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140.孤独の魔女と開催!学園課題


ディオスクロア大学園に入学し 早一年が経ちました、当初はどうなるか なんてさんざ思いましたが、エリスは今日もこうして無事学生として学園に通うことが出来ています


もうレグルス師匠との旅を中断して一年ですよ、マレウスで旅をしていた頃がもう懐かしいですね、今では立派すぎる一軒家で 家族同然の友達の為にご飯を作る毎日です


思えば、このようにどこか一所に留まり過ごすのはとても久しぶり…というか、師匠の家にも一年しか暮らしていないことを考えると、エリスの人生はほぼ旅だらけの日々と言えるでしょう


だから時々不安になるんです、この学生生活が終わって また旅に戻った時、エリスは旅の勘を忘れていないか…と


旅とは経験が命です、そして 経験から来る直感…これも大事です、みんなにそれを言うとちょっと懐疑的な目で見られますが


直感は大事です、五感では説明のつかない感覚 これはこう神がかった才能とかそう言う特別な力ではなく、経験を積めば誰でも得られる感覚なんです、多分 無意識的な経験則と記憶がもたらすものなんでしょうけど 詳しいことは知りません


歴戦の冒険者になれば、雨が来ることを直ぐに悟りますし 魔獣の群れも視認せずとも察知できます、この感覚があるのとないのとでは段違いです、出来れば 旅の感覚は失いたくありませんが



……そう、なんとなーく 思っていた矢先の事でした、それが始まったのは




………………………………………………………………


春になって結構経ちました、芽吹いた萌芽も葉を彩り、入学式も終わり 新規の学生達も学園に慣れた日頃


エリス達は暖かな陽気の中平和な毎日を過ごしていました、ノーブルズとの対立もひと段落し 最近ではエリス達に手を出そうとする奴らもいなくなりました


そりゃ、新たな学期の最初は 新しいノーブルズ達が好き勝手やったり、エリス達を潰して天下を取ろうとしたりと動いていましたが、別に大した事もしてこなかったので気にする事もなく叩き潰してやりました


他にはラグナを倒して学園のテッペン取るぜ!って人も居ました、まぁラグナ相手に勝てる相手はいないので これも特にさしたる事もなく撃破


デティに弟子入りしたがる人が現れたり メルクさんに取り入ろうとする人が現れたり、あとはなんかエリスが後輩に付け回されるようになったとか そんなくらいですかね、最近の事だと


まぁ、一時期から見れば平和も平和、なんでもない毎日と言って差し障りはないでしょう



そんなある日のことでした、今日の授業はなんでも特別授業が行われるのだと 数日前から予告されていました、それも学園に所属するほぼ全ての生徒…新しく入った973期生以外全員にです


何が行われるのやら…、そんな期待と若干の不安を胸に秘めながらエリス達四人が魔術科第一教室に足を踏み入れ それぞれの席に着くなり、それは始まった


「あーーーっははははははは!!!、おはよう!しょーーーーくーーーんっ!」


響く高音 高笑い、何者かがガラスを突き破り外から突っ込んで来たんだ、矢の如く されど鏃よりも大きな影、それはケタケタと笑いながら教室の天井付近を飛び回る


「なっ!?何事だよ!?投石機か!?襲撃か!?」


そのいきなりの出来事に立ち上がり臨戦態勢を取るのはラグナ、だけどここはアルクカースではない、いきなり家屋に投石機ぶち込むイカれた馬鹿がいるわけが無い


「ゔぇぁっ!?びっくりしたぁー…」


ドキッドキ!と胸を押さえるのはデティ、いつも通り可愛らしい…しかし 今は全然関係ないことなんですけど、デティこの一年で全く背が伸びてませんね、エリスもラグナも背は順調に伸びているのに、もしかしてこの子今後この先背が伸びないのでは


「いきなり窓をぶち破って何かが入ってきたぞ?、撃ち落としたほうがいいのか?あれ」


周囲の生徒やラグナやデティが驚く中、彼女だけは冷静だ いつだって冷静だ、流石はメルクさでも銃はしまいましょうね?ね?


「なんだよなんだよ急に!?」


「何々!?」


「なんの騒ぎなの!?」


目の前に広がるのは生徒達の阿鼻叫喚、そりゃそうだ これから授業が始まると思ったらいきなり窓ガラスを突き破って何かが飛び込んできたんだ、パニックになるのは致し方ないだろう


なら、なぜエリスはこんなにも落ち着いてるかって?いやまぁエリスも最初はパニックになりましたが、直ぐに気がついたからです


これ…見たことあるなってことに、そう これは入学試験の時と同じ、それも 響くこの声も…そうだ、この声は…



「リリアーナ教授?」


「狼狽えるなぁ?諸君!ただ人一人外から突っ込んできただけろうぅっ!?」


上を見れば天井付近を杖に乗りながら飛び回るリリアーナ教授の姿が見える


世界の魔術師の中で際立った才覚と知識を持つ七人の魔術師 通称『七魔賢』が一人 リリアーナ・チモカリス筆頭教授、この魔術科の教師達を統べる長にしてこの学園最高の魔術師、それが馬鹿みたいに高笑いをしながら狼狽える生徒を見て笑っているんだ


「あー!リリアーナさん!」


「おや!デティフローア様!お久しぶりですねぇ、元気ようで何より何より」


リリアーナ教授の姿を見て立ち上がるのはデティだ、魔術導皇として七魔賢とは面識があるようで、この学園に入る前からリリアーナ教授とは知り合いだったらしい、と言うかぶっちゃけリリアーナ教授はデティ直属の配下のようなもんだ


リリアーナ教授にとっては自分より上の人間に授業をするようなもの、複雑だろうが あの人はあんまり気にしてる様子じゃないな


「リリアーナ教授!?、まさか今日はリリアーナ教授が授業をしてくれるんですか!?」


「嘘…あの七魔賢たるリリアーナ教授に!?」


「なるほど、そりゃ特別だ!」


周りの生徒もリリアーナ教授の姿を見るなりに歓喜に立ち上がる、そりゃ学園随一の有名人に授業をつけてもらえるなら嬉しいはずだ


というのもリリアーナ教授は今の今まで一度も授業に現れたことはない、彼女が授業をつけるのは 三年以上在学し それより上の専門的な事を学ぶ高等学生に対して授業をつけているのだ、エリス達入りたての学生には絶対に授業はつけない


はずなのだが、こうして姿を現したということは…そういうことなのだろう


「残念ながら違う!」


そういうことではないようだ、違うのか…じゃあ、何か 授業でもなんでもないのにこの人は窓叩き割って突っ込んできたと、まぁ授業ならいいかと言われたら 全然そんなことはないんだけれどね、アウトだよ


「じゃあ何のために現れたんだ?、冷やかしに来るには アンタは立場がありすぎると思うんだが?」


「おお、ラグナ大王…流石に肝が座っているね、皆 今日が特別な日であることは聞き及んでいるだろう、今日は授業ではない…ただの 授業ではないのだよ」


するとリリアーナ教授はゆっくりゆったりと壇上に降り立ち、クルクルと空中で回転する杖をキャッチする、その様はまさにか大道芸人、注目を集めるには足る演出だ


しかし隣で『まさか有料?』と呟くメルクさん?、ただの授業じゃないとはそういう意味ではありませんよ


「これより行うのは学園恒例の…一年に一度の校外課題さ、課題 聞いたことはないかね?」


「課題…聞いたことねぇな、エリスはあるか?」


ある…、去年の今頃 廊下を歩いている時チラリと耳に挟んだ話にそんなのが入っていたな、まぁここでエリスが説明せずともリリアーナ教授が直々に説明してくれるだろう、だからラグナ 前を向いてください


「課題とは 二年生以降の生徒全員に向けられ与えられる特別な授業、一週間かけて行われる まぁ言ってしまえば大イベントさ、内容は簡単 君達が今まで学んだ事を活かして誰よりも早く目標を達すること」


そう口火を切るリリアーナ教授は課題の説明を始める


課題とは、生徒達がその学んだ知識やこの学園で手に入れた友人関係を用いて取り組む物、課題って言い方は悪いな エリスなら試練と呼ぶ、あるいは試験


毎年内容が変わり リリアーナ教授が語るに今回の課題内容は簡単 五人一組を作り、これから一週間以内に街の外にあるとある山 その遺跡の中にあるアイテムを持ち帰る事


ただ一週間以内に持ち帰ればいいだけ、持ち帰れなかった物は補習だというが 一応脱落という要素はないので、時間をかけ慎重にやれば持ち帰る事自体は簡単だ


が…しかし、当然ながら じゃあみんなでゆっくり進めましょう、というわけにはいかない


早く持ち帰った者に順位付けされるらしい、早く持ち帰れば帰る程良い成績が付き、遅く持ち帰れば帰る程悪い成績がつく、期限ギリギリに持ち帰った者はマイナスの成績がつくこともある


つまりは競争、他のやつよりも早く いち早く 少しでも早く持ち帰る事が条件だ


「大体100位くらいまでは成績がプラスされるが それより下の者は今の成績に傷が付くと思いたまえよ?」


「へぇ、面白そうなイベントだ…燃えてくら」


競争…つまりは争い、争いと聞いて黙ってられないのがアルクカース人だ、説明を聞きながらメラメラ燃えるラグナを見て思う、これは ゆっくり100位以内を目指すという選択肢はなさそうだ


「因みに一位から三位までは学園から祝いの品が出るというからね、励みたまえよ?、詳しい説明は 今から配る冊子に書いておくからそれを参照するように」


と言いながら全ての生徒に冊子が配られる、態々冊子まで用意されているとは酷く手が込んでいるな それだけ大イベントということか


しかし上位者には景品か、何が貰えるかは分からないが 目指してみるのも悪くはあるまい、というかラグナのこの様子じゃ半端な順位は許されそうにない


「私からこの課題に対してアドバイスをするとするなら、この課題は五人一チームで行うものだ、魔術科内の人間だけではクリアは難しかろう、他学科内に知り合いがいるなら頼り、知り合いがいないならコレを機に繋がりを作りたまえ、とにかく優秀な奴を多く抱えた奴が勝つ それが例年のお決まりさ」


優秀な奴とチームを組む、5人一組で…か、教室内を見渡すと この教室の全ての生徒の視線がエリス達に注がれており


「チーム集めは今からだ!、開始は明後日!、それまでにチームを集めきれなかったものは一応参加は出来るが クリアは難しいものと思えよ!、さぁ!この瞬間から チーム集めの瞬間から課題は始まっているぞ!」


刹那、課題の第一段階 『チーム集め』の始まりが告げられると共に、学園全域に鐘が鳴り響く、それは即ち この教室 この学科だけでなく、学園に存在する全ての生徒達がチーム集めに動き出した事を意味し…


「エリス!メルクさん!デティ!立て!」


「分かった」


「へ?」


「いいから行くぞ!」


鐘が鳴り終わると共にラグナとメルクさんが立ち上がる、エリスとデティが呆気を取られる間に二人は立ち上がり慌てて教室の入り口に行こう歩み出す…行くって 何処に?、もしかしてチーム集めに行くのか?でも


「ラグナ チーム集めって、そんなに急がなくてもいいのでは?エリス達全員で組むんですよね?ならもうチームはほぼ揃ったと」


「違う!そっちじゃねぇ!俺が焦ってんのは…」



「ラグナ君!是非とも僕たちとチームを!」


「メルクリウス様!どうか我々にお力をお貸しください!」


「デティちゃーん?、お菓子あげるからこっちにきてー?」


「エリスさん!私たちのチームに入って!」


囲まれる、教室の生徒全員に、他の生徒には脇目も振らず全員がエリス達の勧誘のために殺到して囲むように行く先を防ぐ、そうか ラグナが焦っていたのはこのチーム勧誘の波に飲まれるのを恐れていたんだ


思ってみれば当然だ、ラグナ達の力は知れ渡っている、優秀な人間を集めようと思えばラグナ達の中の誰か一人でも引き込めれば上位入賞にグッと近く、だから全員成績のため 褒賞の為 名誉の為 勝利の為、なりふり構わず殺到するのだ


「彼らはうちに入るんだ!」


「違う私たちのところよ!」


この感じ 見た事がある、マレウスの冒険者協会でだ…少しでも優秀な人間をチームに 自分の利己の為動く人間の熱量とは恐ろしいもので、これを振り切って正面突破するのは難しいんだ、エリスはそれを身を以て理解している


「チッ、囲まれた…」


「ラグナ!窓から飛ぶぞ!」


「お、ナイスアイディア!、デティ!エリス!行くぞ!」


するとメルクさんが開けた窓を見てラグナは弾かれるように動く、瞬く間にエリスとデティを両脇に抱えると、疾風の如き速度で窓の外へと飛び出す、この教室は学園の三階にある ここから飛び降りれば追ってこれる人間は少ないはずだ


「ぎゃー!!おちるー!!」


「デティ!暴れるな!落ちるぞ!!」


「ラグナ すみませんでした、反応が遅れました」


「いやいい、それよりも…」


エリス達全員が着地すると、上から『下に逃げたぞ!』『絶対に逃がすな!』などの声が降ってくる、マズイな まだ諦めてない、いやもしかしたら魔術科だけじゃなくて他の学科の人間全員がエリス達を狙ってる可能性がある、一箇所に留まり続けるのは得策じゃないかもしれない


エリスとデティはラグナの手から降ろされ、周囲を見る…うむ 今の魔術科の声で他学科にもエリス達の居場所が割れたらしい、まるで地鳴りのような音がこちらに近づいてくるのが分かる


「どうする?ラグナ」


「さっきエリスが言ったチームだが、ここにいる四人でチームを組むのは確定だ、だがチームメンバーは全部で5人、この残りひと枠に入ろうと殺到する人間は山ほど出てくるだろうな…」


「もう適当なの入れてさ、私たちチーム組み終わったよー?アピールすればみんなも諦めてくれるんじゃない?」


デティの言うように、適当な人間をチームに引き込み エリス達はもうチームが決まりました、と先生にチーム登録の申し入れをすればこの状況もある程度収まるだろう、だが…ラグナはそれでは納得しないだろう


「いや、適当なのを入れて 足手まといになられても困る、そう言う風に俺たちを頼ってくる奴は 、どうせ俺たちにおんぶに抱っこで上位入賞を目指そうとする奴らばかりだ…、そいつらを抱えたままじゃ 100位以内を目指すことは自体は出来るが 一位は目指せない」


エリス達だって一位を目指したい、でもエリス達の動きについて来られない人間を抱えたままじゃ 足枷をつけてるも同然だ、それじゃあ一位狙いは難しい


しかし


「とすると、残りの一枠はエリス達について来られるだけの猛者を見つけないといけないことになりますよ?、人材は限られるのでは…」


エリス達はこれでも魔女の弟子だ、それについて来られるとなると …同じ魔女の弟子たるアマルトくらいしかいないが、今この状況で彼を勧誘するのは難しいだろうな 収まったとはいえ一応敵対関係は続いてるわけだし


「限られるのなら 限られた中から最高のものを選ぶ、それだけのことだ」


「分かりました、ではエリス達はその人材を探すよう動くとしましょう」


「誰がいいかなあ…」


「さぁな、少なくとも…」


なんて話していると学園からワラワラと生徒達が湧き出てきてエリス達の姿を見つけるなり、声を上げながら突っ込んでくる…


「あいつらじゃねぇのは確かだ、行くぞ!」


「はい、ラグナ!」


再びエリス達は走り出す、あれに捕まったら面倒だ 出来る限り、見つからないよう捕まらないように逃げ回り、エリス達のチーム 最後の五人目を見つける必要がありそうだ


しかし、誰がいいだろうか…エリスはこの学園に知り合いが少ないからな、バーバラさんくらいか?あとはアレクセイさんとかだけど あの人はもう別の人と組むだろうな


まぁいい、今は逃げよう


………………………………………………………………


普段は静謐な学園の廊下、いつもこの時間帯は全ての生徒が教室なり修練場に篭り授業を受けているから 平時はそれこそシンとした空気が漂っているんだが…


「おい!、こっちに行ったぞ!」


「くぅぅ!、何が何でもメルクリウス様と組みたい!、メルクリウス様に手取り足取り導いてもらいたい!」


「何言ってんだ!メルクリウス様は私達と組むんだから!」


「何を…!」


啀み合いながら喧嘩しながら走り回る生徒の一団、狙いはラグナ達魔女の弟子チーム、彼らの強さ 優秀さは学園内にも知れ渡っている、ノーブルズを前に一歩も引かないのは彼らに立場があるからではなく、力があるからだ


その力は今から行われる課題で多大な力になる、だから是非とも僕たちのチームへと誘い込んでいるのだが、反応は芳しくない それ故にこうして追いかけ回しているのだ


それが逆効果とも知らずに


「くそっ、いない!向こうか!?」


近くにいないことを察知した生徒達はバタバタと足音荒く廊下を走り去っていく…、そして 無人になった廊下 その奥の教室ヌッと影が現れ


「行きましたかね」


「行ったようだな…」


ぬるりと現れる四つの影、教室の机の下にエリスとメルクリウス、椅子の下にデティ そして


「しつこい奴らだよ、ほんと」


天井から降りてくるラグナ、なんと巻く事が出来たようだ…しかしこうも追われていてはエリス達のチーム探しもままならない、逃げ回るので精一杯だ


「ねぇ〜、もう逃げ回るの疲れたよう〜、もうこの際『チーム勧誘お断り!』ってノボリ担いで歩かない?」


「それで聞くなら追って来ないさ、しかしデティの言うように やや疲れたな、ラグナ 当てはあるのか?」


「ない、追ってくる奴の中から強そうなのいないか探してるが、どれも似たよったりだな」


全員で教室の机や椅子に座るが、かれこれもう一時間くらい逃げ回ってるぞ…逃げる方も疲れるが 追う方も疲れないのか?これ、なんて思いながらエリスは渡された冊子を開く


「課題のルールや大まかな流れは把握しておきましたよ」


「逃げながら読んでたのか?、やるなエリス 共有してもらえるか?」


「はい…おほん、では」


ディオスクロア大学園恒例の課題、正式名称を『校外活動実地課題』 毎年二年生から上の生徒全員に御触れが出され行われる 謂わば今まで学んだことの集大成を春先に行うと言うもの


エリス達が去年参加しなかったのは エリス達が一年坊だったから、そして今年から晴れて二年坊になったもんだからこうして参加しているわけなのだが、どうやら毎年内容は少しずつ違うらしい


()


例を挙げるなら 五人で芸術品を作り その採点を行うとか、五人で答案を解いてその速さを競うとか、五人チームでバトルトーナメントを行い優勝者を決めるとか色々だ


ラグナ的にはトーナメントが良かっただろうけどね


しかし何故こうも毎年内容が変わるか、それは課題内容の事前の準備をさせないためと、様々な分野を経験させることにより 、自分の持っている力だけでは解決できない事がある事を学ぶ為だ、どんなに優秀でも人間一人 出来る出来ないは存在する


だから 出来ないことは他人に任せ、その上で自分が出来ることを探す、これもまた立派な学びの一つだ


「つまり毎年 必要とされる分野が違うってことか、芸術なら芸事の分野の人間 建造なら大工関係の人間、んでトーナメントなら俺みたいな人間が重宝されると」


「そういうことですね、闇雲に優秀な人間だけを揃えればいい と言うことではないようです」


「じゃあ、今回のその 遺跡の中のアイテムを取ってくるってぇのは何が重宝されるんだ?」


今回の課題の内容は『山の奥にある遺跡からアイテムを取ってくること』だ、それだけだ ある情報は、どこの山のどの遺跡でどう言うアイテムを持ってくるかは分からない、一応課題直前にヒントはくれるようだが…恐らく今回必須となるスキルは


「長距離間の移動…だろうな」


メルクさんがポツリと呟く、つまり 旅の技術…即ち


「つまり重宝されるのはエリスってことか?」


「ええ!?…いや そうなのでしょうか、まだどこに向かうか分かりませんが 確かに山の奥の遺跡となると長距離移動は免れないでしょう、けど エリスもそこまで際立って旅が上手いわけでは…」


「だが、この中で一番慣れてる…だろ?」


「まぁ、そりゃ…生まれてこの方ずっと旅してますから」


家を構えてゆったり暮らす時間よりも 旅をしている時間の方がエリスは多いかもしれない、そう思えるほどに エリスは旅を続けている、でも頼りになるかと言われると微妙〜


「まぁいい、その辺はエリスに任せるよ いいな?」


「わ 分かりました、…でも だとすると最後の一人はどうするんですか?」


別に四人で行ってもいいが、もしかしたらエリス達以外の手が必要になる場面があるかもしれない、いざその場面が来た時『やはりもう一人加えておけば良かった』と思うくらいなら、誰か一人でもチームに入れておいた方がいいかもしれない


「旅をするなら人手が要ります、エリス達が普段している以上に役割分担が必要になりますからね、四人で回すより五人で回した方が各々の負担も少なく済みます」


「確かにそうだな、…しかし 誰を加えたもんか、入れるなら旅で役立ちそうな奴 だが…」


道中の戦闘に備える戦闘員はラグナで事足りる、魔術的な方面はデティでいいし、頭を使うような場面はメルクさんでいい、となるとそれ以外の分野…か


「エリスはどんな人間がいると思う?」


「エリス的に気になるのは遺跡の部分でしょうか、恐らくこの遺跡も一筋縄では行きませんし 何よりエリスは遺跡攻略は門外漢です」


「遺跡攻略に必要そうな奴ねぇ、それこそ心当たりがない」


ふーむと皆揃って考えていると、ふと メルクさんが何かに気がついたように、顎に指を当て首をかしげると


「思ったのだが、アマルトではダメなのか?」


と…言うのだ、いや 何を言ってるんですかメルクさん、アマルトはダメなのか?って?そりゃ…


「ダメでしょうよ、エリス達敵対してるんですよ?アマルトと」


「そうか?この課題には全校生徒が参加するんだろ?ならアマルトだって参加するはずだ、それならアマルトとも利害関係で協力出来るのではないか?、敵対してはいるがな」


「ですけど…」


どうしよう、利害関係って言ってもあのアマルトがエリス達と協力する図が浮かばないよ、どうしますか?ラグナ と彼に視線で意見を聞くと


「…うーん、アマルトとはいずれ協力する関係にある、…エリスの言う通り協力関係は難しいかもしれないが…、うん 一回聞いてみるか?」


「聞くってアマルトにですか?」


「ああ、ってのは方便で アマルトとは一回面と向かって話しておきたい、こう言う理由がないと話できないだろ?」


そう言うもんでしょうか、エリスはあんまり納得してませんがメルクさんは乗り気でデティも特に意見はない、となればラグナの意見に従うより他はあるまい


彼が話したいなら 話しておいた方がいいんだろう、毎回毎回エリスの意見が通るわけではないしね、ここはエリスが折れよう


「んじゃ、アマルトのところに行くか」


「でもアマルトってどこにいるんですかね」


……なんて言いながらエリス達が立ち上がった瞬間、…響く


「俺がどーしたってぇ?」


「ッ……!?」


響いた、この声は…アマルトだ


エリス達が慌てて声の方へ振り向けば、其処には 教室の窓辺に座り込むようにこちらをみる影がある


「アマルト!?」


「よう、人のいない教室で秘密の密会か?」


アマルトだ、今丁度話をしていた男が 誂えたかのように窓を開けて外から入ってきていたのだ、不敵に笑いながらこちらをみる姿、何故彼がここに


「…どうしてここに?」


「んん?、いや 学園内でお前らを探す声が響いてたから、どこで何してんのかなーと思ってな」


「どうしてエリス達の居場所が…」


「お前らは臭いが濃いからな、一発さ」


「臭い?」


「ほれこれ」


というとアマルトは自分の口元に手を当てると、その口 いや口と鼻がニョーンと伸びて尖り、形を変え毛が生えて…ってあれ 犬の鼻か?、ああそうか 呪術の中には体を動物にする物があったな、彼はそれを使い 犬の鼻を手に入れ、エリス達の居場所を探したのか


「犬の鼻…なるほど、ガニメデと同じ呪術ですか」


「いやいや、ガニメデと同じ呪術を俺が使ってるんじゃなくて ガニメデが俺と同じ呪術を使ってるんだよ、そこ重要だから 間違えないで」


どうでもいい気がするが、…実際重要なのは彼がいきなりこの場に現れた事、理由はともあれ 彼には今エリス達に接触する気がある…という事だ


すると、ラグナが代表してアマルトの側にに歩み寄ると


「遂にお前から動く気になったか?、もうお前の側には手駒はいないものな」


「まぁな、だけど 別に手駒がなくなろうとどうしようと、俺には関係ねえ 寧ろ礼を言いたいくらいだぜ、俺の誘いに乗って まんまとこの学園をめちゃくちゃにしてくれた礼をな」


やはり、彼の狙いはこの対立姿勢そのものにはなかったか、狙いはノーブルズとエリス達を戦わせ ノーブルズを倒させる事、そうすればこの学園はバランスを失い自然と倒壊して行く


エリス達も気にくわないだろうが、アマルトにとってはこの学園もまたいけ好かない存在だ、つまり エリス達がノーブルズに負ければ気に入らない奴らが潰れたとアマルトが大笑い エリス達がノーブルズに勝てば学園が崩れてアマルトが大笑い


どの道アマルトが最後には笑うように仕組まれていたんだ


「やはり俺達に学園の秩序を失わせようとしていたか…いや薄々気がついてたけど、まさか本当にそれを望んでるとはな、おい アマルト…お前なんで学園を潰そうとしてんだよ、ここお前の一族が大切にしてる学園じゃねぇの?」


「…大切にしてるのは、役目だけだ…アリスタルコス家が見てるのは理事長を継ぎ 継がせるという役目だけ、理事長そのものには目も当ててない…、代々受け継いでるのが理事長じゃなくて 便所当番でもアリスタルコス家はありがたがって継承するだろうさ」


役目…タリアテッレさんもそれを口にしていたな、私達はアマルトに理事長を継がせるのが役目 アマルトは理事長を継ぐのが役目、大切なのは役目を満了する事 それだけなのだ


理事長としての仕事ぶりがどうかは関係ないのか…


「この国はそういう国なんだよ、いい加減分かるだろ? 先人の残した遺物を、現代の人間は有り難い有り難いと残し…子々孫々に押し付ける、大切なそれが遠の昔に腐ってることになんて 誰も気がつきやしねぇ、間抜けな国だよここは」


古い物を残す それは良いことかもしれないが、良いことばかりではない…そんな事は分かってるつもりだが、エリス達はどうやってもこの国の人間じゃないから 観光客気分が抜けないんだろう


その価値観を押し付けられるアマルトの気持ちは、エリス達では慮る事はできない


「だから学園を潰すのか?、それとこれとは関係ないだろう」


「まぁな、これは俺が単に気に入らないから潰すだけだ…、こんな場所があるから人は夢を見るんだ、叶わない夢なんか 見るだけ残酷だろ?」


「見るだけならタダだろ」


「叶えるのに代償がいるんだよ、人間はバカなことに 夢と現実の区別がつかねぇから、どんな代償だって払っちまう、それが…家族であれ 時間であれ 命であれな」


まぁ夢を叶えた側の人間のお前らにゃ わっかんねぇだろうけども? とアマルトはエリス達に汚物を見るような目を向ける、エリス達が夢を叶えた側?…エリスは何の夢も叶えてなんか…


…いや、もしかして…まさかアマルトがエリス達に嫌悪感をぶつけるのは……


「ん?あ おいエリス」


よし、そう決意して ラグナを押しのけ、エリスはアマルトの前に立つ、相変わらず怖い顔だ、だけど


「アマルト…、エリス達 これから課題に取り組むんですけど、一人チームが足りないんですよ、一緒にやりません?」


「……は?」


アマルトの目がまん丸になる、そりゃそうか エリスから誘ったんだから、きっとエリスの後ろではラグナ達も同じ顔をしているだろう、アマルトを誘うのに否定的だったエリスがこうして声をかけているんだから


でも、こうしてアマルトの顔を見て思った、やはり エリス達は分かり合える


「ねぇ、アマルト どうですか?、一緒にエリス達と戦いませんか?」


「お前ひょっとしてバカ?、それともふざけてる感じ?」


「悪い話じゃないと思うんですけど」


「頭の悪い話だろ、いやだよ いやいや…お前らと組むなんざありえねぇ、何で俺と組めると思ったんだ?…うぉっ!?」


捻くれた態度を取る彼に近寄り、胸倉を掴み引き寄せ 息がかかるくらいの至近距離に顔を近づける、驚き見開かれたアマルトの目がエリスの前に広がる


この目だ、さっきの話を聞いて 思い出し思い至った、アマルトは以前 エリス達の目が気に入らないと言っていた、それがどういう意味か 当時は分からなかったが、今なら分かる


「貴方はエリスの目が気に入らないんですよね」


「あ…ああ、今その気にいらねぇ目が目の前にあって最悪の気分だが?」


「ですけど、エリスからしてみればアマルト…貴方もエリス達と同じ目をしていますよ、エリスと同じ 奥底に炎を宿した目、アマルト 貴方がエリス達を嫌うのは この目に己を感じるからではないですか?」


「っ……」


アマルトの目を覗き込めば、…腐った目をしていない エリスは大勢の外道を見てきた、腐り果ててどうしようもない人間だって沢山見てきた、そいつらの目は見ているようで何も見ていない虚ろな目だ、過去か 己の欲か 或いは思想か…それだけに向けられた目は光を放たない


だが、アマルトの目は 違う、輝いてはいないが 輝きは失っていない、彼はまだ 内にまだ何かを隠している、タリアテッレさんの言う輝きを まだ中に隠している、恐らくは……いや まだ詳しくは分からないが


アマルトはこの輝きを捨てたいんだ、疎んでいるんだ …だから 同じ輝きを持つエリス達を嫌う、捨てたがっている 捨てざるを得ないと諦めたそれを見るエリス達の輝きが嫌いなんだ


そうだろう?、だって アマルトの眼に映るエリスの眼は今 アマルトと同じ光を宿している


「頭どうかしてんじゃねぇの?」


「目を逸らしましたね」


「そりゃ逸らすだろ」


「それはエリスからですか?エリスの眼からですか?それともエリスの眼に映る己ですか?」


「っ…全部だよ!」


突き飛ばされ、思わず転けそうになるが後ろで控えていたラグナに支えられる、ありがとうラグナ なんて礼を言おうかと思ったら、彼 すごく怖い顔してた、何?その血涙流すような顔…


「付き合ってらんねーな!」


「そうですか?、むしろエリスは確信しましたよ、アマルト 貴方とエリス達は分かり合えるはずです、いえ 分からせます、絶対に」


「言ってろよ……」


やり辛い そう言わんばかりに彼は頭を搔きまわす、だがエリスはようやく彼と言う人間が理解出来た気がしますよ、彼にも色々あったろう 度し難い何かを抱えているんだろう、だが 過去は過去だ、記憶や過去に縛られるのは馬鹿らしいですよ? エリスもよくそう思います


だから…、先ずは今を変えていく、その手助けをエリス達がする、たとえお節介と突き飛ばされてもう止まりませんからね!


「俺はお前らとは違う 、一緒にするな…俺はお前らが嫌いなんだよ」


「そう言う割には、エリス達の様子を見に来たりするんですね、本当はエリス達がこの逆境を乗り越えるのを望んでるんじゃないんですか?」


「うるせぇって!、お前 案外恐ろしい奴なんだな」


「諦めろアマルト、エリスはこう見てしつこいし諦めが悪いからな、何がどうなろうが全て蹴散らして目的に進むその突進力を侮らんほうがいい」


「メルクさん!?どういう意味ですかそれ!?」



エリスそう言う猪突猛進な人間だと思われてるんですか?、いやそう言えば彼女と一緒に行動したデルセクトでは何が何でも師匠を助けるために形振り構わないところがあったが、…でもそれは状況が状況だったからでですね?エリスは別にいつも突撃上等な人間ではなく…


とメルクさんに抗議していると、エリスを退けて新たにアマルトの前に出る者がいる、デティだ 彼女も何か言いたいことがあるのか…?


「やいアマルト!」


「お前魔術導皇の…居たのか、チビだから分からなかったぜ、


「チビ言うなーーっっ!!」


「チービ チービ!やーい!チービ!、どチビ!超チビ!ピーナッツチビ!グリーンピースチビ!ゴマチビ!」


「キィィーーー!!お前お前!言うに事欠いてお前!」


「だはははははは!、チビはチビだろうが!チビ!やーい バーカ!」


エリスに詰め寄られ図星を突かれた苛立ちを発散するようにデティをチビと弄り倒す、余程エリスに突かれた部分が痛かったのか、デティの頭をツンツン突いて笑いまくる


かなり高身長のアマルトに言われちゃデティも怒髪天だろうが、安心してほしい デティはチビだが可愛いんだ


「このぉっ!ぶっ殺す!」


「無理だ無理 やめとけ…よっと!」


すると再びアマルトは窓際に乗り立ち上がると…再び口元を犬の形に変えて…、って 何するつもりだ?


「また犬の鼻ですか?今度は何をするつもりで…」


「ああ、もう一個訂正しとくわ、これ犬の口じゃなくて…狼の口な?」


は?だからなんだ、犬だろうが狼だろうが差はないだろう そう、疑問を口にしようとした瞬間、彼が大きく息を吸い込み 胸が膨らむほどに息を吸い込み、口元に手を当てる まるで遠くに声を飛ばすように…ってまさか


「おぉーーーい!!ここにエリス達がいるぞぉーーーーーぅ!」


響く響く、地鳴りのような大声が…いやただの声じゃない、これ…狼の遠吠えだ!山の向こうまで届くような声量は遥か彼方の同族に意思を伝えるのに使われる、つまり 今この場で伝えられた言葉は学園全土に響いたと見られ…


「あ!テメェ!」


「ハハハハハ!、俺を怒らせた罰だよ!罰!、生意気なこと言うからだ!」


捕まえようと慌ててラグナが飛びかかるもアマルトの方が一手早かった、窓際に立っていたのは逃走経路を確保するため、先程エリスたちがした時のように外に飛び降りる…いやそれだけではない


「その四肢 今こそ刃の如き爪を宿し、その口よ牙を宿し 荒々しき獣の心を胸に宿せ、その身は変じ 今人の殻を破れ『獣躰転身変化』!」


空を舞うアマルトの体がフワリと浮かび上がる、その両手が鷹の大翼と化したのだ、あれは…


「ガニメデの呪術!」


「元は俺の呪術なんだって!、まぁいいや!俺はどの道課題にゃ参加しねぇ!他当たんな!どうせ候補はこれから山ほど殺到してくんだろ!」


「待てー!アマルトー!戻ってこんかーい!」


「やだねー!チービ!バーカ!あはははははは!」


デティの咆哮に高笑いで返しながら彼は何処かへと飛び去ってしまう、…なんか 仲良いなデティとアマルト、いやあれは仲がいいというより アマルトがデティを弄り倒すのが好きなだけか、ああいう人を馬鹿にするのが好きなタイプにとって 突いたら爆発するデティは格好の揶揄い相手だろうしな


「…何しに来たんだあいつ」


「さぁ」


既に飛び去り消え去ったアマルトを見送りながらラグナがぼやく、たしかに 言われてみればアマルトの奴、何しに態々ここまで来たんだ?、今まで全く接触してこなかったのに…、まぁ彼も ノーブルズがなくなって暇なのかもしれないな、だからエリス達を困らせてやろうと突っかかってきたのかもしれない


まぁそれはそれで何しに来たんだって話でいることに変わりはないが


「でもエリス、…さっき言ってたのは本当か?」


「さっき?アマルトの目のことですか?」


「ああ、私にはよく分からんのだが」


メルクさんには…いやラグナもデティもよくわからないと言う、これはエリスが旅をしていろんな人間を見てきたからこその感想だしな


善い人間悪い人間と世界の人は二分出来ない、それでも悪党はいるし外道もいる…アマルトのやってることは外道じみている、だが 彼自身はその外道達と同じところまで落ちてない


何か、ギリギリのところで何かに掴まって耐えている そんな印象を受けるんだ、彼の過去に何があったかは分からないが、なら昔何があったかより今どうやって彼を引き上げてやるかが重要だ


アマルトを仲間にする、今は無理かもしれないが その事にもうエリスは躊躇しない


「……エリスには分かることがあるんだろう、彼女にはある意味人を見る目がある 俺達とは違う視点を持つ、だからこそ 気付ける物もあるんだろう」


「そんなもんか?」


「そんなもんだよメルクさん、それよかアマルトをチームに入れるって線は無しっぽいな」


まぁアマルトの話は今はいいんだ、今は課題を共にする5人目の仲間を決めないといけない、いつ取り組むか分からない問題より目の前の課題だ、しかし…さっきアマルトと話していて思いついたことが一つある、というより候補か…


あの人なら、ひょっとすると良い仲間になれるんじゃないかとエリスは思っている


「皆さん聞いてください、実は…」


そう、注目を集め発表しようとした瞬間 教室の扉が勢いよく開かれ…


「居たぞ!ラグナ様だ!」


「メルクリウス様も!、メルクリウス様ー!どうか私たちのチームに!」


「デティちゃーん?ケーキ焼いてきたんだけど〜?」



「やべ、もう集まってきやがった…」


気がつけば既に教室の中と外に人の海が出来上がっている、さっきのアマルトの遠吠えで集まってきたんだ、しかも学園全域の生徒がこの場に向かって走ってきているのが地鳴りで分かる


「あわわ、囲まれてしまいます…」


「エリス!話は後だ!、とりあえず逃げるぞ!」


「ケーキ…」


「デティも!ほら来い!」


ラグナに首根っこ引っ掴まれ無理矢理連れて行かれるデティを尻目に、エリス達はアマルトの開けた窓から飛び降りて離脱する、流石に彼らも窓から飛び降りて追ってくることは無いだろう…


「こっちだ!こっちにいるぞ!」


「ゲェーッ!?下にもいる!?」


と一安心も束の間エリス達が飛び降りた先にもかなりの人数の生徒が待機している、多分 エリス達が魔術科の教室から飛び降りて逃げたのを知っている生徒達だろう


また同じように逃げると踏んで下で待機してたんだ、頭の良い奴らだな…狡猾とも言えるが


「チッ、参ったな」


「どうしよー!ラグナー!囲まれたよー!」


今度は逃げ場がない!エリス達の周囲をぐるりと囲むように並ぶ生徒達、隙間がない 今度こそ逃がさないという面構えだ、エリス達が彼らの言い分に首を縦に振らぬ限りこの拘束は解かれない


かといって粘っても上の連中が直ぐにここに降りてきて 包囲が分厚くなる一方だろう


「ラグナ様!俺達どうしても上位に入って良い成績を残したいんです!どうかお力を…」


「メルクリウス様!私メルクリウス様のためなら命さえも投げ出すます!」


「デティちゃーん?、パンケーキ食べたくない?、イチゴ乗ったやつ」


「エリスさーん!好きだー!結婚してくれー!」


喧々囂々、皆我先にエリス達に向けて懇願してくる、皆必死という様子だ これは断っても諦めてこないだろうな、さてどうするか…


「おい!今エリスに求婚したやつ何奴だ!前出ろ!ぶっ殺すぞ!」


「落ち着けラグナ!」


「っていうかなんで私の誘い文句だけお菓子なの〜!?私そんなちょろくないよー!…多分」


なんて言ってる間にエリス達を囲む円は狭まる、このままでは状況は悪くなる一方だ、かと言ってこの場でぶっ飛ばすわけにはいかない、出来るとするなら 旋風圏跳で空へ逃げるか?、ううん 四人を纏めて抱えて飛べるか怪しいな…いや、飛んで逃げるのは悪くないな


「ラグナ!頼みごとがあります!」


「あぇ?、なんだ?こいつら纏めて吹き飛ばすのか?」


「違います、悲鳴をあげてください 絹を裂くようなやつ」


「ナゼェッ!?」


「良いから早く!、この中で一番声が大きいのがラグナです 貴方が助けを求めれば聞こえるはずですから!」


「聞こえる?…誰に、いや…そうか、分かった 任せろ」


狭まる円を前にラグナは大きく息を吸う、そうだ 伝えるんだ、課題に必要になる最後のピース エリスが求める5人目のメンバー、彼なら 力になってくれるはずだ、首を傾げるメルクさんとデティを他所に、エリスの意図を理解したラグナは大きく吸った息を 一度に解放する



「ヒーローっ!!!助けてくれーっ!!!」



叫ぶ、アマルトの遠吠えよりも大きく 叫び呼び寄せる、ヒーローを…そう この学園でヒーローを名乗り 歪みながらもそれでも正義を求めた男を、彼はいつだって悲鳴に 助ける求める声に呼応して現れる、かつての彼ならエリス達は助けを求めなかったが


改心し 今一度自分の正義を見つめ直し、真なる正義のヒーローとなった彼ならば…


「あ!おい!あれを見ろ!」


一人の生徒が指を指す 何処だ?空だ、天高く指を上へ向ける 視線を向ける、その先にあるのは何か?


青い空に横たわる巨大な雲…それを引き裂き飛んでくる影がある、あれは鏃か?鳥か?否…ヒーローだ、皆がその名を知るヒーロー…その名も


「助けを呼ぶ声は…ここかぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


その影はあっという間に地面へと降下し、エリス達の前に降り立つ


羽を舞い散らせ 翼に変わった腕を人の手に戻す、フルフェイスのヘルメットを被った彼は エリス達を囲む生徒達を前に悠然と立ち上がり…


「助けを求める声あらば 地の果てでも海の果てでも助けに向かう、我は正義の味方!か弱き声の守り手!その名も! 仮面ファイター!参上!」


仮面ファイター…ガニメデだ、ガニメデ・ニュートン かつてノーブルズの一員としてジャスティスフォースを率い エリス達と戦ったガニメデだ


今はノーブルズとしての権限の大部分を奪われ 普通の生徒と変わらぬ生活を送っているこの男が エリス達の助けに反応し現れたのだ


彼こそ、エリスが求めた5人目 エリス達には彼の力が必要だ


「ガニメデさん!」


「違う!仮面ファイターだ!、ところで助けを求めたのは君達だね!状況はなんとなくわかる!、この場をなんとかすれば良いんだろう!任せたまえ!!」


ガニメデは言わずとも状況を理解してくれたのか、その場で構えを取り魔力を高める


かつての彼なら この場で生徒達をぶちのめして事を納めようとしただろう、だが 彼はもう知っている、暴力で解決するのは正義の味方のやることではない、今の彼は悪の敵ではなく 正義の…全ての味方なのだから


「その四肢 今こそ刃の如き爪を宿し、その口よ牙を宿し 荒々しき獣の心を胸に宿せ、その身は変じ 今人の殻を破れ『獣躰転身変化』ーーッッ!!」


変わる ガニメデの体が、メキメキと音を当てて変わっていく、アマルトが先ほど見せたものと同じ体を変形させ、人ならざる者へと変わる呪術だ


アマルトに与えられたそれをガニメデは扱い、その身を一つ 巨大な怪鳥へと変化させ大きく羽を開き周囲の生徒達を遠ざける


「さぁ!、話は後だ!!乗れ!!!」


「おう!サンキュー!ガニメデ!」


「えぇー、これに乗るの〜」


「文句を言うなデティ」


「ありがとうございます!ガニメデさん!」


「仮面ファイターだ!、さぁ行くよ!!!」


巨大な怪鳥となったガニメデは羽を大きく振り瞬く間に空へと登っていく、下からはエリス達を止める声が聞こえるが、今は無視だ 何せもう、最後の一人は見つかってしまったのだから……


……………………………………………………


「さぁ!!ここまでくれば安心だよ!!!」


ガニメデのその声とともに降ろされるのは学園のすぐ側、学園所有の領地の中にある森の中、ここならすぐに見つかることはないだろう と言う算段だろう


エリス達はあれから鳥となったガニメデに乗り込み、生徒達の追跡を振り切り、こうして森の中で息を潜めているのだ、ガニメデが来てくれなければ…まぁ面倒なことになっていたのは間違いあるまい


「助かったよガニメデ」


「仮面ファイターだ!…いや ラグナ君には僕の正体を明かしていたね、なら僕の本当の名を呼んでも構わないよ!!!」


そんな巨大な怪鳥の背から降りてエリス達は彼に向かい合う、ガニメデは相変わらず鳥の姿から元に戻らず 大木の枝に掴まったままはっはっはっと笑っている…、しかし本当に助かった…


「凄い便利な魔術だね!、鳥にもなれるんだぁ…」


「ああデティ君!何にでもなれるよ!、この世に存在する生き物であるならなんでもね!、でも変身するにはその動物の一部…それこそ毛や羽が必要だから、素材のない動物には変身できないんだ!!」


「じゃあ人間にもなれるの?」


「勿論!まぁ僕は元々人間だから成る必要はないんだけれどね!!!」


「そう言う意味じゃないんだけれど…まぁいいや、と言うか声デカ…」


相変わらずガニメデの声はでかい、体と口が大きくなったからか余計デカイ、しかし…なんかこう言うところを見ると、元気そうでよかったな なんて感想も湧いてくる


エリス達と戦い敗れた結果 彼はその権限の大部分を奪われた、その事で落ち込んでたり 傷ついたりしていたら、エリス達も…その…なんというか…悪いなぁって気持ちになるが、そういう面では彼の大らかさに救われたと言える


まぁ本当に気にしていないかはわからないが


「しかし、意外だったね 君達が僕に助けを求めるなんて、君達ならあの場くらい切り抜けられそうだと思うんだが?」


「いやまぁ、力尽くでならな…でも なんでもない生徒相手に力を振るうわけにはいかないよ」


「ははは!、確かにそうだね!ラグナ君!、流石は僕に正義を問うた男!、…そんな君達が 僕を呼んでくれた事を、喜ばしく思うよ!君達が頼ってくれたということは 少なくとも僕はしっかりやり直せているようだ!」


嘴を開けて大いに笑うガニメデ、実際 あれから彼の悪い噂は聞かない、暇さえあれば街に出て善行を積んでいるようだ、昔みたいに 少しでも非のある人間を悪に仕立てて殴り倒すような真似はしていない


街に出て、迷子の子供がいれば一緒に親を探し 老婦が荷物を抱えていたら代わりに持ってあげ、古い書店があれば掃除を手伝い 喧嘩が起きれば両者の言い分を聞き仲裁する


決して暴力で解決はしない、打ちのめすだけが正義ではないと彼は理解したから、エリス達より よっぽど立派な人間だ、彼は


「君達には感謝してるんだ、僕の目を覚まさせてくれた事については 本当に…礼を言っても仕切れないほどだ、また何かあったら呼んでくれ!、正義の味方はいつでも駆けつけるから!」


とだけ言うと彼はその翼を広げ飛び立とうとし…って、待った待った!ただ助けてもらうために彼を呼んだわけじゃない!


「待ってください!ガニメデさん!」


「ん?何かな!エリス君!!」


「いえ…、どうでしょうか ラグナ、ガニメデさんを エリス達の5人目のチームに加えると言うのは」


「5人目?…なんのだい?」


ガニメデは訝しむ、鳥の表情というのは分からないが 首を傾げているところから疑問には思っているんだろう


そうだ、エリスはガニメデさんを5人目のチームに加えようと思っている、彼なら実力的にも申し分ないし 何よりその扱う呪術はエリス達ではどうしようもない部分をカバーできる程に幅が広い


だからこそ、どうだろうかとリーダーであるラグナに声をかける…、彼も既になんとなくそのつもりではいたようで、大して驚かず頷くと


「俺はいいと思う…、寧ろ ガニメデならとても頼りになると思うしな、メルクさんやデティはどうだ?」


「む?、私も賛成だ 彼の力はこの目で見ている、信用にも値すると思うが」


「私達呪術使えないからね!、ガニメデの動物に変身する呪術は凄く頼りになると思う!なのでさんせーい!」


「ん、採決は決まりだな」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!僕を置いて話を進めないでくれ!ラグナ君、説明頼むよ!」


バタバタと翼を揺らし説明を求めるガニメデ、だが うん…みんな彼を仲間にする事に対しては賛成みたいだし、後はガニメデには話を通すだけ…その役目は頼みましたよ、リーダー?とラグナの背を叩けば 彼は任せろと言わんばかりに前へ出る


「なぁ、ガニメデ お前課題の件 知ってるか?」


「ん?、ああ勿論知っているとも…まぁ、今回は不参加にしようと思ってるんだ、僕とチームを組みたがる人間はいないからね」


「え?ジャスティスフォースは?」


「あのメンバーはみんな別のノーブルズの部下になったよ、それ以外のメンバーは今静かに学生生活を送って 償いをしている、今更僕に関わりたくはないだろうし 僕ももう彼らを巻き込んで何かをしたいとは思ってないからね」


ジャスティスフォースは全員で数十人はいたが、そうか 他の奴らはみんな他のノーブルズの部下になったのか、まぁ元々ガニメデの権力目当てでジャスティスフォースやってたろうし ガニメデが失脚すれば他所に行くか、仲間甲斐がないな


それ以外のメンバーとは ガニメデがエリス達と戦う時連れていた奴らだろう、彼らはガニメデをかなり慕っている様子だったし今更他ののーかに随える気はないんだろうな


ガニメデが静かに贖いをするなら自分達もと…静かに学生生活を送ってる、ガニメデはそれを邪魔したくないんだろう


「そうか、…なぁ 俺達が一緒に課題に参加しないかって誘ったら、断るか?」


「一緒にって…僕がかい?、…いや まぁ 断る理由はないけれど、いいのかい?仲のいい君達の中に僕が入ったら邪魔じゃないかな、一応 争った仲な訳だし」


「その為の評決だよさっきのは、んで結果として みんなガニメデを受け入れる事に反対意見はない、寧ろ 大歓迎なんだ」


「そうか……ふーーむ」


羽を折りたたみガニメデは考える、やはり即答できるような話ではない、元々エリス達は敵だった 、結局和解したとはいえ その関係がなかった事になるわけではない、難しい選択を彼に迫っている事に変わりはない


「やはり、アマルトの敵である俺たちに手を貸すのは…厳しいか?」


「アマルト君は僕の友達だ!そこは変わらない!…だけど、僕にとってはラグナ君!君も僕の理解者なんだ、そこに甲乙はつけられない」


権限を奪われ アマルトによって切られても、ガニメデにとってアマルトが友達であんことは変わらないようだ、凄いな …彼 実はエリスが想像しているよりもずっと器が大きいんじゃないのか?


「ただ、ねぇ…僕が味方する事で ラグナ君達に迷惑がかからないか不安なんだ」


「不安?」


「もし、僕が味方をし それが学園内で悪い風に広まれば、君達は反ノーブルズ派からも嫌な目で見られんじゃないかい?、ノーブルズと手を組むなんて…ってさ、僕はまだこれでもノーブルズだしね」


「む……」


思わずエリスは声を上げてしまう、そこまで考えてなかった


確かに、今ノーブルズを嫌う風潮は学園内にかなり蔓延っている、一応エリス達はその反ノーブルズ派の筆頭 という事にされている、そんなエリス達が自らノーブルズであるガニメデに擦り寄れば、いい目では見られないかもしれない


ノーブルズと反ノーブルズ派の双方から敵視される可能性もあるのか、エリス そこまで考えてませんでした…どうしましょうラグナ、そう伺おうとすると


「構わん、誰になんと見られようが構わない、俺はお前に味方してほしい ガニメデ、力を貸してくれ」


言い切った、一切の迷いも躊躇もなく 構わないと、浅慮か?短絡か?違う 彼は考えた上で迷わなかった、これから何が起ころうが 誰に何を言われようが、本当に構わないんだろう彼は


そう言う決断が出来る だから彼は王として在れる、だから彼はエリス達のリーダーなんだ…


一切の迷いを見せず決断したラグナを見て、ガニメデもまた迷いを捨て 笑う


「ふふ…ふはははは、そうかそうか つまり、僕が必要だと言うんだね!」


「ああ必要だ!お前の力が!お前自身が!、この学園で 俺達が信用出来る人間はお前を置いて他にいない!」


「そうか…正義の力をご所望かな?」


「違う、友の力が必要だ」


「友か…そうかそうか、分かった!ならば力を貸そう!正義の味方としてではなく!友として!このガニメデ・ニュートン!我が友ラグナの為奮おうじゃないか!!!」


羽を飛ばしながらマントの如く羽を広げ笑うガニメデ、力を貸そう 協力しようと誓うように叫ぶ、ラグナとガニメデ 拳を交えた二人にしか通じ合えない何かがあるのだ、ラグナはそれを信じてガニメデを説得し ガニメデはそれを信じ応じた


エリス達の『友達』とは違う『戦友』と言うものだろうか、よく分からないが ともあれガニメデの協力は得られた


これで万全の体制で課題に臨むことが出来るだろう、狙うは一着 狙うは一番 それ以外は眼中にない


エリス達と新たなる協力者であるガニメデ、これで課題の準備は万全…いや エリスの仕事はまだ終わってないか


「よし、んじゃガニメデ これからよろしく頼む」


「ああ、任せろ!求められたからには答える!それが正義の…いや ニュートン家の男児だ!、友たる君の期待には必ず答えようとも!…しかし 一つ聞いてもいいかい?」


「ん?、なんだよ」


「何故僕なんだい?、僕よりも優秀な人間は他にもいるだろう?、それに大概の問題は君達でも解決できる、なのに 何故に僕を?」


「そりゃあ…………」


フイッとラグナの視線がこちらを向く、何故ガニメデなのか その辺はラグナも考えていなかったようだ、まぁ彼を仲間にしたいと言い出したのはエリスだしね、その辺の説明はエリスがすべきだ


「ガニメデさんのその動物に変身する力は 長距離移動 即ち旅で役に立ちます、犬になれば嗅覚が 鳥になれば空を翔び 猫になれば感覚が冴える、人にはどうやって出来ない事をガニメデさんは出来ますからね」


エリス達は人だ、どれだけ鍛えても人以外にはなれないし 人に出来ないことは出来ない、その点で言えばガニメデさんはそれ以外を全てカバー出来ると言える、彼の力は旅という物事の中で重宝されるだろう


「なるほど、そんな便利なものでもないが 今エリス君の言った事なら全部出来る、存分にこき使ってくれ!!!」


「はい、頼りにします それ以外の分野は任せてください」


「おうとも!」


しかし ガニメデさんは付き合いやすいな、元々敵対してなければ上手くやれたのか?…いや、これは彼が人間的に成長したからだろうな、元々あった大らかさから頑固さが抜けて、ただただ大きな器だけが残った


彼となら上手くやっていけるだろう


「…それはそれとしてさ」


するとデティが首を傾げながら一つ呟く


「ガニメデはさ、いつまで鳥の姿でいるの?」


「うん?、ああこれね!悪いね!服はさっき変身した時破けてしまったからね!今変身を解くと全裸になってしまうんだ!、婦女子の前でモロはまずいからね!」


「ああ…そう言う…」


そう言えば、前戦った時も変身を解いたら全裸だったな、そんな便利なものでもないのかもしれないな


………………………………………………………………


それから、エリス達はガニメデを加え 五人フルメンバーで先生のところへ参加の登録を行いに行った、道中やはり物凄い人数に群がられたが 皆エリス達がもう五人揃っていることを確認すると やや残念そうに肩を落として立ち去っていった


いや、それだけじゃないな、少なからずガニメデの顔を見て怖がったり 嫌そうな顔をする人間も複数おり 今この学園で彼がどう扱われているのかがなんとなく分かった、まぁ ガニメデは気にしていないかったが…


エリス達がノーブルズと組んだことにより、やはり幾らかの反感を買った


『ノーブルズと組むんですか!?』とか


『そいつがした事忘れたんですか!?』とか


『ラグナ様達は…やっぱりノーブルズと組むんですね!』とか


力ある者は結局力ある者と組むんだ、そんな呆れたような感情が漂ってきてややいたたまれなかったが、ラグナ曰く


『ああ言うのは直ぐに噂とか体裁とかに左右されるから、ほっとけば何も言わなくなる』


とのことだった、まぁ 一年前までエリスの事を虐めていた奴がエリスに向けて尊敬の眼差しを向けてきたりもするんだ、この反感もすぐに収まるだろう


しかし、問題はもう一つあった ガニメデだ


ガニメデはノーブルズと敵対しているエリス達と組んだせいで ノーブルズ側からも見放されたらしい、というか その辺はラグナもガニメデも承知の上だったらしく、その事を謝ると 二人して『何を今更?』という顔をされた


やはりエリスは考え足らずだ


でも大丈夫なのかな、ガニメデはもうノーブルズ側にも一般生徒側にも行き場がなくなってしまっている、…とても申し訳ない その辺をエリスは全然考えていなかった


いや、違うな 申し訳ないと思うなら責任を取るんだ、彼がもし双方から爪弾きにされるならエリスが…エリス達が守ろう、ラグナ達がエリスを守ってくれたように エリスもガニメデを責任持って守るんだ


まぁなんて事もありエリス達は今 屋敷にいる、エリス達の家だ 学園はもう授業は無いから帰ってもいいらしい、後は明後日の課題に向けて準備をするパートだが


「旅の支度はエリスに任せてもらえますか?」


屋敷のダイニングにて、着席し テーブルに着くラグナ メルクさん デティ、そしてガニメデの四人を前にエリスは立ち上がり胸を叩く、旅の支度はエリスに任せてくれと


「旅の支度って…何するんだ?、食料とか?」


「いえ、…目的地が何処にあるか現時点では分かりませんが、距離が分からない以上必要なものはたくさんあります、着の身着のままでは移動さえままなりませんからね」


結局旅で必要なのは速度ではなく、安定だ


そりゃ速度を競う為に順位はあるが、速度を優先するあまり道中でハプニングが起こるくらいなら 多少速度が落ちても何も起こらず進んだ方が断然速い


そして、安定とは事前の準備によって確たるものになる、旅をする前に何をどれだけ用意しているかで、旅の安定度は変わる


「俺たちははっきり言えば旅は門外漢だ、そりゃ俺は国王として国中を行ったり来たりするが それでも準備はいつも別の人間に任せているからな、知識は無いに等しい」


「あれ?、でもラグナ継承戦の時 結構旅に慣れてる感じがしましたが」


「何年前の話だよ…、もう五年近く前の話だぞ?忘れちゃったよ」


忘れちゃったか、そっか…


デティは魔術導皇として殆ど白亜の城を動かないし、メルクさんも移動には慣れているが それは列車ありきのものだ、ここに列車はない


「では本当に旅の経験があるのはエリスだけなんですね…、ガニメデさんは?」


「うん!!僕にもない!!、僕はこの街から出た事もないんだ!、だから今回の課題はとても楽しみだな!!」


あまりの声量に窓が揺れる、声でかいよ…デティなんか耳を塞いでテーブルに突っ伏してるし、まぁそこはいいんだ 彼がこういう人間なのは今に始まった事ではないので驚きはない、それよりも重要なのは エリス以外旅に慣れた人間がいないという事だ


「…………ふむ」


エリスは一人腕を組み考える、これはエリスが頑張らなくては…と、いや 変に張り切るわけじゃないが、エリスは最近の自分の動きに不満と不安しかないんだ


最近のエリスは


『ガニメデとの戦いではラグナになんとかしてもらい』


『カリストとの戦いでは操られて』


『エウロパとの戦いでは檻の中』


何をした?エリス最近何した?みんなの足引っ張ってばっかじゃないか?、エリスはみんなのことを友達だと思っているし 多分みんなもそう思ってくれている、だが だからこそ思うのだ


対等でありたいと、エリスはみんなの守るべき相手ではなく 頼られる仲間になりたいんだ、だから この機会に力を示す


別に今までの事を取り返したいわけじゃない、ただこれはエリスの分水嶺だと思う、こういう場面で結果を残せる人間か 残せない人間か、それを分ける場面なのだ…


「気合入ってるなエリス」


「はい、自分の得意分野ですからね、抜かりなく進めておきます」


「俺たちに出来ることはあるか?」


「んー、ではラグナ 後で道具の一覧を渡すのでそれを揃えてください、デティは皆さんの着替えを数日分用意してください、ガニメデさんはこれから必要になるであろう動物の毛を手に入れておいてください」


「エリス?私は?」


ふと 立ち上がるメルクさん、私には仕事がないのか?という様子だが、勿論ながらある というか、ものすごーく嫌な頼り方だが


「ありますよ、ただ…ちょっと金銭的に頼ってしまうかもしれません」


「それは構わんさ、何買うんだ?課題の舞台になる山と遺跡か?」


「それ買ってどうするんですか…、旅に必要な物品ですよ、旅は道具が物を言いますからね いいものを手に入れようと思うと若干お値段が張りまして」


「構わんよ、この国買ってもお釣りがくるくらいには金があるし、何より使っても使っても直ぐに補充されるんだ では買い出しに出るか」


「はい、お願いします」


エリスは大慌てでラグナに渡す必要な道具を一覧に書き出し手渡すと同時にガニメデさんにも紙を渡す


やる事は大して多くはない、準備に準備を重ねるとは言え あんまりガチガチにしても空回りするからね、重要なのは要点を重ねる事…後は考えることか



よし、やるぞ…これはエリスの分岐点だ、やれる奴か やれない奴を分ける、分岐点なのだ

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