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7・魔敵

 それは最初、巨大な魚のようにも見えた。

 だが、その白塗りの魚は両手両足があり、さらには背中の鱗を食い破るように両翼が生えている。


「これが《魔敵エネミー》だ――」


 プロジェクターに映し出された映像を見ながら、教室の支配者――先生は語る。


「これは一週間前、岡山で現れた《悪鬼》レベルの《魔敵エネミー》だ」

「あ、《悪鬼》……っ!」


 教室中がどよめく。

 それも無理はない。

 先生の口から放たれた《悪鬼》レベルは一体だけで一都市を滅ぼすと言われるまでの強力な《魔敵エネミー》なのだから。


 体中には白色の粘膜。

 口を開けると、数百個の小さな歯が所狭しと並んでいる。

 見ているだけで嫌悪感が込み上げてくるような異形。

 口を押さえて、嘔吐を我慢している生徒の姿も見えた。


「よく見ておけ。この《魔敵エネミー》が人を襲う瞬間を、よ」


 笑いながら化粧をしているようにも見えた。


魔敵エネミー》の前に魔法円スタイルの魔術師が展開。

 第六級火炎系魔術《六月火雨ビッグボーイ》が発動し、空から火炎の雨が降り注いだ。

 逃れられない鉄槌により、目の前にいた人々の肌が灼かれ、悲鳴を上げながら絶命していく。


六月火雨ビッグボーイ》により、火炎の雨は《魔敵エネミー》の己が体にも降り注いでいるが、生態系魔術の《強化術ストロング》によって肉体を強化した肌は灼熱さえも遮断した。


「分かったか――これがお前等が戦っていくであろう《魔敵エネミー》だ」


 教室中が緊張を含んだ静寂に包まれる。

 この中には近しい人間が《魔敵エネミー》に殺されて、魔術師を志した人間もいるだろう。


 しかし――こうして、実際異形の生物に人間が殺されていく様はどうしても憂鬱になってしまう。


「さて、まずは楽しい気持ちにさせてから自己紹介を始めようというお姉さんの粋な計らい」


 楽しい気持ちどころか、みんなの気分が沈んでいるように見えるが!

 教壇に立つ先生らしき女性の口角が吊り上がり、


「今日から一年間、てめぇらに地獄を見せてやる担任の浄徳極楽じょうとく ごくらくだ。気軽に話しかけたらぶっ殺す」


 物騒な先生であった。

 教壇に上がり『担任』と名乗った女性。

 学園《センター》の先生なのだろう。

 先生にしては少し若すぎるように思えたが、魔術自体が使えるようになってまだ四十年くらいしか経過していない。

 結果、魔術師の年齢が平均的に浅い、ということもある。


 問題は……、


「先生」

「ん? 質問を許すぞ誰だお前は」

「肩から担いでいるのは何ですか?」


 生徒の一人が恐る恐る手を挙げて質問する。


「ふむ。これはマシンガンだ」

「マシンガン? どうして、そんなものを担いでいるんですか?」

「護身用だ。見れば分かるだろう」


 過剰防衛にも程があった。

 質問した生徒が「いや……どうして、魔術学園にそんなものが……」と声を出そうとしたが、その瞬間に浄徳から刃物のような鋭い視線を向けられた。

 引きつった顔で手を下げる生徒。


「クックック……では早速、お楽しみタイムといくか」

「何ですか?」

「殺し合――いや違った。自己紹介だ」


 今、この先生、殺し合いって言いそうになったよね?

 魔術学園の名に恥じないファンキーな先生であった。

 というか、開始五秒でクラスの九割が引いているように見えた。


「か、神小町春月かみこまち はづきですっ! ま、魔術師になってカッコ良いガンマンになるためにこの学園にやってきました」


 ――俺は《シリウス》という一等星の一つの名が付けられたクラスとなった。

 学園《センター》の教室は大学の講堂のような場所で、ざっと見渡す限り一つのクラスで百人程度は収容されているように見える。


「み、みなさん、よろしくお願……キャッ!」


 あっ、教壇から降りようとする時、躓いた。


「うぅ〜、痛いですぅ」


 転倒する時に、スカートの切れ間から白い下着が見えたのを俺の動体視力を見逃さなかった。

 床に手を付いて、涙を浮かべる神小町。


「まさか、ナチュラルにパンチラを披露してくれるとはな。流石、神小町」


 いきなりこけて、恥ずかしそうにしている神小町は真っ直ぐと俺の隣の席へと座った。


「恥ずかしいですぅ……」

「恥ずかしがる必要なんてないさ。自己紹介でいきなり転倒する美少女なんて絶滅危惧種だと思っていた」

「アサト君! そんなに褒めないでよ〜」


 自然な仕草で俺の肩を小突く神小町。


 神小町春月かみこまち はづき


 どうやら西部劇のガンマンに憧れているらしく、いつも玩具の銃を持ち歩いている。

 髪は長く、すらっとした体型で顔も小動物を思わせ可愛いことから、女優かモデルの類だと錯覚してしまう。まあ、ドジなところがなかったらな。

 しかし――そんないくつもの要素がありながらも、それを飲み込む程の圧倒的な個性が神小町には備わっている。


「…………」

「アサト君? 何処を見ているの。春月の顔に何か付いている?」

「いや可愛いな、と思ってさ」

「もう〜、からかわないでよ〜」


 そう言うものの、満更でもない様子である。

 当然、俺が見ていたのは神小町の顔じゃない。

 同世代の女とは一線を画する圧倒的な胸の膨らみである。

《センター》の制服のボタンが取れそうな程のボリューム。


 実は神小町とは入学試験の時からの知り合いだ。

 入学試験の時に購買で「うぅ〜、五十円足りないのです〜」とレジの前で半泣きになっている神小町にそっと百円を貸してやったのだ。

 その時から何故か懐かれている。百円は未だに返ってきていない。

 一匹狼になりたいな、と密かに計画している俺が神小町の名前を覚えていて、こうやって仲良く喋っている理由。


 ここまで言えば分かるよね。そうです。胸が大きかったからです。

 仕方ないよね。ふぇえ……おっぱいには勝てなかったよ。


「竜頭司朝斗。影が薄すぎて、いなくても気付かれない系のキャラを目指しています。具体的には面倒臭い雑事をクラスですることがあったら、俺を無視してやってください」


 無難に(?)自己紹介を終わらせる。


『おい、ヤツが桜乱華の天才とやり合ったのか』

『桜乱華の天才に勝利したんだってな』

『どうせ八百長に決まっている。おかげで千円損したぜ』

『決闘の勝敗でギャンブルするなよ』


 席へと戻ろうとする時にそんなヒソヒソ声が聞こえた。

 朝、俺が歩くとざわざわしていたのはそのせいなのだろうか?


 ならばレイナは余計なことをしてくれた。このまま、一モブキャラとして三年間を終わらせようとしたのによ。

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