来訪者が突然、抜刀してきたんですが・・・!?
とある大国の大臣が護衛を連れて崖で四方を囲われて、閉鎖されたソフィたちが住まう国を訪問してきた。
大臣はこの国に未知の怪物がいるという噂を聞きつけ、王の承諾を受けてこれから自国の脅威にならないか乃至は我が国の戦力として奪えないかを確認する為に視察にやって来た。
もっとも表面上は友好関係を深めるという内容で来たことになっているが・・・
「ようこそいらっしゃいました、私はこの国で巫女をしているサナエと申します。王が待つ御部屋までの案内をさせて頂くためにやってまいりました」
そう言ってお辞儀をした彼女に一瞬見惚れていた大臣だったが、自分の仕事を思い出してにやけそうになった口元を引き締めた。
「う、うむ。此度はお互いにとって良い結果となることを願っている、では案内してくれたまえ」
その大臣の右斜め後ろを歩く頭以外を鎧に身を包んで大剣を背負った男は、女性を引き付ける魅力を持った顔立ちをしている・・・所謂イケメンである。
短く切った金髪を靡かせながら、周りを見渡していた彼だが・・・
「ふむ、上か・・・大臣、僕は用事があるので話が終わったら呼んでくれたまえ」
「あぁ、わかった」
大臣は彼が行く場所に心当たりがあるので何も聞かず頷いて返した。
「・・・?それでは、こちらです」
サナエは護衛がどこかに行くのを不審に思いながらも、ソフィに早く逢いたいので敢えて追及はしなかった・・・何故なら案内をさっさと終わらせて最愛の存在と甘いひとときを過ごしたい一心だったからである。
この時、彼女が彼を止めていればこの先の結末は大きく変わっていたかもしれない―――
・・・・・・なんか、階段の方が騒がしいなぁ・・・なんだろ?
そう思いながら薄目を開けて階段に視線を向けると、鎧に身を包んだ男と少し前に見た侍女っぽい娘がやって来た。
「――いけません!お下がりくださいっ!」
「そう怯えることはないよ、君たちにとっても悪くない結果になると約束しよう」
女の子は男を止めるようなことを言ってるけど、男の方は聞く耳持ってないみたいだなぁ・・・あっ、男がこっち見た。
「これは凄いな・・・こんな化け物を守護獣などと呼んで祀っているのか、そりゃ街の人々も不安に思うさ」
「守護獣様!申し訳ありませんっ!お止めしたのですが聞き入れてもらえず・・・」
女の子が困ったように私に話しかけながら深々と頭を下げた。
そんな女の子の姿を確認して、私が声を発するより先に男が喋りはじめた。
「いやぁ、自国に居た頃はボクの言うことを聞いてくれる娘達ばかりだったが・・・他国だとやはりそうもいかないのかな?サナエという少女には警戒されてしまったしね」
――サナエ、だと?
何でこいつサナエのこと知ってるの?あと呼び捨てにすんな、はっ倒すぞ。
そう思いながら上体を起こして男を睨んだが、男は意に介した様子はなくただ楽しげに口角を上げている。
「ははっ!君のお気に入りなのかな?でも悪いね、君が彼女に会うことはもう無いよ・・・ここで僕が君を討伐するからね」
世迷言を吐いてから背負った大剣を構えた男を見て、私は笑いが零れた。
――ふっ・・・ははははっ!この私を倒すと言ったのか小僧?・・・ふふ、はははっ!ならばやってみるがいい
身体を起こした私は真っ直ぐに男を睨みつけて殺気を放った、しかし男は口角をさらに上げるだけで引くつもりはないようだった。
「言われずとも・・・最初は様子見と行こうか、『聖剣開放』!」
男が背負っていた大剣を構えると、光を帯び始めてその威圧で風を巻き起こした・・・男の側に居た女の子は突然吹き始めた風に足を取られて尻餅をついていた、大丈夫かな?
「さぁっ!化け物、受けるがいいっ!『正義の鉄槌』!!」
――っ!これはっ―――――
男が叫ぶと同時に大剣を振り抜くと、目の前が光の渦に呑まれて真っ白になった・・・あれ?これヤバいのではっ―――――
男が放った聖剣の光は、ソフィの居たお城の頂上を吹き飛ばして抉り取った。
男の後ろで一部始終を傍観していた少女は、凄まじい光量に目を閉じていたが治まった頃合いで目を開けると―――
「――っ!・・・守護、獣・・・様・・・?」
少女と男がいる階段付近以外の足場が全て無くなり、下の階が丸見えの状態になっていた。
少女が男に視線を向けると、男はやり遂げた様な爽やかな笑顔を浮かべていた。
「守護獣と呼ばれていても所詮は化け物、ボクの聖剣の前では無力だったね」
そう言うと男は踵を返して少女に手を差し伸べる、しかし少女は手を取ることはなくただジッと砂煙が舞うソフィが居た頂上を見つめていた。
その姿に男は呆れたように息を吐いてから頭を掻いた。
「ふぅ・・・そんなに化け物が気になるかい?心配しなくてもアレは死んだよ、だからこれからこの国は僕が・・・いや、僕たちの国が護っていくから心配しなくていいよ」
なおも見つめ続ける少女に苦笑を浮かべて、無理やり立たせようと身体に触れようとした時―――
――なるほど・・・さすがは聖剣、油断していた
砂煙の中から聞こえたその声に男が驚愕の表情を浮かべて勢いよく振り返ると・・・左前脚の二の腕から先の無いソフィが立っていた。
「なっ・・・!?」
男はソフィが生きていることに信じられないモノを見るような目を向けていたが、すぐに思考を切り替えて大剣を構えた。
「守護獣様っ!・・・よかったぁ・・・」
少女は安堵の息を吐いていたが、男はそれを気にする余裕はなかった・・・何故なら最初に様子見と言ったが、実際は本気の一撃を叩き込んだのだ。
油断させたところを討つというやり方である・・・流石イケメン、汚い手も爽やかに見えなくもない不思議。
だが本気の一撃を放って与えたダメージが片足一本だけしかなかったのだ、そりゃ誰だって焦る。
男は内心で次の手を考えていると、彼女が先に動きを見せた。
――私が傷を付けられるとは・・・実に数十年ぶりだ、次はこちらから行くぞ?最初はサービスだ、受け止めるがいい
ソフィは地を蹴って男の前に移動した、男は一瞬何が起こったのか分からなかったが目の前に現れたソフィが右足を振り上げていたので大剣を構えて受け止めた―――
―――とほぼ同時で何かが壁に強く打ち付けられる音が国中に響いた。
ホントに油断したああぁぁ――――っ!!
めっちゃビックリした!あんな威力を放ってくるとか聞いてないんですけど!?あれで様子見とか強すぎない?
とっさに体毛と肉質を硬化させたから片足で済んだけど・・・
あんな強さを持った奴なんて数十年前に会った『八岐大蛇』以来だよ、彼女元気にしてるかなぁ・・・それは置いといてとりあえずこっちも様子見で一撃与えたけど、崖に引き寄せられるように一直線で飛んで行っちゃったんだけど・・・あっ、地面に落ちていった。
あれぇ・・・?手を抜いたはずなんだけどなぁ・・・
――おい、小娘・・・サナエを呼んで来い
男のことは街の皆に任せてっと、この娘にはサナエを呼んで来てもらおう・・・でもこの娘何でこんなに息が荒いの?顔も赤いし、もしかして怖さで緊張しちゃったとかかな?・・・まぁあんなことが目の前であったらそりゃ緊張もしちゃうし怖かったよね。
「は、はいっ!任せてください!私の命に代えても知らせてまいりますっ!!」
一瞬サナエの名前を聞いて目の光が消えたけど、すぐさま目を輝かせて声高らかにそう宣言すると階段を駆け下りていった・・・命を取られそうなくらい怖かったのかなぁ、私が・・・少しショック・・・サナエが来たら慰めてもらおう、ってそうだった。
――これ、どうしよう・・・
私は後ろを確認してポツリと呟いた、私の寝床無くなっちゃったな・・・これからどうしよう・・・
少しして駆け上がってきたサナエを見て、とりあえず後回しでいいかと結論付けたのでした。
あっ、ちなみに足は自然回復力で元通りに治りました。
男の実力は少し前にソフィが相手にした竜を余力を残して倒せるくらい。
聖剣の威力は上記の竜よりさらに大きい巨竜(大国の城下街を半壊させるほどの強さ)を一撃で塵にするほどの威力。
技名にセンスが無いのはご愛敬ということで・・・
おや?・・・女の子の様子が・・・?