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34・告白

 純白の布であった。

 その少女は布に手をかけ、お尻をこちらに向けている。

 どうやら着替えている途中だったらしい。

 少女の顔がゆっくりとこちらへと向く。


「あ、あんた。何してんのよ?」


 噴火寸前の下着姿の少女――レイナが俺に問いかける。

 俺はそれに対して、こう肩を竦めるのであった。


「やれやれ。どうやらパンツに始まって、パンツに終わる。成る程。俺らしい……って痛ぇっ!」


 放られたパイプ椅子が頭部へと命中する。


「変態変態! あんた、一体何回わたしのパンツとか裸見れば気が済むのよ!」

「誤解だ。俺はただシャワーを浴びたかっただけで……」

「問答無用!」


 レイナのか細い腕が稼働し、近くの棚を持ち上げる。

 そしてレイナが鬼のような形相で向かってきた。


「ぎゃあああああああ!」

「死ねぇぇえええええ!」


 学園《センター》には俺の悲鳴と、レイナの絶叫が響き渡っていた。



「桜乱華さん凄いよね〜。生徒会長から直々に感謝状が贈られるらしいよ」

「魔術隊の人間でも、何人かの隊を編成しないと勝てないのに……《魔将》レベルの《魔敵エネミー》に勝てるなんて凄すぎだよ!」

「私も胸以外は器も大きいような桜乱華さんのようになりたいなー」


 教室の片隅で一人を囲んで、女共が賞賛を続けている。


「そうでしょ! 何たって、桜乱華家は《四大財閥フォースサミット》の一番手なんだからね!」


 身長の関係で見えにくいが――円の中央で鼻を伸ばして、良い気になっているのはレイナだ。


 ――あの闘技ドームでの悪夢の一件。

 レイナやむすびの活躍もあって、自警団や魔術隊が到着する前に《魔敵エネミー》の殲滅に俺達は成功。

 みんながみんな戦って、一人一人が戦勝者ヒーローであることは当然であるが。

 その中でもMVPを上げるとしたら、一人で百体以上もの《魔敵エネミー》を排除した四夜むすび。《魔将》レベルの《魔敵エネミー》を撃破した桜乱華玲菜の二人であろう。


 俺?


 ああ、俺は何故だかいないことになっていた。糞ったれ。

 まあ英雄譚を語るにあたって、一人のお姫様が魔王を打倒した、という方が庶民の中二病精神を擽るのだろう。

 なので、あれから連日あんな感じでレイナは鼻を伸ばしている。

 レイナに対する賞賛の眼差しはさらに強固なものになっていたのだ。


 ただ、一人を除いては――。


「おい。桜乱華」


 重低音の威嚇するような声。

 レイナを取り囲んでいた連中が、その威圧に自然と道を空ける。


「猿山……だったかしら?」

「鷺山だ!」


 レイナの前に立ったのは、何度も因縁を付けてきた鷺山であった。

 顔を見るに、明らかに不機嫌である。

 今にも襲いかかりそうな鷺山の威圧に、レイナも表情を引き締める。


「今日はお前に言いたいことがあって来た……っ!」

「同じクラスなのに? 変なの。ここ最近の授業中でもずっと、わたしのこと見てたわよね」

「さあて何のことやら」

「何の用かしら。あんたとはとっくに決着は付いたはずだけど?」


 他の生徒は腰が引けている中、レイナだけが堂々と鷺山の視線を受け止める。

 そんなレイナの前で鷺山は床に両膝を付き、


「すまない! この通り! お前を何度も挑発するような真似をして! 闘技ドームでは助かった! ありがとう!」

「へ?」


 間抜けな声が漏れた主は俺。

 あれ程、レイナのことをバカにして、喧嘩を吹っかけてきたというのに。

 そんな攻撃的な鷺山は何処に行ったのか。

 床に額を擦りつけ、レイナに謝罪し「ありがとう」と礼さえも口にしたのだ。


「か、顔を上げなさいよ! わたしが強制しているみたいじゃない。それにしてもどういう風の吹き回し?」


 ゆっくりと鷺山の顔が上がる。

 表情は先ほどと変わっていない。どうやらこいつ、不機嫌そうな顔がデフォルトで貼り付いているだけらしかった。


「闘技ドームで……俺を助けてくれたんだろ? お前が助けてくれなかったら、俺は《魔敵エネミー》に間違いなく殺されていた……お前だって、《魔敵エネミー》に殺されるかもしれないのに俺を助けてくれるなんて」

「……っ! 勘違いしないでよね! 庶民を助けるのは貴族の義務なんだからっ」


 そう言うものの、照れくさそうなレイナの顔。


「そこで俺は本当の気持ちに気付いたんだ?」

「本当の気持ち?」

「ああ――桜乱華。いや、レイナさん!」


 再度、鷺山の額が床へと帰還する。


「俺と付き合ってくれ!」



「「どうしてそうなる!」」



 俺とレイナの声が重なり合う。

 思わず机から立ち上がってしまった。


「多分、意地悪していたのも、おおおおお前のことが好きだったからなんだ」

「じょ、じょ冗談は止めて! 気持ちが悪いわ」

「冗談じゃないんだ。今までのことは全て謝る。だから俺と、俺と付き合ってくれ」


 急展開すぎた。

 恋慕の屈折した感情と最初は分析していたが、まさか本当だったとは。


 さあて、レイナがどう返事をするかな。


「――ご」


 レイナがどう言葉を返しても、俺には関係のないはずだ。


 それなのに、どうしてだろう。


 こんなに胸がざわつくのは――。


「ごめんなさい。もう先約がいるの」


 レイナは一字一句の言葉を大切にするようにし、そう返事をした。

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