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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十一章 魔女狩りの時代と孤高の旅人
357/835

317.魔女の弟子と星雲紛れ


『緊急事態です…至急私とアジメクに戻って頂けますか?、今再び世界が貴方を必要としています』


いきなりトラスの街に転移してきたメグさんはエリスと再会するなり、三年振りの再会の喜びも程々にそう語った。いきなりの出来事ではあるものの友達が助けを求めてるんなら応えるのが友人というもの。


しかし、それでも。


「あの、メグさん…そろそろ理由を話して頂けますか?、緊急事態とか至急とかっていきなり言われてもエリス困惑しちゃいますよ」


なんてエリスは木組みの椅子に腰を落ち着け、暖かな陽光差し込む屋敷の中にいる。ここはアガスティヤ帝国にあるメグさんのお屋敷だ。オライオン攻略の際一時的に拠点としても使ったあの屋敷にエリスは招かれている。


いきなりエリスの目の前に現れたメグさんはそのままエリスの手を引いて時界門の中に引っ張り込み、エリスと師匠とアルクトゥルス様の三人を纏めてこの帝国へと招き寄せたのだ。


そして、そのままお掛けくださいと椅子に座らされてより数分…。至急と言う割にはややのんびりした雰囲気に呆気を取られる。まさかあれ冗談だったとか?いやいやメグさんはそんな笑えない冗句をいう人ではないし…。


「おっと失礼、しかしその前にやはり再会の喜びは分かち合っておくべきかと思いまして」


「至急アジメクに戻るべきなんですよね?」


「ええ、ですが一分一秒を争うわけではありません、はい。どうぞエリス様」


「あ、ありがとうございます」


落ち着いた雰囲気で落ち着いた所作で落ち着いた声音で、メグさんが差し出すのは綺麗なカップに注がれた湯気の立つ紅茶だ。メグさんの紅茶か…久しく飲むな、頂こうか。


「レグルス様やアルクトゥルス様もどうぞ」


「ん、頂くよ」


「オレ様も貰っていいのかね、まぁ貰うが」


師匠達に差し出された紅茶をエリスは先に口に含む、一口…グビッと飲み込めば香る芳醇な味わい。三年前に飲んだそれよりも確実に美味い…腕を上げたなメグさん。


「美味しいです、流石メグさん」


「ズズッ、ああ…三年前に帝国を立ち寄った時飲んだそれよりも美味い、落ち着く香りと味わいだ」


「ーーっ…、なんつーか如何にもカノープスが好きそうな味だな。アイツはキツイ匂いの茶葉が好き…って、そりゃ元々レグルスが好きだった茶葉をアイツが好んで飲んでただけか」


メグさんのお茶は普段から皇帝陛下にお出ししているお茶だ。当然魔女様がたの受けも良い、エリスは普段はコーヒー派ですけどメグさんの紅茶はやはり別ですね。


「三年ぶりになりますね、エリス様」


「はい、久しぶりです。メグさんはアレからどうですか?元気でやってますか?」


「見ての通りでございます、でも一つエリス様に自慢出来る事がありました」


「自慢できる事?何かあったんですか?」


「まぁそれは追い追い話すとして、私はそれよりもエリス様の話を聞きとうございます。この三年間行方不明で何処にも顔を出さなかったエリス様の話が」


ニコッと微笑んでいるが、分かるぞ。こりゃちょっと怒ってる顔だな、流石に三年間一度も弟子のみんなに会わなかったのはまずかったかな。なんて居た堪れない気持ちを紅茶を含んで飲み込み誤魔化す。


「ラグナ様もデティ様もメルクリウス様も、皆さんエリス様に会いたがってましたよ?」


「う…、みんな怒ってます?三年間も音沙汰なしだったの」


「いえ、エリス様ならいつか帰ってくるだろうてみんな信じて待っています」


そりゃ怒られるより辛いな。そっか、みんな待ってくれてるんだ。でもエリス的には大手を振って旅に出た以上…半端な成果じゃ帰えれないんですよ…。


「ううん、オレ様もよく分かるぜ?いつか帰って来てくれるって信じるよな?友達だから。なのに待たせてる本人はそんな事まるで気にしないし、帰って来てもケロッとしてんだよ。…なぁ?レグルス」


「私に振るな」


「お前の話だよ」


そう言えば、師匠もまたエリスと同じように長く友達の元を離れていた過去があった。だが、そんな師匠がいざ帰還した時。『今まで何処に行っていたんだ!』と激怒する者は一人としていなかった。みんな再会と友の無事を喜んでくれていた。


ラグナ達も似たような感じなのかな。


「当然、私もエリス様の事が心配でした。だけど貴方の旅を邪魔したくないからグッと会いに行くノリ堪えていたのです」


「すみません…」


「……ふふ、だけど怒ってはいませんよ?。またこうして貴方と会えた喜びの方が大きいですから。ですから聞かせてください?この旅で何があったかを」


エリスの向かいの席に座り、自分も同じようにお茶を啜るメグさんを見てハッとする。この人はメイドとして動いている時は絶対に人前で食事をしない、ましてや椅子にも座らない。

それを今は椅子に座りお茶を飲んでいる…ということは、つまり。これはメイドとしてではなく、友達としてこの場に着いてくれているということか。


…なら、エリスも申し訳とか言い訳とか、そういうのはやめにして。友達として振舞うべきか。


「そうですね、この三年で色々なところに行きましたよ…、前の旅と違って空を飛べるのでいつでも何処にでも行けますからね」


そうしてエリスはメグさんに語り出す。この旅の内容を。


この旅では色んなところに行った。魔女大国は基本的に冒険し尽くしたので、主に非魔女国家を中心に色々なものを見てきた。


非魔女国家も多種多様な発展を遂げた国が多く、中には『嘘だろ!?』と思うような国だってあった。例えるならそうだな…。


占い師が王様として君臨し、王様の占いを民が無理矢理実現させようとする国とか。


魔獣と共存し飼いならしてる国とか、街人全員が着ぐるみを着て役になり切ってる街とか、そうそうお菓子で家を作ってるような変な街もありましたね。驚き度合いで言えば魔女大国にも迫る発見ばかり味わえました。


でも、今回の旅も平穏無事とは行かず、道中様々な敵と戦いましたよ?。特にこの三年で魔女排斥組織を名乗る輩が増えたのか、あっちこっちで無法を働き。中にはエリスの噂を聞きつけ攻撃を仕掛けてくる奴らもいました。


まぁどいつもこいつもアルカナには及ばない雑魚ばかりだったので軽く一蹴してやりましたがね。


とにかく色々ありましたが、とても有意義な旅であったとは思います。なんてメグさんに話とメグさんはニコニコと微笑みながら聞き…ふと。


「ん?その様子では非魔女大国たるマレウスには立ち寄ってないのですか?」


「あー…そうですね、立ち寄ってないですね」


この旅ではマレウスには立ち寄ってない。というかやっぱりマレウスにはいい思い出がないからやや苦手だ。特にマレウスの国王…あそこの王様はバシレウスだ、そしてバシレウスはエリスの身を狙ってる。


もしマレウスに立ち寄ったらアイツが現れんじゃないかと思うとどうしても立ち寄り辛かったのはある。


「まぁ次の目的地にはマレウスを選んでいたんですけどね」


「ほほう、それは何故今更」


「んー、…気になる噂を聞きつけたのでそれを確かめに」


旅を続けていたある日、とある気になる噂を聞きつけたのだ。それを確かめる為にマレウスに赴くつもりだったのだが、その前にアジメクに帰ることになりたそうだな。


「そうでしたか、いやはや流石はエリス様。波乱万丈の旅の数々、腕前の方もさぞ磨かれたのでしょう」


「さぁ、それはどうでしょうね…」


「またまたご謙遜を、…しかし今の話を聞くに魔女大国には殆ど立ち寄っていないと?」


「ええ、立ち寄ったのはオライオンくらいですね。一応そこでネレイドさんに会うつもりだったんですけど…、なんか聖王一族の所に行ってるとかなんだとかで会えませんでした」


「ネレイド様も最近は忙しそうですからね、しかし…なるほど。ということはエリス様は魔女大国の変化を殆ど知らない、ということでよろしいですか?」


知らないか知っているかで言えば知らない。エリスがこの三年間身を置いていたのは非魔女国家だ、非魔女国家に居ても魔女大国の話は聞こえてくるがそのどれもに悪意という名のフィルターがかかったものばかりで真実とは言えないものばかりだった。


故にそれらの情報を吟味した場合、信用に足るものがない以上、エリスは魔女大国の事を何も知らないと言った方が正しいだろう。


「はい、全然知りません」


「そうでございますか、ではエリス様に本題を話す前に今の世界情勢についてお伝えしましょう、アリス?イリス?」


せいメグさんが指を鳴らすと奥の扉から大量の書類を持って現れるのはメグさんの部下であり双子メイドのアリスさんとイリスさんだ。戦闘能力は持たない代わりにそれ以外の事はメグさんレベルで万能という優秀な二人。


三年前の戦いでは何度かお世話になった二人が久し振りに現れ、思わず襟を正して会釈し挨拶をする。


……ん?あれ?、アリスさんとイリスさん…なんか軍服着てないか?二人はメイドのはずなのに、なんで軍服なんか。


「あの、なんでアリスさんとイリスさんが軍服を着てるんですか?メイドはやめたんですか?」


「それも含めてお話しします。さて…まず今の世界を語る上で外せないのはアド・アストラでございます」


アリスさんとイリスさんについては後でと釘を刺され、エリスはメグさんの授業に付き合わされることになる。が…。


「いや流石にアド・アストラは知ってますよ」


世界統一機構アド・アストラ。今この世界を支配している巨大機関の名前だ。


言ってしまえば七つの魔女大国によって形成される『連合軍』だ。それぞれが持つ全てを共有する形で結成される組織は軍事力から商業力まで世界最高の座に就いている。昼間おばさんが文句を言っていたマーキュリーズ・ギルドもアド・アストラの下部組織に当たる。


他にも『統一理学術局』などの研究機関、『獣王の牙』などの兵器開発機関、『テシュタル教』などの宗教機関、『美芸術査問会』などの芸術機関、『魔術協会』などの魔術機関。その道の権威的な組織全てを下部組織として率いている事から分かる通り今世界の何もかもを牛耳っているのだ。


なにをするにしても今はアド・アストラの干渉を免れない。そんな世界が今の世界の形。


その圧倒的影響力と不動とも言えるほどの組織力をして『アド・アストラこそが新たなる魔女である』という風潮が非魔女国家間にも流れているのが現状…。


「おお、流石はアド・アストラ創設メンバーの一人でございますね」


創設メンバー…、一応エリスの肩書きはそういうことになるらしい。


世界を牛耳る史上最強最大の統一機構の創立メンバーと言えば凄まじく立派な人間に聞こえるな。けど、実際は違う。


というのもこのアド・アストラ。学園を卒業する時デティが口にしていた『魔女排斥機関に対抗出来る組織を作る!』と言っていたあれが形になったものらしいのだ。

デティが言っていた『組織が出来たらエリスちゃんは大幹部ね!』という言葉が生きていたらエリスはそのすごい組織の幹部ということになる。けど実際はエリスはアド・アストラ結成時には既に旅に出ていたし、その約束も無効だろう。


「からかわないでくださいよ、エリスはただの旅人です」


「そうですか?、…ともあれ今の世界はアド・アストラの指揮下にあります。魔女様達が現役を引退した以上アド・アストラこそが世界の支配者になったのです」


「おう、オレ様達魔女はもう治世には一切関与してねぇ、この先はレグルスを見習って気ままに生きるつもりだ」


「お前はいつも一言余計だ」


世界の支配者として君臨していた魔女様達はカノープス様を除いて全員が現役引退。聞いた話ではみんな自由気ままに生きているらしい。何処で何をしているか知らないがでもまぁ弟子の育成は続けているらしいしみんな自分が作った国にはいるんだろう。


「凄い話ですね、八千年続いた魔女様達の治世が終わる瞬間に立ち会うなんて」


「ええ、ですが言い換えればアド・アストラが崩れれば魔女様達が積み上げた全てが台無しになってしまう…責任は重大です」


「崩れればね、今のアド・アストラを崩せる存在なんかこの世にはありませんよ」


正直、今のアド・アストラは魔女様達の治世よりも完全無欠だ。何せあらゆる部門を抑えているのだから付け入る隙がない。何よりその頂点に立つのがラグナ達なのだ…きっと上手くやる。


と、思っていたのだが…。


「それが、そうも行かなさそうなのですよ」


「……何か問題が?」


「それがエリス様を呼んだ要件です。アド・アストラは結成三年目にして今…最大の事件を前にしています」


思わずカップを置いて姿勢を正せば、今ようやくエリスは冷や汗をかいていることに気がつく…しかもべっとりと。


え?アド・アストラ危ないの?そんなバカな…。だってアド・アストラはみんなが協力して運営している組織。それがそんな簡単に崩れるわけがない、それとも何か?エリスが楽観視しすぎていたというのか?。だとしたら…エリスはなんて身勝手な。


「どういう事ですか、何かあったんですか?みんなに…アド・アストラに」


「色々ありましたが、やはり一番はロストアーツの強奪事件でしょう」


「ロストアーツ?なんですかそれ」


「おや?それは知りませんでしたか?。コルスコルピで発見された古代の兵器をデルセクトとアガスティヤの技術力で復元したアド・アストラの新たなる切り札…十三の超兵器でございます」


知らなかった、そんなもの作ってたのか。しかし確かにコルスコルピならそう言った物は残ってるだろうが…古代兵器か、ここは詳しそうな人に聞くとしよう。


「師匠、分かりますか?」


「ふむ、十三の超兵器というとあれか?『大国兵装』のことではないか?」


「大国兵装?」


「ああ、八千年前の大いなる厄災に際し、時の大国たる十三大国はそれぞれ自国の威信と技術力に掛けて大規模な魔力兵装の建造に着手した、そうして生まれたのがそれぞれの国の名を冠した超兵器…『大国兵装』だ」


八千年に起こった大いなる厄災…実態はシリウスによる混沌の時代の事だ。世界各地がオフュークス帝国を中心に戦争を引き起こし荒れに荒れていた時代に生まれた大兵器がそれか。


技術力というのは乱世にあって伸びる。ましてや兵器開発なんてのは平時の十倍以上の成長速度で膨れ上がるもの、大いなる厄災レベルの大戦を生き残る為十三大国がそれぞれの切り札として作り上げたのが大国兵装であり…この度復元された十三のロストアーツか。


「大国兵装はやばかったぜ?どれこれもバカみたいな性能を押し付けるみたいに戦場で暴れ回るんだ。当時のその力は魔女にさえ匹敵したと言えるだろうな、オレ様達も苦労させられたぜ」


「まぁ、その担い手も大国兵装も諸共全て我ら魔女が消しとばしたがな」


…結局強いのは、研ぎ澄まされた武器よりも圧倒的なまでの力…ということか。


「オホン、話を戻しますとそのロストアーツによってアド・アストラの兵力強化を目論んだメルクリウス様によって十三のロストアーツは当初の見立ての五分の一程の速さで実戦投入出来るまで至りました」


「おお、流石はメルクさん…、でも」


「ええ、そのロストアーツは二つを除いて全て盗まれてしまいました。ロストアーツはそれなりの使い手が持てばそれだけで第二段階級の強さを発揮出来る代物ばかり、良からぬものの手に渡れば危険極まり無いものなのです」


「そりゃあまた…」


魔女級の性能を持つ大国兵装までとは行かないものの、ロストアーツもそれなりの使い手が持つだけで第二段階クラス…か、つまり単純計算で行けばレーシュみたいなのか。一気に十一人も増えたことになる。


十一人のレーシュを一気に相手か、軽い悪夢だな。そう痛む頭を手で押さえる。


しかし、なぜそんな事に…いや、それよりも。


「メルクさんは大丈夫なんですか?」


心配なのはメルクさんだ。このロストアーツ計画を主導していたのはメルクさんだ、つまりプロジェクトリーダーはメルクさん。何かあれば責任を負う立場にいる。


それが例え外部の悪意持つ者の仕業とは言え、メルクさんが進めた計画のせいでアド・アストラに敵意を持つ者の手に危険な兵器が十一個も渡った事になるのだ。これは…流石にやばいだろ。


「聡明ですね、まさしくメルクリウス様は窮地に立たされています」


「ッ!!」


「アド・アストラは組織です。いくらメルクリウス様とは言え責任を下から追及されれば逃げ場はありません…、今メルクリウス様はアド・アストラの部下達から追及を食らって孤立しその座から引きずり降ろされようとしています」


「引き摺り下ろす!?あの人がこの世界にどれだけ貢献してきたか!みんな忘れたんですか!、なんですかその恩知らずな話は!」


思わず激怒してしまう、なんて事だ…メルクさんが今そんな窮地に立たされているなんて。あの人は責任感の強い人だ…アド・アストラの頂点に立ってきっと毎日死に物狂いで働いていただろうに、…許せない!メルクさんを降ろそうとする奴も!ロストアーツを盗んだ奴も!全員!。


「今からアジメクに向かいましょう!、メルクさんの敵になる奴はエリスの敵です!全員叩いて丸めて庭に埋めてやる!」


「落ち着いてくださいませエリス様!、…今のメルク様はややおかしいのです」


「おかしい?…おかしいのはこの状況…ッ 」


「エリス、落ち着けと言われてるだろう」


「ッ …」


咄嗟に怒りが爆発しそうになった瞬間師匠の声で冷静になる。…そうだ、落ち着け。落ち着くんだエリス、ここで怒って何になる。


第一、今日この日までメルクさんの窮状に気がつくこともなくノホホンと生きてたエリスも同罪だろう。くっ、くそっ!気がついていたらすぐに助けに行っていたのに…!あの人は真面目な分脆いところがあるのはエリスも知ってるだろうに!。


「……すみません、メグさん」


「いえ、大丈夫です。ですが今のメルクリウス様も今のエリス様と同じように何かに焦りを抱いているような…、ともかくかなり余裕がない状況なのです。デティ様とイオ様がフォローに回っていますが…鎮火は出来ていないのが現状でとてもロストアーツの追跡に手が回らないのです」


「…ラグナは?ラグナは何をしているのですか?」


「それが…、その。ラグナ様はラグナ様で手一杯なのです」


「ラグナの方にも何かが?」


「いえ、彼はおそらく一人でも大丈夫ですから今は気にする必要はないでしょう。今はメルクリウス様の方です」


「要件は分かりました。エリスにメルクさんを助けろというのですね?。よくぞエリスを呼んでくれました、メグさん…直ぐにでも助けに行きますよ」


今のメルクさんを苦しめる要因は謂わば政治的問題、言ってみれば権力争いだろう。メルクさんの立つアド・アストラの頂点という席を欲する人間が彼女の弱みに付け込んでいるのだろう。


それをエリスが黙らせることは出来ない。机を叩いて怒鳴りつければ大多数の人間を黙らせる威圧自体は出せるがそれではなんの問題解決にもならない。


だが、そんなエリスにも出来ることがあるとするなら。


「そのロストアーツを盗んだ犯人、何処の誰だか教えてくれますか?」


「ええ、勿論。…今から一ヶ月程前に行われた星器授与式に乗り込み、合計十個のロストアーツを盗んだ犯人、この追跡がメルクリウス様の窮地を助ける近道になるでしょう」


うん、…うん?。十個のロストアーツを盗んだ?盗まれたロストアーツは十一個じゃなかったか?。つまり一個だけは別口で盗まれてるのか?。だとしたらまぁ確かに責められもするか…そんな危ない超兵器を二回も盗まれてんだから。


それか或いは、一度目を警戒していても二度目を許してしまうほどに敵方の手際が鮮やかだったか…どちらかというと後者の可能性の方が大きいだろうな。


「で?犯人の名前は?地の果てまで追いかけますよ?」


「…犯人は、魔女排斥組織…大いなるアルカナです」


「……はぁ?」


大いなるアルカナ、そう口にしたメグさんはとても冗談を言っているように見えない、とするとマジか。おいおいどんだけしぶといんだよアイツら…、何回エリスの人生に関われば気がすむんだか。


「大いなるアルカナですか、…犯人はその残党ですか?」


「はい、今その頭目を務めているのは旧アルカナの幹部が一人 No.12刑死者のメムという男です。彼は帝国での戦いに参加しながらも途中で離脱し…」


「ああ、メムですか」


「…え?知っているのですか?。ですがエリス様はメムに会ったことがないて調べが…」


「ええ、会ったことありませんよ。けど知ってます」


知っている、何故ならエリスの頭の中には大いなるアルカナの最高幹部である審判のシンの記憶があるから。


この三年間で暇な時間が出来る都度シンの記憶を復元し、いくつかの情報を抜き出しておいたのだ。何の役にたつかは分からないがもしかしたら有益な情報が得られるかもしれないからね。


その中の一つに幹部達の顔と名前の記憶があった、当然そのメムの情報も。


実力は幹部達の中でも中の上くらい。ただアルカナに対して絶対の忠誠を誓っており課された任務は確実にこなす男だとシンは珍しく評価していた。故に帝国との戦いの最中にメムを帝国から離脱させている。


その時メムは口にしていた、アルカナを自分が再生させると…。シンもその時は無理だと諦めていたが、どうやらメムは上手くやり遂げたらしい。


「なるほど、ですがメムの実力なんて高が知れてます。軽く撚れるんじゃないんですか?」


「いえ、彼もこの三年でかなり鍛えたようで…、ラグナ様曰く旧アルカナの最高幹部…アリエと同格ではないかと」


うーん、って言ってもアリエもピンキリだからなぁ。上は将軍クラスの宇宙のタヴ…下は当時のエリスと互角の星のヘエ、まぁどちらにしてもかなりの実力者であることに変わりはない。


だが、…妙に引っかかるな。


「あの、一ついいですか?」


「何でしょう」


「その星器授与式って…何処でやったんですか?」


「……素晴らしい質問です、星器授与式はアストラ本部で行いました」


…なるほど、つまりメムは何処に突っ込んでロストアーツを強奪したと?。…無理だろ。


まぁよしんば奪うまでは命がけでやれば取れる。だがその後追撃も振り切ったってのは少々妙だな。ロストアーツを奪われている以上アストラも本気で奪い返しにかかるだろう。その上でその場はアストラ本部…地の利はこちらにあるにも関わらず取り逃がしたってのはなぁ。


メム達アルカナが凄かった…というより、なんだか妙だなという違和感がある。


これは仮定の話になるが、そのメムによるロストアーツ強奪の前に一度目のロストアーツ盗難があったとして、それをメルクさんが警戒していたとして…、その警戒をすり抜けた上で追撃まで振り切るには戦力や下準備以上に別の物が必要になる。


そう…例えば。


「…………メグさん、ここで聞き齧った情報をエリスの浅はかな考えで統合した結果。エリスはそのアルカナによるロストアーツ強奪に…、協力者がいたと想定します。それもアストラ内部から手引きした裏切り者が」


そう考えなければ流石に辻褄が合わない。事前に情報を与えつつ彼らに優位な状況を作り上げることができるのはどうやったって内部から密告者なり裏切り者が出なければ不可能だ。

そして協力者がいたからこそ、メムも本部に突っ込むなんて無茶な手段に出れたとも考えられる。


そうエリスが伝えるとメグさんな静かに手を叩き。


「流石です、やはりエリス様は凄いですね。私も同じことを考えていました」


「ということはやはり」


「はい、私も同じ疑いを持っていました。もしかしたら…アド・アストラ内部に裏切り者がいたのでは、と」


やはりな、アド・アストラは今や総構成員数億のビッグバン大組織ですからね。中にはそう言う輩も紛れ込みますよ。んでそういう裏切り者がニュー・アルカナに接触したか接触されたかは分からないが、何がしかの理由でメルクさんのロストアーツを明け渡した事になる。


うーん、許せんなぁ…。


「そして私がエリス様を呼び寄せた要件こそまさにそれ、その裏切り者探し出して欲しいのです」


「なるほどわかりました。けど分かりませんね…なぜエリスなのですか?、力になれるのは嬉しいですけど裏切り者探しというのなら別にエリスでなくてもいいような」


「そこは色々あるのです、まぁ一番の理由を挙げるならエリス様は秘密兵器だからでしょうか。明確にアド・アストラの味方でありながらその所在も動向も分からない人間なんてエリス様くらいです、故に内部告発者の目に留まる事なく動くことが出来ると思いまして」


「そりゃそうかも知れませんけど、それでも魔女の弟子ってだけで警戒されるんじゃ?」


「勿論考えてありますよ、エリス様にはこれからアド・アストラに身分を偽って潜入していただくのです、こちらに偽造した証明書など多数用意させていただきました」


そう言いながら差し出されるのは、エリスという名前とアド・アストラの士官試験合格を報せる判子、それが今日の日付で押されている。…ふーむつまり。


「エリスにアド・アストラ新米兵卒のフリをさせて潜り込ませて、その裏切り者を探せって事ですか?」


「そうです」


「エリスってそのままの名前ですけど」


「アド・アストラ職員数億人の中に一体何人『エリス』という名前の職員がいるかご存知で?」


聞かなくてもわかるよ、エリスって名前は古風でそれなりに珍しいがこの世をひっくり返して底を叩けばそれなりに出てくる程度にはいる。だからって…潜入か。


エリス潜入好きじゃないんだよなぁ。こういうのはデルセクトで懲りたというかなんというか…。


「乗り気ではありませんね」


「…いえ、まぁ確かに潜入は嫌ですけど、これがベストでエリスが適任である事は理解しています。けど…そんな悠長なことしててメルクさんは助けられるんですか?エリスとしてはすぐにでもメルクさんを助けに行きたいです」


まずは裏切り者を探して、アルカナの動向を探って、ロストアーツを取り返して。やる事は沢山あるのにスタート地点があまりにも目的に遠すぎる気がする。


とはいえ、横着してそのままアド・アストラ本部に乗り込んで『エリスはエリスです!孤独の魔女エリスです!』と名乗ろうモンなら即座にその裏切り者にバチクソ警戒されて逃げられてしまう。この一件を解決するには面倒でも遠回りするしかないってのも分かるし、今まで行方不明だったエリスなら身分を偽って入り込むことが出来るのも分かるんだ。


それでも、メルクさんがピンチなら…直ぐに助けに行きたいっていうのもまた事実なのだ。


「……エリス様、アド・アストラは広大極まり無いです。組織とはその大きさに比例して複雑さを増していきます…世界一の組織たるアド・アストラは世界で一番複雑な組織といってもいいです」


「…そうですね」


「ならばまずはご自身でアド・アストラの中に入り、その目で見て肌で感じて…詳しく内情を知った方が良いです。でなければきっと今のメルク様は救えません」


「……分かりました」


言う通り、まさしくその通り。ぐうの音も出ないとはこの事だ。仕方ない…メルクさんは心配だが直ぐに手が出せないなら焦る必要もない、ただやるべき事をやり続ければ目的に手が届く…、いつもと同じだ。


「分かりました分かりました、今の今まで遊んでたそれが役に立つなら寧ろ喜ぶべきですね」


「エリス様なら引き受けてくれると思いましたよ。既に手続きなどはこちらで秘密裏に済ませてあります、まぁアド・アストラ体験ツアーをするくらいに軽い気持ちでよろしくお願いします」


「あはは…」


「話は定まったようだな。久しい故郷への帰還がまたも騒がしいものになってしまうのは最早定めか…、だが案ずる事はあるまい」


すると師匠は自信ありげに立ち上がると腕を組んだまま微笑み。


「今回は私もいる、存分に力になってやるさ。そうだな、まずは組織の裏切り者を炙り出す事を教えてやろう、用意するのは樽いっぱいの爆薬とマッチ棒だけだ、これを…」


「いえ、レグルス様は今回は不干渉でお願いします」


「……なんだと?」


キョトンとした顔の師匠に突きつけられるのはNoの言葉。師匠が一緒にいてくれるならこれ以上ないくらい楽なんだが…何かあるのだろうか。


「何故だ、何故私だけ除け者なんだ」


「これは別に重要なことではないのかもしれませんが。アド・アストラの組織理念は『魔女の手を借りぬ統治』です、それはこの窮状に至っても…いえ、この危機の只中だからこそ守らねばならない最後の一線なのです」


アド・アストラは魔女に頼らない組織。魔女様から世界の統治を任せられた以上その魔女にケツ持ちさせていては結局意味がないだろう。剰え『組織が危機に陥ったので魔女様の手を借りました』なんてアホらしい話があっていいわけがない。


アド・アストラは今危機に瀕している、だがそこで少なからず魔女様の干渉によって乗り越えてしまっては意味がない。この危機を乗り越えても魔女様の助けを借りた時点でアド・アストラは芯の通らない腑抜けた組織になってしまう。


言ったことも守れない腑抜けた組織では、どの道今後もやっていけないだろう。


これは半ば意地に近いものなのかもしれないが、同時にとても大切な話だ。


「…わかった、だが同行するのは構わないか?」


「ええ、それなら。レグルス様の偽造身分証も用意しておきます、ですがくれぐれも…いえ絶対にバレないようお願いします」


「ん、任せろ」


「と言うわけです。私からの話は以上となりました、何か質問はありますか?」


メグさんからの話は以上か、つまり要約すると。


『アド・アストラは今危機に瀕している』


『理由はメム率いる新生アルカナによって危険な兵器が盗まれた事とその責任をメルクさんが負うことになり内部分裂の恐れがある、そしてアルカナに手を貸す裏切り者のオマケ付き』


『これを解決するには裏切り者を見つけてアルカナを退治しロストアーツを取り戻しメルクさんの態勢を盤石にする必要性がある』


『故にエリスはアド・アストラに極秘で潜り込み、内部から裏切り者を見つけ出し、芋づる式にアルカナも引っ張り出す事』


と言うことになる。やることは多いようでいて意外に少ない、結局は裏切り者を見つけ出してしまえば後は流れるように全てが解決する。


問題があるならその裏切り者が何人で何処にいるかさっぱりなことくらいだが、まぁなんとかなるだろう。


ここに質問を加えるなら…。


「そうですね、エリスが潜入する事を知ってる人間は他にいますか?」


「いえ、居ません。メルク様もデティ様も知りません、これは私の独断によって行った為私の部下も限られた人間しか知りません。なので顔見知りに会った時は上手い具合にごまかしてください」


「なんてアバウトな…、まぁなんとかしますよ」


「流石はエリス様、頼もしいです。では早速アド・アストラ本部への道を開きます…向こう側では私の部下が秘密裏にサポートしますので」


「メグさんは?」


「勿論サポートしますよ、ですが今は早急に片付けたい仕事があるのでまずはそちらを片付けてからになるので…」


「分かりました、ではお願いします」


メグさんから預かった書類、エリスの偽造証明書とこの先必要になるであろう情報を箇条書きしたメモを懐に収めるついでにその全てを暗記しておく。


その後は持ってきた少ない手荷物の整理、いつでも旅立てるようにいつも荷物は纏めてあるから家に戻る必要はない。


体の調子は良好、宝転輪ディスコルディアも磨いてある。いつでも行ける。


「では、これより送りますはアド・アストラの本部にして今現在存在する如何なる街も凌駕する世界の中心…星見の都ステラウルブスでございます」


三年の旅を終え、エリスはこれからアジメクに帰還する。されど落ち着いて思い出話しに花を咲かせる暇も友に会いに行く時間もない。


新たなる戦いに新たなる旅、友を助けるためのこの戦い…負けるわけにもしくじる訳にも行かない。


「では、どうぞ…エリス様。ご武運をお祈りします」


「ありがとうございます、メグさん」


「ん、久しいアジメクだな…」


メグさんの肩を軽く叩き、作り出された時界門を潜り抜けエリスと師匠は向かう。新たなる旅の舞台…生まれ変わったアジメクの中央都市、星見の都ステラウルブスへと。


待っていてください、メルクさん…!直ぐに助けに行きますから!。


……………………………………………………


『未だにアルカナの行方は掴めないらしい』


『軍の総指揮を執るラグナ様が姿を最近見かけないのだが』


『魔女排斥組織の攻勢が険しくなってきた、まるで示しを合わせたようだ』


『やはりアド・アストラは今のままで無理なのかもしれないな』


『統治体制にも新時代への移行が必要か』



世界最大にして不動たるべき組織、世界統一機構アド・アストラは今…空前の動乱の只中にある。


事の発端は大いなるアルカナによるロストアーツ強奪から始まり、ロストアーツの建造を強行しその全権を担っていたメルクリウス・ヒュドラルギュルムの盤石に思われた玉座が脅かされつつあるのだ。


ロストアーツは危険な兵器だ、それを目の前で易々と持ち去られた彼女の影響力と支持率は劇的に目減りしたと言える。


それにより絶対的な支配者を持つ事で形を取りなしていたこの大組織は、支配者の失態により形を崩しつつあるのだ。


『ロストアーツが奪われた責任はどうする』『ロストアーツを用いてアルカナが被害を出したらアド・アストラ全体の風評に関わる』『この失態はどう挽回する』


毎日のように響き渡る怒号に対し、明確な答えも対応も出せないメルクリウスは日々憔悴を極める。あれだけ精力的に行なっていた活動も今やパッタリと途切れ今なんの活動をしているのかさえわからない。


もうメルクリウスは終わりではないか、そんなアド・アストラの職員達は陰で語る程に…英雄と呼ばれた彼女の信頼は失墜したと言えよう。


「くっ…」


それを、誰よりも肌で感じているメルクリウスは暗く締め切った部屋の中、乱雑に散らばる資料で汚れた仕事机の上で頭を抱える。


毎日のように舞い込む非難の言葉と、幹部達より突きつけられる弾劾の要請…、自らの権威の失墜を詳らかにするような文言ばかりが机の上には広がっている。


「くそ…どいつもこいつも、責任の追及だと?そんな事をしている場合ではないだろう。ロストアーツが危険だからこそ一丸となって回収に向かうべきだというのに」


メルクリウスは机に突っ伏し喘ぐように苦悶を述べる。ロストアーツが危険な事など百も承知だ、それを回収しなきゃいけないのはみんなも理解しているだろう。


だが私が隙を見せた途端、アド・アストラの幹部達の牙はアルカナではなく私に向けられ始めた、まるで示しを合わせたかのように即座に転身し私に向かってくる其奴らの所為でアルカナの追撃もままならない。


デティやイオや他の六王も私の味方をしてくれているが、正直このままでは六王と言う制度そのものさえも崩されかねないのが現状。


私が隙を見せたから…せっかく積み上げた全てが失われる…。


「それだけはなんとしてでも防がねば…、だがどうすれば今ほざいている連中を黙らせられる」


正直旗色は悪い、アド・アストラの運営を行っている幹部は皆元貴族や大臣出身の者が多い…故に権威や権力が大好きで旗色の悪い船頭は嫌いだ。

今彼ら幹部の大部分が新たな船頭に押し上げろようとしているのが元豪商レイバン・タングステン。壮年でありながら気力に燃え、それでいて経験も豊富で威厳もある…。


若者ばかりの六王よりもレイバンの方が多少は格好もつくと考えているのか、今幹部達はレイバンの唱える『議会制』を作り上げようと攻勢を仕掛けてきている。当然議会制が採用されれば私はこの立場を追われるだろう。


それは…それは容認出来ん、ここまできて奪われてなるものか、ここでしか出来ないことがあるんだ…魔女様から任されているんだ。


「メルクリウス様、失礼します」


「今度はなんだ…」


ふと、申し訳なさそうに入室してくる配下に、突っ伏したまま答えると…。


「それが、レイバンがマーキュリーズ・ギルドの顧問役に就任したと…たった今知らせが」


「何!?そんな話私は聞いていないぞ!」


「わ 我々もです!寝耳に水で」


唖然としながら飛び起きる。マーキュリーズ・ギルドの顧問役だと?レイバンが?私のギルドの?、そんなのレイバンの権威をより増長させるだけではないか…。


なによりも、私に全くの無断でマーキュリーズ・ギルドにレイバンの侵入許したこと自体が信じられない、一体何が…。


「実は、マーキュリーズ・ギルドの会長であるトリスタン様が独断で任命したと…」


「トリスタンが!?あいつ…あいつが」


トリスタンは私の部下だ、アド・アストラが出来る前から…私がまだ同盟首長として四苦八苦してる頃から私を支えてくれた混合隊アマルガムの隊員だった男だ。


長きに渡り私に仕えてくれた彼なら信じられるとマーキュリーズ・ギルドの運営を任せていたと言うのに…、そんなアイツが今現在私に反目する男を顧問に招き入れたと?。


そんなの…まるで。


「裏切られたのか、私は…」


「この件を受けて、六王派の幹部達や支部長達も何人かレイバンに鞍替えしたとの報告もあり…」


呆然と立ち尽くす私にその報告を事細かに聞くだけの気力はなかった。それだけ大きなことなのだ。絶対の信任を置いていた男が裏切り、私の虎の子たるマーキュリーズ・ギルドさえも奪われかけている事実というのは。


このままではなにもかも剥がされる。私は丸裸にされ…追い出される。


「メルクリウス様大変です!、議会派がメルクリウス様の罷免を要求を…」


「メルクリウス様!魔女排斥組織がギルドの商隊を襲ったらしく、また商品が…」


「この一件でメルクリウス様の責任を問う声が…」


「エスコンディーナ支部の支部長がメルクリウス様の命令を無視し…」


次々と駆け込んでくる部下達が告げる言葉を要約すると。私は劣勢にあり、最早巻き返すことは不可能な段階にまで来ているという事実。


「その、…報告は以上です…」


脱力し座り込む私を部下達はやや気まずそうに見つめ、報告を終えるなりそそくさに出て行く、次々と去っていく背中がまるで我が手元から離れていく物全てに見える。


味方であった幹部達は次々と我が敵となり、レイバン率いる議会制立派へ鞍替えし、トリトンもまた私を裏切り、我が命令を無視する者も現れ責任を問われ負わされ…。


…何もかもが…もう、私はもう終わりなのか…。


「め…メルクリウス様」


「なんだ、今度は誰が裏切った…」


脱力したまま最後にやってきた部下の言葉に答える。私にはもうこの崩壊を止める手立ては…。


「大変です、デルセクト領内に八大同盟の一角…逢魔ヶ時旅団が現れたとの報告が!」


「ッ……!」


逢魔ヶ時旅団…、三年前私に屈辱を味合わせたアイツらが今になって、いや鼻の効く奴らのことだ、私の衰退を聞き及んでまたハイエナのように餌を求めて来たか!。


だが…だが丁度いい!、今度こそ打ち果たしてあの時の借りを返す!。


…それにそうすれば、今のこの状況も少しは変わるかもしれない。八大同盟の一角を崩せば…私が力を示せば、絶対たる支配者たる魔女様のように迫る危険を打ち払えばきっと。


「…分かった、私が出る」


「め メルクリウス様が直々に!?危険です!まだアストラの本軍さえ到着していないと言うのに…」


「構うものか、奴等には借りがある…なにより、やはりアイツのこめかみに一発鉛玉を打ち込まねば私は気が済まんのだ!」


制止する部下を振り切ってデルセクトへと帰還する、逢魔ヶ時旅団を打ち果たし、今のこの流れを変えるために…。


アド・アストラは崩させん、私達で築き上げた世界は変えさせん、お前が…エリスが安心して旅が出来る世界を私が守らねばならんのだ!その為に私は世の平定の為に身を粉にして来たのだ!。


こんな所では終われん!、…だから見ていてくれよ、我が友エリスよ。お前の為ならば私は………。


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