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小悪魔と教師

 六月も半ばになり、気候は次の季節に向けて少しずつ変わりつつあった。クラス内では「あと一ヶ月で夏休み」という言葉もちらほら耳に入るようになっていた。

 

「小田坂。鶴間。北海。ちょっといいか?」


 それは、南先生の数学の授業が終わった時だった。南先生に呼ばれた私達三人は、職員室に赴き、意外な事を言われた。それは、大山さんの事だった。 


「三人が大山と知り合いだとは驚いたよ。当時の大山は家庭の事情もあって少し荒れていてな。色々あって自分から退学してしまったんだ」


 南先生は寝癖のついた髪の毛を指で掻きながらため息をつく。はい。先生。その大山さんの「色々」を私達は本人からしっかりと聞いてしまいました。


「······それでな。俺から三人にお願いがあるんだ。大山と仲良くしてやって欲しい。あの娘は根は素直なんだ。この通りだ」


 南先生は生徒の私達に頭を下げる。鶴間君と北海君は互いに顔を合わせ困惑する。


「せ、先生!頭を上げて下さい。大山さんがいい人って事は私達も知ってますから」


 私は慌てて南先生に声をかける。な、なんて生徒思いのいい先生なんだろう。感動していた私の視界に、純日本人とは異なる顔の造りの女子が映った。


 ハーフの長所を生かし尽くしたその美少女は、穏やかに笑みを浮かべ手にしたプリントの束を南先生に差し出した。


「南先生。これ、クラス全員分の課題のプリントです。集めてきました」


 それは、今日日直で雑用を頼まれていた国岩頭ゆりあだった。


「こ、国岩頭。あ、ありがとな」


 何故か南先生は焦った様子でゆりあからプリントを受け取る為に両手を出す。だが、プリントの束は床に落ちてしまった。


「す、済まない!俺が拾うから!皆はもう戻ってくれ」


 ······私はゆりあと並んで廊下を歩きながら考えていた。南先生のあの慌てようは何だったのか。ゆりあ美少女振りに?


 まあ。南先生も男だ。それも無い話ではないけれど。あれは何かに怯えていたと言った方が正解かもしれない。その時、ゆりあが急に立ち止まった。


「ゆりえちゃん。最近楽しそうね。鶴間君や北海君と仲良くなったからかな」


 ゆりあにつられて私も足を止める。た、楽しそう?私が?そ、そうかな。い、いや。楽しそうと言っても。色々人間関係が複雑で大変なんだけどね。


 私はハッとする。気付くとゆりあが私の眼前に近づいていた。私は思わず後ずさり、壁に背を預けた。


 バンッ。


 ゆりあの右手が壁に叩きつけられた。その華奢な右手の直ぐ隣には、両目を丸くした私の顔がある。


 な、何!?これって「壁ドン」って奴!?今女子同士でやるのが流行ってんの?


「······変わった。ううん。変わっちゃったわね。ゆりえちゃん。幼稚園の頃は、もっと暗く。寂しそうな顔をしていたのに」


 ゆりあの高い鼻が、私の低い鼻に触れそうなる程接近する。私はただ驚き何も言えない。


「······私は昔のゆりえちゃんの方が好きだったな」


 それは、いつもニコニコしているゆりあの顔では無かった。大きなその瞳は、暗く淀んでいた。


 ゆりあは壁から手を離し、そのまま踵を返し歩いていった。私は身体の力が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。


 ······な、何?何だったの?今のは?愕然としていた私の足元に、一枚の写真が落ちていた事に気付く。


 ん?なんでこんな所に写真が?私は写真を拾って見てみる。そして口から唾液的な物を思いっきり吹き出した。


 その写真には、南先生の頬にキスする国岩頭ユリアが映っていた。


「な、何じゃあこりゃあああっ!?」


 私は廊下で絶叫する。な、なんでこんな写真がこんな所に落ちてんの!?い、いやそれよりも!この写真は何なの!?


 どう言う事よこれ!?じ、児童相談所へ通報しなくては!ち、違う。児童相談所じゃなくて教育委員会へ!!


 ······み、南先生?ど、どう言う事なんですか!!


 ······放課後。私は南先生を呼び出し、事の真相を訪ねた。問題の写真を見た南先生は、意外に落ち着いていた。


「······俺は、国岩頭に脅迫されているんだ」


 きょ、脅迫!?南先生が?ユリアに!?な

、何で?


 南先生は語りだした。事の始まりは、今年の三月に遡る。南先生は街中で副教頭を見かけた。


 だが、副教頭は一人では無かった。ハーフの美少女。国岩頭ユリアと一緒だった。当初南先生はユリアを副教頭の娘だと思ったそうだ。


 だが、副教頭がユリアをホテルに連れ込もうとした所で南先生は状況を察し、急いで止めに入った。


 ユリアは泣きながら南先生に助けを求めた。聞けばユリアはSNSで副教頭と知り合い、今日初めて会ったと言う。


 副教頭は蒼白な表情で南先生に口外しないよう懇願した。南先生は了承し、その場は終わったかに見えた。


 だが、ユリアは南先生を副教頭と同じ教員と知ると、突然南先生の頬にキスをしてきた。驚く南先生。ユリアの右手には、スマホのカメラが起動していた。


 南先生はその写真を突きつけられ、ユリアに脅されているらしい。


 ······南先生の話を聞いた私は、ただ呆然ととするしか無かった。あ、あのユリアがそんな事を?し、信じられない。


 い、一体何を脅されているの?ま、まさか金品の請求とか?ま、まてよ。ユリアは裕福な家の娘でお金に困っている筈がないわ。


「······国岩頭の要求はただ一つ。小田坂。お前についてだ。小田坂がクラスで孤立しているのを絶対に何とかしようとせず、見て見ぬ振りをしろ。それが彼女の俺への要求だった」 


 ······私?私がクラスで孤立しているのを南先生に見過ごせとユリアは言ったの?な、何で?何の為に?


 私はつい先程目撃したユリアの目を思い出していた。それは、私の知っている彼女の目とは別人の物だった。








〘幼少の頃よりの他人とのコミュニケーション不足は、時としてもどかしく私の心をかき乱す。


 我が家の食卓でシチューが出た時、必ずシチューの隣には茶碗に盛られた白米が並ぶ。

これに私は全く納得出来ない。


 シチューには米では無くパンが並ぶべきでは無いのかと。母は実家ではそう言う食べ方をしていたと主張し、子の私にもそれを強要する。


 叶うなら私はクラスメイト達に問いたかった。シチューにお米ってアリ?ナシ?と。母はパンを用意している様子も無く、私は致し方無くお米とシチューを一緒に頂く。


 ······お米とシチュー。合うわ〙


              ゆりえ 心のポエム

 



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