159.孤独の魔女と始まる最後の戦い
「よっとと!、やるな!イオ!」
「だろう?私もびっくりだ!ここまで私が戦えるなんてね!」
数度目になる激突の後 笑い合うイオとラグナ、既に二人の体はボロボロでありながらなお戦うことをやめない
いや驚きだ、付与魔術まで使ってんのにここまで苦戦するとは、まぁイオの側にはエウロパ カリスト ガニメデがついてるってのもあるけどな、やっぱりあいつらのチームワーク半端じゃねぇ、ノーブルズたち対立してる時も最初から全員でかかって来てたら俺達もやばかったかもしれない
「あーもう!二人とも元気すぎー!私もうむりー!スタミナも魔力も切れたー!デティフローア様ー!助けてー!」
「ぬいぐるみも在庫切れ…ごめんイオ、私ももう無理」
ゴローンと地面に倒れるカリストとその上に座るエウロパ、どうやら二人はここでリタイアらしい
後はイオとガニメデだけか、まあ だけって言っても強敵には変わりないが…
「あとは私とガニメデだけか…、ふっ 頑張るぞ!ガニメデ!国防を担う子息の力!見せてくれ!」
「……………………」
「ガニメデ?」
ふと、巨大な獣の姿になったガニメデを見つめる俺とイオ、ガニメデの様子がおかしい…なんだ?どうしたんだ 、何か 虚空を見上げて黙っている…、これには流石に俺もイオも戦いの手を止めて心配する、だってあのガニメデが静かなんだもん
「どうした?ガニメデ」
「……何か、全身がゾワゾワするよ」
「ゾワゾワ?」
なんだそれ?、どう言うことだ?
「多分 獣の勘ってやつかな、何か…よくないことが起ころうとしている」
「よくないことって一体…うぉっ!?」
ガニメデに問いかけようとした瞬間、強く地面が揺れる 地震?いや違う これは爆震だ、どこかで爆発が起こったんだ、それも四度…一瞬どこかで誰かが戦ってるのかと思ったが、それにしたってもシャレにならねぇ威力だ
もしかしてこれがガニメデの言った?
「なんだ今の揺れ…」
「分からん、また何かの仕掛けが作動したのか?」
「いや…違うよ!イオ君!ラグナ君!、これは多分課題じゃない!」
「なんだと!?」
「おーい!ラグナー!」
「ん?」
ふと、声がしてそちらを見る デティだ、それが小さな足でぴょこぴょこ跳ねるように走りながらこっちに来る、というかその手の中には課題のノルマである宝玉が握られており
「デティ!宝玉見つけたのか!」
「ああー!、デティフローア様ー!助けに来てくれたんですねー!」
「ぎゃー!?カリストがなんでここに…って、それどころじゃないの!ラグナ!大変!」
デティが血相を変えてこちらを見る、こりゃ 相当なことだ、デティは大袈裟な子だが こんなヤバそうな顔は初めて見る
「どうした?」
「さっき、魔力探知で周囲を見てみたら…、ま 街の外!壁の外に!とんでも無いくらい大量の魔獣が集まってるんだよ!!」
「なんだって!?魔獣が…まさか去年と同じ!?」
「多分、でも量が去年の比じゃ無い!何万…下手したら何十万 何百万もいるかもしれないよ!、こんな大量に魔獣が集まるなんて聞いたことないよ…」
デティが涙ながらに訴える、魔獣の大量発生…いや そんなレベルじゃ無い、もう一つの大災害だ 去年に引き続き今年も?一体何が起こってるんだ…
「で でも、ほら 今この街は防衛機構ってやつ?で守られてますよ、ほら 町の外には大きな壁もあるし、魔獣も街には入ってこれな……」
とカリストが続けようとした瞬間、魔獣の咆哮が聞こえる…どう考えても 壁の外じゃない、内側から…ま まさか
「今の爆発音、もしかして壁を爆破して穴を開けた音じゃねぇだろうな」
「そのもしかしてだラグナ君!壁に大穴が開いてそこから魔獣が大量に入って来ている!、このままじゃ課題に参加している生徒がみんな食い殺される!!」
「ッッ……!」
最悪の事態 そんな言葉が脳裏を過る、なんでこんなことになってるのか 理解出来ないが、今はそんなこと考えてる時間はない
「イオ!」
「ああ、一旦休戦だ!直ぐに生徒達を学園の中に避難させる!、みんな!生徒達に危険を知らせてくれ!あそこには避難区画がある!一先ずそこに生徒達を逃すんだ!」
イオの号令に乗ってガニメデ達は四方に走っていく、今は迎撃よりも死者を出さないよう生徒を逃す方が先決だ…
「ねぇ、ラグナ」
「分かってる…、俺達も動くぞ」
「うん、けど…なんでこの異常事態に 魔女アンタレス様は動かないの?」
「……………………」
デティの不安そうな声に応える言葉を用意できない、分からないから…こんな異常事態が起これば真っ先に動くはずの魔女が無反応、考えられるとするなら
魔女の側にも 異常事態が起こっている…と見るべきか
……………………………………………………………………
時は少し前に巻き戻る、街の外に魔獣が現れるよりも前 エリスとアマルトの決着がつくよりも前に
学園の頂点にて風にさらされながら向かい合うレグルスとアンタレスは神妙な面持ちで話し合う
魔女が我を失う原因 それはシリウスが己の遺骸を通じて近くにいる魔女に対して魔の手を伸ばし干渉していたからだと、魔女達は皆シリウスにより洗脳され その思考を誘導されて、徐々に周囲との関係を絶たせ 己と同化させるために動いていたのだ
そしてその魔の手は 今目の前のアンタレスにも迫っている、されどここで解放しようとすればアンタレスは自分の意思に関わらずレグルスを殺してしまうと言う、もはや自分で自分を抑制出来ない程にアンタレスは暴走している
故に、一つ 考えがあると…アンタレスの提案を聞いてみる事にした、が
「何?自分で自分を暴走させるだと」
「はい それがベストかと」
元の木阿弥 そんな言葉が出てくる、そんな事をしたら 結局アンタレスは暴れてしまう…
「意味がないだろう、それじゃあ」
「ありますよ…現状一番怖いのこの体がシリウスに奪われてしまう事ですよ私の同化段階は既にほぼ完了の域にありますから」
思い至る、アルクトゥルス フォーマルハウトの影響のされ方…、アルクトゥルスはまだ洗脳され戦争を求めるにとどまっていたが、フォーマルハウトはその行動の中にシリウスが見えた気もした
…進んでいるんだ当然ながら状況は、時間が経過すればするほどに シリウスの魔の手は酷く悪化する、ならば必然 アルクトゥルスよりもフォーマルハウトよりもアンタレスの方が酷い状況にある
「それほどに時間がないのか」
「はい今日がタイムリミットなのは随分前からわかってました…すみませんもっと早く頼っていればよかったんですけど…でも…」
「言わなくてもいい、だが何故意図的に暴走する必要がある」
「シリウスは私の心に巣食っています…故自失状態になればシリウスは私の手綱を握れなくなるんです…そして 暴走した私なら簡単に制圧できるでしょう」
「まぁ…」
自我を失い暴れる魔女と言えば恐ろしいが、自我を失えばアンタレスの持つ綿密な戦術が失われる事にもなる、第1の武器である思考を失ったアンタレスなら苦戦することはないだろう
「やってくれます?」
「ああ、分かったよ」
「ありがとうございます…私が暴走したら お願いしますね」
そう言うとアンタレスはふらりと歩き出し…
「では…ふぅー」
アンタレスはゆっくりと脱力する、心を蝕まれる その激痛に身を任せ…その上で、心を手放す
恐ろしい事だろう、自分を手放すなど身投げするのと変わらぬ恐怖だ、ただそれでも躊躇なく手放せるのは 私を信じてくれているからだ、暴れても私がなんとかし その上で奴の中のシリウスを消し去ってくれると 信じているから
だから考え抜いて、この手段を思いついた…、私がもっとしっかりしていれば…
「うぅ…ぐぅ!ぁぁああぁぁぁがぁぁぁぁぁぁぁぁああぁああ!!!」
揺れる アンタレスの方向で地が揺れる、その体から溢れる絶大な魔力で空間が歪む、アンタレス…お前がこんな手段を取るほどに追い込まれている事に私がもっと早く気が付いていれば…!、こんなに苦しませずに済んだのに!
すまない すまないと心の中で謝りながら拳を握る
「がぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁあ!!!…あぁ…!ぐぅぅ……」
そして…暫し苦しんだ後 アンタレスはダラリと体から力を抜き、喉を鳴らす 獣のように
…完全に心を手放したのか 、今のアンタレスは自失状態にある、故に何をするか分からない 力のまま暴れる可能性がある、その前にアンタレスの願い通り虚空魔術で彼女の中のシリウスを消し去ればいい
それで終わる、全て…そう 手に魔力を込めた瞬間、アンタレスの体が動き こちらをみる
「レグルスさん」
「ん?…アンタレス?」
暴走したんじゃなかったのか?己を見失ったのではないのか?、だと言うのにアンタレスの声は なんとも理性的で…思わず手を引っ込める
何か問題でもあったのか?まさか自己を手放すのに失敗したか?…、そう考えているとアンタレスはニコリと微笑む
「私良い手を思いつきました、なので虚空魔術使うのは一旦やめてください」
その言葉を受けもう一度手をかざし魔力を高め虚空魔術の用意をする…こいつ
「貴様…アンタレスではないな」
「…あれ?、バレました?」
「ああ、喋り方が違う 何よりアンタレスはその場で思いついた手を試しにやるような女ではない」
「ああ、そう言えば…そうでしたね」
ニィィと笑いながらアンタレスは両手を広げながらこちらをみる、こいつアンタレスじゃない 中身が変わっている、中身が…つまり 今のアンタレスは
「貴様シリウスだな…」
「…んふ、んふふふはははは!正解正解!だいせいかーい!、久しぶりじゃのう!レグルスぅ!」
げたげたと笑いながらこちらへと歩み寄るアンタレス…否 シリウス、まさか 間に合わなかったか、いやだがアンタレスは時間はないとは言ったが間に合わないとは一言も…
「何故儂が表層化を…と考えておるな」
「ッッ……」
「そりゃアンタレスの目論見通り儂が同化魔術でアンタレスを完全に乗っとるには後少し時間が必要だった、あんまりアンタレスに時間を与えると本当になんとかしてしまいそうだったのでな…せっかく八千年もかけてようやく掴んだチャンス、無駄にするには惜しいと儂は考え考え考え抜いた」
「…まさか…」
「その通り!、アンタレスは儂の洗脳魔術を防いだつもりでおったろうが…儂が洗脳してそう思わせておっただけ、例え死んでいても弟子に魔術を防がれる儂ではない、…そして 洗脳してアンタレスにこう思わせた 『暴走し自己を失えば儂の同化から逃げられる』となぁ!」
アハハハハハ!間抜けじゃのう!間抜けじゃのう!とアンタレスの顔で笑うシリウスを見て、己の失念を悔やむ…既にあの時点でアンタレスは他の魔女同様に洗脳されていた、ただそれが私に伝わり難いように 出来る限り正常を装わせていたんだ
思えば、先ほどのアンタレスはいつもに比べ幾分素直だったように思える、…いつもの奴ならもっとこう回りくどい
「自己を失えば儂から逃げられる?たわけがぁ、奴が席を退いたら その席に儂が座るは同然、譲ってもらったんじゃ 弟子から、体を」
「奪い取ったの間違いだろうが…!」
「くかか!怒っておるか?レグルス…」
「当たり前だ!私の友の決死の覚悟を愚弄して!ただで済むと思うなよ!」
「なら殺すか?残念儂は死んでおる…、それにな 怒っておるのはお前だけではない」
刹那、鳴動する…学園が 否 世界が、シリウスが魔力を解き放ったのだ… いや恐れるな、今のシリウスはあくまでアンタレスの体を間借りしているだけ、本来の10分の一の力さえ出せない筈だ
「儂が丹精込めて作った魔術…最高傑作の一つとも言える虚空魔術をお主に与えたと言うのに、お主は儂を裏切り その手を儂に向けた…悲しかったぞ?レグルス、妹に敵意を向けられるのは」
「それはお前が 私達を 世界を裏切ったからだろう」
「先に裏切ったのはレグルスの方じゃー!、…母がお主を生んだその時から 儂はお前を儂のただ一人の理解者として育てておったのに、…些か賢く育てすぎたかと後悔したわ、もっとお馬鹿ちゃんに育てるべきじゃったわー 失敗じゃわー」
ほれほれと私の顔を叩くシリウス…、こんな奴に育てられたこと自体 私の恥だ…いや違うな、少なくとも 小さい頃の姉は立派な人間だった、こんなおかしな人ではなかった、色んな事を知っていて いつも助けてくれる姉、私の今の振る舞いだって 昔の姉の真似なんだ…
私の愛する姉とシリウスは別人だ、こいつは私の姉ではない!
「まぁ良い、お主はもういらん 代わりは見つかったのでのう」
「代わり…まさかエリスか!」
「然り、いやエリスだけではないが…まぁ 三人揃えば事足りるしのう、じゃからお主は用済みじゃ 儂が復活した以上お前に望むことはもう何もない」
「…私を殺すか、やれるものならやってみろ…!お前を消し去り アンタレスを取り戻す!」
「お!ええのう!その意気込みじゃ!、じゃがその前にあれを見よ」
「あれ?…」
シリウスがふと私の背後を指差す、それにつられつい後ろを見てしまう…すると、そこに見えたのは…
「魔獣の大群?、なんだあれは まるで大いなる厄災の時と同じ…!」
地平を埋め尽くさん程の大量の魔獣がこちらに殺到しているのだ、凄まじい数だ あんな数の魔獣が集まるのは大いなる厄災の時以来…、何故統一意識のない魔獣が一度にこちらに…
「まさか貴様がやったのか!シリウス!」
「半分正解 半分外れ、儂の指示じゃが儂の力で集まったわけではない」
だとすると シリウス以外にあんなことができるのは魔獣王くらいだが、奴はもう死んでいる…いるはずがない、奴は羅睺十悪星の一人として最終局面で私達と争い 敗れ…死んだはず
…いやまさか、いるのか…?奴も復活して…いるのか!?ここに!?魔獣王タマオノがこの学園に!?
「さてやるかレグルス」
「ま 待て、魔獣王がここにいるのだとしたら…!」
エリス達が危ない!そう言いかけた瞬間 シリウスの拳により私の体は大きく吹き飛ばされ、街の外に 更にその先の山を突き抜けただただ彼方へと殴り飛ばされる
「ここは今から奴と貴様ら弟子達の戦場となる!、何安心せい!儂に必要のない人間が全て死ぬだけじゃ!!」
「何を…ぐっ!」
「それまで貴様は儂と遊ぼう!レグルス!久しぶりに姉妹水入らずでなぁっ!」
街の遥か彼方まで吹き飛ばされる私を追うシリウス、くそ こいつがいるんじゃエリス達を助けに行けん!、すまんエリス…私が向かうまでなんとか持ちこたえてくれ…!
私はとっととシリウスを消しとばして、アンタレスを連れ帰るから!!
………………………………………………………………
「俺達を殺しにきただあ?」
「うん、そうだよ」
にこやかに微笑むアレクセイさんと対峙するエリスとアマルトさん、…魔女が入れないようにしたこの空間に現れた以上 彼が普通の人間でないことはわかっていたが…
「…エリス君、あんまり驚いてないね 僕がここに現れたことに対して」
「そりゃ驚いていましたよ、けど…貴方なら 何か仕掛けてくると察していました」
「へぇ?、そりゃなんで」
なんで?簡単だ…アレクセイさんは…いや、こいつは
「バーバラさんを襲って重傷を負わせた犯人 貴方ですよね」
「…んー、まぁ 惚ける必要もないしもう白状してもいいけど、どうしてそう思ったの?」
「バーバラさんは貴方と会って止められたなんて話一言もしてませんでした」
「バーバラ君が言い忘れだけじゃないの?、彼女ガサツだし」
「彼女はエリスの為に怒ってくれる友達想いの人なのはアレクセイさんだって知ってますよね、…けど アレクセイさんとは会ってない けど 貴方は止めたと嘘をついた、本当はこうなんじゃないですか?、後ろから襲いかかって バーバラさんに重傷を負わせそれをピエールに擦りつけた…」
「…ちょっと証拠としては弱いけど、まぁ概ねその通りだね」
すると、アレクセイさんはニタニタ笑いながらこちらを見ると…
「バーバラ君がピエールに襲われたとなれば君が怒ってピエールと敵対すると思ったんだ、そうすれば君は学園で孤立し逃げ場がなくなり弱っていくと、その効果はまぁ僕の想定以上だったようだけど」
「うるせぇ、つまりあれか 俺ぁまんまとお前に乗せられてエリスを孤立させたってか」
「うん、そうだよあのまま行けばエリス君殺すくらいわけなかったんだけどさ、ちょっと誤算だったね 他の弟子が助けに来るとは思わなかったよ」
「………………」
ラグナ達が来ることは想定外だった、しかしそこまでエリスはアレクセイさんの想定通りに進んでいたということになる、事実あの時エリスは一度全てを諦めかけた…それは全て 彼が仕組んだこと、…だったのか
「そうする為に エリスに接触したってことですか?」
「そうだよ、最初から君を殺す為 蜘蛛の巣を張るように君を追い詰めて、用意周到に殺すつもりだった」
「なんでですか?」
「なんで?、もう気がついてるんだろう」
ああ、なんとなく察しがついてる、彼の正体…それでも信じたくないから今日この日まで疑うに留めていた、それは彼がエリスの友達だから…いや、疑われない為に エリスと友達になったんだ
全てはエリスを殺す為、エリスを殺す為に動く奴らなんて エリスは一つしか知らない
「大いなるアルカナ…No.15 悪魔のアイン、その正体は 貴方なんですね」
違うと心のどこで祈る、エリスは今見当はずれのことを言っている、それを受けてアマルトもアレクセイさんも笑うんだ 違うって…そしてエリスは恥をかいて…
「正解だよ」
…………静かに目を閉じる、…そうか そうだったのか 彼は…エリスの敵だったのか、そのつもりで友達になって エリスの友達を バーバラさんを傷つけて、影で…笑っていたのか
「でもどうしてだい?バーバラ君が傷ついた件はまぁバレると想定したけれど、そこまで気付かれるとは思ってなかったよ」
「…材料は揃っていました、まずアインが関わったと思われる件 隠者のヘットの口封じ、あれはアインが魔獣を操り行ったものです、そして恐らく 去年の課題の時現れた不思議な挙動の魔獣 あれも貴方がやったことでしょう、でなければあの魔獣の動きはあり得ない…貴方はなんらかの魔術で魔獣を操れる」
「ふーん、でもそれと僕は結びつかないだろう?」
「いいえ、それより前にエリスは一度目にしています、その二件と同じ動きをする 普通ではあり得ない動きをする魔獣を…」
そう、思えば あれがアレクセイさんとの最初の出会いだった…、既に あの時から片鱗を見せていたんだ、彼と出会ったのは学園…ではなく このコルスコルピに入る時
「運河を渡る船を襲撃したあのシーサーペント、あそこに現れたシーサーペントも本来現れない場所に現れるなど 想定とは違う動きをしていました、そして奴は船を襲い エリスは貴方を助けた」
「そうだね、あれが君と僕の出会いだったね…本当はあの時接触するつもりだったけど、バーバラに邪魔されてね…いやぁ あれか、あそこか…しかしよく覚えているね 昔のことなのに」
「忘れませんよ、エリスは」
結果としてエリスはアレクセイさんを助け彼との縁が生まれた、けど あれも あのシーサーペントもアインの力によって引き起こされたものと仮定して
あの襲撃で引き起こされた事象とそれによって得する人間を考えたら、容疑者は彼しかいない、その時点で彼への疑念が生まれ…連鎖的にバーバラさん襲撃の件にも繋がった
「バーバラさんの傷は とても人間の手で再現できるものじゃありません、魔術にしたって奇妙です、まるで魔獣に襲われたよう…あの傷を見た人間は皆口を揃えてそう言います、けど魔獣に襲われたよう…ではなく」
「魔獣に襲われた…だよ、さて 犯人当ての時間は終わりだ 、では改めて自己紹介させてもらうとしよう」
やはり そうなのか、アレクセイさんは…全て 全て全てエリスを殺す為だけに行動していたのか!、バーバラさんを襲い殺しかけたのも!この場に現れたのも!!!
全部!
「君の察しのとおり、アレクセイは世を偲ぶ名前 偽名ってわけじゃないけど、今はこう名乗っている、大いなるアルカナ No.15 悪魔のアイン、このコルスコルピ陥落と孤独の魔女の弟子暗殺の命を仰せつかった 君への刺客さ、よろしくね」
「アイン…と呼んだ方がいいですか?」
「ああ、今から 君を殺すつもりだしね」
アレクセイ…いやアインは眼鏡の裏で笑う、こいつは…目的の為ならなんでもする男だ、エリスを騙し接触する為に民間人の多く乗る船を魔獣に襲わせ 口を割りそうな仲間さえも容赦なく殺し、そして 生徒の集まるエリッソ山に魔獣の大群を差し向ける
はっきり言おう、血も涙もない 目的の為なら人の死を厭わない男 それがアイン、悪魔の二つ名を冠するにたる男だ
「学園にネズミが忍び込んでると思ったら、随分な男が忍び込んでるじゃないか…」
「ああ、アマルト 君も殺すから、魔女の弟子は全員殺せって言われてるんだ、ラグナもメルクリウスもデティフローアもね、そういう意味では今この場は 魔女の弟子を一網打尽にするいい機会 そうは思わないかい?」
「言うねぇ、けど そこまで考えてる男が最後の最後に姿を現して全部告白するたぁ ヤケクソにでもなったか?」
「違うよ、今日この日が大本命だったから 姿を見せたまでさ、準備はもう整っているからね、三年越しの準備が」
「準備?」
そう疑問をエリスとアマルトが口にした瞬間 震える、地面が…地震 違う、外で何かが爆発したんだ、まさかこれが…
「今この街は壁に覆われ逃げ場のない虫かご状態さ、そこにちょいと穴を開けて 入れた…僕が三年かけて集めた魔獣、凡そ百三十万を」
「はぁっ!?なんつー数の魔獣集めてんだよ!ってかそんな量入れられたら 生徒達が」
「勿論、全員殺す…街人も含め 中央都市の人間は魔女ごと全員殺しつくし魔獣の餌にするつもりさ、ふふ…あははは!君達がいくら強くても 街人を守りながらいつまで魔獣と戦えるかなぁ!」
「貴方って人は…!」
思わずアインに向けて殴りかかろうとする瞬間 アマルトに肩を掴まれ止められる、何故!何故止めるんですか!アマルト!まさか貴方 アインに味方して…
「落ち着けエリス、ここをどこだと思ってんだ」
「え?…あ」
「ここにゃ魔女がいるんだぜ?百万だろうが百億だろうが、魔女のいる街にいくら魔獣を放っても…」
「魔女なら来ないよ、今頃暴走してるから」
「は?、なんて?暴走?なんで?」
ピリリと脳裏によぎる…、何故 アインがそれを知っているか、魔女の状態を彼が知る術はないはず、ましてやいつ暴走するのかなんて分かりっこない 筈なのに
彼は、そう…彼は知っていた…、以前彼と話した時感じた違和感の正体 それは
彼は あの樹木が枯れない理由をエリスが聞いた時だ…『魔女の加護ですか?』と聞いた時 彼はこう答えた
『半分正解』と…、半分…つまりそれはシリウスの腕が埋まっているという部分、なんで彼は秘匿されている大いなる厄災の正体を知っていた?
何故 大いなる厄災の正体であるシリウスが 『魔女であると知っていた?』
それは即ち…、いや あり得ないと思いながらもそうとしか思えない
「まさか、貴方…シリウスと繋がって…?」
「ふふ、さてどうかな」
でなければ知りようがない、シリウスが魔女である事 魔女の実情、シリウスなら知り得る情報を彼は持っている、しかしなんでだ…どうやってシリウスと繋がった?何故彼がシリウスの言うことを聞いている…!、分からない 目の前のアインという男の事が 何も
「外は魔獣の海 きっと君の友人達も魔獣に食い殺されている頃だろう、そして 君達は今から僕達に殺される、これで 全て終わりだ」
「ああ?…僕 …『達?』」
「そうだね、紹介しよう…僕と共に学園へ忍び込んでくれた、我が同士にして 君達を殺すための手駒」
アインが 指を鳴らせば、その背後から 連なるように三人が現れる、アインも入れて四人…この国で活動していると言われているアルカナの幹部達と同じ数、まさか その幹部が全員同じ学園に通っていたとは
灯台下暗しってやつだな…これは
「じゃ、各々自己紹介お願い、今から殺す相手だ 礼儀作法は忘れてはいけないよ」
そう言って、前へ出てくる三人…それは全て見覚えのある顔で…
「やぁ〜?、エリスくぅ〜ん久しぶりぃ〜」
「エドワルド先輩…すげー怪しいと思ったら貴方もですか」
エドワルド先輩だ、エドワルド・ヴァラーハミヒラ…現魔術科最強の魔術師と呼ばれる主席候補、その振る舞いは道化そのもの エリスの中で怪しい人物トップ10に入る怪しい人物、彼がアルカナの幹部と言われて逆に納得してしまうところがある
「あらら、怪しまれてたぁ?…では改めまして エドワルド改めNo.13 死神のヌン、これからはエドワルドって呼ばないでくれよぉ?」
エドワルド先輩…否 死神のヌンはいつものように帽子を軽くあげて挨拶する、…No.13 こいつもコフより格上か、あの強敵よりも…
そしてもう一人は
「おいおい、お前もそのアルカナの一人とか言わねぇよな」
アマルトが顔を引きつらせ頭を抱える、そりゃそうだ そこに立っているのは アドラステアさんだから、アドラステア・フィロラオス…ノーブルズの一員でありこの国を支える大貴族の息女たる彼女がそこに…アインの隣に立ってるんだから
「ええ、そうですよ No.14節制のサメフの名を頂いております、今まで騙してすみませんでしたね、アマルト様」
「別に最初から信じてねぇからいいよ、ったく姉妹揃って…」
エドワルド先輩が死神のヌン アドラステアさんが節制のサメフ、…二人ともアルカナの上位No.を持つ大幹部…、となれば 後残るのは…そこに立ってる彼女だが
まぁだよな、些か信じがたいが アドラステア エドワルド アレクセイとチームを組んでいた最後の一人と言えば、彼女しかいない
「貴方もですか?委員長さん…」
「え?あ…あの…えっと」
図書委員だ、ラグナにチョコを渡していた図書委員さん、彼女がオドオドしながら周りの顔を見て怯えている、…彼女も幹部なのか?それっぽくはないが…
「ペー…もう演技はやめていいよ、そう言う流れなの分からない?」
「演技もうやめていいんですか?…」
「いいって言ってるだろうに、本当にバカだな君は」
「そっか…そっかぁぁ……」
アインの言葉を受け 図書委員は…ペーと呼ばれた彼女は、野暮ったく結んでいた三つ編みを乱雑に振りほどき芋っぽい眼鏡を捨て、笑う…ギラリと並ぶ鮫のような牙を見せ、ゲヘゲヘ笑い始める…まるで何かに取り憑かれたようだ
「あぁぁぁぁあぁははははははははは!!!、やぁぁぁああっと演技やめていいのぉ!?もう疲れちゃったよアイン!もうエンギしなくていいんだよねぇぇ!うげげげげげ!」
「ああ、いいよ ほら エリス君達ぽかんとしてるから 挨拶」
「うんっ!、アタシはペー…塔のペェェェェエエエ!!!、No.は16!つまり!カストリア大陸最強のアルカナ!アタシが!一番ぅ!強いんだぁ〜〜!!ぇえれえれえげれげげえれげげげぇーっ!!」
急に狂ったぞ、…エリスの知ってる人間の中で一番 いやぶっちぎりでいかれた奴だ、というか 塔のペー?No.16?つまり彼女はエリスが今まで出会った全てのアルカナの中で最も強いということ、彼女の言葉を信用するなら このカストリア大陸にいる幹部の中で 彼女が最強という事…
そんなに強いようには見えないけれど、というか演技上手いな あれを抑えて大人しい図書委員を演じてたのか、見かけよりも芸達者なのかもしれない
「ペー…なんつーか変わった名前だな」
「あはぁ!アイン!アタシ褒められたよ!褒められた!やっぱりアタシが一番強いんだぁ〜?」
「バカにされたんじゃないのかな?」
「あぁっ!!??、バカにィ?ぅぎぃぃぃぃぃ!!!バカはお前だろうがぁぁぁぁあるるるあああ!」
「あははは!、いつ見てもペーの癇癪は面白いねぇ?」
「ヌン アイン ペー、うるさいですよ」
「エリス、お前すげーのと知り合いだな」
「エリスも今知り合ったばかりですよ」
だがまずいぞ、相当まずい 以前もアルカナ幹部に囲まれたことがあったが…その時でさえエリスは死にかけた、だというのに今回エリスを囲んでいるのは全て高No.の大幹部達ばかり、カストリア大陸における大いなるアルカナの最高戦力達が今 エリスを囲んでいるんだ
対するエリス達は先程の戦いで万全とは呼べない…、まずい…かなりかなりまずい…!
「さて、自己紹介も終わったし 死のうか…」
「来るかよ、ったくめんどくせぇ 全員ぶっ飛ばしてやるよ」
「アマルト気をつけてください!この人たち シャレにならないくらい強いですよ!」
「え?そうなの?」
アインの言葉に従いこちらを向くアルカナ幹部たち、もう激突は免れない…唯一の出入り口はアルカナたちに塞がれている、このままじゃ逃げられない…!
「袋小路だ、もう逃げ場はない…さぁみんな やってしまおう」
魔力が膨れ上がる、アインもヌンもサメフもペーも、爆裂の如き魔力の増幅に肌が痺れる、特に凄まじいのはアインとペー…いやペーだけ別格だ、エリスの数倍はあるぞ!?、これ…万全の状態で一対一で戦っても 勝てるかどうか怪しいぞ…
「あぁぁぁぁ!!!アタシが全部ぶっ殺すぅぅぅぁぁあああああ!!」
刹那 ペーが拳を石畳に叩きつけ いきなり粉々に砕く…と、共にその魔力が地面に移り
「『ゴーレムクラフト』!起きろ!群像石人のクンバカルナ!」
ペーの言葉の言葉に呼応し砕けた岩が寄り集まり 形を作り始める、生まれるのは石像の戦士だ、甲冑を囲んだデザインをした戦士の石像が15体 それが一気に現れるのだ、しかもそいつら全員…
「よっしゃ行けー!」
「ッ!?」
速い!、石像の戦士達一体一体がシャレにならないくらい速く踏み込み一気にこちらに殺到する、ペーの魔術はゴーレムを作り魔術…まさか あの遺跡に現れたゴーレムってペーの作った?だとしたらこの数はまずい 一体でさえ苦戦したのに…この数は
「くっ!」
防ぐ 石像の戦士の剣を一撃 ディスコルディア で防ぐが、石特有の重さと速度の乗った一撃はあまりに重く エリスの体は容易くバランスを失う、これが一体だけならいいが…まだいる まだまだいる、それらが全て石の剣を掲げてエリスに振り下ろし…
「エリス!強いのは知ってんだろ!気を抜くな!」
その瞬間アマルトの剣閃が煌めき 瞬く間に目の前の石像達をバラバラに砕き斬る、た …た…
「助かりました!アマルトさん!」
「いい迷惑だよ!こっちは!、厄介なモン連れこみやがって…!、あれの狙いに俺も加わってなけりゃ お前だけ突き出してたよ!」
「そんなこと言ってぇ」
「うぜぇー!」
だが、ダメだ 今のアマルトさんの攻撃ではゴーレムを殺しきれない、奴らはコアを壊さない限り動き続ける、事実先ほどバラバラにした石像達は破片になりながらも動き 石を集めて再び動き出そうとしている…
「チッ、突破するぞ!エリス!」
「はい!大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ、荒れ狂う怒号 叫び上げる風切 、その暴威を 代弁する事を ここに誓わん『颶神風刻大槍』!!!」
ともあれここを突破しない限りどうしようもない、腕に魔力を集め作り出すは極大の風…不可視の槍、奴らが一塊になっているなら 範囲攻撃で一網打尽にしてやる!、そう思いを乗せて放つ風の槍はエリスの手から解放されてアイン達へと向かっていく
…エリスの魔術の威力の高さはアイン達も知っているはずなのに、…奴らは顔色一つ変えず…
「『コンセプトコンプレッサー』」
一人が…アドラステア いや節制のサメフがそう口にしながら両手の指で四角を作ると共にそう詠唱するのだ、魔術…その発動と共にエリスの風の槍は…
「んなっ!?エリスの魔術が…!!」
消えた、まるで何かに押し潰され圧縮されるようにサメフの目の前で虚空に握り潰され消える、あれは…いやあれどういう魔術!?ウチの魔術辞典ちゃんがいれば分かるのかもだけど
今一つ言えるのは サメフにはエリスの攻撃が効かないということ、当然だ こいつら全員戦車のヘットの何倍も強いのだから、一筋縄で行くわけない!
「ヤッホー?エリスちゃ〜ん?」
「っっ!?エドワルド…いや」
「今はヌンだよぉ?」
いつのまにかエリスの背後に立つヌンは手に持つ杖を抜き放つ、どうやらあの杖 仕込み剣になっているようで、白刃がエリスの背後で怪しく輝き…
「ほらプレゼント、『フィアーアドヴァース』!」
エリスの背中に仕込み剣が突き立てられる瞬間 剣先が気色の悪い紫の輝きを放ち爆裂し、エリスの体を衝撃が駆け抜ける
「ぐぁっ!?」
「おや?刃が通らない、そのコート 防刃製か、手を間違えたかな」
ただ師匠の作ったコートは刃を通さない、だからといってダメージを無効化できるわけではない為エリスはヌンの突きに吹き飛ばされる…ぐぅ、痛い そりゃ痛いよ、鋭利な鉄で背中を突かれればすっごい痛い、コートはあくまで布…防具じゃない
「ってぇ!?なんですかこれぇっ!?」
ふと突かれた背中を見てみると、コートから紫色のシミがこれまた気持ち悪い紫色の煙が出ており、…って この匂い、まさか…
「毒ですか!」
「察しがいいねぇ、刃が通ってたら 苦しんで死ねたのに…」
あっぶねぇ!!、師匠ありがとうございます!今エリス命拾いしましたよ!というか毒使いか、エリス解毒できないから貰ったら死確定だ…!
「しぶといね…エリス」
「アレクセイ…いや、アイン…!」
吹き飛ばされる先にはアインだ、彼は倒れるエリスを見つけ 冷たく見下ろす、やはり…友達というのは彼の演技でしかなかったようだ、その目には 一抹の情もない
「バーバラさんを傷つけて…貴方には人としての情がないんですね」
「あはは、物の見事にないよそれ、情も人としての感性もね…」
するとアインの背後影が生まれる、…魔獣だBランクからAランクの強力な魔獣が、まるでアインに従うように彼の背後で待機している…
「まさか本当に魔獣を操って…でもそんな魔術あるわけが…」
「 これ魔術じゃないからね、人の使う小手先の技なんか僕が使うわけがないだろう」
「魔術じゃない…、じゃあそれ…なんなんですか…!」
「生きてたら答えてあげる、さぁみんな 餌の時間だ」
「ッッ!!」
咄嗟にその場から起き上がり転がるように飛び退く、その刹那の後 エリスが今さっきまでいた空間に魔獣達の足や爪が殺到して地面を跡形もなく抉り抜く、本当にアインに従ってる!でも魔術じゃない?なら…なんなんだ!
「逃がさないよ、レッドリザード…」
「グゴォァァァァア!!!」
「くっ!『旋風圏跳』!!」
アインの隣に控える赤竜がパカリと口を開け エリスに向けて放つ火炎の吐息、焼き殺されるよりも前に風をま 纏い横っ飛びに逃げる…けど
「ああ…本が!」
この部屋の壁に鎮座する本達が赤竜の火炎により燃えていく、燃えていく…エリスの探していたであろう本が、魔女様が危険と分かりながらも保存してきた本が、師匠達の生きた時代の名残の一つが 焼けて消えていく
「本なんか気にしてる場合かな?」
「っ!?ぐぁっ!!!!」
本を気にして余所見をしたエリスに向けて、アインの背後に立つ巨大な熊型の魔獣の一撃が振るわれ 注意を怠ったエリスは大木のような腕に容易く吹き飛ばされ 叩き落される
「ぐっ…うぐ…」
魔獣の一撃とは どれも必殺の物、故に人間はそれらを回避し 弱点を突くことで討伐できる、…が…アインの指揮の下にいる魔獣 奴らは他の魔獣と違い連携してくる、互いに互いの弱点を守り 攻撃の間に攻撃を挟んでくる
まるで人の戦い方だ、人と魔獣…戦い方が同じなら どちらが勝つか言うまでもない
「これは僕だけでも行けそうだね…」
「アイン!…まさか、この魔獣達に外の生徒を襲わせているんですか!」
「今外の心配かな?、それはあの世に行ってから確かめなよ、多分みんないるだろうからさ」
「くっ…」
くそ、早くこいつら倒して外に行きたいのに…このままじゃ外に出るどころか、ここで殺される…!、せめて一人づつならまだ打つ手はあるのに、ペーの物量攻撃 サメフの防御 ヌンの必殺の一撃…そしてアインの魔獣
突破するにはエリスの力だけでは無理だ、…いや 諦めるな!何か手があるはずだ、何か!
「エリス!」
「アマルトさん!?」
するとペーの石像戦士達を切り裂きアマルトさんがこちらに駆け寄ってくる、一緒に戦ってくれるか?、だが彼も消耗してることに違いはない、何せあの血を使った戦い方…さっきの戦いで相当数出血している、これ以上無理をすればアマルトさんの命が…
「おいエリス!、今からお前を学園に逃がす、そこで体制整えてラグナ達と合流して、んでもってこいつら倒せ!、元はと言えばお前狙いで来てんだ!お前がなんとかしろ!」
「逃がすって…どうやって…」
「お前だけなら逃がす手立ては…ある!」
「おっと気がつかれてましたか」
アマルトさんは振り向きざまに剣を振るいヌンの毒剣を弾き飛ばす、エリスだけなら…それじゃあ…
「それじゃあアマルトさんはどうするんですか!、こいつらの狙いにはアマルトさんも含まれているんですよ!殺されてしまいます!」
「お前逃した後なんとでもする!、ナメるなよ!俺ぁ逃げることに関してはベテランだ!将来からも逃げてたんだ!こいつらからなんて朝飯前だよ!」
「でも…」
「でもじゃない!、外にいる生徒達の未来を守るには これが最善だ!…頼むぜ?なぁっ!」
するとアマルトさんは剣の柄でエリスの頭をガツンと殴る、は…はぁ?何されたのエリス今
「な…何を」
「意識を奪う呪いをかけた、魔女の魔術がまだ健在なら意識を失えば学園に戻される筈だ」
「あ…まる…と…」
薄れゆく意識の中、エリスははっきりと見る、意識を失うエリスの体が光に包まれ浮かび上がり、どこかへ誘われるのが…、その様を見届け 迫り来る石像 魔獣の群れと対峙するアマルトさんの姿が…
このままではアマルトさんが…そう思いはすれど呪いには抗えず、エリスの意識は闇に飲まれていく…
必ず…必ずなんとかします、なんとかするから…頼むから死なないで、アマルトさん………
………………………………………………………………
「オラァッ!、魔獣石像何するものぞぉーっ!」
剣を振るい 迫り来る魔獣や石の戦士達を斬りはらいアマルト、エリスがいなくなったことで その場の戦力が全てアマルトに向けられている、周囲の本は燃え、熱と薄くなる空気 そして血を流しすぎたことによる弊害に苦しみながらも 剣を振るう
「ちょっとぉぉぉ!アイィィィイン!エリスに逃げられちゃったよぉぉ!!」
光の玉となり遺跡の外へと消えたエリスを捕まえようとゴーレムを差し向けるペーだが、魔女の魔力は健在なようで ゴーレム達は光に触れた瞬間粉々に崩れてしまう
「いいよ別に、逃げられても大丈夫なように計画は立ててあるからね」
「ええ、アインの計画は完璧です、故に私達も従っていたわけですから」
「そっかぁぁぁ!そうだねぇぇぇ!やっぱりアタシつよぉい」
「それより彼、どうします?」
アイン達の視線の先にはアマルトが映る、魔獣を斬り伏せ 石像を粉微塵にし、ヌンと壮絶な斬り合いを演じている、呪いと毒 互いに一撃でも入れば相手を殺せる者同士の斬り合い… しかし
「さて、ここで殺せるなら アマルトから先に殺しておきたいですが、どうせ君も逃げるんでしょう?」
「まぁな!、お前らクソ強いしまともにやり合うつもりはない!」
「やっぱり…でも、僕達から逃げられると?」
「朝飯前通り越して前の日の昼食前だ、いや昨日昼飯食ってなかったな じゃあ晩飯の結構前?」
「阿呆らしい、…魔獣達よ 彼を囲んで嬲り殺せ」
連れてきた魔獣達を嗾け、アマルトに向かわせる さしもの奴も数で押し続ければ限界などすぐに来る、エリスとの戦いで消耗した彼なら…
しかし、その瞬間 アマルトは懐に手を突っ込み…
「じゃあな!バーカ!」
何かを地面に叩きつける、アマルトの手から放たれたそれは地面にぶつかり弾けると共に眩い光を放ち
「閃光弾…?、そんなものまで用意してるとは、油断ならない男だね…!」
放たれた光に目を細めるアイン、ああ ダメだ 魔獣達の目がやられた、目が見えなければこいつらはただ邪魔なだけの木偶の坊…障害物だ、僕が魔獣を前に出すのを見計らっていたか…
ヌンもサメフも少し眩しそうに目を背ける、ペーだけは微動だにせず目をガン開きにしてアマルトを見ているが、あれは目が見えなくなってることに気がついてないだけだ 本当にバカだなアイツ
「……チッ、本当に逃げやがった」
思わず悪態を吐く、光が消えた後 そこには誰もいない、わかっちゃいたが光に紛れて逃げおおせたらしい、唯一の出入り口に陣取る僕達を通り抜けてどうやって逃げたかは分からないが、あれも魔女の弟子…埒外の逃げ方くらいするだろう
「んあー?、ああぁぁぁ!ハエが飛んでる!けど見えねぇ!どぉぉぉなってるのぉぉぉ!アィィィィィイイイインァァァアアア!!!!」
「バカは放ってとして、さて エリス達が逃げたことだし、そろそろ第二段階に移ろうか?みんな」
何も見えず一人ジタバタするペーを放り アインはヌンとサメフに指示を飛ばす、第二段階…正直逃げられることも想定していた、消耗したところで叩けばエリスは逃げの一手に出ることなど容易に想像できる
だから今日を選んだ、何がどうなろうとも逃げられないこの日を…今のは前座 これからが本番だ
「ええ、分かりました アイン…指定の位置に行けば良いのですね」
「うぅ〜ん、ここで仕留めたかったけど仕方ないかぁ〜」
「どの道この計画に移行するつもりだったからさ、結局逃げても変わらないさ…」
そうだ、逃げても意味はない…全て恙無く行うために今日を選んだ
エリス…君達が死ぬのは変わらない事実だ、今日という日まで僕に気がつけなかった時点で、君達の敗北は決まっているのさ
ふふ…あははは、あはははははは!か弱い人間達がどうやって僕に抗うのか…今から楽しみだ
ねえ、見ていてよシリウス様…今にエリスを殺してあげるから、貴方の計画にあいつは必要ないってこと 僕が証明するからさ




