異世界の大盛りラーメン大将
「いらっしゃいませー!」
そこには、毎日行列が絶えないラーメン屋があった。
太い食べごたえのある麺に、動物の骨から出汁をとったパンチのあるスープ。
そして、なにより丼の上高くまで盛られた野菜と、大きな肉に目を奪われる。
とても美味しくて、ボリューム満点だ。
何より、このラーメンは安い。
儲けは置いておいて、皆に腹一杯食べて欲しい。
その願いから、作られたラーメンであった。
この店の店主は俺だ。今は、『ゴロー』と名乗っている。
俺は死後、この異世界に転生したようだった。
この国は裕福な国ではなかった。
平民には厳しい生活をさせて、その上でふんぞり返る裕福層がいた。
「どこの世界もこんなものなのか。」
俺は、この世界に絶望した。
だが、周りを見渡すとどうだ。
彼ら平民達の目には、絶望の色はなかった。
ここから、のし上がってやる!
そう言った類の、力強さを感じた。
彼らは、この国の希望であった。
俺には一体何が出来る。
皆のために何か出来ることはないかと、悩んだ。
そして行き着いた。
安くて腹いっぱいになれる、ラーメン屋を開こうと。
思いついたはいいが、そこからは大変だった。
前世の記憶を頼りに、試行錯誤を重ねて完成した。
それが、『ゴローラーメン』である。
「マスター!いつもごちそうさま!」
「まいどー。」
ラーメンを食べ終わり店を出るお客さんは、満腹で幸せそうな顔をしている。
その顔を見るたびに、俺の心は満たされた。
店を閉めた後も、忙しい。
明日の仕込みがあるからだ。
頭にタオルを巻いて、汗を垂らしながら寸胴の中のスープを混ぜる。
これが、なかなか大変な作業で、手には豆がいくつも出来ていた。
これもみんなのためだ。
そう思うといくらでも頑張れた。
時計の針が頂点に達するころ、仕込みを終えた。
さて、俺は頭に巻いたタオルを取る。
今日はもう1つ仕事が残っていた。
「さて、行くか。」
そう言うと、懐から仮面を取りだし顔に付ける。
行き先は汚職の現況、裕福層のある男の首を取りに行く。
屋敷の前に着いたが、何て大きさだ。
これも、皆の苦しみの上に成り立っていると思うと、怒りが込み上げてくる。
「やはり、こいつだけは始末しなくては。」
あらためて、決意を固くした。
「命だけは助けてくれ〜。」
あっけないもので、俺はすぐに奴のもとへとたどり着いた。
今、首もとに刃を突きつけている。
「金か?金ならいくらでも用意してやるど。だから、首のそれをどけてくれんか。」
ゲスが。
刃に力が入る。
奴の首から、少し血が流れた。
「わしには、家族がいる。わしが死んだら、家族が路頭に迷う。」
そんなことは、どうでもいい。
だが、心で迷いが生じた。
その一瞬の隙に、護衛達に背後を取られた。
俺は数人に押さえつけられた。
「この賊の面を取れ。」
仮面を取られた。
顔を見られる。
「お前はマスターじゃないか。まさか、あんただったとわな。驚きだ。本来ならば重罪だが、若い頃に食べたラーメンは美味かったな。そうだ、雇ってやろう。」
俺は今まで何をしてきたか分からなくなった。
平民の力になればと作ってきた『ゴローラーメン』が、この国を苦しめる豚を作り出してしまっていたとわ。
「お前達もまた、美味いラーメンを食べたいだろ?」
豚は護衛達に問いかける。
「断る。」
俺は暗い牢屋に入れられた。
何日たっただろうか。
空腹で力が入らない。
こんな時こそ、ラーメンを食べたい。
好評だったら、続編あるかも?