異なる世界を
綺麗なものがすきだ。
それは、いま目前にあるような、儚くて美しい景色。
梅雨の時期でしとしとと天から降り注ぐ雨が、静かに緑色の葉を伝う。葉が受け止めきれなかった雨たちが、彼女に降り注いで濡らしてゆく。
先に続く階段と、脇にある色とりどりの紫陽花たちが彼女の行く末を導いているようなその鮮やかな景色から、目をそらすことはできない。
彼女はくるりと一回りすると、こちらを振り返った。
紫陽花の擦れる音がかすかに響く。
「こんにちは」
空間に溶け込むような紫陽花の中心で、ふわりと向日葵が咲いたようだった。
彼女の笑顔が弾けて、私に問いかけてくれる。
「今日は、雨ですね」
一歩踏み出した彼女の足下から、ぱしゃりと軽い音がする。
私の靴はもうびしょびしょで、少し力を込めるだけでぐしゃりと嫌な音がする。
雨は好きです、と答えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「私も雨が好きです。ひんやり冷たくて、上から下へ嫌な気持ちも一緒に落ちていくみたい」
土に着地した雨粒が、じんわりと染み込まれて、大地になる。
一体誰が、地球という偉大なものを作り上げて、天気という気分屋なものを持ってきて、雨という命を落としていったのか。
そうしてどうして私に、それを想う心を植え付けたのか。
水溜まりで踊る飛沫を見て、前を向くと、彼女はもう居ないのだ。
足が速い彼女を、私は追うことができない。
ゆっくり、また彼女に会えるときは来ないかと、空を見上げながら想い馳せる。
背負う荷物が大きくて、地から離せない足を恨みながら、私も道を進むことにしよう。
憧れはあるけれど、蛙である彼女を、少しばかりうらやましいと思っても、許されるだろうか。
私はしがない蝸牛なのだから。