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29・レイナの覚悟

「お前等全員ボクの噛ませ犬!」


 むすびの声が仕切り直しの開幕の号令となる!

 強大な魔力を感知したのか一〇体もの《魔敵エネミー》が一斉に俺達に殺到してくる!

 複数もの骸骨の《魔敵エネミー》によって発せられた《炎球フレイム》……《氷槍ホリゾン》……《土槍》……《電撃鼠ライトニング》……思わず目を覆いたくなるような光景。

 しかし! 俺はそれを一人でやってのける天才少女に勝利したものでね!


 怖さはない

 聖剣《オルファント》の一閃は、俺達に襲いかかってきた全ての魔術を斬り裂く。

 編み目のように張り巡らされた魔術の強襲を、聖剣で無効化し――トドメの一撃は。


「土下座成分足りないんじゃない?」


 むすびが両手を地面へと向ける。

 強力な重力場が発生。

 眼前に広がっていた一〇体もの《魔敵エネミー》が《墜落帰還ダウナーエンジェル》によって、地面に沈められていっているのだ。

 天才少女ならともかく、むすびの強力な重力魔術を跳ね返せる《魔敵エネミー》などここにはいない。そんなヤツいたら俺が死ぬだけだ。


「よし! 今だ!」


 浄徳先生が声をかけ、付近にいた魔術師が一斉に魔術式を展開。

炎球フレイム》――《氷槍ホリゾン》――。

 低級な魔術ばかりで展開速度も遅いが、その間の時間はむすびが作ってくれている。


 人は言った――戦争は数だ。

 一つ一つが低級な魔術であっても、大量物量を敷く魔術は大砲の着弾にも匹敵するか。

 動きを封じられた《魔敵エネミー》に防御する手段はない。

墜落帰還ダウナーエンジェル》とは同時に展開していたむすびの《電撃鼠ライトニング》も加わり、何と一〇体もの《魔敵エネミー》が残らず絶命したのだ。


「流石だな……むすび。やっぱお前って天才だったんだな」

「ボクを誰だと思っている! 四夜家の至宝四夜むすびだぞ!」


 むすびの傲慢な一言も今は心強い。

 今まで劣勢だった戦場もむすびの登場にて希望の光が点灯しているようであった。

 しかし――何故だか戦姫となったむすびは表情を曇らせ、


「くっ――こうなると心配になるのはレイナの方だな」

「レイナ? レイナが心配ってむすび、どういうことだ?」

「あの石を大事そうに持ったヘンテコな《魔敵エネミー》は――ボクが見る限り《魔将》レベルの《魔敵エネミー》だ」


 その言葉を聞いて俺の心臓がキュッと縮小されるようであった。


「《魔将》レベルだとぉ? そんなの魔術師一人で倒せるような相手じゃないだろ」


 多種多様な《魔敵エネミー》は危険度によって七つのレベルに区分される。


 危険度が低い方から《蟲》《愚者》《怪人》《悪鬼》《魔将》《堕天使》《魔神》であり、《蟲》レベルは人間を殺し、《愚者》レベルは魔術師を殺し、《怪人》は一小隊を壊滅させ、《悪鬼》は一つの街を滅ぼし、《魔将》は一国を消滅させ、《堕天使》は大陸を支配し、《魔神》は人を全滅させる――とも言われている。


 俺達が闘技ドームの外で相手にしていた《魔敵エネミー》はせいぜい《蟲》や《愚者》レベルの低級《魔敵エネミー》である。

《蟲》レベルの《魔敵エネミー》でも手こずっていたのに――さらに四つ上のレベルの《魔敵エネミー》なんて考えるだけで悪寒が走る。

 あの石を抱えた不気味な《魔敵エネミー》――邪悪な魔力が体から溢れ、一番の強敵だと思っていたが、それだけレベルが高かったのかよ!


「やばいんじゃないのか? 《魔将》レベルなんて、魔術学園の魔術師候補が相手になるような相手じゃない。最低でも魔術隊の一師団を呼ばなければレイナ殺されちまうぞ」

「ああ、やばい。流石のレイナでも《魔将》レベル相手に一人は手に余りすぎる」


 口を動かしながらむすびの手先から次々と魔術式が展開。

 重力系魔術《墜落帰還ダウナーエンジェル》で動きを封じている間にも、《電撃鼠ライトニング》や《氷槍ホリゾン》で相手を貫いていく。


 魔術式によって空気中の水分が冷却され、先の尖った氷の矢となる。

 それは戦場を疾駆し豚の《魔敵エネミー》の頭部に直撃。

 脳髄が地面にぶちまかえれ、脳味噌が不在のまま豚の《魔敵エネミー》は断末魔のような悲鳴を上げた。


「だが――それはレイナでも分かっているだろ? 自分では《魔将》レベルには勝てない、と」

「そうだろな。レイナはバカだが、こと魔術の戦闘においてはボクに次いで天才だ。聖剣なんてイレギュラーなものを使うアサトならともかく、わざわざ勝てない相手に向かっていくようなヤツでもない」

「じゃあ、いざとなったら逃げるだろ。いくら頑張っても、俺達では《魔将》レベルの《魔敵エネミー》は無理だ! 《センター》の生徒会か魔術隊が応援に来るのを期待して、この場は撤退するしかない」

「しかし――レイナは逃げない」


 むすびの《引力波アプローチ》によって《魔敵エネミー》達の魔力が集合、さらにそれが再利用され《隕石匣メテオ》の一撃となって相手を粉砕する。


 ドゴォォォォン!


 鼓膜が破れるような轟音。土煙――むすびはこれだけ高等な魔術を発動しながらも、話を続けた。


「逃げない? どうしてだ? 勝てないって分かってるんだろ?」

「勝てない――って分かっていても、あいつは《魔敵エネミー》相手には逃げない。しかも相手は光系魔術を操る。だからボクは焦っているんだ!」


 むすびの額から汗が滲み出る。

 俺はむすびの横顔を視覚で捉えながら、眼前の豚の《魔敵エネミー》に聖剣を振り下げる。

 腹部を斬り裂かれることによって、中の内臓が破裂。芋虫のような形状をした大腸が飛び出しながらも、豚の《魔敵エネミー》は攻撃の手を緩めようとしない。


「あいつは――あいつは、昔。お母さんを《魔敵エネミー》に殺されているんだ」


 むすびが跳躍し、《炎球フレイム》の強襲を回避。

 そのまま地面から二メートル上を浮遊、《墜落帰還ダウナーエンジェル》で迎え来る《魔敵エネミー》を重力によって高速する。


「そうらしいな。だが、それと何の関係がある?」

「分からないのか? レイナはこの世界の誰よりも《魔敵エネミー》を憎んでいる。お母さんを殺した《魔敵エネミー》を。もう誰も《魔敵エネミー》に殺されて欲しくないから――レイナは戦っているんだ」


 闘技ドームのフィールドに広がっていた光景を思い出す。

 そこまで良い印象を抱いていなかった鷺山を助けたレイナ。

 その結果、一人で《魔将》レベルと対峙することになったレイナ。


「だからあいつは逃げない。いや――逃げられないんだ。自分が逃げれば《魔将》レベルの《魔敵エネミー》が街に放たれ、さらに甚大な被害をもたらすと分かっているから。レイナは負けると分かっていても、戦い続ける」

「何故だ……何故、あいつはそこまで」

「魔術師であることに誇りを持っているからだろうな」


 迫り来る《魔敵エネミー》にむすびが魔術式を展開。

 数式の鎖が《魔敵エネミー》に絡まり、巨躯を地面へとめり込ませた。


「アサト――お前の聖剣が気になって、調べさせてもらったが――あの幻の《五大財閥フィフスサミット》の一つ竜頭司の生き残りらしいな」

「知ってたのか? お前」

「当たり前だ! ボクを誰だと思っている。ボクは四夜家の至宝だぞ」


 そんな傲慢な一言が今では心強い。

 会話をしている間にも、三発の《炎球フレイム》が直行してくる。


 俺は聖剣《オルファント》を横薙ぎに一閃。

 そのまま体を軸にして回転し、後ろから襲いかかってきた《魔敵エネミー》も斬り裂く。

 むすびと背中合わせで持たれかかる。


「行ってやれ」

「え?」

「行ってやれ。アサト。レイナを助けられるのはお前しかいない。『盾』となるパートナーがいることによって、力を最大限まで発揮することが出来る桜乱華。

 そんなレイナの盾となる男は、同じ境遇を持ったお前しかいない。行ってやれ」


 目の前に広がる戦場にはまだ《魔敵エネミー》で溢れかえっている。

 むすびの登場により、戦局は一気に好転したものの、未だ苦しい状況が続いている。

 血を噴出させながら倒れていく生徒。

 戦場は悲鳴がコダマする地獄であることは変わりなかった。


「ここはボクに任せろ!」


 そんな俺の心配を先読みしてか。

 むすびが《引力波アプローチ》で魔術を一カ所に集めながら言う。


「任せていいのか?」

「こんなのボクに言わせれば、噛ませ犬同然だ。ゴミを掃除することくらい簡単だから――早くレイナのところに行け!」


 力強い言葉。

 同時、空から降ってきた第八級重力系魔術《隕石匣メテオ》が《魔敵エネミー》へと衝突。

 たった一発の魔術で五体もの《魔敵エネミー》が、跡形もなく消滅する。


「……くっ! あっちが片付いたら、すぐに助けに行くからな」

「ボクの方が先に終わってるけどな!」


 戦場を駆け抜けて、もう一度闘技ドームへと疾駆する。

 レイナ……間に合ってくれよ……っ!

 そんな思いを胸に秘めながら。


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