自然の中は死角がいっぱい
ウィンディア国のある大穴を飛び越え、南東の方角の大地に降り立った私は元の姿のまま次に目指すリーファス国へと歩き出した。
「それにしても降り立ってすぐに森で覆われているなんて、自然に溢れた国なんですね?リーファス国って」
私の背中に乗るユキナがそう口にすると、私の隣を浮遊して並走しているロズダが軽く頷いて口を開いた。
「そうですね。この国のほとんどの大地は森で覆われていて、基本的に内向的な国ですね」
ロズダの説明を聞いて私とユキナはへーっと声を漏らした、サナエは私の身体をモフモフしていてそもそも聞いていなかった。
「内向的と言いましたが、実は隣国とは積極的に交流しているそうですよ?協力体制と言いますか、同じく森で覆われたバサル・ボウ国とはかなり友好的な関係を築いているそうですね」
「っということは、実質二つの国が合わさっているってことですか?」
ユキナの問いに頷いて返したロズダ、私はそんな国もあるんだなぁとボンヤリと考えていた。
「バサル・ボウ国はたしか多種多様な獣人が暮らしていましたね、リーファス国は森の精霊と言われているドライアドが多く暮らしています。アラクネも暮らしているようですが、見たことはありませんね」
ロズダがそう言っているのを聞いて、ユキナは瞳をキラキラさせて楽しそうに笑みを浮かべていた。
「ロズダさんって物知りですよね、もっと色々教えてください!」
「えぇ、いいですよ。夜にでもじっくりと、オハナシしましょうね?」
「はいっ!」
ロズダの言い方になんか含みを感じた気がするけど、深く追及はしないでおこう・・・巻き込まれたくないし。
ユキナとロズダが談笑に花を咲かせながら歩いていると、前方にローブを着てフードを被った人が座り込んでいるのが見えた。
「うーん・・・どうしようかなぁ・・・」
何かをブツブツと呟いている声色的に少女は、その場で何かをしているようだった。
――私が行くと怖がられるからなぁ・・・どうする?
私がそう尋ねるとサナエは私に体重を預けて動く気はないようで、そうなるとユキナかロズダなんだけど。
「私が行ってきましょうか?あまり年も変わらなそうですから」
そうユキナが言うので私は身体を低くしてユキナを下ろすと、少し離れた位置で成り行きを見守ることにした。
――ロズダも一緒に行けばよかったのではないか?ユキナが気になるのだろう?
「気になるといいますか・・・ユキナさんは普通の人間ですから、こういう旅に危険は付き物なので見守っているだけなのですが。アナタとサナエさんはお互いが第一ですし」
そりゃあ私にとってサナエが一番大事だからね、しょうがないね。
「大丈夫?そんなところで座り込んで何をしているんですか?」
ユキナがそう言って少女に話しかけると、驚いたのか少し肩を震わせた少女が振り返り――――
――ユキナっ!!後ろに下がれっ!!
私がそう叫ぶと驚いた様子のユキナだったが言われた通り数歩後ろに下がった、と同時に空を切る音が鳴りユキナの着ているメイド服の胸元が裂けた。
「――えっ」
「チッ・・・臭いで嗅ぎ付けちゃったかぁ、でもこのメイドはおーわり・・・っと!」
舌打ちした少女は振り抜いた手を引き絞って、持っている短剣をユキナの胸に向けて突き出した。
「――ひゃっ・・・!・・・っ?」
ユキナは咄嗟のことで動けずに腕を交差させて顔を背けた、が短剣はユキナに突き刺さる前に違う者に刺さった。
「この短剣、魔剣ですね?生憎私にその呪いは効きませんけど、ユキナさんのような普通の人間には過剰すぎるのでは?」
ユキナに向けられた短剣を自身の手に突き刺すことで止めたロズダが平然と話す姿に驚いた様子の少女だったが、すぐに笑みを浮かべながら短剣を引き抜いて後ろに跳んで距離を取った。
「お姉さん・・・もしかして魔女?瞬間移動なんてずいぶんな魔法使うじゃん、そんなにその子が大事なのぉ?だったら殺したら色々面白そうだよねっ!」
仰々しく両腕を広げてそう声をあげる少女に、ロズダは嘲笑にも似た笑みを浮かべながら少女を睨みつけた。
「生憎と私はユキナさんを護らないといけませんので、貴女の相手はあの方にお任せしましょう」
「ふぅん?―――っ!!」
首を傾げながら様子を窺う少女は、背後に移動していた私に寸でのところで気付いて身を捻りながら私の攻撃を躱した。
――ほう、今のを躱すか・・・その手に持つ魔剣は身体能力を上げてくれているらしいな
私がそう言うと図星だったのか少し身体を震わせていたが、すぐに余裕そうな笑みを浮かべた。
「だったらぁ?この魔剣を貴女に突き刺せば私が勝ったも同然なんだけど・・・?こんな風に、ねっ!!」
一瞬で目の前から消えた少女は私の懐に潜り込むとその短剣を私の喉元に突き出した、がそれは私の体毛に遮られて刺さることはなく弾かれた少女は驚きの表情を浮かべていた。
――ふんっ!
数秒動きを止めた少女に前足の横薙ぎを繰り出すと、モロに受けた少女は近くの木を二~三本薙ぎ倒してから木に背中を打ち付けて「かはっ」と肺の空気を吐き出した。
「げほ、ごほっ・・・こんなに強いとか聞いてないんだけど・・・!?オーダの奴ぅ・・・!いい加減な情報教えやがってっ――ごほぉっ、えほ・・・」
誰かに悪態をつく少女を見下ろしながら側まで近寄ると、少女は怯えた表情をして私を見上げた。
――これからは私たちに手を出さないと誓うなら見逃してやろう、どうする?
「ち、誓うっ!誓うから、お願いだから見逃して・・・ね?」
ユキナを連れて側まで戻ってきたロズダへと視線を向けると頷いていたので私は少女から視線を外すと、背中で私をモフモフし続けているサナエにほっこりしながらユキナとロズダを連れて歩き出した。
「お人好し過ぎない・・・かなっと!」
少し距離が離れると少女はそう口を開いて一気に私たちとの距離を詰めて背中のサナエ目掛けて魔剣を振るった。
――・・・愚かな
私が三本の尻尾で斬撃を防ぐと、少女は舌打ちをしてから飛び去って着地すると踵を返して逃げ出した。
「あんなの相手にしてられないっての!ここは一旦引いて――――ぇっ?ギィッ!!?」
何かを叫びながら数歩走ったところで妙な声を上げ始め、少女の腹が膨張を始めて・・・最終的に少女の身体は耐え切れずに破裂した。
「? 何かすごい音がしましたけど・・・さっきの魔剣使い?は放っておいていいんですか?」
――大丈夫だよ、ユキナ・・・さっき攻撃してきた時点であの者の末路は決まってるんだから
「少し前にあの方に使った誓約書を覚えていますか?」
私を指差すロズダにそう尋ねられたユキナは「はいっ!」と大きな声と満面の笑みで頷いた。
「その誓約書をさっきの少女に使ったのですよ、私たちを攻撃しないことを誓わせました・・・が、彼女は守らなかった・・・故に誓約書の力の行使を受けたのです、ですから後ろを向いてはいけませんよ?」
そう言われたユキナは疑問符を浮かべながらもロズダの言葉に頷いた、普通の少女のユキナには刺激が強い光景だからなぁ・・・そう思いながら赤く染まった木々を横目で確認してから前へと向き直った。
「んふふ~♪ソフィ、もふもふで気持ちいい~♪」
サナエはずっと少女の存在を気にすることもなく、私の身体を堪能していたのでした・・・可愛いから問題なしっ!
帝国兵の少女が持つ短剣型の魔剣は、刺した者に死の呪いを付与し自身の身体能力を向上させる効果がある。




