使い方をお前に指図される覚えはないがな」


この城唯一の役目、この城唯一の存在理由。短い廊下を抜けた先には一つの巨大な扉がある…そいつをアルクトゥルスがやや強引に押せば、扉は五百年前から積もった埃を落としながら轟音と共に開き、内部の有様を魔女達に見せつける。


「さて、レグルスが来るまで…ここで待つか?」


ここが会議場です。と説明されずにこの部屋だけを見せられれば多くの人はこの部屋を『大聖堂だ』と呼ぶだろう。荘厳な白亜の壁に天まで続く吹き抜け、八方から光差す不思議な窓に照らされるのは数千年前からそこに置かれたままの八角形の円卓が一つ。


奇しくもアド・アストラの六王の間にも似た部屋へと踏み込み、それぞれ決められた椅子へと腰をかけていく魔女達。こうして会議場の椅子に座るのもまた五百年ぶりだ。


「ふぃー、これも久しぶりだぜ」


「あの〜師範?俺たちはどうしたら」


「あ?」


それそれの席に魔女達がついたのはいいものの、じゃあ俺たちはどうしたらいいの?と首を傾げるラグナ達。魔女達はこれからここで会議をするのが目に見えてるからいいけど、結局弟子は何をしたらいいのかさっぱりなのだ。


そしてそれは魔女達も同様。取り敢えず連れてきたしそもそも同行させない選択肢がなかったとは言え会議中に部屋の中に入れておくわけにも行かない。


「あー、どうする?カノープス」


「そういえばその辺決めてませんでしたわね」


「弟子が居る…という状況自体初めてですからね」


「ふむ、…では外で警備の陣頭指揮を執っていてくれ、悪いが魔女会議の掟として内容を他の者に聞かせるわけにはいかんのだ」


「はあ…」


やや気の抜けた返事をするラグナは『じゃあなんで連れてきたんだよ』と若干思うものの、ある程度の理解は示す。会議ってのはそもそも誰かに聞かせる為にするものではないし、そもそも聞きたいともあんまり思わない、ならワガママを言う必要もないか。


「へへへへ、ラグナぁ?どーしても師匠のオレ様が会議でカッコよく意見するところが見たいってんならオレ様からカノープスに特別に頼んでやっても…」


「いえいいです、みんな?取り敢えず会議場の外で警備の指揮を取ろう」


「うーい」


「わかった…」


「あ!おい!待てや!くそッ!」


そそくさと会議場から出て行ってしまうラグナ達弟子の背中を眺めややアルクトゥルスは不満そうに唇を尖らせる。


「なんだよ、オレ様が仕事するところを特別に見せてやろうかと思ってたのに」


「あら、貴方ずっとウキウキしてたのって…弟子にかっこいいところ見せたかったからですの?」


「うっせぇ!…最近かっこいいところ見せられてねぇし、師匠の威厳を保つにも必要だと思っただけだ」


「ハハハハハ、あのアルクトゥルスが他人の評価を機にするなんて、明日は雨が降るんですかね!槍ですかね!」


「元気そうだなぁおいスピカぁ…」


とはいえ、口には出さないがここに居る魔女全員が実はこっそり思っていたのだ。


『会議で活躍する師匠の姿を弟子に見せてやりたい』と…、アルクトゥルスみたいに露骨に顔に出さないだけで、フォーマルハウトもカノープスも思っていた。だがそういうわけにはいかないのだ。


「魔女会議の内容を聞いても、弟子達は良い気分にはならんだろう」


カノープスの言葉に、七人だけになった会議場の空気がぴしゃりと冷える。内容を聞いてもいい気分にはならない…だってこの会議は世界の行く末を報告して話し合う会議。血生臭い事も道理の通らない事もバンバン言う。


下手に聞かせれば、逆に師匠の威厳を損ないかねない。


「まあ……そうだな」


「あの子達は人間ですからね、八千年生きた私達の倫理観とは合いませんから」


魔女は良くも悪くも死を見過ぎだ。多くのものを見届け過ぎた。滅びに馴れ親しみ過ぎた。


今を生きる人間たる弟子達とは…きっと考え方が合わないだろう。


「そういう事だ、…故にとっとと済ませるぞ。八魔女会議を、いいな?」


と問いかけるカノープスの視線の先は議場の扉、いや…徐に開かれた扉の先にいる。


孤独の魔女レグルスだ。


「悪いな、遅れた」


「全く、何をしてたんだ」


「エリスに修行をつけていた。第三段階に至る為のコツをな」


一人遅れてやってきたレグルスは会議場の様子を一瞥し、空席を見つけるなり軽く謝罪を入れてツカツカと早歩きで椅子の上へと急ぐ。


椅子の上に座り、足を組み、あんまり乗り気ではないような姿勢を見せる。当然それを咎める人間はいない、彼女がそういうことを指摘しても直す人間でないことを全員が理解しているからだ。


「はぁ?今?」


「ああ、今だ。今だからこそ必要なんだ」


「相変わらずよくわからねえなぁ…」



「あ、あの!すみません!」


「今度はなんだよ…」


よく見ると会議場の入り口で立ち往生をしているエリスの姿も見える。レグルスが先程まで修行をつけていたと言われるエリスは何やら汗をびっしょりとかいたまま魔女達に慌てた様子で。


「あの…みんなは、ラグナ達は何処に行ったんですか!?エリス置いていかれちゃいました!」


「ああ、ラグナ君達なら表で議場の警備を見てるよ」


「ありがとうございます!プロキオン様!」


どうもと爽やかな笑みでエリスを見送るプロキオン、が…しかし。


「待て、エリス」


「へ?え?なんですか?」


ラグナ達の元に急ごうとするエリスを呼び止めるのはカノープスだ。彼女はわざわざ椅子から立ち上がり、円卓に手をついて…エリスを睨みつける。


「アルカナはどうなった?」


アルカナ…カノープスも三年前手を焼かされたあの組織が残党によって蘇った魔女排斥の亡霊。ここ数ヶ月また以前のようにアド・アストラもアルカナに手を焼いているのは知っていた。


もし倒せていないなら、我々の手で殺そうと決めていたアルカナを…メムを倒したと報告してきたエリスの言葉を確認するようにカノープスが問いかけると。


「…はい、勿論」


満面の笑みで答える。勿論アルカナもメムも何もかも倒してますよ…と。エリスが以前それを成した事は知っているしエリスがアド・アストラに戻ってから急速に物事が進んだのも理解している。


ここ最近の動きはやや不透明ではあるが、カノープスは敢えてここでこう答えることとした。


「分かった、お前を信じよう。礼を言うぞ」


「いえいえ、それでは」


やや逃げるように立ち去るエリスに眉を顰めるカノープスは、小さく首を振って思考を振り払い。再び椅子へと腰を落ち着ける。


「さて、ではもうなんの問題もないようなので…久しく、いや改めてか。史上初のとなる八人の魔女による八魔女会議を始めて行こうか」


五百年ぶりとなる魔女会議、そして史上初めてとなる魔女レグルスを加えての八魔女会議。


その幕が今、切って落とされた。



………………………………………………………………



「おーい、ラグナー!みんなー!」


「お、来た来た」


「遅いぞエリス」


「もー!どこで何してたのさー!」


「ごめんなさーい!」


タカタカとエリスは会議場の外へと飛び出し、緑生い茂る森の中に作られた臨時キャンプにてエリスを待つラグナ達の元へと向かう。


師匠との僅かながらの修行を終えたエリスは、もうぜぇぜぇと息をしながら全力ダッシュし、ようやくみんなとの再会を果たす。


「はぁー、ごめんなさい。修行してました」


「こんな時にか?」


「師匠がするって言うから、エリスも修行見てもらえるのは嬉しかったので」


「相変わらずマイペースだな…」


「それより皆さんは何を?」


七人の魔女の弟子が揃って簡素なテントの中で簡素な卓を囲んでいる。何をしているんだろうかと気にするのはおかしなことではあるまい。


「ああ、みんなで警備の確認をしようかと思ってたんだが…」


「ラグナや私と同レベルの軍事哲学を持つネレイドがこの有様なのでな、回復するのを待っているのだ」


「……きゅう」


見てみれば、テントの床には目を回したネレイドさんが倒れており、おでこにはデティの乗せた氷がトロトロと水滴を垂らしている。


ポルデューク出身の彼女からしたらこの島は灼熱なのだろうな、と思ったけど…さっきオライオンの兵士達が働いてるのを見かけましたけど彼らは普通でしたよね。ってことはこの人が純粋に暑いのが苦手ってことか。ほんとラグナと真逆ですね。


「大丈夫ですか?ネレイドさん」


「大丈夫…地面冷たい」


今エリス達がいるのは森の中だ、ここは日陰になってるから地面も比較的冷たいはずだ。しばらくしたら元気になるだろう。


「さぁて、そんじゃま一応仕事しとくかぁ、暇だし」


「あ、あの!」


すると、適当に暇でも潰そうと仕事を始めたラグナ達を呼び止めるように、声を張り上げる者が一人。


「どうした?ナリア」


「いや、その…」


サトゥルナリアだ、彼は何やらモジモジと震えながら、周囲を気にするように見回し、落ち着かない様子で弟子達に駆け寄ると。


「よかったんですか?本当に…こ、こんな事しちゃって…!」


「あー…」


こんな事、そう言われて全員が合点が行く。何をしでかしたかは分かっている、自分たちが何をしたか分かっている。それを再確認するようにナリアは震えているのだ…だって彼らは。



「僕達まだメムを倒せてませんよね!?」


「シッ!声がでかい、バレるだろ?師範達に」


……彼らは嘘をついたのだ、敬愛する師匠達に。


エリス達は魔女様達に言った、『もうアルカナは倒したんで安心してください』と。だが実際のところはまだ、まだ倒せてないどころか結局メムの居場所さえ掴めなかったんだ。


なのに倒せたと師匠達に虚偽を述べ信じさせてしまった。それがナリアは怖くてたまらないのだ。


「もし、もしバレたら僕達どうなっちゃうんですか?魔女の弟子なのに魔女様に嘘をつくなんて…」


「すみませんナリアさん、でも気に病むことはありませんよ。エリスが発案したことなのでエリスに責任がありますから」


「だとしても…、いやエリスさん一人に責任は負わせられません。この前の話し合いの時に信じて乗ったのは僕ですから」


そうだ、ラグナが帰ってきた次の日。エリスが発案した恐るべき作戦…それこそが。


『魔女様に嘘ついて動き出すのを止めよう』だったのだ。メムはもう倒した、アルカナはもういない、そう魔女様達に嘘の報告をする事により魔女様達が動き出すのを防ぐ…おかげでほら、まだメムは健在なのに魔女様は討伐に乗り出していない。


「でも怖いよぉ、魔女様に嘘つくの怖いよぉ」


「分かる、分かるよぉナリア君。私も先生に嘘つくの怖かったわぁ…」


「俺もだよ、でも上手い事誤魔化せた。お陰でメムを見つけることなくこの日を迎えられた」


「ああ、……はぁ、それでも罪悪感がすごい」


「はい、陛下にこんな不義理を働いたのは人生で初めてです。逆に興奮してきました」


魔女の弟子達がこの作戦に対して嫌悪感を示した最大の理由がこれだ。みんながみんな師匠を敬い畏れている、そんな師匠に対して嘘をついてその場を凌ぐなんて許される事ではないからだ。


だが…。


「でも今日が一番都合がいいんです」


「分かってるよ、お前の作戦は全部聞いてるからな…ただ、それとは別にやっぱな」


「ですよね、エリスも師匠に嘘ついちゃいました。はぁ〜」


全員が全員、普通にショックを受ける。みんな何だかんだ自分の師匠が大好きだから、とはいえ今日が一番都合がいいと言うのは事実。他のどんな日よりも都合がいいんだ。


だって、メムは魔女会議まで出てこない。ってことはつまり今日は確実に奴は姿を現わす日なんだから、待ってりゃあいつが来る。


「メムはいつ来るんでしょうか」


「分からん、だが一つ確定してるのは…メムが現れると言うことは我々の嘘が魔女様達に露見する、と言うことだぞ?そこは分かっているな」


メルクさんの言葉にみんなが青くなる。そこはみんな織り込み済みなんだけどさ…バレる事が分かってる嘘をつくってのはそれだけで恐怖だ。しかも相手は魔女…みんなよくやってくれたよ。


「分かってるよ、憂鬱だ」


「俺もだよ、終わったら師範になんて言われるか…」


「そこはエリスが代表して魔女の皆さんに言いますから安心してください。皆さんはどっしり構えていてください」


「何言うつもりなのエリスちゃん…」


まぁ、一つ言いたい事がある。魔女様達もきっと理解してくれる。だから今は現れるであろうメムに備えるべきだ。


「……まぁ、もう嘘ついて今日が来ちまったからにはしょうがないさみんな。それよりも確実に作戦通り動けるようにしておこう」


「そうだな、いつに来てもいいようにみんなで見回りでもするか?」


「さんせーい!私みんなとこの島散歩したかったんだー!」


「いいですね!いい景色見てちょっとでも気を紛らわせないと僕吐きそうです!」


「私皆様の水着持ってますよ」


「どうしてメグは俺達のサイズ知ってるのかな?」


メルクさんの提案でメムが来た時に備えて見回り…兼気を紛らわせる為の散歩に出る事に。


みんなも何かしてないと緊張でどうにかなってしまいそうですしね。それにエリスもこの島をみんなと冒険したいですし。ちょうどいいや。


「よし!じゃあ行きますか!」


いつ現れるか分からないメム、そしてメムが現れた時…恐らく確定する一つの事象。それらが全て『成った』時。エリスの戦いが始まるんだ…今のうちに少しでも休んでおこう。

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