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20.孤独の魔女と友愛の合同修行

しんしんと しんしんと、アジメクにも雪が降りしきる季節になってきた



魔術導国アジメクは 元々生物が生きる事さえ難しいと言われた砂漠地帯だったが、それを魔女スピカが大魔術を用い書き換えることにより、今のように豊かな国 豊穣の大地へと生まれ変わったとい言う


恐ろしいのはその影響力、この砂漠地帯は本来冬になれば 空風一つで水も凍りつく恐ろしい寒さが辺りを包むはずだったのだが、今はスピカの力により 極寒の冬は軽く雪が降り、子供が外ではしゃげるくらいの寒さに抑えられている


暑さも寒さも全て豊かさに変える、これが友愛の魔女スピカの凄まじい所にして、この国が発展できた理由の一つといえよう


だが、冬は寒い どこでも寒い、だって寒いものだから


「さむっ…」


宿に備え付けられた暖炉を前に毛布を膝にかけ、ロッキングチェアに座りながら本を読むレグルス、ここまでやって寒いのだから冬は嫌いだ…まぁ暑いのも嫌いなのだが


我々師弟がアジメク皇都に来てより 早数ヶ月の時が経っていた、数えていたわけではないが 我々がムルク村を発ったのが夏の終盤であったことを考えると、それくらい経っているだろうという計算だ



慌ただしかったのは最初に一週間くらいで、慣れてしまえばここでの生活も案外すんなり進んでいく、時々私がスピカに呼ばれてお話ししたり エリスがデティに呼ばれて遊んだりだ、ただいつも会っているわけではないのは我々と違ってスピカ師弟はひじょーに忙しいからだ


一回だけ我々から会いに行った事もあったが、二人とも忙しいようで会えなかった、このことを反省し お呼ばれされない限り会いに行くのはよしたのだ、忘れてはならないのは向こうはこの国で一番偉い二人なのだ そうやすやすと時間など作れまい


ただ、そうすることにより エリスの修行や教育も格段に捗った、何せこの宿にいる限り ムルク村で定期的に行なっていた買い出しやらなんやらに時間を取られず一日中修行に専念できるのだ、まるで夢のようじゃないか


「ふぅー…」


今私の隣で地べたに座り、手元にある魔力球を浮かせたり 高速で動かしたり、時には膨れさせ時には凝縮させたりと、バラエティに富んだ動きをさせているのはエリス


修行が捗ったお陰でエリスの魔力制御だけはお陰で熟練の域に達している、前ヴィオラに見てもらったが、この歳でここまで魔力制御を行えるのは非常に珍しいらしい、比較対象がいなかったからよく分からなかったが、この歳でこれはいい方らしくて私も安心した、私の時は…ってほら、魔女と比較しても意味ないじゃん?



エリスの成長スピードの速さは、私が一日中見ながらアドバイスを飛ばし続け、尚且つそれ以外のことに手をつけずずっと魔術の修行をしているからだろう、あと一番はエリス自身の覚えの良さか



ともあれ今のエリスなら、アジメク学園初等部に転入すれば瞬く間にトップに躍り出ることができるとさえ言われた、というか 下手したら初等部すっ飛ばして中等部 高等部まで飛び級出来るかも だとさ、当たり前だ ウチの子は天才だからな


まぁ私はエリスを学園に入学させるつもりはない 少なくとも今は、理由は単純 学園に通う暇があるなら魔術の勉強をさせたいからだ、学園なんざ後から入ればいいし知りたいことがあるなら私が全て教える、エリスにもその気がないようだしな


後もう一つ、…この環境で得をしていることがある…それは



「おや、こんな朝早くから魔術の修行ですか、エリスちゃんはよき師に恵まれて幸せですね」


「恵まれているのは僕たちも同じさ、この仕事をしている限り こんなにも美しい美女が朝からお見送りしてくれるのだから」


「あ!、フアラヴィオラさん!メイナードさん!おはようございます!」


城が借り切ってくれた宿に 我々の護衛として一緒に住み込みで護ってくれている騎士、メイナードとフアラヴィオラ あとここにはいないがクレアの3人の存在だ、彼らは若いが戦いの場をある程度経験した騎士、つまり練習相手にはもってこいだ


時々3人にお願いしてエリスの模擬戦に付き合ってもらっているのだが、ある程度実戦を想定した訓練、いや実に素晴らしいものだった


メイナードは弓を使った遠距離戦 フアラヴィオラは魔術を使った中距離戦 そしてクレアは剣を使った近距離戦、そして私が行う絶対的な格上との全距離戦、今現在この世界で想定できる戦闘の殆どをここで経験することができる


まぁ遠中近 全部私がやってもいいが、それでも本職を相手にすれば得るものも違う


元々覚えのいいエリスには一戦一戦が正に値千金、剣を相手にしてる時はこうしたほうがいい 魔術を相手にする時はこうしたほうがいい、弓の対処はこれが一番 あれはダメ、など 頭の中で着々と戦術理論が組み立てられていくのが分かる


お陰でエリスの実力はメキメキと高められ、ムルク村にいた時の付け焼き刃とは違う本物の実力を手に入れつつある、それでもまだ未熟だがね


実際我々から一本取れたことは一度もない メイナードとヴィオラ相手にはいいところまで行くんだがね、クレアはまだまだ強くなり続けているのでまだ追いつけそうにない


「二人とも、随分早くから出かけるんだね 、いつもならもう少し後じゃないかい?」


「今日は仕事が立て込んでるんです、最近一層冒険者が街に跋扈し始めて治安も下がる一方なのでね」


と言ってもみんないつもいるわけではない、3人揃っていつも私たちの護衛 とはいかない、特にメイナードはあれでも近衛士隊の隊長、本部で仕事がある為 この宿に滞在できるのは5日に1日くらい、ヴィオラもクレア メイナード程ではないにしろ仕事はある


その為、3人のうち一人がこの宿に残るという持ち回りでの護衛をしているらしい、この二人が仕事 ということは今日の護衛はクレアか


ここにいないクレアは寝坊…ではない、寧ろ一番に起きて外で修行しているらしい、他の二人が仕事に行ってからでは宿を空けられないからと、みんなが仕事に行く前に一通りのトレーニングを終えているのだ


自分が仕事の日は 、早朝トレーニングを終えてからそのまま仕事に直行 それを毎日やっている、彼女の熱心さには私も感服する限りだ


「それじゃあレグルス様!エリスちゃん!また夕方頃に会いに来ますね、僕がいなくて寂しいかもしれませんが 泣かないでください」


「ははは、メイナードさん…あんまり喋ってると遅刻しますよ」


言ってしまえば護衛騎士とは同棲に近い生活をしていることもあり、当初はメイナード相手に剣呑だったエリスも随分柔らかくなった、まぁ メイナード自身の話術に絆された感はあるがね


そうだ、思い出した…メイナードと言えば


「…ん?どうかされましたかレグルス様、僕を前にそんな悩ましげな表情を…ああ!そういうことですね、お任せを 今晩最高のレストランを予約しておきますので」


「どういう勘違いしてんだ、違うよ ただちょっと考え事してただけさ」


数ヶ月前、メイナードと共に探して回ったハルジオン邸の一件だ


掻い摘んで話すなら オルクスからの許可は出なかった、魔女様を招くほどの場所ではありませんよ とかなんとか言われ、突っぱねられた


メイナードも相当頑張ってくれたらしいが、今度は逆にスピカからストップが入った…友愛の騎士が過剰にオルクス卿に貸しを作るような真似をするな とな、スピカに止められてはもう打てる手などない


調べた結果 今現在 ハルジオン邸は廃墟同然になり、中に人はいないそうだ …何故オルクスがもぬけの殻も同然の廃墟に我々を近づけたくない理由は分からないが、ともあれダメなものはダメらしい


「そうですか、 何か悩みがあれば また僕に言ってくださいね、今度こそ力になってみせますから」


結果は伴わなかったが、はっきり言ってメイナードにはかなりの苦労をかけたと言える、私の為に彼方此方に頭を下げてくれたらしいしな…、一回くらいならコイツの誘いに乗ってやってもいい、と思えるくらいにコイツは誠実だ


「ああ、何かあれば頼むよ…」


とはいえ、私ももう色を出すような年齢でもないし、何よりほら メイナードの後ろのヴィオラの顔を見ろ、もう嫉妬の鬼みたな顔してるじゃないか


なんだかんだ言ってヴィオラもメイナードの事を悪く思ってないようだしな、このまま変にメイナードと関わり続けるとその内私かメイナードのどちらかがヴィオラに刺されそうだ




「うぃーす!、ただいま帰りましたーっ!さむさむさむーっ!魔女レグルス様!温めてくださいィーッ!!」


「む、クレア 帰ったか、冷たい手で触ったら引っ叩くぞ」


すると、雪が降りしきる中扉を勢いよく帰ってくるのは、我らが守護騎士クレア・ウィスクムだ


外で結構ハードなトレーニングをこなしていたお陰か、肌はほんのりと火照っている物の、動き易さを重視してか殆ど防寒着を身につけず外に出ていたお陰で えらく寒そうだ


帰ってくるなり私のそばに寄ってきて暖炉に当たっている


「はひぃ、あったかい…あ!メイナード隊長!ヴィオラ先輩!今から仕事ですか?いってらっしゃい…ああ、それと!今外で面白いの拾いましたよ?」


「面白いの?、面白いクレア君が拾ってきたものだからさぞ面白いんだろうね」


ここでメイナードが言う面白いとはユニークと言う意味ではなくクレイジーと言う意味だ、クレアは私への信仰心以外かなりぶっ飛んだ性格をしているからな


しかし何を拾ってきたんだ今度はと呆れていると、クレアに続いて誰かが宿に入って いや帰ってくる


「…おーう、メイナード ヴィオラ、今から仕事か?」


「で デイビッド団長代行!?随分疲れていますが 今まで仕事だったんですか!?」


げっそりと痩せこけ目の下にクマを作るデイビッド、ヴィオラが思わず駆け寄り心配するくらいには疲れ切っているように見える


一応だが、デイビッドもこの宿に身を置き私の護衛をすることにもなっているのだが、近衛士隊のメイナードとヴィオラが忙しければ 団長代行の彼はもっと忙しい為、なかなかこっちまで手が回らないのが現状だ


いつも疲れた様子で戻ってくるが、そうか 今日は徹夜で仕事だったか


「ああ 仕事も仕事よ、まぁ特別何があったってわけじゃあねぇんだが、色々立て込んでな 、非番の前に片付けときたかったんだ」


「なるほど、今日団長代行はお休みなのですね」


「ああ、ちょっと休ませてもらう…ああメイナード丁度いいや、今日テレサが遠征から帰ってくるから報告書受け取っておいてくれ、後アランに巡回警備の手筈を整えるよう言っておくのと…ああ 後俺の机の上にある書類はまだ片付いてないから触らないでくれ」


「はい、分かりましたよ お任せを」


「後、ヴィオラ …キャミーが備品の点検をしてないっぽいから注意頼むのとメロウリースに偶には休むよう伝えてくれ、…待てよ まだなんかあった気がする 、あれちゃんとしてあったかな、自信なくなってきたな やっぱ一回本部に戻って…」


「いいですから!、何か不備があれば私とメイナードでなんとかしますし、バルトさんだってある程度の事は把握してますから、また明日に備えて寝てください」


ヴィオラに押し込まれフラフラと奥へと詰め込まれるデイビッド、凄いな なんかいつも暇して修行しまくってるのが申し訳なくなってくるレベルの忙しさだ、どうやら私達を回収するために暫く皇都を開けていた皺寄せが来ているようだ


デイビッド曰くもうすぐ落ち着く…と一ヶ月くらい前に言ってたな、つまり落ち着く気配はない という事だ


「そうですよデイビッド団長代行、最近ろくに休んでいないのでは?それでは体を崩しますよ」


「わりぃな、だが俺がやらなきゃ騎士団が立ち行かねぇからな…やれる事はやらねぇと、普段なら ナタリアがサポートしてくれるから、ここまでキツくはねぇんだが…アイツどこ行ってんだか」


ナタリアか、騎士団専属治癒術師の あのナタリアだ…、我々がアジメクについてからというもの、彼女の姿を見ていない、一応騎士としての仕事はこなしているようなのだが本部に殆ど戻っていないらしい


「ナタリアさんが、あれから会えていないのですか」


「ああ、だが足跡は掴めてる あちこちで宿を取って皇都中を歩き回ってるらしい…何考えてるかわかんねぇが、見つけたら俺のところへ来るように行っておいてくれ」



「分かりました、それでは 行ってまいりますね」


「レグルス様!エリスちゃん!クレア君!、それではまた!後ほど〜!」


「デレデレしない!」



雪の中歩き去るヴィオラとメイナード、二人とも立派に騎士なのだな…そういえばヴィオラも騎士なんだな 、このアジメクには騎士団と宮廷魔術師団とやらが存在するらしいが、ヴィオラは違うのかな?と聞いたら全然違うと言われた


宮廷魔術師は宮廷の為に魔術を使う者でヴィオラは民のために魔術を使う騎士団の魔術師らしい、宮廷魔術師に会ったことがないからよく分からんがな


「ふぃー、んじゃ 俺も寝ますかね…明日は大仕事があるからな」


「あれ?、団長代行?明日何かありましたかね?」


「おいクレア、明日はレオナヒルドの尋問に付き合うって話だったろ?」


レオナヒルド…レオナヒルド、ああ!あのムルク村を騙してた偽レグルスの本名か!、確か名前はレオナヒルド・モンクシュッド、英雄バルトフリートとか言う男の妹とかそんなだったはずだ


あれからしばらくして名前だけ聞かされたんだが 驚いたことに彼女、元宮廷魔術師だったらしい まぁ木っ端な雑魚ではないとは思ってはいたが…


彼女が地下牢に囚われてもう数ヶ月だが、彼女の尋問は遅々として進んでいないらしく未だに処刑は先送り状態、というのも彼女に聞かねばならないことが多くあるのだ


まぁ、まず第一として 彼女がアニクス山近郊に作ろとしていた裏奴隷市場だ、確かに建設は彼女がやろうとしていたが、なんの協力もなしにそんな大掛かりなことが果たしてできるかと言われれば 無理 の一言が返ってくる


恐らく、顧客兼利益を折半するビジネスパートナーがいるはずなのだが、思いの外彼女の口が硬いのだ


「尋問って、爪剥がすなり指潰すなりすりゃ一発で吐くんじゃないんですか?」


「それはもう尋問じゃなくて拷問だろうが」


「どっちも一緒ですよ、どのみち処刑されるって分かってんならテコでも吐きませんよきっと、だって喋らない限り処刑されないんですもん 、黙ってたもん勝ちですよそれ」


「一応、減刑とかもチラつかせてんだが…なんか、こう 苦しそうにするばっかで言葉が出てこねぇんだ、一言もな…んで尋問が終わるとまた許してほしいだことのなんだことのペチャクチャ喋り始めるらしい、もう参るぜ 本当に」


どうやら難航しているようだな、あの偽の魔女 自分の保身の為なら簡単に仲間だろうがなんだろうが売りそうなイメージだったが、存外に義理堅いのかもしれんな ちょっと意外だ


「何にせよ、明日は騎士団随伴で尋問を行う…あの場にいた俺たちがやれば何か違うかもしれんだろう」


「そんなもんですかねぇ、私拷問の心得ないですよ」


「だから拷問すんなっての!、…ああそうそう 明日ですけど、レグルス様 スピカ様が呼んでましたよ」


ふと、眠そうなデイビッドがこちらに目を向ける、スピカから呼び出しか と言っても3日前軽く酒を飲みながら他愛もない話やら執政の愚痴やらを聞きまくったばかりだから、久しぶりってわけでもないんだがな 何かあるのか?


「呼んでいた、って 何か用でもあるのか?」


「ええ、明日 エリスちゃんとデティ様 二人の修行を合同でやりませんか、ですって」


合同修行か!、いや考えたことがなかったな


デティが与えるエリスへの影響は非常に大きい、一緒にやれば常に高水準のモチベーションを維持出来るだろうし、何よりスピカがどんなに風に修行してるかめっちゃ気になる


「デティと!、ししょー!エリスデティと修行したいです」


本人も乗り気か…うん、なら断る理由はないな


「ああ、なら明日は白亜の城で修行をするか…ただ、友達の前だからと気を抜くなよ、いつも以上にキツく行くぞ」


「はい!」


「ふぁ…、なら俺達も随伴しますね どの道白亜の城に行かなきゃなりませんし、んじゃ俺寝かせてもらいますね、クレア 護衛頼む」


「あいあいさー!」



さて、合同修行に備えて 今日は軽く…行くわけないだろう、いつも通りやる


体力強化マラソンにプラス軽く筋トレ、そのあと休憩がてら魔力制御をした後 魔術を扱う特訓、昼飯を食ってから夕まで私と模擬戦、夕食を食って寝るまで勉強 いつも通りのスケジュールだ、こう口に出してみるとギッチリだな…まぁ良い この子が望んで選んだ弟子人生、私が遠慮するのはなんか違うしな


「エリス、まず走り込みから行くぞ!」


「はいししょー!」


「あ、私もついていきますね」


軽くコートを羽織りながら日課とも言えるルーティンを始める



……………………………………………………………


そして翌日、我々は朝起き軽く流す程度の魔力訓練を行ったのち、白亜の城へ招致された


最早 下手な商店よりも訪れ慣れたこの城の門を気兼ねなく潜れば 毎度同じように執事メイドでお出迎えしてくれる、最初は申し訳ないと思っていたが 最近ではその気持ちも薄れてしまった、慣れとは恐ろしい


一度 私の方からお礼をしようとしたら スピカに止められた、この出迎えは別に私に対してではなく、魔女という存在への畏怖を周囲に植え付けるためにやっているらしい


魔女大国という国は魔女がなめられたら成り立たないし 分からんでもないけどさ



まぁそんな話はいいんだ、いつもの如く老執事ハーマンの案内により真新しさのなくなった白亜の城を歩く、一応一緒にデイビッドとクレアもついてきたが 彼女達はレオナヒルドの尋問があるからと途中で別れた


護衛はつけなくていいのか と聞けば『この白亜の城ではいらない』と言われた、まぁそうか 何せさっきから後ろの方で何十人と騎士や兵が付いてきているんだから、護衛もクソもないか



そして通されるのは中庭、一流の庭師が丹精込めて育て上げ磨き上げたそれは 庭木ひとつ取ってもキャンバスに描かれた名画のようだ、だがそんな芸術といって良い其れ等すら霞むほどの輝きを放つ人物が 中庭のど真ん中に立っている



なんてもったいぶる必要はないか、スピカとデティだ 律儀に寒空の中待ってたらしい


「待たせたな、スピカ」


「いえ、レグルスさんが来る前に デティにウォーミングアップをさせていたので」


軽く手を上げ挨拶すればあちらも優雅に笑顔で返してくる、成る程ねぇ 確かにデティの魔力は既に出来上がっている、私達も出発前に軽く流しておいてよかったな


「デティ!、今日は一緒に修行が出来ると聞いて とても嬉しいです!」


「はわわ、わ 私もだよ!エリスちゃん!」


一方 エリスはと言うとデティを視認するなり駆け寄り、その手を取り満面の笑みを浮かべている、エリスとデティの関係はまぁ随分進展しているようだ…友達としてな?


「ね ねぇ!、この間送ったお花 …ど どうかな?」


ただどうやらデティの方はただの友達としてみていないようで、時折宿に『魔術導皇から』という紙が添えられた花束が贈られてくる…最初何も知らない宿の主人がそれを見た時卒倒していたのを覚えている、何せこの国の王様から個人的に花が届いているのだ そりゃ卒倒もするわ


「はい、とても綺麗なお花をありがとうございます、今も花瓶に挿して見えるところに飾って大切にしてますよ」


エリス的には友達からプレゼントが届いたと軽めに捉えているがなぁ、この花の意味をエリスは知っているのだろうか、アジメクには至上の親愛の証に花を贈る習慣があるらしいが…知らなそうだな


「綺麗…た 大切…ぅう」


ほら、デティの顔がカッと赤くなる 、この調子じゃ エリスの部屋が花で埋まる日も近そうだ



「しかしデティ、貴方は友達ですが今日は魔女レグルスの名を背負う弟子として 、負ける気はありません、お互い頑張りましょう」


「…!、うん 私も負けないよ 何せ私はスピカ先生の教え子だからね」


ま、いい感じに刺激しあってるしいいか


「さて、では エリス デティフローア…今日は二人揃って我々魔女の修行を受けてもらう、特別何をすると言うつもりはないが いつもと違うこの環境で、何か新しいものを見つけられれば幸いだ」


「デティ?エリスちゃん?、二人とも目指すところは違うでしょうが 共に魔術を極めてもらうことに変わりはありません、時に競い 時に教え合い お互いをさらに上の段階へ押し上げなさい」



「はい!ししょー!スピカ様!」


「魔女レグルス様に教えを授かれるなんて光栄です!」



私達の前にピッシリと背筋を伸ばし整列する弟子組、ふむ エリスはともかくデティの方もよく躾けられている、まぁスピカも弟子の育成には手を抜いていないだろうからな


「では、レグルスさん まず貴方の方からお願いします」


「分かった、なら まずは魔力制御の修行をしてもらう、魔力を手元に集めて 流動させ魔力を自由に動かす力を養う訓練だ、エリス まずはお前から手本を見せてやりなさい」


まずは私から と言われたので取り敢えず毎日やっている魔力制御の訓練をしてもらうことにした、私とスピカ、共に魔術は究極の領域に達しているが 重視する部分が違えば当然基礎訓練も違う、デティにはレグルス式魔術訓練をたんと堪能してもらおう


私が重点を置くのは魔力を制御する力、いかに強力な力も使用者の制御下になければ全て台無しも同然、だから私は今日までエリスに制御法を確立させるよう育ててきた


「はいししょー!」


そうエリスが返事をすれば、慣れた手つきで掌から魔力球を一つ二つ三つ四つ …計10個程出し、それぞれを別の形に変え それぞれを別の大きさへと変化させる、これを極めれば極めるほど 魔術での精密度が上がるのだ、事実 既に魔力はエリスにとって手よりも自由に動かせる自分の一部と化している


「ほう、これは大した魔力の制御力ですね…体内の魔力をここまで綺麗に分割し別の形に変化させられるとは、相当鍛えてますね」


「うげぇ…エリスちゃんすごぉ、そ それどうやってやるの…こうかな、ふぬぬ!」


エリスの卓越した魔力制御を前に目元をひくつかせながらも、負けじと魔力球を出そうとするデティ…


顔を赤くし振り絞りやっとの思いで生み出したのは二つの大振りの魔力球、それをぐにゃぐにゃと波打つように動かしてはいるが、まだ少々硬さが拭えないな


「んぬぬぅー無理 これ以上分割出来ないし、そんなに動かせないよ!」


「デティ?、これはもっと自分の中の魔力をイメージで捉えた方がやりやすいですよ」


「ああ、最初から高度な動かし方を試そうとせず、まずは自分の魔力をしっかりと見据え掴むことが肝要だ、今お前の手から出ている魔力球はお前の一部だ、操れぬ道理はない」


「ひぃーっ!んぬぅーっ!」


私とエリスの言葉に耳を傾ける余裕はないようで、寧ろ 魔力球を維持する方に意識が行っているな…だが、今日初めてやる訓練でここまで出来れば上等な方だ 他の基本が出来ている証拠だろう


「デティ、落ち着きなさい 、私がいつも言っていることを思い出しなさい」


「!、…先生、力は激流に宿り 技は静水に宿る…」


「ええ、今 どちらが必要か分かりますね」


「今は、…すぅーっ はぁーっ」


ほう…いや すごいな、私達がどれだけ掛けても響かなかった言葉が スピカなら一発で通った上に技の冴えが増した、先程まで荒れていたデティフローアの心が 一言で静まり、落ち着いた分魔力もきちんと整頓されている


と言っても魔力球が真っ二つに割れ四つになったくらいだが、師の呼びかけにキチンと技術と度量を以って応えられるとは良い弟子を持ったものだな、とスピカを見ても 目を伏せ何も言わずに眺めている、…褒めないつもりか



それから一時間近く指示を飛ばし続ける、エリスとデティフローアそれぞれにだ 『魔力球の数を幾つに増やせ』とか『魔力球を出来るだけ大きくしろ 出来るだけ小さくしろ』など、エリスは今日まで私の修行を受けてきただけあり、全ての指示に迅速にそして曲芸のように鮮やかに答えていく


対するデティも、これが中々に侮れず 結構食いついてくる、弟子にとって師の名誉がかかるとは即ち命がけに近い、まさしく死に物狂いで魔力制御に集中する …あれだけ必死にやれば自分の魔力をある程度つかむこともできるだろう



「そこまで、二人とも魔力を戻せ …エリス 頑張ったな、デティフローアも初めてながらによく頑張った、今回の一件をキチンと反復し己のものにしろ」


「はいぃ、疲れたぁ…エリスちゃん毎日こんなことしてるんだね」


「はい、でもエリスも最初のうちは全然出来ませんでした、今回はエリスに一日の長があっただけです」


その場に座って、ただ魔力をポカポカ浮かばせているだけに見えて これが存外に体力を使う、そもそも魔力球を作り出すだけでかなり集中しなければならないのにそこから魔力操作となると 、足の指で針に糸を通すようなもの…いや適当言ったがそれくらい難しいのだ


だからこそ、こう言った魔力を動かす作業を難なく出来るようになれば、それは魔術師として多大なアドバンテージを得ることになる、例えば咄嗟に魔術を別の形に変形させたりとかね?


「では次は私ですね…」


そう言って私の前に立つのはスピカ、さて ここからが本番だ…魔術導国を統べる最強の魔術師にして魔女の一角 友愛の魔女スピカが、普段弟子にどんな基礎訓練を与えているのか…


あわよくばエリス、何かを掴めよ…


「私の訓練は単純です、魔力放出の耐久…魔力を常に放出し続けるという単純なものです、 そうですね デティ?手本を見せなさい」


「はい先生!、はぁっ!」


スピカの合図を受けてデティフローアが、手を目の前に翳せば 頭くらいの大きさの魔力球を作り出す、魔力制御のような綿密はない ただただ魔力を発するだけの単純極まりない魔力球


なるほどな、あの魔力球は一定数の魔力を常に消費し続け 体内の魔力をどんどん吸い上げていく、そういうことか…これは魔力消費し続けるのに耐える訓練


……ではない


そもそも 魔術師は戦闘では常に魔力を消費し続ける、しかし魔力の枯渇は魔術師にとって死を意味するだろう?、だから皆ある程度魔力の節約を意識してして戦うが 常に意識を戦いに持っていかれる戦闘中はどうやっても力がこもり過ぎ使い過ぎる


第一あっちも気にしてこっちも気にして じゃあ実力だって出しきれない



この訓練は恐らく、その魔力消費を抑える癖を身につけさせるためのものだろう 、もしこれが完璧に身につけば、100%意識を戦闘に向けても無意識に魔力を節約することができ、魔術師としてのスタミナが身につく


謂わば、魔力持久力を養う修行だ



「このように、常に魔力球を同じ大きさに維持し同じ量の魔力を放出し続けなさい、これ以上小さくすることも大きくすることも 少なくすることも多くすることも許しません、さ エリスちゃんも」


「は はい!」



エリスもデティフローアの真似をして目の前に、デティフローアと同じ大きさの魔力球を作る…が やはり少しブレているな 、大きくなったり小さくなったりと一定ではない、魔力制御が出来ているからある程度この修行も出来ているが完璧ではない


むしろ、今まで魔力を動かすことに重きを置いてきたエリスにとって急に動かすな、というのは難しい話なのかもしれない


「ちょ…ちょっと難しいかもしれません、凄いですねデティは」


「…………」


対するデティフローアの魔力球は石のように形を整え、常に一定の魔力を正確に吐き出し続ける、見事と言わざるを得ん腕前だ あれを維持するには明鏡止水の集中と鋼の忍耐がいる


エリスはというと先程から丸を維持しようとするが すぐに崩れ魔力を消費し、それを直すために更に魔力を使っている、どちらも微々たる消費だが それが10分続ければ20分続けば?



時間経過と共に、小さなミスはエリスの体に降り積もる




「っ…っっ…!ふぅふぅ」


「…………」


あれから30分経った、エリスが冷や汗を流しながら魔力球を維持するのに対し、デティフローアは開始当初から何も変わらない、



「はぁ…はぁ…あっ、くっ!」


「…………」


更に一時間経った、エリスの魔力はもはや無視できないほど消費され続けており、その消費に焦れば更に魔力球は形を崩す、対してデティフローアは何も変わらない いや確かにそれは消費はしているが 、その心はまさに静水の如く、一抹の焦りも滲まない




「っはぁ っはぁっ、ぅぁ…まだまだ」


「…………」


そして一時間半、エリスの作り出した魔力球がチカチカと点滅し始める、どうやら 魔力を消費し過ぎた上に 集中を切らしてしまったようだ、無理もない ジッと動かず着々と消費され続ける魔力を見つめ続けるというのはかなり不安な物で、集中し続けるのは至難だろう


例えるなら、真っ暗な空間で ジッと蝋燭を灯し続けるようなもの、消えていく灯りを見つめ続ければ、誰だっていつ消えてしまうのかという不安に駆られてしまうものだろう、そしてその不安は集中力を削りより一層 魔力消費を高める



「そこまで、二人ともやめなさい 」


「っぷはっっ!?はぁ!はぁ!」


「んぐぅー!おわったぁ!」


スピカの終わりの合図に倒れこむエリス、いやエリスはよく粘った いきなりこれをやって、1時間ちょっとやれるとは素晴らしいぞ


しかし懐かしい修行だ、確か…私も昔師匠に言われて他の七人と一緒にやったことがある、その時の私の最大記録は250時間だ 対してスピカは400時間以上続けたあと鼻血を噴いて倒れた、…謂わばこの修行はスピカが最も得意とする修行、やはり お互い得意な事を弟子に教えていたか


「エリス、よくやった 」


「はい、でもまだまだ未熟です デティにはまるで敵いませんね」


「これから追いつけばいいさ」


倒れこむエリスの背中を撫で、立たせてやれば エリスも私を安心させようと微笑んでくる、いやこの微笑みはそれだけではないな 彼女なりに色々掴んだらしい、やはり合同で修行をやるのは正解だったな


「はぁ はぁ、先生!私前回よりも維持が上手くなりましたよね!」


「ええ、ですが維持に意識を持っていかれ過ぎです、次はもっと上手くやりなさい 」


「は はい」


向こうの師弟はあんな感じだ…、いや スピカは本心ではデティのことを心配してるし認めてる、本来だったらよくやった我が弟子よと抱きしめ撫で回したい筈だ、だが 彼女の中にあるデティに対して いやデティの親に対しての後ろめたさがそれを邪魔する


だがな、やはりその態度は弟子の育成に悪影響だぞ、誰かを凌いだ時ぐらい褒めてやれ


「さ、次の修行に移りますよ…エリスちゃん?続けられますか?」


「はい!、エリスは魔女レグルスの弟子なので!」



「ふふふ、頼もしいですね、では次は……」




「……私も…先生の弟子です………」





………………………………………………………………………………



そうして、合同での修行は続く と言ってもデティフローアにマラソンさせるわけにはいかなかったので、その後はずっとスピカ考案メニューだった


魔力を爆発させる修行とか 魔力を固める修行とか、全部魔力基礎訓練ばかり 体は鍛えず魔術も教えないし魔術の使い方も殆ど教えない、気になったので少し伺ったところ


スピカはデティフローアに魔術…いや魔女達の使う太古の魔術『古式魔術』を教えていないらしい、取得させているのは比較的取得の簡単な現代の魔術だけだという


まぁ、魔術導皇は現代の魔術を司る者 今はもう失伝した効率の悪い古式魔術なんて教えても意味ないか…と考えている


現代魔術ははっきり言って取得が簡単だ、覚えようと思えばいつでも覚えられる…例えば『フレイムタービュランス』 …と唱えるだけでフレイムタービュランスは発動する、ダラダラ詠唱する古式魔術と違って発動は簡単だし覚えやすい


よく戦士や剣士が名前一つで発動するなら暴発しないのか、と聞いてくるが…ううむ感覚的な話なので説明は難しいが、『言う』と『唱える』は違うものなのだ、暴発はしないし させてしまうような半端者は魔術師を名乗る前に死んでいる



そこから現代魔術は使用する為に必要な魔力を性質や変移の工程を頭に叩き込む必要があるが、言ってしまえばこの工程と名前さえ知っていれば使える、更に修行をこなして使いこなせれば初めて取得 そう言うものだ


簡単だろ?才能と知識と時間と環境と魔力とやる気があれば誰でもできる、古式魔術はその工程と詠唱が難解になり 要求されるものの水準も高い為取得は難しいが、その分威力が高い…どっちが上とは言わんが威力だけで見れば古式魔術の方が圧倒的に上だ



そう威力が高いのだ、火力こそ全てとは言わんがあるに越したことはないと私は思っている、…だがスピカはデティフローアにそれを教えるつもりはないようだ、理由までは知らない



まぁなんでもいいか、スピカは魔術の量で 私は質で勝負しようとしているだけなのかもしれないし、口は出さないが



………………………………………………………………


「今日はありがとうございました!、スピカ様のお陰で多くのものを学べました!」


あれからどのくらい経ったろうか、三時間か 四時間か分からないがスピカ考案の魔力基礎特化メニューを終えたエリスは、その言葉の通り多くを学んでいた…心なしか体内に宿る魔力の量も少し膨らんでいる気がする


なるほど、デティフローアの膨大な魔力はスピカの異常な魔力特化訓練の賜物なのだろうな


「いえ、私から多くのことを学べたのであれば私も嬉しいです」


「エリスちゃん!、今度はまた一緒に遊ぼうね!」


優雅に佇み手を振るスピカと修行を終えたばかりだというのにはしゃいで飛び跳ねるデティフローア、凄まじいタフネスだな…


「はい、デティも今日は とても勉強になりましたよ、やはりデティは凄いですね」


「そ そんなことないよう、エリスちゃんの方が…」


修行の後にお互いを褒め合うとは仲がいいことこの上ないな


我々八人の魔女が揃って修行を終えたらいつも『私が一番だった』『いいやオレ様が』『いえいえわたくしが』と競い合い取っ組み合いになった上に殴り合いになり 、なぜか師匠がその喧嘩に混ざり我々八人が揃ってぶちのめされ 『ゥハッハー!、誰が一番かよく覚えておけぇーっ!…ところで喧嘩か?どうした?』と聞いてくる…それが日常だった、懐かしい


「ふむ、我が弟子達も大いに成長できたようだな、実に有意義な修行だった…スピカ またいずれこの合同修行をしようじゃないか」


「いえ、もうしません」


え、なんで なんて困惑を口にする前にスピカは目を伏せ続ける


「エリスちゃんに私の修行はあってません、私とレグルスさんの修行は相反する物です、こうやって得るものがあるのは初回だけ、次同じことをやっても成長の妨げになるでしょう」


そこまで言われてなんとなく察する、確かにその通りだと


はっきりいえば今のエリスに魔力持久力は必要ない。いやいずれ必要になるのだろうが 今は必要ないと私は感じている


多くの魔力があっても御することが出来なければ意味がない、なら大量の魔力よりも先に制御を優先するのが私の方針、スピカは逆 制御よりも先に制御するための魔術を用意する


どっちが正しいと言うことはないが、反対のことを教えてもエリスが混乱するだけだろう


「なら、合同修行はこれっきりか」


まぁ、一緒に別々の修行をすればいいかもしれないが、魔女と魔術導皇の時間取らせてまですることじゃないし


「ええ、まぁ私の修行があってないだけでフォーマルハウトさんあたりの修行なら、案外エリスちゃんにも合うのでは?」


フォーマルハウト…栄光の魔女フォーマルハウトか、史上最強にして最高の錬金術師…彼奴と私は所謂同じタイプ つまり力量ではなく技量で勝負するタイプの魔術師だ、確かに彼女ならエリスのプラスになることを教えてくれるかもだが 、別にそれは私にも教えられること、態々教えを請いに会いに行くことはないがな



「お前が忙しいならフォーマルハウトはもっと忙しいだろう、彼奴は自分の立場に誇りとそれ以上の責任を感じるタイプだからな」


「…今は、若干違うみたいですがね、…ああそうだ レグルスさん、一週間後ってお暇ですが?」


「ん?、ああ 一週間先だろうが一年先だろうが基本的に私は暇だ」


伊達に八千年間隠匿生活を積んでいない、今の私には立場もなければ仕事もない、故にすることもない 、いやエリスの育成はやることと言うか、もはや生活の一部みたいなもんだしな


ともあれ、暇かと聞かれれば暇としか答えようのないこの身を揺らしスピカに向き直る、と言うか暇なのはこいつも百も承知だろうに


「それは良かった、実は一週間後 この皇都にて廻癒祭を行うので ご一緒にどうですか?」


態とらしくそして悪戯に笑うスピカのその顔を見れば分かる、この誘いは今までの適当な会談のお誘いではない、恐らくもっと 特別な意味を持ったものなのだろうが …


「廻癒祭?なんだそれは、聞きなれん祭りだな」


「えっ!?知らないんですか?一応アジメクに住んでるのに?…本当に外の情報シャットアウトしてるんですね、まぁ 詳細は追って伝えますが、言えば一年に一度のお祭りですそれもアジメクで一番の」


「なるほど、祭りの誘いか 別に構わん、だが今更魔女が集まって祭りで何をするつもりやら」


「それは楽しみにしておいてください、まぁ レグルスさんには楽しいものではないでしょうが、大事な話ですので」


とだけ伝えるとたくさんの騎士やらメイドを引き連れ踵を返すスピカ、…なにやら含みのある言い方だったな


まぁいい、ともあれここでの用事は終わった クソ寒いから宿に戻って暖炉に当たろう


「エリス、帰るぞ」


「はいししょー!」


私が声をかければこの子は心底嬉しそうに返事をしてくれる、私に声をかけられるだけで幸せ そんな感情が透けてみえる、私の弟子は本当に可愛い


なんて師弟で手を繋ぎ白亜の城を去ろうとした辺りで、一つ 目にとまる物があった



豪奢な石造りの廊下 絢爛極まる飾りの施された一面の壁にポッカリと穴が空いているのがみえる


別に壊れて開いたとかではない、まぁ言って仕舞えば階段だ 、地下へのね



ただ、この白亜の城を包む輝かんばかりのそれとは正反対の暗々しい雰囲気漂う地下への階段に目を奪われ、ふと思考がよぎる


確か、偽の魔女 レオナヒルドは地下牢へと囚われ そこで尋問をされていると聞く、デイビッドもクレアも今日はそれに付き合っているから この階段の先にいるのだろう



私も 気になることがある、レオナヒルドに聞きたいことが



いつぞや、私が山奥で倒した山賊達…確か山狼のブエルゴ?という山賊がいた、狼のエンブレムをつけた男だ


聞けば、幹部達 山狒々や山鵺と言った幹部達は皆 狼のエンブレムを持っていたらしい、…気になるのだ あれはどういう意味でどういう経緯でつけ始めたのか、いや意味なんてないのかもしれない ただのオシャレかもしれない


だが、狼のエンブレムは私達魔女にとっては不吉の象徴以上の意味がある、多分 スピカも狼のエンブレムをつけていたと言う報告を受けたからこそ、この盗賊団はここまで苛烈な尋問を与えているのだ


「エリス 寄ってくか」


「え、こ ここにですか?…大丈夫でしょうか」


「大丈夫だろ、私たちは別に罪人じゃないし」


寄り道するみたいなノリで言うことじゃないのかもしれんが、顔を拝む意味合いも込めてレオナヒルドから話を聞くのもいいかもしれん、それにもし尋問に手間取っているようなら 私が魔術で口を割らせてもいいし


そう思い、エリスの手を引っ張り地下牢へと向かう、松明もろくに立てられていない暗闇の中へと……

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