31・邪賢者
大量の《光矢》から天から舞い降りる。
「レイナ!」
「分かってる!」
雷鳴のような轟音が鳴り響き、集合体となった《光矢》が俺達に襲いかかる!
光速で発射される《光矢》には回避など無意味。
俺は聖剣《オルファント》を振るい、一気に降り注ぐ《光矢》達を斬り捨てていく。
「うぉぉぉおおおお!」
――俺のただの一閃が。
神の怒りを斬り裂く奇跡となる。
その間にもレイナは魔術式を展開。レイナが得意としている複数の魔術式の同時展開である。系統を跨った超物量魔術は攻撃は最大の防御ということを知らしめてくれる。
《炎球》――《水球》――《氷槍》――《土槍》――《泥爆弾》――!
あらんばかりの七色の魔術式が四方八方で発動。
いくら異形の《魔敵》でも体を粉々に砕かれれば生きてられないだろう!
――迫り来る魔術の波濤に対し、《魔敵》の賢者の石が金剛石のように光を放つ。
一〇本もの《光矢》が襲い来る魔術に対抗――しかしたかが一〇本の《光矢》ではレイナの魔術を相殺することが出来ず、俺達のところまで届かない。
攻撃は最大の防御とはこのことだ!
あまりの手数によって、相手から攻撃を仕掛けてきても全て相殺する!
これがレイナの強さであり――これだけの物量の魔術式を同時展開、さらには一刹那で紡げるところが桜乱華家の天才と言われる所以である。
「器用貧乏という言葉がある。あなたの魔術はまさにそれに値する」
石が光り、そこから第六級光系魔術《神鳥》の式を紡ぎ出す。
翼を広げた《神鳥》は神々しく飛翔し迫り来る魔術に直行。
普通ならば、ここで《神鳥》がレイナの魔術と相殺――残りの矢が一本でも《魔敵》に突き刺されば、甚大な被害をもたらすことが出来る。
が――《神鳥》はまるで自分が意志を持っているかのように、魔術の絨毯の隙間を潜り抜けていく。
そして超物量の魔術の波を見事突破、《神鳥》の一撃はレイナの心臓に狙いを付ける――。
「そうはいくかよっ!」
レイナの前に立ち聖剣の刃を放つ。
《神鳥》は聖剣の一撃をも回避しようとしたが――聖剣には魔力が込められていないから感知出来ないのか――ギリギリのところ《神鳥》の右翼に聖剣が突き刺さる。
その瞬間、硝子のように破裂。
《神鳥》の一撃は消滅したのだが――。
「そのこざかしい聖剣でも弱点がある」
《魔敵》は手を掲げ、その先に魔術式を一瞬で組み立てる。
いくら何でも早すぎるだろうが!
《魔敵》が紡いだ魔術は第四級水害系魔術《水球模様》であった。
俺とレイナの周りを水の結界が張る。
刹那――結界の内側から無数の水の弾丸が発射!
高濃度、高速で放たれた弾丸は水製とは骨を一本折る力くらいはある!
「ぐぁぁぁああああああ!」
水の弾丸が俺の体の隅々まで当たる。
何本の骨が折れたのか分からない。内出血も酷いであろう。俺の体が紫色に腫れ上がり意識が朦朧としていく。
しかし――寸前のところで、レイナの悲鳴も聞こえ意識が覚醒。
部分的な水の弾丸は四方八方から襲いかかり、それ故に俺の手と聖剣が一〇本くらいないと対処出来ない。
ならば! 結界ごと斬ってやれば!
「うぁぁぁあああああああ!」
それは絶叫であった。
口腔から血液を吐きながら、血塗られた聖剣を振るい結界を斬り裂く。
これにより《水球模様》の牢獄脱出――しかしダメージはあまりにも大きく、聖剣を杖にしてでしか立てなくなっている。
「アサト! 目を開けて――」
瞼が重くなってきたが、後ろでレイナの生物系魔術《治癒術》が発動。
俺の体が再生されていき、骨が元通りにひっつけられていく。
しかし即席の《治癒術》では張りぼてで築くお城のようなものであった。傷自体は治り息も整ってきたが、この激痛だけは止むことがなかった。
「愛と勇気だけが友達とは寂しい。私は愛ちゃんと勇気君も友達ではないが、詐欺師の友達がたくさんいる」
意味不明なことを宣いながら、《魔敵》の石が光りまたもや一瞬で《光矢》の魔術式を紡ぎ終える。
一〇本もの《光矢》が俺達に襲いかかってくる!
俺は意識が遠くなるような激痛の中、レイナの体を抱えて横飛び。
横転しながら地面を転がり――見ると、一瞬前までいた場所に一〇本もの《光矢》が突き刺さっていた。
もし一刹那でも反応が遅れれば俺は針の山に墜落するより恐ろしい目になっていただろう。眼球に《光矢》が突き刺さり悶絶し、脳味噌への一撃は狂人になるのに十分だし、心臓への一矢は激痛の中死んでいくのに良い理由となるだろう。
ここまでの一瞬の攻防に――ゾッとし怖じ気づきたくなる。
「あいつは一体、何なんだ?」
俺は聖剣を杖にしながら――だが、《魔敵》への敵視を続けながらレイナに問う。
「いくら何でも魔術式の展開が早すぎるだろ! 元々、魔術は《魔敵》のためとはいえ……一呼吸するごとにあいつは一〇〇もの魔術を組んできやがる」
「あいつは《邪賢者》っていう《魔敵》。おそらく《魔将》レベルでしょうね。どうやらあの賢者の石――抱えている石が魔術展開の補助になっていて、あれによって速度を上げているのでしょうね」
《魔敵》――いや《邪賢者》の抱えている賢者の石を見る。
賢者の石からいくつもの人間の顔が浮き上がった。人面達は言葉にならない叫びを上げていた。
すぐに賢者の石は何の変哲のない、煉瓦のような表面となる。
「この賢者の石は――人間の魔術師達の脳を基盤に作り上げられているのです」
訥々と、いや誇らしげに――科学者が自慢の発明品を語るように、《邪賢者》は耳を覆いたくなるような事実を続ける。
「賢者の石を完成させるために必要とした人命は七七個分。私に立ち向かってきた愚かな魔術師の脳味噌を拾い上げ、魔力でパッチワークを完成させ、この極小の空間に七七個もの脳味噌を閉じこめた。私が魔術式を組成しようとする瞬間、賢者の石内部の七七個もの脳味噌が反応。最早、私の下僕となりさがった脳味噌達が私の魔術展開を助けてくれるのです。人語もこの賢者の石があれば、二四カ国もの言葉を発することが出来ます」
「な、なんてこと……」
ボロボロのレイナが絶句していた。
高い知識を持つ《魔敵》の存在は知っていた。
しかし眼前の《邪賢者》は人命を材料とし、ただ己が魔術展開を速めるだけに利用したのだ。
悪意などない殺害――《邪賢者》は平然と、いや嬉しそうに俺達を見ている。
「レイナ!」
一〇本もの《光矢》がまたもや一瞬で組み上げられる!
七七人もの魔術師の脳を利用して紡ぎ出された《光矢》は、一本一本が絶命の一撃である。
《治癒術》によって、少しばかり苦痛が和らいできた聖剣で三本もの《光矢》を斬り裂く。
しかし残りの《光矢》まで間に合わず、ギリギリのタイミングでレイナを抱えて回避。
地面へと叩きつけられ、それでも前を向きながらレイナに言う。
「最悪だ。ヤツは七七人もの魔術師を味方に付けているようなものだ」
「そんなこと言われなくても分かっているわよ! じゃあ、どうすればいいのよ!」
《邪賢者》一体でも強力なのに、ヤツには賢者の石という七七個もの脳味噌を抱えているのである。
俺の思考回路は一瞬で唯一の解答に辿り着き、
「超物量はダメだ。どれだけたくさん魔術を組み上げても、追尾型の《神鳥》の魔術で全て避けられて、俺達に辿り着いてしまう」
「その《神鳥》をアサトが斬り裂いてくれれば」
「いや……聖剣さえも回避しようとする《神鳥》を斬り裂くには全神経をそこに集中させなければならない。そうしている間に、《邪賢者》は違う魔術式を組み上げて無防備となった俺達を攻撃してくる! ヤツの魔術展開が速すぎて付いていけないんだ!」
「じゃあ尻尾を巻いて逃げるしかないっていうの!」
最早、レイナの問いは金切り声になっていた。
そうこうしている間に《水球模様》の牢獄が作り上げられる。
トラウマを刻まれた魔術式であるが、今度は水の弾丸が発射される前に体が反応。聖剣で斬り裂き、《水球模様》の始動は無効とする。
「違う――あいつに勝つ手段は単純だが、一つしかないんだ」
「それって何なのよ!」
「超物量ではない。超威力の魔術を《邪賢者》にぶつけるしかない」




