試着大会も一段落して・・・
「もうっ、もぅ・・・!ソフィのばかぁ、本当にくすぐったくて恥ずかしかったんだからねっ」
「ゴメンね、サナエ・・・サナエがあまりにも可愛かったから、歯止めが効かなくなっちゃって」
「もうっ、褒めても簡単には許してあげないんだからっ・・・いっぱいキスしてくれたら、考えないでもないけど」
それじゃあもう無理って思うまで、いや・・・思ったとしてもキスし続けてあげるねっ!そう思ってサナエの頬に手を当てたと同時に、ここまでのやり取りを無言で眺めていたロード☆ロードが口を開く。
「するのはいいけどアタクシのいない所でやっておくれ、そういうのはロズダとあのメイドだけでお腹いっぱいさ」
どこかウンザリしたような表情と声で口にしたロード☆ロードに、少し残念に思いながらもサナエには後で部屋でしてあげると伝えた・・・ムッと不機嫌そうな顔をしていたけど、一度口付けをすると満足はしてないけど我慢はしてくれるようだった。
「そういえば、アンタのその服・・・普通だね」
「? どういう意味だ、たしかに魔法の布地で作られてはいないが。私にそういうものは不要だからな」
私の言葉を受けてふーんっと何かを考えるような視線を向けてくるロード☆ロードだが、唐突に手を合わせると自身の考えを口にする。
「だが本来の姿に戻る時は脱がなきゃいけないだろう?そんな手間なことしなくてもいいように、収納魔法のついた服を着ていきな」
「収納魔法?」
収納魔法とは・・・効果のついた服を服以外の装飾品(下着や指輪など)に変化させて持ち運びを楽にする、というものらしい。
「馬鹿娘に頼めばそれぐらいの効果がついた服を作ってくれるさ。もし今着ている服が気に入っているなら、その服に魔法の布地を縫い合わせてもらいな」
そんな便利な魔法があるのか、ならイヤリングが妥当かな?耳以外だとほぼほぼ大きさ変わるし。
「ロズダが戻ってきたら頼むとしようか、それまでサナエを愛でようかなっ!」
そう宣言してからサナエに口付けをすると、サナエは頬を緩ませながら身体を私に密着させた。
「ぁんっ、えへへ・・・いっぱい愛してくれないと、許してあげなっ「すみません、戻りまし・・・?」――チッ」
言い切る前に扉が開かれてロズダが姿を現し、サナエは不機嫌そうに眉を顰めてロズダを睨みつける。
「え、えぇっと・・・タイミングが悪かった、のでしょうか?」
少し慌てるロズダを射殺さんばかりに見つめるサナエの頭を優しく撫でながら、ロズダに向けて口を開く。
「サナエのことは私がどうにかするとして、ロズダ。お前にはこのワンピースに収納魔法のついた布地を縫い合わせてもらう、イヤリングに変わるものが好ましいな」
用件を伝えた私は着ているワンピースを脱いでロズダに投げ渡す、困惑した様子のロズダだったがすぐに理解したのか小さく頷いて口を開く。
「・・・なるほど、わかりました。縫い合わせるのはすぐに済むと思いますが、明日貴女の元へとお返ししますね」
「ふむっ、ではその間昨日一夜明かした部屋にでも・・・」
そう私が口にすると、ロズダはあっと声を漏らしてから私を引き留めた。
「昨日過ごされたのは私の寝室ですよね?でしたら今は先客がいるので、隣の部屋をお使いください。ベッドは置いてあるので不便はないと思いますよ」
先客・・・?あぁ、なるほどな。
「ユキナが寝てるのか・・・なら私たちは隣の部屋で休もっか?サナエを目いっぱい愛でないといけないしねっ!」
「うんっ、いっぱいいっぱい愛してね?ソフィっ!」
「任せといてよっ!ドロドロに溶けるぐらい愛してあげるね?」
私の返事に嬉しそうな微笑みを浮かべるサナエの手を引いて、ロズダたちのいる部屋を後にしようとして・・・そこで不意に思い出したことを聞くために振り返った。
「そういえばロード☆ロード、この国からさらに北西に向かうと何がある?」
「うん?北西かい?・・・特に何もないね、一面を砂に覆われた荒廃した街があるだけさ。それがどうかしたかい?」
「いや、深い意味はない・・・気にするな」
私はそれだけ言うと首を傾げるサナエの手を引いて今度こそ本当に部屋を後にする、部屋に残された二人の内ロード☆ロードは少し考える素振りを見せていた。
「お婆様、どうかしたのですか?何やら考え込んでいるようですが・・・?」
「・・・んっ?あぁ、ちょっとね」
顎に手を当てて伏せ気味だった顔を上げたロード☆ロードは、ロズダの声で思考の海から上がってそう口にする。
「北西にある街は朽ち果てた国だと昔に話したね?」
「? えぇ、そうですね。一定の周期で砂嵐が吹き荒れているので、近づかないようにとも言われましたね」
ロズダの言葉に頷きで返したロード☆ロードは、少し付け足すように口を開く。
「まぁ砂嵐の仲も無理やり進もうと思えばできるけどね、街に着いたとしても何もないが・・・昔メルティが好奇心に負けて街まで行ったことがあるんだけどねぇ」
「メルティが?・・・たしかに彼女ならありえますね、ってそういえばそんなこと言っていたような?」
名前が出た魔女の姿を思い浮かべたロズダは納得すると共に、その当時に興奮気味に話をしていたのを思い出してそう呟く。
「''荒廃した街で人影を見た,,そう言っていましたね、特に深く聞いたりしませんでしたが・・・」
「メルティの言葉は本当さ、あの荒廃した国『ロードエンド』には待ち人を待つ者がいる・・・もっとも、誰を待っているかまでは知らないけどね」
ロード☆ロードの言葉に少しばかり驚いた表情を浮かべるロズダだったが、ふとハッとしたように口を開く。
「もしやその待ち人というのは、あの方なのですか?」
思い浮かんだ人物、というより大狼を連想してロズダは声を漏らす。
「さてねぇ・・・ただ、無関係ではないだろうさ」
ロード☆ロードは特に興味を示すことなくそう言うと、欠伸を一つしてから歩き出す。
「それじゃあ適当な部屋を借りるよ、甘い雰囲気に当てられて疲れちまったんでね」
「えっ?・・・あぁ、はい。お疲れさまでした、お婆様」
「アンタもその疲れの原因の一つだよ、馬鹿娘」
それだけ口にすると隣の部屋へと消えたロード☆ロード、その姿を見送ったロズダは先程ソフィに投げ渡されたワンピースに魔法の布を縫い付ける作業に取り掛かる―――
「・・・っ、んふ♡」
―――前にワンピースの内側(肌に触れていた方)に顔を押し付け、鼻を動かして匂いを感じながら身を震わせていた。
その行為を数時間続けていたために体力を回復したユキナに目撃され、不機嫌になり据わった目で見つめるユキナのご機嫌を取るためにさらに数時間の時を消費するのだが・・・そんなことをしているとはワンピースを預けたソフィは知る由もないのだった。




