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第41話 支援術士、畏怖の念を抱く


「それじゃあ、恋人と会話しに来たわけでもあるまいし、そろそろ始めるかねえ、詐欺師さん……」

「ああ、いつでも来い、ナタリア……」


 思えば、剣を扱うのは【支援術士】として【天啓】を受けた15歳のとき以来か。


 あの頃は【回復職】としてどうすればいいか迷ってたし、小さい頃から齧っていた剣術をまだ捨ててなかったんだよな。


 なのでかなり久々なわけだが、この決闘は自分から言い出したことだし言い訳は許されない。それに、幼少の頃の経験だけでなく、【闇騎士】ジレードの胸を借りたあの厳しい特訓の日々が必ず生きてくると信じている。


 俺とナタリアがそれぞれ剣を構え、少し距離を取ったことでようやく決闘が始まると期待したのか、わああっと周囲から耳を塞ぎたくなるような大歓声が湧き起こった。いつの間にこんなに集まってたんだか。


 それにしても、まさか【なんでも屋】発祥の地である冒険者ギルド前が、剣による決闘の場所になろうとはな。それも【支援術士】と【剣聖】という、いわば異色の戦いになるわけだ。


 それからまもなく、どよめきが異質なものに変わるのがわかった。


「な、なんだあの女の構え……!」

「おいおい、あんなんで戦えるのか!?」

「わおっ、超個性的ー」

「……」


 野次馬の言う通り、まさに超個性的といえる異様な構えだった。眼帯少女ナタリアは長い髪を地面に届かせるほど前屈みになり、しかも項垂れた状態で前すら見ていない。さらに右手の長剣は逆手持ちで、それを頭部の代わりのように高く掲げるという独特すぎる姿勢だった。


「ひひっ、怖いかい……? あたしの死に物狂いの剣術、どうぞご覧あそばせぇぇ……」




 ◇◇◇




「あ、あの構えは……」


 遠くからナタリアの特異な構えを見て、ジレードが目を見開く。


「ジレード、知っているのです?」

「は、はい、テリーゼ様。遥か昔、当時最強の人物として知られた伝説の【剣聖】があのような構えをやっていたという文献が残っており、【剣聖】の中でも真似できる者はほんの一握りだとかなんとか……」

「なるほど。それは途轍もなく厄介ですわね……」

「で、でも、グレイスならなんとかしてくれるはずだから……」


 ジレードの上擦ったような台詞に、戦々恐々とした様子のテリーゼとアルシュ。


「あのぉ……ジレードの言葉に補足させてください。しかもです、唯一打ち破った《英雄》でさえ、あの構えからの攻撃に関しては避けられずに間一髪でガードするしかなかったそうですよ……?」

「「「ええっ!?」」」


 カシェの言葉にジレード、テリーゼ、アルシュが揃って驚愕した表情になる。


「あ、私、今朝地方へ出発なさるお父様から聞いたんです。それにしても楽しみですね、グレイス様がナタリアの剣術にどう対処なさるのか……」

「「「……」」」


 無邪気に微笑むカシェの姿に、三人は恐ろしいものを見てしまったかのようにしばらく呆然としていた。




 ◇◇◇




「なっ……!?」


 ナタリアが、姿勢を低くして項垂れたままの体勢で近付いてきたかと思うと、体を回転させるかのように移動しながら剣を振り回してきた。


 その驚異的なスピード、力強さ、正確さに加え、剣捌きの大胆さたるや、あまりにも桁違いだったため圧倒される。【闇騎士】のジレード以上で、恐怖心さえ覚えるほどだった。


 なんだこりゃ。あんな華奢な体つきと細い腕、さらに視界をまともに確保できてないはずの無茶な姿勢から、どうやったらこんな莫大なエネルギーが生まれるんだ。これが、これが剣を扱うために生まれてきたといわれる【剣聖】というものなのか……。


 俺はその異常な剣術を前に戦意喪失気味で、まさに防戦一方となっていた。ダメだ、まったく隙が見当たらないし、これじゃ全然勝負にならない……。


「ひひっ……【回復職】のくせに中々やるじゃないか。詐欺師を褒めたくないけど、お見事だよ。でもぉ、じわじわ甚振るだけなのは面白くないからぁ、この辺でちょびっとだけ本気を出させてもらおうかねぇ……」

「えっ……」


 じゃあ、今まではまったく本気じゃなかったっていうのか? バカな……。


「さあ、行くよ。覚悟しなっ……!」

「くっ……!」


 って、あれ……? ナタリアがまた攻勢を仕掛けてきて、それでも今まで通り矯正術も駆使することでギリギリ受け流せるので、ハッタリをかまされたんだろうと安堵しかけたそのときだった。


「――え……?」


 左手にチクッとした小さな痛みが走り、何が起きたのかと思ってちらっと見てみると、俺の左手首がごっそりなくなっていた……。

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