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296.魔女の弟子とノースポール



エリスに妹が出来ました


「というわけで、先程の無礼極まる言動の全てをお詫びします、エリス姉さん」


「………………」


皇都に向かう道中、宿を求めて訪れたのは久しい故郷ムルク村…、そこで十数年ぶりに再会したケビンと顔を合わせたのも束の間、突如として襲来したのはケビンの妹であったアリナちゃんだ


どうやら彼女には凄まじい魔術の才能があったようでエリスが旅に出ている間に実力を開花させ、なんと宮廷魔術師団の団長にまで若くして上り詰めていたのだ、そんな彼女にあれやこれやと因縁をつけられ決闘を行うことになったのだが…


まぁ、色々省くと決闘に勝った結果アリナちゃんがエリスの妹になった


どういうことだよ


「お願いします、エリス姉さん」


「お願いしますったって」


いきなりエリスの妹になると言い出したアリナちゃんはエリスの目の前で深々とお辞儀をしている、すでにエリス達はケビンの家から離れ人気のない村のど真ん中で纏わりついてくるアリナちゃんに辟易している状態にある


エリスが思っているよりもケビンとアリナちゃんの溝は深かったようで、アリナちゃんはケビンを拒絶し ケビンもアリナちゃんを拒絶し、二人は結局仲違いしたまま…これじゃあケビンに宿をお願いするわけにもいかない


というかそれ以前にこれをなんとかしたいんですけど、とみんなに助け舟を求めるが


「まぁ、いいんじゃないか?別に」


どうでもいいとばかりにメルクさん


「突き放しても面倒なことになりそうだしな」


他人事だと思ってるアマルトさん


「ううーん、さっきみたいに暴れられるよりは…、でも妹はエリスさん的にも…」


何やら難しい顔をしているナリアさん


「姉を求める妹の気持ちは深いもの、彼女からは本気を感じますよ、エリス様」


何やら重たい事を言ってるメグさん


「取り敢えず、夜分に村のど真ん中で騒ぐのは…村に迷惑、だと思う…」


そもそも現実的な意見を述べるネレイドさんと…みんな助けてくれない、妹になりたいという人間に会ったことがないのか?、まぁないだろうな、エリスもないもん、母になりたいという人には会ったことがあるが


「うう…どうしましょうラグナ」


「んー、そうだなぁ…エリス、ちょっとこっち来い」


「ん?なんですか?」


ラグナに呼ばれ彼に近づくと、彼はアリナちゃんに聞こえないくらいの音量でエリスの耳元に囁く


「君としても困惑してるだろうが、彼女的にはふざけて言っている様子はない」


「そりゃふざけて妹になりたいとかいう人はいませんよ、内容はふざけてますけど」


「そりゃそうだが…、でも 君が見たように今のアリナは精神的にも不安定だ、多分今まで良い理解者を得られなかったんだろう、そこを矯正するつもりでエリスは決闘を受けたんだろ?」


「まぁ…」


「なら、いい機会だ…君が彼女の面倒を見れるなら、それは巡って彼女とアジメクの為になる…、出来る限り俺達もフォローをするから」


「むぅ、他人事だと思って…」


「あはは…、俺としても兄を大切にしてほしいという気持ちはあるが、あの二人は少し拗れ過ぎている、これは兄にも妹にも人間的な成長が必要だ、ケビンには両親がいるがアリナにはいない、アリナを導いてやれるのは今のところ君だけだ…エリス」


それはそうだ、ケビンには両親がいる…だがアリナには多分両親からの薫陶はないだろう、だってこの騒ぎになっても両親は終ぞ家から出てこなかった、ケビン同様アリナちゃんに対してあまり良い感情を抱いていないのだろう


そう思うと、かわいそうだな…、彼女がここまで荒んでしまったのは彼女が言ったように家族との溝の深さにあるのかもしれない


親から…突き放される辛さはエリスも分かるつもりだ、なら…


「なら、フォローお願いしますよ、エリスはいいお姉ちゃんではないので」


「任せろ、君だけに負担は押し付けない、一人の苦労は俺達全員で背負うさ」


彼は本当にエリスを乗せるのが上手いなぁ、そんな風に頼まれたら断れないよ…もう


仕方ない、ラグナの言い分に丸め込まれるとしようじゃないか、そう自分に言い聞かせエリスはくるりと振り向きアリナちゃんに向き合い


「分かりました、でも妹ではなく飽くまで妹分としてなら貴方の面倒を見ましょう」


「本当ですかッ!」


「ええ、貴方が立派な魔術師になる為ならエリスはエリスにできる事をする、そう言いましたからね」


あれはその場で適当に言った言葉じゃない、本当にそう思っていたから言ったのだ、彼女には才能がある それも驚くべきほどに超絶した才能が、それを人間関係とか環境とか人格で潰すのはあまりに勿体ない


デティが掬い上げたのもそういう気持ちからだろう、彼女では何故か上手く御することが出来なかったようだが、エリスへの憎悪に決着をつけた後ならば彼女も人として成長できるかもしれないしね…、なれない事柄ではあるものの出来る限りの善処はしよう


「貴方を放り捨てはしません、貴方にその気があるのならエリスはいくらでも…」


「えへへ、じゃあエリス姐!」


「ん…、エリス姐って」


バタバタと駆け寄りながらエリスの腕に抱きつき無邪気に笑う姿を見て、取り敢えず選択は間違えなかった事を悟る、彼女がどんな人生を歩んで今という答えに行き着いたのかは知らないが…少なくともこのように頼る事が出来る人間には出会ってこれなかったのだろう


何せ、エリスに殺されそうになって出てきた名前が家で飼ってるハムスターだけなんだから


「ではアリナちゃん…」


「アリナでいいですよエリス姐、私は今日からエリス姐の妹分なんですから!」


「そうですか?、ではアリナ 一先ずよろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


一先ずはこれでいい、彼女の見るもの全てを傷つける尖った性分が解消出来たならそれで…


「あはは、取り敢えずよかったってことで…」


「ッ…!あんた何よ!ってかさっきからエリス姐と距離近くない!?馴れ馴れしいのよ!」


「えぇ…」


おいおい、いきなりラグナに噛みついてるよ…、丸くなったってわけじゃないのか


「アリナ、彼はエリスの友達のラグナですよ」


「ラグナ?」


「はい、エリス達一行を一つのチームとするなら彼がリーダーです」


「リーダーを名乗ったことはねぇけどな」


「…リーダー?、嫌よエリス姐!私エリス姐がリーダーがいい!、ここでも一番強いんでしょ!?」


エリスがこの中で一番強いか…、ええもちろん!と答えたいが


「残念ですが、今の所ラグナが一番強いですよ、他のみんなにだって勝てる保証はありません…みんなすごく強いです」


「こいつらが…」


今のところ…と言われラグナはやや面白そうな顔をしつつもアリナを安心させるように微笑んで見せる、他のみんなもそうだ アリナの敵対心を受けてもなお受け入れてみせるという寛容性を見せる、彼女は人の拒絶心に敏感だ…


故にここで一丸となって受け入れる姿勢を見せる必要がある


「エリス姐より強い?、そんな風には見えないけど」


おいおい…


「それよりそろそろ宿をなんとかしねぇか?、いくらアジメクったっても夜は冷えるぜ?」


そろそろ動こうぜとエリス達に喝を入れるアルクトゥルス様の言葉にエリスはハッとする、しかしどうするよ…宿、アリナちゃんを連れていたら他の家に行っても多分同じようなことになるし…


「あ、でしたら私いいもの持ってますよ」


そう言いながら懐に手を伸ばすのはアリナちゃんだ、ごそごそと美しい法衣の中に手を突っ込み漁れば、中から糸屑や丸められた紙がボロボロと…、この子ゴミはポッケに突っ込むタイプか?


「あ、ありました!これです!エリス姐!」


「それは…鍵ですか?」


豪奢な金の鍵だ、その型はやや古くされどよく手入れされている金の鍵…どこの鍵だ?これ


「はい!、クレア団長の執務室かパクッ…と借りてきました!鍵です!」


「パクったんですね、どこの鍵ですか?」


「彼処です!」


そう指さされるのはこの村で一番豪華な建物、つまりエドヴィンさんの領主館だ…まさかそれの鍵か?、そういえば今このアニクス地方は騎士団長になったクレアさんの領地だと聞いたな


って、騎士団長でありこの地方の領主でもあるクレアさんから無断で鍵持ってくるって…大丈夫かこの子


「彼処の屋敷はもう殆ど使われてない物なので、クレア団長の残しておきたいという一言だけで存在してる屋敷です、なので一泊くらい雨風凌ぐのに使ってもバチは当たらないでしょう!」


「ううーん…、まぁそうですね、彼処以外泊まれる場所もなさそうだし…」


何より、エリスの中のもう一人のエリスが言うんだ、もう一度あの屋敷の中に入ってみたいと…、クレアさんには悪いけど 一泊だけお借りしよう、そしてその後謝罪する…うん、そうしよう


それに彼女も善意で言ってくれているんだ、それを跳ね除けたとしてエリスに何か別のプランがあるわけじゃないし


「分かりました、そうしましょう、みんなもそれでいいですか?」


「いいよ、ここはエリスに任せる」


「そうだな、それにこの人数だ…そこらの民家の一角を間借りしてってのも無理があるだろうしな」


「私…おっきいから…ね」


「オレ様もデカイぜ、ってかもう休めるならどこでもいい」


「あ あんな立派なお屋敷に勝手に泊まってもいいんでしょうか…、僕不安で…」


「大丈夫でございますよ、それよりメイドの私的には気になる点もございます、なので急ぎましょう皆様」


と何故か何かを気にしだしたメグさんに急かされエリスは領主館へ向かう、エリスが師匠の次に出会った…そして生まれて初めてエリスに優しくしてくれた男の人、今は亡きエドヴィンさんのお屋敷に、十数年ぶりに向かうことになった


………………………………………………


エドヴィンさんの領主館は村を見下ろせる小高い丘の上にある、村から丘に続く道…昔は何度も通った経緯があるからある意味では慣れた道だった


以前は師匠に手を引かれて向かった領主館に今は一人で向かう、道の脇に生えている草が以前よりも大きく伸びてボウボウと生い茂っている辺り、エリスがここを離れていた年月の長さが伺える


クレアさんに連れられてこの村を出て以来久し振りに訪れる領主館の閉ざされた扉は、アリナが何故か持ってきた金の鍵によって開かれる


ガチャガチャと久し振りに差し込まれる鍵に扉は驚きつつも、やや大きな音を立てて解錠される…それと共に開く扉から見えてくるのは


「うわっ!埃臭っ!?」


「やはり二年も誰も出入りしてないとこうなりますね…」


ぼうっ!と溢れてくる埃とカビの匂い、そりゃそうだ エドヴィンさんが亡くなってより二年の間ここは誰も出入りしてないんだから、クレアさんだって皇都住まいで此処には中々戻ってこれないだろうし…


人が出入りしないだけで住居とは簡単に埃まみれになってしまうのだ、それを理解していたからメグさんは急ごうと急かしたのだろうな


「これは…休むどころではないな」


「どうしましょうか」


「あ!、任せてくださいエリス姐!掃除は私がやりますから!」


そう勇んで前に飛び出すのはアリナちゃんだ、私がここに招いたのだから私が!と埃を舞い上げ廊下を歩き、用務品入れから古びた箒を取り出すなりそれをバッサバッサと掃いて埃を巻き立てる


「うぉぉぉぉーーー!!エリス姐の寝床は私が作るんだー!!!」


「ゲホッ!ゲホッ!ちょ!ちょっと!アリナ!?」


この子掃除したことないのか!?それじゃあダメだよ…まず!


「アリナ様、掃除はまず上からでございます、下からやっても上から落ちた埃で再び床が汚れ二度手間ですので」


「は?、あんた誰よ!」


「私はメグ・ジャバウォック…メイドにございます」


ふと気がつくとメグさんがいつの間にやら埃まみれの廊下のど真ん中でアリナを見下ろしている、それではダメだと…そう語るその姿はまさしくメイド、まぁどこからどう見てもメイドなんだけどね


「メイドぉ?、メイドが何偉そうに私に口出ししてるのよ!、生意気なメイドね!私が雇ってるメイド達はそんな口答えしないわよ!」


「それは失礼致しました、ですがこのメグ…僭越ながらアリナ様のお役に立ちたいと考えておりまして」


「役に?」


「ええ、アリナ様はエリス様の役に立ちたい…ですがこのままでは、それも儘ならないかと」


「…んぅ?」


アリナちゃんがメグさんに促されこちらを見る、そこでようやく気がついのかな、エリスが埃で咳き込み涙を流していることに…その顔がみるみるうちに青く染まり


「ごめーん!エリス姐!」


「え…ええ、いいんですよ…」


「このように闇雲に掃除をしても迷惑をかけるだけです、ここは私の指示を聞いた方がよろしいかと」


「いやよ!、私は私より強い奴の言うことしか聞かないの!、エリス姐とか!」


「私はそのエリス姐様と戦い、気絶させて牢屋にぶち込んだ事がありますが…?」


「えぇっ!?」


(まぁ、戦いで疲弊していたところを後ろから麻酔針ぶっ刺して気絶させただけですが、嘘は言ってない)


「あ…あんたも…強いの?」


「さてどうでしょう、それより…私の指示を聞く気になりましたか?」


「う…、凄い威圧感…分かったわよ」


「よろしい、ではエリス様方、私はアリナ様と掃除をしますので少しお待ちを」


「あ、エリスも手伝いますよ!」


「ああ、我々にもできる事があるはずだ」


「はい!、みんなでやった方が…」


「いえ、大人数でやればそれだけ埃が舞って時間がかかりますし、何よりこの屋敷には一泊するだけですので簡易的に私が済ませます、暫しお待ちを」


ここは本職のメイドにてもらおうかとどこからともなく綺麗な埃叩きと箒を取り出し構えるメグさんの威圧に何も言えなくなる


そりゃあそうよ、この人は世界最大の大国アガスティヤで一番のメイド…皇帝直属メイド長なんだから、素人が下手に手を貸しても邪魔にしかならないか


「ではアリナ様、私の指示に従って動いてくださいませ!」


「は はい、メグ…さん!」


「ではまず必殺ローリング埃叩きで天井の埃を一掃します」


「最初から無理難題すぎないですか!?


クルクルと回転しながら屋敷中を飛んで回るメグさんに振り回されるアリナを置いて一旦エリス達は屋敷の扉を閉めて外に出る、一発で分かった ついていけない領域の話だと


「さて、…時間が出来たな」


さっきの光景を見ないフリしてエリス達は相談を始める、寝床の確保はできたが使えるようになるには時間がかかるようだ、とは言え何もなしに外で待ってるのもなぁ


「どうする?組手でもするか?」


「ラグナとか?勘弁してくれよ、俺ぁ今日は移動続きでヘトヘトなんだ」


「僕もです…」


「なんだよテメェら情けねぇな!、他の魔女の弟子達は軟弱で困るぜ!船に乗って馬車に乗ってただけだってのによ!」


とアルクトゥルス様は言うがそれでも移動とは疲れるものだ、心休まる一服の時間もないとはそれだけで消耗する物なのだ、みんなが疲れているのは船から降りてここまで一切足を伸ばし靴下を脱いで休む時間がなかったからだろう


「ねぇ、そういえばさ…」


「ん?、どうしました?ネレイドさん」


「ここエリスの故郷なんだよね…、エリスの家は…どこにあるの?」


ああ…時間を潰すならエリスの家を見てみたいってことか、と言うか最悪そちらに一泊すればいいんじゃないか…ともいいだけだな


「おおそうだよ、エリスの家はどこにあるんだ?真っ先にそこに案内してくれるもんだと思ってたら教えてくれる気配もないし」


「そもそも我らはエリスが昔何をして育っていたかも知らないのだ、出来れば見ておきたいが?」


「差し障りなければ僕も!」


「エリスの家かぁ、どんなだろうなぁ」


なんてみんなはもうエリスの家に行く気満々だ…けど、そう簡単に案内しなかったのには理由があるんだよ…


「簡単に行ける場所にはねぇんだろ?エリス」


「…はい、その通りです」


ただ一人、アルクトゥルス様だけが目を瞑り問うてくる、簡単に行ける場所にはないと…


「エリスの家は即ちレグルスの家だ、そしてレグルスはスピカが数千年と探しても見つけられなかった幻の存在でもある、それがお前その辺にあるわけがねぇ…オレ様の見立てじゃ、あの山だろ?」


そう指差す山は一つしかない、アジメクが誇る大霊峰 アニクス山だ…


「ええ!?あの山の頂上にレグルス様の家が!?」


「いや、あの山の中心には巨大な窪地があるんだ、元は火山かなんかだったのかもしれねぇが…その窪地の中には今森がある、外界とは隔絶された世界で最も人の手が加わってないとされている森…星惑いの森がな」


「はい、その通りです…レグルス師匠の家は星惑いの森の中にあります、ただそこに行くには…あの巨大な霊峰を超えねばならず…、窪地の中に入る道もあるにはありますがその入り口も遠いですしね、今から行くには少し険しいかと」


星惑いの森へ最短で行くにはあの山を越える必要がある、一応この山の反対側である皇都側には馬車が通れるような道があり、険しい道ながら窪地の内側に行くこともできる


ただその道は切り立った崖の端を道と言えるかも怪しい幅をグネグネと通らねばならず、それこそ…余程急いでいなければ通ろうとはしない、もし万が一通っても 転落するのは目に見えているしね


だからどの道山を越えなくては窪地の中に入る事ができないんだ、だから半ばエリスの家に帰るのは諦めてたけど


「いいじゃねぇか、行こうぜ エリスの家」


そうアマルトさんがエリスの肩を叩く、話聞いてなかったのか?行くにはあの天につむじがかかるような山を越えなければならないんだ


「あの高い山を越えると?ここにいるみんなで?」


「そこは策がある、ネレイド?乗ってくれるか?」


「え?…よく分からないけど、いいよ?…私もエリスの家…みてみたいから…」


アマルトの言う策の内容を聞かずに頷いてみせるネレイドさんの胆力は大したものだが、迂闊じゃないか?アマルトさんはたまに平気でとんでもないことをやる人だけど


なんて不安も他所にアマルトさんが取り出したのは…、お弁当箱だ


「ありがとよ、じゃあ…ほいネレイド、これ食え」


「これ何?」


「鶏肉のソテーだ、美味いぜ」


「ありがと…ウマウマ」


全く警戒心を見せずもしゃもしゃと鶏肉を食べるネレイドさんに一瞬驚愕する、何せエリス達は今からアマルトさんが何をしようとしているか理解しているから 知っているから、あれは…


「さて、じゃあ頼むぜネレイド」


「何が…?」


「その四肢 今こそ刃の如き爪を宿し、その口よ牙を宿し 荒々しき獣の心を胸に宿せ、その身は変じ 今人の殻を破れ『獣躰転身変化』!」


使った、あの呪術を!まずい!


「ネレイドさん!服脱いで服!」


「え?…っ!?、体が熱い…何を…!」


「ラグナアマルトナリア!向こう見て!」


「はい!」


アマルトさんが使ったのは人を獣に変える呪術だ、変える対象の肉体の一部を持っているだけで発動させられると言うその条件を満たすため、アマルトさんは鳥の肉を食べさせたのだろう


故にそれを食べたネレイドさんの体は鳥に変わる、ただその際服を引き裂いて肉体が膨れ上がってしまい着ている服がダメになると言う難点もある、今ここでネレイドさんの一張羅がビリビリに破けたから代わりを確保出来ない、何せあのサイズだ、恐らくは特注品であろうそれを破壊させるわけにはいかないと変わりつつあるネレイドさんの体から慌てて服を引き抜くと


そうこうしている間にもネレイドさんの頑強かつ巨大な体は羽根に覆われ…


「………………キュー?」


「凄い…ネレイドさんが鳥になっちゃった」


「鳥と言うよりこれは大怪鳥だな」


変化が終わり目を背けていたナリアさんが口を開く、そこには屋敷ほどの大きさの巨大な鳥が羽を広げ不思議そうに己の体を見ていたからだ


人を鳥に変えると巨大な鳥に変わることは知っていた、おそらく術者の技一つでサイズは増減するのだろう、だが…今回変わったのはネレイドさんだ、多分人類で最も大きな人間であるネレイドさんが鳥に変わればそれはもう並大抵のサイズじゃない


魔獣だろうが食ってしまいそうなサイズだ…、それでいて羽はネレイドの髪色同様流水の如き水色で、月光を反射し輝くその姿はなんとも神々しい、…まるで神鳥だ



「ネレイドに乗って行こう!」


「何がネレイドに乗って行こうですか!ネレイドさんに事前の相談くらいしてください!びっくりしてるじゃないですか!」


「いてー!ごめーん!」


ポカリとアマルトさんの頭を叩く、相談しろ!可哀想だ!そうエリスが訴えかけると


「キュー…」


まるで気にするなとばかりにフルフルと首を振ってくれる、いいんですか?ネレイドさんは…、うぅむ…


「でしたら、お願いしてもいいですか?」


「キュー…」


「メグには話を通しておく、アイツならこれがあればすぐに追いつけるだろ」


そう言いながら鳥になったネレイドさんの体をナデナデするラグナは手元の金の杭を見せる、あれはセントエルモの楔か?…いつのまに受け取ってたんだ、でも確かにそれがあればメグさんは後からいくらでも追いつけるだろう


…なら、いいのか?行ってしまっても


「…じゃあ、案内します…けど期待はしないでください」


「ああ、俺達はただ見てみたいだけだけど、エリスにとっては違うだろ?、期待とかじゃない…君を一旦でも家に帰しておきたいのさ」


せっかく旅が終わったんだから、と、言ってくれるその言葉はとてもありがたい


なら遠慮なく、帰らせてもらおう…もう随分帰っていない、我が家に


エリスと師匠の家に


「ではすみませんがお願いします!、ネレイドさん!!」


「キュァァーーー!!」


エリスの言葉に威勢良く返す大怪鳥、見据える先はアニクス山の頂上だ


じゃあ、旅も終わったことだし帰ろうかな


………………………………………………………………


メグさんには連絡を入れて、エリス達一行はアニクス山へと向かう


超巨大な鳥となったネレイドさんの背中に乗ればそれこそみんな揃ってひとっ飛びだ、彼女の羽は瞬く間に空気を掴み、梯子を登るように高度を上げていく


周囲を飛ぶ鳥を更に飛び越せ馬鳥達も『何事!?』とばかりに悲鳴を上げて逃げ去り、地上に巨大な影を作って山を飛び越えていく


途中吹雪に見舞われながらもネレイドさんは一切減速することなく力強く羽ばたき、難なく雪のカーテンを抜けて山の奥にある窪地に…、星惑いの森を眼下に収める


「ああ!、本当に山の奥に森が!」


ナリアさんが叫ぶ、信じられないと言った顔で…、そりゃそうだ 雪と岩に塗れた頂上を飛び越えたらその奥に緑生い茂る窪地が広がっていたのだから


「ううむ、確かに窪地の側を通る道はあるが…あまりに険しすぎるな、あんなところ馬車で通る奴なんかいるのか」


メルクさんが星惑いの森全域を見渡し、その隅の崖際を通る道を見て思わず眉をひそめる、確かに馬車はギリギリ通れそうだが…、すぐに車輪が外れ崖下に落ちてしまいそうな道に思わず呆れるのだ


だけど、あの道があったから今のエリスがあるとも言えるのだ


「窪地に行き着くこと自体は簡単だ、だがその下にある星惑いの森に辿り着くのは困難極まる、未だにあの森は人が到達出来ていない人類未明領域の一つなんだからな」


アマルトさんが何やら訳知り顔で説明してくれる、星惑いの森は二つの意味で有名だ、一つが彼が語ったように人類が未だに解明出来ていない場所として、もう一つは自殺の名所だ、と言っても大概の自殺者はここに辿り着く前に死ぬがな


星惑の森に辿り着くには険しい崖を降りて行かねばならない、おまけに颪が吹き荒れとてもじゃないが魔術で登るのは無理だ、まぁエリスは五歳であれを登り降りしてましたがね、よくやったよ小さい頃のエリスは


「あれが…?」


「どうしました?師範」


「いや…別に、それよりネレイド!下に降りられるか!」


「キュエーー!!!」


問題ない!とばかりにエリス達を落とさないように姿勢を変えずゆっくりとゆっくりと降下していく、懐かしい森がだんだん近づいてくる


この森は変わらないな、エリスにとっては庭のようなそれが目前に迫り、思わずジンと来る…ここまで来たんだなぁと


「そろそろ降りられるな、…ありがとよ、ネレイドさん」


「キュエ!」


もうそろそろ降りられるなという段階でエリス達は次々とその背中から飛び降りる、それと同時に羽に包まれたネレイドさんの体も徐々に縮み…近くの茂みへと落ちる、今の彼女は裸だろうから慌てて服をそちらに投げ込み、エリスもまた…星惑いの森に着地する


「帰ってきましたね、星惑いの森…」


右を見ても左を見ても生い茂った木ばかり、人の手入れが一切されていない未踏の森は下の森とは違う独自の生態系を築いている、まるで岩壁に隔離されたような小さな世界に…エリスは再び降り立つ


今度は落っこちて足をへし折るなんて真似せず、しっかりと両の足で地面を捉えて


「ここが星惑いの森か…、っ!虫が多いな」


「へぇ、ここの木…すげぇ珍しい種類だぜ?、お!この薬草…確か高級品だった気が、うおぉ!めっちゃ自生してる!、ここで一儲け出来そうだぜ!」


「わぁ、こんなにモリモリの森…僕初めて見ましたぁ…」


この森は八千年間師匠の魔力を吸って生きていたから他の森と違って元気一杯なのだ、虫も多いし木も丈夫だし生える薬草はスピカ様の加護も相俟って強力無比だ


まるでジャングルみたいな有様に驚く一同の中、アルクトゥルス様だけが…見つめる


「あれがレグルスの家か?」


木の向こうに見える小さな小屋、申し訳程度に流れた小川の側に建てられた木組みの古屋、…あれだ


「はい…あれが、エリスの家です」


レグルス師匠と共に過ごした家が、今も変わらずそこにあった…


「ふんすふんす…」


「お、ネレイド戻ってきたか」


ふと、木を押し退けネレイドさんが戻ってくる、何やら顔を紅潮させ鼻息荒くフンスフンスと現れるんだ、どうしたんだろう


「どうした?…」


「私…空飛んでた、楽しい…凄く、アマルト…またやってね…」


「あ ああ、楽しんでたのか、そりゃ良かった…、けど許可なくやって悪かったな、次はきちんと許可とってやるよ」


「構わない、楽しかったから」


ネレイドさんからしてみれば新鮮な体験だったようだ、エリスはしょっちゅう飛んでるから気持ちは分からないが…、でも楽しかったならそれでいい


「それより、あそこにあるのが…エリスの家?」


「みたいだな…、行ってみよう」


「ああ、しかし…思いの外質素なところに住んでいたんだな、レグルス様の屋敷というからてっきりもっとこう…」


そうして木々を潜り抜け、エリス達が辿り着くのは森の中の小さな小屋だ、お世辞にも立派とは言えない それでいて一人で住むには些か大きすぎる家が…目の前に広がる


変わってない、十数年前と変わってない…よかった、雨とかで潰れてたらどうしようかと思ったよ


「そっくりだ」


「ん?」


そんな中、アルクトゥルス様だけが真剣な面持ちで古屋に触れる…まるで何かを懐かしむように


「そっくりって何にですか?」


「オレ様が昔住んでた家にだ」


「え!?アルクトゥルス様のですか!?」


「正確に言えばオレ様達弟子が育った家…つまり、レグルスとシリウスが生まれた家にそっくりなんだ」


ああ、そういえば魔女はみんなシリウスに拾われ弟子入りしたんですね、とくれば行き先はシリウスの家に決まっている…、そうか シリウスと姉妹だった師匠もこんな家に生まれてそこで育ったのか


「アイツ、やろうと思えばもっとデカイ家建てられたろうに…、八千年もこんなところで…バカなやつだ、本当に…」


エリスからしてみればここは十数年ぶりの家だ、けれど魔女様からすれば八千年間友達が過ごした隠れ場所ということになる、どちらの感情が大きいかは分からないが…アルクトゥルス様にも思うところがあるようだ


「中に入ってみますか?、アルクトゥルス様」


「それはお前に譲る、一番最初にただいまを言えるのはお前だけだからな」


「……そうですか、ありがとうございます、では遠慮なく」


譲ってもらえるか、ありがたい…なら遠慮なくただいまさせてもらおうとエリスはそのドアノブに手をかける


ドアノブ位置が前と違う、ズレたのはエリスの手の位置だ、見上げるように掴んだそれは今エリスの目の下にある、掴んだ感触はやや悪く錆びついた粉が手の平にべっとりと付着するくらいには…、今のエリスの手は焦ってビッタリだ


緊張というのだろうか、それとも待ち望んだ瞬間なのだろうか


エリスはこの人生において安住の地を持たずに生きていた、エリスにとってこの家は安息を与える場所ではないが、それでも『家』なのだ…帰るべき場所なのだ


帰るべき場所があるから旅は旅足り得る、帰る場所があるから旅なんだ…そして今エリスは、その目的を果たし


「ただいま」


扉を開けた、やはり内部は埃臭く雨漏りもしていたのか酷く汚れている…つい昨日のように思い出せるあの日の情景と重ねれば、あまりに変わり果てた家の中


だが、ここは間違いなくエリスの家だ


棚に置かれた無数の本、散らかった机は皇都に向かうための支度をした時から寸分違わずそのままだ、時が止まったままだ


ゴクリと唾を飲んで一歩踏み出せば、ギシリと床が音を立てる…灯りのない暗い室内に入り周りを見回す


ここだ、ここでエリスは修行をしていたんだ、そこに置いてある本で字の勉強をしたそこに敷いてあるカーペットの上で魔力を操る練習をしたし、そこの机でご飯を食べたし、そこにあるベッドで師匠と眠ったんだ


幻影のように朧げに見える幼き日のエリスと師匠の姿は、舞い上がる埃のように形を失い消えていく


どれだけ鮮明に見えてもこれは過去なのだ…、そして今は…


「はぁ、あ〜…えっと、ここがエリスの家です!皆さん!、どうぞお入りください!」


「いいのか?、じゃあお邪魔します」


「なんて言うか、エリスとレグルス様の家らしい家だな」


「わぁ!、本がいっぱい…レグルス様って読書家だったんですね」


「うぅーん、雨漏りが酷いな…でもここでエリスとレグルス様は生きてたんだよなぁ」


「なんというかとても感慨深いでございます、エリス様とレグルス様のお二人の生活を垣間見て何やらこのメグ、何やら涙ぐんで参りました」


「う?、入り口が狭い…私は入れないかも、…ん?メグ?」


続々と入ってくる仲間達、…そんな中 いつのまにか…


「え!?メグさん!?」


「しかしここも埃っぽいですね、やりますか?必殺メグハリケーン」


「いりません!っていうかいつのまに!?」


いつの間にやらエリス達に紛れ込んでいるメグさんに思わず慄く、一体いつから一緒にいたんだ、もう屋敷の掃除は終わったのだろうか、相変わらず読めない人だなぁ


「先程でございます、粗方指示は叩き込み屋敷はアリナ様に任せてきました…ついでにアリスとイリスも置いてきたので問題ないでしょう」


どうやら屋敷はアリナとアリスさんとイリスさんに任せてきたようだ、なんというか事あるごとに呼ばれてないか?あの二人…酷使し過ぎでは


「しかし、ここでエリスとレグルス様がねぇ…どうやって生きてたか想像も出来ないな」


「どうやってって普通にですよラグナ、ここでご飯食べて ここで寝て…ああ、ここの倉庫に食料とか仕舞ってあるんですよ」


そうみんなに説明するように狭い小屋の中を行ったり来たりし、食料の詰めてある倉庫を開けると…


「う…!?」


何故か、倉庫の中にはびっしりと草が生い茂っていたのだ…いやこれ、もしかして師匠が食べてた豆か?十数年という歳月で芽が出てこの狭い倉庫の中で育ってたのか?、よく見れば天井からは雨漏りの跡が…、これは掃除が面倒そうだ


「へぇ、倉庫の中で食料栽培してたのか?」


「違います!、これは…豆を放置して出かけちゃったから…、ん?ああ!」


ふと、ラグナの言葉を否定する為振り向くと…、机の上にある物が目に入る、あれは


「わぁ!懐かしい!、これ師匠に初めて買ってもらった本ですよ!」


「ん?、『孤独之魔女伝記』?…それを孤独の魔女自身に買ってもらったのか?」


そうですよメルクさん、これをご褒美に買ってもらったんです!修行を頑張ったご褒美にエリスが師匠からもらったお小遣いで買ったんです!、皇都に向かう時はすぐに帰って来ると思って机の上に置きっぱなしにしてたんです…


それがこんな長旅になるなんて思いもしませんでしたからね…!、懐かしいなぁ…これ


「湿気でやられてるな、読めるか?」


「んー、汚れてしまっていますがなんとか…はぁ、よかったぁ」


これは思い出の品だ、この家で唯一エリスの物品といってもいい品だ、これがダメになってたら軽くショックでしたよ


「……本も、お皿も…シーツも、一応無事ですけど…師匠が帰ってきたら色々買い換えないといけませんね」


まぁ無事は無事でも形を留めているというだけ、今からここに住めるかと聞けば絶対にそんなことはない、降り積もった埃の上に雨漏りが滴り、乾いて層となり黒い汚れとなってそこら中に蔓延ってるんだ、これはもう買い換えた方がいい


師匠が帰ってきたら、二人でこの家を綺麗にして…それで、また住むのか?……うーん


「ヒッデェボロ屋だなぁ、魔女の一人がこんなところで生きてたなんて醜聞もいいとこだぜ」


「ちょっと師範、何酷いこと言ってんですか、デリカシーがないですよ」


「ハンッ!オレ様にそんなものを求めるな、元から持ち合わせてねぇだからよぉ、だからデリカシーのないオレ様は言わせてもらうぜ?、おいエリス」


「はい?なんですか」


そう周囲の家具の調子を確認していたエリスはふとかけられた声に反応してクルリとアルクトゥルス様の方を振り向く…と


「……っ?」


そこに見えたのは、息を詰まらせてしまいそうなくらい恐ろしい眼光を向けているアルクトゥルス様の姿が…、何故 そんな顔を向けられなければならないのか、なんでエリスは今睨まれてるんだ?それが分からず一瞬困惑するが…


「おい、エリス…そろそろ言え、テメェは何者だ」


「え?…」


「お前は一体どこから来た誰なんだ、まさかこの家で生まれたとか言わねえよな?、こんな人気のないところでお前という人間が突如として虚空から発生するわけがない、お前はどこかで生まれてここに流れ着いた…なら、その前はどこで何をしてきた」


それはエリスの過去に対する問いだった、エリスが何者か…それはこの家に来る前に何をしていたか、弟子になる前の頃の話…それを聞いているんだ


そりゃあまぁ、エリスは弟子になる前の話をあまりみんなにしない、それは純粋にあの頃への嫌悪感もあるし、何より…みんなからの見る目が変わってしまうんじゃないかって、そう思いもするんだ


言ってしまえばエリスは奴隷から生まれた奴隷、生まれながらの奴隷だ…名前も与えられず母からも捨てられ毎日のように鬱憤晴らしの理不尽を受け屋敷に閉じ込められていた奴隷だ、きっとお隣の家の猫の方がまだいい生活してただろうな


ただ、それを打ち明けた結果…何を思われるのか予想が出来ないんだ、これをみんなに言った結果 関係性が何か変わるのか、それが一切読めないからエリスは今まで黙ってきた


あと単純に言い出す機会がなかったってのもある


しかし、打ち明けないとエリスがアルクトゥルス様に殴られそうだしな…どうするか、そう悩んでいると


「師範、いい加減にしてください」


声を上げるのはラグナだ、それも明確に怒りを携えた声音で自分の師匠に刃向かうような口を利く


「誰だって言いたくない過去の一つや二つあります、彼女が弟子になる前のことを言いたくないというのなら俺達は聞くつもりがありません」


「ラグナ…」


「おーおー優しいねラグナクンは、そんなにかっこいいところ見せたいか?ええ?、だがなエリス…テメェはそれでいいのか?」


「何が…ですか?」


「惚けんなよ、確かに人間言いたくない過去の一つ二つある、オレ様にもある、だがお前はここにいる弟子達の…友達のそういう過去も含めて全部知ってんだろ」


「っ!」


確かに、知ってる


ラグナが昔己の非力さを嘆き泣いてしまうような少年だったのを知っている


メルクさんが借金に喘ぎ、固いパンをかじって地下で暮らしてたのを知っている


アマルトさんが家の伝統に翻弄され手酷い傷を心に負ったのも知っている


ナリアさんの両親がどのように死んで彼が今までどう生きてきたかも知っている


メグさんが昔殺し屋で、生き別れた姉を探しているのも知っている


ネレイドさんが昔…何をしてかは知らないな、また今度話すとしよう


ともかくエリスはみんなの過去を知っている、とても笑いながらできるような話じゃないあれやこれやをエリスだけが知っている、みんなの全てを…エリスだけが知っている


「お前は他の連中の過去を知っていて、他の連中はお前のことを知らない…、そんな関係でお前ら本当に背中預けられるのか?、本当にシリウスを倒せるのか?、お前らそれで本当にいいのか?」


「…………」


「これはお前らが選ぶ関係だ、別にお前らがどこの誰と組もうがオレ様は知ったこっちゃねぇけどよ、…けどもしオレ様だったら…、こっちの事は全部知っておきながら手前の事は喋らない、そんな風にオレ様のことを信用してくれないやつと組むのなんざまっぴらだな」


ラグナ達を信用していない?そんな事はない、多分エリスが師匠と同じくらい…この世で一番信用しているのはラグナ達だ、間違いない…けど、それでもエリスはラグナ達に話していないことがある、ラグナ達の全てを知っておきながらラグナ達はエリスの全てを知らない


そんな歪な関係で、シリウスを前にして背中を預けられるか?これからずっと一緒に何事もなく友達としてやっていけるか?


…エリスは、そうは思わない


「結構だ!、エリスが話したくないことを最もらしい理由つけて話させるよりかはマシだろ!」


「テメェ…ラグナ!、誰に口聞いてんだオイ」


「世話焼きな師範にだよ…!、弟子の間のことは弟子に任せる、そういう方針じゃないのかよ」


「そりゃそうだがお前らそれでいいのかよ、友達が抱えてる物に気がつくことも出来ずのほほんと生きて、取り返しがつかないところまで行って漸く気がつく…、この辛さは半端じゃあねぇぞ?」


「でも…でも!」


ラグナは噛み付く、己の師範に噛み付く、みんなも何も言えずどうしていいかわからないとばかりに顔を歪めている、全て…全てエリスのために起こっている出来事だ、或いはラグナか他のみんなもエリスの過去について思うところがあるのかもしれないが


それでもみんな、黙って待ってくれていたんじゃないのか?エリスならいつか話してくれると…


それは、エリスへの信頼…なんじゃないのかな


なら、エリスもまた信頼で答えるべきだろう


「俺は!」


「ラグナ!もういいです!大丈夫です!、…エリスが間違っていました、アルクトゥルス様の言う通りです」


「ッ…お前は!」


ラグナの興奮した目がこちらを見る、一瞬その視線に満ちた怒りに戸惑い肩を揺らすも…ラグナもそれに気がつき、戸惑うように視線を外しエリスの肩に手を当てると


「お前が話なかったってことは、相当なんだろ…!」


「…いえ、ただエリスはエリスの過去を言うことでみんなとの関係に変化があるんじゃないかって、そう恐れていただけです」


「変わる?そんなわけないだろ」


あ…はは、即答か…詳しい話も何も聞かずそう言い切れるのはすごいな


「ですよね、それが分かったから…だから聞いてくれますか?エリスがこの家に来る前のこと」


「ッ…!」


言おう、いつまでも過去に蓋をしてちゃいけない、ここまでついてきてくれた仲間達になら言うべきだ…エリスの過去を


エリスが過去を話す決意を決めればみんな真剣な面持ちで一瞬目と目を合わせるも…


「わかった、なら聞こう 君の過去を」


「あんま無理すんなよ」


「けど、何があっても僕達は僕達のままですよ」


「ええ、絶対誰にも言いません、私の口の硬さは凄いので」


「ん…聞くよ」


「みんな…、ありがとうございます」


エリスはなんと恵まれているんでしょうね、こんな人達と出会えて友達になれるなんて…、あの頃のわたしに教えてあげたいよ


貴方が恐れていた窓の外には、こんな素晴らしい人達が待っていると…


「……もったいぶるような話ではないのですが、エリスは昔…」


意を決する、今までひた隠しにして来たその過去を…エリス自身見ないようにしていた過去に、決着をつけるように…首を振って迷いを振り払い、拳を握って迷いを握り潰し、ただただ仲間達を信じて…エリスは



「エリスは昔、奴隷でした…奴隷と飼い主の間に生まれた、生まれながらにしての名無しの奴隷…それがエリスでした」



一度口を開いて仕舞えば、後はもう何も必要なかった…まるで堰を切ったようエリスの口からは言葉が溢れ出てくる、まるで誰かに受け止めてもらうのを待っていたかのようにコロコロと飛び出る言葉の数々、それはエリスの期待通り全てみんなの真剣極まる顔に受け止められる


奴隷として生きた日々、理不尽に暴力を振るわれ毎日全てに怯えて生きて来た日々、暗く冷たい牢屋のような部屋が当時の己の世界の全てであった事を


父には恨まれ、母には捨てられ、独りぼっちで過ごした無力な幼少期は辛く苦しい毎日だった、けど世界で一番自分が不幸だとは言わない、エリスはエリスより苦しい幼少期を過ごした人を知っているしきっとその人よりも辛い日々を過ごした人はいるだろう


けれど、それでもあの日々がエリスの中で濁って固まり沈殿しているのは確かなのだ、深く突き刺さり憎しみという膿を出し続けているのは確かなのだ


そんな黒い部分を垂れ流すように、恨み言のように告白する…告白し続ける


そして


「そうしてエリスは師匠と出会ったんです、父から名も与えられず 母からは見捨てられ、独りだったエリスは師匠と出会ってエリスになれたのです、そこからはまぁ皆さんの知っての通り山賊と戦ったり偽物の魔女と戦ったりの修羅の道…」


「ぅ…ううう!!!」


「え?」


話が終わり一番最初に動き出したのは他でもないメルクさんだ、何故か銃を片手に持ち…


『撃たれる!?』、そう一瞬思ってしまった、よくも嘘をついていたなと…よくも騙したなと、何故かそう思い身構えるが


「許せん!なんだその身勝手な話は!、父から虐待だと!?母はお前を捨てて逃げただと!?、許せん…あまりに許せん!、エリス!両親は今どこにいる!成敗してやる!!」


「いやだから二人とももう死んじゃってて…」


「酷い話だぜ、生んでおいて…生ませておいて、そりゃないな」


「そうです!酷いです!、僕てっきり何処かの役者さんの娘さんかと思ったら…そんな酷い過去が…」


「人に歴史あり、よくぞ乗り越えてここまで生きてくださいましたねエリス様、理不尽に与えられる暴力の恐ろしさは分かるつもりでございます」


「エリス…ギュッしてあげたい……」


怒ってくれる エリスのために、よく耐えたと讃えてくれる エリスのために、エリスの過去を知って奴隷だったという過去を知っても、誰も見方を変えやしない…


「みんな…、な なんだか…バカみたいですねエリス、奴隷だって言ったら…みんなからの扱いが、変わるような気がしてたんですけど…」


「言ったろ、そんなわけはない、エリスはエリスだ…俺たちのよく知る孤独の魔女の弟子エリスだ、そこに何の変わりはないだろ?」


「それは…そうなんですけど」


「むしろ嬉しく思うぞエリス、我々は今本当に意味で君と共になれた気がするのだ、君は不服かもしれないが…私は嬉しいぞ」


「互いに互いよぉ、隠すところなくなっていいじゃねぇか」


「みんな…ありがとうございます」


杞憂だった、いや何処かではわかってた、みんながエリスを見る目を変えることはない、ここにいるみんなと仲良くなったのはエリスだ 奴隷だったわたしではない、エリスがそれを切り分けている以上みんなが変わることはない…エリスが変わらないようにみんなもまた変わらないのだ


「ふふ…なんだか話したらスッキリしました、ようやく長い長い過去の記憶と決着をつけられた気分です…ここにみんなで来られてよかった」


「僕たちも聞けてよかったです、エリスさんの話」


「で、ございますね…しかし、奴隷ですか…エリス様のお父様は貴族という事でございますよね」


「ええ、そうです…タクス・クスピディータっていうみたいですよ」


一応エリスの父ハルジオンの姓がそれだ、だからエリスは本当ならエリス・タクス・クスピディータと名乗るべきたのだろうな、まぁ名乗らないが?そもそも嫌いな父の姓だし それにあの反魔女を掲げたオルクスの家でもある、そんな奴らの一員になんかならない


「タクス・クスピディータだと?、かつてアジメクで一勢力を率いたと言われるあの大貴族のか?」


「知ってんのかよメルク、凄いのか?その貴族って」


「凄いも何も魔女様と魔術導皇に次ぐ地位を数百年維持し続けた老獪なる大貴族だ、アリスタルコス程ではないがその規模と歴史はカストリアでも随一だ、もしデルセクトにいたなら五大王族の一員になっていたかもな」


「そ そんなに凄い人なんですね、エリスさんって」


「やめてください…、エリスは貴族として扱われるつもりもありませんし今更タクス・クスピディータに戻るつもりはないです、…エリスを不当に傷つけ続けたあいつらと一緒になんか…なりません」


「そうか…、だがタクス・クスピディータは以前の反乱の際皆死んでいる、…もしそれが知られればかつてのオルクス派の人間達がエリスを担ぎ上げようとするだろうな」


む、それは確かにそうだな、オルクスが死んでもその求心力や派閥は死んだわけじゃない、未だにオルクス派を名乗る貴族がいるかもしれない…となれば、またかつてのオルクス派の勢いを取り戻す為に唯一の正統なる血族であるエリスを担ぎ上げるのも頷ける


「嫌ですね、そうなったら」


「だがエリス、逆に考えれば お前にはアジメクの反魔女的風潮を消し去る事ができる立ち位置と力を得ることが出来るかもしれないんだぞ?」


「どういう意味ですか?」


「そのままの意味だ、お前がタクス・クスピディータの地位に座れば反魔女を内心で燻らせている一派を率いることができる、オルクスの力は他国にも及ぶからもしかしたら世界中の反魔女を掲げる貴族王族がお前を頼るやもしれない、それを骨抜きにする事が出来るはそういう地位に座る人間だけではないだろうか」


「…それもそうですね」


案外旅が終わったらタクス・クスピディータに戻ってそういう魔女に反する存在の頭抑えて生きるのもいいかもしれない、けどどうしてもなぁ…エリスの名前のお尻にタクス・クスピディータがくっつくのは嫌だなぁ


「嫌そうだな」


「まぁ…」


「飽くまで道の一つ…という話だ、ここにいる人間が外部にエリスの素性を漏らさなければタクス・クスピディータは死んだままなのだから好きにすればいいさ、ただ覚えていて欲しいのは我々は君がどんな道を歩んでも全力で支援する…という事だ」


「そうだな、後ろ盾も支援もなんでもするからさ」


飽くまで道は自由、過去に縛られる必要はなく前だけを見ていればいい、その為ならば力を貸してくれるとみんなは言ってくれるのだ、もし貴族としてやっていくならエリスは一気に魔術導皇 アルクカース大王 同盟首長の後ろ盾を得ることになるだろう


コルスコルピの王であるイオさんとエトワールの次期女王たるヘレナさんとも知り合いだし、その権威は莫大なものになるだろうな…、けどやっぱり貴族は無いかな…エリスには似合わない


「ありがとうございます皆さん、まぁその辺も含めて考えます…今はまず目の前の事を片付けないと」


「だな、エリスの過去を知れたんだ…今まで以上に俺達は一つになれた、ならシリウスにだって負けないだろ」


「ですね、ふぅ…色々語って疲れちゃいましたよ」


まさかここにきて過去と決着をつけるとは思っても見なかったな、でもよかった…無理にでもこの家に戻ってきて…


そう一休みする為エリスは側においてある椅子に腰をかけ…


「お?」


刹那、椅子の足がべきりと折れ、そのままエリスの体が地面に投げ出され頭を床に叩きつけた瞬間床が抜け穴が開いてしまう


「あいたー!」


「エリス…大丈夫!?」


そんなエリスを心配して真っ先に動いたのはネレイドさんだ、この中で唯一入り口を潜れず外で待機していた彼女は咄嗟に中に入ろうと身を縮めるが


「いた…!?」


入ろうとするもネレイドさんのサイズに耐えきれずドアの外枠に頭をぶつけてしまう、と同時にドアの枠がボキッと折れ 家全体が揺れ


「あ…!?」


その揺れに耐えられずメルクさんが尻餅をつき、そのままメルクさんのお尻によって床に穴が…


「テメェら!家壊すな!」


「し 師範!この家かなり劣化してますよ!、早く出ましょう!、エリス!立てるか!」


「うう…頭いたぁい…」


「くっ、わ 私の尻で…穴が、こんなに大きい事ないよな?私の尻、なぁアマルト、大きくないよな私の尻は」


「俺に聞くな!答えづらい!」


「うぅ…頭痛い、ごめんみんな…私がおっきいから…、ちっちゃくなりたい」


「ネレイドさんは悪くありませんよ…!」


「兎も角今は脱出しましょう、また誰かがコケたら今度こそ家が倒壊しそうです、私が時界門を用意しますのでそちらに!」


このままじゃ家が壊れてしまう、そう悟ると同時に慌ててみんなで時界門を潜り抜け、メグさんに導かれるままエリスの家を後にする


しっちゃかめっちゃかにしちゃったから師匠が戻ったら家を修理しないとな…うん、師匠が戻ったらまたここに戻ってこよう


そう誓いエリスはまた家を後にする、また戻って来るために家を出る、家とはきっとそういうものだから


……………………………………………………………………


所代わり月夜に照らされる白亜の城、今日の業務を終え段々と静けさを取り戻しつつあるこの城は今…


「アリナの奴戻ってきませんねぇ」


苛立ちの貧乏揺すりが玉座の間に響き渡る、先程出て行ったアリナがいつまで経っても戻ってこない、そりゃあそうだろう アリナは今エリスちゃんの所に向かったのだから


「まぁまぁクレアさん、きっと大丈夫だよ」


そう貧乏揺すりを見せるクレアを嗜めるデティは別段のエリスの心配をしているわけではない


デティが認め若くして宮廷魔術師団に任命したアリナは確かに凄まじい実力を持つ、それこそこのアジメクで一番の魔術師だ、魔術戦を行えばフアラビオラさんに勝るほどの実力者…けど、それでもきっとエリスちゃんには敵わない


エリスちゃんは確かに強いがそれ以上に経験があまりに豊富だ、実戦を知らないアリナちゃんではエリスちゃんに手も足も出ないだろう、きっと戦いは一方的な物になるはずだとデティは予測する


その上で見るのはアリナちゃんがエリスちゃんへの偏見を解いて良好な関係を築く事、アリナちゃんも良き理解者と指導者を得ればきっと強くなる…そしてそれはエリスちゃんを置いて他にいない


本当は私がその役目を担おうかと思ったんだけど、私も実戦の経験があるわけじゃないからね、それにあれはもう実力行使で叩きのめさないと聞く耳を持たない…私が直々にぶちのめしたらそれはそれで問題だしねぇ


「けどいいんですか?デティフローア様、これ…形だけ見ればデティフローア様がエリスちゃんに刺客を放ったことになりますけど」


「そこはそれで謝るつもりだよ、エリスちゃんはきっと分かってくれる…私達そんなに浅い関係じゃないから」


伊達に今までずっと文通してきた仲じゃない、エリスちゃんならきっと許してくれるという甘えにも似た信頼があるし、多分エリスちゃんも私の思考を読んでそういう風に動いてくれると思う、だから大丈夫だ


「んふふ、流石は我が王…エリス殿の動きを読んでそれさえも利用するとは」


「利用じゃないよ、デズモンド…私とエリスちゃんはそういう関係なだけ、言っておくけど貴方がエリスちゃんに何かしたら許さないからね」


「そうよデズモンド、エリスちゃんはデティフローア様の命の恩人で親友なの、それに大偉業を成し遂げた英雄でもあるの、それ相応の扱いをしなさい」


「はい、畏まりました 団長」


そう恭しく礼をするデズモンドは内心思う、『エリスの存在はやや危険である』と…


彼なりに今日一日でエリスの情報収集は済ませてたが…、やはりエリスという人間の逸話はどれも信じ難いものばかりだ


アルクカースの継承戦で多大な戦果を出したりデルセクトの腐敗を取り除いたり、ヴィスペルティリオを襲った魔獣の大群を退けたりエトワールでは姫騎士ヘレナを守り、帝国では驚くべきことに帝国の軍団を相手に戦って見せたりもした


これがたった一人の人間が成し遂げたという事実に心底震える、もしエリスがこのアジメクで権力を求めたらどうなる?、その後ろ盾の多大さと本人の実力も相まって誰も止められないのではないか?


ともすれば魔術導皇の座さえ危ぶまれる程の大人物がこれからここを訪れる…、そこにデズモンドは言い知れない恐怖を感じる、最近軍に加入した新兵達も恐れている


皆 エリスという存在を怖がっているのだ、歓迎ムードは魔術導皇と騎士団長の二名からしか出ていない


あんまりにも大きすぎるのだ、エリスと言う人間は今のアジメクにとって


「まぁ、何はともあれアリナは戻ってきたら折檻だけどね」


やることは決まってるとばかりに騎士団長クレアが甲冑を鳴らして退室しようとしたその瞬間であった


目の前にある重厚な扉が押し開かれ、中から複数の騎士達がやってくる…というより押し入ってくる、彼らは


「デティフローア様!、エリスが帰還するって本当ですか!」


「おや、これはメリディア近衛師団長殿 随分とお耳が早い」


そうだった、エリスを歓迎するのはこの二人だけじゃない、こいつらがいたとデズモンドは辟易する


そう、部屋に入ってきたのは近衛師団の団員達、いや 黄金世代の面々だ


「本当にエリスが…!」


入って来たのは黒髪褐色の女騎士、紅銀の鎧を身に纏い腰に細剣を差したまま声を張り上げる近衛師団の団長、メリディア・フリージア


「さっきルーカスから聞きました、エリスが帰還すると…」


聳え立つ山のように巨体と威厳溢れる顔立ち…悪く言えば老けて見える彼もまたメリディア同様黄金世代の一人、導国軍大隊長クライヴ・カサブランカ


その両名を代表とする黄金世代…つまり、ムルク村出身の若手達が続々と集まるのだ、今アジメク導国軍の主力を担う彼等が一堂に会しデティフローア様に謁見を行う


しかし


「おうアンタら、何トイレみたいに駆け込んでんのよ、ここがどこだか理解してんの?」


「げっ!?クレア団長」


それを許さないのがクレア団長だ、彼女自身とても導皇を敬っているようには見えないがそれでも部下達には徹底した導皇への忠誠を求める


確かにノックもなく事前の声掛けもなくいきなり入っていい場所ではないのだ


「一応組織に属するモンなら上の人間の仕事場に土足で上がり込んでいいわけがないでしょう、ほらやり直せよ最初から…!」


「いーからクレアさん!今はいいから!」


「…デティフローア様が言うなら許す、次やったら私が許さない、分かった?メリディア」


「は…はい、すみません団長」


一応ルーカスに次ぐ実力を持つはずの黄金世代筆頭のメリディアもクレア団長には流石に頭が上がらない、と言うかみんな理解しているのだ…クレア団長の『殺すぞ』は脅しではなく忠告だと言うことを


「それで?、どうしたのメリディア」


「はっ!、実はエリスが帰還すると聞きましてその真偽を確認しに参りました!、エリスは…我々と同郷ですので」


「そういえばみんなはエリスちゃんを追いかけて皇都に来たんだったよね」


「はい、ですが我等が皇都に来た時既にエリスは…」


メリディアはやや俯く、そうだ ここにいるムルク村出身者達は皆エリスを追いかけて来た、あの日山賊から助けてくれたエリスの姿に憧れを見たから己もまた彼女に並び立てるようになる為に、皆が皆必死に訓練を繰り返し皇都に向かったエリスを追いかけたのだ


しかし、いざ皆が皇都に辿り着いて見ればエリスはとっくの昔にアジメクを経っており 影すらも踏めぬまま今日まで生きて来たのだ、それがようやく再会の時に恵まれた…ならば、そう集まったのが彼女達なのだ


「エリスちゃんは今皇都に向かって来ているとの報告をもらってる、慌てずとも直ぐにここへやってくると思うよ」


「そうですか…、分かりました、ありがとうございます」


「……?」


ただ、そう答えをもらったにもかかわらずメリディアの顔に喜びはない、寧ろグッと唇をかみしめるような真剣な表情でメラメラと魔力を燃え上がらせている


デティは悟る、メリディア達の体から溢れる魔力が喜びのそれではないことを、おいおいまさかこの子達もアリナ達みたいにエリスちゃんに良からぬことを考えているんじゃ…と思いもしたが、よくよく感じて見れば悪感情はない、寧ろこれは


(恐れ?…エリスを怖がっている?)


まるで何かに怯えように全身の毛を逆立てる猫が如く魔力を隆起させるメリディアを見て首をかしげる、エリスちゃん…この子達に何したの?


思い浮かぶのは激怒してメリディア達をなぎ倒す小さなエリスちゃんの姿、エリスちゃんは優しいがキレると何するかわからないタイプだ、メリディア達を過去にぶちのめしたと言うのなら説得力もある…、この子達の昔の関係とかは知らないが…聞かないほうがよさそうだ


「では、失礼します」


「うん、取り敢えず今日は……」


そうして、メリディア達とデティフローアの面会はここで終わる






筈だった


「この国の政治の中枢がこれか?、まるで近所の公園のようにガキ臭いのう」


……………………………………………………………………


刹那、響いた文言に謁見の間が凍りつく、突如としてメリディア達の背後から聞きなれぬ声が響いたのだ


まさか侵入者…と全員が警戒する中、最も早く振り向いたのはメリディアであった、彼女は要人警護のプロフェッショナルである近衛師団の団長、故に導皇を前にして最も先に敵に食いつかねばならないのは彼女なのだ


驚くべき速度で腰の剣に手をかけ振り向いた彼女は、その声の主を顔を見て


「え……!?」


思わず手を止めた、ムルク村出身者達の群れの奥に立っていたその女に見覚えがあったから、黒い髪と赤い目…偽物の魔女とそっくりでありながらそれとはまるで違う美貌、見たことがある


これは、かつてムルク村にいた…


「賢人様?」


星惑いの森の賢人と呼ばれムルク村に都度都度訪れていた女性…いや違う、この人の本当の名前は


「魔女レグルス様ァッ!!」


叫ぶクレア団長の喜びの絶叫の言う通り、この人は魔女レグルス様だ…エリスの師匠だ、だがメリディアは竦む


(この人、こんな怖い顔する人だったか?)


何か感じる違和感に息を飲む、そもそもの話何故ここに魔女レグルス様がいる?いつのまに我等の背後に立っていた?、というかその冷徹極まる目はなんだとメリディアは怯え竦む…すると


「おう、お前等にゃあ用はない、退け…目ん玉ほじくり出すぞ」


「え…」


脅して来た、退けと…何を言っているのかわからず一瞬聞き返した、その時だった


「退いてメリディア!そいつレグルス様じゃない!」


響くデティフローア様の言葉、それがメリディアが最後に聞いた言葉であった


振り払われたレグルスの腕によりメリディア達は纏めて砂のように舞いあげられ吹き飛ばされ、その意識を刈り取られたのだ


指し示された明確な敵対行動、それはこの謁見の間に衝撃を与える


「魔女レグルス様!?、あ あの…何してんですか!?、そいつ等が不敬なら詫びますがその子達は」


「ああ?、誰じゃお前」


「ッ…!?」


クレアは驚愕する、覚えてもらってない!?…と、だが直ぐに思考を変える


デティフローア様の言った言葉、どうやらそれはその通りらしい


「あ…あんた誰よ!、レグルス様そっくりな顔して!」


「ん?、ああ…まぁなんでも良かろうよ、退け…お前にも用はない」


カツカツと歩き寄ってくるレグルスの前に立ち塞がるクレアは引かない、引かずに剣を抜き相対する


「なんじゃあ?ワシと戦うつもりか?」


「あんたのその口調…、天に現れた幻像と同じね、まさかあんたがシリウス?、随分見た目が違うようだけど」


「勘が良いのう、正解じゃ ワシがシリウスじゃ、さぁ満足じゃろ退け…退かんかい!!!」


「ッッ!!!」


クレアさえも退けようと放たれるレグルス…いやシリウスの重撃の振り下ろし、それは違う事なく魔女の一撃、人では到底及ばぬ威力を持つそれが一切の躊躇なくクレアの頭に振るわれ


「ちぇぇぇりおっっ!!」


「のっ!?」


弾かれた、魔女の剛力で放たれたシリウスの拳をクレアの黒剣が弾いたのだ


「おぉ、やるのう…」


「あんたの顔…すげーやり辛いけど、これでも私騎士団長なのよ、ここから先に通すわけにはいかないわ」


重く剣を構えるクレアにシリウスはほほうと息を吐く、大したものだと


事実クレアの実力は既に人の域に無い、その実力はかつてカストリア四天王と呼ばれたヴェルトを上回っており、第二段階にも到達してみせた立派な強者の一人なのだ


「ふむ、第二段階到達者…それもかなりの練度じゃ、不完全なワシでは些かキツイか?」


「うっさいわ!!!、まず何者か名乗りやがれぇっ!!」


「かははっっ!!」


裂帛の勢いで斬りかかるクレアの斬撃は初速から最高速度に到達する、一撃一撃が必殺の勢いで振るわれるそれをシリウスもまた腕を振り的確に防いで見せる


魔女を相手に攻防をしてみせるクレアを褒めるべきか、ここ十年全ての敵を一撃で片付けて来たクレアの斬撃をここまで防いで見せるシリウスの実力を褒めるべきか、どちらにせよ唐突に始まった二人の激闘は激しい火花を散らす


「ちぇりおっ!」


「こほぉっ!、ええのう!ええ練度じゃ!」


「やかましいわ!、答えないなら 胴体真っ二つにして後悔させてやる!」


クルリと半身を回転させ剣を落とすような勢いで低く構えるクレアの体から溢れるその魔力が、青白い閃光を纏い…


「魔力覚醒ッ!!」


「む…!」


逆流覚醒、その段階に至ったクレアの纏う威圧はその全てが剣先に乗る、これが彼女の覚醒…一撃必殺初手必勝最速最短を選び続けた彼女の姿、その名も


「『神閃のミストルティン』ッ!」


クレアの魔力覚醒、それは他から見てもかなり異質な魔力覚醒である、何せその発動時間はおよそ『一秒』、それ以上の維持も何も出来ず一秒経てば強制的に魔力覚醒が解除される代物なのである


その発動時間の短さを聞いた者は皆が思う、『そんな短さで何が出来る』と…しかし


「これは…!」


シリウスも思わず内心で手を打ってしまう、魔力覚醒の形はその人間様々である事は理解していた、だが彼女も常々考えていたのだ…最強の魔力覚醒とはどんな物かと、その答えを今見せられたようだ


クレアが使ったこの魔力覚醒は、恐らく魔力覚醒という代物の最適解である


「ッッッ────!!!!」


刹那加速するクレアの肉体、…そうだ クレアの魔力覚醒は『一秒しか維持できない』のでは無く『一秒あればそれで事足りる』のだ


余計な維持時間を自ら圧縮し一秒に凝縮することによりその出力限界を大幅に突破し、ただの一撃に全てを乗せ必殺の一撃に変える…


クレアの魔力覚醒は『一撃必殺特化型の魔力覚醒』なのだ


「ちぇりおぉぉおぉぉぉぉ!!!!」


その速度は閃光の魔女プロキオンの一撃に匹敵する光速の殺斬、鎧袖一触を体現するが如く目の前に向け加速するクレアの剣は正確にシリウスの胴を捉えすれ違う


「っっ!!」


「いってぇぇぇのぉ〜〜!」


走る一閃、赤き血飛沫が床にかぶちまけられシリウスの胴体に深々と傷が刻まれる、だが


「チッ、切断しきれなかった!」


「お主やるのう!魔女の防御を抜くとは!」


一秒の制限次回を迎え魔力覚醒を解除すると共に振り向くクレアとシリウス、確かにシリウスを仕留めるまでには行かなかった…しかし


「吐かしなさい、次は首を狙うわ」


「それ連発出来るんか!すげぇのう!、ワシ久々に現世の人間に感心したわ!」


言ってしまえば一秒しか覚醒を維持していないのだ、その消耗は極めて少なく何度でも連発出来るのがこの魔力覚醒の強み、これこそが最適解の魔力覚醒なのだ


クレアの斬撃は魔女の防御も抜いてみせるほどの高威力だ、次首を狙えば殺せるかもしれない…だが、クレアは内心どこかで悟る


(こいつアホ程強い割に防御が疎かだ…何かあるのか?)


なんとなく思うのだ、防御に手を抜いているような気が…、でもそれはそれで好都合…次は決めるとばかりに再び剣を構える


しかし


「じゃが、残念じゃったのう、これが余興でなければもっと楽しめたじゃろうに」


「何ですって…?」


ニタリと笑うシリウスの言葉に刹那手を止めた瞬間、それは巻き起こった


「癒せ…我が手の中の小さな楽園を 、癒せ…我が眼下の王国を、治し 結び 直し 紡ぎ 冷たき傷害を 悪しき苦しみを、全てを遠ざけ永遠の安寧を施そう『命療平癒之極光』」


「えっ!?」


それは聞いたことのある声 詠唱 光、暖かな光がシリウスに差し込み、その胸の傷を瞬く間に癒していくのだ、まるでそれを見せつけるかのようにシリウスはクレアに胸を張り…数秒もかからぬうちにシリウスの体に刻まれた傷が全快する


これは


「嘘でしょ…スピカ様?」


「…………」


スピカ様だ、ヌルリと影から突如として現れるように姿を見せるのは我らが魔女にして姿を消しているはずのスピカ様だ、それが今アジメクの敵対者を癒している


「どういうことですかスピカ様!、そいつ敵ですよ!敵!」


「…………」


「聞いてねぇ〜…」


まるで声が届いていないかのように無視をするスピカの目にクレアは見る、光が無い 意志がない まるで操られているようだ、だがスピカ様程の人が?…でも操られているとしたらこの失踪にも説明が…


「気を抜きすぎじゃ」


「え…」


確かにクレアは気を抜いた、スピカの登場に気を抜いた、その一瞬の隙を縫うようにクレアの眼前に手が現れる


白い手だ、傷一つない綺麗な手が光の粒子と共に現れる、シリウスの手じゃない スピカの手じゃない、これは


「一色を写し 十元を象り 百影を伸す 、移る代わる無限無形の理、其れ則ち『千景空掌』」


「あ……」


その瞬間クレアの眼に映るは千の情景、脳が処理しきれないほどの膨大な情報量、それは瞬く間にクレアの目を覆い…意識を飛ばす


「ようやったリゲル、スピカ」


「はい、師よ」


「貴方の御心のままに」


倒れ伏すクレアを見下ろすシリウスを挟むように立つ二人の魔女、操られ手駒とされたスピカとリゲルの二人である、魔女二人を戦力として携え シリウスは再びデティフローアを見る、最早デティフローアを守る戦力はなくなった


「くっ…」


「おっと!そこの人相の悪い男!、余計なことをするでないぞ?、安心せえ…殺しはせん」


咄嗟に懐に手を伸ばすデズモンドの肩を魔術にて射抜くシリウスは言う、何もするなと


「ぐぅっ!」


「…………」


「ワシはこいつと話しに来ただけじゃ、のう?魔術導皇」


膝をつくデズモンドに一切の反応を見せず、ただただ立ち尽くすデティフローアへと歩み寄るシリウスは下卑た笑みのまま玉座に近寄る


「この状況で声一つあげないとは流石は魔術導皇、ゲネトリクス・クリサンセマムの子孫…と言ったところか?」


「………………」


「それとも怯えて声も出せんか?、ぬはは!それもええじゃろう、恐ろしい物を恐ろしいと認識出来るのは慧眼よ、恥じる物ではない」


デティフローアは何も言わない、ただただ静かにシリウスを睨む…見つめる、その目を見てシリウスは瞬く間に顔色を変えて、怒りを見せる


「…なんか言わんかい」


「何をしに来た、シリウス」


「……は?、何ってちょいと確認じゃよ?、ワシの肉体がどこにあるかのな…後ついでにお前ちょっとしたらちょっかいをかけに来ただけじゃが?」


「…………」


「全く会話が出来ん奴じゃのう、さっきからなんじゃその目は…その…目…は……」


シリウスが眉を顰める、今日は挨拶と共にここにいるゲネトリクスの子孫 デティフローアに少し細工をしようとこの城を訪れたのだ、だがその際予測されたどの反応とも違う物が返ってきてやや困惑する


瞳がおかしいのだ、シリウスから見てデティフローアの瞳がおかしく見えるんだ、どのようにおかしいかと聞かれれば言語化は出来ない、ただ言語化出来ないことがおかしいのだ


「お前、なんじゃ?その目は」


「…………」


「なんじゃ…分からん、分からんぞ…ありえん、こんな事はありえんはずだ」


思わず顔に手を当てシリウスは困惑する、予測していた出来事とはあまりにかけ離れているからだ、デティフローアと顔を合わせて 奴がワシを警戒して、ワシはそれを嘲笑い…そんなやりとりを想定していたし、事実シリウスの中に形成されているデティフローアの疑似人格はそのように動くと演算出来た


だというのに、デティフローアはただただジッとこちらを見つめている、その誤差の正体にシリウスはまるで見当がつかないのだ


「誰じゃ…お前は」


「誰に見える」


「誰って…」


少なくともこの瞬間はデティフローアには見えない、いや…そもそも、こいつは…『この世の者』なのか?


「まさか貴様も特異点か?、いやこんなにも近くに二人も特異点が生まれるわけがないし…そもそも特異点同士が結託する事はありえない、ならなんじゃ…」


シリウスは思わず頭を抱える、目の前の存在が持つ未知に目を惹かれ必死に考えてしまう、だが世の道理さえも知り得るシリウスの知識を持ってしても該当事象が見当たらない


だってそうだろう、デティフローアという人間の瞳が突如として別のものに変わるなんて事はありえない!二重人格?…違うありえない、デティフローアの中に二つも人格があるような情報はない


…まさか


「まさか、お主…異界からの転生者か…?」


「………………」


稀にいる、この世ではない別の世界の記憶を持って生まれる存在が、…よもやデティフローアは転生者?


……違う、転生者は数千年に一度しか生まれない所謂『誤ち』だ、余程のことがない限り修正力によって消されるし、何よりスピカがそれに気がつかないはずがない


デティフローアは転生者でも特異点でもない、なら…


「ッ…!、そうか…!」


思い出した、一度だけ此奴と同じ目をした者に会ったことがある!、そうじゃよこいつは転生者でも特異点でもない、もっと乱雑かつ…許されぬ存在!


「そうかそうか!お前は…ぬははははは!、そうか!」


「…………」


「お前の瞳の理由が分かったぞ、何をしにここにやって来た?」


「分からないのか…!、私が何故ここにいるかを!」


「ハッ!是が非でもワシを止めたいか!、涙ぐましいのう〜!」


「お前の所為で…なにもかもメチャクチャになったんだ…、当たり前だろう」


クククそうかそうか、良いことを聞いた…俄然やる気が出てきたぞ


「良い気概じゃ!ワシはお前をいたく気に入った!、どうじゃ!?ワシの配下に…新たなる羅睺十悪星にならぬか!、お前と同様の現象を見た者をワシは見たことがある!、故にお前のそれをワシは信じよう!どうじゃ!?クリサンセマム!」


「吐かせ…!、私は!」


笑うシリウスとそれを殺そうとする魔術導皇の怒りの叫び、二人の意思が石室に木霊した瞬間…


「何事ですか!デティフローア様!」


「ぬ?…」


騒ぎを聞きつけ続々と兵士や騎士が室内に殺到してくるのだ…、此奴らをぶちのめすのは容易いが…ここは、そうシリウスは目を伏せ


「ええモン見せてもらったお礼にここは引いてやろうクリサンセマム、序でに『ソレ』についても黙っていてやる、他言はせんから安心せえ…じゃからワシの配下になる件を考えておけ、ワシはお前が思っている以上に本気じゃぞ」


「…………」


「いい返事待っておる、なぁに ワシは不滅じゃ、いつまでも待っておる、如何なる時でもな、というわけで引くぞい!リゲル!スピカ!」


「はい」


「我が師よ」


迫る軍勢を前にここは一旦引くと言い切ったシリウスは城の天井をぶち破り魔女二人を引き連れ夜空の彼方へと消えていく、何もせず…ただデティフローアの瞳を見て消えていった


その理解不能な現象を前にして困惑するのはデズモンドだ、何が起きたんだと傷口を抑え魔術導皇の顔を見る


シリウスはデティフローアの眼に何かを見た、デズモンド達でさえ与り知らぬ何かを見た、一体何をしてあの恐ろしい魔女を追い払ったというのか


「…我が王よ、貴方は何を…」


「…………」


デズモンドの呼びかけに、デティフローアは静かに振り向くと…


「あれ!?、シリウスは!?ってかあれ!?、私さっきまで何してたの?」


「ッ……!」


まるで何も知らないとばかりに狼狽する魔術導皇を見てデズモンドの神経が凍る


(演技か?いや演技をする意味がない…なら本当に分からないのか、つまり今のアレを知るのは、私だけ…?)


「何が起きたんだろう…」


魔術導皇デティフローアが刹那の間だけ見せた異様な空気、それを知るのはデズモンドだけ…その事実に彼は震える、もしかしたら私は…見てはいけないものを見てしまったのではないか…と


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