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33・全ての真実

「ふむふむ。《魔将》レベルの《魔敵エネミー》なら倒せるようになったみたいか。順調のようだね」


 タブレットの画面を見ながら男が呟いている。

 体から溢れんばかりの魔力。無意識で二桁程の魔術式を組み、いつでも発動出来るような仕組みとなっている。

 その場所は男の声以外に静寂であった――が、突如静けさを破るかのような音が生まれる。


「ぉぁぐわぁぴみっぁぁ? ぐぅうぃいいいむ!」


 言語化出来ない悲鳴のような鳴き声を生まれて無から《魔敵エネミー》が発生する。

 高層タワーマンションの一室。

 頭の天辺から足の爪先まで漆黒の男であった。

 男は窓から夜景を眺めワイングラスを傾けている。グラスの中は猛獣の血液を主成分としている特製の液体であった。


「ぜえぜえ……! クソッ! あの《黄金の八人》共が。絶対また奴等の前に現れて犯してから殺してやる! 愛とか勇気とか適当な理由を付けて」


 三日前、闘技ドームで魔術学園のモノに敗北した《邪賢者アロケン》であった。

 瀕死の状態で息が荒く、二本の足で立っていられるのもやっとのようであった。


「おやおや《邪賢者アロケン》。僕の住居へようこそ。君も運が良いね」

「ぐわぁびみっ? お、お前は誰だっ!」


《魔将》レベルの《魔敵エネミー》が出現したというのに、男には焦りの色はない。

 優雅に《邪賢者アロケン》の方を振り向いて笑みさえも浮かべる。


「第十三級特殊系魔術《異世界入口》(アリストンネル)と言ったところかな? 僕とはいえ《異世界入口》の原理はよく分かっていないが、疲弊している状態では出口を確定出来ないみたいだね。ここ三日後の世界でしかも《イザナミ》ですらないよ?」

「き、貴様は誰だ? どうしてそんなに落ち着いていられやがる。それに、その禍々しい魔力は――」

「《焔魔竜ヨルムンガンド》で絶体絶命のピンチで死ぬよりはマシだと思って《異世界入口》を発動。死ぬ寸前ギリギリであの戦場から脱出した、ということかな――やれやれ。アサトもトドメを刺せない、なんて詰めが甘い。まあ勝負はとっくに決しているけど」

「おい! 俺の話を無視するんじゃ――」

「僕は竜頭司夜枷りゅうとうじ よかせ


《魔将》レベルの《魔敵エネミー》になると知性が高く、これだけ暴力的な台詞は放たないはずだ。

 しかし眼前の《魔敵エネミー》は得体の知れない相手に殺意を放ち、言葉遣いも荒々しいものになっていた。


「なっ、竜頭司夜枷だと……っ?」

「おやおや。知っているのかい?」

「同胞に聞いたことがある。十万体殺しのヨカセ。貴様等の言葉を借りれば、最も《魔敵エネミー》を虐殺した救世主――チィッ! よりによって《異世界入口》はこんなところに出口を結んでしまったのかよっ!」


 驚愕の表情で舌打ちさえもする《邪賢者アロケン》。

 しかしすぐに男――ヨカセの顔を見て、


「だが――いくら弱りきっている俺とはいえ、刺し違えることは出来るはず。俺も死ぬが、貴様も殺してやる」

「残念ながら相打ちする趣味はないものでね。それから一度は吐いてみたかった台詞なんだけど」

「貴様は何をぶつぶつと――ま、まさか!」

「そう――お前はもう死んでいる」


 ヨカセが指を鳴らすと《邪賢者アロケン》の足元から闇が昇ってきた。

 いや闇ではない。無数の小さい毒蟲であり、その群体が《邪賢者アロケン》の体を喰らおうとしているのである。


 第十二級生物系魔術《蟲毒腐肉》(ポイズンゾンビ)の一撃である。

 異世界から召還された毒蟲が《邪賢者アロケン》の体を食料とし群がり、肉片一つ残さず喰らおうとしているのである。


「正しくは死のうとしている、ってことかな」

「な、何故だ! 何故、ここまできて俺お殺さあい?」


 毒蟲に体を拘束され口以外動かすことが出来ない《邪賢者アロケン》。

 後はヨカセが魔術の証明式に『QED』を記述することによって完成し、《邪賢者アロケン》など一瞬でこの世から消滅してしまうだろう。

 しかし口角を上げヨカセが《邪賢者アロケン》に接近する。その口元は三日月の形状のようであった。


「君は――僕の弟と戦って敗北したようだね?」

「弟? お前は何を言っている」

魔剣オルガメイト――こう言えば思い出すかな?」


《オルガメイト》の一言を聞いて《邪賢者アロケン》の雰囲気が変わる。


「そ、そうか思い出したぞ……あの魔術を無効化する剣は、我が世界で封印していた《オルガメイト》のことだったのか! あれは我等《魔敵エネミー》を滅ぼす剣とされ何重にも封印を施していたというのに……どうして魔剣が人間界に存在するのだ?」

「簡単だよ。僕が盗み出したからだよ」


 クスクスとヨカセが愉快そうに笑う。


「はっ? 貴様が? ま、まさか貴様! 俺達の世界に足を踏み入れた、ということなのか」

「まあ殆ど偶然だったんだけどね」

「いくら貴様が凄腕の魔術師でも、あの地獄で人間が生きてられるわけがない! 貴様は一体、何者なのだ」

「ただの人間だよ。そして《魔敵エネミー》を誰よりも憎み《魔敵エネミー》を滅ぼそうとしている」


 ヨカセが指をもう一度鳴らす。

 その刹那、毒蟲によって《邪賢者アロケン》は消しゴムで擦られたかのように存在自体を消去させられてしまった。

 広い部屋。何事もなかったかのように、またヨカセが一人ぼっちになる。


「アサト――桜乱華の天才と組む、という条件が入るけど《魔将》レベルの《魔敵エネミー》なら倒せるようになったみたいだね」


 ヨカセが《魔敵エネミー》界から魔剣を盗み出し、それに聖剣《オルファント》という名前を付けてアサトに渡した理由。


 それは全てアサトの力を引き出すためであった。

 あの聖剣《オルファント》はどうやら《無神経》でなければ、振るうことも出来ないらしい。

 そこでヨカセは家族を皆殺しにして、アサトの復讐心を煽り、憎しみの力で聖剣を振るうように仕向けた。

 アサトはヨカセに復讐したい、という一心で急成長を遂げている。


「あの天国を見たからこそ分かる――僕では《魔敵エネミー》を滅ぼすことが出来ない」


 悔しそうに歯軋りをする。


 だからこそヨカセはアサトに託したのだ。

 それがどれだけ残酷な手段であっても。


魔敵エネミー》を滅ぼすためなら、家族を殺しアサトを悲しませ、聖剣を振るう――聖騎士を育成しなければならない。


「だが、桜乱華の天才と組むなんて予想外だったね。うん。この確率は魔術学園《センター》に入学した、と聞いてから〇・三六%しか予想していなかった」


 聖剣《オルファント》の弱点は防御面は最強であるが、攻撃面が脆弱であることだ。

 一方、桜乱華の天才は全くの逆で防御面が薄い。


「さながらあの二人はお姫様とそれを守る聖騎士、ってところかな――」


 そう独り言を呟いて、ヨカセは再度窓から夜景を見る。

 聖剣《オルファント》を使う勇者は着々と成長している。

 全てがヨカセの計画通りであった。

 夜の道路を行き来する車の群れを見ながら、ヨカセは上機嫌でワイングラスを口に傾けた。


「ただあれくらいのザコに手間取っているようなら、まだまだ先は長いみたいだね。アサト。早く僕を殺しに来てくれよ」


 どこまでもヨカセの言葉は楽しげで――。

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