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203.決戦 閃光の魔女プロキオン


「………………」


「ぐぅぅぅぅうううう!!!」


距離 互いに息が触れるほど近く


敵意 共に溢れるほどに


視線 交錯し、睨み合う 目の前の敵の動きを見逃さぬ為に


「レグルスさん!気をつけてください!、今のルナアール…いえプロキオン様は普通じゃありません」


リリアの体を抱きしめ後ろに下がらせるナリアが叫ぶ、今 目の前で対峙するレグルスと怪盗の役を演じるプロキオンに対して


今、目の前で行われようとしているのだ、孤独の魔女と閃光の魔女の戦いが…


「分かっている、だからここに来ているんだ…リリア、動けそうな奴を起こして皆を安全な場所へ」


「え…でも…」


「出来るな?お前は私 孤独の魔女の友なのだから」


「う うん!」


さて、これでクンラートたちは大丈夫だ、後は私がこいつをなんとかするだけだが…!


「ぐぅぅぅう!!!!」


「ああ、分かってるよプロキオン…、一対一…だろ!!!」


プロキオンの剣を握りしめ 持ち上げ、投げ飛ばし空中へ、ここでは地上に被害が出る…前回はそのせいで遅れをとったのだ、同じ轍は踏まんさ!


「ーーーーーーッ!『凝固陣』!!」


街を見下ろす程の高さまで投げ飛ばされたプロキオンはくるりと態勢を整え、足元の虚空に、剣光で陣形を書き込む


あれがプロキオンの最たる武器、用意するのに時間がかかるはずの魔術陣を一瞬でどこにでも用意する高速術式、地面だろうが壁だろうが相手の体だろうが何もなかろうが関係ない…


凝固陣で固めた空気の上に 虚空に浮かび上がる陣の上に立つプロキオンは正気を失った目で地上にいる私を見下ろす、分かっているさ そこでやろうってんだろう?そのつもりで投げ飛ばしたんだ


「気が合うな…プロキオン」


ここで決着をつける、次はない…もうエリスに迷惑はかけん…師匠として、そしてプロキオンの友として、この戦いに終幕をもたらそう!


「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を 『旋風圏跳』」


風を纏い 飛び上がる、足にだけ風を纏わせれば空を歩くなど造作もない、それこそ足場のない空中であれ、戦場になり得るのだ


「ぅぅぅううううう……」


「醜いぞプロキオン、今のお前は醜くて堪らない、…その有様はお前が最も嫌う暴力的なそれではないのか?」


「……ぅぅぐぁぁああああ!!!」


言葉は通じるようだが 会話にはならんか、仕方あるまいとプロキオンと同じ高度まで駆け上がり、魔力を隆起 その狂気の眼光に力を以ってして答える


「ぐっっっ!!!ぎぃぃぃいいいいい!!!」


悲鳴にも似た猿叫と共にルナアールは身を屈め…、来る!


「っっぐ!!!」


飛んでくる、飛んでくると共に振り抜かれる剣を手で去なし握り拳で答える、前回はただの怪盗風情と甘く見たが 、『来る』と分かっていれば避けられない程ではない、それに


「甘く見るなよプロキオン!、ごっこ遊びはやめたらどうだっ!!!」


続けざまに首目掛け振るわれる剣を片手で受け止め ガラ空きになった胴体に蹴りを加えその体を宙に浮かせる


ごっこ遊びだ、今のプロキオンの剣は、確かに今の斬撃は速いしルナアールは神速の持ち主だと広く知られている、だが…だがな こいつの本来のスピードはこんなもんじゃない


プロキオンは今強烈な自己暗示で自分を別の人間だと思い込んでいる、役に入り込んでるとでも言おうか、それ故に『プロキオン本来の力』が大幅に封印されているのだ、エリスも仮面を外し素顔を晒したプロキオンには手も足も出なかったと言っていたのはそういう事だ


仮面をつけた状態 つまりルナアールとしての実力は精々第二段階最上位者くらいの力しかない…


「ぅぅぅううう!!!怪盗剣技四の項…『幾条乱れ琴線』!!」


私の蹴りを受けてもなお即座にぐるりと反転し、踏ん張りの効かない空中で放つ、無数の斬撃…しかし、効かん 効かんのだ、プロキオンの剣はそんなに遅くない!


「無様な姿を晒してくれるなプロキオン、私はルナアールではなくお前と話したいんだ!」


避ける まるで無数に張り巡らされる絃のように煌めく光芒を枝でも避けるように軽く身を捻り回避し、剣を振るうルナアールの眼前に迫る


私は今プロキオンと戦いに来ている、ルナアールじゃない…故に、その仮面は邪魔だ


「ぐぅぅっっ!?!?」


「邪魔だ怪盗、脇役は横に退いていろ…」


無数に飛び交う剣光の中、より一層強い光が 一筋の光が真っ直ぐ仮面に走る、我が魔力を纏った手刀がその仮面を真っ二つに切り裂いたのだ、これでもう怪盗はいない


仮面が壊れ 面を晒し、役が剥がれ 正体を晒し、今 ここからルナアールの怪盗劇は終わりを告げ…


「ぐ…ぁがぁ、…レグ…ルス!」


「ああ、私だ 私を見ろ、プロキオン」


魔女 プロキオンが姿を現わす、憎々しげに睨むのはルナアールではない 今はもうプロキオンだ、もはや役など演じる必要はない、本気でやろう プロキオン…でなければ意味がない


「ぅぅ…ああああああああ!!!」


「さぁ、来い!プロキオン!!!」


漸く、舞台に役者が揃った、私とお前だけの 一対一の劇が 漸く始まるのだ


咆哮を轟かせるプロキオン、その動きは最早怪盗を意識することはない、私という敵対者を殺すことだけを意識したプロキオンはくるりと剣を逆手に持ち替え…


「ーーーーーーーーーッッッッ!!!!」


爆裂させた、否 爆発するが如き速度で剣を振るったのだ、そのあまりの動きに世界がついて行けず 空気が一瞬にして外へ押し出されたが故に生じた爆風は私の体さえ吹き飛ばす


「くぅぅ、…そうだ、それでこそプロキオン、お前だ!」


「うるさい…うるさいッッッ!!!」


最早いつ書いたかも分からない魔術陣を足場に再び身を屈める、さっきの突進と同じ構えだ…、だが


「輝剣・煌々閃々ッッ!!」


消えた プロキオンの姿が、そう視覚が脳に情報を伝達するよりも前に四方から同時に剣撃が飛んでくる


「ふっっ!!」


それを直感と感覚だけを頼りに捌く、四方八方十六方三十二方…ほぼ無限に思える全ての角度から何度も何度も剣が飛んでくる、本当に比喩ではなく目にも留まらぬ速度で私の周りを飛び回っているんだ


魔女の目を以ってしてさえ捉えられないプロキオンの速度、これが彼女が『閃光』の名を冠する理由だ


プロキオンは別名『最速の魔女』とも呼ばれる、その剣を振るうスピードから当人の移動速度まで全てが一段上にある、あのアルクトゥルスでさえ 近接戦での回避は諦めてしまうほどにプロキオンは速い


「ぐぅっ!?」


気がついたら蹴り飛ばされていた、顎に激痛 恐らくここを蹴られた、空中で風を操り何が起きたか整理する間も無くプロキオンの追撃が火を噴く


「がぁぁぁあああああ!!!」


乱れ飛ぶプロキオン、高速で虚空を飛び交いながら空中に魔術陣を書きまくりその上を飛びながら私に迫ってくる、防御する為手を出すよりも前に既に我が体には切り傷が生まれ 激痛を感じるよりも前に腹を蹴り上げられ …たと理解するより前に既にプロキオンは斬撃を放ち終え剣が私の体を切り裂くよりも前にその拳が私の頬を貫き殴り飛ばす


「がぁっ!!??」


一瞬だ 今の一瞬で十連撃以上食らった、この私が正確な攻撃回数を把握できないくらいやられた、知覚の更に先を行く高速…物理法則さえ歪めかねない超高速、まずこれに対する対処をしなければプロキオンの相手は出来ない


「っと!光を纏い 覆い尽くせ雷雲、我が手を這いなぞり 眼前の敵へ広がり覆う燎火 追い縋れ影雷!、紅蓮光雷 八天六海 遍満熱撃、その威とその意在る儘に、全てを逃さず 地の果てまで追いすがり怒りの雷を!『若雷招』!!」


吹き飛ばされる間に詠唱を終え態勢を立て直すと共に解放する、放つは若雷招…壁や床に通電し敵の逃げ場を奪う室内特化魔術をこの夜空の戦場にして放つのだ


当然本来このような使い方では威力は出ない、何か通電させなければ意味はない、だがそれは普通の話、悪いが私は普通ではないのだ


空中で四方に放たれた雷は降り注ぐ雪を通じて拡散していく、雪から雪へまた雪へ 雷は分散しながら拡散し、終いにはこの夜空に巨大な雷の網を広げるように作り出し展開させる


「ぐっ!…」


嫌がった、プロキオンが雷をその身に受けるのを嫌がり魔術陣を作りながら引き下がった…それでいい


「すぅー…はぁー…すぅー…」


雷が拡散し終えるに準備をする、このまま普通にやれば私はプロキオンに嬲り殺される…何せ私の反応速度を大幅に超えた速度で飛び回るのだ、普通にやればシリウスだってプロキオンの姿を見ることは出来ない


だが…そう、普通にやれば という話だ


「…『流視の魔眼』」


開く、私が使える中で最高峰の魔眼術を、未来を見る唯一の方法 流視の魔眼を、この魔眼術こそ 対プロキオン攻略に於ける必須項目、これ抜きでプロキオンを倒す方法を私は知らん


「ぐぅ…ぁがぁぁぁあぁ!!」


「来い、…こっちも準備万端だ」


煌めく剣光、雷が消えた瞬間煌めくのだ、豆粒みたいに小さく見えていたプロキオンがただの一瞬で肉薄し剣を振るう、普通ならば目にも見えないそれを 私は


「見えているぞ!プロキオン!」


回避する、上体を大きく反り返し すっ飛んできた矢の如きい一閃を躱す、さっきまで見えなかったそれが 今は見える


「ぐぅっ!ぎぃぃぃいいいいい!!!」


即座に足元に魔術陣を作り出しそれを踏みしめ反転すると共に切り掛かってくる、相変わらずの速度だ、だが 偶然や偶々で避けられたわけではない


「此れは見えざる神の手、広く 大きく 全てを覆いし大いなる力、その指先に至るまで我に力を与えよ『絶空掌』!」


迎え撃つように突き出す掌から生まれる風の爆発、しかしそこはプロキオン 一瞬で私の動きに気がつき風を切り裂き方向転換して後退する…、そうさ 見えているのだ


流視の魔眼…、いつぞやのエリスにもその原理を教えた通称未来を見る魔眼、魔眼術の最高峰に位置する魔眼だ


が、さっきも言ったが『通称』だ、実際に未来を見てるわけじゃない、見ているのは流視の魔眼名の通り『流れ』だ


大気の流れ 魔力の流れ 或いはその人間の流れ、この世の万物の動体には全て流れがある、…まぁ 有り体に言うならこの世の全部が川のように見えるってわけだ、それでどうやって未来を見るか?


川を見ればその水が次にどこへ行くのか分かるだろう?、それと同じだ、動きとはそう複雑なものではなく全ての動作が繋がっている、動作一つ一つを大きな流れとして見て そこから次の流れを予測する、これが未来視の正体だ…


これがあればどれだけプロキオンが私の目では捉えられない速度で動いても、周りの流れまでは誤魔化せない、魔力と大気の流れからプロキオンの動きを予測し避けることも出来る


多くの魔眼を並列使用し流れを感じる魔眼技術 それこそが流視の魔眼なのだ、故に流視の魔眼と言う名の魔眼があるわけじゃない、全ての魔眼を組み合わせ適切に使用することで初めて見える世界はプロキオンの動きを確かに捉える


「ぐぅ…うぐぅぅぅ…!」


「さぁ行くぞ、ここから 開幕だ!」


纏う旋風圏跳を最大出力で開放する、剣を構え 深く踏み込むプロキオンと相対し…


今、時を刻む針が…遅くなる




「ーーーーーーッッッッ!!!」


消えた、両者の姿が 二人の魔女の全速力の移動、それが王都アルシャラの上空にてぶつかり合う


まるで神が天の上から夜空と言う名の巨大なバスドラムを叩くかのような轟音が何度も何度響き渡り その衝撃は夜空の雪雲を散らし、輝かしい星天を露わにする


「はぁぁぁぁああああ!!!!」


「ぅがぁぁああああああ!!!!」


そんな星の世界の中 ぶつかり合う二つの超々高速飛翔体、音を超え光の速度に片足を突っ込もうかと言うそれは、質量を持つ存在が叩き出せる物理的限界速度の只中で争う


「ーーーーーッッ!!『万唱凍風千鳥』!」


「くぅぅぅああああああ!!!」


レグルスが舞うようにぐるりと旋回すれば文字通り千の氷刃が夜空に煌めく、狙うは一人 プロキオン、されどプロキオンは千の刃を前に一振りの剣を以ってして迎え撃つ


ジグザグと鋭角なヒビの如き軌道で真っ直ぐレグルス向かって飛びながら刃の雨を切り裂きながらまるで意にも介さず進み、振るう その絶剣を


「ッッーー!『神刀蛇之麁正』!」


手の中に生み出すのは白く輝く片刃の一剣、それを以ってしてプロキオンの剣閃を食い止める


地面に落とせば街一つ吹き飛ぶ程膨大な魔力を圧縮した、超高密度で形成されし魔力物質を剣としたそれは例え魔女の一撃さえ防ぐ


「しゃぁぁあああ!!!」


刹那、プロキオンが更に剣をその場で数度振るえばレグルスの出した剣がまるでごぼうのように輪切りにされ


「って嘘ぉっ!?」


続けざまに振るわれる剣を回避しながら持ち手だけになった神刀を消し去る、プロキオンの持つ剣…あれはプロキオンが本来使う神星剣カニスマイラの模造品だ、本来の切れ味は無い…と思ったんだが、達人は武器を選ばないってのは本当だな


「しぃぃぃいいいいいい!!!」


「プロキオン!何故そうも荒れ狂う!、何故そうもエリス姫に拘る!!」


宵闇に閉ざされる街の上空を飛び交いぶつかり合い、衝撃波を生み出しながら剣と魔術が交差する只中でレグルスは叫ぶ


「聞こえているんだろう!、お前は悔いているのか!、エリス姫を守れなかった事を!」


「ぅぅぅぅぅぅう!!!」


須臾にさえ満たない間に振るわれる連剣を体を逸らし その隙間に蹴りを挟み込みながら問いかける、プロキオンは悔いている…この八千年間悔い続けた、それ故にそこまで…狂気的と言えるほどに芸術に打ち込んだんだ


まるで懺悔するように、それを残し続けた、それはエリス姫の為に 或いは…


「それとも、スバルか!スバルの命を奪った事を悔いているのか!!!、お前にスバルを殺させた 私達を恨んでいるのか!!!」


「ぐぅぅああああああああ!!!!」


プロキオンの攻撃がより一層激しさを増す、最早剣を置き去りにし 斬と言う概念だけが飛び交う、当たりか…


いや、分かってるさ 恨んで無いってことは、だそれでもお前は思ったはずだ、スバルの胸に剣を突き立てながら、どうしてこうなったと 何故こうなってしまったと、運命を呪っただろう!


「だが…だが!、仕方ないだろう…!」


こう言ってはなんだが、仕方がなかったとしか言えない、スバルという男が死んだのは スバルをプロキオンが殺したのは仕方がなかったんだ…


何せ、何せスバルは…


「あの男が!スバルが羅睺十悪星になった以上!奴を捨て置けばどうなるかなどお前だって分かっていた筈だ!」


「ぐぅぅ!ぎぃぃぃい!!ボクは…ボクはぁぁ!!」


血涙を流し嘆きながらも剣を振るう、お前が今戦ってるのは私か?それとも己か…


悲恋の嘆き姫エリス…、エリス姫とスバル・サクラの悲恋と過ちを描いたこの国が誇る名作悲劇、誰もが知る この国なら、世界でも多く知られるその悲劇には 続きがある


作劇の中では戦乱に巻き込まれた国の為、兵士であるスバル・サクラは戦場へ赴き二度と帰らなかったと言う、スバルに心惹かれていたエリス姫は嘆き悲しみ幕を閉じる そんな終わり方だ…


エリス姫はスバルを愛し スバルもまたエリス姫を大切にしていた…なのに二人は戦乱に引き裂かれて、そんな内容が劇で繰り広げられて私は違和感しか感じなかったよ、何せあれはプロキオンによって多分に脚色されている


…エリス姫をスバルが愛していた?、冗談じゃない スバルは誰かを愛するような人間ではない



まず、史実の話をするとそもそもエリス姫は姫じゃない、双宮国ディオスクロアの地方を治める大領主の一人娘 姫ではなく貴族の娘だったのだ、そしてスバルはそこの領主が抱える衛兵団の一人だった


農夫に生まれながらも田畑が荒れて衛兵として働かざるを得なくなったスバルはそこで、己の生き方を見つけた


……スバル・サクラという男は欠落した男だった、人の感性というものがすっぽりと抜け落ちている、奴は畑の雑草を抜くのと人を斬り殺す事の区別がつかない、邪魔だから消す それを無感情でやってのける天性の殺戮者であった


しかも質の悪いことにスバルには剣の才能があった、才能と言う一点だけなら魔女さえ上回った、十も行かぬ子供の頃から独学で第二段階の扉をこじ開けてしまうくらいには才能があった


そこで領主の娘エリスはスバルと出会い、彼を気にかけた 年が近くそれなのに逞しく生きる彼を見て心惹かれて…まぁその辺は劇と同じだが、違う点があったとするならスバルはエリスの愛を受けても何も感じていなかった点だろう


そして事件は起こる、シリウスがナヴァグラハと結託し大帝トミテを動かし大いなる厄災を引き起こしたのだ、世界中は戦乱に巻き込まれた 当然ディオスクロアも…エリスもスバルも


スバルは領主に命じられるまま戦場に向かった だがエリスは止めた、行けばスバルは修羅となる事を理解していたから、絶対に行かせては行けないと体を張って止めたが結果はご存知の通り…


エリスを置いて立ち去るスバルにエリスは何かを呼びかけたがそれさえも止めるには至らずスバルは戦場へと赴いた



そこで、スバルは鬼となった、人を殺すことに躊躇を抱かぬ人格と他を圧倒する剣の腕で瞬く間に敵軍を殲滅 ついでに止めに入った味方軍も全滅、それを見込んで接触に来たシリウスにさえ襲いかかり…ようやくスバルは敗北しその動きを止めた


『その腕 その心 その運命、平穏の中では生きづらかろう、どうじゃ?ワシの所で働かんか?、ワシの下ならばお前は何にも縛られん、歩合で給料も出そう …じゃから どうじゃ?』


シリウスはスバルを誑し込み、仲間に引き入れ羅睺十悪星とした、その時スバルは明確に人類の敵となり、我々の前に立ち塞がった 『刃夜煌めく剣天スバル』として


…そうさ、戦ったのだスバルと我々は、戦いの最終局面においてプロキオンとスバルは激突した、プロキオンにはスバルを止める義務があった…親友であったエリスが止められなかった彼を かつて共に過ごしたこともあったスバルを止める義務が


結果としてプロキオンは勝ち、スバルの心臓を貫き戦いは終わった…、だが親友の愛し人にして自らの友でもあるスバルとプロキオンを戦わせたのは我々だ、我々みたいなものだ…



悔いているんだ、プロキオンは スバルとエリスを後戻り出来ない状態にしてしまった事を、スバルを殺しエリスの所へ連れて帰ることが出来なかった事を…永遠の時間の中ずっと


それが、お前を狂わせ シリウスに漬け込む隙を与えたのか…


「がぁぁぁあ!!!!」


たった一度剣を振るうだけで飛ぶ鋭利な斬撃波は魔力の層を何重にも着込み防御を固める私の肌でさえ容易に切り裂き血を舞わせる


「スバルの真似事をして、エリス姫の悲劇に終止符を打つ、それがお前のやりたい事か、それがお前がスバルにやらせたかった事か!」


「スバル…スバル…何故…何故」


譫言を囁きながらも攻撃の手は緩めない、肉薄し 一刀 私を頭から真っ二つにする為神速の剣が振るわれる、が 見えている…それも!


「くっ!!」


振り下ろされるその剣を両手で受け止め、白刃を取る…


「そんな事をしても何の意味もないとわからんか、スバルは死んだ!エリス姫ももう遠の昔に死んでいる!、今ここでお前がどれだけあの二人のために暴れようとも結果は変わらん!変えられん!」


「うる…さい!」


「いいや言わせてもらう!、この世が劇だと嘯くのは構わない!、だが目を逸らすな!今この時代 この世界 この現実から目を逸らすな!、その手で奪おうとしているのが確かな命であることから目を逸らすな!!」


自分を騙し 仮面を被り 目を逸らし続けて暴走して、剰えその手で罪もない命を奪って、何になる 何にもならん、悪いがこれは葬いでも贖罪でもない自己満足に過ぎない


エリス姫の悲劇を断ち切ってもエリス姫は微笑まない、スバルのやり残した事をお前が代わりにやってもスバルはこちらを見ない


お前の演技は 独り善がりのそれなのだ!


「うるさい うるさいうるさいうるさい!!!」


「ぐっ…」


押し込まれる、掴んだ剣にかかるプロキオンの力が私の体を推していく、怒りに狂っても魔女は魔女、アルクトゥルスにさえ比類するその近接戦能力の高さは変わらない、いくら旋風圏跳で体を押しても それ以上の力が返ってくる


受け止めたのは、失敗だったかな?


「ゔぅゔうがぁぁあああ!!!」


振り抜く プロキオンがその剣を、その圧力 その怪力に押されこの体は突き飛ばされ下へ下へと飛ばされ、叩きつけられるように街へと墜落する


「ぐぅぅぅぅぅぅ…いたた…」


私が突き落とされた衝撃で周辺の家屋が粉々に吹き飛び、王都アルシャラの一角に巨大な穴が開く、人がいなくてよかった…


「……ふんっ、プロキオン 私はお前の友だと胸を張れる、だからこそ お前が嫌う行いと過ちを糾す義務がある、…お前は今間違えている」


砂埃を手で払いながら天高く立つプロキオンを見上げる、奴の理屈は狂って歪んだものだ、なんとしてでも 正さねばならない


「だがどうしたものか、流視の魔眼を使っても近接戦では奴に分がある、…遠距離から魔術をぶっ放したいが、奴はそれを防ぐ術も持ってるしな」


魔術陣の中には相手の魔術を反射するなんてクソ面倒な魔術もある、それを使われるのが怖いから相手に有利な近接で挑んでるんだが…


「ん?…」


ふと、考えるのをやめて上を見る、そこには相変わらずプロキオンが静かに立っており、…攻めてこないのか?


ああそうか、まだアイツはプロキオンなんだ、ああなっても 自分の街を傷つけるのを無意識的に嫌がってるんだ、…益々 助けてやらねばなるまいな


「仕方ない、奴の守りたい街をこれ以上傷つけないためにも…上でやるか」


トンっと軽く風を捉えて浮び上がれば、この体はみるみるうちに雲の間近まで駆け上り、再び 空の戦場へと戻る、やろうと思えば上から迎え撃つ事も出来ただろうに…、それは侮りではなく矜持か、お前らしい


お前らしいから、それでいい…段々戻ってきている、怪盗から 閃光の魔女に


「なら、お前の矜持に則った上で戦ってやろう」


「ぅぅぅうううう…」


「おい!プロキオン!」


プロキオンは私と戦い始めてからサトゥルナリアを襲う素振りを見せていない、不可抗力ではあったがさっきの街への被害以外は街にも手を出していない、上空で私を態々待ったり…戦闘中かも疑いたくなるような徹底振りだ


これはプロキオンの矜持なのだ、プロキオンはなによりも一対一を好む、そこに余計な物を巻き込まないように神経をすり減らしていつも戦っていた、その信念の行動は魂に深く刻み付いているのだ


仮面を外しプロキオンになったこいつは決して私以外に手を出さない…か


「…来い」


手を小招けばプロキオンは動き出す、今度は構えを変えて


「ぅぅうううう!!」


剣を正眼に持ち構える…、通称 奥義・星王剣、ルナアールを演じる時使っていた軽薄な剣ではなく、こちらは暦としたプロキオン本来の構えにして奥義


「くぅぅぅ…かぁっ!!」


「っ…と!」


計算され尽くした正眼の構えから飛んでくる剣は、相手の凡ゆる対応をパターンとして記憶し、相手の行動を支配するように次の手を打つ、プロキオンが長い鍛錬の末作り出した剣のルーティン それこそが星王剣の真髄


何より恐ろしいのは


「高速術式…『無限雫剣陣』」


「ぐっ!?」


気がつけば我が背後にいつのまにか作られていた陣が輝き、突き出てくる 無数の刃が身を貫く


この構えは斬撃と共に陣を書くことができる、さっきの高速怒涛の攻めに魔術陣まで加わるのだ、これこそプロキオンの戦い方…


……いいぞ、呼びかけた甲斐があった、戻って来ている…ルナアールというプロキオンに染み付いた役から 本来のプロキオンが!、計画通りだ!


「はぁぁあ!!!」


「『幻影陣』…!」


魔力を纏った貫手を放つも捉えた筈のプロキオンの姿がゆらりと消える、が…見えている!


「ちっ!」


屈み 身を捩り、不可視の斬撃を避けながら宙を舞う、この夜空のダンスホールを二人で駆け巡り、闘争という戯曲に身を委ねる


「ーーーーーッッッ!!」


「ぐぅうぅっっ!!!」


高速で口を動かし 聞き取れぬほどの速度で無数の魔術を放つ、風の斬撃 炎の裂破、鉄砲水の掃射、そしてホーミングする光弾 とても一人に向けられる数ではないそれがプロキオン一人を狙って放たれる


がしかし、プロキオンもまた魔術の雨をそよ風のように躱し 或いは突風のようにはじき返し、つむじ風のように間を抜ける


神域の剣 極地の術のぶつかり合い、この高速の戦いの間に一体幾つの技巧が凝らされているだろう、幾億の駆け引きが成されているだろうか


「ーーーーッ!!『神断 裂空割破』!」


レグルスが手を横薙ぎに払えば 空間が歪む程の斬撃が放たれ夜空が斜めにズレる、しかし


「ぎぃぃいいい!!」


それさえも プロキオンの剣の前では通じない、如何なる攻撃もプロキオンの前では根菜のように両断され…


「甘い!!」


「ぐぅっ!」


かと思えば剣を振り終えた瞬間を狙いレグルスの風を纏った絶蹴がその眉間を捉え吹き飛ばす、ただ当たっただけで空間が揺らぐ程の蹴り 人間どころか山さえ消しとばす蹴り


…それを受けプロキオンは


「ぐぅぅ…あがぁぁあ!!」


軽く態勢を崩すだけで、すぐさま切りかかってくるのだ、魔女耐久の前では あんなの小技だ


「っ!『払雷ノ征矢』」


「『鏡面反魔陣』」


「あ!ちょっ!?」


私が魔術を撃てば即座に魔術を反射する陣を目の前に展開する、これだ これが厄介なのだ、私が最も警戒する魔術 これが…!


「ぐぅっ!?」


自らが安易に放った雷がプロキオンの陣に吸い込まれ主導権を捻り取られ跳ね返ってくる、これその物の回避は容易だ、手を目の前に突き出し雷を突き崩す 元を正せば私の魔術、解体そのものは余裕…だが


(このワンアクション、見逃すお前では無いよな…)


手を前に出し 魔術を止める、これは明確な隙だ、時間にすれば一秒にも満たないが…プロキオンには十分、大技を放つに足る時間!


「高速極大陣…」


魔術を消し終える頃、既にプロキオンは私の前で剣を振って 魔術陣を虚空に書き上げている…、大きい 余りに大きな陣、高速で夜空を飛び交い書き上げた陣の大きさは私をすっぽり覆うほどで…


「秘奥『闇戸神楽之陣』…ッ!」


刹那、閉ざされた 魔術陣の外と内が隔てられる、結界だ 結界魔術陣 その際たる物がこれだ


隔てられた世界は光も音も断絶され、内にいる私は今魔術陣の中に囚われた事になる、マズい…何がマズいって、別に抜け出せないわけじゃない 本気で魔力を解放すれば出られる


出られるが 時間が掛かる、恐らく一分程、この一秒の争いにおいて一分とは永遠に等しい、…そして 私はこの魔術陣の恐ろしさを知っている


これは 前振りだ、プロキオン最大の技を確実に命中させるための前振り、ここからでは見えないが…今外でプロキオンは作り上げているはずだ、アイツが持つ 最強の魔術を……


…………………………………………………………………………


「ぐぅぅぅう……」


目の前に浮かぶ暗球を眺めるプロキオンは静かに唸る、たった今 レグルスをこの中に閉じ込めた、この中にいる限りレグルスは動けない、外からも中からも如何なる力の伝搬も許さない結界、如何に彼女であれ破壊に一分はかかる…シリウスでさえ三十秒は拘束した実績がある魔術だ


その間にプロキオンは用意する


「ッッ……」


親指の先を噛み血を滴らせ、書き上げる、自らの剣に複雑怪奇な模様…魔術陣を、否 只の魔術陣ではない、プロキオンが持つ魔術の中でも決め技に入る大技を


「…魔術式『天魔陣・淤母陀琉阿夜訶志古泥』」


書き上げるは最高にして無比 完璧にして完成された最も美しき第六の魔術陣、神代七陣の内が一つ…ボクの奥義


「………………」


血の塗りたくられた剣が怪しい輝きを帯びる、天魔陣・淤母陀琉阿夜訶志古泥…それはその陣を常に並列的に存在させる事、凡ゆる可能性に分岐する世界…、あり得なかった世界 ありえた世界 凡ゆる平行多次元世界において同一の存在となる魔術


例えるならこれは薄い紙に書かれた剣の絵だ、それ単体ならばなんとでもない、だが全く同じ絵が描かれた別の平行世界という名のもう一枚の紙を重ねたらどうだ?、さらにもう一枚重ねたら更に更にもう一枚 もう一枚 もう一枚…


平行世界とは無限に存在する、幾億幾兆なんて単位では数えられないくらい重ねられた剣というビジョンは、この世の いや全ての平行世界の中で最も色が濃く、最も強烈な存在となる


全平行世界で最も強力な存在となった刃から放たれる斬撃は世界すら切り裂く、世界ごと切り裂くのだからどんな防御もどんな対処もどんな足掻きもどんな行動も無意味、絶対に防ぐ事のできない必殺の一撃


ボクが…スバルを…こ…殺した技…殺した技なんだ


「私は…今!スバルの代わりに!この悲劇に!幕を閉じる!全部全部!終わらせるんだ!!!!」


振りかぶり 振り抜く、無限の旭光を放つ剣は目の前の結界さえも容易く切り裂き中にいるレグルスを飛び越え 背後の山を 雲を 世界を 世界の果てまでも切り裂く、これで終わりだ 終わりなんだ…これで 幕が……



ようやく終わる、この悲劇が…そう 剣を持つ手を緩めた瞬間…


「まだだ…まだだ!プロキオンッッ!!」


「なっっ!?」


レグルスだ レグルスの声が聞こえる、あの暗黒の結界の中から 世界ごと切り裂いた筈の結界の中から 真っ二つにした筈のレグルスの声が聞こえる、ありえない 回避出来ないように閉じ込めたのに、防御なんか出来るはずもないのに…


「その魔術を使えるくらいにまで、戻ったようだな!怪盗から魔女プロキオンに!」


「ッッ!!??」


暗闇を払い現れるレグルスは無傷、防げるはずもない一撃を防いだのだ、あの手の光を見ればタネはわかる


(虚空魔術…!)


凡ゆる力を無効化する虚空魔術、あれを使って斬撃を無力化し凌いだのか…!


虚を突かれた、レグルスが虚空魔術を使うという可能性がすっぽり抜け落ちていた


暴走しながらも 狂気に飲まれながらもそれくらいは分かる、レグルスは絶対に虚空魔術を使うわけがないと 何処かで判断していた


だって、あの魔術は…彼女の姉 シリウスをその手で屠った魔術だ、なによりも愛していた姉の命を刈り取った忌むべき魔術だ、彼女にとって悲劇の象徴だ、もう二度と使わないと言っていたそれを まさか使うとは思わないじゃないか!


それとも…、それを使ってまで…レグルスは……


「故に言うぞ!プロキオン!、今のお前の姿を見てみろ!」


「っ……」


完全に怪盗の仮面が消え去り プロキオンとしての意識を取り戻したプロキオンは己の姿を見る…


「狂気に彩られ姫の命を狙う殺戮者!それが今のお前だ!」


「はっ…!?」


一気に頭が冴える、狂気に彩られた思考に光が差す…、ボクは 一体何を…なんてことを


「今 これは最終決戦だ!姫の命と命運を決める決戦!、そこに揃った姫の命を守る者と命を奪う者の決闘!、演劇が好きなお前なら…この後どうなるか 分かるよな!」


「悪役は…滅ぼされる…ぅっ!ぐぅぅぅっっ!!」


それを自覚した瞬間 頭が痛む、シリウスが支配を強めている、またボクを狂気の奈落へ落とそうと縛り上げる


だけど、だけどダメなんだシリウス!、これはもう負けないといけないんだ!、それが展開というもので…、ここで悪役が負けて…ハッピーエンドにならないと…


「れ レグルス…!」


「プロキオン!」


「やるなら、早くしてくれ…!、シリウスがボクを搦め捕ろうと…!」


「分かっているさ!、こうすればお前なら答えてくれると信じていた!、その信頼にお前は答えた!、なら…次は!」


シリウスが壁を纏い肉薄する、迫ってくる…ああ、 降ろしてくれ、レグルス 君の手でこの悲劇の連鎖に!真なる終幕を!!


「私がお前の信頼に応える番だ!それが!親友の務めだからな!!!」


「あ…嗚呼、君は相変わらず…友達想い、グッッッ!?!?」


ダメだ、もう抑えられない、シリウスがレグルスを殺そうとボクの支配を強めた、精神面は無理と悟ったか 今度は肉体面の支配に移動する、手が勝手に動く、…剣を高速で動かし虚空に魔術陣を書き上げ レグルスを迎え撃とうとする


マズい…この陣は!


「グッ!ギィッ!…て…『天闢陣・伊奘諾伊弉冊』!!!」


虚空に描かれたそれはボクが必殺とする神代七陣のうちの第七陣、これは人に撃っちゃいけないものなんだ!、頼む!やめてくれ!そう祈れどシリウスの支配は弱まらず 魔術陣は完成し 放たれる


「ッッーーーー!!!」


血の涙が溢れる目が捉える、シリウスによって書き上げられた陣が輝き 中から巨大な一筋の光が 破壊の燐光が放たれるのを


第七天闢陣・伊奘諾伊弉冊…、擬似的な星の魂を陣を以ってして再現し矛として顕現させる極大魔術、擬似ではあるものの世界の魂と同物質で作られたそれはまさしく世界一つ分の一撃、地面に向かって撃てば星は串刺しになり破滅する


そんな一撃が レグルスに迫る、ダメだ もう殺させないでくれ!ボクに友を!この手で殺させないでくれ!!!


「プロキオン!!、私はは死なん!だから目を背けるな!!!」


レグルスはその矛を真正面から受け止める、虚空を纏い 凡ゆる物を消し去る掌で受け止め止める


ダメだ、いくら虚空魔術でもこれは受け止められない、何せ世界一つと同じスケールなんだ、虚空魔術じゃ…消しきれない!


「ぐぅぅうぅぅうあああああああああああああ!!!!」


されどレグルスは吠える、あまりの衝撃に全身から血を流し 流した血が大気に触れた瞬間蒸発するような世界の中、ただ二本の手で究極の矛を受け止め続け 衝撃で筋繊維が弾けまた血煙を吹き、二つの魔力がぶつかり 舞い散る魔力粒子は火花のように散り続ける


諦めていない、レグルスは真っ向からボクを止めようとしている、なんて馬鹿なんだ…君は本当に馬鹿みたいに…優しすぎるよ、正直すぎるよ…


「ぅぅぅう!!!だぁぁぁりやぁぁぁあああああ!!!」


受け止め軌道を逸らす、世界と同程度の質量の矛を持ち上げ 星と同格の重さのそれを持ち上げ軌道を上に逸らす、凌いだ…ボクの至上の魔術を、シリウスの 悪足掻きを


…やった、やってしまった 此処一番で困難を乗り越えてしまった、もう…レグルスという名の主人公を阻むことは出来ない、それを体で理解し 必死にボクを操ろうとするシリウスの意志さえ無視して 体から力が抜ける…嗚呼


ボクは…、本当に



「色不異空 空不異色 色即是空 空即是色、この世は在るようにして無く 無いようにしてまた在る、無とは即ち我であり 我とは即ち全であり 全とは即ち万象を意味し万象とはまた無空へ還る、有は無へ転じ 万の力は未生無の中ただ消え去る」


レグルスが詠唱を紡ぐ、虚空魔術の詠唱だ…それでボクを助けようというのだね


本当は使いたくないであろうそれを躊躇なく使ってくれるなんて、君は…本当日友達想いだ


ああ、ボクは本当に…友達に恵まれるな…


「『天元無象之理』…!、プロキオン!これで終演…それでいいな!!」


「ああ…いいとも、此度の悲劇は……長すぎた」


レグルスの生み出す虚空の光を受け入れるように手を広げる、これで…ボクを縛る呪縛は無くなり、ボクが一人で開いていた独善的な劇は幕を閉じる、君には感謝が尽きないな…レグルス


これで、めでたしめでたしだろう…な



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目を閉じれば、今でも思い出せる…、八千年という長過ぎる時を経てもボクの心に残り続ける光景、ボクの心を切りつける刃…


「エリス…」


荒れた世界、荒んだ世界、我が師の暴挙により 世界の平和は脆くも崩れ去り、世界は滅亡の一途を辿る…


ボクの故郷も酷い有様だ、村は崩れ あれだけ美しかった平原も燃え落ち燎原となり、瓦礫となった領主の館の前で跪く


かつてここに居た、美しき貴族の女の子、姫のような可憐な彼女の名を呼ぶ…ボクの親友 エリスの


「ああ…プロキオン、来てくれたんですか…」


彼女は今、血塗れになりながらボクの腕の中でか細くも息を続けている…けど、ダメだ 助からない、ボクはもうこの戦いで人の死を多く見過ぎた…だから分かってしまう


彼女は治癒魔術でも助からない、今スピカは被害の多い街の方に行っている、彼女を抱えて走っても間に合わない…全速力で移動してもその衝撃に今の彼女は耐えられない


ましてやスピカをここに連れてくることもできない…、今スピカが彼処を離れれば街の方で大勢が死ぬ…ただ一人を助けるためだけにそんなこと出来ない


「ッッ……」


「そんな、悲しそうな顔しないでください…」


「分かるのかい?…もう君の目は…」


「ええ、もう何も見えません…、けど 分かります、貴方は優しいから…」


っ…優しいものか!、今ボクは友人を切り捨てようとしているんだ!多を救う為個を捨てる決断をしているんだ!、ボクの友人で こんなにも優しい彼女を…むざむざ見殺しにしている!、優しいものか!優しいものか!!


「くっ!…うう、ごめん ごめんよエリス…守るって、約束したのに…」


「いいんです…、貴方の重りになりたくはなかったから」


「っ…、ここを襲撃したのは…誰だい?、まさかスバルじゃ…」


「違います…、女性でした アルクトゥルス様によく似た…」


アミーか!…あいつ!、どこまで外道に落ちたんだ!、無抵抗の市民や彼女まで襲うなんて!、とてもあのアルクの妹とは思えない!…やはり奴も羅睺の一人という事か!


「…でも、スバルは遂に来なかったんだね」


「はい…、それだけが 心残りです…、私の最後の言葉も彼には届かなかったのでしょうか」


スバルめ、何を考えているんだ…、エリスとは仲良くしていたのに、エリスは彼を愛していたのに、それさえも彼は言うのかい?『どうでもいい』と…


そんなの、あんまりじゃないか


「…大丈夫、ボクがスバルの目を覚まさせる、必ず」


「ふふふ…優しいですねプロキオン、では…こほっ…一つ伝言を頼めますか?」


「伝言?なんだい?」


「私の…最後の言葉の、答えを聞いて…来て…けほっ、く…ください」


最後の言葉、確かエリスはスバルが戦場に去る時 何か、声をかけたとは聞いていたが、なんと言ったかは知らない…


「分かった、君はなんて言ったんだい?」


「わた…しは…彼に……ゲホッゲホッ…!」


「エリス!?エリス!、しっかりしろ!頼む!…頼むから!…エリス エリスッッ!!」


腕の中で、力が抜けていくのが分かる…それと同時にボクの力も抜ける…、失った 今ボクはハッピーエンドを失った、永遠に…失ったんだ……


終ぞ、エリスが彼に何と声をかけたか、分からなかった エリスはスバルになんと言ったのか、分からないままボクは生き続ける事になる


そして、頼まれた伝言も…ボクは答えられなかった



…………………………………………………………


ざあざあと降り続ける雨が、血で濡れた体と剣を洗い流していく


だと言うのにボクの手は汚れたままだ、剣を握った手は 後悔に汚れた心は、汚れたままだ


「満足か…スバル」


紅蓮に赤茶け、もはや滅びを待つだけとなった大地に目の前に横たわる男の亡骸に問いかける、君はこれで満足だったのか?スバル?


世界を救う為の最後の戦い、その前哨戦…皆各地でシリウスの手足として動く羅睺十悪星の討伐に向かっている、レグルスは因縁深き魔獣王の所へ アルクトゥルスは妹のところへ フォーマルハウトは決して許し得ぬ存在の所へ…


そしてボクは約束を果たしにここに来て、スバルと争い…そして、叶えられなかった、スバルはボクの呼びかけに応えなかった、エリスの名を聞いても眉一つ動かさなかった


結果として、ボクはスバルを殺してしまった、そうするしか道を見出せなかった、ここに来るまでにボクは人を殺しすぎた、誰かの命を奪い過ぎた


人を殺した人間には決してハッピーエンドは訪れない、ボクの持論だった筈なんだけどなぁ、奇しくもこの身で証明してしまったな


「う…うう、ああぁぁぁあああああ!!スバル!なんでだよ!なんでボク達の元を去ったんだ!なんでエリスを裏切ったんだ!、どうしてそうまでしてシリウスに付き従ったんだ!、人を殺して…何になるんだ!、こんなにも 虚しいのに!…」


くそ!くそくそくそくそ!!!、地面を殴りつけ吼える…分からない、ボクにはスバルという男が何を考えているか分からない!、君は少なくともエリスに対して思う所があったはずだ!


僕の知るスバルなら!エリスに悲しい思いはさせなかった!エリスの為に生きていく道を選べる男だった筈だ!!彼女の悲劇を覆すことが出来る唯一の人間なのに…彼女の悲劇に幕を下ろし断ち切ることができる唯一の人間なのに


なんでそれを分からないんだよ!スバル!!!


「おい、プロキオン」


「っ!、…二人とも…」


声をかけられ慌てて顔を上げる、雨に濡れる僕を哀れむような視線で見つめる二つの影、アルクトゥルスとレグルスだ…、二人はもう戦いを終えていたのか…


「やたら遅いと思ってたら、やっぱ 辛かったか、友達だったんだろ?そいつさ」


「つ…辛いのは、みんな同じだろ…、特にアルク 君の相手は妹だった筈だ」


「構う事ねぇよ、あいつを今更妹とは見れねぇ、オレ様のとーちゃんもかーちゃんも友達もみんなアイツに殺されてんだ…ああ、後」


そういうと漢らしい彼女はボクの肩を掴み 拳を握り


「殺されたお前のダチの分…きっちりアイツに返してきたぜ」


そう突き出す拳に塗りたくられたのは、彼女自身の血か 或いは彼女の妹の血か、どちらにせよ 彼女は強いな…


「ありがとう、アルク…、レグルス 君は…」


「……………………、私がここにいる、それが全てだ」


「君はクールだね」


冷たい無機質な目をしたレグルスはボクを無視して通り過ぎて後ろのスバルの亡骸を見下ろし


「…おい、プロキオン」


「何かな、レグルス」


「これ、どうするんだ」


これって、スバルの事だね…どうする、か


このまま雨晒しは可哀想だな…


「埋葬する気だよ、これでも友達だから…」


「そんな事知っている、何処に埋葬するかと聞いている」


「え?…何処って…」


そういうなりレグルスは黙って明後日の方向を見る、いや違うあれはエリスが眠っている方向、なんだ 興味ないフリして…覚えていてくれたんだ


「あっちに埋めるか?」


「そうだね、連れて行ってもいいかな」


「自分で運べ、私にとってそいつは敵に過ぎん」


「おいレグルス!、今プロキオン傷ついてんだろ!、もっと優しく…」


「優しくして、人が生き返るなら…いくらでも優しくしてやろう」


「テメェ!この野郎!待ちやがれ!!」


「触るな!筋肉ダルマ!殺すぞ!!!」


…スバルはいなくなってしまったけれど、彼女達はまだボクの側に居てくれるんだな…、彼女達はボクにとって至上の友だ、何があっても 彼女達だけは守ろう


いつものようにいがみ合い殴り合う二人見て、なんだか力が抜ける、そうだ まだ全部終わったわけじゃない、エリスの意思もスバルの命も無駄にしないために…ボク達のは戦い続けないとな


「…ねぇ、レグルス いいかな」


「なんだ」


「君はさ、どうやったらこの戦いをハッピーエンドに導けたと思う?」


聞いてみる、レグルスに レグルスだからこそ、聞いてみる…ボクはどうしたらよかったのか


彼女なら、その答えを持ってる気がしたから、でも彼女はいつものような仏頂面で口を開き


「…少なくとも、私達には無理だ…」


「どうして、そう思うんだい?」


「私が聞きたいくらいだ、どうしてなのかをな…、でももし次があるなら、私は……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おい…おい!、起きろ!プロキオン!」


「ん…んん、ぁ…ぁー…」


安堵する、腕の中で目を開く友の姿に…よかった、その瞳に悪意や狂気は見当たらない、今回も上手くいったようだ


「…レグルス?…そうか、これは現実なんだね?」


そう私の手の中でぐったりと倒れるプロキオンは柔らかな表情で周囲を伺う、周りには壊れた街…その只中に私は跪き 彼女の体を抱き上げる、ああ現実だとも、お前の演目はもう幕を閉じたんだ


「なんだ、まだ寝ぼけているのか?」


「あー、うん…実は さっき…昔の夢を見てね」


「昔?」


「うん、…あの厄災の夢、…ねぇレグルス また聞いてもいいかな」


清らかな目でこちらをジッと見るその目は、真剣そのもの、でも…なんだろう 『また』ってことは以前聞かれたことか?、分からない 覚えてないよそんな昔のこと


「ボク達はさ、…どうやったら あの戦いをハッピーエンドで終わらせることができたと思う?」


…ん?、んー?なんか昔昔そのまた昔 そんなこと聞かれた気がするぞ?、でもやっぱり覚えてない、私は昔この問いになんて答えたんだ?…、けど 今の私なら


「プロキオン、確かに我等はあの戦いを悲しみのうちに終えた…」


「そうだね」


「だが、まだハッピーエンドかバッドエンドか、決めるのは早いのかもしれんぞ?」


「え?…」


そうだ、私達はあの時の戦いを終えたと勝手に思い込んでいた、だが結局シリウスはまだ諦めてないし ウルキもまだ生きている、奴らの意思はまだこの世にある、ならまだ戦いは終わりじゃない


それに、それにな プロキオン


「その終わりが良かったか悪かったか、それが分かるのはずっと先のことさ、例えその時が悲劇だったとしても、歩み続け戦い続けるうちに、いつか裏返ることもあるかもしれない、諦めなければ 進み続ければ、絶望を希望で上塗りすることは出来るんだ」


例え それが過ちだったとしても、それを贖い 煌めく未来へと、変えることは出来る、だから人は涙を流しても進むんだ、何かを守り 何かを変えて ハッピーエンドへと進むために


「…ふむ、さっき似たようなことを言ってる子がいたな」


「え!?」


先に誰かに言われてたの!?だ 誰だ…、まるで二番煎じみたいじゃないか私が!、くそう せっかくいい事言ったのに


「…誰だったか、あの麗しい子は…、嗚呼 名前が気になるな」


「それ、ひょっとしたら…」


私に覚えがあるかもしれないと口を開こうとした時


「レグルスさぁーん!」


「レグちゃんさーん!!」


「おーい!、大丈夫かーー!!」


「ん?、大人しく寝ていればいいものを、もう来たのか?」


そう 大手を振ってやってくるのはクリストキントの面々だ、サトゥルナリアにそれをおんぶするクンラート、そしてコルネリアにヴェンデルにリリア ユリア…全員いる、当然だ 全員で戦っていたんだから


「大丈夫か!、その…ルナアールは!」


「この通り、元に戻したよ」


「君達は…、ああ 朧げながら覚えているよ、すまない 怖い思いをさせてしまった」


とクリストキントを前に動かないはずの体を持ち上げ、深く礼をする、あの暴走はシリウスの所為だが、だからと言ってその所為にして逃げ切ろうなど考える女じゃないんだ、プロキオンは


そして


「い いやいや、いいんですよ!俺達も魔女様に失礼なことしたし、なぁ?みんな」


「ほ ほんと、私プロキオン様の頭殴っちゃった」


「俺なんて足にしがみついたぜ…、これ、極刑かな…」


クンラート達もまた、プロキオンに対し怒りや恨みを持ち続けるような奴じゃない、元に戻ったならそれでいいんだ


「いやいや、いいんだよ…君達のお陰でボクは過ちを犯さずに済んだ、特に…君」


「え?僕ですか?」


と プロキオンが指差すのはサトゥルナリアだ、今回 一番頑張ったのはサトゥルナリアだ、他の候補者を守り、諦めず逃げ切り そしてプロキオンの暴走を鎮めるきっかけを作った


私がルナアールの仮面を剥ぎ 必死にプロキオンに呼びかけたのは、こいつの意思を戻す必要があったからだ、荒れ狂うプロキオン相手に虚空魔術を当てるのは至難の業、故に プロキオンの意思に呼びかけ元に戻し 隙を作る必要があった


けど、その第一のきっかけを作ったのは きっと、サトゥルナリアなんだ


「君が役者としてボクに呼びかけてくれたから、ボクはレグルスの声に応えることができた、君がボクの意思を呼び戻したんだ、全ては君の演技にかける魂の叫びのお陰、素晴らしい演技だったよ」


「そ そんなぁ、えへへ 僕なんにもしてませんよぉう」


デレッデレだなサトゥルナリア、まぁ この国の魔女にして最高の役者から演技を褒められたんだ、そりゃデレデレするか…


「ふふ、よければ名前 聞いてもいいかな」


「え?、僕ですか?…僕は、ナリア…ううん、サトゥルナリア・ルシエンテスです」


「サトゥルナリアか、いい名前だ 高貴な風格がするし、何より 力強い意思を感じる」


「そ、そんなぁ…」


「君の名前、覚えておくよ」


そう語るプロキオンの目はどこか確信的だ、あ…この流れ知ってる、どうやら本物が生まれるようだな この国にも


「おい、それより良かったのか?サトゥルナリア…、お前 審査は…」


「あ、実は…すっぽかしてしまって、多分 僕はもう棄権扱いかと…」


「そうか…」


なにもかも万事オッケーとはいかないか、立て込んでいたとはいえ これはあまりにもあんまりだ


「なんの話だい?レグルス」


「ああ、実は…っっ」


刹那、大地が揺れる 大きく鳴動し 轟音を鳴らす、これは広場の劇じゃない、これは戦闘音、それも かなり大規模な


「まさか、エリスか…」


膨れ上がる膨大な魔力を感じる、どうやらエリスの方はまだ戦っているようだ…


…どうする?助けに…いや、行かなくてもいいか、まだ エリスの魔力の強い鼓動を感じる、あの子はまだ 戦っている


なら、師匠として信じよう、…勝てよ エリス、あとはお前が勝つだけだ!


……………………………………………………………………


「はぁぁぁあ!!!」


「あははははははは!!!!!、最高だよ!エリス!!」


ぶつかり合い、激音を鳴らす拳と拳…、もうどれだけ戦っているだろうか、エリスは一どれだけ打ちのめされただろうか


圧倒的な力を持つ最強の敵 レーシュとの熾烈な戦いは未だ決着が見えず、こうしてぶつかり合いを続けている、既に周辺の家は粉々に砕け 瓦礫の平原となっている、全てレーシュの攻撃の余波だ…、こんなになるまで打ちのめされて 打ちのめして尚、こいつはピンピンしている


レーシュの体力に果てが見えない…


「はははは!いいねぇ!いいよ!最高だよエリス、君は間違いなく私が今まで戦ってきた相手の中で最も雄弁だ!!」


すると、その長い両手をまるで翼のように広げる エリスの目の前で、い…いや マズい これ!


「『アポロンストレイフ』!」


「せ…『旋風圏跳』!」


まるで爆発するように圧倒的な光の熱線が四方八方に放たれる、放たれた光線は着弾するとともに爆発し、まるでエリスが逃げても良いように 無差別に破壊を掃射するのだ


「ぐぅっ!」


当然、風よりも光の方が速い、肩を掠めた熱線の痛みに気を取られた瞬間 爆風に煽られ吹き飛ばされ、惨めにゴロゴロと地面を転がる…うう、直撃はしなかったが…


っ!まだだ!気を抜くな!


「痛いかい?エリス」


「っ!?」


既に奴は次の行動に出ている、傷つき倒れるエリスを見下ろすように立つレーシュはその手を大きく掲げ…


「はははっ!『スーリヤレイズラプチャー』!!」


振り下ろされる、まるで太陽のような熱を持った拳が真っ直ぐにエリスの頭に、死ぬ もらったら死ぬ、と 急いでぐるりと体を回転させ起きると共に回避を…


「ぐぅぅっっ!?」


刹那、エリスに避けられそのまま地面を射抜いたレーシュの光拳が、地面を叩き砕く…、レーシュによってひび割れた亀裂の中から光が溢れ、まるで火山でも爆発するかのように あたり一帯の地面が纏めて爆散した


「ゔっ!…あぅ…」


そんな爆発に巻き込まれ再び吹き飛ばされ、地面をバウンドして転がる、デタラメだ アイツは光の魔術を『なんとなく格好がつくから』という理由だけで取得しているのに、この強さだ


傷ついた体を起こし先程までエリスが立っていた場所を見れば、まるで神が巨大な鍬で地面を掘り返したかのような巨大なクレーターが出来上がってるじゃないか、あれをただの一発の魔術で作ったってのか…


「強く、強かに立ち続ける君も美しいけれど、やはり 君には傷が似合う…エリス」


そんなクレーターの中を悠然と歩き、融解した地面に足跡を作りながら現れるレーシュはニタリと笑い、己の頬を撫でている


これが…アリエの力、大いなるアルカナ最強の五人にして切り札とまで称される者の実力、エリスが今まで戦ってきたアルカナの幹部とは一線を画するどころか 格が違う…桁が違う


「ぐっ、…はぁはぁ…」


「まだ立つか!いや君なら立つと信じていたけれど、やはり…やはり君は私の見込んだ人間だなぁ!、私との語り合いにここまで付き合ってくれた人間は初めてだよ」


「そりゃ…まだ負けてませんから」


膝に手をつき 起き上がる、どれだけ相手が強くても もう負けるわけにはいかない、こいつをここで逃せば 次はない、ヘレナさんを殺し もしかしたらあの広場に集まった人間さえ殺すかもしれない


エリスがここで食い止めて、倒さないと…!


「君はそうやって今まで勝ってきたんだね、ヘットやコフ アイン達に…、彼等には覚悟が足りていなかったからね、どれだけ力で君を上回ろうとも、その覚悟の前に敗れ去った」


「貴方には…あるとでも?」


「ある と思っている、少なくとも私は傷を嫌がり 他人の気持ちを無視したりしない」


「なら!、殺すのをやめてください!壊すのを!傷つけるのを!」


こいつは話が分からないようでいて、それでもエリスの気持ちを理解している、だが理解しているなら 退いてくれてもいいだろう…


そう、語るが やはりエリスの予想通りレーシュは肩を竦め


「それは出来ない」


「何故…!」


「私が私だから壊すのさ、私が私だから傷つけるのさ、やめろと言われてもやめられない…だから私は私なのさ!、私という人間が意思を持ち命がある限り 人に傷を与えるのをやめることはできないね」


そりゃ…そうだよな、対話が通じる相手だとは思ってない、だけど やはり…こいつは


「貴方という人間を…エリスは許すことが出来ないです…」


「ほう?」


「他人を傷つけることを厭わない貴方は、生きている限り傷つけるのをやめられないというのなら!エリスは貴方の存在を許せません!」


こいつは危険過ぎるんだ、殺し 壊し 傷つけ 苦しめる、それがどんな価値観と考えからくるものであれ、それを受け入れ開き直る時点で この人は、この人はエリス達の敵だ


「そうかそうか、ならそれを私の体に刻みつけてくれ 許せないというのなら君が私を壊してくれ…」


そういうなりレーシュは深く腰を落とし、構えを取る 戦闘態勢を…漸く


「さぁ!やってみろよ!壊してみろよ!!エリス!!私を!!」


ビリビリと皮膚が焼けるような威圧感と絶大な闘気が大気を揺らす、君が私を壊せ 私も君を壊すからと言わんばかりに威圧を高める彼女を前に、震える足に張り手を入れ…エリスは


「望むところですよ!レーシュ!!」


向かう、ここでこいつと決着をつける!何が何でも倒す!、ナリアさんやヘレナさん達の平穏を守る!そのためにエリスはここにいるんだから!!

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