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28・混戦

 眼前の豚の形をした《魔敵エネミー》が斧を振り上げて襲いかかってくる。

 直立二足歩行をした豚の《魔敵エネミー》は第二級生物系魔術《強化術ストロング》にて体を肥大化させ、片手一つで岩をも砕く筋力をも手に入れた。

 両手を広げると俺の体を覆い被さるくらいの巨躯。

 俺は聖剣《オルファント》の一閃を《魔敵エネミー》の腹部に叩き込む。


「ぐへぇぁ」


魔敵エネミー》は体の至る所に魔術神経が張り巡らされており、膨大な魔力を貯蔵している。


 個体差はあるが、《魔敵エネミー》とは魔力の塊でもある。

魔敵エネミー》はこの世のものではあらざる姿で出現をしてくるが、その異形さこそが厄介なところではない。

 魔術という物理法則をねじ曲げ、時には超次元の隙間にさえ入り込む術を行使してくることだ。


 なので魔術師にとって天敵である聖剣は、《魔敵エネミー》達にとっても有効な手段ではあるが……。


「ぐぁはぁ!」

「ちぃっ!」


 舌打ちして聖剣《オルファント》で斧の一撃を受け止める。


 やはり……か。ただの剣の一薙ぎでは《魔敵エネミー》を打倒することは出来ないのである。

 聖剣にて体を斬り裂かれた《魔敵エネミー》は、同時に体に施していた《強化術ストロング》も無効化。これにより鋼鉄のように固くなった筋肉の壁を突き破ることが出来る。


 普通の人間なら、魔術で何ら強化していない体を斬り裂かれれば、絶命とはいかなくても動きの大部分を消失してしまうだろう。

 しかし現世の生命体の体とは並外れた《魔敵エネミー》の耐久力は、ただの剣の一閃如きでは突き破ることが出来ないのだ。


「先生! 《センター》からの応援は!」


 俺は聖剣で斧を弾き飛ばし、剣先を豚に突き刺しながら言う。


「まだだ! それにこの闘技ドームは学園から離れている。いくら早くても三〇分はかかる……さらに生徒会の連中達は北区の学園ウィズダムに出払ってさらに三〇分かかる……一時間、私達はここを凌がなくてはいけない!」


 浄徳先生が他の《魔敵エネミー》と戦いながら悲鳴のような声を上げる。


 ――ただの合同授業の場は、《魔敵エネミー》の出現により血と悲鳴が飛び交う戦場へと変わり果てていた。

 魔術を満足に使えない一年生ばかりなので撤退が有効だと思うが――それをしてしまっては、都市部にこの《魔敵エネミー》達が放たれ甚大な被害をもたらしてしまう。

 といっても簡単に逃げられるような相手じゃないが。


「まさか聖剣《オルファント》がこんなに早く血で汚れることになるとはな」


 意識が覚醒されていき、集中力がみるみると増加していく。

 俺の前には二体の《魔敵エネミー》。豚の形状をした《魔敵エネミー》と、骸骨の外見に杖を持った異形の《魔敵エネミー》である。


 骸骨の《魔敵エネミー》の杖の先端が光る。

 途端、第一級火炎系魔術《炎球フレイム》が展開。

 周囲の酸素を喰らい、高速展開をした《炎球フレイム》が火の尾を引きながら俺へと近付いてくる。


「残念ながら――魔術は《オルファント》の大好物でね!」


 ニヤリと口角を上げ、聖剣《オルファント》を《炎球フレイム》に振るう。


 一閃!


 斬り裂かれた《炎球フレイム》が跡形もなく消滅する。

 そうこうしている間の隙を狙って、豚の《魔敵エネミー》も襲いかかってくる。

 横薙ぎの斧の一閃を、俺はしゃがむことによって回避。

 足で豚の《魔敵エネミー》の脛を蹴る。すると重い体を支えていた両足がバランスを崩し、地面へと転倒。

 俺はその隙を見逃さず、聖剣を突き立て豚の《魔敵エネミー》の額へと突き刺す。

魔敵エネミー》の額から緑色の血液が噴き出し、俺の顔面へと付着する。


 俺はその血液を指で拭きながら、


「ちぃっ! やっと一体かよ!」


 ――闘技ドーム中に溢れかえった《魔敵エネミー》達。


 浄徳先生による即席の陣形が組まれ、俺は闘技ドーム外の《魔敵エネミー》を駆逐する係となった。

 闘技ドームの外に出た生徒達は合わせて二〇人くらいか……しかし浄徳先生以外はまともな魔術を使えずに《魔敵エネミー》に苦戦しているように見えた。

 二〇人に合わせるように、約二〇体の《魔敵エネミー》……その内、一体を俺はやっと倒したに過ぎない。


「きゃっ!」


 短く小さな悲鳴。

 豚の《魔敵エネミー》が斧を振り回して神小町に接近している。

 神小町は驚き目を瞑って、玩具のライフル銃を盾にしているが――そんなものは簡単に斧で両断されてしまうだろう。


「来ないで!」


 神小町は前を向いたまま後退。

 しかし元から運動センスがない神小町が小石に躓き転んでしまう。


 それを好機と見たのか、骸骨の《魔敵エネミー》の杖の先端を神小町に向ける。

 瞬間、杖の先端に魔術式が発生。第三級水害系魔術《氷槍ホリゾン》が飛び出し、切っ先鋭い氷の矢が神小町を絶命させようと伸びていく。


「神小町!」


 聖剣《オルファント》のグリップを握り、疾駆し神小町を助けようと体が動く。


 しかし聖剣《オルファント》の弱点の内の一つで遠距離攻撃が出来ない、というのがある。

 ……俺の平凡な足では神小町に間に合わず、《氷槍ホリゾン》が心臓に突き刺さってしまう。

 絶望が胸中を支配して尚、俺の体は神小町を救助せんと動く。

 しかし無情にも《氷槍ホリゾン》が神小町の心臓に突き刺さ――。


「らない?」


 体が急ブレーキ――。

 突き刺さるはずの《氷槍ホリゾン》が方向を変え、見当違いの空を目指したのだ。


「むすび!」

「お前等やっぱ弱いな。ボクがいないとすぐ死んじゃうな」


 ――そこには《空中散歩》にてフワフワと浮いているむすびの姿があった!

 そのむすびのさらに一メートル上へと《氷槍ホリゾン》が走っていく。

 そして――その中央点には膨大な魔力、邪悪な魔術式の展開。


「ボクは四夜家の至宝だ! むすびを舐めるな!」


 第八級重力系魔術《隕石匣メテオ》だ――。

 魔力を一カ所に集めることによって、超威力を持った極小のミサイル弾となる。


 むすびが叫び、手を振り下げると同時に――《隕石匣メテオ》が《魔敵エネミー》に直行。

 付近にいた豚の《魔敵エネミー》二体、骸骨の《魔敵エネミー》一体を一斉に死滅させる。

 俺が時間をかけてやっと一体倒したのに、むすびは腕を一振りしただけで三体もの《魔敵エネミー》を殲滅したのだ!


「ヨッと」


 突然現れた救世主、四夜むすびは着地し俺の隣に立つ。

 ただこうしている間にも、《魔敵エネミー》は無からどんどんと出現してくる。このままじゃキリがない!


「お前! 空を飛んでいる《魔敵エネミー》はどうしたっ?」


 むすびに背中を預けながらそう訊ねる。


「そいつ等はもう倒した!」


 力強いむすびの返答。

 もう倒した? 三〇体はいたぞ! それをむすび一人でやっつけた、ということなのか!

 最早、《黄金の双星ゴールデンルーキー》むすびの強さは異次元であった。


「とにかく! 楽しくお茶して話すのは後だ。続々と湧いてくる《魔敵エネミー》を撃退するぞ!」

「おう!」


 最早、闘技ドームの外に出てきた《魔敵エネミー》は五〇体を超えようとしている。

 普通なら絶望的な光景だ。

 しかし不思議とここにいるみんなには不安がない。


 何故なら――! ここには最強魔術師の四夜むすびがいるからだ!

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