13.孤独の魔女と旅立ち
「………」
流れ行く白い雲と地平に沈みかける赤き太陽を見ると、穏やかだ…耳を突くのは馬車が小石を跳ねる音 馬の嘶く声、それだけだ なんとも牧歌的で心も休まる、穏やかだ
窓の外に流れる景色に想いを馳せていると、いつも決まって瞼が重くなる…いや、こんな穏やかな世界になら身を任せ微睡むのも悪くないだろう…、クッションもフカフカだし
「魔女レグルス様?さっきから窓を見つめてどうかされましたか?、ま まさか馬車酔いですかっ!?止めますか!?馬車!」
だが微睡みはいとも容易く相席のクレアによって打ち砕かれる、私の身を案じてくれるのはありがたいが 五分置きに話しかけられるのは流石に鬱陶しい
今現在、私は友愛騎士団に護衛される魔女専用の馬車に乗りながら優雅にムルク村に戻っている最中なのだ、一応魔女疑いである私は形式上ではあるものの見張りをつける必要があるとして、私とエリスはクレアと共にこの豪華絢爛な馬車に詰め込まれているというわけだ
クレアの腕なら護衛としても申し分ない という理由らしいが、…この子はこんなに喋って疲れないのだろうか…
「いやいい、魔女は馬車に酔わん」
「でも魔女スピカ様はよく馬車酔いして吐いてるらしいですよ」
「スピカは魔女である前に鈍臭いからな、大方馬車の中でなんか読んでたんだろ」
アイツは馬車にも酔うし船にも酔うしなんだったら乗馬しても酔うし肩車でも酔う、三半規管がよわよわなのだ
魔女八人で旅する時はいつも乗り物に乗りたくないとジタバタ全身を躍動させてダダをこねてた物だ、 海を渡るときなんか泳いで行こうとか言い出し結局大陸を挟む海域を八人で泳ぐ事になった、あれは確か冬だったな…寒かった
「ほうほう、あはぁ…まさか魔女レグルス様から過去の他の魔女との絡みが聞けるなんて、夢のようでまだ信じられません」
そしてどうやらこのクレア、私 『孤独の魔女レグルス』の熱烈なファンだったらしく、当初のツンツンが何処へやら 今は完全に小型犬のように尻尾を振っている
「私からでよければ幾らでも聞かせるよ…、まぁ スピカから聞けばまた違った話が返ってくるだろうがな、アイツはアレでいてよく意地や見栄を張るからな」
だが私もこうも好意全開で迫られれば悪い気はしないというもの、昔話でよければちょっとくらいは聞かせてやってもいい
「じゃ…じゃあサインとかお願いしてもいいですか?、この剣の柄に 」
「別にいいが サイン?、契約書のか?名前でも書くのか私の」
「違います違います…いや違くないかな、私への 魔女レグルス様のメッセージ的なのをお願いしたくて…烏滸がましいですかね」
そう言いながらも腰に指した剣を鞘に入れたまま差し出してくる、メッセージ…か よく分からんが私に出会った記念のような物か、そのくらいなら構わんな むしろそんなので喜んでくれるなら百でも二百でも書いてやろう
「いいだろう、私のものでよければ書くよ…なんて書くかな」
「あ!じゃあ何か書ける物用意しますね!インクとかペンとか…つ 柄に書けるかな」
「いらんよ」
ペンもインクも、これなら必要ない…魔力を指先に集め 詠唱により極小の炎を生み出す、指を 炎を押し当て文字を焼き刻む、地面に魔術式を書き込む際に使用する技術の応用だ
サラサラと指を滑らせメッセージを焼き付ける
「は…え、魔術で書いてるんですか?…か かっけぇ〜…」
「ほら、出来たよ こんなもんでいいかな」
「…『汝に孤独の魔女レグルスの加護があらん事を』…ッシィ〜〜」
なんだその吐息は どんな感情なんだ…、いや確かに孤独の魔女に加護なんてないけどさ、こう 剣に文字を刻むとなると私だって格好をつけたくなるんだよ
あ ダメだはずかしくなってきた、なんか 耳まで熱くなってきた…やっぱりもうサイン書くのやめよう、私にはこう言うの無理なんだ
「家宝にしますね、額縁に入れて飾ります」
「剣なんだからちゃんと使え!」
「おぉーい!、クレア!魔女様!もうすぐムルク村に着きます!…って何やってんだよクレア」
クレアとそんなやりとりをしていると、響いてくるこの野太い声は 例の副団長…いや臨時団長代行のデイビッドだったか、美しい毛並みの白馬を乗りこなし 馬車に並走しながら声をかけているようだ
そうか、もうムルク村か…エリス、結局起きなかったな いやかなり消耗しているらしいし、ナタリア曰く『今日一日起きなくてもなぁんにも不思議はないんで、そんなに取り乱さないでください、服掴まないでください揺らさないで』 らしい
「家宝もらいました、あげませんよ」
「いらねぇよ、おい!そろそろ止まれ!」
そうデイビッドの声が響くと ちょうど村の郊外へと停車する馬車や騎士団の馬達、馬車の中はランプで照らされてるからあまり感じなかったが、外はもうすっかり暗く…
いや村の方は全然暗くないなむしろ明るい 、…ああ そうだ思い出した 、今 村はお祭り騒ぎなんだったな
偽物の魔女が適当なこと抜かして村人総出で宴の支度をさせていたんだ、彼女が偽物とも知らず いつまでも帰ってこない魔女を訝しみながらも律儀に村の外に巨大な焚き火を用意し その周りを囲むように酒や食べ物をたんと用意し 皆そこでお利口に待っている
見ていて居た堪れないな
すると停車した馬車の横に着ける芦毛の馬、見事に乗りこなしているのは…ああナタリアだ、騎士団専属治癒術師のナタリア…こいつ馬にも乗れたのか、いや『騎士』なんだから乗れるのは当たり前か
「あれま酒にお肉に歌に踊り呑気なもんすなぁ、偽物に騙されてるとも知らず結構な事で…、ただこう言う辺境の村々じゃよくあるんすよねぇ残念ながら、辺境じゃあ強い魔術も見慣れないから簡単に騙せるし騎士の巡回ルートからも外れてる…こう言う所によく湧くんですよ魔女レグルスが」
いや私はハエか何かか…、だがそうだな 辺境に湧くと言う話は聞く、レグルスは行方不明だから私がレグルスですと名乗り魔術を使うだけで少なくとも信憑性は出る、しかしそれだけでこれ程の被害が出るのは初めて目の当たりにした…
これ、私が名乗り出たら こんなおかしな話もなくなるのかな…
「俺なんか この仕事始めて十八人もレグルス捕まえましたよ、中にゃ男もいましたし」
「アタシも十五人くらい見ましたねぇ、あぁーそうそう一番傑作だったのは同じ街で偽レグルスが鉢合わせして喧嘩してた奴でぇ!どっちもくだらねぇのなんので!それでそれで」
「その話聞き飽きたし、その二人捕まえたのも俺だし」
デイビッドもナタリアも どうやら相当な数のレグルスを捕まえているようだな、というかアジメク国内だけでもそんなに居たのか、私はてっきりそれでも5~6人わけば多い方かと思ってたが、予想外に大人気だな
「なんか済まんな…私が レグルスが迷惑をかけて」
「いいぃんですよ 気にしなくても、どの道『魔女レグルス』って騙しの道具がなかったとしても、偽物名乗る奴らなんて結局別のことで犯罪してましたよ、寧ろどんなくだらない嘘ついてるのか見つけるの楽しいじゃないですか」
そんなもんかね、ナタリアは気にするなと言ってくれるが、少なくとも私の名前で犯罪が行われてると思うと 気にするなと言われてハイそうですかと答えられんよ、やっぱり偽物に対してもっと怒った方がいいのかな
「寧ろご安心ください魔女レグルス様!、このクレアが魔女レグルス様がくださった加護の篭ったこの剣で 偽物のレグルス様を100人斬る事をお約束しましょう!」
どんな約束だよ、物騒極まり無いにも程がある
「お!いーね、じゃあその剣 今日から『魔剣レグルス殺し』って名付けるのはどうよ」
「どうもこうもありませんよ!貴方からぶっ殺しますよナタリアさんっ!!!」
「だぁーっ!騒ぐな!、取り敢えずムルク村での用を済ませる…まず俺たちは攫われた子供達を村へ…」
デイビッドが臨時団長代行らしく、その場を取り仕切り始めると ふと気配を感じる、気配というか…小さな物が動く感覚 これは…
「ししょー…ここは、エリスどうなって…」
「エリスッ!!」
……………………………………………………
エリスは、困惑した 己の命を投げ打ち あの偽物を道連れにするつもりで魔術を撃った筈なのに
今エリスは生きている…目を覚まして起き上がることが出来ている、まず最初に目に飛び込んだのは 豪奢な内装の部屋…いや馬車だ、これは馬車の中なんだ
ただエリスが乗ったことのあるご主人様の馬車より、数倍は立派で豪華なものだと素人目にも分かる
どこだここ、エリスはどうなった?みんなはどうなった?偽物はどうなった?、何も分からないまま視線を動かすと、馬車の外で知らない人達と話し込むししょーの姿が見えた
ししょーだ、レグルスししょー…あの時 もう二度と会えないかもしれないと覚悟を決めたあのレグルスししょーの姿が見える、なんだか それだけで泣けてくる
「ししょー…?」
そう、呟きながら戸を開け馬車を降りる…
エリスのか細い呟きも 聴き漏らさなかったのかししょーは即座に振り返り、こちらへ走ってくる、お 怒られるかな …エリスは勝手極まりない行動をした上ししょーの禁をいくつも破った 破門にされてもおかしくな……
「エリスッ!」
なんて、エリスの不安など 最初から意味がなかったかのように 、なんのためらいもなく即座に抱きしめてくれる、ああ、これだ…ししょーの温もりとししょーの匂い、エリスが大好きなレグルスししょーだ
「エリス!どこも痛くないか?何かこう…不自由はないか!?、大丈夫か!?」
「大丈夫です、エリスは元気です」
あの消耗や怪我が嘘のように治ってる、体力も魔力も完全復活だ、どこも痛いところはない と証明するようにその場でぴょんぴょん飛び跳ねれば ししょーもそれを見て安心したのかポロポロ涙を流し始める…
きっと物凄く、心配してくれてたんだろう…本当に悪い事をした
「うわあマジ?もう起きた?、怪我治したけどさ それでも三日は寝続けてもおかしくないレベルの消耗だったんだけど?、どんなタフネスよ…やっぱ違うのねん」
なんか 見たことないダボダボなお姉さんが、パイプを燻らせながら ドン引きしてこっちを見てる、パイプ…懐かしい ご主人様がよく愛飲していたな
「うぐぅ、うぐぇえぇ エリスちゃん…無事でよかったぁ 、魔女レグルス様のお弟子様だもの、何かあったら私は…私はぁ」
あれ?あそこの騎士って よく見たらクレアさん?、なんでクレアさんが騎士の格好を というかエリスがレグルスししょーの弟子って知ってる?
エリスが寝てる間に何があったんだろう、なんか 目覚める前と後で世界が変わってしまったかのようだ
「あのししょー… 今ってどういう状況なんですか?」
「ああ、ちゃんと教えるよ いいかい?、あの時エリスが捨て身の魔術を撃とうとした後…」
その後、全てを聞かされた エリスの魔術をししょーが抑えてくれた事、盗賊団や偽魔女はししょーと助けに来てくれた騎士団で壊滅させた事、子供達は無事保護された事
クレアさんが実は捜索騎士だった事、魔女であることがバレたこと そして…魔女として皇都に赴く事になった…ここまでの経緯全て
そして当然、お叱りも受けた 物凄い叱られた
「師に背いて魔術の修行をした事…師の教えに背く事 これは師弟間において決して許されぬ事、本来ならば最悪破門もあり得るが…、今回は私自身が不甲斐なかった事とそれにより助けられた命があった事 この二点を鑑みて、不問とする…が二度と このような事はするなよ」
もう今までにないくらい厳しい口調で言われたが、言い返す言葉は何もない
ししょーの言う通り エリスはまだ魔術を使うには早過ぎた…、無理をして使った結果 最悪命を落とす危険さえあった、というかししょーが来てくれなければ間違いなく死んでいた
エリスの力不足、それを今回の一件で痛いほど学んだ…
「エリス…誰かを守ろうとする事は立派だ、だが 誰かを守ろうとした結果 命を落とすのは最低の行いだ、守られた人間に 癒えない心の傷を残す事になる…守るんなら 自分も含めて全員守れ、生きて帰ってこその戦いだ」
「はい…」
もしエリスが死んでいたら…と考える、きっと 守られたメリディアやクライヴ達は 無事助かったとしても、エリスを犠牲にした事を一生悔いたと思う…自分を責め続けて生きたと思う、そんなの 助けた 守ったとは言わない
…きっと、ししょーだって …エリスを守れなかった事を、悔いた…何千年にも渡ってずっと、それは確かに 最悪だ
「すみませんでした…ししょー、エリス…自分はもっと出来ると思ってました」
過信 慢心を痛み入る、自分はししょーの元で力を得て 周りとは違う存在になれたと やはり心のどこかで思ってたんだろう、エリスは 恥ずかしい…
「まぁまぁ、いいじゃあないですか 行き過ぎた反省はかえって毒ですよう、命あって帰れた幸運噛み締めてればいいじゃないですか」
そう言ってししょーとエリスの間に入ってくれるのは、さっき紹介してくれた ナタリアさんだ、騎士団専属の治癒術師ナタリア・ナスタチウム…こうやってダラけた雰囲気醸し出してるけど エリスには分かる、漂う魔力は間違いなく あの偽物の魔女を上回っている…凄腕の魔術師だ
「いや私はただ心配で…もしまた同じことがあった時、その時また 生きて帰れる保証はないんだ…、だが エリス?お前は」
「エリスちゃんっ!」
ししょーの言葉最後まで紡がれる事なく、それを遮り幼い声が響く エリスを呼ぶ声がする…、誰の声? など考えるとはしない、だってこの声は…
「メリディア…?」
「よかった!よかった!、エリスちゃんに何かあったら!あたし!」
「なんでお前だけ にげなかったんだよ!?」
「ぼくたち!…エリスちゃんがいなかったのに!…た たすけにいけなかった!」
「あ…あわわ…!?」
メリディアだけじゃない、クライヴもケビンもアリナも 他のみんなも全員が駆けてきてエリスの胸に飛び込んでくる、というか もうおしくらまんじゅう状態だ、囲まれて潰されて四方八方から抱き締められてる
そうか、みんなあの後騎士の人達に拾われたという…よく、よく助けに来てくれなかったと思っている、あの状況では助けに行くのにも勇気はいるが 助けに行かないのにも勇気がいる、助けに行かず エリスを信じて待ってくれた
「あ…ありがとうございます、みんな…」
「ありがとうはこっちだよ!エリスちゃん!、エリスちゃんのおかげで…おかげで、うわぁぁぁん!!、あたし強くなるからねぇぇ!」
「オレも!次はつよくなってオレがエリスをまもるから!」
「ぼ ぼくもーっ!」
「アリナもーっ!」
「あわあわ…あぶぶ…!」
エリスが声をかければ更に、更に更にみんなエリスにくっついてきておんおんと泣き始める、みんなもきっと同じように無力感を噛み締めていたのだろうでも…、つ 潰れる…潰される、せめてクライヴ離れて 体おっきいんだから…
「まるで英雄ですねぇ、エリスちゃん」
「実際そうだろ、まだ5~6歳の子供が盗賊団のアジトで大立ち回りしてみんなを救ったんだぜ?英雄も英雄さ、ナタリアお前同じ歳の頃に同じこと出来るか?」
「無理ですね、生を諦めて牢屋で寝てます」
「せめて足掻いてくれ…」
「何眺めておじん臭い会話してるんですか二人とも!、エリスちゃん病み上がりなんですよ!、子供達だって元気じゃないんだから早く家に帰してあげましょうよ!」
メリディアちゃんが号泣しエリスの服がびちゃびちゃになった頃、クレアさんが子供達を引き離してくれて事なきを得た…、いやよく見るとメリディア達も服はズタボロ 身体中汚れだらけ、そうだ 戦ってたのはエリスだけじゃない…メリディア達も疲れているんだ
今は休ませてあげたほうがいいだろう…
騎士の皆さんに連れられ、村の方へ連れて行かれるメリディア達は…どれだけ離れても どんなに遠くまで行っても、ワンワン泣きながら手を振っていた…良かった、一人も欠ける事なく助けられて
「エリス…、覚えておけ 人を守るとは、ただ命を守り ただ生きていればいいというわけではない 、その後 生きる人生全ての安寧を守ってこそ 初めて人を守ったと言える、…助けた後 アイツらが笑ってくれてれば、守った側も救われるってもんだろう?」
泣きながらも笑う子供達をボケッと見つめるエリスの肩を叩くししょーは、先程までと違い 朗らかな笑みを浮かべている
守るという意義 守ったという意味、それを考えその上でなお守る それがししょーがいつか言った正しい力の使い方なのでしょうか、エリスにはまだ難しいです
……………………………………………………
『取り敢えず一悶着ありましたが、クレアは引き続きエリスちゃんとレグルス様と一緒に領主館へ向かえ、諸々の話は既に済んでいる クレアが騎士である事もレグルス様が魔女である事も、一応だが領主様にだけは話しておいたから ケジメとして挨拶をしてきなさい、…とりあえず猶予は夜明けまで、夜が明けたら出発します』
そうデイビッドに言われ、私とエリス 後クレアの三人は 見慣れた領主館へと足を運んだ、ちなみにデイビッドは偽物と数人の騎士 あとナタリアを連れて村の方へと向かった、宴ムードの村の最中 冷や水ぶっかけるようで悪いが とは言っていたが、これも仕事だろう
「……なんだか 新鮮ですね」
そう口にするのはクレアだ、見慣れた場所の見慣れた三人、だが 少し前までとは関係性や状況はまるで変わった、私は魔女として クレアは騎士としてこの場にいる
私達は今 館の客室でエリス クレア エドヴィン私の 四人揃って椅子に座っている、クレアも椅子に座ってる もうメイドじゃないからな…、私達がここに来ることは、エドヴィンも既にデイビッドも聞いていたようで、既に客室の灯りはつけられ 彼はそこで待っていた
「いやはや、まさかクレア君が騎士で…賢人様がかの魔女レグルスであったとは、特別な人だとは思ってましたが ビックリしましたよ」
たははと笑う彼の顔を見ると安心する、彼は 私にとって平和安寧の象徴…こうやって彼と客室で笑っているだけで 今この時が平和だと認識できる
「今まで隠していて悪かった…いきなりこんな話をされて 混乱しなかったか?」
「ふふふ、いきなり館に騎士があがり込んできて話をした時は確かに驚きましたが、自然と納得できました、合点がいったとでもいいましょうか…賢人様が魔女なら納得もできると、おかしな話ですよね 偽物は偽物と分かるのに、ああ あの賢人様ならと こちらはすんなり受け入れられました」
「そうか…」
彼の顔はどこか穏やかだ…、よかった 私が魔女と知っても 彼は態度を変えたりしない、エドヴィンに変に敬われたり 変に機嫌を取られたりしたら、私はショックで泣いてしまうところだった、いやそれとも 既に彼は私に対して最上級の敬意を払っているのかもしれないな、たとえ 魔女じゃなかったとしても…
「僕が小さい頃から年を取ってないなぁ とは思ってましたが、魔女でしたか…もう少し早く気付くべきでしたかね?」
「と 歳取ってない事に気がついていたのか!?、あ あれは私が代替わりしてて よく似てる別人という設定に…」
「いやどう見ても同一人物じゃないですか…、賢人様は昔から嘘が下手ですしね 」
なんだ、歳取ってない事はバレてたのか
「あ あの…領主様、私も…その 騙すようなことして、すみません…でした」
「いやいや、別に騙されたと思ってないよ 君は間違いなく我が家でメイドとして働いてくれた、おかげで君が来てから一年と少し…とても楽しかったよ、君にはとても感謝しているクレア君…いやもうメイドじゃないからクレアさんの方がいいかな?」
「クレア君でいいです!、いつも通り呼んでください…」
あの元気いっぱいなクレアも 今は鼻を啜り、声を震わせている…
クレアは騎士だ、捜索騎士として メイドに扮しここに潜入していた、…捜索騎士の役目は一つ 魔女を探すことだけであり、その役目を終えたクレアは皇都に戻る事となる…もうエドヴィンのメイドとして働く事はないし 働く事も出来ない
エドヴィンももう若くはない …、クレアが自由にアジメク内を行き来しこんな辺境まで足を延ばす事が出来るくらい騎士として出世する頃には、もうこの世にいないと見ていい、余程の機会がない限り…これは二人にとって今生の別れとなるだろう
「領主様は…メイドである私に とても優しくしてくれました、娘のように可愛がり 部屋も与えてくれましたし、食事も一緒に取りましたし話もたくさん聞いてくれました…一緒にいた期間は一年間とちょっとかもしれませんか、私にとっては 領主様はもう一人の父親と…同じくらい大切な人です」
「そっか…、賢人様と エリスちゃんとクレア君…、みんなと過ごした時間は確かに僕に取っても尊い時間だった、妻も子もいない僕に 家族が出来たかのような、そんな錯覚さえ覚えるくらいにはね」
浅く笑うエドヴィンは、徐に机に手を伸ばし…その上にティーカップがないことに気がつき手を引っ込める、もうお茶を淹れる人間はいない
私とエリスとクレア…三人がいなくなればその間エドヴィンは一人だ、クレアは勿論の事ながら 私とエリスも直ぐには帰ってこれない
片道数週間の大移動に加え、皇都に着きましたスピカに挨拶しました 終わり とは行かんだろう、向こうで 結構な時間過ごすと私は踏んでいる、というか…うん エドヴィンには悪いが ちょっとエリスの為にやりたい事があるから、少しというか暫くはムルク村には帰らないつもりでいる
「大丈夫か?エドヴィン…私もクレアも居なくなって」
「そりゃあ僕一人では生きていけませんが、どうやら今回の一件の功労者である捜索騎士クレアの第1協力者として、僕にもそこそこ恩賞が出るみたいで…皇都からも新しいメイドさんが代わりに来ることになったんですよ、まだ若いみたいですが 優秀だそうですよ」
「そうですか…よかったです、領主様一人じゃ心配で夜も眠れないところでしたよ、洗濯物だって一人じゃ出来ないんですから」
「ははは、そうだね君を向こうで心配させたら僕も辛いし、これを機に覚えてみるとするよ」
エドウィンは泣かない、辛くない訳じゃないし悲しくない訳じゃない、ただそれ以上に嬉しいのだろう
クレアという若人の成長と旅立ちが、年老いこの土地にしばりつけられた自分とは違い、クレアには自由と時間がある、だからこそこんな辺鄙な土地に置いておくより、皇都にいたほうが数倍いいだろうと
「…さて、エリスちゃん…」
「はい!」
「村を救ってくれてありがとう、賢人様の元で引き続き多くを学びなさい、次会うときはエリスちゃんがもっと大きくなっている事を祈るよ」
「はい、ありがとうございます…領主様」
エリスに声をかける、まぁ確かにエリスとは今生の別れではない、帰ってきたらまた普通に会えるしな、時間はかかるが必ず帰ってくる
「賢人様も…今までありがとうございました」
「ありがとうございましたって、それじゃあ別れの挨拶のようだろう、私はちゃんと帰ってくるぞ?」
「いえまぁ、そうなんですけどね?…一種のケジメというかなんというか、ともあれこの村もこの一件で皇都から支援を受けられるようになりましたし、騎士も常駐することになりました、ここの事は心配せず…行ってきてください」
「あ…ああ」
不思議なあいさつだった…なんだかクレアとは違った、一生の別れのような挨拶、なんだったのか…この場で理解できなかった私には、一生理解でき無いことなのだろうと、そう なんとなく思えた
「そしてクレア君」
「……はい」
エリスに私と一人づつ声をかけ、最後にクレアへと向き直る…その声色表情は、厳かであり一端の領主としての様相を見せて
「君はもう、僕のメイドじゃないけれど…最後にひとつ聞いてほしい頼みがある」
「な…なんでしょうか」
「頼みって程じゃないんだけどさ、エリスちゃんとレグルス様を、しっかり守ってあげてほしい」
チラリとこちらを見やるエドウィン、何もクレアに私達を脅威から身を呈して守れと言っているわけではない、皇都にいっても仲良くやれよ…というメッセージだろう
「…そんなもの頼まれるまでもないですね!、私が魔女レグルスさまもエリスちゃんも守り抜いてみせますから!」
…うーん、なんか字面の意味合いそのままに受け止めてそうだな
「風邪も引かないように」
「大丈夫です!引いたことありません!」
「怪我もしないように」
「それは保証できませんが善処します!」
「じゃあ、うんもういいかな…元気でね」
「はい!、ッ…領主様もッ長生ッきしてくださいッね…!ズズッそれじゃあ!」
「あっ!クレアさん…行っちゃいましたね」
そう、お互い言いたいことはいい終えたのか、会話が終わるなりバタバタと客室を出ていくクレア…いや忙しない、もっとゆっくり話せばいいものを
「最後まで、騒がしいやつだったな、クレア」
「優しい騒がしさですよ、彼女が優しく真面目な子なのは私が一番知っていますから…、騎士としてこんなところに飛ばされてやったこともない給仕をモノの一年でマスターできたのは、一重に彼女が真面目に物事に取り組んでいたからです」
クレアがここに来る前、何をしていたのかは知らないが…少なくとも誰かに仕えていた訳ではないだろう
お茶の入れ方や掃除のしかたや料理に洗濯、あらゆる家事仕事はここに来てから会得したとみていい
だとするとよくもまぁ一年で、そこらのメイドと大差ないほどに上達したものだ、誉めてやりたいくらい凄いことだ
「…クレアくんをよろしくお願いしますね」
「ふっ、お前はあっちにもこっちにもお願いしなきゃならん相手がいて心配だな、任せろ…いつまでも一緒に居るわけではないが、皇都にいる間は面倒を見よう」
「え…エリスも!クレアさんを守りますから」
「ええ、よろしくお願いします」
そういいながら恭しく頭を下げるエドウィン…きっと心のそこからクレアの道を案じ、そしてまたその華々しき道行きを祝福しているのだろう、彼にとってもまたクレアは娘のような存在だったのだから
「じゃあな、エドウィン、またな」
「ええ、また…賢人様、エリスちゃん」
軽く手を振り客室を出る、努めて変わりないように…いつも通りを心がけて、客室の扉に手をかけた瞬間、溢れでるこの一年の思い出
私が無為に生きた八千年よりも、この一年のことの方が余程価値があった、その価値ある一年が今終わろうとしている…ダメだやはり言わねば
「エドウィン!」
「…はい?」
いきなり振り返り声をあげる私に目を丸くするエリスとエドウィン、エドウィンは先ほどの挨拶の際、ケジメと口にした…なら私も、ケジメをつけるべきだろう、この一年…いやエドウィンと出会った数十年の時に…
「エドウィン…世話になった、お前は私がこの八千年間出会った者の中で、最も信頼に足る男だったよ…願わくばまた、こうしてここで話せることを祈る」
「賢人様……、そう言うの この空気で言うのズルくありません?」
「知らん、行くぞエリス……クレアが外で待ってる」
「あわわっ!?、ししょー引っ張らないで、エドウィンさーん!また会いましょーう!」
言いたいことは言い終えた、そうだ 何も今生の別れじゃない…暫しの別れだ、多少強引にだがエリスの手を引っ張り外へと連れ出す
玄関を明け、外気が頬を撫でた瞬間、なんとなく…一つの節目を過ぎたような、そんな気配を感じて柄にもなく寂しくなる…いやエドウィンがいたから私は寂しくなかっただけなのだろうな
「ししょー…寂しそうです」
「分かるか?、はっきり言ってすごく寂しい…けど、あれを前にしちゃ泣けないだろう?」
「あれ?…」
そう言いながら視線を向ける先には、領主館の庭先で一人肩を揺らしながら、空を見上げるクレアが一人で…一人で…
「…ゔぅ…ずずっ、…くぅっ…」
ただ 一人泣いていた 、声を漏らし 肩を震わせ一人泣く、仕方ない事とはいえ 年老いたエドヴィンを一人置いていく、ましてや一時は父親代わりとして共に暮らした仲だ クレアの中でもうエドヴィンは小さい人物ではない、それと別れるというのはきっとすごく辛い事だ
だから泣く 泣いて泣いて、涙を拭ったあと立ち直り歩みを進め 、偶に顔を思い返してまた泣く、それでいいんだ 寂しいんだから何回だってどれだけだって泣いてていい、涙を流すような別れを繰り返す度 クレアという少女は 大人になるのだ
「クレアさん、泣いてるんですか…あの慰めに」
「いかんでいい、今はそっとしておけ…時にはああやって泣き晴らすのも大切なんだ」
悲しいには悲しいが、この悲しみに余人が入り込む余地はない、クレアが一人で泣き一人で解決すべき涙…今はただ見守ろう
「それよりエリス、今から家に帰って荷物纏めるぞ!、アジメクにはかなりの長期滞在になる、不自由ない程度の荷物を持っていく!」
「え!?今からですか!?」
「今しかないからだ、夜が明けたら出発だぞ?ここから惑いの森の距離を考えたら、今から行かねば間に合わぬ」
「でも、クレアさんを置いていっても大丈夫でしょうか」
「大丈夫、ちゃっと行ってちゃっと帰ってくるだけだから」
言い終えるなりエリスを抱え、即座に飛び立つ…確かにデイビッドからは見張りをつけて行動しろ的なこと言われてた気がするが、別に逃げないし戻ってくるし…いいだろう
だってエリスを抱えてアニクス山登るだけでもかなり時間かかるのに、見張り役のクレアまで抱えたら夜が明ける
大丈夫、すぐ戻ってくればよいのだっ!、そう心の中で意気込み旋風圏跳で夜空を舞う、背中にはしっかりエリスの重さを感じながら
………………………………
「信頼に足る…か…」
誰もいなくなった館の中、一人エドウィンは呟く…いきなりのことだった、クレア君が騎士と知らされ賢人様があの魔女レグルスと伝えられ
魔女レグルスか…すごい人だと思っていたが、まさか魔女様だったとは
エドウィンと賢人様が出会ったのはもうずいぶん前、エドウィンが子供の頃だ…一人で近くの川で遊んでいるとき、誤って転落し溺れているところを賢人様が助けてくれた時だ
その時からだ、僕が賢人様に恋をしたのは
濡れることさえ厭わず、川に飛び込み助けてくださった賢人様の、陽光を跳ね返し艶やかに煌めく濡れ髪は…いつ思い出しても胸が熱くなる
ただ、あの頃は貴族の息子で次期領主という事で、幼いながらにプライドが高かった僕は『貴族の息子ならこんな美人を嫁に迎えてこそだな!』なんて思い…あの頃は失礼にも何度か賢人様に求婚したものだった、冗談だと思われ相手にもされなかったが
賢人様の中で、僕は小さい頃から気弱だったと思われてるみたいだが、それは違う…愛する女性の前でテンパって上がってまともに会話ができていなかっただけなんだ
いつしか大人になって…本気で想いを告げられる年頃になってからは、寧ろ随分奥手になった…賢人様に渡そうと思い、本だけを買い集めその処理を自分でしているうちに、読書が趣味になってしまうくらい…四六時中あの人の事を考えていた
そして今日、賢人様は旅に出る…あの顔は直ぐに帰ってくる気がない顔だ、エリスちゃんの事を思えば、ムルク村で修行をつけるより外に出たほうがずっといいのは分かる
だから別に止めない、寂しいが…あの人はきっと誰にも縛られない
「縛られない…いや、縛られているところを見たくない……の間違いかな」
埃を被って久しい小箱を戸棚から取り出す、中には指輪が入っている…、明日こそ渡そうと言う言い訳が何十年も続いた結果、こんなに古ぼけてしまったが
僕の思いは、この指輪のように…未だに色褪せない
「でもやはり考えてしまうな、一番信頼に足る…もし想いを告げていたら、貴女はどう答えていたのか…」
僕の指輪をつけ、台所に立つ彼女 一緒に執政を行う彼女、白いドレスを身に纏う…彼女、ダメだ…不気味なくらい想像できない
「…でも、そうだなぁ…賢人様が帰ってきたら、渡してみようかな…勇気だして、その頃僕は何歳なのかなぁ」
なんて、きっと渡せないのだろうけれど、それでも許して欲しい
果たされないと分かりきった恋も、本人にとっては本気の恋…本気で好きなんだから、こうやって一人夜空を見上げるくらいいいだろう
いつまでも変わらず美しい、夜空のような君を想って…思いを馳せるくらい
………………………………………………
燦々と照りつける太陽の下、偉大なるレグルスは勇ましき伝説のレグルスは……
「すみませんでした…」
頭を下げていた
「いきなり消えて、約束の日の出まで帰ってこない…俺たちがどんだけ冷や汗流したか、分かってます?」
「そうですよう、クレアちゃんなんか『私の責任だーっ!私が失礼をしたからーっ』って夜通し泣いてて、泣き疲れて気絶してるくらいなんですから」
「いや、家帰ってた…間に合うと思ってたから、その…家で寝てました」
間に合わなかった、あれからアニクス山を越え惑いの森の居宅へ飛び、慌てて支度していたらエリスが寝てしまって…、起こそうとしてたら、その 私も疲れで眠ってしまって、起きたらこの時間でした
「す…すみません、エリスが寝てしまったから…」
「…いや、その…別に遅れたことに関してはいいんですけど、せめてクレアに一声かけてあげてくださいよ、一晩泣いてるあいつを見るのは心が痛かったので…」
「ああ、痛み入る…」
クレアには本当に悪いことをした、またあとでフォローをいれねば…サインでもなんでもする勢いでだ
そう、私への説教が終わるや否や、遅れていた出発の動きが再開する、荷物を運び込み…私とエリスも、魔女用の馬車へと乗り込む
この馬車は、今日から数週間の旅を共にする、言わば相棒だ…エリスと一緒に名前を考えることになっているため、現在は無名ということになっている
なんて、柄にもなく久々の遠出にワクワクしていると…ふと、我々を呼び止める声が聞こえる…これは
「エリスちゃーん!」
「エリスーっ!」
「おーい!おーい!」
「あれ?、みんな…?」
ムルク村の子供たちだ、エリスが盗賊から助けた子…それらがみんな、大慌てで馬車の前に集まってきた…
「エリスちゃん!皇都に行くって本当!?」
「うん、ししょーと一緒に行ってきます…」
「な…なんで!?、せっかく友達になれそうだったのに…」
なんで?ああ、そうか…デイビッド達が気を効かせて、私達がムルク村に帰ってきてもいままでどおりの暮らしができるようにと、私が魔女であることを伏せておいてくたんだったな
だから、子供たちからすれば、いきなりエリスが皇都へ旅立つようにも見えるのか…
「皇都へ行くのは、エリスが強くなるためです…ししょーと一緒に、もっともっと、そのために行くんです」
なるほど、うまく説明したな…ししょーが魔女だから とは口が裂けても言わないか、それとも本気でそう思っているのか?だとすると良い意気込みだとも言える
「エリスちゃんはもうつよいじゃん!いかなくていいよ!」
「ダメです、もっともっと…エリスは強くなりたいんです、今度はちゃんとみんなを守れるように…」
「エリスちゃん…」
いい友情だ、当初はどうなるか分からなかったが…なにいいかんけいになれたじゃないか、特にあのメリディアという女の子、エリスに親身になってくれている
出来るなら…気のすむまで話をさせてやりたいが
「おぉーい!出発するぞーっ!」
終わりを告げるデイビッドの声、そうだ…私たちのせいで予定を大幅に遅れさせてしまった、これ以上は引き伸ばせない
「いくぞ…エリス」
「ししょー…、はい…」
少し、悲しげに俯くと馬車の扉を閉め御者に声をかける、何…この続きは大きくなってからすればよいさ…エリス
馬車は動きだし走りだし、みるみるうちに子供たちの一団は小さくなっていく、別れというものの悲しみを…エリスはもしかしたら初めて明確に味わっているのかもしれない
「エリスちゃん!あたし!きめたの!」
「え…!?」
すると、小さくなっていく筈の子供たちの一団が走って、全力で走って追いかけて来るではないか…未だ伝えたい事があるか、なら
「おい!御者!スピードを落とせ!」
「え?でもそれじゃあ置いていかれて」
「いいから!離されたら私が馬車を引いて走るから!」
メリディアの子供たちの伝えたがっている言葉だけでも、エリスに聞かせてやりたい、無理を言ってスピードを無理矢理落とす、それでも子供たちよりも何倍も早いのは目に見えている
それでも、すがり付いてくるのは…メリディアだ
「あたしきめたよ!、あたしも強くなる!エリスちゃんだけがみんなを守らなくてもいいように!あたしも!強くっ!」
「おれも!さいきょーの騎士になるから!それまで待ってろよな!」
「ぼ…ぼくもなんか、なんとかエリスちゃんのたすけになれるようにがんばるよ!」
「メリディア…クライヴ…ケビン…みんな」
だから だからという子供たちをついに置き去りにし、馬車は走り出す…今度こそ追い付くことは出来ないだろう、これが本当のお別れだ
「…………ししょー、エリス 修行頑張りますね…みんなに負けないくらい」
「ああ、頑張れ…ライバルは多いぞ」
馬車に揺られながら、静かに決意するエリスを眺める、たった一年で立派になったものだ、ムルク村の外の景色はきっとエリスをさらに成長させてくれる
未だ見ぬ友達 未だ見ぬ障害 未だ見ぬ景色…エリスは何をみて何を学ぶのか、それをわたしも静かに見定めよう…師匠として
馬車は静かに音をならし、今…ムルク村から外へと旅立つのであった、希望と不安をのせて…向かうは友愛の魔女が治める都、中央皇都アジメクへ
……………………第一章 終