この国に客人なんて何年振りかなぁ・・・魔女?あれは野良犬みたいなものです
今日も今日とて崖を越えようとしてきた獣を地面に叩きつけて爪で引き裂いてから崖の外に投げ捨て―――
ようとして踏み出した前足に力を込めて、裂いた獣を空中へとぶん投げた。
獣は高々と空中を舞い、そのまま重力に従って落ちていった。
「そんな熱烈な贈り物など送らずとも、私はアナタのことをお慕いしていますのに・・・」
――貴様がこんな時間から外に出るとは、どういう風の吹き回しだ?
地に何かがぶつかる音を後ろ手に聞きながら、こちらに恍惚とした笑みを向けてくる女に質問してみた・・・本当に何でいるんだろ?明るい内は使い魔に任せて外に出ない陰険魔女のくせに。
「アナタにお逢いするために・・・では不十分ですか?」
――くだらん・・・さっさと要件を言ったらどうだ?貴様がわざわざ外に出るなどよっぽどだ
発言を一蹴された魔女は何故か、頬を朱に染めながら自身の肩を抱いて身震いしていた。
えぇ・・・面倒くさいなぁ、やっぱりドMは塩対応に強いか。
「あぁ・・・んふっ・・・はぁ・・・」
私は一つタメ息を吐いてから近くに落ちていた石ころを拾い上げ、身悶えしている魔女に投げつけた。
投げられた石ころは凄まじいスピードで魔女に向かい・・・あっ、頭吹っ飛んじゃった・・・身体狙ったのに、少しズレちゃったか。
頭を失った身体は力を無くしてだらんとしていたが、すぐにピクリと反応して腕を動かして頭があった位置を通り過ぎると・・・すっかり元通りになっていた、やっぱりあの程度じゃ死なないか。
「どうせ殺すのならアナタの爪で引き裂かれたかったのですが、まぁそれは次の楽しみに取っておくとして・・・要件でしたね、実は近い内にこの国に客人が来るのですよ」
――・・・それがどうした?
「それだけなら普通のことなのですが・・・その客人の護衛が少し厄介なのです、何故なら聖剣使いだそうなのです」
''聖剣,,ってあの聖剣?前に一度、持った人に会ったことがあるけど結構硬かったなぁ・・・
「アナタに限って負けるなど有り得ないとわかっていますが、一応知っておいて損はないかと思いまして」
――知っていようがいまいが結果は変わらん、彼女のそばを離れることなど有り得ないのだ・・・ならば、刃を向けてくるなら潰すまでだ
「やはりアナタは凛々しくて勇敢ですね、あの小娘にはもったいない・・・いずれ私が手に入れましょう、アハハッ!その日が楽しみです」
なんか急にブツブツ言いだしたかと思ったら高笑いを始めたんだけど・・・うわぁ、怖いなぁ・・・とりあえず無視して戻ろうかな、ってそうだ一つ聞くの忘れてた。
――ときに再生の魔女、なぜ街の屋根に血反吐を吐き捨てていたのだ?
魔女は高笑いを止めてこちらへと視線を向けたが、何か思案する顔をしてから口を開いた。
「言っても構わないのですが・・・アナタの身体の一部を貰えるのならお話しましょう、どうですか?」
――なら、いい
両手をこちらに突き出した魔女に、私はそれだけ言ってお城の頂上へ飛んで戻るのでした。
だって私の身体はサナエだけの物だし、サナエの身体は私だけの物だからね!
「つれない御方、でもそこが好いのですけど・・・そんなアナタが私を求めてくれる日が楽しみです、アハッ・・・アハハハハハハハハハハッ!!」
なんかまた高笑いしてるなぁ・・・煩いからビーム撃っとこう、ふぁいあっ!
これでよしっ!さぁ早くサナエを愛でよぉーっ。
再生の魔女と顔を合わせてから数日が経ったある日、街が騒がしいことに気づいた。
そんな私の変化に気付いたのか、仰向けになった私のお腹に身体をうずめていたサナエが顔を上げて騒がしい原因を話してくれた。
「そういえば今日は他国から大臣が来るって話があったんだった、私も行かなきゃいけないんだけど・・・でもソフィのお腹が暖かくて気持ちいいから行かなくてもいいかなぁ」
仰向けで寝転がっている私のお腹の上で幸せそうな笑みを浮かべたサナエは、だらけきった姿勢で顔の表情筋が緩みきっていた・・・私にしか見せないその顔を眺めながら幸せ一杯になっていると・・・侍女っぽい少女が階段を駆け上がってきた。
「サナエ様、いらっしゃいますか!?御客人が参られたので下りてきてくださいっ!」
少女からサナエに視線を戻すと、私のお腹に寝転がっていた姿勢から身体を起こして表情もキリッと・・・って少し不機嫌になってる、尻尾で頭を撫でておこう。
「ふぁっ・・・もうソフィ、えへへっ・・・じゃあ待っててねソフィ!すぐ終わらせて戻ってくるから、ね?」
私の頬にキスをしてから少女を促して階段を降っていった、降りる直前に大きく手をこちらに振ってくれたからこっちも尻尾を大きく振って答えた。
サナエはやっぱり可愛いなぁ・・・戻ってきたら目一杯愛でよう、そうしょう!楽しみだなぁ、とりあえず今は寝て待ってよう。
おやすみー・・・スヤァ・・・
「・・・ん?この気配は、お城の頂上か・・・ただの護衛で退屈していたところだから丁度いいね、化け物退治といこうか」
金色に輝く大剣を背負った鎧を身に纏った男は、お菓子を前にした子供のように無邪気な笑顔を浮かべていた。




