新たな同行者
レッグさんに見送られながらバーディング国の街を出てから少し進んだ頃、辺りの枯れ木に葉っぱが生い茂るのを確認すると同時にロズダさんが振り返って空を見た。
「? ロズダさん、空を見ていったい何がっ―――ひゃっ!?」
言い終える前にロズダさんが私の腕を掴んで引き寄せて抱き締め、私が何事かと思って声を出そうとした瞬間に大きな音が響いて驚きの声が漏れる。
「え、えぇっ・・・?な、なにが・・・?」
振り返ると先程まで私が立っていた場所から土煙が上がっており、何かがそこに落ちたのだということを遅れて理解した私はロズダさんへと視線を戻す。
「あっ、ありがとうございます。ロズダさん」
「いえ。ユキナさんにケガがなくて何よりです、貴女をどうこうしていいのは私だけですから」
その言葉に私は嬉しさを感じてギュッとロズダさんに身体を密着させる、そんな私の髪を梳くようにして頭を撫でてくれるロズダさんに自然と笑みが零れる。
「えへへぇ・・・ロズダさん、もっと撫でてくださいっ」
「アハハッ。えぇっ、いいですよ・・・っと、その前に」
私の背後へと視線を向けたロズダさんにつられるように視線を向けると、土煙が晴れて落ちてきたものの正体が明らかとなる。
『みつけた――』
その正体とは、両掌に乗るぐらいの大きさのマグマスライムであるキングサイズさんだった。
「って、なんでそんな小さくなってるんですか!?それに空から降ってくるなんていったい・・・?」
私が疑問を口にしながら近づくと、ポヨンッとその場から跳ねるようにしてこちらに跳んでくる。
「わわっ・・・!わぷっ!」
飛んできたキングサイズさんは私の顔に当たるとそのまま地面に落ち、そうになったので慌てて両手で受け止める。
『ありがとう―――同行して――いい?――――』
「同行・・・つまり一緒に行動したいと?なぜ急に、約束は守りますよ?」
人型に姿を変えたキングサイズさんの言葉にロズダさんがそう口を開くと、プルプルと揺れながら言葉を発する。
『それは心配―――してない――けど―待ちきれない―――から――』
つまり早くソフィ様に会いたいから私たちと一緒に行きたいと、でも私たちはまだソフィ様の元に戻らないんですけど・・・そう伝えると、キングサイズさんはこちらをジッと見つめながら声を漏らす。
『なら――お手伝い―――する―』
どうやら彼女(?)に戻るという選択肢はないらしい、それを悟った私がロズダさんに視線を向けると渋々といった様子で頷く。
「お手伝いをしたいというのはわかりましたが、基本的にはこのカバンの中にいてもらうことになりますよ?この大陸ではスライム自体希少な存在ですから、連れ歩いていると騒ぎになりかねませんので」
ロズダさんの言葉にコクコクッと頷きで返したキングサイズさんは、高く上空に飛び上がるとその勢いのまま私の背負うカバンの中にすっぽりと収まる。
「えっ、いきなりなっ―――うわあぁぁぁっ!?」
「お姉ちゃん、うるさっ―――へぶっ」
何やらカバンの中が大変なことになっている様子ですが、私が確認する前にロズダさんがカバンの口を固く閉じたことで確認することはできなかった。
「えっと・・・いいんですか?」
「問題ないでしょう、モルモニは感覚共有を切れば問題ありません。メルティは・・・特に尊くもない安い犠牲ですね」
それは大丈夫とは言わないのでは?という疑問を抱いたが先に進むほうが先決だと、ロズダさんに押し切られた私はその疑問を口にすることはできなかった。
「それでは行きましょうか。足元が悪い山道ですから、しっかりと手を握っていてくださいね?」
とりあえず次にメルティさんと話す時は優しくしてあげよう、と心に決めてから手を引くロズダさんについていくために足を踏み出した。
カバンの振動も落ち着き、徐々に周りの木々に緑が生い茂るのを確認した私は口を開く。
「エビルタイ国に住む多足的存在、ってどんな方なんでしょう?」
「海に面した国ですから、単純に考えてスキュラでしょう」
「スキュラ?」
私がそう聞き返すと、ロズダさんは頷いてから口を開く。
「下半身がタコの亜人種ですよ、エビルタイ国は魚人の国ですからその辺りだと思いますが・・・詳しくはその国に住む方から話を聞けば問題ありません」
そう言って優しく頭を撫でてくれるロズダさんに頬を緩ませていると、固く閉じられていたカバンが開いてメルティさんが飛び出るようにして外に出る。
「ぷはぁっ・・・!突然飛び込んでくるから何かと思ったよ、取り込まれるのかとヒヤヒヤして――ってロズダでしょ!カバンを閉じて開かなくしたのはーっ!」
「何でも私のせいにすればいいと思っていませんか?メルティ」
プンスカと怒りを露わにするメルティさんに、私の頭を撫でつつ呆れた表情を浮かべてそう返したロズダさん・・・でもメルティさんの言う通りなんですけど、そう考えながらも撫でられる心地よさを優先して何も言いません。
「ん〜っ・・・ロズダさんのナデナデ気持ちいいですぅ♡」
「アハハッ、それは何よりです」
私の呟きに笑みを溢してそう返してくれたロズダさんに嬉しくなって頬を緩ませていると、メルティさんが頬をプクッと膨らませながら不意に思い出したかのように口を開く。
「むーっ・・・あっ、そうだ。あの大きな狼、ソフィだっけ?ってそんなに凄い存在だったの?バーディング国の守護獣も会いたがってたみたいだし、このキングサイズも会いたいがために飛んできたみたいだし・・・まぁ、本体じゃなくて分裂体みたいだけど」
メルティさんの言葉を聞いて、私は視線をメルティさんに向けると身体を掴んで引き寄せてから口を開く。
「知りたいんですか?ソフィ様のこと・・・だったら私に任せてください!ソフィ様の素晴らしさは語っても語り切れません、けど少しでも多く知ってもらえるようがんばりますねっ!」
「え」
私が意気込みを込めて胸の前で手を握り締めると、メルティさんはどこかポカンとした表情を浮かべる。
「メルティにしては殊勝な心構えですね、あの方を知りたいのなら・・・私も少なからず語ってあげましょう」
「え」
ロズダさんは少し感心したように頷いてから嬉しそうな声色でそう告げる、ソフィ様のことを話したかったんですね・・・わかりますっ!
『ソフィの話―――聞きたい――語りたい――――』
「え」
カバンからぬるりっと顔を出したキングサイズさんも乗り気な様子で目の部分を輝かせている、それじゃあ一緒に語り合いましょう!
「―――はっ!?そうだ!モルモニ!モルモニも交ぜてあげないとね、ねっ!」
むっ、たしかにそうですね・・・ソフィ様の素晴らしさは多くの方に知ってもらったほうがいいですから!
「そのモルモニですが、どうやら感覚共有を切っているようですね。本体で何かあったのか、それとも先程の騒ぎから切りっぱなしなのかはわかりませんが・・・とにかく交ざるのは無理そうですね」
「それじゃあ仕方ありませんよ、私たちだけで語り合いましょうっ!」
『はやく――はやく―――』
キングサイズさんが急かすようにそう口にしたので、まずは私から話すことにしました。
「これは私が物心ついてすぐくらいの話なんですけど――」
「え、本当に語り始めちゃう感じ?しかも結構長くなるよね、それ。たしかにユキナちゃんとお話しできるのは嬉しいけど、私そこまでソフィに興味がっ「そこで初めて見たソフィ様の凛々しさときたらもう・・・!」――あっ、聞こえてないねこれ・・・っていうかモルモニ逃げたでしょー!?薄情者ーっ!」
メルティがそう声を大にして騒いでいるにも拘らず、ユキナの耳には全く届いておらず・・・ロズダとキングサイズはユキナの話に聞き入っていて、メルティのことを気にも留めていなかった。
さらにメルティはユキナの両手に包まれるように掴まれているために逃げ出すこともできず、結局エビルタイ国に着くまで延々といかにソフィが偉大で素晴らしいかの話を聞かされることとなった。




