6・白色の逆三角形
「……はあ?」
いきなり突拍子もないことを言われて言葉が詰まる。
「《黄金の双星》の一人であるわたしと、変な剣を使うあんたが組めばこの学園で最強になれるわ。
だから――この手を取りなさい。わたしを守る盾となりなさい」
やれやれ。
まるで少年漫画の展開のようだな。
戦い合った二人に友情が芽生えて共闘する。
確かにレイナは強く、今すぐ《魔敵》と戦う魔術軍に入っても通用するだろう。
ならば返事は決まっている。
差し出された手に近付いて――、
「お断りします」
そのまま横を通り過ぎるのであった。
「ちょ、ちょっと何でよ!」
後ろから金切り声が聞こえてくる。
「何で、お前の盾にならないとダメなんだよ。何で自分より弱いヤツと組まないといけない」
前を向いて、歩きながら溜息混じりに答える。
「わたしがあんたより弱い? ちょっと! 何の根拠があって、そんなことを言ってるのよ」
「いや、何ならもう一回決闘をやるか?」
「同じ相手との決闘は二週間は禁じられているのよ。わたしとしては、今すぐ再戦したいけどね」
「だったら、もう俺に絡んでくるな。俺は誰とも組む気なんてねえよ」
ボロ負けしたのに僅差で負けた、というプライドの高さ。
はっきり言おう。こいつは所謂、地雷女である。
こいつを相手にしていたら、安穏に暮らそうとして三年間に何が起こるか分からない。
「立ち止まりなさいよ! もう少し話を――キャッ!」
レイナが急に体を掴んで、急停止させてくるものだから。
体勢を崩して一緒に転倒してしまう。
「痛っ……てめぇ、何しやが――」
石畳に後頭部をぶつけ、脳味噌がチカチカと点滅する。
レイナを非難しようと言葉を上げようとしたら――半開きになった状態で止まってしまう。
俺の目の前にあったのは白色の逆三角形であった。
逆三角形の下部から二本の肌色が突き出ている。
「痛たたた……あれ?」
俺が今見ているのは、四つん這いになったレイナのお尻であった。
思わず昨日見た下着姿と重なり合ってしまう。
説明するとこうだ。倒れた俺の体に対して、レイナは反対向きに跨り、四つん這いになったままお尻をこっちに向けているのである。
どう転べばこういう形になるのか。いやはや、人間というのものは神秘的である。
「あれ? 靴? もしかして……アサトは靴の化身だったの?」
そんなわけあるか。
出来れば竜、とかカッコ良いものにしてくれ。聖剣を使えるのもきっと竜の化身だったのだ妄想だけど。
「とにかく、そこから退いてくれないか? そろそろ授業に遅れそうなんだが」
「えっ、アサトの声が後ろから聞こえる――って!」
状況に気がついたのか。
レイナが立ち上がり、顔を真っ赤にして鬼のような形相を向ける。
「変態変態変態ー! わたしが可愛いからって、押し倒すなんて」
「そんなわけあるか。それにお前の方が上だったんだぞ」
「うるさーい!」
レイナが俺の胸を何度も踏みつけてくる。
踏みつけられる度に、変なものが喉に込み上げてくる。
「もう知らない!」
俺を好きなだけ踏みつけて、レイナは何処かへ走り去ってしまった。
『あの人変態……《黄金の双星》の一人を痴漢するなんて』
『いくら桜乱華さんが可愛いとはいえ、パンツを見るなんて……』
『驚いたな。聖剣使いは純白のパンツ使いだったとは』
……何で入学早々、こんな目に遭わなければならないのだ。
地面の上で大の字になって、青空を眺めながら自分の運の悪さを呪うのであった。