322.魔女の弟子とかつてを知る者
逢魔ヶ時旅団によって崩壊したクリソベリアより帰還したエリスはポータルステーションにて息を整え、状況を整理する。
ルーカスさんに協力してもらった甲斐あってメルクさんの足取りを追うことは出来た。彼女は逢魔ヶ時旅団と戦い…その後行方が分からなくなったと言う。
あの破壊し尽くされた王城や支部の有様を見るに逢魔ヶ時旅団は相当容赦なく暴れたのだろう。それを止めるため一人で向かったメルクさんも…きっと無事ではない。だがきっと生きている、それを信じてエリスは当時その場にいた職員たちに話を聞くためアド・アストラの本部と食堂へ向かう。
「よし、食堂は確か十階にありましたね…」
と記憶を頼りに食堂に向かうためポータルステーションを歩き出す…と。ふと、慌ただしく走る人影が向こう側から向かってくるのに気がつき、思わず身を逸らす。
「おっと」
「ああ、すみません…」
「いえいえ、ん?君は…」
走ってきたのは小さな子供、両手に木箱を抱えやたらと忙しそうにしている子供だ。それも見たことがある…この子は確か昨日クラブにいたティム。と言う少年だったな。
なんでもポータルステーションに駐在し仕事から帰ってきた隊員の靴を磨きをしているとかなんとか言う。初めて見たな。
「ティム君…でしたか?」
「すみません、急いているのでまた今度…」
「あ、ちょっと」
声をかけるが一も二もなくエリスを通り過ぎて何処かへ行ってしまった。荷物を抱えているようだったけど…あれも彼の仕事なのだろうか。昨日の様子といい何やらただならぬ様子だったが…。
というかエリスの靴磨きはしてくれないんですね。いや別にいいんですけど…あそこまで無碍にしなくても。
「まぁいいか、急いているのはエリスも同じなんですから」
ともあれ今はどうでもいい疑問である事に変わりはない。とっとと食堂に行ってアルクカースの戦士たちのか話を聞いてこよう。今の時間帯ならそこでくっちゃべっているとルーカスも言っていたしね。
せっかくメリディアから今日一日の自由時間を貰ったのだから、有効に使わないと。
………………………………………………………………
アド・アストラ本部の職員食堂。それは世界中の食材を集め腕のいいコック達が存分に腕を奮う美食の場。食堂というにはあまりにレベルの高い料理の数々を提供する事でも知られておりそのレベルはそこらのレストランを遥かに上回るという。
それもそのはず、なんとここの料理顧問はあの世界一の料理人タリアテッレさんだというではないか。あの人が直々に手ほどきをして教育した者達が料理してるなら確かにレベルも高かろう。
まぁその分料金はかなりお高いらしい、流石に1ヶ月ここで三食食べるのは勇気がいるとメリディアさんも言っていた。
まぁエリスは忙しくて一度も利用してませんがね。時間が出来たら利用しようと思っています。
「ここが食堂ですね…」
そうしてエリスはメリディアに案内されて以来初めて一人で食堂を訪れたわけだ。
前来た時も思ったが、本当にレベルが高い…。ここのプロデュースを行ったのはやはりタリアテッレさん、あの人の美食の思想は料理だけでなく食べる場所にも気を使う…というものだった。
故に彼女が料理を食べさせる為の美食殿はただ食事をするだけの場所にしてはあまりに綺麗だった。ここもまたそれと同様に非常に美しい。
清潔感の溢れる白をメインとして、解放感のある間取りと大きく外を映す青い窓。いくつも並べられているテーブルの一つ一つもまた純白であり余計な装飾は無く視界の邪魔にならない。食事する場所としては超一級の空間だ。
そんな空間で美味しそうな匂いを漂わせ食事を行う隊員達が食べているのはこれまた様様。各国の伝統料理に対応しているらしく多種多様な料理を盆に乗せテーブルへ運んで…。
「あれ?エリス?どうしたの?」
「へ?あ。メリディア隊長」
ふと、声をかけられて気がつく。食堂のテーブルを一つ占領する形で食卓を囲むメリディア達第七百七十二小隊の面々に。
「何?エリスもご飯食べに来たの?私達は軽く訓練終えて今休憩中だよ?一緒に食べる?」
「いえ、私は別に…」
「エリス君!」
するといきなり立ち上がるのはドヴェイン君だ。どうしたどうしたものすごい気合いで…。
「君の優秀さと強さには驚かされた!けど!、僕も負けてないよ…必ず訓練をして君を追い越す!」
「そ、そうですか」
それエリスに言う必要あるのか…、強くなると決めたなら宣言することなく修行に打ち込むもんだ、少なくともエリスはそうしてきたけど。
でも気合があるのはいいことだ、なんて上から目線で言えるほどエリスは偉くないんだけどね。
「ドヴェインもシーヌも訓練を頑張っていた。お前もあんまりうかうかしてると本当に追い越されるぞ」
「あはは、頑張ります。クライヴ副隊長」
なんてエリスは頭を下げながら周囲を伺う。ルーカスの言葉が確かならここにアルクカースの一団が居るはずだ。
と、探せばそれは驚くほど簡単に見つかった。何せ食堂のど真ん中に筋骨隆々の人だかりが出来ていたからだ。
見つけた、あいつらだきっと。
「すみません、じゃあ私用があるので」
「用って…そっちにはアルクカースがいるよ。あんまり近づくと何されるか…」
と心配してくれるドヴェインの声を他所にエリスは一目散にアルクカースの群れへと接近する。多分外周は話を聞きにきた野次馬…ならきっとエリスが探しているアリキサンドリートに居た兵士はその真ん中に…。
「それで!マルロー?どうだったんだよ!八大同盟の強さってのは!」
「本当に強かったのか?聞いた話じゃ連中とんでもない魔術を使うそうだけど!」
「なぁ!黙ってねぇで聞かせろよ!なぁマルロー!」
「………………」
何やら様子がおかしい、人だかりに身をねじ込み中心にいる兵士を見てみるが、彼はとても鼻高々な様子には見えない。むしろシラーっと冷え切った様子だ。
マルローと呼ばれた体格のいい戦士は、微妙に面白くなさそうに肉を呑気に食っている。
「し、しらねぇよ、俺はなんも知らねぇ」
「知らないことないだろ、その場に居たんだろ?」
「だから、知らないってば」
どういうことだ?彼らが武勇伝を語るのを渋るなんて…、何があったんだ?それとも本当に箝口令に従っているだけなのか?。
……いや、こいつまさか。
「俺、戦ってねぇからしらねぇんだよ」
「は?戦ってねぇ?なんでだよ」
「そ…そういう風にみんなで話し合って撤退したんだよ。あそこにゃあのメルクリウスも来てたからな」
……どういうことだ、いやおかしいとは思った。だって戦ったしてはこいつ五体満足過ぎる…何より着ている鎧にも傷がない。
本当に、戦わずに撤退したってのか?メルクさんが来てたのに?メルクさんが一人で戦ったってのに?、いやメルクさんが一人で戦ったというより…。
「アイツ今負け越してるくせにヤケに偉そうだろ、だからアイツの指揮で戦うの嫌だったんだよ」
「はぁ?じゃあメルクリウス一人そこに置いてきたっての?それバレたらヤバくね?」
「知らねぇよ、どうせすぐにレイバンさんに取って代わられるんだからどっちも一緒だろ?、寧ろあそこで死んでくれた方が幾分手間が省けたってもんだろ」
一人で戦ったというより、一人で戦わされた…ということか……、ああそう、なるほど。
「だから援軍呼んでくるって言ってその場で全員離脱してよ、バカだよな。援軍なんて呼んでねぇのによぉ」
「なるほどねぇ、エグいことすんなぁお前も。でもまぁ負け確実の奴のために命かけてかやる必要なんかねぇか」
「そうそう、今頃どっかで惨たらしく死んでるか…でなけりゃ捕まって性奴隷にもされてんじゃねぇ?アイツ顔だけは良かったしさ」
「だはははは!なんじゃそりゃ!」
笑っている、彼らは笑っている。あの惨状の場から逃げ出しメルクさんに全てを押し付けておきながら笑っている。
戦わずして笑っている。
守らずして笑っている。
我が友を見殺しにしておきながら笑っている。
気がついたらエリスの手は、中心で笑うアルクカースの戦士のマルローに向けて、伸びていた。
「もしもし、こんにちは」
「あ?、誰だお前」
ふと、アルクカースの戦士マルローは肩を叩かれ、気がつく。見知らぬ金髪の女がこちらの肩を叩いて微笑んでいることに。
知らない女だ、そんな女がニコニコと微笑みながら…。
「貴方は誰ですか?」
そう問いかけてくる。呆気を取られる、いきなり現れ何を言いだすのだとマルローは混乱する頭のまま、金髪の女を…エリスを睨む。
その頃には既に他のアルクカースの戦士もエリスの存在に気がつきザワザワとざわめき始める。
「なんだこいつ」
「さぁ、いつの間に入り込んだんだ」
「ってかこいつ…一昨日の…」
「もう一度聞きます、貴方は何ですか?」
そんな喧騒を無視して、エリスは問いかける。そんな無益な質問に苛立ったマルローはやや語調を荒げ。
「はぁ?そりゃこっちのセリフだよ!テメェこそ誰だよ!」
「おいマルロー、こいつアジメクの新入りだぜ。一昨日のライリー大隊長と喧嘩してた…」
「ああ?アジメクの軟弱モンが何俺の肩叩いてんだよ」
「…だから、貴方はなんだって…エリスは聞いてんですよ」
「何言って…俺はなぁ!アルクカースの戦士のマルロー様……」
そう言いかけた瞬間マルローの目が捉えたのは、エリスの拳だった。
「げぶはぁっ!?」
目を剥く、マルローは驚愕と旋律です目を剥く。何せいきなり…それこそ反応出来ない程の速さで顔面を殴り抜かれたのだから。
鼻血を吹き、ゆっくりと倒れるマルロー、いきなりの事態に目を丸くするアルクカースの戦士達。そんな中ただ一人エリスだけがゆっくりと動き出し。
「戦士?戦士だと?お前が?…笑わせんなよ、洒落くせぇ、持ち場から逃げ帰ったお前は戦士じゃなくて臆病者だろうが」
「ぐっ、こいつ…なんだよ!いきなり殴ってきやがって!」
「なんだなんだ!?喧嘩か!」
「マルローとアジメク人が喧嘩するらしいぜ!こりゃ見ものだ!」
「おもしれぇ!やっちまえマルロー!分からせてやれ!」
周囲のアルクカース人は仲間がやられても尚沸き立つ。こういうのはよくあるんだ、自分たちの扱いを不服に思ったアジメク人がアルクカース人に殴りかかってくるなんてのは、よくあるんだ。
そして、それはいつも決まってアルクカース人の勝利に終わる。力の差を分からされて泣きべそをかくアジメク人の背中の上で酒を飲むのがいつものことなんだ。
だから誰もマルローに加勢しない、マルローもまた必要ないと感じている。故に…。
「この野郎、誰に手ェ出したか分からせてやるよ」
「…………お前が…」
「この野郎ッッ!!」
即座に起き上がりファイティングポーズを取ったマルローから放たれる大ぶりの打撃は全て空を切る。エリスはまるで邪魔な物でも避けるかのように煩わしく避けると共に…。
「お前らが!逃げたせいで!どうなったか分かってんのか!」
「ぐげぇっ!?」
火を噴くエリスの二連撃。左右から挟み込むように放たれた拳によって頬を射抜かれ思わずぐらりと揺れるマルローの体。
「なんで!戦士のお前が!逃げて!メルクさんが!その場に残ってんだよ!」
「ちょっ!待っ!ガハッ!?」
「何が戦士だ!何がアルクカースだ!テメェなんかより一人で戦ったメルクさんの方が余程勇敢で偉大だよ!」
「ごはぁっ!?」
左右の拳が次々とマルローを打ち据え、その都度エグい轟音が鳴り響き、倒れそうになれば髪を掴み無理矢理引き起こしまた殴る。
滅多打ちにされるマルローを見て、ようやく周囲も異変を悟る。何かがおかしい…アルクカースの戦士がアジメクの新入りに負けるなんて…と。
「な…なんだお前、メルク?メルクリウス?、まさかお前…メルクリウスを俺達が置いて立ち去った事にキレてんのか?、わっけわかんねぇ…あんな奴の為になんで戦わなきゃならねぇんだよ!」
「はぁ?何をほざいてるんですか」
「あんな落ち目の指導者の為になんでって…」
「あんたらどこ見て戦ってんですか」
「は?」
「何手前らの指揮とってる人間の顔見て戦ってんだ!敵見て戦えや!テメェらが逃げたせいで!アレキサンドリートの街は半壊してんだよ!メルクさんはお前らのこと信じて戦ってたんだよ!それを!笑って!逃げてんじゃねぇよ!」
「ごぁっ!?」
烈火の如く切れる。業火の如く叫ぶ。マルロー達が逃げたせいでアレキサンドリートは半壊し一人で戦ったメルクさんは今行方不明。そんな事態を引き起こしておきながら何をヘラヘラ笑っているんだ。
何…平気な顔してんだ。
「おめおめと逃げて、むざむざと負けて、その癖戦いたくないだ?寝言は寝て言え!今寝かしつけてやるからよ!」
「ひ…ひぃ!なんだこのイカれ女!、おいお前ら!助けろ!」
「お、おう!テメェ!何晒してくれてんだよ」
そこでようやく周囲のアルクカースの戦士達も援護に入り、暴れ狂うエリスを止める為次々と雪崩かかる…だが。
「邪魔すんなら殺すぞぉぉぉおおお!!!!」
「だ、ダメだ!こいつ止まらねぇ!」
屈強なアルクカース人達を殴りつけ、蹴り上げ、次々と叩きのめすことでその接近すら許さない。まさに暴れる嵐のようなエリスを相手に誰も彼もが手を出せない。
「メルクさんはなぁ!メルクさんはぁ!お前らに好き勝手言われるような人じゃないんだよ!人を見殺しにして!ヘラヘラ笑ってられるような人間じゃねぇんだよぉ!それを馬鹿にするなら!誰であろうともぶっ飛ばす!」
拳で顎を叩くと共に鳩尾を居抜き、蹴りでこめかみを打ち抜きそのまま蹴り飛ばし、持ち上げると共に机に叩きつけ拳を受け止めると共に捻り上げ関節を外し、無双の如き強さを発揮するエリスによってアルクカース人達は劣勢へと追いやられる。
「なになに!?何事!」
「え!?エリス君!?」
「なんて事だ…」
騒ぎを聞きつけやってきたメリディア達が目にするのは、最強たるアルクカース人達がエリスという一人の人間を相手に次々と殴り倒され張り倒される様。アジメク人である筈のエリスがあのアルクカース人を…その様を見せられ思考が停止する。
「ひぃ!ひぃ!」
「おい、テメェ…また逃げんのか?オイ!」
「ひぃぃいいい!」
傷つき床を張って逃げようとするマルローを上から押さえつけ、その腰に差してある剣を引き抜くと共にマルローの鼻先の突き立て、地面に突き刺せば瞬く間にマルローの顔は青ざめ
「ひぃ!?こ、殺さないで!」
「おい、これが何か言ってみろ」
「へ?あ?」
「いいから言え!」
「け…剣です…」
「ハッ、剣?何戦場から逃げ帰ったお前が…戦わずして逃げたお前が一丁前に剣なんか差してんだよ、戦士ごっこがしたいなら…木の棒でも差してろやァッ!」
「ひぃぃぃいいい!!!」
絶叫、エリスの怒号にマルローは泣き喚く。
だがそれでも許さない、許せない。メルクさんに向けてあんな口を聞いて、剰え見殺しにしようとして!。結果メルクさんは一人で戦う羽目になり今も行方不明。彼女が守ろうとした街は半壊し今も修繕作業に追われている。
それもこれもこいつがくだらないプライドを見せてメルクさんと戦うことを拒否したからだ。こいつが逃げたからだ、逃げたこいつが戦士と名乗っている事自体が許せない…許せないんだよ!エリスは!。
「やめてぇぇええ!!」
「先の戦いでつけ損なった傷をエリスがつけてやろうか?まぁ臆病者のお前じゃあさっきの戦いで死んでたかもしれないし、ここで一丁死んどくか!!??」
「ひぃいいい!?!?」
「やめろ!」
「ぐっ!?」
刹那、マルローの上に跨るエリスが蹴り飛ばされる。それと共に響くのはまた別の怒号だ…。
ボコボコにされるアルクカースの戦士達を眺めたその戦士は…静かに怒りを露わにし。
「よくも、我が戦士、傷つけてくれたな、アジメク人」
「テメェ〜…ライリィ〜…」
蹴り飛ばされクルリと受け身を取り起き上がるエリスは睨む、駆けつけた大隊長ライリーの姿を。
どうやら同じ食堂にいた彼女もまた、エリスの起こした騒ぎを感じ部下達の救援に来たようだ。
「ライリー大隊長!助けてください!こいついかれてます!」
「ああ、助ける、すぐ終わらせる」
「ライリー…、あんた部下にどんな教育してんですか…」
未だ怒りの冷めやらぬエリスは蹴られた傷もなんのその、痛みさえ感じる事なく立ち上がり拳を構える。またそれと同時にライリーも答えるようにファイティングポーズを取り…。
「なんだと?」
「あんたの部下が、支部の襲撃を前にして逃げたんですよ。そのせいで私は!大切な人を失いかけたんですよ!、その人は傷ついて今も行方不明なんですよ!」
「…先ほど聞こえた、お前の大切な人とは、メルクリウスか」
「様ァつけろや…」
「ふん、何を言うかと思えば、それは、メルクリウスが、悪い、人望なき指導者、裏切られて当然」
「……つまりあんたも、メルクさんが置き去りにされ孤軍奮闘したのが当然と?」
「ああ、そうだ」
「なら…ぶっちめる!」
刹那見込むエリスの拳が燃え上がるように放たれる、まるで引き裂くような右フックを前にライリーは静かに見据え…。
「甘い!」
並みのアルクカース兵とは違う反応速度でエリスの拳を避けると共に、カウンター気味にその脇腹を狙い拳を打ち込む…が。
「なっ!?」
「グルルル……」
受け止められた、避けられることもカウンターも見抜いていたとばかりに拳を受け止めたエリスはそのままライリーの手をグイッと引っ張る。
戦士として、全身を鍛え抜き大木の如き体感を持つはずのライリーが、エリスの片腕によって引き抜かれるように引き寄せられ…。
「何処がどう甘いんだ!」
「ぅぐっ!?」
炸裂する頭突きにライリーの膝が爆笑する。されどエリスは止まらない…絶対に。
「貴方達は戦士でしょう!守るのが戦士でしょう!それをあなた…!置き去りにして当然!?裏切って当然!?見殺しにして当然!?自分が何を言っているかわかっているんですかぁぁぁあああ!!」
「うっ…」
ふらつくライリーの頭に向けて、エリスが振り下ろすのは落ちていたお盆。そのあまりの威力に盆は真っ二つに裂けて宙を舞う。
「当然と言うのなら!貴方達は自らの王ラグナもまた見殺しにするんですか!彼が零落したならば見限って置いていって逃げ去って!その先で当然だと笑っているんですか!?」
「ぐぅっ!」
さらに続けて掴むのは近場に落ちていた椅子だ。先程よりも重厚な一撃がライリーの頭を叩き、木の破片が雨のように降り注ぐ。
「それが民でもですか!?家族もですか!?どんな存在でも落ちたならば見捨ててもいいんですか!?、結局あなた達は自分が戦わない理由と逃げた理由を見つけて正当化してるだけでしょうが!」
「ぉごはぁっ!?」
そしてとっておきとばかりに持ち上げるのはテーブルだ。何人もの人間が揃って食事をする大型のテーブルを持ち上げそれさえもライリーに叩きつけ、凄まじい轟音を鳴り響かせる。
「逃げた理由をまっとうに語る人間が!偉そうな口きいてんじゃねぇぇぇえええ!!!」
「ぐぶふぅ…」
トドメの一撃に叩き込まれたエリスの拳は、なによりも硬く重く…ただの一撃でライリーは口や鼻から血を吹き出し…そのままくらりと背後に倒れ…。
「嘘だろ、あのライリー大隊長が…ぶっ倒された」
「第一戦士隊の隊長だぞ…、将来の王牙戦士団だぞ…」
「夢でも見てんのか…、アジメク人にライリー隊長が負けるなんて…あ、ありえねぇ」
「フゥー…フゥー。これでメルクさん死んでたらお前ら全員ブッ殺すからなッッ!!」
「ひ…ひぃぃ」
白目を剥き、泡を吹き鼻から血を流すライリーと鬼の如き形相で叫ぶエリスにもはや終わりだとばかりに泣き出し逃げ出すアルクカース兵。
されどこの怒りは収まらない、メルクさんが…一人で戦ったメルクさんが、あんな口きかれて…あんなこと言われて、エリスは…エリスはもう我慢ならないんだよ!こんなの!絶対おかしいだろうが!。
何がアド・アストラだ!もう我慢ならない!あの人を苛むならエリスがこんな組織ぶっ壊してやるッッ!!。
「待て!何をしている!」
「喧嘩が起きたと聞いたぞ!違反者は全員その場で待機しろ!」
そこでようやく喧嘩を止めるため食堂に突入してきた帝国兵達は瞬く間にアルクカース兵達を引き止め、いくつもの机が粉砕された地獄のような光景を見て…絶句する。
「おい、あそこで倒れてるの…」
「ライリー大隊長も喧嘩を?いや…まさか彼女が負けたのか?」
「誰だ、これをやったのは…」
「あ、あいつだよ!いきなり俺たちに殴りかかってきてわけわんねぇことを!」
「アイツ?」
両拳を血で染め、蒸気の如き鼻息を吹き出し、ただただ死屍累々の中立ち尽くすエリスを見て帝国兵は頭を抱える。が…やることは変わらない。
「おいお前、一緒に来てもらうぞ…いいな」
「………………」
「連行だ、軍法会議にかける」
……手錠をかけられ、両肩を押さえつけられるエリスは一切の抵抗をすることなく。駆けつけた帝国軍によって連れて行かれていく。
担架で運ばれていくアルクカース兵と共に退出するエリスの背中を唖然としたまま眺める各国の兵…そして。
「エリス……」
まざまざとエリスの戦いを見せつけられたメリディアは、一つ…決意したように口を結び。連れて行かれるエリスを追いかけるのであった。
……………………………………………………
公共施設での乱闘騒ぎ、食堂の備品を複数破壊、暴行の末アルクカースの戦士を十二名負傷させ病院送り、上官たるライリーへの暴力行為も見逃せん。新入隊員エリス君…君が食堂で僅か五分の間に行った行為の数々はどう考えても懲戒免職以外考えられないのだが。何か言いたいことはあるかな?」
ライリー達をぶちのめしたエリスはそのまま帝国兵によって『取調室室』なる場所へと連れてこられた。まぁいわゆる軍内の治安維持用のお部屋。
つまりエリスは逮捕された。両手に手錠をかけられ今懲戒免職を申し立てられている。
それもこれもエリスがプッツンしてアルクカースの兵達をぶっ飛ばしてしまったから、いつもの奴だ。
けど今回は一つだけ違う点がある。それは…。
「ありません、彼らは殴られて当然でした」
意趣返しのように当然だと言ってやる。
そう、今回エリスはこの乱闘騒ぎについて後悔も反省もしていないという事だ。また同じ場面に遭遇したらまた同じことをするつもりだ。
だってそうだろう、エリスの友達を…メルクさんを!見殺しにするような真似をしておきながら彼女の尊厳を踏みにじる様なことを言う奴を相手に、利口な大人として振舞ってやるつもりはない。
譲れない一線を奴らを踏み越えてきた、だから容赦なく叩き潰した。事の次第はそんなもんだ。
「ふぅ、そうかい…では残念だが君は今日限りで軍を出て行ってもらおうか」
しかしクビになってしまった。だが問題はさしたる程無いんだなこれが。もうアド・アストラ内部の構造は記憶した、人流の過疎の具合も理解した、勝手に忍び込んで勝手に調べ回るのは簡単だ。
なんならこの眼鏡を外して今度は本当の姿を出して戻ってきてもいい。…いやそうなると裏切り者が…。うーんどうすっかな。
「分かりました、では…」
「失礼!兵長!」
「なんだ騒々しい」
エリスが踵を返し退室しようとした瞬間だった。やや騒がしい足取りで取調室へと踏み入る男は一枚の便箋を手にエリスを取り調べていた男の元へと走ってきて…。
「実は、先程第四師団の師団長様より…連絡が」
「なんだと!?、見せてみろ…」
第四師団の師団長より届けられた便箋を受け取り、その中身を改める…と。男の顔はみるみるうちに青くなり苦々しく眉を顰め…。
「新入隊員エリス君…、君の処分かだが今しがた変更になった。一週間の職務停止だそうだ」
「え?、その程度なんですか?」
「今第四師団の師団長より連絡が来た。今回の一件は君にのみ責任がある問題では無い、寧ろ職務放棄し支部を捨て勝手に撤退したアルクカース兵達の方に非がある。君はそれを諌めている最中に口論となり乱闘になった…とな」
そうなのか?エリス的には違うが…まぁ確かにそう言う見方も出来なくはない。どう言うことかは分からないがやめなくて済むならそれに越したことはないか。
「師団長殿に感謝するように、師団長が君を擁護しなければ君は軍を去ることになっていたのだからな」
「はい、肝に銘じます」
「故に、庇ってくれたあのお方の為にも…今後は騒ぎを起こすなよ」
「はい、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、もう出て行ってよしとばかりに帝国兵はエリスに退室を迫る。何が何だかわからないうちにエリスは無罪放免に近い形で解放されることとなった。
……第四師団ってザスキアさんの団だよな。彼女がエリスを庇ってくれる意味合いがよくわからないがとてもありがたいことに変わりは無い。ここは心の底から感謝して…今後はこう言う行動は控えよう。
「失礼しました」
「エリス!」
「ん?あ…メリディア隊長」
ふと、廊下に出ると外で待っていてくれたメリディアと目が合い…少々居た堪れなくなる。エリス自身がやった事に対して後悔も反省もない。だが結果として部下であるエリスがあんなことをすれば隊長であるメリディアにも少なからず飛び火する。
そこに関しては、反省もしているし後悔もしている。申し訳ないことをした。
「…びっくりしたよ、いきなりアルクカースの戦士達と喧嘩するんだもん」
「すみません…」
「うん、軍内であんた乱闘はもう控えてね?。一応彼らは仲間なんだから…争っていてはいけないよ」
仰る通り過ぎてびっくりだ、いつだって彼女は正しいことを言う。
「はい、善処します」
「随分ふてくされてるね」
「そうでしょうか」
「受け答えに覇気がない。…怒られた事がショックだった。って感じじゃないね」
覇気がないか、確かに今エリスはやや元気がないでしょう。燃え尽きたと言うよりは不完全燃焼…今必死に先ほどの怒りに蓋をしている最中なんだ。
まだエリスはあいつらを許せそうにない、こんなにも怒りが持続したのはソレイユ村に立ち寄った時以来だ。
「…ねぇエリス」
「はい、なんでしょう」
「そんなにさ、大切な人なの?メルクリウス様ってさ」
「…………」
聞いてたのか、まぁあんな大声で叫び散らしていれば誰でも気がつくか…エリスがあの場でメルクリウスさんのために戦っていたことに。
「…はい、大切です」
「ふーん、どんな関係かは…今は聞かないでおいてあげる、けどそんなに大切な人だとは思わなかったよ。聞いたよ?アルクカースの奴らメルクリウス様を悪く言ったんだって?、しかも今行方が分からなくなっているのにも一枚噛んでるとか」
「もうそんな話も出回っているんですか」
「あいつらペラペラ話してたよ、酷い話だよね!エリスがあんなに必死になって探している人をそんな風に言うなんてさぁ」
本当だよ…本当にそうだよ!なんであんな下劣な連中にメルクさんは見捨てられなきゃならないんだよ、あいつらがメルクさんの何を知っているって言うんだよ。そんな言葉が口の中に溢れてきて、嗚咽となって外に出る。
「そう…です、アイツら…!メルク…リウス様が今日までどれだけ努力してきたか知らないんです!」
「そうだね」
「アド・アストラがここまで大きくなったのはあの人のおかげなんです!それ以前も…あの人が居たから世界は守られているんです」
「確かに、そう言う話も聞くね」
「なのに!なのに!…なんで。なんでこんな事に…あんな事を…私は…私はぁ!」
「よしよし」
一度溢れ始めた言葉は止めどなく熱を帯び、纏まる前に言葉として口から出てしまう。しどろもどろで文章として成立しない言葉の羅列を涙ながらに語るエリスを…メリディアは優しく抱きとめてくれる。
「悔しいです…、悔しいですよ!なんでみんなメルクさんを見限るんですか…、あの人が助けを求めているなら…今こそみんなで助けるべきなのに」
「だからエリスは頑張っているんだね…」
「…………はい」
でも、あの人の頑張りを知らないのはエリスも同じ、あの人が助けを求めている時近くにいなかったのはエリスも同じ、大きな目で見ればエリスもあのアルクカースの戦士達とやっていることは同じなんだ。
それを思えばこそ、悔しくて涙が止まらない。ムカムカとした熱が胸から出てくるのを止められない。
「…うん、分かった。エリスにとってそんなに大切な人だって言うんなら、私も本気で手伝うよ。一緒にメルクリウス様を見つけ出そう!!」
「え!?」
思わず野太い声が響き涙が引っ込む。今メリディア…なんて言った?本気で手伝う?一緒にメルクさんを見つけよう?。いや…でも。
「でも、いいんですか?メリディア隊長にとってメルクリウス様は…その、あまりいい想いのある相手ではないはずですし、それこそ…奴らみたいに邪険にしてもおかしくない相手ですし…」
「関係ないんだ、悪い言い方をすると私の意思なんて。私はアストラの騎士でメルクリウス様はアストラの主人、この関係を尊びこそすれど疎むことはあってはならない。たとえ主人から如何なる扱いを受けたとしても私は…主人の為に戦うべきなんだ」
それが私の騎士道だからと強く語るメリディアの目に、思わず引き込まれそうになる。
なんて強い意思なんだ、なんて凄絶な覚悟なんだ、なんて…神々しい信念なのだ。ここまで自身を律して役目に殉ずる事がエリスに出来るか?。これは言い切れるぞ、絶対に出来ないと。
いや、彼女のように強く生きられる人間が…果たして何人いるか。
「だけどようやくエリスのおかげで踏ん切りがついた!私はメルクリウス様を助ける!、ここで背を向けたら私は…今度こそ道を踏み外しそうだからね!」
「メリディア隊長…ありがとうございます…」
「いいっていいって、それよりエリスは今日から一週間の職務停止でしょ?なら一週間休みが出来たようなもんじゃん。だったら私も一週間休み取ってくるかな…名目は…エリスちゃんの教育、とかでもいいかな」
「そこまで、…いえ。感謝します」
「ん、私は今日はその手続きでいっぱいいっぱいだから、また今日の夜にクラブで合流しようね」
「分かりました、ではまた後で」
ピッ!と二本指を立てて軽やかに挨拶をするメリディアには、もう本当に頭が上がらない。
三年前はロクに話す場面がなかったけれど、こんなにも優しくて頼りになる人だったんですね。
でも、…メリディアはエリスの正体を知ったら、どんな顔をするんでしょうか。騙したなって怒るんでしょうか。
「はぁ、そこはちょっと憂鬱ですね…」
立ち去るメリディアの背中を眺めて、エリスは一つため息を吐く。
ともあれ、エリスは引き続きこのアド・アストラの中を自由に歩けるようだ。ならばメリディアに合流する前にもう少しメルクさんの足取りを追いたいが。
だが、今エリスの手元にはもう何も手掛かりはない。唯一の頼みの綱だったアルクカースの戦士達がメルクさんを置いて逃げて行ってしまった以上、彼女が戦いの末どうなったかを見届けた人間は誰も居ないと言う事になる。
結局メルクさんがどこに消えてしまったか、これで完全に追えなくなった。ここからどうすればいいんだ…。
「せめて、何か…少しでもヒントがあれば…」
「おい、そこのお前」
「え?」
ふと、声をかけられ振り向く、間延びした低い男の声…聞き覚えのない声、その正体を確認するように背後を向けば。
うん、やっぱり知らない人だ。アド・アストラの制服を着込んだ背の高い男性がエリスを見下ろし用があるとばかりにヌッと見つめている。
……いや、待て!この人。
「まさか、アルクカース人の方ですか?」
「ん?ああ、そうだ」
アルクカース人…すわ報復か!ライリーを叩きのめされ復讐に来たかと警戒し、咄嗟に両拳を構える。
やろうってんなら受けて立つ、いやまずいか?流石に。乱闘を注意された部屋の目の前でまた乱闘って…今度こそガチでクビになるんじゃ…。
「待て、何を警戒しているか知らないが俺は敵じゃないぞ」
「…私に復讐に来たのでは?」
「お前には別に何の悔恨も…ああ、ライリーの件か?安心しろ。アルクカースでは個人の復讐を他人が代行することはない、もし仕返しに来るならライリー自身が来る」
そういえばラグナも昔そんなようなこと言ってたな。まぁ彼は普通に友達が傷つけられれば激怒して敵に向かっていくが、それは別に敵討ちとか報復とかではなく彼が単純に気に入らないからだ。
つまり、アルクカース人は他人の復讐の為に別の人間がやってくることはない。やるならライリー自身が来る。だからここに現れた彼は復讐とかそう言うんじゃない…と言うことか。
「すみません、少しピリピリしていました」
「構わん、それよりも今少し時間いいか?」
「ん?何でしょうか」
「…姉御が呼んでいる、直ぐに兵器開発局『獣王の牙』の本部に来てもらう。構わないか?」
「獣王の…牙」
男の語るその言葉を復唱しつつもエリスは彼の言葉に頷き、そして────。
………………………………………………
世界統一機構アド・アストラの下部組織、その中で最も有名なのはやはり『マーキュリーズ・ギルド』だろう。各地に旅に出て外部と接触し商売をする彼らの知名度は抜群だ。
だが、それだけじゃないんだ下部組織は。アド・アストラを支える組織は少なくともアド六つある。
その中でも最もアド・アストラの絶対性に寄与しているのが…兵器開発局『獣王の牙』。アルクカースに本部を置く読んで字のごとく兵器開発を一手に請け負う組織だ。
末端の兵士が持つ鉄剣から、上層部の命令にて作られる大型の新兵器までなんでもござれのこの組織の存在があるからこそアド・アストラは絶対的な武力を維持出来ているといえる。
何より、この組織の特徴があるとするなら『絶対に権力に媚びない』と言う点だろう。
幹部がどれだけ圧力をかけも屈せず、富豪がどれだけの金を積んでも言うことを聞かず、六王最強の名を持つラグナ・アルクカースの後ろ盾を使い独自の勢力圏を確立している唯一の組織だ。
権威も金も通じないが故にレイバンの影響も全く受けていない…まぁ凄い組織ですよ。
そんな組織の構成員にエリスは突如としてお呼ばれした。そう、エリスの前に現れたあのアルクカース人は獣王の牙のメンバーだったのだ。
構成員さんが言うに、エリスは姉御なる人物に呼ばれていると言う。故に今エリスは転移魔力機構を使いアルクカースへと来ている。
相変わらず荒涼とした赤茶けた大地が広がる懐かしき景色の中、見慣れぬ超巨大な鉄の城が打ち立てられている。ここが獣王の牙の本拠地だと言うんだから驚きだ。
アルクカースにこれほど大きな建造物が出来ていたなんて。そう驚きつつもエリスは蒸気と油の匂いが充満する鉄城の如き巨大工場の中を歩く。
…いきなりアルクカースに連れてこられ、いきなり知らない人間と話をする。結構な事態であるが故にエリスは少々根深く構成員に聞いてみる。
移動の傍、その姉御なる人物についてあれこれ伺って見ると…これまた凄い事実がわかった。
姉御…とはこの獣王の牙における局長の愛称だという、つまりこの大組織のトップだ。本部の幹部にさえ相応の口が叩ける大人物であるということを意味するのだ。
そしてこの姉御、なんでも今現在世界最高の鍛治職人としても有名らしく。アルクカース史上最高の剣匠マルンさえも超えると噂されている。マルンってのはあれだ…アマルトさんの持ってる短剣を作った鍛治職人だ、ラグナが凄い人だと絶賛しその一振りには値段がつけられないとまで言われた人物を…唯一超える鍛治職人。
それが姉御…、そんな凄い人がなんで私に用が?と聞くと、構成員は『知らない、ただ呼んでいたからお前を連れてきた』となんともまぁな理由を述べる。
これは構成員に聞いても無駄だろう。姉御本人に聞くしかない。
そう覚悟を決めたところで、構成員は足を止める。どうやら目的地に着いたようだ。
「着いたぞ、ここが姉御の職場だ」
「ここが?」
偉い人だからもっとこう…豪勢な部屋に通されるかと思ったら、普通に工房みたいな場所に通された。
数多の鉄鉱石が山積みに重なり、竃が火を噴き、重厚な音を立ててなにかの機械が駆動し、何かが鉄を打つ轟音が常に響き渡り耳を苛む…そんな黒金の部屋、そこが姉御の職場だという。
「姉御はいつもここで一人で作業している、ここには六王でさえ無許可では立ち入れない」
「そんな凄い場所に私が入ってもいいんですか?」
「お前は姉御の使命でここに来ているんだから、無許可じゃないだろ」
そりゃそうだ、こりゃ失敬。
そんなエリスの問いかけにやや肩を竦めた構成員は、姉御の職場に踏み込むと共に…声を張り上げる。鳴り響く金属音に負けないくらいの大絶叫だ。
「姉御ぉーーー!!お客様をお連れしましたーーー!!!」
そんな声が木霊するとともに、先程までガツンガツンと音を立てていた金属音がピタリと止まり、部屋の奥…揺らめく炉の目の前で何かの作業をしていた人影がゆっくりと立ち上がる。
炎の後光で顔はよく見えないが…そのシルエットはわかる、ここから見ても分かるくらい…デカイ。
「おう、ご苦労だったな。職人のお前に使いっ走りをさせて悪かった」
「いえ、他ならぬ姉御の頼みですので」
「へっへっへっ、嬉しいねぇ。んじゃあもう作業に戻っていいぜ」
「はいっ、姉御」
巨大な人影が近づくと共に構成員はそそくさとどこかに向かってしまう。多分仕事に戻ったんだろうが…、急に一人にされると寂しくなっちゃいますよ。
なんてことを言う暇もなく、巨大な人影はゆっくりとエリスに歩み寄り。
「さぁて、ようやく二人っきりになれたなぁ」
「…貴方が、姉御さん?」
「やめろよ、あんたに姉御なんて言われたくねぇ」
デカイ、あまりにデカイ。大きいには大きいがそれでもネレイドさんよりも少し小さいくらいだ…、がそもそも引き合いネレイドさんが出てくる時点で異常なんだ。
あのアルクトゥルス様をも超える体躯、そして何より特筆すべきはその肉体。形を言い表すなら『逆三角形』だ。出来のいいワイングラスのように腰に比べて胸が異常に大きくそこから生える腕もなお太い。
極限まで鍛え上げられた筋肉を前にしたらエリスなんか枯れ枝もいいところ。あの筋肉の上に頭と真っ赤な髪が生えてなけりゃ何かのオブジェか何かだと錯覚してしまいそうになるくらいだ。
そんな筋肉の塊が、アホみたいにデカイハンマーを軽々と背負いながらやってくる、軽い恐怖だよこれ。
「…私に何の用ですか?私は貴方に呼ばれる覚えは…」
「無いってか?そりゃ無いぜエリス。それともあたいが誰か分からないのかい?」
「分からないって、初めて会って…ん?」
今、エリスと呼んだか?なんでエリスの名前を…いやそもそもこの人はエリスのことを呼んだのだから呼んでて当然…、いや違う!そもそもなんでエリスの事を読んだんだ?エリスの名前を知っていなければ呼べない筈だ。
そして、ついこの間入隊したエリスを…この人が知っているわけが。
「フッ、この顔を見てもまだ誰か分からないって言うんじゃねぇよな」
「……貴方は!」
そう言いながら晒される顔つき。近づいたことにより後光が消え露わになる顔つき、浅黒い肌にキリッとした凛々しい表情。筋肉に相応しい威風堂々したこの顔をエリスは…エリスは…!。
知らない!誰だこの人!。
「すみません、…人違いでは?私貴方のこと知らないんですけど」
「はぁ!?ンなわけねぇだろ!会ったよ!ちゃんと!。ほらよく見ろ!あたいだよあたい!」
「あたいとは言われても…」
そもそもこんな巨大な人間一度見たら忘れないよ。こうやってよく見ても分かりません。
そんな態度を見た姉御はがっくりと肩を落とし、近くの頑丈そうな椅子に腰を落とし。
「嘘だろ〜ぉ、久々に会えたってのに…そりゃあ無いぜ。…いやいやお前すげぇ記憶力持ってたはずだろ?なんであたいが分かりないんだよ!」
「記憶力?なんでその事を知って…、ってかいい加減名前を名乗ってください!」
そんなガックリするくらいなら自己紹介をしてくれ、話はそれからだと伝えれば姉御はハッとして。
「あ、ああ!悪い悪い!。あたいだよ!ミーニャだよ!ミーニャ・アルブレート。覚えてないか?」
ミーニャ…アルブレート。アルブレートってのはあれだ、アルクカースにあったアルブレート大工房と同じ名前だ。継承戦に際してエリスとラグナが武器を求めて立ち寄った巨大な工房。
だがそこで武器の製造を断られて、それから出会った小さな少女の言葉によってエリス達は無事武器を……。
少女…そうだ、あの少女の名前が、確か。
ミーニャだ。
「ほら!アルブレート大工房にいたあの小せえガキの!」
「え、ええ?えぇっ!?ミーニャさんってあのミーニャさん!?!?」
「そーだよ!ミーニャだよ!いやぁよかった!覚えててくれたか!」
「覚えてますよ!ミーニャさんにはお世話になりましたし!、ミーニャさんのおかげで一級の武器を手に入れてエリス達は継承戦に勝てたんですから!…ってミーニャさん!?!?デカくなりすぎではァッ!?」
前会った時はエリスとあんまり変わらないくらいの背丈だったのに、今やエリスがエリスを肩車しても届くか分からないくらいのサイズになっている。成長とかそんなレベルじゃ無い、これはもう別の生命体だろ!。
「へっへっへっ、いやぁ一時期からすげぇ身長が伸びてよぉ。気がついたらこんなになっちまってた」
「なっちまってたって…、どんな生活してたんですか」
「別に大したことはしてねぇんだけどなぁ」
だが、確かにミーニャさんだ。あの首筋に刻まれた刺青…獣が剣を加えている刺青は確かにミーニャさんの物だ。
凄い久しぶりだ、まさかこんなところでミーニャさん再会できるなんて。
「え?ミーニャさん今獣王の牙のリーダーやってるんですか?」
「おう、あれから死ぬ気で修行して一人前の鍛治職人になってアルブレート大工房を継いでさ。気がついたり世界一なんて呼ばれるようになって。ラグナ大王様から武器の製造を一任されてるっわけよぉ!」
「なるほど、ラグナが…」
アルブレート大工房はアルクカースで一番の鍛冶場だった。世界一の武器製造技術を持つアルクカースで一番ってことは世界一の鍛冶場だ。そんな世界一の鍛冶場を元に作られたのが…この獣王の牙なのだろう。
いやぁあの頃は見習いの少女でしかなかったのに、いつの間にやらアルブレート大工房を継いで世界一の鍛治職人になって…。追い越されてしまった気分だ。
「にしてもなんでミーニャさんはエリスがエリスだってわかったんですか?一応正体を隠す魔術を使っていたはずなんですけど」
「ああ、今もお前がお前だって分かってんのにどうしてかお前の顔が記憶の中のお前に結びつかないのはそういうわけだったんだな。だけどなんで分かったも何も…ほれそれ」
「え?」
と指差すのは、エリスの腕。いやエリスの腕に装着された宝転輪ディスコルディアだ…。
あ、もしかして。
「そいつを作ったのはあたい達アルブレート大工房だぜ?、オマケにそいつの作成にはあたいも関わってる。その籠手は世界で一つしかない代物だ、そんな自分で作った逸品をあたい自身が見逃すはずないだろ」
「ああ…、この魔術が効いているのは顔だけでしたね。ちょっと迂闊でしたね…」
「まぁお前が正体を隠してなんかやってるってのは察してたから、お前が帰ってきてることは誰にも言ってねぇから安心しな」
「ああ!それはありがたいです。今のエリスは正体がバレるわけにはいかないんです」
なんて素晴らしい気遣いだ、一瞬ミーニャさんにバレたら連鎖的に獣王の牙全域にエリスの情報が伝わっている可能性があるかと恐れたが。確かにミーニャさんはエリスをここに連れてくるよう頼んだ構成員にも要件は伝えていなかった。
最高ですよミーニャさん。おかげでエリスはまだ誰にも……ん?。
「あれ?、ディスコルディアを見てエリスの正体に気がついたってことは…もしかして他の人も?」
「さぁ、そりゃ知らねえよ。でも数年前お前に一度会っただけの奴が一々お前の身につけてたアクセサリー一つで気がつくとは思えねぇ。ましてやそれがアルブレートの特注品ってことに気がつけなければその辺で売ってる腕輪かなんかだと思うんじゃねぇの」
「で、ですよね」
「まぁ余程記憶力がある奴や、お前のことを目に焼き付けている奴でも無い限りは大丈夫だろ」
エリスは普段この腕輪を袖の中に隠しているし、流石にこれを見ただけでエリスの正体に気がつく人はいないだろう。
一瞬メリディアにもバレてるんじゃと不安にも思ったが、メリディアと最後に会ったのは三年前のあの日だけ。流石に三年前一度会っただけのエリスの装飾までは覚えていないだろう。
「まぁ何にしても、これは外して行動したほうがいいですね」
「だあな、お前の事をよく知る奴なら流石にディスコルディアの存在からバレることもあるだろうな、あたいみたいによ」
「確かに、…じゃあ残念ですが。しばらく外しておきましょうかね」
そう言いながら両手に装着された腕輪を外し…た瞬間。なんか言い知れない不安感に襲われる。
ディスコルディアはエリスの盾であり剣であり鎧であり杖であり全てだ。これがあったからなんとかなった場面も多いしなんなら危険な武器を持つ相手とエリスが真っ向から殴りあえたのはこれがあったから。
受け取ってから今日に至るまで常につけ続けていたディスコルディアを外すというのは…なんか漠然とした不安に襲われるな、それだけエリスはこれを頼りにしていたんだな。
「なあエリス、それ外すならしばらく預かるぜ」
「え?預かってくれるんですか?」
「ああ、というよりそれがメインの用件だ。お前を呼びつけたのは久しい再会を味わうのと同時にその宝天輪ディスコルディアを預かるためなんだよ」
「これを?…、でもどうして」
「どうしてったってもなぁ、こう…説明が難しいんだけどよ」
というなりミーニャさんはその大きな手でディスコルディアを掴み取り、マジマジと見つめ…やがて難しい顔で頭を掻いたり尻を掻いたりむず痒そうにし。
「これ!あたい達が十何年も前に作った奴だろ!あん時は最高な物が出来たと思ってたけど…今見るとあっちこっちが稚拙で、なんか見てて恥ずかしくなるんだよ!」
「あー…」
エリスは旅の最中こんな話を聞いたことがある。
とある有名な画家がある日昔の自分が描きあげた名画を至極大切そうに飾っている富豪の家を訪れたことがあったという。
その画家は昔と言ってもほんの二、三年前に描きあげた作品だったのだが…それを見た画家は突如発狂してこう言ったという。
『こんな下手くそな絵を飾らないでくれ!!!』
顔を真っ赤にして彼は名画と呼ばれたそれを、しかも自分が描きあげた筈の名画を燃やそうとしたらしい。挙げ句の果てには金を払うからこの絵を別の絵に差し替えさせてくれ…とまで言ったという。
つまるところ創造者というものは常に進化を続けている。その過程で過去の物になった己の作品には所謂ところの恥辱を覚えることもあるらしい。昔の作品は黒歴史だ!なんて言って目にも入れたがりたい者も多くいると聞く。
それはミーニャさんも同じなんだろう。ディスコルディアは確かに名品でその力はエリスもよく知っているが、今のミーニャさんからすれば子供の頃作った恥ずかしい作品でしか無いのだろう。
「うー!恥ずかしー!、こんなの作ってデカイ顔してたなんて!子供の頃の自分を殴りてぇ〜!」
「でもそれ、凄く便利ですよ?。エリスその腕輪のおかげで何度も助けられました」
「いやそりゃあ分かるぜ、あちこちに刻まれた傷…それでいて未だ当時の光沢を保持しているのはエリスがしっかり手入れをしてくれてきたからだろう?。ある種の歴史を感じさせるこいつがどれだけエリスの旅の支えになってきたかは分かる。職人冥利につきるって奴だ」
「なら……」
「でもそれはそれ!これはこれ!、だからエリス。しばらくこいつをあたいに預けてくれ!今のお前に相応しいレベルのものにまで進化させるからよ!」
「え…作り直してくれるんですか!?」
「ああ!むしろ作り直させてくれ!」
そりゃありがたい。今でもディスコルディアは十分役に立つ代物だが更に強化されるというのならこれ以上にありがたいことはない。
ましてや、国王の命令でも動かず金を積まれても動かない筈の世界最高の職人たるミーニャさん直々に仕事をしてもらえるんだ、断る理由がない。
「今のあたいならそれこそこいつを伝説の防具と呼ばれるだけの代物に進化させられる、だから…預けてくれ」
「いやいやむしろこちらこそお願いしたいですよ、ディスコルディアはエリスの切り札の一つ、それが強くなるなら言うことなしです!」
それにどの道しばらくは外すつもりだったんだから。…いや?むしろただ作り直して貰うよりも…。
「あの、作り直して貰うならいくつか注文をつけたいんですけど、いいですか?」
「お?いいぜ。他でもないエリスの頼みだしな、どうするんだ?」
「えっと、長い旅や戦いの中でこういう機能があったら便利だなと思ったら瞬間が何回かありまして、それをつけたいんですよ」
と言いながらエリスは机の上の白紙にペンを走らせ、エリスの理想となる形の新しいディスコルディアを描きあげていく。
「お前絵ェ下手くそだな」
「い、今それは関係ないでしょ!それよりこれって可能ですか?」
「ん?どれどれ…、へぇ〜おもしれぇな。難しいがあたいならいけるぜ」
「本当ですか!じゃあこういう機能も一緒に着けてもらえるとありがたいです」
「お!面白いなそれ!いいぜ!つけてやる!」
「じゃあじゃあこういう機能って夢がありませんか!?」
「夢どころの騒ぎじゃねぇ!こりゃ希望だぜエリス!たまんねぇ!」
「さ、流石にこういう機能は無理ですよね」
「一昔前ならな、だが今ここには世界の最新技術が揃っている。これも可能だ」
「やったー!じゃあ…」
次々とエリスは新・宝天輪の設計図を下手な絵ながら描きあげていく。はっきり言ってこれは夢物語だ、これが全て実現したら素晴らしいな…という思いだけで注文しているというのにミーニャさんは全部出来ると言ってくれるんだ。
こりゃ楽しみだぞ、これがこうなってあれがこうなるからこういう戦い方も出来て…というか今までの戦法もそのまま全て強力な物になる。
「じゃあこういう感じでお願いします」
「だはははは!夢の詰まった装備になるな。だがただ作り直すだけじゃないから相応の時間をもらうぜ?」
「大体どのくらいですか?」
「んー、こいつの素材はカロケリの特別な鉄鉱石だ、それを沢山仕入れなきゃならんし、注文された全てのギミックを実現するためには最新型の魔力機構も必要だから…、早くて半年」
「半年…そ、そうですよね。色々頼みましたもんね」
だが半年もディスコルディア抜きは流石にきついぞ…、だがせっかくだし…、いやでも流石に半年は…。
「と言いたいところだが、あたいは世界一の職人だからな。一ヶ月以内には間に合わせる!」
「うぉー!凄いです!ミーニャさん!」
「あたぼうよ!あたいはミーニャ!世界一の鍛治職人さね!」
そういうなりエリスから預かった宝天輪を、純白の清潔な布に丁寧に包み…、ミーニャさんは片膝を突くとともにエリスに天輪を捧げ。
「では、お客様の命を預けるに足る相棒殿…暫しの間お預かりします」
「お、…おお」
きっと、これはミーニャさんなりの流儀なのだろう。武器にしても防具にしてもそれを一時的にとはいえ預かるというのは相当な事だ。
それだけのことなんだ、苦楽を共にした相棒たる武器を誰かに手渡すというのは。鍛治職人たるミーニャさんはそれを理解している。だから普段はおちゃらけていてもここだけは締める、それが鍛治職人として決して譲ってはならぬ大切な一線である事を深く深く理解しているから。
「そいじゃ、あたいは暫くこいつの改造に注力するよ。今日は会えてよかったぜ?エリス」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「おう…、ああそうだ」
「ん?まだ何か?」
ふと、その場から立ち去ろうと足の裏を浮かせたエリスをさらにミーニャさんは引き止める。が、かく言うミーニャさんは既に作業に取り掛かるため道具を揃えており、エリスには片手間に声をかける。
「お前さ、あたい以外には正体明かしてないのか?友達には会ってないのか?」
「……ええ、エリスにも色々目的がありまして。その目的を達成するためには正体を大っぴらには出来ないんです」
「ふーん」
エリスが正体を隠しているのは組織内の裏切り者を見つけるため、なのだが今のところその裏切り者には指先さえかかっていないのが現状だ。情けない話だが。
「じゃあ内緒にしておいたほうがいいよな」
「そうですね、そうして頂けるとありがたいです」
「でもよぉ、みんな会いたがってるぜ?ラグナもデティもメルクも。他の面子もみんなお前に会いたがっている…顔を見せるなら早いうちにしてやんな」
「……会いたがっていましたか…みんなが」
そっか、それは嬉しいな。うん…嬉しい…。
会えるならエリスも会いたい、勝手に出て行って一言もなく帰ってきて不躾だとは思うが。でもやっぱり会いたいよ。
「…そうだ!ミーニャさん!メルクさんについて何か知ってることはありませんか?
「あ?メルクリウスについて?。さぁ、ここ最近会ってないからなぁ、そういえば二、三日行方不明だとは聞いてるが…、まさかそれを探してんのか?」
「はい!まさしく!」
「そうか、力になってやりたいがあたいもなーんも知らんからな。というかメルクの居場所を知ってそうな奴は軒並み消えてるからな」
「え?そうなんですか?」
そう言えば、メルクさんにはたくさんの側近がいた。シオさんなんかその筆頭だ…或いは彼なら知っているかもしれないが、そんな彼もまた消えている…か。
妙だな。
「シオさんもどこにいるか分からないんですか?」
「おう、あいつはずっとメルクについてたからな。何事もなけりゃ一緒にいると思うぜ」
…メルクさんへの道が途切れたなら、彼女の周辺の人間を探す方向で進んでみるかな。最悪シオさんがメルクさんと一緒じゃなくてもエリス以上に彼女の行方に詳しそうだし。
よし!、そうしよう!。
「ありがとうございました、ミーニャさん」
「おう、また遊びに来いよ」
遊びに来いよ…か、エリスの間抜けで極秘の潜入がバレてしまったがまぁ別に誰にも見つかってはいけないわけではない。特にミーニャさんは信用出来る、彼女がきちんとした仕事をしてくれる誠実な人だというのは、宝天輪ディスコルディアの頑強さが物語っている。
故にエリスはある意味秘密の協力者を得たことになる。本当のエリスを知っている人…そんな人が一人いるだけでも心細さが違うな。
小さく高鳴る鼓動と共に、エリスは気がついたら鼻歌を歌いながら軽くスキップをしていた。どうやらエリス自身が把握していないだけで…エリスは今の状況に相当なストレスを抱えていたようだ。
「フンフン…」
ミーニャさん…、またあの人に再会できて良かった。そんな風に微笑みながらエリスは帰路につく、まだメリディアとの合流には時間があるからもう少しだけ調べて行こうかな。