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158.対決 探求の弟子 アマルト・アリスタルコス


「貴方が第二の大いなる厄災になり得る可能性は大いにあるのですよ?レグルスさぁん?」


「っ…」


アンタレスの言葉に思わず口を紡ぐ、私が シリウスのようになると言いたいのか、私とシリウスが姉妹だから お前も同じ穴の狢だと…、今更私とシリウスが姉妹であることはどうしようもない事実、だが


「アンタレス!私はシリウスのような凶行は行わん!、それはお前も良くわかるってる筈だ!私は…」


「ああ勘違いしないでください?お前がシリウスの姉妹だからお前も姉と同じ…って言いたいわけじゃないんですよ?いくら姉妹だからって思想まで同じってわけじゃないですし何より私はレグルスさぁんを信じてますから」


「そ そうなのか?」


「だって私達親友じゃないですか 親友を疑ったりしませんよ」


そう面と向かって言われるとちょっと照れくさいな、だが 分かるよ、アンタレスは私を疑ってるわけじゃない、私がシリウスのように世界を滅ぼしにかかるような女ではないことは アンタレスだってよく分かってくれている


「言い方が悪かったですか…第二の大いなる厄災になり得るのはレグルスさぁんだけじゃありません 私もです」


「お前も?だがお前だってそんなことは…」


「望む望まないはこの際関係ありません…何せこれは我々自身の意思ではどうにも出来ないことなので」


「???」


つまり何が言いたいんだ?さっぱわからんぞ…、いや もしかしてこれ、暴走云々の件と話が繋がってるのか、とすると


「例の暴走…によく似たあれか?」


「ええそれです…まぁこの際はっきり言いましょう もう隠しても仕方ないので…あれは暴走ではありません あれはシリウスからの干渉です」


「シリウスからの…干渉だと!?」


シリウスが我らに干渉していただと?いやしかしシリウスは死んでいる さしもの奴も死んだままでは何もできないはずなのに…


「確かにシリウスは死んでいますが その魔力は生きています…奴はその魔力を使い 長い年月をかけて空気中に魔力を噴霧し 我々の中に染み込ませていった…ゆっくりじっくりね」


「染み込ませた?そんなことできるとは思えん」


「まぁシリウスも半ばやけっぱちだったんでしょうね?でも奴にとって嬉しい誤算があった…それはシリウスの魂と我々を繋ぐ線が存在していたことです」


あの世の境目にいるシリウスと現世にいる我らを繋ぐ線?何かあったか?…、ふむ魔力を現世に通すなら 魔力伝導率の高い物質を経由するしかない、そして魔力の伝導率が最も高いのは魔力の持ち主本人の血と言われている、血…肉体…シリウスの肉体…


「まさか、魔女大国にそれぞれ封印されているシリウスの肉体…か?」


「そうです、我らはシリウスの復活を恐れるあまりシリウスの裂いた遺骸を常に側に起き続けた…シリウスの肉体は魂から出ずる魔力の通り道となり我らにシリウスの魔力を届け続けた」


「そうか、だから魔女大国を統べるアルクトゥルスやフォーマルハウトがシリウスの魔力によって狂わされていたのか、奴等も直ぐそばにシリウスの肉体を置いた生活を数千年と過ごしてきたからな」


「そうですそして私達の中に溜まった魔力は一人でに二つの術式を完成させた…一つが洗脳魔術 我ら魔女の思考を抑制しシリウスにとって都合のいい方向へと運ばせる術」


洗脳魔術…、シリウスの編み出した洗脳魔術の恐ろしさはよく知っている、あれを使われるとどんな人間も自由意志を奪われシリウスに従い駒にされる


アルクトゥルス達も自由意志までは奪われなかったにせよ 無用に戦争を求めたり 不必要に財を求めたりなど、本来の思考を大幅に削がれていた…恐らく体の中に染み込んだ洗脳魔術がそうさせていたんだ…


「そしてもう一つが同化魔術…洗脳が完全に終わると同時にその肉体をシリウスのものへと置換する恐ろしい魔術ですよ あのままレグルスさぁんがアルクトゥルスさぁん達を解放しなければ 二人はいずれシリウスに変えられていたでしょう」


「…ゾッとしないな、…しかしそうか 私の虚空魔術で打ち消せたのも奴等の凶行の原因が洗脳魔術だったからか、私の虚空魔術なら体内に溜まった魔力ごと魔術も打ち消せる」


「そういうことです…シリウスはこの二つを使い魔女を洗脳し 他人を寄せ付けなくしてからゆっくりとその体を自分のものへと改造していたんですよ まるで寄生虫ですね」


しかし恐ろしい話だ、シリウスにも私達にも無限の時間があるからこそ成立する搦め手、気がつかなければ恐ろしい事態になっていた


「しかしそんな重要な話ならもっと周りに共有すればよかった筈だ それこそ私とか」


「誰がもうシリウスに掌握されているか分からなかったんです…レグルスさぁんもシリウスに完全に乗っ取られているかもしれないし 何よりそうやって思い立ち行動することもシリウスの洗脳の所為かもしれないと思うと行動できなかったんですよ」


アンタレスは分かってしまったが故に行動出来なかった、もし他の魔女が既にシリウスに乗っ取られていたとしたら もし自分が既にシリウスによって乗っ取られていたら


友も自分も信用できなくなったアンタレスは、それ故に私達に秘匿した…ということか、アルクトゥルスに話したのは少なくともアルクトゥルスが解放されていると私の話で知っていたからか


「しかし…だとしても今まで黙って逃げ続けて、なんとかできる算段はあったのか?お前だってその洗脳魔術に侵されてるんだろう?」


「ええはい…バリバリに洗脳されかかってますし なんならもう…限界に近いです」


とだけいうとフラリと耐えれそうになるアンタレスの体を支える、やはりなこいつは賢いくせしてギリギリのギリまで自分で抱え込む癖ある、そして二進も三進もいかなくなったタイミングで言うんだ…、助けてくれと


「いや洗脳自体はなんとかしたんですよ…ただ同化の方に気がつくのに遅れてしまって…今私の心の半分以上はシリウスに握られている状態です」


「状況は切迫詰まっているようだな…」


「ええ、出来れば自分でなんとかしたかったです…シリウスの目的が以前知れない状況下で無闇に貴方の虚空魔術に頼るのは…危険ですから」


アンタレスの額に玉のような汗が浮かび上がる、かなり辛そうだ…もっと早く気が付いていれば…


いや、ある意味ギリギリで間に合ったとも言える 、これから対処すればいいんだ


「危険であれ何であれ 今のお前を治すには虚空魔術でお前のうちのシリウスの魔力と術式を消す必要がある意味


「そうですね…そうなんですよね 情けない…勝手に悩んで一人で抱え込んでなんとか出来ると思えば何も出来ず…すみませんね 役立たずな上に傍迷惑な女で」


「卑屈になるな、お前なりに考えた結果だろう」


「ええまあ…ですけど 虚空魔術を使うのは…少し待ってください…」


アンタレスは苦しそうにもがきながら私の手から離れると、フラフラと距離を取り始める…待つのはいいが、どうするんだ?


「どうした?まだ何かあるのか?」


「言いましたよね…私の半分はすでにシリウスだと…このまま虚空魔術を貴方が使おうとすれば私の体は私の意思に反して妨害にかかる可能性があります」


「それは…いやその程度跳ね除けてみせるさ」


「なめないでください…シリウスが魔女の体を使って暴れればどうなるか分かるでしょ?だから…一つ考えがあるんです」


「考え?なんだ」


「聞いてくれますか?…その上乗って…くれますか?」


アンタレスは掠れる目をめいいっぱい開けながら口を開く…………


…………………………………………………………


「…うぅ」


「………………」


こつりこつりと石畳を叩く足音が二つ、エリスとアマルトだ 今エリス達は二人で永遠と続く石廊を歩いている、黙って 延々と


師匠の名を見て混乱しているエリスに声をかけたアマルトは その後一言、『付いて来い』とだけ言っていきなり歩き始めた


付いて来いというのなら付いていくが…、うぅ 物凄く居辛い雰囲気だ


エリスとアマルト 敵対している関係の人間が二人して並んで、黙って歩いているんだ…警戒は解けない かといって何があるわけでもない、会話も何もない時間にエリスはさっきからずっと口をもごもごさせる


すると


「お前 そこの石壁…見たか?」


「え?、ああ…はい、卒業生の名前が書いてあるやつですよね」


いきなりアマルトの方から声をかけてくる、話題は石壁の事だ 歴代の…それこそ八千年も前の卒業生の名さえ刻んである謎の石壁、誰がどうやって書いているのか不明だし 何ならここがどこで何なのも分からない


「この石壁 学園を卒業すると同時に勝手に名前が刻まれるシステムらしいぜ?、なんでそんなことしてんのかは分からねぇけど プライバシーもへったくれもないよな」


「勝手に刻まれるんですか?…アマルトさん ここがどこだか分かるんですか」


「アンタレスから聞いた ここはな?例の大図書館の地下に存在する大遺跡 通称時刻みの部屋って場所らしい」


「と 時刻み!?」


思わず声を上げてしまう だって…その名前 聞いたことがある、確かナヴァグラハが力を求めるならそこへ行けと指定した場所だ、ここにはナヴァグラハの残した識に関する本があると…


けど、周りを見るがそんな本というか そもそも本の一冊も見当たらない…ナヴァグラハのアテが外れたか?、そんなこともあるのか


「こここそが俺とお前が探していた図書館の隠し部屋ってわけだ、まさか 道で繋がっていない地下にあるとはな、見つけられないわけだぜ」


「地下に…ああ、なるほど 街がひっくり返った時 この時刻みの部屋…いえ遺跡も表に表層化したってことですね」


「みたいだな、まぁここらの遺跡で一番入り組んだ遺跡らしいし ここに入って来るやつはいないと思うぜ?」


「いない?、でもエリス達みたいにここに飛ばされた人が…」


「いないさ、ここには誰も飛ばされていない」


こちらを見ずに答えるアマルトに、察する…そういうことか アンタレス様の出した課題は全てただのお膳立てだったんだ


宝玉なんて餌で他の生徒の目を逸らし、泥仕合を防ぐという名目でエリスを仲間と引き離し かつエリスを好きな場所に導く、全てはアマルトとエリスを戦わせるという目的のため


「アンタレス様はエリスと貴方が決着をつけるのを望んでいるんですか?」


「だからここでこうしてんだろ、でなきゃとっととバックれてら」


「何故アンタレス様が態々エリスを?、決着をつけるだけならエリスでなくとも…」


「さぁな、そんなところまでは知らねぇよ、ただあの人もお前にゃ何か思うところがあるみたいだぜ?…ああ言っとくが その内容も知らん、相手の考えてることをいちいち共有する程俺たち師弟は仲良くないんでな」


共有か…だとするとエリスと師匠の仲も良くないことになる、エリスも師匠に隠し事をしてるし 師匠もエリスに隠し事をしている、お互いがお互い 隠し事をして相手の隠し事を見ないふりしている


お世辞にも全てを共有出来てるとは言い難い…


「まぁあ?、俺としてもありがたい限りだぜ?、なんのかんの言ってもこの因縁は俺とお前から始まってるし 、お前は特に腹立つ目をしてるし、何より…」


「何より?」


「お前には一度勝ってる、決着をつけろってんならこれ以上ないくらいの好カードだ」


い…言ってくれるなぁ、今のは流石にカチンと来ましたよ まぁ事実ですが、負けましたがエリスは貴方に、けど 一回だけです たった一回負けただけです、次は勝ちます 何が何でも


「エリスはもう負けませんよ?」


「言ってろよ、…どうせすぐ決着がつく…、さぁ 着いたぜ?ここでなら遺憾無く戦えるだろ」


そう言ってアマルトは足を止める、そこは永遠に続くと思われた石廊の終点


いきなり石廊はドカンと爆発するように開けた空間へと繋がる、広い 王城のダンスホールよりも二回りほど大きな円形の広場 そこがこの遺跡の終点だ


なんのための空間か?言うまでもない、グルリと円形に広がる壁には地面から天井まで所狭しと本が並べてある、そうだここは超巨大な円形の本棚の中心なのだ


「ここは…」


「この遺跡の最奥…魔女達の隠したがった歴史の裏側について書かれた本を封印する場所、さっきの廊下が『時刻み』だとするなら、ここは二度と日の目を浴びない歴史と時の墓場…差し詰め『時屠りの間』ってとこかな」


時屠りの間…、確かに ここにある本はただただ仕舞われているだけ、二度と人の目に入ってはいけない されど消し去る事が出来なかった裏の歴史 抹消された時の墓場…だな


「ってとこかなって、その時屠りの間ってアマルトが名付けたんですか?」


「うるせぇ」


「かっこいいですね、エリスそういうセンス嫌いじゃないですよ」


「うるせぇ」


「時屠りの間…ってとこかな?ドヤぁ」


「ブッ殺すぞお前!!」


エリスが揶揄うと彼は怒鳴り散らしながらもズカズカと時屠りの間の中央に陣取り、こちらを向く…、鋭い目つきだ 目を見て分かるくらい、今の彼は本気だ


「さて、仲良しおしゃべりタイムも終わりだ、決着つけに来たんだろ?、俺もお前もさ」


「はい、そのつもりでエリスはここに来ました、貴方の暴走と凶行を止めるためにここに来ました!」


「暴走ねぇ…俺の学園崩壊を阻止しようって?、また俺のためなんてお為ごかし宣うつもりじゃねぇよな」


ゆっくりとアマルトは腰から短剣を抜き放つ、前回は最後しか抜かなかった短剣を…今度は最初から抜いて来るか、大陸 下手すりゃ世界最強の剣士であるタリアテッレさん直々の指南で培った剣術を…今度は最初から


「はい!そのお為ごかしを 今日は実現しに来ました、…貴方の過去 イオから聞きましたよ」


「やっぱりか…イオ…、あいつの差し金か…所詮 アイツもこの腐りきった伝統と朽ちかけの歴史を大事に大事に両手に仕舞い込む国の王様ってわけだ、国の宝である学園を守る為には…俺ぁ邪魔だもんな!」


「違います!全ては貴方の為を思って イオは頭を下げてエリス達に頼んだんです!、ノーブルズを解体したのだって エリス達に託したのだって!全部貴方の為なんですよ!」


「口じゃあなんとだって言えんだよ!、お前のため!貴方の為?腹の底から相手の為を思ってその言葉を口にする奴なんかこの世にいないんだよ!」


アマルトは…きっと サルバニートの件が胸に突き刺さっているんだろう、唯一信じられると思った人物が 最初から自分を利用する為に拐かしいた、そのショックは何年経っても薄れることはないだろう


それが その経験がアマルトの目を曇らせている、イオやガニメデと言った真の意味でアマルトを信用してくれる人達を心の底から信じられないんだ


「嘘じゃありません、…イオも そしてエリス達も…貴方の事を事を想っています、想っているからこそ譲れないんです!このまま貴方に学園を潰させるわけにはいかない!貴方の夢の在り処である学園を!」


「そんな夢なんざもう捨てたんだ!いい加減にしてくれ!、くどいんだよ!」


するとアマルトはその短剣で指先を軽く傷つけ…その体から魔力を噴き出させ 滾らせる、来る…アマルトが戦闘態勢を取った…


「人を呪わば穴二つ、この身敵を穿つ為ならば我が身穿つ事さえ厭わず」


詠唱と共に指先から流れる血はまるで意思を持ったように短剣を這い 覆い被さり形を作り、瞬く間に漆黒の長剣へと姿を変える、血を硬化させ武器にする魔術…やはりあれがアマルトのメインの魔術らしい


「『呪装・黒呪ノ血剣』」


「……ッ」


アマルトが一度 黒剣を払い風音を鳴らすと共に、静かに構えを取る剣を横にし切っ先をこちらに向け 腰を落とすような構え、前のめりな攻めの構え…あれがアマルトの本来の構え、あれがアマルトの本気


「悪いが今日はガチで潰させてもらう!、いい加減テメェとの因縁も飽き飽きだ…今日ここでお前をぶっ殺して!お前を通して 俺の中に燻るうざったい火も消し去ってやる!」


「させません、貴方の中で必死に抗う貴方自身を エリスは決して殺させはしません!」


「ハッ…そうかい、なら最後まで綺麗事抜かしながらくたばりやがれ!!」


アマルトが剣を強く握り 腰をさらに落とし…強く踏み込む、…来る!


「ちょっと待ってください!」


「っとと!、はぁ!?今タンマかける!?普通!」


「アマルトばっかり戦闘モードになってずるいです、エリスも戦闘形態にならせてください」


「ここに来るまでの間に準備くらいしとけ!」


ごもっともだ、けどそれでも待ってくれるのですねアマルト 優しいですね、さて 今日この日この場所がエリスの学園での コルスコルピでの最終決戦となるだろう


なら、悪いがこんな格好では締まりがつかない…もう着慣れた制服だけど、決戦をするならもっと相応しい姿があるからね


「エリス今から着替えるんで向こう向いててください」


「…はぁ、早くしろよ」


そう言いながら後ろをくるりと向いてくれるアマルト、有難い まぁ服を全部脱ぐわけではなく、制服の上着だけを脱いで 綺麗に畳んで…、バックの中に入れておいたそれを引きずり出し袖を通す


師匠から頂いた揃いのコートに袖を通す、これだ やっぱり決戦はこれじゃないとね 続いて取り出すのはエリスの相棒 宝天輪ディスコルディア 、それを腕ではなく足に装着して…と


「準備完了です」


「うーい…って、格好が変わっただけじゃねぇか」


「着替えると言ったでしょ?、これがエリスの決戦装束…さあ、負けませんよ!」


コートを羽織り 脛には天輪ディスコルディア …言ってしまえばそれだけだが、この格好 馴染む…その上気分も上がる、今なら負ける気がしない


「そーかい、んじゃ今度こそ…」


刹那、アマルトの姿が鈍色に煌めく…ッ!


「死ね」


エリスがはたと気がついた瞬間には既にアマルトがエリスの目と鼻の先で剣を大きく振りかぶっていて、…エリスの 決戦の幕が上がった



「ぐっ!」


この一撃 もらうわけにはいかない、前回はこの斬撃を食らって一気に戦闘不能まで持っていかれた 謂わば一撃必殺の剣、それを前にエリスは極限集中を発動させ


咄嗟に両手を前へ出して防ぐ いつもなら天輪があるからダメージはないが、今回はなし 故に凄まじい激痛が腕を襲う…が


「おいおい、まじかよ!なんだそのコート!」


切れていない、斬られていない …アマルトの剣撃をこのコートは通す事なくエリスの体には切傷一つ付いていない、あの呪いは切傷がなければ発動しない…!


流石師匠が手塩にかけて作った世界に唯一の品だ、古式呪術による一撃さえも防ぐとは!まぁ斬られなかっただけでめちゃくちゃ痛いんだが!


「すぅー!大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ『風刻槍』!」


息を大きく吸い込み痛みを紛らわせると共に放つ 風の槍、それを鞭のように腕と共に振るい 吹き飛ばす、アマルトの体を


「シッ…!」


されどアマルトとてその程度で遅れを取る男ではない、古式詠唱を耳にした途端震えるような速度で地面から足を離さず 滑るように後方へとすっ飛びながら剣を振りエリスの作り出した竜巻をまるでパンでも切るようにザクザク切り裂き霧散させる


「さぁどんどん行くぜ…!」


来る 地面から足を離さぬ歩法 摺り足にて開いたエリスとの間を一気に詰めてくる、まるで放たれた矢のように真っ直ぐに煌めくような軌道、その速度のまま斬撃を飛ばしてくるのだ


「うぐっ!」


守る、今度は足を上げて脚甲にて斬撃を防ぐ、脚甲で受けてもこの重さか!速度の上に体重を乗せての斬撃だ 斬られないからってダメージがないわけじゃないからな


「シィィッ!!」


「はぁっ!」


斬撃を放つと共にすれ違いエリスの後ろに回ると同時に振り下ろされるアマルトの斬撃に対して迎え撃つのは回し蹴り、ディスコルディアなら黒剣を受け止められる というかそのつもりで足につけてたんだ


ぶつかり合うアマルトの剣とエリスの蹴り、仄暗い時屠りの間に火花と一瞬の閃光が散る


「いい反応するじゃねぇか、俺の動きについてこれるやつなんか 俺はタリアテッレくらいしかしらねぇよ」


「それは光栄ですね、貴方が今日 本気であるように…エリスも本気なんですよ!今度こそ!絶対負けない覚悟で絶対勝つつもりでここに来てるんですから!」


「おお!、奇遇だなぁ 俺も今おんなじ気持ちだぜ…、気が合うな 俺達さぁっ!」


アマルトの剣に力が篭る、もう一段階 ギアを上げるようだ、なら…


「颶風よ この声を聞き届け給う、その加護 纏て具足となり、大空へ羽撃く風を 力を 大翼を、そしてこの身に神速を 『旋風圏跳』!!」


その手足に風を纏わせる、ラグナ達と共に編み出したエリスの新しい戦術 『疾風韋駄天の型』だ、これならば 対応出来る 真っ向から挑める


アマルトの動きに 彼の本気に!


「おらぁぁぁぁぁっっ!!!」


舞う 閃撃、飛び交う火花、アマルトの手元がブレ 影も残さぬ速度でその場にて振るわれる神速の連剣をエリスもまた風を纏った蹴りにて答える、韋駄天の型ならアマルトの速さにも対応できる…


いやギリギリだ、加速で手足が千切れそうな勢いで蹴りを放ってるのに アマルトの攻撃を防ぐので精一杯だ、こうやって膠着状態を作り出すのでいっぱいいっぱい


だが、言い換えればそれはアマルトも攻め切れていない事を意味する


「チッ…」


なら、仕切り直すよな アマルト、貴方なら突き破れるかどうかも分からない目に張り続けるような真似はしない、状況を立て直すため退く筈

その エリスの予想も当たり、アマルトは剣を振るいながら退く アマルトが引いた、攻め手を緩めた


「振るうは神の一薙ぎ、阻む物須らく打ち倒し滅ぼし、大地にその号を轟かせん、『薙倶太刀陣風・扇舞』!」


アマルトが一歩退く それとほぼ同タイミングで放つのは風の斬撃、虚空を撫でるような鎌鼬をぐるりと体を回転させつつアマルト目掛け放つ


「便利な魔術だなぁ!」


分かっていた、彼が斬撃を前にすれば防御姿勢をとる事など、この程度の魔術で彼の守りを突破出来ない事は 承知の上、だからこそ


「っっっあああぁぁっっっ!」


飛ぶ、無理矢理体勢を整え 関節が悲鳴をあげるような勢いで、突っ込むような勢いで 防御姿勢を取るアマルト目掛けて 身を乗り出し、体当たりをかます


「うぉっ!?ぐっ!」


剣を風の斬撃を防ぐのに使っているアマルトは直ぐにエリスの特攻に気がつくが、牽制の為に使ったとはいえあの風の斬撃も古式魔術 簡単に防げるものではない、風の斬撃を防ぎ切る頃にはエリスの体はアマルトの懐に入り込んでおり


「あんまり…ナメてかからないでください?、一度勝ってる?エリスはね…二度目も譲ってあげるほど優しくはないんですよ!!!」


アマルトの懐にて 回転する、縦にぐるりと風に乗って回転する 所謂サマーソルト、孤月の如き軌道を描き 蹴り上げる、アマルトの体を


負けていい戦いなんてのは無い、そういう意味じゃアマルトとの初戦だって負けていい戦いではなかった


だが、この世の戦いは二つに分けられる…、負けちゃいけない戦いと


「ぐ…うぉおぁっ!?」


絶対 負けちゃいけない戦い!、これは 後者だ!


「ふぅーっ…」


エリスの蹴りを受け吹き飛ぶアマルトを見て、高速戦を凌ぎ切った事を確信して一息つく、さっきの高速戦を制したのはエリスだ…最終的に連撃に次ぐ連撃を防ぎ切り アマルトに一撃加えた…けど


(手応えが浅い…受け止められたか)


脚から伝わる感触、多分咄嗟に蹴りを腕で受け止め ダメージを最小に抑えたのだろう、事実アマルトは空中でくるりと一回転し、猫のように危なげなく着地する


やっぱり一筋縄じゃいかないか


「やるな…、今のは結構ヤバかったぜ」


「今のも防ぎますか…本当に強いんですね、それもアンタレス様の指導ですか?」


ふぃーっと一息つきながら首の関節を余裕そうに鳴らすアマルト、焦ってる様子はない もしくはそれを見せてないだけか、分かっちゃいたが強敵だな


「あれは俺に呪術を授けただけだよ、戦い方に関しちゃノータッチさ」


「じゃあこの戦い方はタリアテッレさんから受けた指導のものなんですね」


「……あのさ、お前 イオから俺の過去聞いたんだよな?、なら 俺がタリアテッレの名を出されてご機嫌でいると思うか?」


いないだろうな、イオさんから話を聞いてよく分かった アマルトがタリアテッレさんを嫌う理由が、彼女はアマルトの夢を踏み躙りその上から伝統と使命で塗り潰そうとした張本人であり


彼女の姿は アマルトのあり得たかもしれない姿でもあるからだ


「嫌うと同時に恐れてるんですよね、アマルト…貴方は自分がタリアテッレさんみたいになるのでは無いかと」


「………………」


「タリアテッレさんのように他人の目的を潰し役目を遂行する為ならなんだってする人間になるのを貴方は恐れている、…自分が理事長になったら そういう人間になるんじゃないかって」


「分かったようなこと言うなよ、まぁ…正解だけどさ」


アマルトが夢を信じきれない要因の一つがタリアテッレさんの姿勢だ、もしこのまま理事長になって 夢を叶えても、その後自分が今のまま理想を持っていられる自信がないんだ


いつしか彼も伝統と伝承の重みに負け 次代に同じ事をして全てを押し付けてしまう事を恐れている、その時 アマルトはきっと次代の理事長に対して同じ事をするだろう 同じ事を言うだろう


相手を踏みつけ『理想を捨てろ 人の心を捨てろ お前は歯車だ』そう耳元で囁く己を想起して、そう囁かれた己と重ねて…今まで信じていた夢そのもの嫌悪している


「タリアテッレさんの姿勢は間違ってはいないでしょう、否定し切ることは出来ません…されど、許し難いものであることに変わりはありません」


「アイツはおちゃらけて人好きする態度を取っちゃいるが、内心じゃ…いやそもそも内心なんてものもないのさ、奴に取っては行動だけが全てなんだ、アリスタルコスの意思 その権化が奴さ、…正直嫌いだが その力で連中ぶっ潰せると思うと、胸がスカっとするんだよな」


「意味なんてありませんよ、そんなことしても」


「あのな…意味とか無意味とか、そんなもん求める段階はとっくの昔に終わってんの、今はもうやるかやられるかの段階なんだよ、それがいきなり横入りして 偉そうなこと言ってくれんなよ」


そりゃ偉そうでしょうとも、多少傲慢にならなければこの場にはたてない、そも 相手を救おうなんて態度自体が偉そうで傲慢なのだから、だけどな そんな風になじられたって 引かないぞ


引けるならこんなところに来てないからな


「ひょっとしてお前 俺の剣術防げて ひょっとしたら俺と互角かもなんて勘違いしてるかもしれないがな、…ポーンを一つ動かしたこの段階で 戦局を分かってもらっちゃ困るぜ」


「盤上がひっくり返ろうとも、揺るぎませんよ エリスは」


「そうかい、なら…アゲていくぜ?こっからさ」


するとアマルトはその場でトントンと整えるように リズムを取るように軽く跳ねると…


「さぁて、どうぶっ殺してくれようか」


「ッ……!」


立ち上る砂煙、追従する我が風 刹那のうちに両者の姿は霞と消え、代わりとばかりに虚空に幾閃の煌めきが飛び交う


上へ下へ 右へ左へ、縦横無尽に飛び交う光は姿を見せず 何度もぶつかり合い交差する都度火花を散らす


移行した、戦況が次の段階へ 様子見を終え、互いの全霊をぶつける段階へと



「ぐっ!」


「甘いんだよ!魔術師が近接で俺に勝とうなんざ!」


光が交錯した瞬間 虚空よりエリスの体が浮き出て地面に叩きつけられる、何十何百という神速の戦いで エリスは押し負けたのだ、部屋中を飛び交う高速の戦い…こちらは旋風圏跳で体を強化しているのに、アマルトはそれを上回ってきた


純粋なスピードならこちらが優っているが、それを上回る勢いでアマルトの技量が凄まじい あれは魔術師言うより剣士だ…!


少なくともエリスがアジメクを出る時のクレアさんより数倍は強い、技量だけなら討滅戦師団クラスだ


「くそっ…我が吐息は凍露齎し、輝ける氷礫は命すらも凍み氷る!『氷々白息』!」


四つ足で着地すると同時に吹き出す銀の風、万物を凍らせる絶対零度の吹雪を口から吐きながら横に薙ぐ


足を止める!そのつもりでアマルトに向け放つ吹雪、しかし


「その四肢 今こそ刃の如き爪を宿し、その口よ牙を宿し 荒々しき獣の心を胸に宿せ、その身は変じ 今人の殻を破れ『獣躰転身変化』」


アマルトは懐から一枚の羽を取り出すと同時に獣へ変化する呪術を使う、腕だけを巨大な怪鳥の羽へと変化させ 羽撃く、引き起こされる突風はエリスの放つ吹雪の勢いに優っており その凍てつく風を寧ろこちらへと押し返し…ってやべ!


「あわわ!ガニメデさんの!」


「だーかーらー!俺の!」


慌てて押し返される吹雪から逃げながら、再度地面を強く蹴り宙へと躍り出るとともにくるりと一回転し


「厳かな天の怒号、大地を揺るがす震霆の轟威よ 全てを打ち崩せ、降り注ぎ万界を平伏せし絶対の雷光よ、今 一時 この瞬間 我に悪敵を滅する力を授けよう『天降剛雷一閃』!」


続けて放つ剛雷、煌めく破壊の閃光は煌めいたかと思えば刹那のうちにアマルトへと向かい…


「此岸は彼岸、彼方は此方 彼の身は我が身、我が身に降りかかる艱難よ巡って廻って在りし場へ還り給え『双葬漆桶呪殺』!」


「え!」


なにそれ聞いたことない呪術なんだけど!、と思う間も無くアマルトはエリスの作り出した電撃へと飲まれ、バリバリとその身を熱の雷に焼かれ身悶える


「ぐぅ…うぐぅぅぅぅう!!、痛てぇな!おい!」


電撃を食らって痛いで済むものか!、と思ったが…おかしい 威力があまり出ていない、エリスが放った半分くらいしかアマルトにダメージを与えられていない…、じゃあ残り半分の破壊力は何処へ…


「ん?…あれ?」


ふと、手を見てみる、なん手先が痺れて…というか電気を纏って、ってこれ…エリスがさっき放った電撃!?なんでエリスの……


疑問よりも、痛みが 熱が 雷がエリスの体を突き抜ける方が 早かったようだ、不思議に思うその心は瞬く間に電撃の激痛に遮られ…


「いいぃぃぃぃぃっっっ!?」


アマルトがさっき受けた分と同じ量の電撃がエリスの体に迸り あまりの激痛に悲鳴をあげる、どいうことだ 跳ね返された?いや跳ね返されたというよりこれは、ダメージを半分に割って共有されたのか…!


「がはっ…ぐっ」


「ったくよー!あの師匠ももっとマシな防御法教えてくれよな!、なんだよ…ダメージを半分に割って相手に返す魔術って、半減つっても痛いもんは痛いじゃないか」


そうか…さっきの詠唱はこれか、その瞬間受けたダメージを半分にして もう半分を押し付ける、見ればアマルトの手にはいつの間か切り取ったであろうエリスの髪が握られ 燃え尽きている


恐らく、相手の体の一部を握りながら使うことで使うことが出来る術か…、アマルトは文句を言うが恐ろしい術だ、問答無用でダメージを半減し敵にも痛手を負わせる


最悪のカウンター…呪術使いには体の一部を渡さないようにしないと、攻め切る前にエリスが倒れてしまう


「オラオラボーッとしてる場合かよ!」


「くっ!」


休む暇は与えないと言わんばかりに斬りかかる、袈裟気味の斬撃は瞬く間にエリスに肉薄し風を切る音を奏でる


それを転がるように逃げ回り回避する、低空を這うようなエリスの体を捉えようとアマルトは何度も何度ほど剣を振るい、その都度地面の石畳に綺麗な直線が描かれていく


相変わらず凄まじく早い、けど…


(その斬撃は 見慣れましたよ!)


アマルトだって人間だ、連撃を繰り返せばそこには必ず惰性が生まれ、惰性は習慣を呼び寄せ 習慣は画一化した動きの種となる、つまり 動きが単調になるのだ


見えている!右斜めからの斬りおろしの後持ち手を切り替えての斬りあげ!さっきと同じ動きを無意識にしている!、いくら早くても動きが分かるならこっちのもの!


「取りましたよ!アマルト!」


斬撃を予測し、避けると同時に体を反転させ 放つ、回し蹴り…射抜くのは顎!これで決め…る……


「あれ…?」


ふと、エリスの足先がグラリとズレてあらぬ方向へ飛んでいく…いや違う、ズレたのは足先じゃ無い 体全体…!、というか軸足が宙に浮いて…!?


(しまった…!足を払われた」!)


と思った時には既に遅く、中空で無防備に足を延ばすエリスの胴に、一閃の煌めきが舞う


「二度も効くかよ!」


「ごぶふっ!!」


コートのおかげで両断は免れたが、一流と言っても差し障りない男が全霊で放つ剣を胴で受け止めればどうなるか、言わずもがな…吹き飛び血を吐きのたうち回る、壮絶な激痛に体路の内側と脳を焼かれる



「ぐぅぅ…はぁ…はぁ」


それでも それでも立つ、痛いのは言い訳にはならない


「そうまでしてさ、俺を救ってどうするんだよ、お前は俺になにをさせようってんだよ 、分かり合って お前らとお友達なんてイカれた事受け入れるやつがいるとするなら 俺ぁそいつの頭の方がどうかしてると思うぜ?」


「分かり合うのは…目的ではありません、したいなぁとは思いますけど 目的にしなくともいつか分かり合えますから」


「うへぇ、俺そう言うノリ苦手」


するとアマルトはクルリと手の中で剣を回転させると…


「なぁエリス、お前は俺を理解しようとしてくれている そこは流石にわかるぜ?俺だって人の子だしさ、でもさ だからこそ分かってくれやしないか?」


「何をですか」


「伝統の為なら人の死さえ厭わない 学園を継ぐって仕来りの為なら生徒の事さえ見向きもしない、こんな在り方おかしくないか? こんな学園無い方が良く無いか?」


「そうですね…、なら 貴方が学園の長になって 変えればいいじゃないですか、伝統もアリスタルコスのあり方も、貴方にはその権利が…」


「俺にもアリスタルコスの血が流れてんだよ!、あのクソ親父やタリアテッレと同じな!、…俺は…俺は怖いんだよ、どんな高尚な目的を持っていても…結局俺もアイツらと同じになるんじゃないかって」


「………………」


事実、アリスタルコス家は何百代も前から学園を治めている、その代の中にはアマルトと同じような人間がいたかもしれない、だが結局は変わってない、変えられなかったか本人が変わってしまったか


時の流れとは重たいもので、一個人の願望程度ではどうにもならない時がある…


「結局 何も変えられないなら、無くしちまう方がいいだろう…」


でも、思う…きっと 今までのアリスタルコス家にはいなかった筈だ


「アマルトさん、貴方 やっぱり理事長に向いてますよ」


「お前さ、俺の話聞いてた?」


「聞いてましたよ、聞いてたからこそ思うんです…きっと 今までのアリスタルコス家が変わらなかったのは、いなかったからですよ 貴方ほど生徒の事を 人の未来のことを気にかける人間が」


「ッ…何言って…」


アマルトの怒りの原点はアリスタルコス家が本来の理事長としての役目に反しているから、教師たるもの生徒のために尽くすべしと言う意識があまりに強すぎるからだ、故にそこで軋轢が生まれている


なら、その意識を持ったままなら きっとアマルトはアリスタルコスを学園を変えられる筈だ


「アマルトさん、貴方の夢は理事長になることではなく 理事長になって生徒を導くことなんですよね」


「ガキの頃の夢だ、もうそんな夢見ちゃいない」


「見てないんじゃありません、見ようとしてないだけです 目を背けているんです、貴方の怒りが強ければ強いほどに その裏で生徒の未来を思う気持ちが燃えているんじゃないんですか?」


「だから!押し付けるようなこと言うなって!、お前も…どうせタリアテッレやイオから言われて」


「エリスはエリスです!ここに立っているのは誰かの意思の代弁者じゃありません!エリスがそう思ったらそう言っているだけです!、エリスは心の底から!貴方を信じます!貴方の怒りを!」


拳を握る、吠える 吠え立てる、そりゃ押し付けがましいだろうよ 厚かましい優しさだろうよ、けど それでも…こうして戦ったからこそわかる


アマルトは努力してきたんだ、それがこの強さの証なんだ…!、それを自分から捨てようとするなんて あんまりにも悲しいじゃないか!


「貴方が夢を叶えると言うのなら!エリスも手伝います!助けます!、貴方が心の底から夢を捨てると言うのなら!新たな道を探せるようエリスも手伝います!、…だから 立ち向かってください」


「立ち向かう?…今更か?」


「家の伝統に利用され 夢を否定されようとも!愛する人に裏切られ捨てられようとも!、言いなさい!『それでも』と!それでも立ち向かいなさい!」


立ち止まればそれまでだ 何もかも捨てればそれで終わりだ、どうにもならず 挫折して道を断たれ夢を捨てることもあるだろう、環境と道行からどうやっても夢に届かず伸ばす手を引っ込めることもあるだろう!


だが それでもアマルトにはまだ残されている、道が 先に行く道が、それから目を背け 道を外れるなんてことは、あっていいはずがない 少なくとも、エリスは ここまで進んできたエリスには そんな答えしか出せない


「お前には分からんだろうな、今まで努力したもの全てが 所詮伝統の為の道具を作る工程に過ぎなかったて知らされる屈辱は」


「分かりません」


「唯一の救いて信じた人間に裏切られ捨てられる悲しみは」


「分かりません、けど…唯一じゃありませんよ 貴方を信じて救おうとしてくれる人間はいます」


「俺は もうやめたんだよ、夢のために足掻くのは!」


「それでも足掻きなさい!、過去に囚われて進もうとしない貴方の今の姿は!伝統に囚われるアリスタルコスと 何が違うんですか!」


「なっ…!?」


前へ歩みだす、そうだ 今のアマルトは過去に囚われている、それは嫌悪するアリスタルコスと同じじゃないのか!


「俺が…過去に囚われて…、あのクソ親父と同じに…」


「それが嫌なら進みなさい 過去に捕まるな 後ろを見るな 鑑みるな!、先のことは先に進んでから考えて…前だけ向いて考えろ!、少なくとも未来の答えは過去にはない!」


「前をだと?…そんなもの」


分かってる!何も見えないのに前を向くのは怖いだろう進むのは怖いだろう!…だから、証明する


「前へ進めば いつかはきっと、答えへ辿り着けます その道中は苦しくとも…!」


「なっ、おいお前…!」


駆け出す、前へ アマルトに向けて ただ前だけを向いて、過去に囚われる痛みは分かる こんな偉そうなこと言っておきながらエリスはいつも過去に囚われて記憶に縛られている


だから、だからこそ アマルト…エリスよりも高い望みと確たる夢を持つ貴方には、こんな風にはなってほしくないんですよ!


「向かってくるなら ぶっ潰すぞ!」


「構いません!潰せるなら!貴方の夢を!」


「ぐっ!?」


……………………………………………………………………



……アマルトは歯噛みし、思う ふざけるなと、お前が 俺の捨てた夢を拾い上げるなと、お前にだけは されくたくないんだよ、そう言う事を…友も目的も持ち合わせるお前にだけは理解されたくないんだ


信じあえる友を持ち 師の下で明るい笑顔で頑張り続ける俺とは真逆の存在…?くだらな

くだらない くだらない、全部くだらない


友情なんざくだらねぇ


努力なんてまやかしだ


どれだけ肩を組み笑い合っても他人は他人


どれだけ血反吐ぶちまけても越えられない壁は越えられない


世の中そういう風に出来てんだよ、みんなそこに目を背けて友達なんて言葉に甘えて 努力なんて言葉で達成感だけを貪る、結局何も変わってない 結局何もなし得てないのにな


俺は初めてだよ、こんなにも気にくわない人間が出来たのは これほどまでに俺の今までを否定する人間が現れたのは


……お前を見てるとイラつくんだよ、友情に寄りかかるお前を見てると惨めだった俺を思い出す、努力しているお前の姿を見ると情けない自分の顔が思い浮かぶ


「これ以上俺にみっともない思いさせないでくれよ、俺はもう諦めたんだよ !」


誰かと歩くのも 何かを目指すのも!諦めたんだよ!、だからこれで終わりだ


俺とお前の三年間、その決着をここでつける…


「ああそうかい…なら来てみろよエリス!、お前の綺麗事なんか薄汚いこの世の中じゃ通用しないってこと!見せてやるよ!」


「なんとでも言いなさい!、例えこの世が汚くても!通用しなくても!それでも!進むのをやめない人間が!世界を変えられんです!」


アマルトの眼に映るエリスの姿は、いつかの己の姿だ ただ夢が叶う事を漠然と信じている哀れな姿だ、そう言うのはいつだって潰されるんだ 現実に


「人を呪わば穴二つ、この身敵を穿つ為ならば我が身穿つ事さえ厭わず!」


迎え撃つ為剣を己の腕に突き立て血を流す、滝のように…ここで潰すんだ、馬鹿みたいに進む奴を ここで、そうだ ああ言う奴はいつだって…いつだって


「憐れみの傷を抱き 幾千の戦場を超え、無限の痛みと共に戦う事を…止めぬものよ!…それでも前へ進め…!、この血はその道行きの手向けとならん!『呪壊・黒王血千嵐』!」


溢れた血は次々と剣の形を象り、意思を持つかのようにエリスに向く、千の刃は剣となり 雨となり 壁となり、エリスに向かって 飛ぶ


「ぐぅっ!?」


いくらあのコートが刃を通さずとも、突き立てられる剣の雨に真っ向から挑めばその痛みは計り知れない、次々と殺到する 刃に飲まれていくエリスを見て…アマルトは強く 歯を食いしばる


さぁ!立ち止まれ!引き返せ!それだけでいい、たったそれだけで…俺は…!


「ぅぅ…あぁあぁっっ!!」


「なっ!!」


進むのか!?刃の雨を恐れず 両手で頭を庇いながら次々と激突する剣を受けながら前へ前へ進む、何が立ち塞がろうとも…それでも 進むのか!


「諦めませんよ!…エリスは!前へ…進む事を!もう!諦めません!!!」


「っっ!?」


腕の隙間から覗くエリスの眼光を受け怯む、決死の覚悟で進むその瞳は 眩いばかりの炎を宿す、なんで あの瞳に俺は…己を見るんだ、かつての自分を…!嫌悪する夢を追う自分を!愚直な己を!


「はっ…」


ふと、顔を触る…俺はなんで エリスの瞳から目を逸らさないんだ、奴が千刃の雨を乗り越えるのを…なんで、必死に見守ってるんだ なんで、次の攻撃の手を打たないんだ


「アマルトォォォォォ!!!!」


「うっ…!」


「逃げるな!己から!、目を逸らすな!見ろ!自分を!、今の貴方の姿を!」


「俺の…今の」


今の俺は、何をしているんだ…理事長になって 生徒を導く…そんな夢を捨てて、理事長を否定生徒を否定し、今 進む人間の道さえ阻んでいる、目的のためなら人の死さえ厭わない…それは 俺の嫌悪した親父の姿と同じ…


「なっ!?」


「アマルト…!」


ふと、気がつくと 剣の雨を縫って エリスの腕が俺の懐へと届く、進んできたんだ あの雨の中を…、進み切ったんだ エリスは


「諦めるってのは簡単じゃないんですよ、今の貴方には きっとまだ出来ないでしょうね!」


「吐かせ…吐かせよエリス!!、お前の御託はもう聞きたくないんだよ!!!」


摑みかかるエリスに向けて剣を振りかぶる、傷つき消耗したこいつなら 殺せる!ここで殺して!全部終わらせる!終わらせてやる!醜く夢にしがみつく俺自身を!


『叶えられる夢を叶えたいんだ!』


「っ…!」


声が聞こえる、エリスのじゃない 俺の声だ… エリスの後ろ…俺の前に 見える、朧げに、語る 己の姿…あれは


『夢破れて涙を流す人間を一人でも減らしたい…』


かつて、誰かに…そう イオだ、親友に語った夢…、誰かの夢を叶えたい 夢破れて涙を流す人間を減らしたい、それが それこそが、俺の原点だったんじゃないのか


それを否定されるからあの家は嫌なんだ、叶えられる夢も夢破れる人間も救わない父の姿が嫌なんだ


けど…


結局、俺も…


『夢と未来 そして学園を守ることこそ 僕の使命であり夢なんだ!』


…学園を守ることか、結局俺も親父と同じこと言ってたんだな…いや、もしかしたら 親父も元は…


「アマルト!!!」


「っ!」


エリスの言葉にハッと意識が戻る、既にエリスは完全に刃を抜け 俺の目の前に躍り出て 俺をそのまま押し倒す、その衝撃で 手に持つ剣は明後日の方向へと飛んでいき


今、俺は抵抗する術を失い エリスに捕まった


「夢を見ることは簡単です、けど 見続けることは大変です 叶えることはもっと大変です、一人じゃきっと無理です」


「………………」


「だから 助けてくれる人がいるんです、その夢を助けてくれるのが あの学園です…そして 友達です、貴方にもいるでしょう…貴方の夢を最後まで応援してくれている人が」


「…応援してくれる人…」


夢を応援してくれる 思い浮かぶのはイオの姿だ、あいつは 結局最後まで俺を心配してくれて…俺から離れようとしなかった、それは王家のアリスタルコスの間に設けられた仕来りだからではなく


あいつが俺の親友だから…、そういや…あいつは終ぞ 俺の夢を否定しなかったな


「もう一度…もう一度でいいんです、立ち上がってはくれませんか、もうこの際 和解とかエリス達のこととか、どうでもいいです… エリス 貴方が立ち上がって行きたいところに行ってくれるところを見たいので」


「なんじゃ…そりゃ」


エリスの言葉を受けて、…ただ なんとなーく胸に一つの考えが浮かぶ


学園を潰す…こりゃ、やっぱり間違いだったんじゃー?、…ってな 我ながら、簡単な男だよ 俺はさ


………………………………………………………………


「はぁ…はぁ…はぁ」


剣の雨を突っ切って アマルトを捕まえて、言うことは言った やることはやった、ラグナ達には悪いが もう彼と和解とかそういうのはどうでもよくなった…、思えば最初は エリス達は彼に立ち上がって貰うために戦い始めたわけだしね


「さて…」


アマルトに馬乗りになるのをやめて、立ち上がる…もう言いたいことは言った 後は真の意味で決着をつけるだけだ


「さぁ!アマルト!続きをやりましょう!、今度こそリベンジします!」


というとアマルトは寝転がったままゴロンと背を向けて


「もういいよ、お前の勝ちで」


「えぇっ!?不完全燃焼なんですけど!」


「まだやりたいのかよ、元気だねぇ…」


「だって決着ついてないじゃないですか!まだ貴方の口から答えも聞いてません!」


「決着つけてお前が勝ったら、俺が改心して何もかもうまく行くと思ってんの?」


「う……」


ここでアマルトをボコボコにしても、彼が答えを変えなければ意味がない…

いや、いやいいんだ それが彼の選択ならエリスは尊重する、尊重するつもりだ


「…エリス」


「ん?はい?なんですか?やっぱり戦います?」


「もうお前とはやりたくねぇ、…その…悪かったな お前に呪いをかけて苦しませてよ」


「アマルト…」


謝った、エリスに呪いをかけて 苦しませた例の件の事を、それをわざわざ謝ってくるってことは、…多分…うん


「アマルト?」


「ん?、なんだ?」


「そういうのはちゃんとエリスの目を見て頭下げていってください」


「お前…俺が勇気振り絞って謝ったのにそりゃないだろ」


「勇気振り絞ったなら最後まで絞り抜いてください、そして 立ち上がって 貴方の答えを聞かせてください」


「……そうさな」


するとアマルトは背をぐぐーっと伸ばして立ち上がると、…数秒考えた後、こちらを見て


「あー…そのー…」


「はい?」


「……やっぱなし うぉっ!?」


「…………」


グッ!とアマルトの胸ぐらを掴む、ここまで来たら言え


「お 俺は何も改心したわけじゃねぇ!、戦って説得されたからってそう簡単にホイホイ考え変えるか!」


「でも何かは変わったんですよね、だからこうして謝ってるんですよね?」


「お前…見た目によらず案外グイグイくるな」


「褒め言葉として受け取っておきます」


でもわかるよ、今のアマルトの言葉はあの舞踏会の時と違う、その場凌ぎで出た言葉ではなく さっきの激突を経て 彼なりに何かが変わった 変えられたんだろう、まだ立ち上がるには至ってないけどさ、でも今は…




……そこで、気がつく 人の気配、アマルトとは違う 第三者の気配に、それにはどうやらアマルトも気がついたようでを鋭くし 部屋の入り口へと目を向ける


「誰か来るぞ」


「別の参加者ですか?」


「いやここには来ない、アンタレスがここには邪魔者は入れないようにしたって言ってた」


「じゃあ一体…」


コツコツと音を立てて誰かが石廊を渡ってこちらに来る、それは 闇の中から姿を現して…って


「貴方ですか…」


こちらに現れた人間の姿には、覚えがあった…というか 何かしら仕掛けてくるとは思ってたけど、ここに現れたってことは…


「どうしてここにいるんですか?」


其奴に声をかける、それは眼鏡をかけ…学園の制服を着た 男、エリスの…友人


「アレクセイさん」


「…やあ、エリス アマルトには勝ったみたいだね」


アレクセイさんだ、彼がクイと眼鏡を動かしながら…聞いたこともないくらい低い声で、語りかけてくる


「いや俺はエリスに負けてねえ」


「さっき勝ちでいいって言ったじゃないですか!」


「お前!?今俺に突っかかる!?普通!、あっちだろう突っかかるなら!、…魔女が入れないようにしてる場所に現れた奴が普通の参加者なわけねぇ!、お前 なんでここにいんだよ!」


「んー?、…まぁいいか…」


するとアレクセイさんはニッコリと微笑みながら…こういうのだ


「いやね?、丁度いい頃合いだし そろそろ君達 殺しとこうと思ってさ」


と…、そう言うのだ

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