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口説く相手に恋愛相談される私

 ······人間、気が動転するとどんな行動に出るか分かった物では無い。クラスでナンバーワンのイケメン、鶴間君が幼友達である北海君の頬にキスをした(ように見えた)現場を目撃した私は、その場から猛ダッシュで逃走してしまった。


 教室の机に戻り、私は頭を両手で抱えながら必死に般若心経を唱えていた。落ち着け!落ち着け私!!


 見間違い!そうよ!あれは私の見間違いよ!!私から角度では、鶴間君の後頭部と北海の横顔が見えただけ!


 あくまで鶴間君が北海君の頬にキスをした様に見えただけ!!直接キスをした決定的場面を見た訳では無いわ!!


 そう直接!鶴間君の唇と北海君の頬が触れた瞬間を見た訳じゃない!そこは鶴間君の後頭部で死角になっていたもの!!


 って!駄目だあぁぁっ!!幾ら自分を騙そうとしても駄目よ!!キスよ!あれどう見てもキスしてた!!


 鶴間君は北海君の頬にキスしてた!!な、何で?何でキスするの!!はっ!?もしや!今このクラスでは男同士で頬にキスする冗談が流行しているのでは!?


 そうよ!!クラスで孤立している私は、そんな男子達のお茶目な(?)ブームを知らなかったのよ!!


 ほら!今だってクラスを見渡せば、男子達が冗談混じりに互いの頬にキスしまくってる筈よ!!


 私は血走った両目でクラス中の男子を観察する。


 居ないよ一人もぉぉっ!!男子同士でキスしている連中なんて一組も!!ブームじゃなかった!!そんなブームはこのクラスで存在していなかった!!


「······小田坂さん」


 現実逃避する為に再び般若心経を唱えようとした私にの隣に、鶴間君が立っていた。私は横目で鶴間君を見ると、その顔は憂愁を帯びていた。


 ······教えて下さいお釈迦様。私はどうすればいいでのですか?


 ······放課後。私と鶴間君は駅前のファストフード店で小さいテーブルを挟み向かい合っていた。


 友達の居ない私が誰かとこんな店に一緒に入るなんて人生初の快挙だったが、今はとてもそれを喜ぶ心境では無かった。


「······小田坂さん。驚いたよね?」


 鶴間君は俯きながらそう切り出した。お、驚きました。はい。い、いや。何て返せばいいのかしら?


 これって。やっぱりキスが本当だったって事よね?


「な、何かの冗談だよね。鶴間君と北海君の二人の間で流行ってる悪戯とかで」


 私はそう言うと、鶴間君が注文してくれたチョコシェイクを一気飲みする。大好きなチョコの味など動揺する私には何も分からなかった。


「······冗談じゃないよ。僕はノブにキスしたんだ」


 鶴間君の決定的なこの一言に、私はチョコシェイクが喉から逆流しそうになった。


「······何時からなのか分からない。最近なのか。昔からなのか。正直自分でも自信が無いんだ」


 ······鶴間君は苦しそうに。切なそうに語り始める。幼少の頃の鶴間君は、その太った容姿により周囲から蔑視の視線に晒されていた。


 でも唯一。北海君だけはそんな鶴間君を庇い、対等に接してくれた。鶴間君が「理の外の存在」の課したダイエットの条件をクリアし、今のイケメンになってからも北海君は何も変わらなかった。


 そう。北海君は一貫して何も変わらなかった。鶴間君が虐められていた時も。イケメンになって周囲が手のひらを返すようにチヤホヤする様になっても。


「大袈裟に言うとね。太っていた時は、ノブだけがこの世界でただ一人の味方だったんだ。ノブには凄く感謝している。でも。それが友情なのか。愛情なのか。境界線が自分でも分からなくなったんだ」


 鶴間君は今にも泣きそうな瞳を揺らし告白する。その自分でも持て余す気持ちを確かめる為に、北海君の頬にキスをしたと言う。


「······でも。何も分からなかった。益々自分の心が混乱している状態なんだ」


 ······鶴間君の肩が僅かに震えていた。鶴間君は苦しんでいる。それだけは痛い程私に伝わってきた。


「······ごめんね。小田坂さん。こんな話。信用出来る小田坂しか出来なくて。困るよね。いいや。そもそも気持ち悪いよね」


 鶴間君のその言葉に、私は思わずテーブルにチョコシェイクの容器を叩きつけた。


「そんな事ない!!人を好きになる気持ちに、良いも悪いも無いわ!!」


 声を荒げた私に、下を向いていた鶴間君は顔を上げる。


「鶴間君は昔の容姿のせいで人間不信になっているのかもしれない。その中で唯一自分に変わらず接してきた相手を好きになる事は自然だと思う。全然普通だと思う。ううん。むしろ当然だと思う。それがたまたま同性だっただけで。そこを苦しんで考える必要は無いと思う!!」


 ちょっと待て私。今自分は何を口にした?鶴間君を応援するような台詞を言わなかったか?


 鶴間君を応援してどうする?この鶴間君を口説き落とさなくては、私は本来の容姿に戻れないのよ?


「······ありがとう!小田坂さん!やっぱり小田坂さんは他の連中と違う。これからも相談していいかな?」


 感激した様子の鶴間君は、私の両手を握り爽やかな笑顔を弾けさせた。私は壊れた人形の如く頭を縦に何度も振る。


 ······これが。この時が始まりだった。混沌とする複雑な恋愛スパイラルの幕開けは。









〘偶像崇拝は人類が背負った十字架である。人は手に触れられない尊い存在にひれ伏し、ひたすらその救いを求め我先にと手を伸ばす。


 それは魂の救済だろうか。それとも強欲な人の罪だろうか。私は新たなアニメのポスターを手にし、既に部屋の壁に貼られたアイドルグループのポスターと取り替えるかどうか思案に暮れていた〙


              ゆりえ 心のポエム

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