旅の準備と仲間が増えました・・・何で?
寝床を失ったことで国を出て旅をすることになった私とサナエ、それからサナエの侍女であるユキナは国から少し離れた森の中で話し合いをしていた。
「守護獣様、サナエ様。これから一体どこに向かうのですか?」
ユキナの問いに、私は視線をサナエに向けた。
「実を言うと行き場所までは決めてなかったの。お城の頂上が吹き飛ばされたことでラーナリア国ではソフィが休む場所が無くなっちゃったから、この機会に別の国を観光しようかなって思ったの」
私がいた国ってそんな名前だったんだ・・・知らなかった。
――私は地理に関してはあまり詳しくはないんだけど、一番近い国でいいんじゃないかな?
「そうなると、エビルタイ国が一番近いと思うよ。海に面した漁港が盛んな国だったかな?」
海ってことは北かな?だとすると私の知り合いに会えるかも、元気にしてるかなぁ。
「それならば地図などを持ってきておいたほうが良かったのではないですか?それに数日分の食料と水しかありませんから、どれぐらいかかるか・・・」
――問題ないよ、私が二人を乗せて飛ぶから。数日も経たない内に着けると思うよ?
「守護獣様の上に・・・!こっ、光栄ですっ!!」
ユキナがすごい勢いで身体を起こすと目をキラキラとさせて声をあげた、そんなに興奮することかな?今も私の身体を背もたれにして座ってるのに。
「すぅ、はぁー・・・えへへっ♪ソフィ暖かい・・・♪」
サナエは全体重を預けて私の身体に頬擦りしながら深呼吸している、こっちはいつものことか・・・可愛いっ!
「あら、とても楽しそうですね。私も混ぜてはくれませんか?」
そんな声と共に私たちの前に降り立ってきた魔女は、薄っすらと笑みを浮かべながら私を見つめていた。
――断る、貴様に触られるなど虫唾が走る
「あぁんっ、つれない御方・・・触ることはまたの機会としますが、アナタ方の旅路・・・私も御同行してもよろしいでしょうか?」
「はっ?」
「え?」
魔女の申し出に冷め切った声で返したサナエ、ユキナは突然のことでよく分からないといった感じだった。
――同行させる必要性が無い、大体貴様がついてきて何になるというのだ
「旅に必要な物や情報、さらには少なからず資金なども私がお出ししますが・・・これでもダメですか?」
サナエが苦虫を噛み潰したような顔をして魔女を睨んでいる、睨まれた本人はどこ吹く風だけど。
「えっと・・・この方は、どなたなんですか?」
あぁ、そう言えばユキナはこの魔女と会ったことはないんだっけ?
「あら、アナタは只の人間のようですね。この御方の姿に魅せられた者同士仲良くしましょう?私は再生の魔女・ロズダという者です」
「魔女・・・?あっ、私はユキナと申します。守護獣様の侍女をしています」
――・・・サナエの侍女じゃなかったっけ?
小声でサナエにそう問い掛けると、ムスッとした表情のまま私の身体に顔をうずめた・・・うん可愛い。
「それでどうでしょう?私を旅のお供に加えてもらえませんか?実はこの近くに私の拠点としている場所があるのです、そこでゆっくりとお話をしながらお考え下さい」
言い終えると歩き出して、少し進んだところで振り返るとこちらに向けて手招きをしていた。
サナエとユキナに視線を向けて問いかけるとサナエは渋々頷き、ユキナは微笑んで頷いていたので、私は警戒しながら魔女についていくことにした。
魔女の拠点は近場の岩場に穴を開けて中をくりぬいた簡素なものだった。
「天井が低い、狭い」
そう呟いている私は人間状態で一糸纏わぬ姿である。
服を着たまま元に戻ると服が弾けるから着てられないんだよね、さっきからユキナが顔を手で覆いながら指の間からチラチラ見ているけどどうしたんだろ?
「申し訳ありません、本来アナタを招く予定ではなかったもので・・・アナタが人間時に着る服もご用意してありますよ、さぁ奥の方へ」
そう言われて周りの岩肌にはそぐわない木製の扉を開くと、そこはファンシーな光景が広がっていた。
「なに・・・これっ」
「? 私の拠点ですが?」
色々な柄の服が所狭しと並んでおり、棚には服の布地が目一杯詰められていた。
「いや待て、前に見た拠点とは随分違うようだが・・・」
私がそう尋ねると、魔女は何故か頬を朱に染めて恥ずかしそうに顔を背けた・・・え、何その反応。
「前のアレは・・・無断で侵入した者を追い払ったもので、掃除する前にアナタが訪れたものですから」
えぇ・・・もしかして思ってたより危ない奴じゃなかった?いやいや、まさかそんな・・・
「他のお二人も好きな服に着替えても構いませんよ?どのみちそのままの服では目立ちます、あの国はファッションに関してかなり遅れていますから」
「ふぁっしょん・・・?」
「えぇ、ファッションです」
なんかよく分からないけど、服を着替えただけでそんなに変わるものかなぁ?そう思いながら私たちは思い思いの服を手に取るのだった。
服は人を変える、その言葉を私は思い知ったのでした。
「サナエさんが着ているこちらがチャイナ服ですね、そしてユキナさんが着ているのはメイド服です」
服を着替えただけでここまでの威力を持っていたなんて・・・!サナエのポテンシャルが恐ろしい、めっちゃ可愛いっ!!
「この服足がスースーするんだけど・・・ってソフィ可愛い!食べちゃいたいくらいっ!」
「前の服も似たようなものですけどね、アナタは白いワンピースですか。とってもお似合いですよ」
動きやすそうっていう理由で選んだんだけど・・・サナエも可愛いって言ってくれたしこれにしようかな。
「守護獣様!私はこのめいど服が気に入りました、他の国では召使いが着ている服だそうですよ!守護獣様の下僕としてピッタリですねっ!」
「サナエの侍女じゃなかったっけ?」
私の疑問はその場でクルクルとスカートを翻しながら回るユキナには聞こえていないようだった。
「私もソフィと同じ服にしようかな、やっぱりお揃いがいいし」
「やったぁ!私もサナエとお揃いが良かったんだっ!」
そう言って抱き着くとサナエは嬉しそうに頬を緩ませた、そんな私とサナエを眺めながら魔女が口を開いた。
「それで、私も旅にご一緒してもよろしいですか?決して悪い結果にはならないと思いますが・・・」
サナエも最初に比べて警戒も薄まってるし、ユキナも着た服を気に入ってるから問題ないかな?
「仕方ない、同行を許す。だがサナエに危害を加えれば容赦はしない、いいな?」
「えぇ、わかっておりますよ。私が興味あるのはアナタだけ、それに旅を共にするのですから仲良くしたいですから」
ならよし、後は必要な物を揃えて・・・次の国・エビルタイに向かおう!




