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彼女の思い

今のところ、彼女Sideと彼Sideを書いて完結予定です。

切ない恋愛話が書けるようになりたい…と思って練習中です。


誤字脱字、おかしな表現があるかもしれませんが

軽く読んでいただければ幸いです。

 私の幼馴染でもある婚約者は、親友の妹に恋をしている。



 家が隣で親同士がとても仲が良かったので自然と私と彼も仲良くなり気づいた時には恋人同士になっていた。

 おじいさんおばあさんになってもずっと一緒にいようねと言い合う私たちを親や友人たちはあたたかい目で見守ってくれていた。

 そして高校2年の秋に私たちは婚約をした。両家の親たちはとても喜び、私たちの事を祝福してくれた。


 後日行われた婚約披露パーティーで私は一番の親友とその妹を彼に紹介した。親友の妹は私より2つ年下の可憐な少女だった。

 初めて少女を見た彼は軽く目を見開き彼女の顔を凝視していた。少女もまた熱い視線で彼の顔を見つめ、その頬を赤く染めていた。


「二人とも婚約おめでとう。今日は妹も一緒に招待してくれてありがとう」

「はじめまして。姉がいつもお世話になっています」

「ありがとう。こちらこそ君のお姉さんとは仲良くさせてもらっているよ。こんな可愛らしい妹さんがいたとは知らなかったよ。君もパーティーを楽しんでいってね」

「は、はい!」


 しばらく微笑みながら二人が見つめ合っていると、親友が咳払いをして妹の腕を引っ張りながら私にあとでねと言ってその場から立ち去って行った。去っていく少女の後姿を見つめている彼の瞳に戸惑いの色が滲んでいるのを見た私は、そっと俯き瞼を閉じて小さく息をはいた。


 その後私たちは賓客たちに一通り挨拶をして周り、落ち着いた頃に私が話しかけても彼はどこか上の空だった。



 毎週末、私たちはデートをしていた。

 婚約パーティーの翌週末もデートの約束をしていたのだが、前日になって彼からキャンセルの電話が入った。いつもと違う声音でこの埋め合わせはするからと言いながら一方的に切られた電話は、私の心をひどくざわめかせた。


 週末の予定が無くなってしまった私は親友を誘ってみたのだが、部活の試合が近く練習があるからまた今度ねと断られ、仕方なく一人でデパートへ買い物に行くことにした。

 新作の化粧品を見ながらふとお店に置いてある鏡の中を覗いた時、なんとなく見覚えのある女の子の姿が遠目に映っているのが見えた。よく見ると婚約パーティーに来ていた親友の妹だった。

 少女はキョロキョロと辺りを見回すと、何かを見つけたようで近くにいた誰かに声をかけた。すると、鏡の中によく見知った人物が映りこんだ。私の婚約者だった。

 彼を見た途端、私の心臓は大きく跳ねあがりどくどくと激しく脈を打ち始めた。

 二人は並んで話しながら店の奥の方へ歩いて行く。少女はとても嬉しそうに彼の顔を見つめ、彼は優しい表情で少女の話を聞いていた。


 あの後どうやって家に帰宅したのかよく覚えていない。私は部屋に閉じこもり、一人静かに泣いた。



 週明けの月曜日。今まで毎日一緒に登校していた私たちは別々に家を出た。と言っても、顔を合わすのが怖くて私が先に家を出たのだが。

 まだほとんどの生徒が登校していない早い時間に学校に着いた私は、一人図書室で本を読むことにした。心を落ち着かせるための行為だったのだが、頭の中は婚約者と親友の妹のことでいっぱいだった。


 なぜあの二人はいっしょにいたのだろう。

 なぜ少女はあんなに嬉しそうに彼を見ていたのだろう。

 なぜ彼はあんなに優しい表情で少女を見ていたのだろう。


 どうして二人を引き合わせてしまったのだろう…。


 私の中にどす黒い感情が沸き上がり、ひどく醜くさせる。よくない事ばかり考えては自分の都合のいいように解釈し、打ち消していく。


 そろそろ予冷が鳴る頃だと思い立ち上がるが、頭が割れるようなズキズキとした痛みと胃の中からこみ上げてくる吐き気に襲われ、私は崩れるようにその場にしゃがみ込むとそのまま意識を手放した。



 ―― 誰かが私の名前を呼んでいる。


 声がする方へ顔を向けると、まだあどけなさが残る少年がこちらへ手を振りながら走ってくるのが見えた。小学生の頃の私の婚約者だ。

 声変わりする前の少し高めの声音で名前を呼ばれるとくすぐったいような嬉しいような、とても幸せな気分になれた。


 あれは10歳の時だった。彼が初めて私に好きと言ってくれた。おじいさんおばあさんになっても私と一緒にいたいと言ってくれた。

 私は顔を真っ赤にして泣いてしまい、彼はオロオロしながらもそっと優しく抱きしめてくれた。その腕や肩が少し震えていたのを覚えている。お互いほんの数秒間見つめ合った後、私たちはクスクスと笑った。

 素敵で優しい、大好きな男の子。


 あれから7年経った今。あなたの瞳に映っている女の子はだれですか ――



 ぼやける視界に白い壁のようなものが見える。時間が経ちはっきりしてくると、それは天井であることがわかった。見覚えのあるこの場所は、学校の保健室。どうやら私はベッドで寝ていたらしい。

 誰かの声がして温かく包まれるような感じがしたのだけれど…それが夢だったのかどうか、夢だとしたらどんな内容だったのかも思い出せない。

 私は涙が滲んでいた目尻をそっと指で拭った。


「あら、気が付いた?」

「私…」

「図書室で気を失っているところをあなたの婚約者が見つけてここまで運んできたのよ。休み時間の度に付様子を見に来てたわよ」

「そう…ですか」


 目が覚めた私に気付いた養護教諭の女性が、半日眠っていたことを教えてくれた。

 寝過ぎなのか考え事のし過ぎなのか、まだ少し頭痛がする。私の顔色を見た先生が今日はこのまま早退するよう勧めてきたので、私は家に帰ることにした。


 校舎を出て校門へ向かって一人歩く。午後の授業が始まっているせいか、辺りは心地よい静けさに包まれていた。

 校門の柱の陰に人影があることに気づき足を止める。向こうも私に気付いたのか柱の陰から姿を現す。私の婚約者だった。

 なぜここにいるのだろうと不思議に思いながら私は再び歩き出す。

 私の顔をじっと見つめていた彼が大丈夫かと聞いてきた。私は大丈夫と言って微笑み彼の側をすり抜けるように歩いたのだが、瞬間、彼に腕を掴まれた。

 驚いた私は彼を仰ぎ見る。怒り?困惑?悲しみ?そんな感情が彼の瞳に表れていた。


「今朝はどうして何も言わずに一人で登校したの?」


 そう聞かれた私は、あなたの顔を見るのが怖かったからとは言えず、委員会の仕事があったからと嘘をついた。後ろめたさがありつい目を逸らして小声になってしまったのは仕方がないと思う。

 早くこの場から離れたい。そう思い、腕を掴む彼の手をはがそうと私は手を伸ばした。


「ねえ。デートの約束をキャンセルしたこと怒ってる?それとも何か俺に隠してる事があるの?」


 彼の言葉を聞いた途端、伸ばした手がぴたりと止まる。

 私があなたに隠し事?親友の妹と一緒にいたあなたがそれを言うの?


 全身がカッと熱くなり目に溢れそうなほど涙が溜まるのを感じたが、私は顔を上げまっすぐ彼の顔を睨み付た。

 彼はとても驚いた表情をしていた。私が睨み付ける理由が分からないという感じだ。婚約者とのデートをキャンセルして親友の妹と一緒にいたことがバレているとは思いもしないのだろう。

 無言だった彼の口が開いた瞬間、治まっていた吐き気が再び襲ってきた。彼の手を腕からはがし、私はさよならと言って歩き出す。一人になりたい。そう思うと自然と歩みが速くなった。


 ガラス張りのコーヒーショップの前を通り過ぎようとしたとき、ガラスに私の後ろを歩く婚約者の姿が映っているのが見えた。私は立ち止まって後ろを振り向く。彼はじっと私の顔を見つめてきた。


「どうしてついてくるの?」

「心配だからに決まっている。体調の悪い君を一人で帰せるわけがない」

「婚約者だからと言って無理しなくていいのよ」


 彼は怒った顔をして私の肩を掴んできた。


「本気で言ってるの?」


 彼の指が肩に食い込む。その手は彼の瞳と同じでとても熱く感じた。

 親友の妹に心を奪われているというのに、婚約者という立場から私の事を見捨てることが出来ない、残酷で優しい彼。


 ああ。こんなに惨めになってまでも、私はこの人を愛しているんだわ。

 手放したくないと醜く執着してしまっている自分に呆れ、胸がしめつけられるほど苦しくて辛いのに…私の顔は笑っていた。


「婚約は破棄しましょう。あなたは好きな人と幸せになって。それが私の幸せでもあるから」


 笑って言えたと思ったのに、最後の最後に涙が頬を伝って零れ落ちた。

 そんな私を見て彼はポカンとした顔をしていたけど、その隙をついて彼を振り切り、私はタクシーを拾って逃げるように家へ帰った。


 泣きはらし真っ青な顔で帰宅した私を見て母がひどく心配していたけれど、そのまま何も言わずに自分の部屋に閉じこもった。夜になって父が帰宅してから、私は両親に婚約の破棄を申し出た。二人はかなり驚いて理由を聞いてきたが、私では彼を幸せに出来ないとだけ言った。なんとなく、彼に他に好きな人が出来たとは言えなかったのだ。



 私はしばらく学校を休んだ。

 両親に婚約破棄宣言をした後、高熱をだし寝込んでしまったのだ。彼の顔を見ないで済むのもありがたかった。きっと学校では婚約破棄の噂が広まっていることだろう。

 休んでいる間、彼は毎日お見舞いに来てくれたけど私は会いたくないと言って断っていた。両親もそんな私の気持ちを優先させてくれている。

 婚約を解消したのだからもう放っておいてほしいのに、彼はどこまでも私を苦しめる。憐れみや同情はいらない。



 3日ぶりに学校へ行くと、私と彼の婚約解消の噂は全く流れていなかった。それどころかそんな話は元からなかったかのように両親も彼も以前と変わらぬ態度だった。

 世間体を気にして話すのを控えているのか。ならば私もそういう風に振る舞わなければならないのだろう。これ以上親に迷惑をかけることはできない。


 ただ気になるのは、婚約解消を伝えたはずなのに彼が毎日私と一緒に登校し、週末は一緒にいたいとしつこく言ってくることだ。そこまでしてこの婚約解消を伏せておきたいのか。

 それでも私はまだ彼の事を愛していたので、傷つくとわかっていても断ることが出来なかった。我ながら馬鹿で未練たらしい女だと思う。



 週末になり彼が私の家にやってきた。隣に住み今まで毎日のように行き来していたので別に大したことではないのだが、婚約破棄宣言した手前なんともいえない複雑な気分だった。


 父は休日出勤で不在、母は家のキッチンでケーキを作っていた。彼が入ってくると、いらっしゃいゆっくりしていってねと声をかけてきた。娘が婚約破棄を言い出したというのに、その婚約者に対して以前と何も変わらない接し方をする母に少々戸惑う。


 お茶をトレイに乗せ、私の部屋に先に行って待っているであろう彼の元へ向かった。部屋に入ると彼は書棚の前に立ち本を広げていた。私が入ってきたのを見て彼は本を元に戻し、ソファに腰かけた。

 お茶をテーブルに置いて私もソファに腰かける。以前なら彼のすぐ隣に座ったけれど、今は一人分空けて座っている。それに気づいた彼は少し顔を顰めて私の方を向いた。


 真面目な顔をして、じっと私の目を見て彼が問う。


「君はもう俺の事を好きではないの?」


 私も彼の目を見て正直に答える。


「婚約破棄になった今でも、私はあなたを未練がましく愛しているの…残念なことにね」


 私は自嘲めいた笑みを浮かべていたのだが、愛していると言った時に彼はほっと溜息をついたような気がする。喉がカラカラになりお茶を飲もうとグラスに手を伸ばした手は彼に掴まれ、どきりとして彼の方を見るとひとり分空いていた距離がいつの間にか縮んでいることに気がついた。


「ねえ。どうして婚約破棄なんて言い出したの?きっと俺は君にひどいことしたんだよね?」


 彼は困惑の表情を浮かべて聞いてきた。

 私は声が震えそうになるのをぐっと堪えてその問いに答える。


「婚約披露パーティーであなたが親友の妹に興味をもったのは気付いていたわ。そして先週…私一人でデパートに買い物へ出かけたの。あなたとその彼女が一緒にいるところを見たわ。とても嬉しそうに笑うあの子に優しく笑いかけるあなたを見て…私ではあなたを幸せに出来ないのだと思ったの」

「なんでそうなるの…」

「え?」

「全部誤解だよ!俺がパーティーであの子を気にしていたのは彼女が怪しいと思ったからだよ」

「怪しい?」

「ここ数ヶ月俺達をストーカーしている女の子がいるのに気が付いてね。君に悟られないように調査していたんだ」

「ストーカー!?」

「彼女に初めて会った時にそのストーカーの特徴によく似ていると思ってね。ようやく証拠を手に入れたから先週彼女をうまく誘い出して詰問したんだ。彼女は認めたよ。今後一切俺達に関わらないと約束もさせた」

「親友の妹が…そんな…」


 まさかの告白内容に私は唖然とした。あの可憐な少女がストーカーだったとは。しかも私の一番の親友の妹が。あまりのことにしばらく動けないでいたら、彼の腕が伸びてきて私の体をその逞しい胸に抱き寄せた。


「あ…」

「君に辛い思いさせてしまったんだね。誤解させるような行動してごめん。許してくれる?俺は君が大好きだ。他の誰でもない、君を愛している。思いはちゃんと伝わっているとうぬぼれていたよ…。お願いだから婚約破棄だなんて言わないで。俺を捨てないでよ!」

「っ…」


 私の体を強く抱きしめ首に顔を埋めながら許しを請い愛を囁く。捨てないでと懇願する彼の声は切なげで微かに震えていた。彼のこんな情けない姿は初めて見るけど、とても愛おしいと思った。


「破棄なんてしないわ。私もあなたを愛しているもの」


 そう言うと彼は勢いよく顔をあげた。その顔は泣き笑いのような表情をしていた。

 もう我慢できないと呟いた彼は私の頬を両手で包み込み、深くて甘い蕩けるようなキスを何度もしてきた。そのうち彼の手が私の体を這いまわりだしたけど、濃厚なキスに翻弄されていた私は頭が回らなくなっていた。


「あっ…んっ…」


 耳、首、鎖骨へとキスの雨を降らされて私は思わず喘ぎ声を漏らす。

 そんな私を熱い視線で絡めとり、彼はいっそう激しく掻き抱く。彼の左手が私の腿を撫で触りだした。下腹部がジンと熱くなり、くすぐったいような変な気分になる。


「愛してる。誰にも渡さない。君が欲しくて堪らないんだ」

「私もあなたを誰にも渡したくないわ。愛してる」


 彼の手が私の下着にかかろうとした時。

 コンコンとドアをノックする音が聞こえ、私たちはハッと我に返った。身を起こしてお互いの身繕いをしてからドアを開けに向かった。


「はい」


 ガチャリとドアを開くと、ケーキをのせたトレイを持つ母が立っていた。


「ケーキが出来上がったから食べてもらおうかと思って」

「ありがとう。うわぁ、おいしそう!」

「ありがとうございます。いただきます」

「ふふ。仲直りできたみたいね。でもそれ以上はまだ早いわよ」

「「え?」」


 母は苦笑しながら鎖骨のあたりを指さし、ごゆっくりと言って部屋を出て行った。

 なんだろうと思って確認すると、赤く痕が残っていた。キスマークというやつだ。彼と顔を見合わせ、顔を真っ赤にして俯く。

 ソファから立ち上がった彼は私に歩み寄り、優しく抱きしめてきた。そして耳元で大切にすると囁いた。


お読みいただきありがとうございました。

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