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288.対決 エリスVS夢見の魔女リゲル


「フゥーッ!、体ん中で魔力高めて…一丁前に魔術師のつもりか、生意気晒してんじゃねぇぞ!クソガキィッ!」


「れ れれれ、レオナヒルド!?!?」


アジメクの中央都市皇都に存在するハルジオン邸にて吠え立てる猛獣のような女 レオナヒルドの視線を受けてエリスは思わずたじろぐ…どう言う事なんだと


さっきまでオライオンに居たのに、リゲル様の魔術を受けたらこれだ…十中八九リゲル様が見せている幻影だと言うことは予測出来るか、が予測は出来ても理解が出来ない…あまりにも質感がリアル過ぎて、まるでタイムスリップしてしまったかのような感覚さえ覚える


「この野郎ぉ…、テメェの所為で私の人生めちゃくちゃだ、テメェだけはぶっ殺さなきゃ気が済まねぇんだよ」


「…………?」


目の前のレオナヒルドを無視して周囲を観察する、此処は間違いなくハルジオン邸でありレオナヒルドと決着をつけた時の物だ、そこに寸分の違いも無いが…唯一決定的な違いがあるとするなら


(エリス達以外誰もいない)


そうだ、あの時エリスはこの場に一人じゃなかった…、レオナヒルドを助けようとするバルトフリートとそれと戦うクレアさんと致命傷を受けたナタリアさん、そして何より一緒に戦ってくれたデティもいた…のに


今この場にはエリスとレオナヒルドの二人しかいない、記憶の中にある景色にそっくりであるにも関わらず、存在する明確な差異にちょっと混乱する…どう言う事なんだ


『ふふふ、どうですか?レグルスの弟子…、私の見せる夢 貴方が見る夢は』


「っ!、この声は…!」


リゲル様だ、リゲル様の声が聞こえる…、けど聞こえるだけでどこにもその姿はない


『探しても無駄です、私は現実世界に居て 貴方がその夢世界にいる以上私には決して手出しは出来ません』


「夢世界?、この異常な空間のことですか?」


『ええ、夢とは記憶により形成される 幼い頃の記憶や過ぎ去った記憶などを基にね?、故に私の幻にて貴方に夢を見せたのです、貴方の記憶の中にある『強敵や難敵』を幻影として投射しそれを基盤に景色も作り出した…懐かしいでしょう?』


「懐かしいと言うか、もう見たくない顔ですよこれは」


なるほど、やはりこれはリゲル様が生み出した幻の世界だったか、でも感覚的に視覚を歪められているって感じはしない、となるとリゲル様の言う通りこれは幻ではなく夢…つまり、此処はエリスの意識的な世界ということになるのだろうか、よく分からないが自己解釈するならそうなるな


『貴方にはこれより貴方自身の記憶と戦って頂きます、幸い貴方はとても記憶力がいいようなので…その頭の中を探れば幾らでも敵や戦場を投射出来そうです』


「え…エリスを、此処から出してください」


『ダメです、…貴方には此処で死んでいただきます、それがシリウス様の目的ですので、さぁ…始めましょう、貴方の死闘の再演を』


その言葉に従いレオナヒルドの瞳が赤く輝く、やるって…今からレオナヒルドとやるのか?、と言ってもエリス こいつに一人で勝てた試しがないんだよなぁ、あの時はデティの助けがあったからなんとか勝てたわけで…


「クソガキィッ!ぶっ殺してやる!『フレイムタービュランス』!」


「うわっ!本当に撃ってきた!懐かしい!」


フレイムタービュランス、レオナヒルドの得意魔術だ、炎の竜巻を起こし無数の火矢を放つ上位魔術、今にして思えばこんな危険な魔術を平気で子供に向けて撃つなんてレオナヒルドは相当キマってたとしか言えまい


というか!


「熱い!夢なのに!」


クルリとその場で側転を行い迫る火矢を避けているとその内の一発がエリスの皮膚を掠めるのだ、そこから通じる痛みは間違いなく現実のもの、おかしいな これが夢なら痛くないはずなのに…!


『当たり前でしょう、夢とはいえ私の攻撃なんですから…、そこにいる幻影は同じく意識だけになった貴方を的確に傷つけます、夢と侮ってもし殺されるようなことがあれば、当然現実でも死にますよ』


「えぇっ!、じゃあ命の危機じゃないですか!」


「テメェ!クソガキィッ!さっきから誰と話してんだよ!」


「少なくとも貴方とじゃありませんよ!」


ギャーギャー吠え立てるレオナヒルドをもう一度見据える、まぁなんのかんの言ったがとどのつまり、此処は夢の世界ではあるものの エリスにとっては現実と変わりない、これは相変わらず死闘なのだろう


だったら殺されない為に出来ることは一つだけ、相手を叩きのめすことだけなんだ…、実にシンプル!いつもやってることとなんにも変わらない!


「死ねクソガキ!、テメェの首引き千切って路地に晒してやるよォッ!『ヒートファランクス』!」


「死にませんよ!、後一つ言わせてくださいレオナヒルド!」


レオナヒルドが放つヒートファランクス、熱の衝撃波を放つの魔術を前に耐熱性に優れたエリスのコートを脱ぎ盾にすると共に勢いよく突っ込み引き千切るように突破し…


「んなっ!?私の魔術が…!?」


「エリスはもうガキって歳じゃありませんよッ !!」


「げぶがぁっ!?」


そのまま踏み込み カチ上げるような軌道で拳を飛ばしレオナヒルドの顎を撥ね上げる、あれからどれだけ経ったと思っているんだ、あれからどれだけ強くなったと思ってるんだ、エリスはもうあの頃の弱い己ではないのだ


「ぐっ!このォッ!『グリッターブリッツ』!」


「当たりませんよ、そんな単調な魔術」


首を傾ける、殴り返すように光弾を放つレオナヒルドの魔術を首を傾け回避する、なんて分かりやすい攻撃なんだ…、昔のエリスはどうしてこんな分かりやすい攻撃が避けられなかったんだ?


「フンッ!」


「ゲェッ!?、な…なんだ…急に強くなりやがった…なんで、どうして」


「なるほど、貴方にとってエリスはあの砦で止まっているんですね」


どういう事かは分からないが、レオナヒルドにとってのエリスはあの砦で一方的やられた頃で止まっているようだ、どう見ても大人になっているはずのエリスを見てもクソガキ なんていう辺り、彼女の目には未だエリスがあの頃の小さなエリスに映ってるんだろうな


そりゃあ驚きもするか、何せ戦闘経験のなかった小さな子供がいきなり百戦錬磨の魔術師に変わったのだから…


「貴方には苦労させられましたが、今となっては他愛もないですね…」


レオナヒルドは強敵だったが、今こうしてみれば大した人物ではなかった事がわかる、確かに彼女の魔術の才能は歴たるものだ、されどその才能を自分で腐らせ磨くこともせずただ己が他者を見下せる地位に立ち続けた彼女よりも凄くて強い人はこの世界には山ほどいた


彼女は普通の魔術師よりちょっと強いくらい、そして普通の魔術師よりちょっと強いくらいじゃあ今のエリスには勝てませんよ


「ハァッ!」


「げがぁっ!?…ぁ…が、なん…じゃ…そりゃ、おかし…ぃだろ、こんな」


レオナヒルドの後頭部に手を回しそのまま引き付けるように引っ張り叩きつける膝蹴り、それを受けた彼女の顔と鼻が歪み、血を吹きながら倒れていく、当時はあんなにも強かったレオナヒルドがこうも容易く倒れるか


…本当に強くなったんだな、エリスは


「さぁリゲル様!、レオナヒルドは倒しましたよ!、エリスを此処から出してもらいましょう!」


『おや、どうやらその程度では相手にもならないようですね…、では次に行きましょう』


「へ?次?」


次ってなんだ、レオナヒルドに次なんてなかったが…、そう疑問を口にする前に再び世界が歪む、木出てきた屋敷の壁や床が色を変え、床で伸びてるレオナヒルドも光の粒子となって消え、世界が再びリセットされる


「ま まだあるんですか」


徐々に明らかになる世界、今度は木の屋敷ではなく岩の壁と岩の床、差し詰め岩砦とでも言うべき景色へと様変わりする、こんなところアジメクにはなかった…なかったけど、エリスの記憶にはあるぞ


此処は…


「アルクカースのホーフェン砦…」


アルクカースにて行われた王座決定戦…、四人の王子王女が軍を率いて戦ったその決定戦の最終戦の舞台 ホーフェン砦、エリスはここに来たことがある…だから知っている、ここで待つ敵の名を


い…いやいや、いきなりレベル上がりすぎじゃありませんか?、レオナヒルドの次が…


「あれだけボコボコにされても、懲りずに来たか…」


「ヒィ…ベオセルクさん」


アルクカース第三王子 ベオセルク・シャルンホルスト・アルクカース…当時最強の国王候補と呼ばれた男がギラリと敵意に満ちた視線をこちらに向けている


そうだ、ここではベオセルクさんと戦って決着をつけたんだ、そりゃあ当時はなんとか勝てたけど それはラグナが居たからだ、ラグナと一緒に戦って本当になんとかのなんとか勝てたのだ


だが、さっきと同様ここにはエリスとベオセルクさん以外いない、ラグナが居ない エリスは今一人でベオセルクさんと対峙している


嫌だなぁ…エリスこの人に一人で勝った事ないんだよぉ


「ハッ、それがどれだけ無謀で馬鹿馬鹿しい事か…、今教えてやろうか」


「…ここでエリスがどんな風に声をかけても、ベオセルクさんは戦うのをやめないんですよね」


『ふふふ当然、貴方の旅路はとても険しいものだったのですね、だからこそ 私が尖兵として使える駒の数も膨大…一体いつまで耐えられますかね』


くつくつと笑う声が辺りに響く、そうか…エリスは今まで戦った相手のことをどれも克明に記憶している、それが裏目に出たか…、記憶を武器として使ってくる以上 エリスの記憶能力は今マイナスに働く


でも多分記憶能力がなくともエリスはこの戦いのことを忘れないと思いますよ、そのくらい絶望的な戦いでしたからね


「いつまでも睨み合いは好きじゃねぇ…、行くぞ 金髪のガキ!」


「くっ、仕方ない…覚悟決めますか!」


踏み込んでくるベオセルクさん、凄まじい加速でエリスとの距離を詰め放ってくるのは鞭のようにしなる腕と拳、これだ 昔はこれに凄く苦しめられ…


「っと!」


「ッ!?、避けただと!?」


「え!?避けれた!?」


避けれた、鞭のようにしなり下から振るわれた高速のアッパーをエリスは掠りもせず回避することが出来た、よ 避けられる!避けられるぞ!これ!


「ッ …『煌王火招掌』!」


「なっ、がぐっ!?」


そして続けざまに放つ炎雷の拳は的確にベオセルクさんの頬を居抜き、その膝をガクリと折る、昔はさっぱり通じなかったのに…、いや まさか


「どう言う事だこりゃあ、さっき会った時より劇的に強くなってやがる…どう言うタネだ…?」


「ここに来るまで、たくさん修行したので…!」


やはり、このベオセルクさんは『継承戦時のベオセルクさん』なんだ、その後再戦して手も足も出なかった頃のベオセルクさんよりも前、つまり このベオセルクさんはまだ第二段階に至っていないんだ!


(なら行けるか、今のエリスなら…当時のベオセルクさんにも!)


「そんな短期間で強くなれるわけねぇだろうが!」


刹那、起き上がるような姿勢で放たれた拳はエリスの意識と視界の外から打ち込まれ、防御する暇もなくエリスの胸を打ち付ける


「ぐっ、ごはぁっ!?」


「ナメるんじゃねぇよ!」


「ぎっ!?」


打ち上げられた頭に突き刺さる振り下ろし気味の右フック、あまりの衝撃に顎が外れるかと思った…、ダメだなこれ やっぱベオセルクさん相手に殴り合いじゃあ勝てない


思い出せ、エリスはあの時どうやって戦った この人の戦い方はどうだった、ギリギリだろうが二人掛かりだろうがこの人には一回勝っているんだ、やれない事は無いはずだ


「っ『旋風圏跳』!」


「チッ…!」


風の逆噴射によってベオセルクさんの乱打から抜け出ると共に距離を取る、この人はアルクカース人らしくあまり飛び道具とかを使うタイプでは無い、だから距離を取ればいの一番に湧いてくる感情は


「逃げても無駄だ…!」


距離を詰め直そうとする、ああこの人はそうする、常に全身を繰り返し相手を叩きのめすのがベオセルクさんだからだ


だからこそ、エリスはそれを知っていたからこそ、迎え撃つ…後方に向けて飛びながら腕の中に集める魔力を変換する


「光を纏い 覆い尽くせ雷雲、我が手を這いなぞり 眼前の敵へ広がり覆う燎火 追い縋れ影雷!、紅蓮光雷 八天六海 遍満熱撃、その威とその意在る儘に、全てを逃さず 地の果てまで追いすがり怒りの雷を!『真・若雷招』!」


「なっ…」


勢いをつけて地面に拳を叩きつけ放つのは若雷招、網のように張り巡らされた電撃はやがて大地を掌握し溢れ出るように黄金の爆発を発生させる、それはこの室内全域に至るほどの電撃だ、さしものベオセルクさんも対処が遅れる


ついさっき、エリスとラグナを纏めて倒した後の彼ならさぞ面を食らった事だろう、何せ今のエリスはアルクカース時と比べて全ての能力が向上している、当然…魔術の威力もだ


「マジかよッ!、どう言う事だこりゃあ…!、討滅戦士団クラスじゃねぇか…ここまでの実力をさっきまで隠してたって?、妙だろそりゃあ…なんかあるな」


地面から放たれる爆発と電撃の槍衾を空中に飛び跳ねる事で回避している辺り流石はベオセルクさんだ、急に変化したエリスの実力を前に訝しむような顔を見せるも直ぐに…


「まぁいい、そんだけ強いなら遠慮はいらねぇよな」


空中にてベオセルクさんが手に取るのは腰に巻きつけた長い鎖、来た…使ってきた!、ベオセルクさんのメインウェポン、最近なんか使わなくなってた鎖を両手に巻きつけ構えを取るのだ


あれの恐ろしさは理解している、捕まれば今のエリスでも危ないかもしれない!


「『付与魔術・爆撃属性付与』!、吹っ飛べやァッ!」


高速で腕を振り回すベオセルさんに倣い、腕に取り付けられた鎖もまた空を切る、宛ら鉄の嵐 鉛の暴風雨、触れた床や壁を爆撃で吹き飛ばしながら部屋全域に届く大鎖は当然エリスを狙って放たれたものだ


だが


「『旋風圏跳』ッ !」


当たらない、風で加速し 鎖の軌道を見切り間を縫ってベオセルクさんに向けて飛ぶ、以前は見切ることさえ出来なかったそれを今のエリスは見る事が出来る、見て 理解し 避けて 前に進む事が出来る、今までの旅でもっと速いものや恐ろしいものを見てきたから!


そして、その速くて恐ろしい物を見ても果敢に立ち向かうことができたのはこの鎖の嵐を見ていたからだ!


「こいつ!避けてやがる…ッ!?」


「ぅぉおおおおおおおおおお!!!」


上下左右に体を飛ばし鋭角な軌道を残して空中を滑空しベオセルクさんに迫る、トップスピードに乗ったエリスを止める物はもう何も無い、最早鎖もエリスを捉えられない!


「ひび割れ叩き 空を裂き 下される裁き、この手の先に齎される剛天の一撃よ、その一切を許さず与え衝き砕き終わらせよ全てを…『震天 阿良波々岐』!!」


「ッッごはぁっ!?」


食い込むエリスの蹴りと共に放たれる空間振動はベオセルクさんの肉体も内臓も骨も全てを歪ませ破壊する、鋼の肉体を持つベオセルクさんも内部からの破壊には耐えられなかったのか、口から血を噴くと共にその体を光の粒子に変えていく


「くそ…どうなってんだこりゃあ…」


「悪いですね、ベオセルクさん…元の世界に戻ったらまた、やりましょうか!」


勝てた、エリス一人でもベオセルクさんに勝てた!そのあまりの嬉しさにそう口走るが、よくよく考えたらこのベオセルクさんは十年前のベオセルクさんだ、当然今はもっと強くなってる…今度ボコボコにされるのはエリスの方かもな


なんて考えながら着地する頃には既にベオセルクさんは光の粒子になり、完全に虚空に消えている…さて、勝ったが…


『ふむ、中々やりますね…』


リゲル様の声が聞こえる、どうやらまだ続くようだ…


「当たり前です!エリスはこの旅で強くなってきたんです!、過去の敵を出した程度じゃ折れませんよ!」


『そうですか、では次は少し工夫をしましょうか…』


「ッ……!?」


再び、リゲル様の言葉に従い世界が色を変える、エリスを覆ってきた岩の壁や床は光に消え、代わりに新たな景色が滲み出てくる


床は鉄、周りに壁はない…見えるのは夜空と暗い海、立っただけで分かる ここは海の上、海の上に浮かべられた船の上だ、香る潮風と波の音は果てしなく続く…ああ、アルクカースの次はここか


「今度はデルセクトですか」


デルセクトだ、ここはデルセクトの海岸沿いに浮かべられた巨大戦艦ウィッチハントの上、一度来たから分かりますよ


そして、ここで戦った相手もね


「魔女は生きるべきか死ぬべきか、この世界は正しいのか否か…俺とお前で!生き残った方が!それを確かめようぜ!」


「ヘット…」


エリスの前に現れる影、戦車のヘットだ…テンガロンハットを目深に被り監獄の中でも愛用していたコートをはためかせ闇の中から現れる、今度の相手はヘットか…まぁ予想はついてたよ、アジメク アルクカースと来れば次はここデルセクト以外ありえない、それにこの鋼の戦艦はヘットと最後の戦いを繰り広げた決戦の地ですからね、彼が出てくることは容易に想像がつく


ただまぁ、ヘットにはこの間お世話になったばかりではありますがね、そんな彼が今度は敵意を向けている、その事実にエリスはショックを…受けたりとかは特にしてなかった


だってエリスとヘットはどこまで行っても敵同士、こうして向かい合ってるのがエリス達には相応しいんだ


「さぁ、ヘット…やりますか?」


「いいねぇやる気だねぇ、そう来なくちゃ 俺達もやりがいがねぇ」


「フッ、ですがエリスを貴方の知るエリスと同じと思わない方が……え?」


今、なんて行った?、俺『達』もやりがいがねぇ?、何言ってるんだここにはエリス達以外の人間は居ないはずだ、ヘットはここに至るまでに組織を失いエリスもメルクさん達を置いてきたからここでは一騎打ちを演じた筈…なのに


なのに、何故だ 何故ヘットの背後に人影があるんだ


「はははは、誰に逆らったかを私達で教えてやろうぜぇ?、なぁ!」


「諾…、お嬢様の仰るがままに」


「今度こそ、私が葬ってやる…魔女の意思を継ぎし萌芽よ」


「え…?」


ヘットの背後から現れたのは三人、どれも見覚えのある顔だ このデルセクトで鎬を削った相手の顔だ…、その恐ろしさをよく知る相手達だ


「ヒャハハハ!、テメェはどんな顔で死ぬんだ?どんな声で死ぬんだ?教えてくれよぉ〜」


悪魔のような貌で両手の拳銃を空に向けてぶっ放す狂人、人への害を舐めて生きる地の獄を統べし最悪の女 ソニア・アレキサンドライト


「呆…、間抜けな風貌だ」


複数のガジェットを仕込んだ文字通りの鋼の肉体を持つサイボーグメイド、ソニアの腹心にして鉄腕従鬼 ヒルデブランド


「ボス…ここは私にお任せを」


両手のナイフをくるりと回し構えを取るのは黒いスーツを着込んだ凛とした女傑、ヘットの右腕を名乗りし実力者 瞬鬼メルカバ


全員が全員、デルセクトでエリスに立ちはだかった強敵達だ、けど…


「はい!はいはーい!リゲル様これ間違いです!これ違ってます!、この人達はこの場に居ませんでした!エリスの記憶が正しければここはヘットとエリスの一騎打ちだと思いますので余計なの消してください!」


居なかったぞこんなにゾロゾロと!、ソニアもヒルデブランドもメルカバも全員ここに来るまでの道中で倒している、エリスの記憶ではこの三人はこの時既にデルセクト連合軍に拘束されていた筈だ、なのにここにいるのはおかしいでしょうと抗議の挙手を行うも…


『何を言いますやら、過去の敵をそのまま出しても貴方は倒せないようなので…、ここは一つ一つ纏めて出してみようかと、ですがおかしいですね…本当ならばデルセクト最強の錬金術師グロリアーナも出すつもりでしたが…、貴方が意識的に味方と思っている存在は出せないのですか』


えぇっ!?グロリアーナさんまで出すつもりだったの!?、あっぶなぁ…その人まで出てこられてたら勝ち目がなかったよ、エリスあの人には勝ってないからね!


でも、そっか…意識的に味方に思ってる人達は出てこないのか、だからベオセルクさんは本格的に味方になる前の継承戦時の姿だったのか、そして…エリスは今もヘットを敵として見れているようだ、それはちょっと嬉しいな


『まぁ何にせよ、これならば先程までの興醒めにはならぬでしょう…、さぁ 存分に踊りなさい』


「興醒めとは言ってくれます、レオナヒルドだってベオセルクさんだって、当時のエリスは死に物狂いで倒した強敵達なんです、その苦しみを知らない貴方にどうこう言われる筋合いはありません…、ですが いいですよ、乗ってやります…この勝負に!」


ウダウダ文句言って何かが変わるならこの場に座り込んで文句垂れてる、けどそうならないことはエリスだってよく分かってます、なんとかするには戦い続けないといけない


けど、何か対策を考えないと…この分じゃヘット達を倒しても代わる代わる敵と戦わされそうだ、そうなる前にこの夢世界から抜け出す方法を見つけないと


「さぁ、行くぜエリス!」


「ッ …まずは貴方達を片付けてからにしますか!」


思考に耽る暇はない、とにかく今は迫る敵を倒しながら考えよう、ヘットの恐ろしさはよく分かっているし何より今この状況はエリスの記憶にあるものよりもなお悪い、最悪といってもいいくらいに


「『マグネティックジフォース』!」


「『ソニックアクセラレーション』!」


ヘットの号令に従い戦艦のパーツが外れ 近くに放置してあった建材が浮かび上がり、怒涛の弾幕となってエリスに降り注ぐ、その間を縫う音速の影と共に繰り出される攻撃…ヘットとメルカバの連携、エリスと戦った時は二人同時に相手にすることはなかったが…これは!


「ハァッ!」


「ぐっ!」


現代魔術最高クラスの加速を使って繰り出されるメルカバの音速の斬撃を防ぐ、両手を突き出し籠手で受け止める、だが気がつく 気がついている、これは本命ではない事に


メルカバの一撃を防ぐ為に踏ん張った足では動けない、メルカバの目的はエリスをここに釘付けにする事、事実エリスが防御に回った瞬間メルカバは再び目にも留まらぬ速度で加速しその姿を消し それと共にヘットの飛ばした鉄柱の群れが飛来する


「ぅぐ!、厄介な連携ですね!」


「『ソニックアクセラレーション』!」


ヘットの磁気魔術は周囲の鉄を自在に操る、前進後退右折左折加速に失速想いのままだ、故に袋に閉じ込めた鼠でも嬲るかのように鉄柱はエリスの周りを何度も叩きその都度Uターンして再度攻撃を行う、ただでさえ昔苦しめられた怒涛の攻撃に今はメルカバの茶々が入るのだ


メルカバの攻撃は軽い、防ぐだけなら防げる…それこそ茶々だ、だが絶妙に邪魔だ


鉄柱を嫌い攻撃の群れから抜けようと動いた瞬間エリスの足や手を狙って飛んでくる、軽いには軽いが速い、メルカバのソニックアクセラレーションは今現在のエリスを以ってしても凄まじく速いのだ


「撃…、気を抜くな」


「なっ!?」


刹那、背後から飛んできた鉄拳に吹き飛ばされ地面を転がる、ヒルデブランドだ 奴が鉄の柱の雨を掻い潜って飛んできたのだ、ただでさえ面倒なヘットとメルカバのコンビネーションに今はヒルデブランド達も加わっている…


一人一人が厄介極まりない力を持った多人数戦、これはエリスも気を抜いてられないな


「チッ、痛いじゃないですか!ヒルデブランド!」


「感…、全力で殴ったというのに立つか」


「相変わらず頑丈ですね、魔女の弟子…ですがいつまで耐えられますか!『ソニックアクセラレーション』!」


「砕…!、お前を排除する!」


向かってくるは瞬足のメルカバと豪腕のヒルデブンド、そしてそんな二人を援護するのは


「『鉄砂嵐』!、とっとと決めちまえよメルカバ!」


「ケヒャヒャ!いけいけやっちまえヒルデ!」


ネジやナットを砂嵐のように舞い上がらせるヘットと両手の拳銃をバカみたいに乱射するソニア、二人が放つ飛び道具をメルカバは避けヒルデブランドは弾きながらエリスの前に立つのだ


前衛と後衛のコンビネーションが出来上がっている、もしかしたらエリスはあの時この四人を同時に相手取っていた可能性もあると思うとゾッとする、当時じゃ太刀打ち出来なかったぞこれ!


「壊…!」


「おっと!」


鉄柱と共に飛んでくるヒルデブランドの振り下ろしはガジェットにより強化されており、鉄で出来ているはずの甲板に穴を開け


「そこだ!」


「ぐぅっ!?」


ヒルデブランドの振り下ろしを避けた所に飛んでくる鉛玉と同程度の速度で進むメルカバの斬撃に鮮血が舞う、このままじゃまずい…!


昔の敵だからって油断出来ないな…、やはりこの人達は強敵だ


(だからこそ、全力で行かせてもらいますよ…!)


もう油断は無しだ、本気で行かせてもらうと飛び交う鉄と鉛の嵐を回転しながら避けると共にエリスは出る、攻勢に


この人達のコンビネーションは絶妙だ、昔のエリスだったら間違いなく殺されてたと思えるほどに、だが…それでも一度は倒した相手!超えてきた壁なんだ!


「疾風韋駄天の型!」


両手足に旋風圏跳を纏わせるエリスの戦闘形態を取り、再び四人に対峙する…、この人達の牙城を崩すには結局各個撃破しかない、ならば最初に狙うのは…!


「魔力解放!」


「なっ!?」


全身魔力を周囲に放ち ヘットの操る鉄柱に纏わりつかせる、ヘットの磁気魔術の攻略法は分かっている…こうやって鉄に魔力を纏わせればヘットの魔術は機動力を失い減速する、これで飛び交う鉄柱は無くなった…次は!


「ソニアァッ!」


「くっ、私が抜かれた!?」


「驚…!、お嬢様!」


「ぅげっ!?く 来るんじゃねぇ!」


メルカバとヒルデブランドの脇を通り向かうのはソニア!お前だよ!、エリスが正眼にソニアを睨みつけながら飛べば、奴は一気に青ざめ両手銃を乱射する、的確な狙いだ 全てがエリスの眉間を狙っている


だが悪いですね!結局は銃口の先に居なければいいんです、そして!どれだけ鉛玉が速くともそれを撃つ貴方の速度が大したこと無いのなら…


「捕まえました」


「ゲッ!?」


掴む、ソニアの両手の銃を掴み奪い取る、貴方にはエリスの友達の人生をめちゃくちゃにしたという借りがあります、デルセクトでは結局その借りを返す事が出来ませんでしたが…今なら!


「取り敢えず貴方は地獄に落ちてなさい!!」


「ぶげがぁっ!?」


そのまま叩き込む怒涛の連打、風で加速した腕を回転させるような乱打は数十の打撃音を残しソニアの全身を打ち抜き吹き飛ばす、ソニアは銃の名手だが戦士ではない…故にエリスの攻撃に耐えきれるはずもなく


「ゴミムシの癖…しやがってぇ…!」


鼻血を吹きながら光の粒子となって消えていく、まず一人!


「怨…!、お嬢様をよくも!」


「次は貴方です、ヒルデブランド…」


ソニアを潰されて激怒するのはヒルデブランドだ、こいつらクズだが主従の関係は極めて良好だからな、特にヒルデブランドのソニアへの忠義は見上げたものだ、だからソニアが陥落すれば真っ先にヒルデブランドがこちらに来るのは分かっていた


だが、貴方が先行すればコンビネーションもクソもないんですよ!


「炎を纏い 迸れ轟雷、我が令に応え燃え盛り眼前の敵を砕け蒼炎 払えよ紫電 、拳火一天!戦神降臨 殻破界征、その威とその意が在るが儘に、全てを叩き砕き 燃え盛る魂の真価を示せ」


「嘲…!、無駄だ!私に魔術は効かん!、知らないお前ではあるまい!」


詠唱を始めるエリスを嘲笑うヒルデブランドは語る、確かにそうだ…ヒルデブランドの体は耐魔石で作られた特別製、当時のエリスの火雷招すら弾き返してみせたのだから


こいつに魔術は通用しないと言える


…当時のエリスの、だがな!


「『煌王火雷掌』ッッ!!」


突っ込んできたヒルデブランドの土手っ腹に叩き込む炎雷拳、魔術は通用しない…そう驕るヒルデブランドは防御もせずエリスに掴みかかる、だが…


「ぐっ…ぐぉっっ!?!?」


弾かれるのはヒルデブランドの方だ、彼女の体を形成するはずの鋼の躯体と様々な機器はエリスの放つ熱に耐えきれず次々と爆発四散し終いには内側から大爆破を起こし来た道を戻るようにあえなく吹っ飛ばされ 戦艦の壁に叩きつけられ失速する


「問…、何故…私の体は魔術を無効化する…はず」


「耐魔石にそんな効果はありません、ただ魔力攻撃に抜群の適性を持つだけです…、無効化してるわけじゃないから衝撃はそのまま通るんですよ、何もかもを吹っ飛ばすだけの力を加えれば、内側の機器から破壊することも可能です」


「悔…そん、な…」


「甘く見ないでくださいよ、今のエリスを…!貴方たちを踏み越えて強くなったエリスを!」


ガクリと項垂れ消えていくヒルデブランドに背を向け、次の相手に選ぶのは…一人


「メルカバ…、来なさい 速さ比べです」


「…愚かな」


メルカバだ、今のヘットはエリスの魔力に遮られ機能不全、今自在に戦えるのは貴方だけ、そして…メルカバ!貴方にも借りがあるんです!


「私にアンスラークスで競り負けたのを忘れたか!『ソニックアクセラレーション』!」


「覚えてるから挑むんですよ!『旋風圏跳』!」


加速する、エリスとメルカバは加速する、両者共に自らの姿を消し去るほどの勢いで飛び、空中を行き交い何度もぶつかり合う、純粋な速さ比べ手数比べだ


エリスは一度 メルカバ相手にこれで負けている、アンスラークスで速さを比べ合いボコボコに負けている、メルカバのソニックアクセラレーションは速さと言う点では天下無敵と言ってもいい、それ相手に用意ドンで勝負をして勝てるわけがない


だが


「ぐぁっ!?」


落ちる、ぶつかり合う影の片方が地面へと墜落し 神速のぶつかり合いは幕を閉じる、勝ったのは…


「私が…速さで負けた?」


メルカバだ、空中で何度もぶつかり合う都度彼女はエリスに押し込まれ、怒涛の連撃を見舞われ散ったのだ、だが


「いいえ、速度では貴方が勝っていました…けど、それ以上にエリスが貴方の動きを見切ったまでです」


手数でメルカバは負けた、エリスの攻撃は全てメルカバの裏をかいた、メルカバの刃を折り メルカバの斬撃を避け カウンターを叩き込んだ、速さでは負けたが手数で勝った…経験の差です


「あの時の借り、返しました」


「ぅぐ…ボス…」


崩れ落ちるように倒れ光の粒子となり消えるメルカバに手向けるのは あの時の借りだ、アンスラークスでの負けはここで返します、と言っても…こんなの自己満足でしかないんですがね


さてと


「それじゃあ次は貴方ですよ、ヘット」


「瞬く間に全滅かよ、容赦ねぇな」


たはは と笑うヘットはエリスの魔力に妨害され動かなくなった鉄柱を捨てて帽子のつばを撫でている、余裕そうだな 貴方はいつだって余裕そうだ


「だが、降伏はしない…俺は一人になっても戦い続けるぜ?、ほら来いよ」


「……貴方らしいですね」


そうだ、ヘットはたった一人になっても戦うのをやめない、エリスと同じくらい諦めが悪く執念深い、それは彼のどんな組織力よりも どんな作戦よりも どんな魔術よりも恐ろしい、最後の最後…力尽きるその瞬間まで向かってきた彼の強さを知っているからこそ


気は抜かない、全力で勝ちにいきます!


「覚悟してください!ヘット!」


「ああ…来な!『マグネティックジフォース!』」


風の援護を受けヘットに向けて飛ぶエリスを迎え撃つ為再度魔術を発動させる、エリスの魔力が及んでいない鉄材を針の山のように展開しエリスを迎撃する、恐ろしいまでの鋼鉄の守り…だけど、だけど!!


「ぅぉぉぉおおおおおおお!!」


「ぐっ!ぉおおおおおおおおお!!!」


嵐のように振り回される鉄柱の乱撃を掻い潜り弾き抜き、その猛攻の中 跳躍詠唱にて発動させるのは『眩耀灼炎火法』、火炎の魔術を展開し体に纏い 足先に侍らせ、放つ…今必殺の!


「炎天踵落としっ!」


「ごぁ…!?」


いつかヘットを倒した時のように、炎を纏った高速の飛び蹴りにてヘットの体を蹴り抜く、鉄の嵐も鋼の旋風も…潜り抜けられるだけの力をくれたのは貴方ですよ、ヘット


「ぅっ!…ああくそ、まだやれんのに…ここまでか」


エリスの容赦のない合体魔術の一撃を食らったヘットが片膝をつく、その胸には巨大な火傷が残りボタボタと血が落ちる、本人はやれるつもりだろうが…どうやらこれ以上身体を維持できないようだ、それを証拠にヘットの体から光の粒子が零れ落ちている


「終わりです、ヘット」


「の…ようだな、おい 魔女の弟子」


ふと、ヘットと決着をつけ 夢世界から抜け出す算段を立てていると、彼がエリスの事を呼ぶのだ、まだ何かするつもりかと振り向けば…ヘットは傷を押さえたままニッと歯を見せ笑うと


「折角俺が脱獄させてやったんだ、最後まで駆け抜けろや…頼むぜ、俺のヒーロー」


「え?…」


それだけを言い残し消えるヘットに、エリスは衝撃を受けたまま取り残される、今なんて言った?脱獄させてやった?、確かにそうだがそれはデルセクトの出来事から何年も先の事…未来の話だ


なんでデルセクトに居た頃のヘットが脱獄なんて口にするんだ?、何故この時のヘットがそれを知って…


『おや、やりますね…ですが方向性は間違いではなさそうです、次はもっと貴方を苦しめましょう』


「まだ続けるんですか…」


『ええ、貴方が死ぬまで』


天から聞こえてくるリゲル様の声にやや力が抜ける、まだ来るのか…こう言ってはあれだがエリスの旅は先に進めば進むほど敵の強さが跳ね上がって行っていたようにも感じる


アジメク アルクカース デルセクトと来たら次はマレウスか?、彼処で戦ったコフは強かった、奴は魔力覚醒を使ってくるから…こっちも同じく魔力覚醒を行なって


そう、次の戦いの算段を立てていると…再び戦艦の光景がぐにゃりと変わる、夜であったにもかかわらず即座に太陽が昇り、大地は鉄の甲板から石の畳へと変わる


周囲に乱立するのは崩れた岩の遺跡…その廃墟、ああここはやはり見たことがある、ここは…ん?あれ?


「ここ、コルスコルピですか?…」


コルスコルピだ、ここはコルスコルピの中央都市ヴィスペルティリオだ、それが変形し対天狼決戦機構を発動させ 地下の遺跡を表出させた際の姿、つまり アイン達と決着をつけた時の場所じゃないか


てっきり次はマレウスかと思ったけれど、飛ばされたのか?


「さぁて、魔女の落胤と魔獣王の寵児…どちらが強いか、はっきりさせようか」


「…アイン」


ぬるりと空間を割いて現れるのはアインだ、緑の髪と特徴的な眼鏡の奥に隠された凶悪な笑み、…出来ればもう二度と顔を見たくなかった男 悪魔のアインがエリスの前に現れる、いきなりこいつか


こいつは強い…なんて分かりきった事言わなくてもいいくらいアインの恐ろしさは身に染みている、寧ろこれ今でも勝てるかも怪しいぞと思えるくらいだ


しかも今はその後ろに更に三つの影がある


「アハハハハハハハハ!、魔女の弟子でもなんでもいいよぉ!、結局アタシが一番強いんだぁ〜」


「やぁエリスちゃ〜ん、殺しにきたよぉ?」


「私だけでも十分ですが…」


背後に立ち並ぶのはげたげたと狂って笑う黒髪の女…塔のペー、糸目でこちらを見据えて帽子を掲げる死神のヌン、くだらないと冷笑しながら紫の髪を振るう節制のサメフ…、全員ディオスクロア大学園を襲った大いなるアルカナの上位メンバーだ


ラグナ達と分担して戦ってなんとか倒せた奴らが、今エリス一人を狙って集結し…ん?


「わははははは!、大いなるアルカナの幹部の恐ろしさ見せてくれよう!」


「魔女の弟子だろうがなんだろうが相手じゃないね!、ねぇ?ダーリン?」


「その通りさハニー?、僕達の力を見せつけてやろうよぉ〜」


「なんでもいい、とにかくアイツ殺せりゃなんでもね」


「奴を殺すことが正義だと言うのなら、…執行しようぞ、我が正義を」


「寄ってたかってってのは好きじゃないけど、まぁいいよね?君強いし」


「い いやいや…いやいやいやいや!、多い多い多い!多いですって!」


ゾロゾロとワラワラとアインの背後から現れるのも全員アルカナの幹部…!、全員顔を知ってるぞ!魔術師のベート!女帝のダレット!皇帝のツァディー!恋人のザイン!正義のラメド!そして運命のコフ!


こいつらマレウスで戦った連中じゃないか!、いよいよコルスコルピ関係なくなっちゃった!


「多いです!多いですよ幾ら何でも!全部で十一人もいるじゃないですか!大いなるアルカナの幹部の半数近いですよこれ!」


『ええ、面倒なのでマレウスとコルスコルピ…纏めました、お気に召しましたか?』


纏めたって…溜まったもんじゃないよこっちは!、アルカナの上から下まで勢揃いじゃないか!、しかも雑魚だけじゃない!コフもアインもいる!こいつら片方だけでも危ないってのに!


幾ら何でも無茶苦茶だ…こんなの、無理があるよ…!


『全員倒したんでしょう?ならまた倒せばいいだけですよ…』


とは言うが倒すのに死ぬほど苦労した奴や倒した記憶のない奴、中にはそもそも倒してすらいないのも混じってる、これが魔女の力…もう脱出の算段云々を考えている暇なんてない!


『さぁ、どうぞ?たらふく食べてくださいね』


「さぁあ!、行くよぉ!エリス!食い殺してやるよ!」


アインがリゲル様の声に従い号令をあげると共に、総勢十一人のアルカナ幹部が怒号を上げて一斉にこっちに向かってくる、悪夢だ…この絵面そのものが悪夢だ!


「わははは!、『アイススパイク』!」


「『クリムゾンレイ』!」


「『大魔術陣・緋焔爆火陣』!」


「『コンセプトコンプレッサー』!」


「『ウルトゥヌスクラウン』!」


「『ゴォォォオレムクラフトォォォォオオオ!』」


「ぎゃぁぁあぁ!!多いですってー!」


一度に複数の魔術が連続して降り注ぐ、全てが幹部クラスの一撃必殺の魔術達…それが雨霰と降り注ぐんだ、防御とか対処とか出来るはずもない、吹き飛ばされる大地の中逃げ回ることしかできない


あんなのどこをどう切り崩すんだ!?幾ら何でも多過ぎる!


「シャァッ!」


「ッ!?貴方は…!」


刹那、土煙を切り裂いて現れる刃に危うく首を切られそうになりコロリと地面を前転し回避する、ヌンだ…死神のヌン!、当時のメルクさんを殺しかけ あのアマルトさんと互角に張り合う剣術を持つ男が魔術の雨を掻い潜って飛んできた


いや、ヌンだけじゃない!


「ヌゥン!『ペインシンプトム』!」


「ラメド!、貴方もですか!」


振るわれる黒の豪腕、正義のラメドが傷を再び体に刻むペインシンプトムを発動させながら土煙の向こうから殴りかかってきたのだ、神経を張り巡りせてなければ当たるところだった…、こいつの魔術は本当に厄介なんだ、一発受けるだけでも致命傷だ、何せエリス 普段からめちゃくちゃ傷つきてますからね!


「この数のアルカナを相手に勝てるとでも?」


「うっ…」


「安心していいよぉ、殺してあげるからさぁ…!」


躙り寄るラメドとヌン、そしてその背後では無数の幹部達が魔術の支度をしている…まずい、次弾が来たら殺され…


「退けよ雑魚ども!邪魔すんなぁぁぁ!!!!」


「ッ !?ぐぅっ!?」


刹那、いきなり飛んできた不可視の弾丸の掃射に身体を貫かれ吹き飛ばされる、この容赦のない攻撃は…アインだ!、アイツ仲間達の後ろから液状の身体を高速噴出してきたんだ!


当然 前に居た仲間達も無事ではない、何人かはアインの弾丸で傷を作り、魔術師のベートなんかは頭を撃ち抜かれてエリスが手を出すまでもなくとっとと死んだ


アインあいつ!、仲間意識とかないのか!?無いよな!だってアインだもん!


「アイツを殺すのは僕だ!、殺されたくなけりゃ雑魚どもは引っ込んでろ!」


「アイン…あんた訳わかんない奴だと思ってたけど、仲間に向けて攻撃する!?普通!」


「ああ?、なんだお前…殺すよ?、僕に人の普通とか説かないでくれるかなぁ」


「ぅ…」


流石にこれはアルカナ側も看過出来ないとアインに食ってかかる恋人のザイン、が それすら歯牙にかけず逆に睨み返すアインによってアルカナ側は一触即発になる


怖ぁ、アインって仲間内だとあんな感じなのか…


ともかくチャンスだ、今のうちに少しでも距離を取ろう、流石に囲まれるとまずい…そう感じこっそり動き始めようとした瞬間


「ッ……!?え?動けない!?」


その場から動けなかったのだ、まるで何者かに手を引かれたかのように引っ張られエリスはその場につなぎとめられる、でも見回しても誰もいないんだ…確かにこの手が握られている感覚はあるのに、…そう まるで見えない何か掴まれているような


まさか!?


「隠者のヨッド!?貴方までいるんですか!?」


「ヒ…ヒヒ、捕まえてやった捕まえてやった…」


突如虚空に目が浮かび上がりニヤァと笑う、こいつ!ヨッドだ!デルフィーノ村で戦った透明人間!隠者のヨッド!こいつまで居たのか!?いや居るよな!こいつも敵だもん!、エリスに見つからないように最初から姿を隠していたんだ!


くそっ、こんな魔術の厄介さだけで飯食ってるような奴までいるなんて…!


「はははははは!俺の手柄だ俺の手柄だ!、コフやアインでも立てられなかった武功を俺が立てたんだ!、俺こそアルカナの大幹部に相応しい!」


「ん?、おやぁエリス…そんなゴミに絡まれてどうしたんだい?」


「やばぁ…」


ヨッドが騒いだせいでアイン達の注意が再びエリスに向く、まずい…今またさっきの集中砲火を食らったら逃げられないどころか防げもしない、早く振り解かないと…!


「ヨッド!離しなさい!、殴りますよ!グーで!」


「ひっ…」


「ヨッド!離すなよ、離したらまた君を殺すからね…!」


「ま 待てアイン!、まさか俺ごと撃ち抜くつもりじゃ!?」


スライムを侍らせ再び水砲発射の準備に取り掛かるアイン、いやいやいやこれどうしよう!このままじゃエリス ヨットと心中することになる!、アイツの水砲の威力はよく知ってるんですよ!さっきも撃ち抜かれましたけど相変わらず凄く痛いんですから!



「さぁ…死になよ、エリス…!」


「死ねますか、こんな所で…!」


いつまで続くか分からないの戦い、できる限りの温存をと思いもしたが…このままじゃエリスはヨッドと心中させられかねない、ならば切るしかあるまいよ


エリスの切り札を…!


「すぅー…魔力覚醒」


「何!?、魔力覚醒だと!?」


「エリスが魔力覚醒を…!?」


「アリエ達同レベルだとでも言うのか…」


エリスの言葉を聞き、溢れ出るその魔力を前にしてざわざわとざわめくアルカナ下位No.達…まぁ彼らにとってみれば魔力覚醒とは即ちアルカナ最強の五人 『アリエ』の代名詞、彼らは全員が魔力覚醒を使えると言われている、まぁ実際には月のカフは使えなかったようだが今はいい


そうだとも、今のエリスは魔力覚醒が使える…嘘でもハッタリでもなく、それを感じたのか戦慄するアルカナ達の中で唯一 コフは静かに目を尖らせアインは忌々しげに顔を歪ませる


「『ゼナ・デュナミス』!!」


グッと腰だめに拳を握れば、魂へと逆流した魔力がこの肉体を魂と混ぜる、魔力の根源たる魂と同質化した肉体は変容し エリスの髪には記憶の光がパチパチと輝き力が溢れる…


これがエリスの切り札!エリスの全力全開です!


「な…なんだこの姿は、これが魔力覚醒?は…初めて見た、お 俺とは格が違う、アリエは皆このレベルだとでも言うのか…」


「ヨッド!」


「へっ!?あ…」


エリスの魔力覚醒を前にして呆然とするヨッドの名を叫ぶ、こいつの厄介なところはどこに居るか全く分からない所にある、それを看破する方法はそれこそ超極限集中状態での識確魔術行使くらいしか無いくらいだ


だが今、とてもありがたいことにヨッドはエリスの腕を掴んでくれている…今もな、つまりこいつは己で己の旨味を殺している状態にある、掴んでくれてるならどこに居るかなんて一発で分かる


故に放つのは拳、指先には火雷招を乗せ叩き込む爆雷の一撃、ヨッドの顔面(が恐らくあるであろう地点)に向けて振るえば…ビンゴ、手応えがあった


「げぶぁっっ!?!?!?」


轟く雷鳴と爆音、そしてヨッドの悲鳴…


何も無い虚空が黒い煙を放ち人型の炎がクルリと宙を舞えば、光の粒子となって上空で消える、…まず一人!


「さぁ来なさい!アルカナ!、もう一回滅ぼしてやりますッッ!!!」


全身から放つ電撃のままに吠え立てアルカナの軍勢を前にする、もう一度エリスの前に立つならもう一回壊滅させてやる…!


「ッ …!行くよ!ダーリン!」


「ああハニー?、僕達の最終奥義を見せてやろう!」


「魔力覚醒するって話聞いてないんだけど!?」


「シンやタヴ程の威圧も感じん、我らの総力でかかればあるいは…」


魔力覚醒を前にしても果敢に向かってくるアルカナ達、ダレットやツァディー ザインやラメドが魔力を滾らせる、だが…!


「邪魔ですッッ!!」


記憶を手繰り寄せ現象化させる力を持つ『ゼナ・デュナミス』にて作り出す記憶の具象、エリスの体を加速させる風に加えるのは電撃の帯、風速から雷速に至り 立ち塞がるそれらを撫でるように拳を構えながら…


「『雷電乱舞・跳歩』!」


疾風韋駄天の型に雷を加えた魔術闘技、雷を纏った足は地面に電撃を残し 稲妻となった拳は鎧袖一触の如くすれ違いざまにアルカナの幹部達を殴り飛ばす


「ごはぁっ!?」


「ぐがぁっ!?」


「ちょっ…強…!?」


「これほどか…!」


エリスの背後で光の粒子が四つ舞う、マレウスで戦った連中は片付けた…次は!


「やりますねぇ、あれ…我々では勝てないのでは?」


「関係ない、私の魔術なら…!『コンセプト』」


消える仲間にやや引き攣った笑みを見せるヌンとサメフ、上位メンバーは流石に安易に突っ込んで来たりはしない、むしろ距離を取った上で手で四角を作るのは節制のサメフただ一人


デティから聞いた、奴は空間圧縮魔術なる禁忌も禁忌のド禁忌魔術を使うらしい、受ければ即死のエゲツない魔術はある種の無敵と言えるだろう、流石に覚醒していても食らったら即死は免れない…だが!


「棒立ちで狙い澄ませるなんて随分余裕ですね…」


「『コンプレッ』…へ…」


サメフはコンセプトコンプレッサーを放つ際 棒立ちで狙いを済ませる悪癖があるのは見抜いている、所詮は魔術師ではなくフィロラオス家の御令嬢様と言ったところか…、世間の魔術師はみんな動きながら魔術撃つんですよ!そんな棒立ちで間抜けに詠唱する奴は居ません!


「『疾風乱舞・蹴打』ッ!」


「がぼぁっ!?」


蹴り抜く、風を纏った飛び蹴りでサメフの顎を…、疾風乱舞と雷電乱舞はネレイド相手にエリスが監獄の中で作り上げた近接魔術闘技、師匠から言われた魔力覚醒状態時の課題であった戦法の少なさをカバーしつつ近接をこなせるよう作った技だが…


まさかそれを披露する相手が今はもう存在しない大いなるアルカナとは思いませんでしたよ!


「ぁか…」


蹴りを受け崩れ倒れ、弾けるように光の粒子に変わるサメフを見下ろす…攻撃力の代わりに耐久力が無いですね、なんでこんな普通の令嬢がアルカナの幹部なんてやってんだ?、いや罵倒とかではなく…どう言う経緯でアルカナになんか…


「余所見ですかぁ〜?」


刹那、消えるサメフを見下ろすエリスに 影が覆いかぶさり斬撃が降り注ぐ、人を食ったような態度とナメくさった声、ヌンだ…


仲間が目の前でやられたと言うのに寧ろその隙を使って敵を殺しにかかるその姿はまさしく死神、だがまぁ相手が背中を見せていたらそりゃあ斬りかかるよな


けど、エリスだって無造作に背中を晒していたわけじゃありませんよ


「貴方の動きに注意してないと思いましたか?」


「ッ!?」


クルリと体を入れ替えヌンの斬撃を躱せば、今度背中を晒すのはヌンの方になる…おまけに剣を振り抜き隙だらけの背中をね、さぁて…どうしてくれようか!、トドメを刺すため隙だらけの後頭部を思い切り掴み


「フンッ!!」


「ぅがぁっ!?、ちょっ!君!仮にも先輩だよ!?もう少し遠慮を…」


「知るかッッ!!!『多重火雷招』!!」


地面に叩きつけながら落ちる雷光は零距離で何度も弾け、赤熱した大地は噴火しその中心に居るヌンを焼き尽くす、どうせ人じゃ無いんだ なら遠慮する必要はあるまい


怒涛の勢いでアルカナメンバーを消し飛ばし、残すところわずか三人…


「で?、いつまで様子を見を続けるんですか?、魔力覚醒でビビるタマじゃないでしょあんた達」


残るのはコフとアインとペーの三人、この場に現れた幹部達の中でも格の違う三人だ…


「ねぇねぇアインアインァァァァァインゥッ!、アイツ魔力覚醒してるよ!魔力覚醒!、どうすんの!?」


「どうもこうもないだろ、お前作戦とか伝えて理解出来んの?出来ないでしょ?脳みそ溶け出てんだから」


「それもそっか!!!」


「うっさ…」


「まぁまぁアイン ペー、落ち着いて落ち着いて?、…エリスが魔力覚醒を行ったのに関してはまぁ想定の範囲内だろう?、彼女ならいつかあの段階に至ると僕は思ってたよ?」


「だから?分かってましたムーブとか今いらないんだけど?」


「ああ、だからここは…一緒に戦わないかい?、僕達はお世辞にも仲良くはないし互いのことが嫌いだ、けど 負けるよりはいいだろ?」


まぁまぁとアインとペーを宥めるコフは語る、うまく焚きつけていると感じられる語り口を見ていると思う…


コフはアルカナの中でも最古参だ、それこそシンやレーシュに並ぶアルカナ結成時のメンバーだ、本当ならカフの代わりにアリエに入っていた人物だ


アインもペーも恐ろしいが、或いは本当に怖いのはコフの方かもしれないな


「それ、僕達二人を焚きつけてるつもり?あははははは、ウザいなぁ」


「ほんとね!ウザいねぇ!ウザいねぇ!アタシよりNo.低いくせにさぁ!アタシが一番なのにさぁ〜?」


「でも気に入った、君よりエリスの方が嫌いだしね、コフ…君の意見を聞こうじゃないか、共闘しよう」


「そうだね!共闘しよう共闘しよう!、コフが一緒だと心強いなぁ〜」


「あ…ははは、そりゃよかった」


えっらそうなアインの態度とその金魚の糞やってるペーにやや頬を引きつらせて笑うコフはそのままこちらを…エリスの方を見る、やる気か


この場で唯一エリスと同じ第二段階に至っている男だ、気は抜かないからな!


「じゃ、行こうか!魔力覚醒!『フォーチュンオブウェンティ』!」


「お前も魔力覚醒出来んのかよ…、なんで僕達に黙って…まぁいいや、おい ペー!行け!」


「アイアイアイン!、ともかくぶっ殺せばいいんでしょぉぉおい!」


風を纏い 風と同化し 大気の権化と化すコフ、スライムを漂わせ侍らせ光を反射するアイン、喉を震わせ狂気に吠えるペー、アルカナ幹部がどれだけ群がるよりもこの三人の方が恐ろしい!


「ふぅー…よっと!」


「来ますか、コフ…今度こそ貴方と対等に戦ってみせます!」


何もかもをなぎ倒す強風を吹き出しこちらに突っ込んでくるコフの勢いは最早それ単体が一つの兵器であるかのような衝撃を放ち向かってくる、相変わらず凄まじい風と魔力だ


あの頃は手も足も出なかったし、今もなんで勝てたか分からないレベルだが、今なら対等にやり合えるはずだとエリスもまた風で加速しコフを迎え撃つ、堂々と 正面から


「『カイキウスブロー』ッ !」


「疾風韋駄天の型!」


──それは、限りなく大地に近い地点で発生した台風だ


互いに互い、逆方向に回転する二つの竜巻がぶつかり合えば周囲の遺跡は見えない手に握り潰されたかのように形を崩し風に煽られ舞い上がり、いつしか一つの巨大な大竜巻としてヴィスペルティリオのど真ん中に顕現する


大地から生え、天に突き刺さる巨大な竜巻、その内部で牙を突き立て喰い合うように何度も激突を繰り返す二頭の風龍の影が見える


「はぁぁぁぁぁあああ!!」


「どっせぇぇぇぇえいい!!」


風と風の空中戦、上下左右縦横無尽に飛び交いただ相手を撃滅する事だけを考え、風を放ち 風を纏い 風をぶつけ 風と共に戦うエリスとコフ


拳と蹴りが風を生む、打撃と打撃に鎌鼬が付随する、旋風のような連打が鎬を削る、激突する二つの颶風の出力は全くの互角…!


「くぅ、こんなに強かったんですね…コフ」


こちらが魔力覚醒を使って全くの互角とは、当時はなんとも思わなかったが…こいつ技量だけで言えばシンにも迫るぞ!


「なんて雷だ、しかもこの雷…シンによく似ている」


「そう言えば貴方に雷を見せるのは初めてでしたね」


「君は風だけで戦うとか言っていたからね…、今は違うのかい?」


どうやらマレウスでの記憶はあるらしい、じゃあ彼の中でこのコルスコルピでの戦いはどういう風に理解されているんだろうと考えるだけ無駄か、これは所詮夢幻にして夢現なのだから、理屈を求めてはダメか


「貴方に勝ちたいので」


「そっか、僕も君に勝ちたいよ…、だから 本気で行こう!」


岩と土を舞い上げる巨大な竜巻の中、更にコフはもう一段旋風を纏う、まだ勢いが増すか…けど、エリスだって!


「ひぃぃぃぃぃぃいやっほぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」


「!?!?」


刹那、側面から飛んできた蹴撃に煽られバランスを崩す、なんか飛んできた 奇声と共に何かが…!


「うひゃぁぁぁぁあい!、アタシ飛んでる!飛んでるよぉぉぉ〜アイン〜!」


見れば風に流されるように飛んでいるペーが楽しそうにげたげたと笑っている、アイツ 竜巻に飛ばされながら攻撃してきたのか?、魔術も使わず


…ッ!、しかも蹴られた部位が酷く痛む、アイツもあれか!レーシュと同じ類の身体的な怪物か!、ラグナよくあんなの倒せたな!


「アイン!彼処にいるよぉぉぉ!!」


「ッ…!こいつ!」


ペーが叫ぶ、エリスの居場所を教えるように…すると、その瞬間エリス達を囲む竜巻を外から食い破るように透明な弾丸が音を立てて飛来する


「ぐぅっ!」


「アハハハハ!、苦しいかいエリス!そりゃあよかった!もっと苦しんでくれ!」


アインの水弾丸だ、あれが容易に肉を割き骨を貫通するのをエリスは知っている、現に肩と脇腹を貫かれ吹き出る血と共に意識を失いそうになるが…ダメだ、意識をアインに割けない!


「隙ありだよエリス、悪いね?いつも僕達の方が人数多くて」


まるでサッと筆で紙に線を描くかのように飛んでくるコフの風蹴りに背中を打ち付けられ、悲鳴をあげる間も無く地面に叩き落される


「ぐぅっ!!」


地面を砕き 体が粉砕しそうな衝撃に痛みを感じ、漸く血と共に悲鳴が口から漏れ出る…、分かってはいたが強いなぁ…、いくら強くなったとは言えこの人達の相手はキツいよ


でも、…でも!


「エリスはここでは、死ねないんです…せっかく師匠の前に来たんですから」


ガラガラと石を退け大地に屹立する、負けてたまるかと…、こいつらはエリスの記憶なんだ、既に乗り越えた壁なんだ!


「不屈の闘志、殺されても立ち上がるその気概…やはり君はそこが一番恐ろしい」


「一番?一番って言った?コフ!、なに言っちゃってんのぉぉぉぉ???アタシが一番なんだァ〜〜!?!?」


「あ!おい!、ペー!」


何やらコフの一言に反応したペーが動きを変えクルリと風に煽られる身を翻し、一気に竜巻の中を降ってくる、こちらに向かってくる


何かはよく分からないが、まずはペーからやるか!


「よしっ、来なさい!ペー!」


「殺すォッ!!」


天から降り注ぐ隕石の如き勢いで飛来するペーはエリスの頭目影膝を突き立て蹴りを繰り出す、それを寸前で背後に向かって体を回転させ避ければ、魔力も何もないただの自由落下の蹴りで地面が更に砕け散る


「ひゃぁぁあああ!、殺しちゃうよぉぉお!!アタシが一番なんだァ〜!」


「それはエリスを倒してから言いなさい!」


砕かれた地面の上に即座に立つと共に拳を握りこちらに向かって牙を剥くペーを迎え撃つ、すると


「突っ走るなよ!これだから頭空っぽは!」


「チッ!」


ペーを援護するようにアインの水弾丸が飛んでくる、意外だ…アイツ人と連携なんか出来たんだ


頬を掠める不可視の弾丸に怯んでいてはペーの相手が出来ない、僅かに走る痛みと胸に生まれる恐怖を押し殺し、歯を食いしばってペーを打つ


「はぁっ!」


「シャァッ!」


ペーの怪力は人智を逸した所にある、あのラグナと互角に殴り合ったほどだ、振るわれる拳は轟音を鳴らし空を割きその衝撃だけで体が飛びそうになる、そんな暴威の権化みたいな奴を前に必死にスウェイを繰り返し 旋風圏跳を纏った拳を叩き込む


「あが!?痛ーい!」


が、ダメだ 痛がりはすれど押し倒すには至らない 怯ませるまで行かない、この手の超人は殴られても全く怯まないから苦手だ…、だが


生憎とエリスの本分は拳での殴り合いじゃないんですよ!


「ぐっ!このっ!」


ペーの鉛の塊みたいな拳を受け止め思わず吹き飛ばされそうになるのを堪えながら食らいつき


「『真・黒雷招』!」


「ッッ!?!?」


そのまま放つのは穿ちの黒雷、引き裂き破壊する事に特化した黒雷招、それをシンから得た知識をもとに改良を加えた真・黒雷招は一味違う、自らの体に黒雷を纏わせると共に相手に食らいつき 逃すことなく何度もその体を貫く、格好の悪い言い方をすれば電撃を身に纏ったウニのように全身から這い出る黒の稲光は目の前のペーの体を何度も貫き


「ぅぎゃぁぁぁぁあああああ!?!?」


悲鳴をあげさせ激痛に悶えさせる、殺しを厭わないシンの技術を使っているから些か殺傷能力が高すぎるな、この技は…罷り間違っても人には使えない


だが相手は幻影、そこら辺を躊躇する必要性は無く ペーの体を容赦なく串刺しにし、その身を光の粒子に変え消滅させるに至る、傷は負ったが一人倒せた…


「チッ、何やってんだよバカが!」


「っと!」


アインの声と共にエリスの体に走る悪寒に従い咄嗟に身を伏せると、頭の上に飛んでくるのは不可視の斬撃、これはあれだ 水の触手を振るったのだ、あれが堅牢な石の壁をバターみたいに切り裂くのを見たことがある


コフとやるにはアインが邪魔だ、何より…


「エリスは貴方の事が大っ嫌いです!」


アインには私怨が山ほどある、沢山いるアルカナ幹部の中で一番嫌いと言ってもいい、ここでもう一回あの顔をぶん殴れるチャンスがあると言うのなら、それは不幸中の幸い…僥倖だ!


「アイン!」


「こっち来るか、上等!コフ!やっぱ共闘は無しだ!、こいつは僕一人で殺す!」


「あ…おいおい」


風を纏って突撃するエリスを迎え撃つように、全身から水の触手を伸ばすアイン、戦闘形態を取ってきたな、あれが振るわれたらそれこそ手のつけようが無い、以前はそれで防戦一方だった


けど…!対処法は知っている!


「あはは!死ねぇっ!」


「燃える咆哮は天へ轟き濁世を焼き焦がす、屹立する火坑よ その一端を!激烈なる熱威を!今 解き放て『獅子吼熱波招来』!!」


走りながら放つのは熱波の爆裂、燃えるように放たれた衝撃波はエリスを包み振るわれた水の触手の乱打をエリスに触れる前に蒸発させる


「っ!、僕の体が…、チッやっぱ千分の一程度の力じゃ魔力覚醒は厳しいか!」


「アイン!死んでください!なるべく苦しんで!」


「どんだけ僕のこと嫌いなんだよ!」


「こンくらいですっ!」


纏う熱波を靴先に集めて放つ飛び蹴りはアインの腹を蹴り抜く、風による後押しやここまでつけた助走も加味してその衝撃は凄まじいものだったろう、だがアインは腹に受けた衝撃をやや足を後ろに引きずる程度で抑え…


「あははは!痛いじゃないかぁ!エリス!」


「そういえば貴方、痛みを感じないんでしたね」


そうだ、こいつの体は飽くまで器…中身のアクロマティックを消し去らない限り倒せないんだった


だらだらと血が垂れる歯茎を見せニタリと笑うアインは背中から幾条もの水の触手を生み出し…


「それで僕の攻撃を封じたつもりかい?、甘い甘い!甘いよエリス!!」


「ッ!」


振るってくる 触手を、それは熱に蒸発させられエリスに届く前に消える…筈なのに


「熱ッ!!」


エリスに触れ蒸発した瞬間を狙いアインは触手を態と爆裂させ蒸気をエリスにぶつけてくるのだ、蒸発しても一応アインの一部であるがゆえにある程度は操れるようで水蒸気は的確にエリスの体を焼こうと噴射される


相変わらずやることなす事全部メチャクチャだな…!


「このままボイルしてあげるよ!」


「ッッ……!」


それでも熱と乱打に耐えるように身を縮まらせ防御を続ける、ここで熱に負けて魔術を解除すればその瞬間アインは攻撃を鞭打ちから水弾丸の連射に切り替える、そうなったらその瞬間エリスは蜂の巣だ


だからここで必要なのは我慢して我慢して魔力を練り上げる事、確かにこれはかつての戦い同様の物だ、アインの力はかつてと同じ、苦戦も同じ


ただ違う点があるなら、これは幻という事…つまり


「はぁー…我が八体に宿りし五十土よ、光を束ね 炎を焚べ 今真なる力を発揮せん、火雷 燎原の炎を招く…黒雷 暗天の闇を招く、咲雷 万物を両断し若雷大地に清浄を齎す、土雷 大地を打ち据え鳴雷は天へ轟き伏雷万里を駆け、大雷 その力を示す、合わせて八体 これぞ真なる灼炎雷光の在りし威容」


「詠唱…?、それにその詠唱は…何でお前が、ッ!寄るな!」


躙り寄る、両手をクロスさせて防御しながら段々と距離を縮める、徐々に徐々に接近し逃げも隠れも出来ない程…目の前まで近づく


違う点は一つ、これは幻であり 今アレクセイさんの肉体に遠慮する必要はないという事!


「『天満自在』!」


「ゲッ!?」


そのまま防御を捨てアインの胸に手を押し当てると共に放つ雷は八色に輝き…


「『八雷招』!」


「いッッーーー!!!」


エリスが持つ単独最高威力の極大魔術、八つの雷を一つに重ねて放つ雷招魔術の奥義、これを零距離で受けるアインの肉体は果てまで届く一条の光の中で掻き消えるようにその姿を消し


「がぁぁぁあぁぁああああああ!!、クソがクソがクソが!、絶対復讐してやるからな!今度は兄弟たちを連れてお前を殺しに行くからなエリスぅぅぅうううう!!!」


「それ、前にも聞きましたよ!」


魔力覚醒状態で放つエリス最強の魔術に体を塵に変えていくアインは、聞いたことのある捨て台詞を放ち その肉体ごと中身のスライムも蒸発させ、光の粒子となって消えていく、ちょっと心が痛むが 本物も塵になってしまったんだ、割り切ろう


「ッーはぁはぁ」


渾身の八雷招を放ち終え、アインを消し去り膝をつく…疲れる、徐々に戦闘がキツくなってきている、流石に今まで出会った敵が総当たりでぶつかってくるのはキツいな


ダメージも疲労も着実に溜まってきている、なのにこの夢世界から抜け出す鍵は掴めない、それより何より


「あらら、アインが負けてしまった…」


まだコフが残っている、アリエ級の実力者のコフがだ…、まだ気が抜けない


「アインの言うことを聞いて大人しく見てたんですか?」


「まぁね、これでも気が弱い方なんだ…、あんな剣幕で怒鳴られたら道を譲ってしまうよ」


「貴方、…ヘエより強いですよね、なのに何でNo.10なんかに収まってるんですか」


「さぁ?、何か理由があった気がするけど、今は不思議と思い出せないんだ」


…それは多分、このコフが偽物でエリスの記憶を元に作られた存在だからだろうな、エリスが知らないことをエリスの記憶が知るわけがない、聞くだけ無駄か


でも、コフの実力は確実に重力使いのヘエより上だ、少なくともNo.18相当…いや、もしかしたらなりふり構わなければレーシュも超えるか?、本当に底が知れない男だ


「さて、二人っきりになったことだし、続きをやろうよ」


「エリスは疲れてんです、早めに決めますよ…」


「上等だね、僕も必殺技ってのを出そうかな」


天に立つコフは両手を広げそれを回転させるように動かし始める、それと共に彼を形作る風がより一層鋭さを増していく


あれは見たことがある、多分『アイオロスセレスティアル』だ、コフが持つ風魔術の中で最強の威力を持つ大魔術、この世に存在するどんな現代風魔術を超え エリスが吹かせるどんな風よりも強固なそれが、再びエリスに牙を剥く


最強の一撃に対抗できるのは同じく最強の一撃だけ、八雷招を超えるエリスの最強の奥義だけだ


「すぅー…追憶」


足先で円を描くようにゆっくりと足を整え跳躍の姿勢をとる、頭の上では風が吹き荒れ雲が渦巻き捻じ切れ大穴が空いている、今のコフは世界を貫く桐そのものだ


睨み合う大地と天空、互いにテーブルに並べるカードはお互いの切り札、くだらない読み合いはしない 後はどちらが上回るか、それだけの話だ


「行くよ…、『アイオロスセレスティアル』!」


ドッと地面が打ち付けられるような音を立てる、空中に発生した巨大な竜巻…風神の鉄槌の如きそれが大気を押し退けその衝撃が大地を揺らしたのだ、ただ放たれただけで世界が軋む質量の嵐


コフが放つ最強魔術『アイオロスセレスティアル』が迫る中、エリスが取る行動は何ぞや


防御?逃亡?眠たい事を言うのはやめてくれ、欠伸が出る


決めるのさここで…、向かう先は直線 コフ目掛けて飛ぶのさ!


「『旋風 雷響一脚』!」


大地から立ち上る雷光は天に向けて落ちる、落ちてくる空と天に昇る雷鳴は寸分のズレもなく共に激突する


街一つ吹き飛ばしかねない爆発はただの余波である、その中心にて巻き起こる破壊は塵さえも残さない、極大魔力同士の純粋なぶつかり合いは大地も空も圧迫し世界そのものがはち切れそうな程に鬩ぎ合う


「っ!、これは…!」


そんな激突の中先に顔色を変えたのはコフだ、自らの風の流れが変わっている事を肌で感じているのだ


膨大な風の奔流、宛ら滝の如く落ちる乱流を…それは真っ直ぐ登ってくる、雷が風を引き裂いているのだ、コフの風をエリスの推進力が上回っているが故の突破力


「ぐっ!ぅぅぅぅおおおおおおお!!!」


目を血走らせながら風の中を飛ぶエリス、奥義『旋風 雷響一脚』…記憶を具象化する力にて自らが出してきた魔術全てを再現して推進力にして飛ぶそれは、彼女が旅を重ねるごとに 戦いを重ねるごとに強くなる


既に、エリスの旅路はコフの最大奥義を上回るだけの所まで到達しているのだ


そんな中エリスは閃きに身をまかせるように足を伸ばした姿勢で体にかかる風の圧力を受け流し始める


「な 何を」


エリスは回る、竜巻を一身に浴びてクルクルと、やかでその回転はエリスの輪郭をぼやけさせるほどの回転に至り……




刹那、コフの腹にエリスの蹴りが突き刺さった


「ぅ!?、がはぁっ!?」


「いい技のヒント、貰っちゃいました」


コフの風が完全に内側から食い破られ、エリスの蹴りが押し通されたのだ


一瞬凄まじい破壊力を何処からか引き出したエリスの旋風 雷響一脚はコフのアイオロスセレスティアルを打破し、剰え新しい技まで閃いてしまった…、これは使えるんじゃないか?


「ぐっ…君は本当に何処までもなく強くなるな」


「ええ、エリスは何処までも強くなります」


「まるでシンのようだね…、ああ…ごめんよ」


コフの体から風が消える、渦巻いていた雲は弾けて蒼天は輝かせ、その中に鮮血と光の粒子が舞い散りコフの体と共にエリスは地面に向かって落ちていく


「だけどね、エリス…僕は……」


「ん?、なんですか?コフ」


「僕は…──────」


「え?なんですか?」


自由落下で落ちていく中コフがパクパクと口を開いて何か言っていた、でも何を言っているか聞き取れない、落ちる風速がコフの言葉を置き去りにするんだ、なんだって?何を言ったんだ?そう聞き返す間も無く地面はエリス達に肉薄し


「っと…、なんだったんですか?今の…」


地面に着地出来たのはエリスだけだった、コフは空中で光の粒子になって散ってしまったから、…何かを言残そうとしていたようだったけど なんだろう、あれはエリスの記憶にないぞ?


まだ、何かあったのか?


『まさかこれも倒すとは』


やや驚きに満ちたリゲル様の声が聞こえてくる、まさかこれも倒すなんて…と


「エリスはこれを倒してここまで来ているんです…」


『そうですか、貴方は確かにレグルスの弟子のようですね、敵が多い』


「どう言う意味ですか…」


『フフフ、…さて ですが、次で終わりかもしれないですね、それを乗り越えてきた張本人なら次に何がくるか、分かりますよね』


「え?」


再び世界が歪む、次…と言われて目の前の戦いにしか目がいってなかったエリスは思い至る、確かにこのアルカナの大群は強敵だったが、それで終わりではないのはエリス自身一番理解しているだろう


次がある、ならその次に来るのはなんだ…?


エトワールだ、エトワールには何がいた?レーシュだ、いやこの感じを見るにレーシュどころかアグニスやイグニスも付随してくるだろう、アルカナ最強クラスのレーシュに上位No.クラスの二人の側近…これはキツそうだぞ


本当に夢世界突破のために思考を割けない、次から次へと引っ切り無しに敵が来るんじゃ思考する暇がない


そう思っている間に蒼天に夜の帳が降りる、そうだ レーシュと戦ったのは雪の降る夜で……


そう思いを馳せて、目の前に広がる世界を見て…エリスは


「えぇ…」


思わず絶望の声を上げてしまう、そりゃそうだ 確かに夜は夜だが…目の前に広がる景色に雪はない、雪が降っていない…見るのは木々だ、ここは森だ、杉の森だ


そう、ここは帝国…アガスティヤ帝国 元テイルフリング領、黒杉槍の森だ


ここで戦った存在とさっき行われた異常事態から今から現れる敵にエリスの体は震え始める、いやいや…やばいよそれ


「アハハハハハハハハ!、エリス!やろうよ…愛し合おう!」


現れたのはレーシュだ、黒杉の向こうからヌルリと現れる太陽の如き髪色の女は牙を見せて笑う、この女は黒杉槍の森には居なかった筈なのに、筈なのに今 目の前にいる


「レーシュ様、ここは我らにお任せを」


「私達で十分だから!」


レーシに付き従うように両隣に立つのはアグニスとイグニス、通称レーシュ隊の二人だ…この三人は予想出来ていた、だがここは帝国…つまり


「決着をつけようじゃないかエリス、君をぶっ潰してやるよ」


そうナイトキャップを脱ぎ捨てながら現れるのは星のヘエ…


「殺してくれ殺してくれ殺してくれ!誰か私を殺してくれぇぇぇぇええええ!!」


ギャーギャー喚き立てながら自分の体から血が吹き出る程の勢いで掻き毟るのは終焉を望む幽鬼 ヴィーラント


そして


「……遂に、ここまできたか…エリス」


白い髪と白い装束、白い瞳をこちらに向けて影から現れるのは…審判のシン


マレウス時同様、纏めやがった…エトワールとアガスティヤの敵を纏めて出して来やがった


アグニス、イグニス、ヴィーラント


レーシュ、ヘエ、シン


今エリスの目の前にアルカナ最高戦力のアリエが三人も現れた、あまりの現実感のなさにエリスは…………



「うん、無理だこれ」



反転、後ろを向きます


飛走、駆け出します


逃亡、逃げ出します


『おや?、どちらへ?』


「逃げます逃げます!、これは本当に無理です!無理ですから!」


どう考えても無理だ、出てきたメンツがもう手のつけられないのばかりだ、さっきのよりは確かに数は少ないが強さは段違いだ、一番弱いであろうイグニスアグニスでさえさっきのヌンやサメフ以上の強さなんだぞ?、そこにレーシュやシンまで…勝ち目が無さすぎる


「あの人たちを一人倒すだけでもエリスがどれだけ苦労したか知っているんですか!?」


『ええ知ってますよ、だから出しました』


「お願いですから!単品でお願いしますよぉ〜!!」


いや単品でもキツイ、あの人達を倒すにはしっかり下準備をして作戦を練ってから挑みたいんだ、それをこんな…こんな状態で!?、勝てる!?無理ですよ、いくらあれから強くなったとは言え未だにレーシュやシンを超えられたとは思ってないんですから!


『面白くなってきましたね、泣き喚きなさい』


「もう泣き喚いてます!」


「んん〜?、エリス…何処に行くのかな、せっかく会えたのに袖にされると、悲しいじゃんかぁ〜」


そんなエリスの行く手を遮るような闇からヌルリと顔を出すのは…


「ゲェッ!?レーシュ!?」


「そうだよ!私だよ!、忘れないで…くれよぉっ!?」


飛んでくる鉄拳の重さは昔と変わらない、長い手足にふんだんにくっつけた筋肉から繰り出される一撃はあいも変わらず速く重く恐ろしい、走り逃げるエリスの頬を的確に居抜きただそれだけで脳を揺さぶる


「ぐぇっ!?」


「んん、いい感触だ…さぞ私の気持ちが伝わったことだろう」


「貴方本当にイカれてますね!」


まずいぞ、レーシュ一人だって倒せる気配がしない、なんせここは夜の森…レーシュにとって最も都合がいいフィールドだ、それなのに今は…


「『カリエンテエストリア』!」


「『イグニッションバースト』ォッ!」


「チッ!『旋風圏跳』!」


飛来する紅の輝きが背後より迫る、光は熱を持ちエリスの体を焼くように照らすんだ、それを直感と経験を頼りに感じ 咄嗟に旋風圏跳で回避を…


「『サンライトフラッシュオーバー』!!」


「なっ!?」


回避した先に飛んできたのはレーシュの魔術、光を放ち広範囲を爆撃する光線の嵐、伊達と酔狂で会得したと口にする割に彼女の光魔術の威力は少なく見積もっても世界トップクラスであり嵐のように飛び出た光の槍衾はエリスを含む広範囲の木々を次々なぎ倒して焼き焦がし吹き飛ばしていく


「ぐぅっ、いたた…!やりましたねレーシュ!」


「レーシュだけじゃないよ…」


「え?…あ」


「『アラウンドグラビティ』!!」


地面を転がりレーシュに目を向けた瞬間突如エリスの体が数十倍にも重くなるのを感じる、いや違うこれは重力だ、アルカナの重力使い…星のヘエの重力魔術!


「ぐっ、潰される…!」


「このまま腐ったトマトみたいに潰してやるよ、なぁ!」


地面に縫い止められるエリスの上に影が乗る、月を背に空を漂うヘエの姿が見える、や ヤバい…このままじゃマジで潰され…、っ!ぬぉぉおおおおおおおお!!!


「おおおおおおっしゃぁぁぁあああ!!」


頭の血管何本か切れる勢いで叫びながら全力で重量の拘束から抜け出し前へ転がった瞬間、地面が陥没する程の勢いでヘエが空から降り注ぐ、こいつは重力を使って自分の体重や相手の重量を自由に操れるんだ、そこから繰り出される重厚な一撃がどんだけ痛いかリゲル様にも知ってもらいたいくらいだよ!


「ぅぐ…、はぁ はぁ」


「随分疲れてるねエリス、大丈夫?私のこと殴る?」


「疲れてるなら上等じゃないかレーシュ、このまま畳みかけようじゃないか」


「それもそうだねぇ」


疲労に膝をつくエリスの前に立つのはレーシュとヘエ、アリエコンビだ…、悪夢みたいな光景だな、本当に夢に見そうだ


ダメだ、これは勝てない 今のエリスじゃ絶対に勝てない、一人落とせるかどうかも怪しいのに…こんなの


「『ギガントグラビティインパクト』ッッ!!」


「『アポロンクシフォス』!」


「グッッ!?!?」


重力により凄まじい重量を得た拳の振り落としに血を吐いた瞬間、くの字に曲がったエリスの頭を打ち据える爆裂の光拳、防御どころか避けることさえ出来なず木々をへし折りながら吹っ飛び、激痛に喘ぐ


「う…こんなの…どうすれば」


「そこだ!『フレイムタービュランス』!」


「くそっ…!」


休まる暇もなく続けざまに側面から飛んでくる炎の嵐、アグニスの炎だ


レオナヒルドのそれとは比べものにもならない規模の火炎の猛威は周囲の杉の木を一瞬で燃やし尽くしエリスに迫る、殺される…いや殺されて堪るか!


「『旋風圏跳』!」


「いつまで逃げんだよ!」


「え!?げぶぅっ!?」


風で逃げ出そうとした先に飛んでくる炎の拳、イグニスのイグニッションバーストによる超加速の炎撃だ、ただの拳の突き出しが立派な凶器と化す炎の加速はただエリスの頬を打ち抜くだけで火傷を負わせる


「ぅ…」


「『ミトスホーミングレイ』!」


「『カリエンテエストリア』!」


「イグニッションバースト』ォォォオオオオオ!」


レーシュを含めたレーシュ隊の連携が極まるように吹き飛ぶエリスに続けざまに叩き込まれる、レーシュの追尾光弾が空を舞うエリスを何度も叩き 目の前で炸裂したアグニスの炎が更にエリスを空中へと舞い上げ、トドメとばかりにイグニスの踵落としで地面に方向転換させられる…


「『エルクシ・シューティングスター』!」


「がはぁっ!?!!」


地面に激突する寸前で横から飛んで来たヘエの超重量級の膝蹴りが骨をへし折り再びエリスを杉の木に叩きつける


全員が全員強過ぎる、これじゃ手も足も出ない…、けどこの夢世界にエリスの味方はいない、本来ならこの場にメグさんも居たはずだが、今までと同じだ エリスの味方だけこの場には呼び出されない、エリス一人だけの世界で敵に嬲り殺される


…逆転の目が、全く見えない


「げほっ…げほっ」


「こんなもんか、魔女の弟子なんてさ」


崩れ落ちるように倒れるエリスの前に立つのはヘエ…アグニスとイグニス、そしてレーシュ


どうやってこの場を切り抜ける、どうやってこの危機を脱する、全員をどうやって倒したか思い出せ…、いやアグニスとイグニスはこの手で倒したが、ヘエとレーシュはエリス一人の力では勝てていない…!


どうすればいいんだよこれ…!


「エリス…エリスエリスエリス!、私を殺してくれるんじゃないのかな?私が憎いんじゃないのかな!?」


「え?ぐっ!?」


刹那、エリスの背後の杉の木が蠢き 真っ黒な木の根が起き上がり、意志を持ってエリスの体を巻き取り締め付け宙へと浮かべる…


「ヴィーラント!?」


「アハハハハ、どうしたんだい?そのザマじゃあ私は殺せないぞ?」


木の魔人と化したヴィーラントが大地から生えてくる、そうだ こいつも居た!、こいつもこいつで面倒だ、なんせ死なない上に傷つかない、本物の不死身…結局こいつがなんなのか師匠に聞く暇も無かったから未だにこいつの正体が何か分からない、分からないから対処法が未だに曖昧なんだ…!


それがエリスの体を締め付け縊り殺そうと締め付ける


「げっ…ごっ、ぁが…っ!」


「内臓を潰されて死ぬと苦しいよ、泣きたくなるくらい痛いんだ、私も経験したことがあるから分かる…辛いよねぇ、死ぬのはさ」


耳元で囁かれるヴィーラントの言葉、死ぬのが辛いだと?…ならなんでお前はそれを知っていながらリーシャさんを殺したんだ!、くそ…くそぉ、リーシャさんを殺したこいつに…殺される?、絶対に嫌なのに


嫌なのに…!


「ねぇ、ヘエ…この人誰?」


「ああ、君は帝国にいなかったから知らないんだね、僕達に協力してくれているファーブニル卿ことヴィーラントだ」


「こんなけったいなのと組んでたの!?、アルカナも落ち目だねぇ」


「まぁ否定はしないよ、こんな怪物だったなんて僕も今知ったんだ、けど…なんでもいいじゃないか、エリスを殺してくれるならさぁ」


「うーん…、そだね」


一瞬レーシュはなんでここにいるんだっけ?という顔をするもののまぁいいかと割り切ってしまう、彼等は本物じゃない…リゲル様によって作られたリゲル様に都合のいい偽物なんだ、だから余計なことを思考しない、ただエリスを殺すことだけを考える…


「さぁ、さぁ!口から内臓を出してみなよ…死ねるから」


「ぅぐっ!?」


より一層ヴィーラントに締め付けられ意識が霞む、マジで殺されそんな感触が背筋を伝うと共に、徐々に黒くなる視界の中 エリスは見る


全員の奥にいるシン、未だに一歩足りとも動かずエリスを見つめているシンの姿を、そうだった…まだシンもいるんだ、ここにいる全員をなんとか倒せたとしても、シンには勝てない…


未だにエリスより高みにいるシン、それをこんな状態で相手になんかできない、まさしく万事休すか…


ああ…ごめんなさい、ラグナ…みんな…エリスは…エリスは


そう、皆に謝罪をして この意識を…命を諦めかけた


その時であった






「エリスッッッッッ!!!!」


刹那轟く雷鳴に、エリスの意識が連れ戻される、エリスの名を呼ぶ声に意識が現実より連れ戻され…


「え?」


「ぅぎゃぁっっ!?!?」


エリスを縛り付けていたヴィーラントの木の根が引き裂かれエリスの体が外へと連れ出される、エリスの首を掴み 高速で飛来する雷光はレーシュ達から離れエリスを森の奥へ奥へ連れて行く


「エリス!貴様!」


「し シン…ぅげっ!?」


シンだ、シンが怒りの形相でエリスの首を掴み森の奥にある岩の壁へと叩きつけるのだ、なんだ…エリスの事殺すつもりか?、いやでも放っておいたらエリスはどの道死んで…


「これはどういう事だ!?」


「ど…どういうって…」


シンが叫ぶ、今まで沈黙を保っていたシンが怒号をあげながらエリスの首を掴みあげる、何を言ってるんだ…


「どう言うって、この状況に決まっている!、何故エトワールでお前に敗れたレーシュがここにいる!マルミドワズで捕らえられたヘエがここにいる!」


「へ…?」


疑問だった、シンが口にしたのはこの状況に関する疑問…、どうしてここに居ないはずの人間がいると…、他の幻影達が一切疑問に思わなかったことを、シンは疑問に…


「いや、そもそも私はあの時自爆をして死んだはずだ、何故生きている…?」


「シン…?、貴方もしかして」


「これはどう言うことなんだ!、これもお前の仕業か!エリス!」


まさか、シン…貴方 自我を持っているんですか!?、リゲル様が生み出した幻影なのに、なんで!?他の幻影達はそんな事…、っ!


思い出す、先程ヘットを倒した時 ヘットが口にした『脱獄に関する話』、デルセクトにいる頃のヘットでは知るはずのないあの言葉を思い出す


ヘエがNo.を低く設定していた事実をヘエの幻影自身が答えられなかったことを思い出す


そうだ、この幻影達は過去の再現ではなくエリスの記憶を元に作られた幻影なんだ、だからエリスが知らない事は知らないし エリスの知っていることは知っている、だからヘエはエリスの知らない事を答えられなかったし、デルセクトの後に再会したヘットはデルセクトの後のことを知っていたんだ


だったら、何故シンは自我を保っている?、…それはきっとエリスがシンの事を何よりも知っているからだ


超極限集中による識の読み取りで彼女の全てを読み取り記憶したからだ、…人格とは即ち記憶と経験によって形成される、ならシンの記憶を全て読み取ったエリスの中にはシンのもう一つの人格が保持されているとも言える


それもまた再現ではあるが、シンの再現度は他の追随を許さない、彼女の生きてきた全てをエリスは持っている…だから、ここで生み出された幻影にもそれが付与され 人格が生まれたのだ、リゲル様の支配すら跳ね除けるほどの強靭な自我が


「答えろ!エリス!」


「答えます!答えますから首から手を離して!」


「ふんっ、逃げたら殺すからな」


そう言いながらシンは渋々と言った様子で手を離す、…シンは敵だが、リゲル様の支配下に無いようだ、なら…ならばもしかして


「げほっげほっ…」


「早く答えろ」


「わかってますよ…、けど今からエリスの言う事、どんなに信じられなくても信じてくださいよ」


「内容による、嘘をついても殺すからな」


「…今、この空間は夢見の魔女リゲル様によって形作られた夢の世界の中なんです、これはエリスの記憶を元に作られた世界です」


「はぁ?、夢見の魔女…リゲルだと?」


「ええ、今エリスは訳あってリゲル様と敵対していまして、リゲル様がエリスを殺すためにエリスの記憶を読み取り、あそこにいるレーシュ達の幻影を生み出し エリスを殺させようとしているんです…」


「はっ、何を言いだすかと思えば…、ここが幻覚だと?信じられんな、何よりお前が魔女と敵対?何がどうなったらそうなるんだ」


「信じられませんか?、でも…事実そうなんです」


「……その言葉が正しければ、私は偽物ということになるが」


「ええ、本物の貴方はエリスを殺すために自爆をして…その後…」


「………………」


シンは腕を組み、そっぽを向く…、信じられないと言った様子で森の向こうにいるレーシュ達を見る、状況は信じられないが 事実はもっと信じ難いと言った様子だ、とても難しい顔をしている


「…些か信じられない、だが彼処にいるレーシュ達は、確かに本物と若干違う気がする」


「え?、そうなんですか?」


「ああ、見てくれはそっくりだが…行動の節々に違和感がある、幻影というの本当だろうな」


シンは語る、確かにあれはエリスの記憶を元に作られている…だからエリスには違和感を感じないが、シンは違うようだ、シンだけが感じられる何か…十年来の同胞に感じるところがあるようだ


「なるほどな、分かった…」


「で?どうします?エリスを殺しますか?」


「ああ、当たり前だろ」


う、まぁそうだよな…或いは仲間に引き入れられないかと思ったが、エリスとシンはどこまで言っても敵…宿敵と言ってもいい仲なんだ、ここが幻覚でシンが偽物でもそこは変わらないよな…


「だが」


そう口にするシンはクルリと反転し、エリスから背を向け…


「ここが魔女の作った世界で、魔女が今お前を殺そうとしているというのなら、その狙いに殉ずるのは腹立たしい…」


「シン…」


「私は私だ、魔女の操り人形じゃない、魔女の弟子であるお前は憎いがその恨みの根底は魔女だ!、魔女なんぞにいいように使われてたまるか!、何より…!」


ギロリと凄まじい威圧でシンはエリスを睨み付けると共に 音が出るほどに拳を握ると


「私のアルカナを魔女がいいように使っていること自体が気に食わない!、アルカナは魔女に反する組織だ、それが傀儡となっているならば…審判を加えるのが私の仕事だ!、先に奴らを片付ける!お前はその後だ!」


「シン!、じゃあ一緒に戦いましょう!」


「断る!、私は私で好きにやる!魔女には従わんがお前にも従わない!、私は魔女排斥組織大いなるアルカナの幹部!審判のシンだぞ!」


「でもぉ…」


「ええい!、急に仲間意識を持つな鬱陶しい!」


「シンぅ…」


「寄るな!纏わりつくな!触るな!」


でも嬉しいんですよぉ、エリスだって貴方のことは今も敵だと感じてますけど、ここまでずっと一人で戦ってきたんですよ?、そこに一緒に戦ってくれる人が現れたらそりゃ相手がアルカナの幹部でも嬉しいですよぉ


「手を出すなよエリス、これは私の審判…私の戦いだ」


「え?、でも相手はレーシュやヘエですよ?強いですよ?」


「私の方が強いから問題ない」


おお…、敵になると恐ろしいけど、味方だと死ぬほど頼もしいな


なんて話がひと段落した瞬間のことだった、エリス達の目の前の森が突如として爆ぜるように弾け、木々をなぎ倒し…


「今度こそ仕留めてやるよエリス!」


「私の事忘れてないよねぇ!」


「殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれぇぇぇえ!!!」


「纏めて来たぁぁぁぁぁあ!!?!?!?」


ヘエとレーシュとヴィーラント、オマケにアグニスイグニスまで纏めて木々をなぎ倒して現れたのだ、や やばい…纏めてかかられたらまた手も足も…


「『ライトニングステップ』ッ!!」


刹那、動き出したのはシンだ


足に稲妻を纏い 雷速で走り出し駆け出し、幻影達に先手を取られたにも関わらず先制を取ると


「ヘエ!貴様は寝てばかりいないでもっと働け!!」


「え?シン?ごはぁっ!!」


蹴り飛ばした、エリスに襲いかかるシンを雷蹴にて遥か彼方まで落とすように蹴り飛ばす、そこに一切の容赦も躊躇いもない、今まで仲間を手にかけ続ける審判の責務を全うして来た彼女にとって この状況は悲しいことに日常なのだ


「シン!?、何してんのさ!」


「レーシュ!貴様は単独行動をもっと控えろッッ!!『ゼストスケラウノス』!」


呆気にとられるレーシュが反撃に出るよりも早く動くシンは拳に雷を纏わせ殴り抜く、ゼストスケラウノス…確かエリスの火雷招の現代版、それを拳に乗せて殴る…まさしく現代版煌王火雷招を放ちレーシュの顔面を射抜くと


「げはぁっ!?」


レーシュが吹き飛ぶ、押しても引いてもビクともしない怪物じみた耐久力を持つレーシュが耐えきれず吹き飛んだのだ、なんて攻撃力…レーシュより強いってマジだったのか


「レーシュ様!、己…いくらシン様とは言え見過ごせん!」


「てめぇぇぇえ!!私達の隊長に何やらかしてんだぁぁああ!!」


「アグニス…イグニス、お前達は」


レーシュを殴り飛ばされ怒りに燃えるアグニスとイグニスが連携のとれた動きで二人揃ってシンの背後から襲いかかる、しかし…シンはそれさえも読んでいたとばかりに雷のステップで瞬きの間に背後に回ると


「なっ!?」


「居ない!?」


「お前達は、誰に向かって口を聞いているんだ…?」


シンを狙った攻撃が空振り、目を見開く二人の頭を掴むと共に…、落とす まるで点から落ちる落雷の如く二人の頭を地面に叩きつけ地面に埋めるのだ


「そして、ヴィーラント!」


「あはは、シン…君が私を殺してくれると?」


「如何にこの場で幻影であるとは言え…夢幻であるとは言え、お前をこの手でぶっ飛ばす機会を与えてくれた魔女に感謝しそうなくらいだ!、望み通り死ね!ヴィーラント!!」


迫るヴィーラントの木の根が全て…それこそ一瞬の間も置かずに全てが電撃により焼き払われ、木の魔人となった彼の体が無防備になる…、そこに向けて手を翳し 体から電撃を迸らせ、青筋を立てたシンは叫ぶ


「『サンダーストームティタノマキア』ッッ!!」


視界の全てが光に覆われる、耳を塞いでいなければ鼓膜が千切れてしまうそうな轟音が響く、自然界最強のエネルギーである『雷電』の最大解放、それが容赦なくヴィーラントに向けられそのシルエットすら掻き消してしまう


「ふんっ、スカッとした!ザマァ見ろ!、ゴミめ!」


「えぇ…」


視界が晴れる、木々は薙ぎ倒されドカンと空いた巨大な穴が目の前に広がっている…、シンの魔術で森ごとヴィーラントを吹っ飛ばしたのだ、いや 吹き飛ばされた森の向こうで蠢く影がある、…ヴィーラントだ まだ生きているようだが、今ので凄まじいダメージを負っただろう


レーシュもヘエもアグニスもイグニスも、まだ存在しているがたったの一瞬で甚大な被害が出た、エリスが手も足も出なかった奴らを前に圧倒してなお余裕で佇むシンの後ろ姿にただただ驚きの声しか出ない…


「さぁ、次は誰が来る…魔女の手先になるくらいなら、私がこの手で裁いてやろう、審判の名の下に!」


クソ頼もしい…、エリスよくこの人に勝てたな

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